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甲賀三郎
甲賀三郎
1893.10.05 〜 1945.02.14
愛の為めに(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
夫の手記 私はさっきから自動車を待つ人混みの中で、一人の婦人に眼を惹かれていた。 年の頃は私と同じ位、そう二十五六にもなるだろうか。年よりは地味造りで縺毛一筋ない、つやつやした髷に …
青服の男(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
奇怪な死人 別荘——といっても、二昔も以前に建てられて、近頃では余り人が住んだらしくない、古めかしい家の中から、一人の百姓女が毬のように飛出して来た。 「た、大へんだア、旦那さまが …
キビキビした青年紳士(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
帝大土木科出身の少壮技術者の創設にかかるものでN・K・倶楽部というのがある。この倶楽部に多分大正十年頃だったと思うが、科学技術者が大挙して入会することとなり、私は準備委員といったわ …
急行十三時間(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
箱根山にかかると、車内も大分落着いて来た。午後十時半だ。只、私の前に席を占めた異様な二人、一人は五十位の色の黒い頬骨の出た、眼のギロリとした一癖ありそうな男、一人はもう七十近いかと …
蜘蛛(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
辻川博士の奇怪な研究室は葉の落ちた欅の大木にかこまれて、それらの木と高さを争うように、亭々として地上三十尺あまりにそびえている支柱の上に乗っていた。研究室は直径二間半、高さ一間半ば …
計略二重戦:少年密偵(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
隠れた助力者 道雄少年のお父さんは仁科猛雄と云って、陸軍少佐です。しかし、仁科少佐は滅多に軍服を着ません。なぜなら少佐は特別の任務についているからです。特別の任務と云うのは、外国か …
血液型殺人事件(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間11分
毛沼博士の変死事件は、今でも時々夢に見て、魘されるほど薄気味の悪い出来事だった。それから僅に一月経たないうちに、父とも仰ぐ恩師笠神博士夫妻が、思いがけない自殺を遂げられた時には、私 …
黄鳥の嘆き:——二川家殺人事件(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間22分
秘密の上にも秘密にやった事だったが、新聞記者にかゝっちゃ敵わない、すぐ嗅ぎつけられて終った。 子爵二川重明が、乗鞍岳の飛騨側の頂上近い数百町歩の土地を買占めただけなら兎に角、そこの …
五階の窓:04 合作の四(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
西村電機商会主西村陽吉が変死を遂げてから二日目の朝、暁方からどんよりと曇っていた空は十時ごろになると粉雪をちらちら降らしはじめた。 朝の跡片づけの手伝いをすませた瀬川艶子は、自分の …
「黒死館殺人事件」序(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
探偵小説界の怪物江戸川乱歩が出現して満十年、同じく怪物小栗虫太郎が出現した。この満十年という年月はどうも偶然でないような気がする。小栗君が現われた時に、私は江戸川君を誘って、満十年 …
琥珀のパイプ(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
私は今でもあの夜の光景を思い出すとゾットする。それは東京に大地震があって間もない頃であった。 その日の午後十時過ぎになると、果して空模様が怪しくなって来て、颱風の音と共にポツリポツ …
殺人迷路:10 (連作探偵小説第十回)(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
親友?仇敵? 疑問の洋装の女が、三映キネマの如月真弓! 寺尾に示されたスチールで、それを発見した津村は唸った。 雑誌記者津村がこの発見をした時と殆ど同時に、新聞記者村井は二木検事に …
真珠塔の秘密(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
長い陰気な梅雨が漸く明けた頃、そこにはもう酷しい暑さが待ち設けて居て、流石都大路も暫くは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第に都の騒がしさに帰る夕暮時、夕立 …
徹底的な浜尾君(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
浜尾四郎君は鋭い頭の持主であった。それに卑しくも曖昧な事を許して置けない性質で、何事でも底まで追究しなければ止まない風があった。従って時には根掘り葉掘り問い質して、為に相手がしどろ …
ドイルを宗とす(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私が探偵小説を書いて見ようという気を起したのは疑いもなくコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ物語の示唆である。中学生だった私には、ホームズの推理は驚異であった。最初に読んだのは佐 …
贋紙幣事件(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
稀に田舎に来ると実に好いなあと思う。東京なんかに住まないで、こう云う田舎に住んで見たいなあと思う。空気が澄んでいるから空の色が綺麗で、林があって、野原があって、牧場があって、静かで …
ニッケルの文鎮(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
ええ、お話しするわ、あたしどうせお喋りだわ。だけど、あんたほんとに誰にも話さないで頂戴。だってあたし、あの人に悪いんですもの。 もう一年になるわね。去年のちょうど今頃、そうセルがそ …
支倉事件(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間52分
呪の手紙 硝子戸越しにホカ/\する日光を受けた縁側へ、夥しい書類をぶち撒けたように敷散らして其中で、庄司利喜太郎氏は舌打をしながらセカ/\と何か探していた。彼は物事に拘泥しない性質 …
罠に掛った人(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
もう十時は疾くに過ぎたのに、妻の伸子は未だ帰って来なかった。 友木はいらいらして立上った。彼の痩こけて骨張った顔は変に歪んで、苦痛の表情がアリアリと浮んでいた。 どこをどう歩いたっ …