室生犀星
1889.08.01 〜 1962.03.26
“室生犀星”に特徴的な語句
声音
仰
嬉
彼
袿
襲
斯様
巫山戯
逢
瞼
心算
左
蔀
憩
此処
仰有
昂
乞
些
奴
簀
勿体
何時
遣
応
冴
対手
対
点
面
迅
柔
磧
咎
傷
羅
呼吸
何処
吃驚
一
凡
惘
夥
呟
羞
掠
隔
趁
馳
匂
著者としての作品一覧
愛の詩集:03 愛の詩集(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間11分
みまかりたまひし父上におくる いまは天にいまさむうつくしき微笑いま われに映りて、我が眉みそらに昂る……。 私の室に一冊のよごれたバイブルがある。椅子につかふ厚織更紗で表紙をつけて …
読書目安時間:約1時間11分
みまかりたまひし父上におくる いまは天にいまさむうつくしき微笑いま われに映りて、我が眉みそらに昂る……。 私の室に一冊のよごれたバイブルがある。椅子につかふ厚織更紗で表紙をつけて …
蒼白き巣窟(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間30分
私はいつも其處の路次へ這入ると、あちこちの暗い穴のやうな通り拔けや、墨汁のやうな泥寧の小路から吐き出される種々な階級の人々を見た。職工、學生、安官吏、または異體の知れない樣々な人々 …
読書目安時間:約1時間30分
私はいつも其處の路次へ這入ると、あちこちの暗い穴のやうな通り拔けや、墨汁のやうな泥寧の小路から吐き出される種々な階級の人々を見た。職工、學生、安官吏、または異體の知れない樣々な人々 …
芥川の原稿(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
まだそんなに親しい方ではなく、多分三度目くらいに訪ねた或日、芥川の書斎には先客があった。先客はどこかの雑誌の記者らしく、芥川に原稿の強要をしていたのだが、芥川は中央公論にも書かなけ …
読書目安時間:約5分
まだそんなに親しい方ではなく、多分三度目くらいに訪ねた或日、芥川の書斎には先客があった。先客はどこかの雑誌の記者らしく、芥川に原稿の強要をしていたのだが、芥川は中央公論にも書かなけ …
あじゃり(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
下野富田の村の菊世という女は、快庵禅師にその時の容子を話して聞かした。 「わたくしが峯のお寺へ詣るのは、ひと年に二度ばかりでございます。春早く雪が消えるころと、秋の終りころとでござ …
読書目安時間:約23分
下野富田の村の菊世という女は、快庵禅師にその時の容子を話して聞かした。 「わたくしが峯のお寺へ詣るのは、ひと年に二度ばかりでございます。春早く雪が消えるころと、秋の終りころとでござ …
或る少女の死まで(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間27分
大正八年十一月 遠いところで私を呼ぶ声がするので、ふと眼をさますと、枕もとに宿のおかみが立っていた。それを見ながら私はまたうとうとと深い睡りに落ちかかった。 「是非会わなければなら …
読書目安時間:約1時間27分
大正八年十一月 遠いところで私を呼ぶ声がするので、ふと眼をさますと、枕もとに宿のおかみが立っていた。それを見ながら私はまたうとうとと深い睡りに落ちかかった。 「是非会わなければなら …
命(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
お咲は庖丁をとぎ、淺吉は屋根の上をつたひながら揷し茅を施してゐる。 一萬戸ある金岩の町は、火見櫓をまんなかに抱いて、吼える日本海のぎりぎりまで町裾を捌いてゐる。春寒い曇天はきたない …
読書目安時間:約29分
お咲は庖丁をとぎ、淺吉は屋根の上をつたひながら揷し茅を施してゐる。 一萬戸ある金岩の町は、火見櫓をまんなかに抱いて、吼える日本海のぎりぎりまで町裾を捌いてゐる。春寒い曇天はきたない …
老いたるえびのうた(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
けふはえびのように悲しい 角やらひげやら とげやら一杯生やしてゐるが どれが悲しがつてゐるのか判らない。 ひげにたづねて見れば おれではないといふ。 尖つたとげに聞いて見たら わし …
読書目安時間:約1分
けふはえびのように悲しい 角やらひげやら とげやら一杯生やしてゐるが どれが悲しがつてゐるのか判らない。 ひげにたづねて見れば おれではないといふ。 尖つたとげに聞いて見たら わし …
荻吹く歌(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
あしからじとてこそ人の別れけめ 何かなにはの浦はすみうき大和物語 寝についてもいうことは何時もただ一つ、京にのぼり宮仕して一身を立てなおすことであった。練色の綾の袿を取り出しては撫 …
読書目安時間:約22分
あしからじとてこそ人の別れけめ 何かなにはの浦はすみうき大和物語 寝についてもいうことは何時もただ一つ、京にのぼり宮仕して一身を立てなおすことであった。練色の綾の袿を取り出しては撫 …
お小姓児太郎(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
髪結弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児小姓児太郎の朝髪のみだれを撫でつけていた。快よい髪弄りで睡不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝がしらを暖める日ざしに誘われ …
読書目安時間:約15分
髪結弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児小姓児太郎の朝髪のみだれを撫でつけていた。快よい髪弄りで睡不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝がしらを暖める日ざしに誘われ …
音楽時計(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
階下では晩にさえなると、音楽時計が鳴りはじめた。ばらばらな音いろではあるが、静かにきいていると不思議に全てがつながれ合った一つの唱歌をつづり合してきこえた。昨日も今夜も、毎日それが …
読書目安時間:約10分
階下では晩にさえなると、音楽時計が鳴りはじめた。ばらばらな音いろではあるが、静かにきいていると不思議に全てがつながれ合った一つの唱歌をつづり合してきこえた。昨日も今夜も、毎日それが …
蛾(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
お川師堀武三郎の留守宅では、ちょうど四十九日の法事の読経も終って、湯葉や精進刺身のさかなで、もう坊さんが帰ってから小一時間も経ってからのことであった。表の潜り戸が軋むので、女房が立 …
読書目安時間:約18分
お川師堀武三郎の留守宅では、ちょうど四十九日の法事の読経も終って、湯葉や精進刺身のさかなで、もう坊さんが帰ってから小一時間も経ってからのことであった。表の潜り戸が軋むので、女房が立 …
懸巣(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
何時か懸巣のことを本紙で書いたことがあるが、その後の彼女の真似声は一層種々につかい分けをして、殆ど、かぞえ切れないくらいである。懸巣から見ると人間の声ほど珍しいものがないらしい、大 …
読書目安時間:約3分
何時か懸巣のことを本紙で書いたことがあるが、その後の彼女の真似声は一層種々につかい分けをして、殆ど、かぞえ切れないくらいである。懸巣から見ると人間の声ほど珍しいものがないらしい、大 …
神のない子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約23分
ミツは雨戸に鍵をかけて出かけたが、その前に勘三も仕事に出かけた。 あん子は晝まで表に出て、土橋の石に日の當る光の加減を見て、母親が食事の用意に歸つて來るすがたを、町端れから、町の方 …
読書目安時間:約23分
ミツは雨戸に鍵をかけて出かけたが、その前に勘三も仕事に出かけた。 あん子は晝まで表に出て、土橋の石に日の當る光の加減を見て、母親が食事の用意に歸つて來るすがたを、町端れから、町の方 …
冠松次郎氏におくる詩(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
劔岳、冠松、ウジ長、熊のアシアト、雪渓、前劔 粉ダイヤと星、凍つた藍の山々、冠松、ヤホー、ヤホー、 廊下を下がる蜘蛛と人間、 冠松は廊下のヒダで自分のシワを作つた。 冠松の皮膚、皮 …
読書目安時間:約1分
劔岳、冠松、ウジ長、熊のアシアト、雪渓、前劔 粉ダイヤと星、凍つた藍の山々、冠松、ヤホー、ヤホー、 廊下を下がる蜘蛛と人間、 冠松は廊下のヒダで自分のシワを作つた。 冠松の皮膚、皮 …
汽車で逢つた女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約17分
二丁目六十九番地といふのは、二軒の家を三軒にわけたやうな、入口にすぐ階段があつて、二階が上り口の四疊半から見上げられる位置にあつた。打木田が突立つて、戸越まさ子といふんですがと女の …
読書目安時間:約17分
二丁目六十九番地といふのは、二軒の家を三軒にわけたやうな、入口にすぐ階段があつて、二階が上り口の四疊半から見上げられる位置にあつた。打木田が突立つて、戸越まさ子といふんですがと女の …
螽蟖の記(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
きりぎりすは夜明けの四時になると鳴き止む。部屋のなかに籠を置いて雨戸を閉めてあっても、四時になるとぱったり静かになる。なぜかというと、四時には明け方の微かな明りが漂いはじめるからだ …
読書目安時間:約8分
きりぎりすは夜明けの四時になると鳴き止む。部屋のなかに籠を置いて雨戸を閉めてあっても、四時になるとぱったり静かになる。なぜかというと、四時には明け方の微かな明りが漂いはじめるからだ …
京洛日記(旧字旧仮名)
読書目安時間:約46分
十年前に金澤にゐて京都の寺を見に出かけようとして、芥川龍之介君に手紙を出してその話をすると、簡單な京案内のやうなものを書いて呉れた。文庫からその手紙を取り出して見ると卷紙一間くらゐ …
読書目安時間:約46分
十年前に金澤にゐて京都の寺を見に出かけようとして、芥川龍之介君に手紙を出してその話をすると、簡單な京案内のやうなものを書いて呉れた。文庫からその手紙を取り出して見ると卷紙一間くらゐ …
幻影の都市(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
かれは時には悩ましげな呉服店の広告画に描かれた殆ど普通の女と同じいくらいの、円い女の肉顔を人人が寝静まったころを見計って壁に吊るしたりしながら、飽くこともなく凝視めるか、そうでなけ …
読書目安時間:約55分
かれは時には悩ましげな呉服店の広告画に描かれた殆ど普通の女と同じいくらいの、円い女の肉顔を人人が寝静まったころを見計って壁に吊るしたりしながら、飽くこともなく凝視めるか、そうでなけ …
交友録より(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
二十年の友。性格、趣味、生活、一つとして一致しないが、会へば談論風発して愉快である。それに僕といふ人間を丁寧に考へてゐて何時も新しい犀星論をしてくれるが、萩原自身からいふと室生はお …
読書目安時間:約3分
二十年の友。性格、趣味、生活、一つとして一致しないが、会へば談論風発して愉快である。それに僕といふ人間を丁寧に考へてゐて何時も新しい犀星論をしてくれるが、萩原自身からいふと室生はお …
香爐を盗む(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
男が出かけようとすると、何時の間にか女が音もなく玄関に立っていて、茶色の帽子をさし出した。男はそれを手にとると格子をあけて出て行った。女はしばらくぼんやり立っていたが、間もなく長火 …
読書目安時間:約41分
男が出かけようとすると、何時の間にか女が音もなく玄関に立っていて、茶色の帽子をさし出した。男はそれを手にとると格子をあけて出て行った。女はしばらくぼんやり立っていたが、間もなく長火 …
故郷を辞す(新字旧仮名)
読書目安時間:約30分
家のものが留守なんで一人で風呂の水汲をして、火を焚きつけいい塩梅にからだに温かさを感じた。そして座敷に坐り込んで熱い茶を一杯飲んだが、庭さきの空を染める赤蜻蛉の群をながめながら常に …
読書目安時間:約30分
家のものが留守なんで一人で風呂の水汲をして、火を焚きつけいい塩梅にからだに温かさを感じた。そして座敷に坐り込んで熱い茶を一杯飲んだが、庭さきの空を染める赤蜻蛉の群をながめながら常に …
寂しき魚(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
それは古い沼で、川尻からつづいて蒼くどんよりとしていた上に、葦やよしがところどころに暗いまでに繁っていました。沼の水はときどき静かな波を風のまにまに湛えるほかは、しんとして、きみの …
読書目安時間:約10分
それは古い沼で、川尻からつづいて蒼くどんよりとしていた上に、葦やよしがところどころに暗いまでに繁っていました。沼の水はときどき静かな波を風のまにまに湛えるほかは、しんとして、きみの …
ザボンの実る木のもとに(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
女の童に就いて。 女の童に就いて私はいつも限りない愛しい心の立ち帰ることを感じます。 女の童についておもひ出すことは大きな新緑のかたまりのやうなあたらしさであります。 女の童といろ …
読書目安時間:約8分
女の童に就いて。 女の童に就いて私はいつも限りない愛しい心の立ち帰ることを感じます。 女の童についておもひ出すことは大きな新緑のかたまりのやうなあたらしさであります。 女の童といろ …
三階の家(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
三階の家は坂の中程にあった。向う側は古い禅寺の杉の立木が道路の上へ覆いかかり、煉瓦造りの便所の上まで枝を垂れていた。こんな坂の中途に便所がどうして建っているのか。一寸不思議な気がす …
読書目安時間:約23分
三階の家は坂の中程にあった。向う側は古い禅寺の杉の立木が道路の上へ覆いかかり、煉瓦造りの便所の上まで枝を垂れていた。こんな坂の中途に便所がどうして建っているのか。一寸不思議な気がす …
舌を噛み切った女:またはすて姫(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
京にのぼる供は二十人くらい、虫の垂衣で蔽うた馬上の女のすがたは、遠目にも朝涼の中で清艶を極めたものであった。袴野ノ麿を真中に十人の荒くれ男が峠路にかかる供ぞろいの一行を、しんとして …
読書目安時間:約24分
京にのぼる供は二十人くらい、虫の垂衣で蔽うた馬上の女のすがたは、遠目にも朝涼の中で清艶を極めたものであった。袴野ノ麿を真中に十人の荒くれ男が峠路にかかる供ぞろいの一行を、しんとして …
しゃりこうべ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
電燈の下にいつでも座っているものは誰だろう、——いつだって、どういう時だって、まじまじと瞬きもしないでそれの光を眺めているか、もしくはその光を肩から腰へかけて受けているかして、そう …
読書目安時間:約8分
電燈の下にいつでも座っているものは誰だろう、——いつだって、どういう時だって、まじまじと瞬きもしないでそれの光を眺めているか、もしくはその光を肩から腰へかけて受けているかして、そう …
純情小曲集:01 珍らしいものをかくしてゐる人への序文(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
萩原の今ゐる二階家から本郷動坂あたりの町家の屋根が見え、木立を透いて赤い色の三角形の支那風な旗が、いつも行くごとに閃めいて見えた。このごろ木立の若葉が茂り合つたので風でも吹いて樹や …
読書目安時間:約1分
萩原の今ゐる二階家から本郷動坂あたりの町家の屋根が見え、木立を透いて赤い色の三角形の支那風な旗が、いつも行くごとに閃めいて見えた。このごろ木立の若葉が茂り合つたので風でも吹いて樹や …
生涯の垣根(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
庭というものも、行きつくところに行きつけば、見たいものは整えられた土と垣根だけであった。こんな見方がここ十年ばかり彼の頭を領していた。樹木をすくなく石もすくなく、そしてそこによく人 …
読書目安時間:約23分
庭というものも、行きつくところに行きつけば、見たいものは整えられた土と垣根だけであった。こんな見方がここ十年ばかり彼の頭を領していた。樹木をすくなく石もすくなく、そしてそこによく人 …
抒情小曲集:04 抒情小曲集(新字旧仮名)
読書目安時間:約30分
芽がつつ立つ ナイフのやうな芽が たつた一本 すつきりと蒼空につつ立つ 抒情詩の精神には音楽が有つ微妙な恍惚と情熱とがこもつてゐて人心に囁く。よい音楽をきいたあとの何者にも経験され …
読書目安時間:約30分
芽がつつ立つ ナイフのやうな芽が たつた一本 すつきりと蒼空につつ立つ 抒情詩の精神には音楽が有つ微妙な恍惚と情熱とがこもつてゐて人心に囁く。よい音楽をきいたあとの何者にも経験され …
末野女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
一人の吃りの男に、道順を尋ねる二人づれの男がゐて、道すぢのことで、三人が烈しく吃り合ひながら、あちらの道を曲るのだとか、こちらの小路からはいつて行くのだとか言つて、ちんぷん、かんぷ …
読書目安時間:約28分
一人の吃りの男に、道順を尋ねる二人づれの男がゐて、道すぢのことで、三人が烈しく吃り合ひながら、あちらの道を曲るのだとか、こちらの小路からはいつて行くのだとか言つて、ちんぷん、かんぷ …
聖三稜玻璃:01 聖ぷりずみすとに与ふ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
尊兄の詩篇に鋭角な玻璃状韻律を發見したのは極めて最近である。其あるものに至つては手足を切るやうな刄物を持つてゐる。それは曾ての日本の詩人に比例なき新鮮なる景情を創つた。たとへば湧き …
読書目安時間:約3分
尊兄の詩篇に鋭角な玻璃状韻律を發見したのは極めて最近である。其あるものに至つては手足を切るやうな刄物を持つてゐる。それは曾ての日本の詩人に比例なき新鮮なる景情を創つた。たとへば湧き …
性に眼覚める頃(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間20分
大正八年十月 私は七十に近い父と一しょに、寂しい寺領の奥の院で自由に暮した。そのとき、もう私は十七になっていた。 父は茶が好きであった。奥庭を覆うている欅の新しい若葉の影が、湿った …
読書目安時間:約1時間20分
大正八年十月 私は七十に近い父と一しょに、寂しい寺領の奥の院で自由に暮した。そのとき、もう私は十七になっていた。 父は茶が好きであった。奥庭を覆うている欅の新しい若葉の影が、湿った …
聖ぷりずみすとに与う(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
尊兄の詩篇に鋭角な玻璃状韻律を発見したのは極めて最近である。其あるものに至っては手足を切るような刃物を持っている。それは曾ての日本の詩人に比例なき新鮮なる景情を創った。たとえば湧き …
読書目安時間:約3分
尊兄の詩篇に鋭角な玻璃状韻律を発見したのは極めて最近である。其あるものに至っては手足を切るような刃物を持っている。それは曾ての日本の詩人に比例なき新鮮なる景情を創った。たとえば湧き …
玉章(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
故郷にて保則様、十一月二十三日の御他界から百日の間、都に通じる松並木の道を毎夜参りますうちに、冬は過ぎ春がおとずれ、いまでは、もう、松の花の気はいがするようになりました。御身さまも …
読書目安時間:約17分
故郷にて保則様、十一月二十三日の御他界から百日の間、都に通じる松並木の道を毎夜参りますうちに、冬は過ぎ春がおとずれ、いまでは、もう、松の花の気はいがするようになりました。御身さまも …
巷の子(旧字旧仮名)
読書目安時間:約24分
西洋封筒の手紙が一通他の郵便物に混じりこんでゐて、開いて見ると、わたくしはあなたのお作品が好きで大概の物は逃がさずに讀んでゐるが、好きといふことは作者の文章のくせのやうなものに、親 …
読書目安時間:約24分
西洋封筒の手紙が一通他の郵便物に混じりこんでゐて、開いて見ると、わたくしはあなたのお作品が好きで大概の物は逃がさずに讀んでゐるが、好きといふことは作者の文章のくせのやうなものに、親 …
津の国人(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間7分
あらたまの年の三年を待ちわびて ただ今宵こそにひまくらすれ 津の国兎原の山下に小さい家を作って住んでいた彼に、やっと宮仕えする便りが訪ずれた。僅かの給与ではあったが、畑づくりでやっ …
読書目安時間:約1時間7分
あらたまの年の三年を待ちわびて ただ今宵こそにひまくらすれ 津の国兎原の山下に小さい家を作って住んでいた彼に、やっと宮仕えする便りが訪ずれた。僅かの給与ではあったが、畑づくりでやっ …
「鶴」と百間先生(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
このごろ私の随筆集が出たので出版元から是非内田百間さんに批評風な紹介を書いて貰ひたいと頼むと、内田さんは以前室生さんがあまり褒めて呉れたので、改めて褒め返すことが変だといふ理由で控 …
読書目安時間:約3分
このごろ私の随筆集が出たので出版元から是非内田百間さんに批評風な紹介を書いて貰ひたいと頼むと、内田さんは以前室生さんがあまり褒めて呉れたので、改めて褒め返すことが変だといふ理由で控 …
鉄の死(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
虎の子に似てゐたブルドツクの子どもは、鉄といひ、鉄ちやんと呼ばれてゐた。のそのそと物ぐささうに歩いて嬉しいときは何時も一声だけ吼えた。 鉄は、もう一頭ゐるゴリといふ土佐ブルと時々格 …
読書目安時間:約9分
虎の子に似てゐたブルドツクの子どもは、鉄といひ、鉄ちやんと呼ばれてゐた。のそのそと物ぐささうに歩いて嬉しいときは何時も一声だけ吼えた。 鉄は、もう一頭ゐるゴリといふ土佐ブルと時々格 …
天狗(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓ずいたような気がすると …
読書目安時間:約8分
城下の町なみは、古い樹木に囲まれていたため、よく、小間使いや女中、火の見仲間などが、夕方近い、うす暗がりのなかで、膝がしらを斬られた。何か小石のようなものに躓ずいたような気がすると …
陶古の女人(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
きょうも鬱々としてまた愉しく、何度も置きかえ、置く場所をえらび、光線の来るところに誘われて運び、或いはどうしても一個の形態でさだまらない場合、二つあてを捉え、二つの壺が相伴われて置 …
読書目安時間:約24分
きょうも鬱々としてまた愉しく、何度も置きかえ、置く場所をえらび、光線の来るところに誘われて運び、或いはどうしても一個の形態でさだまらない場合、二つあてを捉え、二つの壺が相伴われて置 …
童子(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間5分
母親に脚気があるので母乳はいっさい飲まさぬことにした。脂肪の多い妻は生ぬるい白い乳をしぼっては、張ってくると肩が凝ってならないと言って、陶物にしぼり込んでは棄てていた。少しくらいな …
読書目安時間:約1時間5分
母親に脚気があるので母乳はいっさい飲まさぬことにした。脂肪の多い妻は生ぬるい白い乳をしぼっては、張ってくると肩が凝ってならないと言って、陶物にしぼり込んでは棄てていた。少しくらいな …
童話(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「お姉さま、——」 小さい弟は何時の間にか川べりの石段の上に腰をかけ、目高をすくっている姉に声をかけた。 「お前、いつの間に来たの、こちらへ来ると危ないわよ、わたしすぐ足をふいて行 …
読書目安時間:約24分
「お姉さま、——」 小さい弟は何時の間にか川べりの石段の上に腰をかけ、目高をすくっている姉に声をかけた。 「お前、いつの間に来たの、こちらへ来ると危ないわよ、わたしすぐ足をふいて行 …
とかげ(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
わたしの今住んでいるところは、川原につづいた貸家で庭には樹も草もない。眩しい日かげに打たれた砂利ばかりである。だから滅多に庭へは出ない。ただよくとかげが這うている。飴色の肌をしてい …
読書目安時間:約6分
わたしの今住んでいるところは、川原につづいた貸家で庭には樹も草もない。眩しい日かげに打たれた砂利ばかりである。だから滅多に庭へは出ない。ただよくとかげが這うている。飴色の肌をしてい …
渚(旧字旧仮名)
読書目安時間:約32分
齒醫者への出がけに、ななえが來た。 鮒の子を持つて來たんですけれど、池ん中に手網を入れてすくつて見ても、すぐ水が濁つてしまつて鮒の子がどこにゐるのか、判んなくなつちやつたと言ひ、ビ …
読書目安時間:約32分
齒醫者への出がけに、ななえが來た。 鮒の子を持つて來たんですけれど、池ん中に手網を入れてすくつて見ても、すぐ水が濁つてしまつて鮒の子がどこにゐるのか、判んなくなつちやつたと言ひ、ビ …
日本の庭(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
純日本的な美しさの最も高いものは庭である。庭にはその知恵をうずめ、教養を匿して上に土を置いて誰にもわからぬようにしている。遠州や夢窓国師なぞは庭の学者であった。そうでない名もない庭 …
読書目安時間:約5分
純日本的な美しさの最も高いものは庭である。庭にはその知恵をうずめ、教養を匿して上に土を置いて誰にもわからぬようにしている。遠州や夢窓国師なぞは庭の学者であった。そうでない名もない庭 …
庭をつくる人(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
つれづれ草に水は浅いほどよいと書いてある。わたくしは子供のころは大概うしろの川の磧で暮した。河原の中にも流れとは別な清水が湧いていて、そこを掘り捌いて小さいながれをわたくしは毎日作 …
読書目安時間:約19分
つれづれ草に水は浅いほどよいと書いてある。わたくしは子供のころは大概うしろの川の磧で暮した。河原の中にも流れとは別な清水が湧いていて、そこを掘り捌いて小さいながれをわたくしは毎日作 …
後の日の童子(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
夕方になると、一人の童子が門の前の、表札の剥げ落ちた文字を読み上げていた。植込みを隔てて、そのくろぐろした小さい影のある姿が、まだ光を出さぬ電燈の下に、裾すぼがりの悄然とした陰影を …
読書目安時間:約32分
夕方になると、一人の童子が門の前の、表札の剥げ落ちた文字を読み上げていた。植込みを隔てて、そのくろぐろした小さい影のある姿が、まだ光を出さぬ電燈の下に、裾すぼがりの悄然とした陰影を …
野に臥す者(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
経之の母御は朝のあいさつを交したあとに、ふしぎそうな面持でいった。 「ゆうべそなたは庭をわたって行かれたように覚えるが。」 「いえ、さようなことはございませぬ。誰かをご覧じましたか …
読書目安時間:約26分
経之の母御は朝のあいさつを交したあとに、ふしぎそうな面持でいった。 「ゆうべそなたは庭をわたって行かれたように覚えるが。」 「いえ、さようなことはございませぬ。誰かをご覧じましたか …
俳句は老人文学ではない(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
萩原朔太郎君がいつか「詩に別れた室生君へ」と題した僕に宛てた感想文のなかに、特に俳句が老年者の文学であつて恰も若い溌溂とした文学作品でないことを述べてあつたが、僕はこれを萩原君に答 …
読書目安時間:約14分
萩原朔太郎君がいつか「詩に別れた室生君へ」と題した僕に宛てた感想文のなかに、特に俳句が老年者の文学であつて恰も若い溌溂とした文学作品でないことを述べてあつたが、僕はこれを萩原君に答 …
花桐(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
女が年上であるということが、女を悲しがらせ遠慮がちにならせる。時にはどういう男の無理も通させるようにするものである。花桐が年上であるだけに持彦は一層打ちこみ方が夢中であったし、女に …
読書目安時間:約22分
女が年上であるということが、女を悲しがらせ遠慮がちにならせる。時にはどういう男の無理も通させるようにするものである。花桐が年上であるだけに持彦は一層打ちこみ方が夢中であったし、女に …
はるあはれ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約38分
むかし男がゐた。むかしと云つても、五年前もむかしなら、十年前の事もむかしであつた。その男はうたを作り、それを紙に書いて市で賣つてたつきの代にかへてゐた。うたは大してうまくなかつたが …
読書目安時間:約38分
むかし男がゐた。むかしと云つても、五年前もむかしなら、十年前の事もむかしであつた。その男はうたを作り、それを紙に書いて市で賣つてたつきの代にかへてゐた。うたは大してうまくなかつたが …
ヒッポドロム(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
曇天の灰白い天幕が三角型に、煉瓦の塔の際に、これも又曇った雪ぞらのように真寂しく張られてあった、風の激しい日で、風を胎んだ天幕の脚が、吹き上げられ、陰気な鳴りかぜが耳もとを掠めた、 …
読書目安時間:約12分
曇天の灰白い天幕が三角型に、煉瓦の塔の際に、これも又曇った雪ぞらのように真寂しく張られてあった、風の激しい日で、風を胎んだ天幕の脚が、吹き上げられ、陰気な鳴りかぜが耳もとを掠めた、 …
人真似鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
懸巣は猛鳥で肉食鳥であるが、時々、爪を剪ってやるために籠から掴み出さなければならぬ。からだを掴まれることを厭がりあれ程狎れていても、嘴で確かりと咬み付く、咬みつくとブルドッグのよう …
読書目安時間:約3分
懸巣は猛鳥で肉食鳥であるが、時々、爪を剪ってやるために籠から掴み出さなければならぬ。からだを掴まれることを厭がりあれ程狎れていても、嘴で確かりと咬み付く、咬みつくとブルドッグのよう …
姫たちばな(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
はじめのほどは橘も何か嬉しかった。なにごともないおとめの日とちがい、日ごとにふえるような一日という日が今までにくらべ自分のためにつくられていることを、そして生きた一日として迎えるこ …
読書目安時間:約39分
はじめのほどは橘も何か嬉しかった。なにごともないおとめの日とちがい、日ごとにふえるような一日という日が今までにくらべ自分のためにつくられていることを、そして生きた一日として迎えるこ …
笛と太鼓(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
子供ができてから半年ほど経つと、国の母から小包がとどき、ひらいてみると、小さい太鼓と笛とが入つてあつた。太鼓には六十銭といふ赤縁の正札が貼られたままあつた。巴の紋のついた皮張りで、 …
読書目安時間:約2分
子供ができてから半年ほど経つと、国の母から小包がとどき、ひらいてみると、小さい太鼓と笛とが入つてあつた。太鼓には六十銭といふ赤縁の正札が貼られたままあつた。巴の紋のついた皮張りで、 …
不思議な国の話(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
そのころ私は不思議なこころもちで、毎朝ぼんやりその山を眺めていたのです。それは私の市街から五里ばかり隔った医王山という山です。春は、いつの間にか紫ぐんだ優しい色でつつまれ、斑ら牛の …
読書目安時間:約14分
そのころ私は不思議なこころもちで、毎朝ぼんやりその山を眺めていたのです。それは私の市街から五里ばかり隔った医王山という山です。春は、いつの間にか紫ぐんだ優しい色でつつまれ、斑ら牛の …
不思議な魚(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
漁師の子息の李一は、ある秋の日の暮れに町のある都へ書物を買いに出掛けました。李一は作文と数学の本を包んで本屋を出たのは、日の暮れでもまだ明るい内だったのです。 その時、反対の町から …
読書目安時間:約10分
漁師の子息の李一は、ある秋の日の暮れに町のある都へ書物を買いに出掛けました。李一は作文と数学の本を包んで本屋を出たのは、日の暮れでもまだ明るい内だったのです。 その時、反対の町から …
ふたりのおばさん(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
子どものくせにどうしてタカダのおばさんの家に、たびたび遊びに行ったかといえば、それはおばさんが話しぶりもやさしく子どものいやがるようなことをいわないからであった。子どものいやがるこ …
読書目安時間:約10分
子どものくせにどうしてタカダのおばさんの家に、たびたび遊びに行ったかといえば、それはおばさんが話しぶりもやさしく子どものいやがるようなことをいわないからであった。子どものいやがるこ …
冬の庭(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
冬になると庭を眺める時がすくない。霜で荒れた土の上に箒をあてるといふわけにゆかないから、秋晩くに手入れを充分にして置かなければならない。この手入れさへ怠らなかつたら冬ぢゆうそのまま …
読書目安時間:約6分
冬になると庭を眺める時がすくない。霜で荒れた土の上に箒をあてるといふわけにゆかないから、秋晩くに手入れを充分にして置かなければならない。この手入れさへ怠らなかつたら冬ぢゆうそのまま …
忘春詩集:02 忘春詩集(新字旧仮名)
読書目安時間:約26分
佐藤惣之助兄におくる この詩集がはしなく忘春と名づけられたのも、今から考へると何となく相応しいやうな気がする。さまざまな大切なものを忘れて来たやうで、さて気がついて振り返つて見ても …
読書目安時間:約26分
佐藤惣之助兄におくる この詩集がはしなく忘春と名づけられたのも、今から考へると何となく相応しいやうな気がする。さまざまな大切なものを忘れて来たやうで、さて気がついて振り返つて見ても …
星より来れる者(旧字旧仮名)
読書目安時間:約40分
このごろ詩はぽつりぽつりとしかできない。一時のやうに、さうたやすく書けなくなつたかはり、書くときはすらりと出てくる。それが詩の本統かもしれない。詩を書き出して十年になるが、やはり古 …
読書目安時間:約40分
このごろ詩はぽつりぽつりとしかできない。一時のやうに、さうたやすく書けなくなつたかはり、書くときはすらりと出てくる。それが詩の本統かもしれない。詩を書き出して十年になるが、やはり古 …
鞄(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
朝の九時に鐵のくぐりを出た打木田は、それでも、しばらく立つて誰か迎へに來てゐるだらうかと、あちこち見𢌞したが、やはりさとえは來てゐなかつた。外にも出る者がゐるらしく、差入屋の入口に …
読書目安時間:約25分
朝の九時に鐵のくぐりを出た打木田は、それでも、しばらく立つて誰か迎へに來てゐるだらうかと、あちこち見𢌞したが、やはりさとえは來てゐなかつた。外にも出る者がゐるらしく、差入屋の入口に …
帆の世界(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
私は女の裸體といふものをつねに怖れた。これは私のまはりに何時も不意に現はれては、わづかな時間のあひだに或ひは消え、そして見えなくなつた。その後で私はその怖れと驚きについて、詳しくど …
読書目安時間:約29分
私は女の裸體といふものをつねに怖れた。これは私のまはりに何時も不意に現はれては、わづかな時間のあひだに或ひは消え、そして見えなくなつた。その後で私はその怖れと驚きについて、詳しくど …
みずうみ(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
これは何となく人間の老境にかんじられるものを童話でも小説でも散文でもない姿であらわそうとしたものである。—— 舟のへさきに白い小鳥が一羽、静かに翼を憩めて止っている。——その影は冴 …
読書目安時間:約36分
これは何となく人間の老境にかんじられるものを童話でも小説でも散文でもない姿であらわそうとしたものである。—— 舟のへさきに白い小鳥が一羽、静かに翼を憩めて止っている。——その影は冴 …
蜜のあわれ(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間37分
「おじさま、お早うございます。」 「あ、お早う、好いご機嫌らしいね。」 「こんなよいお天気なのに、誰だって機嫌好くしていなきゃ悪いわ、おじさまも、さばさばしたお顔でいらっしゃる。」 …
読書目安時間:約2時間37分
「おじさま、お早うございます。」 「あ、お早う、好いご機嫌らしいね。」 「こんなよいお天気なのに、誰だって機嫌好くしていなきゃ悪いわ、おじさまも、さばさばしたお顔でいらっしゃる。」 …
名園の落水(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
曇つた十月の或る日。 いつか見て置きたいと思つてゐた前田の家老であつた本多さんの庭を見に行つた。誰かに紹介をして貰ふつもりだつたが、それよりも直接にお庭拝見といふふうに名刺を通じた …
読書目安時間:約8分
曇つた十月の或る日。 いつか見て置きたいと思つてゐた前田の家老であつた本多さんの庭を見に行つた。誰かに紹介をして貰ふつもりだつたが、それよりも直接にお庭拝見といふふうに名刺を通じた …
めたん子伝(旧字旧仮名)
読書目安時間:約28分
めたん子はしぜん町の片側に寄り切られ、皮紐とか棒切れとかで、肩先や手で小突かれ、惡い日は馬ふんを蹶とばして、ぶつかけられてゐた。めたん子は抵抗する氣が全然失せてゐて、對手をちよつと …
読書目安時間:約28分
めたん子はしぜん町の片側に寄り切られ、皮紐とか棒切れとかで、肩先や手で小突かれ、惡い日は馬ふんを蹶とばして、ぶつかけられてゐた。めたん子は抵抗する氣が全然失せてゐて、對手をちよつと …
ゆめの話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
むかし加賀百万石の城下に、長町という武士町がありました。樹が屋敷をつつんで昼でもうす暗い寂しい町です。そこに浅井多門という武士がありました。ある晩のこと、友だちのところで遊んで遅く …
読書目安時間:約7分
むかし加賀百万石の城下に、長町という武士町がありました。樹が屋敷をつつんで昼でもうす暗い寂しい町です。そこに浅井多門という武士がありました。ある晩のこと、友だちのところで遊んで遅く …
幼年時代(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間3分
大正八年八月 私はよく実家へ遊びに行った。実家はすぐ裏町の奥まった広い果樹園にとり囲まれた小ぢんまりした家であった。そこは玄関に槍が懸けてあって檜の重い四枚の戸があった。父はもう六 …
読書目安時間:約1時間3分
大正八年八月 私はよく実家へ遊びに行った。実家はすぐ裏町の奥まった広い果樹園にとり囲まれた小ぢんまりした家であった。そこは玄関に槍が懸けてあって檜の重い四枚の戸があった。父はもう六 …
洋灯はくらいか明るいか(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
新橋駅に降りた私はちいさな風呂敷包と、一本のさくらの洋杖を持つたきりであつた。風呂敷包のなかには書きためた詩と、あたらしい原稿紙の幾帖かがあるきり、外に荷物なぞはなく、ぶらりと歩廊 …
読書目安時間:約7分
新橋駅に降りた私はちいさな風呂敷包と、一本のさくらの洋杖を持つたきりであつた。風呂敷包のなかには書きためた詩と、あたらしい原稿紙の幾帖かがあるきり、外に荷物なぞはなく、ぶらりと歩廊 …
我が愛する詩人の伝記(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間54分
北原白秋 高村光太郎(撮影・浜谷浩) 萩原朔太郎 釈迢空(撮影・浜谷浩) 堀辰雄 立原道造 津村信夫 山村暮鳥 百田宗治 千家元麿 島崎藤村(撮影・土門拳) 明治四十二年三月、北原 …
読書目安時間:約3時間54分
北原白秋 高村光太郎(撮影・浜谷浩) 萩原朔太郎 釈迢空(撮影・浜谷浩) 堀辰雄 立原道造 津村信夫 山村暮鳥 百田宗治 千家元麿 島崎藤村(撮影・土門拳) 明治四十二年三月、北原 …
わが愛する詩人の伝記(三):――萩原朔太郎――(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
萩原朔太郎の長女の葉子さんが、この頃或る同人雑誌に父朔太郎の思い出という一文を掲載、私はそれを読んで文章の巧みさがよく父朔太郎の手をにぎり締めていること、そして娘というものがいかに …
読書目安時間:約23分
萩原朔太郎の長女の葉子さんが、この頃或る同人雑誌に父朔太郎の思い出という一文を掲載、私はそれを読んで文章の巧みさがよく父朔太郎の手をにぎり締めていること、そして娘というものがいかに …
〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
佐藤惣之助 詩人佐藤惣之助は明治二十三年十二月三日、川崎市砂子の宿場脇本陣の旧家に生れ、私より一つ歳下であった。砂子の彼の家のうしろは早くから工業地帯に変っていたが、野趣ある草原に …
読書目安時間:約23分
佐藤惣之助 詩人佐藤惣之助は明治二十三年十二月三日、川崎市砂子の宿場脇本陣の旧家に生れ、私より一つ歳下であった。砂子の彼の家のうしろは早くから工業地帯に変っていたが、野趣ある草原に …
われはうたえども やぶれかぶれ(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間32分
詩を書くのにも一々平常からメモをとっている。メモの紙切れをくりながらその何行かをあわせようとすると、それがばらばらになって粘りがなくなりどうしてもくっ附かない、てんで書く気が動かな …
読書目安時間:約1時間32分
詩を書くのにも一々平常からメモをとっている。メモの紙切れをくりながらその何行かをあわせようとすると、それがばらばらになって粘りがなくなりどうしてもくっ附かない、てんで書く気が動かな …
“室生犀星”について
室生犀星(むろう さいせい、1889年〈明治22年〉8月1日 - 1962年〈昭和37年〉3月26日)は、日本の詩人・小説家。石川県金沢市出身。本名は室生 照道(むろう てるみち)。別号に「魚眠洞」、「魚生」、「殘花」、「照文」。別筆名は「秋本 健之」。日本芸術院会員。
姓の平仮名表記は、「むろう」が一般的であるが、犀星自身が「むろう」「むろお」の両方の署名を用いていたため、現在も表記が統一されていない。室生犀星記念館は「「むろお」を正式とするが、「むろお」への変更を強制するものではない」としている。
生後すぐ養子に出され、室生姓を名乗った。養母は養育料で享楽しようとするような女で、犀星は生母の消息をついに知ることなく、貰い子たちと共同生活を送る。
(出典:Wikipedia)
姓の平仮名表記は、「むろう」が一般的であるが、犀星自身が「むろう」「むろお」の両方の署名を用いていたため、現在も表記が統一されていない。室生犀星記念館は「「むろお」を正式とするが、「むろお」への変更を強制するものではない」としている。
生後すぐ養子に出され、室生姓を名乗った。養母は養育料で享楽しようとするような女で、犀星は生母の消息をついに知ることなく、貰い子たちと共同生活を送る。
(出典:Wikipedia)
“室生犀星”と年代が近い著者
きょうが誕生日(9月7日)
今月で生誕X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)