野村胡堂
1882.10.15 〜 1963.04.14
“野村胡堂”に特徴的な語句
梳
枳殼垣
瓦斯
父
叩
何処
安宅
蔀
鼈甲
潮來
拳銃
次高音
輪袈裟
生真面目
午吉
比奈
銛
鏖殺
要屋
朔日
海老床
雲雀
俎橋
庵
弾
頼
秤
文身
忍
翁屋
所以
結改場
鶴嘴
潮吹
潮来
扉
多與里
小姑
玄蕃
髢
鱗
庚申塚
祈祷
和蘭
何
此処
杭
海女
下總
心算
著者としての作品一覧
青い眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「アラ、皆さんお揃い、よかったわねエ」 素晴らしい年増、孔雀のように悠揚としてクラブの食堂に現われました。今は有名な美容術師で、派手な浮薄な、如何わしい限りの生活をして居りますが、 …
読書目安時間:約25分
「アラ、皆さんお揃い、よかったわねエ」 素晴らしい年増、孔雀のように悠揚としてクラブの食堂に現われました。今は有名な美容術師で、派手な浮薄な、如何わしい限りの生活をして居りますが、 …
悪人の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「お願いで御座いますが…………」 振り返って見ると、同じ欄干にもたれた、乞食体の中年の男、鳴海司郎の顔を下から見上げて、こう丁寧に申します。 春の夜の厩橋の上、更けたという程ではあ …
読書目安時間:約27分
「お願いで御座いますが…………」 振り返って見ると、同じ欄干にもたれた、乞食体の中年の男、鳴海司郎の顔を下から見上げて、こう丁寧に申します。 春の夜の厩橋の上、更けたという程ではあ …
悪魔の顔(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「そんな気味の悪いお話はお止しなさいませ、それより東京座のレヴィユーが大変面白いそうじゃ御座いませんか」 と話題の転換に骨を折って居るのは、主人石井馨之助氏の夫人濤子、若くて美しく …
読書目安時間:約30分
「そんな気味の悪いお話はお止しなさいませ、それより東京座のレヴィユーが大変面白いそうじゃ御座いませんか」 と話題の転換に骨を折って居るのは、主人石井馨之助氏の夫人濤子、若くて美しく …
江戸の火術(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
「あッ、泥棒ッ」 井上半十郎正景は、押っ取刀で飛出しました。 初秋の浜名湖を渡って、舞坂の宿外れ、とある茶店で中食を認め、勘定をする積りで取出した紙入を、衝立の蔭から出た長い手が、 …
読書目安時間:約36分
「あッ、泥棒ッ」 井上半十郎正景は、押っ取刀で飛出しました。 初秋の浜名湖を渡って、舞坂の宿外れ、とある茶店で中食を認め、勘定をする積りで取出した紙入を、衝立の蔭から出た長い手が、 …
江戸の昔を偲ぶ(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
江戸という時代は、まことに悪い時代であったに違いない。封建的で、階級的で、迷信的で、一つも取柄はなかったようであるが、一方からはこんなのんきなのんびりした時代はなかったようでもある …
読書目安時間:約6分
江戸という時代は、まことに悪い時代であったに違いない。封建的で、階級的で、迷信的で、一つも取柄はなかったようであるが、一方からはこんなのんきなのんびりした時代はなかったようでもある …
黄金を浴びる女(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「お駒さん、相変らず綺麗だぜ」 「あら、権次さん、お前さんは相変らず口が悪いよ」 「口の悪いのは通り者だが、お駒さんの綺麗なのと違って罪は作らねえ」 「何を言うのさ、いきなり悪口を …
読書目安時間:約23分
「お駒さん、相変らず綺麗だぜ」 「あら、権次さん、お前さんは相変らず口が悪いよ」 「口の悪いのは通り者だが、お駒さんの綺麗なのと違って罪は作らねえ」 「何を言うのさ、いきなり悪口を …
大江戸黄金狂(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
山浦丈太郎は、不思議な手紙を受取りました。その意味は——。 其方は人を殺した。それはお家の奸臣を除くためであったとしても、人間一人の命を絶ったことには何んの変りもない、其方も武士な …
読書目安時間:約54分
山浦丈太郎は、不思議な手紙を受取りました。その意味は——。 其方は人を殺した。それはお家の奸臣を除くためであったとしても、人間一人の命を絶ったことには何んの変りもない、其方も武士な …
踊る美人像(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「兄貴、こいつは一杯食わされたらしいぜ」 「叱ッ」 関東新報の社会部長で、名記者と言われた千種十次郎は、好んで斯んな伝法な口をきく、部下の早坂勇——一名足の勇——をたしなめるように …
読書目安時間:約32分
「兄貴、こいつは一杯食わされたらしいぜ」 「叱ッ」 関東新報の社会部長で、名記者と言われた千種十次郎は、好んで斯んな伝法な口をきく、部下の早坂勇——一名足の勇——をたしなめるように …
女記者の役割(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
「オヤお揃いだネ」 カフェー人魚の闥を押して、寒い風と一緒に飛込んで来たのは、関東新報記者の早坂勇——綽名を足の勇——という、筆より足の達者な男でした。 「早坂君かい、どうだい景気 …
読書目安時間:約33分
「オヤお揃いだネ」 カフェー人魚の闥を押して、寒い風と一緒に飛込んで来たのは、関東新報記者の早坂勇——綽名を足の勇——という、筆より足の達者な男でした。 「早坂君かい、どうだい景気 …
音波の殺人(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
夜中の十二時——電気時計の針は音もなく翌る日の最初の時を指すと、社会部長の千種十次郎は、最後の原稿を一と纏めにして、ポンと統一部の助手の机に投りました。 「さア、これでお了いだ」 …
読書目安時間:約31分
夜中の十二時——電気時計の針は音もなく翌る日の最初の時を指すと、社会部長の千種十次郎は、最後の原稿を一と纏めにして、ポンと統一部の助手の机に投りました。 「さア、これでお了いだ」 …
楽聖物語(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間24分
私は、私の流儀に従って、日頃尊敬する大音楽家の列伝を書いた。それは、あくまでも私の生活を通して見た大作曲家で、私の抱懐する尊崇と、愛着と、驚嘆と、そして時には少しばかりの批判とを、 …
読書目安時間:約6時間24分
私は、私の流儀に従って、日頃尊敬する大音楽家の列伝を書いた。それは、あくまでも私の生活を通して見た大作曲家で、私の抱懐する尊崇と、愛着と、驚嘆と、そして時には少しばかりの批判とを、 …
奇談クラブ〔戦後版〕:01 第四の場合(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
何年目かで開かれた、それは本当に久し振りの「奇談クラブ」でした。会長の吉井明子嬢は三十近い吉井明子夫人になって、﨟たけく美しく、世にもめでたい令夫人になりましたが、限りなくロマンス …
読書目安時間:約23分
何年目かで開かれた、それは本当に久し振りの「奇談クラブ」でした。会長の吉井明子嬢は三十近い吉井明子夫人になって、﨟たけく美しく、世にもめでたい令夫人になりましたが、限りなくロマンス …
奇談クラブ〔戦後版〕:02 左京の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
奇談クラブの席上、その晩の話し手天野久左衛門は、こんな調子で始めました。 「これは実に今日の常識や道徳から見れば不可思議極まる事件だが、芸術至上主義に対する、一つの反逆でもあると思 …
読書目安時間:約22分
奇談クラブの席上、その晩の話し手天野久左衛門は、こんな調子で始めました。 「これは実に今日の常識や道徳から見れば不可思議極まる事件だが、芸術至上主義に対する、一つの反逆でもあると思 …
奇談クラブ〔戦後版〕:03 鍵(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「この物語の不思議さは、常人の想像を絶しますが、決して出たらめな作り話ではありません。この広い世の中には、アラビアンナイトや剪灯新話にも劣らぬ怪奇な事件があり得るということを明らか …
読書目安時間:約28分
「この物語の不思議さは、常人の想像を絶しますが、決して出たらめな作り話ではありません。この広い世の中には、アラビアンナイトや剪灯新話にも劣らぬ怪奇な事件があり得るということを明らか …
奇談クラブ〔戦後版〕:04 枕の妖異(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
それは四回目の奇談クラブの席上でした。 その日の話し手桜井作楽は、近頃では珍らしい和服姿——しかも十徳を着て頤髥を生やした、異様な風体で、いとも悠揚と演壇に起ったのです。 真珠色の …
読書目安時間:約23分
それは四回目の奇談クラブの席上でした。 その日の話し手桜井作楽は、近頃では珍らしい和服姿——しかも十徳を着て頤髥を生やした、異様な風体で、いとも悠揚と演壇に起ったのです。 真珠色の …
奇談クラブ〔戦後版〕:05 代作恋文(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
小説家大磯虎之助は、奇談クラブのその夜の話し手として、静かに壇上に起ちました。 まだ三十を幾つも越していない筈ですが、一と頃人気の波に乗って、文壇の一角から、その同志達に号令をかけ …
読書目安時間:約24分
小説家大磯虎之助は、奇談クラブのその夜の話し手として、静かに壇上に起ちました。 まだ三十を幾つも越していない筈ですが、一と頃人気の波に乗って、文壇の一角から、その同志達に号令をかけ …
奇談クラブ〔戦後版〕:06 夢幻の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「皆様、丁度十五年目でこの奇談クラブの会合を開きました。世の中も変りましたが御同様私共もすっかり年を取ってしまいました」 幹事の今八郎はそう言って見事に禿げた頭をツルリと撫で乍ら続 …
読書目安時間:約21分
「皆様、丁度十五年目でこの奇談クラブの会合を開きました。世の中も変りましたが御同様私共もすっかり年を取ってしまいました」 幹事の今八郎はそう言って見事に禿げた頭をツルリと撫で乍ら続 …
奇談クラブ〔戦後版〕:07 観音様の頬(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
奇談クラブその夜の話し手は、彫刻家の和久井献作でした。この人は日本の木彫に一新生面を開いた人ですが、旧い彫刻家達の持っている技巧を征服した上、一時はシュールレアリズムの運動にまで突 …
読書目安時間:約24分
奇談クラブその夜の話し手は、彫刻家の和久井献作でした。この人は日本の木彫に一新生面を開いた人ですが、旧い彫刻家達の持っている技巧を征服した上、一時はシュールレアリズムの運動にまで突 …
奇談クラブ〔戦後版〕:08 音盤の詭計(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
話し手の望月辛吉は、有名なジレッタントで、レコードの蒐集家の一人として知られた男でした。叔父の経営している会社の平社員で——望みさえすれば、専務にも支配人にもなれる七光りの背景を持 …
読書目安時間:約27分
話し手の望月辛吉は、有名なジレッタントで、レコードの蒐集家の一人として知られた男でした。叔父の経営している会社の平社員で——望みさえすれば、専務にも支配人にもなれる七光りの背景を持 …
奇談クラブ〔戦後版〕:09 大名の倅(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
その夜の話し手遠藤盛近は、山羊髥の萎びた中老人で、羊羹色になった背広の、カフスから飛出すシャツを気にし乍ら、老眼鏡の玉を五分間に一度位ずつの割りで拭き拭き、見掛けに依らぬ良いバリト …
読書目安時間:約21分
その夜の話し手遠藤盛近は、山羊髥の萎びた中老人で、羊羹色になった背広の、カフスから飛出すシャツを気にし乍ら、老眼鏡の玉を五分間に一度位ずつの割りで拭き拭き、見掛けに依らぬ良いバリト …
奇談クラブ〔戦後版〕:10 暴君の死(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「これは低俗な義理人情や、歪められた忠義を鼓吹した時代には発表の出来なかった話で、長い間私の材料袋に秘められて居りましたが、今となっては最早憚り恐るる節もなく、この物語を発表したか …
読書目安時間:約22分
「これは低俗な義理人情や、歪められた忠義を鼓吹した時代には発表の出来なかった話で、長い間私の材料袋に秘められて居りましたが、今となっては最早憚り恐るる節もなく、この物語を発表したか …
奇談クラブ〔戦後版〕:11 運命の釦(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「あらゆる偶然は可能だ、と笠森仙太郎は信じておりました。この広い宇宙の中で、大海の粟粒よりもはかない存在に過ぎない我々の地球が、他のもう一つの気紛れな粟粒なる彗星と衝突することだっ …
読書目安時間:約23分
「あらゆる偶然は可能だ、と笠森仙太郎は信じておりました。この広い宇宙の中で、大海の粟粒よりもはかない存在に過ぎない我々の地球が、他のもう一つの気紛れな粟粒なる彗星と衝突することだっ …
奇談クラブ〔戦後版〕:12 乞食志願(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「徳川時代の大名生活のただれ切った馬鹿馬鹿しさは話しても話しても話し切れませんが、私にもその一つ、取って置きの面白い話があるのです」 話し手の宇佐美金太郎は、こんな調子で始めました …
読書目安時間:約22分
「徳川時代の大名生活のただれ切った馬鹿馬鹿しさは話しても話しても話し切れませんが、私にもその一つ、取って置きの面白い話があるのです」 話し手の宇佐美金太郎は、こんな調子で始めました …
奇談クラブ〔戦後版〕:13 食魔(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「皆さんのお話には、譬喩と諷刺が紛々として匂う癖に、どなたも口を揃えて、——私の話には譬喩も諷刺も無いと仰しゃる——それは一応賢いお言葉のようではありますが、甚だ卑怯なように思われ …
読書目安時間:約23分
「皆さんのお話には、譬喩と諷刺が紛々として匂う癖に、どなたも口を揃えて、——私の話には譬喩も諷刺も無いと仰しゃる——それは一応賢いお言葉のようではありますが、甚だ卑怯なように思われ …
奇談クラブ〔戦後版〕:14 第四次元の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「痴人夢を説くという言葉がありますが、人生に夢が無かったら、我々の生活は何と果敢なく侘しく、荒まじきものでしょう。夢あればこそ我々はあらゆる疾苦と不平と懊悩にも堪えて、兎にも角にも …
読書目安時間:約24分
「痴人夢を説くという言葉がありますが、人生に夢が無かったら、我々の生活は何と果敢なく侘しく、荒まじきものでしょう。夢あればこそ我々はあらゆる疾苦と不平と懊悩にも堪えて、兎にも角にも …
奇談クラブ〔戦後版〕:15 お竹大日如来(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
「徳川時代にも、幾度か璽光様のようなのが現われました。流行る流行らないは別として、信じ易い日本人は精神病医学のいわゆる憑依妄想を、たちまち生身の神仏に祭り上げたり、預言者扱いをして …
読書目安時間:約19分
「徳川時代にも、幾度か璽光様のようなのが現われました。流行る流行らないは別として、信じ易い日本人は精神病医学のいわゆる憑依妄想を、たちまち生身の神仏に祭り上げたり、預言者扱いをして …
奇談クラブ〔戦後版〕:16 結婚ラプソディ(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「さて皆様、私はここで、嘘のような話を聴いて頂きたいのであります。話の真実性については、皆様の御判断に任せるとして、兎も角も、これは決して嘘ではないということだけは、当夜の盛大な結 …
読書目安時間:約23分
「さて皆様、私はここで、嘘のような話を聴いて頂きたいのであります。話の真実性については、皆様の御判断に任せるとして、兎も角も、これは決して嘘ではないということだけは、当夜の盛大な結 …
奇談クラブ〔戦後版〕:17 白髪の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
吉井明子夫人を会長とする奇談クラブの席上で、話の選手に指名された近江愛之助は、斯んな調子で語り始めるのでした。 「これは決して世間並の奇談ではありません。話の中には妖怪変化が出て来 …
読書目安時間:約24分
吉井明子夫人を会長とする奇談クラブの席上で、話の選手に指名された近江愛之助は、斯んな調子で語り始めるのでした。 「これは決して世間並の奇談ではありません。話の中には妖怪変化が出て来 …
禁断の死針(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「旦那様、これは又大した古疵で御座いますが、——さぞ、お若い時分の、勇ましい思い出でも御座いましょう」 「いや、そう言われると恥かしい、後ろ傷をと言うわけでは無いが、相手の刃物が伸 …
読書目安時間:約8分
「旦那様、これは又大した古疵で御座いますが、——さぞ、お若い時分の、勇ましい思い出でも御座いましょう」 「いや、そう言われると恥かしい、後ろ傷をと言うわけでは無いが、相手の刃物が伸 …
十字架観音(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「あら松根様の若様」 「————」 恐ろしい魅力のある声を浴せられて、黙って振り返ったのは、年の頃二十三四、色の浅黒い、少し沈鬱な感じですが、何となく深味のある男でした。 不意に呼 …
読書目安時間:約28分
「あら松根様の若様」 「————」 恐ろしい魅力のある声を浴せられて、黙って振り返ったのは、年の頃二十三四、色の浅黒い、少し沈鬱な感じですが、何となく深味のある男でした。 不意に呼 …
芸術としての探偵小説(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
捕物作家である私は探偵小説のファンとしての立場から、探偵小説に対する私見を述べてみたいと思う。 探偵小説も芸術である以上——私はそういう前提のもとに話をすすめる——殺人のトリックだ …
読書目安時間:約2分
捕物作家である私は探偵小説のファンとしての立場から、探偵小説に対する私見を述べてみたいと思う。 探偵小説も芸術である以上——私はそういう前提のもとに話をすすめる——殺人のトリックだ …
幻術天魔太郎(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間32分
駿河太郎は、首尾よく千代田城本丸の石垣のかげに身をひそめました。時は寛永十六年(西暦一六三九年)三月、いまから三百十二年まえの、夢みるようにかすんだうつくしい春のま夜中です。 西丸 …
読書目安時間:約1時間32分
駿河太郎は、首尾よく千代田城本丸の石垣のかげに身をひそめました。時は寛永十六年(西暦一六三九年)三月、いまから三百十二年まえの、夢みるようにかすんだうつくしい春のま夜中です。 西丸 …
九つの鍵(新字新仮名)
読書目安時間:約43分
「今晩はまったくすばらしかったよ。愛ちゃんが、あんなにピアノがうまいとは夢にも思わなかったぜ。練習しているのを聴くと、ピアノというものは、うるさい楽器だからな」 「まア、お兄さん、 …
読書目安時間:約43分
「今晩はまったくすばらしかったよ。愛ちゃんが、あんなにピアノがうまいとは夢にも思わなかったぜ。練習しているのを聴くと、ピアノというものは、うるさい楽器だからな」 「まア、お兄さん、 …
古城の真昼(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「ああ退屈だ。こう世間が無事ではやり切れないなア」 文学士碧海賛平は、鼻眼鏡をゆすり上げながら、女の子のように気取った欠伸をいたしました。 「全くだ、何んか斯う驚天動地の面白い事件 …
読書目安時間:約28分
「ああ退屈だ。こう世間が無事ではやり切れないなア」 文学士碧海賛平は、鼻眼鏡をゆすり上げながら、女の子のように気取った欠伸をいたしました。 「全くだ、何んか斯う驚天動地の面白い事件 …
古銭の謎(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「別ぴんさん勘定だよ、……こんなに多勢居る娘さんが、一人も寄り付かないのは驚いたネ、せめて、勘定だけは取ってくれよ」 とてもいい心持そう。珍々亭のスタンド前、一番人目に付こうという …
読書目安時間:約27分
「別ぴんさん勘定だよ、……こんなに多勢居る娘さんが、一人も寄り付かないのは驚いたネ、せめて、勘定だけは取ってくれよ」 とてもいい心持そう。珍々亭のスタンド前、一番人目に付こうという …
胡堂百話(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間8分
やはり、平次誕生から、はじめなければ、ならないかも知れない。 が、それは、あまりにも書きすぎた。いずれは触れることとして、ここではまず、古い友人たちから筆を起こそう。 県立盛岡中学 …
読書目安時間:約4時間8分
やはり、平次誕生から、はじめなければ、ならないかも知れない。 が、それは、あまりにも書きすぎた。いずれは触れることとして、ここではまず、古い友人たちから筆を起こそう。 県立盛岡中学 …
最近の犯罪の傾向に就て(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
支那の詐偽、及び犯罪に関するいろいろな徴候を見ると、非常に緻密な組織になっている。 日本でも、徳川時代に詐偽のものを書いたものがあるが面白い。 近頃の日本の犯罪は、無技巧な野蛮な感 …
読書目安時間:約3分
支那の詐偽、及び犯罪に関するいろいろな徴候を見ると、非常に緻密な組織になっている。 日本でも、徳川時代に詐偽のものを書いたものがあるが面白い。 近頃の日本の犯罪は、無技巧な野蛮な感 …
死の予告(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
「千種君、暫らく此処へ掛けたまえ、平常あまり人が来ないから、掃除は行届かないが、その代り此辺なら決して話を人に聞かれる心配は無い」 私のためには旧藩主に当る元伯爵海原光栄氏は、尊大 …
読書目安時間:約35分
「千種君、暫らく此処へ掛けたまえ、平常あまり人が来ないから、掃除は行届かないが、その代り此辺なら決して話を人に聞かれる心配は無い」 私のためには旧藩主に当る元伯爵海原光栄氏は、尊大 …
新奇談クラブ:01 第一夜 初夜を盗む(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「久し振りで此の会を開きました。さぞ皆様は奇談、怪談、珍談を山の如く用意して下すったことと思います」 奇談クラブの集会室、幽幻な感じのする真珠色の微光が、承塵の裏から室全体を海の底 …
読書目安時間:約26分
「久し振りで此の会を開きました。さぞ皆様は奇談、怪談、珍談を山の如く用意して下すったことと思います」 奇談クラブの集会室、幽幻な感じのする真珠色の微光が、承塵の裏から室全体を海の底 …
新奇談クラブ:02 第二夜 匂う踊り子(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「途方もない話をすると思う人があるかも知れませんが、これは総て私の経験した事実で、寸毫のおまけも無い、癪にさわるほど露骨な物語であります」 第二話を引き受けた若い富豪蔵園宗三郎は、 …
読書目安時間:約26分
「途方もない話をすると思う人があるかも知れませんが、これは総て私の経験した事実で、寸毫のおまけも無い、癪にさわるほど露骨な物語であります」 第二話を引き受けた若い富豪蔵園宗三郎は、 …
新奇談クラブ:03 第三夜 お化け若衆(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「道具立てが奇抜だから話が奇抜だとは限りません。私の秘蔵の奇談は、前半だけ聞くと、あり来りの講釈種の如く平凡ですが、後半を聞くと、聊斎志異か剪灯新話にある、一番不思議な話よりも不思 …
読書目安時間:約24分
「道具立てが奇抜だから話が奇抜だとは限りません。私の秘蔵の奇談は、前半だけ聞くと、あり来りの講釈種の如く平凡ですが、後半を聞くと、聊斎志異か剪灯新話にある、一番不思議な話よりも不思 …
新奇談クラブ:04 第四夜 恋の不在証明(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「女は全く謎の塊のようなものですね」 奇談クラブの談話室——例の海の底のような幽幻な光の中で、第四番目の話の選手、望月晃は斯う始めました。 それは、十三人の会員達の度胆を抜く為に用 …
読書目安時間:約26分
「女は全く謎の塊のようなものですね」 奇談クラブの談話室——例の海の底のような幽幻な光の中で、第四番目の話の選手、望月晃は斯う始めました。 それは、十三人の会員達の度胆を抜く為に用 …
新奇談クラブ:05 第五夜 悪魔の反魂香(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「この話の面白さに比べると、失礼だが今まで語られた奇談は物の数でもない、——と言うと、アラビアン・ナイトのお妃の極り文句のようですが、私は全くそう信じ切って居るのです」 奇談クラブ …
読書目安時間:約31分
「この話の面白さに比べると、失礼だが今まで語られた奇談は物の数でもない、——と言うと、アラビアン・ナイトのお妃の極り文句のようですが、私は全くそう信じ切って居るのです」 奇談クラブ …
新奇談クラブ:06 第六夜 人形の獄門(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「人形の首を梟した、——という話、気味は悪いが、充分に面白い積りです」 第六番目に立った話の選手大滝左馬太は、奇談クラブの談話室で、斯う話し始めました。 「これも今の世の事ではあり …
読書目安時間:約27分
「人形の首を梟した、——という話、気味は悪いが、充分に面白い積りです」 第六番目に立った話の選手大滝左馬太は、奇談クラブの談話室で、斯う話し始めました。 「これも今の世の事ではあり …
新奇談クラブ:07 第七夜 歓楽の夢魔(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「皆様のお話は、面白いには相違ありませんが、少し陰惨過ぎて、胃の腑の為には宜しくなかったように思います。其処へ行くと私の話は明るくて、朗らかで、お伽話のように浪曼的ですが、決して小 …
読書目安時間:約27分
「皆様のお話は、面白いには相違ありませんが、少し陰惨過ぎて、胃の腑の為には宜しくなかったように思います。其処へ行くと私の話は明るくて、朗らかで、お伽話のように浪曼的ですが、決して小 …
新奇談クラブ:08 第八夜 蛇使いの娘(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「エロとかグロとか言ったところで、今の人の嗜好や経験は多寡が知れて居ますが、昔の専制的な大名には、随分飛び離れた生活をした人があったようですね。これは私の大伯父から聞いた話で、掛値 …
読書目安時間:約26分
「エロとかグロとか言ったところで、今の人の嗜好や経験は多寡が知れて居ますが、昔の専制的な大名には、随分飛び離れた生活をした人があったようですね。これは私の大伯父から聞いた話で、掛値 …
水中の宮殿(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
「お嬢様、大急ぎで鎌倉の翠川様の別荘へいらしって下さい」 「どうしたの、爺や」 「どうもしませんが、夏休になったら、泊りにいらっしゃるお約束じゃございませんでしたか」 「でも、爺や …
読書目安時間:約54分
「お嬢様、大急ぎで鎌倉の翠川様の別荘へいらしって下さい」 「どうしたの、爺や」 「どうもしませんが、夏休になったら、泊りにいらっしゃるお約束じゃございませんでしたか」 「でも、爺や …
随筆銭形平次:07 ペンネーム由来記(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
筆名の由来をよく訊かれる。胡堂などというのは、徳川末期の狂詩でも捻る人にありそうで、どう考えても現代人のペンネームではない。いつか村松梢風氏が「お互に古風な筆名を持っているが、こん …
読書目安時間:約4分
筆名の由来をよく訊かれる。胡堂などというのは、徳川末期の狂詩でも捻る人にありそうで、どう考えても現代人のペンネームではない。いつか村松梢風氏が「お互に古風な筆名を持っているが、こん …
随筆銭形平次:12 銭形平次以前(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
明治二十五年頃から、十年位の間、日本にも一としきり探偵小説の氾濫時代があった。それは朝野新聞から、後の万朝報に立て籠った、黒岩涙香の翻訳探偵又は伝奇小説の、恐るべき流行に対する、出 …
読書目安時間:約8分
明治二十五年頃から、十年位の間、日本にも一としきり探偵小説の氾濫時代があった。それは朝野新聞から、後の万朝報に立て籠った、黒岩涙香の翻訳探偵又は伝奇小説の、恐るべき流行に対する、出 …
随筆銭形平次:13 平次身の上話(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
銭形平次の住居は—— 神田明神下のケチな長屋、町名をはっきり申上げると、神田お台所町、もう少し詳しくいえば鰻の神田川の近所、後ろは共同井戸があって、ドブ板は少し腐って、路地には白犬 …
読書目安時間:約15分
銭形平次の住居は—— 神田明神下のケチな長屋、町名をはっきり申上げると、神田お台所町、もう少し詳しくいえば鰻の神田川の近所、後ろは共同井戸があって、ドブ板は少し腐って、路地には白犬 …
随筆銭形平次:14 捕物帖談義(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
あの荒唐無稽な『西遊記』などを読まなかったら、私は物理学者にならなかったであろう——と、いう意味のことを、雪の学者中谷宇吉郎博士が、なんかに書いていたのを見たことがある。まことに味 …
読書目安時間:約10分
あの荒唐無稽な『西遊記』などを読まなかったら、私は物理学者にならなかったであろう——と、いう意味のことを、雪の学者中谷宇吉郎博士が、なんかに書いていたのを見たことがある。まことに味 …
随筆銭形平次:15 捕物小説は楽し(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
捕物小説というものを、私は四百二三十篇は書いているだろう。その上、近ごろは毎月五六篇は書いているから、幸いに私の健康が続く限り、まだまだこの多量生産は止みそうもない。 私が「銭形平 …
読書目安時間:約15分
捕物小説というものを、私は四百二三十篇は書いているだろう。その上、近ごろは毎月五六篇は書いているから、幸いに私の健康が続く限り、まだまだこの多量生産は止みそうもない。 私が「銭形平 …
随筆銭形平次:16 捕物小説について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
捕物小説は、ただもう卑俗な、全く無価値な文学であるかの様に読まぬうちから、或いは一寸めくって見て、軽侮する傾向が強いが、これは如何?捕物小説はも一度見なおされるべきではないか。それ …
読書目安時間:約2分
捕物小説は、ただもう卑俗な、全く無価値な文学であるかの様に読まぬうちから、或いは一寸めくって見て、軽侮する傾向が強いが、これは如何?捕物小説はも一度見なおされるべきではないか。それ …
随筆銭形平次:17 捕物小説というもの(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
「捕物小説」というものは、好むと好まざるとに関せず、近頃読書界の一つの流行で、大衆雑誌の編輯者が「捕物小説を一つ入れなければ、売る自信が持てない」というのも、決して誇張やお世辞では …
読書目安時間:約5分
「捕物小説」というものは、好むと好まざるとに関せず、近頃読書界の一つの流行で、大衆雑誌の編輯者が「捕物小説を一つ入れなければ、売る自信が持てない」というのも、決して誇張やお世辞では …
随筆銭形平次:18 平次読む人読まぬ人――三人の政治家――(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
吉田首相が「銭形平次」を読むとか読まないとかで、かなりうるさい問題を巻き起こした。吉田首相にとっては、随分迷惑なことであったに違いないが、「銭形平次」にとって、冷やかしの種にはなっ …
読書目安時間:約13分
吉田首相が「銭形平次」を読むとか読まないとかで、かなりうるさい問題を巻き起こした。吉田首相にとっては、随分迷惑なことであったに違いないが、「銭形平次」にとって、冷やかしの種にはなっ …
随筆銭形平次:19 探偵小説このごろ(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
江戸川乱歩ずいぶん書いたね。「捕物帖」は……何篇くらいになった? 野村胡堂ハッキリしたことはわからないが、三百篇は越しているだろう。もっともわたしの捕物帖は、「銭形平次」と「池田大 …
読書目安時間:約10分
江戸川乱歩ずいぶん書いたね。「捕物帖」は……何篇くらいになった? 野村胡堂ハッキリしたことはわからないが、三百篇は越しているだろう。もっともわたしの捕物帖は、「銭形平次」と「池田大 …
銭形平次打明け話(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
昭和六年のある春の日の午後のことである、かねて顔見知りで、同じ鎌倉に住んでいる菅忠雄君が、その当時報知新聞記者であった私を訪ねて来て、二階の応接間でこう話したのである。 「今度オー …
読書目安時間:約12分
昭和六年のある春の日の午後のことである、かねて顔見知りで、同じ鎌倉に住んでいる菅忠雄君が、その当時報知新聞記者であった私を訪ねて来て、二階の応接間でこう話したのである。 「今度オー …
銭形平次捕物控:001 金色の処女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
これは錢形平次の最初の手柄話で、この事件が平次を有名にしたのです。この頃お靜はまだ平次の女房になつて居ず、ガラツ八も現はれては居りません。 「平次、折入つての頼みだ。引受けてくれる …
読書目安時間:約25分
これは錢形平次の最初の手柄話で、この事件が平次を有名にしたのです。この頃お靜はまだ平次の女房になつて居ず、ガラツ八も現はれては居りません。 「平次、折入つての頼みだ。引受けてくれる …
銭形平次捕物控:001 金色の処女(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
これは銭形平次の最初の手柄話で、この事件が平次を有名にしたのです。この頃お静はまだ平次の女房になっていず、ガラッ八も現われてはおりません。 「平次、折入っての頼みだ、引受けてくれる …
読書目安時間:約26分
これは銭形平次の最初の手柄話で、この事件が平次を有名にしたのです。この頃お静はまだ平次の女房になっていず、ガラッ八も現われてはおりません。 「平次、折入っての頼みだ、引受けてくれる …
銭形平次捕物控:002 振袖源太(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
兩國に小屋を掛けて、江戸開府以來最初の輕業といふものを見せた振袖源太。前髮立の素晴らしい美貌と、水際立つた鮮やかな藝當に、すつかり江戸ツ子の人氣を掴んでしまひました。 あまりの評判 …
読書目安時間:約26分
兩國に小屋を掛けて、江戸開府以來最初の輕業といふものを見せた振袖源太。前髮立の素晴らしい美貌と、水際立つた鮮やかな藝當に、すつかり江戸ツ子の人氣を掴んでしまひました。 あまりの評判 …
銭形平次捕物控:002 振袖源太(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
両国に小屋を掛けて、江戸開府以来最初の軽業というものを見せた振袖源太、前髪立ちの素晴らしい美貌と、水際立った鮮やかな芸当に、すっかり江戸っ子の人気を掴んでしまいました。 あまりの評 …
読書目安時間:約27分
両国に小屋を掛けて、江戸開府以来最初の軽業というものを見せた振袖源太、前髪立ちの素晴らしい美貌と、水際立った鮮やかな芸当に、すっかり江戸っ子の人気を掴んでしまいました。 あまりの評 …
銭形平次捕物控:003 大盗懺悔(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
人間業では盜めさうもない物を盜んで、遲くとも三日以内には、元の持主に返すといふ不思議な盜賊が、江戸中を疾風の如く荒し廻りました。 「平次、御奉行朝倉石見守樣から嚴い御達しだ、——近 …
読書目安時間:約26分
人間業では盜めさうもない物を盜んで、遲くとも三日以内には、元の持主に返すといふ不思議な盜賊が、江戸中を疾風の如く荒し廻りました。 「平次、御奉行朝倉石見守樣から嚴い御達しだ、——近 …
銭形平次捕物控:003 大盗懺悔(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
人間業では盗めそうもない物を盗んで、遅くとも三日以内には、元の持主に返すという不思議な盗賊が、江戸中を疾風のごとく荒し廻りました。 「平次、御奉行朝倉石見守様から厳い御達しだ、—— …
読書目安時間:約26分
人間業では盗めそうもない物を盗んで、遅くとも三日以内には、元の持主に返すという不思議な盗賊が、江戸中を疾風のごとく荒し廻りました。 「平次、御奉行朝倉石見守様から厳い御達しだ、—— …
銭形平次捕物控:004 呪ひの銀簪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「永い間斯んな稼業をして居るが、變死人を見るのはつく/″\厭だな」 捕物の名人錢形の平次は、口癖のやうにかう言つて居りました。血みどろの死體をいぢり廻すのを商賣冥利と考へる爲には、 …
読書目安時間:約25分
「永い間斯んな稼業をして居るが、變死人を見るのはつく/″\厭だな」 捕物の名人錢形の平次は、口癖のやうにかう言つて居りました。血みどろの死體をいぢり廻すのを商賣冥利と考へる爲には、 …
銭形平次捕物控:004 呪いの銀簪(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「永い間こんな稼業をしているが、変死人を見るのはつくづく厭だな」 捕物の名人銭形の平次は、口癖のようにこう言っておりました。血みどろの死体をいじり廻すのを商売冥利と考えるためには、 …
読書目安時間:約25分
「永い間こんな稼業をしているが、変死人を見るのはつくづく厭だな」 捕物の名人銭形の平次は、口癖のようにこう言っておりました。血みどろの死体をいじり廻すのを商売冥利と考えるためには、 …
銭形平次捕物控:005 幽霊にされた女(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、聞きなすったか」 「何だ、騒々しい」 銭形平次の家へ飛込んで来た子分のガラッ八は、芥子玉絞りの手拭を鷲掴みに月代から鼻の頭へかけて滴る汗を拭いております。 「大変な事があり …
読書目安時間:約25分
「親分、聞きなすったか」 「何だ、騒々しい」 銭形平次の家へ飛込んで来た子分のガラッ八は、芥子玉絞りの手拭を鷲掴みに月代から鼻の頭へかけて滴る汗を拭いております。 「大変な事があり …
銭形平次捕物控:006 復讐鬼の姿(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
本篇はわれらの愛する「錢形平次」がまだ獨身で活躍してゐる頃の話です。 「た、助けてくれ」 若黨の勇吉は、玄關の敷臺へ駈け込んで眼を廻してしまひました。 八丁堀の與力笹野新三郎の役宅 …
読書目安時間:約28分
本篇はわれらの愛する「錢形平次」がまだ獨身で活躍してゐる頃の話です。 「た、助けてくれ」 若黨の勇吉は、玄關の敷臺へ駈け込んで眼を廻してしまひました。 八丁堀の與力笹野新三郎の役宅 …
銭形平次捕物控:006 復讐鬼の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
本篇は、銭形平次がまだ独身で活躍している頃の話です。 「た、助けてくれ」 若党の勇吉は、玄関の敷台へ駆け込んで眼を廻してしまいました。 八丁堀の与力笹野新三郎の役宅、主人の新三郎は …
読書目安時間:約28分
本篇は、銭形平次がまだ独身で活躍している頃の話です。 「た、助けてくれ」 若党の勇吉は、玄関の敷台へ駆け込んで眼を廻してしまいました。 八丁堀の与力笹野新三郎の役宅、主人の新三郎は …
銭形平次捕物控:007 お珊文身調べ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「やい、ガラツ八」 「ガラツ八は人聞きが惡いなア、後生だから、八とか、八公とか言つておくんなさいな」 「つまらねエ見得を張りあがるな、側に美しい新造でも居る時は、八さんとか、八兄哥 …
読書目安時間:約25分
「やい、ガラツ八」 「ガラツ八は人聞きが惡いなア、後生だから、八とか、八公とか言つておくんなさいな」 「つまらねエ見得を張りあがるな、側に美しい新造でも居る時は、八さんとか、八兄哥 …
銭形平次捕物控:007 お珊文身調べ(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「やい、ガラッ八」 「ガラッ八は人聞きが悪いなア、後生だから、八とか、八公とか言っておくんなさいな」 「つまらねエ見得を張りやがるな、側に美しい新造でも居る時は、八さんとか、八兄哥 …
読書目安時間:約25分
「やい、ガラッ八」 「ガラッ八は人聞きが悪いなア、後生だから、八とか、八公とか言っておくんなさいな」 「つまらねエ見得を張りやがるな、側に美しい新造でも居る時は、八さんとか、八兄哥 …
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「八、あれを跟けてみな」 「ヘエ——」 「逃がしちゃならねえ、相手は細かくねえぞ」 「あの七つ下がりの浪人者ですかい」 「馬鹿ッ、あれはどこかの手習師匠で、仏様のような武家だ。俺の …
読書目安時間:約28分
「八、あれを跟けてみな」 「ヘエ——」 「逃がしちゃならねえ、相手は細かくねえぞ」 「あの七つ下がりの浪人者ですかい」 「馬鹿ッ、あれはどこかの手習師匠で、仏様のような武家だ。俺の …
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「八、あれを跟けてみな」 「へエ——」 「逃がしちやならねえ、相手は細くねえぞ」 「あの七つ下りの浪人者ですかい」 「馬鹿ツ、あれは何處かの手習師匠で、佛樣のやうな武家だ。俺の言ふ …
読書目安時間:約27分
「八、あれを跟けてみな」 「へエ——」 「逃がしちやならねえ、相手は細くねえぞ」 「あの七つ下りの浪人者ですかい」 「馬鹿ツ、あれは何處かの手習師匠で、佛樣のやうな武家だ。俺の言ふ …
銭形平次捕物控:009 人肌地藏(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
かねやす迄を江戸のうちと言つた時代、巣鴨や大塚はそれから又一里も先の田舍で、田も畑も、武藏野の儘の木立も藪もあつた頃のことです。 庚申塚から少し手前、黒木長者の嚴めしい土塀の外に、 …
読書目安時間:約26分
かねやす迄を江戸のうちと言つた時代、巣鴨や大塚はそれから又一里も先の田舍で、田も畑も、武藏野の儘の木立も藪もあつた頃のことです。 庚申塚から少し手前、黒木長者の嚴めしい土塀の外に、 …
銭形平次捕物控:009 人肌地蔵(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
かねやすまでを江戸のうちと言った時代、巣鴨や大塚はそれからまた一里も先の田舎で、田も畑も、武蔵野のままの木立も藪もあった頃のことです。 庚申塚から少し手前、黒木長者の厳しい土塀の外 …
読書目安時間:約27分
かねやすまでを江戸のうちと言った時代、巣鴨や大塚はそれからまた一里も先の田舎で、田も畑も、武蔵野のままの木立も藪もあった頃のことです。 庚申塚から少し手前、黒木長者の厳しい土塀の外 …
銭形平次捕物控:010 七人の花嫁(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。 「やい、八」 「何です、親分」 「ちょいと顔を貸しな」 「へ、へ、へッ、こんな面でもよかっ …
読書目安時間:約29分
本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。 「やい、八」 「何です、親分」 「ちょいと顔を貸しな」 「へ、へ、へッ、こんな面でもよかっ …
銭形平次捕物控:010 七人の花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。 「やい、八」 「何です、親分」 「ちょいと顔を貸しな」 「へ、へ、へッ、こんな面でもよかっ …
読書目安時間:約29分
本篇もまた、平次の独身もの。許嫁の美しくて純情なお静が平次のために喜んで死地に赴きます。 「やい、八」 「何です、親分」 「ちょいと顔を貸しな」 「へ、へ、へッ、こんな面でもよかっ …
銭形平次捕物控:011 南蛮秘法箋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
小石川水道端に、質屋渡世で二萬兩の大身代を築き上げた田代屋又左衞門、年は取つて居るが、昔は二本差だつたさうで恐ろしいきかん氣。 「やい/\こんな湯へ入られると思ふか。風邪を引くぢや …
読書目安時間:約31分
小石川水道端に、質屋渡世で二萬兩の大身代を築き上げた田代屋又左衞門、年は取つて居るが、昔は二本差だつたさうで恐ろしいきかん氣。 「やい/\こんな湯へ入られると思ふか。風邪を引くぢや …
銭形平次捕物控:011 南蛮秘法箋(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
小石川水道端に、質屋渡世で二万両の大身代を築き上げた田代屋又左衛門、年は取っているが、昔は二本差だったそうで恐ろしいきかん気。 「やいやいこんな湯へ入られると思うか。風邪を引くじゃ …
読書目安時間:約31分
小石川水道端に、質屋渡世で二万両の大身代を築き上げた田代屋又左衛門、年は取っているが、昔は二本差だったそうで恐ろしいきかん気。 「やいやいこんな湯へ入られると思うか。風邪を引くじゃ …
銭形平次捕物控:012 殺され半蔵(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「平次、少し骨の折れる仕事だが、引受けてはくれまいか」 若い与力の笹野新三郎は、岡っ引風情の銭形平次に、こんな調子で話しかけました。 「口幅ったいことを申すようで恐れ入りますが、お …
読書目安時間:約24分
「平次、少し骨の折れる仕事だが、引受けてはくれまいか」 若い与力の笹野新三郎は、岡っ引風情の銭形平次に、こんな調子で話しかけました。 「口幅ったいことを申すようで恐れ入りますが、お …
銭形平次捕物控:013 美女を洗ひ出す(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
芝三島町の學寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉といふのが殺されました。櫻に早い三月の初め、死體は朝日に曝されて、道端の下水の中に轉げ込んで居たのを、町内の人達が見付けて大騷ぎになつた …
読書目安時間:約27分
芝三島町の學寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉といふのが殺されました。櫻に早い三月の初め、死體は朝日に曝されて、道端の下水の中に轉げ込んで居たのを、町内の人達が見付けて大騷ぎになつた …
銭形平次捕物控:013 美女を洗い出す(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
芝三島町の学寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉というのが殺されました。桜に早い三月の初め、死体は朝日に曝されて、道端の下水の中に転げ込んでいたのを、町内の人達が見付けて大騒ぎになった …
読書目安時間:約27分
芝三島町の学寮の角で、土地の遊び人疾風の綱吉というのが殺されました。桜に早い三月の初め、死体は朝日に曝されて、道端の下水の中に転げ込んでいたのを、町内の人達が見付けて大騒ぎになった …
銭形平次捕物控:014 たぬき囃子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、あつしは、氣になつてならねえことがあるんだが」 「何だい、八、先刻から見て居りや、すつかり考へ込んで火鉢へ雲脂をくべて居るやうだが、俺はその方が餘つ程氣になるぜ」 捕物の名 …
読書目安時間:約24分
「親分、あつしは、氣になつてならねえことがあるんだが」 「何だい、八、先刻から見て居りや、すつかり考へ込んで火鉢へ雲脂をくべて居るやうだが、俺はその方が餘つ程氣になるぜ」 捕物の名 …
銭形平次捕物控:014 たぬき囃子(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、あっしは、気になってならねえことがあるんだが」 「何だい、八、先刻から見ていりゃ、すっかり考え込んで火鉢へ雲脂をくべているようだが、俺はその方がよっぽど気になるぜ」 捕物の …
読書目安時間:約24分
「親分、あっしは、気になってならねえことがあるんだが」 「何だい、八、先刻から見ていりゃ、すっかり考え込んで火鉢へ雲脂をくべているようだが、俺はその方がよっぽど気になるぜ」 捕物の …
銭形平次捕物控:015 怪伝白い鼠(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分は、本當に眞面目に聞いて下さるでせうか、笑つちや嫌で御座いますよ」 「藪から棒に、そんな事を言つても判りやしません。もう少し順序を立てて話して見て下さい。不思議な話や、變つた …
読書目安時間:約28分
「親分は、本當に眞面目に聞いて下さるでせうか、笑つちや嫌で御座いますよ」 「藪から棒に、そんな事を言つても判りやしません。もう少し順序を立てて話して見て下さい。不思議な話や、變つた …
銭形平次捕物控:015 怪伝白い鼠(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分は、本当に真面目に聞いて下さるでしょうか、笑っちゃ嫌でございますよ」 「藪から棒に、そんな事を言っても判りゃしません。もう少し順序を立てて話してみて下さい。不思議な話や、変っ …
読書目安時間:約28分
「親分は、本当に真面目に聞いて下さるでしょうか、笑っちゃ嫌でございますよ」 「藪から棒に、そんな事を言っても判りゃしません。もう少し順序を立てて話してみて下さい。不思議な話や、変っ …
銭形平次捕物控:016 人魚の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「ガラツ八、俺を何處へ伴れて行く積りなんだい」 「まア、默つて蹤いてお出でなせえ。決して親分が後悔するやうなものは、お目に掛けないから——」 「思し召は有難いが、お前の案内ぢや、不 …
読書目安時間:約24分
「ガラツ八、俺を何處へ伴れて行く積りなんだい」 「まア、默つて蹤いてお出でなせえ。決して親分が後悔するやうなものは、お目に掛けないから——」 「思し召は有難いが、お前の案内ぢや、不 …
銭形平次捕物控:016 人魚の死(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「ガラッ八、俺をどこへ伴れて行くつもりなんだい」 「まア、黙って蹤いてお出でなせい。決して親分が後悔するようなものは、お目に掛けないから——」 「思し召は有難いが、お前の案内じゃ、 …
読書目安時間:約24分
「ガラッ八、俺をどこへ伴れて行くつもりなんだい」 「まア、黙って蹤いてお出でなせい。決して親分が後悔するようなものは、お目に掛けないから——」 「思し召は有難いが、お前の案内じゃ、 …
銭形平次捕物控:017 赤い紐(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
神田祭は九月十五日、十四日の宵宮は、江戸半分煮えくり返るような騒ぎでした。 御城内に牛に牽かれた山車が練り込んで、将軍の上覧に供えたのは、少し後の事、銭形の平次が活躍した頃は、まだ …
読書目安時間:約26分
神田祭は九月十五日、十四日の宵宮は、江戸半分煮えくり返るような騒ぎでした。 御城内に牛に牽かれた山車が練り込んで、将軍の上覧に供えたのは、少し後の事、銭形の平次が活躍した頃は、まだ …
銭形平次捕物控:018 富籤政談(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分はいらっしゃる?」 「まア、お品さん、しばらくねえ、さア、どうぞ——」 取次のお静は、手を取らぬばかりに、石原の利助の娘で、年増っぷりの美しいお品を招じ入れました。 「何?お …
読書目安時間:約28分
「親分はいらっしゃる?」 「まア、お品さん、しばらくねえ、さア、どうぞ——」 取次のお静は、手を取らぬばかりに、石原の利助の娘で、年増っぷりの美しいお品を招じ入れました。 「何?お …
銭形平次捕物控:019 永楽銭の謎(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
石原の利助が大怪我をしたという噂を聞いた銭形の平次、何を差措いても、その日のうちに見舞に行きました。 同じ十手捕縄を預かる仲間、昔は手柄を張合った気まずい仲でしたが、利助も取る年で …
読書目安時間:約27分
石原の利助が大怪我をしたという噂を聞いた銭形の平次、何を差措いても、その日のうちに見舞に行きました。 同じ十手捕縄を預かる仲間、昔は手柄を張合った気まずい仲でしたが、利助も取る年で …
銭形平次捕物控:020 朱塗りの筐(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、美い新造が是非逢はしてくれつて、來ましたぜ」 とガラツ八の八五郎、薄寒い縁にしやがんで、柄にもなく、お月樣の出などを眺めてゐる錢形の平次に聲を掛けました。 平次はこの時三十 …
読書目安時間:約29分
「親分、美い新造が是非逢はしてくれつて、來ましたぜ」 とガラツ八の八五郎、薄寒い縁にしやがんで、柄にもなく、お月樣の出などを眺めてゐる錢形の平次に聲を掛けました。 平次はこの時三十 …
銭形平次捕物控:020 朱塗の筐(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、美い新造が是非逢わしてくれって、来ましたぜ」 とガラッ八の八五郎、薄寒い縁にしゃがんで、柄にもなく、お月様の出などを眺めている銭形の平次に声を掛けました。 平次はこの時三十 …
読書目安時間:約30分
「親分、美い新造が是非逢わしてくれって、来ましたぜ」 とガラッ八の八五郎、薄寒い縁にしゃがんで、柄にもなく、お月様の出などを眺めている銭形の平次に声を掛けました。 平次はこの時三十 …
銭形平次捕物控:021 雪の精(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
昼頃から降り続いた雪が、宵には小やみになりましたが、それでも三寸あまり積って、今戸の往来もハタと絶えてしまいました。 越後屋佐吉は、女房のお市と差し向いで、長火鉢に顔をほてらせなが …
読書目安時間:約29分
昼頃から降り続いた雪が、宵には小やみになりましたが、それでも三寸あまり積って、今戸の往来もハタと絶えてしまいました。 越後屋佐吉は、女房のお市と差し向いで、長火鉢に顔をほてらせなが …
銭形平次捕物控:022 名馬罪あり(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「おつと、待つた」 「親分、そいつはいけねえ、先刻——待つたなしで行かうぜ——と言つたのは、親分の方ぢやありませんか」 「言つたよ、待つたなしと言つたに相違ないが、其處を切られちや …
読書目安時間:約28分
「おつと、待つた」 「親分、そいつはいけねえ、先刻——待つたなしで行かうぜ——と言つたのは、親分の方ぢやありませんか」 「言つたよ、待つたなしと言つたに相違ないが、其處を切られちや …
銭形平次捕物控:022 名馬罪あり(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「おっと、待った」 「親分、そいつはいけねえ、先刻——待ったなしで行こうぜ——と言ったのは、親分の方じゃありませんか」 「言ったよ、待ったなしと言ったに相違ないが、そこを切られちゃ …
読書目安時間:約28分
「おっと、待った」 「親分、そいつはいけねえ、先刻——待ったなしで行こうぜ——と言ったのは、親分の方じゃありませんか」 「言ったよ、待ったなしと言ったに相違ないが、そこを切られちゃ …
銭形平次捕物控:023 血潮と糠(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、面白い話がありますぜ」 ガラツ八の八五郎、錢形平次親分の家へ呶鳴り込みました。 「相變らず騷々しいな、横町の萬年娘が、駈落したつて話なら知つて居るよ」 錢形の平次は、戀女房 …
読書目安時間:約32分
「親分、面白い話がありますぜ」 ガラツ八の八五郎、錢形平次親分の家へ呶鳴り込みました。 「相變らず騷々しいな、横町の萬年娘が、駈落したつて話なら知つて居るよ」 錢形の平次は、戀女房 …
銭形平次捕物控:023 血潮と糠(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、面白い話がありますぜ」 ガラッ八の八五郎、銭形平次親分の家へ呶鳴り込みました。 「相変らず騒々しいな、横町の万年娘が、駆落したって話なら知っているよ」 銭形の平次は、恋女房 …
読書目安時間:約32分
「親分、面白い話がありますぜ」 ガラッ八の八五郎、銭形平次親分の家へ呶鳴り込みました。 「相変らず騒々しいな、横町の万年娘が、駆落したって話なら知っているよ」 銭形の平次は、恋女房 …
銭形平次捕物控:024 平次女難(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「八、良い月だなア」 「何かやりませうか、親分」 「止してくれ、手前が鹽辛聲を張り上げると、お月樣が驚いて顏を隱す」 「おやツ、變な女が居ますぜ」 錢形の平次が、子分のガラツ八を伴 …
読書目安時間:約31分
「八、良い月だなア」 「何かやりませうか、親分」 「止してくれ、手前が鹽辛聲を張り上げると、お月樣が驚いて顏を隱す」 「おやツ、變な女が居ますぜ」 錢形の平次が、子分のガラツ八を伴 …
銭形平次捕物控:024 平次女難(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「八、良い月だなア」 「何かやりましょうか、親分」 「止してくれ、手前が塩辛声を張り上げると、お月様が驚いて顔を隠す」 「おやッ、変な女が居ますぜ」 銭形の平次が、子分のガラッ八を …
読書目安時間:約32分
「八、良い月だなア」 「何かやりましょうか、親分」 「止してくれ、手前が塩辛声を張り上げると、お月様が驚いて顔を隠す」 「おやッ、変な女が居ますぜ」 銭形の平次が、子分のガラッ八を …
銭形平次捕物控:025 兵粮丸秘聞(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
錢形平次もこんな突拍子もない事件に出つくはしたことはありません。相手は十萬石の大名、一つ間違ふと天下の騷ぎにならうも知れない形勢だつたのです。 江戸の街はまだ屠蘇機嫌で、妙にソハソ …
読書目安時間:約34分
錢形平次もこんな突拍子もない事件に出つくはしたことはありません。相手は十萬石の大名、一つ間違ふと天下の騷ぎにならうも知れない形勢だつたのです。 江戸の街はまだ屠蘇機嫌で、妙にソハソ …
銭形平次捕物控:025 兵糧丸秘聞(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
銭形平次もこんな突拍子もない事件に出っくわしたことはありません。相手は十万石の大名、一つ間違うと天下の騒ぎになろうも知れない形勢だったのです。 江戸の街はまだ屠蘇機嫌で、妙にソワソ …
読書目安時間:約34分
銭形平次もこんな突拍子もない事件に出っくわしたことはありません。相手は十万石の大名、一つ間違うと天下の騒ぎになろうも知れない形勢だったのです。 江戸の街はまだ屠蘇機嫌で、妙にソワソ …
銭形平次捕物控:026 綾吉殺し(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、幽霊を見たことがありますかい」 「そんなものに近付きはねえよ。もっとも化物なら、この節は箱根の向うとは限らねえ、その辺にも大きな鼻の孔を掘っているぜ——」 「ちぇッ、親分の …
読書目安時間:約31分
「親分、幽霊を見たことがありますかい」 「そんなものに近付きはねえよ。もっとも化物なら、この節は箱根の向うとは限らねえ、その辺にも大きな鼻の孔を掘っているぜ——」 「ちぇッ、親分の …
銭形平次捕物控:027 幻の民五郎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、梅はお嫌ひかな」 「へえ?」 錢形平次も驚きました。相手は町内でも人に立てられる三好屋の隱居、十徳まがひの被布かなんか着て、雜俳に凝つて居ようといふ仁體ですが、話が不意だつ …
読書目安時間:約26分
「親分、梅はお嫌ひかな」 「へえ?」 錢形平次も驚きました。相手は町内でも人に立てられる三好屋の隱居、十徳まがひの被布かなんか着て、雜俳に凝つて居ようといふ仁體ですが、話が不意だつ …
銭形平次捕物控:027 幻の民五郎(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、梅はお嫌いかな」 「へえ?」 銭形平次も驚きました。相手は町内でも人に立てられる三好屋の隠居、十徳まがいの被布かなんか着て、雑俳に凝っていようという仁体ですが、話が不意だっ …
読書目安時間:約26分
「親分、梅はお嫌いかな」 「へえ?」 銭形平次も驚きました。相手は町内でも人に立てられる三好屋の隠居、十徳まがいの被布かなんか着て、雑俳に凝っていようという仁体ですが、話が不意だっ …
銭形平次捕物控:028 歎きの菩薩(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、あれを聞きなすつたかい」 「あれ?上野の時の鐘なら毎日聞いて居るが——」 錢形平次は指を折りました。丁度辰刻を打つたばかり、お早う——とも言はず飛込んだ、乾分のガラツ八の顏 …
読書目安時間:約29分
「親分、あれを聞きなすつたかい」 「あれ?上野の時の鐘なら毎日聞いて居るが——」 錢形平次は指を折りました。丁度辰刻を打つたばかり、お早う——とも言はず飛込んだ、乾分のガラツ八の顏 …
銭形平次捕物控:028 歎きの菩薩(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、あれを聞きなすったかい」 「あれ?上野の時の鐘なら毎日聞いているが——」 銭形平次は指を折りました。ちょうど辰刻(八時)を打ったばかり、——お早うとも言わず飛込んだ、子分の …
読書目安時間:約30分
「親分、あれを聞きなすったかい」 「あれ?上野の時の鐘なら毎日聞いているが——」 銭形平次は指を折りました。ちょうど辰刻(八時)を打ったばかり、——お早うとも言わず飛込んだ、子分の …
銭形平次捕物控:029 江戸阿呆宮(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
江戸開府以来の捕物の名人と言われた銭形平次も、この時ほど腹を立てたことはないと言っております。 滅多に人間を縛らぬ平次が、歯噛みをして口惜しがったのですから、よくよくの事だったに相 …
読書目安時間:約31分
江戸開府以来の捕物の名人と言われた銭形平次も、この時ほど腹を立てたことはないと言っております。 滅多に人間を縛らぬ平次が、歯噛みをして口惜しがったのですから、よくよくの事だったに相 …
銭形平次捕物控:030 くるひ咲(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
相變らず捕物の名人の錢形平次が大縮尻をやつて笹野新三郎に褒められた話。 その發端は世にも恐ろしい『疊屋殺し』でした。 「た、大變ツ」 麹町四丁目、疊屋彌助のところに居る職人の勝藏が …
読書目安時間:約28分
相變らず捕物の名人の錢形平次が大縮尻をやつて笹野新三郎に褒められた話。 その發端は世にも恐ろしい『疊屋殺し』でした。 「た、大變ツ」 麹町四丁目、疊屋彌助のところに居る職人の勝藏が …
銭形平次捕物控:030 くるい咲き(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
相変らず捕物の名人の銭形平次が、大縮尻をやって笹野新三郎に褒められた話。 その発端は世にも恐ろしい「畳屋殺し」でした。 「た、大変ッ」 麹町四丁目、畳屋弥助のところにいる職人の勝蔵 …
読書目安時間:約29分
相変らず捕物の名人の銭形平次が、大縮尻をやって笹野新三郎に褒められた話。 その発端は世にも恐ろしい「畳屋殺し」でした。 「た、大変ッ」 麹町四丁目、畳屋弥助のところにいる職人の勝蔵 …
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱(旧字旧仮名)
読書目安時間:約35分
深川の材木問屋春木屋の主人治兵衞が、死んだ女房の追善に、檀那寺なる谷中の清養寺の本堂を修理し、その費用三千兩を吊臺に載せて、木場から谷中まで送ることになりました。 三千兩の小判は三 …
読書目安時間:約35分
深川の材木問屋春木屋の主人治兵衞が、死んだ女房の追善に、檀那寺なる谷中の清養寺の本堂を修理し、その費用三千兩を吊臺に載せて、木場から谷中まで送ることになりました。 三千兩の小判は三 …
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
深川の材木問屋春木屋の主人治兵衛が、死んだ女房の追善に、檀那寺なる谷中の清養寺の本堂を修理し、その費用三千両を釣台に載せて、木場から谷中まで送ることになりました。 三千両の小判は三 …
読書目安時間:約35分
深川の材木問屋春木屋の主人治兵衛が、死んだ女房の追善に、檀那寺なる谷中の清養寺の本堂を修理し、その費用三千両を釣台に載せて、木場から谷中まで送ることになりました。 三千両の小判は三 …
銭形平次捕物控:032 路地の足跡(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「錢形の親分さん、お助けを願ひます」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言ひながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ/\」 後から差覗くガラツ八。 「何 …
読書目安時間:約28分
「錢形の親分さん、お助けを願ひます」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言ひながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ/\」 後から差覗くガラツ八。 「何 …
銭形平次捕物控:032 路地の足跡(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「銭形の親分さん、お助けを願います」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言いながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ何だ」 後ろから差し覗くガラッ八。 …
読書目安時間:約28分
「銭形の親分さん、お助けを願います」 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言いながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。 「何だ何だ」 後ろから差し覗くガラッ八。 …
銭形平次捕物控:033 血潮の浴槽(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
元飯田橋の丁子風呂の女殺しは、物馴れた役人、手先もたった一目で胸を悪くしました。これほど残酷で、これほど巧妙で、これほど凄い殺人は滅多にあるものではありません。 少し順序を立てて話 …
読書目安時間:約26分
元飯田橋の丁子風呂の女殺しは、物馴れた役人、手先もたった一目で胸を悪くしました。これほど残酷で、これほど巧妙で、これほど凄い殺人は滅多にあるものではありません。 少し順序を立てて話 …
銭形平次捕物控:034 謎の鍵穴(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「八、目黒の兼吉親分が來て居なさるさうだ。ちよいと挨拶をして來るから、これで勘定を拂つて置いてくれ」 錢形の平次は、子分の八五郎に紙入を預けて、其儘向うの離屋へ行つて了ひました。 …
読書目安時間:約28分
「八、目黒の兼吉親分が來て居なさるさうだ。ちよいと挨拶をして來るから、これで勘定を拂つて置いてくれ」 錢形の平次は、子分の八五郎に紙入を預けて、其儘向うの離屋へ行つて了ひました。 …
銭形平次捕物控:034 謎の鍵穴(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「八、目黒の兼吉親分が来ていなさるそうだ。ちょいと挨拶をして来るから、これで勘定を払っておいてくれ」 銭形の平次は、子分の八五郎に紙入を預けて、そのまま向うの離屋へ行ってしまいまし …
読書目安時間:約28分
「八、目黒の兼吉親分が来ていなさるそうだ。ちょいと挨拶をして来るから、これで勘定を払っておいてくれ」 銭形の平次は、子分の八五郎に紙入を預けて、そのまま向うの離屋へ行ってしまいまし …
銭形平次捕物控:035 傀儡名臣(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、手紙が參りました」 「どれ/\、これは良い手だ。が、餘程急いだと見える」 錢形平次は封を切つて讀み下しました。初冬の夕陽が這ひ寄る縁側、今までガラツ八の八五郎を相手に、將棋 …
読書目安時間:約34分
「親分、手紙が參りました」 「どれ/\、これは良い手だ。が、餘程急いだと見える」 錢形平次は封を切つて讀み下しました。初冬の夕陽が這ひ寄る縁側、今までガラツ八の八五郎を相手に、將棋 …
銭形平次捕物控:035 傀儡名臣(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、手紙が参りました」 「どれどれ、これは良い手だ。が、余程急いだと見える」 銭形平次は封を切って読み下しました。初冬の夕陽が這い寄る縁側、今までガラッ八の八五郎を相手に、将棋 …
読書目安時間:約34分
「親分、手紙が参りました」 「どれどれ、これは良い手だ。が、余程急いだと見える」 銭形平次は封を切って読み下しました。初冬の夕陽が這い寄る縁側、今までガラッ八の八五郎を相手に、将棋 …
銭形平次捕物控:036 八人芸の女(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、とうとう神田へ入って来ましたぜ」 「何が?風邪の神かい」 その頃は江戸中に悪い風邪が流行って、十二月頃から、夜分の人出がめっきり少なくなったと言われておりました。 「いえ、 …
読書目安時間:約31分
「親分、とうとう神田へ入って来ましたぜ」 「何が?風邪の神かい」 その頃は江戸中に悪い風邪が流行って、十二月頃から、夜分の人出がめっきり少なくなったと言われておりました。 「いえ、 …
銭形平次捕物控:037 人形の誘惑(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
新吉は眼の前が眞つ暗になるやうな心持でした。二年越言ひ交したお駒が、お爲ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲けるやうに、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んで …
読書目安時間:約28分
新吉は眼の前が眞つ暗になるやうな心持でした。二年越言ひ交したお駒が、お爲ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲けるやうに、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んで …
銭形平次捕物控:037 人形の誘惑(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
新吉は眼の前が真っ闇になるような心持でした。二年越し言い交したお駒が、お為ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲るように、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んで …
読書目安時間:約29分
新吉は眼の前が真っ闇になるような心持でした。二年越し言い交したお駒が、お為ごかしの切れ話を持出して、泣いて頼む新吉の未練さを嘲るように、プイと材木置場を離れて、宵暗の中に消え込んで …
銭形平次捕物控:038 一枚の文銭(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、退屈だね」 「——」 「目の覺めるやうな威勢のいゝ仕事は無えものかなア。此節のやうに、掻つ拂ひや小泥棒ばかり追つ掛け廻して居た日にや腕が鈍つて仕樣がねえ」 ガラツ八の八五郎 …
読書目安時間:約30分
「親分、退屈だね」 「——」 「目の覺めるやうな威勢のいゝ仕事は無えものかなア。此節のやうに、掻つ拂ひや小泥棒ばかり追つ掛け廻して居た日にや腕が鈍つて仕樣がねえ」 ガラツ八の八五郎 …
銭形平次捕物控:038 一枚の文銭(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、退屈だね目の覚めるような威勢のいい仕事はねえものかなア。この節のように、掻っ払いや小泥棒ばかり追っ掛け廻していた日にゃア腕が鈍って仕様がねえ」 ガラッ八の八五郎は、そんな事 …
読書目安時間:約31分
「親分、退屈だね目の覚めるような威勢のいい仕事はねえものかなア。この節のように、掻っ払いや小泥棒ばかり追っ掛け廻していた日にゃア腕が鈍って仕様がねえ」 ガラッ八の八五郎は、そんな事 …
銭形平次捕物控:039 赤い痣(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
江戸名物の御用聞銭形の平次が、後にも前にもこんなひどい目に逢ったことがないという話。 「親分、変な強盗が流行るそうですね」 「それだよ、八、笹野の旦那にも呼び付けられて、さんざん油 …
読書目安時間:約27分
江戸名物の御用聞銭形の平次が、後にも前にもこんなひどい目に逢ったことがないという話。 「親分、変な強盗が流行るそうですね」 「それだよ、八、笹野の旦那にも呼び付けられて、さんざん油 …
銭形平次捕物控:040 大村兵庫の眼玉(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「八、花は散り際って言うが、人出の少なくなった向島を、花吹雪を浴びて歩くのも悪くねえな」 銭形平次はいかにも好い心持そうでした。 「悪いとは言いませんがね、親分」 「何だ、文句があ …
読書目安時間:約31分
「八、花は散り際って言うが、人出の少なくなった向島を、花吹雪を浴びて歩くのも悪くねえな」 銭形平次はいかにも好い心持そうでした。 「悪いとは言いませんがね、親分」 「何だ、文句があ …
銭形平次捕物控:040 兵庫の眼玉(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「八、花は散り際つて言ふが、人出の少くなつた向島を、花吹雪を浴びて歩くのも惡くねえな」 錢形平次は如何にも好い心持さうでした。 「惡いとは言ひませんがね、親分」 「何だ、文句がある …
読書目安時間:約31分
「八、花は散り際つて言ふが、人出の少くなつた向島を、花吹雪を浴びて歩くのも惡くねえな」 錢形平次は如何にも好い心持さうでした。 「惡いとは言ひませんがね、親分」 「何だ、文句がある …
銭形平次捕物控:041 三千両異変(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「おや、八五郎親分、もう御存じで?」 「知らなくってさ。隠したって駄目だよ、真っ直ぐに申し上げた方がいいぜ」 ガラッ八の八五郎が、浜町河岸で逢ったのは、廻船問屋浪花屋の奉公人、二三 …
読書目安時間:約27分
「おや、八五郎親分、もう御存じで?」 「知らなくってさ。隠したって駄目だよ、真っ直ぐに申し上げた方がいいぜ」 ガラッ八の八五郎が、浜町河岸で逢ったのは、廻船問屋浪花屋の奉公人、二三 …
銭形平次捕物控:042 庚申横町(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」 「よしツ、手前は此處で見張れ、俺は向うへ廻つて、逆に引返して來る」 平次とガラツ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盜、——世間で『千里の虎』と言ふの …
読書目安時間:約28分
「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」 「よしツ、手前は此處で見張れ、俺は向うへ廻つて、逆に引返して來る」 平次とガラツ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盜、——世間で『千里の虎』と言ふの …
銭形平次捕物控:042 庚申横町(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」 「よしッ、手前はここで見張れ、俺は向うへ廻って、逆に引返して来る」 平次とガラッ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盗、——世間で「千里の虎」というの …
読書目安時間:約28分
「親分、向うの角を左へ曲りましたぜ」 「よしッ、手前はここで見張れ、俺は向うへ廻って、逆に引返して来る」 平次とガラッ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盗、——世間で「千里の虎」というの …
銭形平次捕物控:043 和蘭カルタ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、子さらひが流行るんだつてネ」 「聞いたよ、憎いぢやないか」 錢形平次は苦い顏をしました。 「赤ん坊なら何處へ連れて行かれても、それつきり判らなくなるかも知れないが、浚はれる …
読書目安時間:約29分
「親分、子さらひが流行るんだつてネ」 「聞いたよ、憎いぢやないか」 錢形平次は苦い顏をしました。 「赤ん坊なら何處へ連れて行かれても、それつきり判らなくなるかも知れないが、浚はれる …
銭形平次捕物控:043 和蘭カルタ(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、子さらいが流行るんだってネ」 「聞いたよ、憎いじゃないか」 銭形平次は苦い顔をしました。 「赤ん坊ならどこへ連れて行かれても、それっきり判らなくなるかも知れないが、さらわれ …
読書目安時間:約29分
「親分、子さらいが流行るんだってネ」 「聞いたよ、憎いじゃないか」 銭形平次は苦い顔をしました。 「赤ん坊ならどこへ連れて行かれても、それっきり判らなくなるかも知れないが、さらわれ …
銭形平次捕物控:044 お民の死(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、世の中はだんだん悪くなって来ますね」 ガラッ八の八五郎は妙なことを言い出しました。鼻毛を抜いて、手の甲に一本ずつ植えて、それを、畳の上でプーッと吹くといった、太くて粗い神経 …
読書目安時間:約29分
「親分、世の中はだんだん悪くなって来ますね」 ガラッ八の八五郎は妙なことを言い出しました。鼻毛を抜いて、手の甲に一本ずつ植えて、それを、畳の上でプーッと吹くといった、太くて粗い神経 …
銭形平次捕物控:045 御落胤殺し(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、——ちよいと、八五郎親分」 ガラツ八は脊筋を擽ぐられるやうな心持で振り返りました。菊日和の狸穴から、榎坂へ拔けようと言ふところを、後ろから斯う艶めかしく呼止められたのです。 …
読書目安時間:約34分
「親分、——ちよいと、八五郎親分」 ガラツ八は脊筋を擽ぐられるやうな心持で振り返りました。菊日和の狸穴から、榎坂へ拔けようと言ふところを、後ろから斯う艶めかしく呼止められたのです。 …
銭形平次捕物控:045 御落胤殺し(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
「親分、——ちょいと、八五郎親分」 ガラッ八は背筋を擽られるような心持で振り返りました。菊日和の狸穴から、榎坂へ抜けようというところを、後ろからこう艶めかしく呼止められたのです。 …
読書目安時間:約35分
「親分、——ちょいと、八五郎親分」 ガラッ八は背筋を擽られるような心持で振り返りました。菊日和の狸穴から、榎坂へ抜けようというところを、後ろからこう艶めかしく呼止められたのです。 …
銭形平次捕物控:046 双生児の呪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約33分
「親分、お願ひがあるんですが——」 お品は斯う切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、『娘御用聞』と言はれるのはわけのあることでせう。 「お品さんが私に頼み——へエ …
読書目安時間:約33分
「親分、お願ひがあるんですが——」 お品は斯う切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、『娘御用聞』と言はれるのはわけのあることでせう。 「お品さんが私に頼み——へエ …
銭形平次捕物控:046 双生児の呪(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、お願いがあるんですが——」 お品はこう切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、「娘御用聞」と言われるのはわけのあることでしょう。 「お品さんが私に頼み——ヘ …
読書目安時間:約34分
「親分、お願いがあるんですが——」 お品はこう切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、「娘御用聞」と言われるのはわけのあることでしょう。 「お品さんが私に頼み——ヘ …
銭形平次捕物控:047 どんど焼(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「あ、あ、あ、あ、あ」 ガラツ八の八五郎は咽喉佛のみえるやうな大欠伸をしました。 「何と言ふ色氣のない顏をするんだ。縁先で遊んで居た白犬が逃出したぢやないか、手前に喰ひ付かれると思 …
読書目安時間:約27分
「あ、あ、あ、あ、あ」 ガラツ八の八五郎は咽喉佛のみえるやうな大欠伸をしました。 「何と言ふ色氣のない顏をするんだ。縁先で遊んで居た白犬が逃出したぢやないか、手前に喰ひ付かれると思 …
銭形平次捕物控:047 どんど焼き(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「あ、あ、あ、あ、あ」 ガラッ八の八五郎は咽喉仏の見えるような大欠伸をしました。 「何という色気のない顔をするんだ。縁先で遊んでいた白犬が逃出したじゃないか、手前に喰い付かれると思 …
読書目安時間:約27分
「あ、あ、あ、あ、あ」 ガラッ八の八五郎は咽喉仏の見えるような大欠伸をしました。 「何という色気のない顔をするんだ。縁先で遊んでいた白犬が逃出したじゃないか、手前に喰い付かれると思 …
銭形平次捕物控:048 お藤は解く(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」 南町奉行配下の吟味與力笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、錢形の平次に斯う言ふのでした。 「へエ、——旦那の仰しやることなら、否を申す私で …
読書目安時間:約28分
「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」 南町奉行配下の吟味與力笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、錢形の平次に斯う言ふのでした。 「へエ、——旦那の仰しやることなら、否を申す私で …
銭形平次捕物控:048 お藤は解く(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」 南町奉行配下の吟味与力筆頭笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、銭形の平次にこう言うのでした。 「ヘエ、——旦那のおっしゃることなら、否を申 …
読書目安時間:約28分
「平次、頼みがあるが、訊いてくれるか」 南町奉行配下の吟味与力筆頭笹野新三郎は、自分の役宅に呼び付けた、銭形の平次にこう言うのでした。 「ヘエ、——旦那のおっしゃることなら、否を申 …
銭形平次捕物控:049 招く骸骨(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、笑っちゃいけませんよ」 「嫌な野郎だな、俺の面を見てニヤニヤしながら、いきなり笑っちゃいけねえ——とはどういうわけだ」 銭形平次とガラッ八の八五郎は、しばらく御用の合間を、 …
読書目安時間:約30分
「親分、笑っちゃいけませんよ」 「嫌な野郎だな、俺の面を見てニヤニヤしながら、いきなり笑っちゃいけねえ——とはどういうわけだ」 銭形平次とガラッ八の八五郎は、しばらく御用の合間を、 …
銭形平次捕物控:050 碁敵(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、泥棒は物を盜るのが商賣でせう」 八五郎のガラツ八はまた變なことを言ひ出しました。 「商賣——はをかしいが、まア世間並の泥棒は人の物を盜るだらうな」 錢形平次は、女房に給仕を …
読書目安時間:約31分
「親分、泥棒は物を盜るのが商賣でせう」 八五郎のガラツ八はまた變なことを言ひ出しました。 「商賣——はをかしいが、まア世間並の泥棒は人の物を盜るだらうな」 錢形平次は、女房に給仕を …
銭形平次捕物控:050 碁敵(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、泥棒は物を盗るのが商売でしょう」 八五郎のガラッ八はまた変なことを言い出しました。 「商売——はおかしいが、まア世間並の泥棒は人の物を盗るだろうな」 銭形平次は、女房のお静 …
読書目安時間:約32分
「親分、泥棒は物を盗るのが商売でしょう」 八五郎のガラッ八はまた変なことを言い出しました。 「商売——はおかしいが、まア世間並の泥棒は人の物を盗るだろうな」 銭形平次は、女房のお静 …
銭形平次捕物控:051 迷子札(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、お願ひがあるんだが」 ガラツ八の八五郎は言ひ憎さうに、長い顎を撫でて居ります。 「又お小遣ひだらう、お安い御用みたいだが、たんとはねえよ」 錢形の平次はさう言ひ乍ら、立ち上 …
読書目安時間:約27分
「親分、お願ひがあるんだが」 ガラツ八の八五郎は言ひ憎さうに、長い顎を撫でて居ります。 「又お小遣ひだらう、お安い御用みたいだが、たんとはねえよ」 錢形の平次はさう言ひ乍ら、立ち上 …
銭形平次捕物控:051 迷子札(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、お願いがあるんだが」 ガラッ八の八五郎は言いにくそうに、長い顎を撫でております。 「またお小遣いだろう、お安い御用みたいだが、たんとはねえよ」 銭形の平次はそう言いながら、 …
読書目安時間:約27分
「親分、お願いがあるんだが」 ガラッ八の八五郎は言いにくそうに、長い顎を撫でております。 「またお小遣いだろう、お安い御用みたいだが、たんとはねえよ」 銭形の平次はそう言いながら、 …
銭形平次捕物控:052 二服の薬(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
銭形平次の見ている前で、人間が一人殺されたのです。それをどうすることも出来なかった平次、この時ばかりは、十手捕縄を返上して、番太の株でも買おうかと思った事件、詳しく話せば、こうでし …
読書目安時間:約31分
銭形平次の見ている前で、人間が一人殺されたのです。それをどうすることも出来なかった平次、この時ばかりは、十手捕縄を返上して、番太の株でも買おうかと思った事件、詳しく話せば、こうでし …
銭形平次捕物控:053 小唄お政(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「八、たいそう手前は粋になったな」 「からかっちゃいけません、親分」 八五郎のガラッ八は、あわてて、膝っ小僧を隠しました。柄にない狭い単衣、尻をまくるには便利ですが、真面目に坐り直 …
読書目安時間:約30分
「八、たいそう手前は粋になったな」 「からかっちゃいけません、親分」 八五郎のガラッ八は、あわてて、膝っ小僧を隠しました。柄にない狭い単衣、尻をまくるには便利ですが、真面目に坐り直 …
銭形平次捕物控:054 麝香の匂ひ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「旦那よ——たしかに旦那よ」 「——」 盲鬼になつた年増藝妓のお勢は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、斯う言ふのでした。 「唯旦那ぢや解らないよ姐さん、お名前を判然申上げな」 幇間の左孝 …
読書目安時間:約24分
「旦那よ——たしかに旦那よ」 「——」 盲鬼になつた年増藝妓のお勢は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、斯う言ふのでした。 「唯旦那ぢや解らないよ姐さん、お名前を判然申上げな」 幇間の左孝 …
銭形平次捕物控:054 麝香の匂い(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「旦那よ——たしかに旦那よ」 「…………」 鬼になった年増芸妓のお勢は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、こう言うのでした。 「ただ旦那じゃ解らないよ姐さん、お名前を判然申上げな」 幇間の …
読書目安時間:約24分
「旦那よ——たしかに旦那よ」 「…………」 鬼になった年増芸妓のお勢は、板倉屋伴三郎の袖を掴んで、こう言うのでした。 「ただ旦那じゃ解らないよ姐さん、お名前を判然申上げな」 幇間の …
銭形平次捕物控:055 路地の小判(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、笑っちゃいけませんよ」 「何だ、八」 「親分もあっしも同じ人間でしょう」 ガラッ八の八五郎はまた変なことを言い出しました。 「その通りだ、眼が二つ、口が一つ、なるほど、こい …
読書目安時間:約29分
「親分、笑っちゃいけませんよ」 「何だ、八」 「親分もあっしも同じ人間でしょう」 ガラッ八の八五郎はまた変なことを言い出しました。 「その通りだ、眼が二つ、口が一つ、なるほど、こい …
銭形平次捕物控:056 地獄から来た男(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、変な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎は、モモンガア見たいな顏をして見せました。秋の日の晝下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を樂しんで居る折柄でした。 「変な野郎 …
読書目安時間:約29分
「親分、変な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎は、モモンガア見たいな顏をして見せました。秋の日の晝下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を樂しんで居る折柄でした。 「変な野郎 …
銭形平次捕物控:056 地獄から来た男(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、変な野郎が来ましたぜ」 ガラッ八の八五郎は、モモンガアみたいな顔をして見せました。秋の日の昼下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を楽しんでいる折柄でした。 「変な野郎 …
読書目安時間:約29分
「親分、変な野郎が来ましたぜ」 ガラッ八の八五郎は、モモンガアみたいな顔をして見せました。秋の日の昼下がり、平次は若い癖に御用の隙の閑寂な半日を楽しんでいる折柄でした。 「変な野郎 …
銭形平次捕物控:057 死の矢文(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
相模屋の若旦那新助は二十一、古い形容ですが、日本橋業平といはれる好い男の癖に、去年あたりからすつかり、大弓に凝つてしまつて、大久保の寮に泊り込みのまゝ、庭の垜で一日暮すことの方が多 …
読書目安時間:約26分
相模屋の若旦那新助は二十一、古い形容ですが、日本橋業平といはれる好い男の癖に、去年あたりからすつかり、大弓に凝つてしまつて、大久保の寮に泊り込みのまゝ、庭の垜で一日暮すことの方が多 …
銭形平次捕物控:057 死の矢文(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
相模屋の若旦那新助は二十一、古い形容ですが、日本橋業平といわれる好い男のくせに、去年あたりからすっかり、大弓に凝ってしまって、大久保の寮に泊り込みのまま、庭の垜で一日暮すことの方が …
読書目安時間:約26分
相模屋の若旦那新助は二十一、古い形容ですが、日本橋業平といわれる好い男のくせに、去年あたりからすっかり、大弓に凝ってしまって、大久保の寮に泊り込みのまま、庭の垜で一日暮すことの方が …
銭形平次捕物控:058 身投げする女(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
ガラッ八の八五郎は、こんないい心持になったことはありません。 親分の銭形平次の名代で、東両国の伊勢辰でたらふく飲んだ参会の帰り途、左手に折詰をブラ下げて、右手の爪楊枝で高々と歯をせ …
読書目安時間:約30分
ガラッ八の八五郎は、こんないい心持になったことはありません。 親分の銭形平次の名代で、東両国の伊勢辰でたらふく飲んだ参会の帰り途、左手に折詰をブラ下げて、右手の爪楊枝で高々と歯をせ …
銭形平次捕物控:059 酒屋火事(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分。お早うございます」 「火事場の歸りかえ。八」 「へエ——」 「竈の中から飛出したやうだぜ」 錢形平次——江戸開府以來と言はれた捕物の名人——と、子分の逸足、ガラツ八で通る八 …
読書目安時間:約31分
「親分。お早うございます」 「火事場の歸りかえ。八」 「へエ——」 「竈の中から飛出したやうだぜ」 錢形平次——江戸開府以來と言はれた捕物の名人——と、子分の逸足、ガラツ八で通る八 …
銭形平次捕物控:059 酒屋火事(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分。お早うございます」 「火事場の帰りかえ。八」 「ヘエ——」 「竈の中から飛出したようだせ」 銭形平次——江戸開府以来と言われた捕物の名人——と、子分の逸足、ガラッ八で通る八 …
読書目安時間:約31分
「親分。お早うございます」 「火事場の帰りかえ。八」 「ヘエ——」 「竈の中から飛出したようだせ」 銭形平次——江戸開府以来と言われた捕物の名人——と、子分の逸足、ガラッ八で通る八 …
銭形平次捕物控:060 蝉丸の香爐(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、松が除れたばかりのところへ、こんな話を持込んぢや氣の毒だが、玉屋に取つては、此上もない大難、——聽いてやつちや下さるまいか」 町人乍ら諸大名の御用達を勤め、苗字帶刀まで許さ …
読書目安時間:約31分
「親分、松が除れたばかりのところへ、こんな話を持込んぢや氣の毒だが、玉屋に取つては、此上もない大難、——聽いてやつちや下さるまいか」 町人乍ら諸大名の御用達を勤め、苗字帶刀まで許さ …
銭形平次捕物控:060 蝉丸の香炉(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、松が取れたばかりのところへ、こんな話を持込んじゃ気の毒だが、玉屋にとっては、この上もない大難、——聴いてやっちゃ下さるまいか」 町人ながら諸大名の御用達を勤め、苗字帯刀まで …
読書目安時間:約31分
「親分、松が取れたばかりのところへ、こんな話を持込んじゃ気の毒だが、玉屋にとっては、この上もない大難、——聴いてやっちゃ下さるまいか」 町人ながら諸大名の御用達を勤め、苗字帯刀まで …
銭形平次捕物控:061 雪の足跡(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、犬が女を殺すでしょうか」 淡雪の降った朝、八五郎のガラッ八は、ぼんやりした顔で、銭形平次のところへやって来ました。 「咬み殺されたのかい」 「そんな事なら不思議はないが、女 …
読書目安時間:約28分
「親分、犬が女を殺すでしょうか」 淡雪の降った朝、八五郎のガラッ八は、ぼんやりした顔で、銭形平次のところへやって来ました。 「咬み殺されたのかい」 「そんな事なら不思議はないが、女 …
銭形平次捕物控:062 城の絵図面(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、大變な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎は、拇指で自分の肩越しに指し乍ら、入口の方へ頤をしやくつて見せます。 「大變な野郎——?」 錢形の平次は、岡つ引には過ぎた物の本に …
読書目安時間:約29分
「親分、大變な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎は、拇指で自分の肩越しに指し乍ら、入口の方へ頤をしやくつて見せます。 「大變な野郎——?」 錢形の平次は、岡つ引には過ぎた物の本に …
銭形平次捕物控:062 城の絵図面(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、大変な野郎が来ましたぜ」 ガラッ八の八五郎は、拇指で自分の肩越しに指しながら、入口の方へ顎をしゃくってみせます。 「大変な野郎——?」 銭形の平次は、岡っ引には過ぎた物の本 …
読書目安時間:約30分
「親分、大変な野郎が来ましたぜ」 ガラッ八の八五郎は、拇指で自分の肩越しに指しながら、入口の方へ顎をしゃくってみせます。 「大変な野郎——?」 銭形の平次は、岡っ引には過ぎた物の本 …
銭形平次捕物控:063 花見の仇討(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分」 ガラツ八の八五郎は息せき切つて居りました。續く——大變——といふ言葉も、容易には唇に上りません。 「何だ、八」 飛鳥山の花見歸り、谷中へ拔けようとする道で、錢形平次は後か …
読書目安時間:約27分
「親分」 ガラツ八の八五郎は息せき切つて居りました。續く——大變——といふ言葉も、容易には唇に上りません。 「何だ、八」 飛鳥山の花見歸り、谷中へ拔けようとする道で、錢形平次は後か …
銭形平次捕物控:063 花見の仇討(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分」 ガラッ八の八五郎は息せき切っておりました。続く——大変——という言葉も、容易には唇に上りません。 「何だ、八」 飛鳥山の花見帰り、谷中へ抜けようとする道で、銭形平次は後ろ …
読書目安時間:約28分
「親分」 ガラッ八の八五郎は息せき切っておりました。続く——大変——という言葉も、容易には唇に上りません。 「何だ、八」 飛鳥山の花見帰り、谷中へ抜けようとする道で、銭形平次は後ろ …
銭形平次捕物控:064 九百九十両(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラツ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の錢形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け/\、とぐろを卷いた縁側から、これも所在なく吐月峯ばかり …
読書目安時間:約31分
「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラツ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の錢形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け/\、とぐろを卷いた縁側から、これも所在なく吐月峯ばかり …
銭形平次捕物控:064 九百九十両(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラッ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の銭形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け除け、とぐろを巻いた縁側から、これも所在なく吐月峰ばかり …
読書目安時間:約31分
「親分」 「何だ、八」 「腕が鳴るね」 ガラッ八の八五郎は、小鼻をふくらませて、親分の銭形平次を仰ぎました。 初夏の陽を除け除け、とぐろを巻いた縁側から、これも所在なく吐月峰ばかり …
銭形平次捕物控:065 結納の行方(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分」 「何だ八、又大變の賣物でもあるのかい、鼻の孔が膨らんでゐるやうだが」 錢形の平次は何時でもこんな調子でした。寢そべつたまゝ煙草盆を引寄せて、こればかりは分不相應に贅澤な水 …
読書目安時間:約28分
「親分」 「何だ八、又大變の賣物でもあるのかい、鼻の孔が膨らんでゐるやうだが」 錢形の平次は何時でもこんな調子でした。寢そべつたまゝ煙草盆を引寄せて、こればかりは分不相應に贅澤な水 …
銭形平次捕物控:065 結納の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分」 「何だ八、また大変の売物でもあるのかい、鼻の孔が膨らんでいるようだが」 銭形の平次はいつでもこんな調子でした。寝そべったまま煙草盆を引寄せて、こればかりは分不相応に贅沢な …
読書目安時間:約28分
「親分」 「何だ八、また大変の売物でもあるのかい、鼻の孔が膨らんでいるようだが」 銭形の平次はいつでもこんな調子でした。寝そべったまま煙草盆を引寄せて、こればかりは分不相応に贅沢な …
銭形平次捕物控:066 玉の輿の呪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「あツ、ヒ、人殺しツ」 宵闇を劈く若い女の聲は、雜司ヶ谷の靜まり返つた空氣を、一瞬、煑えこぼれるほど掻き立てました。 「それツ」 鬼子母神の境内から、百姓地まで溢れた、茶店と、田樂 …
読書目安時間:約31分
「あツ、ヒ、人殺しツ」 宵闇を劈く若い女の聲は、雜司ヶ谷の靜まり返つた空氣を、一瞬、煑えこぼれるほど掻き立てました。 「それツ」 鬼子母神の境内から、百姓地まで溢れた、茶店と、田樂 …
銭形平次捕物控:066 玉の輿の呪い(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「あッ、ヒ、人殺しッ」 宵闇を劈く若い女の声は、雑司ヶ谷の静まり返った空気を、一瞬、煮えこぼれるほど掻き立てました。 「それッ」 鬼子母神の境内から、百姓地まで溢れた、茶店と、田楽 …
読書目安時間:約31分
「あッ、ヒ、人殺しッ」 宵闇を劈く若い女の声は、雑司ヶ谷の静まり返った空気を、一瞬、煮えこぼれるほど掻き立てました。 「それッ」 鬼子母神の境内から、百姓地まで溢れた、茶店と、田楽 …
銭形平次捕物控:067 欄干の死骸(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、こいつは驚くぜ、——これで驚かなかった日にゃ、親分とは言わせねえ」 息せき切って駆けつけたガラッ八の八五郎、上がり框に両手を突いて、「物申し上ぐる型」に長い顔を振り仰ぐので …
読書目安時間:約30分
「親分、こいつは驚くぜ、——これで驚かなかった日にゃ、親分とは言わせねえ」 息せき切って駆けつけたガラッ八の八五郎、上がり框に両手を突いて、「物申し上ぐる型」に長い顔を振り仰ぐので …
銭形平次捕物控:068 辻斬綺談(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、あつしはもう癪にさはつて癪にさはつて」 ガラツ八の八五郎は、いきなり錢形平次の前に、長んがい顎を漂よはせます。 よく晴れた秋の日の朝、平次は所在なく雁首を爪繰り乍らあまり上 …
読書目安時間:約31分
「親分、あつしはもう癪にさはつて癪にさはつて」 ガラツ八の八五郎は、いきなり錢形平次の前に、長んがい顎を漂よはせます。 よく晴れた秋の日の朝、平次は所在なく雁首を爪繰り乍らあまり上 …
銭形平次捕物控:068 辻斬綺談(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、あっしはもう癪にさわってさわって」 ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の前に、長い顎を漂わせます。 よく晴れた秋の日の朝、平次は所在なく雁首を爪繰りながらあまり上等でない …
読書目安時間:約32分
「親分、あっしはもう癪にさわってさわって」 ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の前に、長い顎を漂わせます。 よく晴れた秋の日の朝、平次は所在なく雁首を爪繰りながらあまり上等でない …
銭形平次捕物控:069 金の鯉(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
江戸の大通、札差百九人衆の筆頭に据えられる大町人、平右衛門町の伊勢屋新六が、本所竪川筋の置材木の上から、百両もする金銀象眼の鱮竿を垂れているところを、河童に引込まれて死んだという騒 …
読書目安時間:約28分
江戸の大通、札差百九人衆の筆頭に据えられる大町人、平右衛門町の伊勢屋新六が、本所竪川筋の置材木の上から、百両もする金銀象眼の鱮竿を垂れているところを、河童に引込まれて死んだという騒 …
銭形平次捕物控:070 二本の脇差(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、大変なものを拾って来ましたぜ」 八五郎のガラッ八は、拇指を蝮にして、自分の肩越しに入口の方を指しながら、日本一の突き詰めた顔をするのでした。 「何だ、八、小判か、銭か」 銭 …
読書目安時間:約30分
「親分、大変なものを拾って来ましたぜ」 八五郎のガラッ八は、拇指を蝮にして、自分の肩越しに入口の方を指しながら、日本一の突き詰めた顔をするのでした。 「何だ、八、小判か、銭か」 銭 …
銭形平次捕物控:071 平次屠蘇機嫌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
元日の晝下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした錢形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡つて、青物町へ入らうと言ふところでヒヨイと立止りました。 「八、目出度いな」 「へエ——」 ガラツ …
読書目安時間:約30分
元日の晝下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした錢形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡つて、青物町へ入らうと言ふところでヒヨイと立止りました。 「八、目出度いな」 「へエ——」 ガラツ …
銭形平次捕物控:071 平次屠蘇機嫌(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
元日の昼下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした銭形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡って、青物町へ入ろうというところでヒョイと立止りました。 「八、目出度いな」 「ヘエ——」 ガラッ …
読書目安時間:約30分
元日の昼下り、八丁堀町御組屋敷の年始廻りをした銭形平次と子分の八五郎は、海賊橋を渡って、青物町へ入ろうというところでヒョイと立止りました。 「八、目出度いな」 「ヘエ——」 ガラッ …
銭形平次捕物控:072 買つた遺書(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、何をして居なさるんで?」 ガラツ八の八五郎は、庭口からヌツと長い顎を出しました。 「もう蟻が出て來たぜ八、早いものだな」 江戸開府以來と言はれた名御用聞、錢形平次ともあらう …
読書目安時間:約30分
「親分、何をして居なさるんで?」 ガラツ八の八五郎は、庭口からヌツと長い顎を出しました。 「もう蟻が出て來たぜ八、早いものだな」 江戸開府以來と言はれた名御用聞、錢形平次ともあらう …
銭形平次捕物控:072 買った遺書(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、何をしていなさるんで?」 ガラッ八の八五郎は、庭口からヌッと長い顎を出しました。 「もう蟻が出て来たぜ八、早いものだな」 江戸開府以来と言われた名御用聞、銭形平次ともあろう …
読書目安時間:約30分
「親分、何をしていなさるんで?」 ガラッ八の八五郎は、庭口からヌッと長い顎を出しました。 「もう蟻が出て来たぜ八、早いものだな」 江戸開府以来と言われた名御用聞、銭形平次ともあろう …
銭形平次捕物控:073 黒い巾着(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、山崎屋の隱居が死んださうですね」 ガラツ八の八五郎は、いつにない深刻な顏をして入つて來ました。 「それは聽いた。が、どうした、變なことでもあるのかい」 錢形平次は植木鉢から …
読書目安時間:約30分
「親分、山崎屋の隱居が死んださうですね」 ガラツ八の八五郎は、いつにない深刻な顏をして入つて來ました。 「それは聽いた。が、どうした、變なことでもあるのかい」 錢形平次は植木鉢から …
銭形平次捕物控:073 黒い巾着(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、山崎屋の隠居が死んだそうですね」 ガラッ八の八五郎は、いつにない深刻な顔をして入って来ました。 「それは聴いた。が、どうした、変なことでもあるのかい」 銭形平次は植木鉢から …
読書目安時間:約30分
「親分、山崎屋の隠居が死んだそうですね」 ガラッ八の八五郎は、いつにない深刻な顔をして入って来ました。 「それは聴いた。が、どうした、変なことでもあるのかい」 銭形平次は植木鉢から …
銭形平次捕物控:074 二度死んだ男(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、良庵さんが来ましたぜ」 「ヘエ——、朝から変った人が来るものだね、丁寧に通すがいい」 銭形の平次は居ずまいを直して、客を迎えました。服部良庵という町内の本道(内科医)、頭を …
読書目安時間:約29分
「親分、良庵さんが来ましたぜ」 「ヘエ——、朝から変った人が来るものだね、丁寧に通すがいい」 銭形の平次は居ずまいを直して、客を迎えました。服部良庵という町内の本道(内科医)、頭を …
銭形平次捕物控:075 巾着切の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「あツ危ねえ」 錢形の平次は辛くも間に合ひました。夜櫻見物の歸りも絶えた、兩國橋の中ほど、若い二人の袂を取つて引戻したのは、本當に精一杯の仕事だつたのです。 「どうぞお見逃しを願ひ …
読書目安時間:約27分
「あツ危ねえ」 錢形の平次は辛くも間に合ひました。夜櫻見物の歸りも絶えた、兩國橋の中ほど、若い二人の袂を取つて引戻したのは、本當に精一杯の仕事だつたのです。 「どうぞお見逃しを願ひ …
銭形平次捕物控:075 巾着切りの娘(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「あッ危ねえ」 銭形の平次は辛くも間に合いました。夜桜見物の帰りも絶えた、両国橋の中ほど、若い二人の袂を取って引戻したのは、本当に精一杯の仕事だったのです。 「どうぞお見逃しを願い …
読書目安時間:約27分
「あッ危ねえ」 銭形の平次は辛くも間に合いました。夜桜見物の帰りも絶えた、両国橋の中ほど、若い二人の袂を取って引戻したのは、本当に精一杯の仕事だったのです。 「どうぞお見逃しを願い …
銭形平次捕物控:076 竹光の殺人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「平次、狸穴まで行つて見ないか、竹光で武家が一人殺されたんだが——」 與力笹野新三郎は、丁度八丁堀組屋敷に來合せた、錢形平次を誘ひました。 「旦那が御出役で?」 「さうだよ。浪人者 …
読書目安時間:約25分
「平次、狸穴まで行つて見ないか、竹光で武家が一人殺されたんだが——」 與力笹野新三郎は、丁度八丁堀組屋敷に來合せた、錢形平次を誘ひました。 「旦那が御出役で?」 「さうだよ。浪人者 …
銭形平次捕物控:076 竹光の殺人(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「平次、狸穴まで行ってみないか、竹光で武家が一人殺されたんだが——」 与力笹野新三郎は、ちょうど八丁堀組屋敷に来合せた、銭形平次を誘いました。 「旦那が御出役で?」 「そうだよ。浪 …
読書目安時間:約25分
「平次、狸穴まで行ってみないか、竹光で武家が一人殺されたんだが——」 与力笹野新三郎は、ちょうど八丁堀組屋敷に来合せた、銭形平次を誘いました。 「旦那が御出役で?」 「そうだよ。浪 …
銭形平次捕物控:077 八五郎の恋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、近頃つく/″\考へたんだが——」 ガラツ八の八五郎は柄にもない感慨無量な聲を出すのでした。 「何を考へやがうたんだ、つく/″\なんて面ぢやねえぜ」 錢形平次は初夏の日溜りを …
読書目安時間:約28分
「親分、近頃つく/″\考へたんだが——」 ガラツ八の八五郎は柄にもない感慨無量な聲を出すのでした。 「何を考へやがうたんだ、つく/″\なんて面ぢやねえぜ」 錢形平次は初夏の日溜りを …
銭形平次捕物控:077 八五郎の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、近頃つくづく考えたんだが——」 ガラッ八の八五郎は柄にもない感慨無量な声を出すのでした。 「何を考えやがったんだ、つくづくなんて面じゃねえぜ」 銭形平次は初夏の日溜りを避け …
読書目安時間:約28分
「親分、近頃つくづく考えたんだが——」 ガラッ八の八五郎は柄にもない感慨無量な声を出すのでした。 「何を考えやがったんだ、つくづくなんて面じゃねえぜ」 銭形平次は初夏の日溜りを避け …
銭形平次捕物控:078 十手の道(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、このお二人に訊いて下さい」 いけぞんざいなガラツ八の八五郎が、精一杯丁寧に案内して來たのは、武家風の女が二人。 「私は加世と申します。肥前島原の高力左近太夫樣御家中、志賀玄 …
読書目安時間:約28分
「親分、このお二人に訊いて下さい」 いけぞんざいなガラツ八の八五郎が、精一杯丁寧に案内して來たのは、武家風の女が二人。 「私は加世と申します。肥前島原の高力左近太夫樣御家中、志賀玄 …
銭形平次捕物控:078 十手の道(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、このお二人に訊いて下さい」 いけぞんざいなガラッ八の八五郎が、精いっぱい丁寧に案内して来たのは、武家風の女が二人。 「私は加世と申します。肥前島原の高力左近太夫様御家中、志 …
読書目安時間:約28分
「親分、このお二人に訊いて下さい」 いけぞんざいなガラッ八の八五郎が、精いっぱい丁寧に案内して来たのは、武家風の女が二人。 「私は加世と申します。肥前島原の高力左近太夫様御家中、志 …
銭形平次捕物控:079 十七の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
荒物屋のお今——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳の晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奧に殺されて居りました。 「まア、可哀想に」 「あんな人好きのする娘をねエ」 ドツと溢 …
読書目安時間:約30分
荒物屋のお今——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳の晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奧に殺されて居りました。 「まア、可哀想に」 「あんな人好きのする娘をねエ」 ドツと溢 …
銭形平次捕物控:079 十七の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
荒物屋のお今——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳の晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奥に殺されておりました。 「まア、可哀想に」 「あんな人好きのする娘をねエ」 ドッと溢 …
読書目安時間:約30分
荒物屋のお今——今年十七になる滅法可愛らしいのが、祭り衣裳の晴れやかな姿で、湯島一丁目の路地の奥に殺されておりました。 「まア、可哀想に」 「あんな人好きのする娘をねエ」 ドッと溢 …
銭形平次捕物控:080 捕物仁義(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
江戸開府以來といはれた、捕物の名人錢形平次の手柄のうちには、こんな不思議な事件もあつたのです。——これは世に謂ふ捕物ではないかも知れませんが、危險を孕むことに於ては、冷たい詭計に終 …
読書目安時間:約32分
江戸開府以來といはれた、捕物の名人錢形平次の手柄のうちには、こんな不思議な事件もあつたのです。——これは世に謂ふ捕物ではないかも知れませんが、危險を孕むことに於ては、冷たい詭計に終 …
銭形平次捕物控:080 捕物仁義(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
江戸開府以来といわれた、捕物の名人銭形平次の手柄のうちには、こんな不思議な事件もあったのです。——これは世に謂う捕物ではないかも知れませんが、危険を孕むことにおいては、冷たい詭計に …
読書目安時間:約33分
江戸開府以来といわれた、捕物の名人銭形平次の手柄のうちには、こんな不思議な事件もあったのです。——これは世に謂う捕物ではないかも知れませんが、危険を孕むことにおいては、冷たい詭計に …
銭形平次捕物控:081 受難の通人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約33分
錢形平次が關係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無慙なのは類のないことでした。 元鳥越の大地主、丸屋源吉の女房、お雪といふのが毒死したといふ訴へのあつたのは、ある秋の日の夕 …
読書目安時間:約33分
錢形平次が關係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無慙なのは類のないことでした。 元鳥越の大地主、丸屋源吉の女房、お雪といふのが毒死したといふ訴へのあつたのは、ある秋の日の夕 …
銭形平次捕物控:081 受難の通人(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
銭形平次が関係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無慙なのは類のないことでした。 元鳥越の大地主、丸屋源吉の女房、お雪というのが毒死したという訴えのあったのは、ある秋の日の夕 …
読書目安時間:約33分
銭形平次が関係した捕物の中にも、こんなに用意周到で、冷酷無慙なのは類のないことでした。 元鳥越の大地主、丸屋源吉の女房、お雪というのが毒死したという訴えのあったのは、ある秋の日の夕 …
銭形平次捕物控:082 お局お六(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
紅葉は丁度見頃、差迫つた御用もない折を狙つて、錢形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。 十手や捕繩を神田の家に殘して、道中差一本に、着換の袷が一枚、出來るだけ野暮な堅氣に作つた、一 …
読書目安時間:約27分
紅葉は丁度見頃、差迫つた御用もない折を狙つて、錢形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。 十手や捕繩を神田の家に殘して、道中差一本に、着換の袷が一枚、出來るだけ野暮な堅氣に作つた、一 …
銭形平次捕物控:082 お局お六(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
紅葉はちょうど見ごろ、差迫った御用もない折を狙って、銭形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。 十手や捕縄を神田の家に残して、道中差一本に、着替えの袷が一枚、出来るだけ野暮な堅気に作 …
読書目安時間:約27分
紅葉はちょうど見ごろ、差迫った御用もない折を狙って、銭形平次は、函嶺まで湯治旅と洒落ました。 十手や捕縄を神田の家に残して、道中差一本に、着替えの袷が一枚、出来るだけ野暮な堅気に作 …
銭形平次捕物控:083 鉄砲汁(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、近頃金の要るやうなことはありませんか」 押詰つたある日、錢形平次のところへノツソリとやつて來たガラツ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言ふのです。 「何 …
読書目安時間:約28分
「親分、近頃金の要るやうなことはありませんか」 押詰つたある日、錢形平次のところへノツソリとやつて來たガラツ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言ふのです。 「何 …
銭形平次捕物控:083 鉄砲汁(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、近頃金の要るようなことはありませんか」 押詰ったある日、銭形平次のところへノッソリとやって来たガラッ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言うのです。 「何 …
読書目安時間:約28分
「親分、近頃金の要るようなことはありませんか」 押詰ったある日、銭形平次のところへノッソリとやって来たガラッ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言うのです。 「何 …
銭形平次捕物控:084 お染の歎き(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「八、あの巡礼を跟けてみな」 平次は顎をしゃくって見せました。が、浅草橋の御見附を越して、浜町の方へトボトボと辿って行く男巡礼、頽然とした六十恰好の老爺に、何の不思議があろうとも、 …
読書目安時間:約31分
「八、あの巡礼を跟けてみな」 平次は顎をしゃくって見せました。が、浅草橋の御見附を越して、浜町の方へトボトボと辿って行く男巡礼、頽然とした六十恰好の老爺に、何の不思議があろうとも、 …
銭形平次捕物控:085 瓢箪供養(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「あ、八じゃねえか。朝から手前を捜していたぜ」 路地の跫音を聞くと、銭形平次は、家の中からこう声をかけました。 「ヘエ、八五郎には違えねえが、どうしてあっしと解ったんで?」 仮住居 …
読書目安時間:約32分
「あ、八じゃねえか。朝から手前を捜していたぜ」 路地の跫音を聞くと、銭形平次は、家の中からこう声をかけました。 「ヘエ、八五郎には違えねえが、どうしてあっしと解ったんで?」 仮住居 …
銭形平次捕物控:086 縁結び(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「八、まあそこへ坐れ、今日は真面目な話があるんだ」 「ヘエ——」 八五郎のガラッ八は、銭形平次の前に、神妙らしく膝小僧を揃えました。 「外じゃねえが、——手前もいつまでも独りじゃあ …
読書目安時間:約32分
「八、まあそこへ坐れ、今日は真面目な話があるんだ」 「ヘエ——」 八五郎のガラッ八は、銭形平次の前に、神妙らしく膝小僧を揃えました。 「外じゃねえが、——手前もいつまでも独りじゃあ …
銭形平次捕物控:087 敵討果てて(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
その日、三河屋に集まった客は四人、将棋にも碁にも飽きて、夕刻からは埒もない雑談に花が咲きました。 「内証事は隠しおおせるものじゃない。不思議なことに、他から漏れずに、本人の口から知 …
読書目安時間:約31分
その日、三河屋に集まった客は四人、将棋にも碁にも飽きて、夕刻からは埒もない雑談に花が咲きました。 「内証事は隠しおおせるものじゃない。不思議なことに、他から漏れずに、本人の口から知 …
銭形平次捕物控:088 不死の霊薬(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、どうなすったんで?」 ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の寝ている枕許に膝行り寄りました。 「八か、——風邪を引いたんだよ。寝ているのも馬鹿馬鹿しいが、熱が高くて我慢にも …
読書目安時間:約32分
「親分、どうなすったんで?」 ガラッ八の八五郎は、いきなり銭形平次の寝ている枕許に膝行り寄りました。 「八か、——風邪を引いたんだよ。寝ているのも馬鹿馬鹿しいが、熱が高くて我慢にも …
銭形平次捕物控:089 百四十四夜(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、退屈だね」 ガラッ八の八五郎は、鼻の穴で天文を観るような恰好を取りました。 「呆れた野郎だ。小半日空を眺めて欠伸をしていりゃ、猫の子だって退屈になるよ。庭へ降りて来て手伝い …
読書目安時間:約30分
「親分、退屈だね」 ガラッ八の八五郎は、鼻の穴で天文を観るような恰好を取りました。 「呆れた野郎だ。小半日空を眺めて欠伸をしていりゃ、猫の子だって退屈になるよ。庭へ降りて来て手伝い …
銭形平次捕物控:090 禁制の賦(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
笛の名人春日藤左衞門は、分別盛りの顏を曇らせて、高々と腕を拱きました。 「お師匠、このお願ひは無理でせうが、亡くなつた父一色清五郎から、お師匠に預けた禁制の賦、あれを吹けば、人の命 …
読書目安時間:約26分
笛の名人春日藤左衞門は、分別盛りの顏を曇らせて、高々と腕を拱きました。 「お師匠、このお願ひは無理でせうが、亡くなつた父一色清五郎から、お師匠に預けた禁制の賦、あれを吹けば、人の命 …
銭形平次捕物控:090 禁制の賦(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
笛の名人春日藤左衛門は、分別盛りの顔を曇らせて、高々と腕を拱きました。 「お師匠、このお願いは無理でしょうが、亡くなった父一色清五郎から、お師匠に預けた禁制の賦、あれを吹けば、人の …
読書目安時間:約26分
笛の名人春日藤左衛門は、分別盛りの顔を曇らせて、高々と腕を拱きました。 「お師匠、このお願いは無理でしょうが、亡くなった父一色清五郎から、お師匠に預けた禁制の賦、あれを吹けば、人の …
銭形平次捕物控:091 笑い茸(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
伽羅大盡磯屋貫兵衞の凉み船は、隅田川を漕ぎ上つて、白鬚の少し上、川幅の廣いところを選つて、中流に碇をおろしました。わざと氣取つた小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻つて、この時もうハ …
読書目安時間:約28分
伽羅大盡磯屋貫兵衞の凉み船は、隅田川を漕ぎ上つて、白鬚の少し上、川幅の廣いところを選つて、中流に碇をおろしました。わざと氣取つた小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻つて、この時もうハ …
銭形平次捕物控:091 笑い茸(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
伽羅大尽磯屋貫兵衛の涼み船は、隅田川を漕ぎ上って、白鬚の少し上、川幅の広いところを選って、中流に碇をおろしました。わざと気取った小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻って、この時もうハ …
読書目安時間:約28分
伽羅大尽磯屋貫兵衛の涼み船は、隅田川を漕ぎ上って、白鬚の少し上、川幅の広いところを選って、中流に碇をおろしました。わざと気取った小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻って、この時もうハ …
銭形平次捕物控:092 金の茶釜(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、金の茶釜を拝んだことがありますかい」 ガラッ八の八五郎は、変なことを持込んで来ました。 「知らないよ、金の茶釜や錦の小袖はフンダンにあるから、拝むものとは思わなかったよ」 …
読書目安時間:約25分
「親分、金の茶釜を拝んだことがありますかい」 ガラッ八の八五郎は、変なことを持込んで来ました。 「知らないよ、金の茶釜や錦の小袖はフンダンにあるから、拝むものとは思わなかったよ」 …
銭形平次捕物控:093 百物語(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
公儀御用の御筆師、室町三丁目の「小法師甲斐」は、日本橋一丁目の福用、常盤橋の速水と相並んで繁昌しましたが、わけても小法師甲斐は室町の五分の一を持っているという家主で、世間体だけはと …
読書目安時間:約34分
公儀御用の御筆師、室町三丁目の「小法師甲斐」は、日本橋一丁目の福用、常盤橋の速水と相並んで繁昌しましたが、わけても小法師甲斐は室町の五分の一を持っているという家主で、世間体だけはと …
銭形平次捕物控:094 死相の女(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、お早う」 ガラッ八の八五郎は、顎をしゃくってニヤリとしました。 「何がお早うだい、先刻上野の午刻(十二時)が鳴ったぜ、冗談じゃない」 銭形の平次は相変らず、狭い庭に降りて、 …
読書目安時間:約29分
「親分、お早う」 ガラッ八の八五郎は、顎をしゃくってニヤリとしました。 「何がお早うだい、先刻上野の午刻(十二時)が鳴ったぜ、冗談じゃない」 銭形の平次は相変らず、狭い庭に降りて、 …
銭形平次捕物控:095 南蛮仏(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
屑屋の周助が殺されました。 佐久間町の裏、ゴミ溜めのような棟割長屋の奥で、魚のように切られて死んでいるのを、翌る朝になってから、隣に住んでいる、蝮の銅六という緡売りの、いかさま博奕 …
読書目安時間:約39分
屑屋の周助が殺されました。 佐久間町の裏、ゴミ溜めのような棟割長屋の奥で、魚のように切られて死んでいるのを、翌る朝になってから、隣に住んでいる、蝮の銅六という緡売りの、いかさま博奕 …
銭形平次捕物控:096 忍術指南(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「八、身体が暇かい」 銭形平次は、フラリと来たガラッ八の八五郎をつかまえました。 「有難いことに、あっしが乗出すような気の利いた事件は一つもねえ」 「大きな事を言やがれ」 二人は相 …
読書目安時間:約31分
「八、身体が暇かい」 銭形平次は、フラリと来たガラッ八の八五郎をつかまえました。 「有難いことに、あっしが乗出すような気の利いた事件は一つもねえ」 「大きな事を言やがれ」 二人は相 …
銭形平次捕物控:097 許婚の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が來ましたぜ。何か大變な事があるんですつて」 「恐ろしく早いぢやないか、待たしておけ」 「へエ——」 平次は八五郎を追ひやるやうに、ガブガブと嗽ひをし …
読書目安時間:約24分
「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が來ましたぜ。何か大變な事があるんですつて」 「恐ろしく早いぢやないか、待たしておけ」 「へエ——」 平次は八五郎を追ひやるやうに、ガブガブと嗽ひをし …
銭形平次捕物控:097 許嫁の死(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が来ましたぜ、何か大変な事があるんですって」 「恐ろしく早いじゃないか、待たしておけ」 「ヘエ——」 平次は八五郎を追いやるように、ガブガブと嗽をしま …
読書目安時間:約24分
「親分、小柳町の伊丹屋の若旦那が来ましたぜ、何か大変な事があるんですって」 「恐ろしく早いじゃないか、待たしておけ」 「ヘエ——」 平次は八五郎を追いやるように、ガブガブと嗽をしま …
銭形平次捕物控:098 紅筆願文(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「御免」 少し職業的に落着き拂つた聲、錢形平次はそれを聞くと、脱いでゐた肌を入れて、八五郎のガラツ八に目くばせしました。生憎今日は取次に出てくれる、女房のお靜がゐなかつたのです。 …
読書目安時間:約26分
「御免」 少し職業的に落着き拂つた聲、錢形平次はそれを聞くと、脱いでゐた肌を入れて、八五郎のガラツ八に目くばせしました。生憎今日は取次に出てくれる、女房のお靜がゐなかつたのです。 …
銭形平次捕物控:098 紅筆願文(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「御免」 少し職業的に落着き払った声、銭形平次はそれを聞くと、脱いでいた肌を入れて、八五郎のガラッ八に目くばせしました。あいにく今日は取次に出てくれる、女房のお静がいなかったのです …
読書目安時間:約26分
「御免」 少し職業的に落着き払った声、銭形平次はそれを聞くと、脱いでいた肌を入れて、八五郎のガラッ八に目くばせしました。あいにく今日は取次に出てくれる、女房のお静がいなかったのです …
銭形平次捕物控:099 お篠姉妹(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
話はガラツ八の八五郎から始まります。 「あら親分」 「——」 「八五郎親分」 素晴らしい次高音を浴びせられて、八五郎は悠揚として足を止めました。意氣な單衣を七三に端折つて、懷中の十 …
読書目安時間:約27分
話はガラツ八の八五郎から始まります。 「あら親分」 「——」 「八五郎親分」 素晴らしい次高音を浴びせられて、八五郎は悠揚として足を止めました。意氣な單衣を七三に端折つて、懷中の十 …
銭形平次捕物控:099 お篠姉妹(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
話はガラッ八の八五郎から始まります。 「あら親分八五郎親分」 素晴らしい次高音を浴びせられて、八五郎は悠揚として足を止めました。粋な単衣を七三に端折って、懐中の十手は少しばかり突っ …
読書目安時間:約27分
話はガラッ八の八五郎から始まります。 「あら親分八五郎親分」 素晴らしい次高音を浴びせられて、八五郎は悠揚として足を止めました。粋な単衣を七三に端折って、懐中の十手は少しばかり突っ …
銭形平次捕物控:100 ガラツ八祝言(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
ガラツ八の八五郎が、その晩聟入をすることになりました。 祝言の相手は金澤町の酒屋で、この邊では有福の聞えのある多賀屋勘兵衞。嫁はその一粒種で、浮氣つぽいが、綺麗さでは評判の高いお福 …
読書目安時間:約23分
ガラツ八の八五郎が、その晩聟入をすることになりました。 祝言の相手は金澤町の酒屋で、この邊では有福の聞えのある多賀屋勘兵衞。嫁はその一粒種で、浮氣つぽいが、綺麗さでは評判の高いお福 …
銭形平次捕物控:100 ガラッ八祝言(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
ガラッ八の八五郎が、その晩聟入りをすることになりました。 祝言の相手は金沢町の酒屋で、この辺では裕福の聞えのある多賀屋勘兵衛。嫁はその一粒種で、浮気っぽいが、綺麗さでは評判の高いお …
読書目安時間:約23分
ガラッ八の八五郎が、その晩聟入りをすることになりました。 祝言の相手は金沢町の酒屋で、この辺では裕福の聞えのある多賀屋勘兵衛。嫁はその一粒種で、浮気っぽいが、綺麗さでは評判の高いお …
銭形平次捕物控:101 お秀の父(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
ガラツ八の八五郎が、兩國の水茶屋朝野屋の樣子を、三日續けて見張つて居りました。 「近頃變なのがウロウロして、何を仕掛けられるか氣味が惡くて叶はないから御用のひまなとき、八五郎親分で …
読書目安時間:約26分
ガラツ八の八五郎が、兩國の水茶屋朝野屋の樣子を、三日續けて見張つて居りました。 「近頃變なのがウロウロして、何を仕掛けられるか氣味が惡くて叶はないから御用のひまなとき、八五郎親分で …
銭形平次捕物控:101 お秀の父(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
ガラッ八の八五郎が、両国の水茶屋朝野屋の様子を、三日つづけて見張っておりました。 「近頃変なのがウロウロして、何を仕掛けられるか気味が悪くてかなわないから御用のひまなとき、八五郎親 …
読書目安時間:約26分
ガラッ八の八五郎が、両国の水茶屋朝野屋の様子を、三日つづけて見張っておりました。 「近頃変なのがウロウロして、何を仕掛けられるか気味が悪くてかなわないから御用のひまなとき、八五郎親 …
銭形平次捕物控:102 金蔵の行方(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「へツ、へツ、可笑しなことがありますよ、親分」 「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑ひなんかしやがつて、顏へ墨でもついてゐると言ふのかい」 錢形平次は、ツルリと顏を撫で …
読書目安時間:約32分
「へツ、へツ、可笑しなことがありますよ、親分」 「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑ひなんかしやがつて、顏へ墨でもついてゐると言ふのかい」 錢形平次は、ツルリと顏を撫で …
銭形平次捕物控:102 金蔵の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「へッ、へッ、可笑しなことがありますよ、親分」 「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑いなんかしやがって、顔へ墨でもついていると言うのかい」 銭形平次は、ツルリと顔を撫で …
読書目安時間:約32分
「へッ、へッ、可笑しなことがありますよ、親分」 「何が可笑しいんだ。いきなり人の面を見て、馬鹿笑いなんかしやがって、顔へ墨でもついていると言うのかい」 銭形平次は、ツルリと顔を撫で …
銭形平次捕物控:103 巨盗還る(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分の前だが、此頃のやうに暇ぢややりきれないね、ア、ア、ア、ア」 ガラツ八の八五郎は思はず大きな欠伸をしましたが、親分の平次が睨んでゐるのを見ると、あわてて欠伸の尻尾に節をつけた …
読書目安時間:約31分
「親分の前だが、此頃のやうに暇ぢややりきれないね、ア、ア、ア、ア」 ガラツ八の八五郎は思はず大きな欠伸をしましたが、親分の平次が睨んでゐるのを見ると、あわてて欠伸の尻尾に節をつけた …
銭形平次捕物控:103 巨盗還る(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分の前だが、この頃のように暇じゃやりきれないね、ア、ア、ア、ア」 ガラッ八の八五郎は思わず大きな欠伸をしましたが、親分の平次が睨んでいるのを見ると、あわてて欠伸の尻尾に節をつけ …
読書目安時間:約31分
「親分の前だが、この頃のように暇じゃやりきれないね、ア、ア、ア、ア」 ガラッ八の八五郎は思わず大きな欠伸をしましたが、親分の平次が睨んでいるのを見ると、あわてて欠伸の尻尾に節をつけ …
銭形平次捕物控:104 活き仏(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、面白くてたまらないといふ話を聞かせませうか」 ガラツ八の八五郎は、膝つ小僧を氣にし乍ら、眞四角に坐りました。こんな調子で始める時は、お小遣をせびるか、平次の智慧の小出しを引 …
読書目安時間:約31分
「親分、面白くてたまらないといふ話を聞かせませうか」 ガラツ八の八五郎は、膝つ小僧を氣にし乍ら、眞四角に坐りました。こんな調子で始める時は、お小遣をせびるか、平次の智慧の小出しを引 …
銭形平次捕物控:104 活き仏(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、面白くてたまらないという話を聞かせましょうか」 ガラッ八の八五郎は、膝っ小僧を気にしながら、真四角に坐りました。こんな調子で始めるときは、お小遣をせびるか、平次の智恵の小出 …
読書目安時間:約31分
「親分、面白くてたまらないという話を聞かせましょうか」 ガラッ八の八五郎は、膝っ小僧を気にしながら、真四角に坐りました。こんな調子で始めるときは、お小遣をせびるか、平次の智恵の小出 …
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「八、今のは何んだい」 「へエ——」 錢形の平次は、後ろから跟いて來る、八五郎のガラツ八を振り返りました。正月六日の晝少し前、永代橋の上はひつきりなしに、遲れた禮者と、お詣りと、俗 …
読書目安時間:約30分
「八、今のは何んだい」 「へエ——」 錢形の平次は、後ろから跟いて來る、八五郎のガラツ八を振り返りました。正月六日の晝少し前、永代橋の上はひつきりなしに、遲れた禮者と、お詣りと、俗 …
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「八、今のはなんだい」 「ヘエ——」 銭形の平次は、後ろから跟いて来る、八五郎のガラッ八をふり返りました。正月六日の昼少し前、永代橋の上はひっきりなしに、遅れた礼者と、お詣りと、俗 …
読書目安時間:約30分
「八、今のはなんだい」 「ヘエ——」 銭形の平次は、後ろから跟いて来る、八五郎のガラッ八をふり返りました。正月六日の昼少し前、永代橋の上はひっきりなしに、遅れた礼者と、お詣りと、俗 …
銭形平次捕物控:106 懐ろ鏡(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 八五郎のガラツ八が、長んがい顎を撫でながら入つて來たのは、正月の十二日。屠蘇機嫌から醒めて、商人も御用聞も、仕事に對する熱心を取り戻した頃でした …
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 八五郎のガラツ八が、長んがい顎を撫でながら入つて來たのは、正月の十二日。屠蘇機嫌から醒めて、商人も御用聞も、仕事に對する熱心を取り戻した頃でした …
銭形平次捕物控:106 懐ろ鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 八五郎のガラッ八が、長い顎を撫でながら入って来たのは、正月の十二日。屠蘇機嫌から醒めて、商人も御用聞も、仕事に対する熱心を取り戻した頃でした。 …
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 八五郎のガラッ八が、長い顎を撫でながら入って来たのは、正月の十二日。屠蘇機嫌から醒めて、商人も御用聞も、仕事に対する熱心を取り戻した頃でした。 …
銭形平次捕物控:107 梅吉殺し(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、お願ひだ。ちよいとお御輿を上げて下さい」 八五郎のガラツ八は額際に平掌を泳がせ乍ら入つて來ました。 「何を拜んでゐるんだ。お御輿は明神樣のお祭りが來なきや上らねえよ」 錢形 …
読書目安時間:約29分
「親分、お願ひだ。ちよいとお御輿を上げて下さい」 八五郎のガラツ八は額際に平掌を泳がせ乍ら入つて來ました。 「何を拜んでゐるんだ。お御輿は明神樣のお祭りが來なきや上らねえよ」 錢形 …
銭形平次捕物控:107 梅吉殺し(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、お願いだ。ちょいとお御輿を上げて下さい」 八五郎のガラッ八は額際に平掌を泳がせながら入って来ました。 「何を拝んでいるんだ、お御輿は明神様のお祭りが来なきゃ上がらねえよ」 …
読書目安時間:約29分
「親分、お願いだ。ちょいとお御輿を上げて下さい」 八五郎のガラッ八は額際に平掌を泳がせながら入って来ました。 「何を拝んでいるんだ、お御輿は明神様のお祭りが来なきゃ上がらねえよ」 …
銭形平次捕物控:108 がらツ八手柄話(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「ね、親分、こいつは珍しいでせう」 ガラツ八の八五郎は、旋風のやうに飛込んで來ると、いきなり自分の鼻を撫で上げるのでした。 「珍しいとも、そんなキクラゲのやうな鼻は、江戸中にもたん …
読書目安時間:約22分
「ね、親分、こいつは珍しいでせう」 ガラツ八の八五郎は、旋風のやうに飛込んで來ると、いきなり自分の鼻を撫で上げるのでした。 「珍しいとも、そんなキクラゲのやうな鼻は、江戸中にもたん …
銭形平次捕物控:108 ガラッ八手柄話(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「ね、親分、こいつは珍しいでしょう」 ガラッ八の八五郎は、旋風のように飛込んで来ると、いきなり自分の鼻を撫で上げるのでした。 「珍しいとも、そんなキクラゲのような鼻は、江戸中にもた …
読書目安時間:約22分
「ね、親分、こいつは珍しいでしょう」 ガラッ八の八五郎は、旋風のように飛込んで来ると、いきなり自分の鼻を撫で上げるのでした。 「珍しいとも、そんなキクラゲのような鼻は、江戸中にもた …
銭形平次捕物控:109 二人浜路(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、妙に思はせ振りな調子で、親分の錢形平次に水を向けました。 「何が面白くて、膝つ小僧なんか撫で廻すんだ。早く申上げないと一帳羅 …
読書目安時間:約27分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、妙に思はせ振りな調子で、親分の錢形平次に水を向けました。 「何が面白くて、膝つ小僧なんか撫で廻すんだ。早く申上げないと一帳羅 …
銭形平次捕物控:109 二人浜路(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、妙に思わせぶりな調子で、親分の銭形平次に水を向けました。 「何が面白くて、膝っ小僧なんか撫で廻すんだ。早く申上げないと一帳羅 …
読書目安時間:約28分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、妙に思わせぶりな調子で、親分の銭形平次に水を向けました。 「何が面白くて、膝っ小僧なんか撫で廻すんだ。早く申上げないと一帳羅 …
銭形平次捕物控:110 十万両の行方(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、飯田町の上總屋が死んださうですね」 ガラツ八の八五郎は、またニユースを一つ嗅ぎ出して來ました。江戸の町々がすつかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸ツ子の詩情と味覺をそゝる頃 …
読書目安時間:約28分
「親分、飯田町の上總屋が死んださうですね」 ガラツ八の八五郎は、またニユースを一つ嗅ぎ出して來ました。江戸の町々がすつかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸ツ子の詩情と味覺をそゝる頃 …
銭形平次捕物控:110 十万両の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、飯田町の上総屋が死んだそうですね」 ガラッ八の八五郎は、またニュースを一つ嗅ぎ出して来ました。江戸の町々がすっかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸っ子の詩情と味覚をそそる頃 …
読書目安時間:約28分
「親分、飯田町の上総屋が死んだそうですね」 ガラッ八の八五郎は、またニュースを一つ嗅ぎ出して来ました。江戸の町々がすっかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸っ子の詩情と味覚をそそる頃 …
銭形平次捕物控:111 火遁の術(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、良い陽氣ぢやありませんか。植木の世話も結構だが、たまには出かけて見ちやどうです」 ガラツ八の八五郎は、懷ろ手を襟から拔いて、蟲齒が痛い——て恰好に頬を押へ乍ら、裏木戸を膝で …
読書目安時間:約30分
「親分、良い陽氣ぢやありませんか。植木の世話も結構だが、たまには出かけて見ちやどうです」 ガラツ八の八五郎は、懷ろ手を襟から拔いて、蟲齒が痛い——て恰好に頬を押へ乍ら、裏木戸を膝で …
銭形平次捕物控:111 火遁の術(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、良い陽気じゃありませんか。植木の世話も結構だが、たまには出かけてみちゃどうです」 ガラッ八の八五郎は、懐ろ手を襟から抜いて、虫歯が痛い——て恰好に頬を押えながら、裏木戸を膝 …
読書目安時間:約31分
「親分、良い陽気じゃありませんか。植木の世話も結構だが、たまには出かけてみちゃどうです」 ガラッ八の八五郎は、懐ろ手を襟から抜いて、虫歯が痛い——て恰好に頬を押えながら、裏木戸を膝 …
銭形平次捕物控:112 狐の嫁入(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、木戸を開けて、長んがい顏をバアと出しました。 「あ、驚いた。俺は糸瓜が物を言つたかと思つたよ。いきなり長い顏なんか出しやがつ …
読書目安時間:約29分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、木戸を開けて、長んがい顏をバアと出しました。 「あ、驚いた。俺は糸瓜が物を言つたかと思つたよ。いきなり長い顏なんか出しやがつ …
銭形平次捕物控:112 狐の嫁入(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、木戸を開けて、長い顔をバアと出しました。 「あ、驚いた。俺は糸瓜が物を言ったかと思ったよ。いきなり長い顔なんか出しゃがって」 …
読書目安時間:約29分
「親分、面白い話があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、木戸を開けて、長い顔をバアと出しました。 「あ、驚いた。俺は糸瓜が物を言ったかと思ったよ。いきなり長い顔なんか出しゃがって」 …
銭形平次捕物控:113 北冥の魚(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「江戸中の評判なんですがね、親分」 「何が評判なんだ」 ガラッ八の八五郎が、何か変なことを聞込んで来たらしいのを、銭形の平次は浮世草紙の絵を眺めながら、無関心な態度で訊き返しました …
読書目安時間:約23分
「江戸中の評判なんですがね、親分」 「何が評判なんだ」 ガラッ八の八五郎が、何か変なことを聞込んで来たらしいのを、銭形の平次は浮世草紙の絵を眺めながら、無関心な態度で訊き返しました …
銭形平次捕物控:113 北冥の魚(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「江戸中の評判なんですがね、親分」 「何が評判なんだ」 ガラツ八の八五郎が、何にか變なことを聞込んで來たらしいのを、錢形の平次は浮世草紙の繪を眺め乍ら、無關心な態度で訊き返しました …
読書目安時間:約23分
「江戸中の評判なんですがね、親分」 「何が評判なんだ」 ガラツ八の八五郎が、何にか變なことを聞込んで來たらしいのを、錢形の平次は浮世草紙の繪を眺め乍ら、無關心な態度で訊き返しました …
銭形平次捕物控:114 遺書の罪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、ちよいと逢つてお願ひし度いといふ人があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は膝つ小僧を揃へて神妙に申上げるのです。 「大層改まりやがつたな。金の工面と情事の橋渡しは御免だが、外 …
読書目安時間:約27分
「親分、ちよいと逢つてお願ひし度いといふ人があるんだが——」 ガラツ八の八五郎は膝つ小僧を揃へて神妙に申上げるのです。 「大層改まりやがつたな。金の工面と情事の橋渡しは御免だが、外 …
銭形平次捕物控:114 遺書の罪(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、ちょいと逢ってお願いしたいという人があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は膝っ小僧を揃えて神妙に申上げるのです。 「大層改まりゃがったな。金の工面と情事の橋渡しは御免だが、外 …
読書目安時間:約27分
「親分、ちょいと逢ってお願いしたいという人があるんだが——」 ガラッ八の八五郎は膝っ小僧を揃えて神妙に申上げるのです。 「大層改まりゃがったな。金の工面と情事の橋渡しは御免だが、外 …
銭形平次捕物控:115 二階の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、少し鼻の穴を脹らませて入つて來ました。 「よくそんなに變なことに出つ逢すんだね、俺なんか當り前のことで飽々してゐるよ。借りた …
読書目安時間:約32分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、少し鼻の穴を脹らませて入つて來ました。 「よくそんなに變なことに出つ逢すんだね、俺なんか當り前のことで飽々してゐるよ。借りた …
銭形平次捕物控:115 二階の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎が、少し鼻の穴を脹らませて入って来ました。 「よくそんなに変なことに出っくわすんだね、俺なんか当り前のことで飽々しているよ。借り …
読書目安時間:約32分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎が、少し鼻の穴を脹らませて入って来ました。 「よくそんなに変なことに出っくわすんだね、俺なんか当り前のことで飽々しているよ。借り …
銭形平次捕物控:116 女の足跡(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、近頃は胸のすくやうな捕物はありませんね」 ガラツ八の八五郎は先刻から鼻を掘つたり欠伸をしたり、煙草を吸つたり全く自分の身體を持て餘した姿でした。 「捕物なんかない方がいゝよ …
読書目安時間:約29分
「親分、近頃は胸のすくやうな捕物はありませんね」 ガラツ八の八五郎は先刻から鼻を掘つたり欠伸をしたり、煙草を吸つたり全く自分の身體を持て餘した姿でした。 「捕物なんかない方がいゝよ …
銭形平次捕物控:116 女の足跡(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、近頃は胸のすくような捕物はありませんね」 ガラッ八の八五郎は先刻から鼻を掘ったり欠伸をしたり、煙草を吸ったり全く自分の身体を持て余した姿でした。 「捕物なんかない方がいいよ …
読書目安時間:約30分
「親分、近頃は胸のすくような捕物はありませんね」 ガラッ八の八五郎は先刻から鼻を掘ったり欠伸をしたり、煙草を吸ったり全く自分の身体を持て余した姿でした。 「捕物なんかない方がいいよ …
銭形平次捕物控:117 雪の夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
錢形平次が門口の雪をせつせと拂つてゐると、犬つころのやうに雪を蹴上げて飛んで來たのは、ガラツ八の八五郎でした。 「親分、お早やう」 「何んだ、八か。大層あわててゐるぢやないか」 「 …
読書目安時間:約31分
錢形平次が門口の雪をせつせと拂つてゐると、犬つころのやうに雪を蹴上げて飛んで來たのは、ガラツ八の八五郎でした。 「親分、お早やう」 「何んだ、八か。大層あわててゐるぢやないか」 「 …
銭形平次捕物控:117 雪の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
銭形平次が門口の雪をせっせと払っていると、犬っころのように雪を蹴上げて飛んで来たのはガラッ八の八五郎でした。 「親分、お早う」 「なんだ、八か。大層あわてているじゃないか」 「あわ …
読書目安時間:約32分
銭形平次が門口の雪をせっせと払っていると、犬っころのように雪を蹴上げて飛んで来たのはガラッ八の八五郎でした。 「親分、お早う」 「なんだ、八か。大層あわてているじゃないか」 「あわ …
銭形平次捕物控:118 吹矢の紅(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
錢形平次はお上の御用で甲府へ行つて留守、女房のお靜は久し振りに本所の叔母さんを訪ねて、 「しいちやんのは鬼の留守に洗濯ぢやなくて、淋しくなつてたまらないから、私のやうなものを思ひ出 …
読書目安時間:約25分
錢形平次はお上の御用で甲府へ行つて留守、女房のお靜は久し振りに本所の叔母さんを訪ねて、 「しいちやんのは鬼の留守に洗濯ぢやなくて、淋しくなつてたまらないから、私のやうなものを思ひ出 …
銭形平次捕物控:118 吹矢の紅(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
銭形平次はお上の御用で甲府へ行って留守、女房のお静は久し振りに本所の叔母さんを訪ねて、 「しいちゃんのは鬼の留守に洗濯じゃなくて、淋しくなってたまらないから、私のようなものを思い出 …
読書目安時間:約26分
銭形平次はお上の御用で甲府へ行って留守、女房のお静は久し振りに本所の叔母さんを訪ねて、 「しいちゃんのは鬼の留守に洗濯じゃなくて、淋しくなってたまらないから、私のようなものを思い出 …
銭形平次捕物控:119 白紙の恐怖(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分ちよいと——」 ガラツ八の八五郎は、膝つ小僧で歩くやうに、平次のとぐろを卷いてゐる六疊へ入つて來ました。 「なんだ八、また、お客樣をつれて來たんだらう。今度は何んだえ、若い人 …
読書目安時間:約27分
「親分ちよいと——」 ガラツ八の八五郎は、膝つ小僧で歩くやうに、平次のとぐろを卷いてゐる六疊へ入つて來ました。 「なんだ八、また、お客樣をつれて來たんだらう。今度は何んだえ、若い人 …
銭形平次捕物控:119 白紙の恐怖(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分ちょいと——」 ガラッ八の八五郎は、膝小僧で歩くように、平次のとぐろを巻いている六畳へ入って来ました。 「なんだ八、また、お客様をつれて来たんだろう。今度はなんだえ、若い人の …
読書目安時間:約27分
「親分ちょいと——」 ガラッ八の八五郎は、膝小僧で歩くように、平次のとぐろを巻いている六畳へ入って来ました。 「なんだ八、また、お客様をつれて来たんだろう。今度はなんだえ、若い人の …
銭形平次捕物控:120 六軒長屋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
本郷菊坂の六軒長屋——袋路地の一番奧の左側に住んでゐる、烏婆アのお六が、その日の朝、無慘な死骸になつて發見されたのです。 見付けたのは、人もあらうに、隣に住んでゐる大工の金五郎の娘 …
読書目安時間:約27分
本郷菊坂の六軒長屋——袋路地の一番奧の左側に住んでゐる、烏婆アのお六が、その日の朝、無慘な死骸になつて發見されたのです。 見付けたのは、人もあらうに、隣に住んでゐる大工の金五郎の娘 …
銭形平次捕物控:120 六軒長屋(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
本郷菊坂の六軒長屋——袋路地のいちばん奥の左側に住んでいる、烏婆アのお六が、その日の朝、無惨な死骸になって発見されたのです。 見付けたのは、人もあろうに、隣に住んでいる大工の金五郎 …
読書目安時間:約27分
本郷菊坂の六軒長屋——袋路地のいちばん奥の左側に住んでいる、烏婆アのお六が、その日の朝、無惨な死骸になって発見されたのです。 見付けたのは、人もあろうに、隣に住んでいる大工の金五郎 …
銭形平次捕物控:121 土への愛著(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、良い陽氣ぢやありませんか。少し出かけて見ちやどうです」 ガラツ八の八五郎が木戸の外から風の惡い古金買ひのやうな恰好で、斯う覗いてゐるのでした。 「何んだ八か。そんなところか …
読書目安時間:約25分
「親分、良い陽氣ぢやありませんか。少し出かけて見ちやどうです」 ガラツ八の八五郎が木戸の外から風の惡い古金買ひのやうな恰好で、斯う覗いてゐるのでした。 「何んだ八か。そんなところか …
銭形平次捕物控:121 土への愛着(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、良い陽気じゃありませんか。少し出かけてみちゃどうです」 ガラッ八の八五郎が木戸の外から風の悪い古金買いのような恰好で、こう覗いているのでした。 「なんだ八か。そんなところか …
読書目安時間:約26分
「親分、良い陽気じゃありませんか。少し出かけてみちゃどうです」 ガラッ八の八五郎が木戸の外から風の悪い古金買いのような恰好で、こう覗いているのでした。 「なんだ八か。そんなところか …
銭形平次捕物控:122 お由良の罪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、變なことがありますよ」 「何が變なんだ。——まだ朝飯も濟まないのに、いきなり飛び込んで來て」 五月のよく晴れた朝、差當つて急ぎの御用もない錢形平次は、八五郎でも誘つて、どこ …
読書目安時間:約27分
「親分、變なことがありますよ」 「何が變なんだ。——まだ朝飯も濟まないのに、いきなり飛び込んで來て」 五月のよく晴れた朝、差當つて急ぎの御用もない錢形平次は、八五郎でも誘つて、どこ …
銭形平次捕物控:122 お由良の罪(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、変なことがありますよ」 「何が変なんだ。——まだ朝飯も済まないのに、いきなり飛び込んで来て」 五月のよく晴れた朝、差当って急ぎの御用もない銭形平次は、八五郎でも誘って、どこ …
読書目安時間:約27分
「親分、変なことがありますよ」 「何が変なんだ。——まだ朝飯も済まないのに、いきなり飛び込んで来て」 五月のよく晴れた朝、差当って急ぎの御用もない銭形平次は、八五郎でも誘って、どこ …
銭形平次捕物控:123 矢取娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、折角こゝまで來たんだから、ちよいと門前町裏を覗いて見ませうか」 錢形平次と子分の八五郎は、深川の八幡樣へお詣りした歸り、フト出來心で結改場(揚弓場)を覗いたのが、この難事件 …
読書目安時間:約27分
「親分、折角こゝまで來たんだから、ちよいと門前町裏を覗いて見ませうか」 錢形平次と子分の八五郎は、深川の八幡樣へお詣りした歸り、フト出來心で結改場(揚弓場)を覗いたのが、この難事件 …
銭形平次捕物控:123 矢取娘(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、折角ここまで来たんだから、ちょいと門前町裏を覗いてみましょうか」 銭形平次と子分の八五郎は、深川の八幡様へお詣りした帰り、フト出来心で結改場(楊弓場)を覗いたのが、この難事 …
読書目安時間:約27分
「親分、折角ここまで来たんだから、ちょいと門前町裏を覗いてみましょうか」 銭形平次と子分の八五郎は、深川の八幡様へお詣りした帰り、フト出来心で結改場(楊弓場)を覗いたのが、この難事 …
銭形平次捕物控:124 唖娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分」 「何んだ、八。大層な意氣込みぢやないか、喧嘩でもして來たのか」 錢形平次は氣のない顏を、八五郎の方に振り向けました。 「喧嘩ぢやありませんがね、癪にさはつて癪にさはつて— …
読書目安時間:約25分
「親分」 「何んだ、八。大層な意氣込みぢやないか、喧嘩でもして來たのか」 錢形平次は氣のない顏を、八五郎の方に振り向けました。 「喧嘩ぢやありませんがね、癪にさはつて癪にさはつて— …
銭形平次捕物控:124 唖娘(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「親分」 「なんだ、八。たいそうな意気込みじゃないか、喧嘩でもして来たのか」 銭形平次は気のない顔を、八五郎の方に振り向けました。 「喧嘩じゃありませんがね、癪にさわって癪にさわっ …
読書目安時間:約25分
「親分」 「なんだ、八。たいそうな意気込みじゃないか、喧嘩でもして来たのか」 銭形平次は気のない顔を、八五郎の方に振り向けました。 「喧嘩じゃありませんがね、癪にさわって癪にさわっ …
銭形平次捕物控:125 青い帯(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
その晩、代地のお秀の家で、月見がてら、お秀の師匠に當る、江戸小唄の名人十寸見露光の追善の催しがありました。 丁度八月十五夜で、川開きから三度目の大花火が、兩國橋を中心に引つ切りなし …
読書目安時間:約26分
その晩、代地のお秀の家で、月見がてら、お秀の師匠に當る、江戸小唄の名人十寸見露光の追善の催しがありました。 丁度八月十五夜で、川開きから三度目の大花火が、兩國橋を中心に引つ切りなし …
銭形平次捕物控:125 青い帯(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
その晩、代地のお秀の家で、月見がてら、お秀の師匠に当る、江戸小唄の名人十寸見露光の追善の催しがありました。 ちょうど八月十五夜で、川開きから三度目の大花火が、両国橋を中心に引っ切り …
読書目安時間:約26分
その晩、代地のお秀の家で、月見がてら、お秀の師匠に当る、江戸小唄の名人十寸見露光の追善の催しがありました。 ちょうど八月十五夜で、川開きから三度目の大花火が、両国橋を中心に引っ切り …
銭形平次捕物控:126 辻斬(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「八、厄介なことになつたぜ」 錢形の平次は八丁堀の組屋敷から歸つて來ると、鼻の下を長くして待つてゐる八五郎に、いきなりこんなことを言ふのです。 「何にかお小言ですかえ、親分」 「そ …
読書目安時間:約23分
「八、厄介なことになつたぜ」 錢形の平次は八丁堀の組屋敷から歸つて來ると、鼻の下を長くして待つてゐる八五郎に、いきなりこんなことを言ふのです。 「何にかお小言ですかえ、親分」 「そ …
銭形平次捕物控:126 辻斬(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「八、厄介なことになったぜ」 銭形の平次は八丁堀の組屋敷から帰って来ると、鼻の下を長くして待っている八五郎に、いきなりこんなことを言うのです。 「何かお小言ですかえ、親分」 「それ …
読書目安時間:約23分
「八、厄介なことになったぜ」 銭形の平次は八丁堀の組屋敷から帰って来ると、鼻の下を長くして待っている八五郎に、いきなりこんなことを言うのです。 「何かお小言ですかえ、親分」 「それ …
銭形平次捕物控:127 彌惣の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、何んかかう胸のすくやうなことはありませんかね」 ガラツ八の八五郎は薄寒さうに彌造を構へたまゝ、膝小僧で錢形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立つたのでした。 「 …
読書目安時間:約23分
「親分、何んかかう胸のすくやうなことはありませんかね」 ガラツ八の八五郎は薄寒さうに彌造を構へたまゝ、膝小僧で錢形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立つたのでした。 「 …
銭形平次捕物控:127 弥惣の死(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、何かこう胸のすくようなことはありませんかね」 ガラッ八の八五郎は薄寒そうに弥蔵を構えたまま、膝小僧で銭形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立ったのでした。 「胸 …
読書目安時間:約23分
「親分、何かこう胸のすくようなことはありませんかね」 ガラッ八の八五郎は薄寒そうに弥蔵を構えたまま、膝小僧で銭形平次の家の木戸を押し開けて、狭い庭先へノソリと立ったのでした。 「胸 …
銭形平次捕物控:128 月の隈(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
師走に入ると、寒くてよく晴れた天氣が續きました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盜り騷ぎが次第に繁くなつて、一日々々心せはしく押し詰つた暮の二十一日の眞夜中。 「おや?」 神田鍋町 …
読書目安時間:約22分
師走に入ると、寒くてよく晴れた天氣が續きました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盜り騷ぎが次第に繁くなつて、一日々々心せはしく押し詰つた暮の二十一日の眞夜中。 「おや?」 神田鍋町 …
銭形平次捕物控:128 月の隈(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
師走に入ると、寒くてよく晴れた天気がつづきました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盗り騒ぎがしだいに繁くなって、一日一日心せわしく押し詰った暮の二十一日の真夜中。 「おや?」 神田 …
読書目安時間:約22分
師走に入ると、寒くてよく晴れた天気がつづきました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盗り騒ぎがしだいに繁くなって、一日一日心せわしく押し詰った暮の二十一日の真夜中。 「おや?」 神田 …
銭形平次捕物控:129 お吉お雪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、あれを御存じですかえ」 ガラツ八の八五郎はいきなり飛び込んで來ると、きつかけも脈絡もなく、こんなことを言ふのでした。 「あ、知つてるとも。八五郎が近頃兩國の水茶屋に入り侵つ …
読書目安時間:約23分
「親分、あれを御存じですかえ」 ガラツ八の八五郎はいきなり飛び込んで來ると、きつかけも脈絡もなく、こんなことを言ふのでした。 「あ、知つてるとも。八五郎が近頃兩國の水茶屋に入り侵つ …
銭形平次捕物控:129 お吉お雪(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、あれを御存じですかえ」 ガラッ八の八五郎はいきなり飛び込んで来ると、きっかけも脈絡もなく、こんなことを言うのでした。 「あ、知ってるとも。八五郎が近ごろ両国の水茶屋に入り浸 …
読書目安時間:約23分
「親分、あれを御存じですかえ」 ガラッ八の八五郎はいきなり飛び込んで来ると、きっかけも脈絡もなく、こんなことを言うのでした。 「あ、知ってるとも。八五郎が近ごろ両国の水茶屋に入り浸 …
銭形平次捕物控:130 仏敵(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
不動明王の木像が、その右手に持つた降魔の利劍で、金貸叶屋重三郎を突き殺したといふ、江戸開府以來の大騷ぎがありました。 八百八町には、その日のうちに呼び賣の瓦版が飛んで、街々の髮結床 …
読書目安時間:約27分
不動明王の木像が、その右手に持つた降魔の利劍で、金貸叶屋重三郎を突き殺したといふ、江戸開府以來の大騷ぎがありました。 八百八町には、その日のうちに呼び賣の瓦版が飛んで、街々の髮結床 …
銭形平次捕物控:130 仏敵(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
不動明王の木像が、その右手に持った降魔の利剣で、金貸叶屋重三郎を突き殺したという、江戸開府以来の大騒ぎがありました。 八百八町には、その日のうちに呼び売りの瓦版が飛んで、街々の髪結 …
読書目安時間:約27分
不動明王の木像が、その右手に持った降魔の利剣で、金貸叶屋重三郎を突き殺したという、江戸開府以来の大騒ぎがありました。 八百八町には、その日のうちに呼び売りの瓦版が飛んで、街々の髪結 …
銭形平次捕物控:131 駕籠の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
ガラッ八の八五郎はぼんやり日本橋の上に立っておりました。 御用は大暇、懐中は空っぽ、十手を突っ張らかしてパイ一にあり付くほどの悪気はなく、このあいだ痛めたばかりの銭形の親分のところ …
読書目安時間:約23分
ガラッ八の八五郎はぼんやり日本橋の上に立っておりました。 御用は大暇、懐中は空っぽ、十手を突っ張らかしてパイ一にあり付くほどの悪気はなく、このあいだ痛めたばかりの銭形の親分のところ …
銭形平次捕物控:132 雛の別れ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「こいつは可哀想だ」 錢形平次も思はず顏を反けました。ツイ通りすがりに、本郷五丁目の岡崎屋の娘が——一度は若旦那の許嫁と噂されたお萬といふ美しいのが、怪我で死んだと聽いて顏を出しま …
読書目安時間:約23分
「こいつは可哀想だ」 錢形平次も思はず顏を反けました。ツイ通りすがりに、本郷五丁目の岡崎屋の娘が——一度は若旦那の許嫁と噂されたお萬といふ美しいのが、怪我で死んだと聽いて顏を出しま …
銭形平次捕物控:132 雛の別れ(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「こいつは可哀想だ」 銭形平次も思わず顔を反けました。ツイ通りすがりに、本郷五丁目の岡崎屋の娘が——一度は若旦那の許嫁と噂されたお万という美しいのが、怪我(事故)で死んだと聴いて顔 …
読書目安時間:約23分
「こいつは可哀想だ」 銭形平次も思わず顔を反けました。ツイ通りすがりに、本郷五丁目の岡崎屋の娘が——一度は若旦那の許嫁と噂されたお万という美しいのが、怪我(事故)で死んだと聴いて顔 …
銭形平次捕物控:133 井戸の茶碗(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「フーム」 要屋の隱居山右衞門は、芝神明前のとある夜店の古道具屋の前に突つ立つたきり、暫くは唸つてをりました。 胸が大海の如く立ち騷いで、ボーツと眼が霞みますが、幾度眼を擦つて見直 …
読書目安時間:約21分
「フーム」 要屋の隱居山右衞門は、芝神明前のとある夜店の古道具屋の前に突つ立つたきり、暫くは唸つてをりました。 胸が大海の如く立ち騷いで、ボーツと眼が霞みますが、幾度眼を擦つて見直 …
銭形平次捕物控:133 井戸の茶碗(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「フーム」 要屋の隠居山右衛門は、芝神明前のとある夜店の古道具屋の前に突っ立ったきり、しばらくは唸っておりました。 胸が大海のごとく立ち騒いで、ボーッと眼が霞みますが、幾度眼を擦っ …
読書目安時間:約21分
「フーム」 要屋の隠居山右衛門は、芝神明前のとある夜店の古道具屋の前に突っ立ったきり、しばらくは唸っておりました。 胸が大海のごとく立ち騒いで、ボーッと眼が霞みますが、幾度眼を擦っ …
銭形平次捕物控:134 仏師の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、こいつは変っているでしょう。とって十九の滅法綺麗な新造が仏様と心中したんだから、江戸開府以来の騒ぎだ」 ガラッ八の八五郎は、また変な噂を聴き込んで来ました。 「何をつまらね …
読書目安時間:約23分
「親分、こいつは変っているでしょう。とって十九の滅法綺麗な新造が仏様と心中したんだから、江戸開府以来の騒ぎだ」 ガラッ八の八五郎は、また変な噂を聴き込んで来ました。 「何をつまらね …
銭形平次捕物控:135 火の呪ひ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分」 「何んだ、八。大層あわててゐるぢやないか」 「天下の大事ですぜ、親分」 「大きく出やがつたな。大久保彦左衞門樣見たいな分別臭い顏をどこで仕入れて來たんだ」 錢形の平次は驚 …
読書目安時間:約21分
「親分」 「何んだ、八。大層あわててゐるぢやないか」 「天下の大事ですぜ、親分」 「大きく出やがつたな。大久保彦左衞門樣見たいな分別臭い顏をどこで仕入れて來たんだ」 錢形の平次は驚 …
銭形平次捕物控:135 火の呪い(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「親分」 「何だ、八。大層あわてているじゃないか」 「天下の大事ですぜ、親分」 「大きく出やがったな。大久保彦左衛門様みたいな分別臭い顔をどこで仕入れて来たんだ」 銭形の平次はおど …
読書目安時間:約21分
「親分」 「何だ、八。大層あわてているじゃないか」 「天下の大事ですぜ、親分」 「大きく出やがったな。大久保彦左衛門様みたいな分別臭い顔をどこで仕入れて来たんだ」 銭形の平次はおど …
銭形平次捕物控:136 鐘五郎の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
三河町一丁目の大元締、溝口屋鐘五郎の家は、その晩割れ返るやうな賑ひでした。親分の鐘五郎は四十三歳、後厄の大事な誕生日を迎へた上、新に大々名二軒の出入りを許されて、押しも押されもせぬ …
読書目安時間:約23分
三河町一丁目の大元締、溝口屋鐘五郎の家は、その晩割れ返るやうな賑ひでした。親分の鐘五郎は四十三歳、後厄の大事な誕生日を迎へた上、新に大々名二軒の出入りを許されて、押しも押されもせぬ …
銭形平次捕物控:136 鐘五郎の死(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
三河町一丁目の大元締、溝口屋鐘五郎の家は、その晩割れ返るような賑わいでした。親分の鐘五郎は四十三歳、後厄の大事な誕生日を迎えた上、新たに大大名二軒の出入りを許されて、押しも押されも …
読書目安時間:約23分
三河町一丁目の大元締、溝口屋鐘五郎の家は、その晩割れ返るような賑わいでした。親分の鐘五郎は四十三歳、後厄の大事な誕生日を迎えた上、新たに大大名二軒の出入りを許されて、押しも押されも …
銭形平次捕物控:137 紅い扱帯(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衞は、到頭嫁のお絹を追ひ出した上、伜の染五郎を土藏の二階に閉ぢ籠めてしまひました。 理由はいろ/\ありますが、その第一番に擧げられるのは、染五郎は跡取 …
読書目安時間:約22分
小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衞は、到頭嫁のお絹を追ひ出した上、伜の染五郎を土藏の二階に閉ぢ籠めてしまひました。 理由はいろ/\ありますが、その第一番に擧げられるのは、染五郎は跡取 …
銭形平次捕物控:137 紅い扱帯(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衛は、とうとう嫁のお絹を追い出した上、倅の染五郎を土蔵の二階に閉じ籠めてしまいました。 理由はいろいろありますが、その第一番に挙げられるのは、染五郎は …
読書目安時間:約22分
小網町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衛は、とうとう嫁のお絹を追い出した上、倅の染五郎を土蔵の二階に閉じ籠めてしまいました。 理由はいろいろありますが、その第一番に挙げられるのは、染五郎は …
銭形平次捕物控:138 第廿七吉(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、變なことがありますよ」 八五郎のガラツ八が、長んがい顏を糸瓜棚の下から覗かせた時、錢形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせゝり乍ら、赤蜻蛉の行方を眺めて居りました。この上 …
読書目安時間:約23分
「親分、變なことがありますよ」 八五郎のガラツ八が、長んがい顏を糸瓜棚の下から覗かせた時、錢形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせゝり乍ら、赤蜻蛉の行方を眺めて居りました。この上 …
銭形平次捕物控:138 第廿七吉(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、変なことがありますよ」 八五郎のガラッ八が、長い顔を糸瓜棚の下から覗かせたとき、銭形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせせりながら、赤蜻蛉の行方を眺めておりました。この上 …
読書目安時間:約23分
「親分、変なことがありますよ」 八五郎のガラッ八が、長い顔を糸瓜棚の下から覗かせたとき、銭形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせせりながら、赤蜻蛉の行方を眺めておりました。この上 …
銭形平次捕物控:139 父の遺書(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「お早よう」 ガラツ八の八五郎は、尋常な挨拶をして、愼み深く入つて來ると、お靜のくんで出した温い茶を、お藥湯のやうに押し戴いて、二た口三口啜り乍ら、上眼づかひに四邊を見廻すのでした …
読書目安時間:約24分
「お早よう」 ガラツ八の八五郎は、尋常な挨拶をして、愼み深く入つて來ると、お靜のくんで出した温い茶を、お藥湯のやうに押し戴いて、二た口三口啜り乍ら、上眼づかひに四邊を見廻すのでした …
銭形平次捕物控:139 父の遺書(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「お早う」 ガラッ八の八五郎は、尋常な挨拶をして、慎み深く入って来ると、お静のくんで出した温かい茶を、お薬湯のように押し戴いて、二た口三口啜りながら、上眼づかいに四辺を見廻すのでし …
読書目安時間:約24分
「お早う」 ガラッ八の八五郎は、尋常な挨拶をして、慎み深く入って来ると、お静のくんで出した温かい茶を、お薬湯のように押し戴いて、二た口三口啜りながら、上眼づかいに四辺を見廻すのでし …
銭形平次捕物控:140 五つの命(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎がキナ臭い顏を持ち込んだのは、まだ屠蘇機嫌のぬけ切らぬ、正月六日のことでした。 「何が變なんだ、松の内から借金取でも飛込んだとい …
読書目安時間:約22分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎がキナ臭い顏を持ち込んだのは、まだ屠蘇機嫌のぬけ切らぬ、正月六日のことでした。 「何が變なんだ、松の内から借金取でも飛込んだとい …
銭形平次捕物控:140 五つの命(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎がキナ臭い顔を持ち込んだのは、まだ屠蘇機嫌のぬけ切らぬ、正月六日のことでした。 「何が変なんだ、松の内から借金取りでも飛込んだと …
読書目安時間:約22分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎がキナ臭い顔を持ち込んだのは、まだ屠蘇機嫌のぬけ切らぬ、正月六日のことでした。 「何が変なんだ、松の内から借金取りでも飛込んだと …
銭形平次捕物控:141 二枚の小判(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分の前だが——」 ガラツ八の八五郎は、何やらニヤニヤとしてをります。 「前だか後ろだか知らないが、人の顏を見て、思ひ出し笑ひをするのは罪が深いぜ。何を一體思ひ詰めたんだ」 錢形 …
読書目安時間:約25分
「親分の前だが——」 ガラツ八の八五郎は、何やらニヤニヤとしてをります。 「前だか後ろだか知らないが、人の顏を見て、思ひ出し笑ひをするのは罪が深いぜ。何を一體思ひ詰めたんだ」 錢形 …
銭形平次捕物控:141 二枚の小判(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「親分の前だが——」 ガラッ八の八五郎は、何やらニヤニヤとしております。 「前だか後ろだか知らないが、人の顔を見て、思い出し笑いをするのは罪が深いぜ。何をいったい思い詰めたんだ」 …
読書目安時間:約25分
「親分の前だが——」 ガラッ八の八五郎は、何やらニヤニヤとしております。 「前だか後ろだか知らないが、人の顔を見て、思い出し笑いをするのは罪が深いぜ。何をいったい思い詰めたんだ」 …
銭形平次捕物控:142 権八の罪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「八、居るか」 向柳原の伯母さんの二階に、獨り者の氣樂な朝寢をしてゐる八五郎は、往來から聲を掛けられて、ガバと飛起きました。 障子を細目に開けて見ると、江戸中の櫻の蕾が一夜の中に膨 …
読書目安時間:約21分
「八、居るか」 向柳原の伯母さんの二階に、獨り者の氣樂な朝寢をしてゐる八五郎は、往來から聲を掛けられて、ガバと飛起きました。 障子を細目に開けて見ると、江戸中の櫻の蕾が一夜の中に膨 …
銭形平次捕物控:142 権八の罪(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「八、居るか」 向柳原の叔母さんの二階に、独り者の気楽な朝寝をしている八五郎は、往来から声を掛けられて、ガバと飛起きました。 障子を細目に開けて見ると、江戸中の桜の蕾が一夜の中に膨 …
読書目安時間:約21分
「八、居るか」 向柳原の叔母さんの二階に、独り者の気楽な朝寝をしている八五郎は、往来から声を掛けられて、ガバと飛起きました。 障子を細目に開けて見ると、江戸中の桜の蕾が一夜の中に膨 …
銭形平次捕物控:143 仏喜三郎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「八、久しく顏を見せなかつたな」 錢形の平次は縁側一パイの三文盆栽を片付けて、子分の八五郎の爲に座を作つてやり乍ら、煙草盆を引寄せて、甲斐性のない粉煙草をせゝるのでした。 「へエ、 …
読書目安時間:約21分
「八、久しく顏を見せなかつたな」 錢形の平次は縁側一パイの三文盆栽を片付けて、子分の八五郎の爲に座を作つてやり乍ら、煙草盆を引寄せて、甲斐性のない粉煙草をせゝるのでした。 「へエ、 …
銭形平次捕物控:143 仏喜三郎(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「八、久しく顔を見せなかったな」 銭形の平次は縁側一パイの三文盆栽を片付けて、子分の八五郎のために座を作ってやりながら、煙草盆を引寄せて、甲斐性のない粉煙草をせせるのでした。 「ヘ …
読書目安時間:約21分
「八、久しく顔を見せなかったな」 銭形の平次は縁側一パイの三文盆栽を片付けて、子分の八五郎のために座を作ってやりながら、煙草盆を引寄せて、甲斐性のない粉煙草をせせるのでした。 「ヘ …
銭形平次捕物控:144 茶碗割り(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、ちと出かけちやどうです。花は盛りだし、天氣はよし」 「その上、金がありや申分はないがね」 誘ひに來たガラツ八の八五郎をからかひ乍ら相變らず植木の新芽をいつくしむ錢形の平次だ …
読書目安時間:約21分
「親分、ちと出かけちやどうです。花は盛りだし、天氣はよし」 「その上、金がありや申分はないがね」 誘ひに來たガラツ八の八五郎をからかひ乍ら相變らず植木の新芽をいつくしむ錢形の平次だ …
銭形平次捕物控:144 茶碗割り(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、ちと出かけちゃどうです。花は盛りだし、天気はよし」 「その上、金がありゃ申分はないがね」 誘いに来たガラッ八の八五郎をからかいながら相変らず植木の新芽をいつくしむ銭形の平次 …
読書目安時間:約21分
「親分、ちと出かけちゃどうです。花は盛りだし、天気はよし」 「その上、金がありゃ申分はないがね」 誘いに来たガラッ八の八五郎をからかいながら相変らず植木の新芽をいつくしむ銭形の平次 …
銭形平次捕物控:145 蜘蛛の巣(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分は?お靜さん」 久し振りに來たお品は、挨拶が濟むと、斯う狹い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞——石原の利助の一人娘で、美しさも、悧發さも申分のない女ですが、 …
読書目安時間:約21分
「親分は?お靜さん」 久し振りに來たお品は、挨拶が濟むと、斯う狹い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞——石原の利助の一人娘で、美しさも、悧發さも申分のない女ですが、 …
銭形平次捕物控:145 蜘蛛の巣(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「親分は?お静さん」 久し振りに来たお品は、挨拶が済むと、こう狭い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞——石原の利助の一人娘で、美しさも、悧発さも申分のない女ですが、 …
読書目安時間:約21分
「親分は?お静さん」 久し振りに来たお品は、挨拶が済むと、こう狭い家の中を見廻すのでした。一時は本所で鳴らした御用聞——石原の利助の一人娘で、美しさも、悧発さも申分のない女ですが、 …
銭形平次捕物控:146 秤座政談(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
金座、銀座、錢座、朱座と並んで、江戸幕府の大事な機構の一つに、秤座といふのがありました。天正の頃、守隨兵三郎なる者甲府から江戸に入つて、關東八州の權衡を掌り、後徳川家康の御朱印を頂 …
読書目安時間:約21分
金座、銀座、錢座、朱座と並んで、江戸幕府の大事な機構の一つに、秤座といふのがありました。天正の頃、守隨兵三郎なる者甲府から江戸に入つて、關東八州の權衡を掌り、後徳川家康の御朱印を頂 …
銭形平次捕物控:146 秤座政談(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
金座、銀座、銭座、朱座と並んで、江戸幕府の大事な機構の一つに、秤座というのがありました。天正の頃、守随兵三郎なる者甲府から江戸に入って、関東八州の権衡を掌り、のち徳川家康の御朱印を …
読書目安時間:約21分
金座、銀座、銭座、朱座と並んで、江戸幕府の大事な機構の一つに、秤座というのがありました。天正の頃、守随兵三郎なる者甲府から江戸に入って、関東八州の権衡を掌り、のち徳川家康の御朱印を …
銭形平次捕物控:147 縞の財布(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、元飯田町の騷ぎを御存じですかえ」 「何んだい、元飯田町に何があつたんだ」 ガラツ八の八五郎がヌツと入ると、見通しの縁側に踞んで、朝の煙草にして居る平次は、氣の無い顏を振り向 …
読書目安時間:約21分
「親分、元飯田町の騷ぎを御存じですかえ」 「何んだい、元飯田町に何があつたんだ」 ガラツ八の八五郎がヌツと入ると、見通しの縁側に踞んで、朝の煙草にして居る平次は、氣の無い顏を振り向 …
銭形平次捕物控:147 縞の財布(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、元飯田町の騒ぎを御存じですかえ」 「なんだい、元飯田町に何があったんだ」 ガラッ八の八五郎がヌッと入ると、見通しの縁側に踞んで、朝の煙草にしている平次は、気のない顔を振り向 …
読書目安時間:約21分
「親分、元飯田町の騒ぎを御存じですかえ」 「なんだい、元飯田町に何があったんだ」 ガラッ八の八五郎がヌッと入ると、見通しの縁側に踞んで、朝の煙草にしている平次は、気のない顔を振り向 …
銭形平次捕物控:148 彦徳の面(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、大きな鼻の穴をひろげて、日本一のキナ臭い顏を親分の前へ持つて來たのでした。 「横町の瞽女が嫁に行く話なら知つてるぜ。相手は知 …
読書目安時間:約21分
「親分、變なことがあるんだが——」 ガラツ八の八五郎は、大きな鼻の穴をひろげて、日本一のキナ臭い顏を親分の前へ持つて來たのでした。 「横町の瞽女が嫁に行く話なら知つてるぜ。相手は知 …
銭形平次捕物控:148 彦徳の面(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、大きな鼻の穴をひろげて、日本一のキナ臭い顔を親分の前へ持って来たのでした。 「横町の瞽女が嫁に行く話なら知ってるぜ。相手は知 …
読書目安時間:約21分
「親分、変なことがあるんだが——」 ガラッ八の八五郎は、大きな鼻の穴をひろげて、日本一のキナ臭い顔を親分の前へ持って来たのでした。 「横町の瞽女が嫁に行く話なら知ってるぜ。相手は知 …
銭形平次捕物控:149 遺言状(旧字旧仮名)
読書目安時間:約20分
柳原の土手下、丁度御郡代屋敷前の滅法淋しい處に生首が一つ轉がつて居りました。 朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騷ぎになり、係り合ひの町役人や、彌次馬まで加はつて搜した揚句、間もなく …
読書目安時間:約20分
柳原の土手下、丁度御郡代屋敷前の滅法淋しい處に生首が一つ轉がつて居りました。 朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騷ぎになり、係り合ひの町役人や、彌次馬まで加はつて搜した揚句、間もなく …
銭形平次捕物控:149 遺言状(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
柳原の土手下、ちょうど御郡代屋敷前の滅法淋しいところに生首が一つ転がっておりました。 朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騒ぎになり、係り合いの町役人や、野次馬まで加わって捜した揚句、 …
読書目安時間:約20分
柳原の土手下、ちょうど御郡代屋敷前の滅法淋しいところに生首が一つ転がっておりました。 朝市へ行く八百屋さんが見つけて大騒ぎになり、係り合いの町役人や、野次馬まで加わって捜した揚句、 …
銭形平次捕物控:150 槍の折れ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「八、何處の歸りだ。朝つぱらから、大層遠走りした樣子ぢやないか」 錢形の平次は斯んな調子でガラツ八の八五郎を迎へました。 「わかりますかえ親分、向柳原の叔母の家から來たのぢやないつ …
読書目安時間:約27分
「八、何處の歸りだ。朝つぱらから、大層遠走りした樣子ぢやないか」 錢形の平次は斯んな調子でガラツ八の八五郎を迎へました。 「わかりますかえ親分、向柳原の叔母の家から來たのぢやないつ …
銭形平次捕物控:150 槍の折れ(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「八、どこの帰りだ。朝っぱらから、たいそう遠走りした様子じゃないか」 銭形の平次はこんな調子でガラッ八の八五郎を迎えました。 「わかりますかえ親分、向柳原の叔母の家から来たのじゃな …
読書目安時間:約28分
「八、どこの帰りだ。朝っぱらから、たいそう遠走りした様子じゃないか」 銭形の平次はこんな調子でガラッ八の八五郎を迎えました。 「わかりますかえ親分、向柳原の叔母の家から来たのじゃな …
銭形平次捕物控:151 お銀お玉(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、變な事があるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、鼻をヒクヒクさせ乍ら來たのは、後の月が過ぎて、江戸も冬仕度に忙しいある朝のことでした。 「手紙が來たんだらう、恐ろしい金釘流で …
読書目安時間:約21分
「親分、變な事があるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、鼻をヒクヒクさせ乍ら來たのは、後の月が過ぎて、江戸も冬仕度に忙しいある朝のことでした。 「手紙が來たんだらう、恐ろしい金釘流で …
銭形平次捕物控:152 棟梁の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
深川熊井町の廻船問屋板倉屋萬兵衞、土藏の修覆が出來上がつたお祝ひ心に、出入りの棟梁佐太郎を呼んで、薄寒い後の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでをりました。 酌は醗酵 …
読書目安時間:約31分
深川熊井町の廻船問屋板倉屋萬兵衞、土藏の修覆が出來上がつたお祝ひ心に、出入りの棟梁佐太郎を呼んで、薄寒い後の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでをりました。 酌は醗酵 …
銭形平次捕物控:152 棟梁の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
深川熊井町の廻船問屋板倉屋万兵衛、土蔵の修復が出来上がったお祝い心に、出入りの棟梁佐太郎を呼んで、薄寒い後の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでおりました。 酌は醗酵 …
読書目安時間:約31分
深川熊井町の廻船問屋板倉屋万兵衛、土蔵の修復が出来上がったお祝い心に、出入りの棟梁佐太郎を呼んで、薄寒い後の月を眺めながら、大川を見晴らした、二階座敷で呑んでおりました。 酌は醗酵 …
銭形平次捕物控:153 荒神箒(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「錢形平次親分といふのはお前樣かね」 中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。 老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六を …
読書目安時間:約21分
「錢形平次親分といふのはお前樣かね」 中年輩の駄馬に布子を着せたやうな百姓男が、平次の家の門口にノツソリと立ちました。 老けてゐるのはその澁紙色に焦けた皮膚のせゐで、實は三十五六を …
銭形平次捕物控:154 凧の詭計(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、旅をしませんか、良い陽氣ですぜ」 ガラツ八の八五郎はまた斯んな途方もないことを持込んで來たのです。梅の花はもう梢に黄色くなつてゐるのに、今年の二月は妙に薄寒くて、その日も行 …
読書目安時間:約21分
「親分、旅をしませんか、良い陽氣ですぜ」 ガラツ八の八五郎はまた斯んな途方もないことを持込んで來たのです。梅の花はもう梢に黄色くなつてゐるのに、今年の二月は妙に薄寒くて、その日も行 …
銭形平次捕物控:155 仏像の膝(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、怖い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、息を切らして飛込みました。櫻の莟もふくらんだ、ある麗かな春の日の晝少し前のこと——。 「脅かすなよ。いきなり、飛込んで來やがつ …
読書目安時間:約21分
「親分、怖い話があるんだが——」 ガラツ八の八五郎が、息を切らして飛込みました。櫻の莟もふくらんだ、ある麗かな春の日の晝少し前のこと——。 「脅かすなよ。いきなり、飛込んで來やがつ …
銭形平次捕物控:156 八千両異変(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「親分」 ガラツ八の八五郎が、泳ぐやうに飛込んで來たのは、江戸中の櫻が一ぺんに咲き揃つたやうな、生暖かくも麗らかな或日の朝のことでした。 「なんだ八、大層あわててゐるぢやないか」 …
読書目安時間:約22分
「親分」 ガラツ八の八五郎が、泳ぐやうに飛込んで來たのは、江戸中の櫻が一ぺんに咲き揃つたやうな、生暖かくも麗らかな或日の朝のことでした。 「なんだ八、大層あわててゐるぢやないか」 …
銭形平次捕物控:157 娘の役目(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「八、何んか良い事があるのかい、大層嬉しさうぢやないか」 「へツ、それほどでもありませんよ親分、今朝はほんの少しばかり寢起がいゝだけで——」 ガラツ八と異名で呼ばれる八五郎は、さう …
読書目安時間:約24分
「八、何んか良い事があるのかい、大層嬉しさうぢやないか」 「へツ、それほどでもありませんよ親分、今朝はほんの少しばかり寢起がいゝだけで——」 ガラツ八と異名で呼ばれる八五郎は、さう …
銭形平次捕物控:158 風呂場の秘密(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
その頃の不忍の池は、月雪花の名所で、江戸の一角の別天地として知られました。池の端に軒を連ねた出逢茶屋は戯作、川柳にその繁昌を傳へる江戸人の情痴の舞臺ですが、池のほとりを少し西へ取つ …
読書目安時間:約25分
その頃の不忍の池は、月雪花の名所で、江戸の一角の別天地として知られました。池の端に軒を連ねた出逢茶屋は戯作、川柳にその繁昌を傳へる江戸人の情痴の舞臺ですが、池のほとりを少し西へ取つ …
銭形平次捕物控:159 お此お糸(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「さあ大變だ、親分」 ガラツ八の八五郎は、髷先で春風を掻きわけるやうにすつ飛んで來ました。よく晴れた二月のある朝、何處からともなく聞える小鳥の囀りや、ほんのりと漂ふ梅の花の匂ひをな …
読書目安時間:約26分
「さあ大變だ、親分」 ガラツ八の八五郎は、髷先で春風を掻きわけるやうにすつ飛んで來ました。よく晴れた二月のある朝、何處からともなく聞える小鳥の囀りや、ほんのりと漂ふ梅の花の匂ひをな …
銭形平次捕物控:160 二つの刺青(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、大變な者が來ましたよ」 子分の八五郎、ガラツ八といふ綽名の方がよく通るあわて者ですが、これでも十手捕繩を預かる、下つ端の御用聞には違ひありません。 「何んだ?今更借金取なん …
読書目安時間:約25分
「親分、大變な者が來ましたよ」 子分の八五郎、ガラツ八といふ綽名の方がよく通るあわて者ですが、これでも十手捕繩を預かる、下つ端の御用聞には違ひありません。 「何んだ?今更借金取なん …
銭形平次捕物控:161 酒屋忠僕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、平右衞門町の忠義酒屋といふのを御存じですかえ」 「名前は聞いて居るが、店は知らないよ」 ガラツ八の八五郎は何んかまた事件を嗅ぎ出して來た樣子です。大きな小鼻をふくらませて、 …
読書目安時間:約25分
「親分、平右衞門町の忠義酒屋といふのを御存じですかえ」 「名前は聞いて居るが、店は知らないよ」 ガラツ八の八五郎は何んかまた事件を嗅ぎ出して來た樣子です。大きな小鼻をふくらませて、 …
銭形平次捕物控:162 娘と二千両(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「わツ驚いた、ドブ板が陷穴になつて居るぜ。踏み返したとたんに赤犬が噛み付きさうに吠える仕掛は念入り過ぎやしませんか、親分」 ガラツ八の八五郎は危ふく格子戸につかまつて、件の噛み付く …
読書目安時間:約32分
「わツ驚いた、ドブ板が陷穴になつて居るぜ。踏み返したとたんに赤犬が噛み付きさうに吠える仕掛は念入り過ぎやしませんか、親分」 ガラツ八の八五郎は危ふく格子戸につかまつて、件の噛み付く …
銭形平次捕物控:163 閉された庭(旧字旧仮名)
読書目安時間:約39分
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音の鶯に耳をすまして居りました。 此上もなく天下泰平の姿ですが激 …
読書目安時間:約39分
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音の鶯に耳をすまして居りました。 此上もなく天下泰平の姿ですが激 …
銭形平次捕物控:164 幽霊の手紙(旧字旧仮名)
読書目安時間:約41分
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。 「親分、近頃は暇ですかえ」 …
読書目安時間:約41分
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。 「親分、近頃は暇ですかえ」 …
銭形平次捕物控:165 桐の極印(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、變な奴が來ましたよ」 ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。 「お前よりも變か」 何んといふ挨拶でせう。錢形平次は斯 …
読書目安時間:約25分
「親分、變な奴が來ましたよ」 ガラツ八の八五郎は、長んがい顎を鳶口のやうに安唐紙へ引つ掛けて、二つ三つ瞬きをして見せました。 「お前よりも變か」 何んといふ挨拶でせう。錢形平次は斯 …
銭形平次捕物控:166 花見の果て(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
菊屋傳右衞門の花見船は、兩國稻荷の下に着けて、同勢男女十幾人、ドカドカと廣小路の土を踏みましたが、 「まだ薄明るいぢやないか、橋の上から、もう一度向島を眺め乍ら、一杯やらう」 誰や …
読書目安時間:約27分
菊屋傳右衞門の花見船は、兩國稻荷の下に着けて、同勢男女十幾人、ドカドカと廣小路の土を踏みましたが、 「まだ薄明るいぢやないか、橋の上から、もう一度向島を眺め乍ら、一杯やらう」 誰や …
銭形平次捕物控:167 毒酒(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、今日は、良い陽氣ですぜ。家の中に引つ込んで、煙草の煙の曲藝をやつてゐるのは勿體ないぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るなり、敷居際に突つ立つて、斯んな事を言ふ …
読書目安時間:約27分
「親分、今日は、良い陽氣ですぜ。家の中に引つ込んで、煙草の煙の曲藝をやつてゐるのは勿體ないぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るなり、敷居際に突つ立つて、斯んな事を言ふ …
銭形平次捕物控:168 詭計の豆(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、四谷忍町の小松屋といふのを御存じですか」 「聞いたことがあるやうだな——山の手では分限のうちに數へられてゐる地主か何んかだらう」 錢形平次が狹い庭に下りて、道樂の植木の世話 …
読書目安時間:約21分
「親分、四谷忍町の小松屋といふのを御存じですか」 「聞いたことがあるやうだな——山の手では分限のうちに數へられてゐる地主か何んかだらう」 錢形平次が狹い庭に下りて、道樂の植木の世話 …
銭形平次捕物控:168 詭計の豆(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「親分、四谷忍町の小松屋というのを御存じですか」 「聞いたことがあるようだな——山の手では分限のうちに数えられている地主かなんかだろう」 銭形平次が狭い庭に下りて、道楽の植木の世話 …
読書目安時間:約22分
「親分、四谷忍町の小松屋というのを御存じですか」 「聞いたことがあるようだな——山の手では分限のうちに数えられている地主かなんかだろう」 銭形平次が狭い庭に下りて、道楽の植木の世話 …
銭形平次捕物控:169 櫛の文字(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、良い陽氣ですね」 「何んだ、八にしちや、大層お世辭が良いぢやないか。何にか又頼み度い事があるんだらう。金か御馳走か、それとも色の取持か。どつちだ」 錢形平次と八五郎は、斯ん …
読書目安時間:約24分
「親分、良い陽氣ですね」 「何んだ、八にしちや、大層お世辭が良いぢやないか。何にか又頼み度い事があるんだらう。金か御馳走か、それとも色の取持か。どつちだ」 錢形平次と八五郎は、斯ん …
銭形平次捕物控:170 百足屋殺し(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分、お早やうございます。——お玉ヶ池の邊に、妙な泥棒がはやるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、朝の挨拶と一緒に、斯うニユースを持つて來るのが、長い間の習慣でした。錢形平次に取つ …
読書目安時間:約21分
「親分、お早やうございます。——お玉ヶ池の邊に、妙な泥棒がはやるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、朝の挨拶と一緒に、斯うニユースを持つて來るのが、長い間の習慣でした。錢形平次に取つ …
銭形平次捕物控:171 偽八五郎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「八、お前近頃惡い料簡を起しやしないか。三輪の萬七親分が變なことを言つて居たやうだが——」 八五郎の顏を見ると、錢形平次はニヤリニヤリと笑ひ乍ら、こんな人の惡いことを言ふのです。 …
読書目安時間:約22分
「八、お前近頃惡い料簡を起しやしないか。三輪の萬七親分が變なことを言つて居たやうだが——」 八五郎の顏を見ると、錢形平次はニヤリニヤリと笑ひ乍ら、こんな人の惡いことを言ふのです。 …
銭形平次捕物控:172 神隠し(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分は長い間に隨分多勢の惡者を手掛けたわけですが、その中で何んとしても勘辨ならねエといつた奴があるでせうね」 ガラツ八の八五郎は妙なことを訊ねました。 晩秋のある日、神田の裏長屋 …
読書目安時間:約25分
「親分は長い間に隨分多勢の惡者を手掛けたわけですが、その中で何んとしても勘辨ならねエといつた奴があるでせうね」 ガラツ八の八五郎は妙なことを訊ねました。 晩秋のある日、神田の裏長屋 …
銭形平次捕物控:173 若様の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが——」 初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。 「 …
読書目安時間:約23分
「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが——」 初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。 「 …
銭形平次捕物控:174 髷切り(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「あれを聽いたでせうね、親分」 ガラツ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで來たのです。 「聽いたよ、新造に達引かしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行つ …
読書目安時間:約23分
「あれを聽いたでせうね、親分」 ガラツ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで來たのです。 「聽いたよ、新造に達引かしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行つ …
銭形平次捕物控:174 髷切り(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「あれを聴いたでしょうね、親分」 ガラッ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで来たのです。 「聴いたよ、新造に達引かしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行 …
読書目安時間:約23分
「あれを聴いたでしょうね、親分」 ガラッ八の八五郎は、この薄寒い日に、鼻の頭に汗を掻いて飛込んで来たのです。 「聴いたよ、新造に達引かしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉を見に行 …
銭形平次捕物控:175 子守唄(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、笑つちやいけませんよ」 ガラツ八の八五郎が、いきなりゲラゲラ笑ひながら親分の錢形平次の家へ入つて來たのでした。 「馬鹿野郎。頼まれたつて笑つてやるものか、俺は今腹を立ててゐ …
読書目安時間:約34分
「親分、笑つちやいけませんよ」 ガラツ八の八五郎が、いきなりゲラゲラ笑ひながら親分の錢形平次の家へ入つて來たのでした。 「馬鹿野郎。頼まれたつて笑つてやるものか、俺は今腹を立ててゐ …
銭形平次捕物控:176 一番札(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、あつしはよく/\運が惡いんだね」 ガラツ八の八五郎は、なんがい顎を撫でながら、つく/″\斯んな事をいふのです。そのくせ下がつた眼尻も、天井を向いた鼻も悉く樂天的で、たいして …
読書目安時間:約25分
「親分、あつしはよく/\運が惡いんだね」 ガラツ八の八五郎は、なんがい顎を撫でながら、つく/″\斯んな事をいふのです。そのくせ下がつた眼尻も、天井を向いた鼻も悉く樂天的で、たいして …
銭形平次捕物控:177 生き葬ひ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、向島の藤屋の寮で、今日生き葬ひがあるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、相變らず鼻をヒクヒクさせながらやつて來ました。 「俺はこれから、その生き葬ひへ出かけるところよ。お前も …
読書目安時間:約27分
「親分、向島の藤屋の寮で、今日生き葬ひがあるさうですね」 ガラツ八の八五郎は、相變らず鼻をヒクヒクさせながらやつて來ました。 「俺はこれから、その生き葬ひへ出かけるところよ。お前も …
銭形平次捕物控:178 水垢離(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。火事は幸ひ一軒で濟みましたが、主人勘兵衞が死んだ後、思ひの外の大きい借 …
読書目安時間:約24分
飯田町の地主、朝田屋勘兵衞が死んで間もなく、その豪勢な家が、自火を出して一ぺんに燒けてしまつたことがあります。火事は幸ひ一軒で濟みましたが、主人勘兵衞が死んだ後、思ひの外の大きい借 …
銭形平次捕物控:179 お登世の恋人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
「親分妙なことがありますよ」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るといきなり洒落た懷中煙草入を出して、良い匂ひの煙草を立て續けに二三服喫ひ續けるのでした。 「陽氣のせゐだね。俺の方にも妙 …
読書目安時間:約21分
「親分妙なことがありますよ」 ガラツ八の八五郎は、入つて來るといきなり洒落た懷中煙草入を出して、良い匂ひの煙草を立て續けに二三服喫ひ續けるのでした。 「陽氣のせゐだね。俺の方にも妙 …
銭形平次捕物控:180 罠(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「こいつは驚くぜ、親分」 ガラツ八の八五郎は、相變らず素頓狂な聲を出し乍ら飛込んで來ました。急に春らしくなつて、櫻の蕾がふくらみさうなある日の午頃のことです。 「驚くよ、八五郎が馬 …
読書目安時間:約22分
「こいつは驚くぜ、親分」 ガラツ八の八五郎は、相變らず素頓狂な聲を出し乍ら飛込んで來ました。急に春らしくなつて、櫻の蕾がふくらみさうなある日の午頃のことです。 「驚くよ、八五郎が馬 …
銭形平次捕物控:181 頬の疵(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「わツ、親分」 まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。錢形平次の家の格子戸へ、身體ごと拳骨を叩き付けて、お臍のあたりが破けでもしたやうな、變な聲を出してわ …
読書目安時間:約23分
「わツ、親分」 まだ明けきらぬ路地を、鐵砲玉のやうに飛んで來たガラツ八の八五郎。錢形平次の家の格子戸へ、身體ごと拳骨を叩き付けて、お臍のあたりが破けでもしたやうな、變な聲を出してわ …
銭形平次捕物控:182 尼が紅(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「親分、變なことがあるんだが——」 「お前に言はせると、世の中のことは皆んな變だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも變なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付 …
読書目安時間:約22分
「親分、變なことがあるんだが——」 「お前に言はせると、世の中のことは皆んな變だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも變なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付 …
銭形平次捕物控:182 尼が紅(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「親分、変なことがあるんだが——」 「お前に言わせると、世の中のことは皆んな変だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも変なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付 …
読書目安時間:約22分
「親分、変なことがあるんだが——」 「お前に言わせると、世の中のことは皆んな変だよ。角の荒物屋のお清坊が、八五郎に渡りをつけずに嫁に行くのも変なら、松永町の尼寺の猫の子にさかりが付 …
銭形平次捕物控:183 盗まれた十手(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
兩國の川開きが濟んで間もなく、それは脂汗のにじむやうな、いやに、蒸し暑い晩でした。その頃上方から江戸に入つて來て、八百八町の恐怖になつた、巾着切と騙りの仲間——天滿七之助の身内十何 …
読書目安時間:約23分
兩國の川開きが濟んで間もなく、それは脂汗のにじむやうな、いやに、蒸し暑い晩でした。その頃上方から江戸に入つて來て、八百八町の恐怖になつた、巾着切と騙りの仲間——天滿七之助の身内十何 …
銭形平次捕物控:184 御時計師(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、ちよいと智慧を貸して下さい。大變なものが無くなりましたよ」 ガラツ八の八五郎、相變らずのあわてた調子で、錢形平次の家へ飛び込みました。 江戸の夏を飾る年中行事も一わたり濟ん …
読書目安時間:約24分
「親分、ちよいと智慧を貸して下さい。大變なものが無くなりましたよ」 ガラツ八の八五郎、相變らずのあわてた調子で、錢形平次の家へ飛び込みました。 江戸の夏を飾る年中行事も一わたり濟ん …
銭形平次捕物控:185 歩く死骸(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「八、丁度宜いところだ。實は今お前を呼びにやらうかと思つてゐたところよ」 「へエ、何んか御馳走でもありますかえ」 錢形平次は、斯んな調子で八五郎を迎へました。この頃の暑さで、江戸の …
読書目安時間:約24分
「八、丁度宜いところだ。實は今お前を呼びにやらうかと思つてゐたところよ」 「へエ、何んか御馳走でもありますかえ」 錢形平次は、斯んな調子で八五郎を迎へました。この頃の暑さで、江戸の …
銭形平次捕物控:186 御宰籠(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
「困つたことがあるんだがな、八」 よく/\の事でせう、錢形平次は額に煙草を吸はせて、初秋のケチな庭を眺めるでもなく、ひどく屈托して居るのです。 「なんです、大概のことなら、あつしが …
読書目安時間:約22分
「困つたことがあるんだがな、八」 よく/\の事でせう、錢形平次は額に煙草を吸はせて、初秋のケチな庭を眺めるでもなく、ひどく屈托して居るのです。 「なんです、大概のことなら、あつしが …
銭形平次捕物控:187 二人娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、お願ひ、一つ出かけて下さい。このまゝぢや、あつしの男が立たねえことになります」 相變らず調子外れな八五郎でした。飛び込んで來るといきなり、錢形平次の手でも取つて引立てさうに …
読書目安時間:約25分
「親分、お願ひ、一つ出かけて下さい。このまゝぢや、あつしの男が立たねえことになります」 相變らず調子外れな八五郎でした。飛び込んで來るといきなり、錢形平次の手でも取つて引立てさうに …
銭形平次捕物控:188 お長屋碁会(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
その頃錢形平次は、兇賊木枯の傳次を追つて、東海道を駿府へ、名古屋へ、京へと、揉みに揉んで馳せ上つて一と月近くも留守。 明神下の家に、戀女房のお靜をたつた一人留守番さしては、鼠に引か …
読書目安時間:約24分
その頃錢形平次は、兇賊木枯の傳次を追つて、東海道を駿府へ、名古屋へ、京へと、揉みに揉んで馳せ上つて一と月近くも留守。 明神下の家に、戀女房のお靜をたつた一人留守番さしては、鼠に引か …
銭形平次捕物控:193 色若衆(旧字旧仮名)
読書目安時間:約42分
「變な噂がありますよ、親分」 子分の八五郎がまた何にか嗅ぎつけて來た樣子です。 「何んだ、また五本足の猫の子の見世物ぢやあるまいな」 錢形平次は相變らず白日の夢を追ふやうに、縁側に …
読書目安時間:約42分
「變な噂がありますよ、親分」 子分の八五郎がまた何にか嗅ぎつけて來た樣子です。 「何んだ、また五本足の猫の子の見世物ぢやあるまいな」 錢形平次は相變らず白日の夢を追ふやうに、縁側に …
銭形平次捕物控:194 小便組貞女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、小便組といふのを御存じですかえ」 八五郎は長んがい顎を撫でながら、錢形平次のところへノソリとやつて來ました。 いや、ノソリとやつて來て、火のない長火鉢の前に御輿を据ゑると、 …
読書目安時間:約25分
「親分、小便組といふのを御存じですかえ」 八五郎は長んがい顎を撫でながら、錢形平次のところへノソリとやつて來ました。 いや、ノソリとやつて來て、火のない長火鉢の前に御輿を据ゑると、 …
銭形平次捕物控:195 若党の恋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、間拔けな武家が來ましたよ」 縁側から八五郎の長んがい顎が、路地の外を指さすのです。 梅二月も半ば過ぎ、よく晴れた暖かい日の晝近い時分でした。 「何んといふ口をきくんだ。路地 …
読書目安時間:約25分
「親分、間拔けな武家が來ましたよ」 縁側から八五郎の長んがい顎が、路地の外を指さすのです。 梅二月も半ば過ぎ、よく晴れた暖かい日の晝近い時分でした。 「何んといふ口をきくんだ。路地 …
銭形平次捕物控:196 三つの死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間4分
「お早う、親分」 「何んだ八か、今日あたりはお前の大變が舞ひ込みさうな陽氣だと思つたよ。斯う妙に生暖けえのは唯事ぢやねえ」 庭木戸の上から覗く八五郎の長い顎を見付けて、平次は坐つた …
読書目安時間:約1時間4分
「お早う、親分」 「何んだ八か、今日あたりはお前の大變が舞ひ込みさうな陽氣だと思つたよ。斯う妙に生暖けえのは唯事ぢやねえ」 庭木戸の上から覗く八五郎の長い顎を見付けて、平次は坐つた …
銭形平次捕物控:197 罠に落ちた女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「八、丁度宜いところだ。今お前を呼びにやらうと思つて居たが——」 平次はお勝手口から八五郎の迎へに飛び出さうとして居る女房のお靜を呼び留めて、改めてドブ板を高々と踏み鳴らして來る、 …
読書目安時間:約24分
「八、丁度宜いところだ。今お前を呼びにやらうと思つて居たが——」 平次はお勝手口から八五郎の迎へに飛び出さうとして居る女房のお靜を呼び留めて、改めてドブ板を高々と踏み鳴らして來る、 …
銭形平次捕物控:198 狼の牙(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
順風耳の八五郎は、相變らず毎日一つくらゐづつは、江戸中から新聞種を掻き集めて來るのでした。 その中には隨分愚にもつかぬものがあり、十中八九は聞流しにしてしまひますが、中には無精者の …
読書目安時間:約26分
順風耳の八五郎は、相變らず毎日一つくらゐづつは、江戸中から新聞種を掻き集めて來るのでした。 その中には隨分愚にもつかぬものがあり、十中八九は聞流しにしてしまひますが、中には無精者の …
銭形平次捕物控:199 蹄の跡(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、あつしはもう癪にさはつて——」 ガラツ八の八五郎は、拳骨で獅子ツ鼻の頭を撫で乍ら、明神下の平次の家へ飛び込んで來ました。 江戸の町が青葉で綴られて、薫風と五月の陽光が長屋の …
読書目安時間:約23分
「親分、あつしはもう癪にさはつて——」 ガラツ八の八五郎は、拳骨で獅子ツ鼻の頭を撫で乍ら、明神下の平次の家へ飛び込んで來ました。 江戸の町が青葉で綴られて、薫風と五月の陽光が長屋の …
銭形平次捕物控:200 死骸の花嫁(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「あツ、大變。嫁御が死んでゐる」 駕籠の戸を押しあけた仲人の伊賀屋源六は、まさに完全に尻餅をつきました。 「何?」 「そんな馬鹿なことが」 伊賀屋源六が大地を這ひ廻る後ろから、六つ …
読書目安時間:約25分
「あツ、大變。嫁御が死んでゐる」 駕籠の戸を押しあけた仲人の伊賀屋源六は、まさに完全に尻餅をつきました。 「何?」 「そんな馬鹿なことが」 伊賀屋源六が大地を這ひ廻る後ろから、六つ …
銭形平次捕物控:200 死骸の花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
「あッ、大変、嫁御が死んでいる」 駕籠の戸を押しあけた仲人の伊賀屋源六は、まさに完全に尻餅をつきました。 「何?」 「そんな馬鹿なことが」 伊賀屋源六が大地を這い廻る後ろから、六つ …
読書目安時間:約25分
「あッ、大変、嫁御が死んでいる」 駕籠の戸を押しあけた仲人の伊賀屋源六は、まさに完全に尻餅をつきました。 「何?」 「そんな馬鹿なことが」 伊賀屋源六が大地を這い廻る後ろから、六つ …
銭形平次捕物控:201 凉み船(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
兩國橋を中心に、大川の水の上にくり擴げられた夏の夜の大歡樂の中を、龜澤町の家主里見屋吉兵衞の凉み船は、上手へ、上手へと漕いで行きました。 船は大型の屋形で、乘つて居るのは主人吉兵衞 …
読書目安時間:約24分
兩國橋を中心に、大川の水の上にくり擴げられた夏の夜の大歡樂の中を、龜澤町の家主里見屋吉兵衞の凉み船は、上手へ、上手へと漕いで行きました。 船は大型の屋形で、乘つて居るのは主人吉兵衞 …
銭形平次捕物控:202 隠し念仏(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、親分が一番憎いのは何んとか言ひましたネ」 ガラツ八の八五郎、入つて來るといきなりお先煙草の烟管を引寄せて、斯んな途徹もないことを言ふのです。 初秋の陽足は疊の目を這ひ上がつ …
読書目安時間:約25分
「親分、親分が一番憎いのは何んとか言ひましたネ」 ガラツ八の八五郎、入つて來るといきなりお先煙草の烟管を引寄せて、斯んな途徹もないことを言ふのです。 初秋の陽足は疊の目を這ひ上がつ …
銭形平次捕物控:203 死人の手紙(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、死んだ人間が手紙を書くものでせうか」 あわて者のガラツ八は、今日もまた變梃なネタを嗅ぎ出して來た樣子です。 町庇の影が漸く深くなつて、江戸の秋色も一段とこまやかな菊月のある …
読書目安時間:約26分
「親分、死んだ人間が手紙を書くものでせうか」 あわて者のガラツ八は、今日もまた變梃なネタを嗅ぎ出して來た樣子です。 町庇の影が漸く深くなつて、江戸の秋色も一段とこまやかな菊月のある …
銭形平次捕物控:204 美女罪あり(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、變な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎、横つ飛びに路地を突つきつて、庭口から洗濯物をかきわけながら、バアと縁側へ顏を出しました。神田明神下の錢形平次の住居、秋の朝陽が長々 …
読書目安時間:約25分
「親分、變な野郎が來ましたぜ」 ガラツ八の八五郎、横つ飛びに路地を突つきつて、庭口から洗濯物をかきわけながら、バアと縁側へ顏を出しました。神田明神下の錢形平次の住居、秋の朝陽が長々 …
銭形平次捕物控:205 権三は泣く(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「考へて見ると不思議なものぢやありませんか。ね、親分」 八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのでした。明神下の錢形平次の家の晝下がり、煎餅のお盆を空つぽにして、豆板を三四枚平らげて、 …
読書目安時間:約25分
「考へて見ると不思議なものぢやありませんか。ね、親分」 八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのでした。明神下の錢形平次の家の晝下がり、煎餅のお盆を空つぽにして、豆板を三四枚平らげて、 …
銭形平次捕物控:208 青銭と鍵(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、良い天氣ですぜ。チラホラ梅は咲いてゐるし、お小遣はフンダンにあるし——」 「嘘をつきやがれ。梅の咲いたのは俺だつて知つてゐるが、八五郎の財布にお小遣がフンダンにあるわけはな …
読書目安時間:約25分
「親分、良い天氣ですぜ。チラホラ梅は咲いてゐるし、お小遣はフンダンにあるし——」 「嘘をつきやがれ。梅の咲いたのは俺だつて知つてゐるが、八五郎の財布にお小遣がフンダンにあるわけはな …
銭形平次捕物控:209 浮世絵の女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約41分
「親分、聽いたでせう?」 ガラツ八の八五郎は、鐵砲玉のやうに飛び込んで來ると、格子戸と鉢合せをして、二つ三つキリキリ舞ひをして、バアと狹い土間へ長んがい顎を突き出すのです。 「聽い …
読書目安時間:約41分
「親分、聽いたでせう?」 ガラツ八の八五郎は、鐵砲玉のやうに飛び込んで來ると、格子戸と鉢合せをして、二つ三つキリキリ舞ひをして、バアと狹い土間へ長んがい顎を突き出すのです。 「聽い …
銭形平次捕物控:210 飛ぶ女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約37分
「親分、お早やうございます。今日も暑くなりさうですね」 御馴染の八五郎、神妙に格子を開けて、見透しの六疊に所在なさの煙草にしてゐる錢形平次に聲を掛けました。 「大層丁寧な口をきくぢ …
読書目安時間:約37分
「親分、お早やうございます。今日も暑くなりさうですね」 御馴染の八五郎、神妙に格子を開けて、見透しの六疊に所在なさの煙草にしてゐる錢形平次に聲を掛けました。 「大層丁寧な口をきくぢ …
銭形平次捕物控:211 遠眼鏡の殿様(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「へツへツ、へツ、へツ、近頃は暇で/\困りやしませんか、親分」 「馬鹿だなア、人の面を見て、いきなりタガが外れたやうに笑ひ出しやがつて」 江戸の名物男——捕物の名人錢形平次と、その …
読書目安時間:約32分
「へツへツ、へツ、へツ、近頃は暇で/\困りやしませんか、親分」 「馬鹿だなア、人の面を見て、いきなりタガが外れたやうに笑ひ出しやがつて」 江戸の名物男——捕物の名人錢形平次と、その …
銭形平次捕物控:211 遠眼鏡の殿様(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「ヘッヘッ、ヘッ、ヘッ、近頃は暇で暇で困りゃしませんか、親分」 「馬鹿だなア、人の面を見て、いきなりタガが外れたように笑い出しやがって」 「でも、銭形の親分ともあろう者が、日向にと …
読書目安時間:約32分
「ヘッヘッ、ヘッ、ヘッ、近頃は暇で暇で困りゃしませんか、親分」 「馬鹿だなア、人の面を見て、いきなりタガが外れたように笑い出しやがって」 「でも、銭形の親分ともあろう者が、日向にと …
銭形平次捕物控:212 妹の扱帯(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、凄いのが來ましたぜ。へツ」 「何が來たんだ。大家か借金取か、それともモモンガアか」 庭木戸を彈き飛ばすやうに飛び込んで來たガラツ八の八五郎は、相變らず縁側にとぐろを卷いて、 …
読書目安時間:約34分
「親分、凄いのが來ましたぜ。へツ」 「何が來たんだ。大家か借金取か、それともモモンガアか」 庭木戸を彈き飛ばすやうに飛び込んで來たガラツ八の八五郎は、相變らず縁側にとぐろを卷いて、 …
銭形平次捕物控:213 一と目千両(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、東兩國に大層な小屋が建ちましたね。あツしは人に誘はれて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さといふものは」 八五郎は相變らず江戸中のニユースを掻き集めて、親分の錢形平次のとこ …
読書目安時間:約27分
「親分、東兩國に大層な小屋が建ちましたね。あツしは人に誘はれて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さといふものは」 八五郎は相變らず江戸中のニユースを掻き集めて、親分の錢形平次のとこ …
銭形平次捕物控:213 一と目千両(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、東両国にたいそうな小屋が建ちましたね。あッしは人に誘われて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さというものは」 八五郎は相変らず江戸中のニュースを掻き集めて、親分の銭形平次の …
読書目安時間:約27分
「親分、東両国にたいそうな小屋が建ちましたね。あッしは人に誘われて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さというものは」 八五郎は相変らず江戸中のニュースを掻き集めて、親分の銭形平次の …
銭形平次捕物控:214 鼬小僧の正体(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、お早うございます」 「あれ、大層行儀がよくなつたぢやないか、八」 錢形平次は膽をつぶしました。彌造も拔かずに、敷居際に突つ立つて『お早う』などと顎をしやくる八五郎が、今日は …
読書目安時間:約26分
「親分、お早うございます」 「あれ、大層行儀がよくなつたぢやないか、八」 錢形平次は膽をつぶしました。彌造も拔かずに、敷居際に突つ立つて『お早う』などと顎をしやくる八五郎が、今日は …
銭形平次捕物控:215 妾の貞操(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「ウーム」 加賀屋勘兵衞は恐ろしい夢から覺めて、思はず唸りました。部屋一パイにこめて居るのは、七味唐辛子をブチ撒けたやうな、凄い煙で、その煙を劈ざいて、稻妻の走ると見たのは、雨戸か …
読書目安時間:約27分
「ウーム」 加賀屋勘兵衞は恐ろしい夢から覺めて、思はず唸りました。部屋一パイにこめて居るのは、七味唐辛子をブチ撒けたやうな、凄い煙で、その煙を劈ざいて、稻妻の走ると見たのは、雨戸か …
銭形平次捕物控:216 邪恋の償ひ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
早春のよく晴れた陽を浴びて、植木の世話をしてゐる平次の後ろから、 「親分、逢つてやつて下さいよ。枝からもぎ立ての桃のやうに、銀色のうぶ毛の生えた可愛らしい娘ですがね」 八五郎は拇指 …
読書目安時間:約29分
早春のよく晴れた陽を浴びて、植木の世話をしてゐる平次の後ろから、 「親分、逢つてやつて下さいよ。枝からもぎ立ての桃のやうに、銀色のうぶ毛の生えた可愛らしい娘ですがね」 八五郎は拇指 …
銭形平次捕物控:217 歎きの幽沢(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「親分、世の中には變な野郎があるもんですね」 八五郎は彌造を二つ拵へたまゝ、フラリと庭へ入つて來ました。 朝のうちから眞珠色の霞がこめて、トロトロと眠くなる四月のある日。 「顎で木 …
読書目安時間:約27分
「親分、世の中には變な野郎があるもんですね」 八五郎は彌造を二つ拵へたまゝ、フラリと庭へ入つて來ました。 朝のうちから眞珠色の霞がこめて、トロトロと眠くなる四月のある日。 「顎で木 …
銭形平次捕物控:218 心中崩れ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
心中でもしようといふ者にとつて、その晩はまことに申分のない美しい夜でした。 青葉の風が衣袂に薫じて、十三夜の月も泣いてゐるやうな大川端、道がこのまゝあの世とやらに通じてゐるものなら …
読書目安時間:約32分
心中でもしようといふ者にとつて、その晩はまことに申分のない美しい夜でした。 青葉の風が衣袂に薫じて、十三夜の月も泣いてゐるやうな大川端、道がこのまゝあの世とやらに通じてゐるものなら …
銭形平次捕物控:219 鐘の音(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」 ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。 五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく …
読書目安時間:約30分
「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」 ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。 五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく …
銭形平次捕物控:220 猿蟹合戦(旧字旧仮名)
読書目安時間:約54分
「日本一の面白い話があるんですが、親分」 ガラツ八の八五郎、こみ上げる笑ひを噛みしめながら、ニヤリニヤリと入つて來るのです。 六月になつたばかり、明神樣の森がからりと晴れて、久し振 …
読書目安時間:約54分
「日本一の面白い話があるんですが、親分」 ガラツ八の八五郎、こみ上げる笑ひを噛みしめながら、ニヤリニヤリと入つて來るのです。 六月になつたばかり、明神樣の森がからりと晴れて、久し振 …
銭形平次捕物控:221 晒し場は招く(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、日本橋の騷ぎを御存じですかえ」 「知らないよ。晒し物でもあつたのか、——相對死の片割れなんかを、ぼんやり眺めてゐるのは殺生だぜ」 平次は氣のない顏をして、自分の膝つ小僧を抱 …
読書目安時間:約31分
「親分、日本橋の騷ぎを御存じですかえ」 「知らないよ。晒し物でもあつたのか、——相對死の片割れなんかを、ぼんやり眺めてゐるのは殺生だぜ」 平次は氣のない顏をして、自分の膝つ小僧を抱 …
銭形平次捕物控:222 乗合舟(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
八五郎は獨りで、向島へ行つた歸り、まだ陽は高いし、秋日和は快適だし、赤トンボに誘はれるやうな心持で、フラフラと橋場の渡し舟に乘つて居りました。 懷中はあまり豐かでないが、新鳥越の知 …
読書目安時間:約32分
八五郎は獨りで、向島へ行つた歸り、まだ陽は高いし、秋日和は快適だし、赤トンボに誘はれるやうな心持で、フラフラと橋場の渡し舟に乘つて居りました。 懷中はあまり豐かでないが、新鳥越の知 …
銭形平次捕物控:223 三つの菓子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
谷中三崎町に、小大名の下屋敷ほどの構へで、界隈を睥睨してゐる有徳の町人丁子屋善兵衞。日本橋の目貫にあつた、數代傳はる唐物屋の店を賣つて、その金を高利に廻し、贅澤と風流と、女道樂に浮 …
読書目安時間:約28分
谷中三崎町に、小大名の下屋敷ほどの構へで、界隈を睥睨してゐる有徳の町人丁子屋善兵衞。日本橋の目貫にあつた、數代傳はる唐物屋の店を賣つて、その金を高利に廻し、贅澤と風流と、女道樂に浮 …
銭形平次捕物控:224 五つの壺(旧字旧仮名)
読書目安時間:約34分
「親分、長い間お世話になりましたが——」 八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのです。まだ火の入らない長火鉢の前、お茶をのんで煙草をふかして、煙草を呑んでお茶を啜つて、五尺八寸の身體 …
読書目安時間:約34分
「親分、長い間お世話になりましたが——」 八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのです。まだ火の入らない長火鉢の前、お茶をのんで煙草をふかして、煙草を呑んでお茶を啜つて、五尺八寸の身體 …
銭形平次捕物控:225 女護の島異変(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間3分
「親分、面白い話がありますよ」 お馴染のガラツ八こと八五郎、髷節へ赤蜻蛉を留めたまゝ、明神下の錢形平次の家へ、庭木戸を押しあけて、ノソリと入つて來ました。庭一パイの秋の陽に、長んが …
読書目安時間:約1時間3分
「親分、面白い話がありますよ」 お馴染のガラツ八こと八五郎、髷節へ赤蜻蛉を留めたまゝ、明神下の錢形平次の家へ、庭木戸を押しあけて、ノソリと入つて來ました。庭一パイの秋の陽に、長んが …
銭形平次捕物控:226 名画紛失(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「八、大變なことがあるさうぢやないか」 江戸開府以來と言はれた、捕物の名人錢形平次は、粉煙草の煙りを輪に吹きながら、いとも寛々たる態度で、飛び込んで來た子分の八五郎に、かう浴びせる …
読書目安時間:約26分
「八、大變なことがあるさうぢやないか」 江戸開府以來と言はれた、捕物の名人錢形平次は、粉煙草の煙りを輪に吹きながら、いとも寛々たる態度で、飛び込んで來た子分の八五郎に、かう浴びせる …
銭形平次捕物控:227 怪盗系図(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間20分
「親分、良い心持じゃありませんか。腹は一ぺえだし、酔い心地も申し分なし、陽気が春で、女の子が大騒ぎをすると来ちゃ——」 ガラッ八の八五郎は、長んがい顔を撫でて、舌嘗ずりしながら、銭 …
読書目安時間:約5時間20分
「親分、良い心持じゃありませんか。腹は一ぺえだし、酔い心地も申し分なし、陽気が春で、女の子が大騒ぎをすると来ちゃ——」 ガラッ八の八五郎は、長んがい顔を撫でて、舌嘗ずりしながら、銭 …
銭形平次捕物控:229 蔵の中の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、驚いちやいけませんよ」 毎日江戸中のニユースを掻き集めて、八丁堀の組屋敷から、南北兩町奉行所まで、萬遍なく驅け廻らなきや、足がムズムズして寢つかれないといふ、小判形の八五郎 …
読書目安時間:約32分
「親分、驚いちやいけませんよ」 毎日江戸中のニユースを掻き集めて、八丁堀の組屋敷から、南北兩町奉行所まで、萬遍なく驅け廻らなきや、足がムズムズして寢つかれないといふ、小判形の八五郎 …
銭形平次捕物控:230 艶妻伝(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、あツしもいよ/\來年は三十ですね」 錢形平次の子分、愛稱ガラツ八こと八五郎は、つく/″\こんなことを言つて、深刻な顏をするのでした。 「馬鹿だなア、松が取れたばかりぢやない …
読書目安時間:約25分
「親分、あツしもいよ/\來年は三十ですね」 錢形平次の子分、愛稱ガラツ八こと八五郎は、つく/″\こんなことを言つて、深刻な顏をするのでした。 「馬鹿だなア、松が取れたばかりぢやない …
銭形平次捕物控:231 鍵の穴(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「わツ驚いたの驚かねえの」 ガラツ八といふ安値な異名で通る八五郎は、五月の朝の陽を一パイに浴びた格子の中へ、張板を蹴飛ばして、一陣の疾風のやうに飛び込むのでした。 「此方が番毎驚く …
読書目安時間:約31分
「わツ驚いたの驚かねえの」 ガラツ八といふ安値な異名で通る八五郎は、五月の朝の陽を一パイに浴びた格子の中へ、張板を蹴飛ばして、一陣の疾風のやうに飛び込むのでした。 「此方が番毎驚く …
銭形平次捕物控:232 青葉の寮(旧字旧仮名)
読書目安時間:約56分
「親分、この世の中といふものは——」 愛稱ガラツ八の八五郎が、お先煙草を五匁ほど燻じて、鐵瓶を一パイ空つぽにして、さてこんな事を言ひ出すのです。 「止せやい、道話の枕ぢやあるめえし …
読書目安時間:約56分
「親分、この世の中といふものは——」 愛稱ガラツ八の八五郎が、お先煙草を五匁ほど燻じて、鐵瓶を一パイ空つぽにして、さてこんな事を言ひ出すのです。 「止せやい、道話の枕ぢやあるめえし …
銭形平次捕物控:233 鬼の面(旧字旧仮名)
読書目安時間:約58分
「親分、良い新造が來たでせう。かう小股のきれ上がつた、色白で、ポチヤポチヤした」 「馬鹿野郎」 錢形平次は思はず一喝を食はせました。上がり框から這ひ込むやうに、まだ朝の膳も片付かな …
読書目安時間:約58分
「親分、良い新造が來たでせう。かう小股のきれ上がつた、色白で、ポチヤポチヤした」 「馬鹿野郎」 錢形平次は思はず一喝を食はせました。上がり框から這ひ込むやうに、まだ朝の膳も片付かな …
銭形平次捕物控:233 鬼の面(新字新仮名)
読書目安時間:約58分
「親分、良い新造が来たでしょう、こう小股の切上った、白色で、ポチャ/\した」 「馬鹿野郎」 銭形平次は思わず一喝を食わせました。上り框から這い込むように、まだ朝の膳も片付かない茶の …
読書目安時間:約58分
「親分、良い新造が来たでしょう、こう小股の切上った、白色で、ポチャ/\した」 「馬鹿野郎」 銭形平次は思わず一喝を食わせました。上り框から這い込むように、まだ朝の膳も片付かない茶の …
銭形平次捕物控:236 夕立の女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約52分
江戸八百八丁が、たつた四半刻のうちに洗ひ流されるのではあるまいか——と思ふほどの大夕立でした。 「わツ、たまらねえ。何處かかう小鬢のあたりが焦げちやゐませんか、見て下さいよ」 一陣 …
読書目安時間:約52分
江戸八百八丁が、たつた四半刻のうちに洗ひ流されるのではあるまいか——と思ふほどの大夕立でした。 「わツ、たまらねえ。何處かかう小鬢のあたりが焦げちやゐませんか、見て下さいよ」 一陣 …
銭形平次捕物控:236 夕立の女(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
江戸八百八町が、たった四半刻のうちに洗い流されるのではあるまいか——と思うほどの大夕立でした。 「わッ、たまらねえ、何処かこう小鬢のあたりが焦げちゃ居ませんか、見て下さいよ」 一陣 …
読書目安時間:約53分
江戸八百八町が、たった四半刻のうちに洗い流されるのではあるまいか——と思うほどの大夕立でした。 「わッ、たまらねえ、何処かこう小鬢のあたりが焦げちゃ居ませんか、見て下さいよ」 一陣 …
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒(旧字旧仮名)
読書目安時間:約50分
運座の歸り、吾妻屋永左衞門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いでをりました。 八朔の宵から豪雨になつて亥刻(十時)近い頃は漸くこやみになりましたが、店から屆けてくれた …
読書目安時間:約50分
運座の歸り、吾妻屋永左衞門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いでをりました。 八朔の宵から豪雨になつて亥刻(十時)近い頃は漸くこやみになりましたが、店から屆けてくれた …
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
運座の帰り、吾妻屋永左衛門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いで居りました。 八朔の宵から豪雨になって亥刻(十時)近い頃は漸く小止みになりましたが、店から届けてくれた …
読書目安時間:約50分
運座の帰り、吾妻屋永左衛門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いで居りました。 八朔の宵から豪雨になって亥刻(十時)近い頃は漸く小止みになりましたが、店から届けてくれた …
銭形平次捕物控:238 恋患ひ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約51分
「親分は、戀の病ひといふのをやつたことがありますか」 ガラツ八の八五郎は、たいして極りを惡がりもせずに、人樣にこんなことを訊く人間だつたのです。 素晴らしい秋日和、夏の行事は一とわ …
読書目安時間:約51分
「親分は、戀の病ひといふのをやつたことがありますか」 ガラツ八の八五郎は、たいして極りを惡がりもせずに、人樣にこんなことを訊く人間だつたのです。 素晴らしい秋日和、夏の行事は一とわ …
銭形平次捕物控:238 恋患い(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
「親分は、恋の病というのをやったことがありますか」 ガラ八の八五郎は、大した極りを悪がりもせずに、人様にこんなことを訊く人間だったのです。 素晴らしい秋日和、夏の行事は一とわたり済 …
読書目安時間:約51分
「親分は、恋の病というのをやったことがありますか」 ガラ八の八五郎は、大した極りを悪がりもせずに、人様にこんなことを訊く人間だったのです。 素晴らしい秋日和、夏の行事は一とわたり済 …
銭形平次捕物控:239 群盗(旧字旧仮名)
読書目安時間:約54分
「親分、ありや何んです」 觀音樣にお詣りした歸り、雷門へ出ると、人混みの中に大變な騷ぎが始まつてをりました。眼の早い八五郎は、早くもそれを見つけて、尻を端折りかけるのです。 「待ち …
読書目安時間:約54分
「親分、ありや何んです」 觀音樣にお詣りした歸り、雷門へ出ると、人混みの中に大變な騷ぎが始まつてをりました。眼の早い八五郎は、早くもそれを見つけて、尻を端折りかけるのです。 「待ち …
銭形平次捕物控:239 群盗(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
「親分、ありゃ何んです」 観音様にお詣りした帰り、雷門へ出ると、人混みの中に大変な騒ぎが始まって居りました。眼の早い八五郎は、早くもそれを見付けて、尻を端折りかけるのです。 「待ち …
読書目安時間:約54分
「親分、ありゃ何んです」 観音様にお詣りした帰り、雷門へ出ると、人混みの中に大変な騒ぎが始まって居りました。眼の早い八五郎は、早くもそれを見付けて、尻を端折りかけるのです。 「待ち …
銭形平次捕物控:241 人違い殺人(新字新仮名)
読書目安時間:約52分
「親分、世の中にこの綺麗なものを見ると痛めつけたくなるというのは、一番悪い量見じゃありませんか、ね」 八五郎が入って来ると、いきなりお先煙草を五、六服、さて、感に堪えたように、こん …
読書目安時間:約52分
「親分、世の中にこの綺麗なものを見ると痛めつけたくなるというのは、一番悪い量見じゃありませんか、ね」 八五郎が入って来ると、いきなりお先煙草を五、六服、さて、感に堪えたように、こん …
銭形平次捕物控:242 腰抜け彌八(新字新仮名)
読書目安時間:約52分
「親分、近頃は滅多に両国へも行きませんね」 八五郎は相変らず何んかネタを持って来た様子です。立てっ続けに煙草を五、六服、鉄拐仙人のように、小鼻をふくらませて天井を睨んで、さてと言っ …
読書目安時間:約52分
「親分、近頃は滅多に両国へも行きませんね」 八五郎は相変らず何んかネタを持って来た様子です。立てっ続けに煙草を五、六服、鉄拐仙人のように、小鼻をふくらませて天井を睨んで、さてと言っ …
銭形平次捕物控:243 猿回し(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
その頃江戸中を荒した、凶賊黒旋風には、さすがの銭形平次も全く手を焼いてしまいました。 本郷、神田、小石川へかけて、町木戸の無いところを選って、三夜に一軒、五日に二軒、どうかするとそ …
読書目安時間:約51分
その頃江戸中を荒した、凶賊黒旋風には、さすがの銭形平次も全く手を焼いてしまいました。 本郷、神田、小石川へかけて、町木戸の無いところを選って、三夜に一軒、五日に二軒、どうかするとそ …
銭形平次捕物控:244 凧の糸目(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
すべて恋をするものの他愛なさ、——八五郎はそれをこう説明するのでした。 「ね、親分、——笑わないで下さいよ——あっしはもう」 「どうしたえ、臍が痒いって図じゃないか」 「臍も踵も痒 …
読書目安時間:約41分
すべて恋をするものの他愛なさ、——八五郎はそれをこう説明するのでした。 「ね、親分、——笑わないで下さいよ——あっしはもう」 「どうしたえ、臍が痒いって図じゃないか」 「臍も踵も痒 …
銭形平次捕物控:245 春宵(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
その晩、出雲屋の小梅の寮は、ハチ切れそうな騒ぎでした。 出雲屋の主人、岩太郎が、野幇間の奇月の仲人で、新たにお滝という召使を雇い入れ、その御披露やらお祝やらを兼ねて、通人出雲屋岩太 …
読書目安時間:約51分
その晩、出雲屋の小梅の寮は、ハチ切れそうな騒ぎでした。 出雲屋の主人、岩太郎が、野幇間の奇月の仲人で、新たにお滝という召使を雇い入れ、その御披露やらお祝やらを兼ねて、通人出雲屋岩太 …
銭形平次捕物控:246 万両分限(旧字旧仮名)
読書目安時間:約51分
「世の中に何が臆病と言つたつて、二本差の武家ほど氣の小さいものはありませんね」 八五郎はまた、途方もない哲學を持ち込んで來るのです。 「お前の言ふことは、一々調子ツ外れだよ、武家が …
読書目安時間:約51分
「世の中に何が臆病と言つたつて、二本差の武家ほど氣の小さいものはありませんね」 八五郎はまた、途方もない哲學を持ち込んで來るのです。 「お前の言ふことは、一々調子ツ外れだよ、武家が …
銭形平次捕物控:246 万両分限(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
「世の中に何が臆病と言ったって、二本差の武家ほど気の小さいものはありませんね」 八五郎はまた、途方もない哲学を持ち込んで来るのです。 「お前の言うことは、一々調子ッ外れだよ、武家が …
読書目安時間:約51分
「世の中に何が臆病と言ったって、二本差の武家ほど気の小さいものはありませんね」 八五郎はまた、途方もない哲学を持ち込んで来るのです。 「お前の言うことは、一々調子ッ外れだよ、武家が …
銭形平次捕物控:247 女御用聞き(旧字旧仮名)
読書目安時間:約49分
「あ、錢形の兄さん」 平次は兩國橋の上で呼留められました。四月の末のある朝、申分なく晴れた淺黄空、初鰹魚の呼び聲も聽えさうな、さながら江戸名所圖繪の一とこまと言つた風情でした。 「 …
読書目安時間:約49分
「あ、錢形の兄さん」 平次は兩國橋の上で呼留められました。四月の末のある朝、申分なく晴れた淺黄空、初鰹魚の呼び聲も聽えさうな、さながら江戸名所圖繪の一とこまと言つた風情でした。 「 …
銭形平次捕物控:248 屠蘇の杯(旧字旧仮名)
読書目安時間:約46分
「親分、大變ツ」 日本一の淺黄空、江戸の町々は漸く活氣づいて、晴がましい初日の光の中に動き出した時、八五郎はあわてふためいて、明神下の平次の家へ飛び込んで來たのです。 「何んて騷々 …
読書目安時間:約46分
「親分、大變ツ」 日本一の淺黄空、江戸の町々は漸く活氣づいて、晴がましい初日の光の中に動き出した時、八五郎はあわてふためいて、明神下の平次の家へ飛び込んで來たのです。 「何んて騷々 …
銭形平次捕物控:249 富士見の塔(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、金持になつて見たくはありませんか」 八五郎はまた途方もない話を持ち込んで來たのです。やがて春の彼岸に近い、ある麗らかな日の晝過ぎ。 「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと …
読書目安時間:約29分
「親分、金持になつて見たくはありませんか」 八五郎はまた途方もない話を持ち込んで來たのです。やがて春の彼岸に近い、ある麗らかな日の晝過ぎ。 「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと …
銭形平次捕物控:250 母娘巡礼(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「八、あれに氣が付いたか」 兩國橋の夕景、東から渡りかけて平次はピタリと足を停めました。 陽が落ちると春の夕風が身に沁みて、四方の景色も何んとなく寒々となりますが、橋の上の往來は次 …
読書目安時間:約31分
「八、あれに氣が付いたか」 兩國橋の夕景、東から渡りかけて平次はピタリと足を停めました。 陽が落ちると春の夕風が身に沁みて、四方の景色も何んとなく寒々となりますが、橋の上の往來は次 …
銭形平次捕物控:251 槍と焔(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、良い陽氣ですね」 ガラツ八の八五郎が、鼻の頭から襟へかけての汗を、肩に掛けた手拭の端つこで拭きながら、枝折戸を足で開けて、ノツソリと日南に立ちはだかるのでした。 「陽氣の良 …
読書目安時間:約30分
「親分、良い陽氣ですね」 ガラツ八の八五郎が、鼻の頭から襟へかけての汗を、肩に掛けた手拭の端つこで拭きながら、枝折戸を足で開けて、ノツソリと日南に立ちはだかるのでした。 「陽氣の良 …
銭形平次捕物控:252 敵持ち(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「八、近頃お前は、大層な男になつたんだつてね」 錢形平次は、珍らしく此方から水を向けました。ガラツ八の八五郎が縁側へ腹ん這ひになつて、手長猿のやうに遠方の煙草盆を引寄せ、默つてお先 …
読書目安時間:約31分
「八、近頃お前は、大層な男になつたんだつてね」 錢形平次は、珍らしく此方から水を向けました。ガラツ八の八五郎が縁側へ腹ん這ひになつて、手長猿のやうに遠方の煙草盆を引寄せ、默つてお先 …
銭形平次捕物控:253 猫の首環(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「人の心といふものは恐ろしいものですね、親分」 八五郎が顎を撫で乍ら、いきなりそんな事を言ふのです。 「あれ、大層物を考へるんだね。菓子屋の前を通ると、店先の大福餅をつかみ喰ひした …
読書目安時間:約29分
「人の心といふものは恐ろしいものですね、親分」 八五郎が顎を撫で乍ら、いきなりそんな事を言ふのです。 「あれ、大層物を考へるんだね。菓子屋の前を通ると、店先の大福餅をつかみ喰ひした …
銭形平次捕物控:254 茶汲み四人娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、あつしは百まで生きるときめましたよ」 八五郎はまた、途方もない話を持ち込んで來るのです。江戸はもう眞夏、祭太鼓の遠音が聞えて、心太にも浴衣にも馴染んだ、六月の初めのある朝の …
読書目安時間:約30分
「親分、あつしは百まで生きるときめましたよ」 八五郎はまた、途方もない話を持ち込んで來るのです。江戸はもう眞夏、祭太鼓の遠音が聞えて、心太にも浴衣にも馴染んだ、六月の初めのある朝の …
銭形平次捕物控:255 月待ち(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「あつしはつく/″\世の中がイヤになりましたよ、親分」 八五郎は柄にもなく、こんなことを言ひ出すのです。 「あれ、大層感じちやつたね、出家遁世でもする氣になると、二三人泣く娘がある …
読書目安時間:約28分
「あつしはつく/″\世の中がイヤになりましたよ、親分」 八五郎は柄にもなく、こんなことを言ひ出すのです。 「あれ、大層感じちやつたね、出家遁世でもする氣になると、二三人泣く娘がある …
銭形平次捕物控:256 恋をせぬ女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「親分、あつしはもう口惜しくて口惜しくて」 八五郎はいきなり怒鳴り込むのです。彼岸過ぎのよく晴れた朝、秋草の鉢の世話に、餘念も無い平次は、 「騷々しいな、何が一體口惜しいんだ。好物 …
読書目安時間:約31分
「親分、あつしはもう口惜しくて口惜しくて」 八五郎はいきなり怒鳴り込むのです。彼岸過ぎのよく晴れた朝、秋草の鉢の世話に、餘念も無い平次は、 「騷々しいな、何が一體口惜しいんだ。好物 …
銭形平次捕物控:257 凧糸の謎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
三田四國町の大地主、老木屋勝藏の養父で今年六十八になる八郎兵衞は、その朝隱居所の二階で、紅に染んだ死骸になつて發見されました。 老木屋といふのは、裏庭に一と抱に餘る松の老木があるの …
読書目安時間:約30分
三田四國町の大地主、老木屋勝藏の養父で今年六十八になる八郎兵衞は、その朝隱居所の二階で、紅に染んだ死骸になつて發見されました。 老木屋といふのは、裏庭に一と抱に餘る松の老木があるの …
銭形平次捕物控:259 軍学者の妾(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「ところで親分はどう思ひます」 「ところで——と來たね、一體何をどう思はせようてんだ。藪から棒に、そんな事を言つたつて、わかりやしないぢやないか」 錢形平次と子分の八五郎は、秋日和 …
読書目安時間:約31分
「ところで親分はどう思ひます」 「ところで——と來たね、一體何をどう思はせようてんだ。藪から棒に、そんな事を言つたつて、わかりやしないぢやないか」 錢形平次と子分の八五郎は、秋日和 …
銭形平次捕物控:260 女臼(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、先刻から路地の中を、往つたり來たり、お百度を踏んでゐる女がありますが、ありや何でせう」 八五郎は自分の肩越しに、煙管の吸口で格子の外を指すのです。 「わけがあり相だな、お前 …
読書目安時間:約29分
「親分、先刻から路地の中を、往つたり來たり、お百度を踏んでゐる女がありますが、ありや何でせう」 八五郎は自分の肩越しに、煙管の吸口で格子の外を指すのです。 「わけがあり相だな、お前 …
銭形平次捕物控:261 弱い浪人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
増田屋金兵衞、その晩は明るい内から庭に縁臺を持出させ、九月十三夜の後の月を、たつた一人で眺めることにきめました。 金があつてしみつ垂れで、人づき合ひが嫌ひで、恐ろしく風流氣のある金 …
読書目安時間:約29分
増田屋金兵衞、その晩は明るい内から庭に縁臺を持出させ、九月十三夜の後の月を、たつた一人で眺めることにきめました。 金があつてしみつ垂れで、人づき合ひが嫌ひで、恐ろしく風流氣のある金 …
銭形平次捕物控:262 綾の鼓(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分の前だが、女日照の國には、いろんな怪物がゐるんですね」 八五郎がまた、親分の平次のところへ、世上の噂を持込んで來ました。江戸八百八町にバラ撒かれてゐる下つ引や手先から集まつた …
読書目安時間:約29分
「親分の前だが、女日照の國には、いろんな怪物がゐるんですね」 八五郎がまた、親分の平次のところへ、世上の噂を持込んで來ました。江戸八百八町にバラ撒かれてゐる下つ引や手先から集まつた …
銭形平次捕物控:263 死の踊り子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「八、大層ソワ/\してゐるぢやないか」 錢形平次は煙草盆を引寄せて、食後の一服を樂しみ乍ら、柱に凭れたまゝ、入口の障子を開けて、眞つ暗な路地ばかり眺めてゐる、八五郎に聲を掛けました …
読書目安時間:約27分
「八、大層ソワ/\してゐるぢやないか」 錢形平次は煙草盆を引寄せて、食後の一服を樂しみ乍ら、柱に凭れたまゝ、入口の障子を開けて、眞つ暗な路地ばかり眺めてゐる、八五郎に聲を掛けました …
銭形平次捕物控:264 八五郎の恋人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、お早やう」 飛込んで來たのは、お玉ヶ池の玉吉といふ中年者の下つ引でした。八五郎を少し老けさせて、一とまはりボカしたやうな男、八五郎の長んがい顏に比べると、半分位しか無い、ま …
読書目安時間:約29分
「親分、お早やう」 飛込んで來たのは、お玉ヶ池の玉吉といふ中年者の下つ引でした。八五郎を少し老けさせて、一とまはりボカしたやうな男、八五郎の長んがい顏に比べると、半分位しか無い、ま …
銭形平次捕物控:265 美しき鎌いたち(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
「いやもう、驚いたの驚かねえの」 八五郎がやつて來たのは、彼岸過ぎのある日の夕方、相變らず明神下の路地一パイに張り上げて、走りのニユースを響かせるのでした。 「何を騷ぐんだ、ドブ板 …
読書目安時間:約24分
「いやもう、驚いたの驚かねえの」 八五郎がやつて來たのは、彼岸過ぎのある日の夕方、相變らず明神下の路地一パイに張り上げて、走りのニユースを響かせるのでした。 「何を騷ぐんだ、ドブ板 …
銭形平次捕物控:266 処女神聖(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
本郷妻戀町の娘横丁、——この邊に良い娘が多いから土地の若い衆が斯んな名で呼びましたが、何時の間にやら痴漢が横行して、若い娘の御難が多く、娘受難横丁と言ふべきを省略して娘横丁と、其儘 …
読書目安時間:約25分
本郷妻戀町の娘横丁、——この邊に良い娘が多いから土地の若い衆が斯んな名で呼びましたが、何時の間にやら痴漢が横行して、若い娘の御難が多く、娘受難横丁と言ふべきを省略して娘横丁と、其儘 …
銭形平次捕物控:267 百草園の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、あつしの身體が匂やしませんか」 ガラツ八の八五郎が、入つて來ると、いきなり妙なことを言ふのです。 九月のよく晴れた日の夕方、植木の世話も一段落で、錢形平次は暫らくの閑日月を …
読書目安時間:約32分
「親分、あつしの身體が匂やしませんか」 ガラツ八の八五郎が、入つて來ると、いきなり妙なことを言ふのです。 九月のよく晴れた日の夕方、植木の世話も一段落で、錢形平次は暫らくの閑日月を …
銭形平次捕物控:269 小判の瓶(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分變なことを訊くやうですがね」 ガラツ八の八五郎は、こんな調子できり出しました。櫻が散ると御用もひと休みで、久し振りで錢形平次は、粉煙草をせゝりながら、高慢らしい物の本などをひ …
読書目安時間:約30分
「親分變なことを訊くやうですがね」 ガラツ八の八五郎は、こんな調子できり出しました。櫻が散ると御用もひと休みで、久し振りで錢形平次は、粉煙草をせゝりながら、高慢らしい物の本などをひ …
銭形平次捕物控:270 転婆娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約19分
「八、その十手を見せびらかすのを止してくれないか」 「へエ、斯うやりや宜いんでせう。人に見せないやうに」 親分の平次に言はれて、ガラツ八の八五郎はあわてゝ後ろ腰に差した十手を引つこ …
読書目安時間:約19分
「八、その十手を見せびらかすのを止してくれないか」 「へエ、斯うやりや宜いんでせう。人に見せないやうに」 親分の平次に言はれて、ガラツ八の八五郎はあわてゝ後ろ腰に差した十手を引つこ …
銭形平次捕物控:272 飛ぶ若衆(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「姐さん、谷中にお化けが出るんだが、こいつは初耳でせう」 松が取れたばかり、世界はまだ屠蘇臭いのに、空つ風に吹き寄せられたやうな恰好で、八五郎は庭木戸へ顎を載せるのでした。 「ま、 …
読書目安時間:約28分
「姐さん、谷中にお化けが出るんだが、こいつは初耳でせう」 松が取れたばかり、世界はまだ屠蘇臭いのに、空つ風に吹き寄せられたやうな恰好で、八五郎は庭木戸へ顎を載せるのでした。 「ま、 …
銭形平次捕物控:273 金の番(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「世の中に、金持ほど馬鹿なものはありませんね」 「貧乏人は皆んな、そんな事を言ふよ、つまらねえ持句さ」 平次と八五郎は、相變らず空茶に馬糞煙草で、いつものやうな掛け合ひを始めて居り …
読書目安時間:約30分
「世の中に、金持ほど馬鹿なものはありませんね」 「貧乏人は皆んな、そんな事を言ふよ、つまらねえ持句さ」 平次と八五郎は、相變らず空茶に馬糞煙草で、いつものやうな掛け合ひを始めて居り …
銭形平次捕物控:274 贋金(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「親分、この頃妙なものが流行るさうですね」 八五郎がそんな話を持込んで來たのは、三月半ばの、丁度花もおしまひになりかけた頃、浮かれ氣分の江戸の町人達も、どうやら落着きを取戻して、仕 …
読書目安時間:約28分
「親分、この頃妙なものが流行るさうですね」 八五郎がそんな話を持込んで來たのは、三月半ばの、丁度花もおしまひになりかけた頃、浮かれ氣分の江戸の町人達も、どうやら落着きを取戻して、仕 …
銭形平次捕物控:275 五月人形(旧字旧仮名)
読書目安時間:約41分
「親分、世間はたうとう五月の節句となりましたね」 八五郎が感慨無量の聲を出すのです。 「世間と來たね、お前のところは、五月節句が素通りすることになつたのか」 平次は退屈さうでした。 …
読書目安時間:約41分
「親分、世間はたうとう五月の節句となりましたね」 八五郎が感慨無量の聲を出すのです。 「世間と來たね、お前のところは、五月節句が素通りすることになつたのか」 平次は退屈さうでした。 …
銭形平次捕物控:276 釣針の鯉(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「お早やうございます」 花は散つたが、まだ申分なく春らしい薄靄のかゝつた或朝、ガラツ八の八五郎は、これも存分に機嫌の良い顏を、明神下の平次の家へ持込んで來ました。 「大層寢起きが良 …
読書目安時間:約29分
「お早やうございます」 花は散つたが、まだ申分なく春らしい薄靄のかゝつた或朝、ガラツ八の八五郎は、これも存分に機嫌の良い顏を、明神下の平次の家へ持込んで來ました。 「大層寢起きが良 …
銭形平次捕物控:277 和蘭の銀貨(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、良い陽氣ですね」 フラリとやつて來た八五郎は、襟の汗を拭いて、お先煙草を五六服、お茶をガブ呑みの、繼穗もないお世辭を言ふのでした。 「二三日見えなかつたが、何處へ行つて居た …
読書目安時間:約29分
「親分、良い陽氣ですね」 フラリとやつて來た八五郎は、襟の汗を拭いて、お先煙草を五六服、お茶をガブ呑みの、繼穗もないお世辭を言ふのでした。 「二三日見えなかつたが、何處へ行つて居た …
銭形平次捕物控:277 和蘭の銀貨(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、良い陽気ですね」 フラリとやって来た八五郎は、襟の汗を拭いて、お先煙草を五六服、お茶をガブ呑みの、継穂もないお世辞を言うのでした。 「二三日見えなかったが、どこへ行って居た …
読書目安時間:約29分
「親分、良い陽気ですね」 フラリとやって来た八五郎は、襟の汗を拭いて、お先煙草を五六服、お茶をガブ呑みの、継穂もないお世辞を言うのでした。 「二三日見えなかったが、どこへ行って居た …
銭形平次捕物控:278 苫三七の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「へツへツ、親分、今晩は」 ガラツ八の八五郎、箍のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で——平次に言はせると——開けて入るのでした。それは …
読書目安時間:約29分
「へツへツ、親分、今晩は」 ガラツ八の八五郎、箍のはじけた桶のやうに手のつけやうの無い笑ひを湛へ乍ら、明神下の平次の家の格子を顎で——平次に言はせると——開けて入るのでした。それは …
銭形平次捕物控:279 持参千両(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分の前だが、あつしも今度ばかりは、二本差が羨ましくなりましたよ」 ガラツ八の八五郎は、感にたへた聲を出すのでした。カラリと晴れた盆過ぎの或る日、平次は盛りを過ぎた朝顏の鉢の世話 …
読書目安時間:約30分
「親分の前だが、あつしも今度ばかりは、二本差が羨ましくなりましたよ」 ガラツ八の八五郎は、感にたへた聲を出すのでした。カラリと晴れた盆過ぎの或る日、平次は盛りを過ぎた朝顏の鉢の世話 …
銭形平次捕物控:280 華魁崩れ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「羨ましい野郎があるもんですね、親分」 夏の夜の縁先、危い縁臺を持ち出して、蚊を叩き乍ら、八五郎は斯んなことを言ふのです。 「お前でも人を羨ましがることがあるのか、淺ましくなりやが …
読書目安時間:約29分
「羨ましい野郎があるもんですね、親分」 夏の夜の縁先、危い縁臺を持ち出して、蚊を叩き乍ら、八五郎は斯んなことを言ふのです。 「お前でも人を羨ましがることがあるのか、淺ましくなりやが …
銭形平次捕物控:281 用心棒(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、折入つてお願ひがあるんですが」 ガラツ八の八五郎は、柄にもなく膝小僧を揃へて、斯う肩を下げ乍ら、小笠原流の貧乏搖ぎをやつて見せるのでした。 「心得てゐるよ、言ひわけに及ぶも …
読書目安時間:約32分
「親分、折入つてお願ひがあるんですが」 ガラツ八の八五郎は、柄にもなく膝小僧を揃へて、斯う肩を下げ乍ら、小笠原流の貧乏搖ぎをやつて見せるのでした。 「心得てゐるよ、言ひわけに及ぶも …
銭形平次捕物控:282 密室(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「妙なことを頼まれましたよ、親分」 ガラツ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて——これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが——ニヤリニヤリと入つて來ました。 …
読書目安時間:約31分
「妙なことを頼まれましたよ、親分」 ガラツ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて——これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが——ニヤリニヤリと入つて來ました。 …
銭形平次捕物控:282 密室(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「妙なことを頼まれましたよ、親分」 ガラッ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて——これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが——ニヤリニヤリと入って来ました。 …
読書目安時間:約32分
「妙なことを頼まれましたよ、親分」 ガラッ八の八五郎、明神下の平次の家へ、手で格子戸を開けて——これは滅多にないことで、大概は足で開けるのですが——ニヤリニヤリと入って来ました。 …
銭形平次捕物控:283 からくり屋敷(旧字旧仮名)
読書目安時間:約41分
「親分、御存じでせうね、あの話を」 ガラツ八の八五郎が、獨り呑込みの話を持込んで來ました。 早咲の梅が、何處からともなく匂つて來る暖かい南縁、錢形平次は日向を樂しんで無精煙草にして …
読書目安時間:約41分
「親分、御存じでせうね、あの話を」 ガラツ八の八五郎が、獨り呑込みの話を持込んで來ました。 早咲の梅が、何處からともなく匂つて來る暖かい南縁、錢形平次は日向を樂しんで無精煙草にして …
銭形平次捕物控:284 白梅の精(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
二月のある日、歩いてゐると斯う、額口の汗ばむやうな晝下がり、巣鴨からの野暮用の歸り、白山あたりへ辿りついた頃は、連の八五郎はもう、何んとなく御機嫌が斜めになつて居りました。 「大層 …
読書目安時間:約30分
二月のある日、歩いてゐると斯う、額口の汗ばむやうな晝下がり、巣鴨からの野暮用の歸り、白山あたりへ辿りついた頃は、連の八五郎はもう、何んとなく御機嫌が斜めになつて居りました。 「大層 …
銭形平次捕物控:285 隠れん坊(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「もう宜いかい」 「まアだゞよ」 子供達はまた、隱れん坊に夢中でした。此邊は古い江戸の地圖にも、『植木屋と百姓家多し』と書いてある位で、お天氣さへ良ければ、子供達は家の中で遊ぶとい …
読書目安時間:約28分
「もう宜いかい」 「まアだゞよ」 子供達はまた、隱れん坊に夢中でした。此邊は古い江戸の地圖にも、『植木屋と百姓家多し』と書いてある位で、お天氣さへ良ければ、子供達は家の中で遊ぶとい …
銭形平次捕物控:286 美男番附(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「親分、ウフ、可笑しなことがありましたよ、ウへ、へ、へツへツ」 ガラツ八の八五郎が、タガの弛んだ桶のやうに、こみ上げる笑を噛みしめ噛みしめ、明神下の平次の家に入つて來ました。 「冗 …
読書目安時間:約26分
「親分、ウフ、可笑しなことがありましたよ、ウへ、へ、へツへツ」 ガラツ八の八五郎が、タガの弛んだ桶のやうに、こみ上げる笑を噛みしめ噛みしめ、明神下の平次の家に入つて來ました。 「冗 …
銭形平次捕物控:287 血塗られた祝言(旧字旧仮名)
読書目安時間:約49分
「親分、大變ツ」 八五郎の大變が、神田明神下の錢形平次の家へ飛び込んで來たのは、その晩もやがて亥刻半(十一時)近い頃でした。 「何んだ八、お前の大變も聞き飽きたが、夜中は近所の衆が …
読書目安時間:約49分
「親分、大變ツ」 八五郎の大變が、神田明神下の錢形平次の家へ飛び込んで來たのは、その晩もやがて亥刻半(十一時)近い頃でした。 「何んだ八、お前の大變も聞き飽きたが、夜中は近所の衆が …
銭形平次捕物控:289 美しき人質(旧字旧仮名)
読書目安時間:約49分
「親分。あつしはもう、腹が立つて、腹が立つて」 八五郎は格子をガタピシさせると、挨拶は拔きの、顎を先に立てて、斯う飛び込んで來るのでした。 「頼むから後を締めてくれ。野良犬がお前と …
読書目安時間:約49分
「親分。あつしはもう、腹が立つて、腹が立つて」 八五郎は格子をガタピシさせると、挨拶は拔きの、顎を先に立てて、斯う飛び込んで來るのでした。 「頼むから後を締めてくれ。野良犬がお前と …
銭形平次捕物控:290 影法師(旧字旧仮名)
読書目安時間:約48分
「親分、變なことを聽きましたがね」 ガラツ八の八五郎は、薫風に鼻をふくらませて、明神下の平次の家の、庭先から顎を出しました。いとも長閑な晝下りの一齣。 「お前の耳は不思議な耳だよ、 …
読書目安時間:約48分
「親分、變なことを聽きましたがね」 ガラツ八の八五郎は、薫風に鼻をふくらませて、明神下の平次の家の、庭先から顎を出しました。いとも長閑な晝下りの一齣。 「お前の耳は不思議な耳だよ、 …
銭形平次捕物控:294 井戸端の逢引(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「へツ、へツ、親分え」 ガラツ八の八五郎は、髷節で格子戸をあけて、——嘘をつきやがれ、髷節ぢや格子は開かねえ、俺のところは家賃がうんと溜つて居るから、表の格子だつて、建て付けが惡い …
読書目安時間:約26分
「へツ、へツ、親分え」 ガラツ八の八五郎は、髷節で格子戸をあけて、——嘘をつきやがれ、髷節ぢや格子は開かねえ、俺のところは家賃がうんと溜つて居るから、表の格子だつて、建て付けが惡い …
銭形平次捕物控:295 万両息子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「世の中には變つた野郎があるものですね、親分」 ガラツ八の八五郎は、又何やら變つた噂を持つて來た樣子です。 「大抵の人間は、自分は世間並より變つた人間だと思つて居るよ」 錢形平次は …
読書目安時間:約31分
「世の中には變つた野郎があるものですね、親分」 ガラツ八の八五郎は、又何やら變つた噂を持つて來た樣子です。 「大抵の人間は、自分は世間並より變つた人間だと思つて居るよ」 錢形平次は …
銭形平次捕物控:296 旅に病む女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
浪人大澤彦四郎は、まことに評判の良い人でした。金があつて情け深くて、人柄が穩かで、これが昔、人斬庖丁を二本、腰にブラ提げて、肩で風を切つた人とは、どうしても受取れないほどの物柔かな …
読書目安時間:約29分
浪人大澤彦四郎は、まことに評判の良い人でした。金があつて情け深くて、人柄が穩かで、これが昔、人斬庖丁を二本、腰にブラ提げて、肩で風を切つた人とは、どうしても受取れないほどの物柔かな …
銭形平次捕物控:297 花見の留守(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、向島は見頃ださうですね」 ガラツ八の八五郎は、縁側からニジり上がりました。庭一杯の春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鶯が來て鳴くのです。 「さうだつてね、握り拳の花見なんかは …
読書目安時間:約29分
「親分、向島は見頃ださうですね」 ガラツ八の八五郎は、縁側からニジり上がりました。庭一杯の春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鶯が來て鳴くのです。 「さうだつてね、握り拳の花見なんかは …
銭形平次捕物控:297 花見の留守(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、向島は見頃だそうですね」 ガラッ八の八五郎は、縁側からニジリ上がりました。庭いっぱいの春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鴬が来て鳴くのです。 「そうだってね、握り拳の花見なん …
読書目安時間:約29分
「親分、向島は見頃だそうですね」 ガラッ八の八五郎は、縁側からニジリ上がりました。庭いっぱいの春の陽ざし、平次の軒にもこの頃は鴬が来て鳴くのです。 「そうだってね、握り拳の花見なん …
銭形平次捕物控:298 匕首の行方(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「八、居るかい」 向う柳原、七曲の路地の奧、洗ひ張り、御仕立物と、紙に書いて張つた戸袋の下に立つて、平次は二階に聲を掛けました。よく晴れた早春のある朝、何處かで、寢呆けた雄鷄が時を …
読書目安時間:約29分
「八、居るかい」 向う柳原、七曲の路地の奧、洗ひ張り、御仕立物と、紙に書いて張つた戸袋の下に立つて、平次は二階に聲を掛けました。よく晴れた早春のある朝、何處かで、寢呆けた雄鷄が時を …
銭形平次捕物控:300 系図の刺青(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分は源氏ですか、それとも平家ですか」 ガラツ八の八五郎は、いきなりそんなことを言ふのです。御用も一段落になつた春のある日、後ろに一立齋廣重がよく描いた、桃色の空を眺めて、一本の …
読書目安時間:約30分
「親分は源氏ですか、それとも平家ですか」 ガラツ八の八五郎は、いきなりそんなことを言ふのです。御用も一段落になつた春のある日、後ろに一立齋廣重がよく描いた、桃色の空を眺めて、一本の …
銭形平次捕物控:301 宝掘りの夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、金儲けを好きですか」 ガラツ八の八五郎、また飛んでもないことを言ひ出すのです。 櫻は過ぎたが、遊び足りない江戸の人達は、ゆく春を惜んで、ほろ醉心地のその日/\を送つてゐるや …
読書目安時間:約29分
「親分、金儲けを好きですか」 ガラツ八の八五郎、また飛んでもないことを言ひ出すのです。 櫻は過ぎたが、遊び足りない江戸の人達は、ゆく春を惜んで、ほろ醉心地のその日/\を送つてゐるや …
銭形平次捕物控:302 三軒長屋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、良いお天氣ですね——これで金さへありや——」 薫風に懷ろを膨らませて、八五郎はフラリと入つて來ました。相變らず寢起の良ささうなのんびりした顏です。 「お早う、天氣が續くと、 …
読書目安時間:約29分
「親分、良いお天氣ですね——これで金さへありや——」 薫風に懷ろを膨らませて、八五郎はフラリと入つて來ました。相變らず寢起の良ささうなのんびりした顏です。 「お早う、天氣が續くと、 …
銭形平次捕物控:303 娘の守袋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
「親分、あつしのところへ、居候が來ましたよ」 八五郎がまた、妙な報告を持つて來ました。六月のある朝、無風の薄曇り、今日もまた、うんと暑くなりさうな日和です。 「良い年をしてみつとも …
読書目安時間:約30分
「親分、あつしのところへ、居候が來ましたよ」 八五郎がまた、妙な報告を持つて來ました。六月のある朝、無風の薄曇り、今日もまた、うんと暑くなりさうな日和です。 「良い年をしてみつとも …
銭形平次捕物控:304 嫁の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「親分、お早やうございます」 八五郎はいつになく几帳面に格子戸を開けて入つて來ました。神田明神下の、錢形平次住居の段、——尤も、几帳面に引かないと、この格子は番ごと敷居から外れます …
読書目安時間:約29分
「親分、お早やうございます」 八五郎はいつになく几帳面に格子戸を開けて入つて來ました。神田明神下の、錢形平次住居の段、——尤も、几帳面に引かないと、この格子は番ごと敷居から外れます …
銭形平次捕物控:305 美しき獲物(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
「親分、ちよいと江戸をあけますがね」 八五郎はいきなりこんなことを言つて來たのです。彼岸を過ぎたばかり、秋の行樂の旅にはまだ早過ぎますが、海道筋は新凉を追つて驛馬の鈴の音も、日毎に …
読書目安時間:約32分
「親分、ちよいと江戸をあけますがね」 八五郎はいきなりこんなことを言つて來たのです。彼岸を過ぎたばかり、秋の行樂の旅にはまだ早過ぎますが、海道筋は新凉を追つて驛馬の鈴の音も、日毎に …
銭形平次捕物控:306 地中の富(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
「へツ、へツ、へツ、親分」 ある朝、八五郎が箍の外れた桶見たいに、笑ひながら飛び込んで來ました。九月もやがて晦日近く、菊に、紅葉に、江戸はまことに良い陽氣です。 「挨拶も拔きに、人 …
読書目安時間:約31分
「へツ、へツ、へツ、親分」 ある朝、八五郎が箍の外れた桶見たいに、笑ひながら飛び込んで來ました。九月もやがて晦日近く、菊に、紅葉に、江戸はまことに良い陽氣です。 「挨拶も拔きに、人 …
銭形平次捕物控:307 掏られた遺書(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
八五郎の取柄は、誰とでも、すぐ友達になれることでした。長んがい顎と、とぼけた話し振りと、そして桁の外れた己惚れが、どんな相手にも、警戒させずに近づけるのです。 その代り、時には飛ん …
読書目安時間:約29分
八五郎の取柄は、誰とでも、すぐ友達になれることでした。長んがい顎と、とぼけた話し振りと、そして桁の外れた己惚れが、どんな相手にも、警戒させずに近づけるのです。 その代り、時には飛ん …
銭形平次捕物控:308 秋祭りの夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
錢形平次は久し振りに田舍祭を見物に出かけました。 調布街道を入つた狛江村、昔から高麗人の裔が傳へた、秋祭の傅統がその頃まで殘つて居て、江戸では見られぬ異國的な盛大さが觀物だつたので …
読書目安時間:約21分
錢形平次は久し振りに田舍祭を見物に出かけました。 調布街道を入つた狛江村、昔から高麗人の裔が傳へた、秋祭の傅統がその頃まで殘つて居て、江戸では見られぬ異國的な盛大さが觀物だつたので …
銭形平次捕物控:310 闇に飛ぶ箭(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間42分
「大層な人ですね、親分」 兩國橋の上、ガラツ八の八五郎は、人波に押されながら、欄干で顎を撫でてをります。 「まア、少し歩けよ。橋を越せば、一杯呑む寸法になつてゐるんだ」 錢形平次は …
読書目安時間:約1時間42分
「大層な人ですね、親分」 兩國橋の上、ガラツ八の八五郎は、人波に押されながら、欄干で顎を撫でてをります。 「まア、少し歩けよ。橋を越せば、一杯呑む寸法になつてゐるんだ」 錢形平次は …
銭形平次捕物控:311 鬼女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間46分
「あら、八五郎親分」 神田お臺所町、これから親分の錢形平次の家へ朝詣りに行かうといふところで、八五郎は馥郁たる年増に抱きつかれてしまひました。 櫻の蕾もふくらみさうな美しい朝、鼻の …
読書目安時間:約1時間46分
「あら、八五郎親分」 神田お臺所町、これから親分の錢形平次の家へ朝詣りに行かうといふところで、八五郎は馥郁たる年増に抱きつかれてしまひました。 櫻の蕾もふくらみさうな美しい朝、鼻の …
銭形平次捕物控:314 美少年国(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間58分
いつものやうに、この話は、八五郎の早耳帳から始まります。 「ところで親分」 「何が『ところで』なんだ、藪から棒に」 棚の落ちたのも吊れないやうな、不器用な平次が、唐紙の穴を繕いなが …
読書目安時間:約1時間58分
いつものやうに、この話は、八五郎の早耳帳から始まります。 「ところで親分」 「何が『ところで』なんだ、藪から棒に」 棚の落ちたのも吊れないやうな、不器用な平次が、唐紙の穴を繕いなが …
銭形平次捕物控:315 毒矢(旧字旧仮名)
読書目安時間:約26分
「へツへツ、へツへツ、隨分間拔けな話ぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎が、たがが外れたやうに笑ひながら、明神下の平次の家に笑ひ込むのです。 世間はまだ松が取れたばかり、屠蘇の香り …
読書目安時間:約26分
「へツへツ、へツへツ、隨分間拔けな話ぢやありませんか」 ガラツ八の八五郎が、たがが外れたやうに笑ひながら、明神下の平次の家に笑ひ込むのです。 世間はまだ松が取れたばかり、屠蘇の香り …
銭形平次捕物控:316 正月の香り(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
八五郎は斯う言つた具合に、江戸の町々から、あらゆる噂話を掻き集めるのでした。その噂のうちには、極めて稀に、面白い局面を展開するものがあり、中にはまた驚天動地的な大椿事の端緒になるの …
読書目安時間:約30分
八五郎は斯う言つた具合に、江戸の町々から、あらゆる噂話を掻き集めるのでした。その噂のうちには、極めて稀に、面白い局面を展開するものがあり、中にはまた驚天動地的な大椿事の端緒になるの …
銭形平次捕物控:317 女辻斬(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「又出ましたよ、親分」 八五郎は飛び込んで來るのです。 一月も末、美しく晴れた朝でした。平次はケチな盆栽の梅をいつくしみながら、自分の影法師と話すやうに、のんびりと朝の支度を待つて …
読書目安時間:約27分
「又出ましたよ、親分」 八五郎は飛び込んで來るのです。 一月も末、美しく晴れた朝でした。平次はケチな盆栽の梅をいつくしみながら、自分の影法師と話すやうに、のんびりと朝の支度を待つて …
銭形平次捕物控:318 敵の娘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
「ね、お前さん」 女房のお靜は、いつにもなく、突きつめた顏をして、茶の間に入つて來るのでした。梅二月のある日、南陽が一パイに射す椽側に、平次は日向煙草の煙の棚引く中に、相變らず八五 …
読書目安時間:約27分
「ね、お前さん」 女房のお靜は、いつにもなく、突きつめた顏をして、茶の間に入つて來るのでした。梅二月のある日、南陽が一パイに射す椽側に、平次は日向煙草の煙の棚引く中に、相變らず八五 …
銭形平次捕物控:319 真珠太夫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
江戸の閑人の好奇心は、途方もないところまで發展しました。落首と惡刷りと、グロテスクな見世物が、封建制の彈壓と、欝屈させられた本能の、已むに已まれぬ安全瓣だつたのかも知れません。 錢 …
読書目安時間:約29分
江戸の閑人の好奇心は、途方もないところまで發展しました。落首と惡刷りと、グロテスクな見世物が、封建制の彈壓と、欝屈させられた本能の、已むに已まれぬ安全瓣だつたのかも知れません。 錢 …
銭形平次捕物控:320 お六の役目(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
「あ、八五郎親分ぢやありませんか」 江の島へ行つた歸り、遲くもないのに、土藏相模で一と晩遊んだ町内の若い者が五六人、スツカラカンになつて、高輪の大木戸を越すと、いきなり聲を掛けたも …
読書目安時間:約28分
「あ、八五郎親分ぢやありませんか」 江の島へ行つた歸り、遲くもないのに、土藏相模で一と晩遊んだ町内の若い者が五六人、スツカラカンになつて、高輪の大木戸を越すと、いきなり聲を掛けたも …
銭形平次捕物控:320 お六の役目(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「あ、八五郎親分じゃありませんか」 江の島へ行った帰り、遅くもないのに、土蔵相模で一と晩遊んだ町内の若い者が五六人、スッカラカンになって、高輪の大木戸を越すと、いきなり声を掛けたも …
読書目安時間:約28分
「あ、八五郎親分じゃありませんか」 江の島へ行った帰り、遅くもないのに、土蔵相模で一と晩遊んだ町内の若い者が五六人、スッカラカンになって、高輪の大木戸を越すと、いきなり声を掛けたも …
銭形平次捕物控:321 橋場の人魚(旧字旧仮名)
読書目安時間:約27分
八五郎の顏の廣さ、足まめに江戸中を驅け廻つて、いたるところから、珍奇なニーユスを仕入れて來るのでした。 江戸の新聞は落首と惡刷りであつたやうに、江戸の諜報機關は、斯う言つた早耳と井 …
読書目安時間:約27分
八五郎の顏の廣さ、足まめに江戸中を驅け廻つて、いたるところから、珍奇なニーユスを仕入れて來るのでした。 江戸の新聞は落首と惡刷りであつたやうに、江戸の諜報機關は、斯う言つた早耳と井 …
銭形平次捕物控:321 橋場の人魚(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
八五郎の顔の広さ、足まめに江戸中を駆け廻って、いたるところから、珍奇なニュースを仕入れて来るのでした。 江戸の新聞は落首と悪刷りであったように、江戸の諜報機関は斯う言った早耳と井戸 …
読書目安時間:約28分
八五郎の顔の広さ、足まめに江戸中を駆け廻って、いたるところから、珍奇なニュースを仕入れて来るのでした。 江戸の新聞は落首と悪刷りであったように、江戸の諜報機関は斯う言った早耳と井戸 …
銭形平次捕物控:322 死の秘薬(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
「親分、長生きをしたくはありませんか」 八五郎がまた、途方もないことを言ふのです。 晴れあがつた五月の空、明神下のお長屋にも、爽やかな薫風が吹いて來るのです。 「へエ、よく/\死に …
読書目安時間:約25分
「親分、長生きをしたくはありませんか」 八五郎がまた、途方もないことを言ふのです。 晴れあがつた五月の空、明神下のお長屋にも、爽やかな薫風が吹いて來るのです。 「へエ、よく/\死に …
銭形平次捕物控:330 江戸の夜光石(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間1分
「親分の前だが、江戸といふところは、面白いところですね」 松もまだ取れないのに、ガラツ八の八五郎はもう、江戸の新聞種を仕入れて來た樣子です。長んがい顎を撫で廻して、小鼻をふくらませ …
読書目安時間:約1時間1分
「親分の前だが、江戸といふところは、面白いところですね」 松もまだ取れないのに、ガラツ八の八五郎はもう、江戸の新聞種を仕入れて來た樣子です。長んがい顎を撫で廻して、小鼻をふくらませ …
銭形平次捕物控:331 花嫁の幻想(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間1分
錢形の平次は、椽側の日向に座布團を持出して、その上に大胡坐をかくと、女房のお靜は後ろに廻つて、片襷をしたまゝ、月代を剃つて居りました。 八五郎は少し離れて、頬杖を突いて足を投げ出し …
読書目安時間:約1時間1分
錢形の平次は、椽側の日向に座布團を持出して、その上に大胡坐をかくと、女房のお靜は後ろに廻つて、片襷をしたまゝ、月代を剃つて居りました。 八五郎は少し離れて、頬杖を突いて足を投げ出し …
銭形平次捕物控:338 初姿銭形平次 八五郎手柄始め(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
明神下の銭形の平次の家へ通ると、八五郎は開き直って年始のあいさつを申述べるのです。 「明けまして、お目出とうございます——。昨年中はいろいろ」 「待ってくれ、その口上はもう三度目だ …
読書目安時間:約9分
明神下の銭形の平次の家へ通ると、八五郎は開き直って年始のあいさつを申述べるのです。 「明けまして、お目出とうございます——。昨年中はいろいろ」 「待ってくれ、その口上はもう三度目だ …
銭形平次捕物控:349 笛吹兵二郎(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「親分、世の中に怪談というものはあるでしょうか」 八五郎はまた、途方もないことを持込んでくるのです。五月も過ぎたある日、青葉によし、初鰹によし、そして時鳥によしという結構な日をぼん …
読書目安時間:約23分
「親分、世の中に怪談というものはあるでしょうか」 八五郎はまた、途方もないことを持込んでくるのです。五月も過ぎたある日、青葉によし、初鰹によし、そして時鳥によしという結構な日をぼん …
銭形平次捕物控:376 橋の上の女(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「親分、たまらねえ事があるんで、これから日本橋まで出かけますよ、いっしょに行って見ちゃ何うです」 巳の刻近い、真昼の日を浴びて、八五郎はお座敷を覗いて顎を撫でるのです。四月のある日 …
読書目安時間:約24分
「親分、たまらねえ事があるんで、これから日本橋まで出かけますよ、いっしょに行って見ちゃ何うです」 巳の刻近い、真昼の日を浴びて、八五郎はお座敷を覗いて顎を撫でるのです。四月のある日 …
死の舞踏(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「珍らしい事があるものだネ、東京の佐良井から手紙が来たよ」 「幽香子さんからですか」 「イヤ、あの厭な亭主野郎からだ」 「まあ」 愛子は、その可愛らしい眼を一杯にあけて、非難するよ …
読書目安時間:約22分
「珍らしい事があるものだネ、東京の佐良井から手紙が来たよ」 「幽香子さんからですか」 「イヤ、あの厭な亭主野郎からだ」 「まあ」 愛子は、その可愛らしい眼を一杯にあけて、非難するよ …
探偵小説と音楽(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
近代探偵小説に一つの型を与えた、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」は、あの苛辣冷静な性格に似ずヴァイオリンをよくし時には助手のワトソン博士に一曲を奏でて聴かす余裕があり、緊 …
読書目安時間:約7分
近代探偵小説に一つの型を与えた、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」は、あの苛辣冷静な性格に似ずヴァイオリンをよくし時には助手のワトソン博士に一曲を奏でて聴かす余裕があり、緊 …
礫心中(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
しはんほになすはかはすなにほんはし 「吝嗇漢に茄子は買は(わ)すな日本橋——か、ハッハッハッハ、こいつは面白い、逆さに読んでも同じだ、落首もこれ位になると点に入るよ」 「穿ってるぜ …
読書目安時間:約29分
しはんほになすはかはすなにほんはし 「吝嗇漢に茄子は買は(わ)すな日本橋——か、ハッハッハッハ、こいつは面白い、逆さに読んでも同じだ、落首もこれ位になると点に入るよ」 「穿ってるぜ …
天才兄妹(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
「お嬢さん、あなたはヴァイオリンをひきますか」 隣席の西洋人は、かなり上手な日本語で、斯う信子に話しかけました。 「ハ、イーエ、私のでは御座いません、これは兄ので——」 信子は少し …
読書目安時間:約20分
「お嬢さん、あなたはヴァイオリンをひきますか」 隣席の西洋人は、かなり上手な日本語で、斯う信子に話しかけました。 「ハ、イーエ、私のでは御座いません、これは兄ので——」 信子は少し …
天保の飛行術(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
百年前、日本には既に空飛ぶ機械が発明されて居たのでした。惜しいことにそれが後年の飛行機にまで発達する機会に恵まれず、無智と野心と邪悪な心とに亡ぼされて、たった一篇の随筆と、哀れ深い …
読書目安時間:約29分
百年前、日本には既に空飛ぶ機械が発明されて居たのでした。惜しいことにそれが後年の飛行機にまで発達する機会に恵まれず、無智と野心と邪悪な心とに亡ぼされて、たった一篇の随筆と、哀れ深い …
捕物小説のむずかしさ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
捕物小説を書くことの六つかしさに私は近頃悩み抜いて居る。「もう此辺で打ち切ろう」と思った事は一再でなく、わけても終戦後は雑誌の原稿に追い廻され乍ら、毎月そんなことばかり考えているの …
読書目安時間:約4分
捕物小説を書くことの六つかしさに私は近頃悩み抜いて居る。「もう此辺で打ち切ろう」と思った事は一再でなく、わけても終戦後は雑誌の原稿に追い廻され乍ら、毎月そんなことばかり考えているの …
眠り人形(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
「お母様、泣いていらっしゃるの?」 よし子は下からのぞくように、母親の顔を見上げました。 「いえ、泣きはしません。なんにも泣くようなことはないじゃありませんか」 「でも、お父様の形 …
読書目安時間:約16分
「お母様、泣いていらっしゃるの?」 よし子は下からのぞくように、母親の顔を見上げました。 「いえ、泣きはしません。なんにも泣くようなことはないじゃありませんか」 「でも、お父様の形 …
呪の金剛石(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「世の中のあらゆる出来事が、みんな新聞記事になって、そのまま読者に報道されるものと思うのは大間違いです。事件の中には、あまりにそれが重大で、影響するところが大き過ぎる為に、又は、あ …
読書目安時間:約29分
「世の中のあらゆる出来事が、みんな新聞記事になって、そのまま読者に報道されるものと思うのは大間違いです。事件の中には、あまりにそれが重大で、影響するところが大き過ぎる為に、又は、あ …
向日葵の眼(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
「あら、麗子さん、どうなすったの」 「あッ、加奈子さん」 「近頃学校へもいらっしゃらないし、みんなで心配して居てよ、——それに顔色も悪いわ、どうなすったの本当に」 「困った事が起っ …
読書目安時間:約18分
「あら、麗子さん、どうなすったの」 「あッ、加奈子さん」 「近頃学校へもいらっしゃらないし、みんなで心配して居てよ、——それに顔色も悪いわ、どうなすったの本当に」 「困った事が起っ …
百唇の譜(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
二人は葉蔭の濡れ縁に腰をおろして、夕陽の傾くのを忘れて話し込んで居りました。 小田切三也の娘真弓と、その従兄の荒井千代之助は、突き詰めた恋心に、身分も場所柄も、人の見る目も考えては …
読書目安時間:約25分
二人は葉蔭の濡れ縁に腰をおろして、夕陽の傾くのを忘れて話し込んで居りました。 小田切三也の娘真弓と、その従兄の荒井千代之助は、突き詰めた恋心に、身分も場所柄も、人の見る目も考えては …
葬送行進曲(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「どうなさいました、貴方」 若い美しい夫人の貴美子は、夫棚橋讃之助の後を追って帝劇の廊下に出ました。フランスから来た某という名洋琴家の演奏が、今始まったばかりと云う時です。 「とて …
読書目安時間:約26分
「どうなさいました、貴方」 若い美しい夫人の貴美子は、夫棚橋讃之助の後を追って帝劇の廊下に出ました。フランスから来た某という名洋琴家の演奏が、今始まったばかりと云う時です。 「とて …
平次と生きた二十七年(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
「銭形平次」を書き始めて、もう二十七年になる。自分が生きている間は書きつづけてゆくつもりでいたが、五、六年前から眼疾が急に悪化して、どうしても筆をもつことが不可能になってしまった。 …
読書目安時間:約14分
「銭形平次」を書き始めて、もう二十七年になる。自分が生きている間は書きつづけてゆくつもりでいたが、五、六年前から眼疾が急に悪化して、どうしても筆をもつことが不可能になってしまった。 …
平次放談(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
江戸のよさということを、いまの人は忘れていると思います。江戸というものは、いいものだし、たいしたものでした。 当時、両国にはたいへん猥褻な見世物があって、いまのストリップ・ショーな …
読書目安時間:約10分
江戸のよさということを、いまの人は忘れていると思います。江戸というものは、いいものだし、たいしたものでした。 当時、両国にはたいへん猥褻な見世物があって、いまのストリップ・ショーな …
法悦クラブ(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
武蔵野の片ほとり、軒端に富士を眺めて、耳に多摩川の瀬の音を聞こうと言った場所にいとも清浄なる一宇の堂が建って居りました。 堂と言っても和洋折衷のバンガロー風のあずま家で、文化住宅に …
読書目安時間:約29分
武蔵野の片ほとり、軒端に富士を眺めて、耳に多摩川の瀬の音を聞こうと言った場所にいとも清浄なる一宇の堂が建って居りました。 堂と言っても和洋折衷のバンガロー風のあずま家で、文化住宅に …
判官三郎の正体(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「泥棒の肩を持つのは穏かではないな」 唐船男爵は、心持その上品な顔をひそめて、やや胡麻塩になりかけた髭に、葉巻の煙を這わせました。 日曜の午後二時、男爵邸の小客間に集った青年達は、 …
読書目安時間:約26分
「泥棒の肩を持つのは穏かではないな」 唐船男爵は、心持その上品な顔をひそめて、やや胡麻塩になりかけた髭に、葉巻の煙を這わせました。 日曜の午後二時、男爵邸の小客間に集った青年達は、 …
焔の中に歌う(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
温かい、香ばしい芙蓉の花弁が、そっと頬に触れた——。 そう感じて深井少年は眼を開きました。 多分今まで気を喪なって居たのでしょう、四方を見ると、全く見も知らぬ華麗な室の、南寄の窓の …
読書目安時間:約28分
温かい、香ばしい芙蓉の花弁が、そっと頬に触れた——。 そう感じて深井少年は眼を開きました。 多分今まで気を喪なって居たのでしょう、四方を見ると、全く見も知らぬ華麗な室の、南寄の窓の …
身代りの花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「花嫁の自動車は?」 「まだ来ない、どうしたのだろう、急行の発車まで、五分しかないじゃないか」 「迎えに行って見ましょうか」 東京駅の待合室に集った人達は次第に募る不安に、入口から …
読書目安時間:約22分
「花嫁の自動車は?」 「まだ来ない、どうしたのだろう、急行の発車まで、五分しかないじゃないか」 「迎えに行って見ましょうか」 東京駅の待合室に集った人達は次第に募る不安に、入口から …
無題(故海野十三氏追悼諸家文集)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「海野さんのものを全部読まして下さい」と言って来た、若い電気学生があった。それは私の知人の次男坊で、私の書いたものなどは、鼻であしらって、一向感服した顔もしてくれないお点の辛い青年 …
読書目安時間:約1分
「海野さんのものを全部読まして下さい」と言って来た、若い電気学生があった。それは私の知人の次男坊で、私の書いたものなどは、鼻であしらって、一向感服した顔もしてくれないお点の辛い青年 …
名曲決定盤(新字新仮名)
読書目安時間:約11時間17分
音楽を愛するが故に、私はレコードを集めた。それは、見栄でも道楽でも、思惑でも競争でもなかった。未知の音楽を一つ一つ聴くことが、私に取っては、新しい世界の一つ一つの発見であった。 そ …
読書目安時間:約11時間17分
音楽を愛するが故に、私はレコードを集めた。それは、見栄でも道楽でも、思惑でも競争でもなかった。未知の音楽を一つ一つ聴くことが、私に取っては、新しい世界の一つ一つの発見であった。 そ …
芳年写生帖(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
霖雨と硝煙のうちに、上野の森は暮急ぐ風情でした。その日ばかりは時の鐘も鳴らず、昼頃から燃え始めた寛永寺の七堂伽藍、大方は猛火に舐め尽された頃までも、落武者を狩る官兵の鬨の声が、遠く …
読書目安時間:約26分
霖雨と硝煙のうちに、上野の森は暮急ぐ風情でした。その日ばかりは時の鐘も鳴らず、昼頃から燃え始めた寛永寺の七堂伽藍、大方は猛火に舐め尽された頃までも、落武者を狩る官兵の鬨の声が、遠く …
裸身の女仙(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「姐御」 「シッ、そんな乱暴な口を利いてはいけない」 「成程、今じゃ三千石取のお旗本のお部屋様だっけ、昔の積りじゃ罰が当らア」 芸人風の若い男は、ツイと庭木戸を押し開けて植込の闇の …
読書目安時間:約29分
「姐御」 「シッ、そんな乱暴な口を利いてはいけない」 「成程、今じゃ三千石取のお旗本のお部屋様だっけ、昔の積りじゃ罰が当らア」 芸人風の若い男は、ツイと庭木戸を押し開けて植込の闇の …
乱歩氏と私と(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
江戸川乱歩氏と初めて逢ったのは、今から三十年ほど前の、報知新聞社の応接間であった。私はその頃報知新聞の学芸部長であり、江戸川氏は新進の作家で、その探偵小説は読書界の驚異の的であった …
読書目安時間:約2分
江戸川乱歩氏と初めて逢ったのは、今から三十年ほど前の、報知新聞社の応接間であった。私はその頃報知新聞の学芸部長であり、江戸川氏は新進の作家で、その探偵小説は読書界の驚異の的であった …
流行作家の死(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「勇、電話だよ」 と社会部長の千種十次郎が怒鳴ると、 「おッ、今行くぞ、どうせ市内通報員だろう」 「いや、そんなものじゃ無い、早坂勇さんとはっきりお名差しだ」 「月賦の洋服屋にして …
読書目安時間:約28分
「勇、電話だよ」 と社会部長の千種十次郎が怒鳴ると、 「おッ、今行くぞ、どうせ市内通報員だろう」 「いや、そんなものじゃ無い、早坂勇さんとはっきりお名差しだ」 「月賦の洋服屋にして …
猟色の果(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
女性というものの平凡さに、江島屋宗三郎は、つくづく愛憎を尽かして居りました。 持った女房は三人、関係あった女は何十百人、武家の秘蔵娘から、国貞の一枚絵になった水茶屋の女、松の位から …
読書目安時間:約6分
女性というものの平凡さに、江島屋宗三郎は、つくづく愛憎を尽かして居りました。 持った女房は三人、関係あった女は何十百人、武家の秘蔵娘から、国貞の一枚絵になった水茶屋の女、松の位から …
涙香に還れ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
江戸川乱歩氏が盛んに売り出そうとしている頃、それは確か関東大震災の翌年あたりであったと思う。報知新聞の応接間で初めて逢って、私は「面白い探偵小説を書こうとするなら黒岩涙香を研究すべ …
読書目安時間:約4分
江戸川乱歩氏が盛んに売り出そうとしている頃、それは確か関東大震災の翌年あたりであったと思う。報知新聞の応接間で初めて逢って、私は「面白い探偵小説を書こうとするなら黒岩涙香を研究すべ …
笑う悪魔(新字新仮名)
読書目安時間:約56分
「勇、一杯つき合わないか、ガード下のお光っちゃんは、怨んで居たぞ、——近頃早坂さんは、何処か良い穴が出来たんじゃないかって——」 古参の外交記者で、十年も警視庁のクラブの主にされて …
読書目安時間:約56分
「勇、一杯つき合わないか、ガード下のお光っちゃんは、怨んで居たぞ、——近頃早坂さんは、何処か良い穴が出来たんじゃないかって——」 古参の外交記者で、十年も警視庁のクラブの主にされて …
“野村胡堂”について
は、日本の小説家・人物評論家。『銭形平次捕物控』の作者として知られる。音楽評論家としての筆名はあらえびす、野村あらえびすとも。本名:。娘は作家の松田瓊子。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
“野村胡堂”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)