春の生理をみなぎらした川筋の満潮が、石垣の蠣の一つ一つへ、ひたひたと接吻に似た音をひそめている。鉄砲洲築地の浅野家の上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。ゆるい一風ごとに、塀の紅梅や柳をこえて、大川口の海の香は、銀襖や絵襖などの、間毎間毎まで、 …
著者 | 吉川英治 |
ジャンル | 文学 > 日本文学 > 小説 物語 |
初出 | 「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号 |
文字種別 | 新字新仮名 |
読書目安時間 | 約11時間19分(500文字/分) |
朗読目安時間 | 約18時間51分(300文字/分) |