“と”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
語句割合
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
わたし其時分そのじぶんなんにもらないでたけれども、母様おつかさん二人ふたりぐらしは、この橋銭はしせんつてつたので、一人前ひとりまへ幾于宛いくらかづゝつてわたしました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
妙子にただしてみないことには、彼女がどう云う考でそんなことを云っているのか諒解に苦しむ点が多いのであったが、それはかく
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ながされるのは、たしかにやせたひばりの子供こどもです。ホモイはいきなり水の中にんで、前あしでしっかりそれをつかまえました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僧は上りかまちに腰かけて、何の恥らう様子も無く、悪びれた態度もなく、大声をあげて食前の誦文を唱え、それから悠々とはしった。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしながらおそらく、アメリカ発見の結果生じた所の、金属の価値に対するあらゆる影響は、うに終ってしまっているであろう。
小鳥ことりは、まず屋根やねうえまりました。そして、これからどっちへかってげていったらいいかと、しばし思案しあんにふけったのです。
めくら星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれこもつくこをかついでかへつてとき日向ひなたしもすこけてねばついてた。おしな勘次かんじ一寸ちよつとなくつたのでひどさびしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
古田は証拠を消す為に、先生からった原稿を焼こうとしている所でしたから、もう一足遅いと先生の研究は永久に葬られた訳です。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
其処そこけては我等わしらふなぢや。案山子かゝしみのさばいてらうとするなら、ぴち/\ねる、見事みごとおよぐぞ。老爺ぢい広言くわうげんくではねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同じ祝詞のりとの中には、また次のような語も見えます。曰く、「国中に荒振神等あらぶるかみたちを、かみはしに問はしたまひかみはらひに掃ひたまひて云々」
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
風雨に古びたまま、幾百年も手入れもしていない建物に、月の白い光が、の朽ちた四方の破れから刃のように中へさしこんでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其説に拠ると小十郎は何等の言をも発せずに終ったので、政宗は其夜ひそかに小十郎の家をうた。小十郎は主人の成りをよろこび迎えた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
背筋の虫に螫されたあと、その痒さをめる役目なので、蚊帳の中に入っても直ぐと後へ廻った為、顔を見られずに済んだのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そしてその物置へは多少の手入ていれを加えて、つまり肺結核の大学生を置いてやることにしたという。或る日この大学生は縊死いしげた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
そのかは小六ころくさん、はゞかさま座敷ざしきてて、洋燈ランプけて頂戴ちやうだいいまわたしきよはなせないところだから」と依頼たのんだ。小六ころく簡單かんたん
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
またぎすました短い刀が落ちている。尊氏に投げつけられたものであろう。隅には小さくなって、うずくまっている人影があった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……刃物はきょう、犀角散さいかくさんを、けずることになって居りましたので、がしましたばかり。決して、血を落としたんじゃございません
慈悲深い男は、家外の寒さを思い遣り乍ら室内のストーヴの火に暖をり、椅子にふかふかと身を埋めて静に読書して居りました。
慈悲 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところが私は熱いんです、そして火は氷をかしてしまひますわ。あの火はあなたの外套の雪をすつかり溶かしたぢやありませんか。
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
第二十四条 日本国民は男女を問はず、国の独立自尊を維持するが為めには、生命財産をして敵国と戦ふの義務あるを忘る可らず。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
『たわ言も、よい程にせいっ。その明後日までに金が調う位なら、こうして、髀肉の嘆をらしながら、じ籠って居りはしない』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はそんな事は氣にも留めない樣子で、膝行ゐざり寄ると死體に掛けたさらし木綿をり、丁寧に拜んで、暫らくその顏を見詰めて居ります。
「だって、いかにもあたしが意気地いくじがないから柿をられたんだって云うような口ぶりなんですもの。あの梵妻さんも随分ずいぶんだわ。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
しかもこの際読者の網目と前句作者の網目と付け句作者の網目とこの三つのものが最もよく必然的に重なり合いけ合う場合において
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「新さん、マア大変なことが出来ちゃったんです。」女は菓子折の包みをそこに置くと、ショールをって、コートの前をはずした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まったく放心状態にあるように見えた母親ががばと高くび上がり、両腕を大きく拡げ、手の指をみんな開いて、叫んだのだった。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
もちろん校長からこんこんとかれたこともあった。和尚さんからもそれとなく忠告された。けれどもそのためばかりではなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかも彼は姉や兄たちの孝行を一人で引き受けたかのように、肩揚げのおりないうちからよく働いて、年をった母を大切にした。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あはははっ……。口で唱える念仏の声は禁じても、心のうちで唱える念仏をめられようか。ばかなッ!」と、人も無げにののしって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等の祖先と同じ形の食器から同じ黄色い食物をり、野に同じ種を播き、身に同じ衣をまとひ、頭に同じ髷同じ冠を伝へてゐる。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
それから写真を二枚って貰った。一枚は机の前に坐っている平生の姿、一枚は寒い庭前にわさきしもの上に立っている普通の態度であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼくはうんがよかったよ。こん夜はめてもらいたいね。ひさしぶりにゆっくりねむりたいんだ。ベッドをでよごしてすまなかったね。
宮城県遠田郡涌谷村字黄金迫の黄金神社附近から、黄金をって朝廷に献じたのが、日本で黄金の発見された最初のようであります。
春はまだ浅き菜畠、白きとり日向あさるを、水ぐるままはるかたへの、窻障子さみしくあけて、わらべひとり見やれり、の青き菜を。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
湖山はこれより先嘉永四年の冬かつき、参河国みかわのくに吉田の城主松平伊豆守信古のぶひさの儒臣となっていたので、海防に関する意見書を藩主に呈し
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、越前守はふと手を伸ばして、目安の机から一じの書類を取って、膝の上でひらいた。与力の一名が、燭台をかれの横へ寄せた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、遙か向う岸に連る二階家のある欄干に、一面の日光を受けて、もえるやうな赤いものが干してある。女の襦袢か。夜具の裏地か。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
れるのは旧の三月から十月頃までであるが、そのころはもうまずくなるので、喰って味のよいのは、ちょうど今だと愛嬌をいう。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「へい、申しわけございません。といったって、こちも、足を棒にして、そこらじゅうを、クルクルぎ歩いちゃいるんですが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれなりとらずんば此降りに客の足とまるまじとお力かけ出して袂にすがり、何うでも遣りませぬと駄々をこねれば、容貌よき身の一徳
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(七九)閭巷りよかうひとおこなひてんとほつするものは、(八〇)青雲せいうんくにあらずんば、いづくんぞく(名ヲ)後世こうせいかん
その雨の音を聞きながら、半七は居眠りでもしたように目をじていたが、やがて手拭いと傘を持って町内の銭湯へ出て行った。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
桃太郎は意気揚々ようようと鬼が島征伐ののぼった。すると大きい野良犬のらいぬが一匹、えた眼を光らせながら、こう桃太郎へ声をかけた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで私はとうとう、二言、三言と話し合っているうちに、その青年を、くから知り合っている友達かなんかのように思い出してきた。
赤い光りは、その大邸宅の右の端にタッタ一つ建っている、屋根のんがった、奇妙な恰好の二階の窓から洩れて来るのであった。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まれに、きわめてまれに、天のほのおを取って来てこの境界のガラス板をすっかりかしてしまう人がある。(大正九年五月、渋柿)
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
義太郎 (不満な顔色にて)おう、どうしたから降すんや。今ちょうど俺を迎えに五色の雲が舞い下るところであったんやのに。
屋上の狂人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
此一行がセルギウス等を見て馬をめた。フランス人らしい男に lesレエ pèlerinsペルレン(巡礼)を見せようと云ふのである。
しかし本來ほんらい耐震性たいしんせい木造建築もくざうけんちくに、特別とくべつ周到しうたう精巧せいかうなる工作こうさくほどこしたのであるから、自然しぜん耐震的能率たいしんてきのうりつすのは當然たうぜんである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
それでも塩水せんをかけたので恰度ちょうどあったから本田の一町一たん分には充分じゅうぶんだろう。とにかくぼくは今日半日で大丈夫だいじょうぶ五十円の仕事しごとはしたわけだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
薙刀のき刃のように、たとえば片鎌の月のように、銀光を帯び、水紅ときうすものして、あまかける鳥の翼を見よ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつて聞いたことのない、美しいことばを朗かな声で歌うのに、その音調が好く整っていて、しろうとは思われぬ程である。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かく、養家はそれから好い事ばかりが続いた。ちょいちょい町の人達へ金を貸つけたりして、夫婦は財産の殖えるのを楽んだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
沖で引っかかったさばなら鯖、小鯛こだいなら小鯛をば、穫れたられただけ船に積んでエッサアエッサアと市場の下へ漕ぎ付けます。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ことに明日あした逢ふ時に、どんな態度で、どんな事を云ふだらうと其光景が通りにも廿にじつ通りにもなつて色々にる。三四郎は本来からんな男である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おもむきを如何どういふふういたら、自分じぶんこゝろゆめのやうにざしてなぞくことが出來できるかと、それのみにこゝろられてあるいた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「グリイリイ君、君にはお気の毒だが僕は今日限り君とこの新聞をめたよ。どうも社説の議論が気に喰はないもんだから。」
何んだか生温なまぬるい湯にでも入ツてゐるやうな心地こゝち……、うつゝから幻へと幻がはてしなく續いて、種々さま/\な影が眼前を過ぎる、……ると、自分は
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この間ソ同盟の飛行機が北極を通過して一気に一万六百キロんでカリフォルニアのサンジャシント飛行場へ着陸し、六十二時間九分で
文芸時評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これはその山體さんたいつくつてゐる岩石がんせき玄武岩げんぶがん)の性質せいしつるものであつて、そのけてゐるさい比較的ひかくてき流動りゆうどうやすいからである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
これはまつ三艸子といって、大野定子と並んで歌よみといわれていた人でした。人あたりのよい方で、福羽氏ともお知合だったと見えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
うまのとどともすれば松蔭まつかげでてぞつるけだし君かと 〔巻十一・二六五三〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一天のかげは、寒く、こころをつて、歎きのしぐさを強ひる。——わたしはその群る虫に、その虫の歌に、汎としてき流れるサモス派の船である。…
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
と手真似でめて、かくしから取りだした一ルイの金貨を卓子テーブルの隅においた。それから彼は坐りこんで語りだした。声は少しふるえを帯びていた。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
めゆきて死所と定めむ天竜のかひちかき村清水湧くところ(原君、飯田市より二三里を距てたる山本村の清水に疎開し来れと誘はるるにより、かかる夢あり)
枕上浮雲 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
「芝生にあった大鹿ムースの角も、貴方がったのですか」と恐る恐るきくと「あれはこの冬のだ。昨年の冬は二頭猟ったが」という。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
之乎路しをぢから直越ただこえ来れば羽咋はぐひの海朝なぎしたり船楫ふねかぢもがも」(巻十七・四〇二五)、「ただに行かず巨勢路こせぢから石瀬いはせ踏みめぞ吾が来し恋ひてすべなみ」(巻十三・三三二〇)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
こと成善しげよしが江戸でもまだ少かった蝙蝠傘かわほりがさを差して出ると、るものがの如くであった。成善は蝙蝠傘と、懐中時計とを持っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さとくなければならない筈だが、今はまったく、一節切ひとよぎりの音色にしんから聞きれていて、心は時雨しぐれ堂の、あの虚無僧のまぼろしへもたれている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやたとえ一晩でも宿めて貰って、腹の中とは云え悪くいうは気がとがめる、もうつまらん事は考えぬ事と戸を締めた。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ただ一つ永久のおわかれに、わたくしがあのとき呼び得なかった心からのお願いを今、呼ばして頂きうございます。それでは呼ばせて頂きます。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ったんだよ。ヒュルスマイエルは、昔から村に住んでいる、ちゃんとした人だし、ユダヤ人はみんなわるい奴ばかりだからね。
不愍ふびんな者じゃ。亡き右府様になり代って、秀吉が改めて、媒酌ばいしゃくしてとらせる、生れかわった者として、山より迎えるがよい」
いねは頭をさっぱりとかしてもらい、実枝が奇麗だという、去年着ていった糸織の着物を着、半幅帯を貝の口に結んでもらった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
園ノ西南がいツテコレヲ径ス。眺観豁如かつじょタリ。筑波つくば二荒ふたらノ諸峰コレヲ襟帯きんたいルベシ。厓下ニ池アリ。さかしまニ雲天ヲひたシ、芰荷菰葦叢然きかこいそうぜんトシテコレニ植ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし下町の目抜と山の手のぱなとは地価のけたが違う。新太郎君の家も、二百坪足らずだが、日本一の銀座の地主さんだ。悲観することはない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
イワンは併し、娘の姿に見れているうちに、だんだんせつなくなりました。
イワンとイワンの兄 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
寛一君はその晩返事をしたためにかゝったが、もすると自分の苦情が先立つのに気がついた。彼方此方あっちこっちで叱られて、考えて見ると馬鹿々々しくなる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
曰く、『天にふかくしては天なり、地に潜しては地なり。天地は神明にして測られざるものなり。ないし人の心はそれ神なるか、るときはすなわち存し、捨つるときはすなわちなし、云云うんぬん
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
仇敵に仕える汝ら二人、首打ち落とすが本来なれど上使と名乗る名に免じて一命だけは助けてくれよう。やあやあ主馬之介く参って此奴こやつらのもとどりを切り払え!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるに伯夷はくい叔齊しゆくせいこれぢ、しう(三四)ぞくくらはず、首陽山しゆやうざんかくれ、つてこれくらふ。ゑてまさせんとするにおよんでうたつくる。いは
「豪勢なピクニックだ、それにじつに何とも言えん晩だ」とほろ酔い機嫌のラエーフスキイが言う、「だが僕は、それにもかかわらず敢てよき冬をるね。 ...
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かくて一生懸命に走って今一足で嶺に達するという刹那せつな蛙が野猪の頸からポイとんで絶頂へ着いたので野猪我は蛙にしてられたと往生を唱うた
クヲテン怒て奸夫を殺さん逐ひ廻るを見て、クヲテンの母パールデン、荊棘に鈎られて留まれと詛ふと、果して棘に留められた所をクヲテンが殺した。
詛言に就て (旧字旧仮名) / 南方熊楠(著)
「身内の欲虫、人の和合する時男虫は白精、涙の如くにして出で、女虫は赤精、の如くにして出づ、骨髄のあぶら流れて此の二虫をして吐涙の如くに出でしむ」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
甲野さんは返事を見合せて口をじた。会話はまた途切れる。汽車は例によってごうと走る。二人の世界はしばらくやみの中に揺られながら消えて行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蹈海とうかい蹉跌さてつは、たちまち徳川政府のう所となり、江戸伝馬町の獄に繋がれ、延いて佐久間象山に及び
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もししからばすなわち張公が言非なるか、因って挙似して以てその所以ゆえんう、僧いう晨を司る鶏は必ず童を以てす。
ことさらにあとさんと、きりこみし人々、皆其刀をがせし中に、一瀬が刀の二個処いちじるしくこぼれたるが、臼井が短刀のはのこぼれに吻合ふんごうしたるよりあらわれにき。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子供は、早速考えついて、後方うしろに居並んでいたベンチを一つ引摺って来て黒板の下に置いて、それを足場としてその上に立って、白墨をって用意した。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
誤れること二つ——第一は何事をも文字通りにいてしまふこと、第二は何事をも意味ありげに釋いてしまふこと。
パスカルの言葉 (旧字旧仮名) / ブレーズ・パスカル(著)
彼はさへしとみえしそのことばきつさきを我にむけつゝ、たゞちに續いてまた斯くいひぬ 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そのいんうちに記して曰く、つまびらかに其の進修の功をうに、日々にことなるありて、月々に同じからず、わずかに四春秋を越ゆるのみにして而して英発光著えいはつこうちょかくの如し、のち四春秋ならしめば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
主人しゆじん細君さいくん説明せつめいによると、この織屋おりやんでゐるむら燒石やけいしばかりで、こめあはれないから、やむくはゑてかひこふんださうであるが、餘程よほどまづしいところえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに子供がだんだん大きくなったので、とうとう花城の家の子供と許嫁いいなずけをした。羅はいつも叔父が年をって困っているだろうと思って気にしていた。翩翩はいった。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それより門をじて、天井より糸でまりをつるし、それを突くこと三年間、ついに天下無敵の突きの一手を発明してしまった。
「あの邸をへ寄附して、博物館にでもしてもらうわけにはいかないのでしょうか」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
力の日本がかかる和合をもたらし得ない事を私は知っている。しかし情の日本はそれを成しげ得ないであろうか。力強い威圧ではない。涙もろい人情のみがこの世に平和を齎らすのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
宗近君は椅子いす横平おうへいな腰を据えてさっきから隣りのことを聴いている。御室おむろ御所ごしょ春寒はるさむに、めいをたまわる琵琶びわの風流は知るはずがない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
イエスは富める真面目な青年にいつくしみの目をそそぎ給うたごとく、これらの貧しき素朴なる青年弟子にも愛しみの目をめて
祖父は歿くなる、親は追出す、もう誰一人その我儘わがまゝめるものが無くなつたので、初めの中は自分の家の財産を抵当に、彼方あつち此方こつちから金を工面して、なほその放蕩はうたうを続けて居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ゆゑに幾日の後に待ちて又かく聞えしを、この文にもなほしるしあらずば、彼は弥増いやまかなしみの中に定めて三度みたびの筆をるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
森「分らねえっさんだ、旦那が声が小せいから尚お分らねえのだ、もっと大きな声でお話なせえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
降りて来る蟻達はゆつくりとした様子で小さな足どりで来ます。そして自分から足をめて休んだり、上つて来る蟻に忠告をしてやつたりします。
日本太古にほんたいこ原始的家屋げんしてきかをくはともかくも、すでに三かん支那しな交通かうつうして、建築けんちく輸入ゆにふされるにあたつて、日本人にほんじんなにゆゑににおいて賞用しやうようせられたいしせん構造こうざうけて
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
嶋田の髷のなつかしさに振かへり見る人たちをば我れを蔑む眼つきとられて、正太さん私は自宅うちへ歸るよと言ふに、何故今日は遊ばないのだらう、お前何か小言を言はれたのか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(十四) 子曰く、君子は食かんことを求むるなく、きょ安からんことを求むるなく、わざくしてことを慎み、有道にいて正す。学を好むというべきなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だれかまだ手に力のある者がゐるならば、はやくその花をるがよからう。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
景色けしきおほきいが變化へんくわとぼしいからはじめてのひとならかく自分じぶんすで幾度いくたび此海このうみこの棧道さんだうれてるからしひながめたくもない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
少しは頭脳あたまがはっきりし、悲しみもれて行ったが、請地うけじではもう早起きの父が起きている時分だなぞと考えてみたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
突止つきとめのちかくも取はからはんと富右衞門は其まゝ入牢申渡されける是より大岡殿組下くみしたの同心へ申付られ在方ざいかたの樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
治外の法権れしはやや心安きに似たれど、今もかの水色眼鏡の顔見るごとに、髣髴ほうふつ墓中の人ので来たりてわれと良人おっとを争い、主婦の権力を争い
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わか坊様ばうさまれてかはつこちさつさるな。おら此処こゝ眼張がんばつてるに、)と横様よこさまえんにのさり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分はこの時始めて、何をられたかを明瞭めいりょうに知った。くなったものは十点、ことごとく帯である。昨夜ゆうべ這入ったのは帯泥棒であった。御正月を眼前にひかえた妻はな顔をしている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世の中に知られぬ宿も菜の花の香をめてこそ蝶の飛ぶらめ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
〔譯〕凡そ生物は皆やうる。天生じて地之をやしなふ。人は則ち地の氣の精英せいえいなり。吾れ靜坐して以て氣を養ひ、動行どうかうして以て體を養ひ、氣と體と相つて以て此の生を養はんと欲す。
と腰のものなどらせて帰したということが——この春にはあった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
押し強くも帝釈宮の門まで往ったが堅くざされてヤモリが一疋番しおり、この金剛石門は秘密の呪言で閉じられいるから入る事はかなわぬと語る。
立出て音羽の町へ至りつゝ路地へは入しが何處で聞んと其所等そこら迂路々々うろ/\爲しゝすゑ見れば大藤がとなりの家にて老婆一にんぜんに向ひ夜食やしよくと云へど未だ暮ぬ長日の頃の飯急めしいそぎ和吉は見やりて打點頭うちうなづき會釋ゑしやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほう鳥も飛んで来なくなった。河からはも出なくなった。これでは私も生きている力がない。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だが、幸にして、彼女のつた多量の夕食は、催眠の効をあらはした。私が着物をいでしまはないうちに、もう彼女は、いびきをかいてゐた。蝋燭は、まだ一インチばかし殘つてゐた。
其傍では船頭のかみさんが、釜に米を入れたのを出して、川から水を汲んで、せつせとそれをいで居たが、やがて其処そこから細い紫のけぶりが絵のやうに川になびいた。夕照せきせうが赤く水を染めて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ほつほつともれゆくみづのなやみのともし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
頭脳あたまが三方四方へられているようで、この一月ばかりの新吉の胸の悩ましさというものは、口にもことばにも出せぬほどであった。その苦しい思いが、何でお作に解ろう。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「は、私は。——兄さん召上るなら麦酒ビールつて参りませう。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「いつか、夜も更けたようだ。そろそろ床をらせようか?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
漢書かんじょ』には「蘭ハ香シキヲ以テ自ラ焼クナリ」と書き、『西京雑記』には「漢ノ時池苑ニ蘭ヲ種ヱテ以テ神ヲ降シ或ハ粉ニ雑ヘテ衣書ニ蔵メヲ辟ク」
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
口上は狼狽ろうばいして走り寄りぬ。見物はその為損しそんじをどっとはやしぬ。太夫は受けめたる扇を手にしたるまま、そのひとみをなお外の方に凝らしつつ、つかつかと土間に下りたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
米穀に俵の虫あり糞尿に蛆あり獅子に身中の虫あり書にあり国に賊あり世に新聞記者あり芸界に楽屋鳶ありお客に油虫あり妓に毛虱あり皆除きがたし。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
途中は長い廊下、真闇まっくらなかで何やら摺違すれちがつたやうな物の気息けはいがする、これと同時に何とは無しにあとへ引戻されるやうな心地がした。けれども、別に意にもめず、用をすまして寝床へ帰つた。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
林檎でも桃でもそれに似た物は皮をいてしんって四つ位に切って直ぐ水の中へ放します。これはアクを抜くので色の赤くならないためです。アク出しをしないと煮てから色が赤くなります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この壁土が唾液つばきけて、口いっぱいに広がった時の心持は云うに云われなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
られて泣くや、わかうど。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
一體いつたい若旦那わかだんなは、やしき河下三里かはしもさんりばかりのところに、ながれのぞんだ別業べつげふがあるのを、元來ぐわんらいいろこのめる男子をとこ婦人ふじん張氏ちやうし美而びにしてなりとふので、浮氣うはきをする隱場處かくればしよにして、別業べつげふ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とある書窓の奥にはまた、あわれ今後の半生をかけて、一大哲理の研究に身を投じ尽さんものと、世故の煩をって塵塚ちりづかのただ中へ投げ捨てたる人あり。その人は誰なるらん。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
水をいっぺえ恵んでおくんなせえまし——ああありがてえ、畜生めッ、これでくたばりゃ七たび生れ代っても野郎四人をり殺してやるぞッ——だからね、どうぞして観音像の正体を見届け
しかしそれにも劣らなかったのは、斃れた土人が手に持っていた人骨製の短槍を、岩の蔭から手を伸ばし、素早くったホーキン氏の動作で、槍を握るとその槍で二番手の土人の胸を突いた。
そうして、日をり初めて、ちょうど、今日と言う日。彼岸中日、春分の空が、朝から晴れて、雲雀ひばりは天にかけり過ぎて、帰ることの出来ぬほど、青雲が深々とたなびいて居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
無礼ぶれいものめとかたをつきたるゆゑたわら脊負せおひていかでたまるべき、雪の中へよこさまにまろたふれしに、武士も又人になげられしごとたふれければ、田中の者はおきあとも見ずしていそぎゆきけり。
峠はけわしく、口を開くのも臆劫おっくうで、話も途切れた。驢馬はすべりがちで、許生員はあえぎ喘ぎ幾度も脚をめなければならなかった。そこを越える毎に、はっきりとおいが感じられた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
背は低いが肩幅の広い身体に作り附けたように大きなあから顔が載っていて、ちょっと奈良の一刀彫いっとうぼりのようです。老けて見える割に歳はってないらしく、太い眉と頭の髪は気味の悪いほど真っ黒です。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども多くの人のごとくに判然はっきりした目的はっていなかった。そのうち店にいた。電車も灯火あかりもした。宗助はある牛肉店に上がって酒をみ出した。一本は夢中に呑んだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悠々然とのみ衣服なり垢穢きたなじじもあり、道具捜しにまごつく小童わっぱ、しきりに木をく日傭取り、人さまざまの骨折り気遣い、汗かき息張るその中に、総棟梁ののっそり十兵衛
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お負けに年をると顔へ汚点しみが出来たりソバカスが出来たりする。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
手足てあしいた膏藥こうやく所爲せゐで——
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は、喉に唾液をみながら、御手洗邸の玄関へ駆け込んだのである。このたびの羮も、往年の味に少しの変わりもない。美漿びしょう融然として舌端にけ、胃に降ってゆく感覚は、これを何に例えよう。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「ええ。ばず鳴かずです」と、純一は鴉を見ながら答えた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
奈何どうだらうな、重兵衛さん。三国屋に居ると何の彼ので日に十五銭宛られるがな。そすると月に積つて四円五十銭で、わしは五十銭しか小遣が残らなくなるでな。すこし困るのぢや。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「今夜は少しゆっくりしてもいいように、同宿の者へも頼んできた。おそくなったら、ここで泊ってもいいのだ。これでひとつお酒をってきてくれ」と、小平太は懐中かいちゅうから小粒を一つ出して渡した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
變りし世は隨意まゝならで、せる都には得も行き給はず、心にもあらぬ落髮をげてだに、相見んとこがれ給ふ妻子の恩愛は如何に深かるべきぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それは婢が女をれにいっているところであった。婢は女をし入れるようにして伴れて来た。女は口に袖を当ててその笑いをめようとしていたが遏まらなかった。老婆はちょとにらんで
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それには仔細しさいがあって、今当分は、わざとおとなされた方が、のちのちのためによいとおもわれての事かも知れない——あのお方には世間がある、芸がある——それを、一途いちずに、女気で
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
混雑する旅人の群にまぎれて、先方さきの二人も亦た時々盗むやうに是方こちらの様子を注意するらしい——まあ、思做おもひなしせゐかして、すくなくとも丑松には左様さうれたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
是はわたくしの功かと存じます、此の功によってお引立を願いとう存じます、只出世を致したいばかりではないが、拙者ぜんに津山において親父は二百四十石りました、松蔭大之進の家に生れた侍のたね
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
天平勝宝二年三月一日、大伴家持が、「かけしぎを見て」作った歌である。一首の意は、春になって何となく憂愁をおぼえるのに、この夜更よふけに羽ばたきをしながら鴫が一羽鳴いて行った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのお春どんいう仲居さんに帯上げ借って、「お客さん階下したの部屋い通して待っててもろて」いうて、その間に私が手ッうて身ごしらいしてましたら、またお春どん上って来て
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そうか、光子さん腹ぽてになったんか」いうて、夫はすっかり真アに受けて、さすがに気の毒そうな顔しますのんで、「そいでもあんた、そんな悪いことたらいかんいうたやろ。 ...
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
当局のみならず、市民の有志も協力して、この街上の女の殺者、暗黒をう夜獣を捕獲しようと狂奔きょうほんし、ありとあらゆる方策が案出され実行された。徹夜の自警団も組織された。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
はたしてニカラガの犯人がロンドンの殺者ジャックであったかどうか——それは、ニカラガでも犯人は捕まっていないのだから、肯定するも否定するも、ようするに純粋の想像を一歩も出ない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ここに言擧して詔りたまひしく、「この白猪になれるは、その神の使者つかひにあらむ。今らずとも、還らむ時にりて還りなむ」
曾婆訶里答へて白さく「命のまにま」と白しき。ここにその隼人に物さはに賜ひてのりたまはく、「然らば汝の王をりまつれ」とのりたまひき。
西の簇々むら/\とした人家を崖の上に仰いで、船を着けた、満島からこゝまで九里の間を、三時間半。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
深谷の怖ろしい姿が見られるのであるから、その距離だけを、別に船を仕立て、西のから鹿島までは、毎日客船が出るさうであるから、それに乗り換へることにしたのである。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
それも急性胃加答児いカタルられたのだと云うから、事に寄ると祖母が可愛がりごかしに口を慎ませなかったたたりかも知れぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
俊坊というのは私の兄で、私も虚弱だったが、矢張やっぱり虚弱で、六ツの時られたのだそうだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
たとえばある特定の地方である「水の」の年に偶然水害があった場合に、それから十一年後の「水の」の年に同じような水害の起こる確率が相当多いという事もあるかもしれない。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
去年が「甲戌きのえいぬ」すなわち「いぬの年」であったからことしは「乙亥きのとい」で「の年」になる勘定である。こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここにすなはちその海邊の波限なぎさに、鵜の羽を葺草かやにして、産殿うぶやを造りき。ここにその産殿うぶや、いまだ葺き合へねば、御腹のきにへざりければ、産殿に入りましき。
「今くこの水門みなとに往きて、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門のかまはなを取りて、敷き散して、その上にまろびなば、汝が身本のはだのごと、かならずえなむ」
「我は宝剣と玉をった。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「鏡をりに。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「どうしたつけ、昨日きのふまめはそんでもたんと收穫れた割合わりえゝだつけが」おつたがなぞのやうにいつても勘次かんじさらにはき/\といはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
うむ、はたきふかくなくつちや收穫んねえものよそら、らあさかりころにや此間こねえだのやうにあさうなあもんだたあねえのがんだから、現在いまぢやはあ、悉皆みんな利口りこうんなつてつかららがにやわかんねえが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
姉は織物をしたり糸をったりしてすきはございませんが、少しひまが有れば大滝村の不動様へ親父おやじ生死いきしに行方が知れますようにと信心して、姉弟二人中ようして暮して居ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
傳「ないので、伯父さんの厄介になってはたを織ったり糸をったり、のくらい稼ぐ者は有りませんが、やさしくって人柄がい、いやになま世辞せじを云うのではないから、あれがうございます」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
稽古襦袢けいこじゅばんはかまもも立ちとった一同、みには入りかね、手に手に抜刀をひっさげて、敷居のそとに立ちすくんでいる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
悄然しょうぜんたる丹波の言葉も、誰の耳にもはいらないらしく、一同、刀をさげ、こうべをたれて、黙々とその無残きわまる同志の死体を、見おろすばかり、みには声も出ません。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うっかりしているとすぐにおびただしく繁殖する、果樹につく天狗虫てんぐむし、赤虫、綿虫や、それから薔薇や他の草花やの茎にとかくつきたがる油虫やのたぐいを見つけ次第に一一除り去ってやった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
『罪罰』に感激すると同時にステップニャツクを想い起し、かつ二葉亭をも憶い浮べた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その顔にはなんという合図あいずの表情も見えなかった。彼女は仕方なしにお秀を送って階子段はしごだんを降りた。二人は玄関先で尋常の挨拶あいさつかわせて別れた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生来の倹約家しまつやだが、実際、僅の手間では、食って行くのが、関の山で、たまに活動か寄席へ出かけるより外、娯楽たのしみれ無い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
予備門よびもんに入学して一年いちねんばかりぎての事であるが、山田やまだの第二中学にる時分から早くすで那様こんな了見りやうけんが有つたらしいのです、一年いちねんぜん其志そのこゝろざしいだいたわたしだ小説のふでつて見なかつたのであるが
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
つぶでがすから、わしがに相違さうゐありあんせん、彼等あつらがなんなに出來できつこねえんですから、それ證據しようこにや屹度きつと自分じぶんはたけのがなひとでもつちやねえからさつせ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「いわずと知れた、親のうちへよ——公方さまのおぎをしたという人を、こんなあばら家から、とむれえも出せねえじゃあねえか——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……されば、逐々ありありて戻り来しか。来る年も来る年も待ちったが、冥土の便宜びんぎ覚束いぶせしないか、いっこう、すがたをお見されぬ。今もいま、ばば刀自とじ愚痴かごというていた。……ああ、ようまあ戻り来しぞ。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは林檎りんごの皮からゼラチンと同様な膠質にかわしつが出るからで上等の林檎など良く出来ます。このままっておけば林檎のシロップで何時いつでも温めて溶かせば用いられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ほかの事で玉子を割りますとそのからをそっくり保存っておきます。殻の中へいくらかずつ白みが残っていますから空気に触れないようにしておくと固まりません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
絵図にっているにちがいなかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アトは丸山にて貴様の狃除なじみをば喜ばしょうと思うに、要らん事に全快ようなったりして俺達をば非道ひどい眼に合わせる。捕らぬ狸の皮算用。夜中三天のコッケコーコーたあ貴様ぬしが事タイ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「一番、最初に読んだは何じゃったろうかいね」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
西洋料理にしますと一つはシチューで先ず頭をって皮をいて長さ一寸五分位にブツブツ切ってバターでジリジリといためて一旦いったん鰻をあげ
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「——騒ぐのはおよしなさい。わたしの側には手頃な小刀こづかがありますからね、じたばたするとてのひらを窓板へ、うなぎの首をめるように、プツンと縫ってしまいますよ……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飲食店の硝子ガラス窓に飲食物の模型を並べ、之に価格をつけて置くようになったのも、けだむことを得ざる結果で、これまたそのはんを大阪にったものだという事である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手の爪をりかけると思ふと、半途で戸外そとへ出たりなんどする。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
『これからさきけつしていまよりとしらないのかしら?』とおもつてあいちやんは
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は初めて人間の生血をる、恐ろしい野獣けものの所為をまのあたり見た。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「親のすがたを見て、逃げ出すとはなんの芸じゃ。われは、木の股から生れくさったか、わしが子ではなかったかよ。——こ、これッ、ここなぼけ者が」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋愛慕情のたてぬきにからまれて身うごきもとれぬとは! ッ! なんたるざまだッ!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
商賈しょうこみな王の市におさめんと欲し、行旅みな王のに出でんと欲し、たちまちにして太平洋中の一埠頭ふとうとなり、東洋の大都となり、万国商業の問屋となり
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
三「死んだのじゃアねえ今じて来たのだが、アヽこれっ切りに成るかしら、あゝもうとても助かるまい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの裏山の土蔵はけてアトカタも御座いませんので、途方に暮れておりまするところへ、コチラ様の前を通りかかって、御厄介になりに来たのではないかと、こう思いますが……
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たちまち進み来たれる紳士は帽を脱して、ボタンの二所れたる茶羅紗ちゃらしゃのチョッキに、水晶の小印こいん垂下ぶらさげたるニッケルめっきくさりけて、柱にもたれたる役員の前にかしらを下げぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あやしき調しらべる神こそ知らめ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
『ナニ。生きとるかも知れん。馬鹿け。見てんやい。眼球ア白うなっとるし、睾丸きんたまも真黒う固まっとる。浅蜊あさり貝の腐ったゴト口開けとるばドウするケエ』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男というのは当時某会社に出勤していたが、何しろこんなにまで望んでったかないのことでもあるから、若夫婦の一家は近所の者もうらやむほどむつまじかった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
〔凝リテ花ヲ成サザルハ霿淞ニ異ナリ/著来シテ物物おのオノ容ヲ異ニス/柳条ハ脆滑ニシテ蓴油ノゴトクなめラカナリ/松葉ハ晶瑩ニシテ蛛網ノゴトクヅ/氷柱四檐繖角ニ垂レ/真珠万点裘茸ニ結ブ/詩人何ゾ管セン休徴ノ事/奇景ノアタリニ驚ク老イニ至リテ逢フトハ〕あんズルニ曾南豊そうなんほうノ集中ニ霿淞むしょうノ詩アリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私達は、先生の周囲を、円陣を作って、歌い踊りながら、戦争というものが、どんなにうといものか、人間と生れて戦争にゆかないものは、不具者に劣る者だと教え込まれた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
かのロダンの大理石塊を前にしてまさにのみふるわんとして息をめ目を凝らすがごとくに、ベルグソンは与えられたる「人性」を最高の傑作たらしめんがためにじっとライフを見つめているのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
と少しいきどおった気味で受合いましたから、大きにお竹も力に思って、床をってふせりました、和尚さまは枕にくと其の儘旅疲れと見え、ぐう/\と高鼾たかいびきで正体なく寝てしまいました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時劫じごふのすすみ老いせぬ愛のかげ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
幸三郎さんといふのは、四条のお雪伯母の養子にしてあつた、大阪の新町の芸妓屋の息子で、その頃兵隊にられて伏見の聯隊に行つて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ところが、明治七年の九月に突然今年は子歳ねどしのものを徴集るのだといって、扱所といったと思う、今日の区役所のようなものが町内々々にあって、其所そこからたっしが私の処へもあったのです。
少しあまツたるいやうな點はあツたけれども、調子に響があツて、好くほる、そしてやさしい聲であツた「まるで小鳥がさへづツてゐるやうだ。」と思ツて、周三は、お房の饒舌しやべツてゐるのを聞いてゐると
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ゆんべ遊びに出て褞袍なくしつちやたんだ。おすがら内の土藏んけ置いたの今朝盜まつたんだか何んだかねえんだ。それからおらうちへ歸れねえ」
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
捕卒は銀錠をって臨安府の堂上へ搬んできた。許宣はそこで盗賊の嫌疑は晴れたが、素性の判らない者からひそかに金をもらったというかどで、蘇州へ配流ついほうせられることになった。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貢さん、お前さんが心配をすればどうにかなるとでもいうような事を、継母が知ってて言うようにもれるがねえ。一体どうしたというんだろうね。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ誰かわが産土神うぶすながみをかかる遠方へり去れるぞと嘆くを見かねて、一里半ばかりその女児を負い送り届けやりし人ありと聞く。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
禅師見給ひて、やがて禅杖をりなほし、一五三作麼生そもさん一五四何所為なんのしよゐぞと、一かつしてかれかうべち給へば、たちまち氷の朝日にあふがごとくきえうせて、かの青頭巾とほねのみぞ草葉にとどまりける。
あんたお嬢さんが莫大のお金をって逃げやはった、それ故何うもわたいの思うには粂之助がお嬢さまを殺して金子かねを取って、其の死骸を池ン中へほうり込んだに違いないとう考えるのでおす
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この御世に、兔寸うきの西の方に、高樹たかきあり。その樹の影、朝日に當れば、淡道あはぢ島におよび、夕日に當れば、高安山を越えき。かれこの樹を切りて、船に作れるに、いとく行く船なりけり。
誰か、お前から俺があの栓を受取るのを見ていて、人込みを利用して、俺の衣嚢ポケットからったに違いない。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
邯鄲淳はこのとき年歯としわずかに十三歳で、筆をってこの文を作し、一字も訂正しなかったと申します。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曰ふ、しやうはたるは、氣盛なる者之を能くす、而かも眞勇しんゆうに非ざるなり。孤城こじやうえんなきに守り、せん主を衆そむくにたもつ、律義者りちぎものに非ざれば能はず、故に眞勇は必ず律義者りちぎものに出づと。
して来たぜよ。——何だと思う? 分るめえが、牛だよ、しかもすばらしい牝牛だ。畑にも使えるし、乳もれる
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出帆時間の事を考えると、愚図愚図しておられないので、すぐ附近のカフェへいって軽い朝食を摂取った。丁度六時半である。それからソーホー街へ出掛ければいい時間である。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
姦言かんげんかざり、近事きんじり、時勢を窺伺きしし、便べんはしげきに投じ、冨貴ふうきを以て、志とす。これ利禄りろくう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それの年の元日に佐竹は山内へ廻礼に来て、庭に立っていた五百の手をろうとすると、五百はその手を強く引いて放した。佐竹は庭の池にちた。山内では佐竹に栄次郎の衣服をせて帰した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天皇既に吾を死ねと思ほせか、何ぞ、西の方のあらぶるひとどもをりに遣して、返りまゐ上り來しほど幾時いくだもあらねば、軍衆いくさびとどもをも賜はずて、今更に東の方の十二道の惡ぶる人どもをことむけに遣す。
その時八百五十倍の鏡の底に映ったものは、まるで図に撮影ったようにあざやかに見える着色の葡萄状ぶどうじょうの細菌であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弥平爺は、五銭白銅貨を二三枚お婆さんの枕元へり出した。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
蒲生源左衛門は須田等をきゅうした。二人は証拠文書をって来たのだから、それに合せて逐一に述立てた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女郎じょうろを買って銭が欲しい所から泥坊に成る者も有るからのう婆様ばあさま、と云われるたびに胸が痛くていっん出さないば宜かったと思ってなア
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まごう方もないはぎ野だったのだ、経之は、あれほどの驚きを数刻の前に知った女が、執拗しつようにしかもうに何もも打っちゃって男にあいに行くために
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
戦のきあ、夏と冬の入りまじった時があるかんない、夏になったとて、衣裳換え出来ねえ時はあるし。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「母さん、前髪をって頂戴な」
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されば「都伝摸とても年増夷辺伐いえば様」その広夷ひろいに飽き果て散播都天門さわっても呉弩くれぬかこちて自害した。
だが、お民の母性的注意深さも、それには敗けて居ず、今日も京子の後からついて来た。京子はそれに反撥する弾条ばね仕掛けのようなげしい早足で歩きながらお民を振り返った。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
はい、旦那さま、一年のうちに女房かかあと、娘と、男の子を二人られました。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
仰向あおむい蒼空あおぞらには、余残なごりの色も何時しか消えせて、今は一面の青海原、星さえ所斑ところまだらきらめでてんと交睫まばたきをするような真似まねをしている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
正面に駄菓子だがしせる台があって、ふちれた菓子箱のそばに、大きな皿がある。上に青い布巾ふきんがかかっている下から、丸い揚饅頭あげまんじゅうみ出している。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出て来ると楊枝箱ようじばこ真鍮しんちゅうの大きな金盥かなだらいにお湯をって輪形りんなりの大きなうがい茶碗、これも錦手にしきでか何かで微温ぬるまの頃合の湯を取り、焼塩が少し入れてあります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万葉集に『沖つ国知らさむ君がやかた黄染きじめの棺神の海門渡る』
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
平次は足もめず、両国橋の夕陽の中を、明神下へ急ぐのです。その後から八五郎は、首を振ったりあごを撫でたり、に落ちない顔で、ついて行きます。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「一思いに殺さばこそ、一日々々体を腐らせ骨を溶解かして殺そうというのもお父様の怨みが晴らしたいからさ」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
聞きながらこの曲の構想を得たのである手事の旋律せんりつは鶯のこおれる涙今やとくらんと云う深山みやまの雪のけそめる春の始めから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実は自分は梅子さんもらいたいと兼ねて思っていたのであるから、井下伯に頼んで梅子さんだけめて置いてあとから交渉して貰う積りでいた
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
浴をらなかったものだが、今は立派な温泉宿が出来た、それにしても客の来るのは、夏から秋だけで、冬は雪が二尺もつもる、風がつよくて、山々谷々から吹きげ、吹き下すので
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
途端に頭の上の電燈が眩しく紫色にもった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
案を払ひ香をひねつては謹んで無量義経の其中に両眼の熱光を注ぎ、兀坐寂寞こつざじやくまくたる或夜は、灯火ともしびのかゝげ力も無くなりてまる光りを待つ我身と観じ、徐歩じよほ逍遥せうえうせる或時は
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
明るく燈火ともしびもってい、食べ散らし飲み散らした盃盤が、その燈火に照らされて乱雑に見え、二人ながらいい加減酔っているらしい。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もうすぐ蕨の時候になるね。浪さん、早くよくなッて、また蕨りの競争しようじゃないか」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
風の西に吹くを能く見るものを達識者と呼び、風の東に転ずるを看破するものあれば、卓見家となへんとす。勇者はその風に御して高く飛び、智者はその風を袋に蓄はへて後の用を為す。
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
キテ今リ庶政ヲル/小儒ひそカニ擬ス昇平ヲたたヘント〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
砂の中へ顔の滅込めりこむようにして、上から與右衞門が乗掛って、砂で息をめて殺したと云うが本説だと申す事、また祐天和尚ゆうてんおしょうが其の頃脩行中しゅぎょうちゅうの事でございますから、頼まれて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その者等が様子をくと見極めてもしも変化のものなら、なんの年こそとっていれ狐狸こりたぶらかされる気遣いはないと、御決心あそばしましたから
母親は手元の薄暗い流し元にしゃがみ込んで、ゴシゴシ米をいでいた。水をしたむ間、ぶすぶす愚痴をこぼしている声が奥の方へも聞えた。お庄はまた母親のお株が始まったのだと思った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
柳「これは少いが、内儀さんを貰うにはもうちっと広いうちへ引越さなけりゃアいけないから、ってお置きなさい、内儀さんが決ったなら、又要るだけ上げますから」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
橋本では、先代からの例として、仏式でなく家の「御霊みたま」を祭った。お種はついでに小泉の母の二年をも記念する積りであった。年をるにつれて、余計に彼女はこういうことを大切にするように成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大たぶさにり上げ、あかぐろい、酒やけのした顔で、長身の——清水狂太郎なのだ。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
真夜中の二時頃……電車のまる頃になるとあのホテルの屋上庭園のマン中に在る旗竿の処へフロッキコートを着た日本人の幽霊が出るんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
局に臨み交〻争ひ、雌雄未だ決せずば、毫釐も以てたがふ可からず。局勢已につかれなば、精を専にして生を求めよ。局勢已に弱くば、意を鋭くして侵しけよ。
囲碁雑考 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
すぐにガラガラと扉をじる。
一斉いっとき動揺どよめいて、都大路を八方へあふれる時、揚出しの鍋は百人の湯気を立て、隣近となりぢかな汁粉屋、その氷月の小座敷には、閨秀二人が、雪も消えて、衣紋えもんも、つまも、春の色にややけたであろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時がたちさえすれば、ひびの入ったお今の心が、それなりに綺麗にじ合わされたりされたりして行くとしか思えなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
モールでふちった草色の制服は総督府そうとくふの従兵と一ト目でわかる。施恩が出て用向きを聞いてみると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちばず。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
元祿九年因幡國朝鮮國之間竹嶋となへ候嶋有之、此島兩國入合いりあひ之如く相成居よろしからず候に付、朝鮮之人此邊え參候事を被禁候段從
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
結局、いつもの通り、湖の岐入とS川との境の台地下へボートを引戻ひきもどし、蘆洲の外の馴染なじみの場所にめて、復一は湖の夕暮に孤独こどくを楽しもうとした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『風俗通』八に黄帝書を引いていわく、上古の時、と鬱てふ昆弟こんてい二人、能く鬼を執らう。
その男は炉のはたに自分のためにとてって置かれてあった御馳走の前に腰を下ろした。
「されど両親は其語れる事をさとらず」と云ふのも恐らくは事実に近かつたであらう。けれども我々を動かすのは「其母これらのすべての事を心にめぬ」
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つまりそれは、戀文にぞくする古反古を手許にっておくという奴ですな。
キテ今リ庶政ヲル/小儒ひそカニ擬ス昇平ヲたたヘント〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(二) 子曰く、夏礼は吾これかんとせるも、杞徴あきらかにするに足らざるなり。殷礼も吾く之をかんとせるも、宋徴あきらかにするに足らざるなり。文と献(賢)と足らざるが故なり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
さてかれらは七の五倍の母字子字となりて顯はれ、我はまた一部一部を、その言顯はしゝ次第に從ひて、心にめたり 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かくて傳吉は小娘に誘引いざなはある家に入て見ればはしらまがりてたふのきかたぶき屋根おちていかにも貧家ひんかの有樣なれば傳吉は跡先あとさき見回し今更立ち出んも如何と見合ける中に小娘はたらひ温湯ぬるゆ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二度とふたたびお逢いできぬだろう心もとなさ、わば私のゴルゴタ、けば髑髏されこうべ、ああ、この荒涼の心象風景への明確なる認定が言わせた老いの繰りごと。
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひらけん時分の事で、此の宿しゅくでは第一等の医者だというのを宿やど主人あるじが頼んでくれましたが、まるで虚空蔵様こくうぞうさま化物ばけもの見たようなお医者さまで、みゃくって薬と云っても、漢家かんかの事だから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老「いやさ御姓名ごせいめい一寸ちょっとめて置きたいから」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
故に文学を評論するには、少くとも其本能本性に立ち入りて、然る後に功用、結果、目的等の陪審官にはざるべからず。
「いや、奥さんの敵は、もうすぐってあげますよ。犯人が屍体を湖水の中に投じたことは判明しました。この上は、犯人がどうして屍体を灰のように細かくしたかと云うことが判ればいいのです」
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
角膜の献納せむと乞ひて得し養母ははなり養母は優しさに
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
林「其の時使ったのかって置きたいと思って糠袋のかぶくろをあけて、ちゃんと天日てんぴにかけて、乾かして紙袋かんぶくろに入れて貯っておいて、炊立たきたての飯の上へかけてうだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕損しそんじなば御二人の御命にもかゝはるならんとおひつ氣をもむをりしもゴウゴウと耳元近く聞ゆるは東叡山とうえいざん寅刻なゝつかねコリヤ斯うして居られぬと物にすがりて立上り蹌踉ひよろめくあし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あやまちを再びそこにあらせじと幣はもおくか駒の
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
せきりし東路あづまぢ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
竹「はい、私は大きに熱が退れましたかして少し落着きました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……そうと知ったら、仁義などをケッつけずに、サッサとばしてやるんだった。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くやしかも、く來まさず。吾は黄泉戸喫よもつへぐひ一一しつ。然れども愛しき我が汝兄なせの命、入り來ませることかしこし。かれ還りなむを。しまらく黄泉神よもつかみあげつらはむ。
そしてあなたの箪笥たんすを調べるのを手傳つて頂戴。直ぐにあなたの荷作にづくりをしなくちやならないのよ。奧さんはもう一日か二日の中に送り出すつもりよ。あなたの持つて行きたい玩具おもちやつていゝわ。
大君、我が大君、あきかみ、神ゆゑに、雲のの照る日の光 りてますかも。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たよりなくおもうと、じきにさむさが骨肉ほねみにしみこんできました。しかし、かれは、一ぴきでいいからさかなれたときのことを空想くうそうして、もうそんなさむさなどはかんじなかったのであります。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、より深く視覚をぐとき、自然は刻々に変容する。すでにそこでは事物存在は実存在の中に等値的関連をもって射影されうつされている。あるいは実存在が事物存在にうつされてもいる。
芸術の人間学的考察 (新字新仮名) / 中井正一(著)
めるわけにもゆかないが、油断ならぬぞという目顔で通すのである。そして必ずその後から早馬がすれちがって先へ駆けて行った。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燭台の皿へ、丁字ちょうじが立ったらしく、燈火ひのひかりが暗くなった。それを一人が、箸を返して除去った。明るくなった燈に照らされ、床の間に置いてある矢筒の矢羽根が、雪のように白く見えた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宮部たわむれて曰く、「君何ぞそれ商骨にむ、一にここに到る」と。彼れ艴然ふつぜん刀柄とうへいして曰く、「何ぞ我を侮辱するや」と。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
兵部尚書ひょうぶしょうしょ斉泰の白馬極めて駿し、靖難せいなんの役この馬人の目に立つとて墨を塗って遁げたが、馬の汗で墨がちて露顕し捕われたとある通り、白馬は至って人眼を惹く。
小さな私が一心をられてしまっている時にこの二人の閑人——老婆がどんな話をしていたのか、思出すことも出来ない。