葉山嘉樹
1894.03.12 〜 1945.10.18
著者としての作品一覧
井戸の底に埃の溜つた話(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
よく田舎にある、野つ原の真ん中に、灌木だの歯朶だのに、穴の縁を茂らせて、底には石や土が、埋めかけて匙を投げてある、あの古井戸の底になら、埃が溜つたつて、別に面白くも可笑しくもない。 …
読書目安時間:約4分
よく田舎にある、野つ原の真ん中に、灌木だの歯朶だのに、穴の縁を茂らせて、底には石や土が、埋めかけて匙を投げてある、あの古井戸の底になら、埃が溜つたつて、別に面白くも可笑しくもない。 …
淫売婦(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
此作は、名古屋刑務所長、佐藤乙二氏の、好意によって産れ得たことを附記す。 ——一九二三、七、六——若し私が、次に書きつけて行くようなことを、誰かから、「それは事実かい、それとも幻想 …
読書目安時間:約27分
此作は、名古屋刑務所長、佐藤乙二氏の、好意によって産れ得たことを附記す。 ——一九二三、七、六——若し私が、次に書きつけて行くようなことを、誰かから、「それは事実かい、それとも幻想 …
海に生くる人々(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間23分
室蘭港が奥深く入り込んだ、その太平洋への湾口に、大黒島が栓をしている。雪は、北海道の全土をおおうて地面から、雲までの厚さで横に降りまくった。 汽船万寿丸は、その腹の中へ三千トンの石 …
読書目安時間:約5時間23分
室蘭港が奥深く入り込んだ、その太平洋への湾口に、大黒島が栓をしている。雪は、北海道の全土をおおうて地面から、雲までの厚さで横に降りまくった。 汽船万寿丸は、その腹の中へ三千トンの石 …
運動会の風景(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
あくまでも蒼く晴れ上つた空であり、渓谷には微風さへもない。 表で遊んでゐる子等が「春が来た、春が来た」と唄ひ出した。十一月三日の明治節の国民運動会の日である。 木曾川は底まで澄みき …
読書目安時間:約4分
あくまでも蒼く晴れ上つた空であり、渓谷には微風さへもない。 表で遊んでゐる子等が「春が来た、春が来た」と唄ひ出した。十一月三日の明治節の国民運動会の日である。 木曾川は底まで澄みき …
工場の窓より(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
兄弟よ!もう眼を覚さなければならない。午前五時だ。起きて工場へ働きに行かねばならぬ。さうしないと人類は物資の欠乏に苦しむから。おとなしくわれ等は待たう。今までも待つたやうに。軈て資 …
読書目安時間:約12分
兄弟よ!もう眼を覚さなければならない。午前五時だ。起きて工場へ働きに行かねばならぬ。さうしないと人類は物資の欠乏に苦しむから。おとなしくわれ等は待たう。今までも待つたやうに。軈て資 …
坑夫の子(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
発電所の掘鑿は進んだ。今はもう水面下五十尺に及んだ。 三台のポムプは、昼夜間断なくモーターを焼く程働き続けていた。 掘鑿の坑夫は、今や昼夜兼行であった。 午前五時、午前九時、正午十 …
読書目安時間:約12分
発電所の掘鑿は進んだ。今はもう水面下五十尺に及んだ。 三台のポムプは、昼夜間断なくモーターを焼く程働き続けていた。 掘鑿の坑夫は、今や昼夜兼行であった。 午前五時、午前九時、正午十 …
山谿に生くる人々:――生きる為に――(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間8分
何たる事であろう。 大山は、大山の兄の死を待っていたのだ。という事を十数年後の今になって、ハッキリ知ったのである。 大山は、その二人の子供が死んだ、という知らせを受け取ったのは、木 …
読書目安時間:約1時間8分
何たる事であろう。 大山は、大山の兄の死を待っていたのだ。という事を十数年後の今になって、ハッキリ知ったのである。 大山は、その二人の子供が死んだ、という知らせを受け取ったのは、木 …
死屍を食う男(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
いろんなことを知らないほうがいい、と思われることがあなた方にもよくあるでしょう。 フト、新聞の「その日の運勢」などに眼がつく。自分が七赤だか八白だかまるっきり知らなければ文句はない …
読書目安時間:約15分
いろんなことを知らないほうがいい、と思われることがあなた方にもよくあるでしょう。 フト、新聞の「その日の運勢」などに眼がつく。自分が七赤だか八白だかまるっきり知らなければ文句はない …
信濃の山女魚の魅力(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私が今住っている処は、東に南アルプス山系の仙丈ヶ岳や、白根山系の山々、など、殆んど年中雪を頂いている、一万尺内外の高山の屏風を遠望し、西には、僅か数里の距離を置いて、西駒山脈、詰り …
読書目安時間:約5分
私が今住っている処は、東に南アルプス山系の仙丈ヶ岳や、白根山系の山々、など、殆んど年中雪を頂いている、一万尺内外の高山の屏風を遠望し、西には、僅か数里の距離を置いて、西駒山脈、詰り …
浚渫船(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
私は行李を一つ担いでいた。 その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。 ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まっ …
読書目安時間:約11分
私は行李を一つ担いでいた。 その行李の中には、死んだ人間の臓腑のように、「もう役に立たない」ものが、詰っていた。 ゴム長靴の脛だけの部分、アラビアンナイトの粟粒のような活字で埋まっ …
セメント樽の中の手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻 …
読書目安時間:約6分
松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻 …
乳色の靄(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。 スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。 赤石山の、て …
読書目安時間:約22分
四十年来の暑さだ、と、中央気象台では発表した。四十年に一度の暑さの中を政界の巨星連が右往左往した。 スペインや、イタリーでは、ナポレオンの方を向いて、政界が退進した。 赤石山の、て …
生爪を剥ぐ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
夏の夜の、払暁に間もない三時頃であった。星は空一杯で輝いていた。 寝苦しい、麹室のようなムンムンする、プロレタリアの群居街でも、すっかりシーンと眠っていた。 その時刻には、誰だって …
読書目安時間:約9分
夏の夜の、払暁に間もない三時頃であった。星は空一杯で輝いていた。 寝苦しい、麹室のようなムンムンする、プロレタリアの群居街でも、すっかりシーンと眠っていた。 その時刻には、誰だって …
氷雨(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
暗くなつて来た。十間許り下流で釣つてゐる男の子の姿も、夕暗に輪廓がぼやけて来た。女の子は堤の上で遊んでゐたが、さつき、 「お父さん、雨が降つて来たよ」 と、私に知らせに来た。 「ど …
読書目安時間:約14分
暗くなつて来た。十間許り下流で釣つてゐる男の子の姿も、夕暗に輪廓がぼやけて来た。女の子は堤の上で遊んでゐたが、さつき、 「お父さん、雨が降つて来たよ」 と、私に知らせに来た。 「ど …
万福追想(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
渓流は胡桃の実や栗の実などを、出水の流れにつれて持つて来た。水の引きが早いので、それを岩の間や流木の根に残して行く。 工事場の子供たちは、薪木にする為に、晒されて骨のやうになつた流 …
読書目安時間:約21分
渓流は胡桃の実や栗の実などを、出水の流れにつれて持つて来た。水の引きが早いので、それを岩の間や流木の根に残して行く。 工事場の子供たちは、薪木にする為に、晒されて骨のやうになつた流 …
遺言文学(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
無名作家Nの情熱(上) プロレタリア作家が、現在、どんなに困難な道を歩いてゐるか、といふ事は、クド/\と述べ立てる必要の無い事であらう。 それにしても、私は、今、一つの話をしないで …
読書目安時間:約8分
無名作家Nの情熱(上) プロレタリア作家が、現在、どんなに困難な道を歩いてゐるか、といふ事は、クド/\と述べ立てる必要の無い事であらう。 それにしても、私は、今、一つの話をしないで …
牢獄の半日(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
——一九二三年、九月一日、私は名古屋刑務所に入っていた。 監獄の昼飯は早い。十一時には、もう舌なめずりをして、きまり切って監獄の飯の少ないことを、心の底でしみじみ情けなく感じている …
読書目安時間:約16分
——一九二三年、九月一日、私は名古屋刑務所に入っていた。 監獄の昼飯は早い。十一時には、もう舌なめずりをして、きまり切って監獄の飯の少ないことを、心の底でしみじみ情けなく感じている …
労働者の居ない船(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸——強そうな名前だ——は、三十分前に、金華山の燈台を右に …
読書目安時間:約19分
こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸——強そうな名前だ——は、三十分前に、金華山の燈台を右に …
“葉山嘉樹”について
葉山 嘉樹(はやま よしき、1894年(明治27年)3月12日 - 1945年(昭和20年)10月18日)は日本の小説家。本名嘉重。福岡県京都郡豊津村(現・みやこ町)出身。早稲田大学高等予科文科中退。労働運動に従事し、職を転々とする傍ら、「文芸戦線」に発表した『淫売婦』で注目され、作家生活に入る。『セメント樽の中の手紙』や長編『海に生くる人々』などで労働者階級の生活と反抗と連帯感を描き、初期プロレタリア文学の代表的存在となった。その後開拓団員として満洲に渡り、敗戦後、引揚げの車中で病没した。農民小説も書いた。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
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