萩原朔太郎
1886.11.01 〜 1942.05.11
“萩原朔太郎”に特徴的な語句
捉
聯想
如何
瞳孔
漸
侘
瞑想
生涯
正
掴
抒情詩
聴
翼
範疇
空洞
珈琲店
浪
僅
匂
可憐
耽
夜
嫌
稀
殆
智慧
沁々
滑稽
接吻
扉
所詮
懐中
煩瑣
甚
生
臭
亡
何所
賑
蕭条
蒲公英
荒寥
芭蕉
思惟
強
嬉
広茫
土
生命
為
著者としての作品一覧
愛の詩集:01 孝子実伝(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ちちのみの父を負ふもの ひとのみの肉と骨とを負ふもの きみはゆくゆく涙をながし そのあつき氷を踏み 夜明けむとするふるさとに あらゆるものを血まみれにする 萩原朔太郎 …
読書目安時間:約1分
ちちのみの父を負ふもの ひとのみの肉と骨とを負ふもの きみはゆくゆく涙をながし そのあつき氷を踏み 夜明けむとするふるさとに あらゆるものを血まみれにする 萩原朔太郎 …
愛の詩集:04 愛の詩集の終りに(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
私の友人、室生犀星の芸術とその人物に就いて、悉しく私の記録を認めるならば、ここに私は一冊の書物を編みあげねばならない。それほど私は彼に就いて多くを知りすぎて居る。それほど私と彼とは …
読書目安時間:約10分
私の友人、室生犀星の芸術とその人物に就いて、悉しく私の記録を認めるならば、ここに私は一冊の書物を編みあげねばならない。それほど私は彼に就いて多くを知りすぎて居る。それほど私と彼とは …
青猫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間26分
◉ 私の情緒は、激情といふ範疇に屬しない。むしろそれはしづかな靈魂ののすたるぢやであり、かの春の夜に聽く横笛のひびきである。 ある人は私の詩を官能的であるといふ。或はさういふものが …
読書目安時間:約1時間26分
◉ 私の情緒は、激情といふ範疇に屬しない。むしろそれはしづかな靈魂ののすたるぢやであり、かの春の夜に聽く横笛のひびきである。 ある人は私の詩を官能的であるといふ。或はさういふものが …
秋(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
白雲のゆききもしげき山の端に 旅びとの群はせはしなく その脚もとの流水も しんしんめんめんと流れたり ひそかに草に手をあてて すぎ去るものをうれひいづ わがつむ花は時無草の白きなれ …
読書目安時間:約1分
白雲のゆききもしげき山の端に 旅びとの群はせはしなく その脚もとの流水も しんしんめんめんと流れたり ひそかに草に手をあてて すぎ去るものをうれひいづ わがつむ花は時無草の白きなれ …
秋と漫歩(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
四季を通じて、私は秋という季節が一番好きである。もっともこれは、たいていの人に共通の好みであろう。元来日本という国は、気候的にあまり住みよい国ではない。夏は湿気が多く、蒸暑いことで …
読書目安時間:約4分
四季を通じて、私は秋という季節が一番好きである。もっともこれは、たいていの人に共通の好みであろう。元来日本という国は、気候的にあまり住みよい国ではない。夏は湿気が多く、蒸暑いことで …
秋の日(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
眼を惱む山雀の 愁を分けて、秋の日 乳母の里、梨寺に 稚日想をなやみぬ 花びら 地に落つる音 芥子ちるか 秋なるに はた山なるに いと淋しや 宵、また籠をいだいて 憂ひぬ、鳥の病に …
読書目安時間:約1分
眼を惱む山雀の 愁を分けて、秋の日 乳母の里、梨寺に 稚日想をなやみぬ 花びら 地に落つる音 芥子ちるか 秋なるに はた山なるに いと淋しや 宵、また籠をいだいて 憂ひぬ、鳥の病に …
芥川君との交際について(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
芥川君と僕との交際は、死前わづか二三年位であつたが、質的には可なり深いところまで突つ込んだ交際だつた。「君と早く、もつと前から知り合ひになればよかつた。」と、芥川君も度々言つた。僕 …
読書目安時間:約5分
芥川君と僕との交際は、死前わづか二三年位であつたが、質的には可なり深いところまで突つ込んだ交際だつた。「君と早く、もつと前から知り合ひになればよかつた。」と、芥川君も度々言つた。僕 …
芥川竜之介の死(旧字旧仮名)
読書目安時間:約30分
七月二十五日、自分は湯ヶ島温泉の落合樓に滯在してゐた。朝飯の膳に向つた時、女中がさりげない風でたづねた。 「小説家の芥川といふ人を知つてゐますか?」 「うん、知つてる。それがどうし …
読書目安時間:約30分
七月二十五日、自分は湯ヶ島温泉の落合樓に滯在してゐた。朝飯の膳に向つた時、女中がさりげない風でたづねた。 「小説家の芥川といふ人を知つてゐますか?」 「うん、知つてる。それがどうし …
芥川竜之介の追憶(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
この頃になつて、僕は始めて芥川君の全集を通讀した。ずゐぶん僕は、生前に於て氏と議論をし、時には爭鬪的にまで、意見の相違を鬪はしたりした。だが實際のところを告白すると、僕はあまり多く …
読書目安時間:約6分
この頃になつて、僕は始めて芥川君の全集を通讀した。ずゐぶん僕は、生前に於て氏と議論をし、時には爭鬪的にまで、意見の相違を鬪はしたりした。だが實際のところを告白すると、僕はあまり多く …
足利尊氏(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は日本の英雄中では、足利尊氏が最も偉大な人物だと思つて居る。但し此所で偉大といふ意味は、必しも英雄としての偉大さを言ふのではない。英雄としての價値要素は、武將プラス政治家の綜合天 …
読書目安時間:約3分
僕は日本の英雄中では、足利尊氏が最も偉大な人物だと思つて居る。但し此所で偉大といふ意味は、必しも英雄としての偉大さを言ふのではない。英雄としての價値要素は、武將プラス政治家の綜合天 …
雨の降る日:(兄のうたへる)(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雨の降る日の縁端に わが弟はめんこ打つ めんこの繪具うす青く いつもにじめる指のさき 兄も哀しくなりにけり 雨の降る日のつれづれに 客間の隅でひそひそと わが妹のひとり言 なにが悲 …
読書目安時間:約1分
雨の降る日の縁端に わが弟はめんこ打つ めんこの繪具うす青く いつもにじめる指のさき 兄も哀しくなりにけり 雨の降る日のつれづれに 客間の隅でひそひそと わが妹のひとり言 なにが悲 …
ありや二曲(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
× えこそ忘れめや そのくちづけのあとやさき 流るる水をせき止めし わかれの際の青き月の出 × 雨落し來らんとして 沖につばなの花咲き 海月は渚にきて青く光れり 砂丘に登りて遠きを …
読書目安時間:約1分
× えこそ忘れめや そのくちづけのあとやさき 流るる水をせき止めし わかれの際の青き月の出 × 雨落し來らんとして 沖につばなの花咲き 海月は渚にきて青く光れり 砂丘に登りて遠きを …
石段上りの街(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
私の郷里は前橋であるから、自然子供の時から、伊香保へは度々行つて居る。で「伊香保はどんな所です」といふやうな質問を皆から受けるが、どうもかうした質問に対してはつきりした答をすること …
読書目安時間:約12分
私の郷里は前橋であるから、自然子供の時から、伊香保へは度々行つて居る。で「伊香保はどんな所です」といふやうな質問を皆から受けるが、どうもかうした質問に対してはつきりした答をすること …
田舎の時計他十二篇(新字旧仮名)
読書目安時間:約32分
海を越えて、人人は向うに「ある」ことを信じてゐる。島が、陸が、新世界が。しかしながら海は、一の広茫(こうぼう)とした眺(なが)めにすぎない。無限に、つかみどころがなく、単調で飽きつ …
読書目安時間:約32分
海を越えて、人人は向うに「ある」ことを信じてゐる。島が、陸が、新世界が。しかしながら海は、一の広茫(こうぼう)とした眺(なが)めにすぎない。無限に、つかみどころがなく、単調で飽きつ …
岩清水(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
いろ青ざめて谷間をはしり、 夕ぐれかけてただひとり、 岩をよぢのぼれるの手は鋼鐵なり、 ときすべて液體空氣の觸覺に、 山山は茜さし、 遠樹に光る、 わが偏狂の銀の魚、 したたるいた …
読書目安時間:約1分
いろ青ざめて谷間をはしり、 夕ぐれかけてただひとり、 岩をよぢのぼれるの手は鋼鐵なり、 ときすべて液體空氣の觸覺に、 山山は茜さし、 遠樹に光る、 わが偏狂の銀の魚、 したたるいた …
岩魚:――哀しきわがエレナにささぐ――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
瀬川ながれを早み、 しんしんと魚らくだる、 ああ岩魚ぞはしる、 谷あひふかに、秋の風光り、 紫苑はなしぼみ、 木末にうれひをかく、 えれなよ、 信仰は空に影さす、 かならずみよ、お …
読書目安時間:約1分
瀬川ながれを早み、 しんしんと魚らくだる、 ああ岩魚ぞはしる、 谷あひふかに、秋の風光り、 紫苑はなしぼみ、 木末にうれひをかく、 えれなよ、 信仰は空に影さす、 かならずみよ、お …
ウォーソン夫人の黒猫(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ウォーソン夫人は頭脳もよく、相当に教育もある婦人であった。それで博士の良人が死んで以来、或る学術研究会の調査部に入り、図書の整理係として働らいていた。彼女は毎朝九時に出勤し、午後の …
読書目安時間:約14分
ウォーソン夫人は頭脳もよく、相当に教育もある婦人であった。それで博士の良人が死んで以来、或る学術研究会の調査部に入り、図書の整理係として働らいていた。彼女は毎朝九時に出勤し、午後の …
浮名(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
浮名をいとはば舟にのれ、 舟はながれゆく、 いま櫓櫂の音を絶え、 風も雨も晴れしあけぼのに、 よしあしぐさのみだるる渚をすぎ、 舟はすいすいと流れゆくなり。 ああ舟にのりて行かば、 …
読書目安時間:約1分
浮名をいとはば舟にのれ、 舟はながれゆく、 いま櫓櫂の音を絶え、 風も雨も晴れしあけぼのに、 よしあしぐさのみだるる渚をすぎ、 舟はすいすいと流れゆくなり。 ああ舟にのりて行かば、 …
うすやみ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
うすやみに光れる皿あり 皿の底に蟲かくれ居て啜り鳴く 晝はさびしく居間にひそみて 鉛筆の心をけづるに疲れ 夜は酒場の椅子にもたれて 想ひにひたせる我が身の上こそ悲しけれ …
読書目安時間:約1分
うすやみに光れる皿あり 皿の底に蟲かくれ居て啜り鳴く 晝はさびしく居間にひそみて 鉛筆の心をけづるに疲れ 夜は酒場の椅子にもたれて 想ひにひたせる我が身の上こそ悲しけれ …
厩(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
高原の空に風光り、 秋はやふかみて、 鑛脈のしづくのごとく、 ひねもす銀針の落つるをおぼえ、 ゆびにとげいたみ、 せちにひそかに、 いまわれの瞳の閉づるを欲す。 ここは利根川、 そ …
読書目安時間:約1分
高原の空に風光り、 秋はやふかみて、 鑛脈のしづくのごとく、 ひねもす銀針の落つるをおぼえ、 ゆびにとげいたみ、 せちにひそかに、 いまわれの瞳の閉づるを欲す。 ここは利根川、 そ …
永遠の詩人:宿命生涯を貫く(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は少年の時、島崎藤村氏と薄田泣菫氏の詩を愛讀した。やや長じて後は、蒲原有明氏や北原白秋氏の作を讀んだ。 藤村氏と泣菫氏とは、少年時代の僕にとつて共に同じやうに好きであつた。しかし …
読書目安時間:約3分
僕は少年の時、島崎藤村氏と薄田泣菫氏の詩を愛讀した。やや長じて後は、蒲原有明氏や北原白秋氏の作を讀んだ。 藤村氏と泣菫氏とは、少年時代の僕にとつて共に同じやうに好きであつた。しかし …
永日和讃(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ひとのいのりはみなみをむき、 むぎはいつしん、 うをはいつしん、 われはしんじつ、 そらにうかびて、 ゆびとゆびと哀しみつれ、 たましひは ねもごろにほとけをしたふ。 …
読書目安時間:約1分
ひとのいのりはみなみをむき、 むぎはいつしん、 うをはいつしん、 われはしんじつ、 そらにうかびて、 ゆびとゆびと哀しみつれ、 たましひは ねもごろにほとけをしたふ。 …
易者の哲理(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
すべての易者たちは、彼の神祕な筮竹を探りながら、威嚇するやうな調子で言ふ。人間の一生は、天に於ける九星の宿位によつて、生れた最初の日から死ぬ時まで、必然に避けがたく豫定されてる。そ …
読書目安時間:約3分
すべての易者たちは、彼の神祕な筮竹を探りながら、威嚇するやうな調子で言ふ。人間の一生は、天に於ける九星の宿位によつて、生れた最初の日から死ぬ時まで、必然に避けがたく豫定されてる。そ …
易者の哲理(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
すべての易者たちは、彼の神秘な筮竹を探りながら、威嚇するやうな調子で言ふ。人間の一生は、天に於ける九星の宿位によつて、生れた最初の日から死ぬ時まで、必然に避けがたく予定されてる。そ …
読書目安時間:約3分
すべての易者たちは、彼の神秘な筮竹を探りながら、威嚇するやうな調子で言ふ。人間の一生は、天に於ける九星の宿位によつて、生れた最初の日から死ぬ時まで、必然に避けがたく予定されてる。そ …
遠望(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
さばかり悲しみたまふとや、 わが長く叫べること、 煉瓦の門に入りしこと、 路上に草をかみしこと、 なべてその日を忘れえず、 いはむや君が來し方を指さし、 かの遠望をしたたむる、 あ …
読書目安時間:約1分
さばかり悲しみたまふとや、 わが長く叫べること、 煉瓦の門に入りしこと、 路上に草をかみしこと、 なべてその日を忘れえず、 いはむや君が來し方を指さし、 かの遠望をしたたむる、 あ …
大船駅で(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
例年の如く詩話會の旅行をする。一時二〇分大船經過の列車で行くから、同驛にて待ち合せよといふ通知が佐藤惣之助君からきた。丁度旅行に出たいと思つてゐた矢先なので、早速同行することに決心 …
読書目安時間:約4分
例年の如く詩話會の旅行をする。一時二〇分大船經過の列車で行くから、同驛にて待ち合せよといふ通知が佐藤惣之助君からきた。丁度旅行に出たいと思つてゐた矢先なので、早速同行することに決心 …
幼き妹に(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
いもうとよ、 そのいぢらしき顏をあげ。 みよ兄は手に水桃をささげもち、 いつさんにきみがかたへにしたひよる、 この東京の日くれどき、 兄の戀魚は青らみてゆきて、 日毎にいたみしたた …
読書目安時間:約1分
いもうとよ、 そのいぢらしき顏をあげ。 みよ兄は手に水桃をささげもち、 いつさんにきみがかたへにしたひよる、 この東京の日くれどき、 兄の戀魚は青らみてゆきて、 日毎にいたみしたた …
合唱(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
にくしん、 にくしん、 たれか肉身をおとろへしむ、 既にうぐひす落ちてやぶれ、 石やぶれ、 地はするどき白金なるに、 にくしん、 にくしん、 にくしんは蒼天にいぢらしき涙をながす、 …
読書目安時間:約1分
にくしん、 にくしん、 たれか肉身をおとろへしむ、 既にうぐひす落ちてやぶれ、 石やぶれ、 地はするどき白金なるに、 にくしん、 にくしん、 にくしんは蒼天にいぢらしき涙をながす、 …
家庭の痛恨(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
西洋の風習では、その妻が良人と共に社交に出で、多くの異性と舞踏をし、宴会の席上で酒をすすめ、ピアノを弾き、唄をうたひ、文学を論じ、時に艶めかしき媚態を示して、人々の注意と愛情を惹か …
読書目安時間:約3分
西洋の風習では、その妻が良人と共に社交に出で、多くの異性と舞踏をし、宴会の席上で酒をすすめ、ピアノを弾き、唄をうたひ、文学を論じ、時に艶めかしき媚態を示して、人々の注意と愛情を惹か …
悲しい新宿(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
世田谷へ移つてから、新宿へ出る機會が多くなつた。新宿を初めて見た時、田圃の中に建設された、一夜作りの大都會を見るやうな氣がした。周圍は眞闇の田舍道で、田圃の中に蛙が鳴いてる。そんな …
読書目安時間:約3分
世田谷へ移つてから、新宿へ出る機會が多くなつた。新宿を初めて見た時、田圃の中に建設された、一夜作りの大都會を見るやうな氣がした。周圍は眞闇の田舍道で、田圃の中に蛙が鳴いてる。そんな …
悲しき決闘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
雜誌「文藝」に發表した僕の評論(詩に告別した室生犀星君へ)は、意外にも文壇の人々に反響した。正宗白鳥氏と、川端康成氏と、それから他の二三氏とが、新聞紙上にこれを論じ、そろつてみな僕 …
読書目安時間:約7分
雜誌「文藝」に發表した僕の評論(詩に告別した室生犀星君へ)は、意外にも文壇の人々に反響した。正宗白鳥氏と、川端康成氏と、それから他の二三氏とが、新聞紙上にこれを論じ、そろつてみな僕 …
神に捧ぐる歌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あしきおこなひをする勿れ われはやさしきひとなれば よるも楊柳の木影にうち伏し ひとり居てダビテの詩をうたひなむ われは巡禮 悲しき旅路にあるとも わが身にそへる星をたのみて よこ …
読書目安時間:約1分
あしきおこなひをする勿れ われはやさしきひとなれば よるも楊柳の木影にうち伏し ひとり居てダビテの詩をうたひなむ われは巡禮 悲しき旅路にあるとも わが身にそへる星をたのみて よこ …
歓魚夜曲(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
光り蟲しげく跳びかへる 夜の海の青き面をや眺むらむ あてなき瞳遠く放たれ 息らひたまふ君が側へに寄りそへるに 浪はやさしくさしきたり またひき去る浪 遠き渚に海月のひもはうちふるへ …
読書目安時間:約1分
光り蟲しげく跳びかへる 夜の海の青き面をや眺むらむ あてなき瞳遠く放たれ 息らひたまふ君が側へに寄りそへるに 浪はやさしくさしきたり またひき去る浪 遠き渚に海月のひもはうちふるへ …
玩具箱:―人形及び動物のいろいろとその生活―(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
青い服をきた獵人が、 釣竿のやうなてつぽうをかついで、 わん、つう、わん、つう、 このへんにそつくりかへつた主人のうしろから、 木製のしなびきつた犬が、 尻尾のさきをひよこつかせ、 …
読書目安時間:約1分
青い服をきた獵人が、 釣竿のやうなてつぽうをかついで、 わん、つう、わん、つう、 このへんにそつくりかへつた主人のうしろから、 木製のしなびきつた犬が、 尻尾のさきをひよこつかせ、 …
感謝(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
野のはて夕暮雲かへりて しだいに落ちくる夕雲雀の 有心の調さへしづみゆけば かすかに頬うつ香ひありて 夜の闇頒ちて幕くだる。 自然は地にみつ光なりや 今日はめぐりて山に入れど 見よ …
読書目安時間:約1分
野のはて夕暮雲かへりて しだいに落ちくる夕雲雀の 有心の調さへしづみゆけば かすかに頬うつ香ひありて 夜の闇頒ちて幕くだる。 自然は地にみつ光なりや 今日はめぐりて山に入れど 見よ …
感傷の塔(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
塔は額にきづかる、 螢をもつて窓をあかるくし、 塔はするどく青らみ空に立つ、 ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、 肉やぶれいたみふんすゐすれども、 なやましき感傷の塔は光に向ひて伸 …
読書目安時間:約1分
塔は額にきづかる、 螢をもつて窓をあかるくし、 塔はするどく青らみ空に立つ、 ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、 肉やぶれいたみふんすゐすれども、 なやましき感傷の塔は光に向ひて伸 …
蒲原有明氏の近況を聞いて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
日本の詩壇は、過去に於て凡そ三期の峠を越して來てゐる。第一期は所謂新體詩時代であつて、その完成者は島崎藤村氏等である。第二期は新體詩から自由詩へ、浪漫派から象徴派に移つた過渡期であ …
読書目安時間:約4分
日本の詩壇は、過去に於て凡そ三期の峠を越して來てゐる。第一期は所謂新體詩時代であつて、その完成者は島崎藤村氏等である。第二期は新體詩から自由詩へ、浪漫派から象徴派に移つた過渡期であ …
蒲原有明に帰れ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
僕、先月末出京しました。東京は我があこがれの都。雪のふる夜も青猫の屋根を這ふ大都会。いまは工場と工場との露地の間、職工の群がつてゐる煤煙の街に住んでゐます。黒い煤煙と煉瓦の家の並ん …
読書目安時間:約4分
僕、先月末出京しました。東京は我があこがれの都。雪のふる夜も青猫の屋根を這ふ大都会。いまは工場と工場との露地の間、職工の群がつてゐる煤煙の街に住んでゐます。黒い煤煙と煉瓦の家の並ん …
記憶(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
記憶をたとへてみれば 記憶は雪のふるやうなもので しづかに生活の過去につもるうれしさ。 記憶は見知らぬ波止場をあるいて にぎやかな夜霧の海に ぽうぽうと鳴る汽笛をきいた。 記憶はほ …
読書目安時間:約1分
記憶をたとへてみれば 記憶は雪のふるやうなもので しづかに生活の過去につもるうれしさ。 記憶は見知らぬ波止場をあるいて にぎやかな夜霧の海に ぽうぽうと鳴る汽笛をきいた。 記憶はほ …
ぎたる弾くひと(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ぎたる彈く、 ぎたる彈く、 ひとりしおもへば、 たそがれは音なくあゆみ、 石造の都會、 またその上を走る汽車、電車のたぐひ、 それら音なくして過ぎゆくごとし、 わが愛のごときも永遠 …
読書目安時間:約1分
ぎたる彈く、 ぎたる彈く、 ひとりしおもへば、 たそがれは音なくあゆみ、 石造の都會、 またその上を走る汽車、電車のたぐひ、 それら音なくして過ぎゆくごとし、 わが愛のごときも永遠 …
喫茶店にて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
先日大阪の知人が訪ねて来たので、銀座の相当な喫茶店へ案内した。学生のすくない大阪には、本格的の喫茶店がなく、珍らしい土産話と思つたからである。果して知人は珍らしがり、次のやうな感想 …
読書目安時間:約2分
先日大阪の知人が訪ねて来たので、銀座の相当な喫茶店へ案内した。学生のすくない大阪には、本格的の喫茶店がなく、珍らしい土産話と思つたからである。果して知人は珍らしがり、次のやうな感想 …
祈祷(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あなたのめぐみをもて雪をふらしてください、 あなたのふしぎをもて牢獄の窓をあけてください、 あなたのおほみこころのみまへに、 わたくしの懺悔をささげまつる。亞眠。 —淨罪詩篇— …
読書目安時間:約1分
あなたのめぐみをもて雪をふらしてください、 あなたのふしぎをもて牢獄の窓をあけてください、 あなたのおほみこころのみまへに、 わたくしの懺悔をささげまつる。亞眠。 —淨罪詩篇— …
祈祷:――敍情小曲――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
黄菊はすでに散つてしまつた 漕手よ 船路を遠くかへつてくる時 さびしい海鳥はますとに飛びかひ 日は憂鬱の浪にただよふ。 漕手よ はや君の家の窓に燈火はつけられ 妹はひとり庭にたたず …
読書目安時間:約1分
黄菊はすでに散つてしまつた 漕手よ 船路を遠くかへつてくる時 さびしい海鳥はますとに飛びかひ 日は憂鬱の浪にただよふ。 漕手よ はや君の家の窓に燈火はつけられ 妹はひとり庭にたたず …
君が家(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああ戀人の家なれば 幾度そこを行ききずり 空しくかへるたそがれの 雲つれなきを恨みんや 水は流れて南する ゆかしき庭にそそげども たが放ちたる花中の 艶なる戀もしらでやは 垣間み見 …
読書目安時間:約1分
ああ戀人の家なれば 幾度そこを行ききずり 空しくかへるたそがれの 雲つれなきを恨みんや 水は流れて南する ゆかしき庭にそそげども たが放ちたる花中の 艶なる戀もしらでやは 垣間み見 …
郷愁の詩人 与謝蕪村(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間16分
蕪村や芭蕉の俳句に関しては、近頃さかんに多くの研究文献が輩出している。こうした時代において、著者の如く専門の俳人でもなく、専門の研究家でもない一詩人が、この種の著書をあらわすという …
読書目安時間:約1時間16分
蕪村や芭蕉の俳句に関しては、近頃さかんに多くの研究文献が輩出している。こうした時代において、著者の如く専門の俳人でもなく、専門の研究家でもない一詩人が、この種の著書をあらわすという …
橋上:――詩壇の議論家に捧ぐ――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
支那のある水郷地方。 白柳が枝をたれて、陽春の長閑かな水が、橋の下をいういうと流れてゐる。 橋の上に一人の男がたたずんでゐる。男はぼんやりと考へながら、川の流れを見つめてゐた。 「 …
読書目安時間:約2分
支那のある水郷地方。 白柳が枝をたれて、陽春の長閑かな水が、橋の下をいういうと流れてゐる。 橋の上に一人の男がたたずんでゐる。男はぼんやりと考へながら、川の流れを見つめてゐた。 「 …
供養(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
女は光る魚介のたぐひ みなそこ深くひそめる聖像 われ手を伸ぶれど浮ばせ給はず しきりにみどりの血を流し われはおんまへに禮拜す 遠くよりしも歩ませ給へば たちまち路上に震動し 息絶 …
読書目安時間:約1分
女は光る魚介のたぐひ みなそこ深くひそめる聖像 われ手を伸ぶれど浮ばせ給はず しきりにみどりの血を流し われはおんまへに禮拜す 遠くよりしも歩ませ給へば たちまち路上に震動し 息絶 …
クリスマス(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
クリスマスとは何ぞや 我が隣の子の羨ましきに そが高き窓をのぞきたり。 飾れる部屋部屋 我が知らぬ西洋の怪しき玩具と 銀紙のかがやく星星。 我れにも欲しく 我が家にもクリスマスのあ …
読書目安時間:約1分
クリスマスとは何ぞや 我が隣の子の羨ましきに そが高き窓をのぞきたり。 飾れる部屋部屋 我が知らぬ西洋の怪しき玩具と 銀紙のかがやく星星。 我れにも欲しく 我が家にもクリスマスのあ …
月蝕皆既(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
みなそこに魚の哀傷、 われに涙のいちじるく、 きみはきみとて、 ましろき乳房をぬらさむとする。 この日ごろつかふことなく、 ひさしくわれら靈智にひたる、 すでに長き祈祷ををへ、 い …
読書目安時間:約1分
みなそこに魚の哀傷、 われに涙のいちじるく、 きみはきみとて、 ましろき乳房をぬらさむとする。 この日ごろつかふことなく、 ひさしくわれら靈智にひたる、 すでに長き祈祷ををへ、 い …
決闘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
空と地とに緑はうまる、 緑をふみてわが行くところ、 靴は光る魚ともなり、 よろこび樹蔭におよぎ、 手に輕き薄刃はさげられたり。 ああ、するどき薄刃をさげ、 左手をもつて敵手に揖す、 …
読書目安時間:約1分
空と地とに緑はうまる、 緑をふみてわが行くところ、 靴は光る魚ともなり、 よろこび樹蔭におよぎ、 手に輕き薄刃はさげられたり。 ああ、するどき薄刃をさげ、 左手をもつて敵手に揖す、 …
小泉八雲の家庭生活:室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
万葉集にある浦島の長歌を愛誦し、日夜低吟しながら逍遥していたという小泉八雲は、まさしく彼自身が浦島の子であった。希臘イオニア列島の一つである地中海の一孤島に生れ、愛蘭土で育ち、仏蘭 …
読書目安時間:約33分
万葉集にある浦島の長歌を愛誦し、日夜低吟しながら逍遥していたという小泉八雲は、まさしく彼自身が浦島の子であった。希臘イオニア列島の一つである地中海の一孤島に生れ、愛蘭土で育ち、仏蘭 …
郊外(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
かしこに煙の流るる 空はつめたくして 草はあたたかに萌えたり 手はくみて歩めども よそゆきの着物のにほひ侘しきに 秋はうららに落ち來り 日向に幹木の愁ちらばふ 晝餉どき 停車場のほ …
読書目安時間:約1分
かしこに煙の流るる 空はつめたくして 草はあたたかに萌えたり 手はくみて歩めども よそゆきの着物のにほひ侘しきに 秋はうららに落ち來り 日向に幹木の愁ちらばふ 晝餉どき 停車場のほ …
交歓記誌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
みどりに深き手を泳がせ 涼しきところに齒をかくせ いま風ながれ 風景は白き帆をはらむ きみはふんすゐのほとりに家畜を先導し きみは舞妓たちを配列し きみはあづまやに銀のタクトをとれ …
読書目安時間:約1分
みどりに深き手を泳がせ 涼しきところに齒をかくせ いま風ながれ 風景は白き帆をはらむ きみはふんすゐのほとりに家畜を先導し きみは舞妓たちを配列し きみはあづまやに銀のタクトをとれ …
孝子実伝:―室生犀星に―(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ちちのみの父を負ふもの、 ひとのみの肉と骨とを負ふもの、 ああ、なんぢの精氣をもて、 この師走中旬を超え、 ゆくゆく靈魚を獲んとはするか、 みよ水底にひそめるものら、 その瞳はひら …
読書目安時間:約1分
ちちのみの父を負ふもの、 ひとのみの肉と骨とを負ふもの、 ああ、なんぢの精氣をもて、 この師走中旬を超え、 ゆくゆく靈魚を獲んとはするか、 みよ水底にひそめるものら、 その瞳はひら …
鉱夫の歌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
めざめよ、 み空の金鑛、 かなしくうたうたひ、 なみだたれ、 われのみ土地を掘らんとす、 土地は黥青、 なやましきしやべるぞ光る。 ああくらき緑をやぶり、 天上よりきたるの光、 い …
読書目安時間:約1分
めざめよ、 み空の金鑛、 かなしくうたうたひ、 なみだたれ、 われのみ土地を掘らんとす、 土地は黥青、 なやましきしやべるぞ光る。 ああくらき緑をやぶり、 天上よりきたるの光、 い …
古盃(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
小人若うて道に倦んじ 走りて隱者を得しが如く 今われ山路の歸さ來つつ 木蔭に形よき汝をえたり。 表面は蛟龍雲を吐いて 神有の祕密をそめて見るや 裏面には伶人額をたれて 物思ひ煩ふな …
読書目安時間:約1分
小人若うて道に倦んじ 走りて隱者を得しが如く 今われ山路の歸さ來つつ 木蔭に形よき汝をえたり。 表面は蛟龍雲を吐いて 神有の祕密をそめて見るや 裏面には伶人額をたれて 物思ひ煩ふな …
歳末に近き或る冬の日の日記(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
詩人協會の用件にて高村光太郎氏を訪ふべく、前夜福士幸次郎君と約束がしてあつたので、萬世驛のミカドで待合せをする。時計は午後一時五分前、約束より五分早く、福士君はまだ見えてゐない。福 …
読書目安時間:約3分
詩人協會の用件にて高村光太郎氏を訪ふべく、前夜福士幸次郎君と約束がしてあつたので、萬世驛のミカドで待合せをする。時計は午後一時五分前、約束より五分早く、福士君はまだ見えてゐない。福 …
酒場にあつまる:――春のうた――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
酒をのんでゐるのはたのしいことだ、 すべての善良な心をもつひとびとのために、 酒場の卓はみがかれてゐる、 酒場の女たちの愛らしく見えることは、 どんなに君たちの心を正直にし、 君た …
読書目安時間:約1分
酒をのんでゐるのはたのしいことだ、 すべての善良な心をもつひとびとのために、 酒場の卓はみがかれてゐる、 酒場の女たちの愛らしく見えることは、 どんなに君たちの心を正直にし、 君た …
酒に就いて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約11分
酒といふものが、人身の健康に有害であるか無害であるか、もとより私には醫學上の批判ができない。だが私自身の場合でいへば、たしかに疑ひもなく有益であり、如何なる他の醫藥にもまさつて、私 …
読書目安時間:約11分
酒といふものが、人身の健康に有害であるか無害であるか、もとより私には醫學上の批判ができない。だが私自身の場合でいへば、たしかに疑ひもなく有益であり、如何なる他の醫藥にもまさつて、私 …
山頂(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
かなしければぞ、 眺め一時にひらかれ、 あがつまの山なみ青く、 いただきは額に光る。 ああ尾ばな藤ばかますでに色あせ、 手にも料紙はおもたくさげられ、 夏はやおとろへ、 山頂は風に …
読書目安時間:約1分
かなしければぞ、 眺め一時にひらかれ、 あがつまの山なみ青く、 いただきは額に光る。 ああ尾ばな藤ばかますでに色あせ、 手にも料紙はおもたくさげられ、 夏はやおとろへ、 山頂は風に …
三人目の患者(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
三人目の患者は、 いかにもつかれきつた風をして、 べろりと舌をたらした、 お醫者が小鼻をとんがらして、 『氣分はどうです』 『よろしい』 『食物は』 『おいしい』 『それから……』 …
読書目安時間:約1分
三人目の患者は、 いかにもつかれきつた風をして、 べろりと舌をたらした、 お醫者が小鼻をとんがらして、 『氣分はどうです』 『よろしい』 『食物は』 『おいしい』 『それから……』 …
散文詩・詩的散文(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間2分
SENTIMENTALISM センチメンタリズムの極致は、ゴーガンだ、ゴツホだ、ビアゼレだ、グリークだ、狂氣だ、ラヂウムだ、螢だ、太陽だ、奇蹟だ、耶蘇だ、死だ。 死んで見給へ、屍蝋 …
読書目安時間:約1時間2分
SENTIMENTALISM センチメンタリズムの極致は、ゴーガンだ、ゴツホだ、ビアゼレだ、グリークだ、狂氣だ、ラヂウムだ、螢だ、太陽だ、奇蹟だ、耶蘇だ、死だ。 死んで見給へ、屍蝋 …
疾患光路(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
我れのゆく路、 菊を捧げてあゆむ路、 いつしん供養、 にくしんに血をしたたらすの路、 肉さかな、きやべつの路、 邪淫の路、 電車軌道のみちもせに、 犬、畜生をして純銀たらしむる、 …
読書目安時間:約1分
我れのゆく路、 菊を捧げてあゆむ路、 いつしん供養、 にくしんに血をしたたらすの路、 肉さかな、きやべつの路、 邪淫の路、 電車軌道のみちもせに、 犬、畜生をして純銀たらしむる、 …
詩に告別した室生犀星君へ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約10分
先に詩集「鐵集」で、これが最後の詩集であると序文した室生君は、いよいよ雜誌に公開して詩への告別を宣言した。感情詩社の昔から、僕と手をたづさへて詩壇に出て、最初の出發から今日まで、唯 …
読書目安時間:約10分
先に詩集「鐵集」で、これが最後の詩集であると序文した室生君は、いよいよ雜誌に公開して詩への告別を宣言した。感情詩社の昔から、僕と手をたづさへて詩壇に出て、最初の出發から今日まで、唯 …
詩の原理(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間7分
本書を書き出してから、自分は寝食を忘れて兼行し、三カ月にして脱稿した。しかしこの思想をまとめる為には、それよりもずっと永い間、殆ど約十年間を要した。健脳な読者の中には、ずっと昔、自 …
読書目安時間:約5時間7分
本書を書き出してから、自分は寝食を忘れて兼行し、三カ月にして脱稿した。しかしこの思想をまとめる為には、それよりもずっと永い間、殆ど約十年間を要した。健脳な読者の中には、ずっと昔、自 …
詩の翻訳について(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
宮森麻太郎氏の英訳した俳句は、外国で非常に好評ださうであるが、その訳詩を通じて、外国人が果して何を感銘したものか疑問である。おそらくは歌劇ミカドを見物して、日本人を理解したといふ程 …
読書目安時間:約15分
宮森麻太郎氏の英訳した俳句は、外国で非常に好評ださうであるが、その訳詩を通じて、外国人が果して何を感銘したものか疑問である。おそらくは歌劇ミカドを見物して、日本人を理解したといふ程 …
秋日行語:〔菊もうららに〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
菊もうららに咲きいでたれど 我身は砂丘に寄りて悲しめり さびしや海邊のおくつきに 路傍の草を手向くること このわびしきたはむれに ひとり樹木にすがりつき たましひも消えよとむせびな …
読書目安時間:約1分
菊もうららに咲きいでたれど 我身は砂丘に寄りて悲しめり さびしや海邊のおくつきに 路傍の草を手向くること このわびしきたはむれに ひとり樹木にすがりつき たましひも消えよとむせびな …
秋日行語:〔ちまた、ちまたを歩むとも〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ちまた、ちまたを歩むとも ちまた、ちまたに散らばへる 秋の光をいかにせむ たそがれどきのさしぐめる 我が愁をばいかにせむ 捨身に思ふ我が身こそ びいどろ造りと成りてまし うすき女の …
読書目安時間:約1分
ちまた、ちまたを歩むとも ちまた、ちまたに散らばへる 秋の光をいかにせむ たそがれどきのさしぐめる 我が愁をばいかにせむ 捨身に思ふ我が身こそ びいどろ造りと成りてまし うすき女の …
宿酔(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
堪へがたき惡寒おぼえて ふとめざむれば室内の 壁わたる鈍き光や 障子を照らす光線の やや色づきて言ひ知らず ものうきけしき 物の香のただよふ 宿醉の胸苦し 腦は鉛の重たさに えたへ …
読書目安時間:約1分
堪へがたき惡寒おぼえて ふとめざむれば室内の 壁わたる鈍き光や 障子を照らす光線の やや色づきて言ひ知らず ものうきけしき 物の香のただよふ 宿醉の胸苦し 腦は鉛の重たさに えたへ …
宿命(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間18分
序に代へて 散文詩とは何だらうか。西洋近代に於けるその文學の創見者は、普通にボードレエルだと言はれてゐるが、彼によれば、一定の韻律法則を無視し、自由の散文形式で書きながら、しかも全 …
読書目安時間:約1時間18分
序に代へて 散文詩とは何だらうか。西洋近代に於けるその文學の創見者は、普通にボードレエルだと言はれてゐるが、彼によれば、一定の韻律法則を無視し、自由の散文形式で書きながら、しかも全 …
受難日(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
受難の日はいたる 主は遠き水上にありて 氷のうへよりあまた光る十字すべらせ 女はみな街路に裸形となり その素肌は黄金の林立する柱と化せり。 見よやわが十指は晶結し 背にくりいむは瀧 …
読書目安時間:約1分
受難の日はいたる 主は遠き水上にありて 氷のうへよりあまた光る十字すべらせ 女はみな街路に裸形となり その素肌は黄金の林立する柱と化せり。 見よやわが十指は晶結し 背にくりいむは瀧 …
純銀の賽(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
みよわが賽は空にあり、 空は透青、 白鳥はこてえぢのまどべに泳ぎ、 卓は一列、 同志の瞳は愛にもゆ。 みよわが賽は空にあり、 賽は純銀、 はあとの「A」は指にはじかれ、 緑卓のうへ …
読書目安時間:約1分
みよわが賽は空にあり、 空は透青、 白鳥はこてえぢのまどべに泳ぎ、 卓は一列、 同志の瞳は愛にもゆ。 みよわが賽は空にあり、 賽は純銀、 はあとの「A」は指にはじかれ、 緑卓のうへ …
春日(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
戀魚の身こそ哀しけれ、 いちにちいよすにもたれつつ、 ひくくかなづるまんどりん、 夕ぐれどきにかみいづる、 柴草の根はうす甘く、 せんなや出窓の菫さへ、 光り光りてたへがたし。 …
読書目安時間:約1分
戀魚の身こそ哀しけれ、 いちにちいよすにもたれつつ、 ひくくかなづるまんどりん、 夕ぐれどきにかみいづる、 柴草の根はうす甘く、 せんなや出窓の菫さへ、 光り光りてたへがたし。 …
春日詠嘆調(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああいかなればこそ、 きのふにかはるわが身の上とはなりもはてしぞ、 けふしもさくら芽をつのぐみ、 利根川のながれぼうぼうたれども、 あすは逢はれず、 あすのあすとてもいかであはれむ …
読書目安時間:約1分
ああいかなればこそ、 きのふにかはるわが身の上とはなりもはてしぞ、 けふしもさくら芽をつのぐみ、 利根川のながれぼうぼうたれども、 あすは逢はれず、 あすのあすとてもいかであはれむ …
純情小曲集:02 純情小曲集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約18分
北原白秋氏に捧ぐ 萩原の今ゐる二階家から本郷動坂あたりの町家の屋根が見え、木立を透いて赤い色の三角形の支那風な旗が、いつも行くごとに閃めいて見えた。このごろ木立の若葉が茂り合つたの …
読書目安時間:約18分
北原白秋氏に捧ぐ 萩原の今ゐる二階家から本郷動坂あたりの町家の屋根が見え、木立を透いて赤い色の三角形の支那風な旗が、いつも行くごとに閃めいて見えた。このごろ木立の若葉が茂り合つたの …
春昼:――敍情小曲――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
うぐひすは 金屬をもてつくられし そは畔の暗きに鳴き 菫は病鬱の醫者のやうに 野に遠く手に劇藥の 鞄をさげて訪づれくる。 ああすべて惱ましき光の中に 桃の笑みてふくらむ 情慾の一時 …
読書目安時間:約1分
うぐひすは 金屬をもてつくられし そは畔の暗きに鳴き 菫は病鬱の醫者のやうに 野に遠く手に劇藥の 鞄をさげて訪づれくる。 ああすべて惱ましき光の中に 桃の笑みてふくらむ 情慾の一時 …
巡礼紀行(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
きびしく凍りて、 指ちぎれむとすれども、 杖は絶頂にするどく光る、 七重の氷雪、 山路ふかみ、 わがともがらは一列に、 いためる心山峽たどる。 しだいに四方を眺むれば、 遠き地平を …
読書目安時間:約1分
きびしく凍りて、 指ちぎれむとすれども、 杖は絶頂にするどく光る、 七重の氷雪、 山路ふかみ、 わがともがらは一列に、 いためる心山峽たどる。 しだいに四方を眺むれば、 遠き地平を …
小曲集:〔千鳥あし〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
× 千鳥あし やつこらさと來て見れば にくい伯母御にしめ出され 泣くに泣かれずちんちろり 柳の下でひとくさり × 隣きんじよのお根ん性に 打たれ抓められくすぐられ じつと涙をかみし …
読書目安時間:約1分
× 千鳥あし やつこらさと來て見れば にくい伯母御にしめ出され 泣くに泣かれずちんちろり 柳の下でひとくさり × 隣きんじよのお根ん性に 打たれ抓められくすぐられ じつと涙をかみし …
小曲集:〔ほほづきよ〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
× ほほづきよ ひとつ思ひに泣けよかし 女のくちにふくまれて 男ごころのさびしさを さも忍び音に泣けよかし × ほんのふとした一言から 人が憎うてならぬぞえ ほんのその日の出來ごこ …
読書目安時間:約1分
× ほほづきよ ひとつ思ひに泣けよかし 女のくちにふくまれて 男ごころのさびしさを さも忍び音に泣けよかし × ほんのふとした一言から 人が憎うてならぬぞえ ほんのその日の出來ごこ …
常識家の非常識(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
僕等の如き所謂詩人が、一般に欠乏してゐるものは「常識」である。この常識の欠乏から、僕等は常に小説家等に軽蔑される。それで僕等自身もまた、その欠点を自覚してゐることから、常に常識的な …
読書目安時間:約6分
僕等の如き所謂詩人が、一般に欠乏してゐるものは「常識」である。この常識の欠乏から、僕等は常に小説家等に軽蔑される。それで僕等自身もまた、その欠点を自覚してゐることから、常に常識的な …
常識家の非常識(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
僕等の如き所謂詩人が、一般に缺乏してゐるものは「常識」である。この常識の缺乏から、僕等は常に小説家等に輕蔑される。それで僕等自身もまた、その缺點を自覺してゐることから、常に常識的な …
読書目安時間:約6分
僕等の如き所謂詩人が、一般に缺乏してゐるものは「常識」である。この常識の缺乏から、僕等は常に小説家等に輕蔑される。それで僕等自身もまた、その缺點を自覺してゐることから、常に常識的な …
小説家の俳句:俳人としての芥川竜之介と室生犀星(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
芥川龍之介氏とは、生前よく俳句の話をし、時には意見の相違から、激論に及んだことさへもある。それに氏には「余が俳句観」と題するエツセイもある程なので、さだめし作品が多量にあることだと …
読書目安時間:約7分
芥川龍之介氏とは、生前よく俳句の話をし、時には意見の相違から、激論に及んだことさへもある。それに氏には「余が俳句観」と題するエツセイもある程なので、さだめし作品が多量にあることだと …
情慾(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
手に釘うて、 足に釘うて、 十字にはりつけ、 邪淫のいましめ、 齒がみをなして我こたふ。 空もいんいん、 地もいんいん、 肢體に青き血ながれ、 するどくしたたり、 電光したたり、 …
読書目安時間:約1分
手に釘うて、 足に釘うて、 十字にはりつけ、 邪淫のいましめ、 齒がみをなして我こたふ。 空もいんいん、 地もいんいん、 肢體に青き血ながれ、 するどくしたたり、 電光したたり、 …
初夏の祈祷(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
主よ、 いんよくの聖なる神よ。 われはつちを掘り、 つちをもりて、 日毎におんみの家畜を建設す、 いま初夏きたり、 主のみ足は金屬のごとく、 薫風のいただきにありて輝やき、 われの …
読書目安時間:約1分
主よ、 いんよくの聖なる神よ。 われはつちを掘り、 つちをもりて、 日毎におんみの家畜を建設す、 いま初夏きたり、 主のみ足は金屬のごとく、 薫風のいただきにありて輝やき、 われの …
抒情小曲集:02 序(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
私にとつて限りなくなつかしく思はれるは、この集にをさめられた室生の抒情小曲である。彼の過去に発表したすべての詩篇の中で、此等の抒情詩ほど、正直ないぢらしい感情にみちてゐるものはない …
読書目安時間:約1分
私にとつて限りなくなつかしく思はれるは、この集にをさめられた室生の抒情小曲である。彼の過去に発表したすべての詩篇の中で、此等の抒情詩ほど、正直ないぢらしい感情にみちてゐるものはない …
所得人 室生犀星(旧字旧仮名)
読書目安時間:約10分
世には二種屬の人間がある。一方の種屬の者は、いつもムダな死金を使ひ、時間を空費し、無益に精力を消耗して、人生を虚妄の悔恨に終つてしまふ。彼等は「人生の浪費者」である。反對に他の者は …
読書目安時間:約10分
世には二種屬の人間がある。一方の種屬の者は、いつもムダな死金を使ひ、時間を空費し、無益に精力を消耗して、人生を虚妄の悔恨に終つてしまふ。彼等は「人生の浪費者」である。反對に他の者は …
真如(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
金のみ佛 金の足 一列流涕なしたまふ 光る白日のうなべりに とをのおゆびを血はながれ いたみてほそき瀧ながれ したたるものは血のしづく われの戀魚の血のしづく 光る眞如のうなべりに …
読書目安時間:約1分
金のみ佛 金の足 一列流涕なしたまふ 光る白日のうなべりに とをのおゆびを血はながれ いたみてほそき瀧ながれ したたるものは血のしづく われの戀魚の血のしづく 光る眞如のうなべりに …
煤掃(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
井桁古びた天井に 鼠の夢を驚かして 今朝年越しの煤拂ひ、 主人七兵衞いそいそと 店の小者を引具して 事に堪ふべく見えにけり。 さて若衆のいでたちや 奴冠りに筒袖の 半纏すがた意氣な …
読書目安時間:約2分
井桁古びた天井に 鼠の夢を驚かして 今朝年越しの煤拂ひ、 主人七兵衞いそいそと 店の小者を引具して 事に堪ふべく見えにけり。 さて若衆のいでたちや 奴冠りに筒袖の 半纏すがた意氣な …
絶句四章(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
色白の姉に具されて。今日もまた昔談や。 あれいま。逍遙うんじて歸る山路。 遠音に渡るかほととぎすの。 つみとりてそぞろ心や くちづけさはに 願ふは君が髮ぐさ飾るやさし七草。 あかつ …
読書目安時間:約1分
色白の姉に具されて。今日もまた昔談や。 あれいま。逍遙うんじて歸る山路。 遠音に渡るかほととぎすの。 つみとりてそぞろ心や くちづけさはに 願ふは君が髮ぐさ飾るやさし七草。 あかつ …
絶望の足(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
魚のやうに空氣をもとめて、 よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です、 東京市中の掘割から浮びあがるところの足です、 さびしき足、 さびしき足、 よろよろと道に倒れる人足の足、 それ …
読書目安時間:約1分
魚のやうに空氣をもとめて、 よつぱらつて町をあるいてゐる私の足です、 東京市中の掘割から浮びあがるところの足です、 さびしき足、 さびしき足、 よろよろと道に倒れる人足の足、 それ …
早春(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なたねなの花は川邊にさけど 遠望の雪 午後の日に消えやらず 寂しく麥の芽をふみて 高き煉瓦の下を行く ひとり路上に坐りつつ 怒りに燃え この故郷をのがれいでむと 土に小石を投げあつ …
読書目安時間:約1分
なたねなの花は川邊にさけど 遠望の雪 午後の日に消えやらず 寂しく麥の芽をふみて 高き煉瓦の下を行く ひとり路上に坐りつつ 怒りに燃え この故郷をのがれいでむと 土に小石を投げあつ …
装幀の意義(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
書物に於ける装幀の趣味は、絵画に於ける額縁や表装と同じく、一つの明白な芸術の「続き」ではないか。彼の画面に対して、あんなにも透視的の奥行きをあたへたり、適度の明暗を反映させたり、よ …
読書目安時間:約3分
書物に於ける装幀の趣味は、絵画に於ける額縁や表装と同じく、一つの明白な芸術の「続き」ではないか。彼の画面に対して、あんなにも透視的の奥行きをあたへたり、適度の明暗を反映させたり、よ …
滝(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
みどりをつらぬきはしる蛇、 瀬川ながれをはやみゆき、 ゆめと流れて瀧はおつ、 たうたうたる瀧の水音、 音なみさえ、 主も遠きより視たまへば、 銀の十字をかけまつる、 我しもひとり瀧 …
読書目安時間:約1分
みどりをつらぬきはしる蛇、 瀬川ながれをはやみゆき、 ゆめと流れて瀧はおつ、 たうたうたる瀧の水音、 音なみさえ、 主も遠きより視たまへば、 銀の十字をかけまつる、 我しもひとり瀧 …
竹の根の先を掘るひと(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
病氣はげしくなり いよいよ哀しくなり 三日月空にくもり 病人の患部に竹が生え 肩にも生え 手にも生え 腰からしたにもそれが生え ゆびのさきから根がけぶり 根には纖毛がもえいで 血管 …
読書目安時間:約1分
病氣はげしくなり いよいよ哀しくなり 三日月空にくもり 病人の患部に竹が生え 肩にも生え 手にも生え 腰からしたにもそれが生え ゆびのさきから根がけぶり 根には纖毛がもえいで 血管 …
田端に居た頃:(室生犀星のこと)(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
鎌倉へうつつてからは、毎日浪の音をきくばかりでさむしい。訪問者も絶えて無いので何だか昔の厭人病者の物わびしい遁世生活を思ひます。西行といふ昔の詩人は、特別にかういふ生活の情趣を好ん …
読書目安時間:約12分
鎌倉へうつつてからは、毎日浪の音をきくばかりでさむしい。訪問者も絶えて無いので何だか昔の厭人病者の物わびしい遁世生活を思ひます。西行といふ昔の詩人は、特別にかういふ生活の情趣を好ん …
短歌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約16分
○ 鞦韆のさゆらぎ止まぬ我が庭の芭蕉卷葉に細し春雨 おち椿ふみては人のこひしくて春日七日を惓じぬる里 流れ來て加茂川さむき春のよひ京の欄人うつくしき あけぼのの花により來しそぞろ道 …
読書目安時間:約16分
○ 鞦韆のさゆらぎ止まぬ我が庭の芭蕉卷葉に細し春雨 おち椿ふみては人のこひしくて春日七日を惓じぬる里 流れ來て加茂川さむき春のよひ京の欄人うつくしき あけぼのの花により來しそぞろ道 …
断調(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
春なれば小椿おちて山吹の黄をもつ流その流背戸を走れるいまやせたり、 木がらしの行方もしらにさはさはと音する枯草のひびき寂寞の影をやどせば敗れ岩ところどころに冬を行くいささ小川の悲し …
読書目安時間:約1分
春なれば小椿おちて山吹の黄をもつ流その流背戸を走れるいまやせたり、 木がらしの行方もしらにさはさはと音する枯草のひびき寂寞の影をやどせば敗れ岩ところどころに冬を行くいささ小川の悲し …
中央亭騒動事件(実録)(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
先月、中央亭で催された日本詩集の記念會で、僕がつまらぬことから腹を立て、會場をお騷がせしたことを謝罪する。もとより酒席の出來事であり、根も葉もないその場限りの一些事で、とりたてて言 …
読書目安時間:約9分
先月、中央亭で催された日本詩集の記念會で、僕がつまらぬことから腹を立て、會場をお騷がせしたことを謝罪する。もとより酒席の出來事であり、根も葉もないその場限りの一些事で、とりたてて言 …
眺望する(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
すべては黒く凍つてゐる さびしくかたまる岩の上に みじめに歪んだ松の幹に 景色は凍え、飢ゑ、まづしく光つて叫ぶばかり。 この侘しく灰色なる空の下に 私たちの心はまづしく語り孤獨にな …
読書目安時間:約1分
すべては黒く凍つてゐる さびしくかたまる岩の上に みじめに歪んだ松の幹に 景色は凍え、飢ゑ、まづしく光つて叫ぶばかり。 この侘しく灰色なる空の下に 私たちの心はまづしく語り孤獨にな …
蝶を夢む(旧字旧仮名)
読書目安時間:約29分
この詩集には、詩六十篇を納めてある。内十六篇を除いて、他はすべて既刊詩集にないところの、單行本として始めての新版である。 この詩集は「前篇」と「後篇」の二部に別かれる。前篇は第二詩 …
読書目安時間:約29分
この詩集には、詩六十篇を納めてある。内十六篇を除いて、他はすべて既刊詩集にないところの、單行本として始めての新版である。 この詩集は「前篇」と「後篇」の二部に別かれる。前篇は第二詩 …
追憶(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
若山氏の死について、遺族の方から御通知がなかつた爲、僕はずつと遲く、最近になつて始めて知つたわけであつた。明治大正の歌壇にかけて偉業を殘した、このなつかしい巨匠を失つたことは、個人 …
読書目安時間:約7分
若山氏の死について、遺族の方から御通知がなかつた爲、僕はずつと遲く、最近になつて始めて知つたわけであつた。明治大正の歌壇にかけて偉業を殘した、このなつかしい巨匠を失つたことは、個人 …
月に吠える:02 月に吠える(新字旧仮名)
読書目安時間:約56分
従兄萩原栄次氏に捧ぐ 萩原君。 何と云つても私は君を愛する。さうして室生君を。それは何と云つても素直な優しい愛だ。いつまでもそれは永続するもので、いつでも同じ温かさを保つてゆかれる …
読書目安時間:約56分
従兄萩原栄次氏に捧ぐ 萩原君。 何と云つても私は君を愛する。さうして室生君を。それは何と云つても素直な優しい愛だ。いつまでもそれは永続するもので、いつでも同じ温かさを保つてゆかれる …
月の詩情(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
昔は多くの詩人たちが、月を題材にして詩を作つた。支那では李白や白楽天やが、特に月の詩人として有名だが、日本では西行や芭蕉を初め、もつと多くの詩人等が月を歌つた。西洋でも、Moonl …
読書目安時間:約7分
昔は多くの詩人たちが、月を題材にして詩を作つた。支那では李白や白楽天やが、特に月の詩人として有名だが、日本では西行や芭蕉を初め、もつと多くの詩人等が月を歌つた。西洋でも、Moonl …
定本青猫:01 定本青猫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約55分
宇宙は意志の現れであり、意志の本質は惱みである シヨウペンハウエル 「青猫」の初版が出たのは、一九二三年の春であり、今から約十年ほど昔になる。その後ずつと絶版になつて、市上に長く本 …
読書目安時間:約55分
宇宙は意志の現れであり、意志の本質は惱みである シヨウペンハウエル 「青猫」の初版が出たのは、一九二三年の春であり、今から約十年ほど昔になる。その後ずつと絶版になつて、市上に長く本 …
敵(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
鶉や鷓鴣の飛びゆくかなたに ふたたび白堊の城は現はれ風のやうに消えてしまつた。 人夫よはやく夏草を刈りつくせ 狼火をあげよ烟を空にたなびかせよ 空想の陣幕を野邊にはつて まぼろしの …
読書目安時間:約1分
鶉や鷓鴣の飛びゆくかなたに ふたたび白堊の城は現はれ風のやうに消えてしまつた。 人夫よはやく夏草を刈りつくせ 狼火をあげよ烟を空にたなびかせよ 空想の陣幕を野邊にはつて まぼろしの …
鉄橋橋下(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
人のにくしといふことば われの哀しといふことば きのふ始めておぼえけり この市の人なになれば われを指さしあざけるか 生れしものはてんねんに そのさびしさを守るのみ 母のいかりの烈 …
読書目安時間:約1分
人のにくしといふことば われの哀しといふことば きのふ始めておぼえけり この市の人なになれば われを指さしあざけるか 生れしものはてんねんに そのさびしさを守るのみ 母のいかりの烈 …
童話と教育について(旧字旧仮名)
読書目安時間:約10分
近頃の子供たちの悦ぶ童話は、昔とすつかりちがつたといふ説がある。今の時代の子供たちは、もはや昔の子供のやうに、フアンタスチツクで荒唐無稽のお伽話——森の妖精の話や、魔法使の話や、赤 …
読書目安時間:約10分
近頃の子供たちの悦ぶ童話は、昔とすつかりちがつたといふ説がある。今の時代の子供たちは、もはや昔の子供のやうに、フアンタスチツクで荒唐無稽のお伽話——森の妖精の話や、魔法使の話や、赤 …
都会と田舎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ひとり私のかんがへてゐることは、 もえあがるやうな大東京の夜景です、 かかるすばらしい都會に住んでゐる人たちは、 さかんなもりあがる群集をして、 いつも磨かれたる大街道で押しあひ、 …
読書目安時間:約4分
ひとり私のかんがへてゐることは、 もえあがるやうな大東京の夜景です、 かかるすばらしい都會に住んでゐる人たちは、 さかんなもりあがる群集をして、 いつも磨かれたる大街道で押しあひ、 …
利根川の岸辺より(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
こころにひまなく詠嘆は流れいづ、 その流れいづる日のせきがたく、 やよひも櫻の芽をふくみ、 土によめなはさけびたり。 まひる利根川のほとりを歩めば、 二人歩めばしばなくつぐみ、 つ …
読書目安時間:約1分
こころにひまなく詠嘆は流れいづ、 その流れいづる日のせきがたく、 やよひも櫻の芽をふくみ、 土によめなはさけびたり。 まひる利根川のほとりを歩めば、 二人歩めばしばなくつぐみ、 つ …
中原中也君の印象(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
中原君の詩はよく讀んだが、個人としては極めて淺い知合だつた。前後を通じて僅か三囘しか逢つて居ない。それも公會の席のことで、打ちとけて話したことはなかつた。ただ最後に「四季」の會で逢 …
読書目安時間:約2分
中原君の詩はよく讀んだが、個人としては極めて淺い知合だつた。前後を通じて僅か三囘しか逢つて居ない。それも公會の席のことで、打ちとけて話したことはなかつた。ただ最後に「四季」の會で逢 …
夏帽子(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
青年の時は、だれでもつまらないことに熱情をもつものだ。 その頃、地方の或る高等学校に居た私は、毎年初夏の季節になると、きまつて一つの熱情にとりつかれた。それは何でもないつまらぬこと …
読書目安時間:約7分
青年の時は、だれでもつまらないことに熱情をもつものだ。 その頃、地方の或る高等学校に居た私は、毎年初夏の季節になると、きまつて一つの熱情にとりつかれた。それは何でもないつまらぬこと …
なにか知らねど(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なにか知らねど泣きたさに われはゆくゆく汽車の窓 はるばると きやべつ畑に日は光り 風見ぐるま きりやきりりとめぐる日に われはゆくゆく汽車の窓 なにか知らねど泣きたさに …
読書目安時間:約1分
なにか知らねど泣きたさに われはゆくゆく汽車の窓 はるばると きやべつ畑に日は光り 風見ぐるま きりやきりりとめぐる日に われはゆくゆく汽車の窓 なにか知らねど泣きたさに …
名前の話(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
名は性を現はすといふのは、どういふ所に根拠してゐるのか知らないが、剛蔵必しも剛直人でなく、貞子必しも貞女でないことは、多数の実例によつて明々白々のことである。しかし徳川家康といふ名 …
読書目安時間:約8分
名は性を現はすといふのは、どういふ所に根拠してゐるのか知らないが、剛蔵必しも剛直人でなく、貞子必しも貞女でないことは、多数の実例によつて明々白々のことである。しかし徳川家康といふ名 …
南京陥落の日に(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
歳まさに暮れんとして 兵士の銃劍は白く光れり。 軍旅の暦は夏秋をすぎ ゆうべ上海を拔いて百千キロ。 わが行軍の日は憩はず 人馬先に爭ひ走りて 輜重は泥濘の道に續けり。 ああこの曠野 …
読書目安時間:約1分
歳まさに暮れんとして 兵士の銃劍は白く光れり。 軍旅の暦は夏秋をすぎ ゆうべ上海を拔いて百千キロ。 わが行軍の日は憩はず 人馬先に爭ひ走りて 輜重は泥濘の道に續けり。 ああこの曠野 …
ニイチェに就いての雑感(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ニイチェの世界の中には、近代インテリのあらゆる苦悩が包括されてゐる。だれでも、自分の悩みをニイチェの中に見出さない者はなく、ニイチェの中に、自己の一部を見出さないものはない。ニイチ …
読書目安時間:約14分
ニイチェの世界の中には、近代インテリのあらゆる苦悩が包括されてゐる。だれでも、自分の悩みをニイチェの中に見出さない者はなく、ニイチェの中に、自己の一部を見出さないものはない。ニイチ …
二十三夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
『エ、おい、べら棒な。恁う見えても急所だぜ。問屋の菎蒻ぢやあるめいし、無價で蹈まれて間に合ふけえ』。 大泥醉の粹背肌、弓手を拳で懷中に蓄へ、右手を延ばして輪を畫くと、手頸をぐいと上 …
読書目安時間:約6分
『エ、おい、べら棒な。恁う見えても急所だぜ。問屋の菎蒻ぢやあるめいし、無價で蹈まれて間に合ふけえ』。 大泥醉の粹背肌、弓手を拳で懷中に蓄へ、右手を延ばして輪を畫くと、手頸をぐいと上 …
日清戦争異聞:(原田重吉の夢)(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
日清戦争が始まった。「支那も昔は聖賢の教ありつる国」で、孔孟の生れた中華であったが、今は暴逆無道の野蛮国であるから、よろしく膺懲すべしという歌が流行った。月琴の師匠の家へ石が投げら …
読書目安時間:約6分
日清戦争が始まった。「支那も昔は聖賢の教ありつる国」で、孔孟の生れた中華であったが、今は暴逆無道の野蛮国であるから、よろしく膺懲すべしという歌が流行った。月琴の師匠の家へ石が投げら …
猫町:散文詩風な小説(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
蠅を叩きつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。—— ショウペンハウエル。 旅への誘いが、次第に私の空想から消えて行った。昔はただそれの …
読書目安時間:約21分
蠅を叩きつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。—— ショウペンハウエル。 旅への誘いが、次第に私の空想から消えて行った。昔はただそれの …
俳句(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
○ 五月幟立つ家家の向うは海 ○ 暮鳥忌 磯濱の煙わびしき年のくれ 笹鳴 笹鳴の日かげをくぐる庭の隅 笹鳴や日脚のおそき縁の先 ○ 天城ごえ伊豆に入る日や遲櫻 青梅に言葉すくなき別 …
読書目安時間:約2分
○ 五月幟立つ家家の向うは海 ○ 暮鳥忌 磯濱の煙わびしき年のくれ 笹鳴 笹鳴の日かげをくぐる庭の隅 笹鳴や日脚のおそき縁の先 ○ 天城ごえ伊豆に入る日や遲櫻 青梅に言葉すくなき別 …
初めてドストイェフスキイを読んだ頃(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
初めてドストイェフスキイを讀んだのは、何でも僕が二十七、八歳位の時であつた。それ以前によんだ西洋の文學は、主にポオとニイチェとであつた。その他にもトルストイなど少し讀んだが、僕には …
読書目安時間:約6分
初めてドストイェフスキイを讀んだのは、何でも僕が二十七、八歳位の時であつた。それ以前によんだ西洋の文學は、主にポオとニイチェとであつた。その他にもトルストイなど少し讀んだが、僕には …
花あやめ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
皐月あやめさくころ。思ふどち二人三人かいつらねて、堀切の里にいきけり。「むさしや」といふ家のはなれを借りて根合せならねど、あやめの歌合といふを試みけり。 あやめは、池のこのもかのも …
読書目安時間:約4分
皐月あやめさくころ。思ふどち二人三人かいつらねて、堀切の里にいきけり。「むさしや」といふ家のはなれを借りて根合せならねど、あやめの歌合といふを試みけり。 あやめは、池のこのもかのも …
春の来る頃(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なじかは春の歩み遲く わが故郷は消え殘る雪の光れる わが眼になじむ遠き山山 その山脈もれんめんと 煙の見えざる淺間は哀し 今朝より家を逃れいで 木ぬれに石をかくして遊べる をみな來 …
読書目安時間:約1分
なじかは春の歩み遲く わが故郷は消え殘る雪の光れる わが眼になじむ遠き山山 その山脈もれんめんと 煙の見えざる淺間は哀し 今朝より家を逃れいで 木ぬれに石をかくして遊べる をみな來 …
晩秋哀語(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああ秋も暮れゆく このままに 故郷にて朽つる我にてはよもあらじ 草の根を噛みつつゆくも のどの渇きをこらへんためぞ 畠より疲れて歸り 停車場の裏手なる 便所のほとりにたたずめり 日 …
読書目安時間:約1分
ああ秋も暮れゆく このままに 故郷にて朽つる我にてはよもあらじ 草の根を噛みつつゆくも のどの渇きをこらへんためぞ 畠より疲れて歸り 停車場の裏手なる 便所のほとりにたたずめり 日 …
光る風景(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
青ざめしわれの淫樂われの肉、 感傷の指の銀のするどさよ、 それ、ひるも偏狂の谷に涙をながし、 よるは裸形に螢を點じ、 しきりに哀しみいたみて、 をみなをさいなみきずつくのわれ、 あ …
読書目安時間:約1分
青ざめしわれの淫樂われの肉、 感傷の指の銀のするどさよ、 それ、ひるも偏狂の谷に涙をながし、 よるは裸形に螢を點じ、 しきりに哀しみいたみて、 をみなをさいなみきずつくのわれ、 あ …
病床生活からの一発見(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
病床生活からの一発見 病気といふものは、私にとつて休息のやうに思はれる。健康の時は、絶えず何かしら心に鞭うたれる衝動を感じてゐる。不断に苛々して、何か為ようと思ひ、しかも何一つ出来 …
読書目安時間:約8分
病床生活からの一発見 病気といふものは、私にとつて休息のやうに思はれる。健康の時は、絶えず何かしら心に鞭うたれる衝動を感じてゐる。不断に苛々して、何か為ようと思ひ、しかも何一つ出来 …
氷島(旧字旧仮名)
読書目安時間:約16分
近代の抒情詩、概ね皆感覺に偏重し、イマヂズムに走り、或は理智の意匠的構成に耽つて、詩的情熱の單一な原質的表現を忘れて居る。却つてこの種の詩は、今日の批判で素朴的なものに考へられ、詩 …
読書目安時間:約16分
近代の抒情詩、概ね皆感覺に偏重し、イマヂズムに走り、或は理智の意匠的構成に耽つて、詩的情熱の單一な原質的表現を忘れて居る。却つてこの種の詩は、今日の批判で素朴的なものに考へられ、詩 …
広瀬河畔を逍遥しつつ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
物みなは歳日と共に亡び行く。 ひとり來てさまよへば 流れも速き廣瀬川。 何にせかれて止むべき 憂ひのみ永く殘りて わが情熱の日も暮れ行けり。 …
読書目安時間:約1分
物みなは歳日と共に亡び行く。 ひとり來てさまよへば 流れも速き廣瀬川。 何にせかれて止むべき 憂ひのみ永く殘りて わが情熱の日も暮れ行けり。 …
非論理的性格の悲哀(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
白でないものは黒である。もし白でも黒でもないものは、中間の灰色でなければならない。これが論理の原則であり、我々の推理の方式は、いつでもこの前提の上に組みたてられる。 しかしながら多 …
読書目安時間:約9分
白でないものは黒である。もし白でも黒でもないものは、中間の灰色でなければならない。これが論理の原則であり、我々の推理の方式は、いつでもこの前提の上に組みたてられる。 しかしながら多 …
諷詩:―人魚詩社の人たちに与ふ―(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
友だちはひどく歪んだ顏をしながら、 虱に向つて話をした。 『虱や、ご生だからたからないでおくれ、 私にしつつこくしないでおくれ、 おまへはほんとに不愉快だ』 そして痒いところへ手を …
読書目安時間:約1分
友だちはひどく歪んだ顏をしながら、 虱に向つて話をした。 『虱や、ご生だからたからないでおくれ、 私にしつつこくしないでおくれ、 おまへはほんとに不愉快だ』 そして痒いところへ手を …
ふつくりとした人柄(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
北原氏は、私の知つてゐる範圍で、最もよい感じをもつた人です。あの人の感じを一言で言へば「ふつくりとした人柄」でせう。私のやうないらいらした性格の人間は、一般に人嫌ひが多いので、友人 …
読書目安時間:約3分
北原氏は、私の知つてゐる範圍で、最もよい感じをもつた人です。あの人の感じを一言で言へば「ふつくりとした人柄」でせう。私のやうないらいらした性格の人間は、一般に人嫌ひが多いので、友人 …
ふぶき(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
くち惜しきふるまひをしたる朝 あららんらんと降りしきる雪を冒して 一目散にひたばしる このとき雨もそひきたり すべてはくやしきそら涙 あの顏にちらりと落ちたそら涙 けんめいになりて …
読書目安時間:約1分
くち惜しきふるまひをしたる朝 あららんらんと降りしきる雪を冒して 一目散にひたばしる このとき雨もそひきたり すべてはくやしきそら涙 あの顏にちらりと落ちたそら涙 けんめいになりて …
吹雪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
わが故郷前橋の町は赤城山の麓にあり、その家竝は低くして甚だ暗し。 ふもとぢに雪とけ、 ふもとぢに緑もえそむれど、 いただきの雪しろじろと、 ひねもすけふも光れるぞ、 ああいちめんに …
読書目安時間:約1分
わが故郷前橋の町は赤城山の麓にあり、その家竝は低くして甚だ暗し。 ふもとぢに雪とけ、 ふもとぢに緑もえそむれど、 いただきの雪しろじろと、 ひねもすけふも光れるぞ、 ああいちめんに …
冬の情緒(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
冬といふ季節は、蕭条とした自然の中にをののいてゐる、人間の果敢ない孤独さを思はせる。我々の遠い先祖は、冬の来る前に穴を掘り、熊や狐やの獣と共に、小さくかじかまつて生きたへて居た。そ …
読書目安時間:約4分
冬といふ季節は、蕭条とした自然の中にをののいてゐる、人間の果敢ない孤独さを思はせる。我々の遠い先祖は、冬の来る前に穴を掘り、熊や狐やの獣と共に、小さくかじかまつて生きたへて居た。そ …
冬を待つひと(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
こほれる利根のみなかみに、 ひねもす銀の針を垂れ、 しづかに水に針を垂れ、 さしぐみきたる冬を待つ。 ああ、その空さへもうすくもり、 かみつけの山に雪くれば、 魚らひそかに針をのみ …
読書目安時間:約1分
こほれる利根のみなかみに、 ひねもす銀の針を垂れ、 しづかに水に針を垂れ、 さしぐみきたる冬を待つ。 ああ、その空さへもうすくもり、 かみつけの山に雪くれば、 魚らひそかに針をのみ …
ふるさと(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
赤城山の雪流れ出で かなづる如くこの古き町に走り出づ ひとびとはその四つ辻に集まり 哀しげに犬のつるむを眺め居たり ひるさがり 床屋の庭に石竹の花咲きて 我はいつもの如く本町裏の河 …
読書目安時間:約1分
赤城山の雪流れ出で かなづる如くこの古き町に走り出づ ひとびとはその四つ辻に集まり 哀しげに犬のつるむを眺め居たり ひるさがり 床屋の庭に石竹の花咲きて 我はいつもの如く本町裏の河 …
蛇苺(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
實は成りぬ 草葉かげ 小やかに 赤うして 名も知らぬ 實は成りぬ 大空みれば 日は遠しや 輝輝たる夏の午さがり 野路に隱れて 唱ふもの 魔よ 名を蛇と呼ばれて 拗者の 呪ひ歌 節な …
読書目安時間:約1分
實は成りぬ 草葉かげ 小やかに 赤うして 名も知らぬ 實は成りぬ 大空みれば 日は遠しや 輝輝たる夏の午さがり 野路に隱れて 唱ふもの 魔よ 名を蛇と呼ばれて 拗者の 呪ひ歌 節な …
偏狂(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あさましき性のおとろへ、 あなうらに薫風ながれ、 額に緑金の蛇住めり、 ああ我のみのものまにや、 夏ふかみ山路をこゆる。 かなしきものまにや、 のぞみうしなひ、 いつさいより靈智う …
読書目安時間:約1分
あさましき性のおとろへ、 あなうらに薫風ながれ、 額に緑金の蛇住めり、 ああ我のみのものまにや、 夏ふかみ山路をこゆる。 かなしきものまにや、 のぞみうしなひ、 いつさいより靈智う …
放蕩の虫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
放蕩の蟲は玉蟲 そつと來て心の底で泣く蟲 夜としなればすずろにも リキユールグラスの端を這ふ蟲 放蕩の蟲はいとほしや 放蕩の蟲は玉蟲 青いこころでひんやりと 色街の薄らあかりに鳴く …
読書目安時間:約1分
放蕩の蟲は玉蟲 そつと來て心の底で泣く蟲 夜としなればすずろにも リキユールグラスの端を這ふ蟲 放蕩の蟲はいとほしや 放蕩の蟲は玉蟲 青いこころでひんやりと 色街の薄らあかりに鳴く …
僕の孤独癖について(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
僕は昔から「人嫌ひ」「交際嫌ひ」で通つて居た。しかしこれには色々な事情があつたのである。もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、 …
読書目安時間:約11分
僕は昔から「人嫌ひ」「交際嫌ひ」で通つて居た。しかしこれには色々な事情があつたのである。もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、 …
僕の孤独癖について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
僕は昔から「人嫌い」「交際嫌い」で通って居た。しかしこれには色々な事情があったのである。もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、 …
読書目安時間:約10分
僕は昔から「人嫌い」「交際嫌い」で通って居た。しかしこれには色々な事情があったのである。もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、 …
暮春詠嘆調(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
× 年ひさしくなりぬれば すべてのことを忘れはてたり むざんなる哉 かばかりのもよほしにさへ 涙も今はみなもとをば忘れたり × 人目を忍びて何處に行かん 感ずれば我が身も老いたり …
読書目安時間:約1分
× 年ひさしくなりぬれば すべてのことを忘れはてたり むざんなる哉 かばかりのもよほしにさへ 涙も今はみなもとをば忘れたり × 人目を忍びて何處に行かん 感ずれば我が身も老いたり …
蛍(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああきみは情慾のにほふ月ぐさ、 われははた憂愁の瀬川の螢、 いきづかふ舟ばたの光をみれば、 ゆふぐれのおめがの瞳にて、 たれかまたあるはをしらむ、 さざなみさやぎ、 くちびるはそら …
読書目安時間:約1分
ああきみは情慾のにほふ月ぐさ、 われははた憂愁の瀬川の螢、 いきづかふ舟ばたの光をみれば、 ゆふぐれのおめがの瞳にて、 たれかまたあるはをしらむ、 さざなみさやぎ、 くちびるはそら …
蛍狩(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
愛妹のえりくびから一疋、 瘋癲病院の窓から一疋、 血えんのつかあなから一疋、 いえすの素足から一疋、 魚の背筋から一疋、 殺人者の心臟から一疋、 おれの磨いた手から一疋、 遠い夜の …
読書目安時間:約1分
愛妹のえりくびから一疋、 瘋癲病院の窓から一疋、 血えんのつかあなから一疋、 いえすの素足から一疋、 魚の背筋から一疋、 殺人者の心臟から一疋、 おれの磨いた手から一疋、 遠い夜の …
本質的な文学者(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
日本の文學に對して、僕は常に或る滿たされない不滿を持つて居た。それは僕の觀念する「文學」が、日本の現存してゐる文學とどこか本質に於て食ひちがつて居り、別種に屬して居たからである。然 …
読書目安時間:約4分
日本の文學に對して、僕は常に或る滿たされない不滿を持つて居た。それは僕の觀念する「文學」が、日本の現存してゐる文學とどこか本質に於て食ひちがつて居り、別種に屬して居たからである。然 …
磨かれたる金属の手(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
手はえれき、 手はぷらちな、 手はらうまちずむのいたみ、 手は樹心に光り、 魚に光り、 墓石に光り、 手はあきらかに光る、 ゆくところ、 すでに肢體をはなれ、 炎炎灼熱し狂氣し、 …
読書目安時間:約1分
手はえれき、 手はぷらちな、 手はらうまちずむのいたみ、 手は樹心に光り、 魚に光り、 墓石に光り、 手はあきらかに光る、 ゆくところ、 すでに肢體をはなれ、 炎炎灼熱し狂氣し、 …
南の海へ行きます(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ながい疾患のいたみも消えさり、 淺間の山の雪も消え、 みんなお客さまたちは都におかへり、 酒はせんすゐにふきあげ、 ちらちら緋鯉もおよぎそめしが、 私はひとりぽつちとなり、 なにか …
読書目安時間:約2分
ながい疾患のいたみも消えさり、 淺間の山の雪も消え、 みんなお客さまたちは都におかへり、 酒はせんすゐにふきあげ、 ちらちら緋鯉もおよぎそめしが、 私はひとりぽつちとなり、 なにか …
麦(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
麥はさ青に延び行けり 遠き畑の田作りの 白き襦袢にえんえんと 眞晝の光ふりそそぐ 九月はじめの旅立ちに 汽車の窓より眺むれば 麥の青きに驚きて 疲れし心が泣き出せり …
読書目安時間:約1分
麥はさ青に延び行けり 遠き畑の田作りの 白き襦袢にえんえんと 眞晝の光ふりそそぐ 九月はじめの旅立ちに 汽車の窓より眺むれば 麥の青きに驚きて 疲れし心が泣き出せり …
虫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
いとしや いとしや この身の影に鳴く蟲の ねんねんころりと鳴きにけり たれに抱かれて寢る身ぞや 眞實我身は獨りもの 三十になるといふ その事の寂しさよ 勘平さんにはあらねども せつ …
読書目安時間:約1分
いとしや いとしや この身の影に鳴く蟲の ねんねんころりと鳴きにけり たれに抱かれて寢る身ぞや 眞實我身は獨りもの 三十になるといふ その事の寂しさよ 勘平さんにはあらねども せつ …
紫色の感情にて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああその燃えあがる熱を感じてゐる この熱の皮膚を しばしば貴女にささげる憂鬱の情熱を ただ可愛ゆきひとつの菫の花を 貴女の白く柔らかな肌に押しあてたまへ ここにはまた物言はぬ憂愁の …
読書目安時間:約1分
ああその燃えあがる熱を感じてゐる この熱の皮膚を しばしば貴女にささげる憂鬱の情熱を ただ可愛ゆきひとつの菫の花を 貴女の白く柔らかな肌に押しあてたまへ ここにはまた物言はぬ憂愁の …
室生犀星君の人物について(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
最近第一書房からして、僕の選した室生犀星君の詩集が出るので、この際僕の見た室生君を、人物的に略記してみたいと思ふ。尤も僕は、以前から幾度も室生君のことを書き、むしろ書きすぎてゐるほ …
読書目安時間:約7分
最近第一書房からして、僕の選した室生犀星君の詩集が出るので、この際僕の見た室生君を、人物的に略記してみたいと思ふ。尤も僕は、以前から幾度も室生君のことを書き、むしろ書きすぎてゐるほ …
室生犀星君の飛躍(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
僕は一つの飛躍を見た!室生犀星君に就いてである。 最近二三ヶ月の間に、彼は驚くべき跳躍をした。勇敢にも、過去の一切を投げ出し、鷲のやうに空を飛んだ。僕はそれを見て勇氣が起り、慄然と …
読書目安時間:約5分
僕は一つの飛躍を見た!室生犀星君に就いてである。 最近二三ヶ月の間に、彼は驚くべき跳躍をした。勇敢にも、過去の一切を投げ出し、鷲のやうに空を飛んだ。僕はそれを見て勇氣が起り、慄然と …
室生犀星に与ふ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約25分
室生君! 君との友情を考へる時、僕は暗然たる涙を感ずる。だがそれは感傷でなく、もつと深い意味のものが、底から湧いてくるやうに思はれる。いかにしても、僕にはその意味が語りつくせない。 …
読書目安時間:約25分
室生君! 君との友情を考へる時、僕は暗然たる涙を感ずる。だがそれは感傷でなく、もつと深い意味のものが、底から湧いてくるやうに思はれる。いかにしても、僕にはその意味が語りつくせない。 …
室生犀星に就いて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
たいていの文學者は、何かの動物に譬へられる。例へば佐藤春夫は鹿であり、芥川龍之介は狐であり、谷崎潤一郎は豹であり、辻潤は山猫の族である。ところで、同じ比喩を言ふならば、室生犀星は蝙 …
読書目安時間:約5分
たいていの文學者は、何かの動物に譬へられる。例へば佐藤春夫は鹿であり、芥川龍之介は狐であり、谷崎潤一郎は豹であり、辻潤は山猫の族である。ところで、同じ比喩を言ふならば、室生犀星は蝙 …
室生犀星の印象(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
室生とはあまり知りすぎて居るので、却つて印象といふやうな者がない。私が始めて彼の名を知つたのは、北原白秋氏の雜誌ザムボア(今のザムボアではない)で、彼の敍情小曲を見た時からだ。その …
読書目安時間:約5分
室生とはあまり知りすぎて居るので、却つて印象といふやうな者がない。私が始めて彼の名を知つたのは、北原白秋氏の雜誌ザムボア(今のザムボアではない)で、彼の敍情小曲を見た時からだ。その …
名詩集「思ひ出」の真価(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
◇新しいものは古くなる。しかし善いものは惡くならない。 藝術の鑑賞では、これが最も大切な常識である。わが國の文壇では、いつも「新」と「善」とが同字義であり、「舊」と「惡」とが同じ概 …
読書目安時間:約7分
◇新しいものは古くなる。しかし善いものは惡くならない。 藝術の鑑賞では、これが最も大切な常識である。わが國の文壇では、いつも「新」と「善」とが同字義であり、「舊」と「惡」とが同じ概 …
ものごころ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ものごころ覺えそめたるわが性のうすらあかりは 春の夜の雪のごとくにしめやかにして ふきあげのほとりに咲けるなでしこの花にも似たり ああこのうるほひをもておん身の髮を濡らすべきか し …
読書目安時間:約1分
ものごころ覺えそめたるわが性のうすらあかりは 春の夜の雪のごとくにしめやかにして ふきあげのほとりに咲けるなでしこの花にも似たり ああこのうるほひをもておん身の髮を濡らすべきか し …
夜景(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
高い家根の上で猫が寢てゐる 猫の尻尾から月が顏を出し 月が青白い眼鏡をかけて見てゐる だが泥棒はそれを知らないから 近所の家根へひよつこりとび出し なにかまつくろの衣裝をきこんで …
読書目安時間:約1分
高い家根の上で猫が寢てゐる 猫の尻尾から月が顏を出し 月が青白い眼鏡をかけて見てゐる だが泥棒はそれを知らないから 近所の家根へひよつこりとび出し なにかまつくろの衣裝をきこんで …
ゆく春(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
おきつ邊かつ鳴る海青なぎ 今手に動ずる胸をおせば 哀愁ことごと浮び出でて たぎつ瀬涙の八千尋沼 ああ世は神祕の影にみちて 興ある歌もつ子等もあるに 何をか若きに眉根ひそめ 執着泣く …
読書目安時間:約1分
おきつ邊かつ鳴る海青なぎ 今手に動ずる胸をおせば 哀愁ことごと浮び出でて たぎつ瀬涙の八千尋沼 ああ世は神祕の影にみちて 興ある歌もつ子等もあるに 何をか若きに眉根ひそめ 執着泣く …
夢(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
夢と人生夢が虚妄に思はれるのは、個々の事件が斷片であり、記憶の連續がないからである。昨日私は、夢の中で借金し、夢の中で怪我をした。しかし朝になつて見れば、借金を返す義務もなく、負傷 …
読書目安時間:約9分
夢と人生夢が虚妄に思はれるのは、個々の事件が斷片であり、記憶の連續がないからである。昨日私は、夢の中で借金し、夢の中で怪我をした。しかし朝になつて見れば、借金を返す義務もなく、負傷 …
よき祖母上に(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
かの家の庭にさく柘榴の花、 あかるい日光の中にふるへる空氣のさびしみ、 年老いたる祖母上よ。 そこのじようろにて植木の苗に水をやり給へ、 そこにあるどの草木にも親愛の言葉をかけてお …
読書目安時間:約2分
かの家の庭にさく柘榴の花、 あかるい日光の中にふるへる空氣のさびしみ、 年老いたる祖母上よ。 そこのじようろにて植木の苗に水をやり給へ、 そこにあるどの草木にも親愛の言葉をかけてお …
ラヂオ漫談(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
東京に移つてから間もなくの頃である。ある夜本郷の肴町を散歩してゐると、南天堂といふ本屋の隣店の前に、人が黒山のやうにたかつてゐる。へんな形をしたラツパの口から音がきれぎれにもれるの …
読書目安時間:約7分
東京に移つてから間もなくの頃である。ある夜本郷の肴町を散歩してゐると、南天堂といふ本屋の隣店の前に、人が黒山のやうにたかつてゐる。へんな形をしたラツパの口から音がきれぎれにもれるの …
ラムネ・他四編(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ラムネといふもの、不思議になつかしく愉快なものだ。夏の氷屋などでは、板に丸い穴をあけて、そこに幾つとなく、ラムネを逆さにして立てて居る。それがいかにも、瓦斯のすさまじい爆音を感じさ …
読書目安時間:約2分
ラムネといふもの、不思議になつかしく愉快なものだ。夏の氷屋などでは、板に丸い穴をあけて、そこに幾つとなく、ラムネを逆さにして立てて居る。それがいかにも、瓦斯のすさまじい爆音を感じさ …
立秋:――大沼竹太郎氏ニ捧グル詩――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
遠く行く君が手に、 胡弓の箱はおもからむ。 きのふ山より摘みてかへれば、 紫苑はなしぼみて、 すでに秋の愁ひをさそふ。 友よ、 やさしく胡弓を摩り、 遠くよりしも光を送れ。 ああ、 …
読書目安時間:約1分
遠く行く君が手に、 胡弓の箱はおもからむ。 きのふ山より摘みてかへれば、 紫苑はなしぼみて、 すでに秋の愁ひをさそふ。 友よ、 やさしく胡弓を摩り、 遠くよりしも光を送れ。 ああ、 …
流行歌曲について(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
現代の日本に於ける、唯一の民衆芸術は何かと聞かれたら、僕は即座に町の小唄と答へるだらう。現代の日本は、実に「詩」を失つてゐる時代である。そして此所に詩といふのは、魂の渇きに水をあた …
読書目安時間:約8分
現代の日本に於ける、唯一の民衆芸術は何かと聞かれたら、僕は即座に町の小唄と答へるだらう。現代の日本は、実に「詩」を失つてゐる時代である。そして此所に詩といふのは、魂の渇きに水をあた …
黎明と樹木(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
この青くしなへる指をくみ合せ、 夜あけぬ前に祈るなる、 いのちの寂しさきはまりなく、 あたりにむらがる友を求む。 そこにふるへ、 かくれつつうかがひのぞく榎あり、 いのりつつ、一心 …
読書目安時間:約1分
この青くしなへる指をくみ合せ、 夜あけぬ前に祈るなる、 いのちの寂しさきはまりなく、 あたりにむらがる友を求む。 そこにふるへ、 かくれつつうかがひのぞく榎あり、 いのりつつ、一心 …
老年と人生(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
老いて生きるということは醜いことだ。自分は少年の時、二十七、八歳まで生きていて、三十歳になったら死のうと思った。だがいよいよ三十歳になったら、せめて四十歳までは生きたいと思った。そ …
読書目安時間:約13分
老いて生きるということは醜いことだ。自分は少年の時、二十七、八歳まで生きていて、三十歳になったら死のうと思った。だがいよいよ三十歳になったら、せめて四十歳までは生きたいと思った。そ …
ローマ字論者への質疑(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
日本語の健全な發育と、その國語の純粹性を害毒するものは、實に生硬な漢語と漢字、特に明治以來濫造される飜譯漢語と漢字である。言葉に一番大切な條件は、耳で聽いて意味がわかるといふことで …
読書目安時間:約6分
日本語の健全な發育と、その國語の純粹性を害毒するものは、實に生硬な漢語と漢字、特に明治以來濫造される飜譯漢語と漢字である。言葉に一番大切な條件は、耳で聽いて意味がわかるといふことで …
若き尼たちの歩む路(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
この列をなす少女らのため、 うるはしき都會の窓ぞひらかるる、 みよいまし遠望の海は鳴りいで、 なめいしを皿はすべりて、 さかづきは歩道にこぼれふんすゐす。 こはよき朝のめざめなり、 …
読書目安時間:約1分
この列をなす少女らのため、 うるはしき都會の窓ぞひらかるる、 みよいまし遠望の海は鳴りいで、 なめいしを皿はすべりて、 さかづきは歩道にこぼれふんすゐす。 こはよき朝のめざめなり、 …
別れ:旅の記念として、室生犀星に(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
友よ安らかに眠れ。 夜はほのじろく明けんとす 僕はここに去り また新しい汽車に乘つて行かうよ 僕の孤獨なふるい故郷へ。 東雲ちかい汽車の寢臺で 友よ安らかに眠れ。 …
読書目安時間:約1分
友よ安らかに眠れ。 夜はほのじろく明けんとす 僕はここに去り また新しい汽車に乘つて行かうよ 僕の孤獨なふるい故郷へ。 東雲ちかい汽車の寢臺で 友よ安らかに眠れ。 …
和讃類纂(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ゆきはふる まなつまひるのやまみちに 光るこなゆき さんらんたりや わが道心のたなごころ うすら侘しきたなごころ ひじりのみあし つめたきみあし おんかたへやるせなく かけまつるさ …
読書目安時間:約1分
ゆきはふる まなつまひるのやまみちに 光るこなゆき さんらんたりや わが道心のたなごころ うすら侘しきたなごころ ひじりのみあし つめたきみあし おんかたへやるせなく かけまつるさ …
我れ何所へ行かん(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
情緒よ ながい憂鬱のながれを視てゐると あまりに私の眺望もさびしくなる この日もすでにくれがた 人生の影ながき厭生哲學の書物をひらけば ああはやいみじくも芽ぐみきたる感情の昂進よ …
読書目安時間:約1分
情緒よ ながい憂鬱のながれを視てゐると あまりに私の眺望もさびしくなる この日もすでにくれがた 人生の影ながき厭生哲學の書物をひらけば ああはやいみじくも芽ぐみきたる感情の昂進よ …
“萩原朔太郎”について
萩原 朔太郎(はぎわら さくたろう、1886年(明治19年)11月1日 - 1942年(昭和17年)5月11日)は、日本の詩人、評論家。大正時代に近代詩の新しい地平を拓き「日本近代詩の父」と称される。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
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