中谷宇吉郎
1900.07.04 〜 1962.04.11
“中谷宇吉郎”に特徴的な語句
中
糎
粍
瓦
六花
細
哩
鮮
駆
頬
凝
理由
紐育
棲
空間
要
御
如何
暫
剣橋
珈琲
仏蘭西
露西亜
外
兎
到
此処
何時
加奈陀
倫敦
其処
角
孔
羊歯
後
椴松
間
瓦斯
勢力
蔽
乃至
止
米
戴
灌木
易
橇
浪
流行
汲
著者としての作品一覧
I駅の一夜(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
まだ戦争中の話である。 三月十日の未明、本所深川を焼いたあの帝都空襲の余波を受けて、盛岡の一部にも火災が起きた。丁度その時刻には、私は何も知らずに、連絡船の中でぐっすり寝ていた。 …
読書目安時間:約9分
まだ戦争中の話である。 三月十日の未明、本所深川を焼いたあの帝都空襲の余波を受けて、盛岡の一部にも火災が起きた。丁度その時刻には、私は何も知らずに、連絡船の中でぐっすり寝ていた。 …
赤倉(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
白樺の一本見えて妙高の 野ははろばろと雲につづけり 妙高のふもと三里の高原 赤倉の野は雲につづく 夕べ静かなるおもいを抱いて わたしは野におり立って見る 茅の間に踏みわけられた径が …
読書目安時間:約3分
白樺の一本見えて妙高の 野ははろばろと雲につづけり 妙高のふもと三里の高原 赤倉の野は雲につづく 夕べ静かなるおもいを抱いて わたしは野におり立って見る 茅の間に踏みわけられた径が …
「悪魔の足跡」(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ゼサップ氏の本に引用されている「悪魔の足跡」というのは、非常に不思議な現象である。 英国の南西部に、デヴォン州という州がある。一八五五年二月七日の夜、その州に大雪が降った。翌朝人々 …
読書目安時間:約3分
ゼサップ氏の本に引用されている「悪魔の足跡」というのは、非常に不思議な現象である。 英国の南西部に、デヴォン州という州がある。一八五五年二月七日の夜、その州に大雪が降った。翌朝人々 …
あすへの話題(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
このごろ、あまり意外なことが、つぎつぎと出て来るので、たいていのことには、そう驚かなくなった。ところが、最近全く奇想天外な話をきいて、大いに度胆を抜かれた。それは重力を絶ち切る研究 …
読書目安時間:約7分
このごろ、あまり意外なことが、つぎつぎと出て来るので、たいていのことには、そう驚かなくなった。ところが、最近全く奇想天外な話をきいて、大いに度胆を抜かれた。それは重力を絶ち切る研究 …
油を搾る話(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
いつか江戸前の天ぷら屋で天ぷらを喰った時に主人から聞いた話である。 油は榧の油と胡麻油とを半々に割って使っています。手搾りの油があれば胡麻ばかりの方が良いのですが、この頃じゃ機械搾 …
読書目安時間:約1分
いつか江戸前の天ぷら屋で天ぷらを喰った時に主人から聞いた話である。 油は榧の油と胡麻油とを半々に割って使っています。手搾りの油があれば胡麻ばかりの方が良いのですが、この頃じゃ機械搾 …
安倍さんとタゴール(旧字新仮名)
読書目安時間:約5分
先日安倍(能成)さんが見えていたと思ったら、もう今日屆いた『心』の五月號に、安倍さんを圍んでの皆さんの座談會の記事が載っていた。アメリカと日本との距離も、ずいぶん近くなったものであ …
読書目安時間:約5分
先日安倍(能成)さんが見えていたと思ったら、もう今日屆いた『心』の五月號に、安倍さんを圍んでの皆さんの座談會の記事が載っていた。アメリカと日本との距離も、ずいぶん近くなったものであ …
アメリカ種の落語(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
二十年ぶりにアメリカを廻ってみて、一番感じたことは田舎の隅の隅まで、道路が非常によくなったことである。大都会やその近郊なら、そう驚きもしないが、例えばニューハンプシアの北の果て近い …
読書目安時間:約3分
二十年ぶりにアメリカを廻ってみて、一番感じたことは田舎の隅の隅まで、道路が非常によくなったことである。大都会やその近郊なら、そう驚きもしないが、例えばニューハンプシアの北の果て近い …
アメリカの沙漠(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
今世紀の初頭から着手されたアメリカの綜合開発は、今日かがやかしい成果をあげている。その仕事の九割以上は、沙漠の征服にある。即ち水資源に乏しいアメリカでは、大きいダムを造って、雪解け …
読書目安時間:約27分
今世紀の初頭から着手されたアメリカの綜合開発は、今日かがやかしい成果をあげている。その仕事の九割以上は、沙漠の征服にある。即ち水資源に乏しいアメリカでは、大きいダムを造って、雪解け …
アメリカの新聞(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
新聞の果している役割は、日本とアメリカとでは、大分ちがうようである。 アメリカの新聞は、報道のほかに、娯楽面と広告とが非常に多い。とくに広告に多くの紙面を割いている。この広告に三種 …
読書目安時間:約2分
新聞の果している役割は、日本とアメリカとでは、大分ちがうようである。 アメリカの新聞は、報道のほかに、娯楽面と広告とが非常に多い。とくに広告に多くの紙面を割いている。この広告に三種 …
アメリカの旅(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
昭和二十四年七月六日に羽田を立って、三カ月の予定で、アラスカ、米本国、カナダを廻って、十月五日に、南方空路経由、羽田へ帰り着いた。その間、わずか九十日の間に、十年前ならば、一年以上 …
読書目安時間:約4分
昭和二十四年七月六日に羽田を立って、三カ月の予定で、アラスカ、米本国、カナダを廻って、十月五日に、南方空路経由、羽田へ帰り着いた。その間、わずか九十日の間に、十年前ならば、一年以上 …
雨を降らす話(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
人間の力で雨を降らそうという願望は、昔からどの国にもあった。いろいろな祈祷や、雨乞いの歌の話などは、その一つのあらわれである。 そういう話は別として、科学の力で雨を降らそうという企 …
読書目安時間:約26分
人間の力で雨を降らそうという願望は、昔からどの国にもあった。いろいろな祈祷や、雨乞いの歌の話などは、その一つのあらわれである。 そういう話は別として、科学の力で雨を降らそうという企 …
アラスカ通信(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
七月六日の午後、ノース・ウェスト機で羽田を立った時は、雨の中であった。しかし間もなく雲の上に出たので、気象状態はそう悪くなかった。 ときどき霧雨が窓を濡らし、灰色の雲がちぎれちぎれ …
読書目安時間:約33分
七月六日の午後、ノース・ウェスト機で羽田を立った時は、雨の中であった。しかし間もなく雲の上に出たので、気象状態はそう悪くなかった。 ときどき霧雨が窓を濡らし、灰色の雲がちぎれちぎれ …
アラスカの氷河(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讚美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が …
読書目安時間:約6分
アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讚美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が …
アラスカの氷河(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讃美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が …
読書目安時間:約22分
アラスカの氷河は、景観の美しさという点では、世界第一といわれている。 氷河の壮大な美しさは、ずっと昔から、文学者や地理学者たちの讃美の的であった。もっとも、近年までは、一般の人々が …
異魚(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
ロフティングの『ドリトル先生アフリカ行』の中に、名前は忘れたが、アフリカでもめったに見られない珍獣中の珍獣ともいうべき動物の話が出ている。それは頭と尻と両方に首がある動物のことであ …
読書目安時間:約16分
ロフティングの『ドリトル先生アフリカ行』の中に、名前は忘れたが、アフリカでもめったに見られない珍獣中の珍獣ともいうべき動物の話が出ている。それは頭と尻と両方に首がある動物のことであ …
イグアノドンの唄:――大人のための童話――(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
終戦の年の北海道は、十何年ぶりの冷害に見舞われ、米は五分作か六分作という惨めさであった。豊作でさえ米の足りない北海道のことであるから、この年の冬は、誰も彼も皆深刻な食糧危機におびや …
読書目安時間:約21分
終戦の年の北海道は、十何年ぶりの冷害に見舞われ、米は五分作か六分作という惨めさであった。豊作でさえ米の足りない北海道のことであるから、この年の冬は、誰も彼も皆深刻な食糧危機におびや …
痛みの効用(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
日本には昔から揉み療治というものがあって、Nの揉み療治などが特に有名である。骨折などの場合にも無闇と揉んで治してしまうという話であるが、現代の医学からみたら随分無茶な話であろう。そ …
読書目安時間:約2分
日本には昔から揉み療治というものがあって、Nの揉み療治などが特に有名である。骨折などの場合にも無闇と揉んで治してしまうという話であるが、現代の医学からみたら随分無茶な話であろう。そ …
犬がなくとガラスがこわれるか(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
今日は、科学の時代といわれる。 宇宙ロケットがとび、人工頭脳がそれを操作する。原子力発電機が、北極の厚さ二千メートルの氷の上に設置され、生命をもったヴィールスが、結晶としてとり出さ …
読書目安時間:約41分
今日は、科学の時代といわれる。 宇宙ロケットがとび、人工頭脳がそれを操作する。原子力発電機が、北極の厚さ二千メートルの氷の上に設置され、生命をもったヴィールスが、結晶としてとり出さ …
稲の一日(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
一日が二十四時間であることは、人間ならば、子供でも知っている。しかし稲がそれを知っているかどうか、それは多分稲専門の農学者にも、よくわかっていないであろう。 稲がもし一日が二十四時 …
読書目安時間:約21分
一日が二十四時間であることは、人間ならば、子供でも知っている。しかし稲がそれを知っているかどうか、それは多分稲専門の農学者にも、よくわかっていないであろう。 稲がもし一日が二十四時 …
ウィネッカの秋(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
シカゴの街は、大陸の真中にあるので、寒暑の差がいちじるしい。夏は華氏の百度を突破することがしばしばあり、冬はまた摂氏零下二十度、あるいはそれ以下になることも時々ある。しかしアメリカ …
読書目安時間:約9分
シカゴの街は、大陸の真中にあるので、寒暑の差がいちじるしい。夏は華氏の百度を突破することがしばしばあり、冬はまた摂氏零下二十度、あるいはそれ以下になることも時々ある。しかしアメリカ …
ウィネッカの冬(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ウィネッカの冬は寒い。緯度はだいたい北海道の真中くらいで、寒さも似たようなものである。 雪は少なくて、普通の年では五寸も積れば、皆大雪と思っている。三寸くらいのことが多く、根雪にな …
読書目安時間:約8分
ウィネッカの冬は寒い。緯度はだいたい北海道の真中くらいで、寒さも似たようなものである。 雪は少なくて、普通の年では五寸も積れば、皆大雪と思っている。三寸くらいのことが多く、根雪にな …
兎の耳(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
兎の耳はだてについているものじゃないという話をこの頃聞いて大変面白かった。 その話をしてくれたのは、某大学の若い医学者のTさんである。Tさんは大変な勉強家で、毎晩二時まで本を読んで …
読書目安時間:約17分
兎の耳はだてについているものじゃないという話をこの頃聞いて大変面白かった。 その話をしてくれたのは、某大学の若い医学者のTさんである。Tさんは大変な勉強家で、毎晩二時まで本を読んで …
牛の丸焼(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
だいぶ前のことであるが、「西洋の浜焼」という題で、チリーのインディアンの料理の話を書いたことがある。 それはクラントウという料理であって、肉と野菜とを、幅の広い木の葉でつつんで、土 …
読書目安時間:約9分
だいぶ前のことであるが、「西洋の浜焼」という題で、チリーのインディアンの料理の話を書いたことがある。 それはクラントウという料理であって、肉と野菜とを、幅の広い木の葉でつつんで、土 …
宇宙旅行の科学(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
宇宙旅行の夢くらい、素晴らしくて、又罪のない夢はない。そういう夢に、いよいよ実現の可能性が出てきたのならば、これは戦争の悪夢にうなされているわれわれには、何よりの清涼剤になるであろ …
読書目安時間:約35分
宇宙旅行の夢くらい、素晴らしくて、又罪のない夢はない。そういう夢に、いよいよ実現の可能性が出てきたのならば、これは戦争の悪夢にうなされているわれわれには、何よりの清涼剤になるであろ …
映画『人類の歴史』(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
前から私は、妙な夢を一つもっている。それは『人類の歴史』という映画を作ってみたいというのである。甚だ唐突な話で、そんなことをいっても、何のことか全然見当がつかないかもしれないが、本 …
読書目安時間:約20分
前から私は、妙な夢を一つもっている。それは『人類の歴史』という映画を作ってみたいというのである。甚だ唐突な話で、そんなことをいっても、何のことか全然見当がつかないかもしれないが、本 …
映画を作る話(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
去年の暮のことである。T映画会社の専務とかいう方が見えたというので、会って見たら、その用向きというのが、『雪』を映画にして見たいがどうかという話だったので、少々驚いた。 もっともよ …
読書目安時間:約25分
去年の暮のことである。T映画会社の専務とかいう方が見えたというので、会って見たら、その用向きというのが、『雪』を映画にして見たいがどうかという話だったので、少々驚いた。 もっともよ …
永久凍土地帯(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
外は零下三十度近い寒さである。 黒河へ向う私たちの汽車は、孫呉の駅を出て既に数時間走っている。 車窓に見える限りの雪原は、いつまで行っても平坦で、何の起伏もない。家もなければ立木も …
読書目安時間:約23分
外は零下三十度近い寒さである。 黒河へ向う私たちの汽車は、孫呉の駅を出て既に数時間走っている。 車窓に見える限りの雪原は、いつまで行っても平坦で、何の起伏もない。家もなければ立木も …
英国日食班の印象(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
昨年の秋C・T・Rウイルソン先生からの手紙で、ストラットン教授の一行が今度の日食観測に北海道の方へ行くことになったから宜敷くとのことであった。その後何の消息もなかったのであるが、新 …
読書目安時間:約14分
昨年の秋C・T・Rウイルソン先生からの手紙で、ストラットン教授の一行が今度の日食観測に北海道の方へ行くことになったから宜敷くとのことであった。その後何の消息もなかったのであるが、新 …
英国の物理学界と物理学者(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
英国の物理学は、少くも過去半世紀の発展について見ると、剣橋のキャベンディシュ研究所から生れたものといえよう。あるいは少し大仰にいえば、現代の世界の物理学はキャベンディシュ研究所から …
読書目安時間:約18分
英国の物理学は、少くも過去半世紀の発展について見ると、剣橋のキャベンディシュ研究所から生れたものといえよう。あるいは少し大仰にいえば、現代の世界の物理学はキャベンディシュ研究所から …
エスキモーの国から(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
五月の末に日本を立って、米国の東海岸に面した避暑地ウッズホールで、三日間の会議をすませ、昨日グリーンランドのチューレへ着いた。そこから十四マイルばかり氷河のモレインの原を行くと、氷 …
読書目安時間:約26分
五月の末に日本を立って、米国の東海岸に面した避暑地ウッズホールで、三日間の会議をすませ、昨日グリーンランドのチューレへ着いた。そこから十四マイルばかり氷河のモレインの原を行くと、氷 …
エリセーフ氏(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ハーバード大学の極東美術の主任教授に、エリセーフ氏という人がある。東大の文学部卒業、国文学を専攻したという変った学者で、その頃漱石のお弟子の一人であった。 若い頃は、小宮(豊隆)さ …
読書目安時間:約3分
ハーバード大学の極東美術の主任教授に、エリセーフ氏という人がある。東大の文学部卒業、国文学を専攻したという変った学者で、その頃漱石のお弟子の一人であった。 若い頃は、小宮(豊隆)さ …
鉛筆のしん(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私たちは小さい時から、「おぎょうぎよくなさい」ということばを、いつも聞かされたものです。箸の持ち方、茶碗とお椀とお皿の置き方、食べ方、坐り方から、帯のしめ方までずいぶん細かいことを …
読書目安時間:約6分
私たちは小さい時から、「おぎょうぎよくなさい」ということばを、いつも聞かされたものです。箸の持ち方、茶碗とお椀とお皿の置き方、食べ方、坐り方から、帯のしめ方までずいぶん細かいことを …
大阪人と科学精神(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
今のことはよく知らないが、一昔前のいわゆる大阪商人は朝、人に会うと「おはようございます」の代りに「もうかりまっか」と言ったそうである。それには「いやあきまへんで」という受言葉がある …
読書目安時間:約2分
今のことはよく知らないが、一昔前のいわゆる大阪商人は朝、人に会うと「おはようございます」の代りに「もうかりまっか」と言ったそうである。それには「いやあきまへんで」という受言葉がある …
おにぎりの味(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
お握りには、いろいろな思い出がある。 北陸の片田舎で育った私たちは、中学へ行くまで、洋服を着た小学生というものは、誰も見たことがなかった。紺絣の筒っぽに、ちびた下駄。雨の降る日は、 …
読書目安時間:約3分
お握りには、いろいろな思い出がある。 北陸の片田舎で育った私たちは、中学へ行くまで、洋服を着た小学生というものは、誰も見たことがなかった。紺絣の筒っぽに、ちびた下駄。雨の降る日は、 …
面白味(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昔、伊東で病気を養っていた頃、東京の一流料理店の主人が、遊びに来たことがある。料理店を通じての友人ではなく、同郷の男である。 私にはよく分からなかったが、何でも非常な食通で、料理の …
読書目安時間:約3分
昔、伊東で病気を養っていた頃、東京の一流料理店の主人が、遊びに来たことがある。料理店を通じての友人ではなく、同郷の男である。 私にはよく分からなかったが、何でも非常な食通で、料理の …
温泉2(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
もう二十年以上も昔の話であるが、弟といっしょに、しばらくパリで暮したことがある。私は文部省の留学生であり、弟は考古学をやっていて、トロカデロの博物館から僅かばかりの手当をもらってい …
読書目安時間:約12分
もう二十年以上も昔の話であるが、弟といっしょに、しばらくパリで暮したことがある。私は文部省の留学生であり、弟は考古学をやっていて、トロカデロの博物館から僅かばかりの手当をもらってい …
温泉1(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私は温泉が非常に好きである。少年時代を北陸の温泉地に送ったせいかも知れないが、今でも少し身体の調子が悪い時などは、いつも温泉に行ったら直ぐに元気になるのだろうという気がする。元気な …
読書目安時間:約10分
私は温泉が非常に好きである。少年時代を北陸の温泉地に送ったせいかも知れないが、今でも少し身体の調子が悪い時などは、いつも温泉に行ったら直ぐに元気になるのだろうという気がする。元気な …
海底の散歩(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
今日の地球上で、人間の生活と縁が近いようで、その実いちばんかけはなれた世界は、水中の世界、すなわち水界である。虫も鳥も獣も人間も、空気中に住んでいる以上、それらは気界の生物である。 …
読書目安時間:約8分
今日の地球上で、人間の生活と縁が近いようで、その実いちばんかけはなれた世界は、水中の世界、すなわち水界である。虫も鳥も獣も人間も、空気中に住んでいる以上、それらは気界の生物である。 …
貝鍋の歌(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
北海に愚魚あり その名をほっけという 肉は白きこと雪片を欺き 味はうすきこと太虚に似たり 一片の三石の昆布 一滴のうすくちの醤油 真白なる豆腐に わずかなる緑を加う くつくつと貝鍋 …
読書目安時間:約4分
北海に愚魚あり その名をほっけという 肉は白きこと雪片を欺き 味はうすきこと太虚に似たり 一片の三石の昆布 一滴のうすくちの醤油 真白なる豆腐に わずかなる緑を加う くつくつと貝鍋 …
科学映画の一考察(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
文化映画の中で特に自然科学を直接対象としたものを科学映画と呼ぶことにする。この科学映画は大別して大体二種類に分けられると思う。 その一つはいわゆる「博物もの」で、色々の動物や植物の …
読書目安時間:約4分
文化映画の中で特に自然科学を直接対象としたものを科学映画と呼ぶことにする。この科学映画は大別して大体二種類に分けられると思う。 その一つはいわゆる「博物もの」で、色々の動物や植物の …
「科学的」方法の適用されぬ場合(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
お茶のうまい出し方のような問題は、「科学的」方法を用いるとまことに簡単なことのように一寸思われる。いろいろの温度の湯をいろいろ量をかえて用い、浸出の時間をまたいろいろにかえてみて、 …
読書目安時間:約2分
お茶のうまい出し方のような問題は、「科学的」方法を用いるとまことに簡単なことのように一寸思われる。いろいろの温度の湯をいろいろ量をかえて用い、浸出の時間をまたいろいろにかえてみて、 …
科学と国境(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
科学と国境という問題は、以前から論議されてきた課題であるが、原子力の解放にまで到達した今日の新しい時代になってみると、急激にその切実さを増してきた感がある。 第二次世界大戦の前頃、 …
読書目安時間:約30分
科学と国境という問題は、以前から論議されてきた課題であるが、原子力の解放にまで到達した今日の新しい時代になってみると、急激にその切実さを増してきた感がある。 第二次世界大戦の前頃、 …
科学と文化(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この頃自然科学上の色々の問題が、文科系統の学問をしている人々の口に度々上っているようである。自然科学が従来のように工業的方面にのみ利用されているのにあきたらず、もっと人間の精神活動 …
読書目安時間:約8分
この頃自然科学上の色々の問題が、文科系統の学問をしている人々の口に度々上っているようである。自然科学が従来のように工業的方面にのみ利用されているのにあきたらず、もっと人間の精神活動 …
科学の限界(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
今世紀にはいってからの科学の進歩には、まことに目ざましいものがあった。とくにこの十年以来、その進歩は、一大飛躍をなし、原子力の開放、人工衛星の打ち揚げなど、人類の歴史の上に、金字塔 …
読書目安時間:約18分
今世紀にはいってからの科学の進歩には、まことに目ざましいものがあった。とくにこの十年以来、その進歩は、一大飛躍をなし、原子力の開放、人工衛星の打ち揚げなど、人類の歴史の上に、金字塔 …
科学の国際連合(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
一年ぶりに、旧の研究所(イリノイ州ウィルメット所在雪氷永久凍土研究所)へ顔を出してみたら、大分新顔が増えていた。皆外国人で、雪や氷や凍土の研究をしている男であって、名前は論文を通じ …
読書目安時間:約3分
一年ぶりに、旧の研究所(イリノイ州ウィルメット所在雪氷永久凍土研究所)へ顔を出してみたら、大分新顔が増えていた。皆外国人で、雪や氷や凍土の研究をしている男であって、名前は論文を通じ …
科学は役に立つか(新字新仮名)
読書目安時間:約41分
昨年の暮に、ちょっと用事があって、ワシントンへ出かけた機会に、久しぶりでケリイ博士を訪ねてみた。 ケリイ博士といえば、日本の科学界には、かなり親しい名前であって、総司令部があった頃 …
読書目安時間:約41分
昨年の暮に、ちょっと用事があって、ワシントンへ出かけた機会に、久しぶりでケリイ博士を訪ねてみた。 ケリイ博士といえば、日本の科学界には、かなり親しい名前であって、総司令部があった頃 …
科学ブームへの苦言(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
この数年来の科学の飛躍的発展は、今さら述べ立てるまでもない。人工衛星、原子力問題、人工頭脳、南極観測と……、この近年の新聞や雑誌に、科学関係の記事が、一つも載らない日は、まず無いと …
読書目安時間:約25分
この数年来の科学の飛躍的発展は、今さら述べ立てるまでもない。人工衛星、原子力問題、人工頭脳、南極観測と……、この近年の新聞や雑誌に、科学関係の記事が、一つも載らない日は、まず無いと …
画業二十年(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私は悪友のK画伯、但し画伯は自称、から一度だけ褒められたことがある。「あなたはどんなに忙しくても、絵を描こうというと、感心に断ったことはないね」というのである。 事実、世の中に、何 …
読書目安時間:約6分
私は悪友のK画伯、但し画伯は自称、から一度だけ褒められたことがある。「あなたはどんなに忙しくても、絵を描こうというと、感心に断ったことはないね」というのである。 事実、世の中に、何 …
郭公のおとずれ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
六月に入ってしばらくすると、郭公が鳴く。 そして郭公とつれて、待ちかねた北海道の初夏が訪れて来る。 長い寒い北国の春につかれた人々は、爽かな初夏の風が、ようやくに出揃った楡の青葉を …
読書目安時間:約4分
六月に入ってしばらくすると、郭公が鳴く。 そして郭公とつれて、待ちかねた北海道の初夏が訪れて来る。 長い寒い北国の春につかれた人々は、爽かな初夏の風が、ようやくに出揃った楡の青葉を …
桂浜(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
漱石の俳句の中に 寅彦桂浜の石数十顆を送る 涼しさや石握り見る掌 という句がある。如何にも涼しさのあふれる名品である。そしてその涼しさの中に、寅彦の漱石に対する思慕の情と、漱石のそ …
読書目安時間:約2分
漱石の俳句の中に 寅彦桂浜の石数十顆を送る 涼しさや石握り見る掌 という句がある。如何にも涼しさのあふれる名品である。そしてその涼しさの中に、寅彦の漱石に対する思慕の情と、漱石のそ …
カピッツア争い(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
カピッツア教授といえば、英才雲と群る英国ケンブリッジ物理学界でも錚々たるものであった。同教授はロシア人で一九二九年在外研究員としてケンブリッジへ派遣され、ラザフォード卿の下で強力磁 …
読書目安時間:約2分
カピッツア教授といえば、英才雲と群る英国ケンブリッジ物理学界でも錚々たるものであった。同教授はロシア人で一九二九年在外研究員としてケンブリッジへ派遣され、ラザフォード卿の下で強力磁 …
かぶらずし(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
金沢の郷土の漬け物に、かぶらずしというものがある。大きいかぶらを、厚さ一センチくらいに切り、中に切れ目を入れて、その中に塩ブリをはさむ。それを重石を強くしてこうじでつけたもので、非 …
読書目安時間:約2分
金沢の郷土の漬け物に、かぶらずしというものがある。大きいかぶらを、厚さ一センチくらいに切り、中に切れ目を入れて、その中に塩ブリをはさむ。それを重石を強くしてこうじでつけたもので、非 …
紙の洪水(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
アメリカの話も、もう皆鼻についているので、あまり書くこともない。しかしホテルに泊っていたのでは、一寸気のつかないこともあり、そういう話なら、少しは面白いことがあるかもしれない。しか …
読書目安時間:約3分
アメリカの話も、もう皆鼻についているので、あまり書くこともない。しかしホテルに泊っていたのでは、一寸気のつかないこともあり、そういう話なら、少しは面白いことがあるかもしれない。しか …
紙の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
前の話で、家をもったら、紙の始末をどうするか、少し気になるという話を書いたが、その始末法はきわめて簡単にわかった。半分は棄て、半分は燃してしまうのである。 前にいったように、新聞紙 …
読書目安時間:約3分
前の話で、家をもったら、紙の始末をどうするか、少し気になるという話を書いたが、その始末法はきわめて簡単にわかった。半分は棄て、半分は燃してしまうのである。 前にいったように、新聞紙 …
硝子を破る者(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
汽車はあいかわらず満員である。 吹雪で遅れ遅れするので、駅には前からの乗客が溜って益々混雑をひどくするらしい。 やっと窓際の席がとれて、珍しいことと喜んだのも束の間、硝子が破れてい …
読書目安時間:約14分
汽車はあいかわらず満員である。 吹雪で遅れ遅れするので、駅には前からの乗客が溜って益々混雑をひどくするらしい。 やっと窓際の席がとれて、珍しいことと喜んだのも束の間、硝子が破れてい …
勘(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
勘というものは、不思議なものである。和英の辞書をひいても、勘に相当する適当な言葉は見当らない。勘がよいというのには「見通しが早い」とか「第六感がすぐれている」という言葉があてはまる …
読書目安時間:約3分
勘というものは、不思議なものである。和英の辞書をひいても、勘に相当する適当な言葉は見当らない。勘がよいというのには「見通しが早い」とか「第六感がすぐれている」という言葉があてはまる …
寒月の「首縊りの力学」その他(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
『猫』の寒月のモデルとして一般に信ぜられていた寺田寅彦先生が、昨年の暮押し迫って亡くなられた。その御葬式も済んで、一通りの用事も片付いた頃、漱石同門でありかつ先生の心友であった小宮 …
読書目安時間:約10分
『猫』の寒月のモデルとして一般に信ぜられていた寺田寅彦先生が、昨年の暮押し迫って亡くなられた。その御葬式も済んで、一通りの用事も片付いた頃、漱石同門でありかつ先生の心友であった小宮 …
簪を挿した蛇(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
石川県の西のはずれ、福井県との境近くに大聖寺という町がある。其処に錦城という小学校があって、その学校で私は六年間の小学校生活を卒えた。たしか尋常六年の時に、明治天皇が崩御されたよう …
読書目安時間:約20分
石川県の西のはずれ、福井県との境近くに大聖寺という町がある。其処に錦城という小学校があって、その学校で私は六年間の小学校生活を卒えた。たしか尋常六年の時に、明治天皇が崩御されたよう …
北国の春(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
ウィネツカは札幌と大体緯度が同じくらいで、風物にも似たところがある。とくに春は感じがよく似ている。ともに北国のおそい春であるが、それにもまた捨てがたい情趣がある。 二度目のウィネツ …
読書目安時間:約21分
ウィネツカは札幌と大体緯度が同じくらいで、風物にも似たところがある。とくに春は感じがよく似ている。ともに北国のおそい春であるが、それにもまた捨てがたい情趣がある。 二度目のウィネツ …
吉右衛門と神鳴(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ついさき頃の『心』の中に、吉右衛門氏と小宮(豊隆)さんとの対談が載っていた。近来にない面白い対談で、芸というものの面白さと恐ろしさとがよく出ていた。 その中で、一見あまり芸とは関係 …
読書目安時間:約9分
ついさき頃の『心』の中に、吉右衛門氏と小宮(豊隆)さんとの対談が載っていた。近来にない面白い対談で、芸というものの面白さと恐ろしさとがよく出ていた。 その中で、一見あまり芸とは関係 …
救国論(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
現在の日本は、どうひいき目にみても、安定した国の姿ではない。米ソ両陣営の谷間にもがいているというのは、少し極端であるが、その傾きがなくもない。問題は、今の四つの島からの生産では、九 …
読書目安時間:約3分
現在の日本は、どうひいき目にみても、安定した国の姿ではない。米ソ両陣営の谷間にもがいているというのは、少し極端であるが、その傾きがなくもない。問題は、今の四つの島からの生産では、九 …
球皮事件(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この話は寺田先生が航空船の爆発の原因を調査された時の研究室の内部の話である。もう十三、四年も前の話であるし、その当時新聞にも、通俗科学の雑誌にもこの内容は出たことがある。それにさら …
読書目安時間:約9分
この話は寺田先生が航空船の爆発の原因を調査された時の研究室の内部の話である。もう十三、四年も前の話であるし、その当時新聞にも、通俗科学の雑誌にもこの内容は出たことがある。それにさら …
霧を消す話(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
六月二十九日の同盟通信海外電報版によると、英国では一昨年の冬の初めから、飛行場の霧を消すことに成功し、それを実戦に使っていたそうである。 この電報は、六月一日の「ニュース・クロニク …
読書目安時間:約16分
六月二十九日の同盟通信海外電報版によると、英国では一昨年の冬の初めから、飛行場の霧を消すことに成功し、それを実戦に使っていたそうである。 この電報は、六月一日の「ニュース・クロニク …
霧を捕える話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ハワイに現在三つの産業がある。甘蔗と、パイナップルと、観光事業とである。 ところで、近年のハワイの発展ぶりは、大いに目覚ましいが、すぐ困って来るのは、土地の問題である。何といっても …
読書目安時間:約3分
ハワイに現在三つの産業がある。甘蔗と、パイナップルと、観光事業とである。 ところで、近年のハワイの発展ぶりは、大いに目覚ましいが、すぐ困って来るのは、土地の問題である。何といっても …
金鱗湖(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
別府の裏側、由布山系の峠を越したところに、由布院という盆地がある。 ここは温泉もあり、最近だいぶ発展したが、以前はひどい山奥であった。もう四十年以上も昔の話であるが、中学時代に、こ …
読書目安時間:約2分
別府の裏側、由布山系の峠を越したところに、由布院という盆地がある。 ここは温泉もあり、最近だいぶ発展したが、以前はひどい山奥であった。もう四十年以上も昔の話であるが、中学時代に、こ …
九谷の皿(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
支那の古い時代の青墨の色に、興味をもったのは、高等学校の学生時代である。 四高へ通っていたころ、中村浩さんという日本画家と知り合いになった。油絵から転向した人で、色にはきわめて敏感 …
読書目安時間:約3分
支那の古い時代の青墨の色に、興味をもったのは、高等学校の学生時代である。 四高へ通っていたころ、中村浩さんという日本画家と知り合いになった。油絵から転向した人で、色にはきわめて敏感 …
九谷焼(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
震災で失ったものの中で、この頃になって、惜しいと思い出したものは九谷焼である。父が心懸けて集めたもので、古い時代のいわゆる古九谷と呼ばれている高価な品ではないのだが、現今大量生産で …
読書目安時間:約13分
震災で失ったものの中で、この頃になって、惜しいと思い出したものは九谷焼である。父が心懸けて集めたもので、古い時代のいわゆる古九谷と呼ばれている高価な品ではないのだが、現今大量生産で …
果物の天国(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
この夏、アメリカの友人から妙なことを頼まれた。それは岡山の白桃と二十世紀とを食べておいてくれ、という依頼なのである。この男は、前に日本へ一度来たことがあるが、アメリカへ帰ってからも …
読書目安時間:約3分
この夏、アメリカの友人から妙なことを頼まれた。それは岡山の白桃と二十世紀とを食べておいてくれ、という依頼なのである。この男は、前に日本へ一度来たことがあるが、アメリカへ帰ってからも …
黒い月の世界(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間3分
遠い遠い昔のこと、もちろん人間などまだ地球上に現れなかった時代、おそらく数千万年もの大昔に、太平洋の深海の底に、大きい亀裂がはいった。 その亀裂は、現在のハワイ群島の東方に始まり、 …
読書目安時間:約1時間3分
遠い遠い昔のこと、もちろん人間などまだ地球上に現れなかった時代、おそらく数千万年もの大昔に、太平洋の深海の底に、大きい亀裂がはいった。 その亀裂は、現在のハワイ群島の東方に始まり、 …
『ケプロン・黒田の構想』について:――英文誌 This is Japan のための草稿――(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
一八六八年は、日本が中世の封建制度から脱却して、近代世界へはいった年として、日本の歴史の上で、一番重要な年である。われわれは、これを明治維新といっている。 明治政府が、その創設と同 …
読書目安時間:約8分
一八六八年は、日本が中世の封建制度から脱却して、近代世界へはいった年として、日本の歴史の上で、一番重要な年である。われわれは、これを明治維新といっている。 明治政府が、その創設と同 …
ケリイさんのこと(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
十二月の初め頃、ちょっと用事があって、ワシントンへ出かけた。実は用事といっても、大したことはなかったので、久しぶりにケリイさんに会ってみたいという気持もあったからである。 ケリイ博 …
読書目安時間:約5分
十二月の初め頃、ちょっと用事があって、ワシントンへ出かけた。実は用事といっても、大したことはなかったので、久しぶりにケリイさんに会ってみたいという気持もあったからである。 ケリイ博 …
原子爆弾雑話(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
昭和十二年の七月、北支の蘆溝橋に起った一事件は、その後政府の不拡大方針にもかかわらず、目に見えない大きい歴史の力にひきずられて、漸次中支に波及して行った。そして、十月に上海が陥ち、 …
読書目安時間:約14分
昭和十二年の七月、北支の蘆溝橋に起った一事件は、その後政府の不拡大方針にもかかわらず、目に見えない大きい歴史の力にひきずられて、漸次中支に波及して行った。そして、十月に上海が陥ち、 …
抗議する義務(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
畏友Y兄から、いつか面白い言葉をきいたことがある。それは「日本人はどうも抗議する義務を知らないから困る」というのである。 これはなかなか味のある言葉で、何か不正なことがあった場合に …
読書目安時間:約8分
畏友Y兄から、いつか面白い言葉をきいたことがある。それは「日本人はどうも抗議する義務を知らないから困る」というのである。 これはなかなか味のある言葉で、何か不正なことがあった場合に …
孔子とアメリカ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
孔子とか論語とかいえば、われわれの若い時代に、すでにそれは、時代おくれの標本になっていた。老人たちに何かお説教をされると「子曰くか」と言って逃げたものである。いわんやこのごろの青年 …
読書目安時間:約3分
孔子とか論語とかいえば、われわれの若い時代に、すでにそれは、時代おくれの標本になっていた。老人たちに何かお説教をされると「子曰くか」と言って逃げたものである。いわんやこのごろの青年 …
校正の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今度アメリカで本を出してみて、校正のやり方が、まるで日本とちがっているのに、一寸面喰らった。 実は、三年ばかり前に、米国気象学会で、『気象学要綱』という本を出した時に、その一章を書 …
読書目安時間:約5分
今度アメリカで本を出してみて、校正のやり方が、まるで日本とちがっているのに、一寸面喰らった。 実は、三年ばかり前に、米国気象学会で、『気象学要綱』という本を出した時に、その一章を書 …
「光線の圧力」の話(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
前に寒月君の「首縊りの力学」の話をした時、小宮さんから野々宮さんの「光線の圧力」についても何かそのような話があったら書くようにと勧められたことがあった。 モデル詮議をすることの好き …
読書目安時間:約12分
前に寒月君の「首縊りの力学」の話をした時、小宮さんから野々宮さんの「光線の圧力」についても何かそのような話があったら書くようにと勧められたことがあった。 モデル詮議をすることの好き …
幸田文さんと神仙道(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私は、小林勇君につれられて、二回ばかり小石川のお宅へ伺い、露伴先生にお目にかかったことがある。文さんにも、その時初めて会った。 露伴先生は、科学に非常に興味をもたれ、というよりも、 …
読書目安時間:約3分
私は、小林勇君につれられて、二回ばかり小石川のお宅へ伺い、露伴先生にお目にかかったことがある。文さんにも、その時初めて会った。 露伴先生は、科学に非常に興味をもたれ、というよりも、 …
高度八十マイル(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
少しかわった話をしよう。 今まで世界中で、いちばん高いところまで上った記録は、高度八十マイルである。そしてこの記録をつくったのは、人間ではなくて、猿である。 人間ののぼりえた最高記 …
読書目安時間:約7分
少しかわった話をしよう。 今まで世界中で、いちばん高いところまで上った記録は、高度八十マイルである。そしてこの記録をつくったのは、人間ではなくて、猿である。 人間ののぼりえた最高記 …
荒野の冬(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
北海道の奥地深く、荒野の冬の姿といえば、『カインの末裔』の描写を思い出す人が多いであろう。 鉛色の空が低くたれこめた下には、木も家も、吹きつけられた雪にただあだ白い凄気を帯びて静ま …
読書目安時間:約9分
北海道の奥地深く、荒野の冬の姿といえば、『カインの末裔』の描写を思い出す人が多いであろう。 鉛色の空が低くたれこめた下には、木も家も、吹きつけられた雪にただあだ白い凄気を帯びて静ま …
氷は金属である(旧字新仮名)
読書目安時間:約3分
氷は、小さい結晶が、勝手な向きをとって集まった塊であるといったが、金屬がまたそういうものなのである。われわれが普通知っている鐵でも、銅でも、亞鉛でも、皆小さい結晶が集まって出來てい …
読書目安時間:約3分
氷は、小さい結晶が、勝手な向きをとって集まった塊であるといったが、金屬がまたそういうものなのである。われわれが普通知っている鐵でも、銅でも、亞鉛でも、皆小さい結晶が集まって出來てい …
国際雪氷委員会のことなど(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
国際雪氷委員会(International Commission of Snow and Ice)は、ごく最近まで国際雪及び氷河委員会(International Commissi …
読書目安時間:約15分
国際雪氷委員会(International Commission of Snow and Ice)は、ごく最近まで国際雪及び氷河委員会(International Commissi …
国防と科学(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
近代戦では国防と科学とは切り離し得ぬものと一般に信ぜられているようであるが、自分の考えは少し違う。国防に必要なのは科学ではなくて科学者なのである。科学と云っても範囲があまり広すぎる …
読書目安時間:約2分
近代戦では国防と科学とは切り離し得ぬものと一般に信ぜられているようであるが、自分の考えは少し違う。国防に必要なのは科学ではなくて科学者なのである。科学と云っても範囲があまり広すぎる …
心得教育(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
教育にはいろいろあって、上は精神教育から下は何かあるだろうが、その下に今一つ心得教育というのを入れたらどうだろうと一寸考えてみた。それは教育方法をすべて出来るだけ卑近な心得だけに限 …
読書目安時間:約1分
教育にはいろいろあって、上は精神教育から下は何かあるだろうが、その下に今一つ心得教育というのを入れたらどうだろうと一寸考えてみた。それは教育方法をすべて出来るだけ卑近な心得だけに限 …
古代東洋への郷愁:――『仙書参同契』の解説――(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
『東と西』の問題は、人類にとって、最大の課題といわれる。東洋人としての立場からこの問題を考える場合、中国における古代の神仙思想というものが、どうしても逸することの出来ない要素のよう …
読書目安時間:約40分
『東と西』の問題は、人類にとって、最大の課題といわれる。東洋人としての立場からこの問題を考える場合、中国における古代の神仙思想というものが、どうしても逸することの出来ない要素のよう …
御馳走の話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
正月の御馳走というと、いつでも思い出す話がある。それは小林勇君が、露伴先生から聞いた話である。 大分前のことであるが、或る正月に、小林君が露伴先生のお宅を訪れたときの話である。多分 …
読書目安時間:約6分
正月の御馳走というと、いつでも思い出す話がある。それは小林勇君が、露伴先生から聞いた話である。 大分前のことであるが、或る正月に、小林君が露伴先生のお宅を訪れたときの話である。多分 …
御殿の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
御殿というのは、私の田舎に近い城下町の昔からの殿様の御殿のことである。封建時代の殿様の生活から、現今の東京における華族の生活に移る間に、田舎の旧藩下で、御殿の生活の名残りを送った殿 …
読書目安時間:約13分
御殿というのは、私の田舎に近い城下町の昔からの殿様の御殿のことである。封建時代の殿様の生活から、現今の東京における華族の生活に移る間に、田舎の旧藩下で、御殿の生活の名残りを送った殿 …
粉雪(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
われわれが日常ちゃんと決まった意味があるように思って使っている言葉の中には、科学的にはその意味が極めて漠然としたものがかなり沢山ある。この数年来雪の研究を始めてみて気が付いたのであ …
読書目安時間:約8分
われわれが日常ちゃんと決まった意味があるように思って使っている言葉の中には、科学的にはその意味が極めて漠然としたものがかなり沢山ある。この数年来雪の研究を始めてみて気が付いたのであ …
小林秀雄と美(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
先年、小林秀雄と、清荒神へ鉄斎の絵を見に行ったことがある。そのときは、一日中かかって、奥の広い座敷で、百幅近い鉄斎を見た。 天気のよい日で、白い障子が明るく、室内は森閑としていた。 …
読書目安時間:約7分
先年、小林秀雄と、清荒神へ鉄斎の絵を見に行ったことがある。そのときは、一日中かかって、奥の広い座敷で、百幅近い鉄斎を見た。 天気のよい日で、白い障子が明るく、室内は森閑としていた。 …
米粒の中の仏様(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
ミミーはまだ生れて二月にしかならぬ仔猫であるが、ペルシャ猫の血が混っているということで、ふさふさとした毛並みの綺麗な猫である。毎日ひまさえあれば子供達にぶら下げられて可愛がられるの …
読書目安時間:約17分
ミミーはまだ生れて二月にしかならぬ仔猫であるが、ペルシャ猫の血が混っているということで、ふさふさとした毛並みの綺麗な猫である。毎日ひまさえあれば子供達にぶら下げられて可愛がられるの …
語呂の論理(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
先年北海道で雪の研究に手を付けた時、日本の昔の雪の研究として有名な、土井利位の『雪華図説』と鈴木牧之の『北越雪譜』とを何とかして手に入れたいものと思って、古書の専門店の方へも聞き合 …
読書目安時間:約14分
先年北海道で雪の研究に手を付けた時、日本の昔の雪の研究として有名な、土井利位の『雪華図説』と鈴木牧之の『北越雪譜』とを何とかして手に入れたいものと思って、古書の専門店の方へも聞き合 …
コロラド通信(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
アメリカの地図を頭に浮べてみよう。太平洋岸の太陽と水とに恵まれた細長い地域、即ちカリフォルニア州の一部は、大部分の土地が、一年二毛作、作物によっては三毛作も可能といわれる地上の楽園 …
読書目安時間:約22分
アメリカの地図を頭に浮べてみよう。太平洋岸の太陽と水とに恵まれた細長い地域、即ちカリフォルニア州の一部は、大部分の土地が、一年二毛作、作物によっては三毛作も可能といわれる地上の楽園 …
『西遊記』の夢(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
子供の頃読んだ本の中で、一番印象に残っているのは、『西遊記』である。 もう三十年も前の話であり、特に私たちの育った北陸の片田舎には、その頃は子供のための本などというものはなかった。 …
読書目安時間:約18分
子供の頃読んだ本の中で、一番印象に残っているのは、『西遊記』である。 もう三十年も前の話であり、特に私たちの育った北陸の片田舎には、その頃は子供のための本などというものはなかった。 …
雑魚図譜(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
私は昨年の秋から少し静養の意味で、伊豆のI温泉に仮りの住居を定めることにした。今まで北国の生活ばかりしていた私達には、初めて見る南国の冬が色々珍しい経験を沢山齎してくれた。高畑の蜜 …
読書目安時間:約17分
私は昨年の秋から少し静養の意味で、伊豆のI温泉に仮りの住居を定めることにした。今まで北国の生活ばかりしていた私達には、初めて見る南国の冬が色々珍しい経験を沢山齎してくれた。高畑の蜜 …
雑記(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
下町に家があった頃である。ある五月の日曜の朝早く、久しぶりで、千葉の稲毛の海岸へ出かけた。 下町の真中に住んでいた自分には、花曇りの頃から引続いて随分鬱々しい厭な時期であった。 丁 …
読書目安時間:約7分
下町に家があった頃である。ある五月の日曜の朝早く、久しぶりで、千葉の稲毛の海岸へ出かけた。 下町の真中に住んでいた自分には、花曇りの頃から引続いて随分鬱々しい厭な時期であった。 丁 …
サラダの謎(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私はごく普通のフランス風のサラダが好きである。レタスとトマトを、酢とオリーブ油でドレスしただけの簡単なサラダのことである。洋食は、一般にいってあまり好かないが、このサラダだけは例外 …
読書目安時間:約6分
私はごく普通のフランス風のサラダが好きである。レタスとトマトを、酢とオリーブ油でドレスしただけの簡単なサラダのことである。洋食は、一般にいってあまり好かないが、このサラダだけは例外 …
塩の風趣(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
戦争前の話であるが、京橋のあたりに、K鮨という鮨屋があった。材料がよいというので、たいへん評判がよかった。 亡くなった岩波さんは、人に御馳走をするのが道楽であって、よく方々へ連れて …
読書目安時間:約13分
戦争前の話であるが、京橋のあたりに、K鮨という鮨屋があった。材料がよいというので、たいへん評判がよかった。 亡くなった岩波さんは、人に御馳走をするのが道楽であって、よく方々へ連れて …
シカゴの雉子(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今年のシカゴは、何十年ぶりとかの、雪の少ない年であった。おかげで芝生はもうすっかり緑の姿をとり戻し、新しい芝の芽が、春の光に生き生きと萌え出してきた。 天気の良い日が、毎日のように …
読書目安時間:約6分
今年のシカゴは、何十年ぶりとかの、雪の少ない年であった。おかげで芝生はもうすっかり緑の姿をとり戻し、新しい芝の芽が、春の光に生き生きと萌え出してきた。 天気の良い日が、毎日のように …
『死者の書』(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
遠い大昔、まだ死者が蘇ったり、化身の人が現われたり、目に見えぬ鬼神と人間との間に誓が交されたりした時代。そういう時代は、もう返って来ないであろう。しかしそういう時代への人間のあこが …
読書目安時間:約3分
遠い大昔、まだ死者が蘇ったり、化身の人が現われたり、目に見えぬ鬼神と人間との間に誓が交されたりした時代。そういう時代は、もう返って来ないであろう。しかしそういう時代への人間のあこが …
詩人への註文(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
「絵なき絵本」には、たいへん立派な作品がある。 それにあやかるというのも不遜な話であるが、「詩なき詩論」を考えてみようという気になった。それは表題の「詩人への註文」という無理な題を …
読書目安時間:約10分
「絵なき絵本」には、たいへん立派な作品がある。 それにあやかるというのも不遜な話であるが、「詩なき詩論」を考えてみようという気になった。それは表題の「詩人への註文」という無理な題を …
ジストマ退治の話(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
今まであまり思い出のようなものは書かなかったが、私も今年で一人前の年齢に達したので、これからはあまり遠慮しないで、一つそういう話も書いてみることにする。 もう十年以上も昔の話である …
読書目安時間:約23分
今まであまり思い出のようなものは書かなかったが、私も今年で一人前の年齢に達したので、これからはあまり遠慮しないで、一つそういう話も書いてみることにする。 もう十年以上も昔の話である …
自然の恵み:――少国民のための新しい雪の話――(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がって …
読書目安時間:約19分
われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がって …
実験室の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
実験室に於ける寺田先生のことを書こうと思うと、私はすぐ大学の卒業実験をやった狭い実験室のことを思い出す。 それは化学の新館と呼ばれていた、小さい裸のコンクリートの建物の一階にあった …
読書目安時間:約25分
実験室に於ける寺田先生のことを書こうと思うと、私はすぐ大学の卒業実験をやった狭い実験室のことを思い出す。 それは化学の新館と呼ばれていた、小さい裸のコンクリートの建物の一階にあった …
実験室の記憶(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
実験室の記憶というのは、追憶という意味ではなく、犬などの記憶というのと同じ意味で、実験室が記憶力をもっているという話なのである。 実験室が記憶力をもつなどというと、いかにも突飛な話 …
読書目安時間:約13分
実験室の記憶というのは、追憶という意味ではなく、犬などの記憶というのと同じ意味で、実験室が記憶力をもっているという話なのである。 実験室が記憶力をもつなどというと、いかにも突飛な話 …
指導者としての寺田先生(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
先生の臨終の席に御別れして、激しい心の動揺に圧されながらも、私はやむをえぬ事情のために、その晩の夜行で帰家の途に就いた。同じ汽車で小宮さんも仙台へ帰られたので、途中色々先生の追想を …
読書目安時間:約9分
先生の臨終の席に御別れして、激しい心の動揺に圧されながらも、私はやむをえぬ事情のために、その晩の夜行で帰家の途に就いた。同じ汽車で小宮さんも仙台へ帰られたので、途中色々先生の追想を …
字の書き方(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
山崎光子夫人が新書道を提唱されて、漢字廃止の問題の前に、誰にでも三月習えば相当な字が書けるようになるという書道を主張しておられるのは一寸卓見である。それは渡欧の船の中で思い付いたの …
読書目安時間:約2分
山崎光子夫人が新書道を提唱されて、漢字廃止の問題の前に、誰にでも三月習えば相当な字が書けるようになるという書道を主張しておられるのは一寸卓見である。それは渡欧の船の中で思い付いたの …
島津斉彬公(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昭和十九年の暮に、岩波文庫の一冊として『島津斉彬言行録』が出版された。これには牧野伸顕伯の序文がついている。 当時既に日本は断末魔の境にあり、この本なども、ぼろぼろの藁半紙のような …
読書目安時間:約3分
昭和十九年の暮に、岩波文庫の一冊として『島津斉彬言行録』が出版された。これには牧野伸顕伯の序文がついている。 当時既に日本は断末魔の境にあり、この本なども、ぼろぼろの藁半紙のような …
霜柱と白粉の話(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
寺田寅彦先生門下の中に、M君という私の友人がある。M君の家は関西でも有名な旧家で、化粧品の製造では日本でも有数な家である。私とは高等学校時代からの同窓で、一緒に大学で物理学を修めた …
読書目安時間:約9分
寺田寅彦先生門下の中に、M君という私の友人がある。M君の家は関西でも有名な旧家で、化粧品の製造では日本でも有数な家である。私とは高等学校時代からの同窓で、一緒に大学で物理学を修めた …
「霜柱の研究」について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
同窓の友人M君から自由学園学術叢書第一を贈られたので早速読んで見た。この小冊子には霜柱の研究と布の保温の研究とが収められていて、研究者は自然科学グループという名前であったが、内容を …
読書目安時間:約10分
同窓の友人M君から自由学園学術叢書第一を贈られたので早速読んで見た。この小冊子には霜柱の研究と布の保温の研究とが収められていて、研究者は自然科学グループという名前であったが、内容を …
写真と暮らした三十年(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
物理の実験に、写真が広く応用されることは、周知のとおりである。とくに私の研究の場合は、ほとんど写真を用いた研究であって、考えてみると、もう三十年間も、写真とともに暮していたことにな …
読書目安時間:約8分
物理の実験に、写真が広く応用されることは、周知のとおりである。とくに私の研究の場合は、ほとんど写真を用いた研究であって、考えてみると、もう三十年間も、写真とともに暮していたことにな …
自由と進歩(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
新年を迎えて、過去一年間をふり返ってみると、まことに多事であったという気がする。鳩山総理のモスクワ訪問と日ソ交渉、砂川事件など、何となく急迫した空気が、日本の空におおいかぶさってく …
読書目安時間:約20分
新年を迎えて、過去一年間をふり返ってみると、まことに多事であったという気がする。鳩山総理のモスクワ訪問と日ソ交渉、砂川事件など、何となく急迫した空気が、日本の空におおいかぶさってく …
十二花の雪(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
六華豊年の兆という言葉がある位、雪の結晶といえば六花ときまっているように思われているが、中には十二花のものもある。第2図の写真は一九三四年の冬十勝岳で撮られた十二花の結晶の一例であ …
読書目安時間:約1分
六華豊年の兆という言葉がある位、雪の結晶といえば六花ときまっているように思われているが、中には十二花のものもある。第2図の写真は一九三四年の冬十勝岳で撮られた十二花の結晶の一例であ …
樹氷の科学(新字新仮名)
読書目安時間:約48分
冬のスポーツとして、スキーが急激に人々の間にひろまったとき、練習場で遊んでいることにあきたらず思う人々は、更に雪の山へと出かけて行った。 冬山の魅力は、一に雪の森厳さと美しさとにあ …
読書目安時間:約48分
冬のスポーツとして、スキーが急激に人々の間にひろまったとき、練習場で遊んでいることにあきたらず思う人々は、更に雪の山へと出かけて行った。 冬山の魅力は、一に雪の森厳さと美しさとにあ …
Schreibe wie du sprichst(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
いつか小宮さんと同車した時、科学者などいわゆる文章の素人の人が書いたものの中には非常に面白いものがあるから、何か書いてみてはどうかと勧められたことがある。その時レッシングがその姉に …
読書目安時間:約2分
いつか小宮さんと同車した時、科学者などいわゆる文章の素人の人が書いたものの中には非常に面白いものがあるから、何か書いてみてはどうかと勧められたことがある。その時レッシングがその姉に …
知られざるアメリカ(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
一九五二年の夏、家族をつれてアメリカへ渡り、二年あまり、シカゴの郊外に住んでみた。アメリカは、それまでに、二回訪ねたことがある。しかし家庭をもった普通のアメリカ人の生活というものを …
読書目安時間:約20分
一九五二年の夏、家族をつれてアメリカへ渡り、二年あまり、シカゴの郊外に住んでみた。アメリカは、それまでに、二回訪ねたことがある。しかし家庭をもった普通のアメリカ人の生活というものを …
白い月の世界(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
ハワイ島の高峰マウナ・ロアは、一万三千七百フィートの山頂を中心にして、神奈川県よりも一周り広い全地域が、黒い熔岩で蔽われている。木も草も、昆虫も鳥も、生命のあるものは、なに一つこの …
読書目安時間:約34分
ハワイ島の高峰マウナ・ロアは、一万三千七百フィートの山頂を中心にして、神奈川県よりも一周り広い全地域が、黒い熔岩で蔽われている。木も草も、昆虫も鳥も、生命のあるものは、なに一つこの …
人工衛星へ汲取舟が行く話(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
本当に人間が住める人工衛星が、いつごろ出来るかは、いまのところまだわからない。しかし十年ぐらいのうちには出来るだろうというのが、一般の見通しになっている。数年の誤差はあっても、いず …
読書目安時間:約2分
本当に人間が住める人工衛星が、いつごろ出来るかは、いまのところまだわからない。しかし十年ぐらいのうちには出来るだろうというのが、一般の見通しになっている。数年の誤差はあっても、いず …
神仙道と科学(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
前著『日本のこころ』の中に、露伴先生の『仙書参同契』の解説をした文章を載せておいた。その中で、古代東洋の神仙思想の精髄は、現代の科学と矛盾するものではなく、むしろ啓示を与えることも …
読書目安時間:約9分
前著『日本のこころ』の中に、露伴先生の『仙書参同契』の解説をした文章を載せておいた。その中で、古代東洋の神仙思想の精髄は、現代の科学と矛盾するものではなく、むしろ啓示を与えることも …
身辺雑記:――『日本のこころ』を囲って――(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
私がものを書き出したのは、四十くらいからのことで、まだ十二、三年にしかならない。それにしては、ずいぶんたくさん書き散らしたもので、曠職のそしりは、所詮まぬかれないものと、内心観念し …
読書目安時間:約18分
私がものを書き出したのは、四十くらいからのことで、まだ十二、三年にしかならない。それにしては、ずいぶんたくさん書き散らしたもので、曠職のそしりは、所詮まぬかれないものと、内心観念し …
心霊現象と科学:――『心の領域』について――(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
リーダーズダイジェスト誌の五月号に、『心の領域』というかなり長文の記事がある。デューク大学の「超心理学」実験室長ライン博士の著書の紹介である。 超心理学というのは、従来の心理学の範 …
読書目安時間:約14分
リーダーズダイジェスト誌の五月号に、『心の領域』というかなり長文の記事がある。デューク大学の「超心理学」実験室長ライン博士の著書の紹介である。 超心理学というのは、従来の心理学の範 …
清々しさの研究の話(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
この頃ハンチントンの『気候と文明』が岩波文庫に出たので、前から読みたいと思っていた矢先、早速買って見たが、大変面白かった。中には少しくだくだしいところもあるし、随分身勝手な資料を基 …
読書目安時間:約20分
この頃ハンチントンの『気候と文明』が岩波文庫に出たので、前から読みたいと思っていた矢先、早速買って見たが、大変面白かった。中には少しくだくだしいところもあるし、随分身勝手な資料を基 …
救われた稀本:——寺田寅彦著『物理学序説』(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
この書は未完であり、かついわば草稿であって、まだ十分な推敲を経たものではない。しかしこの書は、わが国では類例の少い独自の著述である。このままの形でも、真に学問を愛し、科学の本質を知 …
読書目安時間:約27分
この書は未完であり、かついわば草稿であって、まだ十分な推敲を経たものではない。しかしこの書は、わが国では類例の少い独自の著述である。このままの形でも、真に学問を愛し、科学の本質を知 …
硯と墨(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
東洋の書画における墨は、文房四宝の中でも特別な地位を占めていて、古来文人墨客という言葉があるくらいである。従って墨に関する文献は、支那には随分沢山あるらしく、また日本にも相当あるよ …
読書目安時間:約22分
東洋の書画における墨は、文房四宝の中でも特別な地位を占めていて、古来文人墨客という言葉があるくらいである。従って墨に関する文献は、支那には随分沢山あるらしく、また日本にも相当あるよ …
捨てる文化(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
日露戦争のとき、東北の田舎の一農夫でロシア側の捕虜になった男があった。本国に護送され、欧州各国を次ぎ次ぎと送られて、数年がかりで、やっと日本へ送還された。 当時の東北の一寒村で、欧 …
読書目安時間:約18分
日露戦争のとき、東北の田舎の一農夫でロシア側の捕虜になった男があった。本国に護送され、欧州各国を次ぎ次ぎと送られて、数年がかりで、やっと日本へ送還された。 当時の東北の一寒村で、欧 …
スポーツの科学(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
大分昔の話であるが、冬彦先生がある新聞に「角力の力学」というものを書かれたことがあるそうである。それは、漱石先生が未だ有名になりかけられた頃の話であるが、これらがまずスポーツ物理学 …
読書目安時間:約6分
大分昔の話であるが、冬彦先生がある新聞に「角力の力学」というものを書かれたことがあるそうである。それは、漱石先生が未だ有名になりかけられた頃の話であるが、これらがまずスポーツ物理学 …
墨色(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私が初めて墨色というものに興味を惹かれたのは、友人金沢の日本画家N氏の家でのことであった。N氏は洋画出身であるが、其の後支那の旧い文化に興味を持ち始めたのが動機で、今では日本画家と …
読書目安時間:約10分
私が初めて墨色というものに興味を惹かれたのは、友人金沢の日本画家N氏の家でのことであった。N氏は洋画出身であるが、其の後支那の旧い文化に興味を持ち始めたのが動機で、今では日本画家と …
墨流しの物理的研究(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
寺田寅彦先生は晩年理化学研究所で、墨流しの研究に着手された。その研究の進行につれて、東洋に於て古代から使われている墨は、膠質学上より見ても、非常に複雑で興味深い問題であることが分か …
読書目安時間:約17分
寺田寅彦先生は晩年理化学研究所で、墨流しの研究に着手された。その研究の進行につれて、東洋に於て古代から使われている墨は、膠質学上より見ても、非常に複雑で興味深い問題であることが分か …
墨並びに硯の物理学的研究(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
前文に於て墨流しの現象の物理学的研究を紹介した。その研究では墨を磨る時の水の成分のことは詳しく調べてあったが、用いた硯は普通市販の一定の硯に限られていた。それで寺田先生は次に、色々 …
読書目安時間:約16分
前文に於て墨流しの現象の物理学的研究を紹介した。その研究では墨を磨る時の水の成分のことは詳しく調べてあったが、用いた硯は普通市販の一定の硯に限られていた。それで寺田先生は次に、色々 …
西洋の浜焼(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
アルゼンチンから来ている氷河学者から、南米インディアンの料理の話を聞いた。クラントウというのだそうで、原理からいえば、鯛の浜焼のようなものであって、別に珍しい話ではないかもしれない …
読書目安時間:約10分
アルゼンチンから来ている氷河学者から、南米インディアンの料理の話を聞いた。クラントウというのだそうで、原理からいえば、鯛の浜焼のようなものであって、別に珍しい話ではないかもしれない …
石碑(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
学制頒布七十年の記念式の新聞記事をよみながら、ふと思いついた話である。 何処かの国民学校で、児童たちをつれて遠足に行った。雨上がりで足をすべらせた児童の一人が河に落ちこんだ。その時 …
読書目安時間:約1分
学制頒布七十年の記念式の新聞記事をよみながら、ふと思いついた話である。 何処かの国民学校で、児童たちをつれて遠足に行った。雨上がりで足をすべらせた児童の一人が河に落ちこんだ。その時 …
『雪華図説』の研究(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
我が国が世界における文明国の中で有数の雪国であることは周知の事柄である。しかし雪に関する研究は今まであまりなされていないので、わずかにこの『雪華図説』と、少しく趣を異にするが鈴木牧 …
読書目安時間:約18分
我が国が世界における文明国の中で有数の雪国であることは周知の事柄である。しかし雪に関する研究は今まであまりなされていないので、わずかにこの『雪華図説』と、少しく趣を異にするが鈴木牧 …
『雪華図説』の研究後日譚(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
前掲の『雪華図説』の研究というのは、ほんの思いつきのようなつもりで『画説』に書いたのであるが、脇本楽之軒氏が大変興味をもたれて、この後日譚を書く材料を集めるのに色々世話をして下さっ …
読書目安時間:約15分
前掲の『雪華図説』の研究というのは、ほんの思いつきのようなつもりで『画説』に書いたのであるが、脇本楽之軒氏が大変興味をもたれて、この後日譚を書く材料を集めるのに色々世話をして下さっ …
老齢学:――長生きをする学問の存在――(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
国際雪氷委員会の前会長、チャーチ博士は、三十年以上も、ネバダ大学の教授をつとめ、昨年春引退した。同時に国際雪氷委員会の会長の地位も、スウェーデンのアールマン教授へ譲った。 チャーチ …
読書目安時間:約15分
国際雪氷委員会の前会長、チャーチ博士は、三十年以上も、ネバダ大学の教授をつとめ、昨年春引退した。同時に国際雪氷委員会の会長の地位も、スウェーデンのアールマン教授へ譲った。 チャーチ …
線香の火(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昔、寺田(寅彦)先生が、よく「線香の火を消さないように」という言葉を使われた。 大学を新しく卒業して、地方の中学校即ち今の高等学校などへ赴任する学生が、先生のところへ暇乞いに行くと …
読書目安時間:約3分
昔、寺田(寅彦)先生が、よく「線香の火を消さないように」という言葉を使われた。 大学を新しく卒業して、地方の中学校即ち今の高等学校などへ赴任する学生が、先生のところへ暇乞いに行くと …
線香花火(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
もう十年以上も前のことであるが、まだ私が大学の学生として寺田先生の指導の下に物理の卒業実験をしていた頃の話である。その頃先生はよく新しく卒業して地方の高等学校などへ奉職して行く人に …
読書目安時間:約9分
もう十年以上も前のことであるが、まだ私が大学の学生として寺田先生の指導の下に物理の卒業実験をしていた頃の話である。その頃先生はよく新しく卒業して地方の高等学校などへ奉職して行く人に …
先生を囲る話(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間5分
この話は大正十二年の暮から昭和三年の春までの四年あまりにわたって、私が先生の下で学生または助手として働いている間に、実験室や御宅の応接間で折にふれて先生から聞いた話を思出すごとに書 …
読書目安時間:約1時間5分
この話は大正十二年の暮から昭和三年の春までの四年あまりにわたって、私が先生の下で学生または助手として働いている間に、実験室や御宅の応接間で折にふれて先生から聞いた話を思出すごとに書 …
「先生を囲る話」について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
前に「先生を囲る話」を書いた時、その中に所々御弟子達の言動を点景人物の意味で入れておいた。ところがあの話は実は先生のいわれた言葉が重大なので、それは一段下げて書いておいた。しかしそ …
読書目安時間:約2分
前に「先生を囲る話」を書いた時、その中に所々御弟子達の言動を点景人物の意味で入れておいた。ところがあの話は実は先生のいわれた言葉が重大なので、それは一段下げて書いておいた。しかしそ …
千年の時差(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
人間のものの考え方はもちろんのこと、感じ方さえも、時代と環境とによって、ずいぶんひどくちがうものだということを、この頃しみじみと感ずるようになった。いわばこの齢になって、やっともの …
読書目安時間:約10分
人間のものの考え方はもちろんのこと、感じ方さえも、時代と環境とによって、ずいぶんひどくちがうものだということを、この頃しみじみと感ずるようになった。いわばこの齢になって、やっともの …
千里眼その他(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
もう三十五年くらい前の話であるが、千里眼の問題が、数年にわたって我が国の朝野を大いに騒がしたことがあった。私たちも子供心にその頃は千里眼を全く信じていた。子供たちばかりでなく、親た …
読書目安時間:約25分
もう三十五年くらい前の話であるが、千里眼の問題が、数年にわたって我が国の朝野を大いに騒がしたことがあった。私たちも子供心にその頃は千里眼を全く信じていた。子供たちばかりでなく、親た …
続先生を囲る話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
先生は書かれるものには、「とも考えられる」とか、「かも知れない」というような表現を始終用いておられるが、話をされる時には、特に少数の集りの場合には少し熱がはいってくると、随分はっき …
読書目安時間:約11分
先生は書かれるものには、「とも考えられる」とか、「かも知れない」というような表現を始終用いておられるが、話をされる時には、特に少数の集りの場合には少し熱がはいってくると、随分はっき …
空飛ぶ円盤(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
空飛ぶ円盤が初めて報告されたのは、一九四七年六月二十四日のことで、もう八年も前のことである。 この日、アイダホ州のアーノルドという実業家が、自家用飛行機で、ワシントン州から帰って来 …
読書目安時間:約3分
空飛ぶ円盤が初めて報告されたのは、一九四七年六月二十四日のことで、もう八年も前のことである。 この日、アイダホ州のアーノルドという実業家が、自家用飛行機で、ワシントン州から帰って来 …
大生寺(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
福岡県浮羽郡の浮羽町に、大生寺という臨済宗の古刹がある。そこの方丈芝原行戒師とは、前から知り合いだったので、さる六月の北九州旅行で、二晩ご厄介になった。 寺は山腹にあって、筑後平野 …
読書目安時間:約3分
福岡県浮羽郡の浮羽町に、大生寺という臨済宗の古刹がある。そこの方丈芝原行戒師とは、前から知り合いだったので、さる六月の北九州旅行で、二晩ご厄介になった。 寺は山腹にあって、筑後平野 …
大雪山二題(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
昭和二十二年の秋の話である。 その頃私は、資源関係の或る会の委員をしていて、日本の水資源の調査を一部やることになっていた。敗戦後の日本に残された資源のうちで一番大きいものは水である …
読書目安時間:約12分
昭和二十二年の秋の話である。 その頃私は、資源関係の或る会の委員をしていて、日本の水資源の調査を一部やることになっていた。敗戦後の日本に残された資源のうちで一番大きいものは水である …
大謀網(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
伊豆の伊東の温泉の沖合に、大謀網が設置されていたころの話である。 高等水産学校につとめているI君が漁撈の視察にやってきて、大謀網を見に行きませんかというので、一緒に出掛けることにし …
読書目安時間:約8分
伊豆の伊東の温泉の沖合に、大謀網が設置されていたころの話である。 高等水産学校につとめているI君が漁撈の視察にやってきて、大謀網を見に行きませんかというので、一緒に出掛けることにし …
「蛸壺」の句(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
蛸壺やはかなき夢を夏の月 この句は先験的連想の世界に人を羽化登仙させる句であると自分には思われる。夏の海に潜って、水底で眼を開いて蒼白い水面を下から仰いだ時の色が、この句の基調をな …
読書目安時間:約1分
蛸壺やはかなき夢を夏の月 この句は先験的連想の世界に人を羽化登仙させる句であると自分には思われる。夏の海に潜って、水底で眼を開いて蒼白い水面を下から仰いだ時の色が、この句の基調をな …
単純な質問(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
最近日本から帰って来たばかりという一世の老人に会ったら、矢つぎ早にいろいろな質問をされて、大いに返答に窮した。 アメリカにおける日本人一世の大部分は、昔カリフォルニア州へ移民として …
読書目安時間:約3分
最近日本から帰って来たばかりという一世の老人に会ったら、矢つぎ早にいろいろな質問をされて、大いに返答に窮した。 アメリカにおける日本人一世の大部分は、昔カリフォルニア州へ移民として …
淡窓先生の教育(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
先日、日田へ行く機会があったので、広瀬淡窓先生の旧屋、秋風庵を訪ねた。 広瀬淡窓の名前は、前から聞いていたが、機会がなくて、今までその人となりや教育方針のことなどは何も知らなかった …
読書目安時間:約3分
先日、日田へ行く機会があったので、広瀬淡窓先生の旧屋、秋風庵を訪ねた。 広瀬淡窓の名前は、前から聞いていたが、機会がなくて、今までその人となりや教育方針のことなどは何も知らなかった …
小さい機縁(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今年の六月、本土爆撃がいよいよ苛烈になって、東京は大半焼け、横浜も一日の猛爆で、全市が一遍に壊滅してしまった頃の話である。 鎌倉で或る機会に里見弴氏を訪ねた時に、狩太にある有島農場 …
読書目安時間:約6分
今年の六月、本土爆撃がいよいよ苛烈になって、東京は大半焼け、横浜も一日の猛爆で、全市が一遍に壊滅してしまった頃の話である。 鎌倉で或る機会に里見弴氏を訪ねた時に、狩太にある有島農場 …
地球の円い話(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
地球が円いという話は、何も珍しいことではない。今日では大抵の小学生が皆知っている通りである。 もっとも地球が完全な球形であるというのは本当は間違いで、第一に地球の表面にはヒマラヤの …
読書目安時間:約12分
地球が円いという話は、何も珍しいことではない。今日では大抵の小学生が皆知っている通りである。 もっとも地球が完全な球形であるというのは本当は間違いで、第一に地球の表面にはヒマラヤの …
茶碗の曲線:――茶道精進の或る友人に――(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
もう二十年以上も昔の話であるが、考古学を専攻していた私の弟が、東大の人類学教室で、土器の研究をしていたことがある。 その頃は、まだ今日のように、土器の型式による分類などは、ほとんど …
読書目安時間:約10分
もう二十年以上も昔の話であるが、考古学を専攻していた私の弟が、東大の人類学教室で、土器の研究をしていたことがある。 その頃は、まだ今日のように、土器の型式による分類などは、ほとんど …
「茶碗の湯」のことなど(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
もう三年ばかり前のことであるが、小宮先生の紹介で鈴木三重吉氏の未亡人の方から、『赤い鳥』に昔出ていた通俗科学の話を纏めて、一冊の本にしたいから、その校訂をしてくれというお話があった …
読書目安時間:約11分
もう三年ばかり前のことであるが、小宮先生の紹介で鈴木三重吉氏の未亡人の方から、『赤い鳥』に昔出ていた通俗科学の話を纏めて、一冊の本にしたいから、その校訂をしてくれというお話があった …
ツーン湖のほとり(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
もう十年も前のことであるが、倫敦に留学中私はユニバシティカレッヂのポーター老先生の所へ繁げ/\出入りしてゐるうちに、一緒に瑞西へ行かうとさそはれたことがあつた。そして二週間許り、ポ …
読書目安時間:約12分
もう十年も前のことであるが、倫敦に留学中私はユニバシティカレッヂのポーター老先生の所へ繁げ/\出入りしてゐるうちに、一緒に瑞西へ行かうとさそはれたことがあつた。そして二週間許り、ポ …
ツンドラへの旅(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
十月の初め、急に樺太〔サハリン〕へ行くことになった。 目的は、樺太の北、敷香〔ポロナイスク〕の町近いあるツンドラ地帯で、冬期間の凍上を防止したいという問題が起って、その予備調査をし …
読書目安時間:約18分
十月の初め、急に樺太〔サハリン〕へ行くことになった。 目的は、樺太の北、敷香〔ポロナイスク〕の町近いあるツンドラ地帯で、冬期間の凍上を防止したいという問題が起って、その予備調査をし …
低温室だより(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
御名前の記憶ちがいだったら大変失礼であるが、楚人冠先生か誰かの随筆の中にこんな話があった。 先生が、大分昔の話であるが、どこかの田舎で講演をされたことがあった。聴衆は村の人たちで、 …
読書目安時間:約15分
御名前の記憶ちがいだったら大変失礼であるが、楚人冠先生か誰かの随筆の中にこんな話があった。 先生が、大分昔の話であるが、どこかの田舎で講演をされたことがあった。聴衆は村の人たちで、 …
ディズニーの人と作品(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
昭和三十年の話であるが、シカゴの近郊に住んでいたころ、ハリウッドの映画賞授賞式の模様をテレビで見たことがある。その時、ディズニーは四つの賞牌をもらった。 広い豪華な会場が、映画関係 …
読書目安時間:約13分
昭和三十年の話であるが、シカゴの近郊に住んでいたころ、ハリウッドの映画賞授賞式の模様をテレビで見たことがある。その時、ディズニーは四つの賞牌をもらった。 広い豪華な会場が、映画関係 …
泥炭地双話(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
北海道の景色の美しさの中で、比較的看逃されているのは、泥炭地の景色の美しさである。特に私は、晩秋の泥炭地の風趣とその色彩とに心を惹かれる。 冬を間近にひかえて、北国の空は毎日のよう …
読書目安時間:約12分
北海道の景色の美しさの中で、比較的看逃されているのは、泥炭地の景色の美しさである。特に私は、晩秋の泥炭地の風趣とその色彩とに心を惹かれる。 冬を間近にひかえて、北国の空は毎日のよう …
寺田先生と銀座(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
寺田寅彦先生の連句の中に 春の夜や不二家を出でて千疋屋 という句がある。 「銀座アルプス」や「珈琲哲学序説」などでよく分るように、先生は銀座へよく出かけられた。 先生は、毎日のよう …
読書目安時間:約3分
寺田寅彦先生の連句の中に 春の夜や不二家を出でて千疋屋 という句がある。 「銀座アルプス」や「珈琲哲学序説」などでよく分るように、先生は銀座へよく出かけられた。 先生は、毎日のよう …
寺田先生の追憶:――大学卒業前後の思い出――(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
わが師、わが友として、最も影響を受けた人たちと言えば、物心がついてから今日まで、私が個人的に接触したすべての人が、師であり友であった。 どういう人でも、よく見れば必ず長所があるので …
読書目安時間:約27分
わが師、わが友として、最も影響を受けた人たちと言えば、物心がついてから今日まで、私が個人的に接触したすべての人が、師であり友であった。 どういう人でも、よく見れば必ず長所があるので …
寺田寅彦の追想(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
寺田寅彦という名前を、初めて知ったのは、たしか高等学校二年の頃であったように思う。 あの時代は、大正の中頃といえば、わが国の社会運動の勃興時代であった。河上博士の『貧乏物語』が、高 …
読書目安時間:約40分
寺田寅彦という名前を、初めて知ったのは、たしか高等学校二年の頃であったように思う。 あの時代は、大正の中頃といえば、わが国の社会運動の勃興時代であった。河上博士の『貧乏物語』が、高 …
「寺田寅彦の追想」後書(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
巻頭の一文でちょっと触れたように、我が国の現状は、寺田寅彦の再認識を必要とする時期に到達しているように思われる。 尾崎行雄氏が、われわれは自由を獲た。しかしそれは最も悲しむべき状態 …
読書目安時間:約4分
巻頭の一文でちょっと触れたように、我が国の現状は、寺田寅彦の再認識を必要とする時期に到達しているように思われる。 尾崎行雄氏が、われわれは自由を獲た。しかしそれは最も悲しむべき状態 …
テレビの科学番組(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
NHKの教育テレビで、毎日曜日の午後、「日曜大学」というシリイズものを、一時間番組として、放送している。 今の日本は、科学普及とか、科学振興とか、全く馬鹿の一ツおぼえのように、科学 …
読書目安時間:約6分
NHKの教育テレビで、毎日曜日の午後、「日曜大学」というシリイズものを、一時間番組として、放送している。 今の日本は、科学普及とか、科学振興とか、全く馬鹿の一ツおぼえのように、科学 …
天災は忘れた頃来る(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
今日は二百二十日だが、九月一日の関東大震災記念日や、二百十日から、この日にかけては、寅彦先生の名言「天災は忘れた頃来る」という言葉が、いくつかの新聞に必ず引用されることになっている …
読書目安時間:約3分
今日は二百二十日だが、九月一日の関東大震災記念日や、二百十日から、この日にかけては、寅彦先生の名言「天災は忘れた頃来る」という言葉が、いくつかの新聞に必ず引用されることになっている …
天地創造の話(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
天地創造の話というと、たいへん大袈裟なことになるが、一昨年即ち昭和十九年の夏から、北海道の片隅で、そういう異変が現実に起きているのである。 今まで鉄道が通り畑が耕されていたただの平 …
読書目安時間:約16分
天地創造の話というと、たいへん大袈裟なことになるが、一昨年即ち昭和十九年の夏から、北海道の片隅で、そういう異変が現実に起きているのである。 今まで鉄道が通り畑が耕されていたただの平 …
凍上の話(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
もう十年余りも昔の話になるが、私が寺田先生の助手をつとめて理研で働いていた頃のことである。先生はよく日本独特のものや、特に日本に顕著な自然現象は、一日も早く日本人の手によって究明し …
読書目安時間:約22分
もう十年余りも昔の話になるが、私が寺田先生の助手をつとめて理研で働いていた頃のことである。先生はよく日本独特のものや、特に日本に顕著な自然現象は、一日も早く日本人の手によって究明し …
動力革命と日本の科学者(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
日本の科学及び技術方面の学者たちは、よく日本の政治家や実業家は、科学に対する理解が無いと言われる。敗戦以来、科学による国家の再建が唱えられてからは、ジャーナリズムの面でも、盛んにこ …
読書目安時間:約27分
日本の科学及び技術方面の学者たちは、よく日本の政治家や実業家は、科学に対する理解が無いと言われる。敗戦以来、科学による国家の再建が唱えられてからは、ジャーナリズムの面でも、盛んにこ …
桃林堂の砂糖づけ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
シカゴに、フルーツ・ケーキをつくっている会社がある。菓子の名はサラ・リイといい、アメリカでも、一流品とされている。もっとも大量生産としての一流品である。 そこの主人が、細君をつれて …
読書目安時間:約5分
シカゴに、フルーツ・ケーキをつくっている会社がある。菓子の名はサラ・リイといい、アメリカでも、一流品とされている。もっとも大量生産としての一流品である。 そこの主人が、細君をつれて …
十勝の朝(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
機会があったら今一度行ってみたいと思うものは、十勝岳の真冬の景色である。もう五年も前の話になるが、雪の研究のためと言って、二冬続けて、五度ばかりも十勝岳へ行ったことがある。 十勝岳 …
読書目安時間:約4分
機会があったら今一度行ってみたいと思うものは、十勝岳の真冬の景色である。もう五年も前の話になるが、雪の研究のためと言って、二冬続けて、五度ばかりも十勝岳へ行ったことがある。 十勝岳 …
寅彦夏話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
寅彦先生が亡くなられてから二度目の夏を迎えるが、自分は夏になると妙にしみじみと先生の亡くなられたことを感ずる。大学を出て直ぐに先生の助手として、夏休み中狭い裸のコンクリートの実験室 …
読書目安時間:約8分
寅彦先生が亡くなられてから二度目の夏を迎えるが、自分は夏になると妙にしみじみと先生の亡くなられたことを感ずる。大学を出て直ぐに先生の助手として、夏休み中狭い裸のコンクリートの実験室 …
寅彦の遺跡(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
高知へ着いた日に、すぐ寺田紀念館で、御親戚の方や、寅彦を敬愛する人たちと、座談会の準備がしてあった。 紀念館は、先生の旧宅のあとに建てられたもので、昔の名残としては、庭の一部と先生 …
読書目安時間:約3分
高知へ着いた日に、すぐ寺田紀念館で、御親戚の方や、寅彦を敬愛する人たちと、座談会の準備がしてあった。 紀念館は、先生の旧宅のあとに建てられたもので、昔の名残としては、庭の一部と先生 …
寅彦の作品(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
明治大正の時代については、いろいろな見方もあるが、日本民族が、精神的の飛躍をした時代であることには、間違いがない。西欧文明を急速に摂取して、日本が近代世界の仲間入りをした時代である …
読書目安時間:約4分
明治大正の時代については、いろいろな見方もあるが、日本民族が、精神的の飛躍をした時代であることには、間違いがない。西欧文明を急速に摂取して、日本が近代世界の仲間入りをした時代である …
鳥井さんのことなど(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
サントリーの鳥井信治郎さんとは、もう三十年越しのお近付きを願っている。この鳥井さんと私との話には、少し美談めいたところがあるので、今まであまり書いたことがなかった。美談というものは …
読書目安時間:約8分
サントリーの鳥井信治郎さんとは、もう三十年越しのお近付きを願っている。この鳥井さんと私との話には、少し美談めいたところがあるので、今まであまり書いたことがなかった。美談というものは …
『団栗』のことなど(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
今度岩波文庫に『寺田寅彦随筆集』の第一巻が出た。小宮さんの編輯によるもので、全部で五巻のうちの第一巻が出たのである。 その巻頭に『団栗』が載っている。全集第一巻とくらべてみると、執 …
読書目安時間:約25分
今度岩波文庫に『寺田寅彦随筆集』の第一巻が出た。小宮さんの編輯によるもので、全部で五巻のうちの第一巻が出たのである。 その巻頭に『団栗』が載っている。全集第一巻とくらべてみると、執 …
長岡と寺田(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
長岡先生と寺田先生とは、学問のやり方でも、対世間的のすべての点でも、まるで正反対のように、一般に思われている。事実、外から見たところは、その世評のとおりである。そして外から見たいわ …
読書目安時間:約8分
長岡先生と寺田先生とは、学問のやり方でも、対世間的のすべての点でも、まるで正反対のように、一般に思われている。事実、外から見たところは、その世評のとおりである。そして外から見たいわ …
長崎留学(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
維新の先覚者たちが、蘭学の勉強のために長崎へ行ったことは今更とり立てていい出すまでもないことであろう。しかしこの長崎留学の問題はよく考えて見ると、なかなか意味の深い示唆を与えてくれ …
読書目安時間:約5分
維新の先覚者たちが、蘭学の勉強のために長崎へ行ったことは今更とり立てていい出すまでもないことであろう。しかしこの長崎留学の問題はよく考えて見ると、なかなか意味の深い示唆を与えてくれ …
南画三題(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
墨絵を始めてから、もう二十年近くになる。北支事変の一寸前頃、難病を患って、伊豆の伊東で、二年間療養したことがある。その時に覚えたのが、随筆を書くことと、墨絵とである。 その後随筆の …
読書目安時間:約11分
墨絵を始めてから、もう二十年近くになる。北支事変の一寸前頃、難病を患って、伊豆の伊東で、二年間療養したことがある。その時に覚えたのが、随筆を書くことと、墨絵とである。 その後随筆の …
南画を描く話(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。 南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷かされることもある。しか …
読書目安時間:約24分
昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。 南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷かされることもある。しか …
南極・北極・熱帯の雪(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
昨年の秋頃だったか、南極越冬中の西堀さんから、長文の電報がきた。文部省の南極観測本部を通じてきたもので、書翰箋一枚くらいの長い電報であった。内容は、雪の結晶形についての問合わせであ …
読書目安時間:約8分
昨年の秋頃だったか、南極越冬中の西堀さんから、長文の電報がきた。文部省の南極観測本部を通じてきたもので、書翰箋一枚くらいの長い電報であった。内容は、雪の結晶形についての問合わせであ …
日食記(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いよいよ世紀の日食が近づいて、この半月ばかりというものは、札幌の街は日食で大分賑かであった。新聞では日米科学戦というような言葉が盛に使われ、街では講演会や放送がたびたび行われた。 …
読書目安時間:約4分
いよいよ世紀の日食が近づいて、この半月ばかりというものは、札幌の街は日食で大分賑かであった。新聞では日米科学戦というような言葉が盛に使われ、街では講演会や放送がたびたび行われた。 …
『日本石器時代提要』のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
弟治宇二郎が書いた本というのは、表題の『日本石器時代提要』であって、菊判三百ページくらいの堂々たる体裁であった。評判も大分良かったらしく、『朝日新聞』の書評でも「年齢わずか三十歳の …
読書目安時間:約3分
弟治宇二郎が書いた本というのは、表題の『日本石器時代提要』であって、菊判三百ページくらいの堂々たる体裁であった。評判も大分良かったらしく、『朝日新聞』の書評でも「年齢わずか三十歳の …
日本のこころ(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
もう二十年くらいも昔の話であるが、大学を出てすぐの頃、私は理化学研究所(現在の科学研究所)へはいった。そして寺田先生の助手として、三年間先生の実験室で働いた。 その頃の理化学研究所 …
読書目安時間:約16分
もう二十年くらいも昔の話であるが、大学を出てすぐの頃、私は理化学研究所(現在の科学研究所)へはいった。そして寺田先生の助手として、三年間先生の実験室で働いた。 その頃の理化学研究所 …
日本の将来(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
しばらく日本をはなれていると、いろいろなことを考えるが、結局のところやはり一番気になるのは、日本の将来という問題である。 何も憂国の感情云々というような、大袈裟な話ではないが、誰で …
読書目安時間:約13分
しばらく日本をはなれていると、いろいろなことを考えるが、結局のところやはり一番気になるのは、日本の将来という問題である。 何も憂国の感情云々というような、大袈裟な話ではないが、誰で …
楡の花(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私の今つとめている札幌の大学は、楡(エルム)の樹で有名である。 緑の芝生がつやつやと滑らかで、そのところどころに大きい楡の樹が立ち、鮮かな緑の葉が天蓋のように空を蔽っている。夏の陽 …
読書目安時間:約4分
私の今つとめている札幌の大学は、楡(エルム)の樹で有名である。 緑の芝生がつやつやと滑らかで、そのところどころに大きい楡の樹が立ち、鮮かな緑の葉が天蓋のように空を蔽っている。夏の陽 …
鼠の湯治(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この話は、北大のY教授の研究室でなされた、鼠に湯治をさせる話である。 ちょっと聞くと、少し唐突な話のようであるが、温泉が外傷の治癒に効くという昔からの信条を科学的に調査するために、 …
読書目安時間:約9分
この話は、北大のY教授の研究室でなされた、鼠に湯治をさせる話である。 ちょっと聞くと、少し唐突な話のようであるが、温泉が外傷の治癒に効くという昔からの信条を科学的に調査するために、 …
根強い北陸文化(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私が四高の学生だったころに、金沢から一人の若い青年が突如として、彗星のごとく日本の文壇にあらわれた。それは『地上』でもって、一躍世に出た島田清次郎であった。 当時私は、寺町の医師の …
読書目安時間:約4分
私が四高の学生だったころに、金沢から一人の若い青年が突如として、彗星のごとく日本の文壇にあらわれた。それは『地上』でもって、一躍世に出た島田清次郎であった。 当時私は、寺町の医師の …
ネバダ通信(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
ネバダ通信は、まずネバダ大学の教授チャーチ博士の話から始めなければならない。チャーチ博士の名を初めて知ったのは、一九三六年だったかと思う。国際雪氷委員会のエヂンバラ総会の報告書が届 …
読書目安時間:約24分
ネバダ通信は、まずネバダ大学の教授チャーチ博士の話から始めなければならない。チャーチ博士の名を初めて知ったのは、一九三六年だったかと思う。国際雪氷委員会のエヂンバラ総会の報告書が届 …
農業物理学夜話(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
終戦と同時に、ニセコの観測所は、当然閉鎖の運命にあった。 親元の技術院が解散して孤児になったこの研究所は、まず解体するより仕方がない。それにこの研究所の使命であった航空気象学の問題 …
読書目安時間:約34分
終戦と同時に、ニセコの観測所は、当然閉鎖の運命にあった。 親元の技術院が解散して孤児になったこの研究所は、まず解体するより仕方がない。それにこの研究所の使命であった航空気象学の問題 …
パーティ物語(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
アメリカの脊骨をなしている中堅階級は、案外に健全な生活をしている。しかしそれは何も、そういう連中が皆朴念仁であるという意味ではない。皆結構生活を楽しんでいるのであるが、その楽しみ方 …
読書目安時間:約22分
アメリカの脊骨をなしている中堅階級は、案外に健全な生活をしている。しかしそれは何も、そういう連中が皆朴念仁であるという意味ではない。皆結構生活を楽しんでいるのであるが、その楽しみ方 …
八月三日の夢(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この頃反故を整理していたら、報告の下書の束が出て来た。終戦直後に、研究室の机の上にあったそういう種類の紙類を、一括して戸棚の奥に放り込んでおいたものである。 戦争中は、一日一日を追 …
読書目安時間:約12分
この頃反故を整理していたら、報告の下書の束が出て来た。終戦直後に、研究室の机の上にあったそういう種類の紙類を、一括して戸棚の奥に放り込んでおいたものである。 戦争中は、一日一日を追 …
八戒に遭った話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
もう十年昔の話になるが、学士院賞を貰った時に、その金で『東瀛珠光』と『西域画聚成』とを買ったことがある。 学士院賞というものは、私たちが中学へはいって間もない頃創められたもので、賞 …
読書目安時間:約7分
もう十年昔の話になるが、学士院賞を貰った時に、その金で『東瀛珠光』と『西域画聚成』とを買ったことがある。 学士院賞というものは、私たちが中学へはいって間もない頃創められたもので、賞 …
ハワイの色(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ハワイは美しいところである。一番驚くのは、パイナップル畑の土の色であって、本当に真赤な色をしている。日本でいう赤土などとは、まるでちがっていて、文字どおりに真赤である。あの土を採っ …
読書目安時間:約3分
ハワイは美しいところである。一番驚くのは、パイナップル畑の土の色であって、本当に真赤な色をしている。日本でいう赤土などとは、まるでちがっていて、文字どおりに真赤である。あの土を採っ …
ハワイの雪(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
常夏の国のハワイにも雪が降ることがあるというと、たいていの人は、冗談と思われるであろう。しかし本当に、一冬に四、五回は、雪の降るところがある。もちろん平地のことではなく、高山の頂の …
読書目安時間:約3分
常夏の国のハワイにも雪が降ることがあるというと、たいていの人は、冗談と思われるであろう。しかし本当に、一冬に四、五回は、雪の降るところがある。もちろん平地のことではなく、高山の頂の …
ピーター・パン(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ディズニイの『ピーター・パン』は、日本でもだいぶ好評だったらしいが、アメリカでも、たいへんな人気であった。普通アメリカでは、相当評判のよい映画でも、映画館の前に、行列を作るというこ …
読書目安時間:約10分
ディズニイの『ピーター・パン』は、日本でもだいぶ好評だったらしいが、アメリカでも、たいへんな人気であった。普通アメリカでは、相当評判のよい映画でも、映画館の前に、行列を作るというこ …
比較科学論(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
科学が今日のように発達して来ると、専門の分野が、非常に多岐に分れて、研究の方法も、千差万別の観を呈している。事実、使われている機械や、研究遂行のやり方を見ると、正に千差万別である。 …
読書目安時間:約19分
科学が今日のように発達して来ると、専門の分野が、非常に多岐に分れて、研究の方法も、千差万別の観を呈している。事実、使われている機械や、研究遂行のやり方を見ると、正に千差万別である。 …
一人の無名作家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昭和十年発行の岩波版『芥川竜之介全集』第八巻に「一人の無名作家」という短文がある。 七、八年前、北国の方の同人雑誌を送って来たことがあるが、その中の『平家物語』に主題をとった小説が …
読書目安時間:約3分
昭和十年発行の岩波版『芥川竜之介全集』第八巻に「一人の無名作家」という短文がある。 七、八年前、北国の方の同人雑誌を送って来たことがあるが、その中の『平家物語』に主題をとった小説が …
百科事典美談(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
『大英百科事典』について、私は二つ美談を知っている。ともに札幌で、自ら見聞したことで、又聞きの話ではない。少し話を面白くしてあるが、本筋には少しも捏造がはいっていない。本当にあった …
読書目安時間:約10分
『大英百科事典』について、私は二つ美談を知っている。ともに札幌で、自ら見聞したことで、又聞きの話ではない。少し話を面白くしてあるが、本筋には少しも捏造がはいっていない。本当にあった …
琵琶湖の水(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
初めから汚い話で恐縮であるが、琵琶湖へ小便をしたら、水嵩はどれだけ変るかという問題がある。 これは一寸面白い問題であって、日本の政治家ならば、大抵の人は「どれだけかというくわしいこ …
読書目安時間:約20分
初めから汚い話で恐縮であるが、琵琶湖へ小便をしたら、水嵩はどれだけ変るかという問題がある。 これは一寸面白い問題であって、日本の政治家ならば、大抵の人は「どれだけかというくわしいこ …
風土と伝統(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
この頃、伝統という言葉がちょいちょい使われるようになった。一時の極端な左傾から、今度は右の方へ揺れが戻って来て、日本の国の古来の伝統を尊重しなければならないというようなことが、よく …
読書目安時間:約10分
この頃、伝統という言葉がちょいちょい使われるようになった。一時の極端な左傾から、今度は右の方へ揺れが戻って来て、日本の国の古来の伝統を尊重しなければならないというようなことが、よく …
二つの序文(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
この二つの序文は、私が前から心がけていた『雪華研究の記録』につけるために書いたものである。初め戦争中にこの本を出そうと思って書いた序文と、敗戦後に書いた序文とを、二つ並べてこの随筆 …
読書目安時間:約14分
この二つの序文は、私が前から心がけていた『雪華研究の記録』につけるために書いたものである。初め戦争中にこの本を出そうと思って書いた序文と、敗戦後に書いた序文とを、二つ並べてこの随筆 …
冬ごもり(旧字新仮名)
読書目安時間:約10分
第6圖ニセコ山頂の冬ごもり 第7圖 冬ごもりといえば、二米も三米もある深い雪に埋もれて、薄暗い部屋の中で炬燵にもぐり込んで、じっと春の來るのを待つような生活を考える人が多いであろう …
読書目安時間:約10分
第6圖ニセコ山頂の冬ごもり 第7圖 冬ごもりといえば、二米も三米もある深い雪に埋もれて、薄暗い部屋の中で炬燵にもぐり込んで、じっと春の來るのを待つような生活を考える人が多いであろう …
冬彦夜話:――漱石先生に関する事ども――(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
『猫』の寒月君『三四郎』の野々宮さんの話の素材が吉村冬彦(寺田寅彦)先生から供給されたものであるという話は、前に書いた通りである。漱石先生と冬彦との関係は、冬彦先生自身が書かれた「 …
読書目安時間:約8分
『猫』の寒月君『三四郎』の野々宮さんの話の素材が吉村冬彦(寺田寅彦)先生から供給されたものであるという話は、前に書いた通りである。漱石先生と冬彦との関係は、冬彦先生自身が書かれた「 …
文化史上の寺田寅彦先生(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
現代のわが国のもった最も綜合的な文化の恩人たる故寺田寅彦先生の全貌を語ることは、今日の日本のもつ教養の最高峰を語ることであって、単に物理学の部門での先生の一門下生たる自分などのなし …
読書目安時間:約8分
現代のわが国のもった最も綜合的な文化の恩人たる故寺田寅彦先生の全貌を語ることは、今日の日本のもつ教養の最高峰を語ることであって、単に物理学の部門での先生の一門下生たる自分などのなし …
壁画摸写(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
二千六百年の記念事業の中で、百年後の日本人に最も感謝されるものは、今度の法隆寺の壁画の摸写ではあるまいかと、友人の一人が私に語ってくれたことがある。 そう聞いて見れば、なる程その通 …
読書目安時間:約16分
二千六百年の記念事業の中で、百年後の日本人に最も感謝されるものは、今度の法隆寺の壁画の摸写ではあるまいかと、友人の一人が私に語ってくれたことがある。 そう聞いて見れば、なる程その通 …
防寒戸(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
昭和十四年の夏、といえば、太平洋戦争勃発の二年前のことであるが、私は北海道の冬ごもりに適した家というつもりで、今の家をこしらえた。こしらえたといっても、何も自分で設計をしたというほ …
読書目安時間:約6分
昭和十四年の夏、といえば、太平洋戦争勃発の二年前のことであるが、私は北海道の冬ごもりに適した家というつもりで、今の家をこしらえた。こしらえたといっても、何も自分で設計をしたというほ …
北陸の民家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
郷里の加賀の片山津を出て、もう四十年になる。したがって、北陸の民家といっても、私の印象に残っているのは、四十年前の田舎家の姿である。 もっともこの頃は、日本中どこへ行っても、新しく …
読書目安時間:約3分
郷里の加賀の片山津を出て、もう四十年になる。したがって、北陸の民家といっても、私の印象に残っているのは、四十年前の田舎家の姿である。 もっともこの頃は、日本中どこへ行っても、新しく …
母性愛の蟹(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
加賀の蟹は、東京などにもよく知られている。いわゆる「ずわい蟹」という。脚の長い形のよい蟹である。 この蟹は、一般には、越前蟹と呼ばれているが、肉は白い大理石のような色をしていて、き …
読書目安時間:約6分
加賀の蟹は、東京などにもよく知られている。いわゆる「ずわい蟹」という。脚の長い形のよい蟹である。 この蟹は、一般には、越前蟹と呼ばれているが、肉は白い大理石のような色をしていて、き …
北海道開発に消えた八百億円(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
北海道の首都札幌は、この二、三年来異常な建築ブームでたいへんな賑わいである。街の中心に近い地域では、到るところにビルの建設が進められ、発展途上にある米国南部の都市のような景観を呈し …
読書目安時間:約36分
北海道の首都札幌は、この二、三年来異常な建築ブームでたいへんな賑わいである。街の中心に近い地域では、到るところにビルの建設が進められ、発展途上にある米国南部の都市のような景観を呈し …
亡び行く国土(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
昭和二十六年の秋は、電力の危機が全国的に叫ばれ、その中でも関西地方の電力危機は、文字通りの危機であったらしい。大阪附近の工場がとくにひどくて、電力不足のために工場が休む、その生産低 …
読書目安時間:約39分
昭和二十六年の秋は、電力の危機が全国的に叫ばれ、その中でも関西地方の電力危機は、文字通りの危機であったらしい。大阪附近の工場がとくにひどくて、電力不足のために工場が休む、その生産低 …
牧野伸顕伯の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
今年の正月のある晩、『リーダース・ダイジェスト』の東京支社長マッキイヴォイ氏と同席した時に、牧野さんの話が出た。 マッキイヴォイ氏は、牧野さんのことを非常にほめていた。日本の代表的 …
読書目安時間:約17分
今年の正月のある晩、『リーダース・ダイジェスト』の東京支社長マッキイヴォイ氏と同席した時に、牧野さんの話が出た。 マッキイヴォイ氏は、牧野さんのことを非常にほめていた。日本の代表的 …
真夏の日本海(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
此の十年余り、海といへば太平洋岸の海しか見てゐないのであるが、時々子供の頃毎年親しんだ日本海の夏の海を思ひ返して見ると、非常に美しかつたといふ思ひ出が浮んで来る。 日本海の沿岸には …
読書目安時間:約10分
此の十年余り、海といへば太平洋岸の海しか見てゐないのであるが、時々子供の頃毎年親しんだ日本海の夏の海を思ひ返して見ると、非常に美しかつたといふ思ひ出が浮んで来る。 日本海の沿岸には …
真夏の日本海(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
この十年あまり、海といえば太平洋岸の海しか見ていないのであるが、時々子供の頃毎年親しんだ日本海の夏の海を思い返してみると、非常に美しかったという思い出が浮んでくる。 日本海の沿岸に …
読書目安時間:約10分
この十年あまり、海といえば太平洋岸の海しか見ていないのであるが、時々子供の頃毎年親しんだ日本海の夏の海を思い返してみると、非常に美しかったという思い出が浮んでくる。 日本海の沿岸に …
満洲通信(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
八月の下旬思い立って、満洲へ出かけて見た。ちょっと急いでいたので、往きは航空会社の旅客機で、東京から奉天〔瀋陽〕まで飛んだ。 今度の満洲行は、私たちがこの十年近く手を染めている低温 …
読書目安時間:約11分
八月の下旬思い立って、満洲へ出かけて見た。ちょっと急いでいたので、往きは航空会社の旅客機で、東京から奉天〔瀋陽〕まで飛んだ。 今度の満洲行は、私たちがこの十年近く手を染めている低温 …
未来の足音(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
いよいよ今年は、二十世紀前半の最後の年にかかった。ここでふり返ってみると、この二十世紀の前半五十年の間に、科学はその歴史の上に類例のない大飛躍をした。そして、科学が今日のように力強 …
読書目安時間:約3分
いよいよ今年は、二十世紀前半の最後の年にかかった。ここでふり返ってみると、この二十世紀の前半五十年の間に、科学はその歴史の上に類例のない大飛躍をした。そして、科学が今日のように力強 …
民族的記憶の名残(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
もう四年前のことになるが、考えて見れば、寺田先生の亡くなられた年の夏のことである。 先生の最後の随筆集『蛍光板』を貰って、ひとわたりずっと読んで行ったところが、「冬夜の田園詩」とい …
読書目安時間:約9分
もう四年前のことになるが、考えて見れば、寺田先生の亡くなられた年の夏のことである。 先生の最後の随筆集『蛍光板』を貰って、ひとわたりずっと読んで行ったところが、「冬夜の田園詩」とい …
娘の結婚(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
どうしたわけか、この近年、天下国家を論ずるような巡り合せに会うことが多く、身辺の雑事を書く機会が、ほとんどなかった。本当のところは、随筆などというものは、少し照れながら子供の自慢話 …
読書目安時間:約13分
どうしたわけか、この近年、天下国家を論ずるような巡り合せに会うことが多く、身辺の雑事を書く機会が、ほとんどなかった。本当のところは、随筆などというものは、少し照れながら子供の自慢話 …
無知(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
人間の幸福をはばむ最大のものの一つに、無知がある。ギリシャの哲学では、その点を強調して、知らないで犯した罪の方が、知って犯した罪よりも重いとした。罪の悪と、知らないことの悪と、二重 …
読書目安時間:約16分
人間の幸福をはばむ最大のものの一つに、無知がある。ギリシャの哲学では、その点を強調して、知らないで犯した罪の方が、知って犯した罪よりも重いとした。罪の悪と、知らないことの悪と、二重 …
室鰺(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
伊豆の東海岸のこの温泉地では秋風の立ち始めるとともに、また室鰺が沢山漁れ出した。去年の秋の暮、少し静養の意味で、漁港と温泉とを兼ねたここの土地へ移ってきてからもう一年に近い。初めて …
読書目安時間:約6分
伊豆の東海岸のこの温泉地では秋風の立ち始めるとともに、また室鰺が沢山漁れ出した。去年の秋の暮、少し静養の意味で、漁港と温泉とを兼ねたここの土地へ移ってきてからもう一年に近い。初めて …
「もく星」号の謎:――白鳩号遭難事件を回顧して――(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
「もく星」号の遭難も、桜木町事件につぐ大悲惨事であった。この事件に私は、直接の関係は何もないが、航空機の遭難には少し因縁があるので、思いついたことを書き止めておく。 第一に、このマ …
読書目安時間:約15分
「もく星」号の遭難も、桜木町事件につぐ大悲惨事であった。この事件に私は、直接の関係は何もないが、航空機の遭難には少し因縁があるので、思いついたことを書き止めておく。 第一に、このマ …
ものは考えよう(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
また夏がやって来て、新聞面には、時々水泳競技の話が出る。 そういう記事を見るたびに、一つ思い出す話がある。それは一九五二年のオリンピックの水泳である。その前に古橋がアメリカへ来て、 …
読書目安時間:約3分
また夏がやって来て、新聞面には、時々水泳競技の話が出る。 そういう記事を見るたびに、一つ思い出す話がある。それは一九五二年のオリンピックの水泳である。その前に古橋がアメリカへ来て、 …
八幡馬と墨の研究(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
もう二十年以上も昔の話であるが、寺田寅彦先生が、墨流しの研究をされたことがある。この研究は、墨と硯との研究に発展し、東洋の墨は、非常に不思議な性質を持っていることがわかった。 この …
読書目安時間:約3分
もう二十年以上も昔の話であるが、寺田寅彦先生が、墨流しの研究をされたことがある。この研究は、墨と硯との研究に発展し、東洋の墨は、非常に不思議な性質を持っていることがわかった。 この …
湯川秀樹さんのこと(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
十一月四日は、たまたま函館にある北大の水産学部で、文化講義をする日になっていた。 朝、学校へ顔を出したら、とたんに学部長の武田さんが、「先生、今朝のラヂオの臨時ニュースを御ききです …
読書目安時間:約23分
十一月四日は、たまたま函館にある北大の水産学部で、文化講義をする日になっていた。 朝、学校へ顔を出したら、とたんに学部長の武田さんが、「先生、今朝のラヂオの臨時ニュースを御ききです …
雪(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間33分
第1図版 第2図版 第3図版 第4図版 第5図版 第6図版 第7図版 第8図版 第9図版 第10図版 第11図版 第12図版 この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の経過及 …
読書目安時間:約2時間33分
第1図版 第2図版 第3図版 第4図版 第5図版 第6図版 第7図版 第8図版 第9図版 第10図版 第11図版 第12図版 この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の経過及 …
雪男(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ヒマラヤの山奥に、人間に似た怪獣が住んでいるという伝説は、ずっと昔からあった。ヒマラヤの住人たちは、この怪人をヤティ(縁起の悪い雪男)と呼んでいるそうである。 この怪人のことが、急 …
読書目安時間:約3分
ヒマラヤの山奥に、人間に似た怪獣が住んでいるという伝説は、ずっと昔からあった。ヒマラヤの住人たちは、この怪人をヤティ(縁起の悪い雪男)と呼んでいるそうである。 この怪人のことが、急 …
雪協議会の報告(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
万国雪協議会というものがあって、世界四十何か国の学者を会員として、盛んな活動をしようとしている。その第一回総会が四年前に英国のエジンバラにあって、その報告がやっとこの頃出来上った。 …
読書目安時間:約2分
万国雪協議会というものがあって、世界四十何か国の学者を会員として、盛んな活動をしようとしている。その第一回総会が四年前に英国のエジンバラにあって、その報告がやっとこの頃出来上った。 …
雪後記(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
今年の冬は、二度十勝岳へ行った。 そしてそれは、私にとっては、誠に待望の十勝行の再挙が遂に成ったものであった。 冬の十勝行ももう旧い話で、実のところ、今ではもはや私たちの仲間の雪の …
読書目安時間:約18分
今年の冬は、二度十勝岳へ行った。 そしてそれは、私にとっては、誠に待望の十勝行の再挙が遂に成ったものであった。 冬の十勝行ももう旧い話で、実のところ、今ではもはや私たちの仲間の雪の …
雪今昔物語(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
もう十年前のことであるが、昭和十一年の秋に、北海道に大演習があり、天皇陛下が北海道に行幸されたことがあった。 その時に一日北大へ行幸の日があった。そして私は低温室の中で、雪の結晶の …
読書目安時間:約32分
もう十年前のことであるが、昭和十一年の秋に、北海道に大演習があり、天皇陛下が北海道に行幸されたことがあった。 その時に一日北大へ行幸の日があった。そして私は低温室の中で、雪の結晶の …
雪雑記(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
この頃大ていの雪の結晶が皆実験室の中で人工で出来るようになったので、自分ではひとりで面白がっている。よく人にそれはどういう目的の研究なんですかと聞かれるので、こうして雪の成因が判る …
読書目安時間:約20分
この頃大ていの雪の結晶が皆実験室の中で人工で出来るようになったので、自分ではひとりで面白がっている。よく人にそれはどういう目的の研究なんですかと聞かれるので、こうして雪の成因が判る …
雪三題(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
今年は初雪が例年よりも二日早かった。 秋の天気工合がよかったせいか、円山の原始林の黄葉がまだ八分どおり残っているのに、朝学校へ出がけに、ぱらぱらと霰まじりに初雪が降った。外套の袖に …
読書目安時間:約10分
今年は初雪が例年よりも二日早かった。 秋の天気工合がよかったせいか、円山の原始林の黄葉がまだ八分どおり残っているのに、朝学校へ出がけに、ぱらぱらと霰まじりに初雪が降った。外套の袖に …
雪の化石1(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
北海道の奥地深く、標高千メートルの地点では、冬中気温は普通零下十度以下で、雪の結晶は顕微鏡下に、水晶の骨組のように繊細を極めた姿を顕している。その六方の枝の端の端まで行き渡った輪廓 …
読書目安時間:約1分
北海道の奥地深く、標高千メートルの地点では、冬中気温は普通零下十度以下で、雪の結晶は顕微鏡下に、水晶の骨組のように繊細を極めた姿を顕している。その六方の枝の端の端まで行き渡った輪廓 …
雪の化石2(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
雪の化石をつくろうと思い立ったのは、もう二十年以上も昔の話である。 昭和五年に新しく出来た北大の理学部へ赴任して、間もなく雪の研究にとりかかった。そして冬ごとに、十勝岳の白銀荘へ出 …
読書目安時間:約10分
雪の化石をつくろうと思い立ったのは、もう二十年以上も昔の話である。 昭和五年に新しく出来た北大の理学部へ赴任して、間もなく雪の研究にとりかかった。そして冬ごとに、十勝岳の白銀荘へ出 …
雪の十勝:――雪の研究の生活――(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
初めは慰み半分に手をつけて見た雪の研究も、段々と深入りして、算えて見ればもう十勝岳へは五回も出かけて行ったことになる。落付く場所は道庁のヒュッテ白銀荘という小屋で、泥流コースの近く …
読書目安時間:約8分
初めは慰み半分に手をつけて見た雪の研究も、段々と深入りして、算えて見ればもう十勝岳へは五回も出かけて行ったことになる。落付く場所は道庁のヒュッテ白銀荘という小屋で、泥流コースの近く …
雪の話(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この頃新聞を見ていて気の付いたことは、スキーと雪の記事がこの数年来急に増してきたことである。主なものはスキー地の広告のようであるが、その他に純粋に雪と冬の山とを讃えるような記事もか …
読書目安時間:約8分
この頃新聞を見ていて気の付いたことは、スキーと雪の記事がこの数年来急に増してきたことである。主なものはスキー地の広告のようであるが、その他に純粋に雪と冬の山とを讃えるような記事もか …
雪は資源である(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
昭和二十三年の冬、北海道の大雪山で雪の調査をしたことがある。 雪の調査というのは、雪の深さを測るのではなく、雪の目方を測る調査なのである。雪は春になれば、解けて川へ流れ出るわけであ …
読書目安時間:約11分
昭和二十三年の冬、北海道の大雪山で雪の調査をしたことがある。 雪の調査というのは、雪の深さを測るのではなく、雪の目方を測る調査なのである。雪は春になれば、解けて川へ流れ出るわけであ …
雪を消す話(旧字新仮名)
読書目安時間:約13分
第1圖大雪に埋れた農村 わが國には昔から「六花豐年の兆」という言葉があって、大雪の年は豐作だといって喜んだものである。しかしそれは何も科學的なよりどころのある話ではない。實際に冬の …
読書目安時間:約13分
第1圖大雪に埋れた農村 わが國には昔から「六花豐年の兆」という言葉があって、大雪の年は豐作だといって喜んだものである。しかしそれは何も科學的なよりどころのある話ではない。實際に冬の …
雪を作る話(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
これは本当に天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作る話である。零下三十度の低温室の中で、六華の雪の結晶を作って顕微鏡で覗き暮す生活は、残暑の苦熱に悩まされる …
読書目安時間:約6分
これは本当に天然に見られるあの美麗繊細極まる雪の結晶を実験室の中で人工で作る話である。零下三十度の低温室の中で、六華の雪の結晶を作って顕微鏡で覗き暮す生活は、残暑の苦熱に悩まされる …
雪を降らす話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
雪国に育った私たちには、お正月に雪がないと、どうもお正月らしい気がしない。吹雪で障子がばたばたいうようでも困るが、炬燵にはいって、硝子戸越しに、庭の松の木にこんもりと雪がつもってい …
読書目安時間:約3分
雪国に育った私たちには、お正月に雪がないと、どうもお正月らしい気がしない。吹雪で障子がばたばたいうようでも困るが、炬燵にはいって、硝子戸越しに、庭の松の木にこんもりと雪がつもってい …
由布院行(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
去年の夏のことである。漸く学校は卒業したが、理研の方の建物が出来上っていなかったので、暫く物理教室の狭い実験室の一隅を借りて、仕事を続けていた時のことである。Y君やM君と一緒に、一 …
読書目安時間:約14分
去年の夏のことである。漸く学校は卒業したが、理研の方の建物が出来上っていなかったので、暫く物理教室の狭い実験室の一隅を借りて、仕事を続けていた時のことである。Y君やM君と一緒に、一 …
弓と鉄砲(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
弓と鉄砲との戦争では鉄砲が勝つだろう。ところで現代の火器を丁度鉄砲に対する弓くらいの価値に貶してしまうような次の時代の兵器が想像出来るだろうか。 火薬は化合し易い数種の薬品の混合で …
読書目安時間:約2分
弓と鉄砲との戦争では鉄砲が勝つだろう。ところで現代の火器を丁度鉄砲に対する弓くらいの価値に貶してしまうような次の時代の兵器が想像出来るだろうか。 火薬は化合し易い数種の薬品の混合で …
雷神(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
雷さまといえば、虎の皮の褌をしめた鬼が、沢山の太鼓をたたいている姿を思い出す。 ああいう雷さまは、一体誰が考案したものか知らないが、なかなかいい。雷と電光とは、夏の景物の中では、出 …
読書目安時間:約3分
雷さまといえば、虎の皮の褌をしめた鬼が、沢山の太鼓をたたいている姿を思い出す。 ああいう雷さまは、一体誰が考案したものか知らないが、なかなかいい。雷と電光とは、夏の景物の中では、出 …
リチャードソン(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
私がリチャードソン先生の実験室で働いたのは、一九二八年の四月からまる一年間に過ぎなかったので、決して先生をよく理解したとはいえないであろう。しかしわずか一年の間にリチャードソン先生 …
読書目安時間:約8分
私がリチャードソン先生の実験室で働いたのは、一九二八年の四月からまる一年間に過ぎなかったので、決して先生をよく理解したとはいえないであろう。しかしわずか一年の間にリチャードソン先生 …
立春の卵(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
立春の時に卵が立つという話は、近来にない愉快な話であった。 二月六日の各新聞は、写真入りで大々的にこの新発見を報道している。もちろんこれは或る意味では全紙面を割いてもいいくらいの大 …
読書目安時間:約17分
立春の時に卵が立つという話は、近来にない愉快な話であった。 二月六日の各新聞は、写真入りで大々的にこの新発見を報道している。もちろんこれは或る意味では全紙面を割いてもいいくらいの大 …
流言蜚語(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
八月二十四日の真夜中、当分杜絶になるという最後の連絡船に乗って本州へ渡った。 船は樺太からの引揚民で一杯であった。人々は折り重って冷い甲板上にねていた。それからそれにも増して混んで …
読書目安時間:約4分
八月二十四日の真夜中、当分杜絶になるという最後の連絡船に乗って本州へ渡った。 船は樺太からの引揚民で一杯であった。人々は折り重って冷い甲板上にねていた。それからそれにも増して混んで …
六三制を活かす道(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
そろそろ新学期を迎える頃になると、毎年思い出したように、教育問題が、日々の新聞紙面に、華々しく登場してくる。入学試験が眼前に迫ってくると、受験生徒をもっている家庭では、親も子もなく …
読書目安時間:約36分
そろそろ新学期を迎える頃になると、毎年思い出したように、教育問題が、日々の新聞紙面に、華々しく登場してくる。入学試験が眼前に迫ってくると、受験生徒をもっている家庭では、親も子もなく …
露伴先生と科学(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
私は露伴先生のものは少ししか読んでいないし、お目にかかったのも、三、四回くらいのものである。それで先生についてはあまり書く資格もなく、また材料も持ち合わせていない。しかし露伴先生の …
読書目安時間:約15分
私は露伴先生のものは少ししか読んでいないし、お目にかかったのも、三、四回くらいのものである。それで先生についてはあまり書く資格もなく、また材料も持ち合わせていない。しかし露伴先生の …
露伴先生と神仙道(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
先だって久しぶりに小宮さんと会った時、何かの拍子に露伴先生の話が出た。そして文さんの『父』のことなどを話しているうちに、小宮さんが、「そういえば、幸田さんは死ぬ前に「じゃ、おれはも …
読書目安時間:約17分
先だって久しぶりに小宮さんと会った時、何かの拍子に露伴先生の話が出た。そして文さんの『父』のことなどを話しているうちに、小宮さんが、「そういえば、幸田さんは死ぬ前に「じゃ、おれはも …
若き日の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私の中学時代は、大正の初めごろであって、明治時代の先生方とくらべたら、だいぶ文明開化になっていた。しかし郷里が北陸の片田舎であり、中学があった小松の町も当時はまだ小さい町であった。 …
読書目安時間:約10分
私の中学時代は、大正の初めごろであって、明治時代の先生方とくらべたら、だいぶ文明開化になっていた。しかし郷里が北陸の片田舎であり、中学があった小松の町も当時はまだ小さい町であった。 …
私の生まれた家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私の郷里は、片山津という、加賀の温泉地である。今は加賀市になって、国際観光ホテルもあり、近くに立派なゴルフ場もある。まるで昔日の面影はない。しかし私が生まれた頃は、北陸の片田舎の小 …
読書目安時間:約3分
私の郷里は、片山津という、加賀の温泉地である。今は加賀市になって、国際観光ホテルもあり、近くに立派なゴルフ場もある。まるで昔日の面影はない。しかし私が生まれた頃は、北陸の片田舎の小 …
私の読書遍歴(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
有名な人の読書遍歴をよむと若い人たちは、鼓舞されるよりも、畏縮してしまう方が多いであろう。例えば、清水幾太郎氏の『読書と人生』を読んでも、辰野隆氏の『忘れ得ぬ人々』中の谷崎潤一郎の …
読書目安時間:約4分
有名な人の読書遍歴をよむと若い人たちは、鼓舞されるよりも、畏縮してしまう方が多いであろう。例えば、清水幾太郎氏の『読書と人生』を読んでも、辰野隆氏の『忘れ得ぬ人々』中の谷崎潤一郎の …
私のふるさと(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私のふるさとは、石川県の片山津という温泉地である。柴山潟という湖のほとりにあって、私の子供のころは、まだ淋しい湖畔の小さい温泉地であった。 この潟にはあしが一面に生えていて、ばんと …
読書目安時間:約2分
私のふるさとは、石川県の片山津という温泉地である。柴山潟という湖のほとりにあって、私の子供のころは、まだ淋しい湖畔の小さい温泉地であった。 この潟にはあしが一面に生えていて、ばんと …
私の履歴書(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
人間の履歴を知るには、履歴書を見るのが一番早い。しかし履歴書にあらわれているのは、決してその人の本当の履歴ではない。少なくも私の場合などは、大学の物理科を出ていることになっていて、 …
読書目安時間:約12分
人間の履歴を知るには、履歴書を見るのが一番早い。しかし履歴書にあらわれているのは、決してその人の本当の履歴ではない。少なくも私の場合などは、大学の物理科を出ていることになっていて、 …
“中谷宇吉郎”について
中谷 宇吉郎(なかや うきちろう、1900年(明治33年)7月4日 - 1962年(昭和37年)4月11日)は、日本の物理学者、随筆家。位階は正三位。勲等は勲一等。学位は理学博士(京都帝国大学・1931年)。
北海道大学理学部教授を北海道帝国大学時代から務め、世界で初となる人工雪の製作に成功した。考古学者・中谷治宇二郎は弟。
(出典:Wikipedia)
北海道大学理学部教授を北海道帝国大学時代から務め、世界で初となる人工雪の製作に成功した。考古学者・中谷治宇二郎は弟。
(出典:Wikipedia)
“中谷宇吉郎”と年代が近い著者
今月で生誕X十年
ラデャード・キプリング(生誕160年)
ライネル・マリア・リルケ(生誕150年)
野口米次郎(生誕150年)
瀬沼夏葉(生誕150年)
相馬泰三(生誕140年)
山中峯太郎(生誕140年)
観世左近 二十四世(生誕130年)
平山千代子(生誕100年)
今月で没後X十年
アウグスト・プラーテン(没後190年)
フィオナ・マクラウド(没後120年)
徳永保之助(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)
寺田寅彦(没後90年)
生田葵山(没後80年)
百田宗治(没後70年)
安井曽太郎(没後70年)
米川正夫(没後60年)
今年で生誕X百年
平山千代子(生誕100年)
今年で没後X百年
大町桂月(没後100年)
富ノ沢麟太郎(没後100年)
細井和喜蔵(没後100年)
木下利玄(没後100年)
富永太郎(没後100年)
エリザベス、アンナ・ゴルドン(没後100年)
徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)