小川未明
1882.04.07 〜 1961.05.11
“小川未明”に特徴的な語句
二郎
小田
勇
年雄
清吉
敏
正雄
宝石商
孝二
政
玉
城跡
良吉
次郎
見
K
光子
英
者
占
思
三郎
勇吉
巡査
新
孝
正二
秀吉
乾物屋
人魚
塀
燈台
正吉
乙
魔法使
中
勇
乞食
正
太郎
丙
誠
大将
山本
胡弓
銅貨
賢吉
刈
彼女
日
著者としての作品一覧
愛に就ての問題(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私は母の愛というものに就いて考える。カーライルの、母の愛ほど尊いものはないと云っているが、私も母の愛ほど尊いものはないと思う。子供の為めには自分の凡てを犠牲にして尽すという愛の一面 …
読書目安時間:約5分
私は母の愛というものに就いて考える。カーライルの、母の愛ほど尊いものはないと云っているが、私も母の愛ほど尊いものはないと思う。子供の為めには自分の凡てを犠牲にして尽すという愛の一面 …
愛は不思議なもの(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
生活に差別のあるのは、ひとり、幾万の人間の住んでいる都会ばかりでありません。田舎においても同じであります。その村は、平和な村でありましたけれど、そこに住んでいる人々は、みんな幸福な …
読書目安時間:約10分
生活に差別のあるのは、ひとり、幾万の人間の住んでいる都会ばかりでありません。田舎においても同じであります。その村は、平和な村でありましたけれど、そこに住んでいる人々は、みんな幸福な …
青い石とメダル(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
犬ころしが、はいってくるというので、犬を飼っている家では、かわいい犬を捕られてはたいへんだといって、畜犬票をもらってきてつけてやりました。 しかし、かわいそうなのは、宿なしの犬であ …
読書目安時間:約8分
犬ころしが、はいってくるというので、犬を飼っている家では、かわいい犬を捕られてはたいへんだといって、畜犬票をもらってきてつけてやりました。 しかし、かわいそうなのは、宿なしの犬であ …
青い草(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
小さな姉弟は、父の目が、だんだん見えなくなるのを心配しました。 「お父さん、あのカレンダーの字が、わからないの?」と、壁の方を指していったのは、もう前のことであります。お父さんが、 …
読書目安時間:約7分
小さな姉弟は、父の目が、だんだん見えなくなるのを心配しました。 「お父さん、あのカレンダーの字が、わからないの?」と、壁の方を指していったのは、もう前のことであります。お父さんが、 …
青い玉と銀色のふえ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
北のさびしい海のほとりに、なみ子の家はありました。ある年、まずしい漁師であったおとうさんがふとした病気で死ぬと、つづいておかあさんも、そのあとを追うようにして、なくなってしまいまし …
読書目安時間:約5分
北のさびしい海のほとりに、なみ子の家はありました。ある年、まずしい漁師であったおとうさんがふとした病気で死ぬと、つづいておかあさんも、そのあとを追うようにして、なくなってしまいまし …
青い時計台(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
さよ子は毎日、晩方になりますと、二階の欄干によりかかって、外の景色をながめることが好きでありました。目のさめるような青葉に、風が当たって、海色をした空に星の光が見えてくると、遠く町 …
読書目安時間:約7分
さよ子は毎日、晩方になりますと、二階の欄干によりかかって、外の景色をながめることが好きでありました。目のさめるような青葉に、風が当たって、海色をした空に星の光が見えてくると、遠く町 …
青い花の香り(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
のぶ子という、かわいらしい少女がありました。 「のぶ子や、おまえが、五つ六つのころ、かわいがってくださった、お姉さんの顔を忘れてしまったの?」と、お母さまがいわれると、のぶ子は、な …
読書目安時間:約5分
のぶ子という、かわいらしい少女がありました。 「のぶ子や、おまえが、五つ六つのころ、かわいがってくださった、お姉さんの顔を忘れてしまったの?」と、お母さまがいわれると、のぶ子は、な …
青い星の国へ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
デパートの内部は、いつも春のようでした。そこには、いろいろの香りがあり、いい音色がきかれ、そして、らんの花など咲いていたからです。 いつも快活で、そして、また独りぼっちに自分を感じ …
読書目安時間:約8分
デパートの内部は、いつも春のようでした。そこには、いろいろの香りがあり、いい音色がきかれ、そして、らんの花など咲いていたからです。 いつも快活で、そして、また独りぼっちに自分を感じ …
青いボタン(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
小学校時分の話であります。 正雄の組へ、ある日のこと知らない女の子がはいってきました。 「みなさん、今日から、この方がお仲間になられましたから、仲よくしてあげてください。」と、先生 …
読書目安時間:約10分
小学校時分の話であります。 正雄の組へ、ある日のこと知らない女の子がはいってきました。 「みなさん、今日から、この方がお仲間になられましたから、仲よくしてあげてください。」と、先生 …
青いランプ(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
不思議なランプがありました。青いかさがかかっていました。火をつけると、青い光があたりに流れたのです。 「このランプをつけると、きっと、変わったことがあるよ。」といって、その家では、 …
読書目安時間:約13分
不思議なランプがありました。青いかさがかかっていました。火をつけると、青い光があたりに流れたのです。 「このランプをつけると、きっと、変わったことがあるよ。」といって、その家では、 …
青葉の下(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
峠の上に、大きな桜の木がありました。春になると花がさいて、とおくから見るとかすみのかかったようです。その下に、小さなかけ茶屋があって、人のいいおばあさんが、ひとり店先にすわって、わ …
読書目安時間:約3分
峠の上に、大きな桜の木がありました。春になると花がさいて、とおくから見るとかすみのかかったようです。その下に、小さなかけ茶屋があって、人のいいおばあさんが、ひとり店先にすわって、わ …
赤いえり巻き(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
お花が、東京へ奉公にくるときに、姉さんはなにを妹に買ってやろうかと考えました。二人は遠く離れてしまわなければなりません。お花は、まだ見ないにぎやかな、美しいものや、楽しいことのたく …
読書目安時間:約8分
お花が、東京へ奉公にくるときに、姉さんはなにを妹に買ってやろうかと考えました。二人は遠く離れてしまわなければなりません。お花は、まだ見ないにぎやかな、美しいものや、楽しいことのたく …
赤いガラスの宮殿(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
独りものの平三は、正直な人間でありましたが、働きがなく、それに、いたって無欲でありましたから、世間の人々からは、あほうものに見られていました。 「あれは、あほうだ。」と、いわれると …
読書目安時間:約10分
独りものの平三は、正直な人間でありましたが、働きがなく、それに、いたって無欲でありましたから、世間の人々からは、あほうものに見られていました。 「あれは、あほうだ。」と、いわれると …
あかい雲(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
あかい雲、あかい雲、 西の空の紅い雲。 おらが乳母のおまんは、 まだ年若いに、 嫁入りの晩に、 海の中に落ちて、 あかい雲となった。 おまん、おまん、 まだ年若いに、 あかい紅つけ …
読書目安時間:約1分
あかい雲、あかい雲、 西の空の紅い雲。 おらが乳母のおまんは、 まだ年若いに、 嫁入りの晩に、 海の中に落ちて、 あかい雲となった。 おまん、おまん、 まだ年若いに、 あかい紅つけ …
赤い魚と子供(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
川の中に、魚がすんでいました。 春になると、いろいろの花が川のほとりに咲きました。木が、枝を川の上に拡げていましたから、こずえに咲いた、真紅な花や、またうす紅の花は、その美しい姿を …
読書目安時間:約6分
川の中に、魚がすんでいました。 春になると、いろいろの花が川のほとりに咲きました。木が、枝を川の上に拡げていましたから、こずえに咲いた、真紅な花や、またうす紅の花は、その美しい姿を …
赤い手袋(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
政雄は、姉さんからこさえてもらいました、赤い毛糸の手袋を、学校から帰りに、どこでか落としてしまったのです。 その日は、寒い日で、雪が積もっていました。そして、終日、空は曇って日の光 …
読書目安時間:約4分
政雄は、姉さんからこさえてもらいました、赤い毛糸の手袋を、学校から帰りに、どこでか落としてしまったのです。 その日は、寒い日で、雪が積もっていました。そして、終日、空は曇って日の光 …
赤い鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
鳥屋の前に立ったらば 赤い鳥がないていた。 私は姉さんを思い出す。 電車や汽車の通ってる 町に住んでる姉さんが ほんとに恋しい、なつかしい。 もう夕方か、日がかげる。 村の方からガ …
読書目安時間:約1分
鳥屋の前に立ったらば 赤い鳥がないていた。 私は姉さんを思い出す。 電車や汽車の通ってる 町に住んでる姉さんが ほんとに恋しい、なつかしい。 もう夕方か、日がかげる。 村の方からガ …
赤い姫と黒い皇子(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある国に美しいお姫さまがありました。いつも赤い着物をきて、黒い髪を長く垂れていましたから、人々は、「赤い姫君」といっていました。 あるときのこと、隣の国から、お姫さまをお嫁にほしい …
読書目安時間:約9分
ある国に美しいお姫さまがありました。いつも赤い着物をきて、黒い髪を長く垂れていましたから、人々は、「赤い姫君」といっていました。 あるときのこと、隣の国から、お姫さまをお嫁にほしい …
赤い船(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
露子は、貧しい家に生まれました。村の小学校へ上がったとき、オルガンの音を聞いて、世の中には、こんないい音のするものがあるかと驚きました。それ以前には、こんないい音を聞いたことがなか …
読書目安時間:約8分
露子は、貧しい家に生まれました。村の小学校へ上がったとき、オルガンの音を聞いて、世の中には、こんないい音のするものがあるかと驚きました。それ以前には、こんないい音を聞いたことがなか …
赤い船とつばめ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ある日の晩方、赤い船が、浜辺につきました。その船は、南の国からきたので、つばめを迎えに、王さまが、よこされたものです。 長い間、北の青い海の上を飛んだり、電信柱の上にとまって、さえ …
読書目安時間:約3分
ある日の晩方、赤い船が、浜辺につきました。その船は、南の国からきたので、つばめを迎えに、王さまが、よこされたものです。 長い間、北の青い海の上を飛んだり、電信柱の上にとまって、さえ …
赤い船のお客(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある、うららかな日のことでありました。 二郎は、友だちもなく、ひとり往来を歩いていました。 この道を、おりおり、いろいろなふうをした旅人が通ります。 彼はさも珍しそうに、それらの人 …
読書目安時間:約8分
ある、うららかな日のことでありました。 二郎は、友だちもなく、ひとり往来を歩いていました。 この道を、おりおり、いろいろなふうをした旅人が通ります。 彼はさも珍しそうに、それらの人 …
赤い実(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。 「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていら …
読書目安時間:約5分
だんだん寒くなるので、義雄さんのお母さんは精を出して、お仕事をなさっていました。 「きょうのうちに、綿をいれてしまいたいものだ。」と、ひとりごとをしながら、針を持つ手を動かしていら …
赤いろうそくと人魚(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。あるとき、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色をな …
読書目安時間:約15分
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。あるとき、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色をな …
赤い蝋燭と人魚(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。ある時、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色を眺め …
読書目安時間:約14分
人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。 北方の海の色は、青うございました。ある時、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色を眺め …
赤土へくる子供たち(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
釣りの道具を、しらべようとして、信一は、物置小舎の中へ入って、あちらこちら、かきまわしているうちに、あきかんの中に、紙につつんだものが、入っているのを見つけ出しました。 「なんだろ …
読書目安時間:約33分
釣りの道具を、しらべようとして、信一は、物置小舎の中へ入って、あちらこちら、かきまわしているうちに、あきかんの中に、紙につつんだものが、入っているのを見つけ出しました。 「なんだろ …
明るき世界へ(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
小さな木の芽が土を破って、やっと二、三寸ばかりの丈に伸びました。木の芽は、はじめて広い野原を見渡しました。大空を飛ぶ雲の影をながめました。そして、小鳥の鳴き声を聞いたのであります。 …
読書目安時間:約16分
小さな木の芽が土を破って、やっと二、三寸ばかりの丈に伸びました。木の芽は、はじめて広い野原を見渡しました。大空を飛ぶ雲の影をながめました。そして、小鳥の鳴き声を聞いたのであります。 …
秋が きました(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
にわのコスモスが、きれいにさきました。しずかな秋のいいひよりです。 ピイー、ピイーという、ほそいふえの音がしました。 「ラオのすげかえやがきたから、このきせるをたのんでおくれ。」 …
読書目安時間:約2分
にわのコスモスが、きれいにさきました。しずかな秋のいいひよりです。 ピイー、ピイーという、ほそいふえの音がしました。 「ラオのすげかえやがきたから、このきせるをたのんでおくれ。」 …
秋のお約束(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
まあちゃんが、「寒い、寒い。」といっていましたときに、お母さんは、子供たちのきものをぬいながら、 「もう、あちらのけやきの木の枝がいろづいたから、じきにあたたかくなりますよ。」と、 …
読書目安時間:約2分
まあちゃんが、「寒い、寒い。」といっていましたときに、お母さんは、子供たちのきものをぬいながら、 「もう、あちらのけやきの木の枝がいろづいたから、じきにあたたかくなりますよ。」と、 …
悪魔(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
道の上が白く乾いて、風が音を立てずに木を揺っていた。家々の前に立っている人は、何か怖しい気持に襲われているように眼をきょときょとしながら、耳を立てて、爪先で音を立てぬように、互に寄 …
読書目安時間:約16分
道の上が白く乾いて、風が音を立てずに木を揺っていた。家々の前に立っている人は、何か怖しい気持に襲われているように眼をきょときょとしながら、耳を立てて、爪先で音を立てぬように、互に寄 …
朝の公園(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
それは、さむいさむい朝のことでした。女中のおはるは、赤いマントをきた、小さいお嬢さんをつれて、近くの公園へあそびにきました。そこはもう、朝日があたたかくてっていたからです。公園には …
読書目安時間:約5分
それは、さむいさむい朝のことでした。女中のおはるは、赤いマントをきた、小さいお嬢さんをつれて、近くの公園へあそびにきました。そこはもう、朝日があたたかくてっていたからです。公園には …
頭をはなれた帽子(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
三郎は、往来で、犬と遊んでいるうちに、ふいに、自分のかぶっていた帽子をとって、これを犬の頭にかぶせました。 ポチは、目が見えなくなったので、びっくりして、あとずさりをしました。それ …
読書目安時間:約5分
三郎は、往来で、犬と遊んでいるうちに、ふいに、自分のかぶっていた帽子をとって、これを犬の頭にかぶせました。 ポチは、目が見えなくなったので、びっくりして、あとずさりをしました。それ …
新しい町(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
もくら、もくらと、白い雲が、大空に頭をならべる季節となりました。遠くつづく道も、りょうがわの町も、まぶしい日の光をあびています。戦争のためやけたあとにも、新しいバラックができ、いつ …
読書目安時間:約7分
もくら、もくらと、白い雲が、大空に頭をならべる季節となりました。遠くつづく道も、りょうがわの町も、まぶしい日の光をあびています。戦争のためやけたあとにも、新しいバラックができ、いつ …
新しい町(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
あるところに、母と子と二人が貧しい暮らしをしていました。少年の名を幸三といいました。彼は、子供ながらに働いて、わずかに得た金で年老った母を養っているのでありました。 彼は、朝は、早 …
読書目安時間:約11分
あるところに、母と子と二人が貧しい暮らしをしていました。少年の名を幸三といいました。彼は、子供ながらに働いて、わずかに得た金で年老った母を養っているのでありました。 彼は、朝は、早 …
兄と魚(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
正二は、夏のころ、兄さんと川へいっしょにいって、とってきた小さな魚を、すいれんの入っている、大きな鉢の中へ入れて、飼っていました。 そのうちに、夏も過ぎ、秋も過ぎてしまって、魚は川 …
読書目安時間:約4分
正二は、夏のころ、兄さんと川へいっしょにいって、とってきた小さな魚を、すいれんの入っている、大きな鉢の中へ入れて、飼っていました。 そのうちに、夏も過ぎ、秋も過ぎてしまって、魚は川 …
兄の声(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
おかあさんは、ぼくに向かって、よくこういわれました。 「小さいときから、おまえのほうは、気が強かったけれど、にいさんはおとなしかった。まだおまえが、やっとあるける時分のこと、ものさ …
読書目安時間:約9分
おかあさんは、ぼくに向かって、よくこういわれました。 「小さいときから、おまえのほうは、気が強かったけれど、にいさんはおとなしかった。まだおまえが、やっとあるける時分のこと、ものさ …
アパートで聞いた話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
そのおじさんは、いつも考えこんでいるような、やさしい人でした。少年は、その人のへやへいきました。 「なにか、お話をしてくださいませんか。」と、たのみました。 「どんな話かね。」と、 …
読書目安時間:約6分
そのおじさんは、いつも考えこんでいるような、やさしい人でした。少年は、その人のへやへいきました。 「なにか、お話をしてくださいませんか。」と、たのみました。 「どんな話かね。」と、 …
あほう鳥の鳴く日(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
若者は、小さいときから、両親のもとを離れました。そして諸所を流れ歩いていろいろな生活を送っていました。もはや、幾年も自分の生まれた故郷へは帰りませんでした。たとえ、それを思い出して …
読書目安時間:約16分
若者は、小さいときから、両親のもとを離れました。そして諸所を流れ歩いていろいろな生活を送っていました。もはや、幾年も自分の生まれた故郷へは帰りませんでした。たとえ、それを思い出して …
飴チョコの天使(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
青い、美しい空の下に、黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場がありました。その工場の中では、飴チョコを製造していました。 製造された飴チョコは、小さな箱の中に入れられて、方々の町や …
読書目安時間:約10分
青い、美しい空の下に、黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場がありました。その工場の中では、飴チョコを製造していました。 製造された飴チョコは、小さな箱の中に入れられて、方々の町や …
あらしの前の木と鳥の会話(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある山のふもとに、大きな林がありました。その林の中には、いろいろな木がたくさんしげっていましたが、一番の王さまとも見られたのは、古くからある大きなひのきの木でありました。 また、こ …
読書目安時間:約9分
ある山のふもとに、大きな林がありました。その林の中には、いろいろな木がたくさんしげっていましたが、一番の王さまとも見られたのは、古くからある大きなひのきの木でありました。 また、こ …
嵐の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
父さんは海へ、母さんは山へ、秋日和の麗わしい日に働きに出掛けて、後には今年八歳になる女の子が留守居をしていました。 もとより貧しい家で、山の麓の小高い所に建っている一軒家で、三毛猫 …
読書目安時間:約6分
父さんは海へ、母さんは山へ、秋日和の麗わしい日に働きに出掛けて、後には今年八歳になる女の子が留守居をしていました。 もとより貧しい家で、山の麓の小高い所に建っている一軒家で、三毛猫 …
ある男と無花果(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ある男が、縁日にいって、植木をひやかしているうちに、とうとうなにか買わなければならなくなりました。そして、無花果の鉢植えを買いました。 「いつになったら、実がなるだろう。」 「来年 …
読書目安時間:約2分
ある男が、縁日にいって、植木をひやかしているうちに、とうとうなにか買わなければならなくなりました。そして、無花果の鉢植えを買いました。 「いつになったら、実がなるだろう。」 「来年 …
ある男と牛の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある男が、牛に重い荷物を引かせて町へ出かけたのであります。 「きょうの荷は、ちと牛に無理かもしれないが、まあ引けるか、引かせてみよう。」と、男は、心の中で思ったのでした。 牛や馬は …
読書目安時間:約5分
ある男が、牛に重い荷物を引かせて町へ出かけたのであります。 「きょうの荷は、ちと牛に無理かもしれないが、まあ引けるか、引かせてみよう。」と、男は、心の中で思ったのでした。 牛や馬は …
ある少年の正月の日記(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
一月一日 学校から帰ると、お父さんが、「今年から、おまえが、年始におまわりなさい。」といって、お父さんの名刺を四枚お渡しなさった。そうだ、僕は、十二になったのだ。十二になると、お父 …
読書目安時間:約3分
一月一日 学校から帰ると、お父さんが、「今年から、おまえが、年始におまわりなさい。」といって、お父さんの名刺を四枚お渡しなさった。そうだ、僕は、十二になったのだ。十二になると、お父 …
ある夏の日のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
姉さんは、庭前のつつじの枝に、はちの巣を見つけました。 「まあ、こんなところへ巣を造って、あぶないから落としてしまおうか。」と、ほうきを持った手を抑えてためらいましたが、 「さわら …
読書目安時間:約4分
姉さんは、庭前のつつじの枝に、はちの巣を見つけました。 「まあ、こんなところへ巣を造って、あぶないから落としてしまおうか。」と、ほうきを持った手を抑えてためらいましたが、 「さわら …
ある日の午後(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
新に越して来た家の前に二軒続きの長屋があった。最初私にはただこんな長屋があるという位にしか思われなかった。 ある新聞社にいる知人から毎日寄贈してくれる新聞がこの越して来てから二三日 …
読書目安時間:約3分
新に越して来た家の前に二軒続きの長屋があった。最初私にはただこんな長屋があるという位にしか思われなかった。 ある新聞社にいる知人から毎日寄贈してくれる新聞がこの越して来てから二三日 …
ある日の先生と子供(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
それは、寒い日でありました。指のさきも、鼻の頭も、赤くなるような寒い日でありました。吉雄は、いつものように、朝早くから起きました。 「お母さん、寒い日ですね。」と、ごあいさつをして …
読書目安時間:約8分
それは、寒い日でありました。指のさきも、鼻の頭も、赤くなるような寒い日でありました。吉雄は、いつものように、朝早くから起きました。 「お母さん、寒い日ですね。」と、ごあいさつをして …
ある冬の晩のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
橋のそばに、一人のみすぼらしいふうをした女が、冷たい大地の上へむしろを敷いて、その上にすわり、粗末な三味線を抱えて唄をうたっていました。 あちらにともっている街燈の光が、わずかに、 …
読書目安時間:約9分
橋のそばに、一人のみすぼらしいふうをした女が、冷たい大地の上へむしろを敷いて、その上にすわり、粗末な三味線を抱えて唄をうたっていました。 あちらにともっている街燈の光が、わずかに、 …
あるまりの一生(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
フットボールは、あまり坊ちゃんや、お嬢さんたちが、乱暴に取り扱いなさるので、弱りきっていました。どうせ、踏んだり、蹴ったりされるものではありましたけれども、すこしは、自分の身になっ …
読書目安時間:約8分
フットボールは、あまり坊ちゃんや、お嬢さんたちが、乱暴に取り扱いなさるので、弱りきっていました。どうせ、踏んだり、蹴ったりされるものではありましたけれども、すこしは、自分の身になっ …
ある夜の姉と弟(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日のこと、義夫は、お母さんにつれられて町へいくと、露店が並んでいました。くつしたや、シャツなどを拡げたのや、バナナを積み上げて、パン、パンと台をたたいているのや、小間物を並べた …
読書目安時間:約5分
ある日のこと、義夫は、お母さんにつれられて町へいくと、露店が並んでいました。くつしたや、シャツなどを拡げたのや、バナナを積み上げて、パン、パンと台をたたいているのや、小間物を並べた …
ある夜の星たちの話(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
それは、寒い、寒い冬の夜のことでありました。空は、青々として、研がれた鏡のように澄んでいました。一片の雲すらなく、風も、寒さのために傷んで、すすり泣きするような細い声をたてて吹いて …
読書目安時間:約9分
それは、寒い、寒い冬の夜のことでありました。空は、青々として、研がれた鏡のように澄んでいました。一片の雲すらなく、風も、寒さのために傷んで、すすり泣きするような細い声をたてて吹いて …
あんずの花(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私の家にきた盲目、 帰りにあんずの花折って、 夏がきたら、またこよう。 赤いお月さま出る晩に。 俺はくるくる青坊主、 笠をかぶって坊ちゃんの、 お家の窓から、のぞきましょう。 …
読書目安時間:約1分
私の家にきた盲目、 帰りにあんずの花折って、 夏がきたら、またこよう。 赤いお月さま出る晩に。 俺はくるくる青坊主、 笠をかぶって坊ちゃんの、 お家の窓から、のぞきましょう。 …
いいおじいさんの話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
美しい翼がある天使が、貧しげな家の前に立って、心配そうな顔つきをして、しきりと内のようすを知ろうとしていました。 外には寒い風が吹いています。星がきらきらと枯れた林のいただきに輝い …
読書目安時間:約8分
美しい翼がある天使が、貧しげな家の前に立って、心配そうな顔つきをして、しきりと内のようすを知ろうとしていました。 外には寒い風が吹いています。星がきらきらと枯れた林のいただきに輝い …
生きた人形(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ある町の呉服屋の店頭に立って一人の少女が、じっとそこに飾られた人形に見いっていました。人形は、美しい着物をきて、りっぱな帯をしめて、前を通る人たちを誇らしげにながめていたのです。 …
読書目安時間:約10分
ある町の呉服屋の店頭に立って一人の少女が、じっとそこに飾られた人形に見いっていました。人形は、美しい着物をきて、りっぱな帯をしめて、前を通る人たちを誇らしげにながめていたのです。 …
生きている看板(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
町から、村へつづいている往来の片側に、一軒の小さなペンキ屋がありました。主人というのは、三十二、三の男であったが、毎日なにもせずに、ぶらぶらと日を送っていました。このあたりの商店は …
読書目安時間:約6分
町から、村へつづいている往来の片側に、一軒の小さなペンキ屋がありました。主人というのは、三十二、三の男であったが、毎日なにもせずに、ぶらぶらと日を送っていました。このあたりの商店は …
生きぬく力(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
「孝二、おまえでないか。」 「僕、そんなところへさわりませんよ。」 玉石の頭から、すべり落ちた青竹を、口をゆがめながらもとへ直して、おじいさんは、四つ目垣の前に立っていました。いた …
読書目安時間:約11分
「孝二、おまえでないか。」 「僕、そんなところへさわりませんよ。」 玉石の頭から、すべり落ちた青竹を、口をゆがめながらもとへ直して、おじいさんは、四つ目垣の前に立っていました。いた …
幾年もたった後(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある輝かしい日のことです。父親は、子供の手を引きながら道を歩いていました。 まだ昨日降った雨の水が、ところどころ地のくぼみにたまっていました。その水の面にも、日の光は美しく照らして …
読書目安時間:約8分
ある輝かしい日のことです。父親は、子供の手を引きながら道を歩いていました。 まだ昨日降った雨の水が、ところどころ地のくぼみにたまっていました。その水の面にも、日の光は美しく照らして …
石段に鉄管(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
秋の暮れ方のことであります。貧しい母親が二人の子供をつれて、街道を歩いて、町の方へきかかっていました。二人の子供は男の子でした。上が十一ばかり、そして、下は、まだ八つか、九つになっ …
読書目安時間:約6分
秋の暮れ方のことであります。貧しい母親が二人の子供をつれて、街道を歩いて、町の方へきかかっていました。二人の子供は男の子でした。上が十一ばかり、そして、下は、まだ八つか、九つになっ …
石をのせた車(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
あるところに、だれといって頼るところのない、一人の少年がありました。 少年は、病気にかかって、いまは働くこともできなかったのであります。 「これからさき、自分はどうしたらいいだろう …
読書目安時間:約13分
あるところに、だれといって頼るところのない、一人の少年がありました。 少年は、病気にかかって、いまは働くこともできなかったのであります。 「これからさき、自分はどうしたらいいだろう …
いちじゅくの木(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
年郎くんと、吉雄くんは、ある日、学校の帰りにお友だちのところへ遊びにゆきました。そのお家には、一本の大きないちじゅくの木があって、その木の枝を差して造った苗木が、幾本もありました。 …
読書目安時間:約4分
年郎くんと、吉雄くんは、ある日、学校の帰りにお友だちのところへ遊びにゆきました。そのお家には、一本の大きないちじゅくの木があって、その木の枝を差して造った苗木が、幾本もありました。 …
いちょうの葉(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
幸ちゃんと、清ちゃんは、二つちがいでしたが、毎日仲よく学校へゆきました。いつも幸ちゃんが迎えにきたのです。 「もう、幸ちゃんが、迎えにくる時分だから。」と、清ちゃんは、早くご飯を食 …
読書目安時間:約4分
幸ちゃんと、清ちゃんは、二つちがいでしたが、毎日仲よく学校へゆきました。いつも幸ちゃんが迎えにきたのです。 「もう、幸ちゃんが、迎えにくる時分だから。」と、清ちゃんは、早くご飯を食 …
一銭銅貨(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
英ちゃんは、お姉さんから、お古の財布をもらいました。そして、お母さんから、小遣いをいただくと、その中にいれておきましたが、じきに、つかってしまうので、その財布の中は、いつもからっぽ …
読書目安時間:約5分
英ちゃんは、お姉さんから、お古の財布をもらいました。そして、お母さんから、小遣いをいただくと、その中にいれておきましたが、じきに、つかってしまうので、その財布の中は、いつもからっぽ …
一本のかきの木(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
山にすんでいるからすがありましたが、そのからすは、もうだいぶん年をとってしまいました。若い時分には、やはり、いま、ほかの若いからすのように、元気よく高い嶺の頂を飛んで、目の下に、谷 …
読書目安時間:約5分
山にすんでいるからすがありましたが、そのからすは、もうだいぶん年をとってしまいました。若い時分には、やはり、いま、ほかの若いからすのように、元気よく高い嶺の頂を飛んで、目の下に、谷 …
一本の銀の針(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
兄と妹は、海岸の砂原の上で、いつも仲よく遊んでいました。 おじいさんは、このあたりでは、だれ一人、「海の王さま」といえば、知らぬものはないほど、船乗りの名人でありました。ほとんど一 …
読書目安時間:約10分
兄と妹は、海岸の砂原の上で、いつも仲よく遊んでいました。 おじいさんは、このあたりでは、だれ一人、「海の王さま」といえば、知らぬものはないほど、船乗りの名人でありました。ほとんど一 …
一本の釣りざお(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あるさびしい海岸に、二人の漁師が住んでいました。二人とも貧しい生活をしていましたから、町や都に住んでいる人々のように、美しい着物をきたり、うまいものをたくさん食べたり、また、ぜいた …
読書目安時間:約5分
あるさびしい海岸に、二人の漁師が住んでいました。二人とも貧しい生活をしていましたから、町や都に住んでいる人々のように、美しい着物をきたり、うまいものをたくさん食べたり、また、ぜいた …
田舎のお母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
奉公をしているおみつのところへ、田舎の母親から小包がまいりました。あけてみると、着物がはいっていました。そして、母親からの手紙には、 「さぞ、おまえも大きくなったであろう。そのつも …
読書目安時間:約5分
奉公をしているおみつのところへ、田舎の母親から小包がまいりました。あけてみると、着物がはいっていました。そして、母親からの手紙には、 「さぞ、おまえも大きくなったであろう。そのつも …
犬と人と花(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある町はずれのさびしい寺に、和尚さまと一ぴきの大きな赤犬とが住んでいました。そのほかには、だれもいなかったのであります。 和尚さまは、毎日御堂にいってお経を上げられていました。昼も …
読書目安時間:約5分
ある町はずれのさびしい寺に、和尚さまと一ぴきの大きな赤犬とが住んでいました。そのほかには、だれもいなかったのであります。 和尚さまは、毎日御堂にいってお経を上げられていました。昼も …
犬と古洋傘(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある村から、毎日町へ仕事にいく男がありました。どんな日でも、さびしい道を歩かなければならなかったのです。 ある日のこと、男はいつものごとく考えながら歩いてきました。寒い朝で、自分の …
読書目安時間:約5分
ある村から、毎日町へ仕事にいく男がありました。どんな日でも、さびしい道を歩かなければならなかったのです。 ある日のこと、男はいつものごとく考えながら歩いてきました。寒い朝で、自分の …
いろいろな花(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
さまざまの草が、いろいろな運命をもってこの世に生まれてきました。それは、ちょうど人間の身の上と変わりがなかったのです。 広い野原の中に、紫色のすみれの花が咲きかけましたときは、まだ …
読書目安時間:約4分
さまざまの草が、いろいろな運命をもってこの世に生まれてきました。それは、ちょうど人間の身の上と変わりがなかったのです。 広い野原の中に、紫色のすみれの花が咲きかけましたときは、まだ …
魚と白鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
河の中に、魚が、冬の間じっとしていました。水が、冷たく、そして、流れが急であったからであります。水の底は、暗く、陰気でありました。 魚の子供は、長い間、こうして、じっとしていること …
読書目安時間:約8分
河の中に、魚が、冬の間じっとしていました。水が、冷たく、そして、流れが急であったからであります。水の底は、暗く、陰気でありました。 魚の子供は、長い間、こうして、じっとしていること …
動く絵と新しき夢幻(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
時間的に人事の変遷とか、或は事件の推移を書かないで、自分の官能を刺戟したものを気持で取扱って、色彩的に描写すると云うことは新らしき文芸の試みである。 だから、それは時間的と云うより …
読書目安時間:約4分
時間的に人事の変遷とか、或は事件の推移を書かないで、自分の官能を刺戟したものを気持で取扱って、色彩的に描写すると云うことは新らしき文芸の試みである。 だから、それは時間的と云うより …
うさぎと二人のおじいさん(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ふたりの気むずかしい、おじいさんが、隣り合わせに住んでいました。一人のおじいさんは、うさぎを飼っていました。白いのや、黒いのや、なかには、毛色の変わった珍しいのやらがおって、それを …
読書目安時間:約4分
ふたりの気むずかしい、おじいさんが、隣り合わせに住んでいました。一人のおじいさんは、うさぎを飼っていました。白いのや、黒いのや、なかには、毛色の変わった珍しいのやらがおって、それを …
牛女(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ある村に、脊の高い、大きな女がありました。あまり大きいので、くびを垂れて歩きました。その女は、おしでありました。性質は、いたってやさしく、涙もろくて、よく、一人の子供をかわいがりま …
読書目安時間:約10分
ある村に、脊の高い、大きな女がありました。あまり大きいので、くびを垂れて歩きました。その女は、おしでありました。性質は、いたってやさしく、涙もろくて、よく、一人の子供をかわいがりま …
うずめられた鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
後になってから、烏帽子岳という名がついたけれど、むかしは、ただ三角形の山としか、知られていませんでした。山がはじめて、地上に生まれたとき、あたりは、荒涼として、なにも、目にとまるも …
読書目安時間:約12分
後になってから、烏帽子岳という名がついたけれど、むかしは、ただ三角形の山としか、知られていませんでした。山がはじめて、地上に生まれたとき、あたりは、荒涼として、なにも、目にとまるも …
美しく生まれたばかりに(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
さびしい、暗い、谷を前にひかえて、こんもりとした森がありました。そこには、いろいろな小鳥が、よく集まってきました。 秋から、冬へかけて、そのあたりは、いっそうさびしくなりました。森 …
読書目安時間:約12分
さびしい、暗い、谷を前にひかえて、こんもりとした森がありました。そこには、いろいろな小鳥が、よく集まってきました。 秋から、冬へかけて、そのあたりは、いっそうさびしくなりました。森 …
馬を殺したからす(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
北の海の方にすんでいたかもめは、ふとして思いたって南の方へと飛んできました。途中でにぎやかな街が下の方にあるのを見ました。そこにはおほりがあって、水がなみなみと青く、あふれるばかり …
読書目安時間:約11分
北の海の方にすんでいたかもめは、ふとして思いたって南の方へと飛んできました。途中でにぎやかな街が下の方にあるのを見ました。そこにはおほりがあって、水がなみなみと青く、あふれるばかり …
海が呼んだ話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
自転車屋のおじさんが、こんど田舎へ帰ることになりました。清吉や、正二にとって、親しみの深いおじさんだったのです。三輪車の修繕もしてもらえば、ゴムまりのパンクしたのを直してもくれまし …
読書目安時間:約8分
自転車屋のおじさんが、こんど田舎へ帰ることになりました。清吉や、正二にとって、親しみの深いおじさんだったのです。三輪車の修繕もしてもらえば、ゴムまりのパンクしたのを直してもくれまし …
海からきた使い(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
人間が、天国のようすを知りたいと思うように、天使の子供らはどうかして、下界の人間は、どんなような生活をしているか知りたいと思うのであります。 人間は、天国へいってみることはできませ …
読書目安時間:約13分
人間が、天国のようすを知りたいと思うように、天使の子供らはどうかして、下界の人間は、どんなような生活をしているか知りたいと思うのであります。 人間は、天国へいってみることはできませ …
海と少年(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
清さんとたけ子さんの二人は、お母さんにつれられて、海岸へまいりました。 「清さんは、男ですから、泳ぎを知らなくてはいけません。ここには、泳ぎの上手な先生がいらっしゃるから、よく習っ …
読書目安時間:約4分
清さんとたけ子さんの二人は、お母さんにつれられて、海岸へまいりました。 「清さんは、男ですから、泳ぎを知らなくてはいけません。ここには、泳ぎの上手な先生がいらっしゃるから、よく習っ …
海と太陽(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
海は昼眠る、夜も眠る、 ごうごう、いびきをかいて眠る。 昔、昔、おお昔 海がはじめて、口開けて、 笑ったときに、太陽は、 目をまわして驚いた。 かわいい花や、人たちを、 海がのんで …
読書目安時間:約1分
海は昼眠る、夜も眠る、 ごうごう、いびきをかいて眠る。 昔、昔、おお昔 海がはじめて、口開けて、 笑ったときに、太陽は、 目をまわして驚いた。 かわいい花や、人たちを、 海がのんで …
海の踊り(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
日本海の荒波が、ドドン、ドドンといって岸を打っています。がけの上に、一本の松の木が、しっかり岩にかじりついて、暗い沖をながめて、嵐にほえていました。 そこへ、どこからともなく、紅い …
読書目安時間:約7分
日本海の荒波が、ドドン、ドドンといって岸を打っています。がけの上に、一本の松の木が、しっかり岩にかじりついて、暗い沖をながめて、嵐にほえていました。 そこへ、どこからともなく、紅い …
海のおばあさん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
大昔のことでありました。海のおばあさんといって、たいそう気むずかしやで、すこしのことにも腹を立てるおそろしいおばあさんが海の中に住んでいました。だれもあまり近寄りませんでしたから、 …
読書目安時間:約2分
大昔のことでありました。海のおばあさんといって、たいそう気むずかしやで、すこしのことにも腹を立てるおそろしいおばあさんが海の中に住んでいました。だれもあまり近寄りませんでしたから、 …
海のかなた(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
海に近く、昔の城跡がありました。 波の音は、無心に、終日岸の岩角にぶつかって、砕けて、しぶきをあげていました。 昔は、このあたりは、繁華な町があって、いろいろの店や、りっぱな建物が …
読書目安時間:約15分
海に近く、昔の城跡がありました。 波の音は、無心に、終日岸の岩角にぶつかって、砕けて、しぶきをあげていました。 昔は、このあたりは、繁華な町があって、いろいろの店や、りっぱな建物が …
海の少年(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今年の夏休みに、正雄さんは、母さんや姉さんに連れられて、江の島の別荘へ避暑にまいりました。正雄さんは海が珍しいので、毎日朝から晩まで、海辺へ出ては、美しい貝がらや、小石などを拾い集 …
読書目安時間:約6分
今年の夏休みに、正雄さんは、母さんや姉さんに連れられて、江の島の別荘へ避暑にまいりました。正雄さんは海が珍しいので、毎日朝から晩まで、海辺へ出ては、美しい貝がらや、小石などを拾い集 …
海のまぼろし(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
浜辺に立って、沖の方を見ながら、いつも口笛を吹いている若者がありました。風は、その音を消し、青い、青い、ガラスのような空には、白いかもめが飛んでいました。 ここに、また二人の娘があ …
読書目安時間:約4分
浜辺に立って、沖の方を見ながら、いつも口笛を吹いている若者がありました。風は、その音を消し、青い、青い、ガラスのような空には、白いかもめが飛んでいました。 ここに、また二人の娘があ …
海へ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この村でのわんぱく者といえば、だれ知らぬものがなかったほど、龍雄はわんぱく者でした。親のいうこともきかなければ、また他人のいうこともききませんでした。 よく友だちを泣かしました。す …
読書目安時間:約7分
この村でのわんぱく者といえば、だれ知らぬものがなかったほど、龍雄はわんぱく者でした。親のいうこともきかなければ、また他人のいうこともききませんでした。 よく友だちを泣かしました。す …
海へ帰るおじさん(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
赤いボールを沖に向かって投げると、そのまりは、白い波の間にもまれて、浮きつ沈みつしていましたが、そのうちに、ざあっと押し寄せる波に送られて、また武ちゃんや、ゆう子さんのいる渚にもど …
読書目安時間:約3分
赤いボールを沖に向かって投げると、そのまりは、白い波の間にもまれて、浮きつ沈みつしていましたが、そのうちに、ざあっと押し寄せる波に送られて、また武ちゃんや、ゆう子さんのいる渚にもど …
うみぼうずと おひめさま(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
うみぼうずはしょうたいのわからないおばけです。 まっくろなからだをして、海のそこにすみ、きかんぼうずでわがままかってにふるまっています。 だから、みんなからきらわれています。なにか …
読書目安時間:約25分
うみぼうずはしょうたいのわからないおばけです。 まっくろなからだをして、海のそこにすみ、きかんぼうずでわがままかってにふるまっています。 だから、みんなからきらわれています。なにか …
海ほおずき(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。 ちょうどその季節でありました。遠い、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカ …
読書目安時間:約7分
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。 ちょうどその季節でありました。遠い、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカ …
海ぼたる(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ある日、兄弟は、村のはずれを流れている川にいって、たくさんほたるを捕らえてきました。晩になって、かごに霧を吹いてやると、それはそれはよく光ったのであります。 いずれも小さな、黒い体 …
読書目安時間:約7分
ある日、兄弟は、村のはずれを流れている川にいって、たくさんほたるを捕らえてきました。晩になって、かごに霧を吹いてやると、それはそれはよく光ったのであります。 いずれも小さな、黒い体 …
越後の冬(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
小舎は山の上にあった。幾年か雨風に打たれたので、壁板には穴が明き、窓は壊れて、赤い壁の地膚が露われて、家根は灰色に板が朽ちて処々に莚を掩せて、その上に石が載せられてあった。この山の …
読書目安時間:約15分
小舎は山の上にあった。幾年か雨風に打たれたので、壁板には穴が明き、窓は壊れて、赤い壁の地膚が露われて、家根は灰色に板が朽ちて処々に莚を掩せて、その上に石が載せられてあった。この山の …
煙突と柳(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
冬の晴れた日のことであります。太陽は、いつになく機嫌のいい顔を見せました。下界のどんなものでも、太陽のこの機嫌のいい顔を見たものは、みんな、気持ちがはればれとして喜ばないものはなか …
読書目安時間:約7分
冬の晴れた日のことであります。太陽は、いつになく機嫌のいい顔を見せました。下界のどんなものでも、太陽のこの機嫌のいい顔を見たものは、みんな、気持ちがはればれとして喜ばないものはなか …
遠方の母(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
正ちゃんは、三つになったときに、はじめて自分には、お母さんのないことを知りました。それは、どんなにさびしかったでありましょう。みんなに、お母さんがあるのに、どうして、自分にばかり、 …
読書目安時間:約7分
正ちゃんは、三つになったときに、はじめて自分には、お母さんのないことを知りました。それは、どんなにさびしかったでありましょう。みんなに、お母さんがあるのに、どうして、自分にばかり、 …
王さまの感心された話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この世界が造られましたときに、三人の美しい天使がありました。いちばん上の姉さんは、やさしい、さびしい口数の少ない方で、そのつぎの妹は、まことに麗しい、目の大きいぱっちりとした方で、 …
読書目安時間:約7分
この世界が造られましたときに、三人の美しい天使がありました。いちばん上の姉さんは、やさしい、さびしい口数の少ない方で、そのつぎの妹は、まことに麗しい、目の大きいぱっちりとした方で、 …
お江戸は火事だ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お江戸は火事だ、 お江戸は火事だ。 出てみい、出てみい、 東の空が真紅っか。 露が降りたよ、もう、お寝よ。 隣のじいさん、臼ついて、 娘は、夜業に機を織る。 …
読書目安時間:約1分
お江戸は火事だ、 お江戸は火事だ。 出てみい、出てみい、 東の空が真紅っか。 露が降りたよ、もう、お寝よ。 隣のじいさん、臼ついて、 娘は、夜業に機を織る。 …
おおかみと人(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
未開な小さな村がありました。町へいくには、山のすそ野を通らなければなりませんでした。その間はかなり遠く三里もありまして、その間には、一軒の人家すらなかったのであります。 春から夏に …
読書目安時間:約9分
未開な小さな村がありました。町へいくには、山のすそ野を通らなければなりませんでした。その間はかなり遠く三里もありまして、その間には、一軒の人家すらなかったのであります。 春から夏に …
おおかみをだましたおじいさん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
北の国の、寒い晩方のことでありました。 雪がちらちらと降っていました。木の上にも、山の上にも、雪は積もって、あたりは、一面に、真っ白でありました。 おじいさんは、ちょうど、その日の …
読書目安時間:約5分
北の国の、寒い晩方のことでありました。 雪がちらちらと降っていました。木の上にも、山の上にも、雪は積もって、あたりは、一面に、真っ白でありました。 おじいさんは、ちょうど、その日の …
大きなかしの木(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
野の中に、一本の大きなかしの木がありました。だれも、その木の年を知っているものがなかったほど、もう、長いことそこに立っているのでした。 木は、平常は、黙っていました。だれとも話をす …
読書目安時間:約7分
野の中に、一本の大きなかしの木がありました。だれも、その木の年を知っているものがなかったほど、もう、長いことそこに立っているのでした。 木は、平常は、黙っていました。だれとも話をす …
大きなかに(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
それは、春の遅い、雪の深い北国の話であります。ある日のこと太郎は、おじいさんの帰ってくるのを待っていました。 おじいさんは三里ばかり隔たった、海岸の村へ用事があって、その日の朝早く …
読書目安時間:約12分
それは、春の遅い、雪の深い北国の話であります。ある日のこと太郎は、おじいさんの帰ってくるのを待っていました。 おじいさんは三里ばかり隔たった、海岸の村へ用事があって、その日の朝早く …
お母さまは太陽(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「お母さんは、太陽だ。」ということが、私にはどうしてもわかりませんでした。そうしたら、よくもののわかった、やさしいおじいさんが、つぎのようなお話をしてくださいました。 ***** …
読書目安時間:約3分
「お母さんは、太陽だ。」ということが、私にはどうしてもわかりませんでした。そうしたら、よくもののわかった、やさしいおじいさんが、つぎのようなお話をしてくださいました。 ***** …
お母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「お母さん海が見えた! あれあれかもめが飛んでいるよ。 あれあれあんなに遠く帆掛船が 見えるよ。 お母さんお母さん海が見えたよ!」と 子供がいった。 「沖の白帆が白いか、飛んでいる …
読書目安時間:約1分
「お母さん海が見えた! あれあれかもめが飛んでいるよ。 あれあれあんなに遠く帆掛船が 見えるよ。 お母さんお母さん海が見えたよ!」と 子供がいった。 「沖の白帆が白いか、飛んでいる …
お母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
正ちゃんは、目をさますと、もう朝でした。窓が明るくなって、どこかで雨戸を繰る音がしました。けれどそばに寝ている兄さんも、目をさまさなければ、またお母さんもお起きなさらぬようすです。 …
読書目安時間:約4分
正ちゃんは、目をさますと、もう朝でした。窓が明るくなって、どこかで雨戸を繰る音がしました。けれどそばに寝ている兄さんも、目をさまさなければ、またお母さんもお起きなさらぬようすです。 …
お母さんのお乳(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
赤ちゃんは、お母さんのお乳にすがりついて、うまそうに、のんでいました。 それをさもうらやましそうにして、五つになったお兄さんと、七つになったお姉さんとがながめていました。 兄さんは …
読書目安時間:約2分
赤ちゃんは、お母さんのお乳にすがりついて、うまそうに、のんでいました。 それをさもうらやましそうにして、五つになったお兄さんと、七つになったお姉さんとがながめていました。 兄さんは …
お母さんのかんざし(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
あるところに、母と少年とがさびしく暮らしていました。 あわれな母は、貧しかったから、その身になんの飾りというものをつけていなかったけれど、頭の髪に、青い珠のついているかんざしをさし …
読書目安時間:約6分
あるところに、母と少年とがさびしく暮らしていました。 あわれな母は、貧しかったから、その身になんの飾りというものをつけていなかったけれど、頭の髪に、青い珠のついているかんざしをさし …
お母さんのひきがえる(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
かえるというものは、みんなおとなしいものですけれど、この大きなひきがえるは、たくさんの小さなひきがえるのお母さんであっただけに、いちばんおとなしいのでありました。 町の裏は、坂にな …
読書目安時間:約3分
かえるというものは、みんなおとなしいものですけれど、この大きなひきがえるは、たくさんの小さなひきがえるのお母さんであっただけに、いちばんおとなしいのでありました。 町の裏は、坂にな …
お母さんはえらいな(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
いちばん下の勇ちゃんには、よくおなかをいためるので、なるべく果物はたべさせないようにしてありましたから、ほかの兄さんや、姉さんたちが、果物をたべるときには、勇ちゃんの遊びに出て、い …
読書目安時間:約3分
いちばん下の勇ちゃんには、よくおなかをいためるので、なるべく果物はたべさせないようにしてありましたから、ほかの兄さんや、姉さんたちが、果物をたべるときには、勇ちゃんの遊びに出て、い …
お母さんは僕達の太陽(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
子供は、自分のお母さんを絶対のものとして、信じています。そのお母さんに対して、註文を持つというようなことがあれば、それは、余程大きくなってからのことでありましょう。たとえば、お母さ …
読書目安時間:約8分
子供は、自分のお母さんを絶対のものとして、信じています。そのお母さんに対して、註文を持つというようなことがあれば、それは、余程大きくなってからのことでありましょう。たとえば、お母さ …
おかしいまちがい(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある田舎に、一人の男がありました。その男は、貧乏な暮らしをしていました。 「ほんとうに、つまらない、なにひとつおもしろいことはなし、毎日おなじようなことをして、日を送っているのだが …
読書目安時間:約8分
ある田舎に、一人の男がありました。その男は、貧乏な暮らしをしていました。 「ほんとうに、つまらない、なにひとつおもしろいことはなし、毎日おなじようなことをして、日を送っているのだが …
丘の下(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
年雄は、丘の上に立って、ぼんやりと考えていました。 「学校で、みんなと別れるときは悲しかった。先生にごあいさつをすると、先生は、みんなに向かって、こんど年雄くんは、お父さんが転勤な …
読書目安時間:約5分
年雄は、丘の上に立って、ぼんやりと考えていました。 「学校で、みんなと別れるときは悲しかった。先生にごあいさつをすると、先生は、みんなに向かって、こんど年雄くんは、お父さんが転勤な …
おかまの唄(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
松林で、聞きなれた鳥の声がしました。窓をあけると、やまがらやしじゅうからが、枝から枝をつたって鳴いていました。 「僕のにがしたやまがらではないかな。」 少年が、じっとその姿を見てい …
読書目安時間:約5分
松林で、聞きなれた鳥の声がしました。窓をあけると、やまがらやしじゅうからが、枝から枝をつたって鳴いていました。 「僕のにがしたやまがらではないかな。」 少年が、じっとその姿を見てい …
おかめどんぐり(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ねえやの田舎は、山奥のさびしい村です。町がなかなか遠いので、子供たちは本屋へいって雑誌を見るということも、めったにありません。三郎さんは、自分の見た雑誌をねえやの弟さんに、送ってや …
読書目安時間:約3分
ねえやの田舎は、山奥のさびしい村です。町がなかなか遠いので、子供たちは本屋へいって雑誌を見るということも、めったにありません。三郎さんは、自分の見た雑誌をねえやの弟さんに、送ってや …
おきくと弟(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
空が曇っていました。 正ちゃんが、学校へゆくときに、お母さんは、ガラス戸から、外をながめて、 「今日は、降りそうだから雨マントを持っておいで。」と、注意なさいました。 「じゃまでし …
読書目安時間:約5分
空が曇っていました。 正ちゃんが、学校へゆくときに、お母さんは、ガラス戸から、外をながめて、 「今日は、降りそうだから雨マントを持っておいで。」と、注意なさいました。 「じゃまでし …
奥さまと女乞食(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
やさしい奥さまがありました。あわれな人たちには、なぐさめてやり、また、貧しい人たちには、めぐんでやりましたから、みんなから、尊敬されていました。 冬になると雪が降りました。そして、 …
読書目安時間:約9分
やさしい奥さまがありました。あわれな人たちには、なぐさめてやり、また、貧しい人たちには、めぐんでやりましたから、みんなから、尊敬されていました。 冬になると雪が降りました。そして、 …
おけらになった話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、あまり性質のよくない男が住んでいました。この男は平気で、うそをつきました。また、どうしてもそれがほしいと思えば他人のものでも、だまってそれを持って帰りました。 こうい …
読書目安時間:約8分
あるところに、あまり性質のよくない男が住んでいました。この男は平気で、うそをつきました。また、どうしてもそれがほしいと思えば他人のものでも、だまってそれを持って帰りました。 こうい …
おさくの話(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
おさくは、貧しい家に生まれましたから、小学校を卒業すると、すぐに、奉公に出なければなりませんでした。 「なに、私が、いいところへ世話をしてやる。」と、植木屋のおじいさんはいいました …
読書目安時間:約10分
おさくは、貧しい家に生まれましたから、小学校を卒業すると、すぐに、奉公に出なければなりませんでした。 「なに、私が、いいところへ世話をしてやる。」と、植木屋のおじいさんはいいました …
幼き日(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
正ちゃんのお母さんは、かわいい坊やが、病気になったので、髪もとかさずに心配していました。 お医者さまは、正ちゃんを診察して、 「なるたけ、静かに、寝かしておかなければなりません。」 …
読書目安時間:約8分
正ちゃんのお母さんは、かわいい坊やが、病気になったので、髪もとかさずに心配していました。 お医者さまは、正ちゃんを診察して、 「なるたけ、静かに、寝かしておかなければなりません。」 …
おさらい帳(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この夏のことでした。正ちゃんは毎日のようにもち棒を持って、お宮のけいだいへ、せみとりに出かけました。そのけいだいは、木立がたくさんあって、すずしい風が吹いていました。そして、雨のふ …
読書目安時間:約4分
この夏のことでした。正ちゃんは毎日のようにもち棒を持って、お宮のけいだいへ、せみとりに出かけました。そのけいだいは、木立がたくさんあって、すずしい風が吹いていました。そして、雨のふ …
おじいさんが捨てたら(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日、おじいさんはいつものように、小さな手車を引きながら、その上に、くずかごをのせて、裏道を歩いていました。すると、一軒の家から、呼んだのであります。 いってみると、家の中のうす …
読書目安時間:約5分
ある日、おじいさんはいつものように、小さな手車を引きながら、その上に、くずかごをのせて、裏道を歩いていました。すると、一軒の家から、呼んだのであります。 いってみると、家の中のうす …
おじいさんとくわ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
だんだんと山の方へはいってゆく田舎の道ばたに、一軒の鍛冶屋がありました。その前を毎日百姓が通って、町の方へゆき、帰りには、またその家の前を通ったのであります。 「どうか、今年も豊作 …
読書目安時間:約5分
だんだんと山の方へはいってゆく田舎の道ばたに、一軒の鍛冶屋がありました。その前を毎日百姓が通って、町の方へゆき、帰りには、またその家の前を通ったのであります。 「どうか、今年も豊作 …
おじいさんの家(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
学校から帰ると正雄は、ボンと楽しく遊びました。ボンはりこうな犬で、なんでも正雄のいうことはよく聞き分けました。ただものがいえないばかりでありましたから、正雄の姉さんも、お母さんも、 …
読書目安時間:約11分
学校から帰ると正雄は、ボンと楽しく遊びました。ボンはりこうな犬で、なんでも正雄のいうことはよく聞き分けました。ただものがいえないばかりでありましたから、正雄の姉さんも、お母さんも、 …
お月さまと ぞう(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
正ちゃんとよし子さんが、ごもんのところへたらいをだして、水をいれると、まんまるな月のかおがうつって、にこにことわらいました。 「さあ、わたしをよくみてください。」 と、月がいいまし …
読書目安時間:約2分
正ちゃんとよし子さんが、ごもんのところへたらいをだして、水をいれると、まんまるな月のかおがうつって、にこにことわらいました。 「さあ、わたしをよくみてください。」 と、月がいいまし …
おっぱい(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
赤ちゃんが、おかあさんのおっぱいをすぱすぱとのんでいました。そばでみていたつね子ちゃんは、 「おいしそうね。」 といいました。 「おまえもこうしてのんだのですよ。」 と、おかあさん …
読書目安時間:約2分
赤ちゃんが、おかあさんのおっぱいをすぱすぱとのんでいました。そばでみていたつね子ちゃんは、 「おいしそうね。」 といいました。 「おまえもこうしてのんだのですよ。」 と、おかあさん …
お父さんの見た人形(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
娘の父親は、船乗りでしたから、いつも、留守でありました。その間、彼女は、お父さんを恋しがっていたのです。 「いまごろは、どこに、どうしておいでなさるだろうか?」 こう思うと、少女の …
読書目安時間:約8分
娘の父親は、船乗りでしたから、いつも、留守でありました。その間、彼女は、お父さんを恋しがっていたのです。 「いまごろは、どこに、どうしておいでなさるだろうか?」 こう思うと、少女の …
男の子を見るたびに「戦争」について考えます(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
それは、独り、男の子と限った訳ではないが、子供を一人前に養育するということは決して容易なことでないのは、恐らく、すべての子供を持った程の人々なら、想像されることだと思います。 乳飲 …
読書目安時間:約4分
それは、独り、男の子と限った訳ではないが、子供を一人前に養育するということは決して容易なことでないのは、恐らく、すべての子供を持った程の人々なら、想像されることだと思います。 乳飲 …
お姉ちゃんといわれて(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
光子さんが、学校へいこうとすると、近所のおばあさんが、赤ちゃんをおぶって、日の当たる道の上に立っていました。 「お姉ちゃん、いまいらっしゃるの。」と、おばあさんは、声をかけました。 …
読書目安時間:約5分
光子さんが、学校へいこうとすると、近所のおばあさんが、赤ちゃんをおぶって、日の当たる道の上に立っていました。 「お姉ちゃん、いまいらっしゃるの。」と、おばあさんは、声をかけました。 …
おばあさんと黒ねこ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
いまでは、いい薬がたくさんにありますけれど、まだ世間が開けなかった、昔は、家伝薬などを用いて病気をなおしたものであります。 この話も、その時分のことで、雪の降る北の国にあったことで …
読書目安時間:約12分
いまでは、いい薬がたくさんにありますけれど、まだ世間が開けなかった、昔は、家伝薬などを用いて病気をなおしたものであります。 この話も、その時分のことで、雪の降る北の国にあったことで …
おばあさんとツェッペリン(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
おばあさんは、まだ、若い時分に、なにかの雑誌についている口絵で見た、軽気球の空に上がっている姿を、いつまでも忘れることができませんでした。 青い色が、ところどころに出て、雲の乱れた …
読書目安時間:約8分
おばあさんは、まだ、若い時分に、なにかの雑誌についている口絵で見た、軽気球の空に上がっている姿を、いつまでも忘れることができませんでした。 青い色が、ところどころに出て、雲の乱れた …
お化けとまちがえた話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ある田舎に、二郎という子供がありました。よく隣の家へ遊びにゆきました。 その家には、二郎といっしょになって、遊ぶような子供はなかったけれど、女房は、二郎をかわいがってくれました。 …
読書目安時間:約6分
ある田舎に、二郎という子供がありました。よく隣の家へ遊びにゆきました。 その家には、二郎といっしょになって、遊ぶような子供はなかったけれど、女房は、二郎をかわいがってくれました。 …
『お話の木』を主宰するに当たりて宣言す(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
次の時代を建設する者が、今日の子供達であると知る時、私達は、未来への希望と理想を子供達に対して持たないであろうか。それ故に子供達の情智を啓発する読み物については、殊更厳粛な気持ちと …
読書目安時間:約3分
次の時代を建設する者が、今日の子供達であると知る時、私達は、未来への希望と理想を子供達に対して持たないであろうか。それ故に子供達の情智を啓発する読み物については、殊更厳粛な気持ちと …
お姫さまと乞食の女(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
お城の奥深くお姫さまは住んでいられました。そのお城はもう古い、石垣などがところどころ崩れていましたけれど、入り口には大きな厳めしい門があって、だれでも許しがなくては、入ることも、ま …
読書目安時間:約16分
お城の奥深くお姫さまは住んでいられました。そのお城はもう古い、石垣などがところどころ崩れていましたけれど、入り口には大きな厳めしい門があって、だれでも許しがなくては、入ることも、ま …
お星さま(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
澄ちゃん、澄ちゃん、なにあげよう。 あのお星さま、とっておくれ。 あんまり高くて、とれません。 そんなら、あたいがとってみよう。 お星さま、お星さま、なにあげよう。 のどがかわいた …
読書目安時間:約1分
澄ちゃん、澄ちゃん、なにあげよう。 あのお星さま、とっておくれ。 あんまり高くて、とれません。 そんなら、あたいがとってみよう。 お星さま、お星さま、なにあげよう。 のどがかわいた …
おほしさま(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ぽっちりとした目のように、あかるくひかるものが、おかあさんぼし。きらきらとひかりのつよいのが、おとうさんぼし。そして、森の上でひかる、うす赤いのが、おじいさんぼし。そのそばで、とき …
読書目安時間:約2分
ぽっちりとした目のように、あかるくひかるものが、おかあさんぼし。きらきらとひかりのつよいのが、おとうさんぼし。そして、森の上でひかる、うす赤いのが、おじいさんぼし。そのそばで、とき …
お面とりんご(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
町の方から、いつもいい音が聞こえてきます。 チンチン、ゴーゴーという電車の音のようなのや、プープーというらっぱの音のようなのや、ピーイ、ポポーという笛の音のようなのや、聞いても聞い …
読書目安時間:約6分
町の方から、いつもいい音が聞こえてきます。 チンチン、ゴーゴーという電車の音のようなのや、プープーというらっぱの音のようなのや、ピーイ、ポポーという笛の音のようなのや、聞いても聞い …
面影:ハーン先生の一周忌に(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
独り、道を歩きながら、考えるともなく寂しい景色が目の前に浮んで来て胸に痛みを覚えるのが常である。秋の夕暮の杜の景色や、冬枯野辺の景色や、なんでも沈鬱な景色が幻のように見えるかと思う …
読書目安時間:約8分
独り、道を歩きながら、考えるともなく寂しい景色が目の前に浮んで来て胸に痛みを覚えるのが常である。秋の夕暮の杜の景色や、冬枯野辺の景色や、なんでも沈鬱な景色が幻のように見えるかと思う …
おもちゃ店(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
長二は貧乏の家に生まれて おもちゃも持たずに 死んでしまった。 美しいガラス張りの店頭に、 西洋のぜいたくな小間物や、 赤、紫に、塗ったゴムまりや ぴかぴかと顔の映る銀笛や、らっぱ …
読書目安時間:約1分
長二は貧乏の家に生まれて おもちゃも持たずに 死んでしまった。 美しいガラス張りの店頭に、 西洋のぜいたくな小間物や、 赤、紫に、塗ったゴムまりや ぴかぴかと顔の映る銀笛や、らっぱ …
親木と若木(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
なんでも、一本の木が大きくなると、その根のところに、小さな芽が生えるものであります。 孝ちゃんの家の垣根のところに、山吹がしげっていました。ふさふさとして、枝はたわんで黄金色の花を …
読書目安時間:約6分
なんでも、一本の木が大きくなると、その根のところに、小さな芽が生えるものであります。 孝ちゃんの家の垣根のところに、山吹がしげっていました。ふさふさとして、枝はたわんで黄金色の花を …
温泉へ出かけたすずめ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
雪が降って、田や、畑をうずめてしまうと、すずめたちは、人家の軒端近くやってきました。もう、外に落ちている餌がなかったからです。朝早くから、日暮れ方まで、窓の下や、ごみ捨て場などをあ …
読書目安時間:約11分
雪が降って、田や、畑をうずめてしまうと、すずめたちは、人家の軒端近くやってきました。もう、外に落ちている餌がなかったからです。朝早くから、日暮れ方まで、窓の下や、ごみ捨て場などをあ …
女の魚売り(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある空の赤い、晩方のことであります。 海の方から、若い女が、かごの中にたくさんのたいを入れて、てんびん棒でかついで村の中へはいってきました。 「たいは、いりませんか。たいを買ってく …
読書目安時間:約8分
ある空の赤い、晩方のことであります。 海の方から、若い女が、かごの中にたくさんのたいを入れて、てんびん棒でかついで村の中へはいってきました。 「たいは、いりませんか。たいを買ってく …
かざぐるま(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
駅前の広場で、二人の女はとなりあって、その日の新聞を、ゆき来の人に売っていました。一人は、もう年をとった母親であったが、一人は、まだ若い、赤ん坊をおぶった女でありました。 朝のうち …
読書目安時間:約3分
駅前の広場で、二人の女はとなりあって、その日の新聞を、ゆき来の人に売っていました。一人は、もう年をとった母親であったが、一人は、まだ若い、赤ん坊をおぶった女でありました。 朝のうち …
火事(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
季節が、冬から春に移りゆく時分には、よくこんなような静かな、そして、底冷えのする晩があるものですが、その夜は、まさしくそんな夜でありました。一家は、いつものごとく時計が十時を打つと …
読書目安時間:約7分
季節が、冬から春に移りゆく時分には、よくこんなような静かな、そして、底冷えのする晩があるものですが、その夜は、まさしくそんな夜でありました。一家は、いつものごとく時計が十時を打つと …
貸間を探がしたとき(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
春の長閑な日で、垣根の内には梅が咲いていた。私は、その日も学校から帰ると貸間を探がしに出かけた。 その日は、小石川の台町のあたりを探がして歩るいた。坂を登って、細い路次にはいって行 …
読書目安時間:約6分
春の長閑な日で、垣根の内には梅が咲いていた。私は、その日も学校から帰ると貸間を探がしに出かけた。 その日は、小石川の台町のあたりを探がして歩るいた。坂を登って、細い路次にはいって行 …
風七題(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
子どもは、つくえにむかって、勉強をしていました。秋のうすぐらい日でした。柱時計は、カッタ、コット、カッタ、コットと、たゆまず時をきざんでいましたが、聞きなれているので、かくべつ耳に …
読書目安時間:約5分
子どもは、つくえにむかって、勉強をしていました。秋のうすぐらい日でした。柱時計は、カッタ、コット、カッタ、コットと、たゆまず時をきざんでいましたが、聞きなれているので、かくべつ耳に …
風と木 からすときつね(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
広い野原は、雪におおわれていました。無情な風が、わが世顔に、朝から夜まで、野原の上を吹きつづけています。その寒い風にさまたげられて、木の枝は、すこしもじっとしておちついていることが …
読書目安時間:約7分
広い野原は、雪におおわれていました。無情な風が、わが世顔に、朝から夜まで、野原の上を吹きつづけています。その寒い風にさまたげられて、木の枝は、すこしもじっとしておちついていることが …
風の寒い世の中へ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
お嬢さんの持っていましたお人形は、いい顔で、めったに、こんなによくできたお人形はないのでしたが、手もとれ、足もこわれて、それは、みるから痛ましい姿になっていました。 けれど、お嬢さ …
読書目安時間:約8分
お嬢さんの持っていましたお人形は、いい顔で、めったに、こんなによくできたお人形はないのでしたが、手もとれ、足もこわれて、それは、みるから痛ましい姿になっていました。 けれど、お嬢さ …
風はささやく(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
高窓の障子の破れ穴に、風があたると、ブー、ブーといって、鳴りました。もう冬が近づいていたので、いつも空は暗かったのです。まだ幼年の彼は、この音をはるかの荒い北海をいく、汽船の笛とも …
読書目安時間:約8分
高窓の障子の破れ穴に、風があたると、ブー、ブーといって、鳴りました。もう冬が近づいていたので、いつも空は暗かったのです。まだ幼年の彼は、この音をはるかの荒い北海をいく、汽船の笛とも …
風ふき鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
風ふき鳥 飛んでどこへゆく 海は暴れているぞ。 なんで鳴く かあかあ 山も暴れているぞ。 あんなに高く あんなに低く 後になり、先になり。 みんなから、きらわれて 鳴き鳴き 飛んで …
読書目安時間:約1分
風ふき鳥 飛んでどこへゆく 海は暴れているぞ。 なんで鳴く かあかあ 山も暴れているぞ。 あんなに高く あんなに低く 後になり、先になり。 みんなから、きらわれて 鳴き鳴き 飛んで …
かたい大きな手(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
遠く、いなかから、出ていらした、おじいさんがめずらしいので、勇吉は、そのそばをはなれませんでした。おじいさんの着物には、北の国の生活が、しみこんでいるように感じられました。それは畑 …
読書目安時間:約8分
遠く、いなかから、出ていらした、おじいさんがめずらしいので、勇吉は、そのそばをはなれませんでした。おじいさんの着物には、北の国の生活が、しみこんでいるように感じられました。それは畑 …
片田舎にあった話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
さびしい片田舎に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日、都にいるせがれのところから、小包がとどいたのです。 「まあ、まあ、なにを送ってくれたか。」といって、二人は、開け …
読書目安時間:約3分
さびしい片田舎に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日、都にいるせがれのところから、小包がとどいたのです。 「まあ、まあ、なにを送ってくれたか。」といって、二人は、開け …
片目のごあいさつ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
新ちゃんは腰に長いものさしをさし、片方の目をつぶって、片方の手をうしろにかくしながら、頭をちょっとかしげて、みんながお話をしているところへ、いばって出てきました。 「いいか、よらば …
読書目安時間:約4分
新ちゃんは腰に長いものさしをさし、片方の目をつぶって、片方の手をうしろにかくしながら、頭をちょっとかしげて、みんながお話をしているところへ、いばって出てきました。 「いいか、よらば …
楽器の生命(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
音楽というものは、いったい悲しい感じを人々の心に与えるものです。いい楽器になればなるほど、その細かな波動が、いっそう鋭く魂に食い入るように、ますます悲しい感じをそそるのであります。 …
読書目安時間:約8分
音楽というものは、いったい悲しい感じを人々の心に与えるものです。いい楽器になればなるほど、その細かな波動が、いっそう鋭く魂に食い入るように、ますます悲しい感じをそそるのであります。 …
学校の桜の木(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ある、小学校の運動場に、一本の大きな桜の木がありました。枝を四方に拡げて、夏になると、その木の下は、日蔭ができて、涼しかったのです。 子供たちは、たくさんその木の下に集まりました。 …
読書目安時間:約4分
ある、小学校の運動場に、一本の大きな桜の木がありました。枝を四方に拡げて、夏になると、その木の下は、日蔭ができて、涼しかったのです。 子供たちは、たくさんその木の下に集まりました。 …
鐘(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
K町は、昔から鉄工場のあるところとして、知られていました。町には、金持ちが、たくさん住んでいました。西の方を見ると、高い山が重なり合って、その頂を雲に没していました。そして、よほど …
読書目安時間:約6分
K町は、昔から鉄工場のあるところとして、知られていました。町には、金持ちが、たくさん住んでいました。西の方を見ると、高い山が重なり合って、その頂を雲に没していました。そして、よほど …
金持ちと鶏(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
あるところに金持ちがありまして、毎日退屈なものですから、鶏でも飼って、新鮮な卵を産まして食べようと思いました。 鳥屋へいって、よく卵を産む鶏を欲しいのだが、あるか、と聞きました。 …
読書目安時間:約6分
あるところに金持ちがありまして、毎日退屈なものですから、鶏でも飼って、新鮮な卵を産まして食べようと思いました。 鳥屋へいって、よく卵を産む鶏を欲しいのだが、あるか、と聞きました。 …
神は弱いものを助けた(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あるところに、きわめて仲の悪い百姓がありました。 この仲の悪い甲と乙とは、なんとかして甲は乙を、乙は甲をうんとひどいめにあわしてやりたいと思っていました。けれど、なかなかそんなよう …
読書目安時間:約4分
あるところに、きわめて仲の悪い百姓がありました。 この仲の悪い甲と乙とは、なんとかして甲は乙を、乙は甲をうんとひどいめにあわしてやりたいと思っていました。けれど、なかなかそんなよう …
カラカラ鳴る海(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この港は山の陰になっていましたから、穏やかな、まことにいい港でありました。平常はもとより、たとえ天気のよくないような日であっても、この港の中だけはあまり波も高く立たず、ここにさえ逃 …
読書目安時間:約12分
この港は山の陰になっていましたから、穏やかな、まことにいい港でありました。平常はもとより、たとえ天気のよくないような日であっても、この港の中だけはあまり波も高く立たず、ここにさえ逃 …
からす(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
頭が過敏すぎると、口や、手足の働きが鈍り、かえって、のろまに見えるものです。純吉は、少年の時分にそうでありました。 学校で、ある思慮のない教師が、純吉のことを、 「おまえは、鈍吉だ …
読書目安時間:約5分
頭が過敏すぎると、口や、手足の働きが鈍り、かえって、のろまに見えるものです。純吉は、少年の時分にそうでありました。 学校で、ある思慮のない教師が、純吉のことを、 「おまえは、鈍吉だ …
からすとうさぎ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
お正月でも、山の中は、毎日寒い風が吹いて、木の枝を鳴らし、雪がちらちらと降って、それはそれはさびしかったのです。 「ほんとうに、お正月がきてもつまらないなあ。」と、からすは、ため息 …
読書目安時間:約5分
お正月でも、山の中は、毎日寒い風が吹いて、木の枝を鳴らし、雪がちらちらと降って、それはそれはさびしかったのです。 「ほんとうに、お正月がきてもつまらないなあ。」と、からすは、ため息 …
からすとかがし(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
太吉じいさんは、百姓が、かさをかぶって、手に弓を持って立っている、かがしをつくる名人でした。それを見ると、からすやすずめなどが、そばへ寄りつきませんでした。 それも、そのはずで、お …
読書目安時間:約3分
太吉じいさんは、百姓が、かさをかぶって、手に弓を持って立っている、かがしをつくる名人でした。それを見ると、からすやすずめなどが、そばへ寄りつきませんでした。 それも、そのはずで、お …
からすねこと ペルシャねこ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
年とったからすねこがいじのわるい目つきをして、あるいていました。あちらから、ぎんいろをしたペルシャねこがきました。 「はてな、みなれないねこだが。」 と、からすねこはたちどまりまし …
読書目安時間:約1分
年とったからすねこがいじのわるい目つきをして、あるいていました。あちらから、ぎんいろをしたペルシャねこがきました。 「はてな、みなれないねこだが。」 と、からすねこはたちどまりまし …
からすの唄うたい(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
ある田舎の街道へ、どこからか毎日のように一人のおじいさんがやってきて、屋台をおろして、チャルメラを吹きならして田舎の子供たちを呼び集め、あめを売っていました。 おじいさんは、小さな …
読書目安時間:約12分
ある田舎の街道へ、どこからか毎日のように一人のおじいさんがやってきて、屋台をおろして、チャルメラを吹きならして田舎の子供たちを呼び集め、あめを売っていました。 おじいさんは、小さな …
ガラス窓の河骨(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ある草花屋の店さきに、河骨が、小さな鉢の中にはいって、ガラス戸の内側にかざられていました。街の中で、こうした片いなかの水辺にあるような緑色の草を見るのは、めずらしいといわなければな …
読書目安時間:約7分
ある草花屋の店さきに、河骨が、小さな鉢の中にはいって、ガラス戸の内側にかざられていました。街の中で、こうした片いなかの水辺にあるような緑色の草を見るのは、めずらしいといわなければな …
彼等流浪す(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あてもなくさ迷い歩くというが、やはり、真実を求めているのだ。また美を求めているのだ。なぜなれば、人間は、この憧憬がなければ、生きていられないからだ。 あわれなる流浪者よ、いったい、 …
読書目安時間:約5分
あてもなくさ迷い歩くというが、やはり、真実を求めているのだ。また美を求めているのだ。なぜなれば、人間は、この憧憬がなければ、生きていられないからだ。 あわれなる流浪者よ、いったい、 …
川へふなをにがす(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
少年は、去年のいまごろ、川からすくいあみで、ふなの子を四、五ひきばかりとってきました。そして、庭においてあった、水盤の中に入れました。ほかにも水盤には、めだかや、金魚がはいっていま …
読書目安時間:約3分
少年は、去年のいまごろ、川からすくいあみで、ふなの子を四、五ひきばかりとってきました。そして、庭においてあった、水盤の中に入れました。ほかにも水盤には、めだかや、金魚がはいっていま …
河水の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
河水は、行方も知らずに流れてゆきました。前にも、また、後ろにも、自分たちの仲間は、ひっきりなしにつづいているのでした。そして、どこへゆくという、あてもなしに、ただ、流れている方に、 …
読書目安時間:約8分
河水は、行方も知らずに流れてゆきました。前にも、また、後ろにも、自分たちの仲間は、ひっきりなしにつづいているのでした。そして、どこへゆくという、あてもなしに、ただ、流れている方に、 …
がん(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
若いがんたちが、狭い池の中で、魚をあさっては争っているのを見て、年とったがんが歎息をしました。 「なぜ、こんなところに、いつまでもいるのだろうか。」 これを聞いた、りこうそうな一羽 …
読書目安時間:約6分
若いがんたちが、狭い池の中で、魚をあさっては争っているのを見て、年とったがんが歎息をしました。 「なぜ、こんなところに、いつまでもいるのだろうか。」 これを聞いた、りこうそうな一羽 …
考えこじき(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
人というものは、一つのことをじっと考えていると、ほかのことはわすれるものだし、また、どんな場合でも、考えることの自由を、もつものです。 ある日、清吉は、おじさんと町へ、いっしょにい …
読書目安時間:約9分
人というものは、一つのことをじっと考えていると、ほかのことはわすれるものだし、また、どんな場合でも、考えることの自由を、もつものです。 ある日、清吉は、おじさんと町へ、いっしょにい …
感覚の回生(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
夏の午後になると風も死んで了った。村の中は、湯に浸されたように空気が烈しい日の光りのためによどんでいる。私は、友達もなく独り座敷に坐って、外のもろこしの葉や、柿の葉に日の光りが照り …
読書目安時間:約4分
夏の午後になると風も死んで了った。村の中は、湯に浸されたように空気が烈しい日の光りのためによどんでいる。私は、友達もなく独り座敷に坐って、外のもろこしの葉や、柿の葉に日の光りが照り …
黄色い晩(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
垣根の楓が芽を萌く頃だ。彼方の往来で——杉林の下の薄暗い中で子供等が隠れ事をしている。きゃっきゃっという声が重い頭に響く。北から西にかけて空は一面に黄色く——真黒な雲がその上に掩い …
読書目安時間:約13分
垣根の楓が芽を萌く頃だ。彼方の往来で——杉林の下の薄暗い中で子供等が隠れ事をしている。きゃっきゃっという声が重い頭に響く。北から西にかけて空は一面に黄色く——真黒な雲がその上に掩い …
消えた美しい不思議なにじ(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
それは、ここからは見えないところです。 そこには黒い、黒い河が流れています。どうしたことか、その河の水は真っ黒でありました。河が真っ黒であったばかりでなく、河原の砂もまた真っ黒であ …
読書目安時間:約17分
それは、ここからは見えないところです。 そこには黒い、黒い河が流れています。どうしたことか、その河の水は真っ黒でありました。河が真っ黒であったばかりでなく、河原の砂もまた真っ黒であ …
汽車の中のくまと鶏(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある田舎の停車場へ汽車がとまりました。その汽車は、北の方の国からきて、だんだん南の方へゆくのでありました。どの箱にも、たくさんな荷物が積んでありました。どこかの山から伐り出されたの …
読書目安時間:約5分
ある田舎の停車場へ汽車がとまりました。その汽車は、北の方の国からきて、だんだん南の方へゆくのでありました。どの箱にも、たくさんな荷物が積んでありました。どこかの山から伐り出されたの …
汽車は走る(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
春風が吹くころになると、窓のガラスの汚れがきわだって目につくようになりました。冬の間は、ほこりのかかるのに委していたのです。裁縫室の窓からは、運動場の大きな桜の木が見えました。 「 …
読書目安時間:約8分
春風が吹くころになると、窓のガラスの汚れがきわだって目につくようになりました。冬の間は、ほこりのかかるのに委していたのです。裁縫室の窓からは、運動場の大きな桜の木が見えました。 「 …
机前に空しく過ぐ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は、机の前に坐っているうちに、いつしか年をとってしまいました。床屋が、他人の頭の格好を気にしながら、鋏をカチ/\やっているうちに、自分の青年時代が去り、いつしか、その頭髪が白くな …
読書目安時間:約4分
私は、机の前に坐っているうちに、いつしか年をとってしまいました。床屋が、他人の頭の格好を気にしながら、鋏をカチ/\やっているうちに、自分の青年時代が去り、いつしか、その頭髪が白くな …
汽船の中の父と子(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
古い、小形の汽船に乗って、海の上をどこということなく、東に、西に、さすらいながら、珍しい石や、貝がらなどを探していた父子の二人がありました。 あるときは、北の寒いところで、名もない …
読書目安時間:約9分
古い、小形の汽船に乗って、海の上をどこということなく、東に、西に、さすらいながら、珍しい石や、貝がらなどを探していた父子の二人がありました。 あるときは、北の寒いところで、名もない …
北風にたこは上がる(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
隣家の秀夫くんのお父さんは、お役所の休み日に、外へ出て子供たちといっしょにたこを上げて、愉快そうだったのです。 「おじさんのたこ、一番だこになれる?」と、北風に吹かれながら、あくま …
読書目安時間:約9分
隣家の秀夫くんのお父さんは、お役所の休み日に、外へ出て子供たちといっしょにたこを上げて、愉快そうだったのです。 「おじさんのたこ、一番だこになれる?」と、北風に吹かれながら、あくま …
北と南に憧がれる心(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
常に其の心は、南と北に憧がれる。 陰惨なペトログラードや、モスクワオの生活をするものは、南露西亜の自然と生活をどんなに慕うだろう。また、囚人の行くシベリヤをどんなに眼に描くだろう。 …
読書目安時間:約1分
常に其の心は、南と北に憧がれる。 陰惨なペトログラードや、モスクワオの生活をするものは、南露西亜の自然と生活をどんなに慕うだろう。また、囚人の行くシベリヤをどんなに眼に描くだろう。 …
北の国のはなし(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
あるところにぜいたくな人間が住んでいました。時節をかまわずに、なんでも食べたくなると、人々を方々に走らしてそれを求めたのであります。 「いくら金がかかってもいいから、さがしてこい。 …
読書目安時間:約6分
あるところにぜいたくな人間が住んでいました。時節をかまわずに、なんでも食べたくなると、人々を方々に走らしてそれを求めたのであります。 「いくら金がかかってもいいから、さがしてこい。 …
北の少女(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
少年は、海をながめていました。青黒い水平線は、うねりうねっていました。それはちょうど、一連の遠い山脈を見るように思われたのです。そして、いまにもなにか不思議な、珍しいものが、その小 …
読書目安時間:約7分
少年は、海をながめていました。青黒い水平線は、うねりうねっていました。それはちょうど、一連の遠い山脈を見るように思われたのです。そして、いまにもなにか不思議な、珍しいものが、その小 …
北の不思議な話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
おせんといって、村に、唄の上手なけなげな女がありました。たいして美しいというのではなかったけれど、黒い目と、長いたくさんな髪を持った、快活な女でありました。機屋へいって働いても、唄 …
読書目安時間:約5分
おせんといって、村に、唄の上手なけなげな女がありました。たいして美しいというのではなかったけれど、黒い目と、長いたくさんな髪を持った、快活な女でありました。機屋へいって働いても、唄 …
北の冬(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
私が六ツか七ツの頃であった。 外の雪は止んだと見えて、四境が静かであった——炬燵に当っていて、母からいろんな怖しい話を聞いた。その中にはこんな話もあったのである。 毎晩のように隣の …
読書目安時間:約11分
私が六ツか七ツの頃であった。 外の雪は止んだと見えて、四境が静かであった——炬燵に当っていて、母からいろんな怖しい話を聞いた。その中にはこんな話もあったのである。 毎晩のように隣の …
きつねをおがんだ人たち(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
村に、おいなりさまの小さい社がありました。まずこの話からしなければなりません。 昔、一人の武士が、殿さまのお使いで、旅へ出かけました。思いのほか日数がかかり、用がすんで、帰途につき …
読書目安時間:約5分
村に、おいなりさまの小さい社がありました。まずこの話からしなければなりません。 昔、一人の武士が、殿さまのお使いで、旅へ出かけました。思いのほか日数がかかり、用がすんで、帰途につき …
木と鳥になった姉妹(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
あるところに、人のよいおばあさんが住んでいました。このおばあさんはいろいろな話を知っていました。怖ろしいような話も、不思議な話も、またおかしいような話なども知っていました。この話は …
読書目安時間:約10分
あるところに、人のよいおばあさんが住んでいました。このおばあさんはいろいろな話を知っていました。怖ろしいような話も、不思議な話も、またおかしいような話なども知っていました。この話は …
気にいらない鉛筆(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
次郎さんはかばんを下げて、時計を見上げながら、 「おお、もうおそくなった。はやく、そういってくれればいいのに、なあ。」と、お母さんや女中に小言をいいました。 「毎朝、ゆけと注意され …
読書目安時間:約4分
次郎さんはかばんを下げて、時計を見上げながら、 「おお、もうおそくなった。はやく、そういってくれればいいのに、なあ。」と、お母さんや女中に小言をいいました。 「毎朝、ゆけと注意され …
木に上った子供(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、辰吉という少年がありました。辰吉は、小さな時分に、父や母に別れて、おばあさんの手で育てられました。 ほかの子供が、やさしいお母さんにかわいがられたり、姉さんや、兄さん …
読書目安時間:約8分
あるところに、辰吉という少年がありました。辰吉は、小さな時分に、父や母に別れて、おばあさんの手で育てられました。 ほかの子供が、やさしいお母さんにかわいがられたり、姉さんや、兄さん …
木の上と下の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある家の門のところに、大きなしいの木がありました。すずめが、その枝の中に巣を造っていました。さわやかな風が吹いて、きらきらと若葉は波だてていました。 「お母さん、さっきから、小さな …
読書目安時間:約8分
ある家の門のところに、大きなしいの木がありました。すずめが、その枝の中に巣を造っていました。さわやかな風が吹いて、きらきらと若葉は波だてていました。 「お母さん、さっきから、小さな …
希望(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
夏の晩方のことでした。一人の青年が、がけの上に腰を下ろして、海をながめていました。 日の光が、直射したときは、海は銀色にかがやいていたが、日が傾くにつれて、濃い青みをましてだんだん …
読書目安時間:約4分
夏の晩方のことでした。一人の青年が、がけの上に腰を下ろして、海をながめていました。 日の光が、直射したときは、海は銀色にかがやいていたが、日が傾くにつれて、濃い青みをましてだんだん …
気まぐれの人形師(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
雪の降らない、暖かな南の方の港町でありました。 ある日のこと、一人の娘は、その町の中を、あちらこちらと歩いていました。しばらく避寒に、こちらへやってきていたのですけれど、あまり日数 …
読書目安時間:約10分
雪の降らない、暖かな南の方の港町でありました。 ある日のこと、一人の娘は、その町の中を、あちらこちらと歩いていました。しばらく避寒に、こちらへやってきていたのですけれど、あまり日数 …
教師と子供(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
それは不思議な話であります。 あるところに、よく生徒をしかる教師がありました。また、ひじょうに物覚えの悪い生徒がありました。教師はその子供をたいへん憎みました。 「こんなによく教え …
読書目安時間:約4分
それは不思議な話であります。 あるところに、よく生徒をしかる教師がありました。また、ひじょうに物覚えの悪い生徒がありました。教師はその子供をたいへん憎みました。 「こんなによく教え …
きょうだいの のねずみ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
はたけの中で、きょうだいののねずみがふるえていますと、とおりかかったいえねずみが、 「冬のあいだだけわたしのうちへおいでなさい。」 といいました。 「ありがとうございます。けれど、 …
読書目安時間:約3分
はたけの中で、きょうだいののねずみがふるえていますと、とおりかかったいえねずみが、 「冬のあいだだけわたしのうちへおいでなさい。」 といいました。 「ありがとうございます。けれど、 …
兄弟のやまばと(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「お母さん。これから、また寒い風が吹いてさびしくなりますね。そして、白く雪が野原をうずめてしまって、なにも、私たちの目をたのしませるようなものがなくなってしまうのですね。なんで、お …
読書目安時間:約9分
「お母さん。これから、また寒い風が吹いてさびしくなりますね。そして、白く雪が野原をうずめてしまって、なにも、私たちの目をたのしませるようなものがなくなってしまうのですね。なんで、お …
きれいなきれいな町(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
あるところに、かわいそうな子どもがありました。かね子さんといって、うまれたときからよく目が見えなかったので、お母さんは、たいそうふびんに思っていらっしゃいました。 あちらにいい目の …
読書目安時間:約6分
あるところに、かわいそうな子どもがありました。かね子さんといって、うまれたときからよく目が見えなかったので、お母さんは、たいそうふびんに思っていらっしゃいました。 あちらにいい目の …
金色のボタン(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ゆり子ちゃんは、外へ出たけれど、だれも遊んでいませんでした。 「みんな、どうしたんだろう。」と、往来の上をあちらこちら見まわしていました。けれど、一人の子供の影も見えませんでした。 …
読書目安時間:約8分
ゆり子ちゃんは、外へ出たけれど、だれも遊んでいませんでした。 「みんな、どうしたんだろう。」と、往来の上をあちらこちら見まわしていました。けれど、一人の子供の影も見えませんでした。 …
金が出ずに、なしの産まれた話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ある金持ちが、毎日、座敷にすわって、あちらの山を見ていますと、そのうちに、 「なにか、あの山から、宝でも出ないものかなあ。」というような空想にふけりました。 その山というのは、あま …
読書目安時間:約6分
ある金持ちが、毎日、座敷にすわって、あちらの山を見ていますと、そのうちに、 「なにか、あの山から、宝でも出ないものかなあ。」というような空想にふけりました。 その山というのは、あま …
銀河の下の町(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
信吉は、学校から帰ると、野菜に水をやったり、虫を駆除したりして、農村の繁忙期には、よく家の手助けをしたのですが、今年は、晩霜のために、山間の地方は、くわの葉がまったく傷められたとい …
読書目安時間:約8分
信吉は、学校から帰ると、野菜に水をやったり、虫を駆除したりして、農村の繁忙期には、よく家の手助けをしたのですが、今年は、晩霜のために、山間の地方は、くわの葉がまったく傷められたとい …
金魚売り(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
たくさんな金魚の子が、おけの中で、あふ、あふとして泳いでいました。体じゅうがすっかり赤いのや、白と赤のまだらのや、頭のさきが、ちょっと黒いのや、いろいろあったのです。それを前と後ろ …
読書目安時間:約7分
たくさんな金魚の子が、おけの中で、あふ、あふとして泳いでいました。体じゅうがすっかり赤いのや、白と赤のまだらのや、頭のさきが、ちょっと黒いのや、いろいろあったのです。それを前と後ろ …
金銀小判(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
独り者の幸作は、家の中に話し相手もなくその日を暮らしていました。北国は十二月にもなると、真っ白に雪が積もります。そのうちに、年の暮れがきまして、そこ、ここの家々では餅をつきはじめま …
読書目安時間:約5分
独り者の幸作は、家の中に話し相手もなくその日を暮らしていました。北国は十二月にもなると、真っ白に雪が積もります。そのうちに、年の暮れがきまして、そこ、ここの家々では餅をつきはじめま …
金の魚(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
昔、あるところに金持ちがありまして、なんの不自由もなく暮らしていましたが、ふと病気にかかりました。 世間に、その名の聞こえたほどの大金持ちでありましたから、いい医者という医者は、い …
読書目安時間:約10分
昔、あるところに金持ちがありまして、なんの不自由もなく暮らしていましたが、ふと病気にかかりました。 世間に、その名の聞こえたほどの大金持ちでありましたから、いい医者という医者は、い …
銀のつえ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、いつも遊び歩いている男がありました。兄さんや、妹は、いくたび彼に、仕事をはげむようにいったかしれません。けれど、それには耳を傾けず、街のカフェーへいって、外国の酒を飲 …
読書目安時間:約8分
あるところに、いつも遊び歩いている男がありました。兄さんや、妹は、いくたび彼に、仕事をはげむようにいったかしれません。けれど、それには耳を傾けず、街のカフェーへいって、外国の酒を飲 …
銀のペンセル(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
三味線をひいて、旅の女が、毎日、温泉場の町を歩いていました。諸国の唄をうたってみんなをおもしろがらせていたが、いつしか、その姿が見えなくなりました。そのはずです。もう、山は、朝晩寒 …
読書目安時間:約6分
三味線をひいて、旅の女が、毎日、温泉場の町を歩いていました。諸国の唄をうたってみんなをおもしろがらせていたが、いつしか、その姿が見えなくなりました。そのはずです。もう、山は、朝晩寒 …
金の輪(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
太郎は長い間、病気で臥していましたが、ようやく床から離れて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。 だから、日の当たっているときには、外へ出 …
読書目安時間:約4分
太郎は長い間、病気で臥していましたが、ようやく床から離れて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。 だから、日の当たっているときには、外へ出 …
金の輪(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
太郎は長いあいだ、病気でふしていましたが、ようやく床からはなれて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。 だから、日のあたっているときには、 …
読書目安時間:約4分
太郎は長いあいだ、病気でふしていましたが、ようやく床からはなれて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。 だから、日のあたっているときには、 …
金歯(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
「絵を描きたくたって、絵の具がないんだからな。」 あまり欠乏しているのが、なんだか自分ながら、滑稽に感じたので、令二は笑いました。 「いくらあったら、その絵の具が買えます。」 「さ …
読書目安時間:約15分
「絵を描きたくたって、絵の具がないんだからな。」 あまり欠乏しているのが、なんだか自分ながら、滑稽に感じたので、令二は笑いました。 「いくらあったら、その絵の具が買えます。」 「さ …
金めだか(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
陽の光りが、庭先の鉢のところまでとゞくようになりました。なみ/\といれた水の面へ、かあいらしい金めだかが、四つ頭をならべて、せわしそうに鰭をうごかしながら、光りを吸おうとしています …
読書目安時間:約1分
陽の光りが、庭先の鉢のところまでとゞくようになりました。なみ/\といれた水の面へ、かあいらしい金めだかが、四つ頭をならべて、せわしそうに鰭をうごかしながら、光りを吸おうとしています …
草原の夢(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
私たちは、村はずれの野原で、日の暮れるのも知らずに遊んでいました。草の上をころげまわったり、相撲を取ったり、また鬼ごっこなどをして遊んでいると、時間は、はやくたってしまったのです。 …
読書目安時間:約9分
私たちは、村はずれの野原で、日の暮れるのも知らずに遊んでいました。草の上をころげまわったり、相撲を取ったり、また鬼ごっこなどをして遊んでいると、時間は、はやくたってしまったのです。 …
草を分けて(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
兄さんの打った球が、やぶの中へ飛び込むたびに辰夫くんは、草を分けてそれを拾わせられたのです。 「なんでも、あのあたりだよ。」と、兄の政二くんは指図をしておいて、自分は、またお友だち …
読書目安時間:約6分
兄さんの打った球が、やぶの中へ飛び込むたびに辰夫くんは、草を分けてそれを拾わせられたのです。 「なんでも、あのあたりだよ。」と、兄の政二くんは指図をしておいて、自分は、またお友だち …
櫛(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
町から少し離て家根が処々に見える村だ。空は暗く曇っていた。お島という病婦が織っている機の音が聞える。その家の前に鮮かな紫陽花が咲いていて、小さな低い窓が見える。途の上に、二人の女房 …
読書目安時間:約3分
町から少し離て家根が処々に見える村だ。空は暗く曇っていた。お島という病婦が織っている機の音が聞える。その家の前に鮮かな紫陽花が咲いていて、小さな低い窓が見える。途の上に、二人の女房 …
薬売り(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
どこからともなく、北国に、奇妙な男が入ってきました。 その男は黄色な袋を下げて、薬を売って歩きました。夏の暑い日に、この男は村から村を歩きましたが、人々は気味を悪がって、あまり薬を …
読書目安時間:約8分
どこからともなく、北国に、奇妙な男が入ってきました。 その男は黄色な袋を下げて、薬を売って歩きました。夏の暑い日に、この男は村から村を歩きましたが、人々は気味を悪がって、あまり薬を …
薬売りの少年(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
荷物を背中に負って、薬売りの少年は、今日も知らぬ他国の道を歩いていました。北の町から出た行商群の一人であったのです。 霜解けのした道は、ぬかるみのところもあるが、もう日の光に乾いて …
読書目安時間:約10分
荷物を背中に負って、薬売りの少年は、今日も知らぬ他国の道を歩いていました。北の町から出た行商群の一人であったのです。 霜解けのした道は、ぬかるみのところもあるが、もう日の光に乾いて …
管笛(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お母火を燃すけえ。 そねえに燃さなくても温けえないか。 だって今日は寒いもの。 寒いか、そんだらくべろえ。 明日、また出て薪取ってくるわの そう心配さっしゃんな。 ****** お …
読書目安時間:約1分
お母火を燃すけえ。 そねえに燃さなくても温けえないか。 だって今日は寒いもの。 寒いか、そんだらくべろえ。 明日、また出て薪取ってくるわの そう心配さっしゃんな。 ****** お …
果物の幻想(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
梅雨の頃になると、村端の土手の上に、沢山のぐみがなりました。下の窪地には、雨水がたまって、それが、鏡のように澄んで、折から空を低く駆けて行く、雲の影を映していました。私達は、太い枝 …
読書目安時間:約3分
梅雨の頃になると、村端の土手の上に、沢山のぐみがなりました。下の窪地には、雨水がたまって、それが、鏡のように澄んで、折から空を低く駆けて行く、雲の影を映していました。私達は、太い枝 …
くびわの ない いぬ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ふたりの子どもが、いえのそとにたっていました。 「どこのいぬだろうね。」 と、二郎くんが、ちゃいろのいぬをみていいました。 「しらないけれど、いいいぬだね。」 と、たけおくんはいっ …
読書目安時間:約3分
ふたりの子どもが、いえのそとにたっていました。 「どこのいぬだろうね。」 と、二郎くんが、ちゃいろのいぬをみていいました。 「しらないけれど、いいいぬだね。」 と、たけおくんはいっ …
熊さんの笛(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
熊さんは、砂浜の上にすわって、ぼんやりと海の方をながめていました。 「熊さん、なにか、あちらに見えるかい。」と、いっしょに遊んでいた子供がたずねると、 「ああ、あちらは、極楽なんだ …
読書目安時間:約6分
熊さんは、砂浜の上にすわって、ぼんやりと海の方をながめていました。 「熊さん、なにか、あちらに見えるかい。」と、いっしょに遊んでいた子供がたずねると、 「ああ、あちらは、極楽なんだ …
くもと草(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ちょうど赤ちゃんが、目が見えるようになって、ものを見て笑ったときのように、小さな花が道ばたで咲きました。 花の命は、まことに短いのであります。ひどい雨や、強い風が吹いたなら、いつな …
読書目安時間:約5分
ちょうど赤ちゃんが、目が見えるようになって、ものを見て笑ったときのように、小さな花が道ばたで咲きました。 花の命は、まことに短いのであります。ひどい雨や、強い風が吹いたなら、いつな …
雲と子守歌(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
どんなに寒い日でも、健康な若い人たちは、家にじっとしていられず、なんらか楽しみの影を追うて、喜びに胸をふくらませ、往来を歩いています。こうした人たちの集まるところは、いつも笑い声の …
読書目安時間:約10分
どんなに寒い日でも、健康な若い人たちは、家にじっとしていられず、なんらか楽しみの影を追うて、喜びに胸をふくらませ、往来を歩いています。こうした人たちの集まるところは、いつも笑い声の …
雲のわくころ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
冬のさむい間は、霜よけをしてやったり、また、日のよくあたるところへ、鉢を出してやったりして、早く芽が頭をだすのを、まちどおしく思ったのであります。 勇吉は、草花を愛していました。 …
読書目安時間:約11分
冬のさむい間は、霜よけをしてやったり、また、日のよくあたるところへ、鉢を出してやったりして、早く芽が頭をだすのを、まちどおしく思ったのであります。 勇吉は、草花を愛していました。 …
暗い空(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
太い、黒い烟突が二本空に、突立ていた。その烟突は太くて赤錆が出ているばかりでなく、大分破れて孔が処々にあいている。ちょうど烟突は船の風取のようだ——私が曾て日清戦争や日露戦争に行っ …
読書目安時間:約11分
太い、黒い烟突が二本空に、突立ていた。その烟突は太くて赤錆が出ているばかりでなく、大分破れて孔が処々にあいている。ちょうど烟突は船の風取のようだ——私が曾て日清戦争や日露戦争に行っ …
クラリネットを吹く男(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
李さんが、この町にすんでから、もう七、八年になります。いまではすっかり町の人としたしくなって、えんりょ、へだてがなくなりました。工場へつとめ、朝出かけて晩に帰ってきます。 休みのと …
読書目安時間:約4分
李さんが、この町にすんでから、もう七、八年になります。いまではすっかり町の人としたしくなって、えんりょ、へだてがなくなりました。工場へつとめ、朝出かけて晩に帰ってきます。 休みのと …
黒いちょうとお母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
このごろ毎日のように昼過ぎになると、黒いちょうが庭の花壇に咲いているゆりの花へやってきます。 最初、これに気がついたのは、兄の太郎さんでした。 「大きい、きれいなちょうだな。小鳥ぐ …
読書目安時間:約5分
このごろ毎日のように昼過ぎになると、黒いちょうが庭の花壇に咲いているゆりの花へやってきます。 最初、これに気がついたのは、兄の太郎さんでした。 「大きい、きれいなちょうだな。小鳥ぐ …
黒い塔(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
昔のことでありました。ある小さな国の女皇に二人のお子さまがありました。姉も妹もともに美しいうえに、りこうでありました。女皇は、もう年をとっていられましたから、お位を姉のほうのお子さ …
読書目安時間:約8分
昔のことでありました。ある小さな国の女皇に二人のお子さまがありました。姉も妹もともに美しいうえに、りこうでありました。女皇は、もう年をとっていられましたから、お位を姉のほうのお子さ …
黒い旗物語(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
どこからともなく、爺と子供の二人の乞食が、ある北の方の港の町に入ってきました。 もう、ころは秋の末で、日にまし気候が寒くなって、太陽は南へと遠ざかって、照らす光が弱くなった時分であ …
読書目安時間:約10分
どこからともなく、爺と子供の二人の乞食が、ある北の方の港の町に入ってきました。 もう、ころは秋の末で、日にまし気候が寒くなって、太陽は南へと遠ざかって、照らす光が弱くなった時分であ …
黒い人と赤いそり(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
はるか、北の方の国にあった、不思議な話であります。 ある日のこと、その国の男の人たちが氷の上で、なにか忙しそうに働いていました。冬になると、海の上までが一面に氷で張りつめられてしま …
読書目安時間:約9分
はるか、北の方の国にあった、不思議な話であります。 ある日のこと、その国の男の人たちが氷の上で、なにか忙しそうに働いていました。冬になると、海の上までが一面に氷で張りつめられてしま …
くわの怒った話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
あるところに、性質のちがった兄と弟がありました。父親は死ぬときに、自分の持っている圃を二人に分けてやりました。 兄はどちらかといえば、臆病で、働くことのきらいな人間でありましたが、 …
読書目安時間:約7分
あるところに、性質のちがった兄と弟がありました。父親は死ぬときに、自分の持っている圃を二人に分けてやりました。 兄はどちらかといえば、臆病で、働くことのきらいな人間でありましたが、 …
芸術は革命的精神に醗酵す(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
平和を目的にして、武器が製造せられ、軍備がなされるならば、其の事が既に、目的に対する矛盾であることは、華府会議の第一日にヒューズが言った通りであります。 私達は、黒人に対する米人の …
読書目安時間:約4分
平和を目的にして、武器が製造せられ、軍備がなされるならば、其の事が既に、目的に対する矛盾であることは、華府会議の第一日にヒューズが言った通りであります。 私達は、黒人に対する米人の …
芸術は生動す(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
書かれている事件が人を驚かすのでない。そのことは、ちょうど私達が活動写真を見るようなものであります。奇怪な事件が重なり合っているような場合であっても見ている時は成程、其れによって、 …
読書目安時間:約4分
書かれている事件が人を驚かすのでない。そのことは、ちょうど私達が活動写真を見るようなものであります。奇怪な事件が重なり合っているような場合であっても見ている時は成程、其れによって、 …
けしの圃(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
旅から旅へ渡って歩く、父と子の乞食がありました。父親は黙りがちに先に立って歩きます。後から十になった小太郎はついていきました。 彼らは、いろいろの村を通りました。水車小屋があって、 …
読書目安時間:約11分
旅から旅へ渡って歩く、父と子の乞食がありました。父親は黙りがちに先に立って歩きます。後から十になった小太郎はついていきました。 彼らは、いろいろの村を通りました。水車小屋があって、 …
煙と兄弟(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
うすぐもりのした空を、冷たい風が吹いていました。少年は、お母さんの、針仕事をなさる、窓のところで、ぼんやり、外の方をながめていました。もはや、木の葉がうすく色づいて、秋もふけてきま …
読書目安時間:約2分
うすぐもりのした空を、冷たい風が吹いていました。少年は、お母さんの、針仕事をなさる、窓のところで、ぼんやり、外の方をながめていました。もはや、木の葉がうすく色づいて、秋もふけてきま …
現下に於ける童話の使命(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この度、日本国民童話協会が創立されまして衷心からお喜びの言葉を申し上げます。就きましては、この機会に聊か私見を述べ、またこれからさき出発せられる皆様に対して希望を申し上げ度いと思う …
読書目安時間:約7分
この度、日本国民童話協会が創立されまして衷心からお喜びの言葉を申し上げます。就きましては、この機会に聊か私見を述べ、またこれからさき出発せられる皆様に対して希望を申し上げ度いと思う …
こいのぼりと鶏(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
泉水の中に、こいと金魚が、たのしそうに泳いでいました。しかし、黒いねこが、よくねらっていますので、ゆだんができませんでした。いつ、つかまえられて、食べられてしまうかしれないからです …
読書目安時間:約2分
泉水の中に、こいと金魚が、たのしそうに泳いでいました。しかし、黒いねこが、よくねらっていますので、ゆだんができませんでした。いつ、つかまえられて、食べられてしまうかしれないからです …
公園の花と毒蛾(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
それは、広い、さびしい野原でありました。町からも、村からも、遠く離れていまして、人間のめったにゆかないところであります。 ある石蔭に、とこなつの花が咲いていました。その花は、小さか …
読書目安時間:約38分
それは、広い、さびしい野原でありました。町からも、村からも、遠く離れていまして、人間のめったにゆかないところであります。 ある石蔭に、とこなつの花が咲いていました。その花は、小さか …
子うぐいすと母うぐいす(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
毎朝きまって、二羽のうぐいすが庭へやってきました。 「お母さん、きょうもまた、うぐいすがきましたよ。」 正ちゃんは、ガラス戸から、こちらをのぞいていいました。 「餌をさがしにくるの …
読書目安時間:約4分
毎朝きまって、二羽のうぐいすが庭へやってきました。 「お母さん、きょうもまた、うぐいすがきましたよ。」 正ちゃんは、ガラス戸から、こちらをのぞいていいました。 「餌をさがしにくるの …
幸福に暮らした二人(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
南洋のあまり世界の人たちには知られていない島に住んでいる二人の土人が、難船から救われて、ある港に着いたときでありました。 砂の上に、二人の土人がうずくまってあたりの景色に見とれてい …
読書目安時間:約12分
南洋のあまり世界の人たちには知られていない島に住んでいる二人の土人が、難船から救われて、ある港に着いたときでありました。 砂の上に、二人の土人がうずくまってあたりの景色に見とれてい …
幸福の鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
寒い、北の方の小さな町に、独り者の男が住んでいました。べつに不自由はしていなかったが、口癖のようにつまらないといっていました。 「もっと、おもしろく、暮らされないものかな。」と、知 …
読書目安時間:約7分
寒い、北の方の小さな町に、独り者の男が住んでいました。べつに不自由はしていなかったが、口癖のようにつまらないといっていました。 「もっと、おもしろく、暮らされないものかな。」と、知 …
幸福のはさみ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
正吉は、まだお母さんが、ほんとうに死んでしまわれたとは、どうしても信じることができませんでした。 しかし、お母さんが、もうこの家にいられなくなってから幾日もたちました。正吉はその間 …
読書目安時間:約9分
正吉は、まだお母さんが、ほんとうに死んでしまわれたとは、どうしても信じることができませんでした。 しかし、お母さんが、もうこの家にいられなくなってから幾日もたちました。正吉はその間 …
曠野(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
野原の中に一本の松の木が立っていました。そのほかには目にとまるような木はなかったのです。 「どうして、こんなところに、ひとりぼっちでいるようになったのか。」 木は自分の運命を考えま …
読書目安時間:約6分
野原の中に一本の松の木が立っていました。そのほかには目にとまるような木はなかったのです。 「どうして、こんなところに、ひとりぼっちでいるようになったのか。」 木は自分の運命を考えま …
こがらしの ふく ばん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
夜がながくなりました。おかあさんはおしごとをなさっています。そのそばで、きょうだいは火ばちにあたりながら、くりをたべていました。 「リンリンリンって、なんの音だろう。」 ふいに、正 …
読書目安時間:約2分
夜がながくなりました。おかあさんはおしごとをなさっています。そのそばで、きょうだいは火ばちにあたりながら、くりをたべていました。 「リンリンリンって、なんの音だろう。」 ふいに、正 …
凍える女(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
おあいが村に入って来たという噂が立った。おあいを見たというものがある。また見ないというものがある。見たという人の話によると、鳥の巣のような頭髪を束ねて、顔色は青白くて血の気のない唇 …
読書目安時間:約20分
おあいが村に入って来たという噂が立った。おあいを見たというものがある。また見ないというものがある。見たという人の話によると、鳥の巣のような頭髪を束ねて、顔色は青白くて血の気のない唇 …
心の芽(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ある日、どこからか、きれいな鳥が飛んできて、木にとまりました。腹のあたりは黄色く、頭が紅く、長い尾がありました。野鳥のように、すばしこくなく、人間になれているらしく見えるのは、たぶ …
読書目安時間:約10分
ある日、どこからか、きれいな鳥が飛んできて、木にとまりました。腹のあたりは黄色く、頭が紅く、長い尾がありました。野鳥のように、すばしこくなく、人間になれているらしく見えるのは、たぶ …
心は大空を泳ぐ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いまごろ、みんなは、たのしく話をしながら、先生につれられて、知らない道を歩いているだろうと思うと、勇吉は自分から進んで、いきたくないと、こんどの遠足にくわわらなかったことが、なんと …
読書目安時間:約4分
いまごろ、みんなは、たのしく話をしながら、先生につれられて、知らない道を歩いているだろうと思うと、勇吉は自分から進んで、いきたくないと、こんどの遠足にくわわらなかったことが、なんと …
子ざると母ざる:母が子供に読んできかせてやる童話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日、かりゅうどが山へいくと、子ざるが木の実を拾ってたべていました。もうじきに冬がくるので、木の葉は紅く色づいて、いろいろの小鳥たちが、チッ、チッ、といって鳴いていました。 かり …
読書目安時間:約5分
ある日、かりゅうどが山へいくと、子ざるが木の実を拾ってたべていました。もうじきに冬がくるので、木の葉は紅く色づいて、いろいろの小鳥たちが、チッ、チッ、といって鳴いていました。 かり …
五銭のあたま(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ある田舎に、同じような床屋が二軒ありました。たがいに、お客を自分のほうへたくさん取ろうと思っていました。一軒が、店さきをきれいにすれば、一軒もそれに負けまいと思って、大工を呼んでき …
読書目安時間:約3分
ある田舎に、同じような床屋が二軒ありました。たがいに、お客を自分のほうへたくさん取ろうと思っていました。一軒が、店さきをきれいにすれば、一軒もそれに負けまいと思って、大工を呼んでき …
子供たちへの責任(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
最近小さな子供の行状などを見ていると胸をうたれる。いいかえれば時代を反映して悪がしこくなり、今までの子供らしさを失っているものが多い。 子供は純情と一口でいうけれど、それは畢竟どう …
読書目安時間:約3分
最近小さな子供の行状などを見ていると胸をうたれる。いいかえれば時代を反映して悪がしこくなり、今までの子供らしさを失っているものが多い。 子供は純情と一口でいうけれど、それは畢竟どう …
子供どうし(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
学校から帰りの二少年が、話しながら、あまり人の通らない往来を歩いてきました。 「清ちゃん、あのお庭に咲いている赤い花はなんだか知っている?」と、一人が、立ち止まって垣根の間からのぞ …
読書目安時間:約5分
学校から帰りの二少年が、話しながら、あまり人の通らない往来を歩いてきました。 「清ちゃん、あのお庭に咲いている赤い花はなんだか知っている?」と、一人が、立ち止まって垣根の間からのぞ …
子供と馬の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
九月一日の大地震のために、東京・横浜、この二つの大きな都市をはじめ、関東一帯の建物は、あるいは壊れたり、あるいは焼けたりしてしまいました。そして、たくさんな人間が死にましたことは、 …
読書目安時間:約8分
九月一日の大地震のために、東京・横浜、この二つの大きな都市をはじめ、関東一帯の建物は、あるいは壊れたり、あるいは焼けたりしてしまいました。そして、たくさんな人間が死にましたことは、 …
子供の時分の話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
あめ売りの吹く、チャルメラの声を聞くと、子供の時分のことを思い、按摩の笛の音を聞くと、その人は涙ぐみました。その話を聞かせた人は旅の人です。そして、その不思議な話というのはつぎのよ …
読書目安時間:約11分
あめ売りの吹く、チャルメラの声を聞くと、子供の時分のことを思い、按摩の笛の音を聞くと、その人は涙ぐみました。その話を聞かせた人は旅の人です。そして、その不思議な話というのはつぎのよ …
子供の床屋(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
町はずれに、大きなえのきの木がありました。その下に、小さな床屋がありました。円顔の目のくるりとした男が、白い上着を被て、ただ一人控えていましたが、めったに客の入っているのを見ません …
読書目安時間:約4分
町はずれに、大きなえのきの木がありました。その下に、小さな床屋がありました。円顔の目のくるりとした男が、白い上着を被て、ただ一人控えていましたが、めったに客の入っているのを見ません …
子供は悲しみを知らず(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
広い庭には、かきが赤くみのっていました。かきねの破れを直して、主人は、いま縁側へ腰を下ろし、つかれを休めていたのです。彼はこのあたりの地主でした。 裏門から、寺のおしょうさんが、に …
読書目安時間:約7分
広い庭には、かきが赤くみのっていました。かきねの破れを直して、主人は、いま縁側へ腰を下ろし、つかれを休めていたのです。彼はこのあたりの地主でした。 裏門から、寺のおしょうさんが、に …
子供は虐待に黙従す(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
弱い者は、常に強い者に苛められて来た。婦人がそうであり、子供がそうであり、無産者がそうであった。 諺に言う「手の下の罪人」とは、ちょうどかかる類を指すのであろう。婦人は、暴力に於て …
読書目安時間:約6分
弱い者は、常に強い者に苛められて来た。婦人がそうであり、子供がそうであり、無産者がそうであった。 諺に言う「手の下の罪人」とは、ちょうどかかる類を指すのであろう。婦人は、暴力に於て …
子供はばかでなかった(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
吉雄は、学校の成績がよかったなら、親たちは、どんなにしても、中学校へ入れてやろうと思っていましたが、それは、あきらめなければなりませんでした。 「なにも、学校へいったら、みんなが偉 …
読書目安時間:約5分
吉雄は、学校の成績がよかったなら、親たちは、どんなにしても、中学校へ入れてやろうと思っていましたが、それは、あきらめなければなりませんでした。 「なにも、学校へいったら、みんなが偉 …
小鳥と兄妹(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
町からはなれて、静かな村に、仲のいい兄妹が住んでいました。 兄を太郎といい、妹を雪子といいました。二人は、毎月、町へくる新しい雑誌を買ってきて、いっしょに読むのをなによりの楽しみと …
読書目安時間:約4分
町からはなれて、静かな村に、仲のいい兄妹が住んでいました。 兄を太郎といい、妹を雪子といいました。二人は、毎月、町へくる新しい雑誌を買ってきて、いっしょに読むのをなによりの楽しみと …
小ねこはなにを知ったか(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
親たちは、生き物を飼うのは、責任があるから、なるだけ、犬やねこを飼うのは、避けたいと思っていました。けれど、子供たちは、日ごろから、犬でも、ねこでも、なにかひとつ飼ってくださいとい …
読書目安時間:約11分
親たちは、生き物を飼うのは、責任があるから、なるだけ、犬やねこを飼うのは、避けたいと思っていました。けれど、子供たちは、日ごろから、犬でも、ねこでも、なにかひとつ飼ってくださいとい …
こま(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
赤地の原っぱで、三ちゃんや、徳ちゃんや、勇ちゃんたちが、輪になって、べいごまをまわしていました。 赤々とした、秋の日が、草木を照らしています。風が吹くと、草の葉先が光って、止まって …
読書目安時間:約5分
赤地の原っぱで、三ちゃんや、徳ちゃんや、勇ちゃんたちが、輪になって、べいごまをまわしていました。 赤々とした、秋の日が、草木を照らしています。風が吹くと、草の葉先が光って、止まって …
こまどりと酒(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
夜おそくまで、おじいさんは仕事をしていました。寒い、冬のことで、外には、雪がちらちらと降っていました。風にあおられて、そのたびに、さらさらと音をたてて、窓の障子に当たるのがきこえま …
読書目安時間:約11分
夜おそくまで、おじいさんは仕事をしていました。寒い、冬のことで、外には、雪がちらちらと降っていました。風にあおられて、そのたびに、さらさらと音をたてて、窓の障子に当たるのがきこえま …
ごみだらけの豆(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
地震のありました、すぐ後のことであります。町には、米や、豆や、麦などがなくなりました。それで、人々は、争って、すこしでも残っているのを買おうとしました。 ある乾物屋では、こんなとき …
読書目安時間:約7分
地震のありました、すぐ後のことであります。町には、米や、豆や、麦などがなくなりました。それで、人々は、争って、すこしでも残っているのを買おうとしました。 ある乾物屋では、こんなとき …
子もりうた(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
坊やはいい子だ、ねんねしな。 泣くないい子だ、ねんねしな。 月の光をながむれば、 母さん、父さん恋しいよ。 水の流れをながむれば、 母さん、父さん恋しいよ。 お守のお里は遠い国。 …
読書目安時間:約1分
坊やはいい子だ、ねんねしな。 泣くないい子だ、ねんねしな。 月の光をながむれば、 母さん、父さん恋しいよ。 水の流れをながむれば、 母さん、父さん恋しいよ。 お守のお里は遠い国。 …
今後を童話作家に(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
自由と純真な人間性と、そして空想的正義の世界にあこがれていた自分は、いつしかその芸術の上でも童話の方へ惹かれて行くようになってしまいました。 ○ 私の童話は、ただ子供に面白い感じを …
読書目安時間:約2分
自由と純真な人間性と、そして空想的正義の世界にあこがれていた自分は、いつしかその芸術の上でも童話の方へ惹かれて行くようになってしまいました。 ○ 私の童話は、ただ子供に面白い感じを …
サーカスの少年(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
輝かしい夏の日のことでありました。少年が、外で遊んでいますと、花で飾られた、柩をのせた自動車が、往来を走ってゆきました。そして、道の上へ、一枝の白い花を落として去ったのです。 これ …
読書目安時間:約7分
輝かしい夏の日のことでありました。少年が、外で遊んでいますと、花で飾られた、柩をのせた自動車が、往来を走ってゆきました。そして、道の上へ、一枝の白い花を落として去ったのです。 これ …
酒倉(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
甲と乙の二つの国は、隣り合っているところから、よく戦争をいたしました。 あるときの戦争に、甲の国は乙の国に破られて、乙の軍勢は、どしどし国境を越えて、甲の国に入ってきました。甲の大 …
読書目安時間:約4分
甲と乙の二つの国は、隣り合っているところから、よく戦争をいたしました。 あるときの戦争に、甲の国は乙の国に破られて、乙の軍勢は、どしどし国境を越えて、甲の国に入ってきました。甲の大 …
さかずきの輪廻(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
(この童話はとくに大人のものとして書きました。) 昔、京都に、利助という陶器を造る名人がありましたが、この人の名は、あまり伝わらなかったのであります。一代を通じて寡作でありましたう …
読書目安時間:約22分
(この童話はとくに大人のものとして書きました。) 昔、京都に、利助という陶器を造る名人がありましたが、この人の名は、あまり伝わらなかったのであります。一代を通じて寡作でありましたう …
さか立ち小僧さん(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
こい紫の、ちょうどなす色をした海の上を、赤い帯をたらし、髪の毛をふりみだしながら、気のくるった女が駈けていくような、夏の雲を、こちらへきてからは、見られなくなったけれど、そのかわり …
読書目安時間:約15分
こい紫の、ちょうどなす色をした海の上を、赤い帯をたらし、髪の毛をふりみだしながら、気のくるった女が駈けていくような、夏の雲を、こちらへきてからは、見られなくなったけれど、そのかわり …
酒屋のワン公(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
酒屋へきた小僧は、どこかの孤児院からきたのだということでした。それを見ても、彼には、頼るものがなかったのです。 ものをいうのにも、人の顔をじっと見ました。その目つきはやさしそうに見 …
読書目安時間:約7分
酒屋へきた小僧は、どこかの孤児院からきたのだということでした。それを見ても、彼には、頼るものがなかったのです。 ものをいうのにも、人の顔をじっと見ました。その目つきはやさしそうに見 …
作家としての問題(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
もし、その作家が、真実であるならば、どんな小さなものでも、また、どんな力ないものでも、これを無視しようとは思わないでありましょう。 個人は、集団に属するのが本当だというようなことか …
読書目安時間:約6分
もし、その作家が、真実であるならば、どんな小さなものでも、また、どんな力ないものでも、これを無視しようとは思わないでありましょう。 個人は、集団に属するのが本当だというようなことか …
砂漠の町とサフラン酒(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
むかし、美しい女が、さらわれて、遠い砂漠のあちらの町へ、つれられていきました。疲れているような、また、眠いように見える砂漠は、かぎりなく、うねうねと灰色の波を描いて、はてしもなくつ …
読書目安時間:約8分
むかし、美しい女が、さらわれて、遠い砂漠のあちらの町へ、つれられていきました。疲れているような、また、眠いように見える砂漠は、かぎりなく、うねうねと灰色の波を描いて、はてしもなくつ …
さびしいお母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
二時間の図画の時間に、先生が、 「みなさんのお母さんを、描いてごらんなさい。」と、おっしゃいました。 「先生、お母さんのない人は、どうしますか?」と、いったものがあります。 「お母 …
読書目安時間:約4分
二時間の図画の時間に、先生が、 「みなさんのお母さんを、描いてごらんなさい。」と、おっしゃいました。 「先生、お母さんのない人は、どうしますか?」と、いったものがあります。 「お母 …
さまざまな生い立ち(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
日にまし、あたたかになって、いままで、霜柱が白く、堅く結んでいた、庭の黒土が柔らかにほぐれて、下から、いろいろの草が芽を出してきました。 「お父さん、すずらんの芽が、だんだん伸びて …
読書目安時間:約6分
日にまし、あたたかになって、いままで、霜柱が白く、堅く結んでいた、庭の黒土が柔らかにほぐれて、下から、いろいろの草が芽を出してきました。 「お父さん、すずらんの芽が、だんだん伸びて …
寒い日のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
それは、もう冬に近い、朝のことでした。一ぴきのとんぼは、冷たい地の上に落ちて、じっとしていました。両方の羽は夜露にぬれてしっとりとしている。もはや、とんぼには、飛び立つほどの元気が …
読書目安時間:約6分
それは、もう冬に近い、朝のことでした。一ぴきのとんぼは、冷たい地の上に落ちて、じっとしていました。両方の羽は夜露にぬれてしっとりとしている。もはや、とんぼには、飛び立つほどの元気が …
三月の空の下(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
花の咲く前には、とかく、寒かったり、暖かかったりして天候の定まらぬものです。 その日も暮れ方まで穏やかだったのが夜に入ると、急に風が出はじめました。 ちょうど、悪寒に襲われた患者の …
読書目安時間:約7分
花の咲く前には、とかく、寒かったり、暖かかったりして天候の定まらぬものです。 その日も暮れ方まで穏やかだったのが夜に入ると、急に風が出はじめました。 ちょうど、悪寒に襲われた患者の …
三人と 二つの りんご(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「かずおちゃん、どうしてなみだをだしたんだい?」 と、たろうさんがききました。 「よしおさんとしげおさんがひっぱったんだよ。」 「なんにもしないのに?」 と、きみ子さんがいいました …
読書目安時間:約2分
「かずおちゃん、どうしてなみだをだしたんだい?」 と、たろうさんがききました。 「よしおさんとしげおさんがひっぱったんだよ。」 「なんにもしないのに?」 と、きみ子さんがいいました …
三匹のあり(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
川の辺に、一本の大きなくるみの木が立っていました。その下にありが巣を造りました。どちらを見まわしても、広々とした圃でありましたので、ありにとっては、大きな国であったにちがいありませ …
読書目安時間:約4分
川の辺に、一本の大きなくるみの木が立っていました。その下にありが巣を造りました。どちらを見まわしても、広々とした圃でありましたので、ありにとっては、大きな国であったにちがいありませ …
しいたげられた天才(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
獣の牙をならべるように、遠く国境の方から光った高い山脈が、だんだんと低くなって、しまいに長いすそを海の中へ、没していました。ここは、山間の、停車場に近い、町の形をした、小さな村であ …
読書目安時間:約9分
獣の牙をならべるように、遠く国境の方から光った高い山脈が、だんだんと低くなって、しまいに長いすそを海の中へ、没していました。ここは、山間の、停車場に近い、町の形をした、小さな村であ …
塩を載せた船(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
赤ん坊をおぶった、男の乞食が町へはいってきました。その男は、まだそんなに年をとったというほどではありませんでした。 男の乞食は、りっぱな構えをした家の前へきますと、立ち止まって、考 …
読書目安時間:約12分
赤ん坊をおぶった、男の乞食が町へはいってきました。その男は、まだそんなに年をとったというほどではありませんでした。 男の乞食は、りっぱな構えをした家の前へきますと、立ち止まって、考 …
事実と感想(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
学生の時分、暑中休暇に田舎へ帰って、百姓に接したときは、全くそこに都会から独立した生活があったように感じられたものです。 彼らの信じている迷信というものも、その人たちにとっては、不 …
読書目安時間:約4分
学生の時分、暑中休暇に田舎へ帰って、百姓に接したときは、全くそこに都会から独立した生活があったように感じられたものです。 彼らの信じている迷信というものも、その人たちにとっては、不 …
時代・児童・作品(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
時代は、生動しています。それが、行き詰まった状態にあり、そして、暗ければ、何等かの自由と明るみを求めるものです。常に、人間の努力があり、諧謔が伴い、意志の発動する所以であります。 …
読書目安時間:約8分
時代は、生動しています。それが、行き詰まった状態にあり、そして、暗ければ、何等かの自由と明るみを求めるものです。常に、人間の努力があり、諧謔が伴い、意志の発動する所以であります。 …
日月ボール(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
孝ちゃんの、近所に住んでいる自動車屋の主人は、変わった人でした。ぼろ自動車を一台しか持っていません。それを自分が、毎日運転して、町の中を走っているのでした。 この自動車も、もとは、 …
読書目安時間:約6分
孝ちゃんの、近所に住んでいる自動車屋の主人は、変わった人でした。ぼろ自動車を一台しか持っていません。それを自分が、毎日運転して、町の中を走っているのでした。 この自動車も、もとは、 …
児童の解放擁護(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
思想問題とか、失業問題とかいうような、当面の問題に関しては、何人もこれを社会問題として論議し、対策をするけれど、老人とか、児童とかのように、現役の人員ならざるものに対しては、それ等 …
読書目安時間:約4分
思想問題とか、失業問題とかいうような、当面の問題に関しては、何人もこれを社会問題として論議し、対策をするけれど、老人とか、児童とかのように、現役の人員ならざるものに対しては、それ等 …
死と話した人(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
Aは、秋の圃へやってきました。夏の時分には、小道をふさいで、脊高く伸びていた、きびや、もろこしの葉は、褐色に枯れて、茎だけが、白さびの出たと思われるほど、かさかさにひからびて、気味 …
読書目安時間:約5分
Aは、秋の圃へやってきました。夏の時分には、小道をふさいで、脊高く伸びていた、きびや、もろこしの葉は、褐色に枯れて、茎だけが、白さびの出たと思われるほど、かさかさにひからびて、気味 …
詩の精神は移動す(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
物が新しくそこに生れるという事は、古い形が破壊されたということを意味するに他ならない。単に破壊というと不自然のように感ずるけれども、創造というと、人々には美わしい事実のように思われ …
読書目安時間:約4分
物が新しくそこに生れるという事は、古い形が破壊されたということを意味するに他ならない。単に破壊というと不自然のように感ずるけれども、創造というと、人々には美わしい事実のように思われ …
縛られたあひる(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
流れの辺りに、三本のぶなの木が立っていました。冬の間、枝についた枯れ葉を北風にさらさらと鳴らしつづけていました。他の木立はすべて静かな眠りに就いていたのに、このぶなの木だけは、独り …
読書目安時間:約10分
流れの辺りに、三本のぶなの木が立っていました。冬の間、枝についた枯れ葉を北風にさらさらと鳴らしつづけていました。他の木立はすべて静かな眠りに就いていたのに、このぶなの木だけは、独り …
渋温泉の秋(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
九月の始めであるのに、もはや十月の気候のように感ぜられた日もある。日々に、東京から来た客は帰って、温泉場には、派手な女の姿が見られなくなった。一雨毎に、冷気を増して寂びれるばかりで …
読書目安時間:約6分
九月の始めであるのに、もはや十月の気候のように感ぜられた日もある。日々に、東京から来た客は帰って、温泉場には、派手な女の姿が見られなくなった。一雨毎に、冷気を増して寂びれるばかりで …
自分で困った百姓(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ある田舎に、二人の百姓が住んでおりました。平常はまことに仲よく暮らしていました。二人とも勉強家で、よく働いていましたから、毎年穀物はたくさんに穫れて、二人とも困るようなことはありま …
読書目安時間:約4分
ある田舎に、二人の百姓が住んでおりました。平常はまことに仲よく暮らしていました。二人とも勉強家で、よく働いていましたから、毎年穀物はたくさんに穫れて、二人とも困るようなことはありま …
自分を鞭打つ感激より(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
田舎の小学校の庭であったが、林から独り離れて校庭の中程に、あまり大きくない一本の杉の木が立っていました。生徒等は、この木をば、目印にして鬼事をしたり、そのまわりで、遊んでいました。 …
読書目安時間:約5分
田舎の小学校の庭であったが、林から独り離れて校庭の中程に、あまり大きくない一本の杉の木が立っていました。生徒等は、この木をば、目印にして鬼事をしたり、そのまわりで、遊んでいました。 …
島の暮れ方の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
南方の暖かな島でありました。そこには冬といっても、名ばかりで、いつも花が咲き乱れていました。 ある早春の、黄昏のことでありました。一人の旅人は、道を急いでいました。このあたりは、は …
読書目安時間:約5分
南方の暖かな島でありました。そこには冬といっても、名ばかりで、いつも花が咲き乱れていました。 ある早春の、黄昏のことでありました。一人の旅人は、道を急いでいました。このあたりは、は …
しゃしんやさん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
あつい日でした。正ちゃんはあおぎりの木の下で、すべりだいにのってあそんでいました。 そこへ、かみのながいしゃしんやさんがはいってきて、 「ひとつうつさせてくださいませんか。」 とた …
読書目安時間:約2分
あつい日でした。正ちゃんはあおぎりの木の下で、すべりだいにのってあそんでいました。 そこへ、かみのながいしゃしんやさんがはいってきて、 「ひとつうつさせてくださいませんか。」 とた …
写生に出かけた少年(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
野原の中に、大きなかしの木がありました。その下で、二人の少年は、あたりの風景を写生していました。 あちらには町があって、屋根が強い日の光にかがやいています。こちらには、青々とした田 …
読書目安時間:約4分
野原の中に、大きなかしの木がありました。その下で、二人の少年は、あたりの風景を写生していました。 あちらには町があって、屋根が強い日の光にかがやいています。こちらには、青々とした田 …
自由(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
街の鳥屋の前を通ったとき、なんという鳥か知らないけれど、小鳥にしては大きい、ちょうど小さいはとのような形をした鳥が、かごの中にいれられて、きゅうくつそうに、じっとしていました。 黄 …
読書目安時間:約6分
街の鳥屋の前を通ったとき、なんという鳥か知らないけれど、小鳥にしては大きい、ちょうど小さいはとのような形をした鳥が、かごの中にいれられて、きゅうくつそうに、じっとしていました。 黄 …
自由なる空想(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
最近は、政治的に行きつまり、経済的にも、また行きつまっている様な気がする。その反映は文芸の上にも現われていないことはない。だが、この時にこそ、文芸は、展開せられるのでもある。我々は …
読書目安時間:約3分
最近は、政治的に行きつまり、経済的にも、また行きつまっている様な気がする。その反映は文芸の上にも現われていないことはない。だが、この時にこそ、文芸は、展開せられるのでもある。我々は …
宿題(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
戸田は、お父さんがなくて、母親と妹と三人で、さびしく暮らしているときいていたので、賢吉は、つねに同情していました。それで、自分の読んでしまった雑誌を、 「君見るならあげよう。」と、 …
読書目安時間:約4分
戸田は、お父さんがなくて、母親と妹と三人で、さびしく暮らしているときいていたので、賢吉は、つねに同情していました。それで、自分の読んでしまった雑誌を、 「君見るならあげよう。」と、 …
純情主義を想う(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ナロードニーキ社会主義運動の精神を、私達は、今に於てなつかしまざるを得ない。真実を至上とし、行動を良心の上に置いたからである。彼等は、正義のため、全く自己を犠牲にして惜しまなかった …
読書目安時間:約5分
ナロードニーキ社会主義運動の精神を、私達は、今に於てなつかしまざるを得ない。真実を至上とし、行動を良心の上に置いたからである。彼等は、正義のため、全く自己を犠牲にして惜しまなかった …
正二くんの時計(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
正二くんは時計がほしかったので、これまでいくたびもお父さんや、お母さんに、買ってくださいと頼んだけれども、そのたびに、 「中学へ上がるときに買ってあげます。いまのうちはいりません。 …
読書目安時間:約6分
正二くんは時計がほしかったので、これまでいくたびもお父さんや、お母さんに、買ってくださいと頼んだけれども、そのたびに、 「中学へ上がるときに買ってあげます。いまのうちはいりません。 …
少女がこなかったら(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。 コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきまし …
読書目安時間:約5分
寒い、暗い、晩であります。風の音が、さびしく聞かれました。ちょうど、真夜中ごろでありましょう。 コロ、コロ、といって、あちらの往来をすぎる車の音が、太郎のまくらもとに聞こえてきまし …
少女と老兵士(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
某幼稚園では、こんど陸軍病院へ傷痍軍人たちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだから幼い生徒らは、歌のけいこや、バイオリンの練習に余念がなかったのです。きょうも、「父よあ …
読書目安時間:約10分
某幼稚園では、こんど陸軍病院へ傷痍軍人たちをおみまいにいくことになりましたので、このあいだから幼い生徒らは、歌のけいこや、バイオリンの練習に余念がなかったのです。きょうも、「父よあ …
正ちゃんとおかいこ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
東京の町の中では、かいこをかう家はめったにありませんので、正ちゃんには、かいこがめずらしかったのです。 「かわいいね。ぼくにもおくれよ。」といって、学校へお友だちが持ってきたのを三 …
読書目安時間:約5分
東京の町の中では、かいこをかう家はめったにありませんので、正ちゃんには、かいこがめずらしかったのです。 「かわいいね。ぼくにもおくれよ。」といって、学校へお友だちが持ってきたのを三 …
少年と秋の日(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。 正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているので …
読書目安時間:約6分
もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。 正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているので …
少年の日二景(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
池の中には、黄色なすいれんが咲いていました。金魚の赤い姿が、水の上に浮いたりまるい葉蔭に隠れたりしていました。そして、池のあたりには、しだが茂り、ところどころ石などが置いてありまし …
読書目安時間:約8分
池の中には、黄色なすいれんが咲いていました。金魚の赤い姿が、水の上に浮いたりまるい葉蔭に隠れたりしていました。そして、池のあたりには、しだが茂り、ところどころ石などが置いてありまし …
少年の日の悲哀(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
三郎はどこからか、一ぴきのかわいらしい小犬をもらってきました。そして、その小犬をかわいがっていました。彼はそれにボンという名をつけて、ボン、ボンと呼びました。 ボンは人馴れたやさし …
読書目安時間:約9分
三郎はどこからか、一ぴきのかわいらしい小犬をもらってきました。そして、その小犬をかわいがっていました。彼はそれにボンという名をつけて、ボン、ボンと呼びました。 ボンは人馴れたやさし …
初夏の不思議(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
百姓のおじいさんは、今年ばかりは、精を出して、夏のはじめに、早くいいすいかを町へ出したいと思いました。 おじいさんは、肥料をやったり、つるをのばしたりして、毎日のように、圃へ出ては …
読書目安時間:約8分
百姓のおじいさんは、今年ばかりは、精を出して、夏のはじめに、早くいいすいかを町へ出したいと思いました。 おじいさんは、肥料をやったり、つるをのばしたりして、毎日のように、圃へ出ては …
書を愛して書を持たず(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
私は、蔵書というものを持ちませんが、新聞や、雑誌の広告に注意して、最新の出版でこれは読んで見たいなと思うものがあると求めるのがありますが、旧いものは、これは何々文庫というような廉価 …
読書目安時間:約7分
私は、蔵書というものを持ちませんが、新聞や、雑誌の広告に注意して、最新の出版でこれは読んで見たいなと思うものがあると求めるのがありますが、旧いものは、これは何々文庫というような廉価 …
しらかばの木(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
さびしいいなかながら、駅の付近は町らしくなっていました。たばこを売る店があり、金物をならべた店があり、また青物や、荒物などを売る店などが、ぼつり、ぼつりと見られました。そして、駅前 …
読書目安時間:約6分
さびしいいなかながら、駅の付近は町らしくなっていました。たばこを売る店があり、金物をならべた店があり、また青物や、荒物などを売る店などが、ぼつり、ぼつりと見られました。そして、駅前 …
白壁のうち(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私は、学校にいるとき、いまごろ、お母さんは、なにをなさっていらっしゃるだろうか、またおばあさんは、どうしておいでになるだろうか、と考えます。すると、おうちのようすが、ありありと、目 …
読書目安時間:約3分
私は、学校にいるとき、いまごろ、お母さんは、なにをなさっていらっしゃるだろうか、またおばあさんは、どうしておいでになるだろうか、と考えます。すると、おうちのようすが、ありありと、目 …
白い影(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
夏の日のことでありました。汽車の運転手は、広い野原の中にさしかかりますと、白い着物を着た男が、のそりのそりと線路の中を歩いているのを認めました。 このあたりには人家もまれであって、 …
読書目安時間:約13分
夏の日のことでありました。汽車の運転手は、広い野原の中にさしかかりますと、白い着物を着た男が、のそりのそりと線路の中を歩いているのを認めました。 このあたりには人家もまれであって、 …
白いくま(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
そこは、熱い国でありました。日の光が強く、青々としている木立や、丘の上を照らしていました。 この国の動物園には、熱帯地方に産するいろいろな動物が、他の国の動物園には、とうてい見られ …
読書目安時間:約10分
そこは、熱い国でありました。日の光が強く、青々としている木立や、丘の上を照らしていました。 この国の動物園には、熱帯地方に産するいろいろな動物が、他の国の動物園には、とうてい見られ …
白い雲(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
みんなは、なにかすてきに、おもしろいことがないかと、思っているのです。敏ちゃんも、もとより、その一人でありました。往来で、義ちゃんや、武ちゃんや、かつ子さんたちが、集まって、なにか …
読書目安時間:約16分
みんなは、なにかすてきに、おもしろいことがないかと、思っているのです。敏ちゃんも、もとより、その一人でありました。往来で、義ちゃんや、武ちゃんや、かつ子さんたちが、集まって、なにか …
白い門のある家(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
静かな、春の晩のことでありました。 一人の男が、仕事をしていて、疲れたものですから、どこか、喫茶店へでもいって、コーヒーを飲んできたいという心が起こりました。 男は、家の外へ出まし …
読書目安時間:約8分
静かな、春の晩のことでありました。 一人の男が、仕事をしていて、疲れたものですから、どこか、喫茶店へでもいって、コーヒーを飲んできたいという心が起こりました。 男は、家の外へ出まし …
しろくまの 子(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
しろくまは、ほっきょくかいにのぞんだアラスカまたはシベリアにすんでいます。しろくまは、水の中へはいっておよぐこともできます。まっ白なけがふさふさとして、かわいらしい目をしていますが …
読書目安時間:約2分
しろくまは、ほっきょくかいにのぞんだアラスカまたはシベリアにすんでいます。しろくまは、水の中へはいっておよぐこともできます。まっ白なけがふさふさとして、かわいらしい目をしていますが …
白すみれとしいの木(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
北の方のある村に、仲のよくない兄弟がありました。父親の死んだ後は兄は弟をば、むごたらしいまでに、いじめました。 弟は、どちらかといえば、気のきかない、おんぼりとした質で、学校へ行っ …
読書目安時間:約5分
北の方のある村に、仲のよくない兄弟がありました。父親の死んだ後は兄は弟をば、むごたらしいまでに、いじめました。 弟は、どちらかといえば、気のきかない、おんぼりとした質で、学校へ行っ …
真吉とお母さん(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
真吉は、よくお母さんのいいつけを守りました。お母さんは、かわいい真吉を、はやくりっぱな人間にしたいと思っていました。そして、平常、真吉に向かって、 「人は、なによりも正直でなければ …
読書目安時間:約8分
真吉は、よくお母さんのいいつけを守りました。お母さんは、かわいい真吉を、はやくりっぱな人間にしたいと思っていました。そして、平常、真吉に向かって、 「人は、なによりも正直でなければ …
深山の秋(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
秋も末のことでありました。年老ったさるが岩の上にうずくまって、ぼんやりと空をながめていました。なにかしらん心に悲しいものを感じたからでありましょう。夏のころは、あのようにいきいきと …
読書目安時間:約10分
秋も末のことでありました。年老ったさるが岩の上にうずくまって、ぼんやりと空をながめていました。なにかしらん心に悲しいものを感じたからでありましょう。夏のころは、あのようにいきいきと …
新童話論(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
月の中で兎が餅を搗いているというお伽噺も、それが以前であったら、何等不自然な感じを抱かせずに子供達の頭にはいったであろうが、いまの小学校へ行っている者に、月を指して、あの中に兎が棲 …
読書目安時間:約7分
月の中で兎が餅を搗いているというお伽噺も、それが以前であったら、何等不自然な感じを抱かせずに子供達の頭にはいったであろうが、いまの小学校へ行っている者に、月を指して、あの中に兎が棲 …
しんぱくの話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
高い山の、鳥しかゆかないような嶮しいがけに、一本のしんぱくがはえていました。その木は、そこで幾十年となく月日を過ごしたのであります。 人間のまれにしかゆかない山とはいいながら、その …
読書目安時間:約7分
高い山の、鳥しかゆかないような嶮しいがけに、一本のしんぱくがはえていました。その木は、そこで幾十年となく月日を過ごしたのであります。 人間のまれにしかゆかない山とはいいながら、その …
真坊と和尚さま(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
夏休みの間のことでありました。 がき大将の真坊は、先にたって、寺のひさしに巣をかけたすずめばちを退治にゆきました。 「いいかい、一、二、三で、みんないっしょに石を投げるのだよ、うま …
読書目安時間:約5分
夏休みの間のことでありました。 がき大将の真坊は、先にたって、寺のひさしに巣をかけたすずめばちを退治にゆきました。 「いいかい、一、二、三で、みんないっしょに石を投げるのだよ、うま …
水盤の王さま(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
去年の寒い冬のころから、今年の春にかけて、たった一ぴきしか金魚が生き残っていませんでした。その金魚は友だちもなく、親や、兄弟というものもなく、まったくの独りぼっちで、さびしそうに水 …
読書目安時間:約4分
去年の寒い冬のころから、今年の春にかけて、たった一ぴきしか金魚が生き残っていませんでした。その金魚は友だちもなく、親や、兄弟というものもなく、まったくの独りぼっちで、さびしそうに水 …
すいれんは咲いたが(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
金魚鉢にいれてあるすいれんが、かわいらしい黄色な花を開きました。どこから飛んできたか小さなはちがみつを吸っています。勇ちゃんは日当たりに出て、花と水の上に映った雲影をじっとながめな …
読書目安時間:約5分
金魚鉢にいれてあるすいれんが、かわいらしい黄色な花を開きました。どこから飛んできたか小さなはちがみつを吸っています。勇ちゃんは日当たりに出て、花と水の上に映った雲影をじっとながめな …
過ぎた春の記憶(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
正一は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供等と多勢でよくかくれんぼうをして遊んだ。 晩方になると、虻が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。 …
読書目安時間:約12分
正一は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供等と多勢でよくかくれんぼうをして遊んだ。 晩方になると、虻が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。 …
鈴が鳴る(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
あれあれ鳴る、鈴が鳴る。 水で鳴る、空で鳴る、雲で鳴る。 あれあれ鳴る、鈴が鳴る。 路で鳴る、丘で鳴る、森で鳴る。 月夜の晩に、 白い馬が、 銀の鈴を鳴らしてきた。 どこから、どこ …
読書目安時間:約1分
あれあれ鳴る、鈴が鳴る。 水で鳴る、空で鳴る、雲で鳴る。 あれあれ鳴る、鈴が鳴る。 路で鳴る、丘で鳴る、森で鳴る。 月夜の晩に、 白い馬が、 銀の鈴を鳴らしてきた。 どこから、どこ …
すずめ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
冬の日は、昼過ぎになると、急に光がうすくなるのでした。枯れ残ったすすきの葉が黄色くなって、こんもりと田の中に一所茂っていました。そこは低地で、野菜を作ることができないので、そうなっ …
読書目安時間:約8分
冬の日は、昼過ぎになると、急に光がうすくなるのでした。枯れ残ったすすきの葉が黄色くなって、こんもりと田の中に一所茂っていました。そこは低地で、野菜を作ることができないので、そうなっ …
すずめの巣(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日のことです。孝吉が、へやで雑誌を読んで、夢中になっていると、 「孝吉は、いないか。」と、おじいさんの呼ばれる声がしました。いつもとちがって、なんだか怒っているようです。 「は …
読書目安時間:約5分
ある日のことです。孝吉が、へやで雑誌を読んで、夢中になっていると、 「孝吉は、いないか。」と、おじいさんの呼ばれる声がしました。いつもとちがって、なんだか怒っているようです。 「は …
すずめを打つ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
風が吹くと、木の葉が、せわしそうに動きました。空の色は青々として、秋がしだいに深くなりつつあるのが感じられます。朝、まだうす暗いうちから、庭さきの木立へ、いろいろの小鳥が飛んできて …
読書目安時間:約3分
風が吹くと、木の葉が、せわしそうに動きました。空の色は青々として、秋がしだいに深くなりつつあるのが感じられます。朝、まだうす暗いうちから、庭さきの木立へ、いろいろの小鳥が飛んできて …
すみれとうぐいすの話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
小さなすみれは、山の蔭につつましやかに咲いていました。そして、いい香りを放っていました。 すみれは、そこでも、安心をしていることは、できなかったのです。なぜなら、そのすみれをたずね …
読書目安時間:約8分
小さなすみれは、山の蔭につつましやかに咲いていました。そして、いい香りを放っていました。 すみれは、そこでも、安心をしていることは、できなかったのです。なぜなら、そのすみれをたずね …
すももの花の国から(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
人々のあまり知らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほどの、すももの木がうわっていました。そして、春になると、それらのすももの木には、みんな白い花が、雪のふっ …
読書目安時間:約5分
人々のあまり知らないところであります。そこには、ほとんど、かずかぎりのないほどの、すももの木がうわっていました。そして、春になると、それらのすももの木には、みんな白い花が、雪のふっ …
脊の低いとがった男(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
太郎が叔母さんから、買ってもらった小刀は、それは、よく切れるのでした。あまり形は、大きくはなかったけれど、どんな太い棒でもすこし力をいれれば、おもしろいように切れるのでした。 太郎 …
読書目安時間:約5分
太郎が叔母さんから、買ってもらった小刀は、それは、よく切れるのでした。あまり形は、大きくはなかったけれど、どんな太い棒でもすこし力をいれれば、おもしろいように切れるのでした。 太郎 …
西洋だこと六角だこ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
年郎くんは、自分の造った西洋だこを持って、原っぱへ上げにいきました。 原っぱには、木がなかったから、日がよく当たって、そのうえ、邪魔になるものもないので、すこしの風でもたこはよく上 …
読書目安時間:約5分
年郎くんは、自分の造った西洋だこを持って、原っぱへ上げにいきました。 原っぱには、木がなかったから、日がよく当たって、そのうえ、邪魔になるものもないので、すこしの風でもたこはよく上 …
絶望より生ずる文芸(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私にとっては文芸というものに二つの区別があると思う。即ち悶える文芸と、楽しむ文芸とがそれである。 吾々の此の日常生活というものに対して些の疑をも挾まず、有ゆる感覚、有ゆる思想を働か …
読書目安時間:約4分
私にとっては文芸というものに二つの区別があると思う。即ち悶える文芸と、楽しむ文芸とがそれである。 吾々の此の日常生活というものに対して些の疑をも挾まず、有ゆる感覚、有ゆる思想を働か …
戦争はぼくをおとなにした(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
まだ、ひる前で、あまり人通りのない時分でした。道の片がわに一軒の染め物店がありました。表へ面した、ガラスのはまった飾り窓には、若い女の人がきるような、はでな反物がかかっていました。 …
読書目安時間:約12分
まだ、ひる前で、あまり人通りのない時分でした。道の片がわに一軒の染め物店がありました。表へ面した、ガラスのはまった飾り窓には、若い女の人がきるような、はでな反物がかかっていました。 …
千羽鶴(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある村に人のよいおばあさんがありました。あるとき、お宮の境内を通りかかって、たいへん、そのお宮がさびしく、荒れてしまったのに心づきました。 むかし、まだおばあさんが、若い娘の時分に …
読書目安時間:約5分
ある村に人のよいおばあさんがありました。あるとき、お宮の境内を通りかかって、たいへん、そのお宮がさびしく、荒れてしまったのに心づきました。 むかし、まだおばあさんが、若い娘の時分に …
戦友(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
目の落ちくぼんだ、鼻の高い、小西一等兵と、四角の顔をした、ひげの伸びている岡田上等兵は、草に身を埋ずめ腹ばいになって話をしていました。 見わたすかぎり、草と灌木の生え茂った平原であ …
読書目安時間:約8分
目の落ちくぼんだ、鼻の高い、小西一等兵と、四角の顔をした、ひげの伸びている岡田上等兵は、草に身を埋ずめ腹ばいになって話をしていました。 見わたすかぎり、草と灌木の生え茂った平原であ …
僧(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
何処からともなく一人の僧侶が、この村に入って来た。色の褪せた茶色の衣を着て、草鞋を穿いていた。小さな磐を鳴らして、片手に黒塗の椀を持て、戸毎、戸毎に立って、経を唱え托鉢をして歩いた …
読書目安時間:約21分
何処からともなく一人の僧侶が、この村に入って来た。色の褪せた茶色の衣を着て、草鞋を穿いていた。小さな磐を鳴らして、片手に黒塗の椀を持て、戸毎、戸毎に立って、経を唱え托鉢をして歩いた …
草木の暗示から(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
目の醒めるような新緑が窓の外に迫って、そよ/\と風にふるえています。私は、それにじっと見入って考えました。なんという美しい色だ。大地から、ぬっと生えた木が、こうした緑色の若芽をふく …
読書目安時間:約6分
目の醒めるような新緑が窓の外に迫って、そよ/\と風にふるえています。私は、それにじっと見入って考えました。なんという美しい色だ。大地から、ぬっと生えた木が、こうした緑色の若芽をふく …
その日から正直になった話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
あるところに、気の弱い少年がありました。いい少年でありましたけれど、気が弱いばかりに、うそをついたのです。自分でも、うそをつくことは、よくない、卑怯なことだということは知っていまし …
読書目安時間:約7分
あるところに、気の弱い少年がありました。いい少年でありましたけれど、気が弱いばかりに、うそをついたのです。自分でも、うそをつくことは、よくない、卑怯なことだということは知っていまし …
空色の着物をきた子供(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
夏の昼過ぎでありました。三郎は友だちといっしょに往来の上で遊んでいました。するとそこへ、どこからやってきたものか、一人のじいさんのあめ売りが、天秤棒の両端に二つの箱を下げてチャルメ …
読書目安時間:約5分
夏の昼過ぎでありました。三郎は友だちといっしょに往来の上で遊んでいました。するとそこへ、どこからやってきたものか、一人のじいさんのあめ売りが、天秤棒の両端に二つの箱を下げてチャルメ …
空にわく金色の雲(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
道であった、顔見知りの人は、みすぼらしい正吉の母にむかって、 「よく、女手ひとつで、むすこさんを、これまでになさった。」と、いって、うしろについてくる正吉を見ながら、正吉の母をほめ …
読書目安時間:約14分
道であった、顔見知りの人は、みすぼらしい正吉の母にむかって、 「よく、女手ひとつで、むすこさんを、これまでになさった。」と、いって、うしろについてくる正吉を見ながら、正吉の母をほめ …
空晴れて(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
山間の寂しい村には、秋が早くきました。一時、木々の葉が紅葉して、さながら火の燃えついたように美しかったのもつかの間であって、身をきるようなあらしのたびに、山はやせ、やがて、その後に …
読書目安時間:約8分
山間の寂しい村には、秋が早くきました。一時、木々の葉が紅葉して、さながら火の燃えついたように美しかったのもつかの間であって、身をきるようなあらしのたびに、山はやせ、やがて、その後に …
大根とダイヤモンドの話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
秋になって穫れた野菜は、みんな上できでありましたが、その中にも、大根は、ことによくできたのであります。 百姓は、骨をおった、かいのあることをいまさらながら喜びました。そして、これだ …
読書目安時間:約8分
秋になって穫れた野菜は、みんな上できでありましたが、その中にも、大根は、ことによくできたのであります。 百姓は、骨をおった、かいのあることをいまさらながら喜びました。そして、これだ …
台風の子(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
龍夫と源吉の二人は、仲のいい友だちでした、二人は、台風が大好きなのでした。 「源ちゃん、また台風がくるって、ラジオでいったよ。いつくるかなあ、きょうの晩くるかもしれない。いまごろ二 …
読書目安時間:約8分
龍夫と源吉の二人は、仲のいい友だちでした、二人は、台風が大好きなのでした。 「源ちゃん、また台風がくるって、ラジオでいったよ。いつくるかなあ、きょうの晩くるかもしれない。いまごろ二 …
太陽とかわず(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
池の中に水草がありましたが、長い冬の間水が凍っていましたために、草はほとんど枯れてしまいそうに弱っていました。それは、この草にとって、どんなに長い間でありましたでしょう。 そのうち …
読書目安時間:約7分
池の中に水草がありましたが、長い冬の間水が凍っていましたために、草はほとんど枯れてしまいそうに弱っていました。それは、この草にとって、どんなに長い間でありましたでしょう。 そのうち …
太陽と星の下(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
S少年は、町へ出ると、時計屋の前に立つのが好きでした。そして、キチキチと、小さな針が、正しく休みなく、時をきざんでいるのを見て、——この時計は、どこの工場で、どんな人たちの手で造ら …
読書目安時間:約11分
S少年は、町へ出ると、時計屋の前に立つのが好きでした。そして、キチキチと、小さな針が、正しく休みなく、時をきざんでいるのを見て、——この時計は、どこの工場で、どんな人たちの手で造ら …
高い木とからす(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
林の中に、一本、とりわけ高いすぎの木がありました。秋が近づくと、いろいろの渡り鳥が飛んできて、その木のいただきへとまりました。群れをなしてくるものもあれば、なかには、つれもなく、一 …
読書目安時間:約4分
林の中に、一本、とりわけ高いすぎの木がありました。秋が近づくと、いろいろの渡り鳥が飛んできて、その木のいただきへとまりました。群れをなしてくるものもあれば、なかには、つれもなく、一 …
高い木と子供の話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
善吉は、ほかの子供のように、学校から家に帰っても、すぐにかばんをほうり出して、外へいって、友だちと自由に飛びまわって遊ぶことはできませんでした。仕事のてつだいをさせられるか、弟を脊 …
読書目安時間:約11分
善吉は、ほかの子供のように、学校から家に帰っても、すぐにかばんをほうり出して、外へいって、友だちと自由に飛びまわって遊ぶことはできませんでした。仕事のてつだいをさせられるか、弟を脊 …
托児所のある村(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
村は静かでありました。 広々とした、托児所の庭にだけ、わらい声がおこったり、子供たちのあそびたわむれるさけび声がして、なんとなく、にぎやかでありました。 よく晴れた、青い青い大空に …
読書目安時間:約7分
村は静かでありました。 広々とした、托児所の庭にだけ、わらい声がおこったり、子供たちのあそびたわむれるさけび声がして、なんとなく、にぎやかでありました。 よく晴れた、青い青い大空に …
竹馬の太郎(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
太郎は、お父さんや、お母さんのいうことを聞きませんでした。竹馬に乗ることが大好きで、毎日、外へ出て竹馬に乗って遊んでいました。 竹馬の太郎といえば、村じゅうで、だれ知らぬものはない …
読書目安時間:約4分
太郎は、お父さんや、お母さんのいうことを聞きませんでした。竹馬に乗ることが大好きで、毎日、外へ出て竹馬に乗って遊んでいました。 竹馬の太郎といえば、村じゅうで、だれ知らぬものはない …
武ちゃんと昔話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この夏休みに、武ちゃんが、叔父さんの村へいったときのことであります。 ある日、村はずれまで散歩すると、そこに大きな屋敷があって、お城かなどのように、土塀がめぐらしてありました。そし …
読書目安時間:約5分
この夏休みに、武ちゃんが、叔父さんの村へいったときのことであります。 ある日、村はずれまで散歩すると、そこに大きな屋敷があって、お城かなどのように、土塀がめぐらしてありました。そし …
谷にうたう女(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
くりの木のこずえに残った一ひらの葉が、北の海を見ながら、さびしい歌をうたっていました。 おきぬは、四つになる長吉をつれて、山の畑へ大根を抜きにまいりました。やがて、冬がくるのです。 …
読書目安時間:約7分
くりの木のこずえに残った一ひらの葉が、北の海を見ながら、さびしい歌をうたっていました。 おきぬは、四つになる長吉をつれて、山の畑へ大根を抜きにまいりました。やがて、冬がくるのです。 …
谷間のしじゅうから(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
春のころ、一度この谷間を訪れたことのあるしじゅうからは、やがて涼風のたとうとする今日、谷川の岸にあった同じ石の上に降りて、なつかしそうに、あたりの景色をながめていたのであります。 …
読書目安時間:約7分
春のころ、一度この谷間を訪れたことのあるしじゅうからは、やがて涼風のたとうとする今日、谷川の岸にあった同じ石の上に降りて、なつかしそうに、あたりの景色をながめていたのであります。 …
駄馬と百姓(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
甲の百姓は、一ぴきの馬を持っていました。この馬は脊が低く、足が太くて、まことに見たところは醜い馬でありましたが、よく主人のいうことを聞いて、その手助けもやりますし、どんな重い荷物を …
読書目安時間:約5分
甲の百姓は、一ぴきの馬を持っていました。この馬は脊が低く、足が太くて、まことに見たところは醜い馬でありましたが、よく主人のいうことを聞いて、その手助けもやりますし、どんな重い荷物を …
だまされた娘とちょうの話(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
弟妹の多い、貧しい家に育ったお竹は、大きくなると、よそに出て働かなければなりませんでした。 日ごろ、親しくした、近所のおじいさんは、かの女に向かって、 「おまえさんは、やさしいし、 …
読書目安時間:約10分
弟妹の多い、貧しい家に育ったお竹は、大きくなると、よそに出て働かなければなりませんでした。 日ごろ、親しくした、近所のおじいさんは、かの女に向かって、 「おまえさんは、やさしいし、 …
たましいは生きている(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
昔の人は、月日を流れる水にたとえましたが、まことに、ひとときもとどまることなく、いずくへか去ってしまうものです。そして、その間に人々は、喜んだり、悲しんだりするが、しんけんなのは、 …
読書目安時間:約9分
昔の人は、月日を流れる水にたとえましたが、まことに、ひとときもとどまることなく、いずくへか去ってしまうものです。そして、その間に人々は、喜んだり、悲しんだりするが、しんけんなのは、 …
玉虫のおばさん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日、春子さんが、久代さんの家へ遊びにまいりますと、 「ねえ、春子さん、きれいなものを見せてあげましょうか。」と、いって、久代さんは、ひきだしの中から、小さなきりの箱を取り出しま …
読書目安時間:約5分
ある日、春子さんが、久代さんの家へ遊びにまいりますと、 「ねえ、春子さん、きれいなものを見せてあげましょうか。」と、いって、久代さんは、ひきだしの中から、小さなきりの箱を取り出しま …
だれにも話さなかったこと(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あのときの、女の先生は、まだいらっしゃるだろうか。それにつけ、僕は、深く心にのこって、忘れられない当時の思い出があります。 しばらく、さくの外に立って、もう一度そのときのことを頭に …
読書目安時間:約5分
あのときの、女の先生は、まだいらっしゃるだろうか。それにつけ、僕は、深く心にのこって、忘れられない当時の思い出があります。 しばらく、さくの外に立って、もう一度そのときのことを頭に …
単純化は唯一の武器だ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ガンヂイーのカッダール主義は、単なる生活の単純化でないであろう。それには、多分に政治的の意味が含まれているからだ。しかし、それに、私達は、教えられるところがないだろうか。 私の子供 …
読書目安時間:約3分
ガンヂイーのカッダール主義は、単なる生活の単純化でないであろう。それには、多分に政治的の意味が含まれているからだ。しかし、それに、私達は、教えられるところがないだろうか。 私の子供 …
単純な詩形を思う(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
極めて単調子な、意味のシンプルな子守唄が私の心を魅し去ってしまう。そして、それをいつまで聞いていても、私は、この子守唄を聞くことに飽きない。しかも、それを歌っているものが、無智の田 …
読書目安時間:約4分
極めて単調子な、意味のシンプルな子守唄が私の心を魅し去ってしまう。そして、それをいつまで聞いていても、私は、この子守唄を聞くことに飽きない。しかも、それを歌っているものが、無智の田 …
小さな赤い花(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
おそろしいがけの中ほどの岩かげに、とこなつの花がぱっちりと、かわいらしい瞳のように咲きはじめました。 花は、はじめてあたりを見て驚いたのであります。なぜなら、目の前には、大海原が開 …
読書目安時間:約5分
おそろしいがけの中ほどの岩かげに、とこなつの花がぱっちりと、かわいらしい瞳のように咲きはじめました。 花は、はじめてあたりを見て驚いたのであります。なぜなら、目の前には、大海原が開 …
小さな妹をつれて(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
きょうは、二郎ちゃんのお免状日です。お母さんは、新しい洋服を出して、 「これを着ていらっしゃい。よごすのでありませんよ。」と、おっしゃいました。二郎ちゃんの、いままで着ていた洋服は …
読書目安時間:約8分
きょうは、二郎ちゃんのお免状日です。お母さんは、新しい洋服を出して、 「これを着ていらっしゃい。よごすのでありませんよ。」と、おっしゃいました。二郎ちゃんの、いままで着ていた洋服は …
小さな弟、良ちゃん(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
良ちゃんは、お姉さんの持っている、銀のシャープ=ペンシルがほしくてならなかったのです。けれど、いくらねだっても、お姉さんは、 「どうして、こればかしは、あげられますものか。」と、い …
読書目安時間:約7分
良ちゃんは、お姉さんの持っている、銀のシャープ=ペンシルがほしくてならなかったのです。けれど、いくらねだっても、お姉さんは、 「どうして、こればかしは、あげられますものか。」と、い …
小さな草と太陽(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
垣根の内側に、小さな一本の草が芽を出しました。ちょうど、そのときは、春の初めのころでありました。いろいろの花が、日にまし、つぼみがふくらんできて、咲きかけていた時分であります。 垣 …
読書目安時間:約5分
垣根の内側に、小さな一本の草が芽を出しました。ちょうど、そのときは、春の初めのころでありました。いろいろの花が、日にまし、つぼみがふくらんできて、咲きかけていた時分であります。 垣 …
『小さな草と太陽』序(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
詩や、空想や、幻想を、冷笑する人々は、自分等の精神が、物質的文明に中毒したことに気付かない人達です。人間は、一度は光輝な世界を有していたことがあったのを憫れむべくも自ら知らない不明 …
読書目安時間:約2分
詩や、空想や、幻想を、冷笑する人々は、自分等の精神が、物質的文明に中毒したことに気付かない人達です。人間は、一度は光輝な世界を有していたことがあったのを憫れむべくも自ら知らない不明 …
小さな金色の翼(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
彼らの群れから離れて、一羽の小鳥が空を飛んでいますと、いつしか、ひどい風になってきました。そして、小鳥は、いくら努力をしましても、その風のために吹き飛ばされてしまいました。 空には …
読書目安時間:約10分
彼らの群れから離れて、一羽の小鳥が空を飛んでいますと、いつしか、ひどい風になってきました。そして、小鳥は、いくら努力をしましても、その風のために吹き飛ばされてしまいました。 空には …
小さな年ちゃん(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ある日、小さな年ちゃんは、お母さんのいいつけで、お使いにいきました。 「ころばないようにして、いらっしゃい。」と、お母さんは、おっしゃいました。 年ちゃんは、片手に財布を握り、片手 …
読書目安時間:約4分
ある日、小さな年ちゃんは、お母さんのいいつけで、お使いにいきました。 「ころばないようにして、いらっしゃい。」と、お母さんは、おっしゃいました。 年ちゃんは、片手に財布を握り、片手 …
小さなねじ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
おじいさんは、朝起きると、火鉢に当たりながら、もうそのころ配達されている新聞をごらんになっています。これは、毎朝のことでありました。 今日も、早く起きて火鉢の前にすわっていられまし …
読書目安時間:約5分
おじいさんは、朝起きると、火鉢に当たりながら、もうそのころ配達されている新聞をごらんになっています。これは、毎朝のことでありました。 今日も、早く起きて火鉢の前にすわっていられまし …
近頃感じたこと(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
今年の夏になってからのことでした。私は庭のありを全滅してしまわなければならぬと考えました。日ごろから、ありは多くの虫のなかで、もっとも利口であり、また組織的な生活を営んでいる、感心 …
読書目安時間:約8分
今年の夏になってからのことでした。私は庭のありを全滅してしまわなければならぬと考えました。日ごろから、ありは多くの虫のなかで、もっとも利口であり、また組織的な生活を営んでいる、感心 …
稚子ヶ淵(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
もう春もいつしか過ぎて夏の初めとなって、木々の青葉がそよそよと吹く風に揺れて、何とのう恍惚とする日である。人里を離れて独りで柴を刈っていると、二郎は体中汗ばんで来た。少し休もうと思 …
読書目安時間:約9分
もう春もいつしか過ぎて夏の初めとなって、木々の青葉がそよそよと吹く風に揺れて、何とのう恍惚とする日である。人里を離れて独りで柴を刈っていると、二郎は体中汗ばんで来た。少し休もうと思 …
父親と自転車(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
吉坊は、父親に、自転車を買ってくれるようにと頼みました。 「そんなものに、乗らなくたって、いくらでも遊べるでないか、ほかの子供をけがさしてみい、たいへんだぞ。もうすこし大きくなって …
読書目安時間:約4分
吉坊は、父親に、自転車を買ってくれるようにと頼みました。 「そんなものに、乗らなくたって、いくらでも遊べるでないか、ほかの子供をけがさしてみい、たいへんだぞ。もうすこし大きくなって …
中学へ上がった日(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
毎日いっしょに勉強をしたり、また遊んだりしたお友だちと別れる日がきました。今日は卒業式であります。式の後で、男の生徒たちは、笑ったり、お菓子を食べたり、お茶を飲んだりしましたけれど …
読書目安時間:約5分
毎日いっしょに勉強をしたり、また遊んだりしたお友だちと別れる日がきました。今日は卒業式であります。式の後で、男の生徒たちは、笑ったり、お菓子を食べたり、お茶を飲んだりしましたけれど …
チューリップの芽(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
チューリップは、土の中で、お母さんから、世の中に出てからの、いろいろのおもしろい話をきいて、早く芽を出したいものと思っていました。 「ちょうちょうは、どんなに、美しいの?」と、お母 …
読書目安時間:約2分
チューリップは、土の中で、お母さんから、世の中に出てからの、いろいろのおもしろい話をきいて、早く芽を出したいものと思っていました。 「ちょうちょうは、どんなに、美しいの?」と、お母 …
ちょうせんぶなと美しい小箱(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
正吉くんは、はじめて小田くんの家へあそびにいって、ちょうせんぶなを見せてもらったので、たいそうめずらしく思いました。 「君、この魚はどこに売っていたの?」 「このあいだ、おじいさん …
読書目安時間:約6分
正吉くんは、はじめて小田くんの家へあそびにいって、ちょうせんぶなを見せてもらったので、たいそうめずらしく思いました。 「君、この魚はどこに売っていたの?」 「このあいだ、おじいさん …
ちょうと怒濤(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
美しいちょうがありました。 だれがいうとなく、この野原の中から、あまり遠方へゆかないがいい。ゆくと花がない、ということをききましたから、ちょうは、その野原の中を飛びまわっていました …
読書目安時間:約10分
美しいちょうがありました。 だれがいうとなく、この野原の中から、あまり遠方へゆかないがいい。ゆくと花がない、ということをききましたから、ちょうは、その野原の中を飛びまわっていました …
ちょうと三つの石(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
あるところに、まことにやさしい女がありました。女は年ごろになると、水車屋の主人と結婚をしました。 村はずれの、小川にかかっている水車は、朝から晩まで、唄をうたいながらまわっていまし …
読書目安時間:約9分
あるところに、まことにやさしい女がありました。女は年ごろになると、水車屋の主人と結婚をしました。 村はずれの、小川にかかっている水車は、朝から晩まで、唄をうたいながらまわっていまし …
千代紙の春(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
町はずれの、ある橋のそばで、一人のおじいさんが、こいを売っていました。おじいさんは、今朝そのこいを問屋から請けてきたのでした。そして、長い間、ここに店を出して、通る人々に向かって、 …
読書目安時間:約11分
町はずれの、ある橋のそばで、一人のおじいさんが、こいを売っていました。おじいさんは、今朝そのこいを問屋から請けてきたのでした。そして、長い間、ここに店を出して、通る人々に向かって、 …
月が出る(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
だれが山でらっぱ吹く、 青い空から月が出る。 だれが野で太鼓打つ、 広い畑から月が出る。 だれが海で笛を吹く、 波の中から月がでる。 だれが町で歌うたう、 月がまんまるく照らしてい …
読書目安時間:約1分
だれが山でらっぱ吹く、 青い空から月が出る。 だれが野で太鼓打つ、 広い畑から月が出る。 だれが海で笛を吹く、 波の中から月がでる。 だれが町で歌うたう、 月がまんまるく照らしてい …
月と海豹(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
北方の海は銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死ん …
読書目安時間:約8分
北方の海は銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死ん …
月とあざらし(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
北方の海は、銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死 …
読書目安時間:約8分
北方の海は、銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死 …
月夜と眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
町も、野も、いたるところ、緑の葉に包まれているころでありました。 おだやかな、月のいい晩のことであります。静かな町のはずれにおばあさんは住んでいましたが、おばあさんは、ただ一人、窓 …
読書目安時間:約8分
町も、野も、いたるところ、緑の葉に包まれているころでありました。 おだやかな、月のいい晩のことであります。静かな町のはずれにおばあさんは住んでいましたが、おばあさんは、ただ一人、窓 …
月夜とめがね(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
町も、野も、いたるところ、緑の葉につつまれているころでありました。 おだやかな、月のいい晩のことであります。しずかな町のはずれにおばあさんは住んでいましたが、おばあさんは、ただひと …
読書目安時間:約8分
町も、野も、いたるところ、緑の葉につつまれているころでありました。 おだやかな、月のいい晩のことであります。しずかな町のはずれにおばあさんは住んでいましたが、おばあさんは、ただひと …
つじうら売りのおばあさん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある日、雪のはれた晩がたでした。 「きょうは、義雄さんの家のカルタ会だ。」というので、みんなは喜んでいました。 達夫くんは、おとなりのかね子さんをさそって、いくことになっていました …
読書目安時間:約5分
ある日、雪のはれた晩がたでした。 「きょうは、義雄さんの家のカルタ会だ。」というので、みんなは喜んでいました。 達夫くんは、おとなりのかね子さんをさそって、いくことになっていました …
つづれさせ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お祖母さんは、あかりの下に針箱をおき、お仕事をなさっていました。そのうち、押し入れから行李を出し、なにか、おさがしになりました。 「おばあさん、なにをなさるの?」と、武ちゃんはいい …
読書目安時間:約1分
お祖母さんは、あかりの下に針箱をおき、お仕事をなさっていました。そのうち、押し入れから行李を出し、なにか、おさがしになりました。 「おばあさん、なにをなさるの?」と、武ちゃんはいい …
常に自然は語る(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
天心に湧く雲程、不思議なものはない。 自分は、雲を見るのが、大好きだ。そして、それは、独り私ばかりでなく、誰でも感ずることであろうが、いまだ曾て、雲の形態について、何人も、これをあ …
読書目安時間:約4分
天心に湧く雲程、不思議なものはない。 自分は、雲を見るのが、大好きだ。そして、それは、独り私ばかりでなく、誰でも感ずることであろうが、いまだ曾て、雲の形態について、何人も、これをあ …
角笛吹く子(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
町の四つ角に立って、一人の男の子がうろうろしていました。子供ははだしで、足の指を赤くしていましたけれど、それを苦にも感じないようでありました。短い黒い着物をきて、延びた頭髪は、はり …
読書目安時間:約7分
町の四つ角に立って、一人の男の子がうろうろしていました。子供ははだしで、足の指を赤くしていましたけれど、それを苦にも感じないようでありました。短い黒い着物をきて、延びた頭髪は、はり …
つばきの下のすみれ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一本のつばきの木の下に、かわいらしいすみれがありました。そのつばきの木は、大きかったばかりでなくて、それは真紅な美しい花を開きました。この花を見た人は、だれでも、きれいなのをほめな …
読書目安時間:約5分
一本のつばきの木の下に、かわいらしいすみれがありました。そのつばきの木は、大きかったばかりでなくて、それは真紅な美しい花を開きました。この花を見た人は、だれでも、きれいなのをほめな …
翼の破れたからす(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
西の山のふもとの森の中に、からすが巣を造っていました。そして、毎日、朝はまだ、空の明けきらないうす暗いうちから、みんなのからすは列をなして、東の空を指して高く飛んでゆきました。 そ …
読書目安時間:約8分
西の山のふもとの森の中に、からすが巣を造っていました。そして、毎日、朝はまだ、空の明けきらないうす暗いうちから、みんなのからすは列をなして、東の空を指して高く飛んでゆきました。 そ …
つばめと魚(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
そこは、町のにぎやかな通りでありました。ある店の前へ子どもがあつまっていました。ちょうどきかけたつばめは、どんなおもしろいものがあるだろうと自分もおりてみました。店には、金魚や、め …
読書目安時間:約5分
そこは、町のにぎやかな通りでありました。ある店の前へ子どもがあつまっていました。ちょうどきかけたつばめは、どんなおもしろいものがあるだろうと自分もおりてみました。店には、金魚や、め …
つばめと乞食の子(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある村へ、一人の乞食の子が入ってきた。十二、三で顔はまっ黒く、目の大きな子だ。そのうえいじ悪で、人に向かって、けっして、ものをくれいといったことがない。毎日毎日外を歩いていて、ほか …
読書目安時間:約5分
ある村へ、一人の乞食の子が入ってきた。十二、三で顔はまっ黒く、目の大きな子だ。そのうえいじ悪で、人に向かって、けっして、ものをくれいといったことがない。毎日毎日外を歩いていて、ほか …
つばめの話(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
夏の初めになると、南の方の国から、つばめが北の方の国に飛んできました。そして、電線や、屋根の上や、高いところに止まって、なきました。広い野原の中を汽車がゆくときに、つばめは、電線の …
読書目安時間:約4分
夏の初めになると、南の方の国から、つばめが北の方の国に飛んできました。そして、電線や、屋根の上や、高いところに止まって、なきました。広い野原の中を汽車がゆくときに、つばめは、電線の …
つめたい メロン(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
おかあさんが、れいぞうきのふたをおあけなさると、いいにおいがしました。 「二郎ちゃん、メロンがつめたくなっていますよ。にいさんがかえったら、きってあげましょうね。」 とおっしゃいま …
読書目安時間:約2分
おかあさんが、れいぞうきのふたをおあけなさると、いいにおいがしました。 「二郎ちゃん、メロンがつめたくなっていますよ。にいさんがかえったら、きってあげましょうね。」 とおっしゃいま …
強い大将の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある国に、戦争にかけてはたいへんに強い大将がありました。その大将がいる間は、どこの国と戦争をしても、けっして負けることはないといわれたほどであります。 それほど、この大将は知略・勇 …
読書目安時間:約5分
ある国に、戦争にかけてはたいへんに強い大将がありました。その大将がいる間は、どこの国と戦争をしても、けっして負けることはないといわれたほどであります。 それほど、この大将は知略・勇 …
てかてか頭の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある田舎に、おじいさんの理髪店がありました。おじいさんは、もうだいぶ年をとっていまして、脊が曲がっていました。いいおじいさんなものですから、みんなに、おじいさん、おじいさんと慕われ …
読書目安時間:約5分
ある田舎に、おじいさんの理髪店がありました。おじいさんは、もうだいぶ年をとっていまして、脊が曲がっていました。いいおじいさんなものですから、みんなに、おじいさん、おじいさんと慕われ …
手風琴(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
秋風が吹きはじめると、高原の別荘にきていた都の人たちは、あわただしく逃げるように街へ帰ってゆきました。そのあたりには、もはや人影が見えなかったのであります。 ひとり、村をはなれて、 …
読書目安時間:約6分
秋風が吹きはじめると、高原の別荘にきていた都の人たちは、あわただしく逃げるように街へ帰ってゆきました。そのあたりには、もはや人影が見えなかったのであります。 ひとり、村をはなれて、 …
点(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
その頃この町の端に一つの教会堂があった。堂の周囲には紅い蔦が絡み付いていた。夕日が淋しき町を照す時に、等しくこの教会堂の紅い蔦の葉に鮮かに射して匂うたのである。堂は、西洋風の尖った …
読書目安時間:約16分
その頃この町の端に一つの教会堂があった。堂の周囲には紅い蔦が絡み付いていた。夕日が淋しき町を照す時に、等しくこの教会堂の紅い蔦の葉に鮮かに射して匂うたのである。堂は、西洋風の尖った …
天下一品(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ある日のことであります。男は空想にふけりました。 「ほんとうに、毎日働いても、つまらない話だ。大金持ちになれはしないし、また、これという安楽もされない。ばかばかしいことだ。よく世間 …
読書目安時間:約14分
ある日のことであります。男は空想にふけりました。 「ほんとうに、毎日働いても、つまらない話だ。大金持ちになれはしないし、また、これという安楽もされない。ばかばかしいことだ。よく世間 …
電信柱と妙な男(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある町に一人の妙な男が住んでいた。昼間はちっとも外に出ない。友人が誘いにきても、けっして外へは出なかった。病気だとか、用事があるとかいって、出ずにへやの中へ閉じこもっていた。夜にな …
読書目安時間:約5分
ある町に一人の妙な男が住んでいた。昼間はちっとも外に出ない。友人が誘いにきても、けっして外へは出なかった。病気だとか、用事があるとかいって、出ずにへやの中へ閉じこもっていた。夜にな …
天女とお化け(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
天職を自覚せず、また、それにたいする責任を感ぜず、上のものは、下のものに好悪の感情を露骨にあらわして平気だった、いまよりは、もっと暗かった時代の話であります。 新しく中学の受け持ち …
読書目安時間:約10分
天職を自覚せず、また、それにたいする責任を感ぜず、上のものは、下のものに好悪の感情を露骨にあらわして平気だった、いまよりは、もっと暗かった時代の話であります。 新しく中学の受け持ち …
天を怖れよ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
人間は、これまでものをいうことのできない動物に対して、彼等の世界を知ろうとするよりは、むしろ功利的にこれを利用するということのみ考えて来ました。言い換えれば、利益を中心にこれ等の動 …
読書目安時間:約3分
人間は、これまでものをいうことのできない動物に対して、彼等の世界を知ろうとするよりは、むしろ功利的にこれを利用するということのみ考えて来ました。言い換えれば、利益を中心にこれ等の動 …
東京の羽根(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
東京のお正月は、もう梅の花が咲いていて、お天気のいい日は、春がやってきたようにさえ見えるのであります。義雄さんは、隣のみね子さんと羽根をついていました。 みね子さんは、去年学校を出 …
読書目安時間:約5分
東京のお正月は、もう梅の花が咲いていて、お天気のいい日は、春がやってきたようにさえ見えるのであります。義雄さんは、隣のみね子さんと羽根をついていました。 みね子さんは、去年学校を出 …
とうげの茶屋(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
とうげの、中ほどに、一けんの茶屋がありました。町の方からきて、あちらの村へいくものや、またあちらの村から、とうげを越して、町の方へ出ていくものは、この茶屋で休んだのであります。 こ …
読書目安時間:約13分
とうげの、中ほどに、一けんの茶屋がありました。町の方からきて、あちらの村へいくものや、またあちらの村から、とうげを越して、町の方へ出ていくものは、この茶屋で休んだのであります。 こ …
銅像と老人(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
田舎に住んでいる人々は、遠い都のことをいろいろに想像するのでした。そして、ぜひ一度いってみたいと、思わないものはないのであります。 「ああ私も、足・腰のじょうぶなうちに、東京見物を …
読書目安時間:約8分
田舎に住んでいる人々は、遠い都のことをいろいろに想像するのでした。そして、ぜひ一度いってみたいと、思わないものはないのであります。 「ああ私も、足・腰のじょうぶなうちに、東京見物を …
童話に対する所見(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
今日世間では頻りに文化的ということを言っている。しかしそれは単に趣味の上で洗練されたことを言っているのだろう。今日の社会に於いて教養とか、或いは趣味とか、或いは人格の洗練とかいうこ …
読書目安時間:約3分
今日世間では頻りに文化的ということを言っている。しかしそれは単に趣味の上で洗練されたことを言っているのだろう。今日の社会に於いて教養とか、或いは趣味とか、或いは人格の洗練とかいうこ …
童話の詩的価値(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
籠の中で産まれた小鳥は、曾て広い世界を知らず、森の中や、林の中に、自分等の友達の住んでいることを知りませんから、外を恋しがらないかというに、そうでありません。やはり、少しの隙間があ …
読書目安時間:約6分
籠の中で産まれた小鳥は、曾て広い世界を知らず、森の中や、林の中に、自分等の友達の住んでいることを知りませんから、外を恋しがらないかというに、そうでありません。やはり、少しの隙間があ …
童話を書く時の心(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
自由性を多分に持つものは、芸術であります。こう書くべきものだとか、こう書かなければならぬとかいうことは定っていません。いま、私は、自分の書く時の態度について、語りたいと思います。 …
読書目安時間:約7分
自由性を多分に持つものは、芸術であります。こう書くべきものだとか、こう書かなければならぬとかいうことは定っていません。いま、私は、自分の書く時の態度について、語りたいと思います。 …
遠くで鳴る雷(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
二郎は、前の圃にまいた、いろいろの野菜の種子が、雨の降った後で、かわいらしい芽を黒土の面に出したのを見ました。 小さなちょうの羽のように、二つ、葉をそろえて芽を出しはじめたのは、き …
読書目安時間:約6分
二郎は、前の圃にまいた、いろいろの野菜の種子が、雨の降った後で、かわいらしい芽を黒土の面に出したのを見ました。 小さなちょうの羽のように、二つ、葉をそろえて芽を出しはじめたのは、き …
都会はぜいたくだ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
デパートの高い屋根の上に、赤い旗が、女や子供のお客を呼ぶように、ひらひらとなびいていました。おかねは、若い、美しい奥さまのお伴をしてまいりました。 そこには、なんでもないものはあり …
読書目安時間:約9分
デパートの高い屋根の上に、赤い旗が、女や子供のお客を呼ぶように、ひらひらとなびいていました。おかねは、若い、美しい奥さまのお伴をしてまいりました。 そこには、なんでもないものはあり …
時計と窓の話(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私の生まれる前から、このおき時計は、家にあったので、それだけ、親しみぶかい感がするのであります。ある日のこと、父が、まだ学生の時分、ゆき来する町の古道具屋に、この時計が、かざってあ …
読書目安時間:約10分
私の生まれる前から、このおき時計は、家にあったので、それだけ、親しみぶかい感がするのであります。ある日のこと、父が、まだ学生の時分、ゆき来する町の古道具屋に、この時計が、かざってあ …
時計とよっちゃん(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
よっちゃんは、四つになったばかりですが、りこうな、かわいらしい男の子でした。 よっちゃんは、毎日、昼眠をしました。そして、たくさんねむって、ぱっちりと目をあけましたときは、それは、 …
読書目安時間:約11分
よっちゃんは、四つになったばかりですが、りこうな、かわいらしい男の子でした。 よっちゃんは、毎日、昼眠をしました。そして、たくさんねむって、ぱっちりと目をあけましたときは、それは、 …
時計のない村(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
町から遠く離れた田舎のことであります。その村には、あまり富んだものがありませんでした。村じゅうで、時計が、たった二つぎりしかなかったのです。 長い間、この村の人々は、時計がなくてす …
読書目安時間:約8分
町から遠く離れた田舎のことであります。その村には、あまり富んだものがありませんでした。村じゅうで、時計が、たった二つぎりしかなかったのです。 長い間、この村の人々は、時計がなくてす …
どこかで呼ぶような(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
わたくしが門を出ると、ちょうど、ピイピイ、笛をならしながら、らお屋が、あちらのかどをまがりました。 わたくしは、あの音を聞くと、なんとなく、春さきの感じがします。どこへ遊びにいくと …
読書目安時間:約7分
わたくしが門を出ると、ちょうど、ピイピイ、笛をならしながら、らお屋が、あちらのかどをまがりました。 わたくしは、あの音を聞くと、なんとなく、春さきの感じがします。どこへ遊びにいくと …
どこかに生きながら(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
子ねこは、彼が生まれる前の、母ねこの生活を知ることはできなかったけれど、物心がつくと宿なしの身であって、方々を追われ、人間からいじめつづけられたのでした。母ねこは、子供をある家の破 …
読書目安時間:約9分
子ねこは、彼が生まれる前の、母ねこの生活を知ることはできなかったけれど、物心がつくと宿なしの身であって、方々を追われ、人間からいじめつづけられたのでした。母ねこは、子供をある家の破 …
どこで笛吹く(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
ある田舎に光治という十二歳になる男の子がありました。光治は毎日村の小学校へいっていました。彼は、いたっておとなしい性質で、自分のほうからほかのものに手出しをしてけんかをしたり、悪口 …
読書目安時間:約12分
ある田舎に光治という十二歳になる男の子がありました。光治は毎日村の小学校へいっていました。彼は、いたっておとなしい性質で、自分のほうからほかのものに手出しをしてけんかをしたり、悪口 …
年ちゃんとハーモニカ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
年ちゃんの友だちの間で、ハーモニカを吹くことが、はやりました。はじめ、だれか一人がハーモニカを持つと、みんながほしくなって、つぎから、つぎへというふうに、買ったのであります。けれど …
読書目安時間:約4分
年ちゃんの友だちの間で、ハーモニカを吹くことが、はやりました。はじめ、だれか一人がハーモニカを持つと、みんながほしくなって、つぎから、つぎへというふうに、買ったのであります。けれど …
どじょうと金魚(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ある日、子供がガラスのびんを手に持って、金魚をほしいといって、泣いていました。すると、通りかかったどじょう売りのおじいさんが、そのびんの中へ、どじょうを二匹いれてくれました。 子供 …
読書目安時間:約2分
ある日、子供がガラスのびんを手に持って、金魚をほしいといって、泣いていました。すると、通りかかったどじょう売りのおじいさんが、そのびんの中へ、どじょうを二匹いれてくれました。 子供 …
隣村の子(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
良吉は、重い荷物を自転車のうしろにつけて走ってきました。 その日は、あつい、あつい日でした。そこは大きなビルディングが、立ち並んでいて、自動車や、トラックや、また自転車が往来して、 …
読書目安時間:約4分
良吉は、重い荷物を自転車のうしろにつけて走ってきました。 その日は、あつい、あつい日でした。そこは大きなビルディングが、立ち並んでいて、自動車や、トラックや、また自転車が往来して、 …
殿さまの茶わん(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
昔、ある国に有名な陶器師がありました。代々陶器を焼いて、その家の品といえば、遠い他国にまで名が響いていたのであります。代々の主人は、山から出る土を吟味いたしました。また、いい絵かき …
読書目安時間:約8分
昔、ある国に有名な陶器師がありました。代々陶器を焼いて、その家の品といえば、遠い他国にまで名が響いていたのであります。代々の主人は、山から出る土を吟味いたしました。また、いい絵かき …
とびよ鳴け(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
自転車屋の店に、古自転車が、幾台も並べられてありました。タイヤは汚れて、車輪がさびていました。一つ、一つに値段がついていました。わりあいに安かったのは、もうこの先長くは、使用されな …
読書目安時間:約11分
自転車屋の店に、古自転車が、幾台も並べられてありました。タイヤは汚れて、車輪がさびていました。一つ、一つに値段がついていました。わりあいに安かったのは、もうこの先長くは、使用されな …
扉(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
陰気な建物には小さな窓があった。大きな灰色をした怪物に、いくつかの眼があいているようだ。怪物は大分年を取っていた。老耄していた。日が当ると茫漠とした影が平な地面に落ちるけれど曇って …
読書目安時間:約17分
陰気な建物には小さな窓があった。大きな灰色をした怪物に、いくつかの眼があいているようだ。怪物は大分年を取っていた。老耄していた。日が当ると茫漠とした影が平な地面に落ちるけれど曇って …
トム吉と宝石(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
遠い、あちらの町の中に、宝石店がありました。 ある日のこと、みすぼらしいふうをした娘がきて、 「これを、どうぞ買っていただきたいのですが。」 といって、小さな紙包みの中から、赤い魚 …
読書目安時間:約9分
遠い、あちらの町の中に、宝石店がありました。 ある日のこと、みすぼらしいふうをした娘がきて、 「これを、どうぞ買っていただきたいのですが。」 といって、小さな紙包みの中から、赤い魚 …
友だちどうし(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
乳色の冬の空から、まぶしいほど、日の光は大地へ流れていました。風のない静かな日で雪のない国には、やがて、春が間近へやってくるように感ぜられるのでありました。 年ちゃんは、紅茶の空き …
読書目安時間:約5分
乳色の冬の空から、まぶしいほど、日の光は大地へ流れていました。風のない静かな日で雪のない国には、やがて、春が間近へやってくるように感ぜられるのでありました。 年ちゃんは、紅茶の空き …
囚われたる現文壇(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
いかなる主義と雖も現実から出発していないものはない。現実を有りのまゝの静止したもの、固定したものと見做すのが間違っている。現実はどうともすることの出来ない客観的の実在であると同時に …
読書目安時間:約6分
いかなる主義と雖も現実から出発していないものはない。現実を有りのまゝの静止したもの、固定したものと見做すのが間違っている。現実はどうともすることの出来ない客観的の実在であると同時に …
捕われ人(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
山奥である。右にも左にも山が聳えている。谷底に三人の異様な風をした男が一人の男を連て来て、両手を縛って、荒莚の上に坐らせて殺そうとしている。三人の悪者の眼球は光っていた。莚の上に坐 …
読書目安時間:約9分
山奥である。右にも左にも山が聳えている。谷底に三人の異様な風をした男が一人の男を連て来て、両手を縛って、荒莚の上に坐らせて殺そうとしている。三人の悪者の眼球は光っていた。莚の上に坐 …
鳥鳴く朝のちい子ちゃん(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ちい子ちゃんは、床の中で目をさましました。うぐいすの鳴き声が、きこえてきました。 「おや、ラジオかしら。」 このごろ、いつもお休み日の朝には、小鳥の鳴き声が放送されたからです。しか …
読書目安時間:約8分
ちい子ちゃんは、床の中で目をさましました。うぐいすの鳴き声が、きこえてきました。 「おや、ラジオかしら。」 このごろ、いつもお休み日の朝には、小鳥の鳴き声が放送されたからです。しか …
長ぐつの話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あるところに、かわいそうな乞食の子がありました。 さびしい村の方から、毎日、町の方へ、ものをもらいに追い出されました。けれど、小さな足には、なにもはくものがなかったのです。子供は跣 …
読書目安時間:約5分
あるところに、かわいそうな乞食の子がありました。 さびしい村の方から、毎日、町の方へ、ものをもらいに追い出されました。けれど、小さな足には、なにもはくものがなかったのです。子供は跣 …
仲よしがけんかした話(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
風のない暖かな日でした。お宮の前に伸ちゃんと、清ちゃんと、そのほか女の子たちがいっしょになって遊んでいました。ときどき風が境内のすぎの林に当たると、ゴウーといって、海岸に寄せる波の …
読書目安時間:約4分
風のない暖かな日でした。お宮の前に伸ちゃんと、清ちゃんと、そのほか女の子たちがいっしょになって遊んでいました。ときどき風が境内のすぎの林に当たると、ゴウーといって、海岸に寄せる波の …
泣きんぼうの話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あるところに、毎日、よく泣く子がありました。その泣き様といったら、ひい、ひいといって、耳がつんぼになりそうなばかりでなく、いまにも火が、あたりにつきそうにさえ思われるほどです。 そ …
読書目安時間:約5分
あるところに、毎日、よく泣く子がありました。その泣き様といったら、ひい、ひいといって、耳がつんぼになりそうなばかりでなく、いまにも火が、あたりにつきそうにさえ思われるほどです。 そ …
なくなった人形(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
冬でありましたけれど、その日は、風もなく穏やかで、日の光が暖かに、門口に当たっていましたので、おみよは学校から帰りますと、ござを敷いて、その上で、人形や、おもちゃなどを出してきて遊 …
読書目安時間:約7分
冬でありましたけれど、その日は、風もなく穏やかで、日の光が暖かに、門口に当たっていましたので、おみよは学校から帰りますと、ござを敷いて、その上で、人形や、おもちゃなどを出してきて遊 …
なつかしまれた人(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
町の運輸会社には、たくさんの人たちが働いていました。その中に、勘太というおじいさんがありました。まことに、人のいいおじいさんであって、だれに対してもしんせつであったのであります。 …
読書目安時間:約11分
町の運輸会社には、たくさんの人たちが働いていました。その中に、勘太というおじいさんがありました。まことに、人のいいおじいさんであって、だれに対してもしんせつであったのであります。 …
夏とおじいさん(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある街に、気むずかしいおじいさんが住んでいました。まったく、独りぽっちでおりましたけれど、欲深なものですから、金をためることばかり考えていて、さびしいということなど知りませんでした …
読書目安時間:約5分
ある街に、気むずかしいおじいさんが住んでいました。まったく、独りぽっちでおりましたけれど、欲深なものですから、金をためることばかり考えていて、さびしいということなど知りませんでした …
夏の晩方あった話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「おじさん、こんど、あめ屋さんになったの。」 正ちゃんは、顔なじみの紙芝居のおじさんが、きょうは、あめのはいった箱をかついできたので、目をまるくしました。 「ほんとうだわ、おじさん …
読書目安時間:約3分
「おじさん、こんど、あめ屋さんになったの。」 正ちゃんは、顔なじみの紙芝居のおじさんが、きょうは、あめのはいった箱をかついできたので、目をまるくしました。 「ほんとうだわ、おじさん …
何を作品に求むべきか(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
作品が、その人の経験を物語り、それ等の事実から人生というものを知らしめるにとゞまって、これに対する作家の批評というようなものがなかったら、何うであろう。最も、ある人々は却って、芸術 …
読書目安時間:約4分
作品が、その人の経験を物語り、それ等の事実から人生というものを知らしめるにとゞまって、これに対する作家の批評というようなものがなかったら、何うであろう。最も、ある人々は却って、芸術 …
なまずとあざみの話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
春の川は、ゆるやかに流れていました。その面に、日の光はあたって、深く、なみなみとあふれるばかりの、水の世界が、うす青くすきとおって見えるように思われました。 この不思議な殿堂の内に …
読書目安時間:約7分
春の川は、ゆるやかに流れていました。その面に、日の光はあたって、深く、なみなみとあふれるばかりの、水の世界が、うす青くすきとおって見えるように思われました。 この不思議な殿堂の内に …
波荒くとも(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
鉛色をした、冬の朝でした。往来には、まだあまり人通りがなかったのです。広い路の中央を電車だけが、潮の押しよせるようなうなり声をたて、うす暗いうちから往復していました。そして、コンク …
読書目安時間:約11分
鉛色をした、冬の朝でした。往来には、まだあまり人通りがなかったのです。広い路の中央を電車だけが、潮の押しよせるようなうなり声をたて、うす暗いうちから往復していました。そして、コンク …
波の如く去来す(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
人間の幸不幸、それは一様ではない。十人が十人、皆それ/″\の悩みと楽しみとがある。併し恐らく一生を通じて苦悩のない者はなく、歓喜のないものも又ないだろう。そしてそれらは、波の寄せて …
読書目安時間:約2分
人間の幸不幸、それは一様ではない。十人が十人、皆それ/″\の悩みと楽しみとがある。併し恐らく一生を通じて苦悩のない者はなく、歓喜のないものも又ないだろう。そしてそれらは、波の寄せて …
名もなき草(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
名も知らない草に咲く、一茎の花は、無条件に美しいものである。日の光りに照らされて、鮮紅に、心臓のごとく戦くのを見ても、また微風に吹かれて、羞らうごとく揺らぐのを見ても、かぎりない、 …
読書目安時間:約4分
名も知らない草に咲く、一茎の花は、無条件に美しいものである。日の光りに照らされて、鮮紅に、心臓のごとく戦くのを見ても、また微風に吹かれて、羞らうごとく揺らぐのを見ても、かぎりない、 …
南方物語(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
北の方の町では、つばめが家の中に巣をつくることをいいことにしています。いつのころからともなく、つばめは、町の人々をおそれなくなりました。このりこうな鳥は、どの家が、朝早く起きて、戸 …
読書目安時間:約11分
北の方の町では、つばめが家の中に巣をつくることをいいことにしています。いつのころからともなく、つばめは、町の人々をおそれなくなりました。このりこうな鳥は、どの家が、朝早く起きて、戸 …
にじの歌(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
こちらの森から あちらの丘へ にじが橋をかけた。 だれが、その橋 渡る。 からすが三羽に 乞食が一人。 乞食はつえついて上がったが からすは、あわてておっこちた。 落ちたからすはど …
読書目安時間:約1分
こちらの森から あちらの丘へ にじが橋をかけた。 だれが、その橋 渡る。 からすが三羽に 乞食が一人。 乞食はつえついて上がったが からすは、あわてておっこちた。 落ちたからすはど …
二少年の話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
達ちゃんの組に、田舎から転校してきた、秀ちゃんという少年がありました。住んでいるお家も同じ方向だったので、よく二人は、いっしょに学校へいったり、帰ったりしたのであります。 ある日の …
読書目安時間:約7分
達ちゃんの組に、田舎から転校してきた、秀ちゃんという少年がありました。住んでいるお家も同じ方向だったので、よく二人は、いっしょに学校へいったり、帰ったりしたのであります。 ある日の …
日没の幻影(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
〔人物〕 第一の見慣れぬ旅人 第二の見慣れぬ旅人 第三の見慣れぬ旅人 第四の見慣れぬ旅人 第五の見慣れぬ旅人 第六の見慣れぬ旅人 第七の見慣れぬ旅人 白い衣物を着た女 〔時〕 現代 …
読書目安時間:約13分
〔人物〕 第一の見慣れぬ旅人 第二の見慣れぬ旅人 第三の見慣れぬ旅人 第四の見慣れぬ旅人 第五の見慣れぬ旅人 第六の見慣れぬ旅人 第七の見慣れぬ旅人 白い衣物を着た女 〔時〕 現代 …
二番めの娘(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
毎年のように、遠いところから薬を売りにくる男がありました。その男は、なんでも西の国からくるといわれていました。 そこは、北国の海辺に近いところでありました。 「お母さん、もう、あの …
読書目安時間:約16分
毎年のように、遠いところから薬を売りにくる男がありました。その男は、なんでも西の国からくるといわれていました。 そこは、北国の海辺に近いところでありました。 「お母さん、もう、あの …
二百十日(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
空高く羽虫を追いかけていたやんまが、すういと降りたとたんに、大きなくもの巣にかかってしまいました。しまったといわぬばかりに、羽をばたばたして逃げようとしたけれど、どうすることもでき …
読書目安時間:約11分
空高く羽虫を追いかけていたやんまが、すういと降りたとたんに、大きなくもの巣にかかってしまいました。しまったといわぬばかりに、羽をばたばたして逃げようとしたけれど、どうすることもでき …
日本的童話の提唱(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
いま日本は、一面に戦い、一面に東亜建設の大業に着手しつつある。これは実に史上空前の非常時であるといわなければならぬ。それであるから、老若男女の別を問わず、各〻分に応じて奉公の誠をい …
読書目安時間:約13分
いま日本は、一面に戦い、一面に東亜建設の大業に着手しつつある。これは実に史上空前の非常時であるといわなければならぬ。それであるから、老若男女の別を問わず、各〻分に応じて奉公の誠をい …
人間性の深奥に立って(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私は学校教育と云うものに就ては、現在の状況からすると小学校のそれに最も重きを置く。それは今日の状態にあっては大学及び其の他の専門学校と云うものは殆んど民衆にとってはこれと云う貢献が …
読書目安時間:約5分
私は学校教育と云うものに就ては、現在の状況からすると小学校のそれに最も重きを置く。それは今日の状態にあっては大学及び其の他の専門学校と云うものは殆んど民衆にとってはこれと云う貢献が …
人間と湯沸かし(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ある日のこと、女中はアルミニウムの湯沸かしを、お嬢さんたちが集まって、話をしていなされたお座敷へ持ってゆくと、 「まあ、なんだね、お竹や、こんな汚らしい湯沸かしなどを持ってきてさ。 …
読書目安時間:約7分
ある日のこと、女中はアルミニウムの湯沸かしを、お嬢さんたちが集まって、話をしていなされたお座敷へ持ってゆくと、 「まあ、なんだね、お竹や、こんな汚らしい湯沸かしなどを持ってきてさ。 …
人間否定か社会肯定か(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私達は、この社会生活にまつわる不義な事実、不正な事柄、その他、人間相互の関係によって醸成されつゝある詐欺、利欲的闘争、殆んど枚挙にいとまない程の醜悪なる事実を見るにつけ、これに堪え …
読書目安時間:約6分
私達は、この社会生活にまつわる不義な事実、不正な事柄、その他、人間相互の関係によって醸成されつゝある詐欺、利欲的闘争、殆んど枚挙にいとまない程の醜悪なる事実を見るにつけ、これに堪え …
抜髪(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ブリキ屋根の上に、糠のような雨が降っている。五月の緑は暗く丘に浮き出て、西と東の空を、くっきりと遮った。ブリキ屋根は黒く塗ってある。家の壁板も黒い。まだ新しいけれど粗末な家であった …
読書目安時間:約4分
ブリキ屋根の上に、糠のような雨が降っている。五月の緑は暗く丘に浮き出て、西と東の空を、くっきりと遮った。ブリキ屋根は黒く塗ってある。家の壁板も黒い。まだ新しいけれど粗末な家であった …
ねこ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあち …
読書目安時間:約4分
黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあち …
ねことおしるこ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、たいへん。」と、まくらをならべている正ちゃんが、夜中にお姉さんを起こしました。よく眠入っていたお姉さんは、何事かと思って、おどろいて目をさまして、 「どう …
読書目安時間:約4分
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、たいへん。」と、まくらをならべている正ちゃんが、夜中にお姉さんを起こしました。よく眠入っていたお姉さんは、何事かと思って、おどろいて目をさまして、 「どう …
ねずみとバケツの話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
町裏を小さな川が流れていました。川というよりは、溝といったほうがあたっているかもしれません。家々で流した水が集まって、一筋の流れをなしているのでありました。 ねずみは、その流れの岸 …
読書目安時間:約8分
町裏を小さな川が流れていました。川というよりは、溝といったほうがあたっているかもしれません。家々で流した水が集まって、一筋の流れをなしているのでありました。 ねずみは、その流れの岸 …
ねずみの冒険(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
一匹のねずみが、おとしにかかりました。夜中ごろ天井から降りて、勝手もとへ食べ物をあさりにいく途中、戸だなのそばに置かれた、おとしにかかったのです。空腹のねずみは、あぶらげの香ばしい …
読書目安時間:約4分
一匹のねずみが、おとしにかかりました。夜中ごろ天井から降りて、勝手もとへ食べ物をあさりにいく途中、戸だなのそばに置かれた、おとしにかかったのです。空腹のねずみは、あぶらげの香ばしい …
眠い町(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。 ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついており …
読書目安時間:約8分
この少年は、名を知られなかった。私は仮にケーと名づけておきます。 ケーがこの世界を旅行したことがありました。ある日、彼は不思議な町にきました。この町は「眠い町」という名がついており …
野菊の花(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
正二くんの打ちふる細い竹の棒は、青い初秋の空の下で、しなしなと光って見えました。 「正ちゃん、とんぼが捕れたかい。」 まだ、草のいきいきとして、生えている土の上を飛んで、清吉は、こ …
読書目安時間:約7分
正二くんの打ちふる細い竹の棒は、青い初秋の空の下で、しなしなと光って見えました。 「正ちゃん、とんぼが捕れたかい。」 まだ、草のいきいきとして、生えている土の上を飛んで、清吉は、こ …
残された日(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
長吉は学校の課目の中で、いちばん算術の成績が悪かったので、この時間にはよく先生からしかられました。先生というのはもう四十五、六の、頭のはげかかった脊の低い人でありました。長吉は朝学 …
読書目安時間:約10分
長吉は学校の課目の中で、いちばん算術の成績が悪かったので、この時間にはよく先生からしかられました。先生というのはもう四十五、六の、頭のはげかかった脊の低い人でありました。長吉は朝学 …
野ばら(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣り合っていました。当座、その二つの国の間には、なにごとも起こらず平和でありました。 ここは都から遠い、国境であります。そこには両方の国から …
読書目安時間:約5分
大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣り合っていました。当座、その二つの国の間には、なにごとも起こらず平和でありました。 ここは都から遠い、国境であります。そこには両方の国から …
灰色の姉と桃色の妹(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、性質の異った姉妹がありました。同じ母の腹から産まれたとは、どうしても考えることができなかったほどであります。 妹は、つねに桃色の着物をきていました。きわめて快活な性質 …
読書目安時間:約8分
あるところに、性質の異った姉妹がありました。同じ母の腹から産まれたとは、どうしても考えることができなかったほどであります。 妹は、つねに桃色の着物をきていました。きわめて快活な性質 …
羽衣物語(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
昔は、いまよりももっと、松の緑が青く、砂の色も白く、日本の景色は、美しかったのでありましょう。 ちょうど、いまから二千年ばかり前のことでありました。三保の松原の近くに、一人の若い舟 …
読書目安時間:約13分
昔は、いまよりももっと、松の緑が青く、砂の色も白く、日本の景色は、美しかったのでありましょう。 ちょうど、いまから二千年ばかり前のことでありました。三保の松原の近くに、一人の若い舟 …
はたらく二少年(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
新しい道が、つくりかけられていました。おかをくずし、林をきりひらき、町の中を通って、その先は、はるかかなたの、すみわたる空の中へのびています。そこには、おおぜいの労働者が、はたらい …
読書目安時間:約8分
新しい道が、つくりかけられていました。おかをくずし、林をきりひらき、町の中を通って、その先は、はるかかなたの、すみわたる空の中へのびています。そこには、おおぜいの労働者が、はたらい …
はちとばらの花(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
はちは、人間の邪魔にならぬところに、また、あんまり子供たちから気づかれないようなところに、巣をつくりはじめました。 仲間たちといっしょに、朝は早く、まだ太陽の上らないうちから、晩方 …
読書目安時間:約6分
はちは、人間の邪魔にならぬところに、また、あんまり子供たちから気づかれないようなところに、巣をつくりはじめました。 仲間たちといっしょに、朝は早く、まだ太陽の上らないうちから、晩方 …
はちの巣(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある日、光子さんは庭に出て上をあおぐと、青々とした梅の木の枝に二匹のはちが巣をつくっていました。 「おとなりの勇ちゃんが見つけたら、きっと取ってしまうから、私、知らさないでおくわ。 …
読書目安時間:約9分
ある日、光子さんは庭に出て上をあおぐと、青々とした梅の木の枝に二匹のはちが巣をつくっていました。 「おとなりの勇ちゃんが見つけたら、きっと取ってしまうから、私、知らさないでおくわ。 …
初夏の空で笑う女(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
あるところに、踊ることの好きな娘がありました。家のうちにいてはもとよりのこと、外へ出ても、草の葉が風に吹かれて動くのを見ては、自分もそれと調子を合わせて、手や足を動かしたり、体をし …
読書目安時間:約10分
あるところに、踊ることの好きな娘がありました。家のうちにいてはもとよりのこと、外へ出ても、草の葉が風に吹かれて動くのを見ては、自分もそれと調子を合わせて、手や足を動かしたり、体をし …
はつゆめ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
正ちゃんはまだふといバットをふれなかったので、きょねんはおうえんだんちょうになりました。正ちゃんははやくせんしゅになりたかったのです。 きょうはことしのはつしあいでした。正ちゃんは …
読書目安時間:約5分
正ちゃんはまだふといバットをふれなかったので、きょねんはおうえんだんちょうになりました。正ちゃんははやくせんしゅになりたかったのです。 きょうはことしのはつしあいでした。正ちゃんは …
はてしなき世界(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ここにかわいらしい、赤ちゃんがありました。赤ちゃんは、泣きさえすれば、いつも、おっぱいがもらわれるものだと思っていました。まことに、そのはずであります。いつも赤ちゃんが泣きさえすれ …
読書目安時間:約10分
ここにかわいらしい、赤ちゃんがありました。赤ちゃんは、泣きさえすれば、いつも、おっぱいがもらわれるものだと思っていました。まことに、そのはずであります。いつも赤ちゃんが泣きさえすれ …
はととりんご(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
二人の少年が、竹刀をこわきに抱えて、話しながら歩いてきました。 「新ちゃん、僕は、お小手がうまいのだぜ。」 「ふうん、僕は、お胴だよ。」 「お面は、なかなかはいらないね。」 「どう …
読書目安時間:約8分
二人の少年が、竹刀をこわきに抱えて、話しながら歩いてきました。 「新ちゃん、僕は、お小手がうまいのだぜ。」 「ふうん、僕は、お胴だよ。」 「お面は、なかなかはいらないね。」 「どう …
葉と幹(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ある山に一本のかえでの木がありました。もう長いことその山に生えていました。春になると、美しい若葉を出し、秋になるとみごとに紅葉しました。 町から山に遊びにゆくものは、その木をほめな …
読書目安時間:約4分
ある山に一本のかえでの木がありました。もう長いことその山に生えていました。春になると、美しい若葉を出し、秋になるとみごとに紅葉しました。 町から山に遊びにゆくものは、その木をほめな …
花かごとたいこ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ある日たけおは、おとなりのおじさんと、釣りにいきました。おじさんは、釣りの名人でした。いつも、どこかの川でたくさん魚を釣ってこられました。 たけおは、こんどぜひいっしょにつれていっ …
読書目安時間:約3分
ある日たけおは、おとなりのおじさんと、釣りにいきました。おじさんは、釣りの名人でした。いつも、どこかの川でたくさん魚を釣ってこられました。 たけおは、こんどぜひいっしょにつれていっ …
花咲く島の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この広い世界の上を、ところ定めずに、漂泊している人々がありました。それは、名も知られていない人々でした。その人々は、べつに有名な人間になりたいなどとは思いませんでした。彼らの中には …
読書目安時間:約8分
この広い世界の上を、ところ定めずに、漂泊している人々がありました。それは、名も知られていない人々でした。その人々は、べつに有名な人間になりたいなどとは思いませんでした。彼らの中には …
花とあかり(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
母ちょうは子ちょうにむかって、 「日が山に入りかけたら、お家へ帰ってこなければいけません。」とおしえました。 子ちょうは、あちらの花畑へとんでいきました。赤い花や青い花や、白い、い …
読書目安時間:約2分
母ちょうは子ちょうにむかって、 「日が山に入りかけたら、お家へ帰ってこなければいけません。」とおしえました。 子ちょうは、あちらの花畑へとんでいきました。赤い花や青い花や、白い、い …
花と少女(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。 ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花 …
読書目安時間:約8分
ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。 ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花 …
花と人間の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、おじいさんと、おばあさんとが住んでいました。その家は貧しく、子供がなかったから、さびしい生活を送っていました。 二人は、駄菓子や、荒物などを、その小さな店さきに並べて …
読書目安時間:約8分
あるところに、おじいさんと、おばあさんとが住んでいました。その家は貧しく、子供がなかったから、さびしい生活を送っていました。 二人は、駄菓子や、荒物などを、その小さな店さきに並べて …
花と人の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
真紅なアネモネが、花屋の店に並べられてありました。同じ土から生まれ出た、この花は、いわば兄弟ともいうようなものでありました。そして、大空からもれる春の日の光を受けていましたが、いつ …
読書目安時間:約8分
真紅なアネモネが、花屋の店に並べられてありました。同じ土から生まれ出た、この花は、いわば兄弟ともいうようなものでありました。そして、大空からもれる春の日の光を受けていましたが、いつ …
花の咲く前(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
赤い牛乳屋の車が、ガラ、ガラと家の前を走っていきました。幸吉は、春の日の光を浴びた、その鮮やかな赤い色が、いま塗りたてたばかりのような気がしました。それから、もう一つ気のついたこと …
読書目安時間:約13分
赤い牛乳屋の車が、ガラ、ガラと家の前を走っていきました。幸吉は、春の日の光を浴びた、その鮮やかな赤い色が、いま塗りたてたばかりのような気がしました。それから、もう一つ気のついたこと …
母犬(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
どこから、追われてきたのか、あまり大きくない雌犬がありました。全身の毛が黒く、顔だけが白くて、きつねかさるに似て、形は、かわいげがないというよりは、なんだか気味悪い気がしたのであり …
読書目安時間:約4分
どこから、追われてきたのか、あまり大きくない雌犬がありました。全身の毛が黒く、顔だけが白くて、きつねかさるに似て、形は、かわいげがないというよりは、なんだか気味悪い気がしたのであり …
母の心(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この前の事変に、父親は戦死して、後は、母と子の二人で暮らしていました。 良吉は、小学校を終わると、都へ出て働いたのであります。ただ一人、故郷へ残してきた母親のことを思うと、いつでも …
読書目安時間:約4分
この前の事変に、父親は戦死して、後は、母と子の二人で暮らしていました。 良吉は、小学校を終わると、都へ出て働いたのであります。ただ一人、故郷へ残してきた母親のことを思うと、いつでも …
はまねこ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
そこは北のさびしい海岸でありました。秋も末になると、海が荒れて、風は、昼となく夜となく吹いて、岩に打ちあたってくだける波がほえていました。この時分になると、白いかもめがどこからとも …
読書目安時間:約5分
そこは北のさびしい海岸でありました。秋も末になると、海が荒れて、風は、昼となく夜となく吹いて、岩に打ちあたってくだける波がほえていました。この時分になると、白いかもめがどこからとも …
薔薇と巫女(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
家の前に柿の木があって、光沢のない白い花が咲いた。裏に一本の柘榴の木があって、不安な紅い花を点した。その頃から母が病気であった。 村には熱病で頭髪の脱けた女の人が歩いている。僧侶の …
読書目安時間:約15分
家の前に柿の木があって、光沢のない白い花が咲いた。裏に一本の柘榴の木があって、不安な紅い花を点した。その頃から母が病気であった。 村には熱病で頭髪の脱けた女の人が歩いている。僧侶の …
春(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「なにか、楽しいことがないものかなあ。」と、おじいさんは、つくねんとすわって、考え込んでいました。 こう思っているのは、ひとり、おじいさんばかりでなかった。町の人々は思い思いにそん …
読書目安時間:約6分
「なにか、楽しいことがないものかなあ。」と、おじいさんは、つくねんとすわって、考え込んでいました。 こう思っているのは、ひとり、おじいさんばかりでなかった。町の人々は思い思いにそん …
春がくる前(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
さびしい野原の中に一本の木立がありました。見渡すかぎり、あたりは、まだ一面に真っ白に雪が積もっていました。そして、寒い風が、葉の落ちつくしてしまった枝を吹くのよりほかに、聞こえるも …
読書目安時間:約5分
さびしい野原の中に一本の木立がありました。見渡すかぎり、あたりは、まだ一面に真っ白に雪が積もっていました。そして、寒い風が、葉の落ちつくしてしまった枝を吹くのよりほかに、聞こえるも …
春風遍し(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
春先になれば、古い疵痕に痛みを覚える如く、軟かな風が面を吹いて廻ると、胸の底に遠い記憶が甦えるのであります。 まだ若かった私は、酒場の堅い腰掛の端にかけて、暖簾の隙間から、街頭に紅 …
読書目安時間:約4分
春先になれば、古い疵痕に痛みを覚える如く、軟かな風が面を吹いて廻ると、胸の底に遠い記憶が甦えるのであります。 まだ若かった私は、酒場の堅い腰掛の端にかけて、暖簾の隙間から、街頭に紅 …
春風の吹く町(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
金さんは、幼い時分から、親方に育てられて、両親を知りませんでした。らんの花の香る南の支那の町を、歩きまわって、日本へ渡ってきたのは、十二、三のころでした。街はずれの空き地で、黒い支 …
読書目安時間:約5分
金さんは、幼い時分から、親方に育てられて、両親を知りませんでした。らんの花の香る南の支那の町を、歩きまわって、日本へ渡ってきたのは、十二、三のころでした。街はずれの空き地で、黒い支 …
春さきの朝のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
外は寒いけれど、いいお天気でした。なんといっても、もうじき、花が咲くのです。私は、遊びにいこうと思って、門から往来へ出ました。すると、あちらにせいの高い男の人が立っています。いま時 …
読書目安時間:約6分
外は寒いけれど、いいお天気でした。なんといっても、もうじき、花が咲くのです。私は、遊びにいこうと思って、門から往来へ出ました。すると、あちらにせいの高い男の人が立っています。いま時 …
春さきの古物店(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
広やかな通りには、日の光が暖かそうにあたっていました。この道に面して、両側には、いろいろの店が並んでいました。ちょうどその四つ辻のところに、一軒の古道具をあきなっている店がありまし …
読書目安時間:約8分
広やかな通りには、日の光が暖かそうにあたっていました。この道に面して、両側には、いろいろの店が並んでいました。ちょうどその四つ辻のところに、一軒の古道具をあきなっている店がありまし …
春近き日(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
お母さんが、去年の暮れに、町から買ってきてくださったお人形は、さびしい冬の間、少女といっしょに、仲よく遊びました。 それを、どうしたことか、このごろになって、お人形は、しくしくと泣 …
読書目安時間:約2分
お母さんが、去年の暮れに、町から買ってきてくださったお人形は、さびしい冬の間、少女といっしょに、仲よく遊びました。 それを、どうしたことか、このごろになって、お人形は、しくしくと泣 …
春になる前夜(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
すずめは、もう長い間、この花の国にすんでいましたけれど、かつて、こんなに寒い冬の晩に出あったことがありませんでした。 日が西に沈む時分は、赤く空が燃えるようにみえましたが、日がまっ …
読書目安時間:約8分
すずめは、もう長い間、この花の国にすんでいましたけれど、かつて、こんなに寒い冬の晩に出あったことがありませんでした。 日が西に沈む時分は、赤く空が燃えるようにみえましたが、日がまっ …
春の日(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
もう、春です。仲のいい三人は、いっしょに遊んでいました。 徳ちゃんは、なかなかのひょうきんもので、両方の親指を口の中に入れ、二本のくすり指で、あかんべいをして、ひょっとこの面をした …
読書目安時間:約4分
もう、春です。仲のいい三人は、いっしょに遊んでいました。 徳ちゃんは、なかなかのひょうきんもので、両方の親指を口の中に入れ、二本のくすり指で、あかんべいをして、ひょっとこの面をした …
春の真昼(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
のどかな、あたたかい日のことでありました。静かな道で、みみずが唄をうたっていました。 田舎のことでありますから、めったに人のくる足音もしなかったから、みみずは、安心して、自分のすき …
読書目安時間:約6分
のどかな、あたたかい日のことでありました。静かな道で、みみずが唄をうたっていました。 田舎のことでありますから、めったに人のくる足音もしなかったから、みみずは、安心して、自分のすき …
春はよみがえる(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
太陽ばかりは、人類のはじめから、いや、それどころか、地球のできたはじめから、光のとどくかぎり、あらゆるものを見てきました。この町が火を浴びて、焼け野原と化し、緑の林も、風に吹かれた …
読書目安時間:約12分
太陽ばかりは、人類のはじめから、いや、それどころか、地球のできたはじめから、光のとどくかぎり、あらゆるものを見てきました。この町が火を浴びて、焼け野原と化し、緑の林も、風に吹かれた …
反キリスト教運動(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一体宗教というものが科学によって破壊されるものかどうかと云うことが疑問だ。科学によって破壊されるような宗教は宗教ではない。換言すれば、知識によって破壊されるような信仰は信仰というこ …
読書目安時間:約5分
一体宗教というものが科学によって破壊されるものかどうかと云うことが疑問だ。科学によって破壊されるような宗教は宗教ではない。換言すれば、知識によって破壊されるような信仰は信仰というこ …
般若の面(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
町からはなれて、街道の片ほとりに一軒の鍛冶屋がありました。朝は早くから、夜はおそくまで、主人は、仕事場にすわってはたらいていました。前を通る顔なじみの村人は、声をかけていったもので …
読書目安時間:約9分
町からはなれて、街道の片ほとりに一軒の鍛冶屋がありました。朝は早くから、夜はおそくまで、主人は、仕事場にすわってはたらいていました。前を通る顔なじみの村人は、声をかけていったもので …
日がさとちょう(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある山の中の村に、不しあわせな二人の娘がありました。 一人の娘は、生まれつき耳が遠うございました。もう一人の娘は、小さな時分にけがをして、びっこであったのであります。 この二人の娘 …
読書目安時間:約8分
ある山の中の村に、不しあわせな二人の娘がありました。 一人の娘は、生まれつき耳が遠うございました。もう一人の娘は、小さな時分にけがをして、びっこであったのであります。 この二人の娘 …
ぴかぴかする夜(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
都会から、あまり遠く離れていないところに、一本の高い木が立っていました。 ある夏の日の暮れ方のこと、その木は、恐ろしさのために、ぶるぶると身ぶるいをしていました。木は、遠くの空で、 …
読書目安時間:約5分
都会から、あまり遠く離れていないところに、一本の高い木が立っていました。 ある夏の日の暮れ方のこと、その木は、恐ろしさのために、ぶるぶると身ぶるいをしていました。木は、遠くの空で、 …
引かれていく牛(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
もうじきに春がくるので、日がだんだんながくなりました。晩方、子供たちが、往来で遊んでいました。孝ちゃんと、勇ちゃんと、年ちゃんは、石けりをしていたし、みつ子さんとよし子さんは、なわ …
読書目安時間:約4分
もうじきに春がくるので、日がだんだんながくなりました。晩方、子供たちが、往来で遊んでいました。孝ちゃんと、勇ちゃんと、年ちゃんは、石けりをしていたし、みつ子さんとよし子さんは、なわ …
ひすいの玉(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
町というものは、ふしぎなものです。大通りから、すこしよこへはいると、おどろくほど、しずかでした。子どもたちは、そこで、ボールを投げたり、なわとびをしたりして、遊びました。 横町の片 …
読書目安時間:約7分
町というものは、ふしぎなものです。大通りから、すこしよこへはいると、おどろくほど、しずかでした。子どもたちは、そこで、ボールを投げたり、なわとびをしたりして、遊びました。 横町の片 …
ひすいを愛された妃(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
昔、ひすいが、ひじょうに珍重されたことがありました。この不思議な美しい緑色の石は、支那の山奥から採れたといわれています。そこで、国々へまで流れてゆきました。 その時分の人々は、なに …
読書目安時間:約11分
昔、ひすいが、ひじょうに珍重されたことがありました。この不思議な美しい緑色の石は、支那の山奥から採れたといわれています。そこで、国々へまで流れてゆきました。 その時分の人々は、なに …
左ぎっちょの正ちゃん(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
正ちゃんは、左ぎっちょで、はしを持つにも左手です。まりを投げるのにも、右手でなくて左手です。 「正ちゃんは、左ピッチャーだね。」と、みんなにいわれました。 けれど、学校のお習字は、 …
読書目安時間:約6分
正ちゃんは、左ぎっちょで、はしを持つにも左手です。まりを投げるのにも、右手でなくて左手です。 「正ちゃんは、左ピッチャーだね。」と、みんなにいわれました。 けれど、学校のお習字は、 …
びっこのお馬(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
二郎は、ある日、外に立っていますと、びっこの馬が、重い荷を背中につけて、引かれていくのでありました。 二郎は、その馬を見て、かわいそうに思いました。どんなに不自由だろう。そう思うと …
読書目安時間:約8分
二郎は、ある日、外に立っていますと、びっこの馬が、重い荷を背中につけて、引かれていくのでありました。 二郎は、その馬を見て、かわいそうに思いました。どんなに不自由だろう。そう思うと …
一粒の真珠(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ある町にたいそう上手な医者が住んでいました。けれど、この人はけちんぼうで、金持ちでなければ、機嫌よく見てくれぬというふうでありましたから、貧乏人は、めったにかかることができませんで …
読書目安時間:約5分
ある町にたいそう上手な医者が住んでいました。けれど、この人はけちんぼうで、金持ちでなければ、機嫌よく見てくれぬというふうでありましたから、貧乏人は、めったにかかることができませんで …
人の身の上(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
お花は、その時分叔父さんの家に雇われていました。まだ十七、八の女中でありました。小学校へいっていたたつ子は、毎日のように叔父さんのお家へ遊びにいっていました。叔父さんも、叔母さんも …
読書目安時間:約5分
お花は、その時分叔父さんの家に雇われていました。まだ十七、八の女中でありました。小学校へいっていたたつ子は、毎日のように叔父さんのお家へ遊びにいっていました。叔父さんも、叔母さんも …
ひとをたのまず(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ある日、私は偶然、前を歩いていく三人の子供を、観察することができました。 甲は背が高く、乙は色が黒く、丙はやせていました。そして、バケツを下げるもの、ほうきを持つもの、そのようすは …
読書目安時間:約3分
ある日、私は偶然、前を歩いていく三人の子供を、観察することができました。 甲は背が高く、乙は色が黒く、丙はやせていました。そして、バケツを下げるもの、ほうきを持つもの、そのようすは …
日の当たる門(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
きかん坊主の三ちゃんが、良ちゃんや、達ちゃんや、あや子さんや、とめ子さんや、そのほかのものを引きつれて、日の当たっている門のところへやってきました。 「学校ごっこをしようや、さあ、 …
読書目安時間:約10分
きかん坊主の三ちゃんが、良ちゃんや、達ちゃんや、あや子さんや、とめ子さんや、そのほかのものを引きつれて、日の当たっている門のところへやってきました。 「学校ごっこをしようや、さあ、 …
ひばりのおじさん(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
町の中で、かごからひばりを出して、みんなに見せながら、あめを売る男がありました。その男を見ると、あそんでいる子供たちは、 「ひばりのおじさんだ。」と、いって、そばへよってきました。 …
読書目安時間:約3分
町の中で、かごからひばりを出して、みんなに見せながら、あめを売る男がありました。その男を見ると、あそんでいる子供たちは、 「ひばりのおじさんだ。」と、いって、そばへよってきました。 …
百姓の夢(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
あるところに、牛を持っている百姓がありました。その牛は、もう年をとっていました。長い年の間、その百姓のために重い荷をつけて働いたのであります。そして、いまでも、なお働いていたのであ …
読書目安時間:約15分
あるところに、牛を持っている百姓がありました。その牛は、もう年をとっていました。長い年の間、その百姓のために重い荷をつけて働いたのであります。そして、いまでも、なお働いていたのであ …
昼のお月さま(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「万歳!」と、いう声が、どこか遠くの方から、きこえてきました。 「兄ちゃん、停車場だね、また、兵隊さんが出征するんだよ。」と、良二が、いいました。 「いってみようか、良ちゃん。」 …
読書目安時間:約3分
「万歳!」と、いう声が、どこか遠くの方から、きこえてきました。 「兄ちゃん、停車場だね、また、兵隊さんが出征するんだよ。」と、良二が、いいました。 「いってみようか、良ちゃん。」 …
火を点ず(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
村へ石油を売りにくる男がありました。髪の黒い蓬々とした、脊のあまり高くない、色の白い男で、石油のかんを、てんびん棒の両端に一つずつ付けて、それをかついでやってくるのでした。 男は、 …
読書目安時間:約9分
村へ石油を売りにくる男がありました。髪の黒い蓬々とした、脊のあまり高くない、色の白い男で、石油のかんを、てんびん棒の両端に一つずつ付けて、それをかついでやってくるのでした。 男は、 …
びんの中の世界(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
正坊のおじいさんは、有名な船乗りでした。年をとって、もはや、航海をすることができなくなってからは、家にいて、ぼんやりと若い時分のことなどをおもい出して、暮らしていられました。 おじ …
読書目安時間:約9分
正坊のおじいさんは、有名な船乗りでした。年をとって、もはや、航海をすることができなくなってからは、家にいて、ぼんやりと若い時分のことなどをおもい出して、暮らしていられました。 おじ …
貧乏線に終始して(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今も尚お、その境地から脱しないでいる私にあっては、『貧乏時代』と、言って、回顧する程のゆとりを心の上にも、また、実際の上にも持たないのでありますが、これまでに経験したことの中で、思 …
読書目安時間:約5分
今も尚お、その境地から脱しないでいる私にあっては、『貧乏時代』と、言って、回顧する程のゆとりを心の上にも、また、実際の上にも持たないのでありますが、これまでに経験したことの中で、思 …
風雨の晩の小僧さん(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
都会のあるくつ店へ、奉公にきている信吉は、まだ半年とたたないので、なにかにつけて田舎のことが思い出されるのです。 「もう雪が降ったろうな。家にいれば、いま時分炉辺にすわって、弟や妹 …
読書目安時間:約10分
都会のあるくつ店へ、奉公にきている信吉は、まだ半年とたたないので、なにかにつけて田舎のことが思い出されるのです。 「もう雪が降ったろうな。家にいれば、いま時分炉辺にすわって、弟や妹 …
風船球の話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
風船球は、空へ上がってゆきたかったけれど、糸がしっかりととらえているので、どうすることもできませんでした。 小鳥が、窓からのぞいて、不思議そうな顔つきをして、風船球をながめていまし …
読書目安時間:約7分
風船球は、空へ上がってゆきたかったけれど、糸がしっかりととらえているので、どうすることもできませんでした。 小鳥が、窓からのぞいて、不思議そうな顔つきをして、風船球をながめていまし …
風船虫(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
原っぱは、烈しい暑さでしたけれど、昼過ぎになると風が出て、草の葉はきらきらと光っていました。昨日は、たくさん雨が降ったので、まだくぼんだところへ、水がたまっています。もうすこしばか …
読書目安時間:約5分
原っぱは、烈しい暑さでしたけれど、昼過ぎになると風が出て、草の葉はきらきらと光っていました。昨日は、たくさん雨が降ったので、まだくぼんだところへ、水がたまっています。もうすこしばか …
不思議な鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
車屋夫婦のものは淋しい、火の消えたような町に住んでいる。町は半ば朽ちて灰色であった。 町には古い火の見櫓が立っていた。櫓の尖には鉄葉製の旗があった。その旗は常に東南の方向に靡いてい …
読書目安時間:約16分
車屋夫婦のものは淋しい、火の消えたような町に住んでいる。町は半ば朽ちて灰色であった。 町には古い火の見櫓が立っていた。櫓の尖には鉄葉製の旗があった。その旗は常に東南の方向に靡いてい …
不死の薬(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある夏の夜でありました。三人の子供らが村の中にあった大きなかしの木の下に集まって話をしました。昼間の暑さにひきかえて、夜は涼しくありました。ことにこの木の下は風があって涼しゅうござ …
読書目安時間:約8分
ある夏の夜でありました。三人の子供らが村の中にあった大きなかしの木の下に集まって話をしました。昼間の暑さにひきかえて、夜は涼しくありました。ことにこの木の下は風があって涼しゅうござ …
負傷した線路と月(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
レールが、町から村へ、村から平原へ、そして、山の間へと走っていました。 そこは、町をはなれてから、幾十マイルとなくきたところでした。ある日のこと、汽車が重い荷物や、たくさんな人間を …
読書目安時間:約9分
レールが、町から村へ、村から平原へ、そして、山の間へと走っていました。 そこは、町をはなれてから、幾十マイルとなくきたところでした。ある日のこと、汽車が重い荷物や、たくさんな人間を …
婦人の過去と将来の予期(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は、その青春時代を顧みると、ちょうど日本に、西欧のロマンチシズムの流れが、その頃、漸く入って来たのでないかと思われる。詩壇に、『星菫派』と称せられた、恋愛至上主義の思潮は、たしか …
読書目安時間:約4分
私は、その青春時代を顧みると、ちょうど日本に、西欧のロマンチシズムの流れが、その頃、漸く入って来たのでないかと思われる。詩壇に、『星菫派』と称せられた、恋愛至上主義の思潮は、たしか …
二つの運命(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
風の出そうな空模様の日でありました。一ぴきのせみが、小さなこちょうに出あいました。 「なんだか怖ろしいような空模様ですね。今夜はあれるかもしれません。早く家へ帰りましょう。」と、せ …
読書目安時間:約5分
風の出そうな空模様の日でありました。一ぴきのせみが、小さなこちょうに出あいました。 「なんだか怖ろしいような空模様ですね。今夜はあれるかもしれません。早く家へ帰りましょう。」と、せ …
二人の軽業師(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
西と東に、上手な軽業師がありました。綱から、綱に飛びうつり、高いはしごの上でもんどりを打ち、見ていて、ひやひやすることをも手落ちなく、やって見せましたから、その評判というものは、た …
読書目安時間:約8分
西と東に、上手な軽業師がありました。綱から、綱に飛びうつり、高いはしごの上でもんどりを打ち、見ていて、ひやひやすることをも手落ちなく、やって見せましたから、その評判というものは、た …
船でついた町(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
たいへんに、金をもうけることの上手な男がおりました。人の気のつかないうちに、安く買っておいて、人気がたつとそれを高く売るというふうでありましたから、金がどんどんたまりました。 土地 …
読書目安時間:約6分
たいへんに、金をもうけることの上手な男がおりました。人の気のつかないうちに、安く買っておいて、人気がたつとそれを高く売るというふうでありましたから、金がどんどんたまりました。 土地 …
船の破片に残る話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
南の方の海を、航海している船がありました。太陽はうららかに、平和に、海原を照らしています。もう、この船の船長は、年をとっていました。そして、長い間、この船を自分たちのすみかとしてい …
読書目安時間:約5分
南の方の海を、航海している船がありました。太陽はうららかに、平和に、海原を照らしています。もう、この船の船長は、年をとっていました。そして、長い間、この船を自分たちのすみかとしてい …
冬の木立(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
冬の木立 しょんぼりと 寒かろう 蓑着よ 合羽着よ 綿帽子かぶりょ からすが 頭に止まった かんざしのように止まった 止まったからす なぜなぜなかぬ いつまでなかぬ …
読書目安時間:約1分
冬の木立 しょんぼりと 寒かろう 蓑着よ 合羽着よ 綿帽子かぶりょ からすが 頭に止まった かんざしのように止まった 止まったからす なぜなぜなかぬ いつまでなかぬ …
冬のちょう(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
すがすがしい天気で、青々と大空は晴れていましたが、その奥底に、光った冷たい目がじっと地上をのぞいているような日でした。 美しい女ちょうは、自分の卵をどこに産んだらいいかと惑っている …
読書目安時間:約6分
すがすがしい天気で、青々と大空は晴れていましたが、その奥底に、光った冷たい目がじっと地上をのぞいているような日でした。 美しい女ちょうは、自分の卵をどこに産んだらいいかと惑っている …
古いてさげかご(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ずっと前には、ちょっと旅行するのにも、バスケットを下げてゆくというふうで、流行したものです。年ちゃんのお家に、その時分、お父さんや、お母さんが、お使いになった古いバスケットがありま …
読書目安時間:約5分
ずっと前には、ちょっと旅行するのにも、バスケットを下げてゆくというふうで、流行したものです。年ちゃんのお家に、その時分、お父さんや、お母さんが、お使いになった古いバスケットがありま …
古いはさみ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
どこのお家にも、古くから使い慣れた道具はあるものです。そしてそのわりあいに、みんなからありがたがられていないものです。英ちゃんのおうちの古いはさみもやはりその一つでありましょう。 …
読書目安時間:約5分
どこのお家にも、古くから使い慣れた道具はあるものです。そしてそのわりあいに、みんなからありがたがられていないものです。英ちゃんのおうちの古いはさみもやはりその一つでありましょう。 …
ふるさと(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
北の故郷を出るときに、二羽の小鳥は、どこへいっても、けっして、ふたりは、はなればなれにならず、たがいに助け合おうと誓いました。すみなれた林や、山や、河や、野原を見捨て、知らぬ他国へ …
読書目安時間:約7分
北の故郷を出るときに、二羽の小鳥は、どこへいっても、けっして、ふたりは、はなればなれにならず、たがいに助け合おうと誓いました。すみなれた林や、山や、河や、野原を見捨て、知らぬ他国へ …
ふるさとの林の歌(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
娘は毎日山へゆきました。枯れ枝を集めたり、また木の実を拾ったりしました。 そのうちに、雪が降って、あたりを真っ白にうずめてしまいました。娘は家の内で親の手助けをして、早く春のくるの …
読書目安時間:約9分
娘は毎日山へゆきました。枯れ枝を集めたり、また木の実を拾ったりしました。 そのうちに、雪が降って、あたりを真っ白にうずめてしまいました。娘は家の内で親の手助けをして、早く春のくるの …
古巣(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
つばめが帰るとき 真紅な美しい夕焼けに、 少年はらっぱを鳴らして 遊んでいた。 つばめがきたとき 家の周囲を幾たびも飛びまわった。 すると、少年の吹いていたらっぱは 窓の下に捨てら …
読書目安時間:約1分
つばめが帰るとき 真紅な美しい夕焼けに、 少年はらっぱを鳴らして 遊んでいた。 つばめがきたとき 家の周囲を幾たびも飛びまわった。 すると、少年の吹いていたらっぱは 窓の下に捨てら …
文化線の低下(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
バーンズの詩の中に、野鼠について、うたったのがある。人間は、お前達が、畠のものを食べるといって、目の敵にするけれど、同じく地から産れたものでないか。その生命をつなぐために、沢山な麦 …
読書目安時間:約4分
バーンズの詩の中に、野鼠について、うたったのがある。人間は、お前達が、畠のものを食べるといって、目の敵にするけれど、同じく地から産れたものでないか。その生命をつなぐために、沢山な麦 …
文章を作る人々の根本用意(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
一概に文章といっても、その目的を異にするところから、幾多の種類を数えることが出来る。実用のための文書、書簡、報道記事等も文章であれば、自己の満足を主とする紀行文、抒情叙景文、論文等 …
読書目安時間:約7分
一概に文章といっても、その目的を異にするところから、幾多の種類を数えることが出来る。実用のための文書、書簡、報道記事等も文章であれば、自己の満足を主とする紀行文、抒情叙景文、論文等 …
平原の木と鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
春の先駆者であるひばりが、大空に高く舞い上がって、しきりにさえずるときに、謙遜なほおじろは、田圃の畦道に立っているはんのきや、平原の高い木のいただきに止まって、村や、野原をながめな …
読書目安時間:約7分
春の先駆者であるひばりが、大空に高く舞い上がって、しきりにさえずるときに、謙遜なほおじろは、田圃の畦道に立っているはんのきや、平原の高い木のいただきに止まって、村や、野原をながめな …
ペスときょうだい(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
風の吹くたびに、ひからびた落ち葉が、さらさらと音をたて、あたりをとびまわりました。空はくもって、木の枝がかなしそうにうごいています。急にお天気がかわりそうでした。 「雪がふると出ら …
読書目安時間:約7分
風の吹くたびに、ひからびた落ち葉が、さらさらと音をたて、あたりをとびまわりました。空はくもって、木の枝がかなしそうにうごいています。急にお天気がかわりそうでした。 「雪がふると出ら …
ペスをさがしに(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
土曜日の晩でありました。 お兄さんも、お姉さんも、お母さんも、食卓のまわりで、いろいろのお話をして、笑っていらしたときに、いちばん小さい政ちゃんが、 「ぼく、きょうペスを見たよ。」 …
読書目安時間:約9分
土曜日の晩でありました。 お兄さんも、お姉さんも、お母さんも、食卓のまわりで、いろいろのお話をして、笑っていらしたときに、いちばん小さい政ちゃんが、 「ぼく、きょうペスを見たよ。」 …
へちまの水(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
山へ雪がくるようになると、ひよどりが裏の高いかしの木に鳴くのであります。正雄は、縁側にすわって、切ってきた青竹に小さな穴をあけていました。 「清ちゃんのより、よく鳴る笛を造ってみせ …
読書目安時間:約5分
山へ雪がくるようになると、ひよどりが裏の高いかしの木に鳴くのであります。正雄は、縁側にすわって、切ってきた青竹に小さな穴をあけていました。 「清ちゃんのより、よく鳴る笛を造ってみせ …
紅すずめ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある日のこと、こまどりが枝に止まって、いい声で鳴いていました。すると、一羽のすずめが、その音色を慕ってどこからか飛んできました。 「いったい、こんなような、いい鳴き声をするのが、俺 …
読書目安時間:約9分
ある日のこと、こまどりが枝に止まって、いい声で鳴いていました。すると、一羽のすずめが、その音色を慕ってどこからか飛んできました。 「いったい、こんなような、いい鳴き声をするのが、俺 …
宝石商(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
昔、北の寒い国に、珍しい宝石が、海からも、また山からもいろいろたくさんに取れました。 それは、北の国にばかりあって、南の方の国にはなかったのであります。南の方の暖かな国は富んでいま …
読書目安時間:約11分
昔、北の寒い国に、珍しい宝石が、海からも、また山からもいろいろたくさんに取れました。 それは、北の国にばかりあって、南の方の国にはなかったのであります。南の方の暖かな国は富んでいま …
ボールの行方(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
正ちゃんは、いまに野球のピッチャーになるといっています。それで、ボールをなげて遊ぶのが大すきですが、よくボールをなくしました。 「お母さん、ボールをなくしたから、買っておくれよ。」 …
読書目安時間:約8分
正ちゃんは、いまに野球のピッチャーになるといっています。それで、ボールをなげて遊ぶのが大すきですが、よくボールをなくしました。 「お母さん、ボールをなくしたから、買っておくれよ。」 …
僕が大きくなるまで(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小学校にいる時分のことでした。ある朝の時間は、算術であったが、友吉は、この日もまたおくれてきたのであります。 「山本、そう毎日おくれてきて、どうするんだね。」と、先生は、きびしい目 …
読書目安時間:約6分
小学校にいる時分のことでした。ある朝の時間は、算術であったが、友吉は、この日もまたおくれてきたのであります。 「山本、そう毎日おくれてきて、どうするんだね。」と、先生は、きびしい目 …
僕がかわいがるから(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
正ちゃんの、飼っている黒犬が、このごろから他家の鶏を捕ったり、うきぎを捕ったりして、みんなから悪まれていました。こんどやってきたら、鉄砲で打ち殺してしまうといっている人もあるくらい …
読書目安時間:約5分
正ちゃんの、飼っている黒犬が、このごろから他家の鶏を捕ったり、うきぎを捕ったりして、みんなから悪まれていました。こんどやってきたら、鉄砲で打ち殺してしまうといっている人もあるくらい …
僕たちは愛するけれど(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「誠さんおいでよ、ねこの子がいるから。」と、二郎さんが、染め物屋の原っぱで叫びました。 誠さんにつづいて、二、三人の子供らが走ってゆきますと、紙箱の中に二ひきのねこの子がはいってい …
読書目安時間:約6分
「誠さんおいでよ、ねこの子がいるから。」と、二郎さんが、染め物屋の原っぱで叫びました。 誠さんにつづいて、二、三人の子供らが走ってゆきますと、紙箱の中に二ひきのねこの子がはいってい …
僕のかきの木(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
もう、五、六年前のことであります。 ある日、賢吉は、友だちが、前畑の中で遊んでいる姿を見つけたから、自分もいっしょに遊ぼうと思って、飛んでいきました。 「清ちゃん、なにをしているの …
読書目安時間:約5分
もう、五、六年前のことであります。 ある日、賢吉は、友だちが、前畑の中で遊んでいる姿を見つけたから、自分もいっしょに遊ぼうと思って、飛んでいきました。 「清ちゃん、なにをしているの …
僕の通るみち(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
僕はまいにち、隣の信ちゃんと、学校へいきます。僕は、時計屋の前を通って、大きな時計を見るのがすきです。その時計は、時刻が正確でした。 また、果物屋の前で、いろいろの果物を見るのもす …
読書目安時間:約3分
僕はまいにち、隣の信ちゃんと、学校へいきます。僕は、時計屋の前を通って、大きな時計を見るのがすきです。その時計は、時刻が正確でした。 また、果物屋の前で、いろいろの果物を見るのもす …
僕はこれからだ(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
村からすこし離れた、山のふもとに達吉の家はありました。彼は学校の帰りに、さびしい路をひとりで、ひらひら飛ぶ白いこちょうを追いかけたり、また、田のあぜで鳴くかえるに小石を投げつけたり …
読書目安時間:約18分
村からすこし離れた、山のふもとに達吉の家はありました。彼は学校の帰りに、さびしい路をひとりで、ひらひら飛ぶ白いこちょうを追いかけたり、また、田のあぜで鳴くかえるに小石を投げつけたり …
僕は兄さんだ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「お母さん、ここはどこ?」 お母さんは、弟の赤ちゃんに、お乳を飲ませて、新聞をごらんになっていましたが、義ちゃんが、そういったので、こちらをお向きになって、絵本をのぞきながら、 「 …
読書目安時間:約4分
「お母さん、ここはどこ?」 お母さんは、弟の赤ちゃんに、お乳を飲ませて、新聞をごらんになっていましたが、義ちゃんが、そういったので、こちらをお向きになって、絵本をのぞきながら、 「 …
星と柱を数えたら(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あるところに、広い圃と、林と、花園と、それにたくさんな宝物を持っている人が住んでいました。この人は、もうだいぶの年寄りでありましたから、それらのものを、二人の息子たちに分けてやって …
読書目安時間:約4分
あるところに、広い圃と、林と、花園と、それにたくさんな宝物を持っている人が住んでいました。この人は、もうだいぶの年寄りでありましたから、それらのものを、二人の息子たちに分けてやって …
星の子(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
あるところに、子供をかわいがっている夫婦がありました。その人たちの暮らしは、なにひとつとして不足を感ずるものはなかったのでありましたから、夫婦は、朝から晩まで、子供を抱いてはかわい …
読書目安時間:約11分
あるところに、子供をかわいがっている夫婦がありました。その人たちの暮らしは、なにひとつとして不足を感ずるものはなかったのでありましたから、夫婦は、朝から晩まで、子供を抱いてはかわい …
星の世界から(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
良吉は貧しい家に生まれました。その村は寂しい、森のたくさんある村でありました。小鳥がきてさえずります。また春になると、白い花や、香りの高い、いろいろの花が咲きました。 良吉には仲の …
読書目安時間:約7分
良吉は貧しい家に生まれました。その村は寂しい、森のたくさんある村でありました。小鳥がきてさえずります。また春になると、白い花や、香りの高い、いろいろの花が咲きました。 良吉には仲の …
北海の波にさらわれた蛾(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
鈍い砂漠のあちらに、深林がありましたが、しめっぽい風の吹く五月ごろのこと、その中から、おびただしい白い蛾が発生しました。 一時、ときならぬ花びらの、風に吹かれたごとく、木々の枝葉に …
読書目安時間:約11分
鈍い砂漠のあちらに、深林がありましたが、しめっぽい風の吹く五月ごろのこと、その中から、おびただしい白い蛾が発生しました。 一時、ときならぬ花びらの、風に吹かれたごとく、木々の枝葉に …
北海の白鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
昔、ある国に金持ちの王さまがありました。その御殿はたいそうりっぱなもので、ぜいたくのあらんかぎりを尽くしていました。支那の宝玉や、印度の更紗や、交趾の焼き物や、その他、南海の底から …
読書目安時間:約7分
昔、ある国に金持ちの王さまがありました。その御殿はたいそうりっぱなもので、ぜいたくのあらんかぎりを尽くしていました。支那の宝玉や、印度の更紗や、交趾の焼き物や、その他、南海の底から …
舞子より須磨へ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
舞子の停車場に下りた時は夕暮方で、松の木に薄寒い風があった。誰も、下りたものがなかった。松の木の下を通って、右を見ても、左も見ても、賑かな通りもなければ、人の群っているのも目に入ら …
読書目安時間:約4分
舞子の停車場に下りた時は夕暮方で、松の木に薄寒い風があった。誰も、下りたものがなかった。松の木の下を通って、右を見ても、左も見ても、賑かな通りもなければ、人の群っているのも目に入ら …
政ちゃんと赤いりんご(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
田舎のおばあさんから、送ってきたりんごがもう二つになってしまいました。 「政ちゃんなんか、一日に三つも、四つも食べるんだもの。」 「僕なんか、そんなに食べやしない。勇ちゃんこそ三つ …
読書目安時間:約9分
田舎のおばあさんから、送ってきたりんごがもう二つになってしまいました。 「政ちゃんなんか、一日に三つも、四つも食べるんだもの。」 「僕なんか、そんなに食べやしない。勇ちゃんこそ三つ …
正に芸術の試煉期(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今度の震災の災禍が、経済上にまた政治上に、影響し、従って複雑な関係を個人生活の上にも生じた点が少くない。その中に於て、文学業者の生活は、元来が、一面社会的であると共に、一面は、全く …
読書目安時間:約4分
今度の震災の災禍が、経済上にまた政治上に、影響し、従って複雑な関係を個人生活の上にも生じた点が少くない。その中に於て、文学業者の生活は、元来が、一面社会的であると共に、一面は、全く …
町のお姫さま(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
昔、あるところに、さびしいところの大好きなお姫さまがありました。どんなにさびしいところでもいいから人の住んでいない、さびしいところがあったら、そこへいって住みたいといわれました。 …
読書目安時間:約4分
昔、あるところに、さびしいところの大好きなお姫さまがありました。どんなにさびしいところでもいいから人の住んでいない、さびしいところがあったら、そこへいって住みたいといわれました。 …
街の幸福(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
盲目の父親の手を引いて、十二、三歳のあわれな少年は、日暮れ方になると、どこからかにぎやかな街の方へやってきました。 父親は、手にバイオリンを持っていました。二人は、とある銀行の前へ …
読書目安時間:約6分
盲目の父親の手を引いて、十二、三歳のあわれな少年は、日暮れ方になると、どこからかにぎやかな街の方へやってきました。 父親は、手にバイオリンを持っていました。二人は、とある銀行の前へ …
町の真理(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
B坊が、だれかにいじめられて、路の上で泣いていました。 「どうしたの?」と、わけをきくと、こうなのであります。 A坊と、B坊は、いっしょに遊んでいたのです。すると、みんみんぜみが飛 …
読書目安時間:約7分
B坊が、だれかにいじめられて、路の上で泣いていました。 「どうしたの?」と、わけをきくと、こうなのであります。 A坊と、B坊は、いっしょに遊んでいたのです。すると、みんみんぜみが飛 …
町の天使(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
Sという少年がありました。 毎日、学校へゆくときも、帰るときも、町の角にあった、菓子屋の前を通りました。その店はきれいに飾ってあって、ガラス戸がはまっていて、外の看板の上には、翼を …
読書目安時間:約9分
Sという少年がありました。 毎日、学校へゆくときも、帰るときも、町の角にあった、菓子屋の前を通りました。その店はきれいに飾ってあって、ガラス戸がはまっていて、外の看板の上には、翼を …
町はずれの空き地(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
空き地には、草がしげっていましたが、いまはもう黄色くなって、ちょうど柔らかな敷物のように地面に倒れていました。霜の降った朝は、かえって日が上ると暖かになるので、この付近に住む子供た …
読書目安時間:約5分
空き地には、草がしげっていましたが、いまはもう黄色くなって、ちょうど柔らかな敷物のように地面に倒れていました。霜の降った朝は、かえって日が上ると暖かになるので、この付近に住む子供た …
街を行くまゝに感ず(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
たま/\書斎から、歩を街頭に移すと、いまさら、都会の活動に驚かされるのであります。こちらの側から、あちらの側に行くことすら、容易ならざる冒険であって時には、自分に不可能であると感じ …
読書目安時間:約6分
たま/\書斎から、歩を街頭に移すと、いまさら、都会の活動に驚かされるのであります。こちらの側から、あちらの側に行くことすら、容易ならざる冒険であって時には、自分に不可能であると感じ …
窓の内と外(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
白と黒の、ぶちのかわいらしい子ねこが、洋服屋の飾り窓のうちに、いつもひなたぼっこをしていました。そのころ、政一は、まだ学校へ上がりたてであった。その店の前を通るたびに、おもちゃのね …
読書目安時間:約4分
白と黒の、ぶちのかわいらしい子ねこが、洋服屋の飾り窓のうちに、いつもひなたぼっこをしていました。そのころ、政一は、まだ学校へ上がりたてであった。その店の前を通るたびに、おもちゃのね …
窓の下を通った男(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
毎日のように、村の方から、町へ出ていく乞食がありました。女房もなければ、また子供もない、まったくひとりぽっちの、人間のように思われたのであります。 その男は、もういいかげんに年をと …
読書目安時間:約9分
毎日のように、村の方から、町へ出ていく乞食がありました。女房もなければ、また子供もない、まったくひとりぽっちの、人間のように思われたのであります。 その男は、もういいかげんに年をと …
真昼のお化け(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
光一は、かぶとむしを捕ろうと思って、長いさおを持って、神社の境内にある、かしわの木の下へいってみました。けれど、もうだれか捕ってしまったのか、それとも、どこへか飛んでいっていないの …
読書目安時間:約16分
光一は、かぶとむしを捕ろうと思って、長いさおを持って、神社の境内にある、かしわの木の下へいってみました。けれど、もうだれか捕ってしまったのか、それとも、どこへか飛んでいっていないの …
迷い路(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
二郎は昨夜見た夢が余り不思議なもんで、これを兄の太郎に話そうかと思っていましたが、まだいい折がありません。昼過ぎに母親は前の圃で妹を相手にして話をしていたから、裏庭へ出て兄を探ねる …
読書目安時間:約9分
二郎は昨夜見た夢が余り不思議なもんで、これを兄の太郎に話そうかと思っていましたが、まだいい折がありません。昼過ぎに母親は前の圃で妹を相手にして話をしていたから、裏庭へ出て兄を探ねる …
マルは しあわせ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
マルはかわいいねこです。まあちゃんがとてもかわいがっていました。 「ねえおかあさん、マルがおしろいくさいよ。」 と、まあちゃんがいいました。 「どうしてでしょう。あんたのはなのせい …
読書目安時間:約2分
マルはかわいいねこです。まあちゃんがとてもかわいがっていました。 「ねえおかあさん、マルがおしろいくさいよ。」 と、まあちゃんがいいました。 「どうしてでしょう。あんたのはなのせい …
万の死(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
万は正直な、うらおもてのない人間として、村の人々から愛されていました。小学校を終えると、じきに役場へ小使いとしてやとわれました。彼は、母親の手一つで大きくなりましたが、その母も早く …
読書目安時間:約9分
万は正直な、うらおもてのない人間として、村の人々から愛されていました。小学校を終えると、じきに役場へ小使いとしてやとわれました。彼は、母親の手一つで大きくなりましたが、その母も早く …
みけの ごうがいやさん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
あかとらが、みけにであって、 「そのくびにつけた、ぴかぴかするものはなんですか。」 とききました。 「うちのぼっちゃんが、つけてくれたすずです。」 と、みけがこたえました。 「どれ …
読書目安時間:約2分
あかとらが、みけにであって、 「そのくびにつけた、ぴかぴかするものはなんですか。」 とききました。 「うちのぼっちゃんが、つけてくれたすずです。」 と、みけがこたえました。 「どれ …
水七景(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
* 村から、町へ出る、途中に川がありました。子どもは、お母さんにつれられて、歩いていました。 橋をわたりかけると、子どもは、欄干につかまり川を見おろしました。水が、あとから、あとか …
読書目安時間:約6分
* 村から、町へ出る、途中に川がありました。子どもは、お母さんにつれられて、歩いていました。 橋をわたりかけると、子どもは、欄干につかまり川を見おろしました。水が、あとから、あとか …
道の上で見た話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
いつものようにぼくは坂下の露店で番をしていました。 このごろ、絵をかいてみたいという気がおこったので、こうしている間も、物と物との関係や、光線と色彩などを、注意するようになりました …
読書目安時間:約8分
いつものようにぼくは坂下の露店で番をしていました。 このごろ、絵をかいてみたいという気がおこったので、こうしている間も、物と物との関係や、光線と色彩などを、注意するようになりました …
三つのお人形(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
外国人が、人形屋へはいって、三つ並んでいた人形を、一つ、一つ手にとってながめていました。どれも、同じ人形師の手で作られた、魂のはいっている美しい女の人形でした。 一つは、すわってい …
読書目安時間:約11分
外国人が、人形屋へはいって、三つ並んでいた人形を、一つ、一つ手にとってながめていました。どれも、同じ人形師の手で作られた、魂のはいっている美しい女の人形でした。 一つは、すわってい …
三つのかぎ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
ある青年は、毎日のように、空を高く、金色の鳥が飛んでゆくのをながめました。彼は、それを普通の鳥とは思いませんでした。なにか自分にとって、いいことのある使いであろうというように思った …
読書目安時間:約11分
ある青年は、毎日のように、空を高く、金色の鳥が飛んでゆくのをながめました。彼は、それを普通の鳥とは思いませんでした。なにか自分にとって、いいことのある使いであろうというように思った …
みつばちのきた日(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
雪割草は、ぱっちりと目を開いてみると、びっくりしました。かつて、見たことも、また考えたこともない、温かな室の中であったからです。そして、自分のまわりには、美しいいろいろの花が、咲き …
読書目安時間:約8分
雪割草は、ぱっちりと目を開いてみると、びっくりしました。かつて、見たことも、また考えたこともない、温かな室の中であったからです。そして、自分のまわりには、美しいいろいろの花が、咲き …
緑色の時計(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
おじさんの髪は、いつもきれいでした。そして、花畑でも通ってきたように、着物は、いいにおいがしました。そわそわと、いそがしそうに、これから、汽車に乗って、旅へでもでかけるときか、ある …
読書目安時間:約7分
おじさんの髪は、いつもきれいでした。そして、花畑でも通ってきたように、着物は、いいにおいがしました。そわそわと、いそがしそうに、これから、汽車に乗って、旅へでもでかけるときか、ある …
港に着いた黒んぼ(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
やっと、十ばかりになったかと思われるほどの、男の子が笛を吹いています。その笛は、ちょうど秋風が、枯れた木の葉を鳴らすように、哀れな音をたてるかと思うと、春のうららかな日に、緑の色の …
読書目安時間:約14分
やっと、十ばかりになったかと思われるほどの、男の子が笛を吹いています。その笛は、ちょうど秋風が、枯れた木の葉を鳴らすように、哀れな音をたてるかと思うと、春のうららかな日に、緑の色の …
民衆芸術の精神(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ミレーの絵を見た人は、心ある者であったならば、誰しも涙ぐましさを感ずるであろう。ミレーは貧しい人間の生活をほんとうに見ているように思われます。貧しいといって、それは、田舎の百姓の生 …
読書目安時間:約7分
ミレーの絵を見た人は、心ある者であったならば、誰しも涙ぐましさを感ずるであろう。ミレーは貧しい人間の生活をほんとうに見ているように思われます。貧しいといって、それは、田舎の百姓の生 …
娘と大きな鐘(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ある名も知れない、北国の村に、あれはてたお寺がありました。そのお寺のあるところは、小高くなった、さびしいところでありました。 本堂から、すこしはなれたところに、鐘つき堂がありました …
読書目安時間:約8分
ある名も知れない、北国の村に、あれはてたお寺がありました。そのお寺のあるところは、小高くなった、さびしいところでありました。 本堂から、すこしはなれたところに、鐘つき堂がありました …
村のかじやさん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
村のかじやさんは、はたらき者で、いつも夜おそくまで、テンカン、テンカンと、かなづちをならしていました。 ある夜、きつねが、あちらの森で、コンコンとなきました。 かじやさんは、「お正 …
読書目安時間:約2分
村のかじやさんは、はたらき者で、いつも夜おそくまで、テンカン、テンカンと、かなづちをならしていました。 ある夜、きつねが、あちらの森で、コンコンとなきました。 かじやさんは、「お正 …
村の兄弟(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ある田舎に、仲のよい兄弟がありました。ある日のこと、兄は、一人で重い荷を車にのせて、それを引いて町へ出かけてゆきました。道すがら兄は、弟のことを頭の中で思っていました。 「頭のいい …
読書目安時間:約6分
ある田舎に、仲のよい兄弟がありました。ある日のこと、兄は、一人で重い荷を車にのせて、それを引いて町へ出かけてゆきました。道すがら兄は、弟のことを頭の中で思っていました。 「頭のいい …
村へ帰った傷兵(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
上等兵小野清作は、陸軍病院の手厚い治療で、腕の傷口もすっかりなおれば、このごろは義手を用いてなに不自由なく仕事ができるようになりました。ちょうどそのころ、兵免令が降ったので、彼はひ …
読書目安時間:約9分
上等兵小野清作は、陸軍病院の手厚い治療で、腕の傷口もすっかりなおれば、このごろは義手を用いてなに不自由なく仕事ができるようになりました。ちょうどそのころ、兵免令が降ったので、彼はひ …
眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
かず子さんが、見せてくれた紅い貝は、なんという美しい色をしていたでしょう。また、紫ばんだ青い貝も、海の色が、そのまま染まったような、めったに見たことのないものでありました。 「ねえ …
読書目安時間:約16分
かず子さんが、見せてくれた紅い貝は、なんという美しい色をしていたでしょう。また、紫ばんだ青い貝も、海の色が、そのまま染まったような、めったに見たことのないものでありました。 「ねえ …
めくら星(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
それは、ずっと、いまから遠い昔のことであります。 あるところに目のよく見えない娘がありました。お母さんは、娘が、まだ小さいときに、娘をのこして、病気のため死んでしまいました。その後 …
読書目安時間:約9分
それは、ずっと、いまから遠い昔のことであります。 あるところに目のよく見えない娘がありました。お母さんは、娘が、まだ小さいときに、娘をのこして、病気のため死んでしまいました。その後 …
珍しい酒もり(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
北の国の王さまは、なにか目をたのしませ、心を喜ばせるような、おもしろいことはないものかと思っていられました。毎日、毎日、同じような、単調な景色を見ることに怠屈されたのであります。 …
読書目安時間:約12分
北の国の王さまは、なにか目をたのしませ、心を喜ばせるような、おもしろいことはないものかと思っていられました。毎日、毎日、同じような、単調な景色を見ることに怠屈されたのであります。 …
芽は伸びる(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
泉は、自分のかいこが、ぐんぐん大きくなるのを自慢していました。にやりにやり、と笑いながら、話を聞いていた戸田は、自分のもそれくらいになったと思っているので、おどろきはしなかったが、 …
読書目安時間:約11分
泉は、自分のかいこが、ぐんぐん大きくなるのを自慢していました。にやりにやり、と笑いながら、話を聞いていた戸田は、自分のもそれくらいになったと思っているので、おどろきはしなかったが、 …
もずとすぎの木(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
若い元気なもずが、風の中をすずめを追いかけてきました。すずめは、死にもの狂いに飛んで、すいと黒くしげったかしの木の中へ下りると、もずはついにその姿を見失ってしまったので、そばの高い …
読書目安時間:約5分
若い元気なもずが、風の中をすずめを追いかけてきました。すずめは、死にもの狂いに飛んで、すいと黒くしげったかしの木の中へ下りると、もずはついにその姿を見失ってしまったので、そばの高い …
ものぐさじじいの来世(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あるところに、ものぐさじいさんが住んでいました。じいさんは、若いときから、手足を動かしたり、人にあって話をしたりすることを、ひじょうにものぐさがって、いつもじっとしていることが好き …
読書目安時間:約4分
あるところに、ものぐさじいさんが住んでいました。じいさんは、若いときから、手足を動かしたり、人にあって話をしたりすることを、ひじょうにものぐさがって、いつもじっとしていることが好き …
ものぐさなきつね(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
星は、毎夜さびしい大空に輝いていました。そして下界を照らしていましたけれど、だれも星を見てなぐさめてくれるものとてなかったのです。星は、それを頼りないことに思っていました。 鶏が、 …
読書目安時間:約5分
星は、毎夜さびしい大空に輝いていました。そして下界を照らしていましたけれど、だれも星を見てなぐさめてくれるものとてなかったのです。星は、それを頼りないことに思っていました。 鶏が、 …
もののいえないもの(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
敏ちゃんは、なんだかしんぱいそうな顔つきをして、だまっています。 「どうしたの?」と、姉さんがきいてもだまっています。 「おかしいわ。いつも元気なのに、けんかをしてきたんでしょう。 …
読書目安時間:約9分
敏ちゃんは、なんだかしんぱいそうな顔つきをして、だまっています。 「どうしたの?」と、姉さんがきいてもだまっています。 「おかしいわ。いつも元気なのに、けんかをしてきたんでしょう。 …
森の暗き夜(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
女はひとり室の中に坐って、仕事をしていた。赤い爛れた眼のようなランプが、切れそうな細い針金に吊下っている。家の周囲には森林がある。夜は、次第にこの一つ家を襲って来た。 森には、黒い …
読書目安時間:約18分
女はひとり室の中に坐って、仕事をしていた。赤い爛れた眼のようなランプが、切れそうな細い針金に吊下っている。家の周囲には森林がある。夜は、次第にこの一つ家を襲って来た。 森には、黒い …
森の中の犬ころ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
町のある酒屋の小舎の中で、宿無し犬が子供を産みました。 「こんなところで、犬が子を産みやがって困ったな。」と、主人は小言をいいました。これも、小僧たちが、平常小舎の中をきれいに片づ …
読書目安時間:約5分
町のある酒屋の小舎の中で、宿無し犬が子供を産みました。 「こんなところで、犬が子を産みやがって困ったな。」と、主人は小言をいいました。これも、小僧たちが、平常小舎の中をきれいに片づ …
森の妖姫(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
何の時代からであるか、信濃の国の或る山中に、一つの湖水がある。名を琵琶池といって神代ながらの青々とした水は声なく静かに神秘の色をたたえて、木影は水面の暗きまでに繁りに繁り合うている …
読書目安時間:約5分
何の時代からであるか、信濃の国の或る山中に、一つの湖水がある。名を琵琶池といって神代ながらの青々とした水は声なく静かに神秘の色をたたえて、木影は水面の暗きまでに繁りに繁り合うている …
山に雪光る(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いろいろの店にまじって、一けんの筆屋がありました。おじいさんが、店先にすわって太い筆や、細い筆をつくっていました。でき上がった筆は、他へおろしうりにうるのもあれば、また自分の店にお …
読書目安時間:約4分
いろいろの店にまじって、一けんの筆屋がありました。おじいさんが、店先にすわって太い筆や、細い筆をつくっていました。でき上がった筆は、他へおろしうりにうるのもあれば、また自分の店にお …
山の上の木と雲の話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
山の上に、一本の木が立っていました。木はまだこの世の中に生まれてきてから、なにも見たことがありません。そんなに高い山ですから、人間も登ってくることもなければ、めったに獣物も上ってく …
読書目安時間:約6分
山の上に、一本の木が立っていました。木はまだこの世の中に生まれてきてから、なにも見たことがありません。そんなに高い山ですから、人間も登ってくることもなければ、めったに獣物も上ってく …
山へ帰ったやまがら(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
英ちゃんの飼っているやまがらは、それは、よく馴れて、かごから出ると指先にとまったり、頭の上にとまったり、また、耳にとまったりするので、みんなからかわいがられていました。 はじめのう …
読書目安時間:約5分
英ちゃんの飼っているやまがらは、それは、よく馴れて、かごから出ると指先にとまったり、頭の上にとまったり、また、耳にとまったりするので、みんなからかわいがられていました。 はじめのう …
山へ帰りゆく父(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
父親は、遠い街に住んでいる息子が、どんな暮らしをしているかと思いました。そして、どうか一度いってみたいものだと思っていました。 しかし、年を取ると、なかなか知らぬところへ出かけるの …
読書目安時間:約16分
父親は、遠い街に住んでいる息子が、どんな暮らしをしているかと思いました。そして、どうか一度いってみたいものだと思っていました。 しかし、年を取ると、なかなか知らぬところへ出かけるの …
闇(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お母、足が痛い。 我慢をしろよ。 お母、もう歩けない。 もう、すこし我慢をしろよ。 お母、どこへいくのだい? 「…………」 空は真っ暗である。 怖ろしい波の轟きが聞こえる。 …
読書目安時間:約1分
お母、足が痛い。 我慢をしろよ。 お母、もう歩けない。 もう、すこし我慢をしろよ。 お母、どこへいくのだい? 「…………」 空は真っ暗である。 怖ろしい波の轟きが聞こえる。 …
やんま(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
正ちゃんは、やんまを捕りました。そして、やんまの羽についた、もちを取っていると、ぶるっとやんまは、羽を鳴らして、手から逃げてしまいました。 「あっ。」と、いって、その逃げた方を見送 …
読書目安時間:約4分
正ちゃんは、やんまを捕りました。そして、やんまの羽についた、もちを取っていると、ぶるっとやんまは、羽を鳴らして、手から逃げてしまいました。 「あっ。」と、いって、その逃げた方を見送 …
夕雲(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
お庭の垣根のところには、コスモスの花が、白、うす紅色と、いろいろに美しく咲いていました。赤とんぼが、止まったり、飛びたったりしています。お母さんは、たんすのひきだしにしまってあった …
読書目安時間:約5分
お庭の垣根のところには、コスモスの花が、白、うす紅色と、いろいろに美しく咲いていました。赤とんぼが、止まったり、飛びたったりしています。お母さんは、たんすのひきだしにしまってあった …
夕暮の窓より(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
光線の明るく射す室と、木影などが障子窓に落ちて暗い日蔭の室とがある。 其等の、さま/″\の室の中には生活を異にし、気持を異にした、いろ/\な、相互いに顔も知り合わないような人が住ん …
読書目安時間:約4分
光線の明るく射す室と、木影などが障子窓に落ちて暗い日蔭の室とがある。 其等の、さま/″\の室の中には生活を異にし、気持を異にした、いろ/\な、相互いに顔も知り合わないような人が住ん …
夕焼けがうすれて(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
汽笛が鳴って、工場の門をでるころには、日は西の山へ入るのでありました。ふと、達夫は歩きながら、 「僕のお父さんは、もう帰ってこないのだ。」と、頭にこんなことが思い浮かぶと、いつしか …
読書目安時間:約7分
汽笛が鳴って、工場の門をでるころには、日は西の山へ入るのでありました。ふと、達夫は歩きながら、 「僕のお父さんは、もう帰ってこないのだ。」と、頭にこんなことが思い浮かぶと、いつしか …
夕焼け物語(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
三人の娘らは、いずれもあまり富んでいる家の子供でなかったのです。 ある春の末のことでありました。村にはお祭りがあって、なかなかにぎやかでございました。 三人の娘らも、いっしょにうち …
読書目安時間:約7分
三人の娘らは、いずれもあまり富んでいる家の子供でなかったのです。 ある春の末のことでありました。村にはお祭りがあって、なかなかにぎやかでございました。 三人の娘らも、いっしょにうち …
幽霊船(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
沖の方に、光ったものが見えます。海の水は、青黒いように、ものすごくありました。そして、このあたりは、北極に近いので、いつも寒かったのであります。 光ったものは、だんだん岸の方に近寄 …
読書目安時間:約8分
沖の方に、光ったものが見えます。海の水は、青黒いように、ものすごくありました。そして、このあたりは、北極に近いので、いつも寒かったのであります。 光ったものは、だんだん岸の方に近寄 …
雪消え近く(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
早く雪が消えて、かわいた土の上で遊びたくなりました。雪の下にかくれている土の色がなつかしいのであります。吉郎は、自分の家の前だけでも早く雪をなくそうと思いました。それで朝から外に出 …
読書目安時間:約4分
早く雪が消えて、かわいた土の上で遊びたくなりました。雪の下にかくれている土の色がなつかしいのであります。吉郎は、自分の家の前だけでも早く雪をなくそうと思いました。それで朝から外に出 …
雪くる前の高原の話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
それは、険しい山のふもとの荒野のできごとであります。 山からは、石炭が掘られました。それをトロッコに載せて、日に幾たびということなく高い山から、ふもとの方へ運んできたのであります。 …
読書目安時間:約11分
それは、険しい山のふもとの荒野のできごとであります。 山からは、石炭が掘られました。それをトロッコに載せて、日に幾たびということなく高い山から、ふもとの方へ運んできたのであります。 …
雪だるま(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
いいお天気でありました。もはや、野にも山にも、雪が一面に真っ白くつもってかがやいています。ちょうど、その日は学校が休みでありましたから、次郎は、家の外に出て、となりの勇吉といっしょ …
読書目安時間:約5分
いいお天気でありました。もはや、野にも山にも、雪が一面に真っ白くつもってかがやいています。ちょうど、その日は学校が休みでありましたから、次郎は、家の外に出て、となりの勇吉といっしょ …
雪の上のおじいさん(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ある村に、人のよいおじいさんがありました。ある日のこと、おじいさんは、用事があって、町へ出かけました。もう、長い間、おじいさんは、町に出たことがありませんでした。しかし、どうしても …
読書目安時間:約14分
ある村に、人のよいおじいさんがありました。ある日のこと、おじいさんは、用事があって、町へ出かけました。もう、長い間、おじいさんは、町に出たことがありませんでした。しかし、どうしても …
雪の上の舞踏(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
はるか北の方の島で、夏のあいだ、働いていました人々は、だんだん寒くなったので、南のあたたかな方へ、ひきあげなければなりませんでした。 「お別れに、みんな集まって、たのしく一晩おくり …
読書目安時間:約6分
はるか北の方の島で、夏のあいだ、働いていました人々は、だんだん寒くなったので、南のあたたかな方へ、ひきあげなければなりませんでした。 「お別れに、みんな集まって、たのしく一晩おくり …
雪の国と太郎(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この村には七つ八つから十一、二の子供が五、六人もいましたけれど、だれも隣村の太郎にかなうものはありませんでした。太郎は、まだやっと十二ばかりでした。けれど力が強くて、年のわりあいに …
読書目安時間:約8分
この村には七つ八つから十一、二の子供が五、六人もいましたけれど、だれも隣村の太郎にかなうものはありませんでした。太郎は、まだやっと十二ばかりでした。けれど力が強くて、年のわりあいに …
雪の降った日(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
雪が降りそうな寒い空合いでした。日も射さなければ、風も吹かずに、灰色の雲が、林の上にじっとしていました。葉のついていないけやきの細い枝が煙って見えるので、雲と木の区別がちょっとわか …
読書目安時間:約11分
雪が降りそうな寒い空合いでした。日も射さなければ、風も吹かずに、灰色の雲が、林の上にじっとしていました。葉のついていないけやきの細い枝が煙って見えるので、雲と木の区別がちょっとわか …
ゆずの話(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
お父さんの、大事になさっている植木鉢のゆずが、今年も大きな実を二つつけました。この二つは、夏のころからおたがいに競争しあって、大きくなろうとしていましたが、二つとも大きくなれるだけ …
読書目安時間:約4分
お父さんの、大事になさっている植木鉢のゆずが、今年も大きな実を二つつけました。この二つは、夏のころからおたがいに競争しあって、大きくなろうとしていましたが、二つとも大きくなれるだけ …
夢のような昼と晩(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
赤い花、白い花、赤としぼりの花、いろいろのつばきの花が、庭に咲いていました。そうして、濃い緑色の葉と葉のあいだから、金色の日の光がもれて、下のしめった地の上に、ふしぎな模様をかいて …
読書目安時間:約6分
赤い花、白い花、赤としぼりの花、いろいろのつばきの花が、庭に咲いていました。そうして、濃い緑色の葉と葉のあいだから、金色の日の光がもれて、下のしめった地の上に、ふしぎな模様をかいて …
百合の花(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
太郎の一番怖がっているのは、向うの萩原のお婆さんで、太郎は今年八歳になります。この村中での一番の腕白児で、同じ年輩の友達の餓鬼大将であります。萩原の勇というのが友達の中で一番弱いか …
読書目安時間:約9分
太郎の一番怖がっているのは、向うの萩原のお婆さんで、太郎は今年八歳になります。この村中での一番の腕白児で、同じ年輩の友達の餓鬼大将であります。萩原の勇というのが友達の中で一番弱いか …
善いことをした喜び(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
さよ子は、叔母さんからもらったおあしを大事に、赤い毛糸で編んだ財布の中に入れてしまっておきました。秋のお祭りがきたら、それでなにか好きなものを買おうと思っていました。 もとよりたく …
読書目安時間:約6分
さよ子は、叔母さんからもらったおあしを大事に、赤い毛糸で編んだ財布の中に入れてしまっておきました。秋のお祭りがきたら、それでなにか好きなものを買おうと思っていました。 もとよりたく …
酔っぱらい星(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
佐吉が寝ていると、高窓の破れから、ちらちらと星の光がさしこみます。それは、青いガラスのようにさえた冬の空に輝いているのでありました。 仰向けになって、じっとその星を見つめていますと …
読書目安時間:約9分
佐吉が寝ていると、高窓の破れから、ちらちらと星の光がさしこみます。それは、青いガラスのようにさえた冬の空に輝いているのでありました。 仰向けになって、じっとその星を見つめていますと …
世の中のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
たいそう外科的手術を怖ろしがっている、若い婦人がありました。 もし、すこしぐらいの痛さを我慢をして、手術を受けるなら、十分健康を取り返すことができるのを、どうしても、その婦人は、手 …
読書目安時間:約4分
たいそう外科的手術を怖ろしがっている、若い婦人がありました。 もし、すこしぐらいの痛さを我慢をして、手術を受けるなら、十分健康を取り返すことができるのを、どうしても、その婦人は、手 …
世の中のために(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
毎日雨が降りつづくと、いつになったら、晴れるだろうと、もどかしく思うことがあります。そして、もうけっして、この雨はやまずに、いつまでもいつまでも降るにちがいないと、一人できめて、曇 …
読書目安時間:約9分
毎日雨が降りつづくと、いつになったら、晴れるだろうと、もどかしく思うことがあります。そして、もうけっして、この雨はやまずに、いつまでもいつまでも降るにちがいないと、一人できめて、曇 …
世の中へ出る子供たち(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
正吉の記憶に、残っていることがあります。それは、小学校を卒業する、すこし前のことでした。ある日、日ごろから仲のいい三人は、つれあって、受け持ちの田川先生をお訪ねしたのであります。先 …
読書目安時間:約8分
正吉の記憶に、残っていることがあります。それは、小学校を卒業する、すこし前のことでした。ある日、日ごろから仲のいい三人は、つれあって、受け持ちの田川先生をお訪ねしたのであります。先 …
読むうちに思ったこと(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
絵のように美しいという言葉はあるが、いゝ絵は、見れば、見る程、ひきつけられるように感ずるものです。風景にしろ、人物にしろ、無駄に描かれた線はなく、どの部分を見ても生動するものですが …
読書目安時間:約5分
絵のように美しいという言葉はあるが、いゝ絵は、見れば、見る程、ひきつけられるように感ずるものです。風景にしろ、人物にしろ、無駄に描かれた線はなく、どの部分を見ても生動するものですが …
夜の進軍らっぱ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
山の中の村です。雪の深く積もったときは、郵便もなかなかこられないようなところでした。父親一人、息子一人のさびしい暮らしをしていましたが、息子は、戦争がはじまると召集されて、遠く戦地 …
読書目安時間:約8分
山の中の村です。雪の深く積もったときは、郵便もなかなかこられないようなところでした。父親一人、息子一人のさびしい暮らしをしていましたが、息子は、戦争がはじまると召集されて、遠く戦地 …
夜の喜び(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は、夜を讃美し、夜を怖れる。 青い、菜の葉に塩をふりかけて、凋れて行く時の色合のような、黙って、息を止めているような、匂いはないけれど、もしこれを求めたら、腥い匂い、それも生々し …
読書目安時間:約4分
私は、夜を讃美し、夜を怖れる。 青い、菜の葉に塩をふりかけて、凋れて行く時の色合のような、黙って、息を止めているような、匂いはないけれど、もしこれを求めたら、腥い匂い、それも生々し …
読んできかせる場合(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
お母さんたちが、何か心配なことでもあって、じっと考えていられるとします。いつもなら、快活にお話なさるものが、その時ばかりは、全く、言葉さえなく口を噤んで、そして、いつもにこ/\とし …
読書目安時間:約4分
お母さんたちが、何か心配なことでもあって、じっと考えていられるとします。いつもなら、快活にお話なさるものが、その時ばかりは、全く、言葉さえなく口を噤んで、そして、いつもにこ/\とし …
ラスキンの言葉(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
もう昔となった。その頃、雑司ヶ谷の墓地を散歩した時分に、歩みを行路病者の墓の前にとゞめて、瞑想したのである。名も知れない人の小さな墓標が、夏草の繁った一隅に、朽ちかゝった頭を見せて …
読書目安時間:約3分
もう昔となった。その頃、雑司ヶ谷の墓地を散歩した時分に、歩みを行路病者の墓の前にとゞめて、瞑想したのである。名も知れない人の小さな墓標が、夏草の繁った一隅に、朽ちかゝった頭を見せて …
らんの花(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
(この話をした人は、べつに文章や、歌を作らないが、詩人でありました。) 支那人の出している小さい料理店へ、私は、たびたびいきました。そこの料理がうまかったためばかりでありません。ま …
読書目安時間:約9分
(この話をした人は、べつに文章や、歌を作らないが、詩人でありました。) 支那人の出している小さい料理店へ、私は、たびたびいきました。そこの料理がうまかったためばかりでありません。ま …
猟師と薬屋の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
村に一人の猟師が、住んでいました。もう、秋もなかばのことでありました。ある日知らない男がたずねてきて、 「私は、旅の薬屋でありますが、くまのいがほしくてやってきました。きけば、あな …
読書目安時間:約8分
村に一人の猟師が、住んでいました。もう、秋もなかばのことでありました。ある日知らない男がたずねてきて、 「私は、旅の薬屋でありますが、くまのいがほしくてやってきました。きけば、あな …
老工夫と電灯:――大人の童話――(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
崖からたれさがった木の枝に、日の光が照らして、若葉の面が流れるように、てらてらとしていました。さびしい傾斜面に生えた、草の穂先をかすめて、ようやく、この明るく、広い世界に出たとんぼ …
読書目安時間:約7分
崖からたれさがった木の枝に、日の光が照らして、若葉の面が流れるように、てらてらとしていました。さびしい傾斜面に生えた、草の穂先をかすめて、ようやく、この明るく、広い世界に出たとんぼ …
ろうそくと貝がら(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
海の近くに一軒の家がありました。家には母親と娘とがさびしく暮らしていました。けれど二人は働いて、どうにかその日を暮らしてゆくことができました。 父親は二年前に、海へ漁に出かけたきり …
読書目安時間:約6分
海の近くに一軒の家がありました。家には母親と娘とがさびしく暮らしていました。けれど二人は働いて、どうにかその日を暮らしてゆくことができました。 父親は二年前に、海へ漁に出かけたきり …
蝋人形(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私は一人の蝋燭造を覚えている。その町は海に近い、北国の寂しい町である。町は古い家ばかりで、いずれも押し潰されたように軒の低い出入の乱れた家数の七八十戸もある灰色の町である。名を兵蔵 …
読書目安時間:約10分
私は一人の蝋燭造を覚えている。その町は海に近い、北国の寂しい町である。町は古い家ばかりで、いずれも押し潰されたように軒の低い出入の乱れた家数の七八十戸もある灰色の町である。名を兵蔵 …
老婆(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
老婆は眠っているようだ。茫然とした顔付をして人が好そうに見る。一日中古ぼけた長火鉢の傍に坐って身動きもしない。古い煤けた家で夜になると鼠が天井張を駆け廻る音が騒々しい。障子の目は暗 …
読書目安時間:約11分
老婆は眠っているようだ。茫然とした顔付をして人が好そうに見る。一日中古ぼけた長火鉢の傍に坐って身動きもしない。古い煤けた家で夜になると鼠が天井張を駆け廻る音が騒々しい。障子の目は暗 …
若き姿の文芸(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
主義を異にし、主張を異にしている作家は、各自の天分ある主観によって人生を異った方面から解釈している。材料を異った方面から採って来ている。或主義と或主義と相容れないのは、人生に対する …
読書目安時間:約3分
主義を異にし、主張を異にしている作家は、各自の天分ある主観によって人生を異った方面から解釈している。材料を異った方面から採って来ている。或主義と或主義と相容れないのは、人生に対する …
忘れられたる感情(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
もはや記憶から、消えてしまった子供の時分の感情がある。また、或時分に、ある事件によって、自分の心を占領したことのあった、忘れられた感覚がある。また、偶然にふら/\と頭の中に顔を出し …
読書目安時間:約3分
もはや記憶から、消えてしまった子供の時分の感情がある。また、或時分に、ある事件によって、自分の心を占領したことのあった、忘れられた感覚がある。また、偶然にふら/\と頭の中に顔を出し …
私は姉さん思い出す(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
花によう似た姿をば、 なんの花かと問われると すぐには返答に困るけど。 ただ微笑みてものいわず、 うす青白き夢の世に、 いまは幻と浮かぶかな。 花にいろいろあるけれど、 燃える紅い …
読書目安時間:約1分
花によう似た姿をば、 なんの花かと問われると すぐには返答に困るけど。 ただ微笑みてものいわず、 うす青白き夢の世に、 いまは幻と浮かぶかな。 花にいろいろあるけれど、 燃える紅い …
笑わない娘(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あるところに、なに不足なく育てられた少女がありました。ただ一人ぎりで、両親にはほかに子供もありませんでしたから、娘は生まれると大事に育てられたのであります。 世間にも知られるほどの …
読書目安時間:約8分
あるところに、なに不足なく育てられた少女がありました。ただ一人ぎりで、両親にはほかに子供もありませんでしたから、娘は生まれると大事に育てられたのであります。 世間にも知られるほどの …
笑わなかった少年(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ある日のこと、学校で先生が、生徒たちに向かって、 「あなたたちはどんなときに、いちばんお父さんや、お母さんをありがたいと思いましたか、そう感じたときのことをお話しください。」と、お …
読書目安時間:約6分
ある日のこと、学校で先生が、生徒たちに向かって、 「あなたたちはどんなときに、いちばんお父さんや、お母さんをありがたいと思いましたか、そう感じたときのことをお話しください。」と、お …
“小川未明”について
小川 未明(おがわ みめい、1882年〈明治15年〉4月7日 - 1961年〈昭和36年〉5月11日)は、小説家・児童文学作家。本名は小川 健作(おがわ けんさく)。「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」と呼ばれ、浜田広介と坪田譲治と並んで「児童文学界の三種の神器」と評された。娘の岡上鈴江も児童文学者。
「未明」という雅号は小川の師である坪内逍遥が付けたもので、正しくは「びめい」と読む。
(出典:Wikipedia)
「未明」という雅号は小川の師である坪内逍遥が付けたもので、正しくは「びめい」と読む。
(出典:Wikipedia)
“小川未明”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)