国枝史郎
1887.10.10 〜 1943.04.08
“国枝史郎”に特徴的な語句
洞
痣
仰
館
扈従
上海
情婦
永劫
汝
暫時
忽然
灯火
妾
嬲
罵
忍術
嗚咽
手弱女
耽
筈
躄
虹
穿
墨西哥
煌々
暈
私娼
鼓
悲哀
附近
姉妹
椰子
御幣
褒
水泡
藪地
衣紋
華美
灯火
蝦蟇
岩窟
濛気
辿
彼方
出
焚火
業
幽
俺
門口
著者としての作品一覧
赤い手(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
まだ真夜中にはなっていなかった。 が、豪奢なウッドワードのアパートに漲る深々たる夜の静寂は、泥棒猫のようにこっそり忍び込んだスパイダー・マッコイの亢奮した神経を針のように尖らせた。 …
読書目安時間:約21分
まだ真夜中にはなっていなかった。 が、豪奢なウッドワードのアパートに漲る深々たる夜の静寂は、泥棒猫のようにこっそり忍び込んだスパイダー・マッコイの亢奮した神経を針のように尖らせた。 …
赤げっと 支那あちこち(新字新仮名)
読書目安時間:約46分
僕達夫妻が支那見物をするべく秩父丸で神戸を出帆したのは四月の十九日の正午だった。一等船客を、秩父丸は一万七千頓で、米国通いの船の中でも特に優秀なものだそうだが随分よかった。 同勢は …
読書目安時間:約46分
僕達夫妻が支那見物をするべく秩父丸で神戸を出帆したのは四月の十九日の正午だった。一等船客を、秩父丸は一万七千頓で、米国通いの船の中でも特に優秀なものだそうだが随分よかった。 同勢は …
赤格子九郎右衛門(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
江川太郎左衛門、名は英竜、号は坦庵、字は九淵世々韮山の代官であって、高島秋帆の門に入り火術の蘊奥を極わめた英傑、和漢洋の学に秀で、多くの門弟を取り立てたが、中に二人の弟子が有って出 …
読書目安時間:約29分
江川太郎左衛門、名は英竜、号は坦庵、字は九淵世々韮山の代官であって、高島秋帆の門に入り火術の蘊奥を極わめた英傑、和漢洋の学に秀で、多くの門弟を取り立てたが、中に二人の弟子が有って出 …
赤格子九郎右衛門の娘(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
何とも云えぬ物凄い睨視! 海賊赤格子九郎右衛門が召捕り処刑になったのは寛延二年三月のことで、所は大阪千日前、弟七郎兵衛、遊女かしく、三人同時に斬られたのである。訴え人は駕籠屋重右衛 …
読書目安時間:約33分
何とも云えぬ物凄い睨視! 海賊赤格子九郎右衛門が召捕り処刑になったのは寛延二年三月のことで、所は大阪千日前、弟七郎兵衛、遊女かしく、三人同時に斬られたのである。訴え人は駕籠屋重右衛 …
赤坂城の謀略(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
(これは駄目だ) と正成は思った。 (兵糧が尽き水も尽きた。それに人数は僅か五百余人だ。然るに寄手の勢と来ては、二十万人に余るだろう。それも笠置を落城させて、意気軒昂たる者共だ。し …
読書目安時間:約16分
(これは駄目だ) と正成は思った。 (兵糧が尽き水も尽きた。それに人数は僅か五百余人だ。然るに寄手の勢と来ては、二十万人に余るだろう。それも笠置を落城させて、意気軒昂たる者共だ。し …
あさひの鎧(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間59分
「飛天夜叉、飛天夜叉!」 「若い女だということだね」 「いやいや男だということだ」 「ナーニ一人の名ではなくて、団体の名だということだ」 「飛天夜叉組ってやつか」 「術を使うってい …
読書目安時間:約7時間59分
「飛天夜叉、飛天夜叉!」 「若い女だということだね」 「いやいや男だということだ」 「ナーニ一人の名ではなくて、団体の名だということだ」 「飛天夜叉組ってやつか」 「術を使うってい …
鴉片を喫む美少年(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
(水戸の武士早川弥五郎が、清国上海へ漂流し、十数年間上海に居り、故郷の友人吉田惣蔵へ、数回長い消息をした。その消息を現代文に書きかえ、敷衍し潤色したものがこの作である。——作者附記 …
読書目安時間:約21分
(水戸の武士早川弥五郎が、清国上海へ漂流し、十数年間上海に居り、故郷の友人吉田惣蔵へ、数回長い消息をした。その消息を現代文に書きかえ、敷衍し潤色したものがこの作である。——作者附記 …
天草四郎の妖術(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
天草騒動の張本人天草四郎時貞は幼名を小四郎と云いました。九州天草大矢野郷越野浦の郷士であり曾ては小西行長の右筆まで為た増田甚兵衛の第三子でありましたが何より人を驚かせたのは其珠のよ …
読書目安時間:約17分
天草騒動の張本人天草四郎時貞は幼名を小四郎と云いました。九州天草大矢野郷越野浦の郷士であり曾ては小西行長の右筆まで為た増田甚兵衛の第三子でありましたが何より人を驚かせたのは其珠のよ …
怪しの者(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
乞食の権七が物語った。 尾張の国春日井郡、庄内川の岸の、草の中に寝ていたのは、正徳三年六月十日の、午後のことでありました。いくらか靄を含んでいて、白っぽく見えてはおりましたが、でも …
読書目安時間:約25分
乞食の権七が物語った。 尾張の国春日井郡、庄内川の岸の、草の中に寝ていたのは、正徳三年六月十日の、午後のことでありました。いくらか靄を含んでいて、白っぽく見えてはおりましたが、でも …
怪しの館(新字新仮名)
読書目安時間:約47分
ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。 四人の武士が話している。 夜である。初夏の宵だ。 「どうでも誘拐す必要がある」 こういったのは三十年輩 …
読書目安時間:約47分
ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。 四人の武士が話している。 夜である。初夏の宵だ。 「どうでも誘拐す必要がある」 こういったのは三十年輩 …
一枚絵の女(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
ご家人の貝塚三十郎が、また芝山内で悪事をした。 一太刀で仕止めた死骸から、スルスルと胴巻をひっぱり出すと、中身を数えて苦笑いをし、 (思ったよりは少なかった) でも衣更の晴着ぐらい …
読書目安時間:約11分
ご家人の貝塚三十郎が、また芝山内で悪事をした。 一太刀で仕止めた死骸から、スルスルと胴巻をひっぱり出すと、中身を数えて苦笑いをし、 (思ったよりは少なかった) でも衣更の晴着ぐらい …
犬神娘(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
安政五年九月十日の、午の刻のことでございますが、老女村岡様にご案内され、新関白近衛様の裏門から、ご上人様がご発足なされました際にも、私はお附き添いしておりました。(と、洛東清水寺成 …
読書目安時間:約37分
安政五年九月十日の、午の刻のことでございますが、老女村岡様にご案内され、新関白近衛様の裏門から、ご上人様がご発足なされました際にも、私はお附き添いしておりました。(と、洛東清水寺成 …
印象に残った新作家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
本誌五月号の探偵創作の中、小舟勝二氏の作「昇降機」を面白く——というよりも夫れ以上に敬服して読みました。 (1)よく昇降機の性質を知っていて夫れを活用したこと(2)「——四階。客無 …
読書目安時間:約3分
本誌五月号の探偵創作の中、小舟勝二氏の作「昇降機」を面白く——というよりも夫れ以上に敬服して読みました。 (1)よく昇降機の性質を知っていて夫れを活用したこと(2)「——四階。客無 …
印度の詩人(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
印度独立運動が活溌になりガンジーの名が国際舞台へ大きくうつしだされてきた。 ガンジーにつれて思い出されるのは同国の詩人タゴールのことである。 タゴールがノーベル賞金を受けて世界的有 …
読書目安時間:約3分
印度独立運動が活溌になりガンジーの名が国際舞台へ大きくうつしだされてきた。 ガンジーにつれて思い出されるのは同国の詩人タゴールのことである。 タゴールがノーベル賞金を受けて世界的有 …
鸚鵡蔵代首伝説(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
仇な女と少年武士 「可愛い坊ちゃんね」 「何を申す無礼な」 「綺麗な前髪ですこと」 「うるさい」 「お幾歳?」 「幾歳でもよい」 「十四、それとも十五かしら」 「うるさいと申すに」 …
読書目安時間:約27分
仇な女と少年武士 「可愛い坊ちゃんね」 「何を申す無礼な」 「綺麗な前髪ですこと」 「うるさい」 「お幾歳?」 「幾歳でもよい」 「十四、それとも十五かしら」 「うるさいと申すに」 …
大鵬のゆくえ(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間41分
吉備彦来訪 読者諸君よ、しばらくの間、過去の事件について語らしめよ。……などと気障な前置きをするのも実は必要があるからである。 一人の貧弱い老人が信輔の邸を訪ずれた。 平安朝時代の …
読書目安時間:約1時間41分
吉備彦来訪 読者諸君よ、しばらくの間、過去の事件について語らしめよ。……などと気障な前置きをするのも実は必要があるからである。 一人の貧弱い老人が信輔の邸を訪ずれた。 平安朝時代の …
大捕物仙人壺(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間36分
女軽業の大一座が、高島の城下へ小屋掛けをした。 慶応末年の夏の初であった。 別荘の門をフラリと出ると、伊太郎は其方へ足を向けた。 「いらはいいらはい!始まり始まり!」と、木戸番の爺 …
読書目安時間:約1時間36分
女軽業の大一座が、高島の城下へ小屋掛けをした。 慶応末年の夏の初であった。 別荘の門をフラリと出ると、伊太郎は其方へ足を向けた。 「いらはいいらはい!始まり始まり!」と、木戸番の爺 …
奥さんの家出(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
年増女の美しさは、八月の肌を持っているからだ。 ああ小径には凋るる花 残んの芳香を上げている。 「よろしゅうございます、お話ししましょう。が、それ前に標語を一つ、お話しすることにい …
読書目安時間:約28分
年増女の美しさは、八月の肌を持っているからだ。 ああ小径には凋るる花 残んの芳香を上げている。 「よろしゅうございます、お話ししましょう。が、それ前に標語を一つ、お話しすることにい …
十二神貝十郎手柄話(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間33分
ままごと狂女「うん、あの女があれなんだな」 大髻に黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。独り言のように云ったのであった。 そこは稲荷堀の往来で、向こうに …
読書目安時間:約2時間33分
ままごと狂女「うん、あの女があれなんだな」 大髻に黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。独り言のように云ったのであった。 そこは稲荷堀の往来で、向こうに …
思ったままを!(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
文学成長の道程の中に外国文学模倣時代という時期がある。この時期は成る丈け早く通過すべきである。日本探偵小説の如何に長くこの時期にウロツイていることか。笑う可きである。 ○ 僕には相 …
読書目安時間:約1分
文学成長の道程の中に外国文学模倣時代という時期がある。この時期は成る丈け早く通過すべきである。日本探偵小説の如何に長くこの時期にウロツイていることか。笑う可きである。 ○ 僕には相 …
温室の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
中央線木曾福島! ただ斯う口の中で云っただけでも私の心は踊り立つ。それほど私は其町を——見捨てられたような其町を限り無く好いているのであった。人情、風俗、山川の姿……福島の町の一切 …
読書目安時間:約22分
中央線木曾福島! ただ斯う口の中で云っただけでも私の心は踊り立つ。それほど私は其町を——見捨てられたような其町を限り無く好いているのであった。人情、風俗、山川の姿……福島の町の一切 …
隠亡堀(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
「伊右衛門さん、久しぶりで」 こう云ったのは直助であった。 今の商売は鰻掻であった。 昔の商売は薬売であった。 一名直助権兵衛とも呼ばれた。 「うん、暫く逢わなかったな」 こう云っ …
読書目安時間:約10分
「伊右衛門さん、久しぶりで」 こう云ったのは直助であった。 今の商売は鰻掻であった。 昔の商売は薬売であった。 一名直助権兵衛とも呼ばれた。 「うん、暫く逢わなかったな」 こう云っ …
開運の鼓(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
将軍家斉の時代であった。天保の初年から天候が不順で旱天と洪水とが交〻襲い夏寒く冬暑く日本全国の田や畑には実らない作物が枯れ腐って凶年の相を現わしたが、俄然大飢饉が見舞って来た。将軍 …
読書目安時間:約11分
将軍家斉の時代であった。天保の初年から天候が不順で旱天と洪水とが交〻襲い夏寒く冬暑く日本全国の田や畑には実らない作物が枯れ腐って凶年の相を現わしたが、俄然大飢饉が見舞って来た。将軍 …
鵞湖仙人(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
時は春、梅の盛り、所は信州諏訪湖畔。 そこに一軒の掛茶屋があった。 ヌッと這入って来た武士がある。野袴に深編笠、金銀こしらえの立派な大小、グイと鉄扇を握っている、足の配り、体のこな …
読書目安時間:約22分
時は春、梅の盛り、所は信州諏訪湖畔。 そこに一軒の掛茶屋があった。 ヌッと這入って来た武士がある。野袴に深編笠、金銀こしらえの立派な大小、グイと鉄扇を握っている、足の配り、体のこな …
仇討姉妹笠(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間41分
袖の中には? 舞台には季節にふさわしい、夜桜の景がかざられてあった。 奥に深々と見えているのは、祇園辺りの社殿であろう、朱の鳥居や春日燈籠などが、書割の花の間に見え隠れしていた。 …
読書目安時間:約2時間41分
袖の中には? 舞台には季節にふさわしい、夜桜の景がかざられてあった。 奥に深々と見えているのは、祇園辺りの社殿であろう、朱の鳥居や春日燈籠などが、書割の花の間に見え隠れしていた。 …
加利福尼亜の宝島:(お伽冒険談)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間42分
「小豆島紋太夫が捕らえられたそうな」 「いよいよ天運尽きたと見える」 「八幡船の後胤もこれでいよいよ根絶やしか。ちょっと惜しいような気もするな」 「住吉の浜で切られるそうな」 「末 …
読書目安時間:約1時間42分
「小豆島紋太夫が捕らえられたそうな」 「いよいよ天運尽きたと見える」 「八幡船の後胤もこれでいよいよ根絶やしか。ちょっと惜しいような気もするな」 「住吉の浜で切られるそうな」 「末 …
広東葱(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
夕飯の時刻になったので新井君と自分とは家を出た。そして自分の行きつけの——と云っても二三回行っただけの——黄華軒という支那料理店へ夕飯を食いに這入って行った。 「日本人は一人も居な …
読書目安時間:約15分
夕飯の時刻になったので新井君と自分とは家を出た。そして自分の行きつけの——と云っても二三回行っただけの——黄華軒という支那料理店へ夕飯を食いに這入って行った。 「日本人は一人も居な …
弓道中祖伝(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話いたしましょう」 こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。それで …
読書目安時間:約20分
「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話いたしましょう」 こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。それで …
銀三十枚(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間13分
「おいおいマリア、どうしたものだ。そう嫌うにもあたるまい。まんざらの男振りでもない意だ。いう事を聞きな、いう事を聞きな」 ユダはこう云って抱き介えようとした。 猶太第一美貌の娼婦、 …
読書目安時間:約1時間13分
「おいおいマリア、どうしたものだ。そう嫌うにもあたるまい。まんざらの男振りでもない意だ。いう事を聞きな、いう事を聞きな」 ユダはこう云って抱き介えようとした。 猶太第一美貌の娼婦、 …
愚言二十七箇条(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
探偵小説の人生は、日常茶碗の人生とは違う。 × 人生に於ける非常事が、探偵小説では茶碗事となる。 × 人生の自然と探偵小説の自然は、似ても似つかないものである。 × 作家に特異性の …
読書目安時間:約4分
探偵小説の人生は、日常茶碗の人生とは違う。 × 人生に於ける非常事が、探偵小説では茶碗事となる。 × 人生の自然と探偵小説の自然は、似ても似つかないものである。 × 作家に特異性の …
孔雀の樹に就いて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
最近読んだ内外の作で、最も感銘の深かったのは、小酒井不木氏翻訳のチェスタアトンの「孔雀の樹」です。探偵小説としての筋立てから云っても、(非常に新鮮では無いにしても)一流の作に属す可 …
読書目安時間:約3分
最近読んだ内外の作で、最も感銘の深かったのは、小酒井不木氏翻訳のチェスタアトンの「孔雀の樹」です。探偵小説としての筋立てから云っても、(非常に新鮮では無いにしても)一流の作に属す可 …
首頂戴(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
サラサラサラと茶筌の音、トロリと泡立った緑の茶、茶碗も素晴らしい逸品である。それを支えた指の白さ!と、茶碗が下へ置かれた。 茶を立てたのは一人の美女、立兵庫にお裲襠、帯を胸元に結ん …
読書目安時間:約20分
サラサラサラと茶筌の音、トロリと泡立った緑の茶、茶碗も素晴らしい逸品である。それを支えた指の白さ!と、茶碗が下へ置かれた。 茶を立てたのは一人の美女、立兵庫にお裲襠、帯を胸元に結ん …
戯作者(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
初対面 「あの、お客様でございますよ」 女房のお菊が知らせて来た。 「へえ、何人だね?蔦屋さんかえ?」 京伝はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵がかけて …
読書目安時間:約21分
初対面 「あの、お客様でございますよ」 女房のお菊が知らせて来た。 「へえ、何人だね?蔦屋さんかえ?」 京伝はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵がかけて …
剣侠(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間15分
木剣試合文政×年の初夏のことであった。 杉浪之助は宿を出て、両国をさして歩いて行った。 本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。 と、 「 …
読書目安時間:約5時間15分
木剣試合文政×年の初夏のことであった。 杉浪之助は宿を出て、両国をさして歩いて行った。 本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。 と、 「 …
剣侠受難(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間32分
ポンと右手がふところへはいり、同時に左手がヒョイとあがった。とたんに袖口から一条の捕り縄、スルスルと宙へ流れ出た。それがギリギリと巻きつこうとした時、虚無僧は尺八をさっと振った。パ …
読書目安時間:約6時間32分
ポンと右手がふところへはいり、同時に左手がヒョイとあがった。とたんに袖口から一条の捕り縄、スルスルと宙へ流れ出た。それがギリギリと巻きつこうとした時、虚無僧は尺八をさっと振った。パ …
甲州鎮撫隊(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
滝と池 「綺麗な水ですねえ」 と、つい数日前に、この植甚の家へ住込みになった、わたりの留吉は、池の水を見ながら、親方の植甚へ云った。 「これが俺んとこの金箱さ」 と、石に腰をかけ、 …
読書目安時間:約29分
滝と池 「綺麗な水ですねえ」 と、つい数日前に、この植甚の家へ住込みになった、わたりの留吉は、池の水を見ながら、親方の植甚へ云った。 「これが俺んとこの金箱さ」 と、石に腰をかけ、 …
郷介法師(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
初夏の夜は静かに明け放れた。 堺の豪商魚屋利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行って門の戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外は仄々と薄暗かったが、 …
読書目安時間:約21分
初夏の夜は静かに明け放れた。 堺の豪商魚屋利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行って門の戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外は仄々と薄暗かったが、 …
紅白縮緬組(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「元禄の政は延喜に勝れり」と、北村季吟は書いているが、いかにも表面から見る時は、文物典章燦然と輝き、まさに文化の極地ではあったが、しかし一度裏へはいって見ると、案外諸所に暗黒面があ …
読書目安時間:約21分
「元禄の政は延喜に勝れり」と、北村季吟は書いているが、いかにも表面から見る時は、文物典章燦然と輝き、まさに文化の極地ではあったが、しかし一度裏へはいって見ると、案外諸所に暗黒面があ …
五右衛門と新左(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
「大分世の中が静かになったな」 こう秀吉が徳善院へ云った。 「殿下のご威光でございます」 徳善院、ゴマを磨り出した。 「ところが俺は退屈でな」 「こまったものでございます」 「趣向 …
読書目安時間:約21分
「大分世の中が静かになったな」 こう秀吉が徳善院へ云った。 「殿下のご威光でございます」 徳善院、ゴマを磨り出した。 「ところが俺は退屈でな」 「こまったものでございます」 「趣向 …
五階の窓:05 合作の五(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
「おやっ!」 と叫んだ長谷川の声がひどく間が抜けて大きかったので、山本は危なくコーヒー茶碗をテーブルの上へ落とそうとした。 「おい、いったいどうしたんだい、大声が自慢にゃあならない …
読書目安時間:約16分
「おやっ!」 と叫んだ長谷川の声がひどく間が抜けて大きかったので、山本は危なくコーヒー茶碗をテーブルの上へ落とそうとした。 「おい、いったいどうしたんだい、大声が自慢にゃあならない …
「五階の窓」執筆に就いて:―不満二三―(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
二回目平林氏の作中、舟木新太郎と想像される人間が、貼紙をして立ち去った件は、どうにも解釈に苦しみました。つまり、どう夫れを受けついで、どう展開してよいものかと苦しんだ訳です。 四回 …
読書目安時間:約1分
二回目平林氏の作中、舟木新太郎と想像される人間が、貼紙をして立ち去った件は、どうにも解釈に苦しみました。つまり、どう夫れを受けついで、どう展開してよいものかと苦しんだ訳です。 四回 …
国事犯の行方:―破獄の志士赤井景韶―(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
石川島監獄の内は陰森として暗らかった。 「……どうも夫れは宜くあるまい。私には何うも賛成出来ぬ。……それは残念には相違あるまい。泥棒をしたというのでは無く、いずれも国家の行末を案じ …
読書目安時間:約13分
石川島監獄の内は陰森として暗らかった。 「……どうも夫れは宜くあるまい。私には何うも賛成出来ぬ。……それは残念には相違あるまい。泥棒をしたというのでは無く、いずれも国家の行末を案じ …
小酒井さんのことども(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小酒井さんが長逝されました。私はボンヤリしています。同じ名古屋に住んでいたため特に親交があったからです。 医学者として大家であり、探偵文学者として一流であったことは世間周知のことと …
読書目安時間:約6分
小酒井さんが長逝されました。私はボンヤリしています。同じ名古屋に住んでいたため特に親交があったからです。 医学者として大家であり、探偵文学者として一流であったことは世間周知のことと …
小酒井不木氏スケッチ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
「高きに登って羅馬を俯瞰し、巨火に対して竪琴を弾じ、ホーマアを吟じた愛す可き暴王、ネロを日本へ招来し、思想界へ放火させようではないか。五百あまりの白骨が、塁々として現われようぞ。惜 …
読書目安時間:約12分
「高きに登って羅馬を俯瞰し、巨火に対して竪琴を弾じ、ホーマアを吟じた愛す可き暴王、ネロを日本へ招来し、思想界へ放火させようではないか。五百あまりの白骨が、塁々として現われようぞ。惜 …
小酒井不木氏の思い出:―その丹念な創作態度―(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
◇ 小酒井不木さんが逝去された。哀悼にたえない。氏が医学界と探偵小説界に尽くされた功績の数々については、世人は大方知悉していられることと思われる。 ここでは主として氏が日常のことと …
読書目安時間:約4分
◇ 小酒井不木さんが逝去された。哀悼にたえない。氏が医学界と探偵小説界に尽くされた功績の数々については、世人は大方知悉していられることと思われる。 ここでは主として氏が日常のことと …
御存与太話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
新青年の五月号平林初之輔氏の「犠牲者」は、感銘の深い作でした。いろいろの緊急な社会問題が、ずいぶん沢山織り込んであるのが、際立った特色をなして居ります。遂に日本の探偵創作界へも、こ …
読書目安時間:約3分
新青年の五月号平林初之輔氏の「犠牲者」は、感銘の深い作でした。いろいろの緊急な社会問題が、ずいぶん沢山織り込んであるのが、際立った特色をなして居ります。遂に日本の探偵創作界へも、こ …
今昔茶話(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
前司法大臣風見章閣下、と、こう書くと、ずいぶん凄いことになって、僕など手がとどかないことになる。しかし、前大阪朝日新聞記者風見章、と、こう書くと、僕といえども気安くものが云える。そ …
読書目安時間:約23分
前司法大臣風見章閣下、と、こう書くと、ずいぶん凄いことになって、僕など手がとどかないことになる。しかし、前大阪朝日新聞記者風見章、と、こう書くと、僕といえども気安くものが云える。そ …
雑草一束(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「探偵趣味」へも御無沙汰致しました。同人の列につらなり乍らこう御無沙汰をしては申わけありません。そこで雑然たることでも書いて見ることにいたします。 支那の秘密結社といえば「白蓮会」 …
読書目安時間:約6分
「探偵趣味」へも御無沙汰致しました。同人の列につらなり乍らこう御無沙汰をしては申わけありません。そこで雑然たることでも書いて見ることにいたします。 支那の秘密結社といえば「白蓮会」 …
沙漠の歌:スタンレー探検日記(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
「……勿論あなたの有仰る通り学問の力は偉大です。世界の秘密を或る程度まで解剖することが出来ますからね。が併し偉大なその学問でも解釈することの絶対に出来ない不思議な事実が此の世の中に …
読書目安時間:約10分
「……勿論あなたの有仰る通り学問の力は偉大です。世界の秘密を或る程度まで解剖することが出来ますからね。が併し偉大なその学問でも解釈することの絶対に出来ない不思議な事実が此の世の中に …
沙漠の古都(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間40分
第一回獣人「マドリッド日刊新聞」の記事…… 怪獣再び市中を騒がす。 去月十日午前二時燐光を発する巨大の怪獣何処よりともなく市中に現われ通行の人々を脅かし府庁官邸の宅地附近にて忽然消 …
読書目安時間:約3時間40分
第一回獣人「マドリッド日刊新聞」の記事…… 怪獣再び市中を騒がす。 去月十日午前二時燐光を発する巨大の怪獣何処よりともなく市中に現われ通行の人々を脅かし府庁官邸の宅地附近にて忽然消 …
沙漠の美姫(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
「君は王昭君をどう思うね?」 私は李白にこうきいてみた。 と、李白は盃を置いたが、 「まあK君これを見てくれたまえ」紙へサラサラと詩を書いた。 昭君払玉鞍。上馬𠽜紅頬。 今日漢宮人 …
読書目安時間:約14分
「君は王昭君をどう思うね?」 私は李白にこうきいてみた。 と、李白は盃を置いたが、 「まあK君これを見てくれたまえ」紙へサラサラと詩を書いた。 昭君払玉鞍。上馬𠽜紅頬。 今日漢宮人 …
さまよう町のさまよう家のさまよう人々(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間16分
夜にはあらじ 霧ふかき昼なりき 町は霧にて埋もれたり 霧町に降り 降りたる霧町を埋めたり 日はあれど 月より朧ろにて 家あれど 墓より陰影的なりき 葬礼の列なりや そこに、ここに、 …
読書目安時間:約1時間16分
夜にはあらじ 霧ふかき昼なりき 町は霧にて埋もれたり 霧町に降り 降りたる霧町を埋めたり 日はあれど 月より朧ろにて 家あれど 墓より陰影的なりき 葬礼の列なりや そこに、ここに、 …
猿ヶ京片耳伝説(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
痛む耳 「耳が痛んでなりませぬ」 と女は云って、掌で左の耳を抑えた。 年増ではあるが美しいその武士の妻女は、地に据えられた駕籠の、たれのかかげられた隙から顔を覗かせて、そう云ったの …
読書目安時間:約29分
痛む耳 「耳が痛んでなりませぬ」 と女は云って、掌で左の耳を抑えた。 年増ではあるが美しいその武士の妻女は、地に据えられた駕籠の、たれのかかげられた隙から顔を覗かせて、そう云ったの …
三甚内(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「御用!御用!神妙にしろ!」 捕り方衆の叫び声があっちからもこっちからも聞こえて来る。 森然と更けた霊岸島の万崎河岸の向こう側で提灯の火が飛び乱れる。 「抜いたぞ!抜いたぞ!用心し …
読書目安時間:約23分
「御用!御用!神妙にしろ!」 捕り方衆の叫び声があっちからもこっちからも聞こえて来る。 森然と更けた霊岸島の万崎河岸の向こう側で提灯の火が飛び乱れる。 「抜いたぞ!抜いたぞ!用心し …
支那の思出(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私が支那へ行ったのは満洲事変の始まった年の、まだ始まらない頃であった。 上海、南京、蘇州、杭州、青島、旅順、大連、奉天と見て廻った。約一ヶ月を費した。 汽船は秩父丸であった。船がウ …
読書目安時間:約3分
私が支那へ行ったのは満洲事変の始まった年の、まだ始まらない頃であった。 上海、南京、蘇州、杭州、青島、旅順、大連、奉天と見て廻った。約一ヶ月を費した。 汽船は秩父丸であった。船がウ …
死の航海(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
昨日のように今日も矢っ張り太陽は西に沈んで行く。 夕陽に照らされた地中海は猩々緋のように美しい。船々の甲板、船々の船檣、そして船々の煙突は焔のように輝いている。 阿弗利加の南端。ポ …
読書目安時間:約18分
昨日のように今日も矢っ張り太陽は西に沈んで行く。 夕陽に照らされた地中海は猩々緋のように美しい。船々の甲板、船々の船檣、そして船々の煙突は焔のように輝いている。 阿弗利加の南端。ポ …
死の復讐(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
季節は五月。花の盛。南方露西亜のドン河の岸は波斯毛氈でも敷き詰めたように諸々の花が咲いている。ジキタリスの紫の花弁は王冠につけた星のように曠野の中で輝いているし、紅玉色をした石竹の …
読書目安時間:約16分
季節は五月。花の盛。南方露西亜のドン河の岸は波斯毛氈でも敷き詰めたように諸々の花が咲いている。ジキタリスの紫の花弁は王冠につけた星のように曠野の中で輝いているし、紅玉色をした石竹の …
社会主義者に非ず:―江戸川乱歩氏へ―(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
兄は「探偵趣味」第五集で、僕の言論のやり方を社会主義的と云ったが是は少々妥当を欠く。僕は決して社会主義者では無く社会政策家である。社会主義と社会政策とが全然別物であることは兄といえ …
読書目安時間:約1分
兄は「探偵趣味」第五集で、僕の言論のやり方を社会主義的と云ったが是は少々妥当を欠く。僕は決して社会主義者では無く社会政策家である。社会主義と社会政策とが全然別物であることは兄といえ …
正雪の遺書(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
丸橋忠弥召捕りのために、時の町奉行石谷左近将監が与力同心三百人を率いて彼の邸へ向かったのは、慶安四年七月二十二日の丑刻を過ぎた頃であった。 染帷に鞣革の襷、伯耆安綱の大刀を帯び、天 …
読書目安時間:約15分
丸橋忠弥召捕りのために、時の町奉行石谷左近将監が与力同心三百人を率いて彼の邸へ向かったのは、慶安四年七月二十二日の丑刻を過ぎた頃であった。 染帷に鞣革の襷、伯耆安綱の大刀を帯び、天 …
神州纐纈城(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間19分
土屋庄三郎は邸を出てブラブラ条坊を彷徨った。 高坂邸、馬場邸、真田邸の前を通り、鍛冶小路の方へ歩いて行く。時は朧ろの春の夜でもう時刻が遅かったので邸々は寂しかったが、「春の夜の艶か …
読書目安時間:約6時間19分
土屋庄三郎は邸を出てブラブラ条坊を彷徨った。 高坂邸、馬場邸、真田邸の前を通り、鍛冶小路の方へ歩いて行く。時は朧ろの春の夜でもう時刻が遅かったので邸々は寂しかったが、「春の夜の艶か …
神秘昆虫館(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間32分
「お侍様というものは……」女役者の阪東小篠は、微妙に笑って云ったものである。「お強くなければなりません」 「俺は随分強いつもりだ」こう答えたのは一式小一郎で、年は二十三で、鐘巻流の …
読書目安時間:約3時間32分
「お侍様というものは……」女役者の阪東小篠は、微妙に笑って云ったものである。「お強くなければなりません」 「俺は随分強いつもりだ」こう答えたのは一式小一郎で、年は二十三で、鐘巻流の …
西班牙の恋(新字新仮名)
読書目安時間:約49分
私の負傷は癒えなかったけれど、故郷を出てから六月目に、それでもマドリッドへ帰って来た。 私は誰にも逢わなかった。又逢いたいとも思わなかった。しかし、親友のドン・ムリオだけには逢って …
読書目安時間:約49分
私の負傷は癒えなかったけれど、故郷を出てから六月目に、それでもマドリッドへ帰って来た。 私は誰にも逢わなかった。又逢いたいとも思わなかった。しかし、親友のドン・ムリオだけには逢って …
生死卍巴(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間4分
占われたる運命は? 「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」 こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに …
読書目安時間:約3時間4分
占われたる運命は? 「お侍様え、お買いなすって。どうぞあなた様のご運命を」 こういう女の声のしたのは享保十五年六月中旬の、後夜を過ごした頃であった。月が中空に輝いていたので、傍らに …
世界の裏(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
この面では理屈は云わない。イデオロギーなどというものも書かない。この面では、世界中の、政治や外交や軍事や、その他、社会のあらゆる部面に実在した面白い事件ばかりを書く。それもメンスツ …
読書目安時間:約13分
この面では理屈は云わない。イデオロギーなどというものも書かない。この面では、世界中の、政治や外交や軍事や、その他、社会のあらゆる部面に実在した面白い事件ばかりを書く。それもメンスツ …
善悪両面鼠小僧(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
乃信姫に見とれた鼠小僧 「曲者!」という女性の声。 しばらくあって入り乱れる足音。 「あっちでござる!」 「いやこっちじゃ!」 宿直の武士の犇き合う声。 文政末年春三月、桜の花の真 …
読書目安時間:約21分
乃信姫に見とれた鼠小僧 「曲者!」という女性の声。 しばらくあって入り乱れる足音。 「あっちでござる!」 「いやこっちじゃ!」 宿直の武士の犇き合う声。 文政末年春三月、桜の花の真 …
前記天満焼(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間39分
ここは大阪天満通の大塩中斎の塾である。 今講義が始まっている。 「王陽明の学説は、陸象山から発している。その象山の学説は、朱子の学から発している。周濂溪、張横渠、程明道、程伊川、こ …
読書目安時間:約1時間39分
ここは大阪天満通の大塩中斎の塾である。 今講義が始まっている。 「王陽明の学説は、陸象山から発している。その象山の学説は、朱子の学から発している。周濂溪、張横渠、程明道、程伊川、こ …
全体主義(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
全体主義とか全体主義国家とかいうことが盛んに云われている。日本が全体主義国家であるか無いかに就いては私は云わない。いや、むしろ、日本の国を、全体主義というような、外国伝来の言葉をも …
読書目安時間:約3分
全体主義とか全体主義国家とかいうことが盛んに云われている。日本が全体主義国家であるか無いかに就いては私は云わない。いや、むしろ、日本の国を、全体主義というような、外国伝来の言葉をも …
前兆?(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
小酒井不木さんが長逝された。前兆のようなものが私にあった。 私は新舞子に住んでいる。愛知県知多郡新舞子である。私の家の前に小酒井さんの別荘がある。私の家と同時に建てた別荘である。 …
読書目安時間:約2分
小酒井不木さんが長逝された。前兆のようなものが私にあった。 私は新舞子に住んでいる。愛知県知多郡新舞子である。私の家の前に小酒井さんの別荘がある。私の家と同時に建てた別荘である。 …
染吉の朱盆(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
ぴかり! 剣光! ワッという悲鳴! 少し間を置いてパチンと鍔音。空には満月、地には霜。 切り仆したのは一人の武士、黒の紋付、着流し姿、黒頭巾で顔を包んでいる。お誂え通りの辻切仕立、 …
読書目安時間:約34分
ぴかり! 剣光! ワッという悲鳴! 少し間を置いてパチンと鍔音。空には満月、地には霜。 切り仆したのは一人の武士、黒の紋付、着流し姿、黒頭巾で顔を包んでいる。お誂え通りの辻切仕立、 …
大衆文芸問答(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
問「大衆文芸と純文芸、どこに相違点があるのでしょう?」答「純文芸は叱る文芸、大衆文芸は叱らない文芸。ざっとこんなように別れましょうかね」問「変な云い廻わしじゃありませんか」答「ちっ …
読書目安時間:約17分
問「大衆文芸と純文芸、どこに相違点があるのでしょう?」答「純文芸は叱る文芸、大衆文芸は叱らない文芸。ざっとこんなように別れましょうかね」問「変な云い廻わしじゃありませんか」答「ちっ …
大衆物寸観(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
中里介山氏の「大菩薩峠」は、実に素晴らしい作である。大デュマなんか飛び越している。だがユーゴーを持って来るのは、まだ少し早いかも知れない。机龍之介の性格描写は、前古未曾有といってい …
読書目安時間:約5分
中里介山氏の「大菩薩峠」は、実に素晴らしい作である。大デュマなんか飛び越している。だがユーゴーを持って来るのは、まだ少し早いかも知れない。机龍之介の性格描写は、前古未曾有といってい …
他界の味其他(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
マーテルリンクの諸作、わけても「群盲」や「侵入者」や「タンタジールの死」などには、運命的、象徴的、等々々の味があり、それが凝って、他界的の味となっている。そういう味が、あのまわりく …
読書目安時間:約4分
マーテルリンクの諸作、わけても「群盲」や「侵入者」や「タンタジールの死」などには、運命的、象徴的、等々々の味があり、それが凝って、他界的の味となっている。そういう味が、あのまわりく …
高島異誌(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな?」 本条純八はやや得意気に、旧い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。二人は無聊のつれづれから、薄縁を敷いた縁側 …
読書目安時間:約26分
「……ええと、然らば、匁という字じゃ、この文字の意義ご存知かな?」 本条純八はやや得意気に、旧い朋友の筒井松太郎へ、斯う改めて訊いて見た。二人は無聊のつれづれから、薄縁を敷いた縁側 …
畳まれた町(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ボーン!音だ!ピストルの音だ!……と、そんなように思われた。 で探偵が走って来た。 町は相当賑かであった。 電車が五ツ通っていた。家根は黒く車体は緑で、そうして柱はピンク色であった …
読書目安時間:約7分
ボーン!音だ!ピストルの音だ!……と、そんなように思われた。 で探偵が走って来た。 町は相当賑かであった。 電車が五ツ通っていた。家根は黒く車体は緑で、そうして柱はピンク色であった …
探偵小説を作って貰い度い人々(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
平林初之輔氏が探偵小説を書いた。書いて貰い度いと久しい前から、思っていた所の人である。処女作などとは思われない程、よく纏まったものである。理智的であって人情的、よく調和がとれている …
読書目安時間:約4分
平林初之輔氏が探偵小説を書いた。書いて貰い度いと久しい前から、思っていた所の人である。処女作などとは思われない程、よく纏まったものである。理智的であって人情的、よく調和がとれている …
探偵文壇鳥瞰(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
創作探偵小説は本年度に至って活気を呈し、読物文芸的大方の雑誌は競って夫れを載せたようです。「新青年」や「探偵文芸」や、乃至は「探偵趣味」などは、それの専門の雑誌だけに、創作探偵小説 …
読書目安時間:約9分
創作探偵小説は本年度に至って活気を呈し、読物文芸的大方の雑誌は競って夫れを載せたようです。「新青年」や「探偵文芸」や、乃至は「探偵趣味」などは、それの専門の雑誌だけに、創作探偵小説 …
血煙天明陣(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間22分
天明五年十一月、三日の夜の深更であった。宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいや増しに思わせ、遠くで吠え立てる家護りの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。 …
読書目安時間:約6時間22分
天明五年十一月、三日の夜の深更であった。宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいや増しに思わせ、遠くで吠え立てる家護りの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。 …
稚子法師(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
木曽の代官山村蘇門は世に謳われた学者であったが八十二才の高齢を以て文政二年に世を終った。謙恭温容の君子であったので、妻子家臣の悲嘆は殆ど言語に絶したもので、征矢野孫兵衛、村上右門、 …
読書目安時間:約16分
木曽の代官山村蘇門は世に謳われた学者であったが八十二才の高齢を以て文政二年に世を終った。謙恭温容の君子であったので、妻子家臣の悲嘆は殆ど言語に絶したもので、征矢野孫兵衛、村上右門、 …
血ぬられた懐刀(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間12分
別るる恋 「相手の権勢に酔わされたか!ないしは美貌に魅せられたか!よくも某を欺むかれたな!」 こう罵ったのは若い武士で、その名を北畠秋安と云って、年は二十三であった。 罵られている …
読書目安時間:約1時間12分
別るる恋 「相手の権勢に酔わされたか!ないしは美貌に魅せられたか!よくも某を欺むかれたな!」 こう罵ったのは若い武士で、その名を北畠秋安と云って、年は二十三であった。 罵られている …
血曼陀羅紙帳武士(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間58分
腰の物拝見 「お武家お待ち」 という声が聞こえたので、伊東頼母は足を止めた。ここは甲州街道の府中から、一里ほど離れた野原で、天保××年三月十六日の月が、朧ろに照らしていた。頼母は、 …
読書目安時間:約2時間58分
腰の物拝見 「お武家お待ち」 という声が聞こえたので、伊東頼母は足を止めた。ここは甲州街道の府中から、一里ほど離れた野原で、天保××年三月十六日の月が、朧ろに照らしていた。頼母は、 …
蔦葛木曽棧(新字新仮名)
読書目安時間:約11時間13分
「福島は今日から馬市で、さぞまあ賑わうことだろう」 「福島の馬市も馬市だが、藪原の繁昌はまた格別じゃ。と云って祭りがあるのではないが、藪原長者の抱妓の中に鳰鳥という女が現われてから …
読書目安時間:約11時間13分
「福島は今日から馬市で、さぞまあ賑わうことだろう」 「福島の馬市も馬市だが、藪原の繁昌はまた格別じゃ。と云って祭りがあるのではないが、藪原長者の抱妓の中に鳰鳥という女が現われてから …
天主閣の音(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間19分
元文年間の物語。—— 夜な夜な名古屋城の天主閣で、気味の悪い不思議な唸り声がした。 天主閣に就いて語ることにしよう。 「尾張名古屋は城で持つ」と、俚謡にまでも唄われている、その名古 …
読書目安時間:約1時間19分
元文年間の物語。—— 夜な夜な名古屋城の天主閣で、気味の悪い不思議な唸り声がした。 天主閣に就いて語ることにしよう。 「尾張名古屋は城で持つ」と、俚謡にまでも唄われている、その名古 …
独逸の範とすべき点(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
第一次世界戦争での戦敗国といえば、いうまでもなく独逸であるが、その独逸から表現主義文学という、破天荒の形式の文学が産れて、世界の芸術界を驚倒させた。 ゲオルク、カイゼルなどがその代 …
読書目安時間:約2分
第一次世界戦争での戦敗国といえば、いうまでもなく独逸であるが、その独逸から表現主義文学という、破天荒の形式の文学が産れて、世界の芸術界を驚倒させた。 ゲオルク、カイゼルなどがその代 …
闘牛(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
明日は闘牛の初日というのでコルドバの町は賑わっていた。 闘牛場に近い旅館の一つ——「六人の若い海賊」と呼ばれる広大な旅館の一つの部屋に一人の若者が宿を取った。商人とも見えず官吏とも …
読書目安時間:約21分
明日は闘牛の初日というのでコルドバの町は賑わっていた。 闘牛場に近い旅館の一つ——「六人の若い海賊」と呼ばれる広大な旅館の一つの部屋に一人の若者が宿を取った。商人とも見えず官吏とも …
銅銭会事変(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間12分
女から切り出された別れ話 天明六年のことであった。老中筆頭は田沼主殿頭、横暴をきわめたものであった。時世は全く廃頽期に属し、下剋上の悪風潮が、あらゆる階級を毒していた。賄賂請託が横 …
読書目安時間:約1時間12分
女から切り出された別れ話 天明六年のことであった。老中筆頭は田沼主殿頭、横暴をきわめたものであった。時世は全く廃頽期に属し、下剋上の悪風潮が、あらゆる階級を毒していた。賄賂請託が横 …
名古屋の小酒井不木氏(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
故小酒井不木氏は名古屋市に於ける寵児であった。あらゆる会合へ引っ張り出され、さまざまの講演会へ引っ張り出され、驚くばかりに多方面の人に、訪問をされ、氏に於いてもいろいろの人を訪ねた …
読書目安時間:約5分
故小酒井不木氏は名古屋市に於ける寵児であった。あらゆる会合へ引っ張り出され、さまざまの講演会へ引っ張り出され、驚くばかりに多方面の人に、訪問をされ、氏に於いてもいろいろの人を訪ねた …
南蛮秘話森右近丸(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間52分
「将軍義輝が弑された。三好長慶が殺された、松永弾正も殺された。今は下克上の世の中だ。信長が義昭を将軍に立てた。しかし間もなく追って了った。その信長も弑されるだろう。恐ろしい下克上の …
読書目安時間:約1時間52分
「将軍義輝が弑された。三好長慶が殺された、松永弾正も殺された。今は下克上の世の中だ。信長が義昭を将軍に立てた。しかし間もなく追って了った。その信長も弑されるだろう。恐ろしい下克上の …
日本上古の硬外交(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
インドネジアン族、インドチャイニース族の集合であるところの熊襲が大和朝廷にしばしば叛いたのは新羅が背後から使嗾するのであると観破され、「熊襲をお討ちあそばすより先に新羅を御征伐なさ …
読書目安時間:約8分
インドネジアン族、インドチャイニース族の集合であるところの熊襲が大和朝廷にしばしば叛いたのは新羅が背後から使嗾するのであると観破され、「熊襲をお討ちあそばすより先に新羅を御征伐なさ …
日本探偵小説界寸評(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
二十八歳で博士号を得た、不木小酒井光次氏は、素晴らしい秀才といわざるを得ない。その専門は法医学、犯罪物の研究あるは将に当然というべきであろう。最近同氏は探偵小説の創作方面にも野心を …
読書目安時間:約12分
二十八歳で博士号を得た、不木小酒井光次氏は、素晴らしい秀才といわざるを得ない。その専門は法医学、犯罪物の研究あるは将に当然というべきであろう。最近同氏は探偵小説の創作方面にも野心を …
任侠二刀流(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間27分
ここは両国広小路、隅田川に向いた茜茶屋、一人の武士と一人の女、何かヒソヒソ話している。 「悪いことは云わぬ、諾と云いな」 「さあね、どうも気が進まないよ」 「馬鹿な女だ、こんないい …
読書目安時間:約7時間27分
ここは両国広小路、隅田川に向いた茜茶屋、一人の武士と一人の女、何かヒソヒソ話している。 「悪いことは云わぬ、諾と云いな」 「さあね、どうも気が進まないよ」 「馬鹿な女だ、こんないい …
人間製造(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
大阪の町は寂しかった。 夜はもう三時を過ごしている、つまり時刻は真夜中であった。其時一人の労働者が力の無い足どりで歩いて来た。 「今日で俺は二日、飯を食わねえ、いつマア食物に有りつ …
読書目安時間:約22分
大阪の町は寂しかった。 夜はもう三時を過ごしている、つまり時刻は真夜中であった。其時一人の労働者が力の無い足どりで歩いて来た。 「今日で俺は二日、飯を食わねえ、いつマア食物に有りつ …
猫の蚤とり武士(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間14分
「蚤とりましょう。猫の蚤とり!」 黒の紋付きの着流しに、長目の両刀を落として差し、編笠をかむった浪人らしい武士が、明暦三年七月の夕を、浅草の裏町を歩きながら、家々の間でそう呼んだ。 …
読書目安時間:約6時間14分
「蚤とりましょう。猫の蚤とり!」 黒の紋付きの着流しに、長目の両刀を落として差し、編笠をかむった浪人らしい武士が、明暦三年七月の夕を、浅草の裏町を歩きながら、家々の間でそう呼んだ。 …
半七雑感(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
岡本綺堂氏の「半七捕物帳」その主人公の半七に就いて些私見を述べることにする。 「……三十二三の痩ぎすの男で、縞の着物に縞の羽織を着て誰の眼にも生地の堅気とみえる町人風であった。色の …
読書目安時間:約6分
岡本綺堂氏の「半七捕物帳」その主人公の半七に就いて些私見を述べることにする。 「……三十二三の痩ぎすの男で、縞の着物に縞の羽織を着て誰の眼にも生地の堅気とみえる町人風であった。色の …
秀吉・家康二英雄の対南洋外交(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
仏印問題、蘭印問題がわが国の関心事となり、近衛内閣はそれについて、満支、南洋をつつむ東亜新秩序を示唆する声明を発した。 これに関連して想起されることは、往昔に於ける日本の南洋政策の …
読書目安時間:約8分
仏印問題、蘭印問題がわが国の関心事となり、近衛内閣はそれについて、満支、南洋をつつむ東亜新秩序を示唆する声明を発した。 これに関連して想起されることは、往昔に於ける日本の南洋政策の …
ヒトラーの健全性(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ヒトラーが、未来派の絵画を罵倒した記事を見て、ヒトラーらしいなと思った。 そうしてヒトラーが画家として立ったなら、むしろ穏健な、さりとて古くない、ポストアンプレッショニストとして彩 …
読書目安時間:約3分
ヒトラーが、未来派の絵画を罵倒した記事を見て、ヒトラーらしいなと思った。 そうしてヒトラーが画家として立ったなら、むしろ穏健な、さりとて古くない、ポストアンプレッショニストとして彩 …
人を呪わば(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
「あの、もしもし」 と女の声。 振り返って見ると白い物!女が軒下で招いている。 午前三時!深夜である。 「え、お嬢さん、何かご用で?」 一條弘、若き新聞記者。年齢二十四。慇懃に訊く …
読書目安時間:約7分
「あの、もしもし」 と女の声。 振り返って見ると白い物!女が軒下で招いている。 午前三時!深夜である。 「え、お嬢さん、何かご用で?」 一條弘、若き新聞記者。年齢二十四。慇懃に訊く …
二つの作品(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
小酒井さんの「肉腫」という作(新青年掲載)依然として結構な作品です。探偵小説的加工の無いのが、一つの特色を為して居ります。如何にも有りそうな事件と云うより有った事件を有りのままに纏 …
読書目安時間:約3分
小酒井さんの「肉腫」という作(新青年掲載)依然として結構な作品です。探偵小説的加工の無いのが、一つの特色を為して居ります。如何にも有りそうな事件と云うより有った事件を有りのままに纏 …
二人町奴(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
「それ喧嘩だ」 「浪人組同志だ」 「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」 ワーッと群衆なだれを打ち、一時に左右へ開いたが、遠巻きにして眺めている。 浪人組の頭深見十左衛門、その子息の十 …
読書目安時間:約20分
「それ喧嘩だ」 「浪人組同志だ」 「あぶないあぶない、逃げろ逃げろ」 ワーッと群衆なだれを打ち、一時に左右へ開いたが、遠巻きにして眺めている。 浪人組の頭深見十左衛門、その子息の十 …
日置流系図(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
帷子姿の半身 トントントントントントン……トン。 表戸を続けて打つ者がある。 「それまた例のお武家様だ……誰か行って潜戸を開けてやんな」 こう忠蔵は云いながらズラリと仲間を見廻した …
読書目安時間:約14分
帷子姿の半身 トントントントントントン……トン。 表戸を続けて打つ者がある。 「それまた例のお武家様だ……誰か行って潜戸を開けてやんな」 こう忠蔵は云いながらズラリと仲間を見廻した …
北斎と幽霊(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
文化年中のことであった。 朝鮮の使節が来朝した。 家斉将軍の思し召しによって当代の名家に屏風を描かせ朝鮮王に贈ることになった。 柳営絵所預りは法眼狩野融川であったが、命に応じて屋敷 …
読書目安時間:約17分
文化年中のことであった。 朝鮮の使節が来朝した。 家斉将軍の思し召しによって当代の名家に屏風を描かせ朝鮮王に贈ることになった。 柳営絵所預りは法眼狩野融川であったが、命に応じて屋敷 …
マイクロフォン:「新青年」一九三三年七月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
久しぶりの大下宇陀児の発表「画家の娘」を読んだ。自分としては失望する。ビーストンにだって駄作が交っているんだから、無理もない。しかし堪念に女学校用探偵小説を書きつづけている大下宇陀 …
読書目安時間:約1分
久しぶりの大下宇陀児の発表「画家の娘」を読んだ。自分としては失望する。ビーストンにだって駄作が交っているんだから、無理もない。しかし堪念に女学校用探偵小説を書きつづけている大下宇陀 …
マイクロフォン:「新青年」一九二七年五月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
岡本綺堂氏推薦、デイピング原作といったような形式で訳されてあった五篇の翻訳は面白かった。純粋の創作家の鑑賞眼に選ばれた作以外によいもののあることを証拠立てている。図書館は毎号面白い …
読書目安時間:約1分
岡本綺堂氏推薦、デイピング原作といったような形式で訳されてあった五篇の翻訳は面白かった。純粋の創作家の鑑賞眼に選ばれた作以外によいもののあることを証拠立てている。図書館は毎号面白い …
マイクロフォン:「新青年」一九二七年三月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
作者は大方「型」を持っています。その「型」の中で微動し乍ら創作をつづけて行くときはまずあぶな気がありません。一通りのものは作れます。そいつを何時迄もつづけていると作が生気を失います …
読書目安時間:約1分
作者は大方「型」を持っています。その「型」の中で微動し乍ら創作をつづけて行くときはまずあぶな気がありません。一通りのものは作れます。そいつを何時迄もつづけていると作が生気を失います …
マイクロフォン:「新青年」一九二八年一一月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
小酒井不木氏の「見得ぬ顔」は単なる探偵小説のための探偵小説で無い処が私には嬉しいと思われました。法律に対する完解、人間の好悪感に就いての意見、わけても最後の庄司弁護士の心持などには …
読書目安時間:約1分
小酒井不木氏の「見得ぬ顔」は単なる探偵小説のための探偵小説で無い処が私には嬉しいと思われました。法律に対する完解、人間の好悪感に就いての意見、わけても最後の庄司弁護士の心持などには …
マイクロフォン:「新青年」一九二八年二月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
新青年四月増大号一瞥。明るくなりました。笑いの分子が多くなりました。大分若くもなりました。「探偵雑誌とは嚇しつけるもの」こう思っていた人もあったでしょうが、それを相当ぶちこわしまし …
読書目安時間:約1分
新青年四月増大号一瞥。明るくなりました。笑いの分子が多くなりました。大分若くもなりました。「探偵雑誌とは嚇しつけるもの」こう思っていた人もあったでしょうが、それを相当ぶちこわしまし …
マイクロフォン:「新青年」一九二六年三月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
△小酒井不木氏の作では新青年の「恋愛曲線」大衆文芸の「人工心臓」を挙げる。いずれも凄愴酷烈である。そうして社会性を持っている。△江戸川乱歩氏の作では苦楽の「闇に蠢く」を挙げる。例に …
読書目安時間:約1分
△小酒井不木氏の作では新青年の「恋愛曲線」大衆文芸の「人工心臓」を挙げる。いずれも凄愴酷烈である。そうして社会性を持っている。△江戸川乱歩氏の作では苦楽の「闇に蠢く」を挙げる。例に …
マイクロフォン:「新青年」一九二六年一一月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
惣太物をはじめとして甲賀氏は近来の作にユーモアを織り込もうとし然うして織り込んで居りますが、私見を以てすればこのユーモアまだまだ洗練されて居りません。甲賀氏従来の特色は非常に複雑な …
読書目安時間:約1分
惣太物をはじめとして甲賀氏は近来の作にユーモアを織り込もうとし然うして織り込んで居りますが、私見を以てすればこのユーモアまだまだ洗練されて居りません。甲賀氏従来の特色は非常に複雑な …
マイクロフォン:「新青年」一九二六年二月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
啓蒙的描写論、そういう物だって必要である。一作に就ての解剖的批評。そういう物だって必要ではある。しかし小酒井不木氏とか松本泰氏、江戸川乱歩氏、横溝正史氏、アーサー、リーヴ、チェスタ …
読書目安時間:約1分
啓蒙的描写論、そういう物だって必要である。一作に就ての解剖的批評。そういう物だって必要ではある。しかし小酒井不木氏とか松本泰氏、江戸川乱歩氏、横溝正史氏、アーサー、リーヴ、チェスタ …
マイクロフォン―雑感―:「新青年」一九二五年一二月(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「新青年」はすべからく「探偵小説新青年」と斯う改題する必要がある。 × 川田功氏の「砲弾を潜りて」は、日本のあらゆる戦争文学の中、第一位に置かる可き名作であった。「尼港の怪婦人」に …
読書目安時間:約2分
「新青年」はすべからく「探偵小説新青年」と斯う改題する必要がある。 × 川田功氏の「砲弾を潜りて」は、日本のあらゆる戦争文学の中、第一位に置かる可き名作であった。「尼港の怪婦人」に …
マイクロフォン―八月増刊『陰獣』を中心にして―:「新青年」一九二八年一〇月(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
久しぶりで江戸川氏の力作を発表したので、しっかりした第一義の拙評をしたいと思って居りますがまだ準備が出来て居りませんので、他日にゆずる事にします。左に所感一束を。(一)探偵小説不振 …
読書目安時間:約1分
久しぶりで江戸川氏の力作を発表したので、しっかりした第一義の拙評をしたいと思って居りますがまだ準備が出来て居りませんので、他日にゆずる事にします。左に所感一束を。(一)探偵小説不振 …
又復与太話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
日本の新興探偵小説界、宝石などは扱わないと云われる。ようござんす、認めましょう、しかし宝石に類したものばかりを扱っているではありませんか。文字にとらわれずに精神をご覧下さい。 × …
読書目安時間:約3分
日本の新興探偵小説界、宝石などは扱わないと云われる。ようござんす、認めましょう、しかし宝石に類したものばかりを扱っているではありませんか。文字にとらわれずに精神をご覧下さい。 × …
真間の手古奈(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
一人の年老いた人相見が、三河の国の碧海郡の、八ツ橋のあたりに立っている古風な家を訪れました。 それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花の花が咲いていました。 茶な …
読書目安時間:約10分
一人の年老いた人相見が、三河の国の碧海郡の、八ツ橋のあたりに立っている古風な家を訪れました。 それは初夏のことでありまして、河の両岸には名に高い、燕子花の花が咲いていました。 茶な …
木乃伊の耳飾(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
まだ若い英国の考古学者の、ドイルス博士は其日の午後に、目的地のギゼーへ到着した。そして予め通知して置いた「ナイル旅館」の一室に当分の宿を定めたのであった。 博士は、ギゼーの此附近で …
読書目安時間:約12分
まだ若い英国の考古学者の、ドイルス博士は其日の午後に、目的地のギゼーへ到着した。そして予め通知して置いた「ナイル旅館」の一室に当分の宿を定めたのであった。 博士は、ギゼーの此附近で …
岷山の隠士(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
「いや彼は隴西の産だ」 「いや彼は蜀の産だ」 「とんでもないことで、巴西の産だよ」 「冗談を云うな山東の産を」 「李広の後裔だということだね」 「涼武昭王暠の末だよ」 ——青蓮居士 …
読書目安時間:約19分
「いや彼は隴西の産だ」 「いや彼は蜀の産だ」 「とんでもないことで、巴西の産だよ」 「冗談を云うな山東の産を」 「李広の後裔だということだね」 「涼武昭王暠の末だよ」 ——青蓮居士 …
娘煙術師(新字新仮名)
読書目安時間:約8時間53分
京都所司代の番士のお長屋の、茶色の土塀へ墨黒々と、楽書きをしている女があった。 照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものはなしと、歌人によって詠ぜられた、それは弥生の春の夜の …
読書目安時間:約8時間53分
京都所司代の番士のお長屋の、茶色の土塀へ墨黒々と、楽書きをしている女があった。 照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものはなしと、歌人によって詠ぜられた、それは弥生の春の夜の …
村井長庵記名の傘(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
娘を売った血の出る金 今年の初雷の鳴った後をザーッと落して来た夕立の雨、袖を濡らして帰って来たのは村井長庵と義弟十兵衛、十兵衛の眼は泣き濡れている。 年貢の未進も納めねばならず、不 …
読書目安時間:約16分
娘を売った血の出る金 今年の初雷の鳴った後をザーッと落して来た夕立の雨、袖を濡らして帰って来たのは村井長庵と義弟十兵衛、十兵衛の眼は泣き濡れている。 年貢の未進も納めねばならず、不 …
名人地獄(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間60分
消えた提灯、女の悲鳴 「……雪の夜半、雪の夜半……どうも上の句が出ないわい」 寮のあるじはつぶやいた。今、パッチリ好い石を置いて、ちょっと余裕が出来たのであった。 「まずゆっくりお …
読書目安時間:約4時間60分
消えた提灯、女の悲鳴 「……雪の夜半、雪の夜半……どうも上の句が出ないわい」 寮のあるじはつぶやいた。今、パッチリ好い石を置いて、ちょっと余裕が出来たのであった。 「まずゆっくりお …
目撃者(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ミラは何うしても眠れなかった。 夜も更けて真夜中を少し廻った頃だったが、二階では彼女の息子のウィリアムと嫁のエフィが先刻から喧嘩を続けているので、ミラは一時間余りも床の中で眼をぱち …
読書目安時間:約6分
ミラは何うしても眠れなかった。 夜も更けて真夜中を少し廻った頃だったが、二階では彼女の息子のウィリアムと嫁のエフィが先刻から喧嘩を続けているので、ミラは一時間余りも床の中で眼をぱち …
物凄き人喰い花の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
バルビューさんの亡霊が市中へ出るという噂が、誰からともなく云い出された。 奇怪極まるこの評判が西班牙中に拡がった頃一人の勝れた心霊学者がマドリッド市長の依頼に依ってマドリッド市へ研 …
読書目安時間:約12分
バルビューさんの亡霊が市中へ出るという噂が、誰からともなく云い出された。 奇怪極まるこの評判が西班牙中に拡がった頃一人の勝れた心霊学者がマドリッド市長の依頼に依ってマドリッド市へ研 …
八ヶ嶽の魔神(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間22分
邪宗縁起十四の乙女久田姫は古い物語を読んでいる。 (……そは許婚ある若き女子のいとも恐ろしき罪なりけり……) 「姫やどうぞ読まないでおくれ。妾聞きたくはないのだよ」 「いいえお姉様 …
読書目安時間:約5時間22分
邪宗縁起十四の乙女久田姫は古い物語を読んでいる。 (……そは許婚ある若き女子のいとも恐ろしき罪なりけり……) 「姫やどうぞ読まないでおくれ。妾聞きたくはないのだよ」 「いいえお姉様 …
妖異むだ言(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
幽霊の中で好いものは、牡丹燈籠のお米である。牡丹燈籠を下げて主人を案内して、恋の仲介をするあたりは、人情があって面白い。 不快な幽霊は小幡小平次で、気の毒な幽霊は小仏小平であろう。 …
読書目安時間:約3分
幽霊の中で好いものは、牡丹燈籠のお米である。牡丹燈籠を下げて主人を案内して、恋の仲介をするあたりは、人情があって面白い。 不快な幽霊は小幡小平次で、気の毒な幽霊は小仏小平であろう。 …
喇嘛の行衛(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
拉薩の街は賑かであった。 勿論それは毎日毎日観飽きている賑かさには相違ないが、しかし同時に其賑かさは新来の旅行客を喜ばすに足る大変珍奇い賑かさでもあった。市の真中に山のように喇嘛の …
読書目安時間:約20分
拉薩の街は賑かであった。 勿論それは毎日毎日観飽きている賑かさには相違ないが、しかし同時に其賑かさは新来の旅行客を喜ばすに足る大変珍奇い賑かさでもあった。市の真中に山のように喇嘛の …
柳営秘録かつえ蔵(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
天保元年正月五日、場所は浅草、日は午後、人の出盛る時刻であった。大道手品師の鬼小僧、傴僂で片眼で無類の醜男、一見すると五十歳ぐらい、その実年は二十歳なのであった。 「浅草名物鬼小僧 …
読書目安時間:約26分
天保元年正月五日、場所は浅草、日は午後、人の出盛る時刻であった。大道手品師の鬼小僧、傴僂で片眼で無類の醜男、一見すると五十歳ぐらい、その実年は二十歳なのであった。 「浅草名物鬼小僧 …
レモンの花の咲く丘へ(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間22分
この Exotic の一巻を 三郎兄上に献ず、 兄上は小弟を愛し小弟 を是認し小弟を保護し たまう一人の人なり。 序に代うるの詩二編 孤独の楽調 三味線の音が秋の都会を流れて行く。 …
読書目安時間:約2時間22分
この Exotic の一巻を 三郎兄上に献ず、 兄上は小弟を愛し小弟 を是認し小弟を保護し たまう一人の人なり。 序に代うるの詩二編 孤独の楽調 三味線の音が秋の都会を流れて行く。 …
ローマ法王と外交(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
帝国政府は今回ローマの法王庁へ原田健氏を初代公使として派遣することになったが時局がら洵に機宜を得た外交手段だと思う。 この機会に歴代羅馬法王のうち特にすぐれた外交家について検討を加 …
読書目安時間:約11分
帝国政府は今回ローマの法王庁へ原田健氏を初代公使として派遣することになったが時局がら洵に機宜を得た外交手段だと思う。 この機会に歴代羅馬法王のうち特にすぐれた外交家について検討を加 …
わかりきった話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
探偵小説が一時より衰えたことは争われない。 雑誌が少くなった。大衆雑誌へもあまり探偵小説を掲載しなくなった。新聞へはほとんど全く探偵小説をのせなくなった。単行本も出さなくなった。 …
読書目安時間:約3分
探偵小説が一時より衰えたことは争われない。 雑誌が少くなった。大衆雑誌へもあまり探偵小説を掲載しなくなった。新聞へはほとんど全く探偵小説をのせなくなった。単行本も出さなくなった。 …
“国枝史郎”について
は日本の小説家。怪奇・幻想・耽美的な伝奇小説の書き手。他に探偵小説、戯曲なども執筆。現在の長野県茅野市出身。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
“国枝史郎”と年代が近い著者
きょうが命日(10月12日)
アナトール・フランス(1924年)
浅沼稲次郎(1960年)
今月で生誕X十年
今月で没後X十年
総生寛(没後130年)
秋月種樹(没後120年)
アナトール・フランス(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
高村光雲(没後90年)
浅野正恭(没後70年)
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)