若杉鳥子
1892.12.21 〜 1937.12.18
“若杉鳥子”に特徴的な語句
昏
著者としての作品一覧
浅間山麓(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
落葉松の暗い林の奥で、休みなくかっこうが鳴いている。単調な人なつっこいその木霊が、また向こうの山から呼びかけてくる。七月というに、谷川の音に混じって鴬がかしましく饒舌している。然し …
読書目安時間:約6分
落葉松の暗い林の奥で、休みなくかっこうが鳴いている。単調な人なつっこいその木霊が、また向こうの山から呼びかけてくる。七月というに、谷川の音に混じって鴬がかしましく饒舌している。然し …
新しき夫の愛:牢獄の夫より妻への愛の手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
——牢獄の夫より妻への愛の手紙—— 山内ゆう子——私は一人の新しい女性を紹介する。見た処彼女はまだほんの初々しい、はにかみがちな少女に過ぎない。だが少し相対して話していると、聡明な …
読書目安時間:約19分
——牢獄の夫より妻への愛の手紙—— 山内ゆう子——私は一人の新しい女性を紹介する。見た処彼女はまだほんの初々しい、はにかみがちな少女に過ぎない。だが少し相対して話していると、聡明な …
雨の回想(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ゆうべからの雨はとうとう勢いを増して、ひる頃から土砂降りになった。樹の葉は青々と乱れ、室内の物影には、蒼黒い陰影がよどむ。 私は窓から、野一面白い花でうごめいている鉄道草の上に、雨 …
読書目安時間:約5分
ゆうべからの雨はとうとう勢いを増して、ひる頃から土砂降りになった。樹の葉は青々と乱れ、室内の物影には、蒼黒い陰影がよどむ。 私は窓から、野一面白い花でうごめいている鉄道草の上に、雨 …
ある遊郭での出来事:公娼存廃論者への参考資料としての実例(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
ある晩、F楼の亭主が隣家のH楼の電話を借りにいった。 Fにも電話があるのに自分の処へ借りに来たものだから、H楼の亭主は何事かと思って、 『お宅の電話は、どうかしましたか?』 と訊い …
読書目安時間:約12分
ある晩、F楼の亭主が隣家のH楼の電話を借りにいった。 Fにも電話があるのに自分の処へ借りに来たものだから、H楼の亭主は何事かと思って、 『お宅の電話は、どうかしましたか?』 と訊い …
彼女こゝに眠る(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
その夜の月は、紺碧の空の幕からくり拔いたやうに鮮やかだつた。 夜露に濡れた草が、地上に盛り溢れさうな勢ひで、野を埋めてゐた。 『お歸んなさい、歸つて下さい。』 『いえ。私はもう歸ら …
読書目安時間:約9分
その夜の月は、紺碧の空の幕からくり拔いたやうに鮮やかだつた。 夜露に濡れた草が、地上に盛り溢れさうな勢ひで、野を埋めてゐた。 『お歸んなさい、歸つて下さい。』 『いえ。私はもう歸ら …
旧師の家(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私が故郷の街から筑波山を見て過ごした月日は随分と永いことだった。 その麓には筑波根詩人といわれている横瀬夜雨氏がいた。故長塚節氏がいた。 そこから五六里の距離にある故郷枕香の里(古 …
読書目安時間:約4分
私が故郷の街から筑波山を見て過ごした月日は随分と永いことだった。 その麓には筑波根詩人といわれている横瀬夜雨氏がいた。故長塚節氏がいた。 そこから五六里の距離にある故郷枕香の里(古 …
職業の苦痛(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
幼少の頃、将来汝は何に成るの?と能く聞かれたものでした。すると私は男の子の如に双肩聳やかして女弁護士!と答えました。それが十四五の時分には激変して、沈鬱な少女になって了いましたが、 …
読書目安時間:約10分
幼少の頃、将来汝は何に成るの?と能く聞かれたものでした。すると私は男の子の如に双肩聳やかして女弁護士!と答えました。それが十四五の時分には激変して、沈鬱な少女になって了いましたが、 …
棄てる金(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
その日は暮の二十五日だった。 彼女は省線を牛込で降りると、早稲田行きの電車に乗り換えた。車内は師走だというのにすいていた。僅かな乗客が牛の膀胱みたいに空虚な血の気のない顔を並べてい …
読書目安時間:約5分
その日は暮の二十五日だった。 彼女は省線を牛込で降りると、早稲田行きの電車に乗り換えた。車内は師走だというのにすいていた。僅かな乗客が牛の膀胱みたいに空虚な血の気のない顔を並べてい …
母親(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
みを子が会社を馘(くび)になってから、時々、母親の全く知らない青年が訪ねて来た。 朝早くやってくることもあれば、昏れてからくることもあった。青年は一度でも、「こんちは」とか、「御め …
読書目安時間:約16分
みを子が会社を馘(くび)になってから、時々、母親の全く知らない青年が訪ねて来た。 朝早くやってくることもあれば、昏れてからくることもあった。青年は一度でも、「こんちは」とか、「御め …
独り旅(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
汽車がA駅を通過する頃から曇って来て、霧で浅間の姿も何も見えなくなった。冷たい風と一緒に小雨が降り出して、山際の畔で、山羊が黙々と首を振っている。三つめの駅で汽車を降りた時には、も …
読書目安時間:約4分
汽車がA駅を通過する頃から曇って来て、霧で浅間の姿も何も見えなくなった。冷たい風と一緒に小雨が降り出して、山際の畔で、山羊が黙々と首を振っている。三つめの駅で汽車を降りた時には、も …
古鏡(旧字旧仮名)
読書目安時間:約13分
暗い野路を歩いて來た者の眼に、S遊廓の灯は燦爛と二列に輝いてゐた。けれども、少し光りに馴れた者の眼には、莫迦に燈火の乏しい、喪に服してゐるやうな街だつた。處々に深い闇が溜つてゐた。 …
読書目安時間:約13分
暗い野路を歩いて來た者の眼に、S遊廓の灯は燦爛と二列に輝いてゐた。けれども、少し光りに馴れた者の眼には、莫迦に燈火の乏しい、喪に服してゐるやうな街だつた。處々に深い闇が溜つてゐた。 …
梁上の足(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
晝間、街から持つて來た昂奮が、夜中私を睡らせなかつた。 おまけに、腦天を紛碎しさうな鋲締機の足踏みが、間斷なく私の妄想の伴奏をした。 私が、骨組み許りのビルヂングの作業場の前を通り …
読書目安時間:約12分
晝間、街から持つて來た昂奮が、夜中私を睡らせなかつた。 おまけに、腦天を紛碎しさうな鋲締機の足踏みが、間斷なく私の妄想の伴奏をした。 私が、骨組み許りのビルヂングの作業場の前を通り …
烈日(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私が坂を下りやうとした時、下の方から急激な怒號が起つた。 罵る叫ぶ叱咜する、呻く力を張る、そのどの聲でもあるやうに聽えた。 坂上には忽ち多くの人や車が停滯して、みな怖る怖る坂下を見 …
読書目安時間:約5分
私が坂を下りやうとした時、下の方から急激な怒號が起つた。 罵る叫ぶ叱咜する、呻く力を張る、そのどの聲でもあるやうに聽えた。 坂上には忽ち多くの人や車が停滯して、みな怖る怖る坂下を見 …
“若杉鳥子”について
若杉 鳥子(わかすぎ とりこ、1892年(明治25年)12月25日 - 1937年(昭和12年)12月18日)は、日本の小説家、歌人。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
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