末吉安持
1887 〜 1907
著者としての作品一覧
哀音(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
——汽車の窓にて 夏の日の午さがり、 我が汽車は物憂げに 黒き煙を息吹きつゝ、 炎天の東海道を西へ馳す。 世ゆゑ、はたわれからの 黒熱に膿み爛れ、 灰汗の洪水の胸底の 政の庁を失ひ …
読書目安時間:約2分
——汽車の窓にて 夏の日の午さがり、 我が汽車は物憂げに 黒き煙を息吹きつゝ、 炎天の東海道を西へ馳す。 世ゆゑ、はたわれからの 黒熱に膿み爛れ、 灰汗の洪水の胸底の 政の庁を失ひ …
秋の一夕(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
あゝ終の夕は来りぬ、 天昏に地昏にさはなる 不浄はもこゝに亡ぶか、 洗礼女——河原の葦に 法涙の露無量光、 新らしき生命の慈相—— 十夜法会の跡さびしき、 天台の寺院の堂に、 いか …
読書目安時間:約1分
あゝ終の夕は来りぬ、 天昏に地昏にさはなる 不浄はもこゝに亡ぶか、 洗礼女——河原の葦に 法涙の露無量光、 新らしき生命の慈相—— 十夜法会の跡さびしき、 天台の寺院の堂に、 いか …
悪夢(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
こは悪夢、あゝ神よ、 夢はふたたび見せざれな、 われには斯かる嫉み無し。 貴に﨟たきをみなごは あまたの人に思はれよ。 かく思ひ、わかるゝ日、 笑みやはらかに、君が手を 握りつゝ拝 …
読書目安時間:約1分
こは悪夢、あゝ神よ、 夢はふたたび見せざれな、 われには斯かる嫉み無し。 貴に﨟たきをみなごは あまたの人に思はれよ。 かく思ひ、わかるゝ日、 笑みやはらかに、君が手を 握りつゝ拝 …
茴香(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なが月下浣の日のゆふべ、 山下岩根垂る水の 玉のしづくに核ぐみて、 かつ熟みこぼし斎ひつゝ、 風に額づく茴香の あゝ姉妹の二人もとよ。 化石もすらむ秋の木は 骨立ち強に呼吸つまり、 …
読書目安時間:約1分
なが月下浣の日のゆふべ、 山下岩根垂る水の 玉のしづくに核ぐみて、 かつ熟みこぼし斎ひつゝ、 風に額づく茴香の あゝ姉妹の二人もとよ。 化石もすらむ秋の木は 骨立ち強に呼吸つまり、 …
おもひで(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
父ぎみはしはぶき二つ、 母ぎみはそよ一雫、 瀬戸の海、東をさしし 三日まへに我を見ましぬ。 世馴れざる野がくれわらべ、 手文筥を封じもあへず、 ゐざり出て閾の端の 柱抱き面かくしぬ …
読書目安時間:約1分
父ぎみはしはぶき二つ、 母ぎみはそよ一雫、 瀬戸の海、東をさしし 三日まへに我を見ましぬ。 世馴れざる野がくれわらべ、 手文筥を封じもあへず、 ゐざり出て閾の端の 柱抱き面かくしぬ …
かさぬ宿(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
五里の青野に行き暮れて、 山下街の片門に、 いかで一夜の宿乞ふと 都のなまり、——うらわかき 学生づれの七人は 手にこそしたれ、百合の花。 家の下部が、老い屈み、 嗄れごゑに、竹箒 …
読書目安時間:約1分
五里の青野に行き暮れて、 山下街の片門に、 いかで一夜の宿乞ふと 都のなまり、——うらわかき 学生づれの七人は 手にこそしたれ、百合の花。 家の下部が、老い屈み、 嗄れごゑに、竹箒 …
騎士と姫(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
春の弥生の夜は仄に 天地ひくゝ垂れあひて、 情のにほひいちめんに おぼろおぼろの花ぐもり、 精舎の壁の地獄絵も 温き霞を纏ふらむ。 森の木立の月かげを 避けて、まぶかき黒鉄の 甲に …
読書目安時間:約2分
春の弥生の夜は仄に 天地ひくゝ垂れあひて、 情のにほひいちめんに おぼろおぼろの花ぐもり、 精舎の壁の地獄絵も 温き霞を纏ふらむ。 森の木立の月かげを 避けて、まぶかき黒鉄の 甲に …
この日(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
君うつくしく幸ありと、 おもへば魂はくづるゝに、 なまじい罪は負ひつゝも、 君は死にきと眼を閉ぢて、 痩せたる胸を撫づるなり。 もとより心いつはらぬ ふたりが恋のくちつけは、 法の …
読書目安時間:約1分
君うつくしく幸ありと、 おもへば魂はくづるゝに、 なまじい罪は負ひつゝも、 君は死にきと眼を閉ぢて、 痩せたる胸を撫づるなり。 もとより心いつはらぬ ふたりが恋のくちつけは、 法の …
坂(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
神無月、日は淡々と 夕ぐれの雲ににほへば、 眼路ひくき彼方に薄れ あはれなる遠樹ぞ見ゆる。 畦をゆく斑の牛と 黄牛は声も慵く、 今は皆刑の場に 皮剥がれ紅く伏しなむ、 かく思ひ定め …
読書目安時間:約1分
神無月、日は淡々と 夕ぐれの雲ににほへば、 眼路ひくき彼方に薄れ あはれなる遠樹ぞ見ゆる。 畦をゆく斑の牛と 黄牛は声も慵く、 今は皆刑の場に 皮剥がれ紅く伏しなむ、 かく思ひ定め …
霜夜(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夜はくだつ十一時、 霜さむく、圧しくる闇の気の凍に、 舞ひ疲れては黄塵も しくしくと泣き湿り、 侘寝すらし。 色褪めし達摩像、 はた古りし徳利のやうに、つくねんと、 屑本のちりばふ …
読書目安時間:約1分
夜はくだつ十一時、 霜さむく、圧しくる闇の気の凍に、 舞ひ疲れては黄塵も しくしくと泣き湿り、 侘寝すらし。 色褪めし達摩像、 はた古りし徳利のやうに、つくねんと、 屑本のちりばふ …
寂寞(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
たとふれば戦ひ果てぬ、 日は暮れて二時を経ぬ なまぐさき荒野の中に 双の眼を弾丸に射られて なほ黒き呻吟をしのび、 よこたはる負傷の兵の 勇しきわかき心に、 秘めつゝむ苦痛遂に 鈍 …
読書目安時間:約1分
たとふれば戦ひ果てぬ、 日は暮れて二時を経ぬ なまぐさき荒野の中に 双の眼を弾丸に射られて なほ黒き呻吟をしのび、 よこたはる負傷の兵の 勇しきわかき心に、 秘めつゝむ苦痛遂に 鈍 …
しやうりの歌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
闇の幕危く垂れて 二十八宿星座揺ぎ 滅亡の香凄う乱るゝ 古寺の屋根に嬉しや 白鵠の夢は醒めたり、 あな嬉し霊の御告、 白鵠は夢より醒めぬ 頼しく威ある瞳に 喙の結びたゞしく みがま …
読書目安時間:約1分
闇の幕危く垂れて 二十八宿星座揺ぎ 滅亡の香凄う乱るゝ 古寺の屋根に嬉しや 白鵠の夢は醒めたり、 あな嬉し霊の御告、 白鵠は夢より醒めぬ 頼しく威ある瞳に 喙の結びたゞしく みがま …
信姫(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
君が家はそもいづこか。 大み慈悲の御使女、—— 『光明』皇子のいもうと、 『信』姫に懸想しぬ。 はつ夏のあさぼらけ、 薔薇いろ雲の花やぎ 天そそり、吹く風に 妙なる香をも浮ぶるや、 …
読書目安時間:約1分
君が家はそもいづこか。 大み慈悲の御使女、—— 『光明』皇子のいもうと、 『信』姫に懸想しぬ。 はつ夏のあさぼらけ、 薔薇いろ雲の花やぎ 天そそり、吹く風に 妙なる香をも浮ぶるや、 …
友に(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
友よ恨まじ今日よりは ねたまじ、君は濃藍の 底見えわかぬわたづみの 珊瑚の宮に恋を得て 幸くあり、とに思ひ止まむ。 濃藍たゞえて見えわかぬ わたづみ底の恋なれば 誰が子誰が子の手を …
読書目安時間:約1分
友よ恨まじ今日よりは ねたまじ、君は濃藍の 底見えわかぬわたづみの 珊瑚の宮に恋を得て 幸くあり、とに思ひ止まむ。 濃藍たゞえて見えわかぬ わたづみ底の恋なれば 誰が子誰が子の手を …
夏の日(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
真夏の午の片日向、 苔すこし泥ばみ青む捨石に、 鳩酢草は呼吸細う雫に湿ひ 実を持ちぬ、かつ喘息ぎつゝ。 そのかみ誰れに小さなる 性は得て、また誰恋ひて、その熟実、 かつこぼし、かつ …
読書目安時間:約1分
真夏の午の片日向、 苔すこし泥ばみ青む捨石に、 鳩酢草は呼吸細う雫に湿ひ 実を持ちぬ、かつ喘息ぎつゝ。 そのかみ誰れに小さなる 性は得て、また誰恋ひて、その熟実、 かつこぼし、かつ …
如是(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
凶会日は凶会日と見て 病めるもの衰へしもの、 床の上にすなほに僵れ、 瓶の身は砕けてちりて、 滅亡に入らむ。 床の上に破れぬ、花瓶、 されどそが『こゝろ』は如何に、 すなほにと云へ …
読書目安時間:約1分
凶会日は凶会日と見て 病めるもの衰へしもの、 床の上にすなほに僵れ、 瓶の身は砕けてちりて、 滅亡に入らむ。 床の上に破れぬ、花瓶、 されどそが『こゝろ』は如何に、 すなほにと云へ …
ねたみ(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
つぶやきぬ。 『ああうたて「夢」を飾りし世の宝 手玉も、花も薫陸も 有りのことごと朽ちはてぬ、 あはれ死なまし。』 またうめく。 『ああうたて、恋も、まことも、愛楽も 蒼蠅羽ならし …
読書目安時間:約1分
つぶやきぬ。 『ああうたて「夢」を飾りし世の宝 手玉も、花も薫陸も 有りのことごと朽ちはてぬ、 あはれ死なまし。』 またうめく。 『ああうたて、恋も、まことも、愛楽も 蒼蠅羽ならし …
文月のひと日(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
黒檀のみどり葉末に、 そよ風ながう滑りて、 自然の魂塊藍に 薫りとぶ真夏の昼。 金糸雀にうまゐ醒めて、 夢の世に追ひわびたる、 やわらぎの霊の華を いま紫陽花にみとめつ。 昨夜詩に …
読書目安時間:約1分
黒檀のみどり葉末に、 そよ風ながう滑りて、 自然の魂塊藍に 薫りとぶ真夏の昼。 金糸雀にうまゐ醒めて、 夢の世に追ひわびたる、 やわらぎの霊の華を いま紫陽花にみとめつ。 昨夜詩に …
焔の后(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
気も遠く世も消え/\や 丑三つの森の奥の 白檀ほのにくゆり 木薩地しづき頃ほひ。 魑魅が気夢にふれて 孵りし我かの心地。 皐月闇霊気ばしる 夜半の戸に額を垂れて あゝ堪へ難き胸の狂 …
読書目安時間:約1分
気も遠く世も消え/\や 丑三つの森の奥の 白檀ほのにくゆり 木薩地しづき頃ほひ。 魑魅が気夢にふれて 孵りし我かの心地。 皐月闇霊気ばしる 夜半の戸に額を垂れて あゝ堪へ難き胸の狂 …
夕の賦(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
仰げばみ空青く澄み、金星遙に霑ひて、神秘の御幕長く垂れ、闇の香襲々屋根に戸に、夕となりぬ月出ぬ。 夕となりぬ月出ぬ、雲のみ無心に靉靆て、烏は北枝の巣に帰り、狐は隣の穴を訪ひ、螢は燃 …
読書目安時間:約1分
仰げばみ空青く澄み、金星遙に霑ひて、神秘の御幕長く垂れ、闇の香襲々屋根に戸に、夕となりぬ月出ぬ。 夕となりぬ月出ぬ、雲のみ無心に靉靆て、烏は北枝の巣に帰り、狐は隣の穴を訪ひ、螢は燃 …
わが画(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
思はずも筆はしり 忽ちに画は成りぬ。 この時に涙ぞくだる。われながら 芸の力に泣きぬるか。 きと見れば、あさましや、 をののきに眼ぞ眩む。 むくつけき斑の獣尾を曳きて 面には君をゑ …
読書目安時間:約1分
思はずも筆はしり 忽ちに画は成りぬ。 この時に涙ぞくだる。われながら 芸の力に泣きぬるか。 きと見れば、あさましや、 をののきに眼ぞ眩む。 むくつけき斑の獣尾を曳きて 面には君をゑ …
わなゝき(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
瞬時の夢の装飾も、 しかすがに彩映ゆれば、 紫の絹の帳、 永遠の生命ありと、 平和を守りいつきて、 心ある春の雨は、 軟らに音なく濺いで、 しのびに葉末を流れぬるか。 瞬たけばまた …
読書目安時間:約2分
瞬時の夢の装飾も、 しかすがに彩映ゆれば、 紫の絹の帳、 永遠の生命ありと、 平和を守りいつきて、 心ある春の雨は、 軟らに音なく濺いで、 しのびに葉末を流れぬるか。 瞬たけばまた …
“末吉安持”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)