宮沢賢治
1896.08.27 〜 1933.09.21
“宮沢賢治”に特徴的な語句
擅
木
歩
懺悔
上流
壺穴
大臣
言
以
兄
向
私
銀
生徒
老人
風
木
虔
目
及
故
狼
唯
梟
雪童子
斯
徐
岸
梟
砂
二人
鷺
既
海岸
居
気持
熔岩
如
発破
母
誰
笑
泣
底
斯
向
室
一寸
霧
葉
著者としての作品一覧
〔青びかる天弧のはてに〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
青びかる天弧のはてに きらゝかに町はうかびて 六月のたつきのみちは いまやはた尽きはてにけり いさゝかの書籍とセロを 思ふまゝ〔以下空白〕 …
読書目安時間:約1分
青びかる天弧のはてに きらゝかに町はうかびて 六月のたつきのみちは いまやはた尽きはてにけり いさゝかの書籍とセロを 思ふまゝ〔以下空白〕 …
秋田街道(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
どれもみんな肥料や薪炭をやりとりするさびしい家だ。街道のところどころにちらばって黒い小さいさびしい家だ。それももうみな戸を閉めた。 おれはかなしく来た方をふりかへる。盛岡の電燈は微 …
読書目安時間:約4分
どれもみんな肥料や薪炭をやりとりするさびしい家だ。街道のところどころにちらばって黒い小さいさびしい家だ。それももうみな戸を閉めた。 おれはかなしく来た方をふりかへる。盛岡の電燈は微 …
〔あくたうかべる朝の水〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あくたうかべる朝の水 ひらととびかふつばくらめ 苗のはこびの遅ければ 熊ははぎしり雲を見る 苗つけ馬を引ききたり 露のすぎなの畔に立ち 権は朱塗の盃を ましろきそらにあふぐなり …
読書目安時間:約1分
あくたうかべる朝の水 ひらととびかふつばくらめ 苗のはこびの遅ければ 熊ははぎしり雲を見る 苗つけ馬を引ききたり 露のすぎなの畔に立ち 権は朱塗の盃を ましろきそらにあふぐなり …
あけがた(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
おれはその時その青黒く淀んだ室の中の堅い灰色の自分の席にそわそわ立ったり座ったりしてゐた。 二人の男がその室の中に居た。一人はたしかに獣医の有本でも一人はさまざまのやつらのもやもや …
読書目安時間:約4分
おれはその時その青黒く淀んだ室の中の堅い灰色の自分の席にそわそわ立ったり座ったりしてゐた。 二人の男がその室の中に居た。一人はたしかに獣医の有本でも一人はさまざまのやつらのもやもや …
朝に就ての童話的構図(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
苔いちめんに、霧がぽしやぽしや降つて、蟻の歩哨は、鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯の森の前をあちこち行つたり来たりしてゐます。 向ふからぷる …
読書目安時間:約3分
苔いちめんに、霧がぽしやぽしや降つて、蟻の歩哨は、鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯の森の前をあちこち行つたり来たりしてゐます。 向ふからぷる …
〔雨ニモマケズ〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコト …
読書目安時間:約1分
雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコト …
ありときのこ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
苔いちめんに、霧がぽしゃぽしゃ降って、蟻の歩哨は鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯の森の前をあちこち行ったり来たりしています。 向こうからぷる …
読書目安時間:約3分
苔いちめんに、霧がぽしゃぽしゃ降って、蟻の歩哨は鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯の森の前をあちこち行ったり来たりしています。 向こうからぷる …
或る農学生の日誌(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
序 ぼくは農学校の三年生になったときから今日まで三年の間のぼくの日誌を公開する。どうせぼくは字も文章も下手だ。ぼくと同じように本気に仕事にかかった人でなかったらこんなもの実に厭な面 …
読書目安時間:約21分
序 ぼくは農学校の三年生になったときから今日まで三年の間のぼくの日誌を公開する。どうせぼくは字も文章も下手だ。ぼくと同じように本気に仕事にかかった人でなかったらこんなもの実に厭な面 …
イギリス海岸(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処がありました。 それは本たうは海岸ではなくて、いかに …
読書目安時間:約21分
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処がありました。 それは本たうは海岸ではなくて、いかに …
イギリス海岸(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処がありました。 それは本とうは海岸ではなくて、いかに …
読書目安時間:約22分
夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて、二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びに行った処がありました。 それは本とうは海岸ではなくて、いかに …
〔いざ渡せかし おいぼれめ〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
「いざ渡せかしおいぼれめ いつもこゝにて日を暮らす」 すぱとたばこを吸ひやめて 何を云ふともこの飯の 煮たたぬうちに立つべしや 芋の子頭白髪して おきなは榾を加へたり …
読書目安時間:約1分
「いざ渡せかしおいぼれめ いつもこゝにて日を暮らす」 すぱとたばこを吸ひやめて 何を云ふともこの飯の 煮たたぬうちに立つべしや 芋の子頭白髪して おきなは榾を加へたり …
泉ある家(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。 富沢は地図のその点に橙を塗って番号 …
読書目安時間:約7分
これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。 富沢は地図のその点に橙を塗って番号 …
いてふの実(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチの灼きをかけた鋼です。 そして星が一杯です。けれども東の空はもう優しい桔梗の花びらのやうにあやしい底光りをはじめました。 その明け …
読書目安時間:約5分
そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチの灼きをかけた鋼です。 そして星が一杯です。けれども東の空はもう優しい桔梗の花びらのやうにあやしい底光りをはじめました。 その明け …
いちょうの実(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼です。 そして星がいっぱいです。けれども東の空はもうやさしいききょうの花びらのようにあやしい底光りをはじめまし …
読書目安時間:約6分
そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくてまるでカチカチのやきをかけた鋼です。 そして星がいっぱいです。けれども東の空はもうやさしいききょうの花びらのようにあやしい底光りをはじめまし …
イーハトーボ農学校の春(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
太陽マジックのうたはもう青ぞらいっぱい、ひっきりなしにごうごうごうごう鳴っています。 わたしたちは黄いろの実習服を着て、くずれかかった煉瓦の肥溜のとこへあつまりました。 冬中いつも …
読書目安時間:約6分
太陽マジックのうたはもう青ぞらいっぱい、ひっきりなしにごうごうごうごう鳴っています。 わたしたちは黄いろの実習服を着て、くずれかかった煉瓦の肥溜のとこへあつまりました。 冬中いつも …
インドラの網(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
そのとき私は大へんひどく疲れていてたしか風と草穂との底に倒れていたのだとおもいます。 その秋風の昏倒の中で私は私の錫いろの影法師にずいぶん馬鹿ていねいな別れの挨拶をやっていました。 …
読書目安時間:約8分
そのとき私は大へんひどく疲れていてたしか風と草穂との底に倒れていたのだとおもいます。 その秋風の昏倒の中で私は私の錫いろの影法師にずいぶん馬鹿ていねいな別れの挨拶をやっていました。 …
〔馬行き人行き自転車行きて〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
馬行き人行き自転車行きて しばし粉雪の風吹けり 絣合羽につまごはき 物噛むごとくたゝずみて 大売り出しのビラ読む翁 まなこをめぐる輻状の皺 楽隊の音からおもてを見れば 雲は傷れて眼 …
読書目安時間:約1分
馬行き人行き自転車行きて しばし粉雪の風吹けり 絣合羽につまごはき 物噛むごとくたゝずみて 大売り出しのビラ読む翁 まなこをめぐる輻状の皺 楽隊の音からおもてを見れば 雲は傷れて眼 …
うろこ雲(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
そらいちめんに青白いうろこ雲が浮かび月はその一切れに入って鈍い虹を掲げる。 町の曲り角の屋敷にある木は脊高の梨の木で高くその柔らかな葉を動かしてゐるのだ。 雲のきれ間にせはしく青く …
読書目安時間:約2分
そらいちめんに青白いうろこ雲が浮かび月はその一切れに入って鈍い虹を掲げる。 町の曲り角の屋敷にある木は脊高の梨の木で高くその柔らかな葉を動かしてゐるのだ。 雲のきれ間にせはしく青く …
駅長(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ことことと行く汽車のはて 温石いしの萱山の 上にひとつの松ありて あるいは雷にうたれしや 三角標にまがへりと 大上段に真鍮の 棒をかざしてさまよへり ごみのごとくにあきつとぶ 高圧 …
読書目安時間:約1分
ことことと行く汽車のはて 温石いしの萱山の 上にひとつの松ありて あるいは雷にうたれしや 三角標にまがへりと 大上段に真鍮の 棒をかざしてさまよへり ごみのごとくにあきつとぶ 高圧 …
狼森と笊森、盗森(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはづれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がつい …
読書目安時間:約12分
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはづれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がつい …
狼森と笊森、盗森(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がつい …
読書目安時間:約12分
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がつい …
丘(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
森の上のこの神楽殿 いそがしくのぼりて立てば くわくこうはめぐりてどよみ 松の風頬を吹くなり 野をはるに北をのぞめば 紫波の城の二本の杉 かゞやきて黄ばめるものは そが上に麦熟すら …
読書目安時間:約1分
森の上のこの神楽殿 いそがしくのぼりて立てば くわくこうはめぐりてどよみ 松の風頬を吹くなり 野をはるに北をのぞめば 紫波の城の二本の杉 かゞやきて黄ばめるものは そが上に麦熟すら …
おきなぐさ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
うずのしゅげを知っていますか。 うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますが、おきなぐさという名はなんだかあのやさしい若い花をあらわさないようにおもいます。 そんならうずのし …
読書目安時間:約7分
うずのしゅげを知っていますか。 うずのしゅげは、植物学ではおきなぐさと呼ばれますが、おきなぐさという名はなんだかあのやさしい若い花をあらわさないようにおもいます。 そんならうずのし …
オツベルと象(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
……ある牛飼いがものがたる オツベルときたら大したもんだ。稲扱器械の六台も据えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。 十六人の百姓どもが、顔をまるっ …
読書目安時間:約12分
……ある牛飼いがものがたる オツベルときたら大したもんだ。稲扱器械の六台も据えつけて、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。 十六人の百姓どもが、顔をまるっ …
女(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
そらのふちは沈んで行き、松の並木のはてばかり黝んだ琥珀をさびしくくゆらし、 その町のはづれのたそがれに、大きなひのきが風に乱れてゆれてゐる。気圏の松藻だ、ひのきの髪毛。 まっ黒な家 …
読書目安時間:約1分
そらのふちは沈んで行き、松の並木のはてばかり黝んだ琥珀をさびしくくゆらし、 その町のはづれのたそがれに、大きなひのきが風に乱れてゆれてゐる。気圏の松藻だ、ひのきの髪毛。 まっ黒な家 …
開墾(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
落ちしのばらの芽はひかり 樹液はしづにかはたれぬ あゝこの夕つゝましく きみと祈らばよからんを きみきたらずばわが成さん この園つひにむなしけん 西天黄ばみにごれるに 雲の黒闇の見 …
読書目安時間:約1分
落ちしのばらの芽はひかり 樹液はしづにかはたれぬ あゝこの夕つゝましく きみと祈らばよからんを きみきたらずばわが成さん この園つひにむなしけん 西天黄ばみにごれるに 雲の黒闇の見 …
貝の火(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。 実に野原はいいにおいでいっぱいです。 子兎のホモイは、悦んでぴんぴん踊 …
読書目安時間:約30分
今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。 野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。 実に野原はいいにおいでいっぱいです。 子兎のホモイは、悦んでぴんぴん踊 …
カイロ団長(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
あるとき、三十疋のあまがえるが、一緒に面白く仕事をやって居りました。 これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇の実やけしの実をひろって来て花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石や苔を集 …
読書目安時間:約19分
あるとき、三十疋のあまがえるが、一緒に面白く仕事をやって居りました。 これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇の実やけしの実をひろって来て花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石や苔を集 …
蛙のゴム靴(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
松の木や楢の木の林の下を、深い堰が流れて居りました。岸には茨やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カン蛙のうちがありました。 それから、林の中の …
読書目安時間:約15分
松の木や楢の木の林の下を、深い堰が流れて居りました。岸には茨やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カン蛙のうちがありました。 それから、林の中の …
蛙のゴム靴(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
松の木や楢の木の林の下を、深い堰が流れて居りました。岸には茨やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カン蛙のうちがありました。 それから、林の中の …
読書目安時間:約15分
松の木や楢の木の林の下を、深い堰が流れて居りました。岸には茨やつゆ草やたでが一杯にしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カン蛙のうちがありました。 それから、林の中の …
学者アラムハラドの見た着物(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
学者のアラムハラドはある年十一人の子を教えておりました。 みんな立派なうちの子どもらばかりでした。 王さまのすぐ下の裁判官の子もありましたし農商の大臣の子も居ました。また毎年じぶん …
読書目安時間:約12分
学者のアラムハラドはある年十一人の子を教えておりました。 みんな立派なうちの子どもらばかりでした。 王さまのすぐ下の裁判官の子もありましたし農商の大臣の子も居ました。また毎年じぶん …
かしはばやしの夜(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云ひながら、稗の根もとにせつせと土をかけてゐました。 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんに …
読書目安時間:約16分
清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云ひながら、稗の根もとにせつせと土をかけてゐました。 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんに …
かしわばやしの夜(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云いながら、稗の根もとにせっせと土をかけていました。 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんに …
読書目安時間:約16分
清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云いながら、稗の根もとにせっせと土をかけていました。 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんに …
風の又三郎(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間2分
どっどどどどうどどどうどどどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどどどどうどどどうどどどう 谷川の岸に小さな学校がありました。 教室はたった一つでしたが生徒 …
読書目安時間:約1時間2分
どっどどどどうどどどうどどどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどどどどうどどどうどどどう 谷川の岸に小さな学校がありました。 教室はたった一つでしたが生徒 …
風野又三郎(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間4分
九月一日 どっどどどどうどどどうどどどう、 ああまいざくろも吹きとばせ すっぱいざくろもふきとばせ どっどどどどうどどどうどどどう 谷川の岸に小さな四角な学校がありました。 学校と …
読書目安時間:約1時間4分
九月一日 どっどどどどうどどどうどどどう、 ああまいざくろも吹きとばせ すっぱいざくろもふきとばせ どっどどどどうどどどうどどどう 谷川の岸に小さな四角な学校がありました。 学校と …
烏百態(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雪のたんぼのあぜみちを ぞろぞろあるく烏なり 雪のたんぼに身を折りて 二声鳴けるからすなり 雪のたんぼに首を垂れ 雪をついばむ烏なり 雪のたんぼに首をあげ あたり見まはす烏なり 雪 …
読書目安時間:約1分
雪のたんぼのあぜみちを ぞろぞろあるく烏なり 雪のたんぼに身を折りて 二声鳴けるからすなり 雪のたんぼに首を垂れ 雪をついばむ烏なり 雪のたんぼに首をあげ あたり見まはす烏なり 雪 …
花壇工作(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
おれは設計図なぞ持って行かなかった。 それは書くのが面倒なのと、もひとつは現場ですぐ工作をする誰かの式を気取ったのと、さう二っつがおれを仕事着のまゝ支那の将軍のやうにその病院の二つ …
読書目安時間:約4分
おれは設計図なぞ持って行かなかった。 それは書くのが面倒なのと、もひとつは現場ですぐ工作をする誰かの式を気取ったのと、さう二っつがおれを仕事着のまゝ支那の将軍のやうにその病院の二つ …
家長制度(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりと膝をそろへて座ってゐる。 その息子らがさっき音なく外の闇から帰ってき …
読書目安時間:約2分
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりと膝をそろへて座ってゐる。 その息子らがさっき音なく外の闇から帰ってき …
月天讃歌(擬古調)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
兜の尾根のうしろより 月天ちらとのぞきたまへり 月天子ほのかにのぞみたまへども 野の雪いまだ暮れやらず しばし山はにたゆたひおはす 決然として月天子 山をいでたち給ひつゝ その横雲 …
読書目安時間:約1分
兜の尾根のうしろより 月天ちらとのぞきたまへり 月天子ほのかにのぞみたまへども 野の雪いまだ暮れやらず しばし山はにたゆたひおはす 決然として月天子 山をいでたち給ひつゝ その横雲 …
ガドルフの百合(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ハックニー馬のしっぽのような、巫戯けた楊の並木と陶製の白い空との下を、みじめな旅のガドルフは、力いっぱい、朝からつづけて歩いておりました。 それにただ十六哩だという次の町が、まだ一 …
読書目安時間:約10分
ハックニー馬のしっぽのような、巫戯けた楊の並木と陶製の白い空との下を、みじめな旅のガドルフは、力いっぱい、朝からつづけて歩いておりました。 それにただ十六哩だという次の町が、まだ一 …
釜石よりの帰り(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
かぎりなく鳥はすだけど こゝろこそいとそゞろなれ 竹行李小きをになひ 雲しろき飯場を出でぬ みちのべにしやが花さけば かうもりの柄こそわびしき かすかなる霧雨ふりて 丘はたゞいちめ …
読書目安時間:約1分
かぎりなく鳥はすだけど こゝろこそいとそゞろなれ 竹行李小きをになひ 雲しろき飯場を出でぬ みちのべにしやが花さけば かうもりの柄こそわびしき かすかなる霧雨ふりて 丘はたゞいちめ …
烏の北斗七星(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
つめたいいぢの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないやうになりました。 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちよつ …
読書目安時間:約10分
つめたいいぢの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないやうになりました。 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちよつ …
烏の北斗七星(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
つめたいいじの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないようになりました。 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちょっ …
読書目安時間:約10分
つめたいいじの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないようになりました。 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちょっ …
雁の童子(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
流沙の南の、楊で囲まれた小さな泉で、私は、いった麦粉を水にといて、昼の食事をしておりました。 そのとき、一人の巡礼のおじいさんが、やっぱり食事のために、そこへやって来ました。私たち …
読書目安時間:約17分
流沙の南の、楊で囲まれた小さな泉で、私は、いった麦粉を水にといて、昼の食事をしておりました。 そのとき、一人の巡礼のおじいさんが、やっぱり食事のために、そこへやって来ました。私たち …
革トランク(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。三つとも駄目だと思ってゐましたら、どうしたわけか、まぐれあたりのやうに工学校だけ及第しました。一年 …
読書目安時間:約7分
斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。三つとも駄目だと思ってゐましたら、どうしたわけか、まぐれあたりのやうに工学校だけ及第しました。一年 …
黄いろのトマト(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
博物局十六等官 キュステ誌 私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが、四疋の蜂雀がいます。 生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さなかあいらしい蜂 …
読書目安時間:約17分
博物局十六等官 キュステ誌 私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが、四疋の蜂雀がいます。 生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さなかあいらしい蜂 …
機会(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
恋のはじめのおとなひは かの青春に来りけり おなじき第二神来は 蒼き上着にありにけり その第三は諸人の 栄誉のなかに来りけり いまおゝその四愛憐は 何たるぼろの中に来しぞも …
読書目安時間:約1分
恋のはじめのおとなひは かの青春に来りけり おなじき第二神来は 蒼き上着にありにけり その第三は諸人の 栄誉のなかに来りけり いまおゝその四愛憐は 何たるぼろの中に来しぞも …
饑餓陣営:一幕(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
人物バナナン大将。 特務曹長、 曹長、 兵士、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。 場処不明なるも劇中マルトン原と呼ばれたり。 時不明。 幕あく。 砲弾にて破損せる古き穀倉の内 …
読書目安時間:約15分
人物バナナン大将。 特務曹長、 曹長、 兵士、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。 場処不明なるも劇中マルトン原と呼ばれたり。 時不明。 幕あく。 砲弾にて破損せる古き穀倉の内 …
疑獄元兇(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
とにかく向ふは検事の立場、 今の会釈は悪くない。勲績のある上長として、盛名のある君子として、礼を尽した態度であった。 わたしの方も声音から、動作一般自然であった。或ひはかういふ調子 …
読書目安時間:約4分
とにかく向ふは検事の立場、 今の会釈は悪くない。勲績のある上長として、盛名のある君子として、礼を尽した態度であった。 わたしの方も声音から、動作一般自然であった。或ひはかういふ調子 …
気のいい火山弾(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
ある死火山のすそ野のかしはの木のかげに、「ベゴ」といふあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座ってゐました。 「ベゴ」と云ふ名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあま …
読書目安時間:約9分
ある死火山のすそ野のかしはの木のかげに、「ベゴ」といふあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座ってゐました。 「ベゴ」と云ふ名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあま …
気のいい火山弾(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。 「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあま …
読書目安時間:約9分
ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。 「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあま …
饗宴(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ひとびと酸き胡瓜を噛み やゝに濁れる黄の酒の 陶の小盃に往復せり そは今日賦役に出でざりし家々より 権左エ門が集め来しなれ まこと権左エ門の眼双に赤きは 尚褐玻璃の老眼鏡をかけたる …
読書目安時間:約1分
ひとびと酸き胡瓜を噛み やゝに濁れる黄の酒の 陶の小盃に往復せり そは今日賦役に出でざりし家々より 権左エ門が集め来しなれ まこと権左エ門の眼双に赤きは 尚褐玻璃の老眼鏡をかけたる …
銀河鉄道の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間18分
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の …
読書目安時間:約1時間18分
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の …
銀河鉄道の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間27分
「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」先生は、黒板につるした大きな黒い星座の図 …
読書目安時間:約1時間27分
「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていた、このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」先生は、黒板につるした大きな黒い星座の図 …
銀河鉄道の夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間28分
「ではみなさん、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐた、このぼんやりと白いものが何かご承知ですか。」 先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の圖の、上から …
読書目安時間:約1時間28分
「ではみなさん、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐた、このぼんやりと白いものが何かご承知ですか。」 先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の圖の、上から …
銀河鉄道の夜(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間18分
「ではみなさんは、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐたこのぼんやりと白いものがほんたうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の …
読書目安時間:約1時間18分
「ではみなさんは、さういふふうに川だと云はれたり、乳の流れたあとだと云はれたりしてゐたこのぼんやりと白いものがほんたうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の …
〔「銀河鉄道の夜」初期形一〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
〔ここまで原稿なし〕 そして青い橄※の森が見えない天の川の向ふにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまひそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひゞきや風の音にす …
読書目安時間:約22分
〔ここまで原稿なし〕 そして青い橄※の森が見えない天の川の向ふにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまひそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひゞきや風の音にす …
グスコーブドリの伝記(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生まれました。おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく切ってし …
読書目安時間:約51分
グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生まれました。おとうさんは、グスコーナドリという名高い木こりで、どんな大きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるようにわけなく切ってし …
クねずみ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
クという名前のねずみがありました。たいへん高慢でそれにそねみ深くって、自分をねずみの仲間の一番の学者と思っていました。ほかのねずみが何か生意気なことを言うとエヘンエヘンと言うのが癖 …
読書目安時間:約12分
クという名前のねずみがありました。たいへん高慢でそれにそねみ深くって、自分をねずみの仲間の一番の学者と思っていました。ほかのねずみが何か生意気なことを言うとエヘンエヘンと言うのが癖 …
蜘蛛となめくじと狸(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
蜘蛛と、銀色のなめくじとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。 けれども一体何の選手だったのか私はよく知りません。 山猫が申しましたが三人はそれはそれは実に本気 …
読書目安時間:約16分
蜘蛛と、銀色のなめくじとそれから顔を洗ったことのない狸とはみんな立派な選手でした。 けれども一体何の選手だったのか私はよく知りません。 山猫が申しましたが三人はそれはそれは実に本気 …
車(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
ハーシュは籠を頭に載っけて午前中町かどに立ってゐましたがどう云ふわけか一つも仕事がありませんでした。呆れて籠をおろして腰をかけ弁当をたべはじめましたら一人の赤髯の男がせはしさうにや …
読書目安時間:約6分
ハーシュは籠を頭に載っけて午前中町かどに立ってゐましたがどう云ふわけか一つも仕事がありませんでした。呆れて籠をおろして腰をかけ弁当をたべはじめましたら一人の赤髯の男がせはしさうにや …
黒ぶだう(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
仔牛が厭きて頭をぶらぶら振ってゐましたら向ふの丘の上を通りかかった赤狐が風のやうに走って来ました。 「おい、散歩に出ようぢゃないか。僕がこの柵を持ちあげてゐるから早くくぐっておしま …
読書目安時間:約5分
仔牛が厭きて頭をぶらぶら振ってゐましたら向ふの丘の上を通りかかった赤狐が風のやうに走って来ました。 「おい、散歩に出ようぢゃないか。僕がこの柵を持ちあげてゐるから早くくぐっておしま …
〔郡属伊原忠右エ門〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
郡属伊原忠右エ門 科頭にゴムの靴はきて 冬の芝生をうちよぎり 南ちゞれし綿雲に 雨量計をぞさゝげたる 天狗巣病にはあらねども あまりにしげきこずゑかな …
読書目安時間:約1分
郡属伊原忠右エ門 科頭にゴムの靴はきて 冬の芝生をうちよぎり 南ちゞれし綿雲に 雨量計をぞさゝげたる 天狗巣病にはあらねども あまりにしげきこずゑかな …
訓導(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
早くもひとり雪をけり はるかの吹雪をはせ行くは 木鼠捕りの悦治なり 三人ひとしくはせたちて 多吉ぞわらひ軋るとき 寅は溜りに倒れゐし 赤き毛布にくるまりて 風くるごとに足小刻むは …
読書目安時間:約1分
早くもひとり雪をけり はるかの吹雪をはせ行くは 木鼠捕りの悦治なり 三人ひとしくはせたちて 多吉ぞわらひ軋るとき 寅は溜りに倒れゐし 赤き毛布にくるまりて 風くるごとに足小刻むは …
虔十公園林(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
虔十はいつも繩の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくりあるいてゐるのでした。 雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあが …
読書目安時間:約10分
虔十はいつも繩の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくりあるいてゐるのでした。 雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあが …
虔十公園林(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
虔十はいつも縄の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくりあるいているのでした。 雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあが …
読書目安時間:約10分
虔十はいつも縄の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくりあるいているのでした。 雨の中の青い藪を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあが …
幻想(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
濁みし声下より叫ぶ 炉はいまし何度にありや 八百といらへをすれば 声なくて炭を掻く音 声ありて更に叫べり づくはいまし何度にありや 八百といらへをすれば またもちえと舌打つひゞき …
読書目安時間:約1分
濁みし声下より叫ぶ 炉はいまし何度にありや 八百といらへをすれば 声なくて炭を掻く音 声ありて更に叫べり づくはいまし何度にありや 八百といらへをすれば またもちえと舌打つひゞき …
耕耘部の時計(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
一、午前八時五分 農場の耕耘部の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。 まん中の大きな釜からは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆を巻いたり藁沓をはいたり …
読書目安時間:約7分
一、午前八時五分 農場の耕耘部の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。 まん中の大きな釜からは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆を巻いたり藁沓をはいたり …
耕耘部の時計(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
農場の耕耘部の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。 まん中の大きな釜からは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆を巻いたり藁沓をはいたり、はたらきに出る支 …
読書目安時間:約7分
農場の耕耘部の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。 まん中の大きな釜からは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆を巻いたり藁沓をはいたり、はたらきに出る支 …
講後(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
いたやと楢の林つきて かの鉛にも続くといへる 広きみねみち見え初めたれば われ師にさきだちて走りのぼり 峯にきたりて悦び叫べり 江釣子森は黒くして脚下にあり 北上の野をへだてて山は …
読書目安時間:約1分
いたやと楢の林つきて かの鉛にも続くといへる 広きみねみち見え初めたれば われ師にさきだちて走りのぼり 峯にきたりて悦び叫べり 江釣子森は黒くして脚下にあり 北上の野をへだてて山は …
〔洪積の台のはてなる〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
洪積の台のはてなる 一ひらの赤き粘土地 桐の群白くひかれど 枝しげくたけ低ければ 鍛冶町の米屋五助は 今日も来て灰を与へぬ。 かなたにてきらめく川や さてはまた遠山の雪 その枝にか …
読書目安時間:約1分
洪積の台のはてなる 一ひらの赤き粘土地 桐の群白くひかれど 枝しげくたけ低ければ 鍛冶町の米屋五助は 今日も来て灰を与へぬ。 かなたにてきらめく川や さてはまた遠山の雪 その枝にか …
校庭(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
さ霧する白き木柵 幹彫れる桐のいくもと 剥げそめし白きペンキの 木柵に人人は倚り そのペンキあるいは剥げ あるものは庭をのぞめり 一鐘のラッパが鳴りて 急ぎ行く港先生 白堊城秋のガ …
読書目安時間:約1分
さ霧する白き木柵 幹彫れる桐のいくもと 剥げそめし白きペンキの 木柵に人人は倚り そのペンキあるいは剥げ あるものは庭をのぞめり 一鐘のラッパが鳴りて 急ぎ行く港先生 白堊城秋のガ …
氷と後光(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
「ええ。」 雪と月あかりの中を、汽車はいっしんに走ってゐました。 赤い天鵞絨の頭巾をかぶったちひさな子が、毛布につつまれて窓の下の飴色の壁に上手にたてかけられ、まるで寢床に居るやう …
読書目安時間:約8分
「ええ。」 雪と月あかりの中を、汽車はいっしんに走ってゐました。 赤い天鵞絨の頭巾をかぶったちひさな子が、毛布につつまれて窓の下の飴色の壁に上手にたてかけられ、まるで寢床に居るやう …
国柱会(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
外の面には春日うららに ありとあるひびきなせるを 灰いろのこの館には 百の人けはひだになし 台の上桜はなさき 行楽の士女さゞめかん この館はひえびえとして 泉石をうち繞りたり 大居 …
読書目安時間:約1分
外の面には春日うららに ありとあるひびきなせるを 灰いろのこの館には 百の人けはひだになし 台の上桜はなさき 行楽の士女さゞめかん この館はひえびえとして 泉石をうち繞りたり 大居 …
〔このみちの醸すがごとく〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
このみちの醸すがごとく 粟葉などひかりいでしは ひがしなる山彙の上に 黄なる月いざよへるなり 夏の草山とになひて やうやくに人ら帰るを なにをかもわがかなしまん すゝきの葉露をおと …
読書目安時間:約1分
このみちの醸すがごとく 粟葉などひかりいでしは ひがしなる山彙の上に 黄なる月いざよへるなり 夏の草山とになひて やうやくに人ら帰るを なにをかもわがかなしまん すゝきの葉露をおと …
さいかち淵(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
さいかち淵なら、ほんたうにおもしろい。 しゅっこだって毎日行く。しゅっこは、舜一なんだけれども、みんなはいつでもしゅっこといふ。さういはれても、しゅっこは少しも怒らない。だからみん …
読書目安時間:約11分
さいかち淵なら、ほんたうにおもしろい。 しゅっこだって毎日行く。しゅっこは、舜一なんだけれども、みんなはいつでもしゅっこといふ。さういはれても、しゅっこは少しも怒らない。だからみん …
さいかち淵(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
さいかち淵なら、ほんとうにおもしろい。 しゅっこだって毎日行く。しゅっこは、舜一なんだけれども、みんなはいつでもしゅっこという。そういわれても、しゅっこは少しも怒らない。だからみん …
読書目安時間:約11分
さいかち淵なら、ほんとうにおもしろい。 しゅっこだって毎日行く。しゅっこは、舜一なんだけれども、みんなはいつでもしゅっこという。そういわれても、しゅっこは少しも怒らない。だからみん …
祭日〔二〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
アナロナビクナビ睡たく桐咲きて 峡に瘧のやまひつたはる ナビクナビアリナリ赤き幡もちて 草の峠を越ゆる母たち ナリトナリアナロ御堂のうすあかり 毘沙門像に味噌たてまつる アナロナビ …
読書目安時間:約1分
アナロナビクナビ睡たく桐咲きて 峡に瘧のやまひつたはる ナビクナビアリナリ赤き幡もちて 草の峠を越ゆる母たち ナリトナリアナロ御堂のうすあかり 毘沙門像に味噌たてまつる アナロナビ …
サガレンと八月(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、何かしらべに来たの。」 西の山地から吹いて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着をぱたぱたかすめながら何べんも通って行きま …
読書目安時間:約9分
「何の用でここへ来たの、何かしらべに来たの、何かしらべに来たの。」 西の山地から吹いて来たまだ少しつめたい風が私の見すぼらしい黄いろの上着をぱたぱたかすめながら何べんも通って行きま …
ざしき童子のはなし(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ぼくらの方の、ざしき童子のはなしです。 あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、庭であそんでおりました。大きな家にだれもおりませんでしたから、そこらはしんとして …
読書目安時間:約4分
ぼくらの方の、ざしき童子のはなしです。 あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、庭であそんでおりました。大きな家にだれもおりませんでしたから、そこらはしんとして …
さるのこしかけ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
楢夫は夕方、裏の大きな栗の木の下に行きました。その幹の、丁度楢夫の目位高い所に、白いきのこが三つできていました。まん中のは大きく、両がわの二つはずっと小さく、そして少し低いのでした …
読書目安時間:約9分
楢夫は夕方、裏の大きな栗の木の下に行きました。その幹の、丁度楢夫の目位高い所に、白いきのこが三つできていました。まん中のは大きく、両がわの二つはずっと小さく、そして少し低いのでした …
山地の稜(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
高橋吉郎が今朝は殊に小さくて青じろく少しけげんさうにこっちを見てゐる。清原も見てゐる。たった二人でぬれた運動場の朝のテニスもさびしいだらう。そのいぶかしさうな眼はどこかへ行くならお …
読書目安時間:約6分
高橋吉郎が今朝は殊に小さくて青じろく少しけげんさうにこっちを見てゐる。清原も見てゐる。たった二人でぬれた運動場の朝のテニスもさびしいだらう。そのいぶかしさうな眼はどこかへ行くならお …
シグナルとシグナレス(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 さそりの赤眼が見えたころ、 四時から今朝もやって来た。 遠野の盆地はまっくらで、 つめたい水の声ばかり。 ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 …
読書目安時間:約23分
「ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 さそりの赤眼が見えたころ、 四時から今朝もやって来た。 遠野の盆地はまっくらで、 つめたい水の声ばかり。 ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 …
紫紺染について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
盛岡の産物のなかに、紫紺染というものがあります。 これは、紫紺という桔梗によく似た草の根を、灰で煮出して染めるのです。 南部の紫紺染は、昔は大へん名高いものだったそうですが、明治に …
読書目安時間:約10分
盛岡の産物のなかに、紫紺染というものがあります。 これは、紫紺という桔梗によく似た草の根を、灰で煮出して染めるのです。 南部の紫紺染は、昔は大へん名高いものだったそうですが、明治に …
鹿踊りのはじまり(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のやうにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いてゐた風 …
読書目安時間:約13分
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のやうにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いてゐた風 …
鹿踊りのはじまり(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風 …
読書目安時間:約13分
そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから、夕陽は赤くななめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のようにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いていた風 …
四八 黄泉路(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
アリイルスチュアール 一九二七 (房中寒くむなしくて 灯は消え月は出でざるに 大なる恐怖の声なして いま起ちたるはそも何ぞ!…… わが知るものの霊よ 何とてなれは来りしや?) (君 …
読書目安時間:約1分
アリイルスチュアール 一九二七 (房中寒くむなしくて 灯は消え月は出でざるに 大なる恐怖の声なして いま起ちたるはそも何ぞ!…… わが知るものの霊よ 何とてなれは来りしや?) (君 …
疾中(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
病床 たけにぐさに 風が吹いてゐるといふことである たけにぐさの群落にも 風が吹いてゐるといふことである 眼にて云ふ だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるですからな ゆふ …
読書目安時間:約10分
病床 たけにぐさに 風が吹いてゐるといふことである たけにぐさの群落にも 風が吹いてゐるといふことである 眼にて云ふ だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるですからな ゆふ …
詩ノート(新字旧仮名)
読書目安時間:約48分
一九二六、一一、四、 途中の空気はつめたく明るい水でした 熱があると魚のやうに活溌で そして大へん新鮮ですな 終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました 市街も橋もじつに光って …
読書目安時間:約48分
一九二六、一一、四、 途中の空気はつめたく明るい水でした 熱があると魚のやうに活溌で そして大へん新鮮ですな 終りの一つのカクタスがまばゆく燃えて居りました 市街も橋もじつに光って …
〔島わにあらき潮騒を〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
島わにあらき潮騒を うつつの森のなかに聴き 羊歯の葉しげき下蔭に 青き椿の実をとりぬ 南の風のくるほしく 波のいぶきを吹き来れば 百千鳥すだきわぶる 三原の山に燃ゆる火の なかばは …
読書目安時間:約1分
島わにあらき潮騒を うつつの森のなかに聴き 羊歯の葉しげき下蔭に 青き椿の実をとりぬ 南の風のくるほしく 波のいぶきを吹き来れば 百千鳥すだきわぶる 三原の山に燃ゆる火の なかばは …
〔霜枯れのトマトの気根〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
霜枯れのトマトの気根 その熟れぬ青き実をとり 手に裂かばさびしきにほひ ほのぼのとそらにのぼりて 翔け行くは二価アルコホール 落ちくるは黒雲のひら …
読書目安時間:約1分
霜枯れのトマトの気根 その熟れぬ青き実をとり 手に裂かばさびしきにほひ ほのぼのとそらにのぼりて 翔け行くは二価アルコホール 落ちくるは黒雲のひら …
〔霧降る萱の細みちに〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
霧降る萱の細みちに われをいぶかり腕組める なはたくましき漢子かな 白き上着はよそへども ひそに醸せるなが酒を うち索めたるわれならず はがねの槌は手にあれど ながしづかなる山畑に …
読書目安時間:約1分
霧降る萱の細みちに われをいぶかり腕組める なはたくましき漢子かな 白き上着はよそへども ひそに醸せるなが酒を うち索めたるわれならず はがねの槌は手にあれど ながしづかなる山畑に …
十月の末(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
嘉ッコは、小さなわらぢをはいて、赤いげんこを二つ顔の前にそろへて、ふっふっと息をふきかけながら、土間から外へ飛び出しました。外はつめたくて明るくて、そしてしんとしてゐます。 嘉ッコ …
読書目安時間:約10分
嘉ッコは、小さなわらぢをはいて、赤いげんこを二つ顔の前にそろへて、ふっふっと息をふきかけながら、土間から外へ飛び出しました。外はつめたくて明るくて、そしてしんとしてゐます。 嘉ッコ …
十月の末(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
嘉ッコは、小さなわらじをはいて、赤いげんこを二つ顔の前にそろえて、ふっふっと息をふきかけながら、土間から外へ飛び出しました。外はつめたくて明るくて、そしてしんとしています。 嘉ッコ …
読書目安時間:約10分
嘉ッコは、小さなわらじをはいて、赤いげんこを二つ顔の前にそろえて、ふっふっと息をふきかけながら、土間から外へ飛び出しました。外はつめたくて明るくて、そしてしんとしています。 嘉ッコ …
十六日(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
よく晴れて前の谷川もいつもとまるでちがって楽しくごろごろ鳴った。盆の十六日なので鉱山も休んで給料は呉れ畑の仕事も一段落ついて今日こそ一日そこらの木やとうもろこしを吹く風も家のなかの …
読書目安時間:約9分
よく晴れて前の谷川もいつもとまるでちがって楽しくごろごろ鳴った。盆の十六日なので鉱山も休んで給料は呉れ畑の仕事も一段落ついて今日こそ一日そこらの木やとうもろこしを吹く風も家のなかの …
樹園(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
髪白き山田博士が 書いだき帰り往くころ かはたれはしづに這ひ来て ふくよかに木の芽ほごるゝ 鳥飛びて気圧を高み 守衛長〔以下未完〕 ぎごちなき独乙冠詞を 青々となげく窓あり …
読書目安時間:約1分
髪白き山田博士が 書いだき帰り往くころ かはたれはしづに這ひ来て ふくよかに木の芽ほごるゝ 鳥飛びて気圧を高み 守衛長〔以下未完〕 ぎごちなき独乙冠詞を 青々となげく窓あり …
〔棕梠の葉やゝに痙攣し〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
棕梠の葉やゝに痙攣し 陽光横目に過ぐるころ 湯屋には声のほのかにて 溝水ほとと落ちたるに 放蕩無頼の息子の大工 このとき古きスコットランドの 貴族風して戻り来れり …
読書目安時間:約1分
棕梠の葉やゝに痙攣し 陽光横目に過ぐるころ 湯屋には声のほのかにて 溝水ほとと落ちたるに 放蕩無頼の息子の大工 このとき古きスコットランドの 貴族風して戻り来れり …
小祠(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
赤き鳥居はあせたれど 杉のうれ行く冬の雲 野は殿堂の続きかな よくすかれたる日本紙は 一年風に完けきと 雪の反射に知りぬべし かしこは一の篩にて ひとまづそこに香を浄み 入り来るな …
読書目安時間:約1分
赤き鳥居はあせたれど 杉のうれ行く冬の雲 野は殿堂の続きかな よくすかれたる日本紙は 一年風に完けきと 雪の反射に知りぬべし かしこは一の篩にて ひとまづそこに香を浄み 入り来るな …
職員室(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
歪むガラスのかなたにて 藤をまとへるさいかちや 西は雪ぐも亙せるに 一ひらひかる天の青 ひるげせはしく事終へて なにかそぐはぬひとびとの 暖炉を囲みあるものは その石墨をこそげたり …
読書目安時間:約1分
歪むガラスのかなたにて 藤をまとへるさいかちや 西は雪ぐも亙せるに 一ひらひかる天の青 ひるげせはしく事終へて なにかそぐはぬひとびとの 暖炉を囲みあるものは その石墨をこそげたり …
植物医師:郷土喜劇(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
時一九二〇年代 処盛岡市郊外 人物爾薩待正開業したての植物医師 ペンキ屋徒弟 農民一 農民二 農民三 農民四 農民五 農民六 幕あく。 粗末なバラック室、卓子二、一は顕微鏡を載せ一 …
読書目安時間:約14分
時一九二〇年代 処盛岡市郊外 人物爾薩待正開業したての植物医師 ペンキ屋徒弟 農民一 農民二 農民三 農民四 農民五 農民六 幕あく。 粗末なバラック室、卓子二、一は顕微鏡を載せ一 …
水仙月の四日(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。 猫のやうな耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけてゐたのです。 ひとりの子 …
読書目安時間:約12分
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。 猫のやうな耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけてゐたのです。 ひとりの子 …
水仙月の四日(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。 猫のような耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけていたのです。 ひとりの子 …
読書目安時間:約12分
雪婆んごは、遠くへ出かけて居りました。 猫のような耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越えて、遠くへでかけていたのです。 ひとりの子 …
水部の線(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
きみがおもかげうかべんと 夜を仰げばこのまひる 蝋紙に描きし北上の 水線青くひかるなれ 竜や棲みしと伝へたる このこもりぬの辺を来れば 夜ぞらに泛ぶ水線の 火花となりて青々と散る …
読書目安時間:約1分
きみがおもかげうかべんと 夜を仰げばこのまひる 蝋紙に描きし北上の 水線青くひかるなれ 竜や棲みしと伝へたる このこもりぬの辺を来れば 夜ぞらに泛ぶ水線の 火花となりて青々と散る …
スタンレー探検隊に対する二人のコンゴー土人の演説(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
白人白人いづくへ行くや こゝを溯らば毒の滝 がまは汝を膨らまし 鰐は汝の手を食はん ちがひなしちがひなし がまは汝の舌を抜き 鰐は汝の手を食はん 白人白人いづくへ行くや こゝより奥 …
読書目安時間:約1分
白人白人いづくへ行くや こゝを溯らば毒の滝 がまは汝を膨らまし 鰐は汝の手を食はん ちがひなしちがひなし がまは汝の舌を抜き 鰐は汝の手を食はん 白人白人いづくへ行くや こゝより奥 …
隅田川(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
水はよどみて日はけぶり 桜は青き夢の列 汝は酔ひ痴れてうちをどる 泥洲の上にうちをどる 母をはるけきなが弟子は 酔はずさびしくそらを見る その蘆生えの蘆に立ち ましろきそらをひとり …
読書目安時間:約1分
水はよどみて日はけぶり 桜は青き夢の列 汝は酔ひ痴れてうちをどる 泥洲の上にうちをどる 母をはるけきなが弟子は 酔はずさびしくそらを見る その蘆生えの蘆に立ち ましろきそらをひとり …
製炭小屋(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
もろの崖よりたゆみなく 朽ち石まろぶ黒夜谷 鳴きどよもせば慈悲心鳥の われにはつらき睡りかな 榾組み直しものおもひ ものうちおもひ榾組みて はやくも東谷のはて 雲にも朱の色立ちぬ …
読書目安時間:約1分
もろの崖よりたゆみなく 朽ち石まろぶ黒夜谷 鳴きどよもせば慈悲心鳥の われにはつらき睡りかな 榾組み直しものおもひ ものうちおもひ榾組みて はやくも東谷のはて 雲にも朱の色立ちぬ …
税務署長の冒険(新字旧仮名)
読書目安時間:約34分
一、濁密防止講演会 〔冒頭原稿数枚なし〕 イギリスの大学の試験では牛でさへ酒を呑ませると目方が増すと云ひます。又これは実に人間エネルギーの根元です。酒は圧縮せる液体のパンと云ふのは …
読書目安時間:約34分
一、濁密防止講演会 〔冒頭原稿数枚なし〕 イギリスの大学の試験では牛でさへ酒を呑ませると目方が増すと云ひます。又これは実に人間エネルギーの根元です。酒は圧縮せる液体のパンと云ふのは …
雪峡(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
塵のごと小鳥なきすぎ ほこ杉の峡の奥より あやしくも鳴るやみ神楽 いみじくも鳴るやみ神楽 たゞ深し天の青原 雲が燃す白金環と 白金の黒の窟を 日天子奔せ出でたまふ …
読書目安時間:約1分
塵のごと小鳥なきすぎ ほこ杉の峡の奥より あやしくも鳴るやみ神楽 いみじくも鳴るやみ神楽 たゞ深し天の青原 雲が燃す白金環と 白金の黒の窟を 日天子奔せ出でたまふ …
〔せなうち痛み息熱く〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
せなうち痛み息熱く 待合室をわが得るや 白き羽せし淫れめの おごりてまなこうちつむり かなためぐれるベンチには かつて獅子とも虎とも呼ばれ いま歯を謝せし村長の 頬明き孫の学生を …
読書目安時間:約1分
せなうち痛み息熱く 待合室をわが得るや 白き羽せし淫れめの おごりてまなこうちつむり かなためぐれるベンチには かつて獅子とも虎とも呼ばれ いま歯を謝せし村長の 頬明き孫の学生を …
セレナーデ 恋歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
江釣子森の右肩に 雪ぞあやしくひらめけど きみはいまさず ルーノの君は見えまさず 夜をつまれし枕木黒く 群あちこちに安けれど きみはいまさず とゞろにしばし行きかへど きみはいまさ …
読書目安時間:約1分
江釣子森の右肩に 雪ぞあやしくひらめけど きみはいまさず ルーノの君は見えまさず 夜をつまれし枕木黒く 群あちこちに安けれど きみはいまさず とゞろにしばし行きかへど きみはいまさ …
セロ弾きのゴーシュ(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にい …
読書目安時間:約24分
ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にい …
一九三一年度極東ビヂテリアン大会見聞録(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
去る九月四日、花巻温泉で第十七回極東ビジテリアン大会が行はれた。これは世界の食糧問題に対する相当の陰謀をも含むもので昔は極めて秘密に開催されたものであるさうであるが今年は公開こそは …
読書目安時間:約8分
去る九月四日、花巻温泉で第十七回極東ビジテリアン大会が行はれた。これは世界の食糧問題に対する相当の陰謀をも含むもので昔は極めて秘密に開催されたものであるさうであるが今年は公開こそは …
僧園(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
星のけむりの下にして 石組黒くひそめるを さもあしざまに鳴き棄てつ くわくこう一羽北に過ぎたり 夜のもみぢの木もそびえ 御堂の屋根も沈めるを さらに一羽の鳥ありて 寒天質の闇に溶け …
読書目安時間:約1分
星のけむりの下にして 石組黒くひそめるを さもあしざまに鳴き棄てつ くわくこう一羽北に過ぎたり 夜のもみぢの木もそびえ 御堂の屋根も沈めるを さらに一羽の鳥ありて 寒天質の闇に溶け …
宗谷〔一〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
まくろなる流れの岸に 根株燃すゆふべのけむり こらつどひかたみに舞ひて たんぽゝの白き毛をふく 丘の上のスリッパ小屋に 媼ゐてむすめらに云ふ かくてしも畑みな成りて あらたなる艱苦 …
読書目安時間:約1分
まくろなる流れの岸に 根株燃すゆふべのけむり こらつどひかたみに舞ひて たんぽゝの白き毛をふく 丘の上のスリッパ小屋に 媼ゐてむすめらに云ふ かくてしも畑みな成りて あらたなる艱苦 …
宗谷〔二〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
そらの微光にそゝがれて いま明け渡る甲板は 綱具やしろきライフブイ あやしく黄ばむ排気筒 はだれに暗く緑する 宗谷岬のたゝずみと 北はま蒼にうち睡る サガレン島の東尾や 黒き葡萄の …
読書目安時間:約1分
そらの微光にそゝがれて いま明け渡る甲板は 綱具やしろきライフブイ あやしく黄ばむ排気筒 はだれに暗く緑する 宗谷岬のたゝずみと 北はま蒼にうち睡る サガレン島の東尾や 黒き葡萄の …
〔蒼冷と純黒〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
〔冒頭欠〕 たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。 純黒俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのた …
読書目安時間:約2分
〔冒頭欠〕 たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。 純黒俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのた …
台川(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
〔もうでかけませう。〕たしかに光がうごいてみんな立ちあがる、腰をおろしたみじかい草、かげろふか何かゆれてゐる、かげろふぢゃない、網膜が感じただけのその光だ、 〔さあでかけませう。行 …
読書目安時間:約16分
〔もうでかけませう。〕たしかに光がうごいてみんな立ちあがる、腰をおろしたみじかい草、かげろふか何かゆれてゐる、かげろふぢゃない、網膜が感じただけのその光だ、 〔さあでかけませう。行 …
台川(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
〔もうでかけましょう。〕たしかに光がうごいてみんな立ちあがる。腰をおろしたみじかい草。かげろうか何かゆれている。かげろうじゃない。網膜が感じただけのその光だ。 〔さあでかけましょう …
読書目安時間:約16分
〔もうでかけましょう。〕たしかに光がうごいてみんな立ちあがる。腰をおろしたみじかい草。かげろうか何かゆれている。かげろうじゃない。網膜が感じただけのその光だ。 〔さあでかけましょう …
対酌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
嘆きあひ酌みかふひまに 灯はとぼり雑木は昏れて 滝やまた稜立つ巌や 雪あめのひたに降りきぬ 「ただかしこ淀むそらのみ かくてわがふるさとにこそ」 そのひとりかこちて哭けば 狸とも眼 …
読書目安時間:約1分
嘆きあひ酌みかふひまに 灯はとぼり雑木は昏れて 滝やまた稜立つ巌や 雪あめのひたに降りきぬ 「ただかしこ淀むそらのみ かくてわがふるさとにこそ」 そのひとりかこちて哭けば 狸とも眼 …
大礼服の例外的効果(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
こつこつと扉を叩いたのでさっきから大礼服を着て二階の式場で学生たちの入ったり整列したりする音を聞きながらストウヴの近くできうくつに待ってゐた校長は低くよしと答へた。 旗手が新らしい …
読書目安時間:約3分
こつこつと扉を叩いたのでさっきから大礼服を着て二階の式場で学生たちの入ったり整列したりする音を聞きながらストウヴの近くできうくつに待ってゐた校長は低くよしと答へた。 旗手が新らしい …
〔たゞかたくなのみをわぶる〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
……たゞかたくなのみをわぶる なにをかひとにうらむべき…… ましろきそらにはゞたきて ましろきそらにたゆたひて 百舌はいこひをおもふらし …
読書目安時間:約1分
……たゞかたくなのみをわぶる なにをかひとにうらむべき…… ましろきそらにはゞたきて ましろきそらにたゆたひて 百舌はいこひをおもふらし …
谷(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
楢渡のとこの崖はまっ赤でした。 それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。 谷底には水もなんにもなくてたゞ青い梢と白樺などの幹が短く見えるだけでした。 …
読書目安時間:約10分
楢渡のとこの崖はまっ赤でした。 それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。 谷底には水もなんにもなくてたゞ青い梢と白樺などの幹が短く見えるだけでした。 …
谷(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
楢渡のとこの崖はまっ赤でした。 それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。 谷底には水もなんにもなくてただ青い梢と白樺などの幹が短く見えるだけでした。 …
読書目安時間:約10分
楢渡のとこの崖はまっ赤でした。 それにひどく深くて急でしたからのぞいて見ると全くくるくるするのでした。 谷底には水もなんにもなくてただ青い梢と白樺などの幹が短く見えるだけでした。 …
種山ヶ原(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
種山ヶ原といふのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできてゐます。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五六軒づつの部落があります …
読書目安時間:約18分
種山ヶ原といふのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできてゐます。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五六軒づつの部落があります …
種山ヶ原(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落がありま …
読書目安時間:約16分
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落がありま …
タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ホロタイタネリは、小屋の出口で、でまかせのうたをうたいながら、何か細かくむしったものを、ばたばたばたばた、棒で叩いて居りました。 「山のうえから、青い藤蔓とってきた …西風ゴスケに …
読書目安時間:約10分
ホロタイタネリは、小屋の出口で、でまかせのうたをうたいながら、何か細かくむしったものを、ばたばたばたばた、棒で叩いて居りました。 「山のうえから、青い藤蔓とってきた …西風ゴスケに …
丹藤川〔「家長制度」先駆形〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはこの家の主人の膝が大黒柱を切って投げ出しどっしりがたりと座ってゐる。 その息子らは外の闇から帰って来た。肩はばがひろくけらを着て馬を廐へ引いて入 …
読書目安時間:約1分
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはこの家の主人の膝が大黒柱を切って投げ出しどっしりがたりと座ってゐる。 その息子らは外の闇から帰って来た。肩はばがひろくけらを着て馬を廐へ引いて入 …
中尊寺〔二〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
白きそらいと近くして みねの方鐘さらに鳴り 青葉もて埋もる堂の ひそけくも暮れにまぢかし 僧ひとり縁にうちゐて ふくれたるうなじめぐらし 義経の彩ある像を ゆびさしてそらごとを云ふ …
読書目安時間:約1分
白きそらいと近くして みねの方鐘さらに鳴り 青葉もて埋もる堂の ひそけくも暮れにまぢかし 僧ひとり縁にうちゐて ふくれたるうなじめぐらし 義経の彩ある像を ゆびさしてそらごとを云ふ …
注文の多い料理店(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊のやうな犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを云ひながら、あ …
読書目安時間:約12分
二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊のやうな犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを云ひながら、あ …
注文の多い料理店(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あ …
読書目安時間:約12分
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あ …
『注文の多い料理店』広告文(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
イーハトヴは一つの地名である。強て、その地点を求むるならばそれは、大小クラウスたちの耕してゐた、野原や、少女アリスガ辿つた鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠の遥かな北東、イヴ …
読書目安時間:約4分
イーハトヴは一つの地名である。強て、その地点を求むるならばそれは、大小クラウスたちの耕してゐた、野原や、少女アリスガ辿つた鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠の遥かな北東、イヴ …
『注文の多い料理店』序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのき …
読書目安時間:約2分
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのき …
『注文の多い料理店』序(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのき …
読書目安時間:約2分
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのき …
『注文の多い料理店』新刊案内(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
イーハトヴは一つの地名である。しいて、その地点を求むるならば、それは、大小クラウスたちの耕していた、野原や、少女アリスがたどった鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠のはるかな北 …
読書目安時間:約4分
イーハトヴは一つの地名である。しいて、その地点を求むるならば、それは、大小クラウスたちの耕していた、野原や、少女アリスがたどった鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠のはるかな北 …
チュウリップの幻術(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この農園のすもものかきねはいっぱいに青じろい花をつけています。 雲は光って立派な玉髄の置物です。四方の空を繞ります。 すもものかきねのはずれから一人の洋傘直しが荷物をしょって、この …
読書目安時間:約12分
この農園のすもものかきねはいっぱいに青じろい花をつけています。 雲は光って立派な玉髄の置物です。四方の空を繞ります。 すもものかきねのはずれから一人の洋傘直しが荷物をしょって、この …
ツェねずみ(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。 ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道を歩いていますと、向こうからいたちが …
読書目安時間:約10分
ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。 ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道を歩いていますと、向こうからいたちが …
月夜のけだもの(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
十日の月が西の煉瓦塀にかくれるまで、もう一時間しかありませんでした。 その青じろい月の明りを浴びて、獅子は檻のなかをのそのそあるいて居りましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前 …
読書目安時間:約10分
十日の月が西の煉瓦塀にかくれるまで、もう一時間しかありませんでした。 その青じろい月の明りを浴びて、獅子は檻のなかをのそのそあるいて居りましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前 …
月夜のでんしんばしら(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
ある晩、恭一はざうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出てゐたら、一ぺんになぐり …
読書目安時間:約9分
ある晩、恭一はざうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出てゐたら、一ぺんになぐり …
月夜のでんしんばしら(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり …
読書目安時間:約9分
ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて居りました。 たしかにこれは罰金です。おまけにもし汽車がきて、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり …
月夜のでんしんばしらの軍歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ドツテテドツテテ、ドツテテド、 でんしんばしらのぐんたいは はやさせかいにたぐひなし ドツテテドツテテ、ドツテテド でんしんばしらのぐんたいは きりつせかいにならびなし。 ドツテテ …
読書目安時間:約1分
ドツテテドツテテ、ドツテテド、 でんしんばしらのぐんたいは はやさせかいにたぐひなし ドツテテドツテテ、ドツテテド でんしんばしらのぐんたいは きりつせかいにならびなし。 ドツテテ …
土神と狐(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
一本木の野原の、北のはづれに、少し小高く盛りあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗な女の樺の木がありました。 それはそんなに大きくはありませ …
読書目安時間:約19分
一本木の野原の、北のはづれに、少し小高く盛りあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗な女の樺の木がありました。 それはそんなに大きくはありませ …
土神ときつね(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
一本木の野原の、北のはずれに、少し小高く盛りあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗な女の樺の木がありました。 それはそんなに大きくはありませ …
読書目安時間:約19分
一本木の野原の、北のはずれに、少し小高く盛りあがった所がありました。いのころぐさがいっぱいに生え、そのまん中には一本の奇麗な女の樺の木がありました。 それはそんなに大きくはありませ …
〔土をも掘らん汗もせん〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
土をも掘らん汗もせん まれには時に食まざらん さあれわれらはわれらなり ながともがらといと遠し にくみいかりしこのことば いくそたびきゝいまもきゝ やがてはさのみたゞさのみ わが生 …
読書目安時間:約1分
土をも掘らん汗もせん まれには時に食まざらん さあれわれらはわれらなり ながともがらといと遠し にくみいかりしこのことば いくそたびきゝいまもきゝ やがてはさのみたゞさのみ わが生 …
手紙 一(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
むかし、あるところに一疋の竜がすんでいました。 力が非常に強く、かたちも大層恐ろしく、それにはげしい毒をもっていましたので、あらゆるいきものがこの竜に遭えば、弱いものは目に見ただけ …
読書目安時間:約3分
むかし、あるところに一疋の竜がすんでいました。 力が非常に強く、かたちも大層恐ろしく、それにはげしい毒をもっていましたので、あらゆるいきものがこの竜に遭えば、弱いものは目に見ただけ …
手紙 三(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません …
読書目安時間:約2分
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません …
手紙 二(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
印度のガンジス河はあるとき、水が増して烈しく流されていました。 それを見ている沢山の群集の中に尊いアショウカ大王も立たれました。 大王はけらいに向って「誰かこの大河の水をさかさまに …
読書目安時間:約2分
印度のガンジス河はあるとき、水が増して烈しく流されていました。 それを見ている沢山の群集の中に尊いアショウカ大王も立たれました。 大王はけらいに向って「誰かこの大河の水をさかさまに …
手紙 四(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
わたくしはあるひとから云いつけられて、この手紙を印刷してあなたがたにおわたしします。どなたか、ポーセがほんとうにどうなったか、知っているかたはありませんか。チュンセがさっぱりごはん …
読書目安時間:約4分
わたくしはあるひとから云いつけられて、この手紙を印刷してあなたがたにおわたしします。どなたか、ポーセがほんとうにどうなったか、知っているかたはありませんか。チュンセがさっぱりごはん …
田園迷信(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
十の蜂舎の成りしとき よき園成さば必らずや 鬼ぞうかがふといましめし かしらかむろのひとありき 山はかすみてめくるめき 桐むらさきに燃ゆるころ その農園の扉を過ぎて 苺需めしをとめ …
読書目安時間:約1分
十の蜂舎の成りしとき よき園成さば必らずや 鬼ぞうかがふといましめし かしらかむろのひとありき 山はかすみてめくるめき 桐むらさきに燃ゆるころ その農園の扉を過ぎて 苺需めしをとめ …
電車(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
第一双の眼の所有者 (むしゃくしゃした若い古物商。紋付と黄の風呂敷) 第二双の眼の所有者 (大学生。制服制帽。大きなめがね。灰色ヅックの提鞄) 第一双の眼(いや、いらっしゃい、今日 …
読書目安時間:約3分
第一双の眼の所有者 (むしゃくしゃした若い古物商。紋付と黄の風呂敷) 第二双の眼の所有者 (大学生。制服制帽。大きなめがね。灰色ヅックの提鞄) 第一双の眼(いや、いらっしゃい、今日 …
毒蛾(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
私は今日のひるすぎ、イーハトブ地方への出張から帰ったばかりです。私は文部局の巡回視学官ですから、どうしても始終出張ばかりしてゐます。私が行くと、どこの学校でも、先生も生徒も、大へん …
読書目安時間:約14分
私は今日のひるすぎ、イーハトブ地方への出張から帰ったばかりです。私は文部局の巡回視学官ですから、どうしても始終出張ばかりしてゐます。私が行くと、どこの学校でも、先生も生徒も、大へん …
毒もみのすきな署長さん(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
四つのつめたい谷川が、カラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡をはいて、プハラの国にはいるのでした。四つの川はプハラの町で集って一つの大きなしずかな川になりました。その川はふだんは …
読書目安時間:約7分
四つのつめたい谷川が、カラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡をはいて、プハラの国にはいるのでした。四つの川はプハラの町で集って一つの大きなしずかな川になりました。その川はふだんは …
床屋(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
本郷区菊坂町 ※ 九時過ぎたので、床屋の弟子の微かな疲れと睡気とがふっと青白く鏡にかゝり、室は何だかがらんとしてゐる。 「俺は小さい時分何でも馬のバリカンで刈られたことがあるな。」 …
読書目安時間:約3分
本郷区菊坂町 ※ 九時過ぎたので、床屋の弟子の微かな疲れと睡気とがふっと青白く鏡にかゝり、室は何だかがらんとしてゐる。 「俺は小さい時分何でも馬のバリカンで刈られたことがあるな。」 …
図書館幻想(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
おれはやっとのことで十階の床をふんで汗を拭った。 そこの天井は途方もなく高かった。全體その天井や壁が灰色の陰影だけで出來てゐるのか、つめたい漆喰で固めあげられてゐるのかわからなかっ …
読書目安時間:約2分
おれはやっとのことで十階の床をふんで汗を拭った。 そこの天井は途方もなく高かった。全體その天井や壁が灰色の陰影だけで出來てゐるのか、つめたい漆喰で固めあげられてゐるのかわからなかっ …
とっこべとら子(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
おとら狐のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。 「とっこべ」というのは名字でしょう …
読書目安時間:約8分
おとら狐のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。 「とっこべ」というのは名字でしょう …
鳥箱先生とフウねずみ(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
あるうちに一つの鳥かごがありました。 鳥かごと云ふよりは、鳥箱といふ方が、よくわかるかもしれません。それは、天井と、底と、三方の壁とが、無暗に厚い板でできてゐて、正面丈けが、針がね …
読書目安時間:約8分
あるうちに一つの鳥かごがありました。 鳥かごと云ふよりは、鳥箱といふ方が、よくわかるかもしれません。それは、天井と、底と、三方の壁とが、無暗に厚い板でできてゐて、正面丈けが、針がね …
鳥をとるやなぎ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「煙山にエレッキのやなぎの木があるよ。」 藤原慶次郎がだしぬけに私に云いました。私たちがみんな教室に入って、机に座り、先生はまだ教員室に寄っている間でした。尋常四年の二学期のはじめ …
読書目安時間:約9分
「煙山にエレッキのやなぎの木があるよ。」 藤原慶次郎がだしぬけに私に云いました。私たちがみんな教室に入って、机に座り、先生はまだ教員室に寄っている間でした。尋常四年の二学期のはじめ …
どんぐりと山猫(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
をかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま九月十九日 あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。 あした、めんどなさいばんしますから、おいで ん …
読書目安時間:約13分
をかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま九月十九日 あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。 あした、めんどなさいばんしますから、おいで ん …
どんぐりと山猫(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま九月十九日 あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。 あした、めんどなさいばんしますから、おいで ん …
読書目安時間:約13分
おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま九月十九日 あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。 あした、めんどなさいばんしますから、おいで ん …
〔ながれたり〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ながれたり 夜はあやしく陥りて ゆらぎ出でしは一むらの 陰極線の盲あかり また螢光の青らむと かなしく白き偏光の類 ましろに寒き川のさま 地平わづかに赤らむは あかつきとこそ覚ゆな …
読書目安時間:約2分
ながれたり 夜はあやしく陥りて ゆらぎ出でしは一むらの 陰極線の盲あかり また螢光の青らむと かなしく白き偏光の類 ましろに寒き川のさま 地平わづかに赤らむは あかつきとこそ覚ゆな …
〔なべてはしけく よそほひて〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なべてはしけくよそほひて 暁惑ふ改札を ならび出づるとふりかへる 人なきホーム陸の橋 歳に一夜の旅了へし をとめうなゐのひとむれに 黒きけむりをそら高く 職場は待てり春の雨 …
読書目安時間:約1分
なべてはしけくよそほひて 暁惑ふ改札を ならび出づるとふりかへる 人なきホーム陸の橋 歳に一夜の旅了へし をとめうなゐのひとむれに 黒きけむりをそら高く 職場は待てり春の雨 …
〔鉛のいろの冬海の〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
鉛のいろの冬海の 荒き渚のあけがたを 家長は白きもんぱして こらをはげまし急ぎくる ひとりのうなゐ黄の巾を うちかづけるが足いたみ やゝにおくるゝそのさまを をとめは立ちて迎へゐる …
読書目安時間:約1分
鉛のいろの冬海の 荒き渚のあけがたを 家長は白きもんぱして こらをはげまし急ぎくる ひとりのうなゐ黄の巾を うちかづけるが足いたみ やゝにおくるゝそのさまを をとめは立ちて迎へゐる …
なめとこ山の熊(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
なめとこ山の熊のことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢川はなめとこ山から出て来る。なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている。まわりもみ …
読書目安時間:約15分
なめとこ山の熊のことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢川はなめとこ山から出て来る。なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている。まわりもみ …
楢ノ木大学士の野宿(新字旧仮名)
読書目安時間:約37分
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。 ある晩大学士の小さな家へ、 「貝の火兄弟商会」の、 赤鼻の支配人がやって来た。 「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでせう、お探しをねが …
読書目安時間:約37分
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。 ある晩大学士の小さな家へ、 「貝の火兄弟商会」の、 赤鼻の支配人がやって来た。 「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでせう、お探しをねが …
楢ノ木大学士の野宿(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。 ある晩大学士の小さな家へ、 「貝の火兄弟商会」の、 赤鼻の支配人がやって来た。 「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでしょう、お探しをね …
読書目安時間:約37分
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。 ある晩大学士の小さな家へ、 「貝の火兄弟商会」の、 赤鼻の支配人がやって来た。 「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでしょう、お探しをね …
虹の絵の具皿:(十力の金剛石)(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
むかし、ある霧のふかい朝でした。 王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃でたたんだ自分のお室から、ひょいっと芝生へ飛びおりました。 そして蜂雀のついた青い大きな帽子を急いで …
読書目安時間:約17分
むかし、ある霧のふかい朝でした。 王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃でたたんだ自分のお室から、ひょいっと芝生へ飛びおりました。 そして蜂雀のついた青い大きな帽子を急いで …
二十六夜(新字旧仮名)
読書目安時間:約34分
※ 旧暦の六月二十四日の晩でした。 北上川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻は微かな星のあかりの底にまっくろに突き出てゐました。 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん …
読書目安時間:約34分
※ 旧暦の六月二十四日の晩でした。 北上川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻は微かな星のあかりの底にまっくろに突き出てゐました。 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん …
二十六夜(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
* 旧暦の六月二十四日の晩でした。 北上川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻は微かな星のあかりの底にまっくろに突き出ていました。 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん …
読書目安時間:約34分
* 旧暦の六月二十四日の晩でした。 北上川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻は微かな星のあかりの底にまっくろに突き出ていました。 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん …
沼森(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
石ヶ森の方は硬くて瘠せて灰色の骨を露はし大森は黒く松をこめぜいたくさうに肥ってゐるが実はどっちも石英安山岩だ。 丘はうしろであつまって一つの平らをこしらへる。 もう暮れ近く草がそよ …
読書目安時間:約2分
石ヶ森の方は硬くて瘠せて灰色の骨を露はし大森は黒く松をこめぜいたくさうに肥ってゐるが実はどっちも石英安山岩だ。 丘はうしろであつまって一つの平らをこしらへる。 もう暮れ近く草がそよ …
猫(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
(四月の夜、とし老った猫が) 友達のうちのあまり明るくない電燈の向ふにその年老った猫がしづかに顔を出した。 (アンデルゼンの猫を知ってゐますか。 暗闇で毛を逆立てゝパチパチ火花を出 …
読書目安時間:約1分
(四月の夜、とし老った猫が) 友達のうちのあまり明るくない電燈の向ふにその年老った猫がしづかに顔を出した。 (アンデルゼンの猫を知ってゐますか。 暗闇で毛を逆立てゝパチパチ火花を出 …
猫の事務所:……ある小さな官衙に関する幻想……(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところでした。 書記はみな、短い黒の繻子の服を着て、それに大へんみんなに尊敬されましたか …
読書目安時間:約13分
軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところでした。 書記はみな、短い黒の繻子の服を着て、それに大へんみんなに尊敬されましたか …
農学校歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
日ハ君臨シカガヤキハ 白金ノ雨ソソギタリ ワレラハ黒キ土ニ俯シ マコトノ草ノタネマケリ 日ハ君臨シ穹窿ニ ミナギリ亙ス青ビカリ 光ノ汗ヲ感ズレバ 気圏ノキハミクマモナシ 日ハ君臨シ …
読書目安時間:約1分
日ハ君臨シカガヤキハ 白金ノ雨ソソギタリ ワレラハ黒キ土ニ俯シ マコトノ草ノタネマケリ 日ハ君臨シ穹窿ニ ミナギリ亙ス青ビカリ 光ノ汗ヲ感ズレバ 気圏ノキハミクマモナシ 日ハ君臨シ …
農民芸術概論(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
序論 ……われらはいっしょにこれから何を論ずるか…… 農民芸術の興隆 ……何故われらの芸術がいま起らねばならないか…… 農民芸術の本質 ……何がわれらの芸術の心臓をなすものであるか …
読書目安時間:約1分
序論 ……われらはいっしょにこれから何を論ずるか…… 農民芸術の興隆 ……何故われらの芸術がいま起らねばならないか…… 農民芸術の本質 ……何がわれらの芸術の心臓をなすものであるか …
農民芸術概論綱要(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
序論 ……われらはいっしょにこれから何を論ずるか…… おれたちはみな農民であるずゐぶん忙がしく仕事もつらい もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい われらの古い師父たちの中 …
読書目安時間:約6分
序論 ……われらはいっしょにこれから何を論ずるか…… おれたちはみな農民であるずゐぶん忙がしく仕事もつらい もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい われらの古い師父たちの中 …
農民芸術の興隆(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
……何故われらの芸術がいま起らねばならないか…… 曾ってわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐたそこには芸術も宗教もあった Büchner明治維新以前家屋衣服食物労働宗教 …
読書目安時間:約3分
……何故われらの芸術がいま起らねばならないか…… 曾ってわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐたそこには芸術も宗教もあった Büchner明治維新以前家屋衣服食物労働宗教 …
バキチの仕事(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
「ああそうですか、バキチをご存じなんですか。」 「知ってますとも、知ってますよ。」 「バキチをご存じなんですか。 小学校でご一緒ですか、中学校でご一緒ですか。いいやあいつは中学校な …
読書目安時間:約5分
「ああそうですか、バキチをご存じなんですか。」 「知ってますとも、知ってますよ。」 「バキチをご存じなんですか。 小学校でご一緒ですか、中学校でご一緒ですか。いいやあいつは中学校な …
雹雲砲手(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なべて葡萄に花さきて 蜂のふるひのせはしきに をちこち青き銅液の 噴霧にひるは来りけり にはかに風のうち死して あたりいよよにまばゆきを 見ずやかしこの青きそら 友よいざ射て雹の雲 …
読書目安時間:約1分
なべて葡萄に花さきて 蜂のふるひのせはしきに をちこち青き銅液の 噴霧にひるは来りけり にはかに風のうち死して あたりいよよにまばゆきを 見ずやかしこの青きそら 友よいざ射て雹の雲 …
化物丁場(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
五六日続いた雨の、やっとあがった朝でした。黄金の日光が、青い木や稲を、照してはゐましたが、空には、方角の決まらない雲がふらふら飛び、山脈も非常に近く見えて、なんだかまだほんたうに霽 …
読書目安時間:約11分
五六日続いた雨の、やっとあがった朝でした。黄金の日光が、青い木や稲を、照してはゐましたが、空には、方角の決まらない雲がふらふら飛び、山脈も非常に近く見えて、なんだかまだほんたうに霽 …
凾館港春夜光景(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
地球照ある七日の月が、 海峡の西にかかって、 岬の黒い山々が 雲をかぶってたゞずめば、 そのうら寒い螺鈿の雲も、 またおぞましく呼吸する そこに喜歌劇オルフィウス風の、 赤い酒精を …
読書目安時間:約2分
地球照ある七日の月が、 海峡の西にかかって、 岬の黒い山々が 雲をかぶってたゞずめば、 そのうら寒い螺鈿の雲も、 またおぞましく呼吸する そこに喜歌劇オルフィウス風の、 赤い酒精を …
畑のへり(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
麻が刈られましたので、畑のへりに一列に植ゑられてゐたたうもろこしは、大へん立派に目立ってきました。 小さな虻だのべっ甲いろのすきとほった羽虫だのみんなかはるがはる来て挨拶して行くの …
読書目安時間:約5分
麻が刈られましたので、畑のへりに一列に植ゑられてゐたたうもろこしは、大へん立派に目立ってきました。 小さな虻だのべっ甲いろのすきとほった羽虫だのみんなかはるがはる来て挨拶して行くの …
八戸(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
さやかなる夏の衣して ひとびとは汽車を待てども 疾みはてしわれはさびしく 琥珀もて客を待つめり この駅はきりぎしにして 玻璃の窓海景を盛り 幾条の遙けき青や 岬にはあがる白波 南な …
読書目安時間:約1分
さやかなる夏の衣して ひとびとは汽車を待てども 疾みはてしわれはさびしく 琥珀もて客を待つめり この駅はきりぎしにして 玻璃の窓海景を盛り 幾条の遙けき青や 岬にはあがる白波 南な …
〔廿日月かざす刃は音無しの〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
廿日月かざす刃は音無しの 黒業ひろごるそらのひま その竜之介 風もなき修羅のさかひを行き惑ひ すゝきすがるゝいのじ原 その雲のいろ 日は沈み鳥はねぐらにかへれども ひとはかへらぬ修 …
読書目安時間:約1分
廿日月かざす刃は音無しの 黒業ひろごるそらのひま その竜之介 風もなき修羅のさかひを行き惑ひ すゝきすがるゝいのじ原 その雲のいろ 日は沈み鳥はねぐらにかへれども ひとはかへらぬ修 …
花巻農学校精神歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
日ハ君臨シカガヤキハ 白金ノアメソソギタリ ワレラハ黒キツチニ俯シ マコトノクサノタネマケリ (二)日ハ君臨シ穹窿ニ ミナギリワタス青ビカリ ヒカリノアセヲ感ズレバ 気圏ノキハミ隈 …
読書目安時間:約1分
日ハ君臨シカガヤキハ 白金ノアメソソギタリ ワレラハ黒キツチニ俯シ マコトノクサノタネマケリ (二)日ハ君臨シ穹窿ニ ミナギリワタス青ビカリ ヒカリノアセヲ感ズレバ 気圏ノキハミ隈 …
花椰菜(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
うすい鼠がかった光がそこらいちめんほのかにこめてゐた。 そこはカムチャッカの横の方の地図で見ると山脈の褐色のケバが明るくつらなってゐるあたりらしかったが実際はそんな山も見えず却って …
読書目安時間:約4分
うすい鼠がかった光がそこらいちめんほのかにこめてゐた。 そこはカムチャッカの横の方の地図で見ると山脈の褐色のケバが明るくつらなってゐるあたりらしかったが実際はそんな山も見えず却って …
林の底(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
「わたしらの先祖やなんか、 鳥がはじめて、天から降って来たときは、 どいつもこいつも、みないち様に白でした。」 「黄金の鎌」が西のそらにかゝつて、風もないしづかな晩に、一ぴきのとし …
読書目安時間:約12分
「わたしらの先祖やなんか、 鳥がはじめて、天から降って来たときは、 どいつもこいつも、みないち様に白でした。」 「黄金の鎌」が西のそらにかゝつて、風もないしづかな晩に、一ぴきのとし …
隼人(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あかりつぎつぎ飛び行けば 赭ら顔黒装束のその若者 こゝろもそらに席に帰れり 衢覆ふ膠朧光や 夜の穹窿を見入りつゝ 若者なみだうちながしたり 大森をすぎてその若者ひそやかに 写真をい …
読書目安時間:約1分
あかりつぎつぎ飛び行けば 赭ら顔黒装束のその若者 こゝろもそらに席に帰れり 衢覆ふ膠朧光や 夜の穹窿を見入りつゝ 若者なみだうちながしたり 大森をすぎてその若者ひそやかに 写真をい …
茨海小学校(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
私が茨海の野原に行ったのは、火山弾の手頃な標本を採るためと、それから、あそこに野生の浜茄が生えているという噂を、確めるためとでした。浜茄はご承知のとおり、海岸に生える植物です。それ …
読書目安時間:約26分
私が茨海の野原に行ったのは、火山弾の手頃な標本を採るためと、それから、あそこに野生の浜茄が生えているという噂を、確めるためとでした。浜茄はご承知のとおり、海岸に生える植物です。それ …
『春と修羅』(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間31分
心象スケツチ 春と修羅 大正十一、二年 わたくしといふ現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です (あらゆる透明な幽霊の複合体) 風景やみんなといつしよに せはしくせは …
読書目安時間:約1時間31分
心象スケツチ 春と修羅 大正十一、二年 わたくしといふ現象は 仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です (あらゆる透明な幽霊の複合体) 風景やみんなといつしよに せはしくせは …
春と修羅 第三集(新字旧仮名)
読書目安時間:約38分
一九二六、五、二、 畑を過ぎる鳥の影 青々ひかる山の稜 雪菜の薹を手にくだき ひばりと川を聴きながら うつつにひととものがたる 一九二六、五、二、 陽が照って鳥が啼き あちこちの楢 …
読書目安時間:約38分
一九二六、五、二、 畑を過ぎる鳥の影 青々ひかる山の稜 雪菜の薹を手にくだき ひばりと川を聴きながら うつつにひととものがたる 一九二六、五、二、 陽が照って鳥が啼き あちこちの楢 …
春と修羅 第二集(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間33分
序 この一巻は わたくしが岩手県花巻の 農学校につとめて居りました四年のうちの 終りの二年の手記から集めたものでございます この四ヶ年はわたくしにとって じつに愉快な明るいものであ …
読書目安時間:約1時間33分
序 この一巻は わたくしが岩手県花巻の 農学校につとめて居りました四年のうちの 終りの二年の手記から集めたものでございます この四ヶ年はわたくしにとって じつに愉快な明るいものであ …
『春と修羅』補遺(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。 心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。 ぬれるのはすぎなやすいば、 ひのきの髪は延び過ぎました。 私の胸腔は暗くて熱く もう醗酵をはじめたんぢゃな …
読書目安時間:約13分
雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。 心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。 ぬれるのはすぎなやすいば、 ひのきの髪は延び過ぎました。 私の胸腔は暗くて熱く もう醗酵をはじめたんぢゃな …
ひかりの素足(新字旧仮名)
読書目安時間:約35分
一、山小屋 鳥の声があんまりやかましいので一郎は眼をさましました。 もうすっかり夜があけてゐたのです。 小屋の隅から三本の青い日光の棒が斜めにまっすぐに兄弟の頭の上を越して向ふの萱 …
読書目安時間:約35分
一、山小屋 鳥の声があんまりやかましいので一郎は眼をさましました。 もうすっかり夜があけてゐたのです。 小屋の隅から三本の青い日光の棒が斜めにまっすぐに兄弟の頭の上を越して向ふの萱 …
秘境(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
漢子称して秘処といふ その崖上にたどりしに 樺柏に囲まれて はうきだけこそうち群れぬ 漢子首巾をきと結ひて 黄ばめるものは熟したり なはそを集へわれはたゞ 白きを得んと気おひ云ふ …
読書目安時間:約1分
漢子称して秘処といふ その崖上にたどりしに 樺柏に囲まれて はうきだけこそうち群れぬ 漢子首巾をきと結ひて 黄ばめるものは熟したり なはそを集へわれはたゞ 白きを得んと気おひ云ふ …
〔卑屈の友らをいきどほろしく〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
卑屈の友らをいきどほろしく 粘土地二片をはしりてよぎり 崖にて青草黄金なるを知り のぼりてかれ草黄なるをふめば 白雪きららに落ち来るものか 一列赤赤ならべるひのき ふたゝび卑屈の友 …
読書目安時間:約1分
卑屈の友らをいきどほろしく 粘土地二片をはしりてよぎり 崖にて青草黄金なるを知り のぼりてかれ草黄なるをふめば 白雪きららに落ち来るものか 一列赤赤ならべるひのき ふたゝび卑屈の友 …
ビジテリアン大祭(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間5分
私は昨年九月四日、ニュウファウンドランド島の小さな山村、ヒルテイで行われた、ビジテリアン大祭に、日本の信者一同を代表して列席して参りました。 全体、私たちビジテリアンというのは、ご …
読書目安時間:約1時間5分
私は昨年九月四日、ニュウファウンドランド島の小さな山村、ヒルテイで行われた、ビジテリアン大祭に、日本の信者一同を代表して列席して参りました。 全体、私たちビジテリアンというのは、ご …
〔ひとひははかなくことばをくだし〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ひとひははかなくことばをくだし ゆふべはいづちの組合にても 一車を送らんすべなどおもふ さこそはこゝろのうらぶれぬると たそがれさびしく車窓によれば 外の面は磐井の沖積層を 草火の …
読書目安時間:約1分
ひとひははかなくことばをくだし ゆふべはいづちの組合にても 一車を送らんすべなどおもふ さこそはこゝろのうらぶれぬると たそがれさびしく車窓によれば 外の面は磐井の沖積層を 草火の …
ひのきとひなげし(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ひなげしはみんなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないようでした。そのひなげしのうしろの方で、やっぱり風に髪もからだも、いちめんもまれて立ちながら若いひのきが …
読書目安時間:約9分
ひなげしはみんなまっ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて、息もつけないようでした。そのひなげしのうしろの方で、やっぱり風に髪もからだも、いちめんもまれて立ちながら若いひのきが …
氷河鼠の毛皮(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。 …
読書目安時間:約13分
このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。 …
病中幻想(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
罪はいま疾にかはり たよりなくわれは騰りて 野のそらにひとりまどろむ 太虚ひかりてはてしなく 身は水素より軽ければ また耕さんすべもなし せめてはかしこ黒と白 立ち並びたる積雲を …
読書目安時間:約1分
罪はいま疾にかはり たよりなくわれは騰りて 野のそらにひとりまどろむ 太虚ひかりてはてしなく 身は水素より軽ければ また耕さんすべもなし せめてはかしこ黒と白 立ち並びたる積雲を …
火渡り(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
竜王の名をしるしたる 紺の旗黄と朱の旗 さうさうと焔はたちて 葉桜の梢まばゆし 布をもてひげをしばりし 行者なほ呪をなしやめず にくさげに立ちて見まもる 軍帽をかぶれる教師 …
読書目安時間:約1分
竜王の名をしるしたる 紺の旗黄と朱の旗 さうさうと焔はたちて 葉桜の梢まばゆし 布をもてひげをしばりし 行者なほ呪をなしやめず にくさげに立ちて見まもる 軍帽をかぶれる教師 …
不軽菩薩(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あらめの衣身にまとひ 城より城をへめぐりつ 上慢四衆の人ごとに 菩薩は礼をなしたまふ (われは不軽ぞかれは慢 こは無明なりしかもあれ いましも展く法性と 菩薩は礼をなし給ふ) われ …
読書目安時間:約1分
あらめの衣身にまとひ 城より城をへめぐりつ 上慢四衆の人ごとに 菩薩は礼をなしたまふ (われは不軽ぞかれは慢 こは無明なりしかもあれ いましも展く法性と 菩薩は礼をなし給ふ) われ …
〔二川こゝにて会したり〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
(二川こゝにて会したり) (いな、和賀の川水雪代ふ 夏油のそれの十なれば その川ここに入ると云へ) 藍と雪とのうすけぶり つらなる尾根のかなたより 夏油の川は巌截りて ましろき波を …
読書目安時間:約1分
(二川こゝにて会したり) (いな、和賀の川水雪代ふ 夏油のそれの十なれば その川ここに入ると云へ) 藍と雪とのうすけぶり つらなる尾根のかなたより 夏油の川は巌截りて ましろき波を …
双子の星(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
双子の星一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお …
読書目安時間:約23分
双子の星一 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。 このすきとおる二つのお …
二人の役人(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
その頃の風穂の野はらは、ほんたうに立派でした。 青い萱や光る茨やけむりのやうな穂を出す草で一ぱい、それにあちこちには栗の木やはんの木の小さな林もありました。 野原は今は練兵場や粟の …
読書目安時間:約11分
その頃の風穂の野はらは、ほんたうに立派でした。 青い萱や光る茨やけむりのやうな穂を出す草で一ぱい、それにあちこちには栗の木やはんの木の小さな林もありました。 野原は今は練兵場や粟の …
二人の役人(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
その頃の風穂の野はらは、ほんとうに立派でした。 青い萱や光る茨やけむりのような穂を出す草で一ぱい、それにあちこちには栗の木やはんの木の小さな林もありました。 野原は今は練兵場や粟の …
読書目安時間:約11分
その頃の風穂の野はらは、ほんとうに立派でした。 青い萱や光る茨やけむりのような穂を出す草で一ぱい、それにあちこちには栗の木やはんの木の小さな林もありました。 野原は今は練兵場や粟の …
葡萄水(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
耕平は髪も角刈りで、おとなのくせに、今日は朝から口笛などを吹いてゐます。 畑の方の手があいて、こゝ二三日は、西の野原へ、葡萄をとりに出られるやうになったからです。 そこで耕平は、う …
読書目安時間:約8分
耕平は髪も角刈りで、おとなのくせに、今日は朝から口笛などを吹いてゐます。 畑の方の手があいて、こゝ二三日は、西の野原へ、葡萄をとりに出られるやうになったからです。 そこで耕平は、う …
フランドン農学校の豚(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
〔冒頭原稿一枚?なし〕 以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、その体内に蓄積す。」とこう書いてあったから、農学校の畜産の、助手や又小使などは金石でな …
読書目安時間:約24分
〔冒頭原稿一枚?なし〕 以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、その体内に蓄積す。」とこう書いてあったから、農学校の畜産の、助手や又小使などは金石でな …
文語詩稿 一百篇(新字旧仮名)
読書目安時間:約27分
母 岩手公園 選挙 崖下の床屋 祭日〔一〕 保線工手 〔南風の頬に酸くして〕 種山ヶ原 ポランの広場 巡業隊 夜 医院 〔沃度ノニホヒフルヒ来ス〕 〔みちべの苔にまどろめば〕 〔二 …
読書目安時間:約27分
母 岩手公園 選挙 崖下の床屋 祭日〔一〕 保線工手 〔南風の頬に酸くして〕 種山ヶ原 ポランの広場 巡業隊 夜 医院 〔沃度ノニホヒフルヒ来ス〕 〔みちべの苔にまどろめば〕 〔二 …
文語詩稿 五十篇(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
いたつきてゆめみなやみし、(冬なりき)誰ともしらず、 そのかみの高麗の軍楽、うち鼓して過ぎれるありき。 その線の工事了りて、あるものはみちにさらばひ、 あるものは火をはなつてふ、か …
読書目安時間:約12分
いたつきてゆめみなやみし、(冬なりき)誰ともしらず、 そのかみの高麗の軍楽、うち鼓して過ぎれるありき。 その線の工事了りて、あるものはみちにさらばひ、 あるものは火をはなつてふ、か …
ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
一、ペンネンネンネンネン・ネネムの独立 〔冒頭原稿数枚焼失〕のでした。実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀色のビールで一杯になるのでした。ところが、そのまま夏になりまし …
読書目安時間:約55分
一、ペンネンネンネンネン・ネネムの独立 〔冒頭原稿数枚焼失〕のでした。実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀色のビールで一杯になるのでした。ところが、そのまま夏になりまし …
ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一、ペンネンノルデが七つの歳に太陽にたくさんの黒い棘ができた。赤、黒い棘、父赤い眼、ばくち。 二、ノルデはそれからまた十二年、森のなかで昆布とりをした。 三、ノルデは書記になろうと …
読書目安時間:約2分
一、ペンネンノルデが七つの歳に太陽にたくさんの黒い棘ができた。赤、黒い棘、父赤い眼、ばくち。 二、ノルデはそれからまた十二年、森のなかで昆布とりをした。 三、ノルデは書記になろうと …
北守将軍と三人兄弟の医者(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
一、三人兄弟の医者 むかしラユーといふ首都に、兄弟三人の医者がゐた。いちばん上のリンパーは、普通の人の医者だつた。その弟のリンプーは、馬や羊の医者だつた。いちばん末のリンポーは、草 …
読書目安時間:約21分
一、三人兄弟の医者 むかしラユーといふ首都に、兄弟三人の医者がゐた。いちばん上のリンパーは、普通の人の医者だつた。その弟のリンプーは、馬や羊の医者だつた。いちばん末のリンポーは、草 …
星めぐりの歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あかいめだまのさそり ひろげた鷲のつばさ あをいめだまの小いぬ、 ひかりのへびのとぐろ。 オリオンは高くうたひ つゆとしもとをおとす、 アンドロメダのくもは さかなのくちのかたち。 …
読書目安時間:約1分
あかいめだまのさそり ひろげた鷲のつばさ あをいめだまの小いぬ、 ひかりのへびのとぐろ。 オリオンは高くうたひ つゆとしもとをおとす、 アンドロメダのくもは さかなのくちのかたち。 …
ポラーノの広場(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間32分
前十七等官レオーノ・キュースト誌 宮沢賢治訳述 そのころわたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわず …
読書目安時間:約1時間32分
前十七等官レオーノ・キュースト誌 宮沢賢治訳述 そのころわたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわず …
洞熊学校を卒業した三人(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
※ 赤い手の長い蜘蛛と、銀いろのなめくぢと、顔を洗ったことのない狸が、いっしょに洞熊学校にはひりました。洞熊先生の教へることは三つでした。 一年生のときは、うさぎと亀のかけくらのこ …
読書目安時間:約19分
※ 赤い手の長い蜘蛛と、銀いろのなめくぢと、顔を洗ったことのない狸が、いっしょに洞熊学校にはひりました。洞熊先生の教へることは三つでした。 一年生のときは、うさぎと亀のかけくらのこ …
ポランの広場(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
時、一千九百二十年代、六月三十日夜、 処、イーハトヴ地方、 人物、キュステ博物局十六等官 ファゼロファリーズ小学校生徒 山猫博士 牧者 葡萄園農夫 衣裳係 オーケストラ指揮者 弦楽 …
読書目安時間:約9分
時、一千九百二十年代、六月三十日夜、 処、イーハトヴ地方、 人物、キュステ博物局十六等官 ファゼロファリーズ小学校生徒 山猫博士 牧者 葡萄園農夫 衣裳係 オーケストラ指揮者 弦楽 …
マグノリアの木(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
霧がじめじめ降っていた。 諒安は、その霧の底をひとり、険しい山谷の、刻みを渉って行きました。 沓の底を半分踏み抜いてしまいながらそのいちばん高い処からいちばん暗い深いところへまたそ …
読書目安時間:約6分
霧がじめじめ降っていた。 諒安は、その霧の底をひとり、険しい山谷の、刻みを渉って行きました。 沓の底を半分踏み抜いてしまいながらそのいちばん高い処からいちばん暗い深いところへまたそ …
〔ま青きそらの風をふるはし〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ま青きそらの風をふるはし ひとりはたらく脱穀機 R-R-r-r-r-r-r-r-r 脱穀小屋の庇の下に 首を垂れたる二疋の馬 R-R-r-r-r-r-r-r-r 粉雪おぼろにひかり …
読書目安時間:約1分
ま青きそらの風をふるはし ひとりはたらく脱穀機 R-R-r-r-r-r-r-r-r 脱穀小屋の庇の下に 首を垂れたる二疋の馬 R-R-r-r-r-r-r-r-r 粉雪おぼろにひかり …
祭の晩(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
山の神の秋の祭りの晩でした。 亮二はあたらしい水色のしごきをしめて、それに十五銭もらって、お旅屋にでかけました。「空気獣」という見世物が大繁盛でした。 それは、髪を長くして、だぶだ …
読書目安時間:約8分
山の神の秋の祭りの晩でした。 亮二はあたらしい水色のしごきをしめて、それに十五銭もらって、お旅屋にでかけました。「空気獣」という見世物が大繁盛でした。 それは、髪を長くして、だぶだ …
まなづるとダァリヤ(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
くだものの畑の丘のいただきに、ひまはりぐらゐせいの高い、黄色なダァリヤの花が二本と、まだたけ高く、赤い大きな花をつけた一本のダァリヤの花がありました。 この赤いダァリヤは花の女王に …
読書目安時間:約6分
くだものの畑の丘のいただきに、ひまはりぐらゐせいの高い、黄色なダァリヤの花が二本と、まだたけ高く、赤い大きな花をつけた一本のダァリヤの花がありました。 この赤いダァリヤは花の女王に …
〔まひるつとめにまぎらひて〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
まひるつとめにまぎらひて きみがおもかげ来ぬひまは こころやすらひはたらきし そのことなにかねたましき 新月きみがおももちを つきの梢にかゝぐれば 凍れる泥をうちふみて さびしく恋 …
読書目安時間:約1分
まひるつとめにまぎらひて きみがおもかげ来ぬひまは こころやすらひはたらきし そのことなにかねたましき 新月きみがおももちを つきの梢にかゝぐれば 凍れる泥をうちふみて さびしく恋 …
マリヴロンと少女(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯れて焦茶色になって、畑の粟は刈りとられ、畑のすみから一寸顔を出した野鼠はびっくりしたように又急いで穴の中へひっこむ。 崖やほりには、まば …
読書目安時間:約5分
城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯れて焦茶色になって、畑の粟は刈りとられ、畑のすみから一寸顔を出した野鼠はびっくりしたように又急いで穴の中へひっこむ。 崖やほりには、まば …
みじかい木ぺん(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
キッコの村の学校にはたまりがありませんでしたから雨がふるとみんなは教室で遊びました。ですから教室はあの水車小屋みたいな古臭い寒天のような教室でした。みんなは胆取りと巡査にわかれてあ …
読書目安時間:約10分
キッコの村の学校にはたまりがありませんでしたから雨がふるとみんなは教室で遊びました。ですから教室はあの水車小屋みたいな古臭い寒天のような教室でした。みんなは胆取りと巡査にわかれてあ …
めくらぶどうと虹(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
城(しろ)あとのおおばこの実(み)は結(むす)び、赤つめ草の花は枯(か)れて焦茶色(こげちゃいろ)になり、畑(はたけ)の粟(あわ)は刈(か)られました。 「刈(か)られたぞ」と言( …
読書目安時間:約7分
城(しろ)あとのおおばこの実(み)は結(むす)び、赤つめ草の花は枯(か)れて焦茶色(こげちゃいろ)になり、畑(はたけ)の粟(あわ)は刈(か)られました。 「刈(か)られたぞ」と言( …
〔モザイク成り〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
モザイク成り、 佳人は窓より見るを 何ぞ七面鳥の二所をけちらし窪めしや、 何の花を移してこゝを埋めん 然りたゞ七面鳥なんぢそこに座して動かざれ 然り七面鳥動くも又可なり なんぢ事務 …
読書目安時間:約1分
モザイク成り、 佳人は窓より見るを 何ぞ七面鳥の二所をけちらし窪めしや、 何の花を移してこゝを埋めん 然りたゞ七面鳥なんぢそこに座して動かざれ 然り七面鳥動くも又可なり なんぢ事務 …
〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
最も親しき友らにさへこれを秘して ふたゝびひとりわがあへぎ悩めるに 不純の想を包みて病を問ふと名をかりて あるべきならぬなが夢の (まことにあらぬ夢なれや われに属する財はなく わ …
読書目安時間:約1分
最も親しき友らにさへこれを秘して ふたゝびひとりわがあへぎ悩めるに 不純の想を包みて病を問ふと名をかりて あるべきならぬなが夢の (まことにあらぬ夢なれや われに属する財はなく わ …
〔館は台地のはななれば〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
館は台地のはななれば 鳥は岬の火とも見つ 香魚釣る人は藪と瀬を 低くすかしてわきまへぬ 鳥をまがへる赤き蛾は 鱗粉きらとうちながし 緑の蝦を僭しつゝ 浮塵子あかりをめぐりけり …
読書目安時間:約1分
館は台地のはななれば 鳥は岬の火とも見つ 香魚釣る人は藪と瀬を 低くすかしてわきまへぬ 鳥をまがへる赤き蛾は 鱗粉きらとうちながし 緑の蝦を僭しつゝ 浮塵子あかりをめぐりけり …
柳沢(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
林は夜の空気の底のすさまじい藻の群落だ。みんなだまって急いでゐる。早く通り抜けようとしてゐる。 俄に空がはっきり開け星がいっぱい耀めき出した。たゞその空のところどころ中風にでもかか …
読書目安時間:約7分
林は夜の空気の底のすさまじい藻の群落だ。みんなだまって急いでゐる。早く通り抜けようとしてゐる。 俄に空がはっきり開け星がいっぱい耀めき出した。たゞその空のところどころ中風にでもかか …
敗れし少年の歌へる(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ひかりわななくあけぞらに 清麗サフィアのさまなして きみにたぐへるかの惑星の いま融け行くぞかなしけれ 雪をかぶれるびやくしんや 百の海岬いま明けて あをうなばらは万葉の 古きしら …
読書目安時間:約1分
ひかりわななくあけぞらに 清麗サフィアのさまなして きみにたぐへるかの惑星の いま融け行くぞかなしけれ 雪をかぶれるびやくしんや 百の海岬いま明けて あをうなばらは万葉の 古きしら …
山男の四月(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
山男は、金いろの眼を皿のやうにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらつてあるいてゐました。 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。 それは山鳥が、びつく …
読書目安時間:約12分
山男は、金いろの眼を皿のやうにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらつてあるいてゐました。 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。 それは山鳥が、びつく …
山男の四月(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。 それは山鳥が、びっく …
読書目安時間:約12分
山男は、金いろの眼を皿のようにし、せなかをかがめて、にしね山のひのき林のなかを、兎をねらってあるいていました。 ところが、兎はとれないで、山鳥がとれたのです。 それは山鳥が、びっく …
やまなし(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話てゐました。 『クラムボンはわらつたよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』 『クラムボンは跳て …
読書目安時間:約6分
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話てゐました。 『クラムボンはわらつたよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』 『クラムボンは跳て …
やまなし(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。 『クラムボンはわらったよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』 『クラムボンは跳 …
読書目安時間:約6分
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。 『クラムボンはわらったよ。』 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』 『クラムボンは跳 …
遊園地工作(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
歳は世紀に曾つて見ぬ 石竹いろと湿潤と 人は三年のひでりゆゑ 食むべき糧もなしといふ 稲かの青き槍の葉は 多く倒れてまた起たず 六条さては四角なる 麦はかじろく空穂しぬ このときき …
読書目安時間:約1分
歳は世紀に曾つて見ぬ 石竹いろと湿潤と 人は三年のひでりゆゑ 食むべき糧もなしといふ 稲かの青き槍の葉は 多く倒れてまた起たず 六条さては四角なる 麦はかじろく空穂しぬ このときき …
〔夕陽は青めりかの山裾に〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夕陽は青めりかの山裾に ひろ野はくらめりま夏の雲に かの町はるかの地平に消えて おもかげほがらにわらひは遠し ふたりぞたゞのみさちありなんと おもへば世界はあまりに暗く かのひとま …
読書目安時間:約1分
夕陽は青めりかの山裾に ひろ野はくらめりま夏の雲に かの町はるかの地平に消えて おもかげほがらにわらひは遠し ふたりぞたゞのみさちありなんと おもへば世界はあまりに暗く かのひとま …
〔ゆがみつゝ月は出で〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ゆがみつゝ月は出で うすぐもは淡くにほへり 汽車のおとはかなく 恋ごゝろ風のふくらし ペンのさやうしなはれ 山の稜白くひかれり 汽車の音はるけく なみだゆゑ松いとくろし かれ草はさ …
読書目安時間:約1分
ゆがみつゝ月は出で うすぐもは淡くにほへり 汽車のおとはかなく 恋ごゝろ風のふくらし ペンのさやうしなはれ 山の稜白くひかれり 汽車の音はるけく なみだゆゑ松いとくろし かれ草はさ …
〔雪とひのきの坂上に〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雪とひのきの坂上に 粗き板もてゴシックを 辛く畳みて写真師の 聖のねぐらを営みぬ ぼたと名づくる雪ふりて いましめさけぶ橇のこら よきデュイエットうちふるひ ひかりて暮るゝガラス屋 …
読書目安時間:約1分
雪とひのきの坂上に 粗き板もてゴシックを 辛く畳みて写真師の 聖のねぐらを営みぬ ぼたと名づくる雪ふりて いましめさけぶ橇のこら よきデュイエットうちふるひ ひかりて暮るゝガラス屋 …
雪渡り(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
雪渡りその一(小狐の紺三郎) 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来てゐるらしいのです。 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて …
読書目安時間:約14分
雪渡りその一(小狐の紺三郎) 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来てゐるらしいのです。 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて …
雪渡り(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
雪渡りその一(小狐の紺三郎) 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて …
読書目安時間:約14分
雪渡りその一(小狐の紺三郎) 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて …
百合を掘る(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
百合掘ると唐鍬をかたぎつ ひと恋ひて林に行けば 濁り田に白き日輪 くるほしくうつりゆれたる 友らみな大都のなかに 入学の試験するらん われはしも身はうち疾みて こゝろはも恋に疲れぬ …
読書目安時間:約1分
百合掘ると唐鍬をかたぎつ ひと恋ひて林に行けば 濁り田に白き日輪 くるほしくうつりゆれたる 友らみな大都のなかに 入学の試験するらん われはしも身はうち疾みて こゝろはも恋に疲れぬ …
楊林(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
エレキに魚をとるのみか 鳥さへ犯すしれをのこ 捕らでやまんと駐在の 戸田巡査こそいかめしき まこと楊に磁の乗りて 小鳥は鉄のたぐひかや ひとむれさつと落ち入りて しらむ梢ぞあやしけ …
読書目安時間:約1分
エレキに魚をとるのみか 鳥さへ犯すしれをのこ 捕らでやまんと駐在の 戸田巡査こそいかめしき まこと楊に磁の乗りて 小鳥は鉄のたぐひかや ひとむれさつと落ち入りて しらむ梢ぞあやしけ …
よく利く薬とえらい薬(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
清夫は今日も、森の中のあき地にばらの実をとりに行きました。 そして一足冷たい森の中にはひりますと、つぐみがすぐ飛んで来て言ひました。 「清夫さん。今日もお薬取りですか。 お母さんは …
読書目安時間:約8分
清夫は今日も、森の中のあき地にばらの実をとりに行きました。 そして一足冷たい森の中にはひりますと、つぐみがすぐ飛んで来て言ひました。 「清夫さん。今日もお薬取りですか。 お母さんは …
よだかの星(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
よだかは、実にみにくい鳥です。 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。 足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。 ほかの鳥 …
読書目安時間:約11分
よだかは、実にみにくい鳥です。 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。 足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。 ほかの鳥 …
四又の百合(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「正※知(しょうへんち)はあしたの朝の七時ごろヒームキャの河(かわ)をおわたりになってこの町にいらっしゃるそうだ」 こう言(い)う語(ご)がすきとおった風といっしょにハームキャの城 …
読書目安時間:約9分
「正※知(しょうへんち)はあしたの朝の七時ごろヒームキャの河(かわ)をおわたりになってこの町にいらっしゃるそうだ」 こう言(い)う語(ご)がすきとおった風といっしょにハームキャの城 …
ラジュウムの雁(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
青ざめた薄明穹の水底に少しばかりの星がまたたき出し、胡桃や桑の木は薄くらがりにそっと手をあげごく曖昧に祈ってゐる。 杜の杉にはふくろふの滑らかさ、昆布の黒びかり、しづかにしづかに溶 …
読書目安時間:約2分
青ざめた薄明穹の水底に少しばかりの星がまたたき出し、胡桃や桑の木は薄くらがりにそっと手をあげごく曖昧に祈ってゐる。 杜の杉にはふくろふの滑らかさ、昆布の黒びかり、しづかにしづかに溶 …
龍と詩人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
龍のチャーナタは洞のなかへさして來る上げ潮からからだをうねり出した。 洞の隙間から朝日がきらきら射して來て水底の岩の凹凸をはっきり陰影で浮き出させ、またその岩につくたくさんの赤や白 …
読書目安時間:約5分
龍のチャーナタは洞のなかへさして來る上げ潮からからだをうねり出した。 洞の隙間から朝日がきらきら射して來て水底の岩の凹凸をはっきり陰影で浮き出させ、またその岩につくたくさんの赤や白 …
〔りんごのみきのはひのひかり〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
りんごのみきのはひのひかり 腐植のしめりのつちに立てり 根ぎはの朽ちの褐なれば どう枯病をうたがへり 天のつかれの一方に その果朱金をくすぼらす …
読書目安時間:約1分
りんごのみきのはひのひかり 腐植のしめりのつちに立てり 根ぎはの朽ちの褐なれば どう枯病をうたがへり 天のつかれの一方に その果朱金をくすぼらす …
〔昤々としてひかれるは〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
昤々としてひかれるは 硫黄ヶ岳の尾根の雪 雲灰白に亙せるは 鳥ヶ森また駒頭山 焼き枕木を負ひ行きて 水路に橋をなさんとや 雪の荒野のたゞなかを 小刻みに行く人のあり …
読書目安時間:約1分
昤々としてひかれるは 硫黄ヶ岳の尾根の雪 雲灰白に亙せるは 鳥ヶ森また駒頭山 焼き枕木を負ひ行きて 水路に橋をなさんとや 雪の荒野のたゞなかを 小刻みに行く人のあり …
若い木霊(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
〔冒頭原稿数枚なし〕 「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」 それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩 …
読書目安時間:約8分
〔冒頭原稿数枚なし〕 「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」 それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩 …
〔われ聴衆に会釈して〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われ聴衆に会釈して 歌ひ出でんとしたるとき 突如下手の幕かげに まづおぼろなる銅鑼鳴りて やがてジロフォンみだれうつ わが立ち惑ふそのひまに 琴はいよよに烈しくて そはかの支那の小 …
読書目安時間:約1分
われ聴衆に会釈して 歌ひ出でんとしたるとき 突如下手の幕かげに まづおぼろなる銅鑼鳴りて やがてジロフォンみだれうつ わが立ち惑ふそのひまに 琴はいよよに烈しくて そはかの支那の小 …
〔われはダルケを名乗れるものと〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われはダルケを名乗れるものと つめたく最後のわかれを交はし 閲覧室の三階より 白き砂をはるかにたどるこゝちにて その地下室に下り来り かたみに湯と水とを呑めり そのとき瓦斯のマント …
読書目安時間:約1分
われはダルケを名乗れるものと つめたく最後のわかれを交はし 閲覧室の三階より 白き砂をはるかにたどるこゝちにて その地下室に下り来り かたみに湯と水とを呑めり そのとき瓦斯のマント …
〔われらが書に順ひて〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われらが書に順ひて その三稜の壇に立ち クラリネットとオボーもて 七たび青くひらめける 四連音符をつゞけ奏し あたり雨降るけしきにて ひたすら吹けるそのときに いつかわれらの前に立 …
読書目安時間:約1分
われらが書に順ひて その三稜の壇に立ち クラリネットとオボーもて 七たび青くひらめける 四連音符をつゞけ奏し あたり雨降るけしきにて ひたすら吹けるそのときに いつかわれらの前に立 …
〔われらひとしく丘に立ち〕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われらひとしく丘に立ち 青ぐろくしてぶちうてる あやしきもののひろがりを 東はてなくのぞみけり そは巨いなる塩の水 海とはおのもさとれども 伝へてきゝしそのものと あまりにたがふこ …
読書目安時間:約1分
われらひとしく丘に立ち 青ぐろくしてぶちうてる あやしきもののひろがりを 東はてなくのぞみけり そは巨いなる塩の水 海とはおのもさとれども 伝へてきゝしそのものと あまりにたがふこ …
“宮沢賢治”について
宮澤健二
宮沢 賢治(みやざわ けんじ、正字: 宮澤 賢治、1896年〈明治29年〉8月27日 - 1933年〈昭和8年〉9月21日)は、日本の詩人、童話作家。
仏教(法華経)信仰と農民生活に根ざした創作を行った。作品中に登場する架空の理想郷に、郷里の岩手県をモチーフとしてイーハトーヴ(Ihatov、イーハトヴやイーハトーヴォ (Ihatovo) 等とも)と名付けたことで知られる。彼の作品は生前ほとんど一般には知られず無名に近く、没後、草野心平らの尽力により作品群が広く知られ、世評が急速に高まり国民的作家となっていき、今でも日本には広く愛好者が存在する。主な作品は後節を参照。
(出典:Wikipedia)
宮沢 賢治(みやざわ けんじ、正字: 宮澤 賢治、1896年〈明治29年〉8月27日 - 1933年〈昭和8年〉9月21日)は、日本の詩人、童話作家。
仏教(法華経)信仰と農民生活に根ざした創作を行った。作品中に登場する架空の理想郷に、郷里の岩手県をモチーフとしてイーハトーヴ(Ihatov、イーハトヴやイーハトーヴォ (Ihatovo) 等とも)と名付けたことで知られる。彼の作品は生前ほとんど一般には知られず無名に近く、没後、草野心平らの尽力により作品群が広く知られ、世評が急速に高まり国民的作家となっていき、今でも日本には広く愛好者が存在する。主な作品は後節を参照。
(出典:Wikipedia)
“宮沢賢治”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)