)” の例文
「あれはね、自働革砥オートストロップの音だ。毎朝ひげるんでね、安全髪剃あんぜんかみそり革砥かわどへかけてぐのだよ。今でもやってる。うそだと思うなら来て御覧」
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……刃物はきょう、犀角散さいかくさんを、けずることになって居りましたので、がしましたばかり。決して、血を落としたんじゃございません
慾が深くて因業いんごうで、若い時からずいぶん人を泣かせてきた様子ですから、どこに深怨しんえんやいばぐ者があるかもわからない情勢です。
月はないが、空いちめんにぎだされ、かがやかしい星の光と、ゆるやかに波をる水明りに、湖は、夜明けのようにほの明るかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、道具を新しくい、毎日々々それをいでは柄をすげ、道具調べの方をひたすら熱心にやっていたようでありました。
かれはお津賀の家へ来ても時々に三味線を弾くことがあるので、女房も別に不思議には思わないで自分の米をいでしまって家へ帰った。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちゃりんちゃりんナイフをぐ音がした。博士はナイフをひらめかしてぐさりと燻製肉の一きれを切り取り、口の中へ放り込んだ。
お蓮はそうつぶやきながら、静に箱の中の物を抜いた。その拍子に剃刀のにおいが、ぎ澄ましたはがねの匀が、かすかに彼女の鼻を打った。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その月光に照らし出された豹の姿の美しさ、軟かな毛並み鮮かな斑点、人の児のような優しい手つきでセッセと爪をいでいる。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奥では弄花はなが始まったのか、小母さんの、いつものヒステリー声がビンビン天井をつき抜けて行く。松田さんは沈黙ったまま米をぎ出した。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
これでも、まだ、前の晩から、米がいで、釜に仕掛けてあったり、味噌やら、豆腐やら、大根やらが、買うてあるもんじゃけ、楽なんじゃ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
不知不識しらずしらず其方へと路次を這入はいると道はいよいよ狭くなって井戸が道をさえぎっている。その傍で若い女が米をいでいる。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そんなことはないさ。しかし実業以外の方面へ出る気があるなら、一つ外国へ行ってもう少時しばらくいで見ちゃうです?」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いわんやその当の相手は、現在ドキドキとぎ澄ました大型の西洋剃刀かみそりを持って、吾輩の咽喉のどの処を、ゾリゾリやっている。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
げば薙ぐほど自然にぎすまされる大鎌である。それを見まいとしても見ずにはいられない。それを思うまいとしても思わずにはいられない。
そして、指の上を、よくもいでない刃でやわらかくこする。むろん、刃は通りっこない。彼は押さえつける。汗をかく。やっと血がにじみ出す。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
つかいはや間のひまにはお取次、茶の給仕か。おやつの時を聞けば、もうそろそろ晩のお総菜ごしらえにかかって、米をぐ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千里の山嶺をじ幾片の白雲を踏み砕きて上り着きたる山の頂に鏡をぎ出だせる芦の湖を見そめし時の心ひろさよ。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
せがれはよくよくぎたる大鎌を手にして近より来たり、まず左の肩口を目がけてぐようにすれば、鎌の刃先はさきうえ火棚ひだなっかかりてよくれず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある時は団七九郎兵衛の人形を飾り、ある時はその家にちなんだお竹大日如来がお米をいでいて、乞食こじきに自分の食をほどこしをしているのだった。
宗忠は鍋の中で米をぐ、火にかける、飯が出来たらそれを深い水桶にあけて、その跡へは味噌をとき、皮もむかぬ馬鈴薯ばれいしょを入れて味噌汁をつくる。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
暁方あけがた近く屠者はでっかい庖丁ほうちょうぎ、北のかた同道でやって来て箱の戸を明け、「灰色の坊様出てきやれ、今日こそお前の腸を舌鼓打って賞翫しょう」
象牙の白いぎ汁が石畳の間を流れていた。その石畳の街角を折れると、招牌の下に翡翠ひすいの満ちた街並が潜んでいた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は自分のナイフを持ってき、わたしも二挺もっていたので、二人はそれを地面に突っこんでぐのをつねとした。彼は炊事の労をわたしと分担した。
仄暗ほのぐらいうちに起きて家人の眼をかくれ井戸端でお米をいだりして、眠りの邪魔をされる悪口ならまだしも、私がひがんで便所に下りることも気兼ねして
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
僕の家では玉子のからも決して捨てず、蜜柑みかんの皮も決して捨てず、米をいだ白水しろみずも決して捨てず、茶殻ちゃがらも捨てず
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
やがて砥石の傍に水の入った桶が置れて、小舎こやに行った男が土の上に蹲踞うずくまって大きな鉞をぎ始める。けれどこの悪者はだ一言も互に話し合わなかった。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今日は塾へ出ようとして、青葉にうもれた石垣の間を通つて、久し振で城門前の踏切へ出た。並行したレールは初夏の日を受けてぎすましたやうに光つて居た。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
顔を洗うと、真裸で芝生に飛び下り、ぎ立てのかまで芝を苅りはじめる。雨の様な露だ。草苅くさかりは露のの事。ざくり、ざくり、ザク、ザク。面白い様に苅れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やせた者かをハッキリといいあてるときが出来るほど、異状にぎすまされた感覚の、所有者となっていた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
仁右衛門はたくましい馬に、ぎすましたプラオをつけて、畑におりたった。耡き起される土壌は適度の湿気をもって、裏返るにつれてむせるような土の香を送った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
眠気ねむけざましのつもりで、台所に行って翌朝の米をいだり、朝から食べッ放しのままの食器などを洗って片づけてやったが、おかみさんはそれをいいことにして
Cさんのおうちの前を通ったら、Cさんの裏の井戸端で、雨が降ってるのに手拭てぬぐいかぶって、手を真赤まっかにしてお米をいでいらしたの、あたしほんとにお気の毒になっちゃって
大きな手 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
(鋏)大抵なものならきって見せるが、それでもむずかしいと思うならまア一遍いで行くさ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
氷を砕いて明鏡をぐが如く為ざらん、そのゆふべぞ我はまさに死ぬべきとひそかに慰むるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
待乳山まつちやまから、河向うの隅田の木立ちへかけて、米のぎ汁のような夕靄ゆうもやが流れている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私が一度でもそのような気持ちの影をでもあらわしたことがありますか? 私はあなたがお米をいだり、着物を洗濯せんたくしたりなさるのをまことにかいがいしく美しく感じています。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
糯米もちごめぐことから小豆あずきを煮ること餅をくことまで男のように働き、それで苦情一つ言わずいやな顔一つせず客にはよけいなお世辞の空笑いできぬ代わり愛相あいそよく茶もくんで出す
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いつまで饒舌しやべつてやがるのだ、井戸端ゐどばたは米をぐ所で、油を売る所ぢやねえぞと。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ぎ澄ました霞が浦の鏡一面、大空につく息白く立ち上る頃は、遠かった筑波も毛穴の見える位近々と歩み寄って、夕日の頃は、其の下に当る相見崎観音あいみざきかんのんの石段の数も殆どよまれる。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わざとらしく境のふすまが明け放しになっていて、長火鉢や箪笥たんす縁起棚えんぎだななどのある八畳から手水場ちょうずば開戸ひらきどまで見通される台処で、おかみさんはたった一人後向うしろむきになって米をいでいた。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
薄暗闇うすくらやみなので、その男の年齢も容貌もよくは分らないが、片手に縄を持ち、片手にぎ澄ました大きな海軍ナイフを握りしめ、蒲団の上をきっと睨んだ、やがてナイフを逆手に持ち直し
鳩つかひ (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そして彼の大きなナイフをぎながら、彼等の背後に腰を卸して待つてゐた。
そこから黒くたくましい馬に乗って馬丁に馬の口を取らせ、自分は陣笠をかぶって、筒袖の羅紗らしゃの羽織に緞子どんすの馬乗袴をつけ、あかふさのついた勝軍藤しまやなぎの鞭をたずさえ、ぎ澄ましたあぶみを踏んで
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一人前の侍となして置いてかたきと名告り討たれんものと心組んだる其のところへ、國と源次郎めが密通したをいかって、二人の命を絶たんとの汝の心底、最前庭にて錆槍をぎし時よりさとりしゆえ
たとえば母親から慰められずに置き去りにされた子供が独りで玩具をもてあそんでいるうちにいつか涙が乾いてくるように、米をいだり菜を刻んだりしていると、僕の気持もようやくまぎれてくる。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
ぎすました斧を右手にさげた芳夫が暗い廊下に立っていた。さすがに丈夫な建物も嵐の吹きつける度毎に不気味に鳴り、横なぐりの雨は雨戸にすごい音をたてた。芳夫は静かに障子を開いた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
夫人は、心の爪は、油断なくいで、しかもおもては、笑みこぼれながら
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼はそこの照明棚にうずくまると、古いお芝居の化け猫そっくりの形相ぎょうそうで、つめぎ、きばをむき、燐光りんこうの燃える両眼をらんらんとかがやかせて、はるか眼下に群がる人々の気勢をうかがうのであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
刀のぐことは知らぬが、さやを塗りつかを巻き、その外、金物かなものの細工は田舎ながらドウヤラコウヤラ形だけは出来る。今でも私のぬっ虫喰塗むしくいぬりの脇差わきざしの鞘が宅に一本あるが、随分不器用なものです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)