三好達治
1900.08.23 〜 1964.04.05
著者としての作品一覧
朝菜集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
ちかごろ書肆のすすめにより、おのれまたをりからおもふところいささかありて、この書ひとまきをあみぬ。なづけて朝菜集といふ。いにしへのあまの子らが、あさごとに磯菜つみけんなりはひのごと …
読書目安時間:約8分
ちかごろ書肆のすすめにより、おのれまたをりからおもふところいささかありて、この書ひとまきをあみぬ。なづけて朝菜集といふ。いにしへのあまの子らが、あさごとに磯菜つみけんなりはひのごと …
池のほとりに柿の木あり(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
旅行に出て汽車の窓からつと見かける小学校の建もの、その校庭や体操器械など、小さな花壇や鳩小舎など、いつ見かけても心をひかれるもののあるのを覚える。さういふ時に私の心を掠める古い記憶 …
読書目安時間:約4分
旅行に出て汽車の窓からつと見かける小学校の建もの、その校庭や体操器械など、小さな花壇や鳩小舎など、いつ見かけても心をひかれるもののあるのを覚える。さういふ時に私の心を掠める古い記憶 …
一点鐘(旧字旧仮名)
読書目安時間:約19分
いく年かものにまぎれて筐底にひそみゐし舊詩二章、その心あわただしくその詞もとより拙きのみか、遠き日の情懷ははた囘顧するにものうけれども、この集の著者がなほけふの日の境涯をいささかま …
読書目安時間:約19分
いく年かものにまぎれて筐底にひそみゐし舊詩二章、その心あわただしくその詞もとより拙きのみか、遠き日の情懷ははた囘顧するにものうけれども、この集の著者がなほけふの日の境涯をいささかま …
兎(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
拔足差足忍び寄つた野兎は蓆圍ひの隙間から野菜畑に跳びこんだ とたんに係蹄に引かかる南無三とんぼがへりを二つ三つ 力まかせに空を蹴る月を蹴る月は山の端に入いる やがて兎は寢てしまふ白 …
読書目安時間:約1分
拔足差足忍び寄つた野兎は蓆圍ひの隙間から野菜畑に跳びこんだ とたんに係蹄に引かかる南無三とんぼがへりを二つ三つ 力まかせに空を蹴る月を蹴る月は山の端に入いる やがて兎は寢てしまふ白 …
海から昇る太陽(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ああ海から昇る太陽 太陽 今しののめの 藍と薔薇との混沌を 蹴破つて昇る太陽 かの紅のかのまるく大きなる かの重たげなるもの 虚空のうちを押渡る かのまぶしきもの かの團々たる 黄 …
読書目安時間:約1分
ああ海から昇る太陽 太陽 今しののめの 藍と薔薇との混沌を 蹴破つて昇る太陽 かの紅のかのまるく大きなる かの重たげなるもの 虚空のうちを押渡る かのまぶしきもの かの團々たる 黄 …
海辺の窓(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
破風をもる煙かすかに 水をくむ音はをりふし この庵に人はすめども 日もすがら窓をとざせり 自らかう歌つた私の家の海にむかつた窓はその前に藤棚のたふれたのがいつまでもたふれたままで、 …
読書目安時間:約6分
破風をもる煙かすかに 水をくむ音はをりふし この庵に人はすめども 日もすがら窓をとざせり 自らかう歌つた私の家の海にむかつた窓はその前に藤棚のたふれたのがいつまでもたふれたままで、 …
海よ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
門を閉ぢよ心を開け…… それで私は表を閉めて 裏の垣根を越えてきた 蜜柑畠の間を拔けて 海よお前の渚に かうして私は一人できた ああ陽炎のもえる初夏の小徑 眩めく砂の上で 海よ私は …
読書目安時間:約1分
門を閉ぢよ心を開け…… それで私は表を閉めて 裏の垣根を越えてきた 蜜柑畠の間を拔けて 海よお前の渚に かうして私は一人できた ああ陽炎のもえる初夏の小徑 眩めく砂の上で 海よ私は …
老いらくの身をはるばると(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
老いらくの身をはるばると このあしたわがふるさとゆ ははそはの母はきたまふ おんくるまうまやにつかせ たまふにはいとまありけり われひとりなぎさにいでて 冬の日のほのかほのかに あ …
読書目安時間:約1分
老いらくの身をはるばると このあしたわがふるさとゆ ははそはの母はきたまふ おんくるまうまやにつかせ たまふにはいとまありけり われひとりなぎさにいでて 冬の日のほのかほのかに あ …
オルゴール(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
人形のをぢさん守屋三郎さんは、支那文学の奥野信太郎さんと漫画家の横山隆一さんとの丁度中間位の恰幅であつて、容貌はどこやらそのお二人に似てゐる。笑顔のいい気軽なところも、頭の禿ぐあひ …
読書目安時間:約14分
人形のをぢさん守屋三郎さんは、支那文学の奥野信太郎さんと漫画家の横山隆一さんとの丁度中間位の恰幅であつて、容貌はどこやらそのお二人に似てゐる。笑顔のいい気軽なところも、頭の禿ぐあひ …
かいつぶり(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
かいつぶりかいつぶりそうれ頭に火がついた 私たちの歌に應へてかいつぶりは水に沈む それは旱魃の夏だつたただそれだけのことだつた かいつぶりかいつぶりかいつぶりのゐない日もあつた …
読書目安時間:約1分
かいつぶりかいつぶりそうれ頭に火がついた 私たちの歌に應へてかいつぶりは水に沈む それは旱魃の夏だつたただそれだけのことだつた かいつぶりかいつぶりかいつぶりのゐない日もあつた …
梶井君(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
なにがしの書物を持ちて 君を訪ふ慣ひなりしを 花をもて 訪ふ 垂乳根の 君の母とし語へど この秋の日に 君はあらなく すずろかに 鐘うち鳴らししまらくは 君のみ靈に 香をまつらむ …
読書目安時間:約1分
なにがしの書物を持ちて 君を訪ふ慣ひなりしを 花をもて 訪ふ 垂乳根の 君の母とし語へど この秋の日に 君はあらなく すずろかに 鐘うち鳴らししまらくは 君のみ靈に 香をまつらむ …
かつてわが悲しみは(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
かつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへり かつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへり 五月またみどりはふかく見よ かなたに白き鳥のとぶあり おのが身ははやく老いしか この日また何 …
読書目安時間:約1分
かつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへり かつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへり 五月またみどりはふかく見よ かなたに白き鳥のとぶあり おのが身ははやく老いしか この日また何 …
鴨 一(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
二羽三羽霧のかかつた水際に黒い小鴨が游いでゐる 私は林の小徑を出る——それとなし彼らはくるりと向きをかへる やがて一羽は空に揚る一羽は水の面を飛ぶ一羽はあとに殘される 彼は周章てて …
読書目安時間:約1分
二羽三羽霧のかかつた水際に黒い小鴨が游いでゐる 私は林の小徑を出る——それとなし彼らはくるりと向きをかへる やがて一羽は空に揚る一羽は水の面を飛ぶ一羽はあとに殘される 彼は周章てて …
閒花集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
この小詩集を梶井基次郎君の墓前に捧ぐ 海海よお前を私の思ひ出と呼ばう私の思ひ出よ お前の渚に私は砂の上に臥よう海鹹からい水……水の音よ お前は遠くからやつてくる私の思ひ出の縁飾り波 …
読書目安時間:約8分
この小詩集を梶井基次郎君の墓前に捧ぐ 海海よお前を私の思ひ出と呼ばう私の思ひ出よ お前の渚に私は砂の上に臥よう海鹹からい水……水の音よ お前は遠くからやつてくる私の思ひ出の縁飾り波 …
寒林小唱(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
山雀の嘴をたたきし板びさし はたやくだりし黄なる枯芝 裸木の朴のこずゑはゆれてあれ その青空をとぶ雲もなし 鴉なく櫟ばやしのあらきみち けうとかりけり陽はてれれども さねさし相模の …
読書目安時間:約2分
山雀の嘴をたたきし板びさし はたやくだりし黄なる枯芝 裸木の朴のこずゑはゆれてあれ その青空をとぶ雲もなし 鴉なく櫟ばやしのあらきみち けうとかりけり陽はてれれども さねさし相模の …
棋家の文章など(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
棋客の前田陳爾さんに近づきはないが、その囲碁批評はいつも面白く拝見してゐる。なかなかの文章家で、評語は私どもには高遠にすぎることがたいていのやうだが、読ものとして面白く拝見するのを …
読書目安時間:約4分
棋客の前田陳爾さんに近づきはないが、その囲碁批評はいつも面白く拝見してゐる。なかなかの文章家で、評語は私どもには高遠にすぎることがたいていのやうだが、読ものとして面白く拝見するのを …
銀座街頭(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
この三月いつぱいで東京都の露店はいよいよ姿を消すことに結着した。ひとしきり歎願運動や署名運動で揉みあつてゐたのもつひに効果がなく、費用をつぎこんだだけが結局馬鹿を見た訳で、もうどう …
読書目安時間:約12分
この三月いつぱいで東京都の露店はいよいよ姿を消すことに結着した。ひとしきり歎願運動や署名運動で揉みあつてゐたのもつひに効果がなく、費用をつぎこんだだけが結局馬鹿を見た訳で、もうどう …
空林(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
山毛欅の林楢の林白樺の林ひと年私は山に住ひ彼らの春の粧ひと 彼らの秋の凋落を見たけれども彼らの裸の姿雪の上のたたずまひこそ わけても私の心にしみる何故だらうそのことわけを問ひながら …
読書目安時間:約1分
山毛欅の林楢の林白樺の林ひと年私は山に住ひ彼らの春の粧ひと 彼らの秋の凋落を見たけれども彼らの裸の姿雪の上のたたずまひこそ わけても私の心にしみる何故だらうそのことわけを問ひながら …
艸千里(旧字旧仮名)
読書目安時間:約15分
もとおのれがさえのつたなければぞ、集ならんとする夜半…… 私の詩は 一つの着手であればいい 私の家は 毀れやすい家でいい ひと日ひと日に失はれる ああこの旅のつれづれの 私の詩は …
読書目安時間:約15分
もとおのれがさえのつたなければぞ、集ならんとする夜半…… 私の詩は 一つの着手であればいい 私の家は 毀れやすい家でいい ひと日ひと日に失はれる ああこの旅のつれづれの 私の詩は …
ケシの花(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
ケシの花はマリー・ロランサンの絵を思はしめる。後者はまた前者を連想せしめる。双方はかなげで、煙となつて消えさうで美しい。はかなげといつても、それがきつぱりとしてゐて、何やら凜として …
読書目安時間:約3分
ケシの花はマリー・ロランサンの絵を思はしめる。後者はまた前者を連想せしめる。双方はかなげで、煙となつて消えさうで美しい。はかなげといつても、それがきつぱりとしてゐて、何やら凜として …
柘榴の花(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
万物の蒼々たる中に柘榴の花のかつと赤く咲きでたのを見ると、毎年のことだが、私はいつも一種名状のしがたい感銘を覚える。近頃年齢を重ねるに従つて、草木の花といふ花、みな深紅のものに最も …
読書目安時間:約6分
万物の蒼々たる中に柘榴の花のかつと赤く咲きでたのを見ると、毎年のことだが、私はいつも一種名状のしがたい感銘を覚える。近頃年齢を重ねるに従つて、草木の花といふ花、みな深紅のものに最も …
山果集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
海の青さに耳をたて圍ひの柵を跳び越える仔羊 砂丘の上に馳けのぼり己れの影にとび上る仔羊よ 私の歌は今朝生れたばかりの仔羊 潮の薫りに眼を瞬き飛び去る雲の後を追ふ 雷の後かみなり蝶が …
読書目安時間:約7分
海の青さに耳をたて圍ひの柵を跳び越える仔羊 砂丘の上に馳けのぼり己れの影にとび上る仔羊よ 私の歌は今朝生れたばかりの仔羊 潮の薫りに眼を瞬き飛び去る雲の後を追ふ 雷の後かみなり蝶が …
山果集に寄す(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
行くがいい既に門出の時である行け 太陽のもと喧噪のさなかに行け風塵霜露の衢々に 行つてお前の運命を試みるべき時である行け 片意地な兜蟲か弱い仔雀跛この驢馬憐れなるわが詩の一卷 …
読書目安時間:約1分
行くがいい既に門出の時である行け 太陽のもと喧噪のさなかに行け風塵霜露の衢々に 行つてお前の運命を試みるべき時である行け 片意地な兜蟲か弱い仔雀跛この驢馬憐れなるわが詩の一卷 …
詩四章(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
粉雪の中で四十雀が啼いてゐる春が眞近にせまつてきた 谿間で風が鳴つてゐる楢山毛欅櫟それらの枯葉が雪の上を走つてゐる 山山よ裸の木木よ樂しい冬も間もなく冬も終るだらう 懷かしい私の友 …
読書目安時間:約1分
粉雪の中で四十雀が啼いてゐる春が眞近にせまつてきた 谿間で風が鳴つてゐる楢山毛欅櫟それらの枯葉が雪の上を走つてゐる 山山よ裸の木木よ樂しい冬も間もなく冬も終るだらう 懷かしい私の友 …
秋日口占(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
われながく憂ひに栖みて はやく身は老いんとすらん ふたつなきいのちをかくて 愚かにもうしなひつるよ 秋の日の高きにたちて こしかたをおもへばかなし すぎし日の憂ひならねば あまから …
読書目安時間:約1分
われながく憂ひに栖みて はやく身は老いんとすらん ふたつなきいのちをかくて 愚かにもうしなひつるよ 秋の日の高きにたちて こしかたをおもへばかなし すぎし日の憂ひならねば あまから …
白根山(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
白根山寥落として草もなし 煙たつ 見ゆ 白土尾根に ほのかなる 硫黄のかをり吹きかよへ 芳が平の 秋風のうち 行き行きて かへるときなき心地すれ 鳥さへ飛ばぬ 白根山路 草もなし …
読書目安時間:約1分
白根山寥落として草もなし 煙たつ 見ゆ 白土尾根に ほのかなる 硫黄のかをり吹きかよへ 芳が平の 秋風のうち 行き行きて かへるときなき心地すれ 鳥さへ飛ばぬ 白根山路 草もなし …
草舎にて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
めじろめじろ めじろ 冬の端山を渡りくる めじろの群れのおしやべりは…… それはまるで夏の日の日の暮れ方、とある街角をくる風鈴賣りの、あの毀れ易い硝子の器を百も吊るした、人の肩に擔 …
読書目安時間:約1分
めじろめじろ めじろ 冬の端山を渡りくる めじろの群れのおしやべりは…… それはまるで夏の日の日の暮れ方、とある街角をくる風鈴賣りの、あの毀れ易い硝子の器を百も吊るした、人の肩に擔 …
測量船(新字旧仮名)
読書目安時間:約36分
春の岬旅のをはりの鴎どり 浮きつつ遠くなりにけるかも 母よ—— 淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり はてしなき並樹のかげを そうそうと風のふくなり 時はたそがれ …
読書目安時間:約36分
春の岬旅のをはりの鴎どり 浮きつつ遠くなりにけるかも 母よ—— 淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり はてしなき並樹のかげを そうそうと風のふくなり 時はたそがれ …
測量船拾遺(新字旧仮名)
読書目安時間:約36分
生れないのに死んでしまつた 玻璃盤の胎児は 酒精のとばりの中に 昼もなほ昏々と睡る 昼もなほ昏々と睡る やるせない胎児の睡眠は 酒精の銀の夢に どんよりと曇る亜剌比亜数字の3だ 生 …
読書目安時間:約36分
生れないのに死んでしまつた 玻璃盤の胎児は 酒精のとばりの中に 昼もなほ昏々と睡る 昼もなほ昏々と睡る やるせない胎児の睡眠は 酒精の銀の夢に どんよりと曇る亜剌比亜数字の3だ 生 …
黄昏(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
どこかで鳥の聲がする雪の山の黄昏時 私は一つの尾根に彳つ谿間の宿のランプの灯 私の部屋の小さな窗窗に映つた帽子の影 あはれあはれそれは思出のやうに見える微かな谿の水の聲 …
読書目安時間:約1分
どこかで鳥の聲がする雪の山の黄昏時 私は一つの尾根に彳つ谿間の宿のランプの灯 私の部屋の小さな窗窗に映つた帽子の影 あはれあはれそれは思出のやうに見える微かな谿の水の聲 …
旅人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雪どけの峽の小徑を行く行く照らしいだすわが手の燈火 黄色なる火影のうちを疲れて歩むあはれわが脚の影 重い靴濡れた帽子冷めたい耳空腹——旅人と 身をなして思ふことさへうつつないああこ …
読書目安時間:約1分
雪どけの峽の小徑を行く行く照らしいだすわが手の燈火 黄色なる火影のうちを疲れて歩むあはれわが脚の影 重い靴濡れた帽子冷めたい耳空腹——旅人と 身をなして思ふことさへうつつないああこ …
短歌集 日まはり(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
短歌集日まはり わが跫音 路をうつわが杖の音 われは聴く わが生の音づれ 日まはりや床屋しづけき菜園に 草生ふる電車線路を あしびきの やま鳥はつと 走り越えにき うら山に 銃の音 …
読書目安時間:約12分
短歌集日まはり わが跫音 路をうつわが杖の音 われは聴く わが生の音づれ 日まはりや床屋しづけき菜園に 草生ふる電車線路を あしびきの やま鳥はつと 走り越えにき うら山に 銃の音 …
南窗集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
靜かな村の街道を筧が横に越えてゐる それに一羽の鴉がとまつて木洩れ陽の中に 空を仰ぎ地を眺め私がその下を通るとき ある微妙な均衡の上に翼を戢めて秤のやうに搖れてゐた たぎり初めた湯 …
読書目安時間:約5分
靜かな村の街道を筧が横に越えてゐる それに一羽の鴉がとまつて木洩れ陽の中に 空を仰ぎ地を眺め私がその下を通るとき ある微妙な均衡の上に翼を戢めて秤のやうに搖れてゐた たぎり初めた湯 …
霾(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
冬の初めの霽れた空に、淺間山が肩を搖すつて哄笑する、ロンロンロン・ヷッハッハ・ヷッハッハ。「俺はしばらく退屈してゐたんだぞ!」そしてひとりで自棄にふざけて、麓の村に石を投げる、氣流 …
読書目安時間:約12分
冬の初めの霽れた空に、淺間山が肩を搖すつて哄笑する、ロンロンロン・ヷッハッハ・ヷッハッハ。「俺はしばらく退屈してゐたんだぞ!」そしてひとりで自棄にふざけて、麓の村に石を投げる、氣流 …
『春の岬』序詩(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
わが古きまづしきうたのたぐひここにとり集へてひと卷のふみをばなしつ、名づけて春の岬といふ、ふみのはじめに感をしるして序を添へよとは人の命ずるところなり、あな蛇足をしひたまふものかな …
読書目安時間:約2分
わが古きまづしきうたのたぐひここにとり集へてひと卷のふみをばなしつ、名づけて春の岬といふ、ふみのはじめに感をしるして序を添へよとは人の命ずるところなり、あな蛇足をしひたまふものかな …
日まはり(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
橋の袂の日まはり 床屋の裏の日まはり 水車小屋の日まはり 交番の陰の日まはり 頽れた築地の上に聳える 路ばたの墓地の日まはり 丘の上の洒落た一つ家 そのまた上の女學校の寄宿舍の 庭 …
読書目安時間:約1分
橋の袂の日まはり 床屋の裏の日まはり 水車小屋の日まはり 交番の陰の日まはり 頽れた築地の上に聳える 路ばたの墓地の日まはり 丘の上の洒落た一つ家 そのまた上の女學校の寄宿舍の 庭 …
故郷の花(旧字旧仮名)
読書目安時間:約15分
人はいさこころもしらすふるさとは花そむかしの香ににほひけるつらゆき ——『故郷の花』序に代へて 日暮におそく 時雨うつ窓はや暗きに 何のこころか 半霄に鳶啼く その聲するどく しは …
読書目安時間:約15分
人はいさこころもしらすふるさとは花そむかしの香ににほひけるつらゆき ——『故郷の花』序に代へて 日暮におそく 時雨うつ窓はや暗きに 何のこころか 半霄に鳶啼く その聲するどく しは …
暮春嘆息:――立原道造君を憶ふ――(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
人が詩人として生涯ををはるためには 君のやうに聰明に清純に 純潔に生きなければならなかつた さうして君のやうにまた 早く死ななければ! …
読書目安時間:約1分
人が詩人として生涯ををはるためには 君のやうに聰明に清純に 純潔に生きなければならなかつた さうして君のやうにまた 早く死ななければ! …
万葉集の恋歌に就て(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
課題に従つて以下万葉集の恋歌に就て少し卑見を記してみる。断るまでもなく私は万葉学に就ては全くの門外漢である。古義略解等の主要な註釈書を一読したことすらない。だから実はこのやうな文章 …
読書目安時間:約9分
課題に従つて以下万葉集の恋歌に就て少し卑見を記してみる。断るまでもなく私は万葉学に就ては全くの門外漢である。古義略解等の主要な註釈書を一読したことすらない。だから実はこのやうな文章 …
雪(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
十一月の夜をこめて雪はふる雪はふる 黄色なランプの灯の洩れる私の窗にたづね寄る雪の子供ら 小さな手が玻璃戸を敲く玻璃戸を敲く敲くさうしてそこに 息絶える私は聽く彼らの歌の靜謐靜謐靜 …
読書目安時間:約1分
十一月の夜をこめて雪はふる雪はふる 黄色なランプの灯の洩れる私の窗にたづね寄る雪の子供ら 小さな手が玻璃戸を敲く玻璃戸を敲く敲くさうしてそこに 息絶える私は聽く彼らの歌の靜謐靜謐靜 …
雪夜 一(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
雪はふる雪はふる聲もなくふる雪は私の窗の半ばを埋める 私の胸を波だてたそれらの希望はどこへ行つたか——また今宵 それらの思出もとび去りゆく夜空のかぎり雪はふる雪はふる 雪は思出のや …
読書目安時間:約1分
雪はふる雪はふる聲もなくふる雪は私の窗の半ばを埋める 私の胸を波だてたそれらの希望はどこへ行つたか——また今宵 それらの思出もとび去りゆく夜空のかぎり雪はふる雪はふる 雪は思出のや …
雪夜 二(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
思出思出いつまでも心に住むと誓ひをたてた思出 その思出も年をふれば塵となる煙となるああその かの裏切りの片見なら捉へがたない思出の性も是非ない 行くがいい行くがいい私を殘して歸る日 …
読書目安時間:約1分
思出思出いつまでも心に住むと誓ひをたてた思出 その思出も年をふれば塵となる煙となるああその かの裏切りの片見なら捉へがたない思出の性も是非ない 行くがいい行くがいい私を殘して歸る日 …
雪夜 三(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夜更けて油の盡きた暗いランプ低い焔煤けた笠 既に私の生涯も剩すところはもうわづかああ今しばし ものを思はう今しばし私の仕事に精を出さう やがて睡りの時がくる悲しみもなく私の眠る時が …
読書目安時間:約1分
夜更けて油の盡きた暗いランプ低い焔煤けた笠 既に私の生涯も剩すところはもうわづかああ今しばし ものを思はう今しばし私の仕事に精を出さう やがて睡りの時がくる悲しみもなく私の眠る時が …
世はさながらに(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして業平 かなたなる海にむかひて かしらあげさへづる鳥は こぞの春この木の枝に きて啼きし青鵐のとりか かぐはしきこのくれなゐ …
読書目安時間:約1分
月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして業平 かなたなる海にむかひて かしらあげさへづる鳥は こぞの春この木の枝に きて啼きし青鵐のとりか かぐはしきこのくれなゐ …
駱駝の瘤にまたがつて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約38分
われはうたふ 越路のはての艸の戸に またこの秋の蟲のこゑ 波の音 落日 かくてわれ 秋風に ただ一つ わが身の影を うながすよ 馬おひむしは馬をおふ うたのあはれや ものの端に さ …
読書目安時間:約38分
われはうたふ 越路のはての艸の戸に またこの秋の蟲のこゑ 波の音 落日 かくてわれ 秋風に ただ一つ わが身の影を うながすよ 馬おひむしは馬をおふ うたのあはれや ものの端に さ …
檸檬忌(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
友よ友よ四年も君に會はずにゐる…… さうしてやつと君がこの世を去つたのだとこの頃私は納得した もはや私は悲しみもなく愕きもなく(それが少しもの足りない) 君の手紙を讀みかへす——昔 …
読書目安時間:約1分
友よ友よ四年も君に會はずにゐる…… さうしてやつと君がこの世を去つたのだとこの頃私は納得した もはや私は悲しみもなく愕きもなく(それが少しもの足りない) 君の手紙を讀みかへす——昔 …
わが路ゆかむ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
烏帽子見ゆ四阿猫見ゆ 淺間見ゆ わが路ゆかむ 日の暮るるまで 鎗が嶺に よべ雪ふりぬ 草枕旅寢の夢を めざめて見れば 一の枝二の枝 三の枝にふれ 何の落葉か 地におつる音 いくひら …
読書目安時間:約2分
烏帽子見ゆ四阿猫見ゆ 淺間見ゆ わが路ゆかむ 日の暮るるまで 鎗が嶺に よべ雪ふりぬ 草枕旅寢の夢を めざめて見れば 一の枝二の枝 三の枝にふれ 何の落葉か 地におつる音 いくひら …
鷲(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
鷲が二羽降りようとして舞つてゐる 巖のあらはな巓を私は仰ぎ私はたちどまる その山の肩のあたり林の盡きた笹原に私は籠手を翳し 私は逡巡するさてまづ晝餉をしたためる …
読書目安時間:約1分
鷲が二羽降りようとして舞つてゐる 巖のあらはな巓を私は仰ぎ私はたちどまる その山の肩のあたり林の盡きた笹原に私は籠手を翳し 私は逡巡するさてまづ晝餉をしたためる …
“三好達治”について
三好 達治(みよし たつじ、1900年(明治33年)8月23日 - 1964年(昭和39年)4月5日)は、日本の詩人、翻訳家、文芸評論家。室生犀星や萩原朔太郎など先達詩人からの影響を出立点とし、フランス近代詩と東洋の伝統詩の手法をそれぞれに取り入れ、現代詩における叙情性を知的かつ純粋に表現し独自の世界を開いた。大阪府大阪市出身。日本芸術院会員。
大阪市西区で印刷業を営む家に、10人兄弟の長男として生まれた。幼少期より病弱で、読書に没頭。中学時代、句誌「ホトトギス」を愛読し、句作に没頭した。父の意向で陸軍士官学校に進んだが、軍人には不向きと悟って中退。旧制三高から東大仏文科へ進んだ。三高時代から詩作を始め、梶井基次郎らと知己を得、のちに同人誌「青空」にも参加した。
(出典:Wikipedia)
大阪市西区で印刷業を営む家に、10人兄弟の長男として生まれた。幼少期より病弱で、読書に没頭。中学時代、句誌「ホトトギス」を愛読し、句作に没頭した。父の意向で陸軍士官学校に進んだが、軍人には不向きと悟って中退。旧制三高から東大仏文科へ進んだ。三高時代から詩作を始め、梶井基次郎らと知己を得、のちに同人誌「青空」にも参加した。
(出典:Wikipedia)
“三好達治”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)