佐藤春夫
1892.04.09 〜 1964.05.06
著者としての作品一覧
晶子さんの煙草正月(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
わたくしは直接には奥様とお呼びしてかげでは晶子さんと呼び慣はした。生田長江先生の御夫妻が晶子さん晶子さんと仰言るのに慣れた為であつたらう。ともかく奥様とか、晶子さんとか呼んで、晶子 …
読書目安時間:約2分
わたくしは直接には奥様とお呼びしてかげでは晶子さんと呼び慣はした。生田長江先生の御夫妻が晶子さん晶子さんと仰言るのに慣れた為であつたらう。ともかく奥様とか、晶子さんとか呼んで、晶子 …
芥川賞の人々(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
僕は第一回以来の芥川賞詮考委員である。あれはいつからであつたらうか。何しろ二十年もむかしの話で、おほかたは忘れてしまつてゐる。 さすがに第一回だけに、石川達三の当選の時のことだけは …
読書目安時間:約6分
僕は第一回以来の芥川賞詮考委員である。あれはいつからであつたらうか。何しろ二十年もむかしの話で、おほかたは忘れてしまつてゐる。 さすがに第一回だけに、石川達三の当選の時のことだけは …
芥川竜之介を憶ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約57分
自分と芥川との交友関係は、江口渙を中間にして始つた。芥川は将に流行児として文壇の檜舞台へ上らうとしてゐる前後であつた。自分はその五六年以前から二三の同人雑誌などに今顧みるときまりが …
読書目安時間:約57分
自分と芥川との交友関係は、江口渙を中間にして始つた。芥川は将に流行児として文壇の檜舞台へ上らうとしてゐる前後であつた。自分はその五六年以前から二三の同人雑誌などに今顧みるときまりが …
芥川竜之介を哭す(旧字旧仮名)
読書目安時間:約11分
最後まで理智を友としたやうに見える芥川龍之介を弔ふためには、故人もこれを厭ふたところの感傷の癖をさけて、評論の形を以てこれを爲すことを、僕の友人の良き靈は宥してくれるだらうと思ふ。 …
読書目安時間:約11分
最後まで理智を友としたやうに見える芥川龍之介を弔ふためには、故人もこれを厭ふたところの感傷の癖をさけて、評論の形を以てこれを爲すことを、僕の友人の良き靈は宥してくれるだらうと思ふ。 …
あじさい(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
——あの人があんなふうにして不意に死んだのでなかったら、仮にまあ長い患のあとででもなくなったのであったら、きっと、あなたと私とのことを、たとえばいいとか決していけないとか、何かしら …
読書目安時間:約4分
——あの人があんなふうにして不意に死んだのでなかったら、仮にまあ長い患のあとででもなくなったのであったら、きっと、あなたと私とのことを、たとえばいいとか決していけないとか、何かしら …
或る文学青年像(新字旧仮名)
読書目安時間:約33分
「文学青年といふ奴はどうしてかうも不愉快な代物ばかり揃つてゐるのであらう。不勉強で、生意気で、人の気心を知らない。ひとりよがりな、人を人とも思はぬ、そのくせ自信のまるでない、要する …
読書目安時間:約33分
「文学青年といふ奴はどうしてかうも不愉快な代物ばかり揃つてゐるのであらう。不勉強で、生意気で、人の気心を知らない。ひとりよがりな、人を人とも思はぬ、そのくせ自信のまるでない、要する …
蝗の大旅行(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
僕は去年の今ごろ、台湾の方へ旅行をした。 台湾というところは無論「はなはだ暑い」だが、その代り、南の方では夏中ほとんど毎日夕立があって夜分には遠い海を渡っていい風が来るので「なかな …
読書目安時間:約7分
僕は去年の今ごろ、台湾の方へ旅行をした。 台湾というところは無論「はなはだ暑い」だが、その代り、南の方では夏中ほとんど毎日夕立があって夜分には遠い海を渡っていい風が来るので「なかな …
井伏鱒二は悪人なるの説(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
太宰治は井伏鱒二は悪人なりの一句を言ひ遺して死んだと聞く。これはなかなか重要な遺言だと思はれるから、自分はこれを解説し太宰にとつて井伏鱒二が悪人であつた事を裏書きして置きたいと思ふ …
読書目安時間:約4分
太宰治は井伏鱒二は悪人なりの一句を言ひ遺して死んだと聞く。これはなかなか重要な遺言だと思はれるから、自分はこれを解説し太宰にとつて井伏鱒二が悪人であつた事を裏書きして置きたいと思ふ …
今は亡しわが犀星:告別式で述べたことのあらまし(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
中野重治君が友人代表としてわたくしに弔辞を述べさせてくれるのは適当な人選かどうかは知らないが、思へば故人の東京での最もふるい友人には相違ないし、せつかくの指名は固辞すべき筋合ひのも …
読書目安時間:約5分
中野重治君が友人代表としてわたくしに弔辞を述べさせてくれるのは適当な人選かどうかは知らないが、思へば故人の東京での最もふるい友人には相違ないし、せつかくの指名は固辞すべき筋合ひのも …
飲料のはなし(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
わたくしは老来、毎年少しづつ肥満して今はいつも十八貫以上、下着なども普通のものでは間に合はないが、こんな男一疋の体重になつたのは四十以後で、少年の頃は骨と皮ばかりの痩せつぽち、それ …
読書目安時間:約7分
わたくしは老来、毎年少しづつ肥満して今はいつも十八貫以上、下着なども普通のものでは間に合はないが、こんな男一疋の体重になつたのは四十以後で、少年の頃は骨と皮ばかりの痩せつぽち、それ …
宇野浩二君を思う(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
二十一日午後十一時ごろ、すでに床について、まさに眠りが訪れようとしていたわたくしは二つの新聞社から起こされて、宇野君の訃に驚かされた。君が一年ばかり前から病臥していたことはもとより …
読書目安時間:約3分
二十一日午後十一時ごろ、すでに床について、まさに眠りが訪れようとしていたわたくしは二つの新聞社から起こされて、宇野君の訃に驚かされた。君が一年ばかり前から病臥していたことはもとより …
円光:或は“An Essay on Love and Art.”(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
一人の画家がゐた。売出しの女優は花束でとり囲まれるが、彼は幸福そのものでとりかこまれた。若い美しい妻をめとることが出来た。二人して海の近くに新婚の旅をしてゐる間に新しい画室はタウン …
読書目安時間:約12分
一人の画家がゐた。売出しの女優は花束でとり囲まれるが、彼は幸福そのものでとりかこまれた。若い美しい妻をめとることが出来た。二人して海の近くに新婚の旅をしてゐる間に新しい画室はタウン …
黄金綺譚:潔癖の人必ず読むべからず(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
これはただごちそうのお話にすぎないが、おめでたい記念号の読み物にふさはしくちよつと景気のいい題をつけて置かう。 わたくしは田舎者で、それも士、道ニ志シテ悪衣悪食ヲ恥ヅル者ハ未ダトモ …
読書目安時間:約5分
これはただごちそうのお話にすぎないが、おめでたい記念号の読み物にふさはしくちよつと景気のいい題をつけて置かう。 わたくしは田舎者で、それも士、道ニ志シテ悪衣悪食ヲ恥ヅル者ハ未ダトモ …
オカアサン(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
その男はまるで仙人のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。指の爪がみんな七八分も延びているのです。それがしきりとわたしに白孔雀の雛を買えとすすめるのですから、わたしはお伽噺み …
読書目安時間:約19分
その男はまるで仙人のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。指の爪がみんな七八分も延びているのです。それがしきりとわたしに白孔雀の雛を買えとすすめるのですから、わたしはお伽噺み …
思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
二十代の時鴎外先生には五、六回お目にかかった。その後二、三度陸軍省の医務局に校正を届けた際お目にかゝったが、いずれも簡単で、懐旧談を語るほどの資料はもっていない。 そのころ、与謝野 …
読書目安時間:約2分
二十代の時鴎外先生には五、六回お目にかかった。その後二、三度陸軍省の医務局に校正を届けた際お目にかゝったが、いずれも簡単で、懐旧談を語るほどの資料はもっていない。 そのころ、与謝野 …
おもちゃの蝙蝠(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
あるところに一匹のコーモリがいた。それはオモチャで、ボール紙を切り抜いてその上に紫いろのアートペーパーがはりつけてあった。そして小さなゼンマイ仕掛でバタバタと飛ぶように出来ていた。 …
読書目安時間:約3分
あるところに一匹のコーモリがいた。それはオモチャで、ボール紙を切り抜いてその上に紫いろのアートペーパーがはりつけてあった。そして小さなゼンマイ仕掛でバタバタと飛ぶように出来ていた。 …
オリンピック東京大会讃歌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
オリンポス遠きギリシャの いにしへの神々の火は 海を越え荒野をよぎり はるばると渡り來て 今ここに燃えにぞ燃ゆる 青春の命のかぎり 若人ら力つくして この國の世界の祭 喜ばん富士も …
読書目安時間:約2分
オリンポス遠きギリシャの いにしへの神々の火は 海を越え荒野をよぎり はるばると渡り來て 今ここに燃えにぞ燃ゆる 青春の命のかぎり 若人ら力つくして この國の世界の祭 喜ばん富士も …
荷風先生と情人の写真(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
荷風先生の晩年の生活を、一種偏執狂的なものと見るか、それとも哲人の姿と見るかは人それぞれの眼によるが、そのさびしいような華やかな生涯が、逝く春の一夜人知れぬうちに忽然と終って、警察 …
読書目安時間:約6分
荷風先生の晩年の生活を、一種偏執狂的なものと見るか、それとも哲人の姿と見るかは人それぞれの眼によるが、そのさびしいような華やかな生涯が、逝く春の一夜人知れぬうちに忽然と終って、警察 …
管見芭蕉翁(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
すぐれた詩人といふものを見るに、同時に鋭い批評家であり、俊敏なジャーナリスト(時務を知る人)を兼ねてゐる。これを詩的才能の三位一体とでも言はうか。シャール・ボードレール、エドガァ・ …
読書目安時間:約2分
すぐれた詩人といふものを見るに、同時に鋭い批評家であり、俊敏なジャーナリスト(時務を知る人)を兼ねてゐる。これを詩的才能の三位一体とでも言はうか。シャール・ボードレール、エドガァ・ …
稀有の文才(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
芥川賞の季節になるといつも太宰治を思ひ出す。彼が執念深く賞を貰ひたがつたのが忘れられないからである。事のてんまつは一度書いた事もある。当時それをバクロ小説か何かのやうに読んだ人もあ …
読書目安時間:約5分
芥川賞の季節になるといつも太宰治を思ひ出す。彼が執念深く賞を貰ひたがつたのが忘れられないからである。事のてんまつは一度書いた事もある。当時それをバクロ小説か何かのやうに読んだ人もあ …
現代と浄土宗(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
現代は科学の時代であるという。それは已にその通りである。だから宗教などは不必要であるかの如く説く者があったら、大間違いであろう。科学には科学の領域があって、宗教は科学の支配する世界 …
読書目安時間:約3分
現代は科学の時代であるという。それは已にその通りである。だから宗教などは不必要であるかの如く説く者があったら、大間違いであろう。科学には科学の領域があって、宗教は科学の支配する世界 …
小泉八雲に就てのノート(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
小泉八雲全集を読んで一番感心することは、この詩人が同時にえらい批評家だといふ一事である。正岡子規が一面に於て大批評家を兼ねてゐたのと好一対である。この事は一見意外のやうでもあるけれ …
読書目安時間:約5分
小泉八雲全集を読んで一番感心することは、この詩人が同時にえらい批評家だといふ一事である。正岡子規が一面に於て大批評家を兼ねてゐたのと好一対である。この事は一見意外のやうでもあるけれ …
幸福のなかに(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
これが第六回目の年男であろうか。あともう二回ぐらいは年男になれそうな気もするがあと三回はむずかしいかも知れない。 明治二十五年壬辰の四月九日はどんないい星まわりの日であったか、わた …
読書目安時間:約2分
これが第六回目の年男であろうか。あともう二回ぐらいは年男になれそうな気もするがあと三回はむずかしいかも知れない。 明治二十五年壬辰の四月九日はどんないい星まわりの日であったか、わた …
個人的な余りに個人的な饒舌:=龍之介対潤一郎の小説論争=(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
白鳥先生のあとを承けてこの稿を草するのはわが光栄とするところである。 だが文学史的に回顧するとすれば、逍遙対鴎外、透谷対愛山の論争につづくべきものは大町桂月対新詩社の「君死に給ふこ …
読書目安時間:約18分
白鳥先生のあとを承けてこの稿を草するのはわが光栄とするところである。 だが文学史的に回顧するとすれば、逍遙対鴎外、透谷対愛山の論争につづくべきものは大町桂月対新詩社の「君死に給ふこ …
サーベル礼讃(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
小生が、今度の変事で最も感心したことは何と言っても軍人の威力である。——自然の威力に就ては何も今さらではないから。ところで一たい、天然の災害に対して剣つき銃の出動を俟たざるを得ざる …
読書目安時間:約1分
小生が、今度の変事で最も感心したことは何と言っても軍人の威力である。——自然の威力に就ては何も今さらではないから。ところで一たい、天然の災害に対して剣つき銃の出動を俟たざるを得ざる …
最初の訪問(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
某年某月某日——この日づけは當時の彼の手紙を見ればはつきりわかる。その頃の手紙は二通か三通——全集にも未收のものが保存してある——ただ北海道にゐる弟が珍重して持つて行つてしまつて返 …
読書目安時間:約3分
某年某月某日——この日づけは當時の彼の手紙を見ればはつきりわかる。その頃の手紙は二通か三通——全集にも未收のものが保存してある——ただ北海道にゐる弟が珍重して持つて行つてしまつて返 …
朔太郎の思ひ出(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
朔太郎の名も作品も犀星と「感情」をやつてゐた当初から知らないではなかつたが特に注意するやうになつたのは、世間一般とともに彼の処女詩集「月に吠える」が出てからの事であつた。 そのころ …
読書目安時間:約6分
朔太郎の名も作品も犀星と「感情」をやつてゐた当初から知らないではなかつたが特に注意するやうになつたのは、世間一般とともに彼の処女詩集「月に吠える」が出てからの事であつた。 そのころ …
佐藤春夫詩集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約13分
詩集 堀口大學に 數奇なるはわがうたの運命なるかな。かつては人に泣かれしものを、いまは世に喜ばるるとぞ。しかも評家は指ざし哂ひて餘技なるのみといふ。或は然らむ。魯なるわれは餘技なる …
読書目安時間:約13分
詩集 堀口大學に 數奇なるはわがうたの運命なるかな。かつては人に泣かれしものを、いまは世に喜ばるるとぞ。しかも評家は指ざし哂ひて餘技なるのみといふ。或は然らむ。魯なるわれは餘技なる …
「珊瑚集」解説(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
荷風先生は毅然たる現実主義精神を抱いた散文作家であると同時に、一面には嫋々たる抒情詩人である。この両面を解して後はじめて先生が真面目に接し得られるというべきである。先生のすべての傑 …
読書目安時間:約6分
荷風先生は毅然たる現実主義精神を抱いた散文作家であると同時に、一面には嫋々たる抒情詩人である。この両面を解して後はじめて先生が真面目に接し得られるというべきである。先生のすべての傑 …
新宮(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
わがふるさとは熊野の首邑新宮(シングウと読んで下さい)古来の名邑である。シンミヤだのニイミヤなどといえば人に笑われるだろうし、わたくしにはふるさとの感じがない。 郷関は五十年前に出 …
読書目安時間:約2分
わがふるさとは熊野の首邑新宮(シングウと読んで下さい)古来の名邑である。シンミヤだのニイミヤなどといえば人に笑われるだろうし、わたくしにはふるさとの感じがない。 郷関は五十年前に出 …
新詩社と石川啄木:――一つのおぼえ書き――(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
お前はきつと新詩社のころの啄木は知つてゐるだらう。かういふ質問を時々受ける。明治四十年代、新詩社は既に解体しながら、その後身とも云ふべき「スバル」に啄木が編集同人をしてゐたころ、十 …
読書目安時間:約12分
お前はきつと新詩社のころの啄木は知つてゐるだらう。かういふ質問を時々受ける。明治四十年代、新詩社は既に解体しながら、その後身とも云ふべき「スバル」に啄木が編集同人をしてゐたころ、十 …
西班牙犬の家:(夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇)(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
フラテ(犬の名)は急に駆け出して、蹄鍛冶屋の横に折れる岐路のところで、私を待っている。この犬は非常に賢い犬で、私の年来の友達であるが、私の妻などは勿論大多数の人間などよりよほど賢い …
読書目安時間:約15分
フラテ(犬の名)は急に駆け出して、蹄鍛冶屋の横に折れる岐路のところで、私を待っている。この犬は非常に賢い犬で、私の年来の友達であるが、私の妻などは勿論大多数の人間などよりよほど賢い …
寸感(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
探偵小説といふ言葉は、すでに余り面白い言葉でない。誰か何とかいゝ名称を附けかへてほしいやうな気がしてゐたが、そいつが探偵趣味といふ雑誌の名になつたのだから実は雑誌を見る度に内容は面 …
読書目安時間:約3分
探偵小説といふ言葉は、すでに余り面白い言葉でない。誰か何とかいゝ名称を附けかへてほしいやうな気がしてゐたが、そいつが探偵趣味といふ雑誌の名になつたのだから実は雑誌を見る度に内容は面 …
拙作『小説永井荷風伝』について:中村光夫にただす(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
先日は失礼。足下の文芸時評を只今一読いたしました。長ったらしい拙作に対して一読の労を費されたことを先ず感謝します。つづいてそれに対して少々もの申すのにお耳をお傾けねがいます。 貴文 …
読書目安時間:約3分
先日は失礼。足下の文芸時評を只今一読いたしました。長ったらしい拙作に対して一読の労を費されたことを先ず感謝します。つづいてそれに対して少々もの申すのにお耳をお傾けねがいます。 貴文 …
尊重すべき困つた代物:――太宰治に就て――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
「青い花」に出てゐた一見童話風の、しかしその内部には近代人の自己分裂と精神薄弱の自己反省を伴つた現実感を、風の如く、さりげなくしみじみと漂はせて骨格の卑しくないもののあるのを発見し …
読書目安時間:約3分
「青い花」に出てゐた一見童話風の、しかしその内部には近代人の自己分裂と精神薄弱の自己反省を伴つた現実感を、風の如く、さりげなくしみじみと漂はせて骨格の卑しくないもののあるのを発見し …
谷崎文学の代表作「細雪」(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
谷崎文学の特長はゆつたりとしたゆたかな風格の重厚なところにある。さながらに坦々たる都大路を行くやうなとでも云はうか。この特長は初期の作品にもよくあらはれてゐたが、その大成の姿を示し …
読書目安時間:約3分
谷崎文学の特長はゆつたりとしたゆたかな風格の重厚なところにある。さながらに坦々たる都大路を行くやうなとでも云はうか。この特長は初期の作品にもよくあらはれてゐたが、その大成の姿を示し …
探偵小説作家の表現力(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
この間一人の客の話に、先日探偵小説家の年間作品集を通読して巻末に附録した井上靖氏の一作に及んで井上氏の表現力と他の探偵小説家のそれとの雲泥も啻ならぬ差違に唖然とした。井上氏のその作 …
読書目安時間:約3分
この間一人の客の話に、先日探偵小説家の年間作品集を通読して巻末に附録した井上靖氏の一作に及んで井上氏の表現力と他の探偵小説家のそれとの雲泥も啻ならぬ差違に唖然とした。井上氏のその作 …
探偵小説小論(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
探偵小説に興味がないこともないが、常に忙しいのと、生来の怠け癖とで読めもしないのをコツコツ洋書を読む根気もないので、十分の確信をもつて探偵小説の話ができる訳のものではない。殊に探偵 …
読書目安時間:約8分
探偵小説に興味がないこともないが、常に忙しいのと、生来の怠け癖とで読めもしないのをコツコツ洋書を読む根気もないので、十分の確信をもつて探偵小説の話ができる訳のものではない。殊に探偵 …
短篇小説は何故不振か:文学俗論のうち(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
短篇小説はなぜ不振か。 という質問を提出された時には、実のところそんな現象にもまだ気づいていなかったが、近ごろの雑誌にはいわゆる中間小説というのが幅を利かして、以前の短篇小説はすっ …
読書目安時間:約4分
短篇小説はなぜ不振か。 という質問を提出された時には、実のところそんな現象にもまだ気づいていなかったが、近ごろの雑誌にはいわゆる中間小説というのが幅を利かして、以前の短篇小説はすっ …
徹した個人主義(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
荷風先生のお人柄、文業などは、簡単に語れない。僕は十九年秋、南方に従軍のとき、お別れに麻布のお屋敷に伺ったきりその後お目にかかる機会もなく今日に及んでいる。僕のところへ出入りする一 …
読書目安時間:約2分
荷風先生のお人柄、文業などは、簡単に語れない。僕は十九年秋、南方に従軍のとき、お別れに麻布のお屋敷に伺ったきりその後お目にかかる機会もなく今日に及んでいる。僕のところへ出入りする一 …
田園の憂欝:或は病める薔薇(新字旧仮名)
読書目安時間:約2時間38分
I dwelt alone In a world of moan, And my soul was a stagnant tide, Edgar Allan Poe 私は、呻吟の世 …
読書目安時間:約2時間38分
I dwelt alone In a world of moan, And my soul was a stagnant tide, Edgar Allan Poe 私は、呻吟の世 …
天成の詩人(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
僕に「詩人馬鹿」といふ言葉がある。詩人は通例世俗人としては全くの無能力者であるが、その為人は純粋無垢だといふのである。天はその無垢を保護するつもりで詩人には世俗的な才能を与へなかつ …
読書目安時間:約4分
僕に「詩人馬鹿」といふ言葉がある。詩人は通例世俗人としては全くの無能力者であるが、その為人は純粋無垢だといふのである。天はその無垢を保護するつもりで詩人には世俗的な才能を与へなかつ …
永井荷風(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
先生に関しては約半世紀の追想があり、既に蕪稿も千枚近く書いて来た。その結論をここに今二枚に要約するのは相当にむつかしい。先生は自ら無頼漢を以つて居られるが、実は良家の躾の身についた …
読書目安時間:約2分
先生に関しては約半世紀の追想があり、既に蕪稿も千枚近く書いて来た。その結論をここに今二枚に要約するのは相当にむつかしい。先生は自ら無頼漢を以つて居られるが、実は良家の躾の身についた …
奈良の晩春(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
花はおほかた散りうせて、名にし負ふ八重桜は僅かに残つてゐるけれども、かうなると花ももう汚い。さうして藤にはまだ早い。 さういふ季節の奈良の山のなかを(確かに山中と呼ばなければいけな …
読書目安時間:約5分
花はおほかた散りうせて、名にし負ふ八重桜は僅かに残つてゐるけれども、かうなると花ももう汚い。さうして藤にはまだ早い。 さういふ季節の奈良の山のなかを(確かに山中と呼ばなければいけな …
ネクタイとステッキ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ネクタイやステッキ。僕は一向そんな代物の愛好家ではない。そんな者に僕を仕立てゝしまつたのは、天下のゴシップである。 ゴシップによると、僕は三千本のネクタイを持つてゐるさうである!ま …
読書目安時間:約4分
ネクタイやステッキ。僕は一向そんな代物の愛好家ではない。そんな者に僕を仕立てゝしまつたのは、天下のゴシップである。 ゴシップによると、僕は三千本のネクタイを持つてゐるさうである!ま …
「の」の字の世界(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
うたちゃんは、三人兄弟の末で、来年からは幼稚園へ行こうというのですが、早くから、自分ではお姉ちゃん気どりで「えいちゃん」「えいちゃん」と、自分をよんでいます。「えいちゃん」とは、ね …
読書目安時間:約3分
うたちゃんは、三人兄弟の末で、来年からは幼稚園へ行こうというのですが、早くから、自分ではお姉ちゃん気どりで「えいちゃん」「えいちゃん」と、自分をよんでいます。「えいちゃん」とは、ね …
のんしやらん記録(新字旧仮名)
読書目安時間:約47分
下層社会——どん底の世界。そんな言葉は今や単に抽象的な表現ではない。具象的なものとして文字どほりに実現された。地下三百メートルにある人間社会の最下層の住宅区(?)(これをしも住宅と …
読書目安時間:約47分
下層社会——どん底の世界。そんな言葉は今や単に抽象的な表現ではない。具象的なものとして文字どほりに実現された。地下三百メートルにある人間社会の最下層の住宅区(?)(これをしも住宅と …
原民喜君を推す(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
數年前から漠然とこの頃の三田文學には人材が集つてゐるやうな氣がしてゐた。戰爭中で外の雜誌に文學の色彩が薄れてゐる時に、これがあまり時勢に追從せずにゐたためかと思ふ。終戰後山の中から …
読書目安時間:約4分
數年前から漠然とこの頃の三田文學には人材が集つてゐるやうな氣がしてゐた。戰爭中で外の雜誌に文學の色彩が薄れてゐる時に、これがあまり時勢に追從せずにゐたためかと思ふ。終戰後山の中から …
針金細工の詩(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「針金細工で詩をつくれ」 ——といふのは、わが畏友堀口大学の一般詩人に対する忠告であつて、亦、実に彼が近代詩の創作に赴かんとするに当つての宣言であつたやうに思はれる。いはゆるウヱッ …
読書目安時間:約2分
「針金細工で詩をつくれ」 ——といふのは、わが畏友堀口大学の一般詩人に対する忠告であつて、亦、実に彼が近代詩の創作に赴かんとするに当つての宣言であつたやうに思はれる。いはゆるウヱッ …
人さまざまの苦労の話(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
老醜と云ふ言葉があるが、自分のむかしから最もきらいな言葉の一つである。ひどく幼稚な観念的な言葉で、老人を無条件でヘコマセてくれようといふ風な底意地の悪い政治的なずるさがあつて甚だ無 …
読書目安時間:約6分
老醜と云ふ言葉があるが、自分のむかしから最もきらいな言葉の一つである。ひどく幼稚な観念的な言葉で、老人を無条件でヘコマセてくれようといふ風な底意地の悪い政治的なずるさがあつて甚だ無 …
二つの愛国型(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
愛国の精神に二つはない。しかしその現れは千差万別人さまざまである。たとへばその根も幹も一つでありながら各の枝にさく一つ一つの花がつくづくと見るとそれぞれ多少の相違があるやうなもので …
読書目安時間:約6分
愛国の精神に二つはない。しかしその現れは千差万別人さまざまである。たとへばその根も幹も一つでありながら各の枝にさく一つ一つの花がつくづくと見るとそれぞれ多少の相違があるやうなもので …
文学の本筋をゆく:坂口安吾選集(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
坂口安吾の文学はいささか奇矯で反俗的なところはあつても、文学としては少しも病的なものではなく、高邁な精神をひそめたすぐれたものと思ふ。その点、太宰治のどこまでも頽廃的でいぶしのかか …
読書目安時間:約2分
坂口安吾の文学はいささか奇矯で反俗的なところはあつても、文学としては少しも病的なものではなく、高邁な精神をひそめたすぐれたものと思ふ。その点、太宰治のどこまでも頽廃的でいぶしのかか …
文芸家の生活を論ず(新字旧仮名)
読書目安時間:約36分
先々月の新潮合評会席上で、作家の稿料の事などに就いて僕が簡単に発言したところ、今月号の二三の雑誌に多少の反響があつた。発言者として言ひ甲斐のあることである。ただ困つたことには、僕の …
読書目安時間:約36分
先々月の新潮合評会席上で、作家の稿料の事などに就いて僕が簡単に発言したところ、今月号の二三の雑誌に多少の反響があつた。発言者として言ひ甲斐のあることである。ただ困つたことには、僕の …
分身の感あり:第二部 堀口大学(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
堀口大学は越後長岡の藩士の家に、父九万一の東京帝国大学に遊学中、その本郷の寓に生れたといふ。僕と同じく明治二十五年生であるが、彼は一月僕は四月で僕より百日の長である。ともに十九歳の …
読書目安時間:約2分
堀口大学は越後長岡の藩士の家に、父九万一の東京帝国大学に遊学中、その本郷の寓に生れたといふ。僕と同じく明治二十五年生であるが、彼は一月僕は四月で僕より百日の長である。ともに十九歳の …
忘春詩集:01 『忘春詩集』に(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今朝、室生君からの手紙を枕頭に受け取つて、まだ起きもせずに開いて見ると、忘春詩集に序を書けといふのである。読みながら第一に私が思ひ浮べたことは或る会話である。それはつい一週間も前に …
読書目安時間:約2分
今朝、室生君からの手紙を枕頭に受け取つて、まだ起きもせずに開いて見ると、忘春詩集に序を書けといふのである。読みながら第一に私が思ひ浮べたことは或る会話である。それはつい一週間も前に …
堀辰雄のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
堀辰雄とは何時から交際をはじめたらうか。さういふ事にかけては割合に記憶の悪くないわたくしだが、あまり明確には思ひ出せない。多分まだ「驢馬」の同人であつたころ彼があまりあざやかな文学 …
読書目安時間:約9分
堀辰雄とは何時から交際をはじめたらうか。さういふ事にかけては割合に記憶の悪くないわたくしだが、あまり明確には思ひ出せない。多分まだ「驢馬」の同人であつたころ彼があまりあざやかな文学 …
「三つの宝」序に代へて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
他界へのハガキ 芥川君 君の立派な書物が出來上る。君はこの本の出るのを樂しみにしてゐたといふではないか。君はなぜ、せめては、この本の出るまで待つてはゐなかつたのだ。さうして又なぜ、 …
読書目安時間:約2分
他界へのハガキ 芥川君 君の立派な書物が出來上る。君はこの本の出るのを樂しみにしてゐたといふではないか。君はなぜ、せめては、この本の出るまで待つてはゐなかつたのだ。さうして又なぜ、 …
最も早熟な一例(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
いやしくもレディの雑誌に、滅相もないこんな欄を設けたものだ。しかもそれが読者によつて迎へられると聞いては、もうすつかり顔まけで、また何をか言はんやといふ気持である。わたくしはそんな …
読書目安時間:約8分
いやしくもレディの雑誌に、滅相もないこんな欄を設けたものだ。しかもそれが読者によつて迎へられると聞いては、もうすつかり顔まけで、また何をか言はんやといふ気持である。わたくしはそんな …
もののまちがひ:「田園記」を読みてこの拙文を著者井伏君に呈す(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
井伏鱒二君の文は虚実相半して自ら趣を成すものである。たとへばそれは歪んだ面をもつた田舎の理髪店の鏡のごとく現実を歪んで映し出してゐる。しかし決して現実の姿を総体として誤ることなく映 …
読書目安時間:約5分
井伏鱒二君の文は虚実相半して自ら趣を成すものである。たとへばそれは歪んだ面をもつた田舎の理髪店の鏡のごとく現実を歪んで映し出してゐる。しかし決して現実の姿を総体として誤ることなく映 …
訳詩集「月下の一群」:その著者堀口大学に与ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
第一に僕は感謝しなければならぬ。君のこの立派な仕事が僕におくられてある事を。自ら省みて過分なやうな気がする。それから次に報告しなければならぬ。僕が君のまことの友であつたのが、今はつ …
読書目安時間:約5分
第一に僕は感謝しなければならぬ。君のこの立派な仕事が僕におくられてある事を。自ら省みて過分なやうな気がする。それから次に報告しなければならぬ。僕が君のまことの友であつたのが、今はつ …
幽香嬰女伝(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
この稿はもと『群像』三月号に『幽明界なし』と題して発表したものであるが、本誌『大法輪』編輯部がその取材に興味を持ったものか、転載を希望して作者の許可を求めた。作者は偶々旧稿を『幽香 …
読書目安時間:約18分
この稿はもと『群像』三月号に『幽明界なし』と題して発表したものであるが、本誌『大法輪』編輯部がその取材に興味を持ったものか、転載を希望して作者の許可を求めた。作者は偶々旧稿を『幽香 …
愉快な教室(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
ラフカディオハーン——帰化して日本の名を小泉八雲と名告った文豪の意見によると、人間の草木や小動物に対する愛情の有無というものは先天的な天性によるもので、後天的に教育によっては与える …
読書目安時間:約21分
ラフカディオハーン——帰化して日本の名を小泉八雲と名告った文豪の意見によると、人間の草木や小動物に対する愛情の有無というものは先天的な天性によるもので、後天的に教育によっては与える …
夢に荷風先生を見る記(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
荷風先生の回想なら拙作「小説永井荷風伝」のなかに何一つ漏さず書き尽して一つの話題をも漏らさなかつた。だからここに新しく書きかへる事は何もない。 小説荷風伝を書いた結果、荷風に関して …
読書目安時間:約5分
荷風先生の回想なら拙作「小説永井荷風伝」のなかに何一つ漏さず書き尽して一つの話題をも漏らさなかつた。だからここに新しく書きかへる事は何もない。 小説荷風伝を書いた結果、荷風に関して …
魯迅の「故郷」や「孤独者」を訳したころ(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
わたくしの「故郷」を訳したのは今から二十何年前の事であつたらうか。その間に戦時中書庫の荒された事などもあつて、当時を思ひ出す料となるものも欠けてしまつて、思ひ出の手がかりも無く、一 …
読書目安時間:約6分
わたくしの「故郷」を訳したのは今から二十何年前の事であつたらうか。その間に戦時中書庫の荒された事などもあつて、当時を思ひ出す料となるものも欠けてしまつて、思ひ出の手がかりも無く、一 …
若き日の久米正雄(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
僕は多分、二十三四の頃から、久米は知つてゐた。彼は僕より一年の年長だから、僕が二十三なら彼は二十四、僕が二十四なら彼は二十五。何でもその頃でお互に二十五より若かつた。三十五六年前の …
読書目安時間:約8分
僕は多分、二十三四の頃から、久米は知つてゐた。彼は僕より一年の年長だから、僕が二十三なら彼は二十四、僕が二十四なら彼は二十五。何でもその頃でお互に二十五より若かつた。三十五六年前の …
若き日の室生犀星(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
わたくしは明治四十二年、十九歳の春上京してのち、明治末、大正はじめの数年間を、なまけ学生として、本郷の師匠の家の周囲を転々としながら三田に通学してゐた。 そのころ二十一二の室生犀星 …
読書目安時間:約5分
わたくしは明治四十二年、十九歳の春上京してのち、明治末、大正はじめの数年間を、なまけ学生として、本郷の師匠の家の周囲を転々としながら三田に通学してゐた。 そのころ二十一二の室生犀星 …
わが心のなかの白鳥碑(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
白鳥先生はわたくしにとつても最も思ひ出の深い人である。 わたくしが十六七で、所謂文学青年といふものになつて師父を悩ましはじめたころ、最も愛読した作家は、思へば独歩、白鳥、さうして荷 …
読書目安時間:約5分
白鳥先生はわたくしにとつても最も思ひ出の深い人である。 わたくしが十六七で、所謂文学青年といふものになつて師父を悩ましはじめたころ、最も愛読した作家は、思へば独歩、白鳥、さうして荷 …
我が一九二二年:02 我が一九二二年(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私達の友人は既に、彼の本性にかなはない総ての物を脱ぎ棄て、すべての物を斥けた。そして彼自らの手で紡ぎ、織り、裁ち、縫ひ上げたところの、彼の肉体以上にさへ彼らしい軽羅をのみ纏ふて今、 …
読書目安時間:約8分
私達の友人は既に、彼の本性にかなはない総ての物を脱ぎ棄て、すべての物を斥けた。そして彼自らの手で紡ぎ、織り、裁ち、縫ひ上げたところの、彼の肉体以上にさへ彼らしい軽羅をのみ纏ふて今、 …
われらが四季感(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
「ぼくはもう極楽行きは見合はせることにきめたよ」 と或る時、芥川龍之介が、例のいたずらつぽい眼をかがやかしながら、わたくしに話しかけたことがあつた。 「?」これはきつと何かあとにつ …
読書目安時間:約6分
「ぼくはもう極楽行きは見合はせることにきめたよ」 と或る時、芥川龍之介が、例のいたずらつぽい眼をかがやかしながら、わたくしに話しかけたことがあつた。 「?」これはきつと何かあとにつ …
翻訳者としての作品一覧
吸血鬼(新字旧仮名)
読書目安時間:約46分
時正に倫敦に於ては冬期の宴会騒ぎが今を盛りの真最中、いつもながら当代流行の魁を行かうといふ連中が先きに立つて彼方此方でさまざまな宴会を催してゐる折から偶その中へ一人の貴族が現れた。 …
読書目安時間:約46分
時正に倫敦に於ては冬期の宴会騒ぎが今を盛りの真最中、いつもながら当代流行の魁を行かうといふ連中が先きに立つて彼方此方でさまざまな宴会を催してゐる折から偶その中へ一人の貴族が現れた。 …
現代語訳 方丈記(新字新仮名)
読書目安時間:約43分
河の流れは常に絶える事がなく、しかも流れ行く河の水は移り変って絶間がない。奔流に現われる飛沫は一瞬も止る事がなく、現れるや直に消えてしまって又新しく現れるのである。世の中の人々の運 …
読書目安時間:約43分
河の流れは常に絶える事がなく、しかも流れ行く河の水は移り変って絶間がない。奔流に現われる飛沫は一瞬も止る事がなく、現れるや直に消えてしまって又新しく現れるのである。世の中の人々の運 …
故郷(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
私はきびしい寒さを物ともせず、二千里の遠方から二十余年ぶりで故郷へ帰って来た。 冬も真最中となった頃、やっとのことで故郷へ近づいた折から、天気は陰気にうす曇り、冷たい風は船室の中ま …
読書目安時間:約20分
私はきびしい寒さを物ともせず、二千里の遠方から二十余年ぶりで故郷へ帰って来た。 冬も真最中となった頃、やっとのことで故郷へ近づいた折から、天気は陰気にうす曇り、冷たい風は船室の中ま …
無法な火葬(旧字旧仮名)
読書目安時間:約21分
一八七四年十一月九日 エンクワイヤラア紙上に社會面記事として執筆せしもの。 無法な火葬 土曜日夜の恐るべき犯罪 慘殺されて竈で燒かれた男 恐ろしき父の復讐 殺人容疑者の逮捕 情況證 …
読書目安時間:約21分
一八七四年十一月九日 エンクワイヤラア紙上に社會面記事として執筆せしもの。 無法な火葬 土曜日夜の恐るべき犯罪 慘殺されて竈で燒かれた男 恐ろしき父の復讐 殺人容疑者の逮捕 情況證 …
“佐藤春夫”について
佐藤 春夫(さとう はるお、1892年(明治25年)4月9日 - 1964年(昭和39年)5月6日)は、近代日本の詩人・小説家。艶美清朗な詩歌と倦怠・憂鬱の小説を軸に、文芸評論・随筆・評伝作品・童話・戯曲・和歌とその活動は多岐に及び、明治末期から昭和中期まで旺盛に活動した。筆名を潮鳴、沙塔子、雅号を能火野人と称した。初代新宮市名誉市民。日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章受章者。
生家は医家。中学時代から文学好きで、文芸誌「スバル」に詩歌を投稿した。永井荷風を慕い慶應義塾に入学。生田長江に師事。与謝野鉄幹・晶子の東京新詩社に入った。
(出典:Wikipedia)
生家は医家。中学時代から文学好きで、文芸誌「スバル」に詩歌を投稿した。永井荷風を慕い慶應義塾に入学。生田長江に師事。与謝野鉄幹・晶子の東京新詩社に入った。
(出典:Wikipedia)
“佐藤春夫”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)