夢野久作
1889.01.04 〜 1936.03.11
“夢野久作”に特徴的な語句
金剛石
左
私
親父
甲板
昨日
其
無料
因
及
居睡
居
後
中
扉
風
節
真鍮
稍
生命
親爺
仮令
寝台
家
室
左様
益
陸
旧
兄妹
身体
亜米利加
彼奴
背後
卓子
只
前
面
老爺
鋸屑
芽出度
拳固
爺
此
大連
巨漢
顫
新嘉坡
能
迚
著者としての作品一覧
青水仙、赤水仙(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
うた子さんは友達に教わって、水仙の根を切り割って、赤い絵の具と青い絵の具を入れて、お庭の隅に埋めておきました。早く芽が出て、赤と青の水仙の花が咲けばいいと、毎日水をやっておりました …
読書目安時間:約3分
うた子さんは友達に教わって、水仙の根を切り割って、赤い絵の具と青い絵の具を入れて、お庭の隅に埋めておきました。早く芽が出て、赤と青の水仙の花が咲けばいいと、毎日水をやっておりました …
悪魔祈祷書(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
いらっしゃいまし。お珍らしい雨で御座いますナアどうも……こうダシヌケに降り出されちゃ敵いません。 いつも御贔屓になりまして……ま……おかけ下さいまし。一服お付けなすって……ハハア。 …
読書目安時間:約26分
いらっしゃいまし。お珍らしい雨で御座いますナアどうも……こうダシヌケに降り出されちゃ敵いません。 いつも御贔屓になりまして……ま……おかけ下さいまし。一服お付けなすって……ハハア。 …
虻のおれい(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
チエ子さんは今年六つになる可愛いお嬢さんでした。 ある日裏のお庭で一人でおとなしく遊んでいますと、 「ブルブルブルブル」 と変な歌のような声がきこえました。 何だろうとそこいらを見 …
読書目安時間:約6分
チエ子さんは今年六つになる可愛いお嬢さんでした。 ある日裏のお庭で一人でおとなしく遊んでいますと、 「ブルブルブルブル」 と変な歌のような声がきこえました。 何だろうとそこいらを見 …
雨ふり坊主(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
お天気が続いて、どこの田圃も水が乾上がりました。 太郎のお父さんも百姓でしたが、自分の田の稲が枯れそうになりましたので、毎日毎日外に出て、空ばかり見て心配をしておりました。 太郎は …
読書目安時間:約4分
お天気が続いて、どこの田圃も水が乾上がりました。 太郎のお父さんも百姓でしたが、自分の田の稲が枯れそうになりましたので、毎日毎日外に出て、空ばかり見て心配をしておりました。 太郎は …
あやかしの鼓(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間18分
私は嬉しい。「あやかしの鼓」の由来を書いていい時機が来たから…… 「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅と異って「綾になった木目を持つ赤樫」で出来ているところからもじ …
読書目安時間:約1時間18分
私は嬉しい。「あやかしの鼓」の由来を書いていい時機が来たから…… 「あやかし」という名前はこの鼓の胴が世の常の桜や躑躅と異って「綾になった木目を持つ赤樫」で出来ているところからもじ …
縊死体(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
どこかの公園のベンチである。 眼の前には一条の噴水が、夕暮の青空高く高くあがっては落ち、あがっては落ちしている。 その噴水の音を聞きながら、私は二三枚の夕刊を拡げ散らしている。そう …
読書目安時間:約3分
どこかの公園のベンチである。 眼の前には一条の噴水が、夕暮の青空高く高くあがっては落ち、あがっては落ちしている。 その噴水の音を聞きながら、私は二三枚の夕刊を拡げ散らしている。そう …
医者と病人(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
死にかかった病人の枕元でお医者が首をひねって、 「もう一時間も六カしいです」 と言いました。 「とてもこれを助ける薬はありません」 これを聴いた病人は言いました。 「いっその事、飲 …
読書目安時間:約1分
死にかかった病人の枕元でお医者が首をひねって、 「もう一時間も六カしいです」 と言いました。 「とてもこれを助ける薬はありません」 これを聴いた病人は言いました。 「いっその事、飲 …
いなか、の、じけん(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間20分
村長さんの処の米倉から、白米を四俵盗んで行ったものがある。 あくる朝早く駐在の巡査さんが来て調べたら、俵を積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。そのあ …
読書目安時間:約1時間20分
村長さんの処の米倉から、白米を四俵盗んで行ったものがある。 あくる朝早く駐在の巡査さんが来て調べたら、俵を積んで行ったらしい車の輪のあとが、雨あがりの土にハッキリついていた。そのあ …
犬と人形(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
東京では今度大地震と大火事がありましてたくさんのひとが死にました。死ななかったひともおうちやきものやたべものがなくなって大変に困りました。 太郎さんと花子さんは、お父様とお母様に手 …
読書目安時間:約4分
東京では今度大地震と大火事がありましてたくさんのひとが死にました。死ななかったひともおうちやきものやたべものがなくなって大変に困りました。 太郎さんと花子さんは、お父様とお母様に手 …
犬のいたずら(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
去年の十二月の三十一日の真夜中の事でした。一匹の猪と一匹の犬がある都の寒い寒い風の吹く四辻でヒョッコリと出会いました。 「ヤア犬さん、もう帰るのかね」 「ヤア猪さん、もう来たのかね …
読書目安時間:約3分
去年の十二月の三十一日の真夜中の事でした。一匹の猪と一匹の犬がある都の寒い寒い風の吹く四辻でヒョッコリと出会いました。 「ヤア犬さん、もう帰るのかね」 「ヤア猪さん、もう来たのかね …
犬の王様(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
むかしある国に独り者の王様がありました。家来がどんなにおすすめしてもお妃をお迎えにならず、お子様もない代りに一匹の犬を育てて毎晩可愛がって、「息子よ息子よ」とよんで、毎日この犬を連 …
読書目安時間:約3分
むかしある国に独り者の王様がありました。家来がどんなにおすすめしてもお妃をお迎えにならず、お子様もない代りに一匹の犬を育てて毎晩可愛がって、「息子よ息子よ」とよんで、毎日この犬を連 …
梅津只円翁伝(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間10分
梅津只圓翁の生涯 故梅津只圓翁の名前を記憶している人が現在、全国に何人居るであろうか。翁の名はその姻戚故旧の死亡と共に遠からずこの地上から平々凡々と消え失せて行きはしまいか。 只圓 …
読書目安時間:約2時間10分
梅津只圓翁の生涯 故梅津只圓翁の名前を記憶している人が現在、全国に何人居るであろうか。翁の名はその姻戚故旧の死亡と共に遠からずこの地上から平々凡々と消え失せて行きはしまいか。 只圓 …
梅のにおい(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一匹の斑猫が人間の真似をして梅の木にのぼって花を嗅いでみました。あの枝からこの枝、花から蕾といくつもいくつも嗅いでみましたが、 「ナアーンダ、人間がいいにおいだ、いいにおいだと言う …
読書目安時間:約2分
一匹の斑猫が人間の真似をして梅の木にのぼって花を嗅いでみました。あの枝からこの枝、花から蕾といくつもいくつも嗅いでみましたが、 「ナアーンダ、人間がいいにおいだ、いいにおいだと言う …
難船小僧(新字新仮名)
読書目安時間:約43分
船長の横顔をジッと見ていると、だんだん人間らしい感じがなくなって来るんだ。骸骨を渋紙で貼り固めてワニスで塗上げたような黒いガッチリした凸額の下に、硝子球じみたギョロギョロする眼玉が …
読書目安時間:約43分
船長の横顔をジッと見ていると、だんだん人間らしい感じがなくなって来るんだ。骸骨を渋紙で貼り固めてワニスで塗上げたような黒いガッチリした凸額の下に、硝子球じみたギョロギョロする眼玉が …
S岬西洋婦人絞殺事件(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
法医学的な探偵味を含んだ、且つ、残忍性を帯びた事件の実話を書けという註文であるが、今ここに書く事件は、遺憾ながら左の三項について、その筋に残っている公式の記録、もしくは筆者のノート …
読書目安時間:約54分
法医学的な探偵味を含んだ、且つ、残忍性を帯びた事件の実話を書けという註文であるが、今ここに書く事件は、遺憾ながら左の三項について、その筋に残っている公式の記録、もしくは筆者のノート …
江戸川乱歩氏に対する私の感想(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
江戸川乱歩氏に「久作論」を頼んだから、私はそれに対する「乱歩論」を書けという註文が猟奇社から来ました。 私はとりあえずドキンとしましたが、あとから直ぐに「これは書けない」と思いまし …
読書目安時間:約13分
江戸川乱歩氏に「久作論」を頼んだから、私はそれに対する「乱歩論」を書けという註文が猟奇社から来ました。 私はとりあえずドキンとしましたが、あとから直ぐに「これは書けない」と思いまし …
鉛筆のシン(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
子供が鉛筆を削っているとあまり無茶に削るので何べんでもシンが折れました。 「このナイフがわるいのだ」 と子供は言ってナイフを磨いでコシコシ削りましたが、やっぱりポチポチと黒いシンが …
読書目安時間:約1分
子供が鉛筆を削っているとあまり無茶に削るので何べんでもシンが折れました。 「このナイフがわるいのだ」 と子供は言ってナイフを磨いでコシコシ削りましたが、やっぱりポチポチと黒いシンが …
お菓子の大舞踏会(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
五郎君はお菓子が好きでしようがありませんでした。御飯も何もたべずにお菓子ばかりたべているので、お父様やお母様は大層心配をして、どうかしてお菓子を食べさせぬようにしたいというので、あ …
読書目安時間:約5分
五郎君はお菓子が好きでしようがありませんでした。御飯も何もたべずにお菓子ばかりたべているので、お父様やお母様は大層心配をして、どうかしてお菓子を食べさせぬようにしたいというので、あ …
お金とピストル(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
泥棒がケチンボの家へ入ってピストルを見せて、お金を出せと言いました。ケチンボは、 「ただお金を出すのはいやだ。その短銃を売ってくれるなら千円で買おう。お前は私からお金さえ貰えばそん …
読書目安時間:約1分
泥棒がケチンボの家へ入ってピストルを見せて、お金を出せと言いました。ケチンボは、 「ただお金を出すのはいやだ。その短銃を売ってくれるなら千円で買おう。お前は私からお金さえ貰えばそん …
奥様探偵術(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
あるところに一人のオクサマがありました。 その奥様は次のような場合に、キット御主人に喰ってかかられました。胸倉を取って小突きまわされました。「もう出て行く」と紋切型を云われました。 …
読書目安時間:約11分
あるところに一人のオクサマがありました。 その奥様は次のような場合に、キット御主人に喰ってかかられました。胸倉を取って小突きまわされました。「もう出て行く」と紋切型を云われました。 …
押絵の奇蹟(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間58分
看護婦さんの眠っております隙を見ましては、拙ない女文字を走らせるので御座いますから、さぞかしお読みづらい、おわかりにくい事ばかりと存じますが、取り急ぎますままに幾重にもおゆるし下さ …
読書目安時間:約1時間58分
看護婦さんの眠っております隙を見ましては、拙ない女文字を走らせるので御座いますから、さぞかしお読みづらい、おわかりにくい事ばかりと存じますが、取り急ぎますままに幾重にもおゆるし下さ …
オシャベリ姫(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、オシャベリ姫というお姫さまがありました。 このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何か …
読書目安時間:約51分
ある国に王様がありまして、夫婦の間にたった一人、オシャベリ姫というお姫さまがありました。 このお姫様は大層美しいお姫様でしたが、どうしたものか生れ付きおしゃべりで、朝から晩まで何か …
恐ろしい東京(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
久し振りに上京するとマゴツク事や、吃驚させられる事ばかりで、だんだん恐ろしくなって来る。田舎にいると、これでも相当の東京通であるが、本場に乗り出すと豈計らんやで、皆から笑い草にされ …
読書目安時間:約6分
久し振りに上京するとマゴツク事や、吃驚させられる事ばかりで、だんだん恐ろしくなって来る。田舎にいると、これでも相当の東京通であるが、本場に乗り出すと豈計らんやで、皆から笑い草にされ …
お茶の湯満腹談(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
久し振りに上京すると感心する事ばかりである。音のないゴーストップに面喰らい、自動車の安いのに感心し、警視庁の親切なのに恐れ入るなぞ、枚挙に暇あらず。少々痛め付けられ気味で、故郷へ帰 …
読書目安時間:約5分
久し振りに上京すると感心する事ばかりである。音のないゴーストップに面喰らい、自動車の安いのに感心し、警視庁の親切なのに恐れ入るなぞ、枚挙に暇あらず。少々痛め付けられ気味で、故郷へ帰 …
オンチ(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
大戦後の好景気に煽られた星浦製鉄所は、昼夜兼行の黒烟を揚げていた。毎日の死傷者数名という景気で、数千人を収容する工場の到る処に、殺人的な轟音と静寂とがモノスゴく交錯していた。 汽鑵 …
読書目安時間:約42分
大戦後の好景気に煽られた星浦製鉄所は、昼夜兼行の黒烟を揚げていた。毎日の死傷者数名という景気で、数千人を収容する工場の到る処に、殺人的な轟音と静寂とがモノスゴく交錯していた。 汽鑵 …
女坑主(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「ホホホ。つまりエチオピアへお出でになりたいからダイナマイトをくれって仰言るんですね。お易い御用ですわ。ホホホ」 新張炭坑の女坑主、新張眉香子は、軽く朗らかに笑った。 初期の銀幕ス …
読書目安時間:約26分
「ホホホ。つまりエチオピアへお出でになりたいからダイナマイトをくれって仰言るんですね。お易い御用ですわ。ホホホ」 新張炭坑の女坑主、新張眉香子は、軽く朗らかに笑った。 初期の銀幕ス …
骸骨の黒穂(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
まだ警察の仕事の大ザッパな、明治二十年頃のこと……。 人気の荒い炭坑都市、筑前、直方の警察署内で起った奇妙な殺人事件の話……。 煤煙に蔽われた直方の南の町外れに、一軒の居酒屋が在っ …
読書目安時間:約29分
まだ警察の仕事の大ザッパな、明治二十年頃のこと……。 人気の荒い炭坑都市、筑前、直方の警察署内で起った奇妙な殺人事件の話……。 煤煙に蔽われた直方の南の町外れに、一軒の居酒屋が在っ …
怪青年モセイ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
夏冬繁緒、河東茂生、滋岡透、そのほかいろいろ……田舎者の私は、みんな別々の人間のペンネームかと思っていた。それぞれ文壇の大家としての敬意を心の中で払っていたら、それがタッタ一人の姿 …
読書目安時間:約4分
夏冬繁緒、河東茂生、滋岡透、そのほかいろいろ……田舎者の私は、みんな別々の人間のペンネームかと思っていた。それぞれ文壇の大家としての敬意を心の中で払っていたら、それがタッタ一人の姿 …
懐中時計(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて一人でチクタクと動いておりました。 鼠が見つけて笑いました。 「馬鹿だなあ。誰も見る者はないのに、何だって動いているんだえ」 「人の見ない時でも動いて …
読書目安時間:約1分
懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて一人でチクタクと動いておりました。 鼠が見つけて笑いました。 「馬鹿だなあ。誰も見る者はないのに、何だって動いているんだえ」 「人の見ない時でも動いて …
街頭から見た新東京の裏面(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間59分
万世一系のミカドの居ます東京——。 黄色人種中最高の民族のプライドを集めた東京——。 僅か五十幾年の間に日本をあれだけに改造した東京——。 思想でも流行でも何でもかんでも、日本でモ …
読書目安時間:約2時間59分
万世一系のミカドの居ます東京——。 黄色人種中最高の民族のプライドを集めた東京——。 僅か五十幾年の間に日本をあれだけに改造した東京——。 思想でも流行でも何でもかんでも、日本でモ …
怪夢(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
厳かに明るくなって行く鉄工場の霜朝である。 二三日前からコークスを焚き続けた大坩堝が、鋳物工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。 黄色い電燈の下で、汽鑵の圧力 …
読書目安時間:約23分
厳かに明るくなって行く鉄工場の霜朝である。 二三日前からコークスを焚き続けた大坩堝が、鋳物工場の薄暗がりの中で、夕日のように熟し切っている時刻である。 黄色い電燈の下で、汽鑵の圧力 …
書けない探偵小説(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
素晴らしい探偵小説が書きたい。 ピカピカ光る太陽の下を傲華な流線スターがスウーと横切る。その中に色眼鏡をかけて済まし返っているスゴイような丸髷美人の横顔が、ハッキリと網膜に焼付いた …
読書目安時間:約5分
素晴らしい探偵小説が書きたい。 ピカピカ光る太陽の下を傲華な流線スターがスウーと横切る。その中に色眼鏡をかけて済まし返っているスゴイような丸髷美人の横顔が、ハッキリと網膜に焼付いた …
がちゃがちゃ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
草の中で虫が寄り合って相談を始めました。 蟋蟀が立ち上って、 「鈴虫さん、オケラさん、スイッチョさん。もっとこちらへお寄りなさい。だんだん涼しくなりますから、みんなで合奏会をやって …
読書目安時間:約2分
草の中で虫が寄り合って相談を始めました。 蟋蟀が立ち上って、 「鈴虫さん、オケラさん、スイッチョさん。もっとこちらへお寄りなさい。だんだん涼しくなりますから、みんなで合奏会をやって …
鉄鎚(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間4分
——ホントウの悪魔というものはこの世界に居るものか居ないものか—— ——居るとすればその悪魔は、どのような姿をしてドンナ処に潜み隠れているものなのか—— ——その悪魔はソモソモ如何 …
読書目安時間:約1時間4分
——ホントウの悪魔というものはこの世界に居るものか居ないものか—— ——居るとすればその悪魔は、どのような姿をしてドンナ処に潜み隠れているものなのか—— ——その悪魔はソモソモ如何 …
髪切虫(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
桐の青葉が蝙蝠色に重なり合って、その中の一枚か二枚かが時折り、あるかないかの夕風にヒラリヒラリと踊っている。 うるんだ宵星の二つ三つが、大きく大きくその上にまばたき初めると、遠く近 …
読書目安時間:約8分
桐の青葉が蝙蝠色に重なり合って、その中の一枚か二枚かが時折り、あるかないかの夕風にヒラリヒラリと踊っている。 うるんだ宵星の二つ三つが、大きく大きくその上にまばたき初めると、遠く近 …
キキリツツリ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
露子さんは継子で、いつもお母さんからいじめられて泣いてばかりいました。 夜は毎晩おそくまで御飯のあと片付けをしたり、お使いに遣られたりしました。寝る時はまた、お台所の際の板張りの上 …
読書目安時間:約7分
露子さんは継子で、いつもお母さんからいじめられて泣いてばかりいました。 夜は毎晩おそくまで御飯のあと片付けをしたり、お使いに遣られたりしました。寝る時はまた、お台所の際の板張りの上 …
キチガイ地獄(新字新仮名)
読書目安時間:約47分
……やッ……院長さんですか。どうもお邪魔します。 ええ。早速ですが私の精神状態も、御蔭様でヤット回復致しましたから、今日限り退院さして頂こうと思いまして、実は御相談に参りました次第 …
読書目安時間:約47分
……やッ……院長さんですか。どうもお邪魔します。 ええ。早速ですが私の精神状態も、御蔭様でヤット回復致しましたから、今日限り退院さして頂こうと思いまして、実は御相談に参りました次第 …
きのこ会議(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、談話会を始めました。一番初めに、初茸が立ち上っ …
読書目安時間:約4分
初茸、松茸、椎茸、木くらげ、白茸、鴈茸、ぬめり茸、霜降り茸、獅子茸、鼠茸、皮剥ぎ茸、米松露、麦松露なぞいうきのこ連中がある夜集まって、談話会を始めました。一番初めに、初茸が立ち上っ …
キャラメルと飴玉(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
キャラメルと飴玉とがお菓子箱のうちで喧嘩をはじめました。 「ヤイ、飴玉の間抜け野郎。貴様はまん丸くて甘ったるいばかりで何にもならないじゃないか。俺なんぞ見ろ。ちゃんと着物を着て四角 …
読書目安時間:約2分
キャラメルと飴玉とがお菓子箱のうちで喧嘩をはじめました。 「ヤイ、飴玉の間抜け野郎。貴様はまん丸くて甘ったるいばかりで何にもならないじゃないか。俺なんぞ見ろ。ちゃんと着物を着て四角 …
キューピー(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
アメリカ生まれのキューピーがいなくなったので、おもちゃ箱の中は大変なさわぎがはじまりました。日本のダルマさんが向う鉢巻でタワシ細工の熊に乗っていの一番に飛び出す。あとから独逸生まれ …
読書目安時間:約2分
アメリカ生まれのキューピーがいなくなったので、おもちゃ箱の中は大変なさわぎがはじまりました。日本のダルマさんが向う鉢巻でタワシ細工の熊に乗っていの一番に飛び出す。あとから独逸生まれ …
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間20分
「オ……オ……和尚様。チョ、チョット和尚様。バ……妖怪が……」 まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた沓脱石まで転けつまろびつ走って来た一人の老婆が、疎らな歯をパクパクと噛み合わせて喘いだ …
読書目安時間:約1時間20分
「オ……オ……和尚様。チョ、チョット和尚様。バ……妖怪が……」 まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた沓脱石まで転けつまろびつ走って来た一人の老婆が、疎らな歯をパクパクと噛み合わせて喘いだ …
狂人は笑う(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「ホホホホホホホ……」 だって可笑しいじゃありませんか。 ……妾はねえ。失恋の結果世を儚なみて、何度も何度も自殺しかけたんですってさあ。 いいえ。妾は知らないの。そんな事をした記憶 …
読書目安時間:約26分
「ホホホホホホホ……」 だって可笑しいじゃありませんか。 ……妾はねえ。失恋の結果世を儚なみて、何度も何度も自殺しかけたんですってさあ。 いいえ。妾は知らないの。そんな事をした記憶 …
斬られたさに(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
「アッハッハッハッハッ……」 冷めたい、底意地の悪るそうな高笑いが、小雨の中の片側松原から聞こえて来た。小田原の手前一里足らず。文久三年三月の末に近い暮六つ時であった。 石月平馬は …
読書目安時間:約42分
「アッハッハッハッハッ……」 冷めたい、底意地の悪るそうな高笑いが、小雨の中の片側松原から聞こえて来た。小田原の手前一里足らず。文久三年三月の末に近い暮六つ時であった。 石月平馬は …
近眼芸妓と迷宮事件(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
俺の刑事生活中の面白い体験を話せって云うのか。小説の材料にするから……ふうん。折角だが面白い話なんかないよ。ヒネクレた事件のアトをコツコツと探りまわるんだから碌な事はないんだ。何で …
読書目安時間:約24分
俺の刑事生活中の面白い体験を話せって云うのか。小説の材料にするから……ふうん。折角だが面白い話なんかないよ。ヒネクレた事件のアトをコツコツと探りまわるんだから碌な事はないんだ。何で …
金銀の衣裳(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
昔或る処に貧乏な母娘がありました、お父様は早くになくなつて今はお母様と娘のお玉と二人切でしたが何しろ貧乏なので其日其日の喰べるものもありません、只お母様が毎日毎日他所へ行つて着物の …
読書目安時間:約5分
昔或る処に貧乏な母娘がありました、お父様は早くになくなつて今はお母様と娘のお玉と二人切でしたが何しろ貧乏なので其日其日の喰べるものもありません、只お母様が毎日毎日他所へ行つて着物の …
近世快人伝(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間40分
筆者の記憶に残っている変った人物を挙げよ……という当代一流の尖端雑誌新青年子の註文である。もちろん新青年の事だから、郵便切手に残るような英傑の立志談でもあるまいし、神経衰弱式な忠臣 …
読書目安時間:約2時間40分
筆者の記憶に残っている変った人物を挙げよ……という当代一流の尖端雑誌新青年子の註文である。もちろん新青年の事だから、郵便切手に残るような英傑の立志談でもあるまいし、神経衰弱式な忠臣 …
空を飛ぶパラソル(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
水蒸気を一パイに含んだ梅雨晴れの空から、白い眩しい太陽が、パッと照り落ちて来る朝であった。 ちょうど農繁期で、地方新聞の読者がズンズン減って行くばかりでなく、新聞記事の夏枯れ季節に …
読書目安時間:約41分
水蒸気を一パイに含んだ梅雨晴れの空から、白い眩しい太陽が、パッと照り落ちて来る朝であった。 ちょうど農繁期で、地方新聞の読者がズンズン減って行くばかりでなく、新聞記事の夏枯れ季節に …
クチマネ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
美代子さんは綺麗な可愛らしい児でしたが、ひとの口真似をするので皆から嫌われていました。 或る日の事、美代子さんはお家の前でたった一人で羽子をついていますと、一人の支那人が反物を担い …
読書目安時間:約7分
美代子さんは綺麗な可愛らしい児でしたが、ひとの口真似をするので皆から嫌われていました。 或る日の事、美代子さんはお家の前でたった一人で羽子をついていますと、一人の支那人が反物を担い …
黒い頭(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ヒイラ、フウラ、ミイラよ ミイラのおべべが赤と青 そうしておかおが真黒け 四つよく似たムクロージ 五ついつまでねんねして 六つむかしの夢を見て 何千万何億年 やっとこさあと眼がさめ …
読書目安時間:約4分
ヒイラ、フウラ、ミイラよ ミイラのおべべが赤と青 そうしておかおが真黒け 四つよく似たムクロージ 五ついつまでねんねして 六つむかしの夢を見て 何千万何億年 やっとこさあと眼がさめ …
月蝕(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
★ 鋼のように澄みわたる大空のまん中で 月がすすり泣いている。 ………けがらわしい地球の陰影が 自分の顔にうつるとて………… それを大勢の人間から見られるとて………… …………身ぶ …
読書目安時間:約3分
★ 鋼のように澄みわたる大空のまん中で 月がすすり泣いている。 ………けがらわしい地球の陰影が 自分の顔にうつるとて………… それを大勢の人間から見られるとて………… …………身ぶ …
けむりを吐かぬ煙突(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
外はスゴイ月夜であった。玄関の正反対側から突出ている煙突の上で月がグングンと西に流れていた。 庭の木立の間の暗いジメジメした土の上を手探りで歩いて行くうちにビッショリと汗をかいた。 …
読書目安時間:約28分
外はスゴイ月夜であった。玄関の正反対側から突出ている煙突の上で月がグングンと西に流れていた。 庭の木立の間の暗いジメジメした土の上を手探りで歩いて行くうちにビッショリと汗をかいた。 …
甲賀三郎氏に答う(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ぷろふいる誌、九月号所載、甲賀三郎氏の「探偵小説講話」末尾に於て、特に私が文芸通信誌上に書いた「探偵小説の真使命」と称する一文のために「夢野久作君に問う」の一項を設けられたについて …
読書目安時間:約10分
ぷろふいる誌、九月号所載、甲賀三郎氏の「探偵小説講話」末尾に於て、特に私が文芸通信誌上に書いた「探偵小説の真使命」と称する一文のために「夢野久作君に問う」の一項を設けられたについて …
黒白ストーリー(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
飯田町附近の材木置場の中に板が一面に立て並べてあった。イナセな仕事着を着た若い者三平はその板をアチコチと並べ直しながらしきりにコワイロを使い、時には変な身ぶりを交ぜた。三平は芝居気 …
読書目安時間:約40分
飯田町附近の材木置場の中に板が一面に立て並べてあった。イナセな仕事着を着た若い者三平はその板をアチコチと並べ直しながらしきりにコワイロを使い、時には変な身ぶりを交ぜた。三平は芝居気 …
ココナットの実(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
妾は今、神戸海岸通りのレストラン・エイシャの隅ッこに、ちょこりんと腰をかけている。油気のない前髪をういういしく垂らして、紫ミラネーゼの派手な振袖を着て、金ピカの塩瀬を色気よく高々と …
読書目安時間:約35分
妾は今、神戸海岸通りのレストラン・エイシャの隅ッこに、ちょこりんと腰をかけている。油気のない前髪をういういしく垂らして、紫ミラネーゼの派手な振袖を着て、金ピカの塩瀬を色気よく高々と …
挿絵と闘った話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「犬神博士」は私が何等の自信もないままに、突然福日社から頼まれたものです。むろん一度ならず、お断りしかけましたし、福日社も私の危虞を察して「それじゃ止そうか」と云われたものですが、 …
読書目安時間:約3分
「犬神博士」は私が何等の自信もないままに、突然福日社から頼まれたものです。むろん一度ならず、お断りしかけましたし、福日社も私の危虞を察して「それじゃ止そうか」と云われたものですが、 …
殺人迷路:07 (連作探偵小説第七回)(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
意外な夢遊探偵 一方、星田代二と別れた雑誌記者の津村は、殆んど逃げる様にして新橋駅構内を出た。そうして何処をドウ通り抜けて来たか、わからないくらい混乱しいしい銀座の左側の通りをセッ …
読書目安時間:約12分
意外な夢遊探偵 一方、星田代二と別れた雑誌記者の津村は、殆んど逃げる様にして新橋駅構内を出た。そうして何処をドウ通り抜けて来たか、わからないくらい混乱しいしい銀座の左側の通りをセッ …
猿小僧(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
一人の乞食の小僧が山の奥深く迷い入って、今まで人間の行った事のない処まで行くと、そこに猿の都というものがあった。 猿の都は広い野原と深い森に囲まれた岩の山で、その岩には沢山の洞穴が …
読書目安時間:約12分
一人の乞食の小僧が山の奥深く迷い入って、今まで人間の行った事のない処まで行くと、そこに猿の都というものがあった。 猿の都は広い野原と深い森に囲まれた岩の山で、その岩には沢山の洞穴が …
ざんげの塔(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
「女を見て美しいと思うものは、罪を犯した者だ」という基督の眼から見れば、たいていの人間は犯罪者……だと思う。それかといって懲役に行くような犯罪をここに発表するわけにも行かぬ……たと …
読書目安時間:約5分
「女を見て美しいと思うものは、罪を犯した者だ」という基督の眼から見れば、たいていの人間は犯罪者……だと思う。それかといって懲役に行くような犯罪をここに発表するわけにも行かぬ……たと …
死後の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
ハハハハハ。イヤ……失礼しました。嘸かしビックリなすったでしょう。ハハア。乞食かとお思いになった……アハアハアハ。イヤ大笑いです。 あなたは近頃、この浦塩の町で評判になっている、風 …
読書目安時間:約37分
ハハハハハ。イヤ……失礼しました。嘸かしビックリなすったでしょう。ハハア。乞食かとお思いになった……アハアハアハ。イヤ大笑いです。 あなたは近頃、この浦塩の町で評判になっている、風 …
支那米の袋(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
ああ……すっかり酔っちゃったわ。……でも、もう一杯カニャックを飲ましてちょうだいね……。 あんたもお飲みなさいよ。今夜は特別だからサア……ええ。妾の気持ちが特別なのよ。今夜は……。 …
読書目安時間:約51分
ああ……すっかり酔っちゃったわ。……でも、もう一杯カニャックを飲ましてちょうだいね……。 あんたもお飲みなさいよ。今夜は特別だからサア……ええ。妾の気持ちが特別なのよ。今夜は……。 …
芝居狂冒険(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「末期(いまわ)の際(きわ)にタッタ一言……タタタ、タッタ一言……コレエ……」 万平は板を並べ換える片手間に、奇妙な声を出して頭を振り立てた。洗い晒(ざら)しの印袢纏(しるしばんて …
読書目安時間:約21分
「末期(いまわ)の際(きわ)にタッタ一言……タタタ、タッタ一言……コレエ……」 万平は板を並べ換える片手間に、奇妙な声を出して頭を振り立てた。洗い晒(ざら)しの印袢纏(しるしばんて …
斜坑(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
地の底の遠い遠い所から透きとおるような陰気な声が震え起って、斜坑の上り口まで這上って来た。 「……ほとけ……さまあああ……イイ……ヨオオオイイ……旧坑口ぞおおお……イイイ……ヨオオ …
読書目安時間:約40分
地の底の遠い遠い所から透きとおるような陰気な声が震え起って、斜坑の上り口まで這上って来た。 「……ほとけ……さまあああ……イイ……ヨオオオイイ……旧坑口ぞおおお……イイイ……ヨオオ …
巡査辞職(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間5分
前篇 「草川の旦那さん。大変です。起きて下さい。モシモシ。起きて下さい。私は深良一知です」 暑い暑い七月の末の或る早朝であった。山奥の谷郷村駐在所の国道に面したホコリだらけの硝子戸 …
読書目安時間:約1時間5分
前篇 「草川の旦那さん。大変です。起きて下さい。モシモシ。起きて下さい。私は深良一知です」 暑い暑い七月の末の或る早朝であった。山奥の谷郷村駐在所の国道に面したホコリだらけの硝子戸 …
少女地獄(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間31分
白鷹秀麿兄足下 臼杵利平 小生は先般、丸の内倶楽部の庚戌会で、短時間拝眉の栄を得ましたもので、貴兄と御同様に九州帝国大学、耳鼻科出身の後輩であります。昨、昭和八年の六月初旬から、当 …
読書目安時間:約3時間31分
白鷹秀麿兄足下 臼杵利平 小生は先般、丸の内倶楽部の庚戌会で、短時間拝眉の栄を得ましたもので、貴兄と御同様に九州帝国大学、耳鼻科出身の後輩であります。昨、昭和八年の六月初旬から、当 …
冗談に殺す(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
私は「完全な犯罪」なぞいうものは空想の一種としか考えていなかった。丸之内の某社で警察方面の外交記者を勤めて、あくまで冷酷な、現実的な事件ばかりで研ぎ澄まされて来た私の頭には、そんな …
読書目安時間:約29分
私は「完全な犯罪」なぞいうものは空想の一種としか考えていなかった。丸之内の某社で警察方面の外交記者を勤めて、あくまで冷酷な、現実的な事件ばかりで研ぎ澄まされて来た私の頭には、そんな …
衝突心理(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
昭和九年四月一日の午前十時頃、神奈川県川崎の警察署へ新聞記者が五六人集まって、交通巡査から夕刊記事を貰っていた。 それは一寸聞いたところ、極めて簡単明瞭な交通事故であった。 その早 …
読書目安時間:約15分
昭和九年四月一日の午前十時頃、神奈川県川崎の警察署へ新聞記者が五六人集まって、交通巡査から夕刊記事を貰っていた。 それは一寸聞いたところ、極めて簡単明瞭な交通事故であった。 その早 …
所感(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「アヤカシの鼓」当選後の所感を書けとのことですが、只今のところ私のあたまは諸大家の御評を拝してすっかりたたきつけられていまして、いくらか残っていた自画自讃みたような気もちまでもパン …
読書目安時間:約8分
「アヤカシの鼓」当選後の所感を書けとのことですが、只今のところ私のあたまは諸大家の御評を拝してすっかりたたきつけられていまして、いくらか残っていた自画自讃みたような気もちまでもパン …
白髪小僧(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間18分
第一篇赤おうむ 一銀杏の樹 昔或る処に一人の乞食小僧が居りました。この小僧は生れ付きの馬鹿で、親も兄弟も何も無い本当の一人者で、夏も冬もボロボロの着物一枚切り、定った寝床さえありま …
読書目安時間:約3時間18分
第一篇赤おうむ 一銀杏の樹 昔或る処に一人の乞食小僧が居りました。この小僧は生れ付きの馬鹿で、親も兄弟も何も無い本当の一人者で、夏も冬もボロボロの着物一枚切り、定った寝床さえありま …
白菊(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
脱獄囚の虎蔵は、深夜の街道の中央に立ち悚んだ。 黒血だらけの引っ掻き傷と、泥と、ホコリに塗みれた素跣足の上に、背縫の開いた囚人服を引っかけて、太い、新しい荒縄をグルグルと胸の上まで …
読書目安時間:約25分
脱獄囚の虎蔵は、深夜の街道の中央に立ち悚んだ。 黒血だらけの引っ掻き傷と、泥と、ホコリに塗みれた素跣足の上に、背縫の開いた囚人服を引っかけて、太い、新しい荒縄をグルグルと胸の上まで …
白くれない(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
残怨白紅花盛 余多人切支丹寺 「ふうん読めんなあ。これあ……まるで暗号じゃないかこれあ」 私は苦笑した。二尺三寸ばかりの刀の中心に彫った文字を庭先の夕明りに透かしてみた。 「銘は別 …
読書目安時間:約50分
残怨白紅花盛 余多人切支丹寺 「ふうん読めんなあ。これあ……まるで暗号じゃないかこれあ」 私は苦笑した。二尺三寸ばかりの刀の中心に彫った文字を庭先の夕明りに透かしてみた。 「銘は別 …
白椿(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ちえ子さんは可愛らしい奇麗な児でしたが、勉強がきらいで遊んでばかりいるので、学校を何べんも落第しました。そしてお父さんやお母さんに叱られる毎に、「ああ、嫌だ嫌だ。どうかして勉強しな …
読書目安時間:約6分
ちえ子さんは可愛らしい奇麗な児でしたが、勉強がきらいで遊んでばかりいるので、学校を何べんも落第しました。そしてお父さんやお母さんに叱られる毎に、「ああ、嫌だ嫌だ。どうかして勉強しな …
木魂(新字新仮名)
読書目安時間:約48分
……俺はどうしてコンナ処に立ち佇まっているのだろう……踏切線路の中央に突立って、自分の足下をボンヤリ見詰めているのだろう……汽車が来たら轢き殺されるかも知れないのに……。 そう気が …
読書目安時間:約48分
……俺はどうしてコンナ処に立ち佇まっているのだろう……踏切線路の中央に突立って、自分の足下をボンヤリ見詰めているのだろう……汽車が来たら轢き殺されるかも知れないのに……。 そう気が …
スランプ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
——ぷろふいる社御中—— 申訳ありません。このあいだ御下命の原稿、一度、御猶予願っておきながら、まだ書けずにおります。ひどいスランプに陥ってしまったのです。 いささか広告に類します …
読書目安時間:約7分
——ぷろふいる社御中—— 申訳ありません。このあいだ御下命の原稿、一度、御猶予願っておきながら、まだ書けずにおります。ひどいスランプに陥ってしまったのです。 いささか広告に類します …
「生活」+「戦争」+「競技」÷0=能(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
生活戦争」│0┃=┃能競技この標題は表現派の禁厭札ではない。去年十月号の本誌の裏絵で、喜多実氏の「葵上」のスケッチ……又翌月号の本誌にその画を通じて、実氏の芸風と奏風氏の筆致をテニ …
読書目安時間:約7分
生活戦争」│0┃=┃能競技この標題は表現派の禁厭札ではない。去年十月号の本誌の裏絵で、喜多実氏の「葵上」のスケッチ……又翌月号の本誌にその画を通じて、実氏の芸風と奏風氏の筆致をテニ …
戦場(新字新仮名)
読書目安時間:約52分
はしがき この一文は目下、埃及のカイロ市で外科病院を開業している芬蘭生まれの独逸医学博士、仏蘭西文学博士オルクス・クラデル氏が筆者に送ってくれた論文?「戦争の裡面」中の、戦場描写の …
読書目安時間:約52分
はしがき この一文は目下、埃及のカイロ市で外科病院を開業している芬蘭生まれの独逸医学博士、仏蘭西文学博士オルクス・クラデル氏が筆者に送ってくれた論文?「戦争の裡面」中の、戦場描写の …
先生の眼玉に(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
子供が大ぜい遊んでいるところに雪がふって来ました。 「ヤアイヤアイ雪がふって来た 雪降れウント降れ 塩になれ砂糖になれ」 とみんながよろこびました。 「砂糖になったらどうするか」 …
読書目安時間:約2分
子供が大ぜい遊んでいるところに雪がふって来ました。 「ヤアイヤアイ雪がふって来た 雪降れウント降れ 塩になれ砂糖になれ」 とみんながよろこびました。 「砂糖になったらどうするか」 …
線路(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
カラリと晴れた冬のまひるであった。私は町へ出る近道の鉄道線路を歩いていた。若い健康な全身の弾力を、両方の掌にギュッと握り締めて左右のポケットに突込んで……。 静かな静かな、長い長い …
読書目安時間:約4分
カラリと晴れた冬のまひるであった。私は町へ出る近道の鉄道線路を歩いていた。若い健康な全身の弾力を、両方の掌にギュッと握り締めて左右のポケットに突込んで……。 静かな静かな、長い長い …
創作人物の名前について(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
これは探偵小説に限らない。小説を書く人は誰でも経験するところであろう。 如何なる作家の場合でも小説の中の主人公や相手役、端役の人物が決定するのと、その人物の名前が決定するのは殆んど …
読書目安時間:約13分
これは探偵小説に限らない。小説を書く人は誰でも経験するところであろう。 如何なる作家の場合でも小説の中の主人公や相手役、端役の人物が決定するのと、その人物の名前が決定するのは殆んど …
暗黒公使(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間10分
「暗黒公使」なるものはどんな種類の人間でどんな仕事をするものかというような事実を、如実に説明した発表は、この秘録以外に余り聞かないようである。又そんな事実を自由に発表し得る立場に居 …
読書目安時間:約7時間10分
「暗黒公使」なるものはどんな種類の人間でどんな仕事をするものかというような事実を、如実に説明した発表は、この秘録以外に余り聞かないようである。又そんな事実を自由に発表し得る立場に居 …
金剛石(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
或る仕立屋のお神さんが往来で素敵も無い大きな金剛石入りの指環を拾ひました。お神さんは吃驚して直ぐに警察へ届けて置きましたが落した人がどうしてもわからないと云ふので一年経つとお神さん …
読書目安時間:約2分
或る仕立屋のお神さんが往来で素敵も無い大きな金剛石入りの指環を拾ひました。お神さんは吃驚して直ぐに警察へ届けて置きましたが落した人がどうしてもわからないと云ふので一年経つとお神さん …
鷹とひらめ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ひらめが海を泳いでいますと、鷹が飛んで来て掴もうとしましたが、水が深いので掴めません。しかたなしに知恵を出してひらめにこう言いました。 「平目さん。もっとこちらの浅い処に来て御覧。 …
読書目安時間:約1分
ひらめが海を泳いでいますと、鷹が飛んで来て掴もうとしましたが、水が深いので掴めません。しかたなしに知恵を出してひらめにこう言いました。 「平目さん。もっとこちらの浅い処に来て御覧。 …
章魚の足(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
凧屋の店にいろいろ並んでいる凧の中で、達磨と章魚とが喧嘩をはじめました。 「ヤイ達磨の意気地なし。貴様は鬚なんぞ生やして威張っていても、手も足も出ないじゃないか。俺なんぞ見ろ。こん …
読書目安時間:約2分
凧屋の店にいろいろ並んでいる凧の中で、達磨と章魚とが喧嘩をはじめました。 「ヤイ達磨の意気地なし。貴様は鬚なんぞ生やして威張っていても、手も足も出ないじゃないか。俺なんぞ見ろ。こん …
狸と与太郎(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。 「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」 とお母さんが言い …
読書目安時間:約1分
与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。 「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」 とお母さんが言い …
卵(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
三太郎君は勉強に飽きて裏庭に出ました。 空には一面に白い鱗雲が漂うて、淡い日があたたかく照っておりました。その下に立ち並ぶ郊外の家々は、人の気はいもないくらいヒッソリとして、お隣り …
読書目安時間:約8分
三太郎君は勉強に飽きて裏庭に出ました。 空には一面に白い鱗雲が漂うて、淡い日があたたかく照っておりました。その下に立ち並ぶ郊外の家々は、人の気はいもないくらいヒッソリとして、お隣り …
探偵小説の正体(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
探偵小説はジフテリヤの血清に似ている。ジフテリヤの血清をジフテリヤ患者に注射するとステキに利く。百発百中と云ってもいい位おそろしい効果を以て、ジフテリヤの病源体をヤッツケてしまうら …
読書目安時間:約8分
探偵小説はジフテリヤの血清に似ている。ジフテリヤの血清をジフテリヤ患者に注射するとステキに利く。百発百中と云ってもいい位おそろしい効果を以て、ジフテリヤの病源体をヤッツケてしまうら …
探偵小説の真使命(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
探偵小説が下火になって来た。曾ての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火は、今や冷めたい灰になりかかっている。 曾ての自然主義文芸がそうであったように……。 自由民 …
読書目安時間:約9分
探偵小説が下火になって来た。曾ての勃興当時、作者と読者とが熱狂して薪を投じ油を注いだ炬火は、今や冷めたい灰になりかかっている。 曾ての自然主義文芸がそうであったように……。 自由民 …
探偵小説漫想(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
何か書かなければならない。二三枚でいいという。 机に肱を突いて暁の煙を輪に吹いてみる。 ◇ お前が書いているのは探偵小説じゃないという人が居る。腹が立つような立たないような妙な気持 …
読書目安時間:約3分
何か書かなければならない。二三枚でいいという。 机に肱を突いて暁の煙を輪に吹いてみる。 ◇ お前が書いているのは探偵小説じゃないという人が居る。腹が立つような立たないような妙な気持 …
父杉山茂丸を語る(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
白ッポイ着物に青い博多織の帯を前下りに締めて紋付の羽織を着て、素足に駒下駄を穿いた父の姿が何よりも先に眼に浮かぶ。その父は頭の毛をクシャクシャにして、黒い関羽鬚を渦巻かせていた。 …
読書目安時間:約25分
白ッポイ着物に青い博多織の帯を前下りに締めて紋付の羽織を着て、素足に駒下駄を穿いた父の姿が何よりも先に眼に浮かぶ。その父は頭の毛をクシャクシャにして、黒い関羽鬚を渦巻かせていた。 …
超人鬚野博士(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間59分
吾輩のこと ……何だ……吾輩の身上話を速記にして雑誌に掲載するから話せ……と云うのか。 フウム。それは話さん事もないが、しかし、選りに選って又、吾輩みたいなルンペン紳士……乞食と泥 …
読書目安時間:約1時間59分
吾輩のこと ……何だ……吾輩の身上話を速記にして雑誌に掲載するから話せ……と云うのか。 フウム。それは話さん事もないが、しかし、選りに選って又、吾輩みたいなルンペン紳士……乞食と泥 …
塵(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
塵だ。塵だ。おもしろい、不可思議な、無量無辺の塵だ。 大空を藍色に見せ、夕日を黄金色に沈ませ、都大路の色硝子に曇って、文明の悲哀を匂わせる。 広大な塵の芸術だ。 深夜の十字街頭に音 …
読書目安時間:約5分
塵だ。塵だ。おもしろい、不可思議な、無量無辺の塵だ。 大空を藍色に見せ、夕日を黄金色に沈ませ、都大路の色硝子に曇って、文明の悲哀を匂わせる。 広大な塵の芸術だ。 深夜の十字街頭に音 …
ツクツク法師(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
むかしあるところに一人の欲ばりの坊さんがおりました。 毎日毎日方々へお経を読みに行って貰って来たお金を一つの大きな甕の中に溜めていましたが、だんだん一パイになってくるにつれて泥棒に …
読書目安時間:約6分
むかしあるところに一人の欲ばりの坊さんがおりました。 毎日毎日方々へお経を読みに行って貰って来たお金を一つの大きな甕の中に溜めていましたが、だんだん一パイになってくるにつれて泥棒に …
電信柱と黒雲(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
電信柱が寒い風にあたってピーピーと泣いておりました。 黒い雲が来て、 「何を泣いているのだえ」 「寒いからさ。お前のような雲が来るから寒いのだ。こちらへ来ないでくれ」 「おれが悪い …
読書目安時間:約1分
電信柱が寒い風にあたってピーピーと泣いておりました。 黒い雲が来て、 「何を泣いているのだえ」 「寒いからさ。お前のような雲が来るから寒いのだ。こちらへ来ないでくれ」 「おれが悪い …
東京人の堕落時代(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間3分
この稿は昨年末まで書き続けた「街頭より見たる新東京の裏面」の別稿である。記者は特にこの稿を作るためには、単に街頭観にのみ依らず、この方面に責任を持っている医師、教育家、司法官、興行 …
読書目安時間:約4時間3分
この稿は昨年末まで書き続けた「街頭より見たる新東京の裏面」の別稿である。記者は特にこの稿を作るためには、単に街頭観にのみ依らず、この方面に責任を持っている医師、教育家、司法官、興行 …
道成寺不見記(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
恩師の一世一代という意味ばかりではない。喜多六平太の道成寺なるものを一度も見なかったせいばかりではない。喜多六平太氏の葵上を見て、怨霊ものとしての凄絶さに圧倒された体験のある筆者は …
読書目安時間:約5分
恩師の一世一代という意味ばかりではない。喜多六平太の道成寺なるものを一度も見なかったせいばかりではない。喜多六平太氏の葵上を見て、怨霊ものとしての凄絶さに圧倒された体験のある筆者は …
童貞(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
「俺はここで死ぬのかな……」 そう思いつつ昂作はヒョロヒョロと立ち止まった。眼の前の電柱に片手を支えると、その掌に、照りつけた太陽の熱がピリピリと泌み込んだ。 彼は今にも倒れそうに …
読書目安時間:約28分
「俺はここで死ぬのかな……」 そう思いつつ昂作はヒョロヒョロと立ち止まった。眼の前の電柱に片手を支えると、その掌に、照りつけた太陽の熱がピリピリと泌み込んだ。 彼は今にも倒れそうに …
ドグラ・マグラ(新字新仮名)
読書目安時間:約14時間6分
巻頭歌 胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか …………ブウウ——————ンンン——————ンンンン………………。 私がウスウスと眼を覚ました時、こうした蜜蜂 …
読書目安時間:約14時間6分
巻頭歌 胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか …………ブウウ——————ンンン——————ンンンン………………。 私がウスウスと眼を覚ました時、こうした蜜蜂 …
どろぼう猫(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
お天気のいい日に斑猫が縁側に坐ってしきりに顔を撫で廻しておりました。この猫は鼠を一匹も捕らぬくせに泥棒猫で、近所から嫌われていましたが、「ニャーニャーゴロゴロ」とおべっかを使うのが …
読書目安時間:約3分
お天気のいい日に斑猫が縁側に坐ってしきりに顔を撫で廻しておりました。この猫は鼠を一匹も捕らぬくせに泥棒猫で、近所から嫌われていましたが、「ニャーニャーゴロゴロ」とおべっかを使うのが …
ドン(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
たいそうあたたかくなりました。 猫が久し振りにあたたかくなったので縁側に出て見ると、縁側の鉢の中にいる金魚が五、六匹チラチラしています。これは占めた、どうかして取って食べてやろうと …
読書目安時間:約2分
たいそうあたたかくなりました。 猫が久し振りにあたたかくなったので縁側に出て見ると、縁側の鉢の中にいる金魚が五、六匹チラチラしています。これは占めた、どうかして取って食べてやろうと …
涙のアリバイ:――手先表情映画――(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
すべて無字幕、説明なしで、手だけを中心とし、その他の物体は、手の背景としてうつす。但、生きた人間の顔は絶対に取り入れぬこと。 俳優登場 ◇悪人の手……四十恰好の色の白い、指の長い、 …
読書目安時間:約6分
すべて無字幕、説明なしで、手だけを中心とし、その他の物体は、手の背景としてうつす。但、生きた人間の顔は絶対に取り入れぬこと。 俳優登場 ◇悪人の手……四十恰好の色の白い、指の長い、 …
ナンセンス(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私には「探偵趣味」という意味がハッキリとわからない。同時に「猟奇趣味」という言葉も甚だアイマイなように感じている。しかもその癖に、そんな趣味の小説や絵画はナカナカ好きな方で、つまら …
読書目安時間:約4分
私には「探偵趣味」という意味がハッキリとわからない。同時に「猟奇趣味」という言葉も甚だアイマイなように感じている。しかもその癖に、そんな趣味の小説や絵画はナカナカ好きな方で、つまら …
二重心臓(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間12分
不明の兇漢に 探偵劇王刺殺さる 孤児となった女優天川呉羽哭いて復讐を誓う 秘密を孕む怪悲劇 市内大森区山王×××番地轟九蔵氏(四四)は帝都呉服橋電車通、目貫の十字路に聳立する分離派 …
読書目安時間:約2時間12分
不明の兇漢に 探偵劇王刺殺さる 孤児となった女優天川呉羽哭いて復讐を誓う 秘密を孕む怪悲劇 市内大森区山王×××番地轟九蔵氏(四四)は帝都呉服橋電車通、目貫の十字路に聳立する分離派 …
人形と狼(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お腹の空いた狼が野道を歩いて来ますと、遠くに一人の赤ん坊が寝ているのを見つけました。狼は大喜びで走って来てみると、それは誰かが落した大きな人形でした。 「ええ、この役立たず奴が」 …
読書目安時間:約1分
お腹の空いた狼が野道を歩いて来ますと、遠くに一人の赤ん坊が寝ているのを見つけました。狼は大喜びで走って来てみると、それは誰かが落した大きな人形でした。 「ええ、この役立たず奴が」 …
人間腸詰(新字新仮名)
読書目安時間:約44分
あっしの洋行の土産話ですか。 イヤハヤどうも……あんまり古い事なんで忘れちゃいましたよ。何なら御勘弁願いたいもんで……ただもうビックリして面喰って、生命からがら逃げて帰って来たダケ …
読書目安時間:約44分
あっしの洋行の土産話ですか。 イヤハヤどうも……あんまり古い事なんで忘れちゃいましたよ。何なら御勘弁願いたいもんで……ただもうビックリして面喰って、生命からがら逃げて帰って来たダケ …
人間レコード(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
昭和×年の十月三日午後六時半。 玄海洋の颱風雲を帯びた曇天がもうトップリと暮れていた。 下関の桟橋へ着いた七千噸級の関釜連絡船、楽浪丸の一等船室から一人の見窄らしい西洋人がヒョロヒ …
読書目安時間:約21分
昭和×年の十月三日午後六時半。 玄海洋の颱風雲を帯びた曇天がもうトップリと暮れていた。 下関の桟橋へ着いた七千噸級の関釜連絡船、楽浪丸の一等船室から一人の見窄らしい西洋人がヒョロヒ …
寝ぼけ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
太郎さんはしじゅう寝ぼけてしくじるので、口惜しくてたまりません。明日は運動会だから、決して寝ぼけずにちゃんと自分で支度をして、みんなを驚かしてやろうとかたく決心をして寝ました。 あ …
読書目安時間:約2分
太郎さんはしじゅう寝ぼけてしくじるので、口惜しくてたまりません。明日は運動会だから、決して寝ぼけずにちゃんと自分で支度をして、みんなを驚かしてやろうとかたく決心をして寝ました。 あ …
能ぎらい/能好き/能という名前(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
能ぎらい 日本には「能ぎらい」と称する人が多い。否。多い処の騒ぎでなく、現在日本の大衆の百人中九十九人までは「能ぎらい」もしくは能に対して理解をもたない人々であるらしい。 ところが …
読書目安時間:約9分
能ぎらい 日本には「能ぎらい」と称する人が多い。否。多い処の騒ぎでなく、現在日本の大衆の百人中九十九人までは「能ぎらい」もしくは能に対して理解をもたない人々であるらしい。 ところが …
能とは何か(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間14分
二三年前の事、或る若いエスペランチストが私の処へ遊びに来ました序に、瑞西とかのエスペラントの雑誌へ「能」の事を投稿したいから、話してくれないかと頼みました。ところが生憎、私は能とい …
読書目安時間:約1時間14分
二三年前の事、或る若いエスペランチストが私の処へ遊びに来ました序に、瑞西とかのエスペラントの雑誌へ「能」の事を投稿したいから、話してくれないかと頼みました。ところが生憎、私は能とい …
蚤と蚊(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
夏の暑い日になまけものがひるねをしておりますと、蚤と蚊が代る代るやって来て刺したり食いついたりしました。なまけ者は怒りだして、 「折角ひとが寝ているのに何だっていたずらをするのだ」 …
読書目安時間:約1分
夏の暑い日になまけものがひるねをしておりますと、蚤と蚊が代る代るやって来て刺したり食いついたりしました。なまけ者は怒りだして、 「折角ひとが寝ているのに何だっていたずらをするのだ」 …
呑仙士(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
筆者は酒が一滴も飲めないのに、友達は皆酒豪ばかりと言っていい。しかも現代を超越した呑仙士ばかりで、奇抜、痛快の形容を絶した逸話をノベツに提供して、筆者の神経衰弱を吹き飛ばしてくれる …
読書目安時間:約5分
筆者は酒が一滴も飲めないのに、友達は皆酒豪ばかりと言っていい。しかも現代を超越した呑仙士ばかりで、奇抜、痛快の形容を絶した逸話をノベツに提供して、筆者の神経衰弱を吹き飛ばしてくれる …
爆弾太平記(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間40分
……ああ……酔うた酔うた。 ……どうだ斎木……モ一つ行こう。脊髄癆ぐらい酒を飲めば癒るよ。ちょっとも酔わんじゃないか君は……。 ナニ……恐ろしい暴風雨だ?……。 ウン。近来珍らしい …
読書目安時間:約1時間40分
……ああ……酔うた酔うた。 ……どうだ斎木……モ一つ行こう。脊髄癆ぐらい酒を飲めば癒るよ。ちょっとも酔わんじゃないか君は……。 ナニ……恐ろしい暴風雨だ?……。 ウン。近来珍らしい …
働く町(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ある国で第一番の上手というお医者さんが、ある町に招かれて来ました。お医者さんは町に着くと直ぐ、 「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」 と尋ねました。 町の人はこう答えました …
読書目安時間:約1分
ある国で第一番の上手というお医者さんが、ある町に招かれて来ました。お医者さんは町に着くと直ぐ、 「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」 と尋ねました。 町の人はこう答えました …
鼻の表現(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間23分
はしがき 「鼻の表現」なぞいう標題を掲げますと、人を馬鹿にしている——大方おしまいにお化粧品の効能書きでも出て来るのじゃないかと、初めから鼻であしらってしまわれる方が無いとも限りま …
読書目安時間:約2時間23分
はしがき 「鼻の表現」なぞいう標題を掲げますと、人を馬鹿にしている——大方おしまいにお化粧品の効能書きでも出て来るのじゃないかと、初めから鼻であしらってしまわれる方が無いとも限りま …
ビール会社征伐(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
毎度、酒のお話で申訳ないが、今思い出しても腹の皮がピクピクして来る左党の傑作として記録して置く必要があると思う。 九州福岡の民政系新聞、九州日報社が政友会万能時代で経営難に陥ってい …
読書目安時間:約7分
毎度、酒のお話で申訳ないが、今思い出しても腹の皮がピクピクして来る左党の傑作として記録して置く必要があると思う。 九州福岡の民政系新聞、九州日報社が政友会万能時代で経営難に陥ってい …
一足お先に(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間21分
……聖書に曰く「もし汝の右の眼、なんじを罪に陥さば、抉り出してこれを棄てよ……もし右の手、なんじを罪に陥さばこれを断り棄てよ。蓋、五体の一つを失うは、全身を地獄に投げ入れらるるより …
読書目安時間:約1時間21分
……聖書に曰く「もし汝の右の眼、なんじを罪に陥さば、抉り出してこれを棄てよ……もし右の手、なんじを罪に陥さばこれを断り棄てよ。蓋、五体の一つを失うは、全身を地獄に投げ入れらるるより …
人の顔(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
チエ子は奇妙な児であった。 孤児院に居るうちは、ただむやみと可愛いらしい、あどけない一方の児であったが、五ツの年の春に、麹町の番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭に貰われて来てか …
読書目安時間:約12分
チエ子は奇妙な児であった。 孤児院に居るうちは、ただむやみと可愛いらしい、あどけない一方の児であったが、五ツの年の春に、麹町の番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭に貰われて来てか …
ビルディング(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
巨大な四角いビルディングである。 窓という窓が残らずピッタリと閉め切ってあって、室という室が全然、暗黒を封じている。 その黒い、巨大な、四角い暗黒の一角に、黄色い、細い弦月が引っか …
読書目安時間:約2分
巨大な四角いビルディングである。 窓という窓が残らずピッタリと閉め切ってあって、室という室が全然、暗黒を封じている。 その黒い、巨大な、四角い暗黒の一角に、黄色い、細い弦月が引っか …
瓶詰地獄(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
拝呈時下益々御清栄、奉慶賀候。陳者、予てより御通達の、潮流研究用と覚しき、赤封蝋附きの麦酒瓶、拾得次第届告仕る様、島民一般に申渡置候処、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附き …
読書目安時間:約14分
拝呈時下益々御清栄、奉慶賀候。陳者、予てより御通達の、潮流研究用と覚しき、赤封蝋附きの麦酒瓶、拾得次第届告仕る様、島民一般に申渡置候処、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附き …
焦点を合せる(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
イヤア。失敬失敬。李発君というのは君かい。九大法文科の二年生……ウンウン。麻雀を密輸入して学資にしているんだってね。ウム。感心感心。当世の若い人間は、ソレ位の意気が無くちゃ駄目だよ …
読書目安時間:約40分
イヤア。失敬失敬。李発君というのは君かい。九大法文科の二年生……ウンウン。麻雀を密輸入して学資にしているんだってね。ウム。感心感心。当世の若い人間は、ソレ位の意気が無くちゃ駄目だよ …
復讐(新字新仮名)
読書目安時間:約48分
昭和二年の二月中旬のこと……S岳の絶頂の岩山が二三日灰色の雲に覆われているうちに、麓の村々へ白いものがチラチラし始めたと思うと、近年珍らしい大雪になった。 その麓のS岳村から五六町 …
読書目安時間:約48分
昭和二年の二月中旬のこと……S岳の絶頂の岩山が二三日灰色の雲に覆われているうちに、麓の村々へ白いものがチラチラし始めたと思うと、近年珍らしい大雪になった。 その麓のS岳村から五六町 …
奇妙な遠眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ある所にアア、サア、リイという三人の兄弟がありました。 その中で三番目のリイは一番温柔しい児でしたが、ちいさい時に眼の病気をして、片っ方の眼がつぶっていましたので、二人の兄さんはメ …
読書目安時間:約14分
ある所にアア、サア、リイという三人の兄弟がありました。 その中で三番目のリイは一番温柔しい児でしたが、ちいさい時に眼の病気をして、片っ方の眼がつぶっていましたので、二人の兄さんはメ …
夫人探索(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「百万円あったら、ああしよう……こうしよう」 と空想していた青年中村芳夫は、思いもかけぬ伯母の遺産を受け継いで一躍百万長者になった。 芳夫は早速数万円を投じて素破らしい邸宅を建てた …
読書目安時間:約4分
「百万円あったら、ああしよう……こうしよう」 と空想していた青年中村芳夫は、思いもかけぬ伯母の遺産を受け継いで一躍百万長者になった。 芳夫は早速数万円を投じて素破らしい邸宅を建てた …
豚吉とヒョロ子(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間53分
豚吉は背の高さが当り前の半分位しかないのに、その肥り方はまた普通の人の二倍の上もあるので、村の人がみんなで豚吉という名をつけたのです。又、ヒョロ子も同じ村に生れた娘でしたが、背丈け …
読書目安時間:約1時間53分
豚吉は背の高さが当り前の半分位しかないのに、その肥り方はまた普通の人の二倍の上もあるので、村の人がみんなで豚吉という名をつけたのです。又、ヒョロ子も同じ村に生れた娘でしたが、背丈け …
二つの鞄(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
小さな鞄と大きな鞄と二つ店に並んでおりました。大きな鞄はいつも小さな鞄を馬鹿にして、 「お前なんぞはおれの口の中に入ってしまう」 と冷かしました。 二つの鞄は同じ時に同じ人に買われ …
読書目安時間:約1分
小さな鞄と大きな鞄と二つ店に並んでおりました。大きな鞄はいつも小さな鞄を馬鹿にして、 「お前なんぞはおれの口の中に入ってしまう」 と冷かしました。 二つの鞄は同じ時に同じ人に買われ …
豚と猪(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
豚が猪に向って自慢をしました。 「私ぐらい結構な身分はない。食べる事から寝る事まですっかり人間に世話をして貰って、御馳走はイヤと言う程たべるからこんなにふとっている。ひとと喧嘩をし …
読書目安時間:約1分
豚が猪に向って自慢をしました。 「私ぐらい結構な身分はない。食べる事から寝る事まですっかり人間に世話をして貰って、御馳走はイヤと言う程たべるからこんなにふとっている。ひとと喧嘩をし …
二人の男と荷車曳き(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昔ある処に力の強い、何でも上手の男が二人おりました。二人共知らぬ者がない位名高かったのですから、どちらがえらいかわかりませんでした。 ある日二人は往来で出会うとお互いに自慢をはじめ …
読書目安時間:約3分
昔ある処に力の強い、何でも上手の男が二人おりました。二人共知らぬ者がない位名高かったのですから、どちらがえらいかわかりませんでした。 ある日二人は往来で出会うとお互いに自慢をはじめ …
古い日記の中から(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
俺に取って金は空気と同じものだ、何が税金だと直木が笑った。 半年の生命を本屋へ質に置いて、本屋に葬式を出させた直木。 逆王に這入った直木は逆に利く桂馬に頭を遣られて死んだ。 前後か …
読書目安時間:約1分
俺に取って金は空気と同じものだ、何が税金だと直木が笑った。 半年の生命を本屋へ質に置いて、本屋に葬式を出させた直木。 逆王に這入った直木は逆に利く桂馬に頭を遣られて死んだ。 前後か …
蛇と蛙(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
冬になると蛇も蛙も何もたべなくなって土の中へもぐってしまいます。 秋の末になって一匹の蛇が蛙に近づいて、 「どうだい。今までは敵同士だったが、もう君をたべなくてもいいから仲直りをし …
読書目安時間:約1分
冬になると蛇も蛙も何もたべなくなって土の中へもぐってしまいます。 秋の末になって一匹の蛇が蛙に近づいて、 「どうだい。今までは敵同士だったが、もう君をたべなくてもいいから仲直りをし …
ペンとインキ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ペン先がインキにこう言いました。 「お前位イヤなものはない。私がいくら金の衣服を着ていても、お前はすぐに錆さして役に立たなくしてしまう。私はお前みたいなもの大嫌いさ」 インキはこう …
読書目安時間:約1分
ペン先がインキにこう言いました。 「お前位イヤなものはない。私がいくら金の衣服を着ていても、お前はすぐに錆さして役に立たなくしてしまう。私はお前みたいなもの大嫌いさ」 インキはこう …
微笑(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
それは可愛らしい、お河童さんの人形であった。丸裸体のまま……どこをみつめているかわからないまま……ニッコリと笑っていた。 ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑で …
読書目安時間:約2分
それは可愛らしい、お河童さんの人形であった。丸裸体のまま……どこをみつめているかわからないまま……ニッコリと笑っていた。 ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑で …
正夢(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
昔、ある街の町外れで大勢の乞食が集まって日なたぼっこしながら話しをしておりましたが、その中で一人の若い乞食が大きな声を出して申しました。 「おい、皆聞け。俺が昨夜他家の軒下で寝てい …
読書目安時間:約4分
昔、ある街の町外れで大勢の乞食が集まって日なたぼっこしながら話しをしておりましたが、その中で一人の若い乞食が大きな声を出して申しました。 「おい、皆聞け。俺が昨夜他家の軒下で寝てい …
継子(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、睡むられずにいた玲子はソッと起上った。 屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割月を見上げながら、洗い晒しの綿ネルの単衣 …
読書目安時間:約25分
どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、睡むられずにいた玲子はソッと起上った。 屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割月を見上げながら、洗い晒しの綿ネルの単衣 …
三つの眼鏡(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
武雄さんはお母さんが亡くなられてから大層わるくなりました。今日も何か面白いいたずらは無いかと考えてお座敷に来ましたら、机の上にお祖母さんの眼鏡がありました。武雄さんは手を拍って喜ん …
読書目安時間:約4分
武雄さんはお母さんが亡くなられてから大層わるくなりました。今日も何か面白いいたずらは無いかと考えてお座敷に来ましたら、机の上にお祖母さんの眼鏡がありました。武雄さんは手を拍って喜ん …
実さんの精神分析(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
実さんの精神分析と言っても、私が実さんの精神を分析するのじゃない。実さんが自分の精神を分析して見せる事が多いことを言うのである。モウ一歩進んで言うと、実さんの能は非常に精神分析的で …
読書目安時間:約10分
実さんの精神分析と言っても、私が実さんの精神を分析するのじゃない。実さんが自分の精神を分析して見せる事が多いことを言うのである。モウ一歩進んで言うと、実さんの能は非常に精神分析的で …
無系統虎列剌(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
法医学者の不平を話せ。新聞に書くからって云うのかね。 アハハハハ。御免蒙ろうよ。不平が云いたい位なら最初からコンナ仕事に頭を突込みやしないよ。モトモト物好きで這入った研究なんだから …
読書目安時間:約16分
法医学者の不平を話せ。新聞に書くからって云うのかね。 アハハハハ。御免蒙ろうよ。不平が云いたい位なら最初からコンナ仕事に頭を突込みやしないよ。モトモト物好きで這入った研究なんだから …
虫の生命(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者で、毎日毎日奥山で炭焼竈の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。 今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を …
読書目安時間:約6分
炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者で、毎日毎日奥山で炭焼竈の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。 今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を …
名君忠之(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
この話の中に活躍する延寿国資と、金剛兵衛盛高の二銘刀は東京の愛剣家、杉山其日庵氏の秘蔵となって現存している。従ってこの話は、黒田藩に起った事実を脚色したものであるが、しかし人名、町 …
読書目安時間:約32分
この話の中に活躍する延寿国資と、金剛兵衛盛高の二銘刀は東京の愛剣家、杉山其日庵氏の秘蔵となって現存している。従ってこの話は、黒田藩に起った事実を脚色したものであるが、しかし人名、町 …
名娼満月(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
人皇百十六代桃園天皇の御治世。徳川中興の名将軍吉宗公の後を受けた天下泰平の真盛り。九代家重公の宝暦の初めっ方。京都の島原で一と云われる松本楼に満月という花魁が居た。五歳の年に重病の …
読書目安時間:約38分
人皇百十六代桃園天皇の御治世。徳川中興の名将軍吉宗公の後を受けた天下泰平の真盛り。九代家重公の宝暦の初めっ方。京都の島原で一と云われる松本楼に満月という花魁が居た。五歳の年に重病の …
冥土行進曲(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
昭和×年四月二十七日午後八時半……。 下関発上り一二等特急、富士号、二等寝台車の上段の帷をピッタリと鎖して、シャツに猿股一つのまま枕元の豆電燈を灯けた。ノウノウと手足を伸ばした序に …
読書目安時間:約50分
昭和×年四月二十七日午後八時半……。 下関発上り一二等特急、富士号、二等寝台車の上段の帷をピッタリと鎖して、シャツに猿股一つのまま枕元の豆電燈を灯けた。ノウノウと手足を伸ばした序に …
眼を開く(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
私は若い時分に、創作に専心したいために或る山奥の空家に引込んで、自炊生活をやったことがある。そうしてその時に、人間というものの極く僅かばかりの不注意とか、手遅れとかいうものが、如何 …
読書目安時間:約20分
私は若い時分に、創作に専心したいために或る山奥の空家に引込んで、自炊生活をやったことがある。そうしてその時に、人間というものの極く僅かばかりの不注意とか、手遅れとかいうものが、如何 …
鵙征伐(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
お父さんの蛙が田圃へ虫とりに行ったまま帰って来ませんので、お神さんの蛙と子供の蛙が心配をして探しに行きましたら、かわいそうにお父さん蛙は鵙に捕えられて茅の刈り株に突き刺されて日干に …
読書目安時間:約2分
お父さんの蛙が田圃へ虫とりに行ったまま帰って来ませんので、お神さんの蛙と子供の蛙が心配をして探しに行きましたら、かわいそうにお父さん蛙は鵙に捕えられて茅の刈り株に突き刺されて日干に …
森の神(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
森の神様が砂原を旅する人々のために木や竹を生やして、真青に茂りました。その真中に清い泉を湧かして渇いた人々に飲ましてやりました。すると大勢の人がやって来て木の下へ家を立て並べて森の …
読書目安時間:約1分
森の神様が砂原を旅する人々のために木や竹を生やして、真青に茂りました。その真中に清い泉を湧かして渇いた人々に飲ましてやりました。すると大勢の人がやって来て木の下へ家を立て並べて森の …
山羊髯編輯長(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間44分
女 箱 師「玄洋日報社」と筆太に書いた、真黒けな松板の看板を発見した吾輩はガッカリしてしまった。コンナ汚穢(きたな)い新聞社に俺は這入(はい)るのかと思って……。 古腐ったバラック …
読書目安時間:約1時間44分
女 箱 師「玄洋日報社」と筆太に書いた、真黒けな松板の看板を発見した吾輩はガッカリしてしまった。コンナ汚穢(きたな)い新聞社に俺は這入(はい)るのかと思って……。 古腐ったバラック …
約束(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「ある人が橋の下で友達に会う約束をして待っていた。そのうちに雨が降って水がだんだん深くなって、その人の胸まで来た。けれどもその人は約束を守って立っていた。そのうちに水はいよいよ深く …
読書目安時間:約1分
「ある人が橋の下で友達に会う約束をして待っていた。そのうちに雨が降って水がだんだん深くなって、その人の胸まで来た。けれどもその人は約束を守って立っていた。そのうちに水はいよいよ深く …
幽霊と推進機(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
元の日活会社長S・M氏といったら、その方面の古い関係者は大抵知っているであろう。娑婆の波風の中でも一番荒い処を渡って来た人で、現在は香港に居住して日本人の父M翁と呼ばれている。左記 …
読書目安時間:約24分
元の日活会社長S・M氏といったら、その方面の古い関係者は大抵知っているであろう。娑婆の波風の中でも一番荒い処を渡って来た人で、現在は香港に居住して日本人の父M翁と呼ばれている。左記 …
雪子さんの泥棒よけ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
夜中に雨戸のところでゴリゴリと音が始まりました。家中で雪子さんがたった一人眼をさまして、何だろうと思いました。鼠ではなく、どうしても人間が何かしているとしか思われませんでした。雪子 …
読書目安時間:約2分
夜中に雨戸のところでゴリゴリと音が始まりました。家中で雪子さんがたった一人眼をさまして、何だろうと思いました。鼠ではなく、どうしても人間が何かしているとしか思われませんでした。雪子 …
雪の塔(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
玉雄と照子は兄妹で毎日仲よく連れ立って、山を越えて向うの学校に通って、帰りも仲よく一所になって帰って来ました。 或る日、二人はいつもの通り学校から手を引き合って、唱歌をうたいながら …
読書目安時間:約11分
玉雄と照子は兄妹で毎日仲よく連れ立って、山を越えて向うの学校に通って、帰りも仲よく一所になって帰って来ました。 或る日、二人はいつもの通り学校から手を引き合って、唱歌をうたいながら …
謡曲黒白談(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
謡曲嫌いの事 世の中には謡曲嫌いと称する人が大層多くて、到る処謡曲の攻撃を為て廻わって、甚だしきに到っては謡曲亡国論なぞを唱える人がある。それ程でなくとも、謡曲が始まるとすぐにお尻 …
読書目安時間:約9分
謡曲嫌いの事 世の中には謡曲嫌いと称する人が大層多くて、到る処謡曲の攻撃を為て廻わって、甚だしきに到っては謡曲亡国論なぞを唱える人がある。それ程でなくとも、謡曲が始まるとすぐにお尻 …
猟奇歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
殺すくらゐ何でもない と思ひつゝ人ごみの中を 濶歩して行く ある名をば叮嚀に書き ていねいに抹殺をして 焼きすてる心 ある女の写真の眼玉にペン先の 赤いインキを 注射して見る この …
読書目安時間:約16分
殺すくらゐ何でもない と思ひつゝ人ごみの中を 濶歩して行く ある名をば叮嚀に書き ていねいに抹殺をして 焼きすてる心 ある女の写真の眼玉にペン先の 赤いインキを 注射して見る この …
良心・第一義(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
良心 財産を私有する勿れ 心念を私有する勿れ 汝の全霊を万有進化の流れと 共鳴一致せしめよ 常に無限なれ 万古に清朗なれ 良心は一切の本能が互いに統制し、自他の共鳴を完全にして、人 …
読書目安時間:約1分
良心 財産を私有する勿れ 心念を私有する勿れ 汝の全霊を万有進化の流れと 共鳴一致せしめよ 常に無限なれ 万古に清朗なれ 良心は一切の本能が互いに統制し、自他の共鳴を完全にして、人 …
涙香・ポー・それから(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
探偵小説作家なぞと呼ばれて返事を差出すのは、如何にも烏滸がましい気がして赤面します。けれども元来が探偵小説好きなのですから、ソウ呼ばれますと何がなしに嬉しいことも事実です。 ところ …
読書目安時間:約4分
探偵小説作家なぞと呼ばれて返事を差出すのは、如何にも烏滸がましい気がして赤面します。けれども元来が探偵小説好きなのですから、ソウ呼ばれますと何がなしに嬉しいことも事実です。 ところ …
ルルとミミ(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
むかし、ある国に、水晶のような水が一ぱいに光っている美しい湖がありまして、そのふちに一つの小さな村がありました。そこに住んでいる人たちは親切な人ばかりで、ほんとに楽しい村でした。 …
読書目安時間:約24分
むかし、ある国に、水晶のような水が一ぱいに光っている美しい湖がありまして、そのふちに一つの小さな村がありました。そこに住んでいる人たちは親切な人ばかりで、ほんとに楽しい村でした。 …
霊感!(新字新仮名)
読書目安時間:約46分
——これは外国のお話—— 「ゲーッ。ゲーッ。ガワガワガワガワガワ」 という嘔吐の声が、玄関の方から聞えて来た……と思う間もなく看護婦が、 「……先生……先生……急患です……」 と叫 …
読書目安時間:約46分
——これは外国のお話—— 「ゲーッ。ゲーッ。ガワガワガワガワガワ」 という嘔吐の声が、玄関の方から聞えて来た……と思う間もなく看護婦が、 「……先生……先生……急患です……」 と叫 …
老巡査(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
睦田老巡査はフト立ち止まって足下を見た。黄色い角燈の光りの輪の中に、何やらキラリと黄金色に光るものが落ちていたからであった。 老巡査は角燈を地べたに置いた。外套の頭巾を外して、シン …
読書目安時間:約17分
睦田老巡査はフト立ち止まって足下を見た。黄色い角燈の光りの輪の中に、何やらキラリと黄金色に光るものが落ちていたからであった。 老巡査は角燈を地べたに置いた。外套の頭巾を外して、シン …
路傍の木乃伊(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私は遠からず路傍の木乃伊になってしまいそうな気がする。口をポカンと開いた……眼の前の空間を凝視した……。 私は中学を卒業した切り上の学校に行かないが、その中学時代が小説の耽読時代で …
読書目安時間:約5分
私は遠からず路傍の木乃伊になってしまいそうな気がする。口をポカンと開いた……眼の前の空間を凝視した……。 私は中学を卒業した切り上の学校に行かないが、その中学時代が小説の耽読時代で …
若返り薬(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
太郎さんはお父さまから銀色にピカピカ光る空気銃を一梃頂きました。大喜びで毎日毎日雀を撃って歩きましたが、一匹も中りません。そのうちに弾丸が一発も無くなりました。 お父様に弾丸を買っ …
読書目安時間:約7分
太郎さんはお父さまから銀色にピカピカ光る空気銃を一梃頂きました。大喜びで毎日毎日雀を撃って歩きましたが、一匹も中りません。そのうちに弾丸が一発も無くなりました。 お父様に弾丸を買っ …
私の好きな読みもの(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
こんな事を書くと文学青年じみるが、事実文学青年の古手に相違ないのだから仕方がない。しかも五十近くになって頭の天辺がコッ禿げて来ているのに恋愛小説なんかアホらしくって読む気になれない …
読書目安時間:約4分
こんな事を書くと文学青年じみるが、事実文学青年の古手に相違ないのだから仕方がない。しかも五十近くになって頭の天辺がコッ禿げて来ているのに恋愛小説なんかアホらしくって読む気になれない …
笑う唖女(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
「キキキ……ケエケエケエ……キキキキッ」 形容の出来ない奇妙な声が、突然に聞こえて来たので、座敷中皆シンとなった。 それはこの上もない芽出度い座敷であった。 甘川家の奥座敷。十畳と …
読書目安時間:約32分
「キキキ……ケエケエケエ……キキキキッ」 形容の出来ない奇妙な声が、突然に聞こえて来たので、座敷中皆シンとなった。 それはこの上もない芽出度い座敷であった。 甘川家の奥座敷。十畳と …
“夢野久作”について
夢野 久作(ゆめの きゅうさく 1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日)は、日本の小説家。陸軍少尉、禅僧、新聞記者、郵便局長という経歴も持つ。幼名は直樹、出家名は杉山泰道(すぎやまやすみち)、禅僧としての名は雲水(うんすい)、号は萠圓、柳号は三八。
三大奇書の一つ『ドグラ・マグラ』をはじめ、田舎の風土を醸したホラー、怪奇幻想の色濃い作風で名高い。詩や短歌に長け『白髪小僧』中の神話、『猟奇歌』のなどに代表される。絵もよくし、初期には『九州日報』で童話や今でいう一コマ漫画を描いた。
父は政界の黒幕と呼ばれた玄洋社の杉山茂丸。長男はインド緑化の父と言われる杉山龍丸。三男は詩人の杉山参緑。「夢野久作と杉山三代研究会」の杉山満丸は孫。
1936年(昭和11年)3月11日脳溢血で死亡、享年47。
(出典:Wikipedia)
三大奇書の一つ『ドグラ・マグラ』をはじめ、田舎の風土を醸したホラー、怪奇幻想の色濃い作風で名高い。詩や短歌に長け『白髪小僧』中の神話、『猟奇歌』のなどに代表される。絵もよくし、初期には『九州日報』で童話や今でいう一コマ漫画を描いた。
父は政界の黒幕と呼ばれた玄洋社の杉山茂丸。長男はインド緑化の父と言われる杉山龍丸。三男は詩人の杉山参緑。「夢野久作と杉山三代研究会」の杉山満丸は孫。
1936年(昭和11年)3月11日脳溢血で死亡、享年47。
(出典:Wikipedia)
“夢野久作”と年代が近い著者
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