吉川英治
1892.08.11 〜 1962.09.07
“吉川英治”に特徴的な語句
趙雲
夏侯惇
周瑜
魯粛
廖化
讃甘
馬岱
呂蒙
黄蓋
赤飯
費褘
蔡瑁
於福
曹叡
黒衣
孔融
秀衡
合淝
劉琦
盔
朱実
高
佐女牛
師直
寧子
徐晃
許褚
徐盛
芸妓
曹丕
凌統
突嗟
荀彧
廉子
袁紹
重治
諸葛瑾
瑾
孫乾
原士
一節切
曹洪
丁奉
太史慈
下御所
楊彪
槐
幸村
画桿
那珂
著者としての作品一覧
脚(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
「彦太承知だの」 「む、行く」 「二十日の寄合いにゃ、きっと、顔を出してくれや。村の者あ、おぬしが力だ。腕も弁もあるしの、学問だって、青梨村じゃ、何というても、彦太だもんのう」 大 …
読書目安時間:約29分
「彦太承知だの」 「む、行く」 「二十日の寄合いにゃ、きっと、顔を出してくれや。村の者あ、おぬしが力だ。腕も弁もあるしの、学問だって、青梨村じゃ、何というても、彦太だもんのう」 大 …
上杉謙信(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間19分
この正月を迎えて、謙信は、ことし三十三とはなった。 まだ弱冠といっていい。それなのに、服色も装身のすべても、ひどく地味好みであった。長袖の羽織も山繭織の鶯茶の無地ですましている。大 …
読書目安時間:約4時間19分
この正月を迎えて、謙信は、ことし三十三とはなった。 まだ弱冠といっていい。それなのに、服色も装身のすべても、ひどく地味好みであった。長袖の羽織も山繭織の鶯茶の無地ですましている。大 …
美しい日本の歴史(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
一夜、ある映画館で私はつい飛んでもない自分の阿呆をあたりのつつましい観客たちに暴露していた。人気者のユル・ブリンナー主演の「大海賊」を観ているうち、誰もがシュンとしていたラストの恋 …
読書目安時間:約38分
一夜、ある映画館で私はつい飛んでもない自分の阿呆をあたりのつつましい観客たちに暴露していた。人気者のユル・ブリンナー主演の「大海賊」を観ているうち、誰もがシュンとしていたラストの恋 …
梅ちらほら(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
× どこでもいい。それこそ裏町のごみごみした露路越しでも、アパートの窓の干物のそばでも、村でも、野でも、或は、ビルデングの歩廊の壺に挿してあるのでも。 春さき、梅の花を、チラホラ見 …
読書目安時間:約6分
× どこでもいい。それこそ裏町のごみごみした露路越しでも、アパートの窓の干物のそばでも、村でも、野でも、或は、ビルデングの歩廊の壺に挿してあるのでも。 春さき、梅の花を、チラホラ見 …
江戸三国志(新字新仮名)
読書目安時間:約19時間26分
うす寒い秋風の町角に、なんの気もなく見る時ほど思わず目のそむけられるものは、女の呪詛をたばねたような、あのかもじのつり看板です。 丈の長いおどろしき黒髪が軒ばに手招きしている小間物 …
読書目安時間:約19時間26分
うす寒い秋風の町角に、なんの気もなく見る時ほど思わず目のそむけられるものは、女の呪詛をたばねたような、あのかもじのつり看板です。 丈の長いおどろしき黒髪が軒ばに手招きしている小間物 …
大岡越前(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間20分
「犬がうらやましい。ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」 冗戯にも、人間仲間で、こんなことばを聞くことが近年では、めずらしくもなくなった。 笑えるうちは、まだよかったが、この頃ではそん …
読書目安時間:約7時間20分
「犬がうらやましい。ああ、なぜ人間なぞに生れたろう」 冗戯にも、人間仲間で、こんなことばを聞くことが近年では、めずらしくもなくなった。 笑えるうちは、まだよかったが、この頃ではそん …
大谷刑部(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
七月の上旬である。唐黍のからからとうごく間に、積層雲の高い空が焦けきッた鉄板みたいにじいんと照りつけていた。 ——真っ黄いろな埃がつづく。 淀を発した騎馬、糧車、荷駄、砲隊、銃隊な …
読書目安時間:約35分
七月の上旬である。唐黍のからからとうごく間に、積層雲の高い空が焦けきッた鉄板みたいにじいんと照りつけていた。 ——真っ黄いろな埃がつづく。 淀を発した騎馬、糧車、荷駄、砲隊、銃隊な …
押入れ随筆(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ひとにはバカげていても、自分にはゆるせない潔癖がたれにもある。子供をみているとおもしろい。枕の好み一つでも、柔いのやら堅いのやらだ。食膳でも、潔癖なのと、ズボラなのが、始終問題をか …
読書目安時間:約14分
ひとにはバカげていても、自分にはゆるせない潔癖がたれにもある。子供をみているとおもしろい。枕の好み一つでも、柔いのやら堅いのやらだ。食膳でも、潔癖なのと、ズボラなのが、始終問題をか …
御鷹(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
眼がしぶい、冬日の障子越しに、鵙の声はもう午近く思われる。 弁馬は、寝床の上に、腹ばいになり、まだ一皮寝不足の膜を被っている頭脳を、頬杖に乗せて、生欠伸をした。 顔中のあばたが動く …
読書目安時間:約18分
眼がしぶい、冬日の障子越しに、鵙の声はもう午近く思われる。 弁馬は、寝床の上に、腹ばいになり、まだ一皮寝不足の膜を被っている頭脳を、頬杖に乗せて、生欠伸をした。 顔中のあばたが動く …
鬼(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「——お待ちかねでいらっしゃる。何、そのままの支度でさし支えありますまい。すぐ庭口へ」 と、近習番に促されると、棟方与右衛門は、よけいに足も進まず、気も晦くなってしまう。 案のじょ …
読書目安時間:約32分
「——お待ちかねでいらっしゃる。何、そのままの支度でさし支えありますまい。すぐ庭口へ」 と、近習番に促されると、棟方与右衛門は、よけいに足も進まず、気も晦くなってしまう。 案のじょ …
折々の記(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7時間25分
子が生まれる。子の命名が夫婦話題の悶着になる。いや、生まれない前からといつてよい。最初の子をもつ夫婦ほど、事は重大に考へられるらしい。思案にあぐねて、知己先輩へ「ひとつ、子どもの名 …
読書目安時間:約7時間25分
子が生まれる。子の命名が夫婦話題の悶着になる。いや、生まれない前からといつてよい。最初の子をもつ夫婦ほど、事は重大に考へられるらしい。思案にあぐねて、知己先輩へ「ひとつ、子どもの名 …
折々の記(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4時間28分
ことばは少く、文はみじかいほどがよい。 しかも意ふかく、餘韻あればなほさらよい。しかるに至らざるわたくしの如き、とかく冗語多く筆をもてば更に長きに失し易い。ここにはその無用をのぞい …
読書目安時間:約4時間28分
ことばは少く、文はみじかいほどがよい。 しかも意ふかく、餘韻あればなほさらよい。しかるに至らざるわたくしの如き、とかく冗語多く筆をもてば更に長きに失し易い。ここにはその無用をのぞい …
篝火の女(新字新仮名)
読書目安時間:約56分
箱根山脈の駒や足高や乙女には、まだ雪の襞が白く走っていた。そこから研ぎ颪されて来る風は春とも思えない針の冷たさを含んでいる。然し、伊豆の海の暖潮を抱いている山陰や、侍小路の土塀のう …
読書目安時間:約56分
箱根山脈の駒や足高や乙女には、まだ雪の襞が白く走っていた。そこから研ぎ颪されて来る風は春とも思えない針の冷たさを含んでいる。然し、伊豆の海の暖潮を抱いている山陰や、侍小路の土塀のう …
かんかん虫は唄う(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間5分
「食えない者は、誰でもおれに尾いて来な。晩には十銭銀貨二ツと白銅の五銭玉一ツ、みんなのポケットに悪くねえ音をさせてやるぜ」 かんかん虫のトム公は、領土の人民を見廻るように、時々、自 …
読書目安時間:約3時間5分
「食えない者は、誰でもおれに尾いて来な。晩には十銭銀貨二ツと白銅の五銭玉一ツ、みんなのポケットに悪くねえ音をさせてやるぜ」 かんかん虫のトム公は、領土の人民を見廻るように、時々、自 …
魚紋(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
今夜も又、この顔合せでは、例によって、夜明かしとなること間違い無しである。 更けても、火鉢に炭をつぐ世話もいらない程の陽気だし、桜花も今夜あたりでおしまいだろう、櫺子の外には、まだ …
読書目安時間:約30分
今夜も又、この顔合せでは、例によって、夜明かしとなること間違い無しである。 更けても、火鉢に炭をつぐ世話もいらない程の陽気だし、桜花も今夜あたりでおしまいだろう、櫺子の外には、まだ …
銀河まつり(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
人国記にいわせると、由来、信州人は争気に富むそうである。それは、他国人に比を見ない精悍熱情な点を称揚したようにも受けとれるが、実は狭量だという意味にもひびく。またこの国が、古来から …
読書目安時間:約53分
人国記にいわせると、由来、信州人は争気に富むそうである。それは、他国人に比を見ない精悍熱情な点を称揚したようにも受けとれるが、実は狭量だという意味にもひびく。またこの国が、古来から …
くせ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
家康は重大な話のうちに、ひょいと、話を聞いていない顔をする癖があると、何かの書に見た。信長は、癇癖で有名である。秀吉は、太閤殿下ともなられながら、昔の小才がぬけないで人に耳こすりを …
読書目安時間:約5分
家康は重大な話のうちに、ひょいと、話を聞いていない顔をする癖があると、何かの書に見た。信長は、癇癖で有名である。秀吉は、太閤殿下ともなられながら、昔の小才がぬけないで人に耳こすりを …
雲霧閻魔帳(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間9分
なるべく、縁起の吉い日にしようぜ。御幣をかつぐ訳じゃないが、物は縁起ということもあるし、お互い様に明日の首の座は分らない。こちとら、白浪渡世—— いうにゃ及ぶ。 さて、その日は? …
読書目安時間:約1時間9分
なるべく、縁起の吉い日にしようぜ。御幣をかつぐ訳じゃないが、物は縁起ということもあるし、お互い様に明日の首の座は分らない。こちとら、白浪渡世—— いうにゃ及ぶ。 さて、その日は? …
黒田如水(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間29分
太鼓櫓の棟木の陰へ、すいすいと吸いこまれるように、蜂がかくれてゆく、またぶーんと飛び出してゆくのもある。 ここの太鼓もずいぶん久しい年代を経ているらしい。鋲の一粒一粒が赤く錆びてい …
読書目安時間:約5時間29分
太鼓櫓の棟木の陰へ、すいすいと吸いこまれるように、蜂がかくれてゆく、またぶーんと飛び出してゆくのもある。 ここの太鼓もずいぶん久しい年代を経ているらしい。鋲の一粒一粒が赤く錆びてい …
競馬(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
競馬場がふえ、競馬ファンもふえてきた。応接間の座談として、競馬が語られる時代がきた。その中で、時々、知人のあいだにも、“楽しみを楽しまざる人”がまま多い。——競馬を苦しむ方の人であ …
読書目安時間:約3分
競馬場がふえ、競馬ファンもふえてきた。応接間の座談として、競馬が語られる時代がきた。その中で、時々、知人のあいだにも、“楽しみを楽しまざる人”がまま多い。——競馬を苦しむ方の人であ …
下頭橋由来(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
十八になるお次が、ひとつの嫁入りの資格にと、巣鴨村まで千蔭流の稽古に通い始めてから、もう二年にもなる。 その間ずうっと、彼女は家を出るたび帯の間へ、穴のあいた寛永通宝を一枚ずつ、入 …
読書目安時間:約13分
十八になるお次が、ひとつの嫁入りの資格にと、巣鴨村まで千蔭流の稽古に通い始めてから、もう二年にもなる。 その間ずうっと、彼女は家を出るたび帯の間へ、穴のあいた寛永通宝を一枚ずつ、入 …
剣難女難(新字新仮名)
読書目安時間:約8時間11分
生田の馬場の競べ馬も終ったと見えて、群集の藺笠や市女笠などが、流れにまかす花かのように、暮れかかる夕霞の道を、城下の方へなだれて帰った。 この丹波の国の年中行事となっている生田の競 …
読書目安時間:約8時間11分
生田の馬場の競べ馬も終ったと見えて、群集の藺笠や市女笠などが、流れにまかす花かのように、暮れかかる夕霞の道を、城下の方へなだれて帰った。 この丹波の国の年中行事となっている生田の競 …
剣の四君子:01 序(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
題して剣の四君子という。少し気取り過ぎたきらいがないでもないが、剣の相、花の姿、対照はわるくないと、わたくしには感じられる。 菊の高雅な匂い、春蘭の身を懸崖に置きながらの優しさ。雪 …
読書目安時間:約2分
題して剣の四君子という。少し気取り過ぎたきらいがないでもないが、剣の相、花の姿、対照はわるくないと、わたくしには感じられる。 菊の高雅な匂い、春蘭の身を懸崖に置きながらの優しさ。雪 …
剣の四君子:02 柳生石舟斎(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間21分
新介は、その年、十六歳であった。 大和国神戸ノ庄、小柳生城の主、柳生美作守家厳の嫡男として生れ、産れ落ちた嬰児の時から、体はあまり丈夫なほうでなかった。 母なる人が、青梅の実にあた …
読書目安時間:約1時間21分
新介は、その年、十六歳であった。 大和国神戸ノ庄、小柳生城の主、柳生美作守家厳の嫡男として生れ、産れ落ちた嬰児の時から、体はあまり丈夫なほうでなかった。 母なる人が、青梅の実にあた …
剣の四君子:03 林崎甚助(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
母のすがたを見ると、甚助の眼はひとりでに熱くなった。 世の中でいちばん不倖せな人が、母の姿であるように見られた。 「どうしたら母は楽しむだろうか」 物心のつき初めた頃から、甚助はそ …
読書目安時間:約22分
母のすがたを見ると、甚助の眼はひとりでに熱くなった。 世の中でいちばん不倖せな人が、母の姿であるように見られた。 「どうしたら母は楽しむだろうか」 物心のつき初めた頃から、甚助はそ …
剣の四君子:04 高橋泥舟(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
熟れた柿が落ちている。何のことから始まったのか、柿の木の下で、兄弟は取っ組み合っていた。 小さい謙三郎は、手もなく、兄の紀一郎に投げつけられて、強かに背を大地へ打ちつけた。 「よく …
読書目安時間:約20分
熟れた柿が落ちている。何のことから始まったのか、柿の木の下で、兄弟は取っ組み合っていた。 小さい謙三郎は、手もなく、兄の紀一郎に投げつけられて、強かに背を大地へ打ちつけた。 「よく …
剣の四君子:05 小野忠明(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
「松坂へ帰ろうか。松坂へ帰ればよい師にも巡り会えように」 典膳は時々考えこむ。彼も迷い多き青年の二十歳へかかりかけていた。 郷里伊勢の松坂は武道の府であった。世に太の御所とよばれた …
読書目安時間:約53分
「松坂へ帰ろうか。松坂へ帰ればよい師にも巡り会えように」 典膳は時々考えこむ。彼も迷い多き青年の二十歳へかかりかけていた。 郷里伊勢の松坂は武道の府であった。世に太の御所とよばれた …
紅梅の客(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
ひとくちに紅くさえあれば紅梅といっているが、あの紅さもいろいろである。ほんとの真紅はまったく少い。かなり紅いのでも花の顔を覗くと中はほの白くて、遠目にするとそれが淡紅に見えてしまう …
読書目安時間:約16分
ひとくちに紅くさえあれば紅梅といっているが、あの紅さもいろいろである。ほんとの真紅はまったく少い。かなり紅いのでも花の顔を覗くと中はほの白くて、遠目にするとそれが淡紅に見えてしまう …
三国志:01 序(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
三国志は、いうまでもなく、今から約千八百年前の古典であるが、三国志の中に活躍している登場人物は、現在でも中国大陸の至る所にそのまま居るような気がする。——中国大陸へ行って、そこの雑 …
読書目安時間:約3分
三国志は、いうまでもなく、今から約千八百年前の古典であるが、三国志の中に活躍している登場人物は、現在でも中国大陸の至る所にそのまま居るような気がする。——中国大陸へ行って、そこの雑 …
三国志:02 桃園の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間11分
後漢の建寧元年のころ。 今から約千七百八十年ほど前のことである。 一人の旅人があった。 腰に、一剣を佩いているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、眉は秀で、唇は紅く、とりわけ聡明 …
読書目安時間:約5時間11分
後漢の建寧元年のころ。 今から約千七百八十年ほど前のことである。 一人の旅人があった。 腰に、一剣を佩いているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、眉は秀で、唇は紅く、とりわけ聡明 …
三国志:03 群星の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間4分
曹操を搦めよ。 布令は、州郡諸地方へ飛んだ。 その迅速を競って。 一方—— 洛陽の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも中牟県(河 …
読書目安時間:約5時間4分
曹操を搦めよ。 布令は、州郡諸地方へ飛んだ。 その迅速を競って。 一方—— 洛陽の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも中牟県(河 …
三国志:04 草莽の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間3分
「なに、無条件で和睦せよと。ばかをいい給え」 郭汜は、耳もかさない。 それのみか、不意に、兵に令を下して、楊彪について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。 …
読書目安時間:約5時間3分
「なに、無条件で和睦せよと。ばかをいい給え」 郭汜は、耳もかさない。 それのみか、不意に、兵に令を下して、楊彪について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。 …
三国志:05 臣道の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間17分
呂布は、櫓に現れて、 「われを呼ぶは何者か」と、わざと云った。 泗水の流れを隔てて、曹操の声は水にこだまして聞えてきた。 「君を呼ぶ者は君の好き敵である許都の丞相曹操だ。——しかし …
読書目安時間:約5時間17分
呂布は、櫓に現れて、 「われを呼ぶは何者か」と、わざと云った。 泗水の流れを隔てて、曹操の声は水にこだまして聞えてきた。 「君を呼ぶ者は君の好き敵である許都の丞相曹操だ。——しかし …
三国志:06 孔明の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間23分
時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。 明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏の …
読書目安時間:約5時間23分
時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。 明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏の …
三国志:07 赤壁の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間28分
十年語り合っても理解し得ない人と人もあるし、一夕の間に百年の知己となる人と人もある。 玄徳と孔明とは、お互いに、一見旧知のごとき情を抱いた。いわゆる意気相許したというものであろう。 …
読書目安時間:約5時間28分
十年語り合っても理解し得ない人と人もあるし、一夕の間に百年の知己となる人と人もある。 玄徳と孔明とは、お互いに、一見旧知のごとき情を抱いた。いわゆる意気相許したというものであろう。 …
三国志:08 望蜀の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間18分
「この大機会を逸してどうしましょうぞ」 という魯粛の諫めに励まされて、周瑜もにわかにふるい起ち、 「まず、甘寧を呼べ」と令し、営中の参謀部は、俄然、活気を呈した。 「甘寧にござりま …
読書目安時間:約5時間18分
「この大機会を逸してどうしましょうぞ」 という魯粛の諫めに励まされて、周瑜もにわかにふるい起ち、 「まず、甘寧を呼べ」と令し、営中の参謀部は、俄然、活気を呈した。 「甘寧にござりま …
三国志:09 図南の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間46分
呉侯の妹、玄徳の夫人は、やがて呉の都へ帰った。 孫権はすぐ妹に質した。 「周善はどうしたか」 「途中、江の上で、張飛や趙雲に阻められ、斬殺されました」 「なぜ、そなたは、阿斗を抱い …
読書目安時間:約5時間46分
呉侯の妹、玄徳の夫人は、やがて呉の都へ帰った。 孫権はすぐ妹に質した。 「周善はどうしたか」 「途中、江の上で、張飛や趙雲に阻められ、斬殺されました」 「なぜ、そなたは、阿斗を抱い …
三国志:10 出師の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間23分
まだ敵味方とも気づかないらしいが、樊城の完全占領も時の問題とされている一歩手前で、関羽軍の内部には、微妙な変化が起っていたのである。 魏の本国から急援として派した七軍を粉砕し、一方 …
読書目安時間:約6時間23分
まだ敵味方とも気づかないらしいが、樊城の完全占領も時の問題とされている一歩手前で、関羽軍の内部には、微妙な変化が起っていたのである。 魏の本国から急援として派した七軍を粉砕し、一方 …
三国志:11 五丈原の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間46分
蜀の大軍は、沔陽(陝西省・沔県、漢中の西)まで進んで出た。ここまで来た時、 「魏は関西の精兵を以て、長安(陝西省・西安)に布陣し、大本営をそこにおいた」 という情報が的確になった。 …
読書目安時間:約5時間46分
蜀の大軍は、沔陽(陝西省・沔県、漢中の西)まで進んで出た。ここまで来た時、 「魏は関西の精兵を以て、長安(陝西省・西安)に布陣し、大本営をそこにおいた」 という情報が的確になった。 …
三国志:12 篇外余録(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
三国鼎立の大勢は、ときの治乱が起した大陸分権の自然な風雲作用でもあったが、その創意はもともと諸葛孔明という一人物の胸底から生れ出たものであることは何としても否みがたい。まだ二十七歳 …
読書目安時間:約42分
三国鼎立の大勢は、ときの治乱が起した大陸分権の自然な風雲作用でもあったが、その創意はもともと諸葛孔明という一人物の胸底から生れ出たものであることは何としても否みがたい。まだ二十七歳 …
舌のすさび(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
あれはもう何年前か。とにかく晩春だった。陛下をかこんでおはなしする会が皇居内の花陰亭でもよおされた。文化人四、五名お招きうけてである。——その雑談中のことであったが 『陛下。陛下は …
読書目安時間:約7分
あれはもう何年前か。とにかく晩春だった。陛下をかこんでおはなしする会が皇居内の花陰亭でもよおされた。文化人四、五名お招きうけてである。——その雑談中のことであったが 『陛下。陛下は …
辞典のすすめ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
とかく、現代人はまだ、辞書辞典などを、ほんとに、自分の頭脳にしきっていない。そのくせ、現今ほど、辞典の良書が、ぼくらの書架に、その選択の自由を豊かにされている時代もないのだが、なお …
読書目安時間:約2分
とかく、現代人はまだ、辞書辞典などを、ほんとに、自分の頭脳にしきっていない。そのくせ、現今ほど、辞典の良書が、ぼくらの書架に、その選択の自由を豊かにされている時代もないのだが、なお …
私本太平記:01 あしかが帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間10分
まだ除夜の鐘には、すこし間がある。 とまれ、ことしも大晦日まで無事に暮れた。だが、あしたからの来る年は。 洛中の耳も、大極殿のたたずまいも、やがての鐘を、偉大な予言者の声にでも触れ …
読書目安時間:約4時間10分
まだ除夜の鐘には、すこし間がある。 とまれ、ことしも大晦日まで無事に暮れた。だが、あしたからの来る年は。 洛中の耳も、大極殿のたたずまいも、やがての鐘を、偉大な予言者の声にでも触れ …
私本太平記:02 婆娑羅帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間8分
都は紅葉しかけている。 高尾も、鞍馬も。 その日、二条加茂川べりの水鳥亭は、月例の“文談会”の日であった。 流れにのぞむ広間の水欄には、ちらほら、参会者の顔も見えはじめ、思い思いな …
読書目安時間:約4時間8分
都は紅葉しかけている。 高尾も、鞍馬も。 その日、二条加茂川べりの水鳥亭は、月例の“文談会”の日であった。 流れにのぞむ広間の水欄には、ちらほら、参会者の顔も見えはじめ、思い思いな …
私本太平記:03 みなかみ帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間16分
古市の朝は、舟の櫓音やら車の音で明けはじめる。 ほどなく、散所民のわめき声だの、赤子の泣き声。そして、市の騒音も陽と共に高くなり、やがて型どおりな毎日の生態と砂塵が附近一帯をたち籠 …
読書目安時間:約4時間16分
古市の朝は、舟の櫓音やら車の音で明けはじめる。 ほどなく、散所民のわめき声だの、赤子の泣き声。そして、市の騒音も陽と共に高くなり、やがて型どおりな毎日の生態と砂塵が附近一帯をたち籠 …
私本太平記:04 帝獄帖(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間48分
ここで日と月は、少し以前へもどるが。 足利家の大蔵邸に預けられていた囚人僧のひとり忠円が、鎌倉表から越後へ流されて行った前後に、その忠円の密使らしい者が、叡山の坂本にある山門の別当 …
読書目安時間:約3時間48分
ここで日と月は、少し以前へもどるが。 足利家の大蔵邸に預けられていた囚人僧のひとり忠円が、鎌倉表から越後へ流されて行った前後に、その忠円の密使らしい者が、叡山の坂本にある山門の別当 …
私本太平記:05 世の辻の帖(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間41分
先帝後醍醐の隠岐遠流。 二皇子の四国流し。 その日は近かった。あと二日ほどでしかない。洛中は車馬のうごきにも緊迫した時局が見えて、不気味な流言もまま飛んでいた。 「楠木はまだ生きて …
読書目安時間:約3時間41分
先帝後醍醐の隠岐遠流。 二皇子の四国流し。 その日は近かった。あと二日ほどでしかない。洛中は車馬のうごきにも緊迫した時局が見えて、不気味な流言もまま飛んでいた。 「楠木はまだ生きて …
私本太平記:06 八荒帖(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間39分
十月。晩秋の好晴。 北条高時は江ノ島の弁財天へ参籠して、船で浜御所へもどる海上の途にあった。 「なに。わしを清盛のようだとか?」 あの特有なかなつぼ眼で、高時は船中の船酒盛りの近習 …
読書目安時間:約3時間39分
十月。晩秋の好晴。 北条高時は江ノ島の弁財天へ参籠して、船で浜御所へもどる海上の途にあった。 「なに。わしを清盛のようだとか?」 あの特有なかなつぼ眼で、高時は船中の船酒盛りの近習 …
私本太平記:07 千早帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間5分
正成は弓杖をつき、すこし跛をひいていた。 もっとも、千早の城兵はいま、五体満足なのはほとんど少ない。将たちもみなどこかには、怪我か手傷を負ッていた。 でなければ病人である。 「…… …
読書目安時間:約4時間5分
正成は弓杖をつき、すこし跛をひいていた。 もっとも、千早の城兵はいま、五体満足なのはほとんど少ない。将たちもみなどこかには、怪我か手傷を負ッていた。 でなければ病人である。 「…… …
私本太平記:08 新田帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間9分
不破から西は、一瀉千里の行軍だった。この日すでに、足利軍五千は、湖畔の野洲の大原をえんえんと急いでいた。 「都へ着いても、おそらくは食糧難か」 と、三河仕立ての輜重隊をひきつれてい …
読書目安時間:約4時間9分
不破から西は、一瀉千里の行軍だった。この日すでに、足利軍五千は、湖畔の野洲の大原をえんえんと急いでいた。 「都へ着いても、おそらくは食糧難か」 と、三河仕立ての輜重隊をひきつれてい …
私本太平記:09 建武らくがき帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間21分
いわば五月は革命月だった。誌すべきことが余りに多い。——で、鎌倉をしばらく措く。——そしてここはまだ天下混沌といっていいところだが、奕々と天の一方からは、理想の到達に誇ッた凱歌のあ …
読書目安時間:約4時間21分
いわば五月は革命月だった。誌すべきことが余りに多い。——で、鎌倉をしばらく措く。——そしてここはまだ天下混沌といっていいところだが、奕々と天の一方からは、理想の到達に誇ッた凱歌のあ …
私本太平記:10 風花帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間9分
敗者の当然ながら、直義の三河落ちはみじめであった。 淵辺伊賀守の斬り死になどもかえりみてはいられず——敵に追われどおしで、とくに手越河原では残りすくない将士をさらにたくさん失い、今 …
読書目安時間:約4時間9分
敗者の当然ながら、直義の三河落ちはみじめであった。 淵辺伊賀守の斬り死になどもかえりみてはいられず——敵に追われどおしで、とくに手越河原では残りすくない将士をさらにたくさん失い、今 …
私本太平記:11 筑紫帖(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間56分
妙な噂が立った。 それも宮中からである。正成諫奏の直後だった。 「河内守が乱心した」 「いや気鬱の程度だとか」 「何、そうでない。君前にてあるまじき狂語を吐き、ために謹慎を命じられ …
読書目安時間:約2時間56分
妙な噂が立った。 それも宮中からである。正成諫奏の直後だった。 「河内守が乱心した」 「いや気鬱の程度だとか」 「何、そうでない。君前にてあるまじき狂語を吐き、ために謹慎を命じられ …
私本太平記:12 湊川帖(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間3分
まだ葉ざくらは初々しい。竹窓の内までが、あら壁もむしろも人も、その静かな、さみどりに染まっている。 「…………」 正成はさっきから赤鶴の仕事にしげしげと見とれていた。天野沢の金剛寺 …
読書目安時間:約4時間3分
まだ葉ざくらは初々しい。竹窓の内までが、あら壁もむしろも人も、その静かな、さみどりに染まっている。 「…………」 正成はさっきから赤鶴の仕事にしげしげと見とれていた。天野沢の金剛寺 …
私本太平記:13 黒白帖(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間55分
直義は残って、なお重臣たちと、今後の方針をかためあった。 御逃亡の君については、詮議はもちろん、尊氏の意を服膺して、むしろ予想しうる二次、三次のそなえに心をくばるべきであるとし、ほ …
読書目安時間:約3時間55分
直義は残って、なお重臣たちと、今後の方針をかためあった。 御逃亡の君については、詮議はもちろん、尊氏の意を服膺して、むしろ予想しうる二次、三次のそなえに心をくばるべきであるとし、ほ …
小説のタネ(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
いま帰って来たばかりなんですよ。大映の試写室で、「鳴門秘帖」を見たんですがね。考えてみると、あれを書いたのは三十年前なんだな。てれましたね、たいへんに。映画化は今度で七回目なんです …
読書目安時間:約23分
いま帰って来たばかりなんですよ。大映の試写室で、「鳴門秘帖」を見たんですがね。考えてみると、あれを書いたのは三十年前なんだな。てれましたね、たいへんに。映画化は今度で七回目なんです …
正倉院展を観る(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ちかごろこんなにみたされた気もちはなかった。正倉院宝物展を見てである。その晩は“咲く花の匂うが如き”とうたわれた千二百年前の天平びとに返った夢でもみるかもしれないと思ったほどだ。 …
読書目安時間:約6分
ちかごろこんなにみたされた気もちはなかった。正倉院宝物展を見てである。その晩は“咲く花の匂うが如き”とうたわれた千二百年前の天平びとに返った夢でもみるかもしれないと思ったほどだ。 …
醤油仏(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
五月雨は人を殺す?…… 人入れ渡世の銅鑼屋の亀さんの部屋にいる、日傭取の人足達も、七人が七人とも雨で、十日も仕事にあぶれて、みんな婆羅門の行者みたいに目を凹ましていた。 左次郎は隅 …
読書目安時間:約30分
五月雨は人を殺す?…… 人入れ渡世の銅鑼屋の亀さんの部屋にいる、日傭取の人足達も、七人が七人とも雨で、十日も仕事にあぶれて、みんな婆羅門の行者みたいに目を凹ましていた。 左次郎は隅 …
治郎吉格子(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
湯槽のなかに眼を閉じていても、世間のうごきはおよそわかる——。ふた月も病人を装って辛抱していたこの有馬の湯治場から、世間の陽あたりへ歩き出せば、すぐにあしのつくというくらいな寸法は …
読書目安時間:約41分
湯槽のなかに眼を閉じていても、世間のうごきはおよそわかる——。ふた月も病人を装って辛抱していたこの有馬の湯治場から、世間の陽あたりへ歩き出せば、すぐにあしのつくというくらいな寸法は …
神州天馬侠(新字新仮名)
読書目安時間:約17時間10分
私は、元来、少年小説を書くのが好きである。大人の世界にあるような、きゅうくつな概念にとらわれないでいいからだ。 少年小説を書いている間は、自分もまったく、童心のむかしに返る、少年の …
読書目安時間:約17時間10分
私は、元来、少年小説を書くのが好きである。大人の世界にあるような、きゅうくつな概念にとらわれないでいいからだ。 少年小説を書いている間は、自分もまったく、童心のむかしに返る、少年の …
新書太閤記:01 第一分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間5分
民衆の上にある英雄と、民衆のなかに伍してゆく英雄と、いにしえの英雄たちにも、星座のように、各〻の性格と軌道があった。 秀吉は、後者のひとであった。 生れおちた時から壮年期はいうまで …
読書目安時間:約6時間5分
民衆の上にある英雄と、民衆のなかに伍してゆく英雄と、いにしえの英雄たちにも、星座のように、各〻の性格と軌道があった。 秀吉は、後者のひとであった。 生れおちた時から壮年期はいうまで …
新書太閤記:02 第二分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間25分
「こひ!」 浅野又右衛門は、家に帰ると、すぐ大きな声で、妻の名をどなった。 於こひは、あわただしく、出迎えて、 「お帰りなさいませ」 「酒の支度せい」 いきなりいって—— 「お客を …
読書目安時間:約6時間25分
「こひ!」 浅野又右衛門は、家に帰ると、すぐ大きな声で、妻の名をどなった。 於こひは、あわただしく、出迎えて、 「お帰りなさいませ」 「酒の支度せい」 いきなりいって—— 「お客を …
新書太閤記:03 第三分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間14分
永禄五年の正月、信長は二十九歳の元旦を迎えた。 まだほの暗いうちに、彼は起って浴室にはいると、水浴みして身を浄めていた。 井水はかえって暖かく、白いものが立ち昇っているが、それを汲 …
読書目安時間:約6時間14分
永禄五年の正月、信長は二十九歳の元旦を迎えた。 まだほの暗いうちに、彼は起って浴室にはいると、水浴みして身を浄めていた。 井水はかえって暖かく、白いものが立ち昇っているが、それを汲 …
新書太閤記:04 第四分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間18分
九死に一生を得、殿軍の任を果して帰った将士が、京都に帰りついた第一夜の望みは、 「とにかく寝たい!」 それだけだった。 君前に報告を終って、退って来る途中からもう藤吉郎は、 「寝る …
読書目安時間:約6時間18分
九死に一生を得、殿軍の任を果して帰った将士が、京都に帰りついた第一夜の望みは、 「とにかく寝たい!」 それだけだった。 君前に報告を終って、退って来る途中からもう藤吉郎は、 「寝る …
新書太閤記:05 第五分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間38分
湖畔の城は、日にまし重きをなした。長浜の町には、灯のかずが夜ごとのように増えてゆく。 風土はよし、天産にはめぐまれている。しかも、城主に人を得て、安業楽土の国とは、おれたちのことな …
読書目安時間:約6時間38分
湖畔の城は、日にまし重きをなした。長浜の町には、灯のかずが夜ごとのように増えてゆく。 風土はよし、天産にはめぐまれている。しかも、城主に人を得て、安業楽土の国とは、おれたちのことな …
新書太閤記:06 第六分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間43分
秀吉の赴いている中国陣。 光秀の活躍している丹波方面の戦線。 また、包囲長攻のまま年を越した伊丹の陣。 信長の事業はいま、こう三方面に展開されている。中国も伊丹も依然、膠着状態と化 …
読書目安時間:約6時間43分
秀吉の赴いている中国陣。 光秀の活躍している丹波方面の戦線。 また、包囲長攻のまま年を越した伊丹の陣。 信長の事業はいま、こう三方面に展開されている。中国も伊丹も依然、膠着状態と化 …
新書太閤記:07 第七分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間44分
備前岡山の城はいま旺んなる改修増築の工事にかかっている。 ここの町を中心として、吉備平の春を占めて、六万の軍馬が待機していた。 「いったい戦争はあるのかないのか」 熟れる菜の花を見 …
読書目安時間:約6時間44分
備前岡山の城はいま旺んなる改修増築の工事にかかっている。 ここの町を中心として、吉備平の春を占めて、六万の軍馬が待機していた。 「いったい戦争はあるのかないのか」 熟れる菜の花を見 …
新書太閤記:08 第八分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間28分
依然。——秀吉はさっきの所に坐ったままであった。 燭の下に、灰となった薄いものが散っていた。長谷川宗仁からの飛脚状を焼いたものと思われる。 飛脚の者を始末しおえた彦右衛門と久太郎秀 …
読書目安時間:約6時間28分
依然。——秀吉はさっきの所に坐ったままであった。 燭の下に、灰となった薄いものが散っていた。長谷川宗仁からの飛脚状を焼いたものと思われる。 飛脚の者を始末しおえた彦右衛門と久太郎秀 …
新書太閤記:09 第九分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間18分
越前はもう積雪の国だった。 雪となり出すと、明けても雪霏々、暮れても雪霏々、心を放つ窓もない。 が、北ノ庄の城廓は、この冬、いつもの年よりは、何か、あたたかいものがあった。 お市の …
読書目安時間:約6時間18分
越前はもう積雪の国だった。 雪となり出すと、明けても雪霏々、暮れても雪霏々、心を放つ窓もない。 が、北ノ庄の城廓は、この冬、いつもの年よりは、何か、あたたかいものがあった。 お市の …
新書太閤記:10 第十分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間57分
一年。——実にわずか一年の間でしかない。 去年天正十年の初夏から、ことし十一年の夏までの間に、秀吉の位置は、秀吉自身すら、内心、驚目したであろう程な飛躍を遂げた。 明智を討ち、柴田 …
読書目安時間:約5時間57分
一年。——実にわずか一年の間でしかない。 去年天正十年の初夏から、ことし十一年の夏までの間に、秀吉の位置は、秀吉自身すら、内心、驚目したであろう程な飛躍を遂げた。 明智を討ち、柴田 …
新書太閤記:11 第十一分冊(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間16分
ぜひもなく秀吉もまた、軍をかえして、楽田へひきあげた。 彼が舌を巻いて嘆じて云った——モチにも網にもかからない家康と、またふたたび、小牧において、にらみあいの対峙をつづけるほかなか …
読書目安時間:約6時間16分
ぜひもなく秀吉もまた、軍をかえして、楽田へひきあげた。 彼が舌を巻いて嘆じて云った——モチにも網にもかからない家康と、またふたたび、小牧において、にらみあいの対峙をつづけるほかなか …
新・水滸伝(新字新仮名)
読書目安時間:約22時間55分
頃は、今から九百年前。——中華の黄土大陸は大宋国といって、首都を河南省の開封東京にさだめ、宋朝歴代の王業は、四代の仁宗皇帝につがれていた。 その嘉祐三年の三月三日のことである。 天 …
読書目安時間:約22時間55分
頃は、今から九百年前。——中華の黄土大陸は大宋国といって、首都を河南省の開封東京にさだめ、宋朝歴代の王業は、四代の仁宗皇帝につがれていた。 その嘉祐三年の三月三日のことである。 天 …
死んだ千鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
裏藪の中に分け入って佇むと、まだ、チチッとしか啼けない鶯の子が、自分の袂の中からでも飛んだように、すぐ側から逃げて行く。 (おや、白い小猫?) と、見れば、それは七日も前に降った春 …
読書目安時間:約31分
裏藪の中に分け入って佇むと、まだ、チチッとしか啼けない鶯の子が、自分の袂の中からでも飛んだように、すぐ側から逃げて行く。 (おや、白い小猫?) と、見れば、それは七日も前に降った春 …
新・平家物語:01 “はしがき”に代えて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず。たゞ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。偏に風の前の塵におなじ。 遠く異朝 …
読書目安時間:約1分
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず。たゞ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂には亡びぬ。偏に風の前の塵におなじ。 遠く異朝 …
新・平家物語:02 ちげぐさの巻(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間8分
『平太よ。また塩小路などを、うろうろと、道草くうて、帰るではないぞ』 使の出がけに、清盛は、父忠盛から背へ喚かれた。——その声に、たえず背を追われているようなかれの足つきだった。 …
読書目安時間:約4時間8分
『平太よ。また塩小路などを、うろうろと、道草くうて、帰るではないぞ』 使の出がけに、清盛は、父忠盛から背へ喚かれた。——その声に、たえず背を追われているようなかれの足つきだった。 …
新編忠臣蔵(新字新仮名)
読書目安時間:約11時間19分
春の生理をみなぎらした川筋の満潮が、石垣の蠣の一つ一つへ、ひたひたと接吻に似た音をひそめている。鉄砲洲築地の浅野家の上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。ゆるい一風ごとに、塀の紅梅や柳 …
読書目安時間:約11時間19分
春の生理をみなぎらした川筋の満潮が、石垣の蠣の一つ一つへ、ひたひたと接吻に似た音をひそめている。鉄砲洲築地の浅野家の上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。ゆるい一風ごとに、塀の紅梅や柳 …
親鸞(新字新仮名)
読書目安時間:約19時間5分
歎異鈔旅にもち来て虫の声—— わたくしの旧い拙い句である。こんな月並に耽っていた青年ごろから、自分の思索にはおぼろげながら親鸞がすでにあった。親鸞の教義を味解してというよりも——親 …
読書目安時間:約19時間5分
歎異鈔旅にもち来て虫の声—— わたくしの旧い拙い句である。こんな月並に耽っていた青年ごろから、自分の思索にはおぼろげながら親鸞がすでにあった。親鸞の教義を味解してというよりも——親 …
親鸞聖人について(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
先ごろは、親鸞聖人の大遠忌があり、今夜も親鸞聖人についてご関心の深い、またご信仰の深い皆さまのお集まりと思うのでありますが、私はそうした皆さまにお話し申し上げるほどの何も持っていな …
読書目安時間:約31分
先ごろは、親鸞聖人の大遠忌があり、今夜も親鸞聖人についてご関心の深い、またご信仰の深い皆さまのお集まりと思うのでありますが、私はそうした皆さまにお話し申し上げるほどの何も持っていな …
親鸞の水脈(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
本誌(大法輪)の二十五年に因んで、僕の二十五歳頃を語れと仰っしゃるんですか。さあ今の青年とちがって、僕らのその時代は無我夢中でしたな。合理主義、利己主義、そんな風を卑しむ風潮の中で …
読書目安時間:約8分
本誌(大法輪)の二十五年に因んで、僕の二十五歳頃を語れと仰っしゃるんですか。さあ今の青年とちがって、僕らのその時代は無我夢中でしたな。合理主義、利己主義、そんな風を卑しむ風潮の中で …
随筆 私本太平記(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間54分
おそらく、十代二十代の人には一笑にも値しまい。けれど私たちの年齢の者は、平凡なはなしだが、「ああ、元日か」の感慨を年々またあらたにする。昨日の歴史、あの戦中戦後を通って来て、生ける …
読書目安時間:約1時間54分
おそらく、十代二十代の人には一笑にも値しまい。けれど私たちの年齢の者は、平凡なはなしだが、「ああ、元日か」の感慨を年々またあらたにする。昨日の歴史、あの戦中戦後を通って来て、生ける …
随筆 新平家(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間6分
どうも、序文というよりは、これは“おことわりがき”になりそうです。 なにしろ、この中に収められた随想や紀行文の一切は、後になって、こんな単行本として纏められるつもりなどはちっともな …
読書目安時間:約7時間6分
どうも、序文というよりは、これは“おことわりがき”になりそうです。 なにしろ、この中に収められた随想や紀行文の一切は、後になって、こんな単行本として纏められるつもりなどはちっともな …
随筆 宮本武蔵(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間43分
古人を観るのは、山を観るようなものである。観る者の心ひとつで、山のありかたは千差万別する。 無用にも有用にも。遠くにも、身近にも。 山に対して、山を観るがごとく、時をへだてて古人を …
読書目安時間:約4時間43分
古人を観るのは、山を観るようなものである。観る者の心ひとつで、山のありかたは千差万別する。 無用にも有用にも。遠くにも、身近にも。 山に対して、山を観るがごとく、時をへだてて古人を …
雪村筆「茄子図」(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
画でも書でも掛ければそこの壁にはその作者が存在する。つまり一個の客と自分との同棲の状態がおこる。だから書斎掛けの幅には、自分と異質を感じるようなものはがまんにも下げておかれない。 …
読書目安時間:約3分
画でも書でも掛ければそこの壁にはその作者が存在する。つまり一個の客と自分との同棲の状態がおこる。だから書斎掛けの幅には、自分と異質を感じるようなものはがまんにも下げておかれない。 …
増長天王(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
こんな奥深い峡谷は、町から思うと寒い筈だが、案外冷たい風もなく、南勾配を選って山歩きをしていると草萌頃のむしむしとする地息に、毛の根が痒くなる程な汗を覚える。 天明二年の春さきであ …
読書目安時間:約23分
こんな奥深い峡谷は、町から思うと寒い筈だが、案外冷たい風もなく、南勾配を選って山歩きをしていると草萌頃のむしむしとする地息に、毛の根が痒くなる程な汗を覚える。 天明二年の春さきであ …
俗即菩提(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
みんな金を持って、金を捨てにゆく群衆が、どうして皆あんなに愉快そうな顔を揃えてゆくだろうか。時にふと、あの朝の夥しい足なみを、ふしぎに眺めることがある。 競馬は、人間のひとつの強い …
読書目安時間:約2分
みんな金を持って、金を捨てにゆく群衆が、どうして皆あんなに愉快そうな顔を揃えてゆくだろうか。時にふと、あの朝の夥しい足なみを、ふしぎに眺めることがある。 競馬は、人間のひとつの強い …
平の将門(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間47分
原始のすがたから、徐々に、人間のすむ大地へ。 坂東平野は、いま、大きく、移りかけていた。 ——ために、太古からの自然も、ようやく、あちこち、痍だらけになり、まぬがれぬ脱皮を、苦悶す …
読書目安時間:約7時間47分
原始のすがたから、徐々に、人間のすむ大地へ。 坂東平野は、いま、大きく、移りかけていた。 ——ために、太古からの自然も、ようやく、あちこち、痍だらけになり、まぬがれぬ脱皮を、苦悶す …
田崎草雲とその子(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
山谷堀の船宿、角中の亭主は、狂歌や戯作などやって、ちっとばかり筆が立つ。号を十字舎三九といっていたが、後に、十返舎一九と改めて、例の膝栗毛を世間に出した。 それが馬鹿な売れ行きをみ …
読書目安時間:約40分
山谷堀の船宿、角中の亭主は、狂歌や戯作などやって、ちっとばかり筆が立つ。号を十字舎三九といっていたが、後に、十返舎一九と改めて、例の膝栗毛を世間に出した。 それが馬鹿な売れ行きをみ …
茶漬三略(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間17分
人々は時の天下様である太閤の氏素姓を知りたがった。羽柴筑前守秀吉あたりから後のことは、誰でも知っていたが、その以前の彼を知りたがった。 わけて、小猿とか、日吉とか呼ばれて、姓さえろ …
読書目安時間:約1時間17分
人々は時の天下様である太閤の氏素姓を知りたがった。羽柴筑前守秀吉あたりから後のことは、誰でも知っていたが、その以前の彼を知りたがった。 わけて、小猿とか、日吉とか呼ばれて、姓さえろ …
天皇と競馬(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
五月五日には天皇賞レースがある。淀競馬場は沸くだろう。日本のクラシック・レースでも最長距離の力戦である。 天皇賞レースには、御紋章づきの楯が授与されるが、陛下が競馬場へおいでになっ …
読書目安時間:約3分
五月五日には天皇賞レースがある。淀競馬場は沸くだろう。日本のクラシック・レースでも最長距離の力戦である。 天皇賞レースには、御紋章づきの楯が授与されるが、陛下が競馬場へおいでになっ …
夏虫行燈(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
迅い雲脚である。裾野の方から墨を流すように拡がって、見る間に、盆地の町——甲府の空を蔽ってしまう。 遽かに、日蝕のように晦かった。 板簾の裾は、大きく風に揚げられて、廂をたたき、庭 …
読書目安時間:約37分
迅い雲脚である。裾野の方から墨を流すように拡がって、見る間に、盆地の町——甲府の空を蔽ってしまう。 遽かに、日蝕のように晦かった。 板簾の裾は、大きく風に揚げられて、廂をたたき、庭 …
鍋島甲斐守(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
問う者が、 (世の中に何がいちばん多いか) と訊いたところ、答える者が、 (それは人間でしょう) と、云った。 問う者が又、重ねて、 (では、世の中に何がいちばん少いか) すると、 …
読書目安時間:約23分
問う者が、 (世の中に何がいちばん多いか) と訊いたところ、答える者が、 (それは人間でしょう) と、云った。 問う者が又、重ねて、 (では、世の中に何がいちばん少いか) すると、 …
鳴門秘帖:01 上方の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間8分
安治川尻に浪が立つのか、寝しずまった町の上を、しきりに夜鳥が越えて行く。 びッくりさせる、不粋なやつ、ギャーッという五位鷺の声も時々、——妙に陰気で、うすら寒い空梅雨の晩なのである …
読書目安時間:約4時間8分
安治川尻に浪が立つのか、寝しずまった町の上を、しきりに夜鳥が越えて行く。 びッくりさせる、不粋なやつ、ギャーッという五位鷺の声も時々、——妙に陰気で、うすら寒い空梅雨の晩なのである …
鳴門秘帖:02 江戸の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間41分
みぞれ模様の冬空になった。明和二年のその年も十一月の中旬を過ぎて。 ここは江戸表——お茶の水の南添いに起伏している駿河台の丘。日ごとに葉をもがれてゆく裸木は、女が抜毛を傷むように、 …
読書目安時間:約4時間41分
みぞれ模様の冬空になった。明和二年のその年も十一月の中旬を過ぎて。 ここは江戸表——お茶の水の南添いに起伏している駿河台の丘。日ごとに葉をもがれてゆく裸木は、女が抜毛を傷むように、 …
鳴門秘帖:03 木曾の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間55分
未明のうちに、本郷森川宿を出たお綱と万吉とが、中仙道をはかどって、もうそろそろ碓氷峠の姿や、浅間の噴煙を仰いでいようと思われる頃、——三日おくれて、同じ中仙道の宿駅に、三人づれの浪 …
読書目安時間:約1時間55分
未明のうちに、本郷森川宿を出たお綱と万吉とが、中仙道をはかどって、もうそろそろ碓氷峠の姿や、浅間の噴煙を仰いでいようと思われる頃、——三日おくれて、同じ中仙道の宿駅に、三人づれの浪 …
鳴門秘帖:04 船路の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間36分
鬱然とした大樹はあるが、渭山はあまり高くない。山というよりは丘である。 西の丸、本丸、楼台、多門など——徳島城の白い外壁は、その鬱蒼によって、工芸的な荘重と歴史的な錆をのぞませ、東 …
読書目安時間:約4時間36分
鬱然とした大樹はあるが、渭山はあまり高くない。山というよりは丘である。 西の丸、本丸、楼台、多門など——徳島城の白い外壁は、その鬱蒼によって、工芸的な荘重と歴史的な錆をのぞませ、東 …
鳴門秘帖:05 剣山の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間10分
それから四、五十日の日が過ぎた。 暑い。 南国らしい暑さの夏! 雄大な雲の峰の下に、徳島の城下は、海の端に平たく見えて、瓦も焼けるようなギラギラする陽に照らされている。 カチ、カチ …
読書目安時間:約2時間10分
それから四、五十日の日が過ぎた。 暑い。 南国らしい暑さの夏! 雄大な雲の峰の下に、徳島の城下は、海の端に平たく見えて、瓦も焼けるようなギラギラする陽に照らされている。 カチ、カチ …
鳴門秘帖:06 鳴門の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間2分
さて、その後またどうしたろうか、お千絵様は? かの女の今の環境はしずかであった。爽やかな京の秋がおとずれている。 部屋の前はひろい河原で、玉砂利と雑草とを縫う幾すじもの清冽は、加茂 …
読書目安時間:約2時間2分
さて、その後またどうしたろうか、お千絵様は? かの女の今の環境はしずかであった。爽やかな京の秋がおとずれている。 部屋の前はひろい河原で、玉砂利と雑草とを縫う幾すじもの清冽は、加茂 …
日本名婦伝:小野寺十内の妻(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
思い出もいまは古い、小紋の小切れやら、更紗の襤褸や、赤い縮緬の片袖など、貼板の面には、彼女の丹精が、細々と綴られて、それは貼るそばから、春の陽に乾きかけていた。 「この小紋も、はや …
読書目安時間:約17分
思い出もいまは古い、小紋の小切れやら、更紗の襤褸や、赤い縮緬の片袖など、貼板の面には、彼女の丹精が、細々と綴られて、それは貼るそばから、春の陽に乾きかけていた。 「この小紋も、はや …
日本名婦伝:静御前(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
義経はもろ肌を脱いで、小冠者に、背なかの灸をすえさせていた。 やや離れて、広縁をうしろにし、じっと、先刻から手をつかえているのは、夫人の静の前であった。 八月の真昼である。 六条室 …
読書目安時間:約23分
義経はもろ肌を脱いで、小冠者に、背なかの灸をすえさせていた。 やや離れて、広縁をうしろにし、じっと、先刻から手をつかえているのは、夫人の静の前であった。 八月の真昼である。 六条室 …
日本名婦伝:太閤夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
寧子は十六になった。 妹の於ややと二人して、伯父伯母にあたる浅野家に養われて来た。ふたり共、養女なのである。 世間は知らなかった。それほど、浅野又右衛門夫婦の愛は、世の親たちと変り …
読書目安時間:約20分
寧子は十六になった。 妹の於ややと二人して、伯父伯母にあたる浅野家に養われて来た。ふたり共、養女なのである。 世間は知らなかった。それほど、浅野又右衛門夫婦の愛は、世の親たちと変り …
日本名婦伝:谷干城夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約43分
白い旋風を巻いて「戦」が翔けてくる。——五十年めの大雪だという雪かぜと共に、薩摩と肥後の国境を越えて。 明治十年の二月だった。 時の明治政府へ、 「具申尋問のため」 と唱うる薩南の …
読書目安時間:約43分
白い旋風を巻いて「戦」が翔けてくる。——五十年めの大雪だという雪かぜと共に、薩摩と肥後の国境を越えて。 明治十年の二月だった。 時の明治政府へ、 「具申尋問のため」 と唱うる薩南の …
日本名婦伝:大楠公夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
木も草も枯れ果てて、河内の野は、霜の白さばかりが目に沁みる。 世は戦に次ぐ戦であった。建武の平和もつかの間でしかなかった。楠木正成、弟正氏たち一族の夥しい戦死が聞えた後も、乱は熄ま …
読書目安時間:約22分
木も草も枯れ果てて、河内の野は、霜の白さばかりが目に沁みる。 世は戦に次ぐ戦であった。建武の平和もつかの間でしかなかった。楠木正成、弟正氏たち一族の夥しい戦死が聞えた後も、乱は熄ま …
日本名婦伝:細川ガラシヤ夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
暁からの本能寺の煙が、まだ太陽の面に墨を流しているうちに、凶乱の張本人、光秀の名と、信長の死は、極度な人心の愕きに作用されて、かなり遠方まで、国々の耳をつらぬいて行った。わけても、 …
読書目安時間:約26分
暁からの本能寺の煙が、まだ太陽の面に墨を流しているうちに、凶乱の張本人、光秀の名と、信長の死は、極度な人心の愕きに作用されて、かなり遠方まで、国々の耳をつらぬいて行った。わけても、 …
人間山水図巻(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
たれかがいま人間性のうちの「盗」という一部分を研究対象としてみたら、近頃ほどその資料に豊富な世間はないだろう。暗黒期といわれた過去の応仁、永正の年代でも、よも今日ほどであったかどう …
読書目安時間:約21分
たれかがいま人間性のうちの「盗」という一部分を研究対象としてみたら、近頃ほどその資料に豊富な世間はないだろう。暗黒期といわれた過去の応仁、永正の年代でも、よも今日ほどであったかどう …
年譜(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
(1892) 八月十一日。神奈川県久良岐郡中村根岸に生る。次男。父直広は小田原藩の下士。早くに横浜へ出、開港企業家の一旗組に伍すも、性その質でなく、南太田新田の牧場と酪業経営に失敗 …
読書目安時間:約27分
(1892) 八月十一日。神奈川県久良岐郡中村根岸に生る。次男。父直広は小田原藩の下士。早くに横浜へ出、開港企業家の一旗組に伍すも、性その質でなく、南太田新田の牧場と酪業経営に失敗 …
野槌の百(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
チチ、チチ、と沢千禽の声に、春はまだ、峠はまだ、寒かった。木の芽頃の疎林にすいて見える山々の襞には、あざやかに雪の斑が白い。 「あなた。——あなた」 お稲は、力なく、前に行く人をよ …
読書目安時間:約53分
チチ、チチ、と沢千禽の声に、春はまだ、峠はまだ、寒かった。木の芽頃の疎林にすいて見える山々の襞には、あざやかに雪の斑が白い。 「あなた。——あなた」 お稲は、力なく、前に行く人をよ …
梅颸の杖(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
辰蔵の成人ぶりもお目にかけたい。二歳になる又二郎にもばば様と初の対面を遂げさせたい。妻の梨影も久しくお待ち申しあげている。 孫の愛で釣るように、手紙を出すごとにこう上京をすすめてい …
読書目安時間:約31分
辰蔵の成人ぶりもお目にかけたい。二歳になる又二郎にもばば様と初の対面を遂げさせたい。妻の梨影も久しくお待ち申しあげている。 孫の愛で釣るように、手紙を出すごとにこう上京をすすめてい …
梅里先生行状記(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間2分
二月の風は水洟をそそる。この地方はまだ春も浅い。ひろい畑は吹きさらしている。 昼まになっても、日かげの霜ばしらは、棘々とたったままだし、遠山のひだには、まだある雪が薙刀のように光っ …
読書目安時間:約7時間2分
二月の風は水洟をそそる。この地方はまだ春も浅い。ひろい畑は吹きさらしている。 昼まになっても、日かげの霜ばしらは、棘々とたったままだし、遠山のひだには、まだある雪が薙刀のように光っ …
旗岡巡査(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
河が吼えるように河の底から、船頭の大きな声が、 「——船止めだとようっ」 「六刻かぎりで、川筋も陸も往来止めだぞうっ」 船から船へ、呶鳴り交わしてから触れ合っていた。 下総の松戸の …
読書目安時間:約50分
河が吼えるように河の底から、船頭の大きな声が、 「——船止めだとようっ」 「六刻かぎりで、川筋も陸も往来止めだぞうっ」 船から船へ、呶鳴り交わしてから触れ合っていた。 下総の松戸の …
八寒道中(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
笛は孤独でたのしめる。——いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔の味を知って、今では、安成三五兵衛の腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものと …
読書目安時間:約32分
笛は孤独でたのしめる。——いつか旅で笛を吹く心境のふしぎな陶酔の味を知って、今では、安成三五兵衛の腰には、大小と印籠のほかに、袋にはいった一笛がたばさまれて、かれの旅に離れぬものと …
濞かみ浪人(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
几帳面な藩邸の中に、たった一人、ひどく目障りな男が、この頃、御用部屋にまごまごしている。 彼は、俗にいう、ずんぐりむッくりな体格で、年は廿六、七歳だった。若いくせにいつも襟元がうす …
読書目安時間:約39分
几帳面な藩邸の中に、たった一人、ひどく目障りな男が、この頃、御用部屋にまごまごしている。 彼は、俗にいう、ずんぐりむッくりな体格で、年は廿六、七歳だった。若いくせにいつも襟元がうす …
春の雁(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰にひっそりしている色街であった。この深川では、夜などは見たこともないが、かえって昼間はどうかすると、御旅の裏の草ッ原で、子を連れて狐が陽なた …
読書目安時間:約22分
からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰にひっそりしている色街であった。この深川では、夜などは見たこともないが、かえって昼間はどうかすると、御旅の裏の草ッ原で、子を連れて狐が陽なた …
河豚(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
* おととしより去年、去年より今年と、一冬ごとに東京に殖えて来たものに河豚料理がある。街の灯が白くなる冬になると、河豚屋のかんばんが食通横丁に俳味を灯す。 * 県令を以て、「河豚料 …
読書目安時間:約7分
* おととしより去年、去年より今年と、一冬ごとに東京に殖えて来たものに河豚料理がある。街の灯が白くなる冬になると、河豚屋のかんばんが食通横丁に俳味を灯す。 * 県令を以て、「河豚料 …
文化の日(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
文化の日、十一月三日というと、ぼくら明治生まれのものには、降る雪も——だが菊の香も明治も遠くなりにけり——の感が深い。だから文化の日の朝はいつも少年期への想いにつながる。 けさも、 …
読書目安時間:約5分
文化の日、十一月三日というと、ぼくら明治生まれのものには、降る雪も——だが菊の香も明治も遠くなりにけり——の感が深い。だから文化の日の朝はいつも少年期への想いにつながる。 けさも、 …
べんがら炬燵(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口にわずかばかりつよい陽の光が刎ね返っていた。きのうにつづいて、終日、退屈 …
読書目安時間:約39分
北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口にわずかばかりつよい陽の光が刎ね返っていた。きのうにつづいて、終日、退屈 …
松のや露八(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間15分
「こんどの冬の陣には、誰が、初伝を取るか」 「夏の陣には、俺が日記方(目録取り)に昇格ってみせる」 などと門人たちは、その日を目あてに精錬していた。暮の十二月二十五日と、中元の七月 …
読書目安時間:約4時間15分
「こんどの冬の陣には、誰が、初伝を取るか」 「夏の陣には、俺が日記方(目録取り)に昇格ってみせる」 などと門人たちは、その日を目あてに精錬していた。暮の十二月二十五日と、中元の七月 …
源頼朝(新字新仮名)
読書目安時間:約10時間16分
「佐どの」 「佐どのうっ」 「おおういっ」 すさぶ吹雪の白い闇にかたまり合って、にわかに立ち止まった主従七騎の影は、口々でこう呼ばわりながら、佐殿のすがたを血眼でさがし始めた。 「 …
読書目安時間:約10時間16分
「佐どの」 「佐どのうっ」 「おおういっ」 すさぶ吹雪の白い闇にかたまり合って、にわかに立ち止まった主従七騎の影は、口々でこう呼ばわりながら、佐殿のすがたを血眼でさがし始めた。 「 …
宮本武蔵:01 序、はしがき(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
初版が出たのさえ十数年前だった。起稿を思い立った日からでは、もう、二十年ちかい歳月がながれている。 この書が、装幀を新たに、版をかさねて出るとなると、いつも私は過去茫々の想いにたえ …
読書目安時間:約6分
初版が出たのさえ十数年前だった。起稿を思い立った日からでは、もう、二十年ちかい歳月がながれている。 この書が、装幀を新たに、版をかさねて出るとなると、いつも私は過去茫々の想いにたえ …
宮本武蔵:02 地の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間6分
——どうなるものか、この天地の大きな動きが。 もう人間の個々の振舞いなどは、秋かぜの中の一片の木の葉でしかない。なるようになッてしまえ。 武蔵は、そう思った。 屍と屍のあいだにあっ …
読書目安時間:約3時間6分
——どうなるものか、この天地の大きな動きが。 もう人間の個々の振舞いなどは、秋かぜの中の一片の木の葉でしかない。なるようになッてしまえ。 武蔵は、そう思った。 屍と屍のあいだにあっ …
宮本武蔵:03 水の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間38分
明日は知れないきょうの生命 また、信長も謡った—— 人間五十年、化転のうちをくらぶれば、夢まぼろしの如くなり そういう観念は、ものを考える階級にも、ものを考えない階級にもあった。— …
読書目安時間:約4時間38分
明日は知れないきょうの生命 また、信長も謡った—— 人間五十年、化転のうちをくらぶれば、夢まぼろしの如くなり そういう観念は、ものを考える階級にも、ものを考えない階級にもあった。— …
宮本武蔵:04 火の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間16分
伏見桃山の城地を繞っている淀川の水は、そのまま長流数里、浪華江の大坂城の石垣へも寄せていた。——で、ここら京都あたりの政治的なうごきは、微妙に大坂のほうへすぐ響き、また大坂方の一将 …
読書目安時間:約6時間16分
伏見桃山の城地を繞っている淀川の水は、そのまま長流数里、浪華江の大坂城の石垣へも寄せていた。——で、ここら京都あたりの政治的なうごきは、微妙に大坂のほうへすぐ響き、また大坂方の一将 …
宮本武蔵:05 風の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約9時間27分
丹波街道の長坂口は、指さして彼方に望むことができる。並木越しに、白い電光かのように眼を射るのは、その丹波境の標高で、また、京都の西北の郊外を囲っている山々の襞をなしている残雪だった …
読書目安時間:約9時間27分
丹波街道の長坂口は、指さして彼方に望むことができる。並木越しに、白い電光かのように眼を射るのは、その丹波境の標高で、また、京都の西北の郊外を囲っている山々の襞をなしている残雪だった …
宮本武蔵:06 空の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間41分
木曾路へはいると、随所にまだ雪が見られる。 峠の凹みから、薙刀なりに走っている白い閃きは、駒ヶ岳の雪のヒダであり、仄紅い木々の芽を透かして彼方に見える白い斑のものは、御岳の肌だった …
読書目安時間:約7時間41分
木曾路へはいると、随所にまだ雪が見られる。 峠の凹みから、薙刀なりに走っている白い閃きは、駒ヶ岳の雪のヒダであり、仄紅い木々の芽を透かして彼方に見える白い斑のものは、御岳の肌だった …
宮本武蔵:07 二天の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間17分
学問は朝飯前に。昼間は、藩の時務を見たり、時には江戸城へ詰めたり、その間に、武芸の稽古は随時にやるとして——夜はおおかた若侍相手に、打ち寛いでいる忠利であった。 「どうだな、何か近 …
読書目安時間:約5時間17分
学問は朝飯前に。昼間は、藩の時務を見たり、時には江戸城へ詰めたり、その間に、武芸の稽古は随時にやるとして——夜はおおかた若侍相手に、打ち寛いでいる忠利であった。 「どうだな、何か近 …
宮本武蔵:08 円明の巻(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間32分
ここは、鶯の名所。 柳生の城のある柳生谷—— 武者溜りの白壁に、二月の陽がほかりと映して、槍梅の影が一枝、静かな画になっている。 南枝の梅花は誘っても、片言の初音の声は、まだ稀にし …
読書目安時間:約6時間32分
ここは、鶯の名所。 柳生の城のある柳生谷—— 武者溜りの白壁に、二月の陽がほかりと映して、槍梅の影が一枝、静かな画になっている。 南枝の梅花は誘っても、片言の初音の声は、まだ稀にし …
無宿人国記(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間4分
「蒲団は——お炬燵は——入れたかえ」 船宿のお内儀さんだ。暗い河岸に立って、いつもの、美い声を、張りあげている。 息が、白く、冬の夜の闇に見えた。 寒々と更けた大川の中で、 「おう …
読書目安時間:約1時間4分
「蒲団は——お炬燵は——入れたかえ」 船宿のお内儀さんだ。暗い河岸に立って、いつもの、美い声を、張りあげている。 息が、白く、冬の夜の闇に見えた。 寒々と更けた大川の中で、 「おう …
紋付を着るの記(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
たまにシマのズボンをはくこともないではないが、冠婚葬祭、私はたいがいなばあい平服でとおしている。けれどこんどの授賞式では恒例モーニング、あるいは紋付という成規になっている。文部省か …
読書目安時間:約5分
たまにシマのズボンをはくこともないではないが、冠婚葬祭、私はたいがいなばあい平服でとおしている。けれどこんどの授賞式では恒例モーニング、あるいは紋付という成規になっている。文部省か …
柳生月影抄(新字新仮名)
読書目安時間:約57分
紺屋の干し場には、もう朝の薄陽が映している。 干瓢のように懸け並べた無数の白い布、花色の布、紅い模様のある布などが、裏町の裏から秋の空に、高々と揺れていた。 「そんな身装で、近所の …
読書目安時間:約57分
紺屋の干し場には、もう朝の薄陽が映している。 干瓢のように懸け並べた無数の白い布、花色の布、紅い模様のある布などが、裏町の裏から秋の空に、高々と揺れていた。 「そんな身装で、近所の …
山浦清麿(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間33分
『のぶ。——刀箪笥を見てくれい』 袴の紐を締め終って、懐紙、印籠などを身に着けながら、柘植嘉兵衛は、次の間へ立つ妻の背へ云った。 『——下の抽斗じゃ。この正月、山浦真雄が鍛ち上げて …
読書目安時間:約1時間33分
『のぶ。——刀箪笥を見てくれい』 袴の紐を締め終って、懐紙、印籠などを身に着けながら、柘植嘉兵衛は、次の間へ立つ妻の背へ云った。 『——下の抽斗じゃ。この正月、山浦真雄が鍛ち上げて …
夕顔の門(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
『はてな。……閉めて寝た筈だが』 と、若党の楠平は、枕から首を擡げて、耳を澄ました。 ——風が出て来たらしい。 海が近いので、庭木には潮風が騒めいている。確かに、寝しなに閉めたとば …
読書目安時間:約29分
『はてな。……閉めて寝た筈だが』 と、若党の楠平は、枕から首を擡げて、耳を澄ました。 ——風が出て来たらしい。 海が近いので、庭木には潮風が騒めいている。確かに、寝しなに閉めたとば …
落日の荘厳に似る:――大観画伯の終焉(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
大観さん、と生前どおりに呼ばせていただく。 ふりかえるとその人の画業と姿は、大観えがく群峰中の一高峰そのままな存在だった。偉大だったの一語でつきる。 大観さんと親しくお目にかかった …
読書目安時間:約6分
大観さん、と生前どおりに呼ばせていただく。 ふりかえるとその人の画業と姿は、大観えがく群峰中の一高峰そのままな存在だった。偉大だったの一語でつきる。 大観さんと親しくお目にかかった …
牢獄の花嫁(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間28分
あの座敷に寝ころんで見たら、房総の海も江戸の町も、一望であろうと思われる高輪の鶉坂に、久しくかかっていた疑問の建築が、やっと、この秋になって、九分九厘まで竣工た。 お茶屋でもなし、 …
読書目安時間:約5時間28分
あの座敷に寝ころんで見たら、房総の海も江戸の町も、一望であろうと思われる高輪の鶉坂に、久しくかかっていた疑問の建築が、やっと、この秋になって、九分九厘まで竣工た。 お茶屋でもなし、 …
忘れ残りの記:――四半自叙伝――(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間59分
おもいがけない未知の人から、ぼくらは常々たくさんな手紙をうける。作家とか何とか虚名をもった種類の人々はたぶんみなそうではないかとおもう。つい先頃もその中の一通に中野敬次郎とした封書 …
読書目安時間:約5時間59分
おもいがけない未知の人から、ぼくらは常々たくさんな手紙をうける。作家とか何とか虚名をもった種類の人々はたぶんみなそうではないかとおもう。つい先頃もその中の一通に中野敬次郎とした封書 …
“吉川英治”について
吉川 英治(よしかわ えいじ、1892年〈明治25年〉8月11日 - 1962年〈昭和37年〉9月7日)は、日本の小説家。本名:吉川 英次(よしかわ ひでつぐ)。現在の神奈川県横浜市中区出身。文化功労者、文化勲章受章者。位階・勲等は従三位・勲一等。
様々な職についたのち作家活動に入り、『鳴門秘帖』などで人気作家となる。1935年(昭和10年)より連載が始まった『宮本武蔵』は多くの読者を獲得し、大衆小説の代表的な作品となった。戦後は『新・平家物語』、『私本太平記』などの大作を執筆。幅広い読者層に親しまれ「国民文学作家」と呼ばれた。宝塚市千種の地名の名付け親。
(出典:Wikipedia)
様々な職についたのち作家活動に入り、『鳴門秘帖』などで人気作家となる。1935年(昭和10年)より連載が始まった『宮本武蔵』は多くの読者を獲得し、大衆小説の代表的な作品となった。戦後は『新・平家物語』、『私本太平記』などの大作を執筆。幅広い読者層に親しまれ「国民文学作家」と呼ばれた。宝塚市千種の地名の名付け親。
(出典:Wikipedia)
“吉川英治”と年代が近い著者
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ラデャード・キプリング(生誕160年)
ライネル・マリア・リルケ(生誕150年)
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徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)