宮本百合子
1899.02.13 〜 1951.01.21
“宮本百合子”に特徴的な語句
皇帝
菩提樹
集団農場
富農
生産経済計画
正餐
前
布
同伴者
□
上
私
翔
厭
昨日
肯
彼方
□□□□
棗
賑
復活祭
西
並木道
並木道
爽
市民
白耳義
燦
□□□
黒子
強
故
顫
葡萄
下宿
不味
紅絹
悄気
□□
十月
好
睫毛
哥
留
吻
彼
他人
同志
駛
生
著者としての作品一覧
愛(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
愛ということばは、いつから人間の社会に発生したものでしょう。愛という言葉をもつようになった時期に、人類はともかく一つの飛躍をとげたと思います。なぜなら、人間のほかの生きものは、愛の …
読書目安時間:約2分
愛ということばは、いつから人間の社会に発生したものでしょう。愛という言葉をもつようになった時期に、人類はともかく一つの飛躍をとげたと思います。なぜなら、人間のほかの生きものは、愛の …
「愛怨峡」における映画的表現の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「愛怨峡」では、物語の筋のありふれた運びかたについては云わず、そのありきたりの筋を、溝口健二がどんな風に肉づけし、描いて行ったかを観るべきなのだろう。 私は面白くこの映画を見た。溝 …
読書目安時間:約4分
「愛怨峡」では、物語の筋のありふれた運びかたについては云わず、そのありきたりの筋を、溝口健二がどんな風に肉づけし、描いて行ったかを観るべきなのだろう。 私は面白くこの映画を見た。溝 …
合図の旗(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封 …
読書目安時間:約9分
日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封 …
「愛と死」(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「愛と死」が、読むものの心にあたたかく自然に触れてゆくところをもった作品であることはよくわかる。武者小路実篤氏の独特な文体は、『白樺』へ作品がのりはじめた頃から既に三十年来読者にと …
読書目安時間:約3分
「愛と死」が、読むものの心にあたたかく自然に触れてゆくところをもった作品であることはよくわかる。武者小路実篤氏の独特な文体は、『白樺』へ作品がのりはじめた頃から既に三十年来読者にと …
愛と平和を理想とする人間生活(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
芥川さんでしたか「私達の生活の側に天国をもって来るとしたら、きっと退屈してしまって、死んでしまいたくなるだろう」って云われたように覚えてますが、それは私も同感に思います。ですから理 …
読書目安時間:約3分
芥川さんでしたか「私達の生活の側に天国をもって来るとしたら、きっと退屈してしまって、死んでしまいたくなるだろう」って云われたように覚えてますが、それは私も同感に思います。ですから理 …
愛は神秘な修道場(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
恋愛は、実に熱烈で霊感的な畏ろしいものです。 人間の棲む到る処に恋愛の事件があり、個人の伝記には必ずその人の恋愛問題が含まれてはいますが、人類全般、個人の全生活を通観すると、それら …
読書目安時間:約4分
恋愛は、実に熱烈で霊感的な畏ろしいものです。 人間の棲む到る処に恋愛の事件があり、個人の伝記には必ずその人の恋愛問題が含まれてはいますが、人類全般、個人の全生活を通観すると、それら …
青田は果なし(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
用事があって、岩手県の盛岡と秋田市とへ数日出かけた。帰途は新潟まわりの汽車で上野へついた。 秋田へ行ったのもはじめてであったし、山形から新潟を通ったのもはじめてであった。夏も末に近 …
読書目安時間:約4分
用事があって、岩手県の盛岡と秋田市とへ数日出かけた。帰途は新潟まわりの汽車で上野へついた。 秋田へ行ったのもはじめてであったし、山形から新潟を通ったのもはじめてであった。夏も末に近 …
赤い貨車(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間11分
そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、轍の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。工事のはじ …
読書目安時間:約1時間11分
そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、轍の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。工事のはじ …
明るい海浜(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
陽子が見つけて貰った貸間は、ふき子の家から大通りへ出て、三町ばかり離れていた。どこの海浜にでも、そこが少し有名な場所なら必ずつきものの、船頭の古手が別荘番の傍部屋貸をする、その一つ …
読書目安時間:約16分
陽子が見つけて貰った貸間は、ふき子の家から大通りへ出て、三町ばかり離れていた。どこの海浜にでも、そこが少し有名な場所なら必ずつきものの、船頭の古手が別荘番の傍部屋貸をする、その一つ …
明るい工場(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ソヴェト同盟の南にロストフという都会がある。ドン川という大きい河に沿って、花の沢山咲いた綺麗な街が、新しい労働者住宅やクラブの間にとおっている。私は七月のある朝、ドイツからソヴェト …
読書目安時間:約9分
ソヴェト同盟の南にロストフという都会がある。ドン川という大きい河に沿って、花の沢山咲いた綺麗な街が、新しい労働者住宅やクラブの間にとおっている。私は七月のある朝、ドイツからソヴェト …
秋風(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
秋風が冷や冷やと身にしみる。 手の先の変につめたいのを気にしながら書斎に座り込んで何にも手につかない様な、それで居て何かしなければ気のすまない様な気持で居る。 七月からこっち、体の …
読書目安時間:約5分
秋風が冷や冷やと身にしみる。 手の先の変につめたいのを気にしながら書斎に座り込んで何にも手につかない様な、それで居て何かしなければ気のすまない様な気持で居る。 七月からこっち、体の …
秋霧(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一面、かなり深い秋霧が降りて水を流した様なゆるい傾斜のトタン屋根に星がまたたく。 隣の家の塀内にある桜の並木が、霧と光線の工合で、花時分の通りの美くしい形に見える。 白いサヤサヤと …
読書目安時間:約2分
一面、かなり深い秋霧が降りて水を流した様なゆるい傾斜のトタン屋根に星がまたたく。 隣の家の塀内にある桜の並木が、霧と光線の工合で、花時分の通りの美くしい形に見える。 白いサヤサヤと …
秋毛(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
病みあがりの髪は妙にねばりが強くなって、何ぞと云ってはすぐこんぐらかる。 昨日、気分が悪くてとかさなかったので今日は泣く様な思いをする。 櫛の歯が引っかかる処を少し力を入れて引くと …
読書目安時間:約4分
病みあがりの髪は妙にねばりが強くなって、何ぞと云ってはすぐこんぐらかる。 昨日、気分が悪くてとかさなかったので今日は泣く様な思いをする。 櫛の歯が引っかかる処を少し力を入れて引くと …
秋の反射(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
田舎では何処にでも、一つの村に一人は、馬鹿や村中の厄介で生きている独りものの年寄があるものだ。敷生村では十年ばかり前、善馬鹿という白痴がいた。女子供に面白がられたり可怖がられたりし …
読書目安時間:約9分
田舎では何処にでも、一つの村に一人は、馬鹿や村中の厄介で生きている独りものの年寄があるものだ。敷生村では十年ばかり前、善馬鹿という白痴がいた。女子供に面白がられたり可怖がられたりし …
秋の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
月そそぐいずの夜 揺れ揺れて流れ行く光りの中に 音もなく一人もだし立てば 萌え出でし思いのかいわれ葉 瑞木となりて空に冲る。 乾坤を照し尽す無量光 埴の星さえ輝き初め 我踏む土は尊 …
読書目安時間:約1分
月そそぐいずの夜 揺れ揺れて流れ行く光りの中に 音もなく一人もだし立てば 萌え出でし思いのかいわれ葉 瑞木となりて空に冲る。 乾坤を照し尽す無量光 埴の星さえ輝き初め 我踏む土は尊 …
朝の風(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
そのあたりには、明治時代から赤煉瓦の高塀がとりまわされていて、独特な東京の町の一隅の空気をかたちづくっていた。 本郷というと、お七が火をつけた寺などもあるのだが全体の感じは明るい。 …
読書目安時間:約32分
そのあたりには、明治時代から赤煉瓦の高塀がとりまわされていて、独特な東京の町の一隅の空気をかたちづくっていた。 本郷というと、お七が火をつけた寺などもあるのだが全体の感じは明るい。 …
朝の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一、今年は珍しく豊年の秋ということで、粉ばかりの食卓にも一すじの明るさがあります。 一、けさも又早い時間にお話をすることになりました。が、この時間の放送に何か理屈っぽい、云ってみれ …
読書目安時間:約5分
一、今年は珍しく豊年の秋ということで、粉ばかりの食卓にも一すじの明るさがあります。 一、けさも又早い時間にお話をすることになりました。が、この時間の放送に何か理屈っぽい、云ってみれ …
旭川から:小熊秀雄氏の印象(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
十何年か前、友達が或る婦人団体の機関誌の編輯をしていたことがあった。一種の愛国団体で、その機関誌も至極安心した編集ぶりを伝統としていたのであったが、あるとき、その雑誌に一篇の童話が …
読書目安時間:約3分
十何年か前、友達が或る婦人団体の機関誌の編輯をしていたことがあった。一種の愛国団体で、その機関誌も至極安心した編集ぶりを伝統としていたのであったが、あるとき、その雑誌に一篇の童話が …
葦笛(一幕)(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
人物 精霊三人 シリンクスダイアナ神ニ侍リ美くしい又とない様な精女 ペーンマアキュリの長子林の司 こんもりしげった森の中遠くに小川がリボンの様に見える所。 春の花は一ぱいに咲き満ち …
読書目安時間:約20分
人物 精霊三人 シリンクスダイアナ神ニ侍リ美くしい又とない様な精女 ペーンマアキュリの長子林の司 こんもりしげった森の中遠くに小川がリボンの様に見える所。 春の花は一ぱいに咲き満ち …
明日咲く花(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
文学の歴史をみわたすと、本当に新しい意味で婦人が文学の活動に誘い出されて来たのは、いつも、人民の権利がいくらか多くなって、すべての人が自分の考えや感じを表現してよいのだ、という確信 …
読書目安時間:約2分
文学の歴史をみわたすと、本当に新しい意味で婦人が文学の活動に誘い出されて来たのは、いつも、人民の権利がいくらか多くなって、すべての人が自分の考えや感じを表現してよいのだ、という確信 …
明日の言葉:ルポルタージュの問題(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
日本文学が近い将来に、どのような新たな要素をとりいれて進展してゆくだろうかという問題は、決して単純に答えられないことであると思う。日本の社会がこの先どうなって行くだろうかと訊かれて …
読書目安時間:約9分
日本文学が近い将来に、どのような新たな要素をとりいれて進展してゆくだろうかという問題は、決して単純に答えられないことであると思う。日本の社会がこの先どうなって行くだろうかと訊かれて …
明日の実力の為に(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
どんな時代でも文化について政策が考えられるとき、それが建設的でなければならないということは誰しも云っていると思う。政策という言葉に建設性がこもっているという風な解釈さえあると思う。 …
読書目安時間:約3分
どんな時代でも文化について政策が考えられるとき、それが建設的でなければならないということは誰しも云っていると思う。政策という言葉に建設性がこもっているという風な解釈さえあると思う。 …
明日の知性(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやフ …
読書目安時間:約13分
第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやフ …
明日への新聞(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
新聞というものについての考えかたも、それぞれの時代によって大きい変化を経て来ていると思う。 明治の開化期、日本にはじめて新聞が発刊された時分、それはどんなに新鮮な空気をあたりに息吹 …
読書目安時間:約4分
新聞というものについての考えかたも、それぞれの時代によって大きい変化を経て来ていると思う。 明治の開化期、日本にはじめて新聞が発刊された時分、それはどんなに新鮮な空気をあたりに息吹 …
明日を創る:婦人民主クラブ発起人のことば(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
朝の太陽が、一刻一刻と地平線の上にさしのぼって来るように、日本には人民が自身の幸福建設のために支配者として生活し得る可能がましています。 これまで永い間、重い歴史の蓋をかぶせられて …
読書目安時間:約1分
朝の太陽が、一刻一刻と地平線の上にさしのぼって来るように、日本には人民が自身の幸福建設のために支配者として生活し得る可能がましています。 これまで永い間、重い歴史の蓋をかぶせられて …
明日をつくる力(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
ともかく日本にも民主憲法ができた。明治二十二年にできた旧憲法では、支配する者の権力がどんなに絶対であり、人民はどんなに絶対従順にそれに服従しなければならないかということが眼目として …
読書目安時間:約19分
ともかく日本にも民主憲法ができた。明治二十二年にできた旧憲法では、支配する者の権力がどんなに絶対であり、人民はどんなに絶対従順にそれに服従しなければならないかということが眼目として …
新しいアカデミアを:旧き大学の功罪(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
日本に、言葉の正しい由緒にしたがっての、アカデミア、アカデミズムというものが在るのだろうか。徳川幕府のアカデミアであった林氏の儒学とそのアカデミズムとは、全く幕府の権力に従属した一 …
読書目安時間:約5分
日本に、言葉の正しい由緒にしたがっての、アカデミア、アカデミズムというものが在るのだろうか。徳川幕府のアカデミアであった林氏の儒学とそのアカデミズムとは、全く幕府の権力に従属した一 …
新しいアジアのために:アジア婦人大会によせて(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
いよいよきたる十二月十日から一週間北京でアジア婦人大会がひらかれます。そして日本からもそこに出席するために代表がえらばれました。これは現代の人類の歴史にとって深い深い意味をもつ新事 …
読書目安時間:約5分
いよいよきたる十二月十日から一週間北京でアジア婦人大会がひらかれます。そして日本からもそこに出席するために代表がえらばれました。これは現代の人類の歴史にとって深い深い意味をもつ新事 …
新しい一夫一婦(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
私たちが、恋愛とか結婚とかの問題について話す場合、特別その上に新しいという形容詞をつけて持ち出す場合、それは多かれ少かれ、従来理解され、また経験されて来た恋愛や結婚より何かの意味で …
読書目安時間:約12分
私たちが、恋愛とか結婚とかの問題について話す場合、特別その上に新しいという形容詞をつけて持ち出す場合、それは多かれ少かれ、従来理解され、また経験されて来た恋愛や結婚より何かの意味で …
新しい潮(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
このたびのアメリカ大統領選挙は、まったく世界の広場のまんなかで、世界じゅうの注目をあつめて、たたかわれた。どこの国でも日本のように共和党の候補者デューイの当選が確実だと、あれほど宣 …
読書目安時間:約14分
このたびのアメリカ大統領選挙は、まったく世界の広場のまんなかで、世界じゅうの注目をあつめて、たたかわれた。どこの国でも日本のように共和党の候補者デューイの当選が確実だと、あれほど宣 …
新しい躾(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この半年ばかりのうちに、私たちの生活におこった変化は、日本のこれまでのいつの歴史にもその例がないほど、激しいものです。日本は今、非常な困難とたたかいながら、一日も早く民主の国となり …
読書目安時間:約7分
この半年ばかりのうちに、私たちの生活におこった変化は、日本のこれまでのいつの歴史にもその例がないほど、激しいものです。日本は今、非常な困難とたたかいながら、一日も早く民主の国となり …
新しい卒業生の皆さんへ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
きょう、この会に出席して、みなさまにお目にかかれないのを、ほんとうに残念に思います。去年の秋、過労して健康をわるくしてから、おはなしができないで、ずいぶんあちこちの学校からの御希望 …
読書目安時間:約11分
きょう、この会に出席して、みなさまにお目にかかれないのを、ほんとうに残念に思います。去年の秋、過労して健康をわるくしてから、おはなしができないで、ずいぶんあちこちの学校からの御希望 …
新しい抵抗について(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
一今日のファシズムのありかた この八月十五日には、四回目のポツダム宣言受諾の記念日がめぐってくるわけです。その記念日にあたって、わたしたちが力をつくして闘い、抵抗しなければならない …
読書目安時間:約31分
一今日のファシズムのありかた この八月十五日には、四回目のポツダム宣言受諾の記念日がめぐってくるわけです。その記念日にあたって、わたしたちが力をつくして闘い、抵抗しなければならない …
新しい美をつくる心(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この頃いったいに女のひとの身なりが地味になって来たということは、往来を歩いてみてもわかる。 ひところは本当にひどくて、女の独断がそのまま色彩のとりあわせや帽子の形やにあらわれている …
読書目安時間:約4分
この頃いったいに女のひとの身なりが地味になって来たということは、往来を歩いてみてもわかる。 ひところは本当にひどくて、女の独断がそのまま色彩のとりあわせや帽子の形やにあらわれている …
新しい婦人の職場と任務:明日の婦人へ(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
このかいわいは昼も夜もわりあいに静かなところである。北窓から眺めると欅の大木が一群れ秋空に色づきかかっていて、おりおり郊外電車の音がそっちの方から聞えてくる。鉄道線路も近いので、ボ …
読書目安時間:約16分
このかいわいは昼も夜もわりあいに静かなところである。北窓から眺めると欅の大木が一群れ秋空に色づきかかっていて、おりおり郊外電車の音がそっちの方から聞えてくる。鉄道線路も近いので、ボ …
新しい船出:女らしさの昨日、今日、明日(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
女らしさというものについて女自身はどう感じてどんなに扱っているのだろうか。これはなかなか微妙で面白いことだし、また女らしさというような表現が日常生活の感情の中に何か一つの範疇のよう …
読書目安時間:約18分
女らしさというものについて女自身はどう感じてどんなに扱っているのだろうか。これはなかなか微妙で面白いことだし、また女らしさというような表現が日常生活の感情の中に何か一つの範疇のよう …
新しい文学の誕生:若い人に贈る(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
文学に心をひかれる人は、いつも、自分がかきはじめるより先にかならず読みはじめている。しかも、わたしたちがはじめて読んだ小説や、詩はどんな工合にして手にふれたかと云えば、それは十中八 …
読書目安時間:約13分
文学に心をひかれる人は、いつも、自分がかきはじめるより先にかならず読みはじめている。しかも、わたしたちがはじめて読んだ小説や、詩はどんな工合にして手にふれたかと云えば、それは十中八 …
新しきシベリアを横切る(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
十月二十五日。(一九三〇年) いよいよモスクワ出立、出立、出発! 朝郵便局へお百度を踏んだ。あまり度々書留小包の窓口へ、見まがうかたなき日本の顔を差し出すので、黄色いボヤボヤの髪を …
読書目安時間:約25分
十月二十五日。(一九三〇年) いよいよモスクワ出立、出立、出発! 朝郵便局へお百度を踏んだ。あまり度々書留小包の窓口へ、見まがうかたなき日本の顔を差し出すので、黄色いボヤボヤの髪を …
新しき大地(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
大地は大変旧いものだ。けれども同時に刻々生成をやすめない恒に新鮮なものでもある。 私たちの生活に、社会について自然についていろいろと科学的な成果がゆたかに齎らされるにつれて、旧き大 …
読書目安時間:約2分
大地は大変旧いものだ。けれども同時に刻々生成をやすめない恒に新鮮なものでもある。 私たちの生活に、社会について自然についていろいろと科学的な成果がゆたかに齎らされるにつれて、旧き大 …
「あたりまえ」の一人の主婦(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
櫛田フキさんの特徴は、フキさんが「あたりまえ」の一人の主婦、母、おばあちゃんであり、同時に活溌に婦人民主クラブの公共的な活動をしているという点です。彼女は重荷の全部を知っています。 …
読書目安時間:約1分
櫛田フキさんの特徴は、フキさんが「あたりまえ」の一人の主婦、母、おばあちゃんであり、同時に活溌に婦人民主クラブの公共的な活動をしているという点です。彼女は重荷の全部を知っています。 …
熱き茶色(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
もし私が肖像画家であったら、徳田球一氏を描くときどの点に一番苦心するだろうかと思う。例えば、徳田さんの眼は、独特である。南方風な瞼のきれ工合に特徴があるばかりでなく、その眼の動き、 …
読書目安時間:約2分
もし私が肖像画家であったら、徳田球一氏を描くときどの点に一番苦心するだろうかと思う。例えば、徳田さんの眼は、独特である。南方風な瞼のきれ工合に特徴があるばかりでなく、その眼の動き、 …
あとがき(『朝の風』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この短篇集は私にとってもすこし風変りな集となった。一番はじめの「朝の風」は極く最近のものだけれど、次の「牡丹」以下の作品はずっと昭和の初めごろまでさかのぼっていて「小祝の一家」に到 …
読書目安時間:約1分
この短篇集は私にとってもすこし風変りな集となった。一番はじめの「朝の風」は極く最近のものだけれど、次の「牡丹」以下の作品はずっと昭和の初めごろまでさかのぼっていて「小祝の一家」に到 …
あとがき(『明日への精神』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
今日の私たちの生活にとって、明日というものは、世界の歴史のなかで考え得る最も複雑な内容で予想されるものとなって来ている。きょうからあしたへのうつりが、ただ夜から朝へのうつりかわりだ …
読書目安時間:約1分
今日の私たちの生活にとって、明日というものは、世界の歴史のなかで考え得る最も複雑な内容で予想されるものとなって来ている。きょうからあしたへのうつりが、ただ夜から朝へのうつりかわりだ …
あとがき(『幸福について』)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私たち日本の女性が今日めいめいの生活にもっている理想と現実とは非常に複雑な形で互に矛盾しからみあっている。しかもその矛盾や葛藤の間から、私たちの二度とくりかえすことのない人生の一日 …
読書目安時間:約3分
私たち日本の女性が今日めいめいの生活にもっている理想と現実とは非常に複雑な形で互に矛盾しからみあっている。しかもその矛盾や葛藤の間から、私たちの二度とくりかえすことのない人生の一日 …
あとがき(『作家と作品』)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
わたしたちが文学を愛するこころもちの最も純粋な情熱は、いつも、その作品をよみ、それを書いた作家に心をひかれる人々自身の、いかに生きるか、の課題に関連している。過去の文学作品、また今 …
読書目安時間:約2分
わたしたちが文学を愛するこころもちの最も純粋な情熱は、いつも、その作品をよみ、それを書いた作家に心をひかれる人々自身の、いかに生きるか、の課題に関連している。過去の文学作品、また今 …
あとがき(『伸子』)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「伸子」は一九二四年から一九二六年の間に書かれた。そのころの日本にはもう初期の無産階級運動がおこっていたし、無産階級文学の運動もおこっていた。けれども作者は直接そういう波にふれる機 …
読書目安時間:約2分
「伸子」は一九二四年から一九二六年の間に書かれた。そのころの日本にはもう初期の無産階級運動がおこっていたし、無産階級文学の運動もおこっていた。けれども作者は直接そういう波にふれる機 …
あとがき(『伸子』第一部)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「伸子」は、一九二四年頃から三年ほどかかって書かれた。丁度、第一次ヨーロッパ大戦が終った時から、その後の数年間に亙る時期に、日本の一人の若い女性が、人及び女として、ひたすら成長した …
読書目安時間:約2分
「伸子」は、一九二四年頃から三年ほどかかって書かれた。丁度、第一次ヨーロッパ大戦が終った時から、その後の数年間に亙る時期に、日本の一人の若い女性が、人及び女として、ひたすら成長した …
あとがき(『二つの庭』)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「伸子」の続篇をかきたい希望は、久しい間作者の心のうちにたくわえられていた。 一九三〇年の暮にモスクヷから帰って、三一年のはじめプロレタリア文学運動に参加した当時の作者の心理は、自 …
読書目安時間:約4分
「伸子」の続篇をかきたい希望は、久しい間作者の心のうちにたくわえられていた。 一九三〇年の暮にモスクヷから帰って、三一年のはじめプロレタリア文学運動に参加した当時の作者の心理は、自 …
あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳のときに書かれた。そして、その年の秋中央公論に発表された。 「貧しき人々の群」は、稚いけれども純朴な人道的なこころもちと、自然の豊富さ、人間生 …
読書目安時間:約5分
「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳のときに書かれた。そして、その年の秋中央公論に発表された。 「貧しき人々の群」は、稚いけれども純朴な人道的なこころもちと、自然の豊富さ、人間生 …
あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
選集第八巻、第九巻に、ソヴェト見学時代のいろいろな報告をあつめることができたのは、思いもかけなかったよろこびである。 一九二七年の冬から一九三〇年の十一月まで、まる二年七ヵ月ほど作 …
読書目安時間:約10分
選集第八巻、第九巻に、ソヴェト見学時代のいろいろな報告をあつめることができたのは、思いもかけなかったよろこびである。 一九二七年の冬から一九三〇年の十一月まで、まる二年七ヵ月ほど作 …
あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この集には、一九三七年、三九年、四〇年の間にかいた十篇の小説と亡くなった父母について記念のための随筆二篇が収められている。 一九三七年と云えば、中国への侵略戦争を拡大しながら日本の …
読書目安時間:約7分
この集には、一九三七年、三九年、四〇年の間にかいた十篇の小説と亡くなった父母について記念のための随筆二篇が収められている。 一九三七年と云えば、中国への侵略戦争を拡大しながら日本の …
あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「美しき月夜」は一九一九年の夏アメリカのレーク・ジョウジという湖畔に暮したころに書かれた。この作品は、われわれの人生に災難という形であらわれる偶然の力につよく印象づけられたことがあ …
読書目安時間:約4分
「美しき月夜」は一九一九年の夏アメリカのレーク・ジョウジという湖畔に暮したころに書かれた。この作品は、われわれの人生に災難という形であらわれる偶然の力につよく印象づけられたことがあ …
あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
一九三〇年の暮にソヴェト同盟から帰って来て、翌年「ナップ」へ参加するまで、わたしは評論、紹介めいたものを書いたことがなかった。また、人の前に立って、文学についてそのほかの話をしたと …
読書目安時間:約18分
一九三〇年の暮にソヴェト同盟から帰って来て、翌年「ナップ」へ参加するまで、わたしは評論、紹介めいたものを書いたことがなかった。また、人の前に立って、文学についてそのほかの話をしたと …
あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この集には「冬を越す蕾」につづいて一九三七年(昭和十二年)から一九四一年(昭和十六年)のはじめまでに執筆された文芸評論があつめられている。しかし、このまる三年間には、一ヵ年と四五ヵ …
読書目安時間:約12分
この集には「冬を越す蕾」につづいて一九三七年(昭和十二年)から一九四一年(昭和十六年)のはじめまでに執筆された文芸評論があつめられている。しかし、このまる三年間には、一ヵ年と四五ヵ …
あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ここには、一九三二年の一月の創刊で、日本プロレタリア文化連盟から出版されていた『働く婦人』に書いた短いものからはじまって、一九四一年(太平洋戦争のはじまった年)の一月執筆禁止をうけ …
読書目安時間:約7分
ここには、一九三二年の一月の創刊で、日本プロレタリア文化連盟から出版されていた『働く婦人』に書いた短いものからはじまって、一九四一年(太平洋戦争のはじまった年)の一月執筆禁止をうけ …
あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
暗くしめっぽい一つの穴ぐらがある。その穴ぐらの底に一つの丸い樽がころがされてあった。その樽は何年もの間、人目から遮断されたその暗がりにころがされていて、いそがしく右往左往する人々は …
読書目安時間:約3分
暗くしめっぽい一つの穴ぐらがある。その穴ぐらの底に一つの丸い樽がころがされてあった。その樽は何年もの間、人目から遮断されたその暗がりにころがされていて、いそがしく右往左往する人々は …
あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「古き小画」の新聞切抜きが見つかって、この集に入れられたのは思いがけないことだった。この、ペルシャの伝説から取材した小説は一九二三年の夏じゅうかかって執筆され、書き上ってから北海道 …
読書目安時間:約8分
「古き小画」の新聞切抜きが見つかって、この集に入れられたのは思いがけないことだった。この、ペルシャの伝説から取材した小説は一九二三年の夏じゅうかかって執筆され、書き上ってから北海道 …
あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この第二巻には、わたしとしてほんとうに思いがけない作品がおさめられた。それは二百枚ばかりの小説「古き小画」が見つかったことである。 一九二二年の春のころ、わたしは青山の石屋の横丁を …
読書目安時間:約5分
この第二巻には、わたしとしてほんとうに思いがけない作品がおさめられた。それは二百枚ばかりの小説「古き小画」が見つかったことである。 一九二二年の春のころ、わたしは青山の石屋の横丁を …
あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この第八巻には、主としてソヴェト生活の見聞記があつめられている。モスクワ印象記は、わたしがモスクワで暮すようになって半年ばかりたった一九二八年五月ごろ、書き終えられた。これを書いた …
読書目安時間:約8分
この第八巻には、主としてソヴェト生活の見聞記があつめられている。モスクワ印象記は、わたしがモスクワで暮すようになって半年ばかりたった一九二八年五月ごろ、書き終えられた。これを書いた …
あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この一冊におさめられた八篇の小説は、それぞれに書かれた時期もちがい、それぞれにちがった時期の歴史をももっている。 「一本の花」は一九二七年の秋ごろ発表された。長篇「伸子」を書き終り …
読書目安時間:約5分
この一冊におさめられた八篇の小説は、それぞれに書かれた時期もちがい、それぞれにちがった時期の歴史をももっている。 「一本の花」は一九二七年の秋ごろ発表された。長篇「伸子」を書き終り …
あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「伸子」は一九二四年より一九二六年の間に執筆され、六七十枚から百枚ぐらいずつに章をくぎって、それぞれの題のもとに二三ヵ月おきに雑誌『改造』に発表された。たとえば、第一の部分「揺れる …
読書目安時間:約9分
「伸子」は一九二四年より一九二六年の間に執筆され、六七十枚から百枚ぐらいずつに章をくぎって、それぞれの題のもとに二三ヵ月おきに雑誌『改造』に発表された。たとえば、第一の部分「揺れる …
あとがき(『モスクワ印象記』)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
わたしがソヴェト同盟に暮したのは、もう二十年も前のことになる。一九二七年の暮から三〇年十一月までのことであったが、三一年から三二年までわたしはずいぶん沢山のソヴェト社会の日常生活や …
読書目安時間:約3分
わたしがソヴェト同盟に暮したのは、もう二十年も前のことになる。一九二七年の暮から三〇年十一月までのことであったが、三一年から三二年までわたしはずいぶん沢山のソヴェト社会の日常生活や …
兄と弟(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
魯迅伝から 小田嶽夫氏の「魯迅伝」を少しずつ読んでいる。いろいろと面白い。兄である魯迅と弟である周作人との間にある悲劇は、決して一朝一夕のものではないことを感じた。 魯迅は十三の年 …
読書目安時間:約2分
魯迅伝から 小田嶽夫氏の「魯迅伝」を少しずつ読んでいる。いろいろと面白い。兄である魯迅と弟である周作人との間にある悲劇は、決して一朝一夕のものではないことを感じた。 魯迅は十三の年 …
雨が降って居る(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
細い雨足で雨が降って居る。 薄暗い書斎の机の前にいつもの様に座って、私は先ぐ目の前にある楓の何とも云えず美くしい姿を見とれて居る。 実に美くしい。 非常に肉の薄い細く分れた若葉の集 …
読書目安時間:約2分
細い雨足で雨が降って居る。 薄暗い書斎の机の前にいつもの様に座って、私は先ぐ目の前にある楓の何とも云えず美くしい姿を見とれて居る。 実に美くしい。 非常に肉の薄い細く分れた若葉の集 …
雨と子供(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ぼんやり薄曇っていた庭の風景が、雲の工合で俄に立体的になった。近くの暗い要垣、やや遠いポプラー、その奥の竹。遠近をもって物象の塊が感じられ、目新しい絵画的な景色になった。ポプラーの …
読書目安時間:約7分
ぼんやり薄曇っていた庭の風景が、雲の工合で俄に立体的になった。近くの暗い要垣、やや遠いポプラー、その奥の竹。遠近をもって物象の塊が感じられ、目新しい絵画的な景色になった。ポプラーの …
雨の小やみ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
六月某日。 芸術院に谷崎潤一郎が入るようになったとか、ことわったとかいう記事が出ている。それを読むと、谷崎潤一郎がつむじを曲げているのは、芸術院そのものの性質が気にそまなくて冠を曲 …
読書目安時間:約2分
六月某日。 芸術院に谷崎潤一郎が入るようになったとか、ことわったとかいう記事が出ている。それを読むと、谷崎潤一郎がつむじを曲げているのは、芸術院そのものの性質が気にそまなくて冠を曲 …
雨の日(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ねばねばした水気の多い風と、横ざまに降る居ぎたない雨がちゃんぽんに、荒れ廻って居る。 はてからはてまで、灰色な雲の閉じた空の下で、散りかかったダリアだの色のさめた紫陽花が、ざわざわ …
読書目安時間:約1分
ねばねばした水気の多い風と、横ざまに降る居ぎたない雨がちゃんぽんに、荒れ廻って居る。 はてからはてまで、灰色な雲の閉じた空の下で、散りかかったダリアだの色のさめた紫陽花が、ざわざわ …
雨の昼(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
雨の往来から、くらい内部へ入って行ったら正面の銀幕に、一つ大きいシャンデリアが映し出されていた。そのシャンデリアの重く光る切子硝子の房の間へ、婚礼の白いヴェイルを裾長くひいた女の後 …
読書目安時間:約9分
雨の往来から、くらい内部へ入って行ったら正面の銀幕に、一つ大きいシャンデリアが映し出されていた。そのシャンデリアの重く光る切子硝子の房の間へ、婚礼の白いヴェイルを裾長くひいた女の後 …
アメリカ我観(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
アメリカというところがなかなか興味ありそうに思われます。しかし私としては非常に、わずかのことしか知っていませんので、至極ぼんやりと、一九二九年以後アメリカの繁栄が蒙った変化につれて …
読書目安時間:約1分
アメリカというところがなかなか興味ありそうに思われます。しかし私としては非常に、わずかのことしか知っていませんので、至極ぼんやりと、一九二九年以後アメリカの繁栄が蒙った変化につれて …
アメリカ文化の問題:パール・バックの答に寄せて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
パール・バック女史の問題のつかみ方は、さすがに作家らしくて、わたしにも皆さんにも同感されたのだと思います。パール・バックはアメリカの今日の文明をちょうど子供が新しいすばらしい玩具の …
読書目安時間:約3分
パール・バック女史の問題のつかみ方は、さすがに作家らしくて、わたしにも皆さんにも同感されたのだと思います。パール・バックはアメリカの今日の文明をちょうど子供が新しいすばらしい玩具の …
アメリカ文士気質(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私がアメリカにおりましたのは僅か一年半ばかしのことで、別にたいした感想もありません。が、向うへ行く前までは家庭にばかりいて、本当の世間というものを直接に余り見たことのない私には、そ …
読書目安時間:約4分
私がアメリカにおりましたのは僅か一年半ばかしのことで、別にたいした感想もありません。が、向うへ行く前までは家庭にばかりいて、本当の世間というものを直接に余り見たことのない私には、そ …
新たなプロレタリア文学:アレゴリーと諷刺(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
さきごろ中野重治が二つの短いアレゴリーを『改造』へ書いた。 自分はよんでいないけれども、彼は先に「根」という、やっぱりアレゴリーの成功した作品を書いたそうだ。 というと、つまり、『 …
読書目安時間:約11分
さきごろ中野重治が二つの短いアレゴリーを『改造』へ書いた。 自分はよんでいないけれども、彼は先に「根」という、やっぱりアレゴリーの成功した作品を書いたそうだ。 というと、つまり、『 …
あられ笹(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
宗達 宗達の絵の趣などは、知っている人には知られすぎていることだろうが、私はつい先頃源氏物語図屏風というものの絵はがきに縮写されているのを見て、美しさに深いよろこびを感じた。 宗達 …
読書目安時間:約8分
宗達 宗達の絵の趣などは、知っている人には知られすぎていることだろうが、私はつい先頃源氏物語図屏風というものの絵はがきに縮写されているのを見て、美しさに深いよろこびを感じた。 宗達 …
ありがとうございます(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
バスの婦人車掌は、後から後からと降りる客に向って、いちいち「ありがとうございます」「ありがとうございます」と云っています。あれは関西の方からもって来られた風だそうですが、混雑の朝夕 …
読書目安時間:約1分
バスの婦人車掌は、後から後からと降りる客に向って、いちいち「ありがとうございます」「ありがとうございます」と云っています。あれは関西の方からもって来られた風だそうですが、混雑の朝夕 …
有島さんの死について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
有島さんの死は余りに私にとっては大きな事柄なので、この場合それに対して批判するというような気持になっていません。ただそれによって私が強い衝撃を受けた、その気持に就いてだけお話しした …
読書目安時間:約2分
有島さんの死は余りに私にとっては大きな事柄なので、この場合それに対して批判するというような気持になっていません。ただそれによって私が強い衝撃を受けた、その気持に就いてだけお話しした …
有島氏の死を知って(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、実に心を打れた驚き、同時に畏ろしい厳粛な心持。人生の深みを、はっと見た心。 二、私は、世の中に起ったああ云うことに対しての所謂世間の批評を、そう一々注意して居りません。 〔一九 …
読書目安時間:約1分
一、実に心を打れた驚き、同時に畏ろしい厳粛な心持。人生の深みを、はっと見た心。 二、私は、世の中に起ったああ云うことに対しての所謂世間の批評を、そう一々注意して居りません。 〔一九 …
有島武郎の死によせて(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
七月八日、朝刊によって、有島武郎氏が婦人公論の波多野秋子夫人と情死されたことを知った。実に心を打たれ、その夜は殆ど眠れなかった。 翌朝、下六番町の邸に告別式に列し、焼香も終って、じ …
読書目安時間:約7分
七月八日、朝刊によって、有島武郎氏が婦人公論の波多野秋子夫人と情死されたことを知った。実に心を打たれ、その夜は殆ど眠れなかった。 翌朝、下六番町の邸に告別式に列し、焼香も終って、じ …
「或る女」についてのノート(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
有島武郎の作品の中でも最も長い「或る女」は既に知られている通り、始めは一九一一年、作者が三十四歳で札幌の独立教会から脱退し、従来の交遊関係からさまざまの眼をもって生活を批判された年 …
読書目安時間:約13分
有島武郎の作品の中でも最も長い「或る女」は既に知られている通り、始めは一九一一年、作者が三十四歳で札幌の独立教会から脱退し、従来の交遊関係からさまざまの眼をもって生活を批判された年 …
ある回想から(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
日本には、治安維持法という題の小説があってよい。そう思われるくらい、日本の精神はこの人間らしくない法律のために惨苦にさらされた。 先日、偶然のことから古い新聞の綴こみを見ていた。そ …
読書目安時間:約14分
日本には、治安維持法という題の小説があってよい。そう思われるくらい、日本の精神はこの人間らしくない法律のために惨苦にさらされた。 先日、偶然のことから古い新聞の綴こみを見ていた。そ …
或る画家の祝宴(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
何心なく場内を眺めているうちに、不思議なことに注意をひかれた。その夜は、明治、大正、昭和と経て還暦になった或る洋画家のために開かれた祝賀の会なのであった。この燈火の煌いた華やかな宴 …
読書目安時間:約2分
何心なく場内を眺めているうちに、不思議なことに注意をひかれた。その夜は、明治、大正、昭和と経て還暦になった或る洋画家のために開かれた祝賀の会なのであった。この燈火の煌いた華やかな宴 …
或る心持よい夕方(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
或る心持のよい夕方、日比谷公園の樹の繁みの間で、若葉楓の梢を眺めていたら、どこからともなくラジオの声が流れて来た。職業紹介であった。 ずっと歩いて行って見たら、空地に向った高いとこ …
読書目安時間:約1分
或る心持のよい夕方、日比谷公園の樹の繁みの間で、若葉楓の梢を眺めていたら、どこからともなくラジオの声が流れて来た。職業紹介であった。 ずっと歩いて行って見たら、空地に向った高いとこ …
或日(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
奇妙な夢を見た。女学校の裁縫の教室と思われる広い部屋で、自分は多勢の友達と一緒にがやがやし乍ら、何か縫って居る。先生は、実際の女学校生活の間、所謂虫がすかなかったのだろう、何かとな …
読書目安時間:約6分
奇妙な夢を見た。女学校の裁縫の教室と思われる広い部屋で、自分は多勢の友達と一緒にがやがやし乍ら、何か縫って居る。先生は、実際の女学校生活の間、所謂虫がすかなかったのだろう、何かとな …
或る日(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
降誕祭の朝、彼は癇癪を起した。そして、家事の手伝に来ていた婆を帰して仕舞った。 彼は前週の水曜日から、病気であった。ひどい重患ではなかった。床を出て自由に歩き廻る訳には行かないが、 …
読書目安時間:約21分
降誕祭の朝、彼は癇癪を起した。そして、家事の手伝に来ていた婆を帰して仕舞った。 彼は前週の水曜日から、病気であった。ひどい重患ではなかった。床を出て自由に歩き廻る訳には行かないが、 …
アワァビット(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
我々の、未だ完全に世界化されない生活感情では、兎角外国で起った事は、まるで異った遊星に生じた現象ででもあるかのような、間接さを以て、一般に迎えられる。理論は、既に、或る程度まで宇宙 …
読書目安時間:約3分
我々の、未だ完全に世界化されない生活感情では、兎角外国で起った事は、まるで異った遊星に生じた現象ででもあるかのような、間接さを以て、一般に迎えられる。理論は、既に、或る程度まで宇宙 …
杏の若葉(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「おや、時計がとまっているでないか」 母親の声に、ぬいは頭をあげ、古い柱時計を見上げた。 「ほんによ」 「いつッから動かねえかったんだか——仕様ないな、ぬい、若えくせにさ、お前」 …
読書目安時間:約6分
「おや、時計がとまっているでないか」 母親の声に、ぬいは頭をあげ、古い柱時計を見上げた。 「ほんによ」 「いつッから動かねえかったんだか——仕様ないな、ぬい、若えくせにさ、お前」 …
アンネット(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
好きな物語の好きな女主人公は一人ならずあるが、今興味をもっているのは、ロマン・ローランの長篇小説 The Soul Enchanted(魅せられた魂)の女主人公アンネットです。この …
読書目安時間:約5分
好きな物語の好きな女主人公は一人ならずあるが、今興味をもっているのは、ロマン・ローランの長篇小説 The Soul Enchanted(魅せられた魂)の女主人公アンネットです。この …
いい家庭の又の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
光ちゃんのお父さん小野宮吉さんは、お亡りになったから、この写真にうつることは出来ません。けれども、鑑子さんは母として音楽家として生活と芸術とのために実に勤勉に一心に毎日を暮し、光ち …
読書目安時間:約1分
光ちゃんのお父さん小野宮吉さんは、お亡りになったから、この写真にうつることは出来ません。けれども、鑑子さんは母として音楽家として生活と芸術とのために実に勤勉に一心に毎日を暮し、光ち …
「委員会」のうつりかわり(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
一九四五年の八月十五日からのち、日本の民主化がいわれるようになってから、いくつかの民主化のための委員会がつくられた。文化関係で、ラジオの民主化のための放送委員会、軍国主義の出版統制 …
読書目安時間:約3分
一九四五年の八月十五日からのち、日本の民主化がいわれるようになってから、いくつかの民主化のための委員会がつくられた。文化関係で、ラジオの民主化のための放送委員会、軍国主義の出版統制 …
生きつつある自意識(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ロジェ・マルタン・デュガールの長篇小説「チボー家の人々」は太平洋戦争がはじまる前に、その第七巻までが訳された。山内義雄氏の翻訳で、どっさりの人に愛読されていたものであったが、ドイツ …
読書目安時間:約9分
ロジェ・マルタン・デュガールの長篇小説「チボー家の人々」は太平洋戦争がはじまる前に、その第七巻までが訳された。山内義雄氏の翻訳で、どっさりの人に愛読されていたものであったが、ドイツ …
生きている古典(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
マルクス=エンゲルス全集というと、赤茶色クロース表紙の書籍が、私たちの目にある。この本のために、これまでの日本の読者は、どんなに愛情を経験し、また苦労をなめてきただろう。階級のある …
読書目安時間:約3分
マルクス=エンゲルス全集というと、赤茶色クロース表紙の書籍が、私たちの目にある。この本のために、これまでの日本の読者は、どんなに愛情を経験し、また苦労をなめてきただろう。階級のある …
生きてゆく姿の感銘(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この小説の最後の一行を読み終って、さてと心にのこされたものをさぐって見ると、それは作者がカソリック精神で表現している「死の意味」への納得ではなくて、死というものをもこれだけに追究し …
読書目安時間:約1分
この小説の最後の一行を読み終って、さてと心にのこされたものをさぐって見ると、それは作者がカソリック精神で表現している「死の意味」への納得ではなくて、死というものをもこれだけに追究し …
生きるための協力者:その人々の人生にあるもの(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
だいぶ古いことですが、イギリスの『タイムズ』という一流新聞の文芸附録に『乞食から国王まで』という本の紹介がのっていました。著者は四〇歳を越した一人の看護婦でした。二〇年余の看護婦と …
読書目安時間:約5分
だいぶ古いことですが、イギリスの『タイムズ』という一流新聞の文芸附録に『乞食から国王まで』という本の紹介がのっていました。著者は四〇歳を越した一人の看護婦でした。二〇年余の看護婦と …
生きるための恋愛(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
こういう質問が出ることはわたしたちに深く考えさせるものがあります。ブルジョア雑誌は毎号かかさないように新しい時代の幸福とか恋愛とか結婚の問題をとりあげて沢山のページをさいています。 …
読書目安時間:約3分
こういう質問が出ることはわたしたちに深く考えさせるものがあります。ブルジョア雑誌は毎号かかさないように新しい時代の幸福とか恋愛とか結婚の問題をとりあげて沢山のページをさいています。 …
行く可き処に行き着いたのです(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私はあのお話をきいた時、すぐに、到頭ゆくところまで行きついたかと思いました。私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、た …
読書目安時間:約2分
私はあのお話をきいた時、すぐに、到頭ゆくところまで行きついたかと思いました。私はあの方と直接の交際をしたことはなく歌や人の話で、あの方の複雑な家庭の事情を想像していただけですが、た …
石を投ぐるもの(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわ …
読書目安時間:約9分
去る十二月十九日午後一時半から二時の間に、品川に住む二十六歳の母親が、二つの男の子の手をひき、生れて一ヵ月たったばかりの赤ちゃんをおんぶして、山の手電車にのった。その時刻にもかかわ …
泉山問題について(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
第一私どもの目からみると議会内の大蔵委員会という重要な新給与予算の委員会席上で、あんなに酔うほど酒がでるということがそもそもひどいことだと思います。なにもうちでのめない連中ではなし …
読書目安時間:約3分
第一私どもの目からみると議会内の大蔵委員会という重要な新給与予算の委員会席上で、あんなに酔うほど酒がでるということがそもそもひどいことだと思います。なにもうちでのめない連中ではなし …
異性の間の友情(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
先頃、友情というものについてある人の書かれた文章があった。その中にニイチェの言葉が引用されている。「婦人には余りにも永い間暴君と奴隷とがかくされていた。婦人に友情を営む能力のない所 …
読書目安時間:約14分
先頃、友情というものについてある人の書かれた文章があった。その中にニイチェの言葉が引用されている。「婦人には余りにも永い間暴君と奴隷とがかくされていた。婦人に友情を営む能力のない所 …
異性の何処に魅せられるか(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
斯ういう感情上のことは、各人各様であって、「男子は」「婦人は」と概括的に考えると、至極平凡なつまらないものになってしまいます。此世の何より、金持がいい人もあろう。美貌の異性がよい人 …
読書目安時間:約1分
斯ういう感情上のことは、各人各様であって、「男子は」「婦人は」と概括的に考えると、至極平凡なつまらないものになってしまいます。此世の何より、金持がいい人もあろう。美貌の異性がよい人 …
異性の友情(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
異性との間の友情の可能やその美しさなどについてより多くさまざまに思い描くのが常に女性であるということについて、私たちはどう考えたらいいのだろうか。 十五六歳のういういしい情感の上に …
読書目安時間:約9分
異性との間の友情の可能やその美しさなどについてより多くさまざまに思い描くのが常に女性であるということについて、私たちはどう考えたらいいのだろうか。 十五六歳のういういしい情感の上に …
伊太利亜の古陶(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
晩餐が終り、程よい時が経つと当夜の主人である高畠子爵は、 「どれ——」 と云いながら客夫妻、夫人を見廻し徐ろに椅子をずらした。 「書斎へでもおいで願いますかな」 「どうぞ……」 卓 …
読書目安時間:約32分
晩餐が終り、程よい時が経つと当夜の主人である高畠子爵は、 「どれ——」 と云いながら客夫妻、夫人を見廻し徐ろに椅子をずらした。 「書斎へでもおいで願いますかな」 「どうぞ……」 卓 …
イタリー芸術に在る一つの問題:所謂「脱出」への疑問(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である …
読書目安時間:約7分
先達て「リビヤ白騎隊」というイタリー映画の試写を観る機会を得た。原作はフランスのジョセフ・ペイレのゴンクール受賞作品だそうで、ファッショ紀元十五年度のムッソリーニ賞杯獲得映画である …
一隅(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
洋傘だけを置いて荷物を見にプラットフォームへ出ていた間に、児供づれの女が前の座席へ来た。反対の側へ移って、包みを網棚にのせ、空気枕を膨らましていると、 「ああ、ああ、いそいじゃった …
読書目安時間:約5分
洋傘だけを置いて荷物を見にプラットフォームへ出ていた間に、児供づれの女が前の座席へ来た。反対の側へ移って、包みを網棚にのせ、空気枕を膨らましていると、 「ああ、ああ、いそいじゃった …
一日(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
降りたくても降れないと云う様な空模様で、蒸す事甚い。 今朝も早くから隣の家でピアノを弾いて居るが気になって仕様がない。 もう二三年あの人は、此処に別荘を持って居て、ついぞ琴の音もし …
読書目安時間:約3分
降りたくても降れないと云う様な空模様で、蒸す事甚い。 今朝も早くから隣の家でピアノを弾いて居るが気になって仕様がない。 もう二三年あの人は、此処に別荘を持って居て、ついぞ琴の音もし …
一連の非プロレタリア的作品:「亀のチャーリー」「幼き合唱」「樹のない村」(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
十月下旬行われた作家同盟主催の文学講習会のある夜、席上でたまたま「亀のチャーリー」が討論の中心となった。ある講習会員が「亀のチャーリー」をとりあげ、その作品は一般読者の間で評判がよ …
読書目安時間:約31分
十月下旬行われた作家同盟主催の文学講習会のある夜、席上でたまたま「亀のチャーリー」が討論の中心となった。ある講習会員が「亀のチャーリー」をとりあげ、その作品は一般読者の間で評判がよ …
一刻(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
制限時間はすぎているのに、電車が来なくて有楽町の駅の群集は、刻々つまって来た。 「もうそろそろ運動はじめたかい」 人に押されて、ゆるく体をまわすようにしながら、蔵原さんが訊いた。 …
読書目安時間:約3分
制限時間はすぎているのに、電車が来なくて有楽町の駅の群集は、刻々つまって来た。 「もうそろそろ運動はじめたかい」 人に押されて、ゆるく体をまわすようにしながら、蔵原さんが訊いた。 …
一太と母(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
一太は納豆を売って歩いた。一太は朝電車に乗って池の端あたりまで行った。芸者達が起きる時分で、一太が大きな声で、 「ナットナットー」 と呼んで歩くと、 「ちょいと、納豆やさん」 とよ …
読書目安時間:約22分
一太は納豆を売って歩いた。一太は朝電車に乗って池の端あたりまで行った。芸者達が起きる時分で、一太が大きな声で、 「ナットナットー」 と呼んで歩くと、 「ちょいと、納豆やさん」 とよ …
一票の教訓(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
日本の新しい出発にとって意義深い総選挙は、四月十日に行われ、十五日までには全国の成果が知らされた。 前もって数えられていた全国の有権者は三千九百八万九百九十人といわれ、そのうち婦人 …
読書目安時間:約12分
日本の新しい出発にとって意義深い総選挙は、四月十日に行われ、十五日までには全国の成果が知らされた。 前もって数えられていた全国の有権者は三千九百八万九百九十人といわれ、そのうち婦人 …
一本の花(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
表玄関の受附に、人影がなかった。 朝子は、下駄箱へ自分の下駄を入れ、廊下を真直に歩き出した。その廊下はただ一条で、つき当りに外の景色が見えた。青草の茂ったこちら側の堤にある二本の太 …
読書目安時間:約54分
表玄関の受附に、人影がなかった。 朝子は、下駄箱へ自分の下駄を入れ、廊下を真直に歩き出した。その廊下はただ一条で、つき当りに外の景色が見えた。青草の茂ったこちら側の堤にある二本の太 …
偽りのない文化を(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
きょう、わたしたち女性の生活に文化という言葉はどんなひびきをもってこだまするだろう。文化一般を考えようとしても、そこには非常に錯雑した現実がすぐ浮び上って来る。このごろの夏の雨にし …
読書目安時間:約19分
きょう、わたしたち女性の生活に文化という言葉はどんなひびきをもってこだまするだろう。文化一般を考えようとしても、そこには非常に錯雑した現実がすぐ浮び上って来る。このごろの夏の雨にし …
いとこ同志(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
今からもう二十一二年昔、築地の方に、Sと云う女学校がありました。その女学校の一年の組に、政子さんと芳子さんと云う生徒が居りました。私はこれから此の両人と、両人のお友達だった友子さん …
読書目安時間:約16分
今からもう二十一二年昔、築地の方に、Sと云う女学校がありました。その女学校の一年の組に、政子さんと芳子さんと云う生徒が居りました。私はこれから此の両人と、両人のお友達だった友子さん …
従妹への手紙:「子供の家」の物語(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
すみ子さん、こんにちは! 今日は湯浅さんとふたりで、珍しいところを見て来たから、忘れないうちにそのことを書きます。「子供の家」を見学して来たのです。 ソヴェト同盟には「子供の家」と …
読書目安時間:約12分
すみ子さん、こんにちは! 今日は湯浅さんとふたりで、珍しいところを見て来たから、忘れないうちにそのことを書きます。「子供の家」を見学して来たのです。 ソヴェト同盟には「子供の家」と …
田舎風なヒューモレスク(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
都会の者だって夫婦げんかはする。けれども、田舎の夫婦げんかには、独得の牧歌的滑けいがつきものです。いつか村で有名な夫婦げんかが一つあった。 勇吉という男がある。もう五十八九の年配だ …
読書目安時間:約16分
都会の者だって夫婦げんかはする。けれども、田舎の夫婦げんかには、独得の牧歌的滑けいがつきものです。いつか村で有名な夫婦げんかが一つあった。 勇吉という男がある。もう五十八九の年配だ …
犬三態(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
景清 この夏、弟の家へ遊びに行って、甃のようになっているところの籐椅子で涼もうとしていたら、細竹が繁り放題な庭の隅から、大きな茶色の犬が一匹首から荒繩の切れっぱしをたらしてそれを地 …
読書目安時間:約9分
景清 この夏、弟の家へ遊びに行って、甃のようになっているところの籐椅子で涼もうとしていたら、細竹が繁り放題な庭の隅から、大きな茶色の犬が一匹首から荒繩の切れっぱしをたらしてそれを地 …
犬のはじまり(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
私がやっと五つか六つの頃、林町の家にしろと云う一匹の犬が居た覚えがある。 名が示す通り白い犬であったのだろうが、私のぼんやり記憶にのこって居る印象では、いつも体じゅうが薄ぐろくよご …
読書目安時間:約8分
私がやっと五つか六つの頃、林町の家にしろと云う一匹の犬が居た覚えがある。 名が示す通り白い犬であったのだろうが、私のぼんやり記憶にのこって居る印象では、いつも体じゅうが薄ぐろくよご …
いのちのある智慧(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。 太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの …
読書目安時間:約2分
人類の祖先たちは、彼らの原始的な生活のもとで、どんなふうに自分たちの発見と智慧とをもちいてきたのだろう。 太古の人類の希望は、幸福に生きたいという単一の強烈な欲求であった。それらの …
いのちの使われかた(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
わたしたちが、ほんとに人間らしく生活したい、という希望を語るとき、誰がそんなことは生意気な望みだというだろう。みんな、わたしもそう思う、と答える。 ところが、実際の毎日の生活で人間 …
読書目安時間:約4分
わたしたちが、ほんとに人間らしく生活したい、という希望を語るとき、誰がそんなことは生意気な望みだというだろう。みんな、わたしもそう思う、と答える。 ところが、実際の毎日の生活で人間 …
衣服と婦人の生活:誰がために(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
女性と服装のことについては今日まで、実に多くの話をされて来た。服装一般の問題、糸を紡いで織って縫って着るという仕事に、女の人生はこれまで歴史的にどんな関係をもってきたものだろうか。 …
読書目安時間:約17分
女性と服装のことについては今日まで、実に多くの話をされて来た。服装一般の問題、糸を紡いで織って縫って着るという仕事に、女の人生はこれまで歴史的にどんな関係をもってきたものだろうか。 …
今にわれらも(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
〔二字伏字〕のおかげで農村の生活は一層ひどくなった。 この間東北の田舎へ帰ったひとからの手紙によると、村で五十銭ダマなどはもう半年も前から見ることが出来ない状態だそうだ。年とったお …
読書目安時間:約7分
〔二字伏字〕のおかげで農村の生活は一層ひどくなった。 この間東北の田舎へ帰ったひとからの手紙によると、村で五十銭ダマなどはもう半年も前から見ることが出来ない状態だそうだ。年とったお …
いまわれわれのしなければならないこと(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
かなりの復興したとはいっても、東京の街々はまだ焼あとだらけである。大きい邸跡の廃墟に石の門ばかりのこって、半ばくずれたコンクリート塀の中に夏草がしげっている。小さい道をへだてて、バ …
読書目安時間:約2分
かなりの復興したとはいっても、東京の街々はまだ焼あとだらけである。大きい邸跡の廃墟に石の門ばかりのこって、半ばくずれたコンクリート塀の中に夏草がしげっている。小さい道をへだてて、バ …
意味深き今日の日本文学の相貌を(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
明治、大正年代にも、日本の文学は様々な意味で複雑、多岐な発展をとげて来たのであるが、この三四年間における日本文学が物語る歴史性、社会性の錯綜の姿は、或る意味で実に日本文学未曾有の有 …
読書目安時間:約2分
明治、大正年代にも、日本の文学は様々な意味で複雑、多岐な発展をとげて来たのであるが、この三四年間における日本文学が物語る歴史性、社会性の錯綜の姿は、或る意味で実に日本文学未曾有の有 …
巌の花:宮本顕治の文芸評論について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』(一九三三年)『文芸評論』(一九三七年)『敗北の文学』(一九四六年)『人民の文学』(一九四七年)。治安維 …
読書目安時間:約4分
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』(一九三三年)『文芸評論』(一九三七年)『敗北の文学』(一九四六年)『人民の文学』(一九四七年)。治安維 …
「インガ」:ソヴェト文学に現れた婦人の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
インガ・リーゼルは三十歳である。 彼女は知識階級出の党員で、今は裁縫工場の管理者として働いている。大柄な器量よしで、彼女の眼や唇は彼女の精力的な熱情を反映する美しい焔のように見える …
読書目安時間:約29分
インガ・リーゼルは三十歳である。 彼女は知識階級出の党員で、今は裁縫工場の管理者として働いている。大柄な器量よしで、彼女の眼や唇は彼女の精力的な熱情を反映する美しい焔のように見える …
印象:九月の帝国劇場(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
久し振りで女優劇を観る。 番組に一通り目を通しただけでも、いつもながら目先の変化に苦心してある様子が窺われる。一番目「恋の信玄」から始って、チェーホフの喜劇「犬」に至る迄、背景とし …
読書目安時間:約9分
久し振りで女優劇を観る。 番組に一通り目を通しただけでも、いつもながら目先の変化に苦心してある様子が窺われる。一番目「恋の信玄」から始って、チェーホフの喜劇「犬」に至る迄、背景とし …
インターナショナルとともに(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
(1) トゥウェルスカヤ通りの角に宏壮な郵電省の建物がある。 赤い滝のように旗でかざられた正面の大石段の上に立って見渡すと、デモは今赤い広場に向って、動き出そうとしているところであ …
読書目安時間:約9分
(1) トゥウェルスカヤ通りの角に宏壮な郵電省の建物がある。 赤い滝のように旗でかざられた正面の大石段の上に立って見渡すと、デモは今赤い広場に向って、動き出そうとしているところであ …
ヴァリエテ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
佳一は、久しぶりで大岡を訪ねた。 不在で、細君が玄関へ出て来た。四五日前からシネマの用事で京都へ行っているということであった。 「そうですか、じゃまた上ります。おかえりになったらよ …
読書目安時間:約11分
佳一は、久しぶりで大岡を訪ねた。 不在で、細君が玄関へ出て来た。四五日前からシネマの用事で京都へ行っているということであった。 「そうですか、じゃまた上ります。おかえりになったらよ …
ヴォルフの世界(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この間さがさなければならない本があって銀座の紀伊国屋へよったらば、欲しいものはなかったかわり、思いがけずパウル・ヴォルフの傑作写真集が飾窓に出ているのに気がついた。もうかえろうとし …
読書目安時間:約4分
この間さがさなければならない本があって銀座の紀伊国屋へよったらば、欲しいものはなかったかわり、思いがけずパウル・ヴォルフの傑作写真集が飾窓に出ているのに気がついた。もうかえろうとし …
動かされないと云う事(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
武者小路さんの「後に来る者に」の中に動かされない強みと云う事の書いてあったのを覚えて居ます。 動かされないと云う事を今の私は或る意味で非常にのぞんで居る事です。 私の狭い智や愛、ま …
読書目安時間:約3分
武者小路さんの「後に来る者に」の中に動かされない強みと云う事の書いてあったのを覚えて居ます。 動かされないと云う事を今の私は或る意味で非常にのぞんで居る事です。 私の狭い智や愛、ま …
歌声よ、おこれ:新日本文学会の由来(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
今日、日本は全面的な再出発の時機に到達している。軍事的だった日本から文化の国日本へということもいわれ、日本の民主主義は、明治以来、はじめて私たちの日常生活の中に浸透すべき性質のもの …
読書目安時間:約11分
今日、日本は全面的な再出発の時機に到達している。軍事的だった日本から文化の国日本へということもいわれ、日本の民主主義は、明治以来、はじめて私たちの日常生活の中に浸透すべき性質のもの …
打あけ話(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
一講演 作家で講演好きというたちの人は、どっちかといえば少なかろう。私には苦手である。テーブル・スピーチでも、時と場合とでは相当に閉口する。昔は、大勢のひとの前に自分一人立って物を …
読書目安時間:約7分
一講演 作家で講演好きというたちの人は、どっちかといえば少なかろう。私には苦手である。テーブル・スピーチでも、時と場合とでは相当に閉口する。昔は、大勢のひとの前に自分一人立って物を …
美しき月夜(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
静かな晩である。 空気は柔かく湿って、熟しかけた林檎(りんご)からは甘酸い、酸性のかおりが快く、重く眠たい夜気の中に放散し、薄茶色の煙のような玉蜀黍(とうもろこし)の穂が澄みわたっ …
読書目安時間:約19分
静かな晩である。 空気は柔かく湿って、熟しかけた林檎(りんご)からは甘酸い、酸性のかおりが快く、重く眠たい夜気の中に放散し、薄茶色の煙のような玉蜀黍(とうもろこし)の穂が澄みわたっ …
美しく豊な生活へ(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
この雑誌の読者である方々くらいの年頃の少女の生活は、先頃まではあどけない少女時代の生活という風に表現されていたと思います。そしてそれは、そう言われるにふさわしい、気苦労のない、日常 …
読書目安時間:約13分
この雑誌の読者である方々くらいの年頃の少女の生活は、先頃まではあどけない少女時代の生活という風に表現されていたと思います。そしてそれは、そう言われるにふさわしい、気苦労のない、日常 …
雨滴(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
此頃、自然美の讚美され出して来た事は、自然美崇拝の私にとってまことに嬉しく感じる事である。 どうして今まで、ああして、そうもかまわれずに片隅になげた様にされて居たものかしらんと思う …
読書目安時間:約3分
此頃、自然美の讚美され出して来た事は、自然美崇拝の私にとってまことに嬉しく感じる事である。 どうして今まで、ああして、そうもかまわれずに片隅になげた様にされて居たものかしらんと思う …
「うどんくい」(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
いろいろと材料が不足して来ている台所でも、今日の私たちは心持も体もいくらか潤う食事をこしらえてゆくことに骨おしみしてはいまい。 お米が切符になって、昨今あらゆる人々が訴えていた不安 …
読書目安時間:約5分
いろいろと材料が不足して来ている台所でも、今日の私たちは心持も体もいくらか潤う食事をこしらえてゆくことに骨おしみしてはいまい。 お米が切符になって、昨今あらゆる人々が訴えていた不安 …
午市(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
おせいの坐っている左手に、三尺程の高窓が、広く往来に向いて開いていた。そこから、折々、まるで川風のようにしめりを含んだ涼しい風が、流れて来る。 「まあ、いい風」 彼女は、首をめぐら …
読書目安時間:約17分
おせいの坐っている左手に、三尺程の高窓が、広く往来に向いて開いていた。そこから、折々、まるで川風のようにしめりを含んだ涼しい風が、流れて来る。 「まあ、いい風」 彼女は、首をめぐら …
“生れた権利”をうばうな:――寿産院事件について――(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
今日の一般の人を心から考えさせた事件だと思います。あそこに預けられた子供の率をみると去年は一躍二百余名に上り、そのうち八〇パーセントが殺されました。昨年このようにあずけられる子供の …
読書目安時間:約2分
今日の一般の人を心から考えさせた事件だと思います。あそこに預けられた子供の率をみると去年は一躍二百余名に上り、そのうち八〇パーセントが殺されました。昨年このようにあずけられる子供の …
海辺小曲(一九二三年二月――)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
海辺の五時 夕暮が静かに迫る海辺の五時 白木の質素な窓わくが 室内に燦く電燈と かわたれの銀色に隈どられて 不思議にも繊細な直線に見える。 黝みそめた若松の梢に ひそやかな濤のとど …
読書目安時間:約4分
海辺の五時 夕暮が静かに迫る海辺の五時 白木の質素な窓わくが 室内に燦く電燈と かわたれの銀色に隈どられて 不思議にも繊細な直線に見える。 黝みそめた若松の梢に ひそやかな濤のとど …
裏毛皮は無し:滝田菊江さんへの返事(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
この間の邦語訳の椿姫の歌うなかに、この受取り(でしたか、書きつけでしたか)を御覧下さいということばがあったが、それが日本語で歌われるといかにも現実感がありましたが、昨今ではそのうた …
読書目安時間:約3分
この間の邦語訳の椿姫の歌うなかに、この受取り(でしたか、書きつけでしたか)を御覧下さいということばがあったが、それが日本語で歌われるといかにも現実感がありましたが、昨今ではそのうた …
浦和充子の事件に関して:参議院法務委員会での証人としての発言(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
私も頂きました資料をよんで感じたことですけれども、やっぱり主人公である浦和充子が、子供を一人でなく三人までも殺したという気持が、このプリントに書かれてある範囲ではわからないのです。 …
読書目安時間:約9分
私も頂きました資料をよんで感じたことですけれども、やっぱり主人公である浦和充子が、子供を一人でなく三人までも殺したという気持が、このプリントに書かれてある範囲ではわからないのです。 …
雲母片(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
わかい、気のやさしい春は 庭園に美しい着物を着せ ——明るい時—— 林町の家の、古風な縁側にぱっと麗らかな春の白い光が漲り、部屋の障子は開け放たれている。室内の高い長押にちらちらす …
読書目安時間:約6分
わかい、気のやさしい春は 庭園に美しい着物を着せ ——明るい時—— 林町の家の、古風な縁側にぱっと麗らかな春の白い光が漲り、部屋の障子は開け放たれている。室内の高い長押にちらちらす …
映画(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
雨傘をさし、爪革のかかった下駄をはいて、小さい本の包みをかかえながら、私は濡れた鋪道を歩いていた。夕方七時すぎごろで、その日は朝からの雨であった。私は、その夜手許におかなければなら …
読書目安時間:約5分
雨傘をさし、爪革のかかった下駄をはいて、小さい本の包みをかかえながら、私は濡れた鋪道を歩いていた。夕方七時すぎごろで、その日は朝からの雨であった。私は、その夜手許におかなければなら …
映画女優の知性(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
映画女優のあたまのよさが、一つの快適な美しさ、あるいは深い心と肉体の動きの感銘として作品のなかに十分活かされている場合をみると、大抵のとき、それは製作の方向、監督のみちびきかたと密 …
読書目安時間:約3分
映画女優のあたまのよさが、一つの快適な美しさ、あるいは深い心と肉体の動きの感銘として作品のなかに十分活かされている場合をみると、大抵のとき、それは製作の方向、監督のみちびきかたと密 …
映画の語る現実(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
パァル・バックはアメリカ人であるが中国で成長して、中国の生活を小説にかく婦人作家である。彼女の作品をまだよまない人でもポール・ムニとルイゼ・ライナーが主演している「大地」は見物した …
読書目安時間:約6分
パァル・バックはアメリカ人であるが中国で成長して、中国の生活を小説にかく婦人作家である。彼女の作品をまだよまない人でもポール・ムニとルイゼ・ライナーが主演している「大地」は見物した …
映画の恋愛(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
近代企業としての映画は、経営の上にも技術の上にも急速な発達をとげているのだが、映画に扱われている女の生活というものは一様にある水準に止まっている。技術的にはアメリカやフランスの映画 …
読書目安時間:約6分
近代企業としての映画は、経営の上にも技術の上にも急速な発達をとげているのだが、映画に扱われている女の生活というものは一様にある水準に止まっている。技術的にはアメリカやフランスの映画 …
栄蔵の死(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間17分
朝から、おぼつかない日差しがドンヨリ障子にまどろんで居る様な日である。 何でも、彼んでも、灰色に見える様に陰気な、哀れっぽい部屋の中にお君は、たった独りぽっちで寝て居る。 白粉と安 …
読書目安時間:約1時間17分
朝から、おぼつかない日差しがドンヨリ障子にまどろんで居る様な日である。 何でも、彼んでも、灰色に見える様に陰気な、哀れっぽい部屋の中にお君は、たった独りぽっちで寝て居る。 白粉と安 …
餌(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
硝子戸もない廊下では、朝夕の風がひどく身にしみるようになった。二間半と、鍵の手に曲って一間の縁側は東南に面して居るのだが、午後になると、手洗鉢を中心とした三尺ばかりの処にしか、暖い …
読書目安時間:約7分
硝子戸もない廊下では、朝夕の風がひどく身にしみるようになった。二間半と、鍵の手に曲って一間の縁側は東南に面して居るのだが、午後になると、手洗鉢を中心とした三尺ばかりの処にしか、暖い …
M子(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今消したばっかりの蝋燭の香りが高く室に満ちて居る。 其中に座って一人ぽつねんと私は或る一人の友達の事を思って居る。 其の人の名はM子と云う。 年は私とそう違わない。 大柄な背の高い …
読書目安時間:約5分
今消したばっかりの蝋燭の香りが高く室に満ちて居る。 其中に座って一人ぽつねんと私は或る一人の友達の事を思って居る。 其の人の名はM子と云う。 年は私とそう違わない。 大柄な背の高い …
鉛筆の詩人へ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
さきごろは「鉛筆詩抄」を頂きまことにありがとうございました。 この前、鉛筆の詩を拝見したときから、わたしに感銘されていた詩の精神が、ここに集められているすべての詩のなかにこもってい …
読書目安時間:約4分
さきごろは「鉛筆詩抄」を頂きまことにありがとうございました。 この前、鉛筆の詩を拝見したときから、わたしに感銘されていた詩の精神が、ここに集められているすべての詩のなかにこもってい …
鴎外・芥川・菊池の歴史小説(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
森鴎外の「歴史もの」は、大正元年十月の中央公論に「興津彌五右衛門の遺書」が載せられたのが第一作であった。そして、斎藤茂吉氏の解説によると、この一作のかかれた動機は、その年九月十三日 …
読書目安時間:約25分
森鴎外の「歴史もの」は、大正元年十月の中央公論に「興津彌五右衛門の遺書」が載せられたのが第一作であった。そして、斎藤茂吉氏の解説によると、この一作のかかれた動機は、その年九月十三日 …
鴎外・漱石・藤村など:「父上様」をめぐって(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
つい先頃、或る友人があることの記念として私に小堀杏奴さんの「晩年の父」とほかにもう一冊の本をくれた。「晩年の父」はその夜のうちに読み終った。晩年の鴎外が馬にのって、白山への通りを行 …
読書目安時間:約10分
つい先頃、或る友人があることの記念として私に小堀杏奴さんの「晩年の父」とほかにもう一冊の本をくれた。「晩年の父」はその夜のうちに読み終った。晩年の鴎外が馬にのって、白山への通りを行 …
「黄銅時代」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
場所 大学の道。Fuの家。 此の家。音楽会。友達のうち。郊外のトリップ電車の中。どこかの別荘。 ——○—— ○吉田さんのところ、 ○フィティア自分の部屋、ダニエルの、和田の。ホール …
読書目安時間:約12分
場所 大学の道。Fuの家。 此の家。音楽会。友達のうち。郊外のトリップ電車の中。どこかの別荘。 ——○—— ○吉田さんのところ、 ○フィティア自分の部屋、ダニエルの、和田の。ホール …
黄銅時代の為(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ト翁は、人間が結婚を欲するのは、情慾に動かされるからだ、と云って居るのを、彼の日記の中に見る。又、個人を愛するのには盲目に成らなければ愛せない。盲目に成らなければ只神と人類を愛し得 …
読書目安時間:約4分
ト翁は、人間が結婚を欲するのは、情慾に動かされるからだ、と云って居るのを、彼の日記の中に見る。又、個人を愛するのには盲目に成らなければ愛せない。盲目に成らなければ只神と人類を愛し得 …
往復帖(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
要件(婦人部会へ) 四月二十六日(金) 一、出版プランについて (A)婦人のための問答集二冊 これはもう出版部とお話がついているのでしょうか。 ※労働組合における婦人組織。 これを …
読書目安時間:約8分
要件(婦人部会へ) 四月二十六日(金) 一、出版プランについて (A)婦人のための問答集二冊 これはもう出版部とお話がついているのでしょうか。 ※労働組合における婦人組織。 これを …
大いなるもの(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
大いなるものの悲しみ! 偉大なるものの歎き! すべての時代に現われた大いなるものは、押並べて其の輝やかしい面を愁の涙に曇らして居る。 我々及び我々の背後に永劫の未来に瞑る幾多数うべ …
読書目安時間:約7分
大いなるものの悲しみ! 偉大なるものの歎き! すべての時代に現われた大いなるものは、押並べて其の輝やかしい面を愁の涙に曇らして居る。 我々及び我々の背後に永劫の未来に瞑る幾多数うべ …
大きい足袋(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私とじいやとは買物に家を出た。寒い風が電線をぴゅうぴゅうと云わせて居る。厚い肩掛に頸をうずめてむく鳥のような形をしてかわいた道をまっすぐにどこまでも歩いて行く。〔九字分消去〕ずつ買 …
読書目安時間:約3分
私とじいやとは買物に家を出た。寒い風が電線をぴゅうぴゅうと云わせて居る。厚い肩掛に頸をうずめてむく鳥のような形をしてかわいた道をまっすぐにどこまでも歩いて行く。〔九字分消去〕ずつ買 …
大橋房子様へ:『愛の純一性』を読みて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
先日は脚本をわざわざまことに有難うございました。あれから丁度林町に出かけるところであったので、途中電車のさわがしさも忘れて拝見し始め、二三日うちにすっかり拝見致しました。いろいろの …
読書目安時間:約3分
先日は脚本をわざわざまことに有難うございました。あれから丁度林町に出かけるところであったので、途中電車のさわがしさも忘れて拝見し始め、二三日うちにすっかり拝見致しました。いろいろの …
大町米子さんのこと(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
はじめて大町米子さんにあったのは、いまから十年ばかりまえのことであった。友達から紹介されて、うちへいらした。夏の夜だったとおもう。団扇をつかいながらいろいろ話がでて、大町さんはだん …
読書目安時間:約3分
はじめて大町米子さんにあったのは、いまから十年ばかりまえのことであった。友達から紹介されて、うちへいらした。夏の夜だったとおもう。団扇をつかいながらいろいろ話がでて、大町さんはだん …
公のことと私のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
この社会に公明正大に生きてゆくためには、公私の別をよくわきまえていかなければならない。このことは、よく昔からくりかえして云われて来ております。そして、誰しも一応はわかって暮している …
読書目安時間:約6分
この社会に公明正大に生きてゆくためには、公私の別をよくわきまえていかなければならない。このことは、よく昔からくりかえして云われて来ております。そして、誰しも一応はわかって暮している …
お久美さんと其の周囲(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間20分
月に一二度は欠かさず寄こすお久美さんの手紙は、いつもいつも辛そうな悲しい事許り知らせて来るので蕙子は今度K村へ行ったら早速会って話もよく聞いて見なければと思って来は来たのだけれ共、 …
読書目安時間:約2時間20分
月に一二度は欠かさず寄こすお久美さんの手紙は、いつもいつも辛そうな悲しい事許り知らせて来るので蕙子は今度K村へ行ったら早速会って話もよく聞いて見なければと思って来は来たのだけれ共、 …
稚いが地味でよい:「芽生える力」立岩敏夫作(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
作者が添えた手紙でことわっている通り、まだ稚い作品ではあるけれどもリアリスティックな文学の筋の上に立っている。習作ではあるが『大衆クラブ』などにのせれば同感をもってよむひとは少くな …
読書目安時間:約2分
作者が添えた手紙でことわっている通り、まだ稚い作品ではあるけれどもリアリスティックな文学の筋の上に立っている。習作ではあるが『大衆クラブ』などにのせれば同感をもってよむひとは少くな …
お女郎蜘蛛(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
若い娘の命をとる事もまっしろな張のある体をめちゃめちゃにする事でも平気なかおでやってのける力をもった刀でさえ錦の袋に入った大店の御娘子と云うなよやかな袋に包まれて末喜の様な心もその …
読書目安時間:約26分
若い娘の命をとる事もまっしろな張のある体をめちゃめちゃにする事でも平気なかおでやってのける力をもった刀でさえ錦の袋に入った大店の御娘子と云うなよやかな袋に包まれて末喜の様な心もその …
落ちたままのネジ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
十月号の『文芸』に発表されている深田久彌氏の小説「強者連盟」には、様々の人物が輪舞的に登場しているが、なかに、高等学校の生徒で梅雄と云う青年が描かれている。 この小説で、作者はおそ …
読書目安時間:約9分
十月号の『文芸』に発表されている深田久彌氏の小説「強者連盟」には、様々の人物が輪舞的に登場しているが、なかに、高等学校の生徒で梅雄と云う青年が描かれている。 この小説で、作者はおそ …
夫即ち妻ではない(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
どういう意味からにしても、今の場合それをいうのは少し困ります。表面だけで誤解されることが厭なんです。でもこういうことはいわれると思います。今の時代では、妻は自分の生活をすべて夫の生 …
読書目安時間:約1分
どういう意味からにしても、今の場合それをいうのは少し困ります。表面だけで誤解されることが厭なんです。でもこういうことはいわれると思います。今の時代では、妻は自分の生活をすべて夫の生 …
男が斯うだから女も……は間違い(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
これからは男性とか女性とかいう風に相対的にものを考えることが少くなりましょう。それは私だって女房であった頃には自分の夫に対してはああも、こうもと思いましたが、此の頃は男性対女性とい …
読書目安時間:約2分
これからは男性とか女性とかいう風に相対的にものを考えることが少くなりましょう。それは私だって女房であった頃には自分の夫に対してはああも、こうもと思いましたが、此の頃は男性対女性とい …
男…は疲れている(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
現在の、特に日本の、不調和な社会状態のうちに生活しているわれわれ、殊に、外部的交渉をおおく持つ男性が、心的、物質的に疲労しているということは、否めない一つの事実でしょう。不安定は、 …
読書目安時間:約4分
現在の、特に日本の、不調和な社会状態のうちに生活しているわれわれ、殊に、外部的交渉をおおく持つ男性が、心的、物質的に疲労しているということは、否めない一つの事実でしょう。不安定は、 …
「大人の文学」論の現実性(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
近頃、一部の作家たちの間に、日本の作者はもっと「大人の文学」をつくるようにならなければならない、という提唱がなされている。この頃一般人の興味関心は文学から離れつつある。その理由を、 …
読書目安時間:約9分
近頃、一部の作家たちの間に、日本の作者はもっと「大人の文学」をつくるようにならなければならない、という提唱がなされている。この頃一般人の興味関心は文学から離れつつある。その理由を、 …
同じ娘でも(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「御隠居様よ、又お清が来ましたぞえ何なりと買ってやりなんしょ」と頬を赤くして火を吹いて居下女の正は台所から声をかけた。「そうかえ」と云いながら茶の間から出ていらっしゃったお祖母様は …
読書目安時間:約4分
「御隠居様よ、又お清が来ましたぞえ何なりと買ってやりなんしょ」と頬を赤くして火を吹いて居下女の正は台所から声をかけた。「そうかえ」と云いながら茶の間から出ていらっしゃったお祖母様は …
おのずから低きに:今日の新聞小説と文学(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
文学的作品としての面から新聞小説を見れば、もとからそれに伴っていた種々の制約というものは大して変化していまいと思われる。読者が、新聞小説に求めている面白さの本質の問題から云わば制約 …
読書目安時間:約5分
文学的作品としての面から新聞小説を見れば、もとからそれに伴っていた種々の制約というものは大して変化していまいと思われる。読者が、新聞小説に求めている面白さの本質の問題から云わば制約 …
十八番料理集(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
白菜と豚の三枚肉のお鍋 そろそろ夜がうすら寒くなってくると家でよくするお惣菜の一つです。白菜を四糎位に型をくずさない様にぶつぶつ切りまして、三枚肉は普通に切ったのを一緒に水をたっぷ …
読書目安時間:約3分
白菜と豚の三枚肉のお鍋 そろそろ夜がうすら寒くなってくると家でよくするお惣菜の一つです。白菜を四糎位に型をくずさない様にぶつぶつ切りまして、三枚肉は普通に切ったのを一緒に水をたっぷ …
思い出すかずかず(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
十一月の中旬に、学友会の雑誌が出る。何か書いたものを送るようにと云う手紙を戴いた。内容は、近頃の自分の生活に就て書いたものでもよいし、又は、旅行記のようなものでもよいと、大変寛大に …
読書目安時間:約10分
十一月の中旬に、学友会の雑誌が出る。何か書いたものを送るようにと云う手紙を戴いた。内容は、近頃の自分の生活に就て書いたものでもよいし、又は、旅行記のようなものでもよいと、大変寛大に …
思い出すこと(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
レーク・Gへ行く前友達と二人で買った洋傘をさし、銀鼠の透綾の着物を着、私はAと二人で、谷中から、日暮里、西尾町から、西ケ原の方まで歩き廻った。然し、実際、家が払底している。時には、 …
読書目安時間:約6分
レーク・Gへ行く前友達と二人で買った洋傘をさし、銀鼠の透綾の着物を着、私はAと二人で、谷中から、日暮里、西尾町から、西ケ原の方まで歩き廻った。然し、実際、家が払底している。時には、 …
おもかげ(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
睡りからさめるというより、悲しさで目がさまされたという風に朝子はぽっかり枕の上で目をあけた。 夏のおそい午前の光線が、細長くて白い部屋の壁の上に窓外の菩提樹の緑をかすかに映しながら …
読書目安時間:約21分
睡りからさめるというより、悲しさで目がさまされたという風に朝子はぽっかり枕の上で目をあけた。 夏のおそい午前の光線が、細長くて白い部屋の壁の上に窓外の菩提樹の緑をかすかに映しながら …
親子いっしょに(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
子供たちの明るい人生をつくろうと、このごろではいろいろな親と子と教師のための本なども出て来ましたし、美しい外国映画も紹介されます。 しかし現実の毎日の生活のなかで、主婦であり母であ …
読書目安時間:約2分
子供たちの明るい人生をつくろうと、このごろではいろいろな親と子と教師のための本なども出て来ましたし、美しい外国映画も紹介されます。 しかし現実の毎日の生活のなかで、主婦であり母であ …
親子一体の教育法(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
若々しい時代の影響 私たちの育った時代の父と母との生活ぶりを考えると、若い生活力の旺な自分たちの生活への態度そのものの中に幼い子供たちをひっくるめて前進して行ったという感じがする。 …
読書目安時間:約4分
若々しい時代の影響 私たちの育った時代の父と母との生活ぶりを考えると、若い生活力の旺な自分たちの生活への態度そのものの中に幼い子供たちをひっくるめて前進して行ったという感じがする。 …
折たく柴(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
○ 支那事変がはじまって五年、大東亜戦争がはじまって満一ヵ年と十ヵ月経って秋も深くなった。 燃料がどこの家でも不如意になって来ていて、風呂たきは注意ぶかい一家の行事の一つとなった。 …
読書目安時間:約3分
○ 支那事変がはじまって五年、大東亜戦争がはじまって満一ヵ年と十ヵ月経って秋も深くなった。 燃料がどこの家でも不如意になって来ていて、風呂たきは注意ぶかい一家の行事の一つとなった。 …
オリンピック開催の是非(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日本へオリンピックを招致しようとしたときの雰囲気を思いおこします。日本へよばなければ意地でも承知せぬという気分が示されていたことがきつく印象されています。何の意地によってそのやめら …
読書目安時間:約1分
日本へオリンピックを招致しようとしたときの雰囲気を思いおこします。日本へよばなければ意地でも承知せぬという気分が示されていたことがきつく印象されています。何の意地によってそのやめら …
音楽の民族性と諷刺(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この春新響の演奏したチャイコフスキーの「悲愴交響楽」は、今も心のなかに或る感銘をのこしている。一度ならず聴いているこの交響楽から、あの晩、特別新鮮に深い感動を与えられたのはおそらく …
読書目安時間:約7分
この春新響の演奏したチャイコフスキーの「悲愴交響楽」は、今も心のなかに或る感銘をのこしている。一度ならず聴いているこの交響楽から、あの晩、特別新鮮に深い感動を与えられたのはおそらく …
女靴の跡(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
白いところに黒い大きい字でヴェルダンと書いたステーションへ降りた。あたりは実に森閑としていて、晩い秋のおだやかな小春日和のぬくもりが四辺の沈黙と白いステーションの建物とをつつんでい …
読書目安時間:約4分
白いところに黒い大きい字でヴェルダンと書いたステーションへ降りた。あたりは実に森閑としていて、晩い秋のおだやかな小春日和のぬくもりが四辺の沈黙と白いステーションの建物とをつつんでい …
「女の一生」と志賀暁子の場合(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判 …
読書目安時間:約4分
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判 …
女の学校(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
女学校しか出ていない日本の女性に、「学生生活」の思い出というようなものがあるだろうか。女学校というところは、中学校とさえもちがって、いかにも只少女時代という大ざっぱな思い出の中にく …
読書目安時間:約6分
女学校しか出ていない日本の女性に、「学生生活」の思い出というようなものがあるだろうか。女学校というところは、中学校とさえもちがって、いかにも只少女時代という大ざっぱな思い出の中にく …
女の行進(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
十一月のお祭りのうちのある午後、用事で銀座へ出かけていたうちの者が、帰って来て、きょうは珍しいものを見たの、といった。浦和の方から、女子青年の娘さんたちが久留米絣の揃いの服装、もん …
読書目安時間:約6分
十一月のお祭りのうちのある午後、用事で銀座へ出かけていたうちの者が、帰って来て、きょうは珍しいものを見たの、といった。浦和の方から、女子青年の娘さんたちが久留米絣の揃いの服装、もん …
女の自分(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
人間には誰でも自分のことが一番面白いのだということがよくいわれている。確にそういうところもあろうと思う。自分のうれしいこと自分の悲しいこと、自分が好きと思いきらいと思うことは一番直 …
読書目安時間:約5分
人間には誰でも自分のことが一番面白いのだということがよくいわれている。確にそういうところもあろうと思う。自分のうれしいこと自分の悲しいこと、自分が好きと思いきらいと思うことは一番直 …
女の手帖(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
共学 期待はずれた今度の内閣改造の中で僅かに生彩を保つのは安倍能成氏の文部大臣であるといわれる。朽木の屋台にたった一本、いくらかは精のある材木が加えられたところで、その大屋の傾くこ …
読書目安時間:約7分
共学 期待はずれた今度の内閣改造の中で僅かに生彩を保つのは安倍能成氏の文部大臣であるといわれる。朽木の屋台にたった一本、いくらかは精のある材木が加えられたところで、その大屋の傾くこ …
女の歴史:そこにある判断と責任の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
数人の若い女のひとたちが円く座って喋っている。いろんな話の末、映画のことになって、ひとりの人に、あなたは誰がお好き?ときいた。そのひとは房々と長く美しく波うたせてある髪を瀟洒な鼠色 …
読書目安時間:約15分
数人の若い女のひとたちが円く座って喋っている。いろんな話の末、映画のことになって、ひとりの人に、あなたは誰がお好き?ときいた。そのひとは房々と長く美しく波うたせてある髪を瀟洒な鼠色 …
「女らしさ」とは(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私たち婦人が「女らしい」とか「女らしくない」とかいう言葉で居心地わるい思いをしなくなるのはいつのことだろう。 日本の社会も、袂で顔をかくして笑うのを女らしさといったり、大事な返事を …
読書目安時間:約4分
私たち婦人が「女らしい」とか「女らしくない」とかいう言葉で居心地わるい思いをしなくなるのはいつのことだろう。 日本の社会も、袂で顔をかくして笑うのを女らしさといったり、大事な返事を …
カール・マルクスとその夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
一カールの持った「三人の聖者」 ドイツの南の小さい一つの湖から注ぎ出て、深い峡谷の間を流れ、やがて葡萄の美しく実る地方を通って、遠くオランダの海に河口を開いている大きい河がある。そ …
読書目安時間:約25分
一カールの持った「三人の聖者」 ドイツの南の小さい一つの湖から注ぎ出て、深い峡谷の間を流れ、やがて葡萄の美しく実る地方を通って、遠くオランダの海に河口を開いている大きい河がある。そ …
解説(『風知草』)(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
「乳房」について 「乳房」は一九三五年(昭和十年)三月に書かれた。発表されたのは中央公論四月号であった。 たいして長い小説ではないけれども、この作品がまとまるまでにはいろいろ当時と …
読書目安時間:約24分
「乳房」について 「乳房」は一九三五年(昭和十年)三月に書かれた。発表されたのは中央公論四月号であった。 たいして長い小説ではないけれども、この作品がまとまるまでにはいろいろ当時と …
概念と心其もの(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
最近自分の生活の上に起った重大な変動は、種々な点で自分の経験を深めて呉れたと同時に、心に触れる対象の範囲をも亦広めて呉れた。今までは或る知識として、頭で丈解っていた生活の内容が、多 …
読書目安時間:約13分
最近自分の生活の上に起った重大な変動は、種々な点で自分の経験を深めて呉れたと同時に、心に触れる対象の範囲をも亦広めて呉れた。今までは或る知識として、頭で丈解っていた生活の内容が、多 …
海浜一日(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
発動機の工合がわるくて、台所へ水が出なくなった。父が、寝室へ入って老人らしい鳥打帽をかぶり、外へ出て行った。暖炉に火が燃え、鳩時計は細長い松ぼっくりのような分銅をきしませつつ時を刻 …
読書目安時間:約9分
発動機の工合がわるくて、台所へ水が出なくなった。父が、寝室へ入って老人らしい鳥打帽をかぶり、外へ出て行った。暖炉に火が燃え、鳩時計は細長い松ぼっくりのような分銅をきしませつつ時を刻 …
外来の音楽家に感謝したい(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ジムバリスト氏の来朝や、アンナ・パヴロワ、近くパーロー女史等の来られた為め、私共芸術を愛する者は、各自の程度なりに、どの位得る処があったかわかりません。ジムバリストの絃の或る音や、 …
読書目安時間:約1分
ジムバリスト氏の来朝や、アンナ・パヴロワ、近くパーロー女史等の来られた為め、私共芸術を愛する者は、各自の程度なりに、どの位得る処があったかわかりません。ジムバリストの絃の或る音や、 …
回覧板への注文(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私のところは、割におうようなので、些細なことで何や彼と廻してくるようなことはありません。 ただ、その表現がなかなか整理されず——つまりは、皆の人によくのみこませようとするのでしょう …
読書目安時間:約1分
私のところは、割におうようなので、些細なことで何や彼と廻してくるようなことはありません。 ただ、その表現がなかなか整理されず——つまりは、皆の人によくのみこませようとするのでしょう …
海流(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間13分
やっと客間のドアのあく音がして、瑛子がこっちの部屋へ出て来た。上気した頬の色で、テーブルのところへ突立ったままでいた順二郎と宏子のわきを無言で通り、黙ったまま上座のきまりの席に座っ …
読書目安時間:約1時間13分
やっと客間のドアのあく音がして、瑛子がこっちの部屋へ出て来た。上気した頬の色で、テーブルのところへ突立ったままでいた順二郎と宏子のわきを無言で通り、黙ったまま上座のきまりの席に座っ …
顔(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
ルイザは、天気にも、教父にも、または夫のハンスに対しても、ちっとも苦情を云うべきことのないのは知っていた。 自分達位の身分の者で、村の誰があんな行届いた洗礼式を、息子に受けさせてや …
読書目安時間:約23分
ルイザは、天気にも、教父にも、または夫のハンスに対しても、ちっとも苦情を云うべきことのないのは知っていた。 自分達位の身分の者で、村の誰があんな行届いた洗礼式を、息子に受けさせてや …
顔を語る(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
どんなひとでも、はたからは、その人に似た人というものの話をきかされているだろうと思う。よく知っている者が、その似たというところの話されているのをきくと、案外、まるで似てもいないのに …
読書目安時間:約2分
どんなひとでも、はたからは、その人に似た人というものの話をきかされているだろうと思う。よく知っている者が、その似たというところの話されているのをきくと、案外、まるで似てもいないのに …
科学の常識のため(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
コフマンの「科学の学校」が、神近市子の翻訳で実業之日本社から出版された。訳者からおくられた一冊を手提袋に入れてよそへ出かける電車の中だの、待っている間だのに読んでいるうち、この小さ …
読書目安時間:約19分
コフマンの「科学の学校」が、神近市子の翻訳で実業之日本社から出版された。訳者からおくられた一冊を手提袋に入れてよそへ出かける電車の中だの、待っている間だのに読んでいるうち、この小さ …
科学の精神を(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
科学への関心が、いくらか流行の風潮ともなって、昨今たかめられて来ている。いろいろの面から観察されることだろうが、私として頻りに考えられることは、そういう今日の傾向のなかで、科学知識 …
読書目安時間:約4分
科学への関心が、いくらか流行の風潮ともなって、昨今たかめられて来ている。いろいろの面から観察されることだろうが、私として頻りに考えられることは、そういう今日の傾向のなかで、科学知識 …
鏡の中の月(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
二十畳あまりの教室に、並べられた裁縫板に向って女生徒たちが一心に針を運んでいた。 あけ放された窓々から真夏の蝉の声が精力的に溺らすように流れ入った。校庭をとりまく大きい樫の樹の梢は …
読書目安時間:約15分
二十畳あまりの教室に、並べられた裁縫板に向って女生徒たちが一心に針を運んでいた。 あけ放された窓々から真夏の蝉の声が精力的に溺らすように流れ入った。校庭をとりまく大きい樫の樹の梢は …
鏡餅(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
正面のドアを押して入ると、すぐのところで三和土の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうで …
読書目安時間:約15分
正面のドアを押して入ると、すぐのところで三和土の床へ水をぶちまけ、シュッシュ、シュッシュと洗っている白シャツ、黒ズボンの若い男にぶつかりそうになった。サエは小使いだと思ったらそうで …
加護(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
お幾の信仰は、何時頃から始まったものなのか、またその始まりにどんな動機を持っているのか、誰も知る者はなかった。ただそれと心附いた時には、もう十幾人という昔からの友達の中で、一人とし …
読書目安時間:約33分
お幾の信仰は、何時頃から始まったものなのか、またその始まりにどんな動機を持っているのか、誰も知る者はなかった。ただそれと心附いた時には、もう十幾人という昔からの友達の中で、一人とし …
歌集『仰日』の著者に(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
過日『仰日』ならびに『檜の影』会からお手紙を頂き重ねてあなたからのお手紙拝見いたしました。『仰日』を拝見して、短歌については素人ですが一つ二つ感想を申上ます。 わたくしは一人の読者 …
読書目安時間:約4分
過日『仰日』ならびに『檜の影』会からお手紙を頂き重ねてあなたからのお手紙拝見いたしました。『仰日』を拝見して、短歌については素人ですが一つ二つ感想を申上ます。 わたくしは一人の読者 …
歌集『集団行進』に寄せて(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
『集団行進』をいただき、大変に興味ふかく、得るところも多く拝見しました。巻頭の序文によると、この集は最近一年間において短歌をつくる労働者作家が非常にふえたことを一つの特徴として示し …
読書目安時間:約5分
『集団行進』をいただき、大変に興味ふかく、得るところも多く拝見しました。巻頭の序文によると、この集は最近一年間において短歌をつくる労働者作家が非常にふえたことを一つの特徴として示し …
風に乗って来るコロポックル(新字新仮名)
読書目安時間:約39分
彼の名は、イレンカトム、という。 公平な裁きてという意味で、昔から部落でも相当に権威ある者の子に付けられる種類の名である。 従って、彼はこの名を貰うと同時に、世襲の少なからぬ財産も …
読書目安時間:約39分
彼の名は、イレンカトム、という。 公平な裁きてという意味で、昔から部落でも相当に権威ある者の子に付けられる種類の名である。 従って、彼はこの名を貰うと同時に、世襲の少なからぬ財産も …
仮装の妙味(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
どの新聞にも近衛公の写真が出ていて大変賑わしい。東日にのった仮装写真は、なかでも秀抜である。昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたた …
読書目安時間:約2分
どの新聞にも近衛公の写真が出ていて大変賑わしい。東日にのった仮装写真は、なかでも秀抜である。昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたた …
花袋・秋声の祝賀会に際して(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
御二方には未だ御目に掛った事もございませんが、お催しとしては結構で御座いましょう、只丁度五十歳前後の父を持って居ります自分には、何だか「もうお祝い?」というような心持が致します。 …
読書目安時間:約1分
御二方には未だ御目に掛った事もございませんが、お催しとしては結構で御座いましょう、只丁度五十歳前後の父を持って居ります自分には、何だか「もうお祝い?」というような心持が致します。 …
片すみにかがむ死の影(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
うす暗き片すみにかがむ死の影は 夜の気の定まると共に その衣のひだをまし 光をまし毒気をまして 人間の心の臓をうかがいて迫る。 黒き衣の陰に 大鎌は閃きて世を嘲り 見すかしたる様に …
読書目安時間:約1分
うす暗き片すみにかがむ死の影は 夜の気の定まると共に その衣のひだをまし 光をまし毒気をまして 人間の心の臓をうかがいて迫る。 黒き衣の陰に 大鎌は閃きて世を嘲り 見すかしたる様に …
傾く日(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
○ 十一月になり、自分の心には、林町とああ云う関係にあると云うことが、次第に苦しい意識となって来た。九月の二十九日の夜、母上が、当分会うまいと云われた時、随分自分は苦しく思い涙を流 …
読書目安時間:約5分
○ 十一月になり、自分の心には、林町とああ云う関係にあると云うことが、次第に苦しい意識となって来た。九月の二十九日の夜、母上が、当分会うまいと云われた時、随分自分は苦しく思い涙を流 …
家庭裁判(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
(被告) 女慧しゅうして牛売りそこね (判決) こういった諺はみんな男が作ったものなんです、そしてまた女をこんな風にした社会を作ったのも男達なんです、ですけど「女の賢さはほんとうの …
読書目安時間:約1分
(被告) 女慧しゅうして牛売りそこね (判決) こういった諺はみんな男が作ったものなんです、そしてまた女をこんな風にした社会を作ったのも男達なんです、ですけど「女の賢さはほんとうの …
家庭創造の情熱(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
すこし物ごとを真面目に考える今日の世代の若い人たちが、自分たちの結婚生活に入ろうとするとき、生涯向上する情熱を喪わない夫婦として生きたいと願わない人はおそらくないだろうと思う。 こ …
読書目安時間:約6分
すこし物ごとを真面目に考える今日の世代の若い人たちが、自分たちの結婚生活に入ろうとするとき、生涯向上する情熱を喪わない夫婦として生きたいと願わない人はおそらくないだろうと思う。 こ …
家庭と学生(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今日家庭というものを考える私たちの心持は、おのずから多面複雑だと思う。 家庭は今日大事とされている。貯蓄のことも、生めよ、殖せよということも、モラル粛正も、専ら家庭内の実行にかけら …
読書目安時間:約5分
今日家庭というものを考える私たちの心持は、おのずから多面複雑だと思う。 家庭は今日大事とされている。貯蓄のことも、生めよ、殖せよということも、モラル粛正も、専ら家庭内の実行にかけら …
十四日祭の夜(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
七月も一日二日で十日になる。今年も暑気はきびしいように思われる。年々のいろいろな七月、いろいろなあつさを思いかえすうち、不図明るい一つの絵提灯のような色合いでパリの七月十四日の夜が …
読書目安時間:約3分
七月も一日二日で十日になる。今年も暑気はきびしいように思われる。年々のいろいろな七月、いろいろなあつさを思いかえすうち、不図明るい一つの絵提灯のような色合いでパリの七月十四日の夜が …
悲しめる心(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
我が妹の亡き御霊の御前に 只一人の妹に先立たれた姉の心はその両親にも勝るほど悲しいものである。 手を引いてやるものもない路を幼い身ではてしなく長い旅路についた妹の身を思えば涙は自ず …
読書目安時間:約33分
我が妹の亡き御霊の御前に 只一人の妹に先立たれた姉の心はその両親にも勝るほど悲しいものである。 手を引いてやるものもない路を幼い身ではてしなく長い旅路についた妹の身を思えば涙は自ず …
彼女たち・そしてわたしたち:ロマン・ロランの女性(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
わたしは、もう久しい間、いつかはそのような仕事もしてみたいと思っている一つのたのしみがある。それは、ロマン・ロランによって描かれている魅力のふかい多勢の女性たちについて、こまかくよ …
読書目安時間:約3分
わたしは、もう久しい間、いつかはそのような仕事もしてみたいと思っている一つのたのしみがある。それは、ロマン・ロランによって描かれている魅力のふかい多勢の女性たちについて、こまかくよ …
「鎌と鎚」工場の文学研究会(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
自分に与えられたほんとの課題は、ソヴェト生産拡張五箇年計画と芸術との関係について、ちょっと簡単に書いて貰えますまいか、というのだった。 ところが、自分はそのことについて、この頃『ナ …
読書目安時間:約12分
自分に与えられたほんとの課題は、ソヴェト生産拡張五箇年計画と芸術との関係について、ちょっと簡単に書いて貰えますまいか、というのだった。 ところが、自分はそのことについて、この頃『ナ …
カメラの焦点(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
写真機についての思い出は、大層古いところからはじまる。 私が九つになった年の秋に、イギリスに五年いた父親がかえって来た。横浜へ迎えにゆくというので、その朝は暗いうちに起きて、ラムプ …
読書目安時間:約5分
写真機についての思い出は、大層古いところからはじまる。 私が九つになった年の秋に、イギリスに五年いた父親がかえって来た。横浜へ迎えにゆくというので、その朝は暗いうちに起きて、ラムプ …
蚊遣り(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
丘をはさんで点綴するくさぶき屋の低い軒端から、森かげや小川の岸に小さく長閑に立っている百姓小舎のくすぶった破風から晴れた星空に立ちのぼってゆく蚊やりの煙はいかにも遠い昔の大和民族の …
読書目安時間:約2分
丘をはさんで点綴するくさぶき屋の低い軒端から、森かげや小川の岸に小さく長閑に立っている百姓小舎のくすぶった破風から晴れた星空に立ちのぼってゆく蚊やりの煙はいかにも遠い昔の大和民族の …
からたち(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
その時分に、まだ菊人形があったのかどうか覚えていないが、狭くって急な団子坂をのぼって右へ曲るとすぐ、路の片側はずっと須藤さんの杉林であった。古い杉の樹が奥暗く茂っていて、夜は五位鷺 …
読書目安時間:約4分
その時分に、まだ菊人形があったのかどうか覚えていないが、狭くって急な団子坂をのぼって右へ曲るとすぐ、路の片側はずっと須藤さんの杉林であった。古い杉の樹が奥暗く茂っていて、夜は五位鷺 …
彼等は絶望しなかった(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
チェホフやウェルサーエフや、現代ではカロッサ、これらの作家たちが医師であって同時に作家であったことは、彼等にとって比類のない仕合わせ、人類にとっては一つの慰安となっている。 彼等は …
読書目安時間:約1分
チェホフやウェルサーエフや、現代ではカロッサ、これらの作家たちが医師であって同時に作家であったことは、彼等にとって比類のない仕合わせ、人類にとっては一つの慰安となっている。 彼等は …
カレント・ブックス(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
岩波文庫『魯迅選集』とパアル・バックの『分裂せる家』 (二)魯迅という作家が支那の一九二四・五年からの八九年間に亙る急激な社会的推移の間で、この作家の偉大な特質である人間的正義感と …
読書目安時間:約1分
岩波文庫『魯迅選集』とパアル・バックの『分裂せる家』 (二)魯迅という作家が支那の一九二四・五年からの八九年間に亙る急激な社会的推移の間で、この作家の偉大な特質である人間的正義感と …
河上氏に答える(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
河上氏の私に対する反ばくは一種独特な説諭調でなかなか高びしゃである、が、論点が混乱していて、多くの点が主観的すぎる。河上氏は私が「読者の声を拒絶し、封じ」「一切の批判をさしひかえ」 …
読書目安時間:約3分
河上氏の私に対する反ばくは一種独特な説諭調でなかなか高びしゃである、が、論点が混乱していて、多くの点が主観的すぎる。河上氏は私が「読者の声を拒絶し、封じ」「一切の批判をさしひかえ」 …
観光について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
それを見たことでその人の人生に何かが加わり或は何かが変る丈の力がなくては観光の対象として極めて薄弱だ。 「戦災のあとも見て貰って十分満足させて」云々。これは心ある日本人をして何とな …
読書目安時間:約2分
それを見たことでその人の人生に何かが加わり或は何かが変る丈の力がなくては観光の対象として極めて薄弱だ。 「戦災のあとも見て貰って十分満足させて」云々。これは心ある日本人をして何とな …
感情の動き(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
喜び 人に使われずに、自由に勝手な自分の好きなことをしていられるのは、嬉しいことには違いない。 作家として、本当に自分自身の仕事が出来た時、心に感じたままを、一ばん心に訴えてくるも …
読書目安時間:約2分
喜び 人に使われずに、自由に勝手な自分の好きなことをしていられるのは、嬉しいことには違いない。 作家として、本当に自分自身の仕事が出来た時、心に感じたままを、一ばん心に訴えてくるも …
含蓄ある歳月:野上弥生子さんへの手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
初めてあなたのお書きになるものを読んだのは、昔、読売新聞にあなたが「二人の小さいヴァガボンド」という小説を発表なさったときであり、その頃私は女学校の上級生で、きわめて粗雑ながら子供 …
読書目安時間:約6分
初めてあなたのお書きになるものを読んだのは、昔、読売新聞にあなたが「二人の小さいヴァガボンド」という小説を発表なさったときであり、その頃私は女学校の上級生で、きわめて粗雑ながら子供 …
観念性と抒情性:伊藤整氏『街と村』について(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
あるがままの姿は決して心理でもなければ諷刺でもない 伊藤整氏の近著『街と村』という小説集は、おなじ街や村と云っても、作者にとってはただの街や村の姿ではなく、それぞれに幽鬼の街、幽鬼 …
読書目安時間:約5分
あるがままの姿は決して心理でもなければ諷刺でもない 伊藤整氏の近著『街と村』という小説集は、おなじ街や村と云っても、作者にとってはただの街や村の姿ではなく、それぞれに幽鬼の街、幽鬼 …
寒の梅(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
一月○日 朝飯をたべて、暫く休んで、入浴してかえって横になっていると、傷の写真をとりますから腹帯はあとになすって下さいということだ。やがて、白い上っぱりを着た写真師が助手をつれて入 …
読書目安時間:約8分
一月○日 朝飯をたべて、暫く休んで、入浴してかえって横になっていると、傷の写真をとりますから腹帯はあとになすって下さいということだ。やがて、白い上っぱりを着た写真師が助手をつれて入 …
上林からの手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ふつか小雨が降って、晴れあがったら、今日は山々の眺めから風の音まで、いかにもさやかな秋という工合になった。 山の茶屋の二階からずうっと見晴すと、遠い山襞が珍しくはっきり見え、千曲川 …
読書目安時間:約6分
ふつか小雨が降って、晴れあがったら、今日は山々の眺めから風の音まで、いかにもさやかな秋という工合になった。 山の茶屋の二階からずうっと見晴すと、遠い山襞が珍しくはっきり見え、千曲川 …
記憶に残る正月の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、六つばかりの正月(多分)丁度旅順が陥落し、若かった母が、縁側に走り出、泣きながら「万歳!」と叫んだ時、私も夢中で「バンザイ!」と叫んでオイオイ泣いた。わけが分ってではない、母の …
読書目安時間:約1分
一、六つばかりの正月(多分)丁度旅順が陥落し、若かった母が、縁側に走り出、泣きながら「万歳!」と叫んだ時、私も夢中で「バンザイ!」と叫んでオイオイ泣いた。わけが分ってではない、母の …
菊人形(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
田端の高台からずうっとおりて来て、うちのある本郷の高台へのぼるまでの間は、田圃だった。その田圃の、田端よりの方に一筋の小川が流れていた。関東の田圃を流れる小川らしく、流れのふちには …
読書目安時間:約16分
田端の高台からずうっとおりて来て、うちのある本郷の高台へのぼるまでの間は、田圃だった。その田圃の、田端よりの方に一筋の小川が流れていた。関東の田圃を流れる小川らしく、流れのふちには …
傷だらけの足:ふたたび純潔について(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
こんにち、わたしたちがふたたび純潔ということについて語るとすれば、それは、どんな新しい人間精神の欲求からのことだろう。 わたしたちの生活の下で、ある種の言葉は、この半世紀の間に、全 …
読書目安時間:約20分
こんにち、わたしたちがふたたび純潔ということについて語るとすれば、それは、どんな新しい人間精神の欲求からのことだろう。 わたしたちの生活の下で、ある種の言葉は、この半世紀の間に、全 …
期待と切望(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
音楽に対しては全く素人であって、しかも音楽についてはある興味をもっているものの一人として、私は日本の将来の音楽的発達について少なからず希望を抱いております。音楽上の創造力も技術も、 …
読書目安時間:約3分
音楽に対しては全く素人であって、しかも音楽についてはある興味をもっているものの一人として、私は日本の将来の音楽的発達について少なからず希望を抱いております。音楽上の創造力も技術も、 …
北へ行く(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
斜向いの座席に、一人がっしりした骨組みの五十ばかりの農夫が居睡りをしていたが、宇都宮で目を醒した。ステイションの名を呼ぶ声や、乗客のざわめきで、眠りを醒されたという工合だ。窓の方を …
読書目安時間:約3分
斜向いの座席に、一人がっしりした骨組みの五十ばかりの農夫が居睡りをしていたが、宇都宮で目を醒した。ステイションの名を呼ぶ声や、乗客のざわめきで、眠りを醒されたという工合だ。窓の方を …
鬼畜の言葉(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
メーデーからはじまって、五月は国民一般の祝日の多い月だった。憲法記念祭、子供の日、母の日。どれをとっても、それぞれに新しい日本に生きるよろこびとはげましと慰藉とを意味しないものはな …
読書目安時間:約5分
メーデーからはじまって、五月は国民一般の祝日の多い月だった。憲法記念祭、子供の日、母の日。どれをとっても、それぞれに新しい日本に生きるよろこびとはげましと慰藉とを意味しないものはな …
狐の姐さん(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
七月○日火曜日 散歩。 F子洗髪を肩に垂らしたまま出た。水瓜畑の間を通っていると、田舎の男の児、 狐の姐さん!化け姐さん! と囃した。 七月○日水曜日 三時過から仕度をし、T・P・ …
読書目安時間:約3分
七月○日火曜日 散歩。 F子洗髪を肩に垂らしたまま出た。水瓜畑の間を通っていると、田舎の男の児、 狐の姐さん!化け姐さん! と囃した。 七月○日水曜日 三時過から仕度をし、T・P・ …
気になったこと(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
二月号をひっくりかえして見ていて気になったことお耳にいれます。(一)カットがまことに少く淋しいこと。(二)題がどれも原形で文学にまでなっていない題であることなどです。これは次号予告 …
読書目安時間:約1分
二月号をひっくりかえして見ていて気になったことお耳にいれます。(一)カットがまことに少く淋しいこと。(二)題がどれも原形で文学にまでなっていない題であることなどです。これは次号予告 …
きのうときょう:音楽が家庭にもたらすもの(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この間日比谷の公会堂であった自由学園の音楽教育成績発表会へ行って、それについての様々な感想につれて、自分たちが小さかった頃の生活のうちに、音楽がもたらしたあれこれの情景をなつかしく …
読書目安時間:約5分
この間日比谷の公会堂であった自由学園の音楽教育成績発表会へ行って、それについての様々な感想につれて、自分たちが小さかった頃の生活のうちに、音楽がもたらしたあれこれの情景をなつかしく …
木の芽だち:地方文化発展の意義(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
この頃は、日本じゅうのあちらこちらの都会を中心として、文化的な動きが著しくなって来ている。 これ迄、その町から一冊の雑誌も出ていなかったようなところからも、かなり念の入った出版物が …
読書目安時間:約10分
この頃は、日本じゅうのあちらこちらの都会を中心として、文化的な動きが著しくなって来ている。 これ迄、その町から一冊の雑誌も出ていなかったようなところからも、かなり念の入った出版物が …
気むずかしやの見物:――女形――蛇つかいのお絹・小野小町――(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
伝統的な女形と云うものの型に嵌って終始している間、彼等は何と云う手に入った風で楽々と演こなしていることだろう。きっちりと三絃にのり、きまりどころで引締め、のびのびと約束の順を追うて …
読書目安時間:約6分
伝統的な女形と云うものの型に嵌って終始している間、彼等は何と云う手に入った風で楽々と演こなしていることだろう。きっちりと三絃にのり、きまりどころで引締め、のびのびと約束の順を追うて …
逆襲をもって私は戦います(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
みなさん! 八十日間の検束の後自由を奪いかえして来た第一の挨拶を送ります。去る三月下旬以来、ファッショ化した帝国主義日本の官憲が狂気のような暴圧を日本プロレタリア文化連盟とその参加 …
読書目安時間:約4分
みなさん! 八十日間の検束の後自由を奪いかえして来た第一の挨拶を送ります。去る三月下旬以来、ファッショ化した帝国主義日本の官憲が狂気のような暴圧を日本プロレタリア文化連盟とその参加 …
九州の東海岸(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
細い流れがうねって引込んである。奥の植込みに、石南花が今を盛りに咲いていた。海、砂、五月の空、互になかなか美しい、もう一本目を牽く樹があった。すんなり枝を延ばし梢高く、樹肌がすべす …
読書目安時間:約7分
細い流れがうねって引込んである。奥の植込みに、石南花が今を盛りに咲いていた。海、砂、五月の空、互になかなか美しい、もう一本目を牽く樹があった。すんなり枝を延ばし梢高く、樹肌がすべす …
キュリー夫人(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
一九一四年の夏は、ピエール・キュリー街にラジウム研究所キュリー館ができ上ってキュリー夫人はそこの最後の仕上げの用事と、ソルボンヌ大学の学年末の用事とで、なかなか忙がしかった。フラン …
読書目安時間:約17分
一九一四年の夏は、ピエール・キュリー街にラジウム研究所キュリー館ができ上ってキュリー夫人はそこの最後の仕上げの用事と、ソルボンヌ大学の学年末の用事とで、なかなか忙がしかった。フラン …
キュリー夫人の命の焔(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
偉い女のひとというものは、歴史の上で何人かいますし、現在でも世界には幾人かの偉い婦人と呼ばれるにふさわしいひとがいるでしょう。 けれども、ひとくちに偉いと云っても、その内容はいろい …
読書目安時間:約10分
偉い女のひとというものは、歴史の上で何人かいますし、現在でも世界には幾人かの偉い婦人と呼ばれるにふさわしいひとがいるでしょう。 けれども、ひとくちに偉いと云っても、その内容はいろい …
暁光(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
去年の九月に、只一人の妹を失った事は、まことに私にとっては大打撃であって、今までに且つて経験した事のない悲しみと、厳かさを感じさせられた。 「時」のたゆみない力のために、それについ …
読書目安時間:約5分
去年の九月に、只一人の妹を失った事は、まことに私にとっては大打撃であって、今までに且つて経験した事のない悲しみと、厳かさを感じさせられた。 「時」のたゆみない力のために、それについ …
共産党公判を傍聴して(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
三月十五日は三・一五の記念日だから共産党の公判を傍聴に行こうとお友達○○○さんに誘われました。わたしはこれまで新聞で公判のことをときどき読んでいましたが、どうもよく本当の様子が分り …
読書目安時間:約10分
三月十五日は三・一五の記念日だから共産党の公判を傍聴に行こうとお友達○○○さんに誘われました。わたしはこれまで新聞で公判のことをときどき読んでいましたが、どうもよく本当の様子が分り …
共産党とモラル:三・一五によせて(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三・一五というと、今日では日本の解放運動史の上に、知らない人のない記念日となった。四・一六とならべて今年もわれわれに記念される日であるけれども、大体こういう記念日の今日へのうけとり …
読書目安時間:約4分
三・一五というと、今日では日本の解放運動史の上に、知らない人のない記念日となった。四・一六とならべて今年もわれわれに記念される日であるけれども、大体こういう記念日の今日へのうけとり …
業者と美術家の覚醒を促す(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
最近豪華版とか、限定版とか称する書籍を見る。少い部数で、一々本の番号を付し、非常に立派な装幀で、一見洵に豪華なものである。限られた少数の富裕な見手を目当てにしたものだろう。私達から …
読書目安時間:約1分
最近豪華版とか、限定版とか称する書籍を見る。少い部数で、一々本の番号を付し、非常に立派な装幀で、一見洵に豪華なものである。限られた少数の富裕な見手を目当てにしたものだろう。私達から …
共同耕作(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
裏のくぬぎ林のあっちをゴーゴーと二番の上りが通った。 とめはいそいで自分のたべた飯茶碗を流しの小桶の中へつけると、野良着へ手拭をしっかりかぶって、土間から自転車をひき出した。 「も …
読書目安時間:約7分
裏のくぬぎ林のあっちをゴーゴーと二番の上りが通った。 とめはいそいで自分のたべた飯茶碗を流しの小桶の中へつけると、野良着へ手拭をしっかりかぶって、土間から自転車をひき出した。 「も …
京都人の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
都会が、いろいろな特色をもっている。面白いことと思う。京都などこれまでちっとも知らず、近頃たまに来て、まだ馴れないよその人の目で見ると、感じ方が、その土地で暮している者とは違う。京 …
読書目安時間:約2分
都会が、いろいろな特色をもっている。面白いことと思う。京都などこれまでちっとも知らず、近頃たまに来て、まだ馴れないよその人の目で見ると、感じ方が、その土地で暮している者とは違う。京 …
きょうの写真(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
むかしの人たち、と云っても日本へ写真術が渡来して間もないころの人たちは、写真は、仕掛けでひとがたがとられるのだから、それだけ寿命がちぢまることだと、こわがった。きょうでの笑話だけれ …
読書目安時間:約1分
むかしの人たち、と云っても日本へ写真術が渡来して間もないころの人たちは、写真は、仕掛けでひとがたがとられるのだから、それだけ寿命がちぢまることだと、こわがった。きょうでの笑話だけれ …
漁村の婦人の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
随分昔のことであるけれども、房州の白浜へ行って海女のひとたちが海へ潜って働くのや天草とりに働く姿を見たことがあった。 あの辺の海は濤がきつく高くうちよせて巖にぶつかってとび散る飛沫 …
読書目安時間:約7分
随分昔のことであるけれども、房州の白浜へ行って海女のひとたちが海へ潜って働くのや天草とりに働く姿を見たことがあった。 あの辺の海は濤がきつく高くうちよせて巖にぶつかってとび散る飛沫 …
金色の秋の暮(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
十月三十一日晴 起きてみると誰の姿も見えず。庭の方でYとSさんらしい声がする。顔を洗っていると、さだが「おや」と裏の方から出て来た。 雨戸にかんかん日がさしている。芝生で椅子を並べ …
読書目安時間:約4分
十月三十一日晴 起きてみると誰の姿も見えず。庭の方でYとSさんらしい声がする。顔を洗っていると、さだが「おや」と裏の方から出て来た。 雨戸にかんかん日がさしている。芝生で椅子を並べ …
金色の口(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ある年、秋が深くなってからヴェルダンへ行ったときのことがこのごろ折にふれて幾度か思い出される。ヨーロッパ大戦のとき、ヴェルダンは北部フランスの激戦地の一つとして歴史にのこされた。 …
読書目安時間:約1分
ある年、秋が深くなってからヴェルダンへ行ったときのことがこのごろ折にふれて幾度か思い出される。ヨーロッパ大戦のとき、ヴェルダンは北部フランスの激戦地の一つとして歴史にのこされた。 …
『キング』で得をするのは誰か(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
サークル活動をするものの心得として、よく云われる言葉がある。それは、サークルというものは『キング』の読者をもひっくるめての文化的政治的組織でなければならないという言葉である。 現在 …
読書目安時間:約4分
サークル活動をするものの心得として、よく云われる言葉がある。それは、サークルというものは『キング』の読者をもひっくるめての文化的政治的組織でなければならないという言葉である。 現在 …
悔なき青春を:現場録音No.4 No.5をよんで(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
皆様の現場録音を拝見して、きょうの真面目な若い女性の心持に同感いたしました。いくつかの感想もあります。女子職員の声に出されていた質問とその答について順々にとりあげてゆきましょう。 …
読書目安時間:約7分
皆様の現場録音を拝見して、きょうの真面目な若い女性の心持に同感いたしました。いくつかの感想もあります。女子職員の声に出されていた質問とその答について順々にとりあげてゆきましょう。 …
偶感(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
非常に愛らしい妹を得ると同時に、危ぶんで居た母の健康も廻復期に向って来たので、私は今又とない歓びに身を横えて居る。 それに、来年の四月頃に、何か一つまとめた物を出して、知人の間にだ …
読書目安時間:約2分
非常に愛らしい妹を得ると同時に、危ぶんで居た母の健康も廻復期に向って来たので、私は今又とない歓びに身を横えて居る。 それに、来年の四月頃に、何か一つまとめた物を出して、知人の間にだ …
偶感一語(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分 …
読書目安時間:約10分
最近、昆虫学の泰斗として名声のあった某理学博士が、突然に逝去された報道は、自分に、暫くは呆然とする程の驚きと共に、深い深い二三の反省ともいうべきものを与えました。故博士に就て、自分 …
グースベリーの熟れる頃(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
小村をかこんだ山々の高い峯は夕日のさす毎に絵で見る様な美くしい色になりすぐその下の池は白い藻の花が夏のはじめから秋の来るまで咲きつづける東北には珍らしいほどかるい、色の美くしい景色 …
読書目安時間:約13分
小村をかこんだ山々の高い峯は夕日のさす毎に絵で見る様な美くしい色になりすぐその下の池は白い藻の花が夏のはじめから秋の来るまで咲きつづける東北には珍らしいほどかるい、色の美くしい景色 …
九月の或る日(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
網野さんの小説集『光子』が出たとき私共はよろこび、何か心ばかりの御祝でもしたいと思った。出版記念の会などというものはなかなか感情が純一に行かないものだし、第一そういう趣味は網野さん …
読書目安時間:約11分
網野さんの小説集『光子』が出たとき私共はよろこび、何か心ばかりの御祝でもしたいと思った。出版記念の会などというものはなかなか感情が純一に行かないものだし、第一そういう趣味は網野さん …
草の根元(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
五時に近い日差しが、ガラス窓にうす黄色くまどろんで居る。 さっきまで、上を向いて見ると、眼の底から涙のにじみ出すほど隈なくはれ渡って、碧い色をして居た空にいつの間にかモヤモヤした煤 …
読書目安時間:約3分
五時に近い日差しが、ガラス窓にうす黄色くまどろんで居る。 さっきまで、上を向いて見ると、眼の底から涙のにじみ出すほど隈なくはれ渡って、碧い色をして居た空にいつの間にかモヤモヤした煤 …
くちなし(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
童心 うちから二人出征している。一人は世帯持ちであるがもう一人の方はひとり者だから、手紙をうち気付でよこす約束にして出発して行った。 行ったきり永い間何のおとさたもなかった。四ヵ月 …
読書目安時間:約8分
童心 うちから二人出征している。一人は世帯持ちであるがもう一人の方はひとり者だから、手紙をうち気付でよこす約束にして出発して行った。 行ったきり永い間何のおとさたもなかった。四ヵ月 …
『くにのあゆみ』について(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
去年の八月からきょうまで、十四ヵ月ほどの間、日本じゅう幾百万の国民学校の上級児童は、日本の歴史教科書というものを失っていた。 小学校令が行われ、国定教科書で教えるという方法がきまっ …
読書目安時間:約3分
去年の八月からきょうまで、十四ヵ月ほどの間、日本じゅう幾百万の国民学校の上級児童は、日本の歴史教科書というものを失っていた。 小学校令が行われ、国定教科書で教えるという方法がきまっ …
久野さんの死(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
最近私の心を大きく搏ったことは久野久子さんの死です。わたしは小さい頃あの方から三年程ピアノを教えて頂いたことがあるものですからね。先生として、芸術家として、そしてまた女として考えさ …
読書目安時間:約1分
最近私の心を大きく搏ったことは久野久子さんの死です。わたしは小さい頃あの方から三年程ピアノを教えて頂いたことがあるものですからね。先生として、芸術家として、そしてまた女として考えさ …
窪川稲子のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。私はその頃本郷の下宿にいて、そこで会ったように思 …
読書目安時間:約7分
窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。私はその頃本郷の下宿にいて、そこで会ったように思 …
暮の街(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
銀座の通りを歩いていたらば、一つの飾窓の前に人だかりがしている。近よって見るとそこには法廷に立っているお定の写真が掲げられているのであった。 数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心 …
読書目安時間:約4分
銀座の通りを歩いていたらば、一つの飾窓の前に人だかりがしている。近よって見るとそこには法廷に立っているお定の写真が掲げられているのであった。 数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心 …
黒い驢馬と白い山羊(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
八月の十五日は、晴れた夜が多いのに、九月の十五夜は、いつも曇り勝だ。 今年は珍しく快晴で、令子も縁側から月見をした。 澄み輝き大らかな月が、ポプラーの梢の上にのぼると、月に浮かされ …
読書目安時間:約4分
八月の十五日は、晴れた夜が多いのに、九月の十五夜は、いつも曇り勝だ。 今年は珍しく快晴で、令子も縁側から月見をした。 澄み輝き大らかな月が、ポプラーの梢の上にのぼると、月に浮かされ …
黒馬車(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
時候あたりだろうと云って居た宮部の加減は、よくなるどころか却って熱なども段々上り気味になって来た。 地体夏に弱い上に、此の間どうしたのか頭の工合を悪くして三日ほど床について居た揚句 …
読書目安時間:約9分
時候あたりだろうと云って居た宮部の加減は、よくなるどころか却って熱なども段々上り気味になって来た。 地体夏に弱い上に、此の間どうしたのか頭の工合を悪くして三日ほど床について居た揚句 …
芸術家と国語(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日本語と云うものが、地球上、余り狭小な部分にのみ通用する国語であると云うことは、文筆に携る者にとって、功利的に考えれば、第一、損な立場であると思います。 使用上、所謂、敬語、階級的 …
読書目安時間:約1分
日本語と云うものが、地球上、余り狭小な部分にのみ通用する国語であると云うことは、文筆に携る者にとって、功利的に考えれば、第一、損な立場であると思います。 使用上、所謂、敬語、階級的 …
芸術が必要とする科学(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
去年の八月頃のことであった。三日ばかり極端に暑気のはげしい日がつづいた。日の当らないところに坐っていても汗が体から流れてハンケチなんか忽ち水でしぼったようになった。その時の私の生活 …
読書目安時間:約13分
去年の八月頃のことであった。三日ばかり極端に暑気のはげしい日がつづいた。日の当らないところに坐っていても汗が体から流れてハンケチなんか忽ち水でしぼったようになった。その時の私の生活 …
ケーテ・コルヴィッツの画業(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
ここに一枚のスケッチがある。のどもとのつまった貧しい服装をした中年の女がドアの前に佇み、永年の力仕事で節の大きく高くなった手で、そのドアをノックしている。貧しさの中でも慎しみぶかく …
読書目安時間:約22分
ここに一枚のスケッチがある。のどもとのつまった貧しい服装をした中年の女がドアの前に佇み、永年の力仕事で節の大きく高くなった手で、そのドアをノックしている。貧しさの中でも慎しみぶかく …
今朝の雪(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
太陽が照り出すと、あたりに陽気な雪解けの音が響きはじめた。 どこかの屋根から小さい地響きを立てて雪がすべり落ちる。いろいろな音いろで、雨だれがきこえはじめ、向いの活版屋の二階庇にせ …
読書目安時間:約25分
太陽が照り出すと、あたりに陽気な雪解けの音が響きはじめた。 どこかの屋根から小さい地響きを立てて雪がすべり落ちる。いろいろな音いろで、雨だれがきこえはじめ、向いの活版屋の二階庇にせ …
結婚相手の性行を知る最善の方法(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
第一、相手の性行を単時間に、而して何等かの先入的憧憬又は羞恥を持った人が、平生に観察し得るだけの素養と直覚とを持ているか如何か、ということが大きな根本的な問題と存じます。 第二、若 …
読書目安時間:約1分
第一、相手の性行を単時間に、而して何等かの先入的憧憬又は羞恥を持った人が、平生に観察し得るだけの素養と直覚とを持ているか如何か、ということが大きな根本的な問題と存じます。 第二、若 …
結婚に関し、レークジョージ、雑(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
黄銅時代の為 ○オイケンの偉人と人生観より、p.9 「精神の領分に於ては、個々の部分の総和其ものが決して全体を生じないと云う点に一致して居る」 此は、二人の人間の精神的産物は、二つ …
読書目安時間:約1分
黄銅時代の為 ○オイケンの偉人と人生観より、p.9 「精神の領分に於ては、個々の部分の総和其ものが決して全体を生じないと云う点に一致して居る」 此は、二人の人間の精神的産物は、二つ …
結婚に際して親子の意見が相違した場合は(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
情けないことだが、一時のこととしても親に左様ならという覚悟をするしかないでしょう。その上、根気よく互に解り合おうとする真心を失わずにやって行く。 〔一九二四年十月〕 …
読書目安時間:約1分
情けないことだが、一時のこととしても親に左様ならという覚悟をするしかないでしょう。その上、根気よく互に解り合おうとする真心を失わずにやって行く。 〔一九二四年十月〕 …
「結婚の生態」(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひ …
読書目安時間:約6分
石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひ …
結婚問題に就て考慮する迄(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
黄銅時代の為に、 ○彼は丁度四月の末に幼葉をつけた古い柿のような心持のする人である。 くすんだ色の幹や、いかつい角で曲って居る枝。その黒い枝の先々に、丸味のある柔かい若葉が子供らし …
読書目安時間:約4分
黄銅時代の為に、 ○彼は丁度四月の末に幼葉をつけた古い柿のような心持のする人である。 くすんだ色の幹や、いかつい角で曲って居る枝。その黒い枝の先々に、丸味のある柔かい若葉が子供らし …
結婚論の性格(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
この頃は、結婚の問題がめだっている。この一年ばかりのうちに、私たち女性の前には早婚奨励、子宝奨励、健全結婚への資金貸与というような現象がかさなりあってあらわれてきている。そして、ど …
読書目安時間:約17分
この頃は、結婚の問題がめだっている。この一年ばかりのうちに、私たち女性の前には早婚奨励、子宝奨励、健全結婚への資金貸与というような現象がかさなりあってあらわれてきている。そして、ど …
結集(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
これまで私たちは云いたいことを云えなかったし、聞きたい話もきかれなかった。この頃になって、ぼつりぼつりと印象の深い話が耳に入るようになって来た。東京の郊外に武蔵野の雑木林にかこまれ …
読書目安時間:約3分
これまで私たちは云いたいことを云えなかったし、聞きたい話もきかれなかった。この頃になって、ぼつりぼつりと印象の深い話が耳に入るようになって来た。東京の郊外に武蔵野の雑木林にかこまれ …
結論をいそがないで(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
シベリヤ生活の間でみたこと、聞いたこと、感じたことは、本当にさぞどっさりなことでしょう。それを書かずにいられない心持は十分分ります。それだのに「書けない」のは、どんな原因から来てい …
読書目安時間:約3分
シベリヤ生活の間でみたこと、聞いたこと、感じたことは、本当にさぞどっさりなことでしょう。それを書かずにいられない心持は十分分ります。それだのに「書けない」のは、どんな原因から来てい …
毛の指環(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
その家は夏だけ開いた。 冬から春へかけて永い間、そこは北の田舎で特別その数ヵ月は歩調遅く過ぎるのだが、家は裏も表も雨戸を閉めきりだ。屋根に突出した煙の出ぬ細い黒い煙突を打って初冬の …
読書目安時間:約9分
その家は夏だけ開いた。 冬から春へかけて永い間、そこは北の田舎で特別その数ヵ月は歩調遅く過ぎるのだが、家は裏も表も雨戸を閉めきりだ。屋根に突出した煙の出ぬ細い黒い煙突を打って初冬の …
『健康会議』創作選評(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
十篇の応募作品をよんだ。出来・不出来はあるにしろ、そのどれもを貫いて流れているのは、日本の結核療養に必要な社会施設のとぼしさと、そこからおこる闘病の苦しく複雑な現実の思いである。ベ …
読書目安時間:約6分
十篇の応募作品をよんだ。出来・不出来はあるにしろ、そのどれもを貫いて流れているのは、日本の結核療養に必要な社会施設のとぼしさと、そこからおこる闘病の苦しく複雑な現実の思いである。ベ …
健康な美術のために(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
松山文雄さんがこの頃益々一心に画業をはげんで居られることは友人たちの間で知らぬものはないと思います。 清潔な生活感情をもちつづけて、芸術家が今日成長を重ねてゆくのはまことに一事業で …
読書目安時間:約1分
松山文雄さんがこの頃益々一心に画業をはげんで居られることは友人たちの間で知らぬものはないと思います。 清潔な生活感情をもちつづけて、芸術家が今日成長を重ねてゆくのはまことに一事業で …
現今の少女小説について(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
今行われる少女小説について私は自分の荷にあまるほどいろいろの事を考えさせられるんです。 一寸行きずりに本屋の店をのぞいても飾ってある少女小説の数はほんとうに沢山でそれで又何故だか、 …
読書目安時間:約7分
今行われる少女小説について私は自分の荷にあまるほどいろいろの事を考えさせられるんです。 一寸行きずりに本屋の店をのぞいても飾ってある少女小説の数はほんとうに沢山でそれで又何故だか、 …
現実と文学:思意的な生活感情(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
十一月号の『中央公論』に「杉垣」という短篇を書いた。その評の一つとして武田麟太郎氏の月評が『読売新聞』に出ているのを読んだ。 「勤め人夫婦が激動する時代の波濤の中でいかに理性的に生 …
読書目安時間:約6分
十一月号の『中央公論』に「杉垣」という短篇を書いた。その評の一つとして武田麟太郎氏の月評が『読売新聞』に出ているのを読んだ。 「勤め人夫婦が激動する時代の波濤の中でいかに理性的に生 …
現実に立って:婦人が政治をどう見るか(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
新聞に、ぽつぽつと婦人代議士として立候補を予測される人々の写真などがのりはじめた。自分ではっきり立候補の計画をもっている婦人たちは、ふさわしいと判断した政党に入党手続をしたと報道さ …
読書目安時間:約10分
新聞に、ぽつぽつと婦人代議士として立候補を予測される人々の写真などがのりはじめた。自分ではっきり立候補の計画をもっている婦人たちは、ふさわしいと判断した政党に入党手続をしたと報道さ …
現実の必要:総選挙に際して(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
選挙が迫って来ている。人の気質によっては、こういうことに大して心をひかれないたちのものもある。そういう人は、これまで余り選挙などに熱中しないで、時には棄権もして来たかもしれない。信 …
読書目安時間:約9分
選挙が迫って来ている。人の気質によっては、こういうことに大して心をひかれないたちのものもある。そういう人は、これまで余り選挙などに熱中しないで、時には棄権もして来たかもしれない。信 …
現実の道:女も仕事をもて(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
先日はどうも失礼。久しぶりでお目にかかったし、元気に働いていらっしゃる御様子だったので、私もたいへんいい心持でした。 ところで、あなたは大きい宿題をのこしていらっしゃいましたね。永 …
読書目安時間:約12分
先日はどうも失礼。久しぶりでお目にかかったし、元気に働いていらっしゃる御様子だったので、私もたいへんいい心持でした。 ところで、あなたは大きい宿題をのこしていらっしゃいましたね。永 …
現実の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
『輝ク』を今日拝見していろいろ面白く感じ、同時に相すまなく感じました。この前原稿を御送りするよう、お約束しておきながらそれが果せず、少なからず御迷惑をかけたことについてです。何卒お …
読書目安時間:約2分
『輝ク』を今日拝見していろいろ面白く感じ、同時に相すまなく感じました。この前原稿を御送りするよう、お約束しておきながらそれが果せず、少なからず御迷惑をかけたことについてです。何卒お …
「建設の明暗」の印象(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自 …
読書目安時間:約4分
新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自 …
“健全性”の難しさ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この間田舎へかえる親戚のもののお伴をして珍しく歌舞伎座を観た。十一月のことで、序幕に敵国降伏、大詰に笠沙高千穂を据えた番組であった。 この芝居をみていて深く感じたことは演劇のとりし …
読書目安時間:約2分
この間田舎へかえる親戚のもののお伴をして珍しく歌舞伎座を観た。十一月のことで、序幕に敵国降伏、大詰に笠沙高千穂を据えた番組であった。 この芝居をみていて深く感じたことは演劇のとりし …
現代史の蝶つがい:大統領選挙の感想(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
こんどのアメリカ大統領選挙でトルーマンが勝利したことは、デューイをおどろかしたばかりでなく、日本の一部のジャーナリストをだいぶめんくらわせたらしかった。日本時間で十一月四日の午前、 …
読書目安時間:約19分
こんどのアメリカ大統領選挙でトルーマンが勝利したことは、デューイをおどろかしたばかりでなく、日本の一部のジャーナリストをだいぶめんくらわせたらしかった。日本時間で十一月四日の午前、 …
現代女性に就いて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
もとから女の生活には様々の困難な社会的事情があって、その困難性を自覚している婦人にはそれとしての、又自覚しない部分には自覚しないことから来ている沢山の困難がありました。この頃の社会 …
読書目安時間:約1分
もとから女の生活には様々の困難な社会的事情があって、その困難性を自覚している婦人にはそれとしての、又自覚しない部分には自覚しないことから来ている沢山の困難がありました。この頃の社会 …
「現代日本小説大系」刊行委員会への希望(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「現代日本小説大系」が刊行される意味は、ただ日本の近代文学をもう一遍よみかえし、検討し、将来の文学に寄与するという風な、すべてのこれまでの刊行会の挨拶の範囲では、使命が果されないと …
読書目安時間:約1分
「現代日本小説大系」が刊行される意味は、ただ日本の近代文学をもう一遍よみかえし、検討し、将来の文学に寄与するという風な、すべてのこれまでの刊行会の挨拶の範囲では、使命が果されないと …
現代の心をこめて:羽仁五郎著『ミケルアンジェロ』(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
羽仁五郎氏は、この真心を傾けて執筆された独特な伝記を、有名なダヴィテの像に今日見ることの出来るミケルアンジェロの不滅の生命から語りはじめていられる。「ミケルアンジェロは、いま、生き …
読書目安時間:約5分
羽仁五郎氏は、この真心を傾けて執筆された独特な伝記を、有名なダヴィテの像に今日見ることの出来るミケルアンジェロの不滅の生命から語りはじめていられる。「ミケルアンジェロは、いま、生き …
現代の主題(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
民主日本の出発ということがいわれてから一年が経過した。日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争 …
読書目安時間:約24分
民主日本の出発ということがいわれてから一年が経過した。日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争 …
「現代百婦人録」問合せに答えて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
1明治三十二年二月十三日東京市 2東京市豊島区目白三ノ三五七〇 3お茶の水 4文学の仕事は好きではじめました。私たちが夫々の時代に生きている、そのことのうちに書かせずにおかない何か …
読書目安時間:約1分
1明治三十二年二月十三日東京市 2東京市豊島区目白三ノ三五七〇 3お茶の水 4文学の仕事は好きではじめました。私たちが夫々の時代に生きている、そのことのうちに書かせずにおかない何か …
現代文学の広場:創作方法のこと・そのほか(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
去年おしつまってから肉体派小説、中間小説の作者と一部の作家・批評家との間に、ちょっとしたやりとりがあって注目をひいた。 その討論に、三好十郎も出場して「小豚派作家論」という題をもつ …
読書目安時間:約19分
去年おしつまってから肉体派小説、中間小説の作者と一部の作家・批評家との間に、ちょっとしたやりとりがあって注目をひいた。 その討論に、三好十郎も出場して「小豚派作家論」という題をもつ …
権力の悲劇(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
八月のある日、わたしは偶然新聞の上に一つの写真を見た。その写真にとられている外国人の一家団欒の情景が、わたしの目をひいた。背景には、よく手入れされたひろい庭園と芝生の上に、若い父親 …
読書目安時間:約10分
八月のある日、わたしは偶然新聞の上に一つの写真を見た。その写真にとられている外国人の一家団欒の情景が、わたしの目をひいた。背景には、よく手入れされたひろい庭園と芝生の上に、若い父親 …
小祝の一家(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
二月の夜、部屋に火の気というものがない。 乙女は肩当てが穢れた染絣の掻巻をはおり、灰のかたまった茶色の丸い瀬戸火鉢の上へヘラ台の畳んだのを渡したところへ腰かけ、テーブルへ顔を伏せて …
読書目安時間:約31分
二月の夜、部屋に火の気というものがない。 乙女は肩当てが穢れた染絣の掻巻をはおり、灰のかたまった茶色の丸い瀬戸火鉢の上へヘラ台の畳んだのを渡したところへ腰かけ、テーブルへ顔を伏せて …
斯ういう気持(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「——春になると埃っぽいな——今日風呂が立つかい」 「そうね、どうしようかと思ってるのよ、少し風が強いから」 「じゃあ一寸行って来よう」 「立ててもよくてよ」 「行って来る方が雑作 …
読書目安時間:約9分
「——春になると埃っぽいな——今日風呂が立つかい」 「そうね、どうしようかと思ってるのよ、少し風が強いから」 「じゃあ一寸行って来よう」 「立ててもよくてよ」 「行って来る方が雑作 …
こういう月評が欲しい(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
毎月いくつかのプロレタリア小説、ブルジョア小説が、いろいろな雑誌に発表される。 つづいて、新聞その他に文芸批評が現れる。この頃のブルジョア・ジャーナリズムは、例えば『朝日新聞』が今 …
読書目安時間:約4分
毎月いくつかのプロレタリア小説、ブルジョア小説が、いろいろな雑誌に発表される。 つづいて、新聞その他に文芸批評が現れる。この頃のブルジョア・ジャーナリズムは、例えば『朝日新聞』が今 …
行為の価値(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春 …
読書目安時間:約5分
オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春 …
幸運の手紙のよりどころ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
幸運の手紙というものは、私自身としては送られたことがない。もし送られたら、多分そのまますててしまうだろうと思うけれども、立ちどころに厄災来る、というようなことが書かれていたら、やっ …
読書目安時間:約3分
幸運の手紙というものは、私自身としては送られたことがない。もし送られたら、多分そのまますててしまうだろうと思うけれども、立ちどころに厄災来る、というようなことが書かれていたら、やっ …
豪華版(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
どんな作家でも、自分の書く本が立派にこしらえられ、そして見事に売れることをよろこびとする。しかし、その自然なこころもちは、時代のいろいろの関係で、あながち、芸術的に発露されにくい。 …
読書目安時間:約4分
どんな作家でも、自分の書く本が立派にこしらえられ、そして見事に売れることをよろこびとする。しかし、その自然なこころもちは、時代のいろいろの関係で、あながち、芸術的に発露されにくい。 …
格子縞の毛布(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
縮毛(ちぢれげ)のいほは、女中をやめた。 毎日風呂にゆき、ひびがすっかりなおると、彼女は銘仙の着物を着て、自分のように他処でまだ女中をしている国の友達や、屑屋をしている親戚を訪問し …
読書目安時間:約6分
縮毛(ちぢれげ)のいほは、女中をやめた。 毎日風呂にゆき、ひびがすっかりなおると、彼女は銘仙の着物を着て、自分のように他処でまだ女中をしている国の友達や、屑屋をしている親戚を訪問し …
工場労働者の生活について(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
○長や玉やの玉のブつかる音。小さい家から一日じゅうラジオか、やすチク音キがきこえる。窓からとび込んで来る猫。葬儀やの二階の講。台所にタライにビールをつけてある。ベコベコジャミセン …
読書目安時間:約6分
○長や玉やの玉のブつかる音。小さい家から一日じゅうラジオか、やすチク音キがきこえる。窓からとび込んで来る猫。葬儀やの二階の講。台所にタライにビールをつけてある。ベコベコジャミセン …
光線のように(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
若いこころと体とがもっている様々の新鮮な波。さまざまな光と影とは、何と不思議でつかまえにくくて、そして激しいでしょう。若さは、自分で知らないうちにもうきのうの自分の限界をこえていま …
読書目安時間:約1分
若いこころと体とがもっている様々の新鮮な波。さまざまな光と影とは、何と不思議でつかまえにくくて、そして激しいでしょう。若さは、自分で知らないうちにもうきのうの自分の限界をこえていま …
高台寺(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
三等の切符を買って、平土間の最前列に座った。一番終りの日で、彼等の後は棧敷の隅までぎっしりの人であった。一間と離れぬところに、舞台が高く見えた。 やがて囃が始り、短い序詞がすむと、 …
読書目安時間:約14分
三等の切符を買って、平土間の最前列に座った。一番終りの日で、彼等の後は棧敷の隅までぎっしりの人であった。一間と離れぬところに、舞台が高く見えた。 やがて囃が始り、短い序詞がすむと、 …
後庭(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いつもの様に私は本を持って庭に出た。 書斎の前の木の茂みの深い間々を、静かに読みながら行き来すると、ピッタリと落つきを持って生えた苔の美くしい地面の何とも云えず好い一種の香いが、モ …
読書目安時間:約4分
いつもの様に私は本を持って庭に出た。 書斎の前の木の茂みの深い間々を、静かに読みながら行き来すると、ピッタリと落つきを持って生えた苔の美くしい地面の何とも云えず好い一種の香いが、モ …
幸福について(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
私たちが日頃、一番求めているのは、何かといえば、それは幸福であるとおもうのです。 あなた方は、みんなお若い方たちでいらっしゃるし、毎日生きていらっしゃる限り希望というものを、どこか …
読書目安時間:約19分
私たちが日頃、一番求めているのは、何かといえば、それは幸福であるとおもうのです。 あなた方は、みんなお若い方たちでいらっしゃるし、毎日生きていらっしゃる限り希望というものを、どこか …
幸福の感覚(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
幸福というものについて、おそらく人間は永久に考えるだろうと思う。いろんな時代がこれから人類の歴史にもたらされて、その内容は、きょう生きている私たちの文明の程度では予想もしなかったよ …
読書目安時間:約15分
幸福というものについて、おそらく人間は永久に考えるだろうと思う。いろんな時代がこれから人類の歴史にもたらされて、その内容は、きょう生きている私たちの文明の程度では予想もしなかったよ …
幸福の建設(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
今日のこの場所は割合にせもうございますけれども、この前の第一回の時においで下さいました方は、よくくらべればおわかりになるでしょうが、この場所は何かクラブの集まりの場所には気持がよい …
読書目安時間:約31分
今日のこの場所は割合にせもうございますけれども、この前の第一回の時においで下さいました方は、よくくらべればおわかりになるでしょうが、この場所は何かクラブの集まりの場所には気持がよい …
幸福のために(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
いよいよ、四月十日も迫って参りました。私たち二千九十一万余人の婦人有権者は、生れてはじめて、自分たちの政治のために、一票を投じる日を迎えることとなりました。 婦人ばかりでなく、男の …
読書目安時間:約6分
いよいよ、四月十日も迫って参りました。私たち二千九十一万余人の婦人有権者は、生れてはじめて、自分たちの政治のために、一票を投じる日を迎えることとなりました。 婦人ばかりでなく、男の …
紅葉山人と一葉女史(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今まで、紅葉山人の全集をすっかり読んだ事がなかった。 こないだ叔父の処へ行って二冊ばかり借りて来て、初めて、四つ五つとつづけて読んで居る内にフト気づいた事がある。 それは、一葉全集 …
読書目安時間:約5分
今まで、紅葉山人の全集をすっかり読んだ事がなかった。 こないだ叔父の処へ行って二冊ばかり借りて来て、初めて、四つ五つとつづけて読んで居る内にフト気づいた事がある。 それは、一葉全集 …
「小売商人の不正事実」について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
所謂出入商人の、種々な間違いや「つけがけ」をふせぐために、出来るだけ現金払いにしているので、生憎、はっきりした数字的の事実はあげられません。相当な注意をもって比較した結果、信用した …
読書目安時間:約1分
所謂出入商人の、種々な間違いや「つけがけ」をふせぐために、出来るだけ現金払いにしているので、生憎、はっきりした数字的の事実はあげられません。相当な注意をもって比較した結果、信用した …
講和問題について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかっ …
読書目安時間:約2分
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかっ …
声(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
或、若い女が、真心をこめて一人の男を愛した。そして、結婚し、三年経った。けれども、或日その若い女は、 「ああ苦しい、苦しい!可愛い人。私は貴方が可愛いのよ、だけれども苦しくて、息が …
読書目安時間:約1分
或、若い女が、真心をこめて一人の男を愛した。そして、結婚し、三年経った。けれども、或日その若い女は、 「ああ苦しい、苦しい!可愛い人。私は貴方が可愛いのよ、だけれども苦しくて、息が …
「ゴーリキイ伝」の遅延について(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私が、ゴーリキイの評伝を一冊にまとめて見たいと思った動機は二つあった。一つは、どちらかというと外部的な事情であった。 ゴーリキイが亡くなった後、私は、数篇の感想や評伝的なものを書い …
読書目安時間:約3分
私が、ゴーリキイの評伝を一冊にまとめて見たいと思った動機は二つあった。一つは、どちらかというと外部的な事情であった。 ゴーリキイが亡くなった後、私は、数篇の感想や評伝的なものを書い …
氷蔵の二階(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆塵埃(ほこり)を立てた。まして、今は春だし、練兵場の …
読書目安時間:約37分
表の往来には電車が通った。トラックも通った。時には多勢の兵隊が四列になってザック、ザック、鞣や金具の音をさせ、通った。それ等が皆塵埃(ほこり)を立てた。まして、今は春だし、練兵場の …
木蔭の椽(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今朝は、家じゅうが目醒しで起きた。Yが京都へ特急で立つのだ。ゆうべ、N氏のところを訪ね、十一時すぎに帰ってから風呂に入った。よく眠り、目醒しが鳴った始めの方を聞きとれなかったらしい …
読書目安時間:約5分
今朝は、家じゅうが目醒しで起きた。Yが京都へ特急で立つのだ。ゆうべ、N氏のところを訪ね、十一時すぎに帰ってから風呂に入った。よく眠り、目醒しが鳴った始めの方を聞きとれなかったらしい …
五月のことば(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
去年の暮、福田恆存は、一九四九年を通観して、「知識人の敗北」の年と概括をした。これは、評論家としての氏にとって、きわめて意味のふかい一つの刻みめを印した発言となった。なぜならば、一 …
読書目安時間:約3分
去年の暮、福田恆存は、一九四九年を通観して、「知識人の敗北」の年と概括をした。これは、評論家としての氏にとって、きわめて意味のふかい一つの刻みめを印した発言となった。なぜならば、一 …
五月の空(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
一九二二年五月 或午後、机に向って居ると、私の心に、突然、或諧調のある言葉が、感情につれて湧き上った。 丁度、或なおしものの小説を始めようかとして居、巧く運ばないので苦しかったので …
読書目安時間:約11分
一九二二年五月 或午後、机に向って居ると、私の心に、突然、或諧調のある言葉が、感情につれて湧き上った。 丁度、或なおしものの小説を始めようかとして居、巧く運ばないので苦しかったので …
五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
一九三〇年の夏のことだ。 ソヴェト同盟では、世界のブルジョア学者、政治家が口を揃えて嘲弄した生産拡張の五ヵ年計画をあらゆる革命的勤労者の支持と、偉大な努力とで、第二年目を終ろうとし …
読書目安時間:約28分
一九三〇年の夏のことだ。 ソヴェト同盟では、世界のブルジョア学者、政治家が口を揃えて嘲弄した生産拡張の五ヵ年計画をあらゆる革命的勤労者の支持と、偉大な努力とで、第二年目を終ろうとし …
五ヵ年計画とソヴェトの芸術(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間57分
短い前書 ソヴェト同盟の生産面における五ヵ年計画というものは、今度はじめて試みられたものではなかった。誰でも知る通り、ソヴェト同盟の全生産は国家計画部と最高経済会議とが中心となって …
読書目安時間:約1時間57分
短い前書 ソヴェト同盟の生産面における五ヵ年計画というものは、今度はじめて試みられたものではなかった。誰でも知る通り、ソヴェト同盟の全生産は国家計画部と最高経済会議とが中心となって …
故郷の話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
朝夕、早春らしい寒さのゆるみが感じられるようになってきた。 日本の気候は四季のうつりかわりが、こまやかであるから、冬がすぎて寒いながらも素足のたたみざわりがさわやかに思われて来たり …
読書目安時間:約3分
朝夕、早春らしい寒さのゆるみが感じられるようになってきた。 日本の気候は四季のうつりかわりが、こまやかであるから、冬がすぎて寒いながらも素足のたたみざわりがさわやかに思われて来たり …
刻々(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間13分
朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑 …
読書目安時間:約1時間13分
朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑 …
国際観光局の映画試写会(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
五月十九日の朝。日比谷映画劇場へ、国際観光局の映画の試写を見に行った。「富士山」、「日本の女性」。 そのとき挨拶をしたのは観光局の役人で、スマートなダブルの左右のポケットへ両手の先 …
読書目安時間:約1分
五月十九日の朝。日比谷映画劇場へ、国際観光局の映画の試写を見に行った。「富士山」、「日本の女性」。 そのとき挨拶をしたのは観光局の役人で、スマートなダブルの左右のポケットへ両手の先 …
国際婦人デーへのメッセージ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
みなさま。 一九五〇年ということしの国際婦人デーこそ、世界のあらゆる国々で、平和を愛し、民族の独立をねがう婦人たちが、心からの願いに立って発言し、行動する日であると思います。 これ …
読書目安時間:約5分
みなさま。 一九五〇年ということしの国際婦人デーこそ、世界のあらゆる国々で、平和を愛し、民族の独立をねがう婦人たちが、心からの願いに立って発言し、行動する日であると思います。 これ …
国際民婦連へのメッセージ:「女性を守る会」から(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
最近の統計によると、日本人の人口比率において婦人の人口が三百万ばかり男子人口よりも多くなっていることが示されました。 この事実は何を物語っていることでしょう?この簡単な数字は野蛮な …
読書目安時間:約5分
最近の統計によると、日本人の人口比率において婦人の人口が三百万ばかり男子人口よりも多くなっていることが示されました。 この事実は何を物語っていることでしょう?この簡単な数字は野蛮な …
国際無産婦人デーに際して:作家同盟各支部に婦人委員会をつくれ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
去年の秋、日本プロレタリア作家同盟はその中央常任委員会に属する一つの文学的活動機能として婦人委員会を設けた。 元来プロレタリア文学の中に特別な婦人のプロレタリア文学などというものは …
読書目安時間:約11分
去年の秋、日本プロレタリア作家同盟はその中央常任委員会に属する一つの文学的活動機能として婦人委員会を設けた。 元来プロレタリア文学の中に特別な婦人のプロレタリア文学などというものは …
獄中への手紙:01 一九三四年(昭和九年)(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
十二月八日〔牛込区富久町一一二市ヶ谷刑務所の宮本顕治宛淀橋区上落合二ノ七四〇より(封書)〕 第一信。(不許) これは何と不思議な心持でしょう。ずっと前から手紙をかくときのことをいろ …
読書目安時間:約30分
十二月八日〔牛込区富久町一一二市ヶ谷刑務所の宮本顕治宛淀橋区上落合二ノ七四〇より(封書)〕 第一信。(不許) これは何と不思議な心持でしょう。ずっと前から手紙をかくときのことをいろ …
獄中への手紙:02 一九三五年(昭和十年)(新字新仮名)
読書目安時間:約40分
一月五日〔市ヶ谷刑務所の顕治宛上落合より(封書)〕 あけましてお目出度う。私たちの三度目の正月です。元日は、大変暖かで雨も朝はやみ、うららかでしたが、そちらであの空をご覧になりまし …
読書目安時間:約40分
一月五日〔市ヶ谷刑務所の顕治宛上落合より(封書)〕 あけましてお目出度う。私たちの三度目の正月です。元日は、大変暖かで雨も朝はやみ、うららかでしたが、そちらであの空をご覧になりまし …
獄中への手紙:03 一九三六年(昭和十一年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間40分
四月十五日 今晩は。 いま、夜の八時十分前。一九三六年四月十五日。慶応の病室。スエ子は緑郎の作曲が演奏される音楽会へ出かけてゆき、私ひとり室の隅の机に向って、これを書いて居ます。 …
読書目安時間:約1時間40分
四月十五日 今晩は。 いま、夜の八時十分前。一九三六年四月十五日。慶応の病室。スエ子は緑郎の作曲が演奏される音楽会へ出かけてゆき、私ひとり室の隅の机に向って、これを書いて居ます。 …
獄中への手紙:04 一九三七年(昭和十二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間44分
一月八日午後〔市ヶ谷刑務所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 一月八日第二十六信 晴れ。五十一度。緑郎のピアノの音頻り。 今年の正月は去年とくらべて大変寒さがゆるんで居りますね。そちら …
読書目安時間:約3時間44分
一月八日午後〔市ヶ谷刑務所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 一月八日第二十六信 晴れ。五十一度。緑郎のピアノの音頻り。 今年の正月は去年とくらべて大変寒さがゆるんで居りますね。そちら …
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間30分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 第二信きょうは風がきついけれどもいい天気。二三日あっちこっちしていて、こうやって机に向ってゆっくりこれを書くのがいい心持です。きのうはあれか …
読書目安時間:約7時間30分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 第二信きょうは風がきついけれどもいい天気。二三日あっちこっちしていて、こうやって机に向ってゆっくりこれを書くのがいい心持です。きのうはあれか …
獄中への手紙:06 一九三九年(昭和十四年)(新字新仮名)
読書目安時間:約12時間22分
一月一日〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛四谷区西信濃町慶応義塾大学病院内い号の下より(封書)〕 一月一日第一信。 あけましてお目出とう。今年もまたいい一年を暮しまし …
読書目安時間:約12時間22分
一月一日〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛四谷区西信濃町慶応義塾大学病院内い号の下より(封書)〕 一月一日第一信。 あけましてお目出とう。今年もまたいい一年を暮しまし …
獄中への手紙:07 一九四〇年(昭和十五年)(新字新仮名)
読書目安時間:約9時間31分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 一月二日第一信 さて、あけましておめでとう。除夜の橿原神宮の太鼓というのをおききになりましたか?私たち(この内容は後出)は銀座からすきや橋に …
読書目安時間:約9時間31分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 一月二日第一信 さて、あけましておめでとう。除夜の橿原神宮の太鼓というのをおききになりましたか?私たち(この内容は後出)は銀座からすきや橋に …
獄中への手紙:08 一九四一年(昭和十六年)(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間37分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 一月三日第一信 私たちの九年目の年がはじまります、おめでとう。割合寒さのゆるやかなお正月ね。あの羽織紐していらっしゃるのでしょう?明日は、あ …
読書目安時間:約7時間37分
〔巣鴨拘置所の顕治宛目白より(封書)〕 一月三日第一信 私たちの九年目の年がはじまります、おめでとう。割合寒さのゆるやかなお正月ね。あの羽織紐していらっしゃるのでしょう?明日は、あ …
獄中への手紙:09 一九四二年(昭和十七年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間11分
(第一信)〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(代筆モネー筆「断崖」(一)、コロー「ルコント夫人」(二)の絵はがき)〕七日、今朝程はお手紙呉々も有難う!ああちゃんが後手にかくして朝のお …
読書目安時間:約2時間11分
(第一信)〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(代筆モネー筆「断崖」(一)、コロー「ルコント夫人」(二)の絵はがき)〕七日、今朝程はお手紙呉々も有難う!ああちゃんが後手にかくして朝のお …
獄中への手紙:10 一九四三年(昭和十八年)(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間10分
一月三日〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛本郷区林町二十一より(代筆牧野虎雄筆「春の富士」の絵はがき)〕 明けましておめでとう。そちらはいかがな正月でしょう。こちらは …
読書目安時間:約7時間10分
一月三日〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛本郷区林町二十一より(代筆牧野虎雄筆「春の富士」の絵はがき)〕 明けましておめでとう。そちらはいかがな正月でしょう。こちらは …
獄中への手紙:11 一九四四年(昭和十九年)(新字新仮名)
読書目安時間:約5時間48分
一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 初春景物 笹の根に霜の柱をきらめかせ うらら冬日は空にあまねし こういう奇妙なものをお目にかけます。うたよりも封筒をさしあげたい …
読書目安時間:約5時間48分
一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 初春景物 笹の根に霜の柱をきらめかせ うらら冬日は空にあまねし こういう奇妙なものをお目にかけます。うたよりも封筒をさしあげたい …
獄中への手紙:12 一九四五年(昭和二十年)(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間60分
一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 一九四五年一月二日 明けましておめでとう。爆竹入りの越年でしたが、余り近い所へ落ちもせず、しずかな元日でした。その上昨晩は思いの …
読書目安時間:約3時間60分
一月二日〔巣鴨拘置所の顕治宛駒込林町より(封書)〕 一九四五年一月二日 明けましておめでとう。爆竹入りの越年でしたが、余り近い所へ落ちもせず、しずかな元日でした。その上昨晩は思いの …
国宝(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
法隆寺が焼けて、あの見ごとな壁画が修理もきかないほどひどくなってしまった。されに新聞記事を見たとき、わたしの胸のなかで大きななみがくずれた感じがした。有名であったり、国宝であったり …
読書目安時間:約4分
法隆寺が焼けて、あの見ごとな壁画が修理もきかないほどひどくなってしまった。されに新聞記事を見たとき、わたしの胸のなかで大きななみがくずれた感じがした。有名であったり、国宝であったり …
国民学校への過程(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
小学校は六年で卒業と私たちの頭に刻まれていた観念は、国民学校になると、八年制に改まる。毎年小学校を卒業する子供たちの数は随分夥しいもので、昭和十四年度には凡そ二百三十七万人余であっ …
読書目安時間:約5分
小学校は六年で卒業と私たちの頭に刻まれていた観念は、国民学校になると、八年制に改まる。毎年小学校を卒業する子供たちの数は随分夥しいもので、昭和十四年度には凡そ二百三十七万人余であっ …
小倉西高校新聞への回答(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、趣味は 音楽、映画などですが、一昨年来病気のため外出も出来ずに居ます。 一、愛読書 文学が文学以外の本によって勉強されてゆく時代になりました。 一、学生生活中、一番楽しかった事 …
読書目安時間:約1分
一、趣味は 音楽、映画などですが、一昨年来病気のため外出も出来ずに居ます。 一、愛読書 文学が文学以外の本によって勉強されてゆく時代になりました。 一、学生生活中、一番楽しかった事 …
午後(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昨夜おそく帰ったので私は昼近くなるまで、何もしらずに赤坊の様によく寝込んで仕舞った。 弟共はすっかりそろって炬燵の囲りに集って、私の寝坊なのを笑って居る処へ眼を覚した私は、家が飛ん …
読書目安時間:約3分
昨夜おそく帰ったので私は昼近くなるまで、何もしらずに赤坊の様によく寝込んで仕舞った。 弟共はすっかりそろって炬燵の囲りに集って、私の寝坊なのを笑って居る処へ眼を覚した私は、家が飛ん …
心から送る拍手(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
六十八歳になられた作家森田草平氏が入党されたということは、多くの人にいろいろと語りかけるいみを持っています。人間は理性のある限り、年齢にかかわらず正しいと思う生活に前進するものであ …
読書目安時間:約2分
六十八歳になられた作家森田草平氏が入党されたということは、多くの人にいろいろと語りかけるいみを持っています。人間は理性のある限り、年齢にかかわらず正しいと思う生活に前進するものであ …
心に疼く欲求がある(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
こんにち、私たちの生活感情の底をゆすって、一つのつよい要求が動いている。それは、日本の現代文学は総体として、その精神と方法とにおいて、きわめて深いところから鋤きかえされる必要がある …
読書目安時間:約24分
こんにち、私たちの生活感情の底をゆすって、一つのつよい要求が動いている。それは、日本の現代文学は総体として、その精神と方法とにおいて、きわめて深いところから鋤きかえされる必要がある …
心の河(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
庭には、檜葉だの、あすなろう、青木、槇、常緑樹ばかり繁茂しているので、初夏の烈しい日光がさすと、天井の低い八畳の部屋は、緑色の反射でどちらを向いても青藻の底に沈んだようになった。 …
読書目安時間:約37分
庭には、檜葉だの、あすなろう、青木、槇、常緑樹ばかり繁茂しているので、初夏の烈しい日光がさすと、天井の低い八畳の部屋は、緑色の反射でどちらを向いても青藻の底に沈んだようになった。 …
心の飛沫(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
胡坐 ああ草原に出で ゆっくりと楡の木蔭 我が初夏の胡坐を組もう。 空は水色の襦子を張ったよう 白雲が湧いては消え湧いては消え 飽きない自然の模様を描く。 遠くに泉でもあるか 清ら …
読書目安時間:約1分
胡坐 ああ草原に出で ゆっくりと楡の木蔭 我が初夏の胡坐を組もう。 空は水色の襦子を張ったよう 白雲が湧いては消え湧いては消え 飽きない自然の模様を描く。 遠くに泉でもあるか 清ら …
心ひとつ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
是非を超えた最後の手段として離婚は認めなければなりません。内外的原因によって過った結婚をし人間としてその異性との生活が、救済の余地無い程の破綻を生じた場合、より以上の不正、人格的堕 …
読書目安時間:約1分
是非を超えた最後の手段として離婚は認めなければなりません。内外的原因によって過った結婚をし人間としてその異性との生活が、救済の余地無い程の破綻を生じた場合、より以上の不正、人格的堕 …
心持について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
或瞬間(思い出) 正午のサイレンが鳴ってよほど経つ 少し空腹 工事場でのこぎりの音 せわしい技巧的ななめらかな小鳥のさえずり、いかにも籠の小鳥らしい美しさで鳴く とつぜんガランガラ …
読書目安時間:約2分
或瞬間(思い出) 正午のサイレンが鳴ってよほど経つ 少し空腹 工事場でのこぎりの音 せわしい技巧的ななめらかな小鳥のさえずり、いかにも籠の小鳥らしい美しさで鳴く とつぜんガランガラ …
五〇年代の文学とそこにある問題(新字新仮名)
読書目安時間:約51分
十二月号の雑誌や新聞には、例年のしきたりで、いくたりかの作家・評論家によって、それぞれの角度から一九四九年の文壇が語られた。その一年に注目すべき作品を生んだ作家たち、明日に属望され …
読書目安時間:約51分
十二月号の雑誌や新聞には、例年のしきたりで、いくたりかの作家・評論家によって、それぞれの角度から一九四九年の文壇が語られた。その一年に注目すべき作品を生んだ作家たち、明日に属望され …
小鈴(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
弟の家内が今年の正月で三十三を迎えた。三十三は女の厄年といわれている。 厄年というものを迷信的に考えはしないけれど、たとえば女の子の十六歳、十九歳などという年齢を、何か意味あるけじ …
読書目安時間:約3分
弟の家内が今年の正月で三十三を迎えた。三十三は女の厄年といわれている。 厄年というものを迷信的に考えはしないけれど、たとえば女の子の十六歳、十九歳などという年齢を、何か意味あるけじ …
個性というもの(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
あるまじめな女のひとが次のような話をした。「私は十三四からずっと印刷工場の女工をやったんですが、女工といっても職場で気持がちがいますよ。私たちは、拾うものを片端から自分の生活に関係 …
読書目安時間:約1分
あるまじめな女のひとが次のような話をした。「私は十三四からずっと印刷工場の女工をやったんですが、女工といっても職場で気持がちがいますよ。私たちは、拾うものを片端から自分の生活に関係 …
古典からの新しい泉(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
世界が到るところで大きい動きと変化とをみせていて、この状態はおそらく五年や六年でおさまるものとは考えられない。 第一次の欧州大戦ののち世界の文学は非常に変化して、日本も文学の歴史に …
読書目安時間:約4分
世界が到るところで大きい動きと変化とをみせていて、この状態はおそらく五年や六年でおさまるものとは考えられない。 第一次の欧州大戦ののち世界の文学は非常に変化して、日本も文学の歴史に …
今年改良したき事(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日常生活の形式等は、出来る丈単純にしているので、今私の心に在るものは、改良したいというより、寧ろ進展したい心持でございます。けれども故石川啄木の歌に ひと晩に咲かせてみむと梅の鉢を …
読書目安時間:約1分
日常生活の形式等は、出来る丈単純にしているので、今私の心に在るものは、改良したいというより、寧ろ進展したい心持でございます。けれども故石川啄木の歌に ひと晩に咲かせてみむと梅の鉢を …
今年心を動かした事(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
今年一年、特に後半は、私にとって、内的に、深く種々の変動あり、感銘を受けた時でした。却って一々の題目を見ると、どれにもあてはめるものがない心持が致します。 〔一九二二年十二月〕 …
読書目安時間:約1分
今年一年、特に後半は、私にとって、内的に、深く種々の変動あり、感銘を受けた時でした。却って一々の題目を見ると、どれにもあてはめるものがない心持が致します。 〔一九二二年十二月〕 …
今年こそは(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
わたしたち日本の人々は、いつもお正月になると、互に、おめでとう、と云いあって新年を祝う習慣をもっております。これまで戦争のなかで迎えた不安な、切ないいく度かの正月を、わたしたちは、 …
読書目安時間:約9分
わたしたち日本の人々は、いつもお正月になると、互に、おめでとう、と云いあって新年を祝う習慣をもっております。これまで戦争のなかで迎えた不安な、切ないいく度かの正月を、わたしたちは、 …
今年こそは(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今年はいろいろな意味で非常に重大な年だと思います。それで個人の抱負と云う様な小さいものでなく、大きく日本人全体としての心構えとでも申しましょうか、それでよろしいでしょうね…… 私達 …
読書目安時間:約4分
今年はいろいろな意味で非常に重大な年だと思います。それで個人の抱負と云う様な小さいものでなく、大きく日本人全体としての心構えとでも申しましょうか、それでよろしいでしょうね…… 私達 …
今年の計画(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。健康を守って、ゆとりをもって、たっぷり仕事をためたいと思います。 〔一九四八年一月〕 …
読書目安時間:約1分
書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。健康を守って、ゆとりをもって、たっぷり仕事をためたいと思います。 〔一九四八年一月〕 …
「今年の傑作小説」(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
特にとり立てて言うのは困難に感じますが、ナウカ社版の第一回全ソヴェト作家大会報告(直接小説に関係はないように見えるけれども)や「ひらかれた処女地」など。 注目すべき作としては「青年 …
読書目安時間:約1分
特にとり立てて言うのは困難に感じますが、ナウカ社版の第一回全ソヴェト作家大会報告(直接小説に関係はないように見えるけれども)や「ひらかれた処女地」など。 注目すべき作としては「青年 …
今年のことば(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
一般に日本の人が、イエスとノーとをはっきり使いわけないということについては、度々、いろいろの人がいろいろの角度から関心を向けて来た。一つのことについて意見を求められたとき、それを肯 …
読書目安時間:約4分
一般に日本の人が、イエスとノーとをはっきり使いわけないということについては、度々、いろいろの人がいろいろの角度から関心を向けて来た。一つのことについて意見を求められたとき、それを肯 …
ことの真実(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
一九四九年の春ごろから、ジャーナリズムの上に秘史、実録、実記と銘をうたれた記録ものが登場しはじめた。 氾濫した猥雑な雑誌とその内容はあきられて記録文学、ルポルタージュの特集が新しい …
読書目安時間:約15分
一九四九年の春ごろから、ジャーナリズムの上に秘史、実録、実記と銘をうたれた記録ものが登場しはじめた。 氾濫した猥雑な雑誌とその内容はあきられて記録文学、ルポルタージュの特集が新しい …
琴平(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
朝、めをさまして、もう雨戸がくられている表廊下から外を見て私はびっくりしたし、面白くもなった。私たちの泊った虎丸旅館というのは、琴平の大鳥居のほんとの根っこのところにあるのであった …
読書目安時間:約8分
朝、めをさまして、もう雨戸がくられている表廊下から外を見て私はびっくりしたし、面白くもなった。私たちの泊った虎丸旅館というのは、琴平の大鳥居のほんとの根っこのところにあるのであった …
子供・子供・子供のモスクワ(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
さあ、ちょっと机のごたごたを片よせて、 (——コップは窓枠の前へでものせといてください。) モスクワ地図をひろげよう。 市の西から東・南に向って大うねりにのたくっているのは、誰でも …
読書目安時間:約33分
さあ、ちょっと机のごたごたを片よせて、 (——コップは窓枠の前へでものせといてください。) モスクワ地図をひろげよう。 市の西から東・南に向って大うねりにのたくっているのは、誰でも …
子供の世界(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
或る若い母さんのうちに小学四年になった男の子がいる。一人っ子であるから、どうしても親たちの生活の目撃者となることが多い。 その子が或るとき作文を書いた。父さんと母さんが喧嘩をしまし …
読書目安時間:約4分
或る若い母さんのうちに小学四年になった男の子がいる。一人っ子であるから、どうしても親たちの生活の目撃者となることが多い。 その子が或るとき作文を書いた。父さんと母さんが喧嘩をしまし …
子供のために書く母たち:「村の月夜」にふれつつ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
私のところに、今年四つになる甥が一人いる。汽車や自動車、飛行機などの絵本が面白いさかりで、縁側の障子を閉めたこっちで、聞いていると、母親をつかまえて、ああちゃんポッポ!ね?など、片 …
読書目安時間:約9分
私のところに、今年四つになる甥が一人いる。汽車や自動車、飛行機などの絵本が面白いさかりで、縁側の障子を閉めたこっちで、聞いていると、母親をつかまえて、ああちゃんポッポ!ね?など、片 …
子供のためには(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
昔、明治の初期、若松賤子が訳した「小公子」は、今日も多くの人々に愛読されている。若松賤子がこの翻訳を思い立ったのは、愛する子供たちに、清純で人間の精神をたかめる読みものをおくりもの …
読書目安時間:約5分
昔、明治の初期、若松賤子が訳した「小公子」は、今日も多くの人々に愛読されている。若松賤子がこの翻訳を思い立ったのは、愛する子供たちに、清純で人間の精神をたかめる読みものをおくりもの …
“子供の本”について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
子供の本を買いに行って、いつも当惑する一つのことがある。それは、どの本も一つの頁へあんまりどっさりの内容をつめこもうとして、絵でも実にこせついていて、子供らしい感覚の伸びやかさが無 …
読書目安時間:約2分
子供の本を買いに行って、いつも当惑する一つのことがある。それは、どの本も一つの頁へあんまりどっさりの内容をつめこもうとして、絵でも実にこせついていて、子供らしい感覚の伸びやかさが無 …
小鳥(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
午後から日がさし、積った白雪と、常磐木、鮮やかな南天の紅い実が美くしく見える。 机に向っていると、隣の部屋から、チクチク、チチと小鳥の囀りが聞えて来る。二三日雪空が続き、真南をねじ …
読書目安時間:約7分
午後から日がさし、積った白雪と、常磐木、鮮やかな南天の紅い実が美くしく見える。 机に向っていると、隣の部屋から、チクチク、チチと小鳥の囀りが聞えて来る。二三日雪空が続き、真南をねじ …
小鳥の如き我は(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
枯草のひしめき合うこの高原に次第次第に落ちかかる大火輪のとどろきはまことにおかすべからざるみ力と威厳をもって居る。 燃えにもえ輝きに輝いた大火輪はその威と美とに世のすべてのものをお …
読書目安時間:約3分
枯草のひしめき合うこの高原に次第次第に落ちかかる大火輪のとどろきはまことにおかすべからざるみ力と威厳をもって居る。 燃えにもえ輝きに輝いた大火輪はその威と美とに世のすべてのものをお …
子に愛人の出来た場合(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一口に片づけ切れない複雑な問題と思います。双方が総ての意味で真面目である場合とすれば、 一、現今のように、何か異状な出来事の如く感ぜず冷静に、深い愛を以って、愛人達の生活のよき発展 …
読書目安時間:約1分
一口に片づけ切れない複雑な問題と思います。双方が総ての意味で真面目である場合とすれば、 一、現今のように、何か異状な出来事の如く感ぜず冷静に、深い愛を以って、愛人達の生活のよき発展 …
『この心の誇り』:パール・バック著(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によ …
読書目安時間:約18分
私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によ …
この頃(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「お前は好い子だネエ」とあたまをなでられたあとでポカリとげんこつをもらう。 「ほんとうになんて可愛い子なんだろうネエ、まあこの形のいい頭は——」ポカリ又小さくて、固くて、痛いげんこ …
読書目安時間:約1分
「お前は好い子だネエ」とあたまをなでられたあとでポカリとげんこつをもらう。 「ほんとうになんて可愛い子なんだろうネエ、まあこの形のいい頭は——」ポカリ又小さくて、固くて、痛いげんこ …
このごろの人気(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
四五日前のある夜十時頃、机に向っていると外でうちの名を呼ぶ男の声がした。速達だろうと思った。郵便受箱へ入れておいて下さいというつもりで高窓をあけたら、タオル寝間着の若い男のひとが立 …
読書目安時間:約3分
四五日前のある夜十時頃、机に向っていると外でうちの名を呼ぶ男の声がした。速達だろうと思った。郵便受箱へ入れておいて下さいというつもりで高窓をあけたら、タオル寝間着の若い男のひとが立 …
この初冬(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
鏡 父かたの祖母は晩年の僅かをのぞいて、生涯の大半は田舎住居で過ごしたひとであった。よく働いた人であった。何番目かの子供を生んで、まだ余り肥だたないうちに昔の米沢のどういう季節の関 …
読書目安時間:約8分
鏡 父かたの祖母は晩年の僅かをのぞいて、生涯の大半は田舎住居で過ごしたひとであった。よく働いた人であった。何番目かの子供を生んで、まだ余り肥だたないうちに昔の米沢のどういう季節の関 …
この夏(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
これから書こうとするのは、筋も何もない漫筆だ。今日など、東京へ帰って見ると、なかなか暑い。いろいろ気むずかしいことなど書きたくない。それゆえ、これを読んで下さるかもしれぬ数多い方々 …
読書目安時間:約13分
これから書こうとするのは、筋も何もない漫筆だ。今日など、東京へ帰って見ると、なかなか暑い。いろいろ気むずかしいことなど書きたくない。それゆえ、これを読んで下さるかもしれぬ数多い方々 …
『この果てに君ある如く』の選後に:ここに語られている意味(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
これらの手記の選をして何よりもつよく、そして深く感じたことは、日本の社会は、女を、ひとり立ちで生きてゆかなければならない人として、子供のときから育てて来ていなかった、といういたまし …
読書目安時間:約4分
これらの手記の選をして何よりもつよく、そして深く感じたことは、日本の社会は、女を、ひとり立ちで生きてゆかなければならない人として、子供のときから育てて来ていなかった、といういたまし …
この三つのことば:わたしたちは・平和を・欲している(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
きょう(二月二十八日)の時事新報をみたら、先頃渡米した十人の婦人団がニューヨークについて、女子キリスト青年会(Y・W・C・A)を訪問した写真がのっている。高層建築が左右からそびえた …
読書目安時間:約3分
きょう(二月二十八日)の時事新報をみたら、先頃渡米した十人の婦人団がニューヨークについて、女子キリスト青年会(Y・W・C・A)を訪問した写真がのっている。高層建築が左右からそびえた …
小林多喜二の今日における意義(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
小林多喜二全集第一回配本を手にしたすべての人々が、まず感じたことは何だったろう。これで、いよいよ小林多喜二の全集も出はじめた。そのことにつよい感動があった。つづいて、小林多喜二全集 …
読書目安時間:約4分
小林多喜二全集第一回配本を手にしたすべての人々が、まず感じたことは何だったろう。これで、いよいよ小林多喜二の全集も出はじめた。そのことにつよい感動があった。つづいて、小林多喜二全集 …
鼓舞さるべき仕事:中野重治「汽車の缶焚き」(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「小説の書けぬ小説家」の後に、「汽車の罐焚き」を読むことが出来たのは、一つの心持よいことである。この感じは作家中野重治の友達である私一人の感情ではなかろうと思う。中野さんが誰かに、 …
読書目安時間:約2分
「小説の書けぬ小説家」の後に、「汽車の罐焚き」を読むことが出来たのは、一つの心持よいことである。この感じは作家中野重治の友達である私一人の感情ではなかろうと思う。中野さんが誰かに、 …
小村淡彩(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
お柳はひどく酔払った。そして、 「誰がこんなところにいるもんか、しと!ここにいりゃあこそ小松屋の女中だ、ありゃあ小松屋の女中だとさげすまれる。鎌倉へ帰りゃあ、憚りながら一戸の主だ。 …
読書目安時間:約24分
お柳はひどく酔払った。そして、 「誰がこんなところにいるもんか、しと!ここにいりゃあこそ小松屋の女中だ、ありゃあ小松屋の女中だとさげすまれる。鎌倉へ帰りゃあ、憚りながら一戸の主だ。 …
『暦』とその作者(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
壺井栄さんの「大根の葉」という小説が書きあげられたのは昭和十三年の九月で、それが『文芸』に発表されたのは十四年の早春のことであったと思う。それから後に書いた「暦」と他の短篇とを合わ …
読書目安時間:約3分
壺井栄さんの「大根の葉」という小説が書きあげられたのは昭和十三年の九月で、それが『文芸』に発表されたのは十四年の早春のことであったと思う。それから後に書いた「暦」と他の短篇とを合わ …
ゴルバートフ「降伏なき民」(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
最近のソヴェト文学をよみたくて読めなかった日本の読者に、ゴルバートフの「降伏なき民」はうれしいおくりものであった。今年の初め、シーモノフ、アガーポフ、クドレワートウィフ等と一緒にゴ …
読書目安時間:約2分
最近のソヴェト文学をよみたくて読めなかった日本の読者に、ゴルバートフの「降伏なき民」はうれしいおくりものであった。今年の初め、シーモノフ、アガーポフ、クドレワートウィフ等と一緒にゴ …
ゴルフ・パンツははいていまい(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
これは、いかにもひま人らしい質問です。同時に、一寸ニクマレ口をきかしてもらえば、いかにも婦人雑誌の特徴を発揮した質問です。 なぜなら、恋愛問題だけをきりはなし、例えば正月、炬燵にあ …
読書目安時間:約4分
これは、いかにもひま人らしい質問です。同時に、一寸ニクマレ口をきかしてもらえば、いかにも婦人雑誌の特徴を発揮した質問です。 なぜなら、恋愛問題だけをきりはなし、例えば正月、炬燵にあ …
これから書きます(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
好きな男性というのと、興味を感じ又はその行為に感動をひきおこされて心にのこっている男性というのとは少しちがうのでお答えに困りました。ファジーエフの「壊滅」の中のレビンソンなどつよく …
読書目安時間:約1分
好きな男性というのと、興味を感じ又はその行為に感動をひきおこされて心にのこっている男性というのとは少しちがうのでお答えに困りました。ファジーエフの「壊滅」の中のレビンソンなどつよく …
これから結婚する人の心持(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
世の中が急に動いてゆく。その動きかたはただ世相の移り変りというような表現で云うよりもっと深いものであり、渦の底は大きいものであることが、私たちの日常に感じられていると思う。日本だけ …
読書目安時間:約12分
世の中が急に動いてゆく。その動きかたはただ世相の移り変りというような表現で云うよりもっと深いものであり、渦の底は大きいものであることが、私たちの日常に感じられていると思う。日本だけ …
これでは囚人扱い(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
逃げて行く子供達と、そしてそれをとりまく環境と両方に問題があると思います。裸にしておけば逃げないという考え方は、死なないように牢獄内の囚人に帯をさせないという事と同じ事です。このこ …
読書目安時間:約1分
逃げて行く子供達と、そしてそれをとりまく環境と両方に問題があると思います。裸にしておけば逃げないという考え方は、死なないように牢獄内の囚人に帯をさせないという事と同じ事です。このこ …
是は現実的な感想(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
始めて郊外に住んで、今年は、永く美しく夏から次第に移り行く秋の風景を目撃した。これまで、春から夏になる——初夏の自然は度々亢奮して活々感じたが、秋をこのように、落ちる木の葉の色、雨 …
読書目安時間:約9分
始めて郊外に住んで、今年は、永く美しく夏から次第に移り行く秋の風景を目撃した。これまで、春から夏になる——初夏の自然は度々亢奮して活々感じたが、秋をこのように、落ちる木の葉の色、雨 …
こわれた鏡:ジイド知性の喜劇(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ジイドが彼の近著『ソヴェト旅行記』に対して受けた非難に抗して書いている「ローランその他への反撃」という文章は(十月・中央公論)悪意を底にひそめた感情の鋭さや、その感情を彼によって使 …
読書目安時間:約5分
ジイドが彼の近著『ソヴェト旅行記』に対して受けた非難に抗して書いている「ローランその他への反撃」という文章は(十月・中央公論)悪意を底にひそめた感情の鋭さや、その感情を彼によって使 …
今度の選挙と婦人(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
一年目で、また総選挙がはじまります。去年の三月登場した婦人代議士三十九名の活動も、この一年間には私達の目に、ある程度までその現実を知らされました。これらの大勢の婦人代議士の中で、日 …
読書目安時間:約7分
一年目で、また総選挙がはじまります。去年の三月登場した婦人代議士三十九名の活動も、この一年間には私達の目に、ある程度までその現実を知らされました。これらの大勢の婦人代議士の中で、日 …
今日の作家と読者(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この一二年来、文学的な本を読む読者の数がぐっとふえていることは周知の事実であって、それらの新しい読者層の何割かが、通俗読物と文学作品との本質の区別を知らないままに自身の購買力に従っ …
読書目安時間:約9分
この一二年来、文学的な本を読む読者の数がぐっとふえていることは周知の事実であって、それらの新しい読者層の何割かが、通俗読物と文学作品との本質の区別を知らないままに自身の購買力に従っ …
今日の耳目(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
高札 いつも通る横丁があって、そこには朝鮮の人たちの食べる豆もやし棒鱈類をあきなう店だの、軒の上に猿がつながれている乾物屋だの、近頃になって何処かの工場の配給食のお惣菜を請負ったら …
読書目安時間:約11分
高札 いつも通る横丁があって、そこには朝鮮の人たちの食べる豆もやし棒鱈類をあきなう店だの、軒の上に猿がつながれている乾物屋だの、近頃になって何処かの工場の配給食のお惣菜を請負ったら …
今日の女流作家と時代との交渉を論ず(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
女性からどうしてよい芸術が生れ難いか、またこれまで多く女性によって発表された作品に、どうして時代との交渉が少なかったかというような問題に対して、私は先ず第一に文芸の本質たる個人の成 …
読書目安時間:約9分
女性からどうしてよい芸術が生れ難いか、またこれまで多く女性によって発表された作品に、どうして時代との交渉が少なかったかというような問題に対して、私は先ず第一に文芸の本質たる個人の成 …
今日の生活と文化の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
文化という二つの文字に変りはないようだけれども、歴史のそれぞれの時代で文化の示す様相は実に変化の激しいものがある。そして、文化が危期におかれるという現実もあり得るのである。 大体私 …
読書目安時間:約20分
文化という二つの文字に変りはないようだけれども、歴史のそれぞれの時代で文化の示す様相は実に変化の激しいものがある。そして、文化が危期におかれるという現実もあり得るのである。 大体私 …
今日の生命(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
小林多喜二は、一九三三年二月二十日、築地警察で拷問された結果、内出血のために死んだ。 小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということ …
読書目安時間:約3分
小林多喜二は、一九三三年二月二十日、築地警察で拷問された結果、内出血のために死んだ。 小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということ …
今日の読者の性格(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
今から二十何年か前、第一次ヨーロッパ大戦が終る前後の日本では、足袋に黄金のこはぜをつけた人もあるというような話があった。そして、ジャーナリズムもこの時代に一つの経済的な飛躍をとげ、 …
読書目安時間:約13分
今から二十何年か前、第一次ヨーロッパ大戦が終る前後の日本では、足袋に黄金のこはぜをつけた人もあるというような話があった。そして、ジャーナリズムもこの時代に一つの経済的な飛躍をとげ、 …
今日の日本の文化問題(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間42分
序論三つの段階 Ⅰ新聞・通信・ラジオ 出版 雑誌 書籍 Ⅱ教育 国字・国語 宗教 科学 Ⅲ文学 映画・演劇 音楽 舞踊 美術 スポーツ 文化組織 国際文化組織 序論三つの段階 一九 …
読書目安時間:約2時間42分
序論三つの段階 Ⅰ新聞・通信・ラジオ 出版 雑誌 書籍 Ⅱ教育 国字・国語 宗教 科学 Ⅲ文学 映画・演劇 音楽 舞踊 美術 スポーツ 文化組織 国際文化組織 序論三つの段階 一九 …
今日の文学と文学賞(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
どこの国にでも、文化、文芸の業績に対する賞というものはあるらしい。その詮衡が世界的な規模で行われ、最もひろい意味で人類的な影響をもつ仕事に与えられるという点で、ノーベル賞が国際的な …
読書目安時間:約9分
どこの国にでも、文化、文芸の業績に対する賞というものはあるらしい。その詮衡が世界的な規模で行われ、最もひろい意味で人類的な影響をもつ仕事に与えられるという点で、ノーベル賞が国際的な …
今日の文学に求められているヒューマニズム(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
今日、文学の大衆化ということが非常に云われて来ている。かつてプロレタリア文学が、芸術の内容と表現における社会性との問題にふれて、従来の純文学と通俗文学とは質において異った階級の社会 …
読書目安時間:約9分
今日、文学の大衆化ということが非常に云われて来ている。かつてプロレタリア文学が、芸術の内容と表現における社会性との問題にふれて、従来の純文学と通俗文学とは質において異った階級の社会 …
今日の文学の諸相(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
年の瀬という表現を十二月という歳末の感情に結びつけて感じると、今年は年の瀬を越すなどというものではなく、年の瀬が恐ろしくひろい幅とひどい勢いでどうどうと生活もろとも轟き流れている気 …
読書目安時間:約17分
年の瀬という表現を十二月という歳末の感情に結びつけて感じると、今年は年の瀬を越すなどというものではなく、年の瀬が恐ろしくひろい幅とひどい勢いでどうどうと生活もろとも轟き流れている気 …
今日の文学の鳥瞰図(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
本年の建国祭を期して文化勲章というものが制定された。これは人も知る如く日本で始めてのことである。早速絵では竹内栖鳳や横山大観がその文化勲章を授与され、科学方面でも本多博士その他が比 …
読書目安時間:約25分
本年の建国祭を期して文化勲章というものが制定された。これは人も知る如く日本で始めてのことである。早速絵では竹内栖鳳や横山大観がその文化勲章を授与され、科学方面でも本多博士その他が比 …
今日の文学の展望(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間26分
過去への瞥見 今日の日本文学のありようは、極めて複雑である。そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道の …
読書目安時間:約1時間26分
過去への瞥見 今日の日本文学のありようは、極めて複雑である。そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道の …
今日の文化の諸問題(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
たとえばこの雑誌も「文化集団」という名をもっているように、われわれの見ききする範囲には非常に多く文化という言葉が使われ、卑近な一例をとれば、アンカにまで文化という名をつけてあやしま …
読書目安時間:約17分
たとえばこの雑誌も「文化集団」という名をもっているように、われわれの見ききする範囲には非常に多く文化という言葉が使われ、卑近な一例をとれば、アンカにまで文化という名をつけてあやしま …
今日の文章(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
文章というものも生きているものだから、時代の空気といつも微妙なつながりをもって動いていると思う。 一二年前から、誰にでもわかりやすい文章で、物を書くべきであるという気風がおこって来 …
読書目安時間:約4分
文章というものも生きているものだから、時代の空気といつも微妙なつながりをもって動いていると思う。 一二年前から、誰にでもわかりやすい文章で、物を書くべきであるという気風がおこって来 …
再刊の言葉(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
『働く婦人』がまた発行されることになりました。こんど初めて手にとる方も多いでしょうが、なかには、まあ、『働く婦人』がまた出るようになったか、と、心からよろこんで読んで下さる方も少く …
読書目安時間:約2分
『働く婦人』がまた発行されることになりました。こんど初めて手にとる方も多いでしょうが、なかには、まあ、『働く婦人』がまた出るようになったか、と、心からよろこんで読んで下さる方も少く …
最近悦ばれているものから(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
私は、最近米国の所謂文壇が、どんな作品を歓迎し称讚しているかは知らない。が、ほんの一寸でも触れて見た知識階級、又は文芸愛好者とも云うべき人々の間で、悦ばれていた二三の作家を思い出し …
読書目安時間:約7分
私は、最近米国の所謂文壇が、どんな作品を歓迎し称讚しているかは知らない。が、ほんの一寸でも触れて見た知識階級、又は文芸愛好者とも云うべき人々の間で、悦ばれていた二三の作家を思い出し …
歳月(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
わたしたちの時代には、学校がそこにあった関係から、お茶の水と呼んでいた附属高女の専攻科の方が見えて、雑誌に何かかくようにと云われた。いまその原稿をかきはじめている、わたしの心持には …
読書目安時間:約6分
わたしたちの時代には、学校がそこにあった関係から、お茶の水と呼んでいた附属高女の専攻科の方が見えて、雑誌に何かかくようにと云われた。いまその原稿をかきはじめている、わたしの心持には …
歳々是好年(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
新年というものについて抱く私たちの心持も、その年々によって様々ですし、一人のひとの生活の其々の時代によっても又おのずから、異った感想をもつものだということを、近頃感じて居ります。 …
読書目安時間:約3分
新年というものについて抱く私たちの心持も、その年々によって様々ですし、一人のひとの生活の其々の時代によっても又おのずから、異った感想をもつものだということを、近頃感じて居ります。 …
祭日ならざる日々:日本女性の覚悟(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
千人針の女のひとたちが街頭に立っている姿が、今秋の文展には新しい風俗画の分野にとり入れられて並べられている。それらの女のひとたちはみな夏のなりである。このごろは秋もふけて、深夜に外 …
読書目安時間:約10分
千人針の女のひとたちが街頭に立っている姿が、今秋の文展には新しい風俗画の分野にとり入れられて並べられている。それらの女のひとたちはみな夏のなりである。このごろは秋もふけて、深夜に外 …
最初の問い(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
どんな育児の本も、必ずとり落しなく触れている一つのことがあります。それは幼い子供たちが次第次第に智慧づいて来たとき、心の目醒めを告げる暁の声としてきっと、「それは、なあぜ?」「どう …
読書目安時間:約1分
どんな育児の本も、必ずとり落しなく触れている一つのことがあります。それは幼い子供たちが次第次第に智慧づいて来たとき、心の目醒めを告げる暁の声としてきっと、「それは、なあぜ?」「どう …
再版について(『私たちの建設』)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
この本にたいする要求は、第一版のでた一九四六年の春から後、一般にたかまっていた。新しく社会生活の面を多様に積極にされた婦人のために、この本のもっている範囲では役に立つところもあった …
読書目安時間:約3分
この本にたいする要求は、第一版のでた一九四六年の春から後、一般にたかまっていた。新しく社会生活の面を多様に積極にされた婦人のために、この本のもっている範囲では役に立つところもあった …
再武装するのはなにか:MRAについて(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
世界平和大会へ日本の代表は行くことができなかった。世界労連の会議にも出席させられなかった。ペンクラブの大会へ日本の作家が招かれたが、これもゆく人がなかった。代表一人につき百万円(一 …
読書目安時間:約6分
世界平和大会へ日本の代表は行くことができなかった。世界労連の会議にも出席させられなかった。ペンクラブの大会へ日本の作家が招かれたが、これもゆく人がなかった。代表一人につき百万円(一 …
坂(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
モスクワ滞在の最後の期間、私たちは或るホテルに暮していた。ホテルといっても、サボイのようなのではなく、お湯がほしくなると自分でヤカンを提げて下の台所まで出かけて行き、ボイラーから注 …
読書目安時間:約4分
モスクワ滞在の最後の期間、私たちは或るホテルに暮していた。ホテルといっても、サボイのようなのではなく、お湯がほしくなると自分でヤカンを提げて下の台所まで出かけて行き、ボイラーから注 …
逆立ちの公・私(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
先ごろ、ある婦人雑誌で、婦人の公的生活、私的生活という話題で、座談会を催す計画があったようにきいた。何かの都合で、それは実現されなかった。しかし、その話をきいたとき、わたしは、それ …
読書目安時間:約10分
先ごろ、ある婦人雑誌で、婦人の公的生活、私的生活という話題で、座談会を催す計画があったようにきいた。何かの都合で、それは実現されなかった。しかし、その話をきいたとき、わたしは、それ …
砂丘(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
こまかいかげろうは砂の間からぬけ出したようにもえて居て海の色は黒いまでに蒼い、水と空と空の色、そのさかえからポッカリういたような連山の姿、いかにも春らしい、たるんだような、なつかし …
読書目安時間:約7分
こまかいかげろうは砂の間からぬけ出したようにもえて居て海の色は黒いまでに蒼い、水と空と空の色、そのさかえからポッカリういたような連山の姿、いかにも春らしい、たるんだような、なつかし …
作者のことば(『現代日本文学選集』第八巻)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「広場」は、一九四〇年にかかれた。同じ頃の短篇「おもかげ」と作者の内面では連作の意味をもっていた。当時軍国主義日本の文化統制はますますきびしくなってきていて、人間の理性や自然な感覚 …
読書目安時間:約1分
「広場」は、一九四〇年にかかれた。同じ頃の短篇「おもかげ」と作者の内面では連作の意味をもっていた。当時軍国主義日本の文化統制はますますきびしくなってきていて、人間の理性や自然な感覚 …
作者の言葉(『貧しき人々の群』)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳の秋に発表された。書きはじめたのは、一年ばかり前のことであった。福島県のある村に祖母が住んでいて、孫のわたしは五つぐらいのときからちょいちょい …
読書目安時間:約4分
「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳の秋に発表された。書きはじめたのは、一年ばかり前のことであった。福島県のある村に祖母が住んでいて、孫のわたしは五つぐらいのときからちょいちょい …
作品と生活のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
あるところで、トーマス・マンの研究をしている人にあった。そのとき、マンの作品の或るものは、実に観念的で、わかりにくくて始末がわるいものだけれども、一貫して、マンの作家としての態度に …
読書目安時間:約3分
あるところで、トーマス・マンの研究をしている人にあった。そのとき、マンの作品の或るものは、実に観念的で、わかりにくくて始末がわるいものだけれども、一貫して、マンの作家としての態度に …
作品の血脈(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ふだん近くにいない人々にとって、岡本かの子さんの訃報はまことに突然であった。その朝新聞をひろげたら、かの子さんの見紛うことのない写真が目に入り、私はその刹那何かの事故で怪我でもされ …
読書目安時間:約6分
ふだん近くにいない人々にとって、岡本かの子さんの訃報はまことに突然であった。その朝新聞をひろげたら、かの子さんの見紛うことのない写真が目に入り、私はその刹那何かの事故で怪我でもされ …
作品の主人公と心理の翳(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
この頃、折々ふっと感じて、その感じが重るにつれ次第に一つの疑問のようになって来ていることがある。 それは、この節何となし小説の主人公が年とった人物に選ばれている傾きがあるように思わ …
読書目安時間:約6分
この頃、折々ふっと感じて、その感じが重るにつれ次第に一つの疑問のようになって来ていることがある。 それは、この節何となし小説の主人公が年とった人物に選ばれている傾きがあるように思わ …
作品のテーマと人生のテーマ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
『中央公論』の十月号に、荒木巍氏の「新しき塩」という小説がある。中学校の教師を勤めているうちに自身の少年時代の生活経験から左翼の活動に共感し、そのために職を失った魚住敬之助という男 …
読書目安時間:約7分
『中央公論』の十月号に、荒木巍氏の「新しき塩」という小説がある。中学校の教師を勤めているうちに自身の少年時代の生活経験から左翼の活動に共感し、そのために職を失った魚住敬之助という男 …
作品のよろこび:創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
生粋の芸術的な作品が私たちに与える深い精神の慰安はどこから来るものなのだろうか。芸術作品の底からさして来る真の明るさというようなものは極めて複雑な光りであって、浅い形で云われる筋の …
読書目安時間:約2分
生粋の芸術的な作品が私たちに与える深い精神の慰安はどこから来るものなのだろうか。芸術作品の底からさして来る真の明るさというようなものは極めて複雑な光りであって、浅い形で云われる筋の …
さしえ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
『働く婦人』の三月号がとどいた。『働く婦人』がはじめて創刊されたのは一九三二年一月のことだった。その四号から、翌年発行が出来なくなるまで、佐多稲子さんが中心になって随分な努力をした …
読書目安時間:約4分
『働く婦人』の三月号がとどいた。『働く婦人』がはじめて創刊されたのは一九三二年一月のことだった。その四号から、翌年発行が出来なくなるまで、佐多稲子さんが中心になって随分な努力をした …
作家研究ノート:『文学古典の再認識』の執筆者の一人として(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一年ばかり前、ある雑誌にマクシム・ゴーリキイの今日までの生涯について伝記的な側から短いものを書いたことがあった。 私はその小さい仕事をしている間に、ゴーリキイの生きかたやゴーリキイ …
読書目安時間:約2分
一年ばかり前、ある雑誌にマクシム・ゴーリキイの今日までの生涯について伝記的な側から短いものを書いたことがあった。 私はその小さい仕事をしている間に、ゴーリキイの生きかたやゴーリキイ …
作家と教養の諸相(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
作家にとって教養というものは、どんな関係にあるのだろうか。これまでのいろいろの時代に、作家と教養のことが云われたのであったが、それぞれにその時代の文学的趨勢とでも云うべきものを、何 …
読書目安時間:約9分
作家にとって教養というものは、どんな関係にあるのだろうか。これまでのいろいろの時代に、作家と教養のことが云われたのであったが、それぞれにその時代の文学的趨勢とでも云うべきものを、何 …
作家と時代意識(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
作家が時代をどう感じ、どう意識してゆくかということは、文学の現実としてきわめて複雑なことだと思う。 たとえば、藤村が「破戒」を書いた前後の事情を考えても、作家と時代の見かたというも …
読書目安時間:約5分
作家が時代をどう感じ、どう意識してゆくかということは、文学の現実としてきわめて複雑なことだと思う。 たとえば、藤村が「破戒」を書いた前後の事情を考えても、作家と時代の見かたというも …
作家に語りかける言葉:『現代文学論』にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
窪川鶴次郎さんの『現代文学論』の、尨大な一冊を読み進んでゆくうちに、特別感興をそそられたことがある。それは、論ぜられているそのことが、論として読者である私を承服させるというばかりで …
読書目安時間:約16分
窪川鶴次郎さんの『現代文学論』の、尨大な一冊を読み進んでゆくうちに、特別感興をそそられたことがある。それは、論ぜられているそのことが、論として読者である私を承服させるというばかりで …
作家の経験(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
今日、私たちの精神には、人間性の復活と芸術再興の欲求がつよくおこっている。日本の未来のために、それは重大な関係をもっているし、私たち日本人の一人一人が、人間として充実した自分をとり …
読書目安時間:約26分
今日、私たちの精神には、人間性の復活と芸術再興の欲求がつよくおこっている。日本の未来のために、それは重大な関係をもっているし、私たち日本人の一人一人が、人間として充実した自分をとり …
作家の死:本庄睦男氏のこと(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
暑気にあたって、くず湯をたべタオルで汗を拭きながら、本庄陸男さんの死について考えていた。 先頃平林彪吾さんが死なれたときも、様々な感想にうたれたのであったが、本庄さんが「石狩川」一 …
読書目安時間:約1分
暑気にあたって、くず湯をたべタオルで汗を拭きながら、本庄陸男さんの死について考えていた。 先頃平林彪吾さんが死なれたときも、様々な感想にうたれたのであったが、本庄さんが「石狩川」一 …
作家のみた科学者の文学的活動(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
「生」の科学と文学 随分古いことになるが、モウパッサンの小説に「生の誘惑」というのがあり、それを前田晁氏であったかが訳して出版された。私は十四五で、その小説を熱心に読んだ。なかに、 …
読書目安時間:約18分
「生」の科学と文学 随分古いことになるが、モウパッサンの小説に「生の誘惑」というのがあり、それを前田晁氏であったかが訳して出版された。私は十四五で、その小説を熱心に読んだ。なかに、 …
作家は戦争挑発とたたかう(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
去る六月十一日、読売新聞の「世界への反逆」という文章で中島健蔵氏が、記録文学の名のもとにジャーナリズムにあらわれはじめた戦記ものの本質について注意をよびおこしたのは適切であった。 …
読書目安時間:約4分
去る六月十一日、読売新聞の「世界への反逆」という文章で中島健蔵氏が、記録文学の名のもとにジャーナリズムにあらわれはじめた戦記ものの本質について注意をよびおこしたのは適切であった。 …
作家への課題:「囚われた大地」について(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
偶然のことから、私は「囚われた大地」がまだ発表されず、あるいはその原稿も小部分しか書かれていなかったと思われる時分、平田小六氏と知り合う機会を得た。そのころ平田さんは、日本にはまだ …
読書目安時間:約8分
偶然のことから、私は「囚われた大地」がまだ発表されず、あるいはその原稿も小部分しか書かれていなかったと思われる時分、平田小六氏と知り合う機会を得た。そのころ平田さんは、日本にはまだ …
作家への新風:著作家組合にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
封鎖で原稿料を払うということは、これから作品をかいてゆく人のために、ますます条件がわるい、新しい作家、新しい日本の文学は生れにくい、ということである。今日、出版は、大部分が営利に立 …
読書目安時間:約3分
封鎖で原稿料を払うということは、これから作品をかいてゆく人のために、ますます条件がわるい、新しい作家、新しい日本の文学は生れにくい、ということである。今日、出版は、大部分が営利に立 …
昨今の話題を(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
大阪の実業家で、もう十四五年も妻と別居し別の家庭を営んでいる増田というひとの娘富美子が大金をもって家出をして、西条エリとあっちこっち贅沢な旅行をした後、万平ホテルで富美子が睡眠薬で …
読書目安時間:約16分
大阪の実業家で、もう十四五年も妻と別居し別の家庭を営んでいる増田というひとの娘富美子が大金をもって家出をして、西条エリとあっちこっち贅沢な旅行をした後、万平ホテルで富美子が睡眠薬で …
雑沓(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
玄関の大きい硝子戸は自働ベルの音を高く植込みのあたりに響かせながらあいた。けれども、人の出て来る気配がしない。 宏子は、古風な沓脱石の上に立って、茶っぽい靴の踵のところを右と左とす …
読書目安時間:約50分
玄関の大きい硝子戸は自働ベルの音を高く植込みのあたりに響かせながらあいた。けれども、人の出て来る気配がしない。 宏子は、古風な沓脱石の上に立って、茶っぽい靴の踵のところを右と左とす …
砂糖・健忘症(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
年の暮れに珍しくお砂糖の配給があった。一人前三〇グラムを主食三三グラムとひきかえに、十匁を砂糖そのものの配給として配給され、久々であまいもののある正月を迎えた。お米とひきかえではね …
読書目安時間:約5分
年の暮れに珍しくお砂糖の配給があった。一人前三〇グラムを主食三三グラムとひきかえに、十匁を砂糖そのものの配給として配給され、久々であまいもののある正月を迎えた。お米とひきかえではね …
三郎爺(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。 江戸や上方の者からは、世界のはてか、毛むくじゃらな荒夷(あらえびす)の住家ぐらいに思われていた奥州の、草茫々( …
読書目安時間:約50分
今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。 江戸や上方の者からは、世界のはてか、毛むくじゃらな荒夷(あらえびす)の住家ぐらいに思われていた奥州の、草茫々( …
猿(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
人物 ヨハネス(十八歳) エッダ(十六歳) エッダの母親(四十歳前後) 場所 デンマークの片田舎 時 或る秋 幕開く 第一エッダの家の中 下手に、大きな鉄の蝶番(ちょうつがい)の付 …
読書目安時間:約11分
人物 ヨハネス(十八歳) エッダ(十六歳) エッダの母親(四十歳前後) 場所 デンマークの片田舎 時 或る秋 幕開く 第一エッダの家の中 下手に、大きな鉄の蝶番(ちょうつがい)の付 …
三月の第四日曜(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
コト。コト。遠慮がちな物音だのに、それがいやに自分にも耳立って聞えるような明け方の電燈の下で羽織の紐を結んでしまうと、サイは立鏡を片よせて、中腰のままそのつもりでゆうべ買って来てお …
読書目安時間:約42分
コト。コト。遠慮がちな物音だのに、それがいやに自分にも耳立って聞えるような明け方の電燈の下で羽織の紐を結んでしまうと、サイは立鏡を片よせて、中腰のままそのつもりでゆうべ買って来てお …
三月八日は女の日だ(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
モスクワじゅうが濡れたビードロ玉だ。きのうひどく寒かった。並木道の雪が再び凍って子供連がスキーをかつぎ出した。ところへ今夜は零下五度の春の雨が盛にふってる。どこもかしこもつるつるで …
読書目安時間:約20分
モスクワじゅうが濡れたビードロ玉だ。きのうひどく寒かった。並木道の雪が再び凍って子供連がスキーをかつぎ出した。ところへ今夜は零下五度の春の雨が盛にふってる。どこもかしこもつるつるで …
山峡新春(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
夜中の一時過、カラカラ、コロコロ吊橋を渡って行く吾妻下駄の音がした。これから女中達が髪結に出かけるのだと見える。 私共は火鉢を囲み、どてらを羽織って餅を焼きながらそれを聴いた。若々 …
読書目安時間:約3分
夜中の一時過、カラカラ、コロコロ吊橋を渡って行く吾妻下駄の音がした。これから女中達が髪結に出かけるのだと見える。 私共は火鉢を囲み、どてらを羽織って餅を焼きながらそれを聴いた。若々 …
参政取のけは当然(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
法制会が、婦人参政権の問題を否決したのは、さまで意外なことではありません。何にしろ日本は、やっと普通選挙が実現されるかされないかと云う、社会進化の途上にあります。 英国でさえ、殆ど …
読書目安時間:約1分
法制会が、婦人参政権の問題を否決したのは、さまで意外なことではありません。何にしろ日本は、やっと普通選挙が実現されるかされないかと云う、社会進化の途上にあります。 英国でさえ、殆ど …
「三人姉妹」のマーシャ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
○ 「三人姉妹」で、マーシャがどんな風に活かされるかと楽しみにしていた。三人の女性の中では、一番性格的に色彩が強い。その強さが内面的で、動作はごく簡単だがひどく意味深い。マーシャを …
読書目安時間:約2分
○ 「三人姉妹」で、マーシャがどんな風に活かされるかと楽しみにしていた。三人の女性の中では、一番性格的に色彩が強い。その強さが内面的で、動作はごく簡単だがひどく意味深い。マーシャを …
三年たった今日:日本の文化のまもり(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
絶対主義と戦争熱で正気をうしなっていた日本の政府が無条件降伏して、ポツダム宣言を受諾したのはつい一昨昨年の夏のことであった。今日までに、まる三年たつかたたずである。その短い間に日本 …
読書目安時間:約11分
絶対主義と戦争熱で正気をうしなっていた日本の政府が無条件降伏して、ポツダム宣言を受諾したのはつい一昨昨年の夏のことであった。今日までに、まる三年たつかたたずである。その短い間に日本 …
三年前(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
人と話をする度に「内のばっぱはない」と云って女房自慢をするので村の名うてのごん平じいの所に勇ましいようでおくびょうな可愛いいようでにくらしい一匹の雄雞が居た。其の雞のかんしゃく持ち …
読書目安時間:約4分
人と話をする度に「内のばっぱはない」と云って女房自慢をするので村の名うてのごん平じいの所に勇ましいようでおくびょうな可愛いいようでにくらしい一匹の雄雞が居た。其の雞のかんしゃく持ち …
C先生への手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間1分
雑信(第一) C先生——。 其後は大変御無沙汰致して仕舞いました。東京も、さぞ暑くなった事でございましょう。白い塵のポカポカ立つ、粗雑なペンキ塗の目に痛く反射する其処いらの路を想像 …
読書目安時間:約1時間1分
雑信(第一) C先生——。 其後は大変御無沙汰致して仕舞いました。東京も、さぞ暑くなった事でございましょう。白い塵のポカポカ立つ、粗雑なペンキ塗の目に痛く反射する其処いらの路を想像 …
ジイドとそのソヴェト旅行記(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
『中央公論』の新年号に、アンドレ・ジイドのソヴェト旅行記(小松清氏訳)がのっている。未完結のものであるが、あの一文に注目をひかれ、読後、様々の感想を覚えた読者は恐らく私一人にとどま …
読書目安時間:約20分
『中央公論』の新年号に、アンドレ・ジイドのソヴェト旅行記(小松清氏訳)がのっている。未完結のものであるが、あの一文に注目をひかれ、読後、様々の感想を覚えた読者は恐らく私一人にとどま …
シートンの「動物記」(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
シートンの動物好き、動物に目と心とをひかれつくして飽きず観察に我を忘れる姿は全く一種独特である。著者が動物の面白さに身をうちこんでいる、その愛と面白さとが直接の共感となって私たちの …
読書目安時間:約2分
シートンの動物好き、動物に目と心とをひかれつくして飽きず観察に我を忘れる姿は全く一種独特である。著者が動物の面白さに身をうちこんでいる、その愛と面白さとが直接の共感となって私たちの …
自覚について(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
わたしたちの生活に平和が戻り新しい民主生活の扉が開かれて、二度目の春を迎えることになりました。 昨年はわたしたち婦人にとって初めての経験である総選挙も行われ、そのほかずいぶん多事な …
読書目安時間:約9分
わたしたちの生活に平和が戻り新しい民主生活の扉が開かれて、二度目の春を迎えることになりました。 昨年はわたしたち婦人にとって初めての経験である総選挙も行われ、そのほかずいぶん多事な …
しかし昔にはかえらない(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
東京新聞七月三十一日号に、火野葦平の「文芸放談」第二回がのっている。「同人雑誌の活溌化」がトピックである。 このごろの出版不況で、文芸雑誌のいくつかが廃刊した。そして、雑誌を廃刊し …
読書目安時間:約15分
東京新聞七月三十一日号に、火野葦平の「文芸放談」第二回がのっている。「同人雑誌の活溌化」がトピックである。 このごろの出版不況で、文芸雑誌のいくつかが廃刊した。そして、雑誌を廃刊し …
自我の足かせ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
日本にこれまでブルジョワ民主主義が確立されていなかった。現在は、日本のおくればせなブルジョワ民主革命の完成の時期である。だからヨーロッパでは十八世紀の終りから十九世紀のはじめにかけ …
読書目安時間:約5分
日本にこれまでブルジョワ民主主義が確立されていなかった。現在は、日本のおくればせなブルジョワ民主革命の完成の時期である。だからヨーロッパでは十八世紀の終りから十九世紀のはじめにかけ …
死後の世界は有るか無いか(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
主観的にはなしと思う。けれどもその人の生活した真実性、直接性の如何によって、客観的に、人類の裡に永久に、または或る期間、生きるものであると思う。 〔一九二二年四月〕 …
読書目安時間:約1分
主観的にはなしと思う。けれどもその人の生活した真実性、直接性の如何によって、客観的に、人類の裡に永久に、または或る期間、生きるものであると思う。 〔一九二二年四月〕 …
事実にたって:一月六日アカハタ「火ばな」の投書について(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
はなしはちょっとさかのぼるが、一月六日アカハタ「火ばな」に「宮本さんの話」という投書があった。一月も六日といえば、選挙闘争に本腰がはいって、その日の紙面もトップに田中候補が信州上田 …
読書目安時間:約5分
はなしはちょっとさかのぼるが、一月六日アカハタ「火ばな」に「宮本さんの話」という投書があった。一月も六日といえば、選挙闘争に本腰がはいって、その日の紙面もトップに田中候補が信州上田 …
SISIDO(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
○手帖、(やすものの人造皮の表紙) その間から新聞の切抜 カストダア カストする(歯車でも何でも)そのキカイとカストとを二つながら製造する目ろみ、 ○「まだ関西にもこれはないそうで …
読書目安時間:約4分
○手帖、(やすものの人造皮の表紙) その間から新聞の切抜 カストダア カストする(歯車でも何でも)そのキカイとカストとを二つながら製造する目ろみ、 ○「まだ関西にもこれはないそうで …
四時の変化と関りのない書斎(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
特に夏期の書斎としての注文も思い当りません。余り明るくなく近くに樹木が欲しく、静かで空気の流通がよい処が書斎として四時の望みです。私は期節のうつりかわりを自分の書斎に導かない方を寧 …
読書目安時間:約1分
特に夏期の書斎としての注文も思い当りません。余り明るくなく近くに樹木が欲しく、静かで空気の流通がよい処が書斎として四時の望みです。私は期節のうつりかわりを自分の書斎に導かない方を寧 …
自信のあるなし(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私たちのまわりでは、よく、自信があるとか、自信がないとかいう表現がされる。そして、この頃の少しものを考える若い女のひとは、何となしこの自信の無さに自分としても苦しんでいることが多い …
読書目安時間:約2分
私たちのまわりでは、よく、自信があるとか、自信がないとかいう表現がされる。そして、この頃の少しものを考える若い女のひとは、何となしこの自信の無さに自分としても苦しんでいることが多い …
静かな日曜(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
十三日。 おかしな夢を見た。 ひどくごちゃごちゃ混雑した人ごみの狭い通りを歩いていると右側に一軒魚屋の店が出ていた。 男が一人鉢巻をし、体をゆすって、俎の上に切りみを作っている。立 …
読書目安時間:約3分
十三日。 おかしな夢を見た。 ひどくごちゃごちゃ混雑した人ごみの狭い通りを歩いていると右側に一軒魚屋の店が出ていた。 男が一人鉢巻をし、体をゆすって、俎の上に切りみを作っている。立 …
『静かなる愛』と『諸国の天女』:竹内てるよ氏と永瀬清子氏の詩集(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
貧困というものは、云ってみれば今日世界にみちている。病気というものも、その貧困ときりはなせない悲しいつながりをもって今日の世界にみちている。今日の社会感情のなかでは、貧しさと病とに …
読書目安時間:約14分
貧困というものは、云ってみれば今日世界にみちている。病気というものも、その貧困ときりはなせない悲しいつながりをもって今日の世界にみちている。今日の社会感情のなかでは、貧しさと病とに …
自然に学べ(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
明日の女らしさ、男らしさ。(川上まさ子さんへの答)のびのびとした手脚と美しく張った胸。女性の肉体の魅力は解放された女性の肉体にこそあります。まめやかで、創意にみちた精神の輝きのあふ …
読書目安時間:約2分
明日の女らしさ、男らしさ。(川上まさ子さんへの答)のびのびとした手脚と美しく張った胸。女性の肉体の魅力は解放された女性の肉体にこそあります。まめやかで、創意にみちた精神の輝きのあふ …
自然描写における社会性について(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
「見る人のこころごころの秋の月」という文句がある。天にはただ一つしかない秋の月ではあるが、その月を眺めるひとの心のありようによって、清明な快い月であると思われるであろうし、月のさや …
読書目安時間:約12分
「見る人のこころごころの秋の月」という文句がある。天にはただ一つしかない秋の月ではあるが、その月を眺めるひとの心のありようによって、清明な快い月であると思われるであろうし、月のさや …
時代と人々(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
わが師という響のなかには敬愛の思いがこもっていて、私としては忘られない一つの俤がそこに繁っている。 千葉安良先生は、今どこで、どのように生活していらっしゃるだろう。 二十余年も前、 …
読書目安時間:約17分
わが師という響のなかには敬愛の思いがこもっていて、私としては忘られない一つの俤がそこに繁っている。 千葉安良先生は、今どこで、どのように生活していらっしゃるだろう。 二十余年も前、 …
「下じき」の問題:こんにちの文学への疑い(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
いたるところで、現代文学の停滞が意識され、語られている。 この問題が「小説の運命」という風な題目によってとりあげられはじめたのは、きのう、きょうのことではなかった。二三年前からのこ …
読書目安時間:約20分
いたるところで、現代文学の停滞が意識され、語られている。 この問題が「小説の運命」という風な題目によってとりあげられはじめたのは、きのう、きょうのことではなかった。二三年前からのこ …
親しく見聞したアイヌの生活(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
アイヌの部落も内地人の影響を受けて、純粋のアイヌの風俗はなくなって行きますが、日高国の平取あたりに行ってみると、純粋のアイヌの気分を味う事が出来ます。然し単にアイヌと申しても、北海 …
読書目安時間:約6分
アイヌの部落も内地人の影響を受けて、純粋のアイヌの風俗はなくなって行きますが、日高国の平取あたりに行ってみると、純粋のアイヌの気分を味う事が出来ます。然し単にアイヌと申しても、北海 …
実感への求め(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
先月、日比谷映画劇場で、国際観光局が海外宣伝映画試写会をもよおした。「富士山」と「日本の女性」という二つの作品で、其映画のはじまる前に、映画製作に直接関係した課の長にあたる人の挨拶 …
読書目安時間:約4分
先月、日比谷映画劇場で、国際観光局が海外宣伝映画試写会をもよおした。「富士山」と「日本の女性」という二つの作品で、其映画のはじまる前に、映画製作に直接関係した課の長にあたる人の挨拶 …
実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
国民の文化生活が、個人的な方法で向上を計られて来たこれまでとちがって、これからは個々の経済力の相違に余り大きい支配をうけないやりかたで、国全体の文化の質が高められて行くようになるこ …
読書目安時間:約2分
国民の文化生活が、個人的な方法で向上を計られて来たこれまでとちがって、これからは個々の経済力の相違に余り大きい支配をうけないやりかたで、国全体の文化の質が高められて行くようになるこ …
質問へのお答え(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
芸術も人の心に慰めと喜びをあたえるものであるということでは、「楽しさ」において娯楽に通じているようですけれども、普通のわけ方では芸術と娯楽は二ツの別のものです。音楽にも軽音楽やダン …
読書目安時間:約13分
芸術も人の心に慰めと喜びをあたえるものであるということでは、「楽しさ」において娯楽に通じているようですけれども、普通のわけ方では芸術と娯楽は二ツの別のものです。音楽にも軽音楽やダン …
シナーニ書店のベンチ(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
厳寒で、全市は真白だ。屋根。屋根。その上のアンテナ。すべて凍って白い。大気は、かっちり燦いて市街をとりかこんだ。モスクワ第一大学の建物は黄色だ。 我々は、古本屋の半地下室から出た。 …
読書目安時間:約15分
厳寒で、全市は真白だ。屋根。屋根。その上のアンテナ。すべて凍って白い。大気は、かっちり燦いて市街をとりかこんだ。モスクワ第一大学の建物は黄色だ。 我々は、古本屋の半地下室から出た。 …
死に対して(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「めんどくさい、死ぬんだ」 胸をしっかりおさえて居た手を椅子のひじかけの上になげ出して男は叫んだ。心で力一っぱいさけんだけれど声には出せなかった。 そしてその死ぬんだと口ばしったこ …
読書目安時間:約3分
「めんどくさい、死ぬんだ」 胸をしっかりおさえて居た手を椅子のひじかけの上になげ出して男は叫んだ。心で力一っぱいさけんだけれど声には出せなかった。 そしてその死ぬんだと口ばしったこ …
「市の無料産院」と「身の上相談」(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今日、東京朝日新聞を見たら、フトこういう記事に目がとまりました。 近く市が建設する理想的な無料産院 貧しい人々の間に差しのべる温かい救いの施設 これは耳よりな話だ。そう思って読んで …
読書目安時間:約6分
今日、東京朝日新聞を見たら、フトこういう記事に目がとまりました。 近く市が建設する理想的な無料産院 貧しい人々の間に差しのべる温かい救いの施設 これは耳よりな話だ。そう思って読んで …
渋谷家の始祖(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間16分
正隆が、愈々(いよいよ)六月に農科大学を卒業して、帰京するという報知を受取った、佐々未亡人の悦びは、殆ど何人の想像をも、許さないほどのものであった。 当時六十歳だった彼女は、正隆か …
読書目安時間:約2時間16分
正隆が、愈々(いよいよ)六月に農科大学を卒業して、帰京するという報知を受取った、佐々未亡人の悦びは、殆ど何人の想像をも、許さないほどのものであった。 当時六十歳だった彼女は、正隆か …
自分自分の心と云うもの(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
どうか私共女性たちは、もっと自分自分の心というものに対して、敏感に、よい意味の神経質になりたいと思います。 めいめいが、その事さえしていると自分の全心が勇気と愛に満ち真剣になれ切れ …
読書目安時間:約1分
どうか私共女性たちは、もっと自分自分の心というものに対して、敏感に、よい意味の神経質になりたいと思います。 めいめいが、その事さえしていると自分の全心が勇気と愛に満ち真剣になれ切れ …
蠹魚(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
私は先日来、福島県下にある祖父の旧宅に来ている。 祖父の没後久しく祖母独り家を守っていたが、老年になったのでこれも東京に引移り、今は一年の大部分空家になっている。夏の休暇に母が子達 …
読書目安時間:約7分
私は先日来、福島県下にある祖父の旧宅に来ている。 祖父の没後久しく祖母独り家を守っていたが、老年になったのでこれも東京に引移り、今は一年の大部分空家になっている。夏の休暇に母が子達 …
沁々した愛情と感謝と(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「禰宜様宮田」が、いつか単行本になる時があったら、是非云い添えたいと思っていたことを書きます。 あれは、そんなに大して大きなものでもなかったのに、非常に沢山の欠点を持っています。其 …
読書目安時間:約2分
「禰宜様宮田」が、いつか単行本になる時があったら、是非云い添えたいと思っていたことを書きます。 あれは、そんなに大して大きなものでもなかったのに、非常に沢山の欠点を持っています。其 …
市民の生活と科学(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
家庭で科学教育をどんな風にしてゆくかということや、科学についての知識を大衆の間にひろめ高めてゆくという文化上の大切なことがらも、現実の問題としては今日いろいろと複雑なものを含んでい …
読書目安時間:約9分
家庭で科学教育をどんな風にしてゆくかということや、科学についての知識を大衆の間にひろめ高めてゆくという文化上の大切なことがらも、現実の問題としては今日いろいろと複雑なものを含んでい …
ジムバリストを聴いて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ジムバリストの演奏をきき、深く心に印されたことは、つまり芸術は、どんな種類のものでも、真個のよさに至ると、全く同じような感動、絶対性を持っていると云うことです。自分は、まるで素人で …
読書目安時間:約1分
ジムバリストの演奏をきき、深く心に印されたことは、つまり芸術は、どんな種類のものでも、真個のよさに至ると、全く同じような感動、絶対性を持っていると云うことです。自分は、まるで素人で …
霜柱(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
冬の日の静けさは何となく一種異った感じを人に与える。 黄色な日差しがわびしげに四辺にただようて、骨ばかりになった、木の影は、黒い線の様になって羽目にうつって居る。 風もない。木の葉 …
読書目安時間:約2分
冬の日の静けさは何となく一種異った感じを人に与える。 黄色な日差しがわびしげに四辺にただようて、骨ばかりになった、木の影は、黒い線の様になって羽目にうつって居る。 風もない。木の葉 …
指紋(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この間、『サン』を見ていたら、福島県のどこかの村の結婚式の写真が出ていた。昔ながらの角かくしをかぶって裾模様の式服を着た花嫁が、健康な農村の娘さんらしい膝のうずたかさでかしこまって …
読書目安時間:約4分
この間、『サン』を見ていたら、福島県のどこかの村の結婚式の写真が出ていた。昔ながらの角かくしをかぶって裾模様の式服を着た花嫁が、健康な農村の娘さんらしい膝のうずたかさでかしこまって …
ジャーナリズムの航路(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
新聞週間がはじまって、しばらくしたら「新聞のゆくところ自由あり」という標語があらわれた。これには英語で Where news paper goes, there is freedo …
読書目安時間:約6分
新聞週間がはじまって、しばらくしたら「新聞のゆくところ自由あり」という標語があらわれた。これには英語で Where news paper goes, there is freedo …
社会主義リアリズムの問題について(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
第一次五ヵ年計画のおおうべくもない達成、ひきつづき発表された第二次五ヵ年計画の基本的方針とともに、ソヴェト同盟がプロレタリア文学運動の領域において、社会主義的リアリズムの問題を国際 …
読書目安時間:約6分
第一次五ヵ年計画のおおうべくもない達成、ひきつづき発表された第二次五ヵ年計画の基本的方針とともに、ソヴェト同盟がプロレタリア文学運動の領域において、社会主義的リアリズムの問題を国際 …
社会生活の純潔性(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
私達が生きてゆく間には、千変万化の波瀾をくぐる。その波瀾の間に、人間として、強く、純潔に生きてゆくことは非常にむずかしい。現代に純潔は非常に少い。 純潔とはどういうことを意味するの …
読書目安時間:約7分
私達が生きてゆく間には、千変万化の波瀾をくぐる。その波瀾の間に、人間として、強く、純潔に生きてゆくことは非常にむずかしい。現代に純潔は非常に少い。 純潔とはどういうことを意味するの …
社会と人間の成長(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
私は一九二七年から三〇年までソ連におりました。いまから考えれば大変古いことで、ちょうど第一次五ヵ年計画が始まったばかりのところです。ですから、皆様の方が新しい今日のソヴェトについて …
読書目安時間:約21分
私は一九二七年から三〇年までソ連におりました。いまから考えれば大変古いことで、ちょうど第一次五ヵ年計画が始まったばかりのところです。ですから、皆様の方が新しい今日のソヴェトについて …
写真(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
長さ三尺に高さ二尺六七寸の窓がある。そこには外から室内は見えるが、内部から廊下の方はよく見ることの出来ないような角度で日除け板簾のような具合に板がこまかく張られている。一通の手紙が …
読書目安時間:約2分
長さ三尺に高さ二尺六七寸の窓がある。そこには外から室内は見えるが、内部から廊下の方はよく見ることの出来ないような角度で日除け板簾のような具合に板がこまかく張られている。一通の手紙が …
写真に添えて(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
これは、長さ一寸余、たけ一寸ばかりの小さい素人写真です。焼付も素人がしたものと見え、三十年後の今日でもこの写真の隅に、焼付をしたひとの指紋のあとがはっきり見えます。やっと小学校に入 …
読書目安時間:約7分
これは、長さ一寸余、たけ一寸ばかりの小さい素人写真です。焼付も素人がしたものと見え、三十年後の今日でもこの写真の隅に、焼付をしたひとの指紋のあとがはっきり見えます。やっと小学校に入 …
ジャンの物語(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
フランスの『マリアンヌ』という新聞に、ロシアの大文豪であったレフ・トルストイの孫息子にあたるジャンという少年が、浮浪児として少年感化院に入れられ、そこから脱走して再び警察の手にとら …
読書目安時間:約13分
フランスの『マリアンヌ』という新聞に、ロシアの大文豪であったレフ・トルストイの孫息子にあたるジャンという少年が、浮浪児として少年感化院に入れられ、そこから脱走して再び警察の手にとら …
三鞭酒(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
土曜・日曜でないので、食堂は寧ろがらあきであった。我々のところから斜彼方に、一組英国人の家族が静に食事している。あと二三組隅々に散らばって見えるぎりだ。涼しい夏の夜を白服の給仕が、 …
読書目安時間:約5分
土曜・日曜でないので、食堂は寧ろがらあきであった。我々のところから斜彼方に、一組英国人の家族が静に食事している。あと二三組隅々に散らばって見えるぎりだ。涼しい夏の夜を白服の給仕が、 …
樹蔭雑記(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
六月二日 静かな快い日である。朝起きて、下の郵便局に行って見ると、抱え切れない程の小包が来て居る。皆日本からだ。仕方がないから、又家へ戻って、Aを呼んで半分ずつ抱えて帰る。 此の毎 …
読書目安時間:約10分
六月二日 静かな快い日である。朝起きて、下の郵便局に行って見ると、抱え切れない程の小包が来て居る。皆日本からだ。仕方がないから、又家へ戻って、Aを呼んで半分ずつ抱えて帰る。 此の毎 …
十月の文芸時評(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
小さき歩み ああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説(改造)を手にとった。この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさ …
読書目安時間:約16分
小さき歩み ああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説(改造)を手にとった。この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさ …
終刊に寄す(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
用紙節約から廃刊になるということはさけがたいことながらやはりそれぞれにつながる編輯者のこれ迄の御骨折りや読者の好意について感想を新しくいたします。これ迄の足かけ八年間にこの雑誌のつ …
読書目安時間:約1分
用紙節約から廃刊になるということはさけがたいことながらやはりそれぞれにつながる編輯者のこれ迄の御骨折りや読者の好意について感想を新しくいたします。これ迄の足かけ八年間にこの雑誌のつ …
修身(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一九五〇年度は、青少年の犯罪が一般の重大な関心をひいた。 青少年の犯罪は、ふっとそんな気になって、ついやられてしまう。それが習癖にもなる。そのついやることは、きょうの社会のわれ目が …
読書目安時間:約5分
一九五〇年度は、青少年の犯罪が一般の重大な関心をひいた。 青少年の犯罪は、ふっとそんな気になって、ついやられてしまう。それが習癖にもなる。そのついやることは、きょうの社会のわれ目が …
「修身は復興すべきでしょうか」に答えて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
修身は、子供の全生活からうける生活感情の整理ですから、大人の生活にまず修身し、人間的理解の確立がいると思います。 現代の非理的な現実理解(国際情勢をこめて)に人民たる大人の疑問が積 …
読書目安時間:約1分
修身は、子供の全生活からうける生活感情の整理ですから、大人の生活にまず修身し、人間的理解の確立がいると思います。 現代の非理的な現実理解(国際情勢をこめて)に人民たる大人の疑問が積 …
十年の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
文芸のような無限の仕事をするものにとって、十年という月日は決して長いものではありません、考えように依ってはほんの僅かな一瞬間に過ぎないのに。そればかりのことをいかにも大そうらしく、 …
読書目安時間:約7分
文芸のような無限の仕事をするものにとって、十年という月日は決して長いものではありません、考えように依ってはほんの僅かな一瞬間に過ぎないのに。そればかりのことをいかにも大そうらしく、 …
手芸について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
切角お尋ねを受けましたが、私は何も手芸を存じません。編物や刺繍の或る物はひとのしている様子、出来上り等見るのを愛しますけれども。 非常に不器用で困ります。 〔一九二二年八月〕 …
読書目安時間:約1分
切角お尋ねを受けましたが、私は何も手芸を存じません。編物や刺繍の或る物はひとのしている様子、出来上り等見るのを愛しますけれども。 非常に不器用で困ります。 〔一九二二年八月〕 …
繻珍のズボン(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
父かたの祖母も母かたの祖母も八十を越えるまで存命だったので、どちらも私の思い出のなかにくっきりとした声や姿や心持ちを刻みのこしているが、祖父となると両方とも大変早く没している。 父 …
読書目安時間:約8分
父かたの祖母も母かたの祖母も八十を越えるまで存命だったので、どちらも私の思い出のなかにくっきりとした声や姿や心持ちを刻みのこしているが、祖父となると両方とも大変早く没している。 父 …
主婦意識の転換(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
義弟が、生れたばかりの赤坊と若い妻と母とをおいて再び出征するので、二十日ばかり瀬戸内海に沿った村へかえっていた。そこは、海辺近くだから春はめばる、夏は鱸と魚にこと欠いた経験はなくて …
読書目安時間:約4分
義弟が、生れたばかりの赤坊と若い妻と母とをおいて再び出征するので、二十日ばかり瀬戸内海に沿った村へかえっていた。そこは、海辺近くだから春はめばる、夏は鱸と魚にこと欠いた経験はなくて …
主婦と新聞(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
十一月一日の各新聞のすみに、読者調整のカードがすりこまれていた。 そのカードには、現在どんな新聞をよんでいるか、これからどんな新聞が読みたいかを書きこむ欄があって、希望新聞の名を書 …
読書目安時間:約2分
十一月一日の各新聞のすみに、読者調整のカードがすりこまれていた。 そのカードには、現在どんな新聞をよんでいるか、これからどんな新聞が読みたいかを書きこむ欄があって、希望新聞の名を書 …
純粋な動機なら好い(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、芸術批評を本気な仕事とせず、おっつけで、仕来りになったから「月評」と云うものの権威は薄くなったのではありませんか。 二、純粋な動機で批評すれば、或る月には、或る作品について多く …
読書目安時間:約1分
一、芸術批評を本気な仕事とせず、おっつけで、仕来りになったから「月評」と云うものの権威は薄くなったのではありませんか。 二、純粋な動機で批評すれば、或る月には、或る作品について多く …
正月とソヴェト勤労婦人(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
——ヤア、こんちは。 ——こんちは!どうした、久しぶりだね。 ——ウン。一時間ばかり暇かい? ——何用? ——今日は正月、ソヴェト同盟の勤労婦人たちがどんなに暮すか、知ってるだろう …
読書目安時間:約9分
——ヤア、こんちは。 ——こんちは!どうした、久しぶりだね。 ——ウン。一時間ばかり暇かい? ——何用? ——今日は正月、ソヴェト同盟の勤労婦人たちがどんなに暮すか、知ってるだろう …
しようがない、だろうか?(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「電燈料がまたあがるかね」 ほんとにしようがないわねえ。 「新聞でね、東畑博士がいっていますよ、日本の主食は三百万トン外国から買えば、芋ぬきで二合七勺配給になるのに、政府は三百七十 …
読書目安時間:約3分
「電燈料がまたあがるかね」 ほんとにしようがないわねえ。 「新聞でね、東畑博士がいっていますよ、日本の主食は三百万トン外国から買えば、芋ぬきで二合七勺配給になるのに、政府は三百七十 …
小景:ふるき市街の回想(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
その街は、昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。 四方から集って来た八本の架空線が、空の下で網めになって揺れている下では、ゲートルをまきつけた巡査が、短い影を足許に落し、 …
読書目安時間:約15分
その街は、昼間歩いて見るとまるで別な処のように感じられた。 四方から集って来た八本の架空線が、空の下で網めになって揺れている下では、ゲートルをまきつけた巡査が、短い影を足許に落し、 …
情景(秋)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
秋の景色(十一月初旬) ○曇り日日曜。ちっとも風がない。 ○すっかり黄色くなった梧桐の葉、 ○その落葉のひっかかっている槇の木の枝 ○きのうの雨でまだしめっぽく黒く見えている庭木の …
読書目安時間:約5分
秋の景色(十一月初旬) ○曇り日日曜。ちっとも風がない。 ○すっかり黄色くなった梧桐の葉、 ○その落葉のひっかかっている槇の木の枝 ○きのうの雨でまだしめっぽく黒く見えている庭木の …
小説と現実:小沢清の「軍服」について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
『新日本文学』に「町工場」という小説を発表した小沢清という若いひとが、「軍服」という小説をかいた。小沢清は勤労者の生活をしながら小説をかくようになった青年である。 まだ試作というべ …
読書目安時間:約4分
『新日本文学』に「町工場」という小説を発表した小沢清という若いひとが、「軍服」という小説をかいた。小沢清は勤労者の生活をしながら小説をかくようになった青年である。 まだ試作というべ …
小説の選を終えて(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私のところへ送付された十数篇の応募原稿の中から、左の四篇を予選にのこして回覧した。予選には洩れたが、何かの意味で書き直したら作者の勉強になるだろうと考えられた作品にはそれぞれ寸評を …
読書目安時間:約4分
私のところへ送付された十数篇の応募原稿の中から、左の四篇を予選にのこして回覧した。予選には洩れたが、何かの意味で書き直したら作者の勉強になるだろうと考えられた作品にはそれぞれ寸評を …
小説の読みどころ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
同志小林多喜二がボルシェヴィキの作家として実に偉かったところは、うむことないその前進性である。一つ一つの作品が必ず、それぞれに階級闘争の発展してゆく段階を何かの形で反映している。 …
読書目安時間:約4分
同志小林多喜二がボルシェヴィキの作家として実に偉かったところは、うむことないその前進性である。一つ一つの作品が必ず、それぞれに階級闘争の発展してゆく段階を何かの形で反映している。 …
序(『歌声よ、おこれ』)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
こんにち、わたしたちの生活と文学との建設のために、いくつもの大きい課題があらわれて来ている。苦しく、いきどおろしい人間理性否定の暗黒がすぎて、明るい光のさしそめるときになったが、過 …
読書目安時間:約3分
こんにち、わたしたちの生活と文学との建設のために、いくつもの大きい課題があらわれて来ている。苦しく、いきどおろしい人間理性否定の暗黒がすぎて、明るい光のさしそめるときになったが、過 …
商売は道によってかしこし(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
商売は道によってかしこし。こういう言葉がある。さすが専門にそれを研究しているものは見事なものだ、という意味もいくらかふくまれているだろう。しかし、この言葉が云われるとき人々はその口 …
読書目安時間:約6分
商売は道によってかしこし。こういう言葉がある。さすが専門にそれを研究しているものは見事なものだ、という意味もいくらかふくまれているだろう。しかし、この言葉が云われるとき人々はその口 …
勝利したプロレタリアのメーデー:モスクワの五月一日(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
さあ、いよいよメーデーが近づいたぞ! ソヴェト同盟のあらゆる工場・役場・学校の文化宣伝部委員たちは大忙しだ。 ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準 …
読書目安時間:約5分
さあ、いよいよメーデーが近づいたぞ! ソヴェト同盟のあらゆる工場・役場・学校の文化宣伝部委員たちは大忙しだ。 ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準 …
昭和十五年度の文学様相:現代文学の多難性(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今年の文学ということについて大略の印象をまとめようとすると、一つの特徴的な様相がそこに浮んで来るように思う。 それは作品と作家との間に生じた問題とも云える種類のものである。私たちが …
読書目安時間:約6分
今年の文学ということについて大略の印象をまとめようとすると、一つの特徴的な様相がそこに浮んで来るように思う。 それは作品と作家との間に生じた問題とも云える種類のものである。私たちが …
昭和の十四年間(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間11分
大正年代は、日本の文学界にもヨーロッパ大戦後の世界を洗いはじめたさまざまの文学的動きを、日本独特の土壤の上に成育させながら、極めて複雑な形で昭和に歩み進んだ。 ヨーロッパ大戦後の、 …
読書目安時間:約1時間11分
大正年代は、日本の文学界にもヨーロッパ大戦後の世界を洗いはじめたさまざまの文学的動きを、日本独特の土壤の上に成育させながら、極めて複雑な形で昭和に歩み進んだ。 ヨーロッパ大戦後の、 …
女学生だけの天幕生活:アメリカの夏季休暇の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
アメリカの女の夏の生活といっても、私の接触した範囲が極めて狭いので申上げるほどのことはありませんが……しかし、あの如何にも夏の休みを楽むような、愉快な女学生の生活はほんとに羨ましい …
読書目安時間:約2分
アメリカの女の夏の生活といっても、私の接触した範囲が極めて狭いので申上げるほどのことはありませんが……しかし、あの如何にも夏の休みを楽むような、愉快な女学生の生活はほんとに羨ましい …
初夏(一九二二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
六月一日 私は精神のローファー 定った家もなく繋がれた杭もなく 心のままに、街から街へ 小路から小路へと 霊の王国を彷徨う。 或人のように私は古典のみには安らえない。 又、或人のよ …
読書目安時間:約8分
六月一日 私は精神のローファー 定った家もなく繋がれた杭もなく 心のままに、街から街へ 小路から小路へと 霊の王国を彷徨う。 或人のように私は古典のみには安らえない。 又、或人のよ …
書簡箋(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
中国の書簡箋というものには、いつもケイがある。けれどもなぜケイがあるかは知らなかった。白文体について作人が書いている文章が「魯迅伝」に引用されている。「古文を用いますと、空っぽで内 …
読書目安時間:約2分
中国の書簡箋というものには、いつもケイがある。けれどもなぜケイがあるかは知らなかった。白文体について作人が書いている文章が「魯迅伝」に引用されている。「古文を用いますと、空っぽで内 …
職業のふしぎ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
作家や評論家というものが、女の生活についてどういう考えかたをしているかということは、一応わかりやすいことのようで案外めいめいにとってもわかりやすくない部分を内部にもっているのではな …
読書目安時間:約5分
作家や評論家というものが、女の生活についてどういう考えかたをしているかということは、一応わかりやすいことのようで案外めいめいにとってもわかりやすくない部分を内部にもっているのではな …
職業婦人に生理休暇を!:自然なことを自然なように(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一般の婦人の勤労生活と毎月の生理的変化との関係が、新らしい注意で見られることは実によいと思う。日本では年々労働にしたがう若い女のひとの数は殖えており、先日それぞれの道の専門家が新聞 …
読書目安時間:約2分
一般の婦人の勤労生活と毎月の生理的変化との関係が、新らしい注意で見られることは実によいと思う。日本では年々労働にしたがう若い女のひとの数は殖えており、先日それぞれの道の専門家が新聞 …
書斎の条件(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
空想のうちに描いている斯様ありたいと思う書斎の条件を並べます。いつも静かで、変化の著しくない光線の入ること。窓も大きくとり、茂った常緑木の葉、落葉樹の感情ある変化を眺めうること。 …
読書目安時間:約1分
空想のうちに描いている斯様ありたいと思う書斎の条件を並べます。いつも静かで、変化の著しくない光線の入ること。窓も大きくとり、茂った常緑木の葉、落葉樹の感情ある変化を眺めうること。 …
書斎を中心にした家(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
我々のように、二人とも机に向って仕事をする者は、若し理想を実現し得るなら、先ず静かなよい書斎を持ちたいのが希望です。 何も、壮麗でなく、材料が素晴らしいのではなくてよいから、各自の …
読書目安時間:約8分
我々のように、二人とも机に向って仕事をする者は、若し理想を実現し得るなら、先ず静かなよい書斎を持ちたいのが希望です。 何も、壮麗でなく、材料が素晴らしいのではなくてよいから、各自の …
処女作より結婚まで(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
人並みの苦心をすることは決して苦心とはいえないでしょう。というのは、成功と失敗とに拘わらず、努力に就ての或る標準が予想されていて、その標準以上の努力をした場合でなければ、苦心といえ …
読書目安時間:約2分
人並みの苦心をすることは決して苦心とはいえないでしょう。というのは、成功と失敗とに拘わらず、努力に就ての或る標準が予想されていて、その標準以上の努力をした場合でなければ、苦心といえ …
「処女作」より前の処女作(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
どんな作家でも、はじめて作品が雑誌なら雑誌に発表されたという意味での処女作のほかに、ほんとの処女作というのもおかしいが誰にもよまれず、永年のうちには書いた自分自身さえそのことは忘れ …
読書目安時間:約5分
どんな作家でも、はじめて作品が雑誌なら雑誌に発表されたという意味での処女作のほかに、ほんとの処女作というのもおかしいが誰にもよまれず、永年のうちには書いた自分自身さえそのことは忘れ …
女性週評(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
大雷雨 大雷雨の空が夕焼のように赤らんでいるのを大変不思議に思いながら寝て、けさ新聞を見たら、落雷で丸之内の官衙が九つ灰燼に帰した出来ごとを知った。愛する東京よ、東京よ。何と自然の …
読書目安時間:約7分
大雷雨 大雷雨の空が夕焼のように赤らんでいるのを大変不思議に思いながら寝て、けさ新聞を見たら、落雷で丸之内の官衙が九つ灰燼に帰した出来ごとを知った。愛する東京よ、東京よ。何と自然の …
女性の書く本(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小さい年表をこしらえる仕事がきっかけとなって、先頃古い出版年鑑をくりかえして見た。直接には、婦人がどんな文学的労作を出版しているかということを知りたかったのだけれども、年鑑をくって …
読書目安時間:約6分
小さい年表をこしらえる仕事がきっかけとなって、先頃古い出版年鑑をくりかえして見た。直接には、婦人がどんな文学的労作を出版しているかということを知りたかったのだけれども、年鑑をくって …
女性の教養と新聞(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
現実を、その様々な相互関係、矛盾の内外につき入って具体的に理解する実力、そしてそれらの間に在る自身の居り場所とその意味を把握して生きる力を教養であるとして考えて見ると、今日の日本の …
読書目安時間:約4分
現実を、その様々な相互関係、矛盾の内外につき入って具体的に理解する実力、そしてそれらの間に在る自身の居り場所とその意味を把握して生きる力を教養であるとして考えて見ると、今日の日本の …
女性の現実(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
十二月十七日から三日の間に行われた協力会議で、婦人の問題で高良富子さんが、婦人局の設置の案を提出した。それに対して、有馬頼寧伯の談として、婦人局というようなものを置こうとは思ってい …
読書目安時間:約7分
十二月十七日から三日の間に行われた協力会議で、婦人の問題で高良富子さんが、婦人局の設置の案を提出した。それに対して、有馬頼寧伯の談として、婦人局というようなものを置こうとは思ってい …
女性の生活態度(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
自分ひとりの生活をなんとかして一度やって見たいと思っている一方、それを反省し家庭にいるべきだと迷っている人が多いのですが——。 その気持はよく判りますね。恐らく十人が十人そう云った …
読書目安時間:約16分
自分ひとりの生活をなんとかして一度やって見たいと思っている一方、それを反省し家庭にいるべきだと迷っている人が多いのですが——。 その気持はよく判りますね。恐らく十人が十人そう云った …
女性の歴史:文学にそって(新字新仮名)
読書目安時間:約44分
私たちが様々の美しい浮き彫の彫刻を見るとき、浮き彫はどういう形でわたしたちに見られているだろうか。浮き彫の浮きあがっている面からいつも見ている。けれどもその陰には浮き上っている厚さ …
読書目安時間:約44分
私たちが様々の美しい浮き彫の彫刻を見るとき、浮き彫はどういう形でわたしたちに見られているだろうか。浮き彫の浮きあがっている面からいつも見ている。けれどもその陰には浮き上っている厚さ …
女性の歴史の七十四年(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
私たち日本の女性は、これまでの歴史の中で、はたしてどんな政治的な経験と呼ばれるものをうけついで来ているのだろうか。 自由民権時代に、岸田俊子その他の若い女性が活躍したことは周知のと …
読書目安時間:約18分
私たち日本の女性は、これまでの歴史の中で、はたしてどんな政治的な経験と呼ばれるものをうけついで来ているのだろうか。 自由民権時代に、岸田俊子その他の若い女性が活躍したことは周知のと …
序(『乳房』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この一冊に集められている作品の中には、「一太と母」のように随分古く書かれたものもあり、本年の一月に発表した「雑沓」のようなものもある。旅行記は小説ではない訳であるが、私の作家として …
読書目安時間:約1分
この一冊に集められている作品の中には、「一太と母」のように随分古く書かれたものもあり、本年の一月に発表した「雑沓」のようなものもある。旅行記は小説ではない訳であるが、私の作家として …
序(『昼夜随筆』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この集にまとめられている感想評論は、大体一九三四年の秋から一九三五年の春ごろまでに書かれたもの、及び一年ばかりとんで、一九三六年の初夏から今日に至るまでの間に書かれたものである。 …
読書目安時間:約1分
この集にまとめられている感想評論は、大体一九三四年の秋から一九三五年の春ごろまでに書かれたもの、及び一年ばかりとんで、一九三六年の初夏から今日に至るまでの間に書かれたものである。 …
序(『日本の青春』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
歴史の可能は、いつの時代にも青春のうちに見出されて来た。日本の青春が明日に可能としている運命は、何と大きく画期的であるだろう。 この予想は、きのうまで日本の青春が、あのようにもむご …
読書目安時間:約1分
歴史の可能は、いつの時代にも青春のうちに見出されて来た。日本の青春が明日に可能としている運命は、何と大きく画期的であるだろう。 この予想は、きのうまで日本の青春が、あのようにもむご …
序(『伸子』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この小説は、大正十三年の九月から十五年の九月までの間に、一部分ずつ改造に掲載されたものだ。 書き始めてから、終るまでの間に足掛三年経って居る。其故、擱筆当時に見てさえも、最初の部分 …
読書目安時間:約1分
この小説は、大正十三年の九月から十五年の九月までの間に、一部分ずつ改造に掲載されたものだ。 書き始めてから、終るまでの間に足掛三年経って居る。其故、擱筆当時に見てさえも、最初の部分 …
諸物転身の抄(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
これまで、今時分の東京の乾物屋の店先にこんなに種々様々にあしらわれて鰊が並んだことがあっただろうか。 身がきにしんの束がそこにあるわきで、小僧と娘さんとが、その身がきにしんにドロリ …
読書目安時間:約2分
これまで、今時分の東京の乾物屋の店先にこんなに種々様々にあしらわれて鰊が並んだことがあっただろうか。 身がきにしんの束がそこにあるわきで、小僧と娘さんとが、その身がきにしんにドロリ …
序(『文学の進路』)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
世界の歴史は大きく動いていて、日本の生活と文化文学も、この数年の間に示して来たうつりかわりを、これからは一層つよく広汎に現してゆくことだろうと考える。 日本文学は、それが世界史的な …
読書目安時間:約1分
世界の歴史は大きく動いていて、日本の生活と文化文学も、この数年の間に示して来たうつりかわりを、これからは一層つよく広汎に現してゆくことだろうと考える。 日本文学は、それが世界史的な …
女流作家多難:創作上の諸問題(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
どうもこれは大へん難しいおたずねだと思われますね。こういう質問を受けて、私が返答に困るのは、いってみれば、今のような世の中での生活は重荷がベタ押しで、取り出して見れば経済的な重荷、 …
読書目安時間:約4分
どうもこれは大へん難しいおたずねだと思われますね。こういう質問を受けて、私が返答に困るのは、いってみれば、今のような世の中での生活は重荷がベタ押しで、取り出して見れば経済的な重荷、 …
女流作家として私は何を求むるか(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
なぜ女性の中から良い芸術家が生れないか、或いはそれが生れたにしてもなぜ完成の域にまで成長しないのか、その質疑に対して私は第一に女性教育の欠陥を挙げたいと思います。個性の上に温かいは …
読書目安時間:約3分
なぜ女性の中から良い芸術家が生れないか、或いはそれが生れたにしてもなぜ完成の域にまで成長しないのか、その質疑に対して私は第一に女性教育の欠陥を挙げたいと思います。個性の上に温かいは …
白藤(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
夢で見たような一つの思い出がある。 小さい自分が、ピアノの前で腰かけにかけている。脚をぶらぶらさせて、そして、指でポツン、ポツンと音を出している。はにかんで、ほんとうに弾けるように …
読書目安時間:約16分
夢で見たような一つの思い出がある。 小さい自分が、ピアノの前で腰かけにかけている。脚をぶらぶらさせて、そして、指でポツン、ポツンと音を出している。はにかんで、ほんとうに弾けるように …
白い蚊帳(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
なほ子は、従弟の部屋の手摺から、熱心に下の往来の大神楽を見物していた。その大神楽は、朝早くから温泉町を流しているのだが、坂の左右に並んだ温泉町は小さいから、三味線、鉦などの音が町の …
読書目安時間:約18分
なほ子は、従弟の部屋の手摺から、熱心に下の往来の大神楽を見物していた。その大神楽は、朝早くから温泉町を流しているのだが、坂の左右に並んだ温泉町は小さいから、三味線、鉦などの音が町の …
白い翼(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
或る夕方、雄鳩が先に小屋へ入った。片隅へ遠慮ぶかく落付きながら彼は雌を呼んだ。雌が来た。入口で一寸首を傾け内部を覗いてから棲り木に移った。彼等は両方からより添って互の体を軟く押しつ …
読書目安時間:約5分
或る夕方、雄鳩が先に小屋へ入った。片隅へ遠慮ぶかく落付きながら彼は雌を呼んだ。雌が来た。入口で一寸首を傾け内部を覗いてから棲り木に移った。彼等は両方からより添って互の体を軟く押しつ …
塵埃、空、花(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
今日などはもう随分暖い。昨夜一晩のうちに机の上のチューリップがすっかり咲き切って、白い木蓮かなどのように見える花弁の上に、黄色い花粉を沢山こぼしている。太い雌芯の先に濃くその花粉が …
読書目安時間:約2分
今日などはもう随分暖い。昨夜一晩のうちに机の上のチューリップがすっかり咲き切って、白い木蓮かなどのように見える花弁の上に、黄色い花粉を沢山こぼしている。太い雌芯の先に濃くその花粉が …
信義について(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
去る四月一日の『大学新聞』に逸見重雄氏が「野呂栄太郎の追憶」という長い文章を発表した。マルクス主義を深く理解している者としての筆致で、野呂栄太郎の伝記が細かに書かれ、最後は野呂栄太 …
読書目安時間:約6分
去る四月一日の『大学新聞』に逸見重雄氏が「野呂栄太郎の追憶」という長い文章を発表した。マルクス主義を深く理解している者としての筆致で、野呂栄太郎の伝記が細かに書かれ、最後は野呂栄太 …
新女性のルポルタージュより(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
集った原稿をよんで、生活のルポルタージュというものは案外むずかしいものであることを深く感じました。 ごく主観的に自分の気持というものを自分の気持の内からだけ書いた感想のようなものが …
読書目安時間:約4分
集った原稿をよんで、生活のルポルタージュというものは案外むずかしいものであることを深く感じました。 ごく主観的に自分の気持というものを自分の気持の内からだけ書いた感想のようなものが …
人生の共感:求められる文学について(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
今日、私たちが文学に求めているものは何であろう。求められている文学とは、どういうものだろう。 部分的ないろいろの要求というものは、いつもあったし、これからもずっと自分にもひとにも持 …
読書目安時間:約11分
今日、私たちが文学に求めているものは何であろう。求められている文学とは、どういうものだろう。 部分的ないろいろの要求というものは、いつもあったし、これからもずっと自分にもひとにも持 …
人生のテーマ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
たくさんの文学作品がよまれている。作品はテーマをもっている。わたしたちの人生のテーマはどこに見出されているだろうか。文学の作品はよみかえすことができる。けれどもわたしたちの人生はた …
読書目安時間:約1分
たくさんの文学作品がよまれている。作品はテーマをもっている。わたしたちの人生のテーマはどこに見出されているだろうか。文学の作品はよみかえすことができる。けれどもわたしたちの人生はた …
人生の風情(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
明治二十年代の日本のロマンティシズムの流れの中からは、藤村、露伴をはじめいろいろの作家が生れたわけだけれども、樋口一葉は、その二十五年の生涯が短かっただけに、丁度この時代のロマンテ …
読書目安時間:約2分
明治二十年代の日本のロマンティシズムの流れの中からは、藤村、露伴をはじめいろいろの作家が生れたわけだけれども、樋口一葉は、その二十五年の生涯が短かっただけに、丁度この時代のロマンテ …
人生を愛しましょう(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
現在、私たちは配給に追われたりまきをくすぶらして、食事の仕度をするというような生活に非常な不満をもっています。この不満は五十年、百年前の女性はもっていなかったと思います。これをどう …
読書目安時間:約2分
現在、私たちは配給に追われたりまきをくすぶらして、食事の仕度をするというような生活に非常な不満をもっています。この不満は五十年、百年前の女性はもっていなかったと思います。これをどう …
新世界の富(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
第二次世界大戦では、世界のあらゆる国々が大きい犠牲を払った。地球はこの戦争によって血みどろにされた。然し全人類的なこの闘争は、これまでの歴史にあったすべての戦争と全く種類を異にして …
読書目安時間:約7分
第二次世界大戦では、世界のあらゆる国々が大きい犠牲を払った。地球はこの戦争によって血みどろにされた。然し全人類的なこの闘争は、これまでの歴史にあったすべての戦争と全く種類を異にして …
沈丁花(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
はる子は或る知己から、一人の女のひとを紹介された。小畑千鶴子と云った。千鶴子が訪ねて来た時はる子は家にいなかった。それなり一年ばかりすぎた後、古びた紹介状が再び封入して千鶴子から会 …
読書目安時間:約20分
はる子は或る知己から、一人の女のひとを紹介された。小畑千鶴子と云った。千鶴子が訪ねて来た時はる子は家にいなかった。それなり一年ばかりすぎた後、古びた紹介状が再び封入して千鶴子から会 …
新日本文学の端緒(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
満州事変以来今日までの十四年間に、旧日本の文学が崩壊しつくして行った過程は、日本文学史にとって未曾有のことであるばかりでなく、世界文学の眺望においても、駭くべき一事実ではないだろう …
読書目安時間:約2分
満州事変以来今日までの十四年間に、旧日本の文学が崩壊しつくして行った過程は、日本文学史にとって未曾有のことであるばかりでなく、世界文学の眺望においても、駭くべき一事実ではないだろう …
新入生(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この頃は朝早く出かけることが多くて、電車へのるところまで歩く間に、どっさり学生にすれちがう。新しい靴、洋服、ランドセルに大きめの帽子をかぶった小学一年生。新入学の女学生や中学生たち …
読書目安時間:約4分
この頃は朝早く出かけることが多くて、電車へのるところまで歩く間に、どっさり学生にすれちがう。新しい靴、洋服、ランドセルに大きめの帽子をかぶった小学一年生。新入学の女学生や中学生たち …
新年号の『文学評論』その他(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
内外の複雑な関係によってプロレタリア作家が組織を解体してから、ほぼ一ヵ年が経過した。その困難な期間に発刊されたさまざまの文化・文学雑誌は、編輯同人のグループはそれぞれに別個だし、編 …
読書目安時間:約16分
内外の複雑な関係によってプロレタリア作家が組織を解体してから、ほぼ一ヵ年が経過した。その困難な期間に発刊されたさまざまの文化・文学雑誌は、編輯同人のグループはそれぞれに別個だし、編 …
心配(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
静な町から来た私には駿河台と小川町の通はあんまりにぎやかすぎた。駿河台で電車を下りるとすぐ一つの心配が持ち立った。それは自分のつれて居るじいやが田舎出だからと云う事であった。電車を …
読書目安時間:約3分
静な町から来た私には駿河台と小川町の通はあんまりにぎやかすぎた。駿河台で電車を下りるとすぐ一つの心配が持ち立った。それは自分のつれて居るじいやが田舎出だからと云う事であった。電車を …
身辺打明けの記(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
朝と夜 わたくしは、朝は大抵九時前後に目がさめます。最も前夜十二時頃か、一時二時頃までも夜ふかしをすると、朝もつい遅くなって、十一時頃でなければ目がさめません。わたくしは一体、たく …
読書目安時間:約8分
朝と夜 わたくしは、朝は大抵九時前後に目がさめます。最も前夜十二時頃か、一時二時頃までも夜ふかしをすると、朝もつい遅くなって、十一時頃でなければ目がさめません。わたくしは一体、たく …
人民戦線への一歩(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
うちを出て、もよりの省線の駅までゆく途中の焼跡にも、この頃はいろいろの露店が出はじめた。葭簀ばりの屋台も、いくつかある。 きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど …
読書目安時間:約11分
うちを出て、もよりの省線の駅までゆく途中の焼跡にも、この頃はいろいろの露店が出はじめた。葭簀ばりの屋台も、いくつかある。 きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど …
人民のために捧げられた生涯(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
尾崎秀実氏が獄中から書かれた書簡集がまとめられることになった。それについて、短い文章を書くようにとの依頼をうけた。 尾崎氏とその家族のために、永年心をつくしていられる友人たちは、決 …
読書目安時間:約3分
尾崎秀実氏が獄中から書かれた書簡集がまとめられることになった。それについて、短い文章を書くようにとの依頼をうけた。 尾崎氏とその家族のために、永年心をつくしていられる友人たちは、決 …
新緑(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この頃の新緑の美しさ。私は、毎朝目を醒ますと、先ず庭を観るのが一つの悦びだ。空がよく晴れて、日光がキラキラする梢の鮮かな姿を見るのもたのしいし、又は、今朝のような雨に煙とけ、一層陰 …
読書目安時間:約2分
この頃の新緑の美しさ。私は、毎朝目を醒ますと、先ず庭を観るのが一つの悦びだ。空がよく晴れて、日光がキラキラする梢の鮮かな姿を見るのもたのしいし、又は、今朝のような雨に煙とけ、一層陰 …
「推理小説」(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一九四九年の日本の夏は、勤労人民のすべてにとって、切実な生存擁護のためのたたかいの季節としてはじまった。 七月四日に国鉄は九万五千人の整理を発表し、組合側はそれに対してただちに抗議 …
読書目安時間:約5分
一九四九年の日本の夏は、勤労人民のすべてにとって、切実な生存擁護のためのたたかいの季節としてはじまった。 七月四日に国鉄は九万五千人の整理を発表し、組合側はそれに対してただちに抗議 …
数言の補足:七日附本欄伊藤整氏への答として(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
八月七日の本紙に、伊藤整氏が同氏の作「幽鬼の町」に就て書いた私の月評に反駁した文章を発表された。編輯者は、私からそれに答える文を求めている。生活及文学に対する私の態度を盲目的な偏執 …
読書目安時間:約4分
八月七日の本紙に、伊藤整氏が同氏の作「幽鬼の町」に就て書いた私の月評に反駁した文章を発表された。編輯者は、私からそれに答える文を求めている。生活及文学に対する私の態度を盲目的な偏執 …
杉垣(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
電気時計が三十分ちかくもおくれていたのを知らなかったものだから、二人が省線の駅で降りた時分は、とうにバスがなくなっていた。 駅前のからりとしたアスファルト道の上に空の高いところから …
読書目安時間:約31分
電気時計が三十分ちかくもおくれていたのを知らなかったものだから、二人が省線の駅で降りた時分は、とうにバスがなくなっていた。 駅前のからりとしたアスファルト道の上に空の高いところから …
杉子(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
ふた足み足階段を下りかけたところへ、日曜日の割合閑散なプラットフォームの日光をふるわすような勢で下りの山の手が突進して来た。柔かな緑色の服の裾だのいくらか栗色っぽいゆたかな髪の毛だ …
読書目安時間:約20分
ふた足み足階段を下りかけたところへ、日曜日の割合閑散なプラットフォームの日光をふるわすような勢で下りの山の手が突進して来た。柔かな緑色の服の裾だのいくらか栗色っぽいゆたかな髪の毛だ …
透き徹る秋(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
空を、はるばると見あげ、思う。何という透明な世界だろう。 晴れ渡った或る日、障子を開け放して机に向っていた。何かの拍子に、フト眼が、庭の一隅にある青桐の梢に牽かれ、何心なく眺めるう …
読書目安時間:約6分
空を、はるばると見あげ、思う。何という透明な世界だろう。 晴れ渡った或る日、障子を開け放して机に向っていた。何かの拍子に、フト眼が、庭の一隅にある青桐の梢に牽かれ、何心なく眺めるう …
すきな食べ物と嫌いな食べ物(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、蝦、鰒類、うなぎ、肉類、新鮮な野菜(特に、うど、セレリー、チサ、若いなま胡瓜、よい玉葱) 二、味のすっぱいものは食べられません。見た形や色がいやな連想を与えるもの、例えて云うと …
読書目安時間:約1分
一、蝦、鰒類、うなぎ、肉類、新鮮な野菜(特に、うど、セレリー、チサ、若いなま胡瓜、よい玉葱) 二、味のすっぱいものは食べられません。見た形や色がいやな連想を与えるもの、例えて云うと …
好きな俳優(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私は、平常あまり芝居を観ないためか特にとりたてて好きと云う俳優も知りません。名声ある人々の折々に、よい印象も与えられることはあっても。 〔一九二四年二月〕 …
読書目安時間:約1分
私は、平常あまり芝居を観ないためか特にとりたてて好きと云う俳優も知りません。名声ある人々の折々に、よい印象も与えられることはあっても。 〔一九二四年二月〕 …
Sketches for details Shima(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
○床の間の上の長押に功七級金鵄勲章の金額のところはかくれるような工合に折った書類が茶色の小さい木の椽に入ってかかっている、針金で。 ○大きい木の椽に、勲八等の青色桐葉章を与う証が入 …
読書目安時間:約4分
○床の間の上の長押に功七級金鵄勲章の金額のところはかくれるような工合に折った書類が茶色の小さい木の椽に入ってかかっている、針金で。 ○大きい木の椽に、勲八等の青色桐葉章を与う証が入 …
「健やかさ」とは(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
二月十一日の祭日に、日劇のまわりで演じられた数万の群集の大混乱が、何か一つの事件めいた感銘を一般に与えて、あの事から様々の反響——手近に云えばこれまでパン屋のよこにつくられた列もい …
読書目安時間:約4分
二月十一日の祭日に、日劇のまわりで演じられた数万の群集の大混乱が、何か一つの事件めいた感銘を一般に与えて、あの事から様々の反響——手近に云えばこれまでパン屋のよこにつくられた列もい …
『進み行く娘達へ』に寄せて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
かなしい昔の母たちが最愛の娘のためにととのえてやる生涯の仕度は、幾重ねかの嫁入衣装と一ふりの懐剣とであった。現代の若い母が、わが娘への深い愛情をひろく次の世代の女性たちの幸福への建 …
読書目安時間:約1分
かなしい昔の母たちが最愛の娘のためにととのえてやる生涯の仕度は、幾重ねかの嫁入衣装と一ふりの懐剣とであった。現代の若い母が、わが娘への深い愛情をひろく次の世代の女性たちの幸福への建 …
砂遊場からの同志:――ソヴェト同盟の共学について――(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
托児所からはじまる モスクヷはクレムリとモスクヷ河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照 …
読書目安時間:約14分
托児所からはじまる モスクヷはクレムリとモスクヷ河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照 …
スモーリヌイに翻る赤旗(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
レーニングラードへ 夜十一時。オクチャーブリスキー停車場のプラットフォームに、レーニングラード行の列車が横づけになっている。 麻袋。樺の木箱に繩でブリキやかんをくくりつけたもの。い …
読書目安時間:約50分
レーニングラードへ 夜十一時。オクチャーブリスキー停車場のプラットフォームに、レーニングラード行の列車が横づけになっている。 麻袋。樺の木箱に繩でブリキやかんをくくりつけたもの。い …
ズラかった信吉(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間50分
(Ⅰ)東海道本線を三等寝台車が走るようになった。だがあれは、三段にもなっていて、狭く、窮屈で養鶏所の人工孵卵器みたいだ。 シベリア鉄道の三等は二段だ。広軌だから、通路をへだてたもう …
読書目安時間:約1時間50分
(Ⅰ)東海道本線を三等寝台車が走るようになった。だがあれは、三段にもなっていて、狭く、窮屈で養鶏所の人工孵卵器みたいだ。 シベリア鉄道の三等は二段だ。広軌だから、通路をへだてたもう …
生活者としての成長:二葉亭四迷の悲劇にもふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
三四年前、いろいろなところで青年論がされたことがあった。そのときは、現実の社会生活と文化との間にヒューメンなものの可能を積極的に見出してその成長や開花を求めてゆこうとしていた日本の …
読書目安時間:約12分
三四年前、いろいろなところで青年論がされたことがあった。そのときは、現実の社会生活と文化との間にヒューメンなものの可能を積極的に見出してその成長や開花を求めてゆこうとしていた日本の …
生活的共感と文学(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私の生活も随分夥しい或は根本的な変化をうけていますが、それはおそらく、この四年の間に成金になりもしなかった大多数の国民が、その日々で経て来ている、その変りかただと思います。事の端々 …
読書目安時間:約1分
私の生活も随分夥しい或は根本的な変化をうけていますが、それはおそらく、この四年の間に成金になりもしなかった大多数の国民が、その日々で経て来ている、その変りかただと思います。事の端々 …
生活においての統一(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
日本の文学と文学者とは、最近数年の間に極めて容赦のない過程で、政治というものについて、目をさまされて来た。 大体日本文学は、その歴史の発端から、風流を文学の芸術性の骨子として、社会 …
読書目安時間:約2分
日本の文学と文学者とは、最近数年の間に極めて容赦のない過程で、政治というものについて、目をさまされて来た。 大体日本文学は、その歴史の発端から、風流を文学の芸術性の骨子として、社会 …
生活のなかにある美について(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
私たちの日常生活のなかにある美しさというものも、今はなかなかきつい風に吹かれているのではないだろうかと思う。 日々の生活にあった日本の美しさの隅々が変化をうけつつある。たとえば家の …
読書目安時間:約9分
私たちの日常生活のなかにある美しさというものも、今はなかなかきつい風に吹かれているのではないだろうかと思う。 日々の生活にあった日本の美しさの隅々が変化をうけつつある。たとえば家の …
生活の道より(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今年の一月から半年ばかりの間、私は大変非人間的条件の下で生活することを余儀なくされた。 今になって見ると、その不自由な生活の終りに近くなってからのことであるが、私は心臓が弱って氷嚢 …
読書目安時間:約6分
今年の一月から半年ばかりの間、私は大変非人間的条件の下で生活することを余儀なくされた。 今になって見ると、その不自由な生活の終りに近くなってからのことであるが、私は心臓が弱って氷嚢 …
生活の様式(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
芍薬 「これ八百屋の店先にバケツにつけてあったの。一束八銭よこれだけで十六銭やすいでしょう。こないだ夜店で一輪五銭の蕾買って来たらみんなさいて迚もうれしかった——この色少し気にいら …
読書目安時間:約2分
芍薬 「これ八百屋の店先にバケツにつけてあったの。一束八銭よこれだけで十六銭やすいでしょう。こないだ夜店で一輪五銭の蕾買って来たらみんなさいて迚もうれしかった——この色少し気にいら …
生活の理想と実際(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
社会生活のあらゆる面が今日のように複雑だと、実際生活の合理化といっても家事整理の手間を出来るだけ省くとか二重生活の煩をさけるとか申すことに止めがちです。その範囲でいえば、私は境遇の …
読書目安時間:約1分
社会生活のあらゆる面が今日のように複雑だと、実際生活の合理化といっても家事整理の手間を出来るだけ省くとか二重生活の煩をさけるとか申すことに止めがちです。その範囲でいえば、私は境遇の …
正義の花の環:一九四八年のメーデー(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
三度めのメーデーが来る。ことしのメーデーはどんなメーデーになるだろう。お天気のよい日であることをのぞみたのしいメーデーの歌と行進とを期待する。去年は職場職場でなかなか趣向のこったプ …
読書目安時間:約6分
三度めのメーデーが来る。ことしのメーデーはどんなメーデーになるだろう。お天気のよい日であることをのぞみたのしいメーデーの歌と行進とを期待する。去年は職場職場でなかなか趣向のこったプ …
世紀の「分別」(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
日本の言葉に、大人気ない、という表現がある。誰の目から見てもあんまり愚劣だと思われることがらや、衆目が、そこに誹謗を見とおすような言動に対して、まともにそれをとりあげたり、理非を正 …
読書目安時間:約7分
日本の言葉に、大人気ない、という表現がある。誰の目から見てもあんまり愚劣だと思われることがらや、衆目が、そこに誹謗を見とおすような言動に対して、まともにそれをとりあげたり、理非を正 …
生産文学の問題:文学に求められているもの(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
文学とは何であろうか。そういう問いは私たちの日常生活の裡で、極めて変化の多い形や感情をとってあらわれて来ていると思う。問いが原形のままに感じられることもあり、現在ある文学作品に対す …
読書目安時間:約5分
文学とは何であろうか。そういう問いは私たちの日常生活の裡で、極めて変化の多い形や感情をとってあらわれて来ていると思う。問いが原形のままに感じられることもあり、現在ある文学作品に対す …
政治と作家の現実(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
深大な犠牲をはらって西欧におけるファシズムを粉砕したソヴェト同盟では、平和が克復するとすぐ、物質と精神の全面に精力的な再建がはじまった模様である。たとえば、ドニェプルの大発電所は、 …
読書目安時間:約38分
深大な犠牲をはらって西欧におけるファシズムを粉砕したソヴェト同盟では、平和が克復するとすぐ、物質と精神の全面に精力的な再建がはじまった模様である。たとえば、ドニェプルの大発電所は、 …
青春(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
青春の微妙なおもしろさは、その真只中にいるときは誰しもそれを、後で思い出のなかでまとめるような形ではっきり自覚しないまま、刻々を精一杯によろこび、悲しみながら生きてゆくところにある …
読書目安時間:約16分
青春の微妙なおもしろさは、その真只中にいるときは誰しもそれを、後で思い出のなかでまとめるような形ではっきり自覚しないまま、刻々を精一杯によろこび、悲しみながら生きてゆくところにある …
生態の流行(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
二ヵ月ばかり前の或る日、神田の大書店の新刊書台のあたりを歩いていたら、ふと「学生の生態」という本が眼に映った。おや、生態ばやりで、こんなジャーナリスティックな模倣があらわれていると …
読書目安時間:約6分
二ヵ月ばかり前の或る日、神田の大書店の新刊書台のあたりを歩いていたら、ふと「学生の生態」という本が眼に映った。おや、生態ばやりで、こんなジャーナリスティックな模倣があらわれていると …
成長意慾としての恋愛(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ある種の人々にとって、恋愛はそう大した人生の問題でなく感じられているかもしれない。あながち志壮なるが故にではなく、ごく古くからありふれた習俗の枠にはまった考えかたで、恋愛と青春の放 …
読書目安時間:約6分
ある種の人々にとって、恋愛はそう大した人生の問題でなく感じられているかもしれない。あながち志壮なるが故にではなく、ごく古くからありふれた習俗の枠にはまった考えかたで、恋愛と青春の放 …
青年の生きる道(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
日本の人口は七千万といわれている。その中で青年はどれほどの数を占めているのであろうか。今日、日本に生きる私達は皆一かたならない困難を持っているし、一朝一夕に片づかない社会的課題を持 …
読書目安時間:約14分
日本の人口は七千万といわれている。その中で青年はどれほどの数を占めているのであろうか。今日、日本に生きる私達は皆一かたならない困難を持っているし、一朝一夕に片づかない社会的課題を持 …
「青眉抄」について(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この秋(昭和十八年)文展と殆ど同時に関西美術展というのが開催された。 病気からすっかり丈夫にならないので、明治大正美術展も見られなかったし、このときも行かれず、残念に思った。新聞に …
読書目安時間:約5分
この秋(昭和十八年)文展と殆ど同時に関西美術展というのが開催された。 病気からすっかり丈夫にならないので、明治大正美術展も見られなかったし、このときも行かれず、残念に思った。新聞に …
世界一もいろいろ:日本文化中央連盟(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
日本原理の上に樹つ新日本諸学を建設し、全国民に日本文化の神髄を深く自覚せしめるための日本文化中央連盟が、松本学氏などを中心として実業家、役人、学校経営者などによって結成された。百万 …
読書目安時間:約2分
日本原理の上に樹つ新日本諸学を建設し、全国民に日本文化の神髄を深く自覚せしめるための日本文化中央連盟が、松本学氏などを中心として実業家、役人、学校経営者などによって結成された。百万 …
世界の寡婦(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
八月十五日に戦争が終って、はじめて日本じゅうの家々に明るく電燈がついた。久しぶりにうす暗いかさをとりはずし、隅々までくっきりと照らしだされた炉ばたに坐って一家のものがあらためて互の …
読書目安時間:約18分
八月十五日に戦争が終って、はじめて日本じゅうの家々に明るく電燈がついた。久しぶりにうす暗いかさをとりはずし、隅々までくっきりと照らしだされた炉ばたに坐って一家のものがあらためて互の …
世界は平和を欲す(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
日本の新聞はアメリカの良心的な市民が読んだら怒るだろうほどおく面ない調子で、アメリカに原子爆弾よりも殺リク力を持った、放射線の雲を作ることが発明されたと報じています。建物を破壊しな …
読書目安時間:約2分
日本の新聞はアメリカの良心的な市民が読んだら怒るだろうほどおく面ない調子で、アメリカに原子爆弾よりも殺リク力を持った、放射線の雲を作ることが発明されたと報じています。建物を破壊しな …
世界は求めている、平和を!(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
二十世紀の後半の第一年—一九五一年がわたしたちの良心の前にひらかれた。昨年の六月二十五日、朝鮮に動乱がひきおこされて以来、日本では世界平和に対する一部の人々の確信がゆらいだ。一九四 …
読書目安時間:約4分
二十世紀の後半の第一年—一九五一年がわたしたちの良心の前にひらかれた。昨年の六月二十五日、朝鮮に動乱がひきおこされて以来、日本では世界平和に対する一部の人々の確信がゆらいだ。一九四 …
石油の都バクーへ(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
一九二八年九月二十八日、私ともう一人の連れとは、チフリスから夜行でバクーへやって来た。 有名な定期市が終った朝、ニージュニ・ノヴゴロドからイリイッチ号という小ざっぱりした周遊船にの …
読書目安時間:約16分
一九二八年九月二十八日、私ともう一人の連れとは、チフリスから夜行でバクーへやって来た。 有名な定期市が終った朝、ニージュニ・ノヴゴロドからイリイッチ号という小ざっぱりした周遊船にの …
世代の価値:世界と日本の文化史の知識(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
私たちの日々の生活というものは、極めて現実なものであって、どんなひとでも、その人々の生きている時代とその人の生活の属している社会環境とから離れて生活を持つということはない。どんなに …
読書目安時間:約21分
私たちの日々の生活というものは、極めて現実なものであって、どんなひとでも、その人々の生きている時代とその人の生活の属している社会環境とから離れて生活を持つということはない。どんなに …
積極な一生(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
長谷川時雨さんの御生涯を思うと、私たちは、やっぱり何よりも女性の多難な一生ということを考えずには居られなくて、最後までその道の上に居られた姿を、深く悼む心持です。 明治の濃い匂りの …
読書目安時間:約2分
長谷川時雨さんの御生涯を思うと、私たちは、やっぱり何よりも女性の多難な一生ということを考えずには居られなくて、最後までその道の上に居られた姿を、深く悼む心持です。 明治の濃い匂りの …
狭い一側面(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私が、初めて瀧田哲太郎氏に会ったのは、西片町に在った元の中央公論社でであった。大正五年の五月下旬であったろうか、私は坪内先生からの紹介で二百枚ばかりの小説を持ち、瀧田氏に面会を求め …
読書目安時間:約5分
私が、初めて瀧田哲太郎氏に会ったのは、西片町に在った元の中央公論社でであった。大正五年の五月下旬であったろうか、私は坪内先生からの紹介で二百枚ばかりの小説を持ち、瀧田氏に面会を求め …
一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
一九三七年十二月二十七日、警保局図書課が、ジャーナリストをあつめて懇談会を開く。その席上、ジャーナリストが自発的に執筆させないようにという形で、執筆禁止をした者、作家では中野重治、 …
読書目安時間:約4分
一九三七年十二月二十七日、警保局図書課が、ジャーナリストをあつめて懇談会を開く。その席上、ジャーナリストが自発的に執筆させないようにという形で、執筆禁止をした者、作家では中野重治、 …
一九三二年の春(新字新仮名)
読書目安時間:約45分
三月二十九日の朝、私は塩尻駅前の古風な宿屋で目をさました。雪が降っていた。この辺では、宿屋などは夜じゅう雨戸をしめず、炬燵のある部屋の障子をあけると、もういきなり雪がさかんに降って …
読書目安時間:約45分
三月二十九日の朝、私は塩尻駅前の古風な宿屋で目をさました。雪が降っていた。この辺では、宿屋などは夜じゅう雨戸をしめず、炬燵のある部屋の障子をあけると、もういきなり雪がさかんに降って …
一九三四年度におけるブルジョア文学の動向(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
一九三四年のブルジョア文学の上に現れたさまざまの意味ふかい動揺、不安定な模索およびある推量について理解するために、私たちはまず、去年の終りからひきつづいてその背景となったいわゆる文 …
読書目安時間:約34分
一九三四年のブルジョア文学の上に現れたさまざまの意味ふかい動揺、不安定な模索およびある推量について理解するために、私たちはまず、去年の終りからひきつづいてその背景となったいわゆる文 …
一九二九年一月――二月(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
二月 日曜、二十日 朝のうち、婦人公論新年号、新聞の切りぬきなどをよんだ。東京に於る、始めての陪審裁判の記事非常に興味あり。同時に陪審員裁判長の応答、その他一種の好意を感じた。紋付 …
読書目安時間:約23分
二月 日曜、二十日 朝のうち、婦人公論新年号、新聞の切りぬきなどをよんだ。東京に於る、始めての陪審裁判の記事非常に興味あり。同時に陪審員裁判長の応答、その他一種の好意を感じた。紋付 …
一九二五年より一九二七年一月まで(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
○パオリのこと ○父と娘との散策 ○武藤のこと ○貴婦人御あいての若い女 ○夢(二) ○隣の職工の会話 ○夜の大雨の心持。 ○小野、山岡、島野、(態度言葉顔) ○十月一日(十四夜月 …
読書目安時間:約31分
○パオリのこと ○父と娘との散策 ○武藤のこと ○貴婦人御あいての若い女 ○夢(二) ○隣の職工の会話 ○夜の大雨の心持。 ○小野、山岡、島野、(態度言葉顔) ○十月一日(十四夜月 …
一九二三年夏(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
標準時計 福井 地震と継母 Oのこと mammy のこと aと自分 ○祖父母、母、——自分で三つの時代の女性の生活気分と時代(明治初年、明治三十七八年——現今)に至るを、現したい。 …
読書目安時間:約16分
標準時計 福井 地震と継母 Oのこと mammy のこと aと自分 ○祖父母、母、——自分で三つの時代の女性の生活気分と時代(明治初年、明治三十七八年——現今)に至るを、現したい。 …
一九二三年冬(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
○Aの教えかた(家庭のことで) ○夫妻の品行ということ、 ○自分の子についての心持 ○母のない子、母というものの大切さ。 ○頼られるという人のたち、 ○自分のうそ。それにつれて考え …
読書目安時間:約14分
○Aの教えかた(家庭のことで) ○夫妻の品行ということ、 ○自分の子についての心持 ○母のない子、母というものの大切さ。 ○頼られるという人のたち、 ○自分のうそ。それにつれて考え …
一九二七年八月より(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
一九二七年三月 下旬の或日。春の始めの憂鬱な日がつづいた。 A、四十五六。 独身、一 Y、三十二歳 ※二十九歳 或夜 A来る。十二月から一人で農園をして居た その朝 「友情うすき友 …
読書目安時間:約8分
一九二七年三月 下旬の或日。春の始めの憂鬱な日がつづいた。 A、四十五六。 独身、一 Y、三十二歳 ※二十九歳 或夜 A来る。十二月から一人で農園をして居た その朝 「友情うすき友 …
一九二七年春より(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
○雲に映るかげ ○茅野の正月 ○ゴーゴリ的会の内面 ○アルマ ○花にむせぶ(Okarakyo の夫婦、犬、息子(肺病)) ○となり座敷(下スワの男、芸者二人。自分、Y、温泉) ○夢 …
読書目安時間:約20分
○雲に映るかげ ○茅野の正月 ○ゴーゴリ的会の内面 ○アルマ ○花にむせぶ(Okarakyo の夫婦、犬、息子(肺病)) ○となり座敷(下スワの男、芸者二人。自分、Y、温泉) ○夢 …
一九四七・八年の文壇:文学における昨年と今年(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
一九四七年の文学の動向として大へん目立つことは大体三つあると思います。 その一つは、一九四六年中は戦争に対する協力者としての活動の経験から執筆をひかえていたどっさりの作家が、公然と …
読書目安時間:約10分
一九四七年の文学の動向として大へん目立つことは大体三つあると思います。 その一つは、一九四六年中は戦争に対する協力者としての活動の経験から執筆をひかえていたどっさりの作家が、公然と …
一九四六年の文壇:新日本文学会における一般報告(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
序 昨年十月から今年の十月まで一年が経ちました。その間にはずいぶんいろいろのことがございました。昨年の八月以後、私どもが新しい人間性の確立と民主的な社会生活の確立、それに応じた文学 …
読書目安時間:約54分
序 昨年十月から今年の十月まで一年が経ちました。その間にはずいぶんいろいろのことがございました。昨年の八月以後、私どもが新しい人間性の確立と民主的な社会生活の確立、それに応じた文学 …
先駆的な古典として:バッハオーフェン『母権論』富野敬照氏訳(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のな …
読書目安時間:約5分
昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のな …
繊細な美の観賞と云う事について(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「春」と云う名のもたらした自然の賜物の中にすべての美がこめられて私達の目前に日毎に育って居る。 晴ればれと高い空を見ながら木蓮の白い花が青と紫の中に浮いて居るのを見ながら、私の心は …
読書目安時間:約6分
「春」と云う名のもたらした自然の賜物の中にすべての美がこめられて私達の目前に日毎に育って居る。 晴ればれと高い空を見ながら木蓮の白い花が青と紫の中に浮いて居るのを見ながら、私の心は …
前進的な勢力の結集(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
一九四五年の八月以来、日本のすべての生活は驚く程のテンポで推移している。日本の民主化がいわれ、やっと私たちの生命が私たちのものに戻された時、日本のインテリゲンチャは「自分」を取り返 …
読書目安時間:約4分
一九四五年の八月以来、日本のすべての生活は驚く程のテンポで推移している。日本の民主化がいわれ、やっと私たちの生命が私たちのものに戻された時、日本のインテリゲンチャは「自分」を取り返 …
前進のために:決議によせて(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
このたび、常任中央委員会によって発表された日和見主義との闘争に関する決議は、プロレタリア文学運動が今日到達したレーニン的立場に立っての分析の周密さ、きわめて率直な自己批判の態度など …
読書目安時間:約25分
このたび、常任中央委員会によって発表された日和見主義との闘争に関する決議は、プロレタリア文学運動が今日到達したレーニン的立場に立っての分析の周密さ、きわめて率直な自己批判の態度など …
戦争でこわされた人間性(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
このごろの強盗殺人の特色は、件数が多いばかりでなく、事件の性質が戦争以前とまったくちがっていると思う。それは方法が非常に兇暴になっていることである。人を殺してまで物をとるということ …
読書目安時間:約3分
このごろの強盗殺人の特色は、件数が多いばかりでなく、事件の性質が戦争以前とまったくちがっていると思う。それは方法が非常に兇暴になっていることである。人を殺してまで物をとるということ …
戦争と婦人作家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
これまでの日本はいつも天下りの戦争にならされていました。天皇制の封建的な、絶対的な教育の下で、人民は戦争を「思惑の加った災難」として、無批判に服従してきました。 そして今日の破局に …
読書目安時間:約3分
これまでの日本はいつも天下りの戦争にならされていました。天皇制の封建的な、絶対的な教育の下で、人民は戦争を「思惑の加った災難」として、無批判に服従してきました。 そして今日の破局に …
戦争はわたしたちからすべてを奪う(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
この一冊の本は、わたしたちに何を告げ、何を教えているだろう。この本のあらゆる頁が語っている。女性が、封建社会から近代資本主義社会へと、人間らしい生活を確保しようとしてたたかって来た …
読書目安時間:約25分
この一冊の本は、わたしたちに何を告げ、何を教えているだろう。この本のあらゆる頁が語っている。女性が、封建社会から近代資本主義社会へと、人間らしい生活を確保しようとしてたたかって来た …
戦争・平和・曲学阿世(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
1、文筆の仕事の上で、可能なかぎり、戦争反対と平和の確保、原子兵器禁止の態度を明かにして居ります。平和を守る会、知識人の会、民主主義擁護同盟に参加して居ります。科学者たちが、適切な …
読書目安時間:約1分
1、文筆の仕事の上で、可能なかぎり、戦争反対と平和の確保、原子兵器禁止の態度を明かにして居ります。平和を守る会、知識人の会、民主主義擁護同盟に参加して居ります。科学者たちが、適切な …
全体主義への吟味:今日の民衆、知識人への課題(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
文学の分野においても、本年の初頭から民衆と知識階級との社会関係の再吟味がとりあげられて来ている。しかし、そのとりあげられかたは一種独特な色調を帯びていて、例えば、『文学界』の同人達 …
読書目安時間:約14分
文学の分野においても、本年の初頭から民衆と知識階級との社会関係の再吟味がとりあげられて来ている。しかし、そのとりあげられかたは一種独特な色調を帯びていて、例えば、『文学界』の同人達 …
選評(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
予選をとおった十八篇の原稿が回されてきた。そのなかでは「電池」(富田ミツ)が一番すぐれている。落付きをもった筆で、いきいきと今日の学童の生活雰囲気、その間におこる小事件が描かれ、歪 …
読書目安時間:約3分
予選をとおった十八篇の原稿が回されてきた。そのなかでは「電池」(富田ミツ)が一番すぐれている。落付きをもった筆で、いきいきと今日の学童の生活雰囲気、その間におこる小事件が描かれ、歪 …
ソヴェト映画物語:「新女性線」(ソユーズ・キノ文化映画部作品)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
七巻の美しい立派な映画は、ソヴェト同盟が、世界じゅうのあらゆる婦人のために、婦人の幸福とそれはどうして守られなければならないかを知らせるためにこしらえたものです。 夜がだんだんあけ …
読書目安時間:約5分
七巻の美しい立派な映画は、ソヴェト同盟が、世界じゅうのあらゆる婦人のために、婦人の幸福とそれはどうして守られなければならないかを知らせるためにこしらえたものです。 夜がだんだんあけ …
ソヴェト同盟の音楽サークルの話(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この頃、日本でもあっちこっちで文化サークルや音楽サークルが出来てプロレタリヤ文化の高まりがわかり、実に愉快です。ソヴェト同盟は御承知の通り労働者の勝利した国だからそう云う音楽サーク …
読書目安時間:約2分
この頃、日本でもあっちこっちで文化サークルや音楽サークルが出来てプロレタリヤ文化の高まりがわかり、実に愉快です。ソヴェト同盟は御承知の通り労働者の勝利した国だからそう云う音楽サーク …
ソヴェト同盟の三月八日(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
朝 モスクワ煙草工場に働いているニーナは、例によって枕元の眼醒ましの音でハッと目をさました。 いそいで服を着て、水道の冷たい水で顔を洗い、冷水摩擦をやっているうちに、ニーナはだんだ …
読書目安時間:約9分
朝 モスクワ煙草工場に働いているニーナは、例によって枕元の眼醒ましの音でハッと目をさました。 いそいで服を着て、水道の冷たい水で顔を洗い、冷水摩擦をやっているうちに、ニーナはだんだ …
ソヴェト同盟の芝居・キネマ・ラジオ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ソヴェト同盟では革命から今日まで社会主義建設には婦人労働者は男子労働者と同じ様に、職場で活動して来た。 それと同様に文化建設の仕事にも婦人労働者は大衆的に参加している。たとえば、多 …
読書目安時間:約4分
ソヴェト同盟では革命から今日まで社会主義建設には婦人労働者は男子労働者と同じ様に、職場で活動して来た。 それと同様に文化建設の仕事にも婦人労働者は大衆的に参加している。たとえば、多 …
ソヴェト同盟の婦人と選挙(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
資本家・地主のロシアでは—— 「牝鶏は鶏ではない。女どもは人間ではない」むかしロシアにはこういう諺があった。女は男よりねうちのないもので人間ではないと云うのだが、では、むかしロシア …
読書目安時間:約8分
資本家・地主のロシアでは—— 「牝鶏は鶏ではない。女どもは人間ではない」むかしロシアにはこういう諺があった。女は男よりねうちのないもので人間ではないと云うのだが、では、むかしロシア …
ソヴェト「劇場労働青年」(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一九三〇年の初夏、レニングラードから「トラム」劇団がモスクワへ興行に来た。その「トラム」劇団と云うのは皆何年か実際職場で働いた経験のあるコムソモール達に依って組織されている劇団だ。 …
読書目安時間:約5分
一九三〇年の初夏、レニングラードから「トラム」劇団がモスクワへ興行に来た。その「トラム」劇団と云うのは皆何年か実際職場で働いた経験のあるコムソモール達に依って組織されている劇団だ。 …
ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
* ソヴェトは恋愛が自由である。 フランスも自由である。 そこでどう違うかということは、資本主義末期の個人主義的に恋が御互を拘束しないということから起って来る恋愛の自由だ。 男が或 …
読書目安時間:約7分
* ソヴェトは恋愛が自由である。 フランスも自由である。 そこでどう違うかということは、資本主義末期の個人主義的に恋が御互を拘束しないということから起って来る恋愛の自由だ。 男が或 …
ソヴェトの芝居(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
——この頃は、ぼつぼつソヴェト映画が入って来るようだね。「アジアの嵐」なんか猿之助の旗あげにまで利用されて賑やかだった。あれはあっちでも、勿論傑作の部なんだろう? ——そりゃそうさ …
読書目安時間:約53分
——この頃は、ぼつぼつソヴェト映画が入って来るようだね。「アジアの嵐」なんか猿之助の旗あげにまで利用されて賑やかだった。あれはあっちでも、勿論傑作の部なんだろう? ——そりゃそうさ …
ソヴェトのピオニェールはなにして遊ぶか(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
夏になると、ソヴェトのピオニェールは、たいてい避暑にでかける。避暑といっても、ブルジョアの子供たちみたいに、おしゃれした母親といっしょに、海岸の宿やへ行ったりするんじゃない。 ピオ …
読書目安時間:約6分
夏になると、ソヴェトのピオニェールは、たいてい避暑にでかける。避暑といっても、ブルジョアの子供たちみたいに、おしゃれした母親といっしょに、海岸の宿やへ行ったりするんじゃない。 ピオ …
ソヴェトの「労働者クラブ」(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ソヴェト・ロシアには、「労働者クラブ」と云うものがある。これは労働者自身の家で、自分たちの労働が終った後に誰でもが行って楽しめる「クラブ」なのである。 「労働者クラブ」には、直接工 …
読書目安時間:約3分
ソヴェト・ロシアには、「労働者クラブ」と云うものがある。これは労働者自身の家で、自分たちの労働が終った後に誰でもが行って楽しめる「クラブ」なのである。 「労働者クラブ」には、直接工 …
ソヴェト文壇の現状(新字新仮名)
読書目安時間:約57分
——目に見える変化—— ソヴェト文壇の空気はこの一二年に、ひどくかわった。 著しいかわりかたは、ハッキリ目に見えるところにある。「作家の家」と云って、ソヴェトのいろんな作家団体がそ …
読書目安時間:約57分
——目に見える変化—— ソヴェト文壇の空気はこの一二年に、ひどくかわった。 著しいかわりかたは、ハッキリ目に見えるところにある。「作家の家」と云って、ソヴェトのいろんな作家団体がそ …
ソヴェト労働者の解放された生活(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
家主がいない ソヴェト同盟には地主がない、従って家主という小面倒な奴もいない。住居は殆どみんな国家のものだ。モスクワならモスクワ市の住宅管理局というものがあってそこから組合で、また …
読書目安時間:約7分
家主がいない ソヴェト同盟には地主がない、従って家主という小面倒な奴もいない。住居は殆どみんな国家のものだ。モスクワならモスクワ市の住宅管理局というものがあってそこから組合で、また …
ソヴェト労働者の夏休み(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
さて、いよいよモスクワも本物にあつくなって来た。 あっちは、日本みたいに梅雨はないが、冬がひどく長い。四月頃やっと雪がとけて、メーデーには、小雨でも降ると、まだどうしてなかなか冷え …
読書目安時間:約5分
さて、いよいよモスクワも本物にあつくなって来た。 あっちは、日本みたいに梅雨はないが、冬がひどく長い。四月頃やっと雪がとけて、メーデーには、小雨でも降ると、まだどうしてなかなか冷え …
ソヴェト・ロシアの現状勢と芸術(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
現代のソヴェト・ロシア一般の社会現象及び芸術について話す場合、当然現在第三年目に入ったソヴェト生産拡張五ヵ年計画を根柢に於て見なければならない。五ヵ年計画によってソヴェトに於ける社 …
読書目安時間:約2分
現代のソヴェト・ロシア一般の社会現象及び芸術について話す場合、当然現在第三年目に入ったソヴェト生産拡張五ヵ年計画を根柢に於て見なければならない。五ヵ年計画によってソヴェトに於ける社 …
ソヴェト・ロシアの素顔(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
これは自分が喋って速記をとったものです。自分で書く時間がなかった。話しかたが下手だから、大してうまく行っていないかもしれないが、一九一七年の革命以来、種々なデマゴーグによって歪め伝 …
読書目安時間:約37分
これは自分が喋って速記をとったものです。自分で書く時間がなかった。話しかたが下手だから、大してうまく行っていないかもしれないが、一九一七年の革命以来、種々なデマゴーグによって歪め伝 …
宋慶齢への手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
尊敬する宋慶齢夫人に。 中華人民共和国の輝やかしい一九五〇年の新春を慶賀いたします。 二〇世紀は、人類にとって、すばらしい人間的理性の勝利の世紀となりつつあります。一九一七年の十月 …
読書目安時間:約4分
尊敬する宋慶齢夫人に。 中華人民共和国の輝やかしい一九五〇年の新春を慶賀いたします。 二〇世紀は、人類にとって、すばらしい人間的理性の勝利の世紀となりつつあります。一九一七年の十月 …
漱石の「行人」について(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「吾輩は猫である」が明治三十八年に書かれてから、「明暗」が未完成のままのこされた大正五年まで、十二年ほどの間に漱石の文学的活動は横溢した。円熟した内面生活の全幅がこの期間に披瀝され …
読書目安時間:約8分
「吾輩は猫である」が明治三十八年に書かれてから、「明暗」が未完成のままのこされた大正五年まで、十二年ほどの間に漱石の文学的活動は横溢した。円熟した内面生活の全幅がこの期間に披瀝され …
総選挙に誰れを選ぶか?(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
さし当って誰れと云ってはっきり頭に浮びません。知人であるという点で、鶴見祐輔氏など、ある意味で新方面の拓ける人かと考えます。遠慮なく申せば、その活力、空想、理想を着々と実現し得るだ …
読書目安時間:約1分
さし当って誰れと云ってはっきり頭に浮びません。知人であるという点で、鶴見祐輔氏など、ある意味で新方面の拓ける人かと考えます。遠慮なく申せば、その活力、空想、理想を着々と実現し得るだ …
想像力(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
派出婦さんが、だんだん顔をあげて私を見て、笑顔になってものを云うようになった。そして、こんなことを話した。 「あたし、喧嘩する家はつくづく、やになっちゃうね」 夫婦喧嘩されると、ど …
読書目安時間:約2分
派出婦さんが、だんだん顔をあげて私を見て、笑顔になってものを云うようになった。そして、こんなことを話した。 「あたし、喧嘩する家はつくづく、やになっちゃうね」 夫婦喧嘩されると、ど …
相当読み応えのあったものは?(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
最近よんだものの中で(一)「強制収容所の十三ケ月」ヴォルフガング・ラングホフ著・舟木重信、池宮秀意共訳(創芸社)(二)「巣の中の蜘蛛」千田九一訳(宝雲社)などからつよく印象づけられ …
読書目安時間:約1分
最近よんだものの中で(一)「強制収容所の十三ケ月」ヴォルフガング・ラングホフ著・舟木重信、池宮秀意共訳(創芸社)(二)「巣の中の蜘蛛」千田九一訳(宝雲社)などからつよく印象づけられ …
その檻をひらけ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
六月五日の読売新聞に「女工哀史の寄宿舎通勤制に」という記事が出ていた。 経済再建のトップに立つ日本の紡績界の半封建のままの少女労働の搾取に対して、厚生省が、一、女工寄宿舎制度の撤廃 …
読書目安時間:約1分
六月五日の読売新聞に「女工哀史の寄宿舎通勤制に」という記事が出ていた。 経済再建のトップに立つ日本の紡績界の半封建のままの少女労働の搾取に対して、厚生省が、一、女工寄宿舎制度の撤廃 …
その頃(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
門柱の左には麻田駒之助と標札が出ていて、門内右手の粗末な木造洋館がその時分(大正五年)中央公論社の編輯局になっていた。受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃ …
読書目安時間:約1分
門柱の左には麻田駒之助と標札が出ていて、門内右手の粗末な木造洋館がその時分(大正五年)中央公論社の編輯局になっていた。受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃ …
その先の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
どんなひとも、贅沢がいいことだと思っていないし、この数年間のように多数の人々が刻苦して暮しているのに、一部の人ばかりがますます金銭を湯水のようにつかう有様を目撃していれば、いい気持 …
読書目安時間:約4分
どんなひとも、贅沢がいいことだと思っていないし、この数年間のように多数の人々が刻苦して暮しているのに、一部の人ばかりがますます金銭を湯水のようにつかう有様を目撃していれば、いい気持 …
その柵は必要か(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
こんにち、「勤労者文学」の問題が、とくべつの関心のもとにとりあげられるということは、全体として民主主義文学運動が、一つの新しい発展の段階にふみだして来ていることを語ると思う。この課 …
読書目安時間:約30分
こんにち、「勤労者文学」の問題が、とくべつの関心のもとにとりあげられるということは、全体として民主主義文学運動が、一つの新しい発展の段階にふみだして来ていることを語ると思う。この課 …
その年(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
雨天体操場の前へ引き出された台の上から痩せぎすな連隊長の訓辞が終り、隊列が解けはじめると、四辺のざわめきと一緒にお茂登もほっと気のゆるんだ面持で、小学生が体操のとき使う低い腰かけか …
読書目安時間:約29分
雨天体操場の前へ引き出された台の上から痩せぎすな連隊長の訓辞が終り、隊列が解けはじめると、四辺のざわめきと一緒にお茂登もほっと気のゆるんだ面持で、小学生が体操のとき使う低い腰かけか …
その願いを現実に:燁子さんへの返事として(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昨年のことであったか、それとも一昨年になるか、わたしはある婦人雑誌で思いがけない柳原燁子さんの文章をよんだ。そして深く心にきざみつけられた。その文章で、わたしははじめて燁さんが愛息 …
読書目安時間:約3分
昨年のことであったか、それとも一昨年になるか、わたしはある婦人雑誌で思いがけない柳原燁子さんの文章をよんだ。そして深く心にきざみつけられた。その文章で、わたしははじめて燁さんが愛息 …
その人の四年間:婦人民主クラブの生い立ちと櫛田ふきさん(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
一九四三年だったかそれともその翌年だったか、ある夏のことであった。ある晩わたしは、中野鷺宮の壺井栄さんの家の縁側ですずんでいた。そのころ、わたしにとって栄さんの家は生活の上になくて …
読書目安時間:約12分
一九四三年だったかそれともその翌年だったか、ある夏のことであった。ある晩わたしは、中野鷺宮の壺井栄さんの家の縁側ですずんでいた。そのころ、わたしにとって栄さんの家は生活の上になくて …
その人らしい人が好き(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
美とか、醜とかいうことは一様には云われません。美しいと思うのは容姿美ということより、その人から受ける感じに依って云われるものだと思います。 私は何よりも凡ての感じから観て「その人ら …
読書目安時間:約1分
美とか、醜とかいうことは一様には云われません。美しいと思うのは容姿美ということより、その人から受ける感じに依って云われるものだと思います。 私は何よりも凡ての感じから観て「その人ら …
その源(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
二三日前の夜、おそく小田急に乗った。割合にすいていて、珍しく腰をおろした。隣りに大柄な壮年の男のひとがいて、書類鞄から出した本を、しきりに調べている。その隣りの席に黒い外套に白いマ …
読書目安時間:約4分
二三日前の夜、おそく小田急に乗った。割合にすいていて、珍しく腰をおろした。隣りに大柄な壮年の男のひとがいて、書類鞄から出した本を、しきりに調べている。その隣りの席に黒い外套に白いマ …
祖父の書斎(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
向島の堤をおりた黒い門の家に母方の祖母が棲んでいて、小さい頃泊りに行くと、先ず第一に御仏壇にお辞儀をさせられた。それから百花園へ行ったり牛御前へ行ったりするのだが、時には祖母が、気 …
読書目安時間:約5分
向島の堤をおりた黒い門の家に母方の祖母が棲んでいて、小さい頃泊りに行くと、先ず第一に御仏壇にお辞儀をさせられた。それから百花園へ行ったり牛御前へ行ったりするのだが、時には祖母が、気 …
素朴な庭(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は東京で生れた。母は純粋な江戸っ子である。けれども、父が北国の人で、私も幼少の頃から東北の田園の風景になれている故か、私の魂の裡にはやみ難い自然への郷愁がある。それも、南国の強烈 …
読書目安時間:約4分
私は東京で生れた。母は純粋な江戸っ子である。けれども、父が北国の人で、私も幼少の頃から東北の田園の風景になれている故か、私の魂の裡にはやみ難い自然への郷愁がある。それも、南国の強烈 …
祖母のために(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
十二月の中旬、祖母が没した。八十四歳の高齢であった。棺前祭のとき、神官が多勢来た。彼等の白羽二重の斎服が、さやさや鳴り拡がり、部屋一杯になった。主だった神官の一人がのりとを読んだ。 …
読書目安時間:約16分
十二月の中旬、祖母が没した。八十四歳の高齢であった。棺前祭のとき、神官が多勢来た。彼等の白羽二重の斎服が、さやさや鳴り拡がり、部屋一杯になった。主だった神官の一人がのりとを読んだ。 …
粗末な花束(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
地震前、カフェイ・ライオンの向う側に、山崎の大飾窓が陰気に鏡面を閃かせていた頃のことだ。 私はよく独りで銀座を散歩した。 尾張町の四つ角で電車を降り、大抵の時交番の側を竹川町の停留 …
読書目安時間:約13分
地震前、カフェイ・ライオンの向う側に、山崎の大飾窓が陰気に鏡面を閃かせていた頃のことだ。 私はよく独りで銀座を散歩した。 尾張町の四つ角で電車を降り、大抵の時交番の側を竹川町の停留 …
空に咲く花(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
空間をどこまで女性が自分の生活感情の中へ従えてゆくかということで、女の歴史の歩みが量られるのは何と面白いことだろう。昔の女性たちは、その生活の環をわずかに何十里の平面に限られて一生 …
読書目安時間:約2分
空間をどこまで女性が自分の生活感情の中へ従えてゆくかということで、女の歴史の歩みが量られるのは何と面白いことだろう。昔の女性たちは、その生活の環をわずかに何十里の平面に限られて一生 …
空の美(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
空の美しさという場合、大抵広々とした空、晴やかな空などという。 郊外に住むようになってから、私は更に種類の異う空の美があることを知った。それは、大都会の上の空——大都会のペーヴメン …
読書目安時間:約1分
空の美しさという場合、大抵広々とした空、晴やかな空などという。 郊外に住むようになってから、私は更に種類の異う空の美があることを知った。それは、大都会の上の空——大都会のペーヴメン …
それに偽りがないならば:憲法の規定により国民の名において裁判する――鈴木裁判長(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
去る十一月一日発行の『文学新聞』に評論家の佐藤静夫氏が三鷹事件の被告宮原直行さんの令兄にインタービューしたときのルポルタージュがのせられていた。商業新聞のやりかたにいためられてはじ …
読書目安時間:約34分
去る十一月一日発行の『文学新聞』に評論家の佐藤静夫氏が三鷹事件の被告宮原直行さんの令兄にインタービューしたときのルポルタージュがのせられていた。商業新聞のやりかたにいためられてはじ …
それらの国々でも:新しい国際性を求めて(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
わたしたちの生活の間で、国際的という言葉はこれまでどんな工合に使われて来ているだろうか。 日常の言葉として、国際的という表現をあまりつかわない人たちでも、スポーツの場合はごくすらり …
読書目安時間:約18分
わたしたちの生活の間で、国際的という言葉はこれまでどんな工合に使われて来ているだろうか。 日常の言葉として、国際的という表現をあまりつかわない人たちでも、スポーツの場合はごくすらり …
孫悟空の雲:『近代文学』十月号平野謙氏の評論について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
『近代文学』十月特輯号に平野謙氏の「労働者作家の問題」という講演筆記がのせられている。 その話の中で宮本百合子について多くの言葉が費されている。けれども、わたしへのそのふれかたの中 …
読書目安時間:約10分
『近代文学』十月特輯号に平野謙氏の「労働者作家の問題」という講演筆記がのせられている。 その話の中で宮本百合子について多くの言葉が費されている。けれども、わたしへのそのふれかたの中 …
第一回日本アンデパンダン展批評(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
こないだ久しぶりで第一回日本アンデパンダン展覧会を見て、断片的ですけれども、いくつかの印象が残りました。やっぱりあれは面白い展覧会であったと思います。よかれあしかれ、美術の外の分野 …
読書目安時間:約9分
こないだ久しぶりで第一回日本アンデパンダン展覧会を見て、断片的ですけれども、いくつかの印象が残りました。やっぱりあれは面白い展覧会であったと思います。よかれあしかれ、美術の外の分野 …
「第三新生丸」後日譚について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
細かい部分部分の記述については、もう一息と思われる所もないではないが、全体として見れば着実に、誠意をもって具体的に書かれ、心持よい印象を与えられた。 これまでの文学で、下級海員の生 …
読書目安時間:約1分
細かい部分部分の記述については、もう一息と思われる所もないではないが、全体として見れば着実に、誠意をもって具体的に書かれ、心持よい印象を与えられた。 これまでの文学で、下級海員の生 …
大衆闘争についてのノート(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
神奈川県足柄郡下足柄村十三部落 七月十三日夜 小田原町の有力者が人をひくために小田原町会、足柄村会を動かし、足柄村のかんがいに一番大切な用水土地を掘る!そして、上水道に向けることに …
読書目安時間:約4分
神奈川県足柄郡下足柄村十三部落 七月十三日夜 小田原町の有力者が人をひくために小田原町会、足柄村会を動かし、足柄村のかんがいに一番大切な用水土地を掘る!そして、上水道に向けることに …
大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
九月一日、土曜 私共は、福井に八月一日より居、その日、自分は二階、Aは階下で勉強中。十二時一二分すぎ、ひどい上下動があった。自分はおどろき立ち上ったが二階を降るのが不安なほど故、や …
読書目安時間:約19分
九月一日、土曜 私共は、福井に八月一日より居、その日、自分は二階、Aは階下で勉強中。十二時一二分すぎ、ひどい上下動があった。自分はおどろき立ち上ったが二階を降るのが不安なほど故、や …
大切な芽(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は、友情というものに多くの夢をかけている者だ。どうかして一人でも一生の間には、これこそ自分の心の友として悦びや悲しみを倶にし得る人を得たいと常に思っていた。けれども、子供の時から …
読書目安時間:約4分
私は、友情というものに多くの夢をかけている者だ。どうかして一人でも一生の間には、これこそ自分の心の友として悦びや悲しみを倶にし得る人を得たいと常に思っていた。けれども、子供の時から …
対話(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
時神の第十瞬期 処天の第二級天の上 神ヴィンダーブラ(壊滅、絶望を司る巨大な男性の荒神) ミーダ(暴力、呪咀を司る中性の神) カラ(死、涙、悲歎を貪食する女性の神) イオイナ(智慧 …
読書目安時間:約18分
時神の第十瞬期 処天の第二級天の上 神ヴィンダーブラ(壊滅、絶望を司る巨大な男性の荒神) ミーダ(暴力、呪咀を司る中性の神) カラ(死、涙、悲歎を貪食する女性の神) イオイナ(智慧 …
宝に食われる(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この間、ほんの四五日であったが奈良に行った。そして、短い時間に慾張って処々の寺にあるよい仏像などを見た。奈良には、十九ばかりの頃、中学三年生の弟と春休みに数日暮したことがあった。そ …
読書目安時間:約4分
この間、ほんの四五日であったが奈良に行った。そして、短い時間に慾張って処々の寺にあるよい仏像などを見た。奈良には、十九ばかりの頃、中学三年生の弟と春休みに数日暮したことがあった。そ …
竹(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
支那や日本の絵にはよく竹が出てくる。絵の習い始めの人さえ描かせられるものだが、一般化しすぎているため却て本当の美しさがわからなかった。今住んでいる新町へ去年の五月見に来た時、彼方こ …
読書目安時間:約1分
支那や日本の絵にはよく竹が出てくる。絵の習い始めの人さえ描かせられるものだが、一般化しすぎているため却て本当の美しさがわからなかった。今住んでいる新町へ去年の五月見に来た時、彼方こ …
黄昏(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
水口の硝子戸が、がらりと開いた。 ぼんやりとして台の前に立ち、燈(あかり)を浴びて煮物をかきまわしていたおくめは、驚いて振向いた。細めに隙(あ)いたところから、白い女の顔らしいもの …
読書目安時間:約30分
水口の硝子戸が、がらりと開いた。 ぼんやりとして台の前に立ち、燈(あかり)を浴びて煮物をかきまわしていたおくめは、驚いて振向いた。細めに隙(あ)いたところから、白い女の顔らしいもの …
竜田丸の中毒事件(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この二三日来の新聞で龍田丸の中毒事件が私たちを驚かしている。やっと故国へ近づいて明日は入港という時に卵焼の中毒で、九人もの人が僅かの時間のうちに相ついで死んで行ったし、病気でいる人 …
読書目安時間:約4分
この二三日来の新聞で龍田丸の中毒事件が私たちを驚かしている。やっと故国へ近づいて明日は入港という時に卵焼の中毒で、九人もの人が僅かの時間のうちに相ついで死んで行ったし、病気でいる人 …
楽しいソヴェトの子供(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
——ミーチャ、さあ早く顔あらっといで! お母さんは、テーブルの前へ立ってパンを切りながら、六つの息子のミーチャに云った。 ——もうすぐお茶だよ。 父さんは、朝日がキラキラ照る窓ぎわ …
読書目安時間:約10分
——ミーチャ、さあ早く顔あらっといで! お母さんは、テーブルの前へ立ってパンを切りながら、六つの息子のミーチャに云った。 ——もうすぐお茶だよ。 父さんは、朝日がキラキラ照る窓ぎわ …
田端の汽車そのほか(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
東京に対する空襲ということが段々まじめに考えられるようになってから、うちではよく夕飯後に東京地図をもち出した。その頃もうわたしは目白の家をひきあげて友人がそこに住み、本郷の弟の家に …
読書目安時間:約17分
東京に対する空襲ということが段々まじめに考えられるようになってから、うちではよく夕飯後に東京地図をもち出した。その頃もうわたしは目白の家をひきあげて友人がそこに住み、本郷の弟の家に …
田端の坂(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
芥川さんに始めておめにかかったのは、大正六年の多分三月頃のことだったと思います。まだ私が羽織を着ていた憶えがあるから。久米さんと一緒に或る午後遊びに見えました。『新思潮』がまだ久米 …
読書目安時間:約4分
芥川さんに始めておめにかかったのは、大正六年の多分三月頃のことだったと思います。まだ私が羽織を着ていた憶えがあるから。久米さんと一緒に或る午後遊びに見えました。『新思潮』がまだ久米 …
旅人(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
人物 旅人 子供三人 A無邪気な晴れ晴れしい抑揚のある声の児 B実用的な平坦な動かない調子で話す児 C考え深い様な静かな声と身振りの児 場所 小高い丘の上、四辺のからっと見はらせる …
読書目安時間:約7分
人物 旅人 子供三人 A無邪気な晴れ晴れしい抑揚のある声の児 B実用的な平坦な動かない調子で話す児 C考え深い様な静かな声と身振りの児 場所 小高い丘の上、四辺のからっと見はらせる …
旅へ出て(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
旅へ出て 四月の三日から七日まで私は東北の春のおそい——四方山で囲まれた小村の祖母の家へ亡祖父の祭典のために行った。 見たままを——思ったままを順序もなく書き集めた。 四日の旅をわ …
読書目安時間:約12分
旅へ出て 四月の三日から七日まで私は東北の春のおそい——四方山で囲まれた小村の祖母の家へ亡祖父の祭典のために行った。 見たままを——思ったままを順序もなく書き集めた。 四日の旅をわ …
『田村俊子・野上弥生子・中條百合子集』の序詞(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
作家として困難な同時に意味ある仕事はこれからだ。自身の古典に向って何と云おう。土台よ。しっかり重みにこたえろ。 〔一九三一年三月〕 …
読書目安時間:約1分
作家として困難な同時に意味ある仕事はこれからだ。自身の古典に向って何と云おう。土台よ。しっかり重みにこたえろ。 〔一九三一年三月〕 …
たより(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いきなり斯うした手紙をさしあげるのを御許し下さいませ。 これを手に御取りなすって、貴方はきっとオヤオヤと御思いなさるでございましょうねえ。 悪口を云い云いあっちこっち泳ぎ廻って居る …
読書目安時間:約4分
いきなり斯うした手紙をさしあげるのを御許し下さいませ。 これを手に御取りなすって、貴方はきっとオヤオヤと御思いなさるでございましょうねえ。 悪口を云い云いあっちこっち泳ぎ廻って居る …
だるまや百貨店(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
炉ばたのゴザのこっち側で、たけをが箱膳を膝の前に据え、古漬けの香のもので麦七分の飯をかっこんでいる。 あっち側のゴザの上にはまま母のトラが、帯なし袷せを前垂れで締めた小柄な姿を外の …
読書目安時間:約11分
炉ばたのゴザのこっち側で、たけをが箱膳を膝の前に据え、古漬けの香のもので麦七分の飯をかっこんでいる。 あっち側のゴザの上にはまま母のトラが、帯なし袷せを前垂れで締めた小柄な姿を外の …
誰のために:インテリゲンツィアと民主主義の課題(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
今日、日本の民主化の課題に対して、日本のインテリゲンツィアが感じている最も大きい困難は、どういう性質のものだろうか。 ひとくちに云いあらわせば、それは、日本のインテリゲンツィアの非 …
読書目安時間:約12分
今日、日本の民主化の課題に対して、日本のインテリゲンツィアが感じている最も大きい困難は、どういう性質のものだろうか。 ひとくちに云いあらわせば、それは、日本のインテリゲンツィアの非 …
短歌(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
少し、読みためたのを、人に見てもらう。 母は、万葉調のが上手で、十一の時から詠んで居たから、流石に巧い。 私のとは、まるで気持が違う。 自分でよんで、自分でうっとりする様な歌は、ど …
読書目安時間:約1分
少し、読みためたのを、人に見てもらう。 母は、万葉調のが上手で、十一の時から詠んで居たから、流石に巧い。 私のとは、まるで気持が違う。 自分でよんで、自分でうっとりする様な歌は、ど …
短歌習作(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
涙ぐみてうるむ瞳を足元に なぐれば小石うち笑みてあり かんしやくを起しゝあとの淋しさに 澄む大空をツク/″\と見る ものたらぬ頬を舌にてふくらませ 瓦ころがる抜け歯の音きく うすら …
読書目安時間:約3分
涙ぐみてうるむ瞳を足元に なぐれば小石うち笑みてあり かんしやくを起しゝあとの淋しさに 澄む大空をツク/″\と見る ものたらぬ頬を舌にてふくらませ 瓦ころがる抜け歯の音きく うすら …
男女交際より家庭生活へ(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
先頃の『弘道』に掲載された「日本人の理想に吻合しない西洋人の家庭生活」と云う記事を読み、種々な感想の湧上るのを覚えました。 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活 …
読書目安時間:約35分
先頃の『弘道』に掲載された「日本人の理想に吻合しない西洋人の家庭生活」と云う記事を読み、種々な感想の湧上るのを覚えました。 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活 …
断想(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ!其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する …
読書目安時間:約2分
人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ!其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する …
蛋白石(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
劇場の廊下で知り合いになってからどう気が向いたものか肇はその時紹介して呉れた篤と一緒に度々千世子の処へ出掛けた。 千世子は斯うやってちょくちょく気まぐれに訪ねて来る青年に特別な注意 …
読書目安時間:約25分
劇場の廊下で知り合いになってからどう気が向いたものか肇はその時紹介して呉れた篤と一緒に度々千世子の処へ出掛けた。 千世子は斯うやってちょくちょく気まぐれに訪ねて来る青年に特別な注意 …
小さい子供(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
小寒に入った等とは到底思われない程穏かな好い日なので珍らしく一番小さい弟を連れて植物園へ行って見ました。 風が大嫌いで、どんな土砂降りでもまだ雨の方が好いと云って居る程の私なので今 …
読書目安時間:約8分
小寒に入った等とは到底思われない程穏かな好い日なので珍らしく一番小さい弟を連れて植物園へ行って見ました。 風が大嫌いで、どんな土砂降りでもまだ雨の方が好いと云って居る程の私なので今 …
小さい婦人たちの発言について:『わたしたちも歌える』まえがき(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
春のなだれは、どんなふうにして起るだろう。暖かさが朝ごとにまして来る太陽にとかされてゆく積雪の表面からこれは起らない。冬の間じゅう降りつもって、かたく鋭く氷っていた根雪の底が春に近 …
読書目安時間:約7分
春のなだれは、どんなふうにして起るだろう。暖かさが朝ごとにまして来る太陽にとかされてゆく積雪の表面からこれは起らない。冬の間じゅう降りつもって、かたく鋭く氷っていた根雪の底が春に近 …
小さき家の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
一九二一年の十一月十四日、自分は不図、自分等の小さい家庭生活の記録を折にふれて書きつけて行く気になった。 或年まで生活し、後、振返って其経験を分解し、観察して見ることは、勿論興味あ …
読書目安時間:約18分
一九二一年の十一月十四日、自分は不図、自分等の小さい家庭生活の記録を折にふれて書きつけて行く気になった。 或年まで生活し、後、振返って其経験を分解し、観察して見ることは、勿論興味あ …
近頃の感想(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
考えて見ると、私は今日まで作家として相当長い仕事の間に、自分の作品または生活について書かれるいろいろな批評などに対して、文章をもって答えたことは、ごく稀であった。 自分としてその批 …
読書目安時間:約12分
考えて見ると、私は今日まで作家として相当長い仕事の間に、自分の作品または生活について書かれるいろいろな批評などに対して、文章をもって答えたことは、ごく稀であった。 自分としてその批 …
近頃の商売(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
商売というものの性質がすっかり変って来て、それは時代の動きによるものだということをはっきり知ってほしいと思います。やっと胡瓜の真盛りになるともう出ないというような儲のとらえかたも、 …
読書目安時間:約1分
商売というものの性質がすっかり変って来て、それは時代の動きによるものだということをはっきり知ってほしいと思います。やっと胡瓜の真盛りになるともう出ないというような儲のとらえかたも、 …
近頃の話題(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
ワインガルトナー夫人の指揮 その晩は、ベートーヴェンばかりの曲目で、ワインガルトナー博士は第七と田園交響楽などを指揮し、カルメン夫人はレオノーレの序曲を指揮することになっていた。 …
読書目安時間:約14分
ワインガルトナー夫人の指揮 その晩は、ベートーヴェンばかりの曲目で、ワインガルトナー博士は第七と田園交響楽などを指揮し、カルメン夫人はレオノーレの序曲を指揮することになっていた。 …
地球はまわる(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
封建社会のモラルは、日本でもヨーロッパでも、簡単な善と悪とのふたすじにわけられていた。そこでは、君主、家長の絶対権力をより維持しやすくする考え方や行動が善であり、その反対に、支配者 …
読書目安時間:約4分
封建社会のモラルは、日本でもヨーロッパでも、簡単な善と悪とのふたすじにわけられていた。そこでは、君主、家長の絶対権力をより維持しやすくする考え方や行動が善であり、その反対に、支配者 …
『地上に待つもの』に寄せて(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
此度山田さんの自伝的小説『地上に待つもの』が出版されるに当って、何人かの友人らに混って短い感想を書く因縁に立ち到ったことを私は一種の感動をもって考えるのである。 山田さんは、『種蒔 …
読書目安時間:約2分
此度山田さんの自伝的小説『地上に待つもの』が出版されるに当って、何人かの友人らに混って短い感想を書く因縁に立ち到ったことを私は一種の感動をもって考えるのである。 山田さんは、『種蒔 …
知性の開眼(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
知性というとき、私たちは漠然とではあるが、それが学識ともちがうし日常のやりくりなどの悧巧さといわれているものともちがった、もう少し人生の深いところと関係している或るものとして感じと …
読書目安時間:約9分
知性というとき、私たちは漠然とではあるが、それが学識ともちがうし日常のやりくりなどの悧巧さといわれているものともちがった、もう少し人生の深いところと関係している或るものとして感じと …
父の手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ユリチャン、コレガオトーサマノ、ノッテイルフネデス。 片仮名でそういう文句をかいた欧州航路の船のエハガキが、五つの私へ父からおくられて来た。父はイギリスへ行くところで、まだ字の読め …
読書目安時間:約5分
ユリチャン、コレガオトーサマノ、ノッテイルフネデス。 片仮名でそういう文句をかいた欧州航路の船のエハガキが、五つの私へ父からおくられて来た。父はイギリスへ行くところで、まだ字の読め …
父の手帳(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
父は建築家の中でも、書斎で勉強するたちの人でなく、人間の住む家を、様々なその必要の条件にしたがって、事務的に、家族的に、趣味的に建ててゆくという現実の進行を愛したたちでした。そうい …
読書目安時間:約13分
父は建築家の中でも、書斎で勉強するたちの人でなく、人間の住む家を、様々なその必要の条件にしたがって、事務的に、家族的に、趣味的に建ててゆくという現実の進行を愛したたちでした。そうい …
地の塩文学の塩(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
文学批評の貧困ということがこの頃又人々の注意をよびさましている。貧困な今日の文学において、批評という一つの分野についてだけ云われることなのだろうか。批評精神というものはただ或る対象 …
読書目安時間:約8分
文学批評の貧困ということがこの頃又人々の注意をよびさましている。貧困な今日の文学において、批評という一つの分野についてだけ云われることなのだろうか。批評精神というものはただ或る対象 …
地は饒なり(新字新仮名)
読書目安時間:約58分
或る日、ユーラスはいつもの通り楽しそうな足取りで、森から森へ、山から山へと、薄緑色の外袍を軽くなびかせながら、さまよっていました。銀色のサンダルを履き、愛嬌のある美くしい巻毛に月桂 …
読書目安時間:約58分
或る日、ユーラスはいつもの通り楽しそうな足取りで、森から森へ、山から山へと、薄緑色の外袍を軽くなびかせながら、さまよっていました。銀色のサンダルを履き、愛嬌のある美くしい巻毛に月桂 …
乳房(新字新仮名)
読書目安時間:約57分
何か物音がする……何か音がしている……目ざめかけた意識をそこへ力の限り縋りかけて、ひろ子はくたびれた深い眠りの底から段々苦しく浮きあがって来た。 真暗闇の中に目をあけたが頭のうしろ …
読書目安時間:約57分
何か物音がする……何か音がしている……目ざめかけた意識をそこへ力の限り縋りかけて、ひろ子はくたびれた深い眠りの底から段々苦しく浮きあがって来た。 真暗闇の中に目をあけたが頭のうしろ …
「乳房」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
◎大衆の中における各組織活動の未熟さ。 (1)活動分子がぬかれるとあともう何もなくなる。 例、広尾車庫百五十人もいたのに、一人くびになったら、どうにも仕様がなくなった。外から職場の …
読書目安時間:約11分
◎大衆の中における各組織活動の未熟さ。 (1)活動分子がぬかれるとあともう何もなくなる。 例、広尾車庫百五十人もいたのに、一人くびになったら、どうにも仕様がなくなった。外から職場の …
地方文化・文学運動にのぞむもの(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
各地方の文化・文学運動がこれまで経験したむずかしさの中で一番主なものは、ほんとに若い人々の自主的な活動として成長しにくく、何かのことでその地方の文化ボス、文学ボスのまわりに吸いよせ …
読書目安時間:約1分
各地方の文化・文学運動がこれまで経験したむずかしさの中で一番主なものは、ほんとに若い人々の自主的な活動として成長しにくく、何かのことでその地方の文化ボス、文学ボスのまわりに吸いよせ …
茶色っぽい町(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
小石川——目白台へ住むようになってから、自然近いので山伏町、神楽坂などへ夜散歩に出かけることが多くなった。元、椿山荘のあった前の通りをずっと、講釈場裏の坂へおり、江戸川橋を彼方に渡 …
読書目安時間:約9分
小石川——目白台へ住むようになってから、自然近いので山伏町、神楽坂などへ夜散歩に出かけることが多くなった。元、椿山荘のあった前の通りをずっと、講釈場裏の坂へおり、江戸川橋を彼方に渡 …
「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
本日の会には是非出席いたしまして、お話を伺いたいと思いますが、健康がまだ無理なので失礼いたします。そして、もし出席いたしましたら、発言したいと考えて居る点について、簡単にのべます。 …
読書目安時間:約4分
本日の会には是非出席いたしまして、お話を伺いたいと思いますが、健康がまだ無理なので失礼いたします。そして、もし出席いたしましたら、発言したいと考えて居る点について、簡単にのべます。 …
中国に於ける二人のアメリカ婦人:アグネス・スメドレーとパァル・バック(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
アグネス・スメドレーの「女一人大地を行く」という自伝的な小説は一九二九年アメリカで出版されて以来、殆ど世界各国語に訳され、日本でも少なからず読まれた。 この間、窪川稲子さんに会った …
読書目安時間:約17分
アグネス・スメドレーの「女一人大地を行く」という自伝的な小説は一九二九年アメリカで出版されて以来、殆ど世界各国語に訳され、日本でも少なからず読まれた。 この間、窪川稲子さんに会った …
中国文化をちゃんと理解したい(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
日本の文学者では、夏目漱石や鴎外などまでが、自身の文学的教養の中に中国文化のあるものを消化していたのだろうと思う。私たちの時代になると、伝統的な中国の文物については教養的に不足して …
読書目安時間:約3分
日本の文学者では、夏目漱石や鴎外などまでが、自身の文学的教養の中に中国文化のあるものを消化していたのだろうと思う。私たちの時代になると、伝統的な中国の文物については教養的に不足して …
中条精一郎の「家信抄」まえがきおよび註(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
父は、ものを書くのが特に好きというのではなかったようですが、一般にまめであった性質から、結局はなかなかの筆まめであるという結果になって居たと思います。 一生の間には、事務的な用向で …
読書目安時間:約16分
父は、ものを書くのが特に好きというのではなかったようですが、一般にまめであった性質から、結局はなかなかの筆まめであるという結果になって居たと思います。 一生の間には、事務的な用向で …
春桃(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
情報局、出版会という役所が、どんどん良い本を追っぱらって、悪書を天下に氾濫させた時代があった。日配が、それらのくだらない本を、束にして、配給して各書店の空虚な棚を埋めさせた。今から …
読書目安時間:約22分
情報局、出版会という役所が、どんどん良い本を追っぱらって、悪書を天下に氾濫させた時代があった。日配が、それらのくだらない本を、束にして、配給して各書店の空虚な棚を埋めさせた。今から …
長寿恥あり(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
九十歳の尾崎行雄が、きこえない耳にイヤ・ホーンをつけて、「ちょっととなりへ行くつもりで」アメリカへ行った。九十歳まで生きている人間そのものが、アメリカで珍らしいわけもない。「日本の …
読書目安時間:約2分
九十歳の尾崎行雄が、きこえない耳にイヤ・ホーンをつけて、「ちょっととなりへ行くつもりで」アメリカへ行った。九十歳まで生きている人間そのものが、アメリカで珍らしいわけもない。「日本の …
『長女』について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
野沢富美子の作品集『長女』に収められている「長女」「陽のない屋根」「過失」などは、いずれも現代日本の庶民の生活の偽らず飾らない記録として読者に迫って来る一種の力を持っている。綺麗ご …
読書目安時間:約2分
野沢富美子の作品集『長女』に収められている「長女」「陽のない屋根」「過失」などは、いずれも現代日本の庶民の生活の偽らず飾らない記録として読者に迫って来る一種の力を持っている。綺麗ご …
長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
作品をよんだ上での感想として、ゴーリキイが中篇小説において長篇小説よりすぐれた技術、味いを示し得ていることを感じるのは恐らくすべての読者の感想ではないでしょうか。もしかすると、短篇 …
読書目安時間:約4分
作品をよんだ上での感想として、ゴーリキイが中篇小説において長篇小説よりすぐれた技術、味いを示し得ていることを感じるのは恐らくすべての読者の感想ではないでしょうか。もしかすると、短篇 …
千世子(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間48分
一足門の外に出ればもう田があきるまで見渡たせるほど田舎めいた何の変化もない、極うすい水色の様な空気の山の中に千世子の一家はもう二十年近く住んで居る。子煩悩な父親、理性的な母親は二人 …
読書目安時間:約2時間48分
一足門の外に出ればもう田があきるまで見渡たせるほど田舎めいた何の変化もない、極うすい水色の様な空気の山の中に千世子の一家はもう二十年近く住んで居る。子煩悩な父親、理性的な母親は二人 …
千世子(三)(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
千世子は大変疲れて居た。 水の様な色に暮れて行く春の黄昏の柔い空気の中にしっとりとひたって薄黄な蛾がハタハタと躰の囲りを円く舞うのや小さい樫の森に住む夫婦の「虫」が空をかすめて飛ぶ …
読書目安時間:約55分
千世子は大変疲れて居た。 水の様な色に暮れて行く春の黄昏の柔い空気の中にしっとりとひたって薄黄な蛾がハタハタと躰の囲りを円く舞うのや小さい樫の森に住む夫婦の「虫」が空をかすめて飛ぶ …
千世子(二)(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
外はしとしとと茅葦には音もなく小雨がして居る。 千世子は何だか重い考える事のありそうな気持になってうるんだ様な木の葉の色や花の輝きをわけもなく見て居た。ピショ!ピショ!と落ちる雨だ …
読書目安時間:約31分
外はしとしとと茅葦には音もなく小雨がして居る。 千世子は何だか重い考える事のありそうな気持になってうるんだ様な木の葉の色や花の輝きをわけもなく見て居た。ピショ!ピショ!と落ちる雨だ …
著者の言葉(『新しきシベリアを横切る』)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この本に集められている作物は、殆どみんなモスクヷで書かれたものだ。一九二八年の春から、一九三〇年の秋まで。少し、日本にかえってから書いたものも入っている。 ソヴェト同盟における三年 …
読書目安時間:約2分
この本に集められている作物は、殆どみんなモスクヷで書かれたものだ。一九二八年の春から、一九三〇年の秋まで。少し、日本にかえってから書いたものも入っている。 ソヴェト同盟における三年 …
追憶(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
二日も降り続いて居た雨が漸う止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。 まだ乾き切らない湿気と鈍い日差しが皆の心も体も懶るくさせて、天気に感じ易い私は非常に不調和 …
読書目安時間:約35分
二日も降り続いて居た雨が漸う止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。 まだ乾き切らない湿気と鈍い日差しが皆の心も体も懶るくさせて、天気に感じ易い私は非常に不調和 …
追想(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
去年のちょうど今頃、自分は、福島に在る祖母の家に行っていた。暫く東京を離れ、子供の時分から馴染深い田園の裡に静かな時を過したいと思ったのである。行って、一週間も経ったかと思う頃、K …
読書目安時間:約8分
去年のちょうど今頃、自分は、福島に在る祖母の家に行っていた。暫く東京を離れ、子供の時分から馴染深い田園の裡に静かな時を過したいと思ったのである。行って、一週間も経ったかと思う頃、K …
追慕(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今日は心持の好い日だ。 空がくっきりと晴れ渡って、刷き寄せられるような白雲が、青い穂先の楡の梢を掠めて、彼方の山並の間に畳まって行く。 凝と坐って耳を傾けると、目の下の湖では淡黄色 …
読書目安時間:約5分
今日は心持の好い日だ。 空がくっきりと晴れ渡って、刷き寄せられるような白雲が、青い穂先の楡の梢を掠めて、彼方の山並の間に畳まって行く。 凝と坐って耳を傾けると、目の下の湖では淡黄色 …
津軽の虫の巣(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
朗らかな秋晴れの日である。 津軽の海は紺碧(こんぺき)に凪(な)いで、一点の曇りも無い虚空を豊かに照り返えす水の上には、これはまた珍らしく漁舟の片影も無い。 閑静に澄んだ波の面には …
読書目安時間:約11分
朗らかな秋晴れの日である。 津軽の海は紺碧(こんぺき)に凪(な)いで、一点の曇りも無い虚空を豊かに照り返えす水の上には、これはまた珍らしく漁舟の片影も無い。 閑静に澄んだ波の面には …
次が待たれるおくりもの(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「チボー家の人々」第一巻「灰色のノート」と第二巻「少年園」とを、ひきいれられる興味と文学における真面目な労作の快よさをもって読んだ。この最初の二冊を読んだ人々は一層熱心に第三巻を待 …
読書目安時間:約3分
「チボー家の人々」第一巻「灰色のノート」と第二巻「少年園」とを、ひきいれられる興味と文学における真面目な労作の快よさをもって読んだ。この最初の二冊を読んだ人々は一層熱心に第三巻を待 …
築地河岸(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
門鑑を立っている白服にかえして前の往来へ出ると、ひどいぬかるみへ乱暴に煉瓦の破片をぶちこんで埋めたまま乾きあがっている埃っぽい地面とギラギラした白雲との間から、蒸れかえった暑気が道 …
読書目安時間:約16分
門鑑を立っている白服にかえして前の往来へ出ると、ひどいぬかるみへ乱暴に煉瓦の破片をぶちこんで埋めたまま乾きあがっている埃っぽい地面とギラギラした白雲との間から、蒸れかえった暑気が道 …
机の上のもの(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
机の上に年中おいて使っているいろんな細々とした品物は、きっとその人その人の好みや暮しかたをあらわしていて、面白いものなのだろうと思う。 平凡でただゆったりしているのが便利な私の机の …
読書目安時間:約2分
机の上に年中おいて使っているいろんな細々とした品物は、きっとその人その人の好みや暮しかたをあらわしていて、面白いものなのだろうと思う。 平凡でただゆったりしているのが便利な私の机の …
「土」と当時の写実文学(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ありふれた従来の日本文学史をみると、明治三十年代に写生文学というものをはじめて提唱した文学者として正岡子規、高浜虚子や『ホトトギス』派のことは出て来るが、長塚節のことはとりたてて触 …
読書目安時間:約4分
ありふれた従来の日本文学史をみると、明治三十年代に写生文学というものをはじめて提唱した文学者として正岡子規、高浜虚子や『ホトトギス』派のことは出て来るが、長塚節のことはとりたてて触 …
壺井栄作品集『暦』解説(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小説をかくひととしての壺井栄さんが人々の前にあらわれたのは一九三八年(昭和十三年)の末のことであった。この集にはおさめられていない「大根の葉」という作品をよんだ人々は、これまでの婦 …
読書目安時間:約6分
小説をかくひととしての壺井栄さんが人々の前にあらわれたのは一九三八年(昭和十三年)の末のことであった。この集にはおさめられていない「大根の葉」という作品をよんだ人々は、これまでの婦 …
坪内先生について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
坪内先生に、はじめて牛込余丁町のお宅でおめにかかったのは、もう十数年以前、私が十八歳の晩春であったと思う。両親が私の書いたものを坪内先生に見ていただくようにきめて、母が私を連れ余丁 …
読書目安時間:約4分
坪内先生に、はじめて牛込余丁町のお宅でおめにかかったのは、もう十数年以前、私が十八歳の晩春であったと思う。両親が私の書いたものを坪内先生に見ていただくようにきめて、母が私を連れ余丁 …
つぼみ(新字新仮名)
読書目安時間:約45分
処女の死と赤い提灯 まだ二十を二つ越したばかりの若い処女が死んだ、弱い体で長い間肺が悪かっただけその短い生涯も清いものだった。「お気の毒様な——この間はおくさんを今度は御嬢さんを— …
読書目安時間:約45分
処女の死と赤い提灯 まだ二十を二つ越したばかりの若い処女が死んだ、弱い体で長い間肺が悪かっただけその短い生涯も清いものだった。「お気の毒様な——この間はおくさんを今度は御嬢さんを— …
妻の道義(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
モラルの問題は、婦人雑誌で精力的にとりあげられるテーマの一つである。けれども、モラルの対象とされているのは、おおまかにいって、若い世代の男女である。 昭電事件その他の、世界的な規模 …
読書目安時間:約1分
モラルの問題は、婦人雑誌で精力的にとりあげられるテーマの一つである。けれども、モラルの対象とされているのは、おおまかにいって、若い世代の男女である。 昭電事件その他の、世界的な規模 …
強い影響を与えた点で(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
今年は、九月の太陽に「我に叛く」を発表したぎりでございました。従って、此処に改めて述ぶべきほどの感想も持合わせません。只あの作は、自分並私人的周囲に強い影響を与えたと云う点で、忘ら …
読書目安時間:約1分
今年は、九月の太陽に「我に叛く」を発表したぎりでございました。従って、此処に改めて述ぶべきほどの感想も持合わせません。只あの作は、自分並私人的周囲に強い影響を与えたと云う点で、忘ら …
ツルゲーネフの生きかた(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
数年前、私がソヴェトから帰って間もない頃のことであった。或る日何年も会わなかった女の友達が訪ねて来ていろいろ現在のソヴェトでの女の暮しぶりについて話の末、その友達は不図思い入ったよ …
読書目安時間:約23分
数年前、私がソヴェトから帰って間もない頃のことであった。或る日何年も会わなかった女の友達が訪ねて来ていろいろ現在のソヴェトでの女の暮しぶりについて話の末、その友達は不図思い入ったよ …
ツワイク「三人の巨匠」:ドストイェフスキーの部(偉大な統一の破壊者、永遠の分裂者としての)(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
ツワイクの「三人の巨匠」p.150 ○ワイルドがその中で鉱滓となってしまった熱の中で(監獄)ドストイェフスキーは輝く硬度宝石に形づくられた。 ○災厄の変化者、あらゆる屈辱の価値の変 …
読書目安時間:約13分
ツワイクの「三人の巨匠」p.150 ○ワイルドがその中で鉱滓となってしまった熱の中で(監獄)ドストイェフスキーは輝く硬度宝石に形づくられた。 ○災厄の変化者、あらゆる屈辱の価値の変 …
貞操について(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
私たちが、或るひとつの言葉からうける感じは、実に微妙、複雑なものだと、びっくりする。たとえばここに貞操について、という表題がある。これを見たとき、私たちの心に直感されたのは何だろう …
読書目安時間:約12分
私たちが、或るひとつの言葉からうける感じは、実に微妙、複雑なものだと、びっくりする。たとえばここに貞操について、という表題がある。これを見たとき、私たちの心に直感されたのは何だろう …
帝展を観ての感想(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
数年の間、私はいろいろのことから帝展というものを観ないで過して来た。今年久しぶりにほんの通りすぎる程度ではあったがそれぞれ数百点の日本画、洋画を見物し、素人らしい感想にみたされた。 …
読書目安時間:約7分
数年の間、私はいろいろのことから帝展というものを観ないで過して来た。今年久しぶりにほんの通りすぎる程度ではあったがそれぞれ数百点の日本画、洋画を見物し、素人らしい感想にみたされた。 …
ディフォーメイションへの疑問(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
この一年あまりの間に日本の文化がどんなに新しく、そしてゆたかになったかということについては、いろいろの複雑な問題がある。文学は字であらわされる芸術であるし、字というものは生活の言葉 …
読書目安時間:約5分
この一年あまりの間に日本の文化がどんなに新しく、そしてゆたかになったかということについては、いろいろの複雑な問題がある。文学は字であらわされる芸術であるし、字というものは生活の言葉 …
弟子の心(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
私が若し自叙伝のようなものをいつか書くとすれば、種々な意味で忘られない十七八歳の時代に連関して、書き落すことの出来ない人が幾人かある。その中の一人、主なる一人として、今度、印象を書 …
読書目安時間:約8分
私が若し自叙伝のようなものをいつか書くとすれば、種々な意味で忘られない十七八歳の時代に連関して、書き落すことの出来ない人が幾人かある。その中の一人、主なる一人として、今度、印象を書 …
デスデモーナのハンカチーフ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ルネッサンスという時代が、理性の目ざめのときであるけれども、その半面にはまだどんなに智慧のくらさを曳いていたかということはオセロにもつよくあらわれている。オセロの悲劇は美しくやさし …
読書目安時間:約5分
ルネッサンスという時代が、理性の目ざめのときであるけれども、その半面にはまだどんなに智慧のくらさを曳いていたかということはオセロにもつよくあらわれている。オセロの悲劇は美しくやさし …
手づくりながら(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
正月元日に巖本真理のヴァイオリン独奏の放送をきいた。そして、その力づよくて純潔な音色からつよい印象をうけた。シゲッティというヴァイオリンの名手が来朝したとき、もう地下活動をしていた …
読書目安時間:約3分
正月元日に巖本真理のヴァイオリン独奏の放送をきいた。そして、その力づよくて純潔な音色からつよい印象をうけた。シゲッティというヴァイオリンの名手が来朝したとき、もう地下活動をしていた …
でんきアンケート(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、文学者ではスタンダールというひとをこの頃おもしろく思って居ります。スタンダールは一八三〇年代のフランスで実に珍しい気骨のある多面的な人であったようです。「赤と黒」を、恋愛を主題 …
読書目安時間:約1分
一、文学者ではスタンダールというひとをこの頃おもしろく思って居ります。スタンダールは一八三〇年代のフランスで実に珍しい気骨のある多面的な人であったようです。「赤と黒」を、恋愛を主題 …
電車の見えない電車通り(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
九月一日の夕刊に、物々しい防空演習の写真と一緒に市電整理案が発表された。全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円 …
読書目安時間:約12分
九月一日の夕刊に、物々しい防空演習の写真と一緒に市電整理案が発表された。全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円 …
問に答えて(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
この三四年の間、小説を書かないのは何故であるか。そういう問いが記者によって出された。 私の今の状態から云えば、この問いの中で書かないと云われているところは既に書かなかったという、文 …
読書目安時間:約10分
この三四年の間、小説を書かないのは何故であるか。そういう問いが記者によって出された。 私の今の状態から云えば、この問いの中で書かないと云われているところは既に書かなかったという、文 …
「どう考えるか」に就て(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
最近、一つの示唆に富んだ経験をした。この頃は、いろいろなところで新しい雑誌の発行や本の出版計画がある。或る書房が、文化・文学雑誌の創刊をすることとなって、原稿をたのまれた。時間がな …
読書目安時間:約9分
最近、一つの示唆に富んだ経験をした。この頃は、いろいろなところで新しい雑誌の発行や本の出版計画がある。或る書房が、文化・文学雑誌の創刊をすることとなって、原稿をたのまれた。時間がな …
道灌山(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
小さい二人の男の子と、それよりもすこし大きい女の子とが、ぴったりはりついて目の下にひろがる田端駅の構内をあきず眺めている柵のところは、草のしげったほそい道になっていた。 その細い道 …
読書目安時間:約17分
小さい二人の男の子と、それよりもすこし大きい女の子とが、ぴったりはりついて目の下にひろがる田端駅の構内をあきず眺めている柵のところは、草のしげったほそい道になっていた。 その細い道 …
東京へ近づく一時間(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
近くには黄色く根っ株の枯れた田圃と桑畑、遠くにはあっちこっちに木立と森。走りながら単調な窓外の景色は、時々近く曇天の下に吹きつけられて来る白い煙の千切れに遮られる。 スチームのとお …
読書目安時間:約6分
近くには黄色く根っ株の枯れた田圃と桑畑、遠くにはあっちこっちに木立と森。走りながら単調な窓外の景色は、時々近く曇天の下に吹きつけられて来る白い煙の千切れに遮られる。 スチームのとお …
同志小林多喜二の業績:作品を中心として(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
同志小林多喜二は、日本のプロレタリア文学運動において、実に類のすくない一人の傑出した世界的作家であった。 小説は、小樽で銀行に勤めていた時分から書きはじめていたが、その時分から同志 …
読書目安時間:約4分
同志小林多喜二は、日本のプロレタリア文学運動において、実に類のすくない一人の傑出した世界的作家であった。 小説は、小樽で銀行に勤めていた時分から書きはじめていたが、その時分から同志 …
同志小林の業績の評価に寄せて:誤れる評価との闘争を通じて(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
去る二月二十日、暴虐なる天皇制テロルによって虐殺されたわがプロレタリア文化・文学運動の卓抜なる指導者、組織者、国際的規模におけるボルシェヴィク作家、同志小林多喜二の全国的労農葬は、 …
読書目安時間:約11分
去る二月二十日、暴虐なる天皇制テロルによって虐殺されたわがプロレタリア文化・文学運動の卓抜なる指導者、組織者、国際的規模におけるボルシェヴィク作家、同志小林多喜二の全国的労農葬は、 …
同志小林の業績の評価によせて:四月の二三の作品(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
プロレタリア文化・文学運動の指導者、卓抜な国際的ボルシェヴィク作家同志小林多喜二の虐殺は、社会の広汎な分野に亙って少なからぬ震撼を与えた。 三月の諸文芸時評は同志小林の小説「地区の …
読書目安時間:約11分
プロレタリア文化・文学運動の指導者、卓抜な国際的ボルシェヴィク作家同志小林多喜二の虐殺は、社会の広汎な分野に亙って少なからぬ震撼を与えた。 三月の諸文芸時評は同志小林の小説「地区の …
同志たちは無罪なのです(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
何より先に、わたし達はこれらの勇敢な同志たちがほんとは何の罪もなく全くの無罪であるという事をはっきり知らなければならないと思います。先頃求刑のあった最終日に同志佐野学は立って堂々と …
読書目安時間:約2分
何より先に、わたし達はこれらの勇敢な同志たちがほんとは何の罪もなく全くの無罪であるという事をはっきり知らなければならないと思います。先頃求刑のあった最終日に同志佐野学は立って堂々と …
藤村の文学にうつる自然(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
現代の日本の作家の中で、その作品に最も多く自然をうけ入れ、示しているのは誰であろう。島崎藤村をその一人としてあげ得ると思う。 藤村は、明治五年、長野県の馬籠で生れた。家は馬籠の旧本 …
読書目安時間:約13分
現代の日本の作家の中で、その作品に最も多く自然をうけ入れ、示しているのは誰であろう。島崎藤村をその一人としてあげ得ると思う。 藤村は、明治五年、長野県の馬籠で生れた。家は馬籠の旧本 …
東大での話の原稿:一九五〇・十二月八日(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
○一昨年十二月二十五日新日本文学主催の文学者のファシズム反対講演会 東條処刑 A級戦犯釈放「安部源基」1931年満州侵略がはじまったころ、大泉、小畑をつかっていた男。 児玉よしを台 …
読書目安時間:約4分
○一昨年十二月二十五日新日本文学主催の文学者のファシズム反対講演会 東條処刑 A級戦犯釈放「安部源基」1931年満州侵略がはじまったころ、大泉、小畑をつかっていた男。 児玉よしを台 …
盗難(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
小さい妹の、激しい泣き声に目をさましたのは、彼れ此れもう六時であった。 三時頃に一度お乳を遣った丈だったので、空おっぱいをあずけたまま、先ぐお乳を作りに配膳室へ出て行った。 寝間着 …
読書目安時間:約13分
小さい妹の、激しい泣き声に目をさましたのは、彼れ此れもう六時であった。 三時頃に一度お乳を遣った丈だったので、空おっぱいをあずけたまま、先ぐお乳を作りに配膳室へ出て行った。 寝間着 …
道標(新字新仮名)
読書目安時間:約27時間48分
からだの下で、列車がゴットンと鈍く大きくゆりかえしながら止った。その拍子に眼がさめた。伸子は、そんな気がして眼をあけた。だが、伸子の眼の前のすぐそばには緑と白のゴバン縞のテーブルか …
読書目安時間:約27時間48分
からだの下で、列車がゴットンと鈍く大きくゆりかえしながら止った。その拍子に眼がさめた。伸子は、そんな気がして眼をあけた。だが、伸子の眼の前のすぐそばには緑と白のゴバン縞のテーブルか …
「道標」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
再びパリへ 九月十八日午后六年パリ 十月二十四日パリを親たち去る 〔欄外に〕青い手帖「フランス」 九月二十九日夜三人モンマルトルの赤馬で食事してかえったら下に速達 板倉鼎朝六時死 …
読書目安時間:約3分
再びパリへ 九月十八日午后六年パリ 十月二十四日パリを親たち去る 〔欄外に〕青い手帖「フランス」 九月二十九日夜三人モンマルトルの赤馬で食事してかえったら下に速達 板倉鼎朝六時死 …
「道標」を書き終えて(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
「道標」は、「伸子」から出発している「二つの庭」の続篇として、一九四七年の秋から『展望』誌上にかきはじめた。第一部、第二部、第三部とずっと『展望』にのせつづけて一九五〇年十月二十五 …
読書目安時間:約15分
「道標」は、「伸子」から出発している「二つの庭」の続篇として、一九四七年の秋から『展望』誌上にかきはじめた。第一部、第二部、第三部とずっと『展望』にのせつづけて一九五〇年十月二十五 …
動物愛護デー(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
トルストイの「復活」という小説がある。小説として世界じゅうのひとによまれているばかりでなく、芝居に脚色されて、日本でもカチューシャとよばれる女主人公の運命は、ひとびとの心にきざまれ …
読書目安時間:約3分
トルストイの「復活」という小説がある。小説として世界じゅうのひとによまれているばかりでなく、芝居に脚色されて、日本でもカチューシャとよばれる女主人公の運命は、ひとびとの心にきざまれ …
東宝争議について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一般文化の問題として多くの人が注目している。かつては戦争のために押殺された文化が、今は金もうけのために独創性を発揮出来なくなっている。一九三〇年以来赤をやっつけることは一般の事にな …
読書目安時間:約1分
一般文化の問題として多くの人が注目している。かつては戦争のために押殺された文化が、今は金もうけのために独創性を発揮出来なくなっている。一九三〇年以来赤をやっつけることは一般の事にな …
討論に即しての感想:新日本文学会第四回大会最終日に(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
私自身体が悪かったり病人があったりで、大会の準備に出席できませんでした。第二回民主主義文化会議に出席できなかったしこの大会の二日間も欠席しております。したがって系統だった報告はでき …
読書目安時間:約30分
私自身体が悪かったり病人があったりで、大会の準備に出席できませんでした。第二回民主主義文化会議に出席できなかったしこの大会の二日間も欠席しております。したがって系統だった報告はでき …
遠い願い(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
一人の作家の生涯を、そのひとの一生が終ったあとで回顧するときには、誰しもその作家の生きた時代や、その時代にかかわりあって行ったその人らしい生きかたの姿を、比較的はっきりつかみ出して …
読書目安時間:約5分
一人の作家の生涯を、そのひとの一生が終ったあとで回顧するときには、誰しもその作家の生きた時代や、その時代にかかわりあって行ったその人らしい生きかたの姿を、比較的はっきりつかみ出して …
通り雨(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私の部屋の前にかなり質の好い紅葉が一本ある。 気がつかないで居て今日見るとめっきり色附いて、品の好い褪紅色になって槇の隣りにとびぬけた美くしさで輝いて居る。 今畳屋が入って居るので …
読書目安時間:約3分
私の部屋の前にかなり質の好い紅葉が一本ある。 気がつかないで居て今日見るとめっきり色附いて、品の好い褪紅色になって槇の隣りにとびぬけた美くしさで輝いて居る。 今畳屋が入って居るので …
読者の感想(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
宇野さんには、まだお会いしたこともない。未知の読者の一人というに過ぎない。けれども、従来、小説を書いていた女のひと達とは、テムペラメントも違い、これまでなかった色彩を耀かそうと努め …
読書目安時間:約2分
宇野さんには、まだお会いしたこともない。未知の読者の一人というに過ぎない。けれども、従来、小説を書いていた女のひと達とは、テムペラメントも違い、これまでなかった色彩を耀かそうと努め …
徳永直の「はたらく人々」(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
生産的な場面での女の働きは益々範囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれ …
読書目安時間:約4分
生産的な場面での女の働きは益々範囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれ …
時計(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
私が女学校を出た年の秋ごろであったと思う。父が私に一つ時計を買ってくれた。生れてはじめての時計であった。ウォルサムの銀の片側でその時分腕時計というのはなかったから円くて平たい小型の …
読書目安時間:約8分
私が女学校を出た年の秋ごろであったと思う。父が私に一つ時計を買ってくれた。生れてはじめての時計であった。ウォルサムの銀の片側でその時分腕時計というのはなかったから円くて平たい小型の …
図書館(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
あいそめ橋で電車をおりて、左手の坂をのぼり桜木町から美術学校の間にある通りへ出た。美術館の横手をのぼって、博物館前を上野の見晴しの方へ通じるこの大通りは、東京の風景がこんなに変った …
読書目安時間:約14分
あいそめ橋で電車をおりて、左手の坂をのぼり桜木町から美術学校の間にある通りへ出た。美術館の横手をのぼって、博物館前を上野の見晴しの方へ通じるこの大通りは、東京の風景がこんなに変った …
突堤(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
炎天の下で青桐の葉が黝んで見えるほど暑気のきびしい或る夏の単調な午後、格子の内と外の板廊下にいる者とが見えないところでこんな話をしている。 「どうしたんだか、まだ写真を送ってよこさ …
読書目安時間:約15分
炎天の下で青桐の葉が黝んで見えるほど暑気のきびしい或る夏の単調な午後、格子の内と外の板廊下にいる者とが見えないところでこんな話をしている。 「どうしたんだか、まだ写真を送ってよこさ …
翔び去る印象(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
十月の澄んだ秋の日に、北部太平洋が濃い藍色に燦いた。波の音は聴えない。つめたそうに冴え冴え遠い海面迄輝いている。船舶の太い細い煙筒が玩具のように鮮かにくっきり水平線に立っていた。 …
読書目安時間:約2分
十月の澄んだ秋の日に、北部太平洋が濃い藍色に燦いた。波の音は聴えない。つめたそうに冴え冴え遠い海面迄輝いている。船舶の太い細い煙筒が玩具のように鮮かにくっきり水平線に立っていた。 …
『トルストーイ伝』:ビリューコフ著・原久一郎訳(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
数あるトルストイの伝記の中でも、このビリューコフの『トルストーイ伝』は、資料の豊富なことと考証の正確な点で、最も基礎的な参考文献であろう。これまであらわれたトルストイ研究は、その土 …
読書目安時間:約4分
数あるトルストイの伝記の中でも、このビリューコフの『トルストーイ伝』は、資料の豊富なことと考証の正確な点で、最も基礎的な参考文献であろう。これまであらわれたトルストイ研究は、その土 …
鈍・根・録(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
六月十三日に、ぬがされていた足袋をはき、それから帯をしめ、風呂敷の包みを下げて舗道へ出たら、駒下駄の二つの歯がアスファルトにあたる感じが、一足一足と、異様にはっきり氷嚢の下の心臓に …
読書目安時間:約9分
六月十三日に、ぬがされていた足袋をはき、それから帯をしめ、風呂敷の包みを下げて舗道へ出たら、駒下駄の二つの歯がアスファルトにあたる感じが、一足一足と、異様にはっきり氷嚢の下の心臓に …
どんづまり(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
荒漠たる原野——殊に白雪におおわれて無声の呪われた様な高原に次第次第に迫って来る夜はまことに恐ろしいほど厳然とした態度をもって居る。 灰色と白色との合するところに細く立木が並んで居 …
読書目安時間:約5分
荒漠たる原野——殊に白雪におおわれて無声の呪われた様な高原に次第次第に迫って来る夜はまことに恐ろしいほど厳然とした態度をもって居る。 灰色と白色との合するところに細く立木が並んで居 …
曇天(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
此頃、癖になって仕舞ったと見えて、どうしても私は九時前には起きられない。 今日も、周囲の明るさに、自然に目を覚したのは彼此十時近くであった。 髪を結ったり、髪を洗ったりして食堂に行 …
読書目安時間:約4分
此頃、癖になって仕舞ったと見えて、どうしても私は九時前には起きられない。 今日も、周囲の明るさに、自然に目を覚したのは彼此十時近くであった。 髪を結ったり、髪を洗ったりして食堂に行 …
ドン・バス炭坑区の「労働宮」:ソヴェト同盟の労働者はどんな文化設備をもっているか(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
世界の経済恐慌につれて、日本でも種々の生産(製糸、紡績、化学、運輸等)が低下し、それにつれて燃料原料となる石炭は二割七分の生産減を見た。北九州地方の炭坑労働者の生活などはこの頃以前 …
読書目安時間:約16分
世界の経済恐慌につれて、日本でも種々の生産(製糸、紡績、化学、運輸等)が低下し、それにつれて燃料原料となる石炭は二割七分の生産減を見た。北九州地方の炭坑労働者の生活などはこの頃以前 …
長崎の一瞥(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
第一日 夜なかに不図目がさめた。雨の音がする。ぱらぱら寝台車の屋根を打つ音が耳に入った。私は、家に臥て静に夜の雨音を聴くようなすがすがしいいい心持がした。 午前六時何分かに、鳥栖で …
読書目安時間:約14分
第一日 夜なかに不図目がさめた。雨の音がする。ぱらぱら寝台車の屋根を打つ音が耳に入った。私は、家に臥て静に夜の雨音を聴くようなすがすがしいいい心持がした。 午前六時何分かに、鳥栖で …
長崎の印象:(この一篇をN氏、A氏におくる)(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
不図眼がさめると、いつの間にか雨が降り出している。夜なか、全速力で闇を貫き駛っている汽車に目を開いて揺られている心持は、思い切ったような陰気なようなものだ。そこへ、寝台車の屋蓋をし …
読書目安時間:約29分
不図眼がさめると、いつの間にか雨が降り出している。夜なか、全速力で闇を貫き駛っている汽車に目を開いて揺られている心持は、思い切ったような陰気なようなものだ。そこへ、寝台車の屋蓋をし …
“慰みの文学”(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
菊池寛の文学が大衆文学として広く愛されたというならば、その理由は菊池寛の文学と生活の基本的な調子、もっとも日本の半封建的な社会生活におかれている生活の常識に固く立っていたからだと思 …
読書目安時間:約3分
菊池寛の文学が大衆文学として広く愛されたというならば、その理由は菊池寛の文学と生活の基本的な調子、もっとも日本の半封建的な社会生活におかれている生活の常識に固く立っていたからだと思 …
なぜソヴェト同盟に失業がないか?(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
革命の当時から、ソヴェト同盟について悪い逆宣伝ばっかり企らんでいたブルジョア帝国主義者どもも、今では一つの、驚くべき事実を認めないわけにはいかなくなって来た。それは、ソヴェト同盟に …
読書目安時間:約4分
革命の当時から、ソヴェト同盟について悪い逆宣伝ばっかり企らんでいたブルジョア帝国主義者どもも、今では一つの、驚くべき事実を認めないわけにはいかなくなって来た。それは、ソヴェト同盟に …
なぜ、それはそうであったか:歴史・伝記について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
私たちの日常生活でのものの考えかたの中には、随分現実よりおくれた型が、型としてはまりこんだまま残されていると思う。たとえば歴史というものの理解についても。—— 一般に歴史ときくと、 …
読書目安時間:約10分
私たちの日常生活でのものの考えかたの中には、随分現実よりおくれた型が、型としてはまりこんだまま残されていると思う。たとえば歴史というものの理解についても。—— 一般に歴史ときくと、 …
ナチスの暴虐への抗議に関して(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ナチスの暴虐に対して国際的な抗議がまき起っているのは当然であると思います。ドイツのナチスを云々する以前、現在われわれの身辺に京大の瀧川教授の問題があり、過去の文化の精華を最も正しく …
読書目安時間:約1分
ナチスの暴虐に対して国際的な抗議がまき起っているのは当然であると思います。ドイツのナチスを云々する以前、現在われわれの身辺に京大の瀧川教授の問題があり、過去の文化の精華を最も正しく …
夏(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
去年の今頃はもう鎌倉に行っていた。鎌倉と云っても、大船と鎌倉駅との間、円覚寺の奥の方であった。不便極るところで、魚屋もろくに来ず、食べ物と云えば豆腐と胡瓜。家の風呂はポンプがこわれ …
読書目安時間:約1分
去年の今頃はもう鎌倉に行っていた。鎌倉と云っても、大船と鎌倉駅との間、円覚寺の奥の方であった。不便極るところで、魚屋もろくに来ず、食べ物と云えば豆腐と胡瓜。家の風呂はポンプがこわれ …
なつかしい仲間(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
友達ということを思うと、私の心にきっと甦って来る一つの俤がある。 村上けい子さんといったあの子は今どんな風に暮しているのだろうか。やっぱり東京にいるのかしら。それとも、どこかの田舎 …
読書目安時間:約9分
友達ということを思うと、私の心にきっと甦って来る一つの俤がある。 村上けい子さんといったあの子は今どんな風に暮しているのだろうか。やっぱり東京にいるのかしら。それとも、どこかの田舎 …
夏遠き山(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
今日も雨だ。雨樋がタンタンタラ・タラタラ鳴っている。ここ(那須温泉)では殆ど一日置き位に雨が降る。雨の日は広い宿屋じゅうがひっそりして、廊下に出ると、木端葺きの湯殿の屋根から白く湯 …
読書目安時間:約8分
今日も雨だ。雨樋がタンタンタラ・タラタラ鳴っている。ここ(那須温泉)では殆ど一日置き位に雨が降る。雨の日は広い宿屋じゅうがひっそりして、廊下に出ると、木端葺きの湯殿の屋根から白く湯 …
七階の住人(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
「お早う」 ミセス・コムプスンが入って来た。 「今日は御部屋ですか」 彼女は、亜麻色の髪を古風な束髪にし、雑使婦そっくりな藍縞の服に長い前垂をしめている。 「お早う……」 伸子は、 …
読書目安時間:約15分
「お早う」 ミセス・コムプスンが入って来た。 「今日は御部屋ですか」 彼女は、亜麻色の髪を古風な束髪にし、雑使婦そっくりな藍縞の服に長い前垂をしめている。 「お早う……」 伸子は、 …
何がお好き?(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、技神に入れる舞踊、真の芸術家によって描かれたる絵画 二、深い理解と技倆ある楽手によって奏せられるシムホニイ 三、好愛して読むのはジャンクリストフ、戦争と平和 四、静に庭や他の自 …
読書目安時間:約1分
一、技神に入れる舞踊、真の芸術家によって描かれたる絵画 二、深い理解と技倆ある楽手によって奏せられるシムホニイ 三、好愛して読むのはジャンクリストフ、戦争と平和 四、静に庭や他の自 …
「奈良」に遊びて(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
古代芸術の香高い所、そして美しい山水にかこまれた「奈良」という土地に対して、私はまあ、どれ位い憧憬の心を持っていた事でしょう。——その望みが協って、此程、僅かな日数ではあったが、其 …
読書目安時間:約4分
古代芸術の香高い所、そして美しい山水にかこまれた「奈良」という土地に対して、私はまあ、どれ位い憧憬の心を持っていた事でしょう。——その望みが協って、此程、僅かな日数ではあったが、其 …
南路(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間4分
シューッ、シューッ、……ギー。 カッカッカッと揺れながら線路を換え、前の方からだんだん薄暗く構内にさしかかるにつれて、先頭の、重い機関車(ロコモティブ)からは世にも朗らかなカラーン …
読書目安時間:約1時間4分
シューッ、シューッ、……ギー。 カッカッカッと揺れながら線路を換え、前の方からだんだん薄暗く構内にさしかかるにつれて、先頭の、重い機関車(ロコモティブ)からは世にも朗らかなカラーン …
新島繁著『社会運動思想史』書評(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私たち一般人の日常生活の内外に相関連する社会的現実は、この二三年益々複雑多岐、錯綜、紛乱を極めて来ている。こういう社会の激しい矛盾の有様は、将来どうなってゆくのであろうか。今日この …
読書目安時間:約5分
私たち一般人の日常生活の内外に相関連する社会的現実は、この二三年益々複雑多岐、錯綜、紛乱を極めて来ている。こういう社会の激しい矛盾の有様は、将来どうなってゆくのであろうか。今日この …
ニイナ・フェドロヴァ「家族」(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ニイナ・フェドロヴァというロシア生れの女のひとの書いた小説「家族」は最近よんだ本の中で面白いものの一つでした。貧しい白系ロシア人の家族が天津で下宿屋をやって、日支事変の波の中に様々 …
読書目安時間:約1分
ニイナ・フェドロヴァというロシア生れの女のひとの書いた小説「家族」は最近よんだ本の中で面白いものの一つでした。貧しい白系ロシア人の家族が天津で下宿屋をやって、日支事変の波の中に様々 …
二月七日(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
彼女は耳元で激しく泣き立てる小さい妹の声で夢も見ない様な深い眠りから、丁度玉葱の皮を剥く様に、一皮ずつ同じ厚さで目覚まされて行きました。 習慣的に夜着から手を出して赤い掛布団の上を …
読書目安時間:約8分
彼女は耳元で激しく泣き立てる小さい妹の声で夢も見ない様な深い眠りから、丁度玉葱の皮を剥く様に、一皮ずつ同じ厚さで目覚まされて行きました。 習慣的に夜着から手を出して赤い掛布団の上を …
肉親(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ソ同盟に対する引揚促進運動は、さきごろ、はっきりした反ソ運動の一つのかたちとして悪用されていた。内地の暮しがくるしくて家族の生活のたちゆかないのは、ソ同盟から帰ってこない一人の人が …
読書目安時間:約3分
ソ同盟に対する引揚促進運動は、さきごろ、はっきりした反ソ運動の一つのかたちとして悪用されていた。内地の暮しがくるしくて家族の生活のたちゆかないのは、ソ同盟から帰ってこない一人の人が …
錦木(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間46分
京でなうても御はなは咲いた 恋の使の春の小雨が たよりもて来てそとさゝやけば 花は恥らふてポト笑んだ 京でなうても御はなはさいた。 にわかのあたたかさ、夢から現にかえったように、今 …
読書目安時間:約1時間46分
京でなうても御はなは咲いた 恋の使の春の小雨が たよりもて来てそとさゝやけば 花は恥らふてポト笑んだ 京でなうても御はなはさいた。 にわかのあたたかさ、夢から現にかえったように、今 …
二十三番地(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
暫く明いて居た裏の家へ到々人が来て仕舞った。 子供達の遊び場になって居る広っぱに面して建って居る家だから、別にどうと云う程の事もなさそうなものだけれ共、やっぱり有難迷惑な、聞きたく …
読書目安時間:約28分
暫く明いて居た裏の家へ到々人が来て仕舞った。 子供達の遊び場になって居る広っぱに面して建って居る家だから、別にどうと云う程の事もなさそうなものだけれ共、やっぱり有難迷惑な、聞きたく …
似たひと(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
お茶をいれている私のそばである友達が栗の皮をむきながら、 「あなた、染物屋の横にあるお風呂へよく行くの」 ときいた。 「行かないわ」 「ほんと?じゃどうしたんだろう、始終あすこで見 …
読書目安時間:約1分
お茶をいれている私のそばである友達が栗の皮をむきながら、 「あなた、染物屋の横にあるお風呂へよく行くの」 ときいた。 「行かないわ」 「ほんと?じゃどうしたんだろう、始終あすこで見 …
日記(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ある夜 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで …
読書目安時間:約7分
ある夜 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで …
日記:01 一九一三年(大正二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
晴 木の葉のしげみや花ずいの奥にまだ夜の香りがうせない頃に目が覚めた。外に出る。麻裏のシットリとした落つきも、むれた足にはなつかしい。 この頃めっきり広がった苔にはビロードのやわら …
読書目安時間:約28分
晴 木の葉のしげみや花ずいの奥にまだ夜の香りがうせない頃に目が覚めた。外に出る。麻裏のシットリとした落つきも、むれた足にはなつかしい。 この頃めっきり広がった苔にはビロードのやわら …
日記:02 一九一四年(大正三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
一月、「蘆笛」、「千世子」完成 「蘆笛」、「千世子」完成 To a sky-Lark 訳、 「猟人日記」、「希臘神話」熟読 「錦木」 (木曜)晴寒 〔摘要〕四方拝出席 四方拝出席、 …
読書目安時間:約34分
一月、「蘆笛」、「千世子」完成 「蘆笛」、「千世子」完成 To a sky-Lark 訳、 「猟人日記」、「希臘神話」熟読 「錦木」 (木曜)晴寒 〔摘要〕四方拝出席 四方拝出席、 …
日記:03 一九一六年(大正五年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間39分
(土曜) 〔書信〕大久保明子 〔読書〕私は今日一日何も読まなかった事を恥じる。 之から新らしい一年が始まると云う事については又新らしい幸福な勇気が自分に湧き上って来るのを感じる。 …
読書目安時間:約2時間39分
(土曜) 〔書信〕大久保明子 〔読書〕私は今日一日何も読まなかった事を恥じる。 之から新らしい一年が始まると云う事については又新らしい幸福な勇気が自分に湧き上って来るのを感じる。 …
日記:04 一九一七年(大正六年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間14分
今年は好い正月な筈だ——と云うと少し可笑しいが、三十一日までは、何となしにぎやかで、快い正月になりそうな心持がして居た。けれども、なって見ると少し違った。妙に皆の心の中に負けおしみ …
読書目安時間:約1時間14分
今年は好い正月な筈だ——と云うと少し可笑しいが、三十一日までは、何となしにぎやかで、快い正月になりそうな心持がして居た。けれども、なって見ると少し違った。妙に皆の心の中に負けおしみ …
日記:05 一九一九年(大正八年)(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
嵐のあとを追って、船が進むためか、噂に聞いた程船はあれない。 ビクトリアを出て一夜立った今日も空は一面に明るく、水浅黄に晴れ渡って、船腹に当って散る波は、深い藍色の波頭に瞬間の美し …
読書目安時間:約7分
嵐のあとを追って、船が進むためか、噂に聞いた程船はあれない。 ビクトリアを出て一夜立った今日も空は一面に明るく、水浅黄に晴れ渡って、船腹に当って散る波は、深い藍色の波頭に瞬間の美し …
日記:06 一九二〇年(大正九年)(新字新仮名)
読書目安時間:約46分
木 夜、一時間。 家中が寝静まった、深い夜の沈黙の中に、此の日記の第一頁を書き始める。私の心の中には、今、殆ど言葉で云い表わせないような感動が漲って居る。総ての者のよき進展の為、総 …
読書目安時間:約46分
木 夜、一時間。 家中が寝静まった、深い夜の沈黙の中に、此の日記の第一頁を書き始める。私の心の中には、今、殆ど言葉で云い表わせないような感動が漲って居る。総ての者のよき進展の為、総 …
日記:07 一九二一年(大正十年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間2分
「黄銅時代」第一完成 (土曜)晴寒 昨日夕方の六時頃漸々自分は此丈は間違わずにやってしまい度いと思って居た、「黄銅時代」の第一部の初稿を終った。 百六十枚ほどに成り、厚くどっしりと …
読書目安時間:約2時間2分
「黄銅時代」第一完成 (土曜)晴寒 昨日夕方の六時頃漸々自分は此丈は間違わずにやってしまい度いと思って居た、「黄銅時代」の第一部の初稿を終った。 百六十枚ほどに成り、厚くどっしりと …
日記:08 一九二二年(大正十一年)(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間22分
(日曜)晴 昨夜、二時頃吉田さんの処から帰って来ると、神保町で停電し、とうとう春日町まで歩いた。あめがポツポツ降り出して来たのでいそいで歩き、ひどく疲れる。 眠ったのは五時頃だろう …
読書目安時間:約3時間22分
(日曜)晴 昨夜、二時頃吉田さんの処から帰って来ると、神保町で停電し、とうとう春日町まで歩いた。あめがポツポツ降り出して来たのでいそいで歩き、ひどく疲れる。 眠ったのは五時頃だろう …
日記:09 一九二三年(大正十二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間9分
二三日前から、東京には珍らしい大雪があった。九日に鎌倉に来ようと云う自分には、少なからぬ事の行違いを生ぜさせるのではあるまいかと危ぶまれた。七日に、戸外では北海道のようだと云う程降 …
読書目安時間:約2時間9分
二三日前から、東京には珍らしい大雪があった。九日に鎌倉に来ようと云う自分には、少なからぬ事の行違いを生ぜさせるのではあるまいかと危ぶまれた。七日に、戸外では北海道のようだと云う程降 …
日記:10 一九二四年(大正十三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間17分
火晴 朝寒く、午後暖か。林町の人々は二日に常盤館に出かけるので今日ぜひ会いたかった。けれども風邪がなおり切らないので、Aに電話をかけて貰って中止する。一日家居、「都会の憂鬱」をよん …
読書目安時間:約1時間17分
火晴 朝寒く、午後暖か。林町の人々は二日に常盤館に出かけるので今日ぜひ会いたかった。けれども風邪がなおり切らないので、Aに電話をかけて貰って中止する。一日家居、「都会の憂鬱」をよん …
日記:11 一九二五年(大正十四年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間10分
(月曜) 山岡にかえって来る。 (月曜) 久しぶりにて、金子茂、河崎なつ、石本、新妻氏等と一緒に偕楽園で食事をし、かえりに林町にゆく。 (金曜) 夥しき降雪。 祖母上のメモリーとし …
読書目安時間:約1時間10分
(月曜) 山岡にかえって来る。 (月曜) 久しぶりにて、金子茂、河崎なつ、石本、新妻氏等と一緒に偕楽園で食事をし、かえりに林町にゆく。 (金曜) 夥しき降雪。 祖母上のメモリーとし …
日記:12 一九二六年(大正十五年・昭和元年)(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
(金曜)晴 昨夜おそいので眠し。然し、今年からは九時起床の約束だから先ず起きる。女中が晴着を着て居るから、まあ正月という気がするが、大して元旦らしくもなし。まねのおとそ。雑煮、それ …
読書目安時間:約50分
(金曜)晴 昨夜おそいので眠し。然し、今年からは九時起床の約束だから先ず起きる。女中が晴着を着て居るから、まあ正月という気がするが、大して元旦らしくもなし。まねのおとそ。雑煮、それ …
日記:13 一九二七年(昭和二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間19分
(木曜) Y、鈴木病院に胃を見て貰いにゆく。自分あとより。胃わるくない由。酸がある由。 ただゴムをのむとき喉に無理が出来ていたいと云い、三田の東洋軒でスープと魚だけたべる。 かえり …
読書目安時間:約1時間19分
(木曜) Y、鈴木病院に胃を見て貰いにゆく。自分あとより。胃わるくない由。酸がある由。 ただゴムをのむとき喉に無理が出来ていたいと云い、三田の東洋軒でスープと魚だけたべる。 かえり …
日記:14 一九二八年(昭和三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間55分
(日曜) 昨夜三時すぎに眠った故、起きるの辛く、やっとの思いで床を出た。朝日が出て、元旦らし。 橇にのってゆく。大使館のお祝へ。 モヤ、お雑煮がたのしみ故、どうしても行くと云って頑 …
読書目安時間:約1時間55分
(日曜) 昨夜三時すぎに眠った故、起きるの辛く、やっとの思いで床を出た。朝日が出て、元旦らし。 橇にのってゆく。大使館のお祝へ。 モヤ、お雑煮がたのしみ故、どうしても行くと云って頑 …
日記:15 一九二九年(昭和四年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間35分
もう三月八日から домотдыха〔休息の家〕が開かれると新聞に出た。モスクヷ保健局直属の八つの дом、建物の手入れに 270,000р かかる。 二週間休む者に二十六留かける …
読書目安時間:約2時間35分
もう三月八日から домотдыха〔休息の家〕が開かれると新聞に出た。モスクヷ保健局直属の八つの дом、建物の手入れに 270,000р かかる。 二週間休む者に二十六留かける …
日記:16 一九三〇年(昭和五年)(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間37分
水 モスクヷの正月のしじまいだ。遊びじまいをした。 土 オリガ・ヤコブレナが散歩に誘う。コロス〔映画館名〕へ行ったら一寸でおくれ、ずっと四角く歩いて家へゆき、狼と羊などして遊んだ。 …
読書目安時間:約1時間37分
水 モスクヷの正月のしじまいだ。遊びじまいをした。 土 オリガ・ヤコブレナが散歩に誘う。コロス〔映画館名〕へ行ったら一寸でおくれ、ずっと四角く歩いて家へゆき、狼と羊などして遊んだ。 …
日記:17 観劇日記(一九二九―一九三〇年)(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
一、まわり舞台の一般的利用、 М・Х・А・Тの「復活」、全然日本のかえし。 メイエルホリド「バーニャ」或幅だけ円形線をとってそれをまわす。 上から見ると 革命座「パルトビレト」のは …
読書目安時間:約35分
一、まわり舞台の一般的利用、 М・Х・А・Тの「復活」、全然日本のかえし。 メイエルホリド「バーニャ」或幅だけ円形線をとってそれをまわす。 上から見ると 革命座「パルトビレト」のは …
日記:18 一九三一年(昭和六年)(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
木曜日 なかなか寒いと思ったらチラチラ雪がふって来た。終日雪。 お雑煮はうち製なり。米より腹に入っての工合よろし。お雑煮をたべちゃってから、今日こそ仕事と二人とも机に向い、夕飯を間 …
読書目安時間:約25分
木曜日 なかなか寒いと思ったらチラチラ雪がふって来た。終日雪。 お雑煮はうち製なり。米より腹に入っての工合よろし。お雑煮をたべちゃってから、今日こそ仕事と二人とも机に向い、夕飯を間 …
日記:19 一九三三年(昭和八年)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
国府津の海岸。夕方の六時すぎから七時、七時半、段々あたりが暗くなる裡に上げ潮の白い波頭が遠く二宮の海岸の方にまでよせては引く景色が実に美しい。 渚に立って、足の先を波に洗わせながら …
読書目安時間:約5分
国府津の海岸。夕方の六時すぎから七時、七時半、段々あたりが暗くなる裡に上げ潮の白い波頭が遠く二宮の海岸の方にまでよせては引く景色が実に美しい。 渚に立って、足の先を波に洗わせながら …
日記:20 一九三六年(昭和十一年)(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
(水曜) 〔欄外に〕所謂二・二六事件。 (火曜) 予審終結。 証人山清、塚本周三、西隆、窪川イネ等の由。 (金曜) ○夜七時近くなってから出所。休憩所で荷物をしらべたりする前になっ …
読書目安時間:約31分
(水曜) 〔欄外に〕所謂二・二六事件。 (火曜) 予審終結。 証人山清、塚本周三、西隆、窪川イネ等の由。 (金曜) ○夜七時近くなってから出所。休憩所で荷物をしらべたりする前になっ …
日記:21 一九三七年(昭和十二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約47分
(木曜) 『文芸』に「迷いの末」横光の「厨房日記」批評を送る。 (金曜)晴五。 〔発信〕第二十六信 昨夜岡田さん達がかえる時はミゾレがちらちらしていたが、晴天。 (月曜) 文芸春秋 …
読書目安時間:約47分
(木曜) 『文芸』に「迷いの末」横光の「厨房日記」批評を送る。 (金曜)晴五。 〔発信〕第二十六信 昨夜岡田さん達がかえる時はミゾレがちらちらしていたが、晴天。 (月曜) 文芸春秋 …
日記:22 一九三八年(昭和十三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
(土曜)小雨。 除夜の鐘を戸塚できいた。靄がこく柔かくこめている大晦日の晩で、カネ坊をかえすのにもたしてやるものを買いに三人で八時頃伊勢丹へゆきベルがジリジリいうなかで私は帯、いね …
読書目安時間:約14分
(土曜)小雨。 除夜の鐘を戸塚できいた。靄がこく柔かくこめている大晦日の晩で、カネ坊をかえすのにもたしてやるものを買いに三人で八時頃伊勢丹へゆきベルがジリジリいうなかで私は帯、いね …
日記:23 一九三九年(昭和十四年)(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
(日曜) 起き初め 普通の御飯のたべぞめ 病院では元日には先生がた出て来る。外科では恒例で手術室で福引をするよし。やっぱり大して品のよい文句もないらしい。木村先生盲腸切開、指が入ら …
読書目安時間:約55分
(日曜) 起き初め 普通の御飯のたべぞめ 病院では元日には先生がた出て来る。外科では恒例で手術室で福引をするよし。やっぱり大して品のよい文句もないらしい。木村先生盲腸切開、指が入ら …
日記:24 一九四〇年(昭和十五年)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
『新女苑』20枚「若き精神の成長を描く作品」 『明日への精神』発売。 『月刊文章』(29日)「文学における大陸性について」11枚 実業の日本、三千だったが発送でもう千刷るという話が …
読書目安時間:約3分
『新女苑』20枚「若き精神の成長を描く作品」 『明日への精神』発売。 『月刊文章』(29日)「文学における大陸性について」11枚 実業の日本、三千だったが発送でもう千刷るという話が …
日記:25 一九四一年(昭和十六年)(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
今年の暑気は大変にこたえるように思う。みんながそう云う。 八百屋へ行ったら、まだ午後三時ごろだのに、がらがらんで、青じそ少々、人参少々、玉ねぎというようなものばかりがのこっていて胡 …
読書目安時間:約10分
今年の暑気は大変にこたえるように思う。みんながそう云う。 八百屋へ行ったら、まだ午後三時ごろだのに、がらがらんで、青じそ少々、人参少々、玉ねぎというようなものばかりがのこっていて胡 …
日記:26 一九四三年(昭和十八年)(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
この間うちの風が珍しくきょうはやんでいる。おだやかな日なり。午後土蔵から『史籍集覧』の本箱を二階へもち出して貰う、全くガタガタになっている。が、匂いをかいでみると楠でそこに入ってい …
読書目安時間:約15分
この間うちの風が珍しくきょうはやんでいる。おだやかな日なり。午後土蔵から『史籍集覧』の本箱を二階へもち出して貰う、全くガタガタになっている。が、匂いをかいでみると楠でそこに入ってい …
日記:27 一九四四年(昭和十九年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間4分
(土曜)曇寒 ことしから又日記をつける。自分の生活をはっきりさせるために。一日のうち、自分がどんなに生活を営んだかということをはっきりさせるために。去年は、ここの家での生活というも …
読書目安時間:約2時間4分
(土曜)曇寒 ことしから又日記をつける。自分の生活をはっきりさせるために。一日のうち、自分がどんなに生活を営んだかということをはっきりさせるために。去年は、ここの家での生活というも …
日記:28 一九四五年(昭和二十年)(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
(火曜) 寿江子と二人。第一信。 小川さんの家へ午後から。坂西という人。「アメリカ発達史」以後一九二九—一九三五以後、ニューディールから今回大戦までの大略の話をきき面白く思った。自 …
読書目安時間:約13分
(火曜) 寿江子と二人。第一信。 小川さんの家へ午後から。坂西という人。「アメリカ発達史」以後一九二九—一九三五以後、ニューディールから今回大戦までの大略の話をきき面白く思った。自 …
日記:29 一九四六年(昭和二十一年)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あわれアンポンの密輸出。うらめしや。(No. Ⅰ) 水 メーデー。ゆくか、ゆけぬか、トラック次第。(多賀ちゃんと降車口より日本橋で見る) 木 御婚礼、高島や式場午後芸術学校開校にゆ …
読書目安時間:約4分
あわれアンポンの密輸出。うらめしや。(No. Ⅰ) 水 メーデー。ゆくか、ゆけぬか、トラック次第。(多賀ちゃんと降車口より日本橋で見る) 木 御婚礼、高島や式場午後芸術学校開校にゆ …
日記:30 一九四七年(昭和二十二年)(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
○晴れて、きつい西風。 前の家のトタンやねが反射する、そしてこっちの室のおくの障子にうつる。 ○北窓をあけると、白雲のういた空。遠くの学校の上のガラスが光った、こういう風の日、樹木 …
読書目安時間:約24分
○晴れて、きつい西風。 前の家のトタンやねが反射する、そしてこっちの室のおくの障子にうつる。 ○北窓をあけると、白雲のういた空。遠くの学校の上のガラスが光った、こういう風の日、樹木 …
日記:31 一九四八年(昭和二十三年)(新字新仮名)
読書目安時間:約53分
(木) 午前七時四十分急行で、宮、京都、河上肇記念。すぐ信州にまわる一週間のヨテイ。 多賀子帰ることにきまる。 (金) 豊島与志雄と対談 酒をのむ人の話しかた、旧い知性の腰のぬけた …
読書目安時間:約53分
(木) 午前七時四十分急行で、宮、京都、河上肇記念。すぐ信州にまわる一週間のヨテイ。 多賀子帰ることにきまる。 (金) 豊島与志雄と対談 酒をのむ人の話しかた、旧い知性の腰のぬけた …
日記:32 一九四九年(昭和二十四年)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
(日) 休日 このごろ日曜は完全休日にする。 (月) 仕事 (火) 〻 (水) 〻 (木) 仕事、治療。 (金) 仕事、大森さん開成山へゆく。 (土) 仕事。 (日) 休日 このご …
読書目安時間:約2分
(日) 休日 このごろ日曜は完全休日にする。 (月) 仕事 (火) 〻 (水) 〻 (木) 仕事、治療。 (金) 仕事、大森さん開成山へゆく。 (土) 仕事。 (日) 休日 このご …
日記:33 一九五〇年(昭和二十五年)(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
日 ことしは、12月29日のおかしな会以来、一つの転期に入っている。元旦早々いろいろの話をきかされる、機関のセンダンぶりについて。 火 くら、しげ、正、つ、などがあつまる、29日の …
読書目安時間:約19分
日 ことしは、12月29日のおかしな会以来、一つの転期に入っている。元旦早々いろいろの話をきかされる、機関のセンダンぶりについて。 火 くら、しげ、正、つ、などがあつまる、29日の …
日記:34 一九五一年(昭和二十六年)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ことしは、筆まめでなければならない。いろいろ、現実的なノートをまめにしるさなければいけない。記憶にたよる——たよりきれないと知るべし。 火 “条件反射”論というのがある、セクト的に …
読書目安時間:約3分
ことしは、筆まめでなければならない。いろいろ、現実的なノートをまめにしるさなければいけない。記憶にたよる——たよりきれないと知るべし。 火 “条件反射”論というのがある、セクト的に …
日記・書簡(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
一九二〇年三月二十二日 郡山は市に成ろうとして居る。桑野は当然その一部として併合されるべきものである。村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員と …
読書目安時間:約15分
一九二〇年三月二十二日 郡山は市に成ろうとして居る。桑野は当然その一部として併合されるべきものである。村の古老は、一種の郷土的愛から、その自治権を失うことを惜しみ、或者は村会議員と …
ニッポン三週間(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
新聞包をかかえて歩いてる。 中は、衣紋竹二本・昭和糊・キリ・ローソク・マッチ・並にラッキョーの瓶づめ一本。——世帯の持ちはじめ屡々抱えて歩かれる種類の新聞包だ。朝で、帝大構内の歴史 …
読書目安時間:約8分
新聞包をかかえて歩いてる。 中は、衣紋竹二本・昭和糊・キリ・ローソク・マッチ・並にラッキョーの瓶づめ一本。——世帯の持ちはじめ屡々抱えて歩かれる種類の新聞包だ。朝で、帝大構内の歴史 …
日本の秋色:世相寸評(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
きのう、用事があって出かけ、バスの停留場に立っていたら、向う側の酒屋の横の「英語、タイプライチング教授」とペンキ塗の看板のわきに、もう一つ今まで見当らなかった広告が出ているのに心付 …
読書目安時間:約10分
きのう、用事があって出かけ、バスの停留場に立っていたら、向う側の酒屋の横の「英語、タイプライチング教授」とペンキ塗の看板のわきに、もう一つ今まで見当らなかった広告が出ているのに心付 …
日本の河童:火野葦平のことなど(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
生活の感情は実にまざまざと複雑になって来ている。作家がそういう今日の感情を生きているのだし、文学を読む人々の心にもその波動は在る。 作家とあれば、こういう時代だからこそ益々いい作品 …
読書目安時間:約4分
生活の感情は実にまざまざと複雑になって来ている。作家がそういう今日の感情を生きているのだし、文学を読む人々の心にもその波動は在る。 作家とあれば、こういう時代だからこそ益々いい作品 …
日本の青春(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
漱石全集第十三巻のなかほどに「私の個人主義」という漱石の講演速記が収められている。大正三年と云えば、いまから三十六年もの昔、十一月のある日漱石が輔仁会で講演をした。その話の全文であ …
読書目安時間:約5分
漱石全集第十三巻のなかほどに「私の個人主義」という漱石の講演速記が収められている。大正三年と云えば、いまから三十六年もの昔、十一月のある日漱石が輔仁会で講演をした。その話の全文であ …
日本は誰のものか(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日本は誰のものか。八月十四日の読売新聞で、吉田茂、馬場恒吾の対談の大見出しをみてはげしい反問を感じなかったひとは、一人もなかったろう。「日本の進路」について、何よりも先に「外国人の …
読書目安時間:約1分
日本は誰のものか。八月十四日の読売新聞で、吉田茂、馬場恒吾の対談の大見出しをみてはげしい反問を感じなかったひとは、一人もなかったろう。「日本の進路」について、何よりも先に「外国人の …
日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
三月六日の日曜日に『働く婦人』発刊記念の夕べを催したことは、読者のみなさんが三月号の『働く婦人』にのった広告によっても承知していられることです。 『働く婦人』は、日本プロレタリア文 …
読書目安時間:約7分
三月六日の日曜日に『働く婦人』発刊記念の夕べを催したことは、読者のみなさんが三月号の『働く婦人』にのった広告によっても承知していられることです。 『働く婦人』は、日本プロレタリア文 …
日本文化のために(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
出版にインフレーションという流行ことばが結びつけて云われたことは、おそらく明治以来例のないことだったのではなかろうか。ところがこの一二年来は、インフレ出版という言葉が出来た。そして …
読書目安時間:約5分
出版にインフレーションという流行ことばが結びつけて云われたことは、おそらく明治以来例のないことだったのではなかろうか。ところがこの一二年来は、インフレ出版という言葉が出来た。そして …
日本髷か束髪か(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
1、日本髪も束髪も実際的な立場から批評したら、共に一長一短をもっていると思います。出来上りの形、方法こそ異っても、おしゃれをする女性の心持は東西同じで手間をかけたら両方結局同じもの …
読書目安時間:約1分
1、日本髪も束髪も実際的な立場から批評したら、共に一長一短をもっていると思います。出来上りの形、方法こそ異っても、おしゃれをする女性の心持は東西同じで手間をかけたら両方結局同じもの …
入学試験前後(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
さほど長くない学生生活の間で、特に印象ふかかったことと云って何があるだろう。 女学校におれば、ちょうど十三四から人生を感じ始める十八九までの数年を過すのだから、善かれ悪しかれ、個人 …
読書目安時間:約5分
さほど長くない学生生活の間で、特に印象ふかかったことと云って何があるだろう。 女学校におれば、ちょうど十三四から人生を感じ始める十八九までの数年を過すのだから、善かれ悪しかれ、個人 …
入選小説「新聞配達夫」について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私が予選をうけもった十数篇の中でもこの位真情にあふれたのはなかった。 徳永の云っているとおり、もっと高い芸術化が必要であることも分るが、作者の力で今それは不可能であり、これはこのま …
読書目安時間:約1分
私が予選をうけもった十数篇の中でもこの位真情にあふれたのはなかった。 徳永の云っているとおり、もっと高い芸術化が必要であることも分るが、作者の力で今それは不可能であり、これはこのま …
入選小説「毒」について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この作品は「新聞配達夫」とは又別の意味で一気に終りまで読ませ、しかもなかなかひきつけるところのある作品である。病苦をめぐる良人の感情、妻の感情など素直にひたむきに描れているし、淫売 …
読書目安時間:約1分
この作品は「新聞配達夫」とは又別の意味で一気に終りまで読ませ、しかもなかなかひきつけるところのある作品である。病苦をめぐる良人の感情、妻の感情など素直にひたむきに描れているし、淫売 …
「女人芸術」か「女人大衆」かの批判について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「女人芸術」という名をかえることには大いに賛成です。しかし、「女人大衆」というのは、どうでしょうか。「女人」という字は、もう数年前、日本でブルジョア女性解放運動が盛んだった時分、「 …
読書目安時間:約1分
「女人芸術」という名をかえることには大いに賛成です。しかし、「女人大衆」というのは、どうでしょうか。「女人」という字は、もう数年前、日本でブルジョア女性解放運動が盛んだった時分、「 …
人間イヴの誕生(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この新聞に、若い女性のための頁がおかれるようになったことは、うれしい。 日本の女性の生活は、この四年の間に何といってもかわって来た。きょう一部の婦人雑誌が何かのマニアにとりつかれて …
読書目安時間:約4分
この新聞に、若い女性のための頁がおかれるようになったことは、うれしい。 日本の女性の生活は、この四年の間に何といってもかわって来た。きょう一部の婦人雑誌が何かのマニアにとりつかれて …
「人間関係方面の成果」(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
地球の人口はおよそ二十一億余ある。その大部分が働く人民である。戦争は、いつの場合にでも決して独占資本家たちの殺しあいではなかった。必ずそれぞれの国の人民を狩りたてて殺しあわせた。ア …
読書目安時間:約6分
地球の人口はおよそ二十一億余ある。その大部分が働く人民である。戦争は、いつの場合にでも決して独占資本家たちの殺しあいではなかった。必ずそれぞれの国の人民を狩りたてて殺しあわせた。ア …
人間性・政治・文学(1):いかに生きるかの問題(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
日本の現代文学は、もっともっと、われわれの生きている現実の歴史の深さ、鋭さ、はげしさにふさわしい文学精神と方法との上に立て直されなければならない。この欲求は、こんにちのヒューマニテ …
読書目安時間:約20分
日本の現代文学は、もっともっと、われわれの生きている現実の歴史の深さ、鋭さ、はげしさにふさわしい文学精神と方法との上に立て直されなければならない。この欲求は、こんにちのヒューマニテ …
人間の結婚:結婚のモラル(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
きょう私たちが、結婚や家庭というものについて持っている大変複雑な感情や問題の本質はどういうところにあるだろうか。一言にいえば、これらのいきさつの総ては第一次世界大戦後の二十五年間に …
読書目安時間:約29分
きょう私たちが、結婚や家庭というものについて持っている大変複雑な感情や問題の本質はどういうところにあるだろうか。一言にいえば、これらのいきさつの総ては第一次世界大戦後の二十五年間に …
人間の道義(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
婦人の生活が頽廃しているということがいわれはじめて、暫くになった。性的な面で、特に大都市の婦女子の生活が不規則になり、崩れているということについて注目されて来ている。それは私たちが …
読書目安時間:約5分
婦人の生活が頽廃しているということがいわれはじめて、暫くになった。性的な面で、特に大都市の婦女子の生活が不規則になり、崩れているということについて注目されて来ている。それは私たちが …
縫子(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
二階の掃除をすませ、緩(ゆっ)くり前かけなどをとって六畳に出て見ると、お針子はもう大抵皆来ていた。口々に、ぞんざいに師匠の娘である縫子に挨拶した。縫子は襖をしめながらちょっと上体を …
読書目安時間:約21分
二階の掃除をすませ、緩(ゆっ)くり前かけなどをとって六畳に出て見ると、お針子はもう大抵皆来ていた。口々に、ぞんざいに師匠の娘である縫子に挨拶した。縫子は襖をしめながらちょっと上体を …
願いは一つにまとめて:平和のために、原子兵器の禁止を(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
都会の主婦も農村の主婦も、同じ女性であることに何のちがいがありましょう。しかし、現実の生活の内容は非常にちがった点をもっています。工場に働く婦人たちと農業にしたがっている婦人たちと …
読書目安時間:約5分
都会の主婦も農村の主婦も、同じ女性であることに何のちがいがありましょう。しかし、現実の生活の内容は非常にちがった点をもっています。工場に働く婦人たちと農業にしたがっている婦人たちと …
禰宜様宮田(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間10分
春になってから沼の水はグッとふえた。 この間までは皆むき出しになって、うすら寒い風に吹き曝されていた岸の浅瀬も、今はもうやや濁ってはいるがしとやかな水色にすっかり被われて明るい日光 …
読書目安時間:約1時間10分
春になってから沼の水はグッとふえた。 この間までは皆むき出しになって、うすら寒い風に吹き曝されていた岸の浅瀬も、今はもうやや濁ってはいるがしとやかな水色にすっかり被われて明るい日光 …
「禰宜様宮田」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
桑野村にて ○日はうららかに輝いて居る。けれども、南風が激しく吹くので、耕地のかなたから、大波のように、樹木の頭がうねり渡った。何処かで障子のやぶれがビュー、ビュービューと、高く低 …
読書目安時間:約14分
桑野村にて ○日はうららかに輝いて居る。けれども、南風が激しく吹くので、耕地のかなたから、大波のように、樹木の頭がうねり渡った。何処かで障子のやぶれがビュー、ビュービューと、高く低 …
猫車(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
紺唐草の木綿布団をかけた炬燵のなかへ、裾の方三分の一ばかりをさし入れて敷いた床の上に中気の庄平が眠っていた。店の方からその中の間へあがった坂口の爺さんは、別に誰へ声をかけるでもなく …
読書目安時間:約35分
紺唐草の木綿布団をかけた炬燵のなかへ、裾の方三分の一ばかりをさし入れて敷いた床の上に中気の庄平が眠っていた。店の方からその中の間へあがった坂口の爺さんは、別に誰へ声をかけるでもなく …
鼠と鳩麦(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
友達と火鉢に向いあって手をかざしていたら、その友達がふっと気づいたように、 「ああ、一寸、これ御覧なさい。こういうものがあなたの爪にあって?」 左の中指の爪のところをさすのを覗きこ …
読書目安時間:約5分
友達と火鉢に向いあって手をかざしていたら、その友達がふっと気づいたように、 「ああ、一寸、これ御覧なさい。こういうものがあなたの爪にあって?」 左の中指の爪のところをさすのを覗きこ …
熱(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
時候あたりの気味で、此の二三日又少し熱が出た。 いつも、飲めと云われて居る滋亜燐を何と云う事はなしに忘れて、遠のいて居たからだと云われた。 私は、自分の体を少しも、粗末にあつかって …
読書目安時間:約5分
時候あたりの気味で、此の二三日又少し熱が出た。 いつも、飲めと云われて居る滋亜燐を何と云う事はなしに忘れて、遠のいて居たからだと云われた。 私は、自分の体を少しも、粗末にあつかって …
年譜(新字新仮名)
読書目安時間:約37分
一八九九年(明治三十二年) 二月十三日。東京市小石川区原町で生れた。父中條精一郎(建築家)母葭江。 生後十ヵ月から満三歳まで両親と札幌で育った。 一九〇五年(明治三十八年) 東京市 …
読書目安時間:約37分
一八九九年(明治三十二年) 二月十三日。東京市小石川区原町で生れた。父中條精一郎(建築家)母葭江。 生後十ヵ月から満三歳まで両親と札幌で育った。 一九〇五年(明治三十八年) 東京市 …
農村(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間39分
冬枯の恐ろしく長い東北の小村は、四国あたりの其れにくらべると幾層倍か、貧しい哀れなものだと云う事は其の気候の事を思ってもじき分る事であるが、此の二年ほど、それどころかもっと長い間う …
読書目安時間:約1時間39分
冬枯の恐ろしく長い東北の小村は、四国あたりの其れにくらべると幾層倍か、貧しい哀れなものだと云う事は其の気候の事を思ってもじき分る事であるが、此の二年ほど、それどころかもっと長い間う …
野上弥生子様へ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
野上彌生子様 私が女学校の五年生であった頃、多分読売新聞に御連載に成った「二人の小さいヴァガボンド」を、深い感銘を以て拝読して以来、御作はいつも、密接な心的関係を保って、今日に至っ …
読書目安時間:約5分
野上彌生子様 私が女学校の五年生であった頃、多分読売新聞に御連載に成った「二人の小さいヴァガボンド」を、深い感銘を以て拝読して以来、御作はいつも、密接な心的関係を保って、今日に至っ …
伸子(新字新仮名)
読書目安時間:約7時間49分
伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。 部屋の中央に長方形の大テーブルがあった。シャンデリヤの明りが、そのテーブルの上に散らかっている …
読書目安時間:約7時間49分
伸子は両手を後にまわし、半分明け放した窓枠によりかかりながら室内の光景を眺めていた。 部屋の中央に長方形の大テーブルがあった。シャンデリヤの明りが、そのテーブルの上に散らかっている …
「伸子」創作メモ(一)(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
A——佃一郎 自分——伸子 父——佐々省三母——多計代 岩本——中西ちゑ子弟——和一郎 南——高崎直子弟——保 和田——安川ただ/咲子妹——つや子 吉田——名取 星野——山内 ウェ …
読書目安時間:約7分
A——佃一郎 自分——伸子 父——佐々省三母——多計代 岩本——中西ちゑ子弟——和一郎 南——高崎直子弟——保 和田——安川ただ/咲子妹——つや子 吉田——名取 星野——山内 ウェ …
「伸子」創作メモ(二)(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
三月二十七日—四月十三日自分台処で。きみは林町にやるスエ子の送り迎えのため 博覧会父の到着(父への話。今月は二つも三つも小説を書いたから大変都合がよい) 滞在泉岳寺、第二会場、万国 …
読書目安時間:約6分
三月二十七日—四月十三日自分台処で。きみは林町にやるスエ子の送り迎えのため 博覧会父の到着(父への話。今月は二つも三つも小説を書いたから大変都合がよい) 滞在泉岳寺、第二会場、万国 …
「伸子」について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
長篇「伸子」を書いたのは今から十年ばかり前のことで、完成までに三年位の時間がかかりました。『改造』へ一年に四度位の割で四五十枚から二百枚位まで時々載せてゆき、単行本にする時に全篇す …
読書目安時間:約4分
長篇「伸子」を書いたのは今から十年ばかり前のことで、完成までに三年位の時間がかかりました。『改造』へ一年に四度位の割で四五十枚から二百枚位まで時々載せてゆき、単行本にする時に全篇す …
パァル・バックの作風その他(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
中国という国へ、イギリスやアメリカの婦人宣教師が行って、そこで生活するようになってから、何十年の年月が経ったであろう。それらの婦人たちは、それぞれの歴史的な時期で中国の男女の生活を …
読書目安時間:約9分
中国という国へ、イギリスやアメリカの婦人宣教師が行って、そこで生活するようになってから、何十年の年月が経ったであろう。それらの婦人たちは、それぞれの歴史的な時期で中国の男女の生活を …
廃したい弊風と永続させたい美風(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、人間があまり太平すぎて、独占的であり、自己中心であったことから生じた種々のこと、例ば贅沢を高貴と考え違えたような多くの事実を以後繰返したくないと思います。 二、本当に人間の小怜 …
読書目安時間:約1分
一、人間があまり太平すぎて、独占的であり、自己中心であったことから生じた種々のこと、例ば贅沢を高貴と考え違えたような多くの事実を以後繰返したくないと思います。 二、本当に人間の小怜 …
胚胎(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
時代 中古、A.D. 十一世紀頃——A.D. 1077—A.D. 1095 人物 グレゴリオ七世ローマ法王 ヘンリー四世ドイツ帝 老人ヘンリー四世の守役を勤めた人九十以上の年になっ …
読書目安時間:約55分
時代 中古、A.D. 十一世紀頃——A.D. 1077—A.D. 1095 人物 グレゴリオ七世ローマ法王 ヘンリー四世ドイツ帝 老人ヘンリー四世の守役を勤めた人九十以上の年になっ …
「敗北の文学」について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一、伸子は段々ひきつけられた、 p.9「プロレタリアートは時代の先端を壮烈な情熱をもって進んでいる、しかも我々の前には過渡期の影が尚巨体をよこたえている」 一章一章が、青年らしい丹 …
読書目安時間:約2分
一、伸子は段々ひきつけられた、 p.9「プロレタリアートは時代の先端を壮烈な情熱をもって進んでいる、しかも我々の前には過渡期の影が尚巨体をよこたえている」 一章一章が、青年らしい丹 …
俳優生活について(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
芝居について大変よく知っている作家があり、そういう人々は舞台をよくみているし、俳優の一人一人についてもゆきとどいて理解している。わたしは、それとは反対の作家の一人であると云えよう。 …
読書目安時間:約7分
芝居について大変よく知っている作家があり、そういう人々は舞台をよくみているし、俳優の一人一人についてもゆきとどいて理解している。わたしは、それとは反対の作家の一人であると云えよう。 …
蠅(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
梅雨にはひろいものの晴れ上った天気である。俄にかっと照りつけられ数日の霖雨がしみこんだ地面から眩ゆく陽炎(かげろう)がもえている。源一は、茶の間に腹這いになって新聞をよんでいた。台 …
読書目安時間:約7分
梅雨にはひろいものの晴れ上った天気である。俄にかっと照りつけられ数日の霖雨がしみこんだ地面から眩ゆく陽炎(かげろう)がもえている。源一は、茶の間に腹這いになって新聞をよんでいた。台 …
墓(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
幾枝はすっかり体を二重に曲げ、右の肱を膝にかって、良人の鼻の上に酸素吸入のカップを当てがっていた。病床の裾近いところに、行燈形のスタンドがともっている。その光りで、羽根布団の茶と緑 …
読書目安時間:約10分
幾枝はすっかり体を二重に曲げ、右の肱を膝にかって、良人の鼻の上に酸素吸入のカップを当てがっていた。病床の裾近いところに、行燈形のスタンドがともっている。その光りで、羽根布団の茶と緑 …
博覧会見物の印象(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
まだ第二会場を一遍通り抜けただけなのでよく分りません。建物から云っては、決して感じよい建築とは思えません。モダーンなのはよいが、もう少し、外国雑誌の写真の、皮相的模倣以外に出られな …
読書目安時間:約1分
まだ第二会場を一遍通り抜けただけなのでよく分りません。建物から云っては、決して感じよい建築とは思えません。モダーンなのはよいが、もう少し、外国雑誌の写真の、皮相的模倣以外に出られな …
はしがき(『女靴の跡』)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
一九三三年ごろから最近までの十二、三年の間日本の文学者たちの経験したさまざまの苦しい境遇は、ほんとうに日本の全人民の辛苦と共通なものであった。みんなが、自分の思うこと、正しいと信じ …
読書目安時間:約2分
一九三三年ごろから最近までの十二、三年の間日本の文学者たちの経験したさまざまの苦しい境遇は、ほんとうに日本の全人民の辛苦と共通なものであった。みんなが、自分の思うこと、正しいと信じ …
はしがき(『十二年の手紙』その一)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この往復書簡集三巻におさめられている宮本顕治・宮本百合子の手紙は、一九三四年十二月から一九四五年八月十五日、日本の無条件降伏後、治安維持法が撤廃されて、十月十日網走刑務所から顕治が …
読書目安時間:約1分
この往復書簡集三巻におさめられている宮本顕治・宮本百合子の手紙は、一九三四年十二月から一九四五年八月十五日、日本の無条件降伏後、治安維持法が撤廃されて、十月十日網走刑務所から顕治が …
はしがき(『文芸評論集』)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この文芸評論集には、ごく最近に書かれた数篇と、いくらかさかのぼって一九四五年の十二月ごろから書かれた数篇とがあつめられている。おしまいに別に収録されているバルザック、ジイドに関した …
読書目安時間:約4分
この文芸評論集には、ごく最近に書かれた数篇と、いくらかさかのぼって一九四五年の十二月ごろから書かれた数篇とがあつめられている。おしまいに別に収録されているバルザック、ジイドに関した …
初めて蓄音器を聞いた時とすきなレコオド(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、私が生れて始めて蓄音器と云うものを見聞いたのは、もう十四五年前、父が英国から土産に買って来たものでした。大きな銀色の朝顔型のラッパ、耳を澄ますと、スースー、スースーと云う針の音 …
読書目安時間:約1分
一、私が生れて始めて蓄音器と云うものを見聞いたのは、もう十四五年前、父が英国から土産に買って来たものでした。大きな銀色の朝顔型のラッパ、耳を澄ますと、スースー、スースーと云う針の音 …
芭蕉について(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
芭蕉の句で忘られないのがいくつかある。 あらたうと青葉若葉の日の光 いざゆかん雪見にころぶところまで 霧時雨不二を見ぬ日ぞおもしろき それから又別な心の境地として、 初しぐれ猿も小 …
読書目安時間:約14分
芭蕉の句で忘られないのがいくつかある。 あらたうと青葉若葉の日の光 いざゆかん雪見にころぶところまで 霧時雨不二を見ぬ日ぞおもしろき それから又別な心の境地として、 初しぐれ猿も小 …
果して女の虚栄心が全部の原因か?(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
夫人の虚栄心から出入りの軍需工業会社員から金銭を収受し、ついに夫の地位と名誉にまで累を及ぼした植村中将の事件についていって見たい。 こういう事件はやはり昨今の一部にかたよった景気に …
読書目安時間:約1分
夫人の虚栄心から出入りの軍需工業会社員から金銭を収受し、ついに夫の地位と名誉にまで累を及ぼした植村中将の事件についていって見たい。 こういう事件はやはり昨今の一部にかたよった景気に …
働くために(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
この頃は日本の女の服装について、簡単であること、働きよいこと、金をかけないことがどこででも云われている。大変着物に凝っている人たちが、昨今はそれらを又新しい工夫の条件にとりいれて違 …
読書目安時間:約8分
この頃は日本の女の服装について、簡単であること、働きよいこと、金をかけないことがどこででも云われている。大変着物に凝っている人たちが、昨今はそれらを又新しい工夫の条件にとりいれて違 …
働く婦人(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この頃は、女のひと、という響につれて、すぐに人の心に何かの意味で、働いている女のひとという感じが浮ぶようになって来ていると思う。その点では、家庭の女というものの感じかたも自他ともに …
読書目安時間:約9分
この頃は、女のひと、という響につれて、すぐに人の心に何かの意味で、働いている女のひとという感じが浮ぶようになって来ていると思う。その点では、家庭の女というものの感じかたも自他ともに …
働く婦人の新しい年(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
来年という声は、今日の日本のみんなに独特の感じを与えながら迫ってきた。きょうの生活の推しすすめとして今年の暮を考える心、さて来年は、と思う心、それは私たち日本の女にとって、これまで …
読書目安時間:約18分
来年という声は、今日の日本のみんなに独特の感じを与えながら迫ってきた。きょうの生活の推しすすめとして今年の暮を考える心、さて来年は、と思う心、それは私たち日本の女にとって、これまで …
働く婦人の歌声(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今日いろいろの職場に働いている若い婦人たちはただ自分たちがそうやって毎日勤めに出て働いているということにだけ誇りを感じているような単純な心で社会を見てはいない。 勤勉なこれらの女性 …
読書目安時間:約4分
今日いろいろの職場に働いている若い婦人たちはただ自分たちがそうやって毎日勤めに出て働いているということにだけ誇りを感じているような単純な心で社会を見てはいない。 勤勉なこれらの女性 …
働く婦人の結婚と恋愛(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ソヴェト・ロシアでは、結婚にしても離婚にしてもとても自由です。自由と云っても、ブルジョア的な自由ではない。子供に対しては、勿論、お互に責任を持たねばなりません。 私たちの結婚は、結 …
読書目安時間:約2分
ソヴェト・ロシアでは、結婚にしても離婚にしてもとても自由です。自由と云っても、ブルジョア的な自由ではない。子供に対しては、勿論、お互に責任を持たねばなりません。 私たちの結婚は、結 …
働く婦人の結婚について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
働いている婦人は、そういう生活につかれているところもあって、結婚したら家に落付き余り苦労したくなく思うのもわかりますが、実際にはその人と心持が合えば、共稼ぎで辛棒してゆく生活態度で …
読書目安時間:約1分
働いている婦人は、そういう生活につかれているところもあって、結婚したら家に落付き余り苦労したくなく思うのもわかりますが、実際にはその人と心持が合えば、共稼ぎで辛棒してゆく生活態度で …
発刊の言葉(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
町の本屋の店さきを見ると、ハデな表紙の婦人雑誌が山ほどつまれています。どの一冊を手にとりあげてみても、まず美しく着飾った若い女の写真がのっているか、さもなくば、どうしたら美しく化粧 …
読書目安時間:約3分
町の本屋の店さきを見ると、ハデな表紙の婦人雑誌が山ほどつまれています。どの一冊を手にとりあげてみても、まず美しく着飾った若い女の写真がのっているか、さもなくば、どうしたら美しく化粧 …
花、土地、人(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
今、奈良から帰ったばかりなので、印象の新らしい故か、第一番に此処が頭に浮びました。 (二)朴の木の花。鉄砲百合。フリージア。真白いものか、暗いほど濃い紅の花などがすきです。段々に変 …
読書目安時間:約1分
今、奈良から帰ったばかりなので、印象の新らしい故か、第一番に此処が頭に浮びました。 (二)朴の木の花。鉄砲百合。フリージア。真白いものか、暗いほど濃い紅の花などがすきです。段々に変 …
花のたより(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が …
読書目安時間:約13分
シルビア・シドニーが一人二役を見せどころとして主演した「三日姫君」という映画があった。外債募集のためアメリカへやって来た何とかいう世界地図にものっていないような弱小国の麗わしい姫が …
母(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
この六月十三日に、母は五十九歳でその一生を終った。正月の末から私は不自由な境遇におかれていて、母の臨終には僅かに最後の十五分間で間に合う様であった。母は、私を待って、その時まで終る …
読書目安時間:約16分
この六月十三日に、母は五十九歳でその一生を終った。正月の末から私は不自由な境遇におかれていて、母の臨終には僅かに最後の十五分間で間に合う様であった。母は、私を待って、その時まで終る …
「母の膝の上に」(紹介並短評)(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
結婚——妻としての生活を有する女性、又は母として家庭生活の必然を持つ女性と職業との関係は、理想に於て如何あるべきか。 現状はどうであるか、と云う問題は、私共女性にとって、更に直接な …
読書目安時間:約22分
結婚——妻としての生活を有する女性、又は母として家庭生活の必然を持つ女性と職業との関係は、理想に於て如何あるべきか。 現状はどうであるか、と云う問題は、私共女性にとって、更に直接な …
春(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
硝子戸に不思議に縁がある。この間まで借りていた二階の部屋は東が二間、四枚の素通し硝子であった。朝日が早くさし込む。空が雑木の梢を泛べて広く見渡せ、枝々の間から遙に美しく緑青をふいた …
読書目安時間:約7分
硝子戸に不思議に縁がある。この間まで借りていた二階の部屋は東が二間、四枚の素通し硝子であった。朝日が早くさし込む。空が雑木の梢を泛べて広く見渡せ、枝々の間から遙に美しく緑青をふいた …
はるかな道:「くれない」について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今わたしの机の上に二冊の本が置かれている。一冊は最近中央公論社から出版された窪川稲子の初めての長篇小説と云うべき「くれない」である。もう一冊は、これもごく近く白水社から出た「キュリ …
読書目安時間:約4分
今わたしの机の上に二冊の本が置かれている。一冊は最近中央公論社から出版された窪川稲子の初めての長篇小説と云うべき「くれない」である。もう一冊は、これもごく近く白水社から出た「キュリ …
バルザック(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「幻滅」より。又それからの連想 ○二人の友は未来に輝く二人の運命を全くごっちゃにして考えていた。 よしや輝やかないにしろ、そういうことはある。 十三年執筆の出来なかったとき自分もの …
読書目安時間:約6分
「幻滅」より。又それからの連想 ○二人の友は未来に輝く二人の運命を全くごっちゃにして考えていた。 よしや輝やかないにしろ、そういうことはある。 十三年執筆の出来なかったとき自分もの …
バルザックに対する評価(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間4分
偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯と …
読書目安時間:約1時間4分
偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯と …
バルザックについてのノート(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
バルザックの小説 バルザックの世界において、性格は寧ろ単純である。強烈ではあるが、各々がタイプとして凝固されている。その性格の中にとじこめられている。むしろきゅうくつに存在している …
読書目安時間:約9分
バルザックの小説 バルザックの世界において、性格は寧ろ単純である。強烈ではあるが、各々がタイプとして凝固されている。その性格の中にとじこめられている。むしろきゅうくつに存在している …
春遠し(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
総選挙はひとまず終った。 気づかわれていた婦人の棄権も案外にすくなく、棄権は全国平均して二割七分七厘。婦人候補者の四割八分は当選して二十八歳から六十六歳まで三十九名の婦人代議士が当 …
読書目安時間:約7分
総選挙はひとまず終った。 気づかわれていた婦人の棄権も案外にすくなく、棄権は全国平均して二割七分七厘。婦人候補者の四割八分は当選して二十八歳から六十六歳まで三十九名の婦人代議士が当 …
反宗教運動とは?:質問に答えて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
宗教が何処の国でも、その支配階級の道具として使われていることは、難かしい色々の理屈をいわないでも、吾々の日常生活の中にはっきり現れていると思います。 この間も、ラジオの昼間放送を聞 …
読書目安時間:約3分
宗教が何処の国でも、その支配階級の道具として使われていることは、難かしい色々の理屈をいわないでも、吾々の日常生活の中にはっきり現れていると思います。 この間も、ラジオの昼間放送を聞 …
播州平野(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間35分
一九四五年八月十五日の日暮れ、妻の小枝が、古びた柱時計の懸っている茶の間の台の上に、大家内の夕飯の皿をならべながら、 「父さん、どうしましょう」 ときいた。 「電気、今夜はもういい …
読書目安時間:約3時間35分
一九四五年八月十五日の日暮れ、妻の小枝が、古びた柱時計の懸っている茶の間の台の上に、大家内の夕飯の皿をならべながら、 「父さん、どうしましょう」 ときいた。 「電気、今夜はもういい …
「播州平野」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
┌細君、小枝 │七歳の伸一 ┌富井行雄┤四つの健吉 ││百姓与田初五郎 │└酒井「五兵衛さん」 │石田重吉┐直次つや子 └ひろ子└進三 〔欄外に〕 坂上夫妻友人の家 ┌──┐ 九月 …
読書目安時間:約1分
┌細君、小枝 │七歳の伸一 ┌富井行雄┤四つの健吉 ││百姓与田初五郎 │└酒井「五兵衛さん」 │石田重吉┐直次つや子 └ひろ子└進三 〔欄外に〕 坂上夫妻友人の家 ┌──┐ 九月 …
反動ジャーナリズムのチェーン・ストア:森鶴子君に答える(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ブルジュア・ジャーナリズムで行われるいろいろの懸賞募集の選は、いつも必ずブルジュア・ジャーナリズムの利害の見地でやられる。 当選した文章が、だから、いつもその時応募した数百のものの …
読書目安時間:約5分
ブルジュア・ジャーナリズムで行われるいろいろの懸賞募集の選は、いつも必ずブルジュア・ジャーナリズムの利害の見地でやられる。 当選した文章が、だから、いつもその時応募した数百のものの …
犯人(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
国鉄のクビキリが人々の注目をあつめはじめると同時に、列車妨害の記事が毎日、新聞へ出るようになった。九州ではトンネルの入口にダイナマイトをしかけた者さえあった。 そしてそれらの新聞記 …
読書目安時間:約4分
国鉄のクビキリが人々の注目をあつめはじめると同時に、列車妨害の記事が毎日、新聞へ出るようになった。九州ではトンネルの入口にダイナマイトをしかけた者さえあった。 そしてそれらの新聞記 …
光のない朝(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
おもんが、監督の黒い制服を着、脊柱が見えそうに痩せさらぼいた肩をかがめて入って来ると、どんな野蛮な悪戯(いたずら)好きの女工も、我知らずお喋りの声を止めてひっそりとなった。 年齢の …
読書目安時間:約11分
おもんが、監督の黒い制服を着、脊柱が見えそうに痩せさらぼいた肩をかがめて入って来ると、どんな野蛮な悪戯(いたずら)好きの女工も、我知らずお喋りの声を止めてひっそりとなった。 年齢の …
飛行機の下の村(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
旧佐倉街道を横に切れると習志野に連る一帯の大雑木林だ。赤土の開墾道を多勢の男連が出てシャベルやスコップで道路工事をやっている。×村から野菜を○○へ運び出すのに、道はここ一つだ。それ …
読書目安時間:約5分
旧佐倉街道を横に切れると習志野に連る一帯の大雑木林だ。赤土の開墾道を多勢の男連が出てシャベルやスコップで道路工事をやっている。×村から野菜を○○へ運び出すのに、道はここ一つだ。それ …
ひしがれた女性と語る:近頃思った事(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
最近、計らずも身辺近く見た或る婦人の境遇が、自分に種々の事を考えさせました。 その婦人と云うのは、もう四十歳を幾つか越した年配でした。けれども、少女時代から、決して幸福な生活のみを …
読書目安時間:約12分
最近、計らずも身辺近く見た或る婦人の境遇が、自分に種々の事を考えさせました。 その婦人と云うのは、もう四十歳を幾つか越した年配でした。けれども、少女時代から、決して幸福な生活のみを …
『美術運動』への答え(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一、長い病気をしていて、どの展覧会もみられずにおります。残念ながら、この項お答えできません。 二、美術の上でのリアリズムの問題は、創作の具体的な経験の中でどのように展開されてきてい …
読書目安時間:約1分
一、長い病気をしていて、どの展覧会もみられずにおります。残念ながら、この項お答えできません。 二、美術の上でのリアリズムの問題は、創作の具体的な経験の中でどのように展開されてきてい …
ピッチの様に(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「どうもめっきりよわったもんだ」 男は枯木の様に血の色もなく、力もなく、只かすかに、自分の足と云うだけの感じは有る二本の足をつめながら一人ごとを云う。 のびのびとした、ねぼけたよう …
読書目安時間:約2分
「どうもめっきりよわったもんだ」 男は枯木の様に血の色もなく、力もなく、只かすかに、自分の足と云うだけの感じは有る二本の足をつめながら一人ごとを云う。 のびのびとした、ねぼけたよう …
ひとごとではない:ソヴェト勤労婦人の現状(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ヨーロッパ戦争後、世界に婦人労働者の数は非常にふえた。 日本では、男の労働者のほとんど半分の数だけの労働婦人がいる。それがどんな賃銀で働かされているかと云えば、誰よりも、読者自身が …
読書目安時間:約5分
ヨーロッパ戦争後、世界に婦人労働者の数は非常にふえた。 日本では、男の労働者のほとんど半分の数だけの労働婦人がいる。それがどんな賃銀で働かされているかと云えば、誰よりも、読者自身が …
一条の縄(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
月の冴えた十一月の或る夜である。 二羽の鴨が、田の畔をたどりたどり餌を漁って居る。 収獲を終った水田の広い面には、茶筅の様な稲の切り株がゾクゾク並んで、乾き切って凍て付いた所々には …
読書目安時間:約11分
月の冴えた十一月の或る夜である。 二羽の鴨が、田の畔をたどりたどり餌を漁って居る。 収獲を終った水田の広い面には、茶筅の様な稲の切り株がゾクゾク並んで、乾き切って凍て付いた所々には …
一つの感想(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
大体私は芝居の方へは御無沙汰がちで、素人としても大素人の方ですが、先だって久しぶりに「群盗」と「昆虫記」を観て、非常にいろいろ感銘を受けました。たくさんの疑問を感じました。前後して …
読書目安時間:約7分
大体私は芝居の方へは御無沙汰がちで、素人としても大素人の方ですが、先だって久しぶりに「群盗」と「昆虫記」を観て、非常にいろいろ感銘を受けました。たくさんの疑問を感じました。前後して …
一つの出来事(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
二階の夫婦が、貸間ありという札を出した。これは決して珍らしいことではない。この湖畔の小村では、夏になると附近の都会から多勢の避暑客が家族連れで来るので、大抵の家は二間三間宛よぶんな …
読書目安時間:約22分
二階の夫婦が、貸間ありという札を出した。これは決して珍らしいことではない。この湖畔の小村では、夏になると附近の都会から多勢の避暑客が家族連れで来るので、大抵の家は二間三間宛よぶんな …
一つの灯:私の書いた頃(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
学徒動員ということがはじまって学生が戦線にかり立てられはじめたころ、日本のファシズム権力は、そういう立場に立たされた若い人々自身およびその周囲の理性人の思索なり感情なり批判なりを公 …
読書目安時間:約1分
学徒動員ということがはじまって学生が戦線にかり立てられはじめたころ、日本のファシズム権力は、そういう立場に立たされた若い人々自身およびその周囲の理性人の思索なり感情なり批判なりを公 …
一つの芽生(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
この一篇を我が亡弟に捧ぐもう四五日経つと、父のおともをして私も珍らしく札幌へ行くことになっていたので、九月が末になると、家中の者が寄り集って夕飯後を、賑(にぎ)やかに喋り合うのが毎 …
読書目安時間:約30分
この一篇を我が亡弟に捧ぐもう四五日経つと、父のおともをして私も珍らしく札幌へ行くことになっていたので、九月が末になると、家中の者が寄り集って夕飯後を、賑(にぎ)やかに喋り合うのが毎 …
一粒の粟(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
○ 或る芝生に、美くしく彩色をした太鼓が一つ転っていた。子供が撥を取りに彼方へ行っている間、太鼓は暖い日にぬくまりながら、自分の美くしさと大きさとを自慢していた。 すると丁度その時 …
読書目安時間:約7分
○ 或る芝生に、美くしく彩色をした太鼓が一つ転っていた。子供が撥を取りに彼方へ行っている間、太鼓は暖い日にぬくまりながら、自分の美くしさと大きさとを自慢していた。 すると丁度その時 …
ひととき(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
はるかな森の梢に波立って居るうす紅い夕栄の雲の峯を見入りながら、私は花園の入口の柱によりかかって居る。 何となく朝から霧の晴れ切れない様な日だったので、非常に静寂な夕暮である。 う …
読書目安時間:約7分
はるかな森の梢に波立って居るうす紅い夕栄の雲の峯を見入りながら、私は花園の入口の柱によりかかって居る。 何となく朝から霧の晴れ切れない様な日だったので、非常に静寂な夕暮である。 う …
ひな勇はん(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
いつでも黒い被衣を着て切下げて居た祖母と京都に行って居たのは丁度六月末池の水草に白い豆の様な花のポツリポツリと見え始める頃から紫陽花のあせる頃までで私にはかなり長い旅であった。祖母 …
読書目安時間:約25分
いつでも黒い被衣を着て切下げて居た祖母と京都に行って居たのは丁度六月末池の水草に白い豆の様な花のポツリポツリと見え始める頃から紫陽花のあせる頃までで私にはかなり長い旅であった。祖母 …
火のついた踵(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
人物 奥平振一郎統計学者(三十歳) みさ子振一郎の妻(十八歳) 橋詰英一みさ子の従兄(二十四歳) 谷三郎英一、みさ子の友人(同) 吉沢朝子(登場せず)みさ子の友達(十九歳) 女中き …
読書目安時間:約34分
人物 奥平振一郎統計学者(三十歳) みさ子振一郎の妻(十八歳) 橋詰英一みさ子の従兄(二十四歳) 谷三郎英一、みさ子の友人(同) 吉沢朝子(登場せず)みさ子の友達(十九歳) 女中き …
日は輝けり(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間32分
K商店の若い者達の部屋は、今夜も相変らず賑やかである。まぶしいほど明るい電燈の下に、輝やいた幾つもの顔が、彼等同志の符牒のようになっているあだ名や略語を使って、しきりに噂の花を咲か …
読書目安時間:約2時間32分
K商店の若い者達の部屋は、今夜も相変らず賑やかである。まぶしいほど明るい電燈の下に、輝やいた幾つもの顔が、彼等同志の符牒のようになっているあだ名や略語を使って、しきりに噂の花を咲か …
日々の映り(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
魚屋だの屑金買入れ屋のごたついた店だののある横丁から、新しく開通した電車通りへ出てみると、その大通りはいかにも一昨日電車がとおりはじめたばかりのところらしく、広くしん閑としていて、 …
読書目安時間:約17分
魚屋だの屑金買入れ屋のごたついた店だののある横丁から、新しく開通した電車通りへ出てみると、その大通りはいかにも一昨日電車がとおりはじめたばかりのところらしく、広くしん閑としていて、 …
批評は解放の組織者である(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
多喜二的みがまえということがいわれるとき、あの激しい弾圧の中で多喜二がひどくいびられ最後には殺されてしまったあのいさましい犠牲的な身がまえを要求されるように感じて、それを拒否しよう …
読書目安時間:約2分
多喜二的みがまえということがいわれるとき、あの激しい弾圧の中で多喜二がひどくいびられ最後には殺されてしまったあのいさましい犠牲的な身がまえを要求されるように感じて、それを拒否しよう …
微妙な人間的交錯:雑誌ジャーナリズムの理想性と現実性(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
今日の雑誌ジャーナリズムは、大ざっぱにだけ眺めわたすと満目悉く所謂事変ものの氾濫である。すべての雑誌の表紙は刺戟的なグラビア版で赤や黒のフラッシュのついた文字で彩られているようなの …
読書目安時間:約5分
今日の雑誌ジャーナリズムは、大ざっぱにだけ眺めわたすと満目悉く所謂事変ものの氾濫である。すべての雑誌の表紙は刺戟的なグラビア版で赤や黒のフラッシュのついた文字で彩られているようなの …
ピムキン、でかした!(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
ピムキンはパルチザンだった。——これは嘘じゃないだろう。 緑や黄色のパルチザンじゃあなく、正真正銘赤のパルチザンだった。——これも嘘じゃないだろう。 九十七戸あるビリンスキー村のま …
読書目安時間:約36分
ピムキンはパルチザンだった。——これは嘘じゃないだろう。 緑や黄色のパルチザンじゃあなく、正真正銘赤のパルチザンだった。——これも嘘じゃないだろう。 九十七戸あるビリンスキー村のま …
百銭(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
或る洋画家のところへ、来月お金が入ることになった。ふだんその人は真面目に勉強しているのだが、或る理由からお金がちっともとれず、一緒に暮している女のひとと生活する必要のためには、夜、 …
読書目安時間:約6分
或る洋画家のところへ、来月お金が入ることになった。ふだんその人は真面目に勉強しているのだが、或る理由からお金がちっともとれず、一緒に暮している女のひとと生活する必要のためには、夜、 …
百花園(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
紫苑が咲き乱れている。 小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百 …
読書目安時間:約4分
紫苑が咲き乱れている。 小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百 …
ヒューマニズムの諸相(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
日本にヒューマニズムのことが言われはじめたのは、この一二年来のことであり、主としてフランスの今日の文学を支配している活動的なヒューマニズムの影響を受けたものであった。一九三二年以来 …
読書目安時間:約6分
日本にヒューマニズムのことが言われはじめたのは、この一二年来のことであり、主としてフランスの今日の文学を支配している活動的なヒューマニズムの影響を受けたものであった。一九三二年以来 …
ヒューマニズムへの道:文芸時評(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
加賀耿二氏の「希望館」という小説が三月号の『中央公論』に載っている。 僧侶によって経営される思想犯保護施設である希望館の内部生活の描写とその屈辱と汚穢に堪えきれなかった仙三という主 …
読書目安時間:約25分
加賀耿二氏の「希望館」という小説が三月号の『中央公論』に載っている。 僧侶によって経営される思想犯保護施設である希望館の内部生活の描写とその屈辱と汚穢に堪えきれなかった仙三という主 …
病菌とたたかう人々(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
いまはもう鹿児島県に入らない土地となった奄美大島の徳之島という島から十二歳の少女が収容船にのって国立癩療養所星塚敬愛園にはいって来た。十歳のとき発病して、小学校の尋常四年までしかい …
読書目安時間:約4分
いまはもう鹿児島県に入らない土地となった奄美大島の徳之島という島から十二歳の少女が収容船にのって国立癩療養所星塚敬愛園にはいって来た。十歳のとき発病して、小学校の尋常四年までしかい …
表現(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は映画がすきなくせにいつも野暮ったい観かたばかりしているのだけれど、さきごろの「カッスル夫妻」でも、いろいろの印象をのこされた。アステアのカッスルが、初め喜劇役者として稼いでいる …
読書目安時間:約4分
私は映画がすきなくせにいつも野暮ったい観かたばかりしているのだけれど、さきごろの「カッスル夫妻」でも、いろいろの印象をのこされた。アステアのカッスルが、初め喜劇役者として稼いでいる …
拡がる視野:今日の婦人作家(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
最近の二年ほどの間に、婦人作家の活動はかなり活溌にあらわれた。 それにはいろいろ複雑な理由があると思うけれども、第一には、過去十年ほどの間多くの困難を経験しながらそれでも文学はすて …
読書目安時間:約3分
最近の二年ほどの間に、婦人作家の活動はかなり活溌にあらわれた。 それにはいろいろ複雑な理由があると思うけれども、第一には、過去十年ほどの間多くの困難を経験しながらそれでも文学はすて …
「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ジョン・ハーシーの「ヒロシマ」と「アダノの鐘」は、日本の読者にもひろくよまれた。そして、ハーシーの作品ににじんでいる人間性に感銘されたという読後感が一致した。「ヒロシマ」は全く記録 …
読書目安時間:約5分
ジョン・ハーシーの「ヒロシマ」と「アダノの鐘」は、日本の読者にもひろくよまれた。そして、ハーシーの作品ににじんでいる人間性に感銘されたという読後感が一致した。「ヒロシマ」は全く記録 …
広場(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
大階段を降り切った右手のちょっと凹んだようなところで預けてあった書附をかえして貰うと、更に六つ七つの段々からウラル大理石を張った広間へぬけ、大きい重いガラス扉を体で押して外へ出た。 …
読書目安時間:約32分
大階段を降り切った右手のちょっと凹んだようなところで預けてあった書附をかえして貰うと、更に六つ七つの段々からウラル大理石を張った広間へぬけ、大きい重いガラス扉を体で押して外へ出た。 …
「広場」について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「広場」は、一九三九年十二月にかかれた。同じ時に「おもかげ」という短篇がかかれていて、ある意味で連作の形をとった。前の年(昭和十三年)一年と、この年の半ば頃まで作品の発表が禁じられ …
読書目安時間:約2分
「広場」は、一九三九年十二月にかかれた。同じ時に「おもかげ」という短篇がかかれていて、ある意味で連作の形をとった。前の年(昭和十三年)一年と、この年の半ば頃まで作品の発表が禁じられ …
便乗の図絵(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
便乗ということばが、わたしたちの日常にあらわれたのはいつごろからのことだったろうか。 日本の天皇制権力が満州・中国と侵略をすすめて、世間の輿論も、議会の討論も邪魔と考えはじめてから …
読書目安時間:約20分
便乗ということばが、わたしたちの日常にあらわれたのはいつごろからのことだったろうか。 日本の天皇制権力が満州・中国と侵略をすすめて、世間の輿論も、議会の討論も邪魔と考えはじめてから …
ファシズムは生きている(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
林米子さんへ。 お手紙ありがとう。十二月二十五日の晩は、かえりにおつれがあったから助かりましたが、本郷の通りで、走っていたバスが急停車したとき、ステップのわきの金棒につかまって立っ …
読書目安時間:約9分
林米子さんへ。 お手紙ありがとう。十二月二十五日の晩は、かえりにおつれがあったから助かりましたが、本郷の通りで、走っていたバスが急停車したとき、ステップのわきの金棒につかまって立っ …
風俗の感受性:現代風俗の解剖(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
人類の歴史が、民族の移動やそれぞれの社会形成の過程に従って、各世紀に特徴的な風俗をもって今日まで来ていることは、誰にしろよく知っている。歴史を縦に切った一つの世紀の中でも、地球を横 …
読書目安時間:約6分
人類の歴史が、民族の移動やそれぞれの社会形成の過程に従って、各世紀に特徴的な風俗をもって今日まで来ていることは、誰にしろよく知っている。歴史を縦に切った一つの世紀の中でも、地球を横 …
風知草(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間29分
大きな実験用テーブルの上には、大小無数の試験管、ガラス棒のつっこまれたままのビーカア。フラスコ。大さの順に並んだふたつきのガラス容器などがのせられている。何という名か、そして何に使 …
読書目安時間:約1時間29分
大きな実験用テーブルの上には、大小無数の試験管、ガラス棒のつっこまれたままのビーカア。フラスコ。大さの順に並んだふたつきのガラス容器などがのせられている。何という名か、そして何に使 …
「風知草」創作メモ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
重吉 ひろ子 富井 行雄 伸一健吉 小枝 永田弁護士村上さん(鈴) 清瀬さん(近山代弁護士│ │上野駅│吉岡(佐) │事務所十三日十四日 電報 海よ早くしずまれ。 〔欄外にあらゆる …
読書目安時間:約1分
重吉 ひろ子 富井 行雄 伸一健吉 小枝 永田弁護士村上さん(鈴) 清瀬さん(近山代弁護士│ │上野駅│吉岡(佐) │事務所十三日十四日 電報 海よ早くしずまれ。 〔欄外にあらゆる …
夫婦が作家である場合(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
よほど以前のことになるが田村俊子氏の小説で、二人とも小説をかくことを仕事としている夫婦の生活があつかわれているものがあった。筋や、そのほかのことについてはもう思い出せないのであるが …
読書目安時間:約8分
よほど以前のことになるが田村俊子氏の小説で、二人とも小説をかくことを仕事としている夫婦の生活があつかわれているものがあった。筋や、そのほかのことについてはもう思い出せないのであるが …
フェア・プレイの悲喜(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私の不幸というものについて書くように云われると、何となし当惑したような咄嗟の心持になるのは、私ひとりのことだろうか。世間で、不幸という言葉に対して幸福という形容で云われている、そう …
読書目安時間:約3分
私の不幸というものについて書くように云われると、何となし当惑したような咄嗟の心持になるのは、私ひとりのことだろうか。世間で、不幸という言葉に対して幸福という形容で云われている、そう …
深く静に各自の路を見出せ(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
静に考えて見ると、我々人類の生活に於ては、既に両性の差別と、その間に性的交渉の存する限り、種々な結婚生活の破綻や恋愛の難問題が起って来るのは、已むを得ない事実ではあるまいかと思う。 …
読書目安時間:約8分
静に考えて見ると、我々人類の生活に於ては、既に両性の差別と、その間に性的交渉の存する限り、種々な結婚生活の破綻や恋愛の難問題が起って来るのは、已むを得ない事実ではあるまいかと思う。 …
藤棚(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あちこちに廃墟が出来てから、東京という都会の眺望は随分かわった。小石川の白山から、坂の上にたって、鶏声ケ窪の谷間をみわたすと、段々と低くなってゆく地勢とそこに高低をもって梢を見せて …
読書目安時間:約4分
あちこちに廃墟が出来てから、東京という都会の眺望は随分かわった。小石川の白山から、坂の上にたって、鶏声ケ窪の谷間をみわたすと、段々と低くなってゆく地勢とそこに高低をもって梢を見せて …
婦人作家(新字新仮名)
読書目安時間:約58分
黎明(一八六〇—一九〇〇) 一八六八年、フランス資本主義に後援されていた徳川幕府の最後の抵抗がやぶれた。そして翌一八六九年、日本全土にしかれていた封建的統一はそのままとして、その上 …
読書目安時間:約58分
黎明(一八六〇—一九〇〇) 一八六八年、フランス資本主義に後援されていた徳川幕府の最後の抵抗がやぶれた。そして翌一八六九年、日本全土にしかれていた封建的統一はそのままとして、その上 …
婦人作家の今日(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
最近日本の婦人作家は、作家的経験が蓄積されて来たという関係もあって、いわば一人一人が一本立ちになり、一応婦人の自主性がこの社会で高められたようでもあるが、その蕊にふれて観察した場合 …
読書目安時間:約2分
最近日本の婦人作家は、作家的経験が蓄積されて来たという関係もあって、いわば一人一人が一本立ちになり、一応婦人の自主性がこの社会で高められたようでもあるが、その蕊にふれて観察した場合 …
婦人作家の「不振」とその社会的原因(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
婦人作家が振わないと云うことがよく言われますね。之は女の特性によるものか、つまり女に天性その能力がないせいなのか、それとも他の条件によるものなのか。 婦人作家「不振」の声は今更のこ …
読書目安時間:約5分
婦人作家が振わないと云うことがよく言われますね。之は女の特性によるものか、つまり女に天性その能力がないせいなのか、それとも他の条件によるものなのか。 婦人作家「不振」の声は今更のこ …
婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
父を殺している ○ 作者は巧妙な(しかし)極めて平俗な理由で息子の父を母の生活から切りはなし、父と母との矛盾をこの作において避けている。母は息子との間に矛盾を感じるばかりでなく、現 …
読書目安時間:約4分
父を殺している ○ 作者は巧妙な(しかし)極めて平俗な理由で息子の父を母の生活から切りはなし、父と母との矛盾をこの作において避けている。母は息子との間に矛盾を感じるばかりでなく、現 …
婦人雑誌の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
まずわれらの『働く婦人』について 日本プロレタリア文化連盟が一九三一年九月に結成されると同時に、出版所は機関誌『プロレタリア文化』のほか、三つの階級的啓蒙大衆雑誌と「グラフ」とを刊 …
読書目安時間:約13分
まずわれらの『働く婦人』について 日本プロレタリア文化連盟が一九三一年九月に結成されると同時に、出版所は機関誌『プロレタリア文化』のほか、三つの階級的啓蒙大衆雑誌と「グラフ」とを刊 …
婦人大会にお集りの皆様へ(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
日本の政府がポツダム宣言を受諾して、平和と民主の新しい人民の社会を日本に建設することを世界に向って約束してから今日まで、まる二年とすこしたちました。 この二年あまりの間に、私たちの …
読書目安時間:約7分
日本の政府がポツダム宣言を受諾して、平和と民主の新しい人民の社会を日本に建設することを世界に向って約束してから今日まで、まる二年とすこしたちました。 この二年あまりの間に、私たちの …
婦人デーとひな祭(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
婦人デーといえば、三月八日と誰でも知っていることではあるが、そのおこりは、どういうところからはじまったのだろう。 婦人デーのきっかけとなった事件は、一九〇四年三月八日ニューヨーク市 …
読書目安時間:約5分
婦人デーといえば、三月八日と誰でも知っていることではあるが、そのおこりは、どういうところからはじまったのだろう。 婦人デーのきっかけとなった事件は、一九〇四年三月八日ニューヨーク市 …
婦人党員の目ざましい活動:エロ班のデマに抗議する(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ブル新が支配階級の道具であって、彼らの利益を守るように記事に事実でないことを書くことは、今度の共産党エロ班などということに実によく現れていると思います。 同じ一つの新聞が、三田土ゴ …
読書目安時間:約2分
ブル新が支配階級の道具であって、彼らの利益を守るように記事に事実でないことを書くことは、今度の共産党エロ班などということに実によく現れていると思います。 同じ一つの新聞が、三田土ゴ …
婦人読者よ通信員になれ:メーデーきたる(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
文学新聞には現在二百六七十人ばかりの通信員がいます。そのうち婦人の通信員は九人です。みなさん、これは実に少いと思いませんか。 日本にはおよそ九十万人の工場に働いている婦人がいます。 …
読書目安時間:約3分
文学新聞には現在二百六七十人ばかりの通信員がいます。そのうち婦人の通信員は九人です。みなさん、これは実に少いと思いませんか。 日本にはおよそ九十万人の工場に働いている婦人がいます。 …
婦人と文学(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間2分
婦人と文学 一、藪の鶯一八八六—九六(明治初期一) 二、「清風徐ろに吹来つて」(明治初期二) 三、短い翼一八九七—一九〇六(明治三十年代) 四、入り乱れた羽搏き一九〇七—一七(明治 …
読書目安時間:約6時間2分
婦人と文学 一、藪の鶯一八八六—九六(明治初期一) 二、「清風徐ろに吹来つて」(明治初期二) 三、短い翼一八九七—一九〇六(明治三十年代) 四、入り乱れた羽搏き一九〇七—一七(明治 …
婦人と文学の話(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
われわれの『文学新聞』が、今度「婦人欄」を特別に設け、そこへ面白いためになる婦人と文学とに関する種々な記事を精力的にのせることになったのは、実にうれしい。プロレタリア文学に、女のプ …
読書目安時間:約3分
われわれの『文学新聞』が、今度「婦人欄」を特別に設け、そこへ面白いためになる婦人と文学とに関する種々な記事を精力的にのせることになったのは、実にうれしい。プロレタリア文学に、女のプ …
婦人の一票(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
四月十日を目の前にひかえて、私たち日本の婦人は、生れて初めて行う選挙というものに対して、平然としていられない気持になっている。婦人が政治に無関心ということは、二、三ヵ月前の事実であ …
読書目安時間:約3分
四月十日を目の前にひかえて、私たち日本の婦人は、生れて初めて行う選挙というものに対して、平然としていられない気持になっている。婦人が政治に無関心ということは、二、三ヵ月前の事実であ …
婦人の生活と文学(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
日本の社会の空気が、いくらかのびのびと各人の心持を表現させるようになってから、一年と少しの時が経った。けれども文学の面に、案外新人の進出が目ざましくない。この事実について、多くの注 …
読書目安時間:約4分
日本の社会の空気が、いくらかのびのびと各人の心持を表現させるようになってから、一年と少しの時が経った。けれども文学の面に、案外新人の進出が目ざましくない。この事実について、多くの注 …
婦人の創造力(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
題は「婦人の創造力」という、何となし難かしそうな題目ですけれども、話の内容はそうぎごちないものでなく、昔から女の人で小説を書いた人があります、そういう人の文学が日本の社会の歴史の中 …
読書目安時間:約32分
題は「婦人の創造力」という、何となし難かしそうな題目ですけれども、話の内容はそうぎごちないものでなく、昔から女の人で小説を書いた人があります、そういう人の文学が日本の社会の歴史の中 …
婦人の読書(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
あらゆる面で婦人の読者がふえてきているのが、この頃の日本のありさまだと思う。二三年来、その率は急に高まっているだろう。出版のインフレーション景気ということがいわれ、書物の氾濫につれ …
読書目安時間:約8分
あらゆる面で婦人の読者がふえてきているのが、この頃の日本のありさまだと思う。二三年来、その率は急に高まっているだろう。出版のインフレーション景気ということがいわれ、書物の氾濫につれ …
婦人の文化的な創造力(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
私たちの毎日の生活の間では、文化という言葉と文明という言葉とがある時には同じ内容をもつ表現のようにつかわれている場合があり、そうかと思うと文化文明と二つの文字を重ねてその間におのず …
読書目安時間:約12分
私たちの毎日の生活の間では、文化という言葉と文明という言葉とがある時には同じ内容をもつ表現のようにつかわれている場合があり、そうかと思うと文化文明と二つの文字を重ねてその間におのず …
婦人の皆さん(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
きょうは、うれしいニュースを、おつたえいたします。私たちの代表として、大町米子さんが立候補されることに決定しました。所属は共産党であります。皆さんよく御承知のとおり、大町米子さんは …
読書目安時間:約2分
きょうは、うれしいニュースを、おつたえいたします。私たちの代表として、大町米子さんが立候補されることに決定しました。所属は共産党であります。皆さんよく御承知のとおり、大町米子さんは …
『婦人文芸』発刊について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
婦人文芸御発刊の由大慶に存じます。私は今ひどく心臓と脚気で動けないので七月一日には失礼いたしますが、心から発刊のおよろこびを申上げます。 〔一九三四年九月〕 …
読書目安時間:約1分
婦人文芸御発刊の由大慶に存じます。私は今ひどく心臓と脚気で動けないので七月一日には失礼いたしますが、心から発刊のおよろこびを申上げます。 〔一九三四年九月〕 …
婦人民主クラブ趣意書(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
これまで、私たち日本の女性は、何と散り散り、ばらばらな暮しかたをして来たことでしょう。戦争の間、官製の婦人団体は、戦争目的を遂げるために、つよい力を発揮してあらゆる婦人を各方面へ動 …
読書目安時間:約3分
これまで、私たち日本の女性は、何と散り散り、ばらばらな暮しかたをして来たことでしょう。戦争の間、官製の婦人団体は、戦争目的を遂げるために、つよい力を発揮してあらゆる婦人を各方面へ動 …
婦人民主クラブについて(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
新しい日本が始ろうとしています。本当にわたしたちの幸福のために、私たち自身が考え、選び行動して行ける時代になりました。一人一人の生活がきりはなされて、うれしい顔を知っているのはその …
読書目安時間:約1分
新しい日本が始ろうとしています。本当にわたしたちの幸福のために、私たち自身が考え、選び行動して行ける時代になりました。一人一人の生活がきりはなされて、うれしい顔を知っているのはその …
二つの家を繋ぐ回想(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
厭だ厭だと思い乍ら、吉祥寺前の家には、一年と四ヵ月程住んだ。あの家でも、いろいろな事に遭遇した。此の家に移ってからも、二月と経たないうちに、上野で平和博覧会が開かれた。続いて又、プ …
読書目安時間:約38分
厭だ厭だと思い乍ら、吉祥寺前の家には、一年と四ヵ月程住んだ。あの家でも、いろいろな事に遭遇した。此の家に移ってからも、二月と経たないうちに、上野で平和博覧会が開かれた。続いて又、プ …
二つの型(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
服装に就いての趣味と云っても、私は着物の通人ではないから、あれがいいとか、こんな色合は悪いとかは云えない。要するに着ているそのひとに合っていればいい。種々変った型、色、等があって差 …
読書目安時間:約2分
服装に就いての趣味と云っても、私は着物の通人ではないから、あれがいいとか、こんな色合は悪いとかは云えない。要するに着ているそのひとに合っていればいい。種々変った型、色、等があって差 …
ふたつの教訓(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
三鷹、松川事件、どちらも労働者階級の闘いの歴史にとってきわめて重大な教訓をしめしていると思います。事件の具体的な内容についてはどちらもすべて明らかになってきています。 私たちが真剣 …
読書目安時間:約3分
三鷹、松川事件、どちらも労働者階級の闘いの歴史にとってきわめて重大な教訓をしめしていると思います。事件の具体的な内容についてはどちらもすべて明らかになってきています。 私たちが真剣 …
二つの態度(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
心中の道行で、あっと云わせたい心持が、毎も毎も定った物許りで詰らない、一つ此でも遣って見よう、と云う場合と、其物語に共鳴し人生に非常に価値ある事件として、見る者を驚歎させようと思っ …
読書目安時間:約1分
心中の道行で、あっと云わせたい心持が、毎も毎も定った物許りで詰らない、一つ此でも遣って見よう、と云う場合と、其物語に共鳴し人生に非常に価値ある事件として、見る者を驚歎させようと思っ …
二つの庭(新字新仮名)
読書目安時間:約6時間34分
隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍を生やしている。そこの竹垣について曲ると、いつになく正面の車庫の戸があけはなされていた。自動車の掃除最中らしいのに、人の姿はなくて、 …
読書目安時間:約6時間34分
隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍を生やしている。そこの竹垣について曲ると、いつになく正面の車庫の戸があけはなされていた。自動車の掃除最中らしいのに、人の姿はなくて、 …
二つの場合(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
先頃、山川氏の『朱実作品集』を、いろいろの点から興味ふかく読んだ。それと前後して窪川いね子の作品集『牡丹のある家』を読んでいたのであったが、私は、全く内容の種類を異にしたこの二つの …
読書目安時間:約4分
先頃、山川氏の『朱実作品集』を、いろいろの点から興味ふかく読んだ。それと前後して窪川いね子の作品集『牡丹のある家』を読んでいたのであったが、私は、全く内容の種類を異にしたこの二つの …
双葉山を手玉にとった“じこう様”について(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
邪教の話はいままで沢山あったけれど、この璽光教の話は非常に面白いと思いました。碁の名人、力よりも技術の相撲とりといわれた呉清源、双葉山が、そろってあやつられていたということは、この …
読書目安時間:約1分
邪教の話はいままで沢山あったけれど、この璽光教の話は非常に面白いと思いました。碁の名人、力よりも技術の相撲とりといわれた呉清源、双葉山が、そろってあやつられていたということは、この …
二人いるとき(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
習慣になっているというだけの丁寧なものごしで、取次いだ若い女は、 「おそれいりますが少々おまち下さいませ」と引下って行った。 土庇が出ている茶がかった客間なので、庭の梧桐の太い根元 …
読書目安時間:約18分
習慣になっているというだけの丁寧なものごしで、取次いだ若い女は、 「おそれいりますが少々おまち下さいませ」と引下って行った。 土庇が出ている茶がかった客間なので、庭の梧桐の太い根元 …
二人の弟たちへのたより(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
火野葦平さんが先頃帰還されて、帰還兵の感想という文章を新聞にかいていました。そのなかで、最も私の心をうったことは、戦線にいる兵隊さんたちは、だれでもみんな故郷からのたよりを待ってい …
読書目安時間:約6分
火野葦平さんが先頃帰還されて、帰還兵の感想という文章を新聞にかいていました。そのなかで、最も私の心をうったことは、戦線にいる兵隊さんたちは、だれでもみんな故郷からのたよりを待ってい …
復活(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
帝劇で復活を観た。一九三〇年にモスクワ芸術座で上演された方法で演出された。 つよく印象にのこったこと。 カチューシャに扮した山口淑子は熱演している。各場面ごとに、その場面の範囲内で …
読書目安時間:約3分
帝劇で復活を観た。一九三〇年にモスクワ芸術座で上演された方法で演出された。 つよく印象にのこったこと。 カチューシャに扮した山口淑子は熱演している。各場面ごとに、その場面の範囲内で …
不必要な誠実論:島木氏への答(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
『文芸春秋』四月号にのった文芸時評に対するあなたの御感想を拝見しました。別な作者の小説「希望館」についての感想を敷衍しつつ、嘗て或る時期に、実際運動をしていた人々が文学の仕事に移っ …
読書目安時間:約3分
『文芸春秋』四月号にのった文芸時評に対するあなたの御感想を拝見しました。別な作者の小説「希望館」についての感想を敷衍しつつ、嘗て或る時期に、実際運動をしていた人々が文学の仕事に移っ …
不満と希望:男性作家の描く女性について(『読売新聞』記者との一問一答)(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
問「男の作家に女性が書けるか書けないかというのは小説が書けるか書けないかというのと同じ愚問ですが、書けているとか、書けていないということはいえると思います。で女流作家の立場から男の …
読書目安時間:約9分
問「男の作家に女性が書けるか書けないかというのは小説が書けるか書けないかというのと同じ愚問ですが、書けているとか、書けていないということはいえると思います。で女流作家の立場から男の …
冬の海(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
あんまりはっきり晴れ渡らない空合で、風も静かに気にかからぬまでに吹いて居る。 丁度満潮時で、海面は白と藍のむら濃になってゆるやかに息をついて居る。 かなり久しい間、海に来ないで居た …
読書目安時間:約4分
あんまりはっきり晴れ渡らない空合で、風も静かに気にかからぬまでに吹いて居る。 丁度満潮時で、海面は白と藍のむら濃になってゆるやかに息をついて居る。 かなり久しい間、海に来ないで居た …
冬を越す蕾(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
十一月号の『改造』と『文芸』のある記事を前後して読んで、私はなにか一つの大きい力をもったシムフォニーを聴いた時のような感情の熱い波立ちをおぼえた。『文芸』で、大宅壮一氏が「転向讚美 …
読書目安時間:約14分
十一月号の『改造』と『文芸』のある記事を前後して読んで、私はなにか一つの大きい力をもったシムフォニーを聴いた時のような感情の熱い波立ちをおぼえた。『文芸』で、大宅壮一氏が「転向讚美 …
古き小画(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間20分
スーラーブは、身に迫るような四辺(あたり)の沈黙に堪えられなくなって来た。 彼は、純白の纏布(ターバン)を巻いた額をあげ、苦しそうにぎらつく眼で、母を見た。 彼女は、向い側で、大き …
読書目安時間:約2時間20分
スーラーブは、身に迫るような四辺(あたり)の沈黙に堪えられなくなって来た。 彼は、純白の纏布(ターバン)を巻いた額をあげ、苦しそうにぎらつく眼で、母を見た。 彼女は、向い側で、大き …
ブルジョア作家のファッショ化に就て(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
正月の『中央公論』は、唯一篇も正しい立場に立つプロレタリア作家の小説を載せなかった。『中央公論』以外のブルジョア・ジャーナリズムも多くプロレタリア作家をボイコットした。然し、それだ …
読書目安時間:約8分
正月の『中央公論』は、唯一篇も正しい立場に立つプロレタリア作家の小説を載せなかった。『中央公論』以外のブルジョア・ジャーナリズムも多くプロレタリア作家をボイコットした。然し、それだ …
プロ文学の中間報告(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
プロレタリア文学運動が一九三二年以来次第に運動として形を失って来たにもかかわらず、プロレタリア作品とよばれる作品は今日やはりずっと書きつづけられており、決して消えてしまってはいない …
読書目安時間:約8分
プロレタリア文学運動が一九三二年以来次第に運動として形を失って来たにもかかわらず、プロレタリア作品とよばれる作品は今日やはりずっと書きつづけられており、決して消えてしまってはいない …
プロレタリア芸術の本体をシッカリ腹に入れてくれ!(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
プロレタリアート・農民諸君!及びプロレタリアートの勝利を信じるインテリゲンチャ諸君。綜合プロレタリア芸術講座をよんで、プロレタリア芸術の本体を、シッカリ腹にいれてくれ。そして、職場 …
読書目安時間:約1分
プロレタリアート・農民諸君!及びプロレタリアートの勝利を信じるインテリゲンチャ諸君。綜合プロレタリア芸術講座をよんで、プロレタリア芸術の本体を、シッカリ腹にいれてくれ。そして、職場 …
プロレタリア美術展を観る(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ほんとは一時間半もあれば充分見られるだろうと思って行ったのだ。ところが面白い。帝展なんかみたいに素通りということはとても出来ない。おしまいには鼻を押しつけるようにしても、もう見えな …
読書目安時間:約5分
ほんとは一時間半もあれば充分見られるだろうと思って行ったのだ。ところが面白い。帝展なんかみたいに素通りということはとても出来ない。おしまいには鼻を押しつけるようにしても、もう見えな …
プロレタリア婦人作家と文化活動の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
前書 女人芸術の編輯部から一つのたのみをうけた。それは、十月号からずっと二三ヵ月つづけて、文学に関することを何か講座風に書いてくれというのだ。 その話をきいた時はもう締切り間もなく …
読書目安時間:約36分
前書 女人芸術の編輯部から一つのたのみをうけた。それは、十月号からずっと二三ヵ月つづけて、文学に関することを何か講座風に書いてくれというのだ。 その話をきいた時はもう締切り間もなく …
プロレタリア文学における国際的主題について(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
『改造』十月号に藤森成吉が「転換時代」という小説を書いている。 自分は非常な興味をもってよみ始め、よみ終ってから何度も雑誌の頁をパラパラめくって考えこんだ。——感服したのではない。 …
読書目安時間:約15分
『改造』十月号に藤森成吉が「転換時代」という小説を書いている。 自分は非常な興味をもってよみ始め、よみ終ってから何度も雑誌の頁をパラパラめくって考えこんだ。——感服したのではない。 …
プロレタリア文学の存在(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
前号の『文化タイムズ』に、わたしの評論集『歌声よ、おこれ』について本多秋五氏の書評がのせられた。その書評で、私が日本にプロレタリア文学は実質上存在しなかった、と書いているということ …
読書目安時間:約4分
前号の『文化タイムズ』に、わたしの評論集『歌声よ、おこれ』について本多秋五氏の書評がのせられた。その書評で、私が日本にプロレタリア文学は実質上存在しなかった、と書いているということ …
フロレンス・ナイチンゲールの生涯(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のな …
読書目安時間:約21分
慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のな …
文学者として近衛内閣に要望す(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
今度の内閣は、従来とかくものごとが厳秘主義であったの対して、「率直に現実をしらしめる」ことを表明し、一つの新しい態度と見られていると思います。上から現実を知らしめるということと、文 …
読書目安時間:約1分
今度の内閣は、従来とかくものごとが厳秘主義であったの対して、「率直に現実をしらしめる」ことを表明し、一つの新しい態度と見られていると思います。上から現実を知らしめるということと、文 …
文学上の復古的提唱に対して(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
一古典摂取の態度 この間、ある人に会ったら、こういう話が出た。どこかの宴会でその人が日蓮宗の坊さんに逢ったら、その坊さんが、この頃では私共も古事記なんかをよまないとものが云えないよ …
読書目安時間:約13分
一古典摂取の態度 この間、ある人に会ったら、こういう話が出た。どこかの宴会でその人が日蓮宗の坊さんに逢ったら、その坊さんが、この頃では私共も古事記なんかをよまないとものが云えないよ …
文学精神と批判精神(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
文学に関することとしての批判精神の問題とその解釈とは、この三四年来、随分特別異常な待遇をうけて来ていると思う。 今から四年ばかり前、日本には批評文学、或は文学的批評という一種の風が …
読書目安時間:約9分
文学に関することとしての批判精神の問題とその解釈とは、この三四年来、随分特別異常な待遇をうけて来ていると思う。 今から四年ばかり前、日本には批評文学、或は文学的批評という一種の風が …
文学と生活(新字新仮名)
読書目安時間:約35分
この講座でわたしの受けもちは「文学と生活」である。この課題は、考えれば考えるほど複雑で規模が大きい。どこからまとめていいかわからないような心持さえする。すべての文学は生活から生れ、 …
読書目安時間:約35分
この講座でわたしの受けもちは「文学と生活」である。この課題は、考えれば考えるほど複雑で規模が大きい。どこからまとめていいかわからないような心持さえする。すべての文学は生活から生れ、 …
文学と地方性(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
この間或る必要から大変おくればせに石坂洋次郎氏の「若い人」上下を通読した。この作品が二三年前非常にひろく読まれたということも、今日石川達三氏の「結婚の生態」がひろく読まれているとい …
読書目安時間:約12分
この間或る必要から大変おくればせに石坂洋次郎氏の「若い人」上下を通読した。この作品が二三年前非常にひろく読まれたということも、今日石川達三氏の「結婚の生態」がひろく読まれているとい …
文学と婦人(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この頃はともかく婦人作家の活動が目に立って来たけれども、婦人の評論家が出ないうちは、文学への全面的な進出として語ることは出来ないという意味の文章が、先頃某紙の文芸欄にあって、いろい …
読書目安時間:約2分
この頃はともかく婦人作家の活動が目に立って来たけれども、婦人の評論家が出ないうちは、文学への全面的な進出として語ることは出来ないという意味の文章が、先頃某紙の文芸欄にあって、いろい …
文学における今日の日本的なるもの(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
この間、『朝日新聞』であったか、『読売新聞』であったか、文芸欄に、座談会についてのモラルという文章があった。座談会の席上では勝手な熱をふいてかきまわしておきながら、記事になるときは …
読書目安時間:約20分
この間、『朝日新聞』であったか、『読売新聞』であったか、文芸欄に、座談会についてのモラルという文章があった。座談会の席上では勝手な熱をふいてかきまわしておきながら、記事になるときは …
文学における古いもの・新しいもの:「風雲」について(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
これまで主として詩、評論の仕事をしてきた窪川鶴次郎が、今度『中央公論』に発表した小説「風雲」については、きっとさまざまの人の批評があるであろうと思う。 私としては、この作者が先ずこ …
読書目安時間:約11分
これまで主として詩、評論の仕事をしてきた窪川鶴次郎が、今度『中央公論』に発表した小説「風雲」については、きっとさまざまの人の批評があるであろうと思う。 私としては、この作者が先ずこ …
文学に関する感想(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
林房雄が『中央公論』に連載している長篇小説「青年」は、近頃発表されたプロレタリア作家の作品の中でもっとも多くの論議を引き起したものの一つである。「青年」第一部が発表された当初から、 …
読書目安時間:約18分
林房雄が『中央公論』に連載している長篇小説「青年」は、近頃発表されたプロレタリア作家の作品の中でもっとも多くの論議を引き起したものの一つである。「青年」第一部が発表された当初から、 …
文学について(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
去る六月二十八日、本部において二三の政治局員と文化部関係者および新日本文学会のグループの合同会議がもたれ、来る七月三・四日に行われる党員芸術家会議に対する準備的な討論が行われたこと …
読書目安時間:約14分
去る六月二十八日、本部において二三の政治局員と文化部関係者および新日本文学会のグループの合同会議がもたれ、来る七月三・四日に行われる党員芸術家会議に対する準備的な討論が行われたこと …
文学の大衆化論について(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
昨今、作家が一般大衆の生活感情と自分たちとの繋りについて関心を示すようになって来ると同時に、文壇を否定する気分がはっきり云われはじめた。文壇は作家も文学をもちぢこませてしまう、広々 …
読書目安時間:約16分
昨今、作家が一般大衆の生活感情と自分たちとの繋りについて関心を示すようになって来ると同時に、文壇を否定する気分がはっきり云われはじめた。文壇は作家も文学をもちぢこませてしまう、広々 …
文学の大陸的性格について(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
『現代アメリカ文学全集』の中にドライサアの「アメリカの悲劇」が出ている。 この間よみかえしてみて、これまでとはちがった新しい感銘をうけた。もと読んだときには、ずいぶん古いことだった …
読書目安時間:約10分
『現代アメリカ文学全集』の中にドライサアの「アメリカの悲劇」が出ている。 この間よみかえしてみて、これまでとはちがった新しい感銘をうけた。もと読んだときには、ずいぶん古いことだった …
文学のディフォーメイションに就て(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
私たちの日常生活にある歴史の感覚というものを考えてみると、いろいろ非常に興味ふかくもあり同時にこわいようなところがある。一定の時間がすぎて、所謂歴史となって目の前に現れたとき、その …
読書目安時間:約6分
私たちの日常生活にある歴史の感覚というものを考えてみると、いろいろ非常に興味ふかくもあり同時にこわいようなところがある。一定の時間がすぎて、所謂歴史となって目の前に現れたとき、その …
文学の流れ(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
いつの時代でも、技師や官吏になろうとする人の数より、作家になろうとする青年の数はすくなかった。今の時代は、猶そうであろう。文学を愛しつつも、作家としての生活に様々の意味で危惧を感じ …
読書目安時間:約6分
いつの時代でも、技師や官吏になろうとする人の数より、作家になろうとする青年の数はすくなかった。今の時代は、猶そうであろう。文学を愛しつつも、作家としての生活に様々の意味で危惧を感じ …
文学のひろがり:そこにある科学と文学とのいきさつ(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
岩波新書のなかに、米川正夫氏の翻訳でヴォドピヤーノフというひとの書いた「北極飛行」という本がある。 これは純粋な文学書ではなくて、ソ連の北極探検飛行の記録である。著者も作家ではない …
読書目安時間:約9分
岩波新書のなかに、米川正夫氏の翻訳でヴォドピヤーノフというひとの書いた「北極飛行」という本がある。 これは純粋な文学書ではなくて、ソ連の北極探検飛行の記録である。著者も作家ではない …
文学は常に具体的:「国民文学」に望む(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
生活的な真実というもののあらわれは、非常に多種多様だと思う。 国民文学が単一に民族伝説(サガ)だけを自身の内容とするのでないことは明らかなわけだから、生活が年々に経てゆく現実の諸相 …
読書目安時間:約3分
生活的な真実というもののあらわれは、非常に多種多様だと思う。 国民文学が単一に民族伝説(サガ)だけを自身の内容とするのでないことは明らかなわけだから、生活が年々に経てゆく現実の諸相 …
文化生産者としての自覚(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
谷崎潤一郎の小説に「卍」という作品がある。その本が一冊千円で売られる話をきいた。小売店では、いくらなんでもとあやぶんでいたところ案外に買手がある。今時の金は、ある所にはあるものだ、 …
読書目安時間:約10分
谷崎潤一郎の小説に「卍」という作品がある。その本が一冊千円で売られる話をきいた。小売店では、いくらなんでもとあやぶんでいたところ案外に買手がある。今時の金は、ある所にはあるものだ、 …
文芸時評(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
八月の稲妻 読みたいと思う雑誌が手元にないので、それを買いがてら下町へ出た。町角と云わず、ふだんは似顔描きが佇んでいるようなところにまで女や男のひとたちが、鬱金の布に朱でマルを印し …
読書目安時間:約15分
八月の稲妻 読みたいと思う雑誌が手元にないので、それを買いがてら下町へ出た。町角と云わず、ふだんは似顔描きが佇んでいるようなところにまで女や男のひとたちが、鬱金の布に朱でマルを印し …
文芸時評(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
時局と作家 浪漫主義者の自己暴露 九月の諸雑誌は、ほとんど満目これ北支問題である。そして、時節柄いろいろの形で特種の工夫がされているのであるが、いわゆる現地報告として、相当の蘊蓄を …
読書目安時間:約14分
時局と作家 浪漫主義者の自己暴露 九月の諸雑誌は、ほとんど満目これ北支問題である。そして、時節柄いろいろの形で特種の工夫がされているのであるが、いわゆる現地報告として、相当の蘊蓄を …
文芸時評(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
「抒情歌」について ——その美の実質—— 二月号の『中央公論』に、川端康成の「抒情歌」という小説がのっている。印刷して二十三ページもあり、はじめから終りまでたるみない作家的緊張で書 …
読書目安時間:約16分
「抒情歌」について ——その美の実質—— 二月号の『中央公論』に、川端康成の「抒情歌」という小説がのっている。印刷して二十三ページもあり、はじめから終りまでたるみない作家的緊張で書 …
文芸時評:「ナップ」第三回大会にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
一九三一年五月は、日本のプロレタリア文学運動の歴史にとって、一つの記念すべき月だった。 中旬に、労農芸術家連盟(機関誌『文芸戦線』)が第三次の分裂を行った。脱退した細田源吉以下十一 …
読書目安時間:約18分
一九三一年五月は、日本のプロレタリア文学運動の歴史にとって、一つの記念すべき月だった。 中旬に、労農芸術家連盟(機関誌『文芸戦線』)が第三次の分裂を行った。脱退した細田源吉以下十一 …
『文芸評論』出版について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ここに集められている宮本顕治の諸評論は、凡そ一九二九年頃から一九三二年三月頃まで、略三年間に書かれたものである。執筆された当時から今日までには僅か五年足らずの年月しか経ていないので …
読書目安時間:約4分
ここに集められている宮本顕治の諸評論は、凡そ一九二九年頃から一九三二年三月頃まで、略三年間に書かれたものである。執筆された当時から今日までには僅か五年足らずの年月しか経ていないので …
文戦脱退はなぜすぐナップに加入出来るのか?(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
答ナップでは加盟させます。 文戦を脱退した人は、第一次の脱退の場合も最近の第二次の場合にも、すぐ文戦打倒同盟というものを自主的に組織してナップ加盟と同時に、自分たちの階級的立場を明 …
読書目安時間:約1分
答ナップでは加盟させます。 文戦を脱退した人は、第一次の脱退の場合も最近の第二次の場合にも、すぐ文戦打倒同盟というものを自主的に組織してナップ加盟と同時に、自分たちの階級的立場を明 …
文壇はどうなる(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
大正五年頃、つまり私が最初に小説を発表した時代——ちょうど、久米正雄君や菊池君や芥川さんが『新思潮』からだんだん乗り出して行った時代で、文壇というものがまだハッキリ形を持っていた。 …
読書目安時間:約5分
大正五年頃、つまり私が最初に小説を発表した時代——ちょうど、久米正雄君や菊池君や芥川さんが『新思潮』からだんだん乗り出して行った時代で、文壇というものがまだハッキリ形を持っていた。 …
平坦ならぬ道:国民文学にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この頃は「国民文学」という声がいろいろな場面に響いていて、日本文学の明日の姿として或る意味では文書的な性質をもつ方向づけのような印象を与えている。けれども、どういうのが国民文学であ …
読書目安時間:約9分
この頃は「国民文学」という声がいろいろな場面に響いていて、日本文学の明日の姿として或る意味では文書的な性質をもつ方向づけのような印象を与えている。けれども、どういうのが国民文学であ …
平和運動と文学者:一九四八年十二月二十五日、新日本文学会主催「文芸講演会」における講演(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
私は体を悪くして、去年の夏から、いろいろな講演をお断りしてまいりました。けれども今日は昨日と今朝の新聞を見まして、どうしても、一言皆さんと一緒に話して考えたいことがあったものですか …
読書目安時間:約30分
私は体を悪くして、去年の夏から、いろいろな講演をお断りしてまいりました。けれども今日は昨日と今朝の新聞を見まして、どうしても、一言皆さんと一緒に話して考えたいことがあったものですか …
平和の願いは厳粛である(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
朝鮮に戦争がおこってから、世界じゅうの平和運動は目立って活溌になり、真剣さを加えた。日本の五人の名流婦人たちが、「非武装国日本女性の講和問題についての希望要項」をダレス国務省顧問に …
読書目安時間:約3分
朝鮮に戦争がおこってから、世界じゅうの平和運動は目立って活溌になり、真剣さを加えた。日本の五人の名流婦人たちが、「非武装国日本女性の講和問題についての希望要項」をダレス国務省顧問に …
平和への荷役(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
——船が嵐にあって沈まないためには積荷が均衡をもって整理されていることが必要である。—— わたしたちのまわりに、また戦争に対する恐怖が渦まきはじめた。一部には、その恐怖が病的にさえ …
読書目安時間:約24分
——船が嵐にあって沈まないためには積荷が均衡をもって整理されていることが必要である。—— わたしたちのまわりに、また戦争に対する恐怖が渦まきはじめた。一部には、その恐怖が病的にさえ …
平和を保つため(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
日本女性の参政二年を記念して、去る十日にマッカーサー元帥が発したステートメントの言葉は大変に美しく、日本婦人の理想の姿を描き出していたと思います。 あの文章を読んで、日本のまじめな …
読書目安時間:約2分
日本女性の参政二年を記念して、去る十日にマッカーサー元帥が発したステートメントの言葉は大変に美しく、日本婦人の理想の姿を描き出していたと思います。 あの文章を読んで、日本のまじめな …
平和をわれらに(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ここに一個の人物がある。自分のしたい存分をやって、しかもその行為の責任を問い批判する権利をもっている人々の眼、口、耳をおおうために、そこにある報道能力を奪うとしたら、社会の常識は、 …
読書目安時間:約4分
ここに一個の人物がある。自分のしたい存分をやって、しかもその行為の責任を問い批判する権利をもっている人々の眼、口、耳をおおうために、そこにある報道能力を奪うとしたら、社会の常識は、 …
ペーチャの話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
ペーチャは十一だ。サヴェート同盟の百姓の息子だ。うちには牝牛が一匹、鶏が八羽、豚が四匹に、猫と犬とがいる。 春から秋の末まで、おとっさんとおっかさんは一日、朝から晩まで畑で働いた。 …
読書目安時間:約5分
ペーチャは十一だ。サヴェート同盟の百姓の息子だ。うちには牝牛が一匹、鶏が八羽、豚が四匹に、猫と犬とがいる。 春から秋の末まで、おとっさんとおっかさんは一日、朝から晩まで畑で働いた。 …
部屋(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
二階受持のさをが、障子の陰から半分顔を出し、小さい声で囁いた。 「一寸、百代さん、来て御覧なさい」 机に向って宿題をしていた百代は、子供らしく下からさをを見上げた。 「なあに」 さ …
読書目安時間:約10分
二階受持のさをが、障子の陰から半分顔を出し、小さい声で囁いた。 「一寸、百代さん、来て御覧なさい」 机に向って宿題をしていた百代は、子供らしく下からさをを見上げた。 「なあに」 さ …
ベリンスキーの眼力(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「『マクベス』はシェークスピアの最も大きな、そしてそれと共に最も怪奇な作品の一つである。この作では一方からは彼の創造的天才の巨大な力が全部反映し、他方からは彼が生活している世紀の野 …
読書目安時間:約2分
「『マクベス』はシェークスピアの最も大きな、そしてそれと共に最も怪奇な作品の一つである。この作では一方からは彼の創造的天才の巨大な力が全部反映し、他方からは彼が生活している世紀の野 …
ペンクラブのパリ大会:議題の抜粋についての感想(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
六月下旬にパリで四日間に亙って開催された国際ペンクラブの第十五回大会に、有島生馬氏や井上勇氏、久米正雄氏などが出席したことが新聞に出ている。その議事日程の中、委員付託による四つの問 …
読書目安時間:約6分
六月下旬にパリで四日間に亙って開催された国際ペンクラブの第十五回大会に、有島生馬氏や井上勇氏、久米正雄氏などが出席したことが新聞に出ている。その議事日程の中、委員付託による四つの問 …
帆(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
藍子のところへ尾世川が来て月謝の前借りをして行った。尾世川は藍子のドイツ語の教師であった。箇人教授をしているのだが、藍子の他に彼に弟子は無く、またあったとしても無くなるのが当然な程 …
読書目安時間:約25分
藍子のところへ尾世川が来て月謝の前借りをして行った。尾世川は藍子のドイツ語の教師であった。箇人教授をしているのだが、藍子の他に彼に弟子は無く、またあったとしても無くなるのが当然な程 …
ほうき一本(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだっ …
読書目安時間:約5分
十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだっ …
法律的独立人格の承認(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
若し、今日の議会に、真実な価値と信頼とを認め得るとしたら、婦人の提出したい、第一の問題は、婦人参政権、法律的独立人格の承認に関してであると思います。種々な法規が、消極的意味に於て女 …
読書目安時間:約1分
若し、今日の議会に、真実な価値と信頼とを認め得るとしたら、婦人の提出したい、第一の問題は、婦人参政権、法律的独立人格の承認に関してであると思います。種々な法規が、消極的意味に於て女 …
吠える(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
雨が降って寒い夕暮など、私はわざと傘を右に傾け、その方は見ないようにして通るのだ。どういう人達が主人なのだろう。そしてまた何故、あの小舎を、彼処に置いておくのだろう。私は、坂を下り …
読書目安時間:約5分
雨が降って寒い夕暮など、私はわざと傘を右に傾け、その方は見ないようにして通るのだ。どういう人達が主人なのだろう。そしてまた何故、あの小舎を、彼処に置いておくのだろう。私は、坂を下り …
牡丹(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。 石川は元来若い時分は乱暴な生活をした男であった。南洋の無人島で密猟をしていたこともある。××町に住むようになって …
読書目安時間:約26分
人間の哀れさが、漠然とした感慨となって石川の胸に浮ぶようになった。 石川は元来若い時分は乱暴な生活をした男であった。南洋の無人島で密猟をしていたこともある。××町に住むようになって …
舗道(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間10分
あっちこっちで帰り支度がはじまった。ビルディング内の生暖かい重い空気が急にしまりなくなって、セカセカかき立てられた。 ミサ子は紫っぽい事務服を着てタイプライタアをうっている。かわり …
読書目安時間:約1時間10分
あっちこっちで帰り支度がはじまった。ビルディング内の生暖かい重い空気が急にしまりなくなって、セカセカかき立てられた。 ミサ子は紫っぽい事務服を着てタイプライタアをうっている。かわり …
「保姆」の印象(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「保姆」いろいろの意味で興味ふかく観た。シナリオを書かれたのが厚木たか氏という女性であることも、そしてこのひとは以前「文化映画」を翻訳しておられることも、こういう種類の記録映画の制 …
読書目安時間:約6分
「保姆」いろいろの意味で興味ふかく観た。シナリオを書かれたのが厚木たか氏という女性であることも、そしてこのひとは以前「文化映画」を翻訳しておられることも、こういう種類の記録映画の制 …
本郷の名物(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
本郷の名物は、いろいろある。たべるものにも、見るものにも。このごろ三丁目のところにマーケット風な店をひろげている小間物店「かねやす」は江戸時代の川柳に「本郷もかねやすまでは江戸のう …
読書目安時間:約3分
本郷の名物は、いろいろある。たべるものにも、見るものにも。このごろ三丁目のところにマーケット風な店をひろげている小間物店「かねやす」は江戸時代の川柳に「本郷もかねやすまでは江戸のう …
本棚(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
この間うちから引越しさわぎで、あっちの古本の山、こっちの古本のかたまりといじりまわしているうちに、一冊、黒い背布に模造紙の表紙をつけた『女学雑誌』の合本が出て来た。かたい表紙をあけ …
読書目安時間:約9分
この間うちから引越しさわぎで、あっちの古本の山、こっちの古本のかたまりといじりまわしているうちに、一冊、黒い背布に模造紙の表紙をつけた『女学雑誌』の合本が出て来た。かたい表紙をあけ …
本当の愛嬌ということ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
戦争中私たちは随分ひどい生活をしました。そして八月十五日が来た時、日本のすべての人々、とくに婦人たちの目には実に感慨深いなみだがうかんだと思います。これで惨虐なそして不合理な権力の …
読書目安時間:約3分
戦争中私たちは随分ひどい生活をしました。そして八月十五日が来た時、日本のすべての人々、とくに婦人たちの目には実に感慨深いなみだがうかんだと思います。これで惨虐なそして不合理な権力の …
ボン・ボヤージ!:渡米水泳選手におくる(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
古橋広之進君をはじめ五名の水泳代表選手が、来る十一日のパンアメリカ号で渡米する。全米水上選手権大会へ、これらの日本の若い精鋭が出場するようになったことは全日本の明るい関心をあつめて …
読書目安時間:約3分
古橋広之進君をはじめ五名の水泳代表選手が、来る十一日のパンアメリカ号で渡米する。全米水上選手権大会へ、これらの日本の若い精鋭が出場するようになったことは全日本の明るい関心をあつめて …
翻訳の価値:「ゴロヴリョフ家の人々」にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
日本の知識人の読書表には、実に翻訳がどっさり入りこんでいると思う。文学書にしても、日本ぐらい月々幾冊もの訳書が出版されているところは余り無かろうと思う。アメリカなどは、どっちかと云 …
読書目安時間:約7分
日本の知識人の読書表には、実に翻訳がどっさり入りこんでいると思う。文学書にしても、日本ぐらい月々幾冊もの訳書が出版されているところは余り無かろうと思う。アメリカなどは、どっちかと云 …
まえがき(『真実に生きた女性たち』)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ここに、四人の婦人の物語がある。何年も前に書かれたこれらの物語をきょう、くりかえし読んでみて、深く深く心を動かされることは、人間社会の歴史は、何とたゆむことなく前進しているであろう …
読書目安時間:約4分
ここに、四人の婦人の物語がある。何年も前に書かれたこれらの物語をきょう、くりかえし読んでみて、深く深く心を動かされることは、人間社会の歴史は、何とたゆむことなく前進しているであろう …
マクシム・ゴーリキイについて(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
マクシム・ゴーリキイは一八六八年、日本の明治元年に、ヴォルガ河の岸にあるニージュニ・ノヴゴロドに生れました。父親は早く死に、勝気で美しい母はよそへ再婚し、おさないゴーリキイは祖父の …
読書目安時間:約5分
マクシム・ゴーリキイは一八六八年、日本の明治元年に、ヴォルガ河の岸にあるニージュニ・ノヴゴロドに生れました。父親は早く死に、勝気で美しい母はよそへ再婚し、おさないゴーリキイは祖父の …
マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人(新字新仮名)
読書目安時間:約20分
人間と人間との遭遇の中には、それを時間的に考えて見るとごく短い間の出来事であり、その間にとり交された言葉や眼ざしなどが僅かなものであっても、ある人の生涯にとって非常に意味の深い結果 …
読書目安時間:約20分
人間と人間との遭遇の中には、それを時間的に考えて見るとごく短い間の出来事であり、その間にとり交された言葉や眼ざしなどが僅かなものであっても、ある人の生涯にとって非常に意味の深い結果 …
マクシム・ゴーリキイの伝記:幼年時代・少年時代・青年時代(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間2分
前書 一九三六年六月十八日。マクシム・ゴーリキイの豊富にして多彩な一生が終った。恰度ソヴェト同盟の新しい憲法草案が公表されて一週間ほど後のことであった。ゴーリキイはこの新憲法草案の …
読書目安時間:約2時間2分
前書 一九三六年六月十八日。マクシム・ゴーリキイの豊富にして多彩な一生が終った。恰度ソヴェト同盟の新しい憲法草案が公表されて一週間ほど後のことであった。ゴーリキイはこの新憲法草案の …
マクシム・ゴーリキイの発展の特質(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
一九三六年六月十八日。マクシム・ゴーリキイの豊富にして多彩な一生が終った。ちょうどソヴェト同盟の新しい憲法草案が公表されて一週間ほど後のことであった。ゴーリキイはこの新憲法草案の公 …
読書目安時間:約34分
一九三六年六月十八日。マクシム・ゴーリキイの豊富にして多彩な一生が終った。ちょうどソヴェト同盟の新しい憲法草案が公表されて一週間ほど後のことであった。ゴーリキイはこの新憲法草案の公 …
マクシム・ゴーリキイの人及び芸術(新字新仮名)
読書目安時間:約31分
現代は、一つの深刻で巨大な時期である。旧いものの世界的な崩壊、新たな社会の建設。二つの力が切迫して相うち、どんな平凡な一市民の生活さえ、それを観察すれば複雑な社会的矛盾からまぬかれ …
読書目安時間:約31分
現代は、一つの深刻で巨大な時期である。旧いものの世界的な崩壊、新たな社会の建設。二つの力が切迫して相うち、どんな平凡な一市民の生活さえ、それを観察すれば複雑な社会的矛盾からまぬかれ …
貧しき人々の群(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間60分
序にかえて C先生。 先生は、あの「小さき泉」の中の、 「師よ、師よ 何度倒れるまで 起き上らねばなりませんか? 七度までですか?」 と云う、弟子の問に対して答えた、師の言葉をお覚 …
読書目安時間:約1時間60分
序にかえて C先生。 先生は、あの「小さき泉」の中の、 「師よ、師よ 何度倒れるまで 起き上らねばなりませんか? 七度までですか?」 と云う、弟子の問に対して答えた、師の言葉をお覚 …
ますます確りやりましょう(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
みなさん、しばらくでした。 私は去る四月七日、ブルジョア、地主の官憲が日本プロレタリア文化連盟に加えた狂気のような暴圧によって捕えられ、六月二十五日、八十日間の検束の後、再び自由を …
読書目安時間:約7分
みなさん、しばらくでした。 私は去る四月七日、ブルジョア、地主の官憲が日本プロレタリア文化連盟に加えた狂気のような暴圧によって捕えられ、六月二十五日、八十日間の検束の後、再び自由を …
又、家(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
H町に近いのは、なかなか都合のよいこともある。仮令えば、何か急に客用のものを借りたい場合、病気で薬を頼みたい場合、決して調法でないことはない。が又、一方では、可成困ることがある。 …
読書目安時間:約13分
H町に近いのは、なかなか都合のよいこともある。仮令えば、何か急に客用のものを借りたい場合、病気で薬を頼みたい場合、決して調法でないことはない。が又、一方では、可成困ることがある。 …
街(新字新仮名)
読書目安時間:約38分
一九一七年に、世界は一つの新しい伝説を得た。「ロシア革命」。当時、そのロシアに住んでいた者は、物心づいた子供から、老耄の一つ手前に達した年寄りまで、それぞれ一生の逸話を拾った。逸話 …
読書目安時間:約38分
一九一七年に、世界は一つの新しい伝説を得た。「ロシア革命」。当時、そのロシアに住んでいた者は、物心づいた子供から、老耄の一つ手前に達した年寄りまで、それぞれ一生の逸話を拾った。逸話 …
まちがい(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
夜の八時ごろ、お隣の女中さんが柿の木の彼方から、お電話ですと呼んでくれた。出てみたら弟の家内で、いそがしいところ呼び立てて御免なさいね、百合ちゃん、四谷旭町——旭は九に日をのせた旭 …
読書目安時間:約4分
夜の八時ごろ、お隣の女中さんが柿の木の彼方から、お電話ですと呼んでくれた。出てみたら弟の家内で、いそがしいところ呼び立てて御免なさいね、百合ちゃん、四谷旭町——旭は九に日をのせた旭 …
町の展望(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
町から、何処に居ても山が見える。その山には三月の雪があった。——山の下の小さい町々の通りは、雪溶けの上へ五色の千代紙を剪りこまざいて散らしたようであった。製糸工場が休みで、数百の若 …
読書目安時間:約5分
町から、何処に居ても山が見える。その山には三月の雪があった。——山の下の小さい町々の通りは、雪溶けの上へ五色の千代紙を剪りこまざいて散らしたようであった。製糸工場が休みで、数百の若 …
待呆け議会風景(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
けさ、新聞をひろげたら、『衆院傍聴席にも首相の「若き顔」』として、米内首相の子息の学生服姿が出ている。本当にこの息子さんの面ざしはお父さんの俤を湛えているけれども、この若人も、きの …
読書目安時間:約14分
けさ、新聞をひろげたら、『衆院傍聴席にも首相の「若き顔」』として、米内首相の子息の学生服姿が出ている。本当にこの息子さんの面ざしはお父さんの俤を湛えているけれども、この若人も、きの …
窓からの風景(六月――)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
晴 ○しっかりした面白味のある幹に密生していかにも勁そうな細かい銀杏の若葉。 ○その窓からはいろいろな色と形との新緑の梢が見わたせた。 その奥で普請がやられている 金づちの音や木を …
読書目安時間:約2分
晴 ○しっかりした面白味のある幹に密生していかにも勁そうな細かい銀杏の若葉。 ○その窓からはいろいろな色と形との新緑の梢が見わたせた。 その奥で普請がやられている 金づちの音や木を …
真夏の夜の夢(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
ルネッサンスという時代が、人間理性の目ざめの時期でレオナルド・ダ・ヴィンチを産みながら一方では魔力が人間生活に直接関係するということをまだ信じていた野蛮な時代であったという事実を、 …
読書目安時間:約6分
ルネッサンスという時代が、人間理性の目ざめの時期でレオナルド・ダ・ヴィンチを産みながら一方では魔力が人間生活に直接関係するということをまだ信じていた野蛮な時代であったという事実を、 …
「迷いの末は」:横光氏の「厨房日記」について(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
『文芸春秋』の新年号に、作家ばかりの座談会という記事がのせられている。河豚礼讚、文芸雑誌の今昔などというところから、次第に様々の話題へ展開しているこの記事は、特に最後の部分、二・二 …
読書目安時間:約19分
『文芸春秋』の新年号に、作家ばかりの座談会という記事がのせられている。河豚礼讚、文芸雑誌の今昔などというところから、次第に様々の話題へ展開しているこの記事は、特に最後の部分、二・二 …
マリア・バシュキルツェフの日記(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
暑い日に、愛らしく溌剌とした若い娘たちが樹かげにかたまって立って、しきりに何か飲みたがっている。ああ、これはどうかしらんといって、樹かげの見捨てられた古屋台の中から、すっかり気がぬ …
読書目安時間:約24分
暑い日に、愛らしく溌剌とした若い娘たちが樹かげにかたまって立って、しきりに何か飲みたがっている。ああ、これはどうかしらんといって、樹かげの見捨てられた古屋台の中から、すっかり気がぬ …
見落されている急所:文学と生活との関係にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
九月号の『婦人文芸』に藤木稠子という作者の戯曲「裏切る者」という一幕ものがのっていた。私は雑誌を開いたときその表題を見たのであったがつい用事に追われ、そのときはゆっくり作品を読む機 …
読書目安時間:約11分
九月号の『婦人文芸』に藤木稠子という作者の戯曲「裏切る者」という一幕ものがのっていた。私は雑誌を開いたときその表題を見たのであったがつい用事に追われ、そのときはゆっくり作品を読む機 …
未開な風景(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
○ みのえは、板の間に坐っていた。真暗な板の間であった。 みのえの前の瓦斯コンロだけが、暗闇の中で勢よく青い広い焔をあげている。その薄明りでみのえは自分の鼻の先と手を見ることが出来 …
読書目安時間:約15分
○ みのえは、板の間に坐っていた。真暗な板の間であった。 みのえの前の瓦斯コンロだけが、暗闇の中で勢よく青い広い焔をあげている。その薄明りでみのえは自分の鼻の先と手を見ることが出来 …
未開の花(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
家中寝鎮まったものと思って足音を忍ばせ、そーッと階下へおりて行ったら、茶の間に灯がついていて、そこに従弟が一人中腰で茶を飲んでいた。どうしたの今時分まで、というと、鼠退治さ。栗のい …
読書目安時間:約7分
家中寝鎮まったものと思って足音を忍ばせ、そーッと階下へおりて行ったら、茶の間に灯がついていて、そこに従弟が一人中腰で茶を飲んでいた。どうしたの今時分まで、というと、鼠退治さ。栗のい …
短い感想:家族円卓会議について(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
古いころから文学に関し、或はエレン・ケイの思想紹介に関し、様々の文化的活動をされた本間さんのお家で、そのお嬢さん達が友達をも交えて、親御さんをもともに座談会をもたれたという事は、私 …
読書目安時間:約5分
古いころから文学に関し、或はエレン・ケイの思想紹介に関し、様々の文化的活動をされた本間さんのお家で、そのお嬢さん達が友達をも交えて、親御さんをもともに座談会をもたれたという事は、私 …
惨めな無我夢中:福知山高女の事件について(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ああいう事の起る第一の原因は、女性も男性も、自分の心を一応考えて見るだけ頭脳の訓練を持っていないことだと思います。偶々外的の関係は教師と生徒であっても、本能の発露は村の若衆と小娘と …
読書目安時間:約4分
ああいう事の起る第一の原因は、女性も男性も、自分の心を一応考えて見るだけ頭脳の訓練を持っていないことだと思います。偶々外的の関係は教師と生徒であっても、本能の発露は村の若衆と小娘と …
道づれ(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
山がたに三という字を染め出した紺ののれんが細長い三和土の両端に下っていて、こっちから入った客は、あっちから余り人通りのない往来へ抜けられるようになっている。 重吉は、片側に大溝のあ …
読書目安時間:約42分
山がたに三という字を染め出した紺ののれんが細長い三和土の両端に下っていて、こっちから入った客は、あっちから余り人通りのない往来へ抜けられるようになっている。 重吉は、片側に大溝のあ …
見つくろい(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
たとえば半襟のようなものでも、みつくろって買って下さいね、とたのまれると、私たちは相当閉口する。自分が見てあのひとにはこれと思って選んだ色にしろ、果してその色を本人が好きと思うかど …
読書目安時間:約3分
たとえば半襟のようなものでも、みつくろって買って下さいね、とたのまれると、私たちは相当閉口する。自分が見てあのひとにはこれと思って選んだ色にしろ、果してその色を本人が好きと思うかど …
三つの愛のしるし:自由・平等・独立の火をともす(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
二三日前にふった雪がまだとけずにまっしろく日にかがやいている。日本のあっちこっちの国々に、町々にやっぱりこんなふうに日にきらめいている冬の雪があるのだと思う。そしてそこにさまざまの …
読書目安時間:約5分
二三日前にふった雪がまだとけずにまっしろく日にかがやいている。日本のあっちこっちの国々に、町々にやっぱりこんなふうに日にきらめいている冬の雪があるのだと思う。そしてそこにさまざまの …
三つの「女大学」(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
何年ぶりかで珍しく上野の図書館へ行った。むかし袴をはいて通った時分からみると婦人閲覧室もずっと広く居心地よいところになったし、いろいろ変っているけれども、本を借り出すところが一段高 …
読書目安時間:約14分
何年ぶりかで珍しく上野の図書館へ行った。むかし袴をはいて通った時分からみると婦人閲覧室もずっと広く居心地よいところになったし、いろいろ変っているけれども、本を借り出すところが一段高 …
三つのばあい・未亡人はどう生きたらいいか(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
このお手紙をよんで、わたしもほんとに「待つ」というのはどういうことなのだろうと、お手紙に書かれているとおりの疑問を感じました。 Hさんのお母さんの立場も、日本の女らしい哀れなもので …
読書目安時間:約5分
このお手紙をよんで、わたしもほんとに「待つ」というのはどういうことなのだろうと、お手紙に書かれているとおりの疑問を感じました。 Hさんのお母さんの立場も、日本の女らしい哀れなもので …
三つの民主主義:婦人民主クラブの立場に就て(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
これまでの日本の婦人は、よろこびも悲しみも自分のめぐり合わせとして孤立して生きて来た。そういう生活を、もっとひろい社会の動きの中に解放して婦人の生活を明るくつよく創造の力にみちたも …
読書目安時間:約5分
これまでの日本の婦人は、よろこびも悲しみも自分のめぐり合わせとして孤立して生きて来た。そういう生活を、もっとひろい社会の動きの中に解放して婦人の生活を明るくつよく創造の力にみちたも …
「緑の騎士」ノート(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
一、リュシアン ソレルとは全くちがったリュシアン・ルーヴェン。一八三二年六月五日、六日ラマルク将軍の葬式に際し60名のポリテクニック学校生徒(理工科学校)は禁足令をやぶって制服のま …
読書目安時間:約6分
一、リュシアン ソレルとは全くちがったリュシアン・ルーヴェン。一八三二年六月五日、六日ラマルク将軍の葬式に際し60名のポリテクニック学校生徒(理工科学校)は禁足令をやぶって制服のま …
見ない写真へ(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
どんな写真がとれただろうかしら。まだ見ていない。それなのに、その写真に添える文章を書くというのは何だか変である。 きっと濡縁がうつっていることだろう。濡縁のある庭というと特別な趣で …
読書目安時間:約1分
どんな写真がとれただろうかしら。まだ見ていない。それなのに、その写真に添える文章を書くというのは何だか変である。 きっと濡縁がうつっていることだろう。濡縁のある庭というと特別な趣で …
南風(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
昨夜、ドッドと降って居た雨が朝になってすっかり上った。 白っぽい被のかかって居た木の葉も土も皆、美くしくうるおおされて、松だの槇だのの葉は針の様に、椿や樫の葉はテラテラに輝いて居る …
読書目安時間:約2分
昨夜、ドッドと降って居た雨が朝になってすっかり上った。 白っぽい被のかかって居た木の葉も土も皆、美くしくうるおおされて、松だの槇だのの葉は針の様に、椿や樫の葉はテラテラに輝いて居る …
身についた可能の発見(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今年はどんな一年として私たちに経験されてゆくだろう。 世界の動き、日本の動きは微妙複雑な程度を増しこそすれ、決して単調平坦な明け暮れがあろうとは思われない。婦人の生活も、世界的な波 …
読書目安時間:約4分
今年はどんな一年として私たちに経験されてゆくだろう。 世界の動き、日本の動きは微妙複雑な程度を増しこそすれ、決して単調平坦な明け暮れがあろうとは思われない。婦人の生活も、世界的な波 …
みのりを豊かに(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
やっと、ラジオの全波が聴けるということになった。 そのことが放送されたのは、九月下旬の或夜であった。田舎の家で、雑音だらけのラジオながら、熱心に九時のニュースをきき、世界の動きが身 …
読書目安時間:約8分
やっと、ラジオの全波が聴けるということになった。 そのことが放送されたのは、九月下旬の或夜であった。田舎の家で、雑音だらけのラジオながら、熱心に九時のニュースをきき、世界の動きが身 …
身ぶりならぬ慰めを(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
『輝ク』の慰問号を拝見して感じたことの第一は、人を慰める、特に平常と異った事情にある前線の将士を真実に慰めるということは、実に、むずかしいということです。『輝ク』のこの号の共通な感 …
読書目安時間:約2分
『輝ク』の慰問号を拝見して感じたことの第一は、人を慰める、特に平常と異った事情にある前線の将士を真実に慰めるということは、実に、むずかしいということです。『輝ク』のこの号の共通な感 …
「未亡人の手記」選後評(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
わたしのところに十三篇の原稿がまわされてきた。一つ一つと読んでゆくうちに、ぼんやり一つの疑問がおこった。こういうものについて「選をする」というのは、どういう意味をもつのだろうかと。 …
読書目安時間:約7分
わたしのところに十三篇の原稿がまわされてきた。一つ一つと読んでゆくうちに、ぼんやり一つの疑問がおこった。こういうものについて「選をする」というのは、どういう意味をもつのだろうかと。 …
未亡人への返事:未亡人はどう生きればよいか(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私たちが不幸から解放され、苦しみから生き抜いていく方法は、実に幾種類もあります。ちょうど私たち一人一人の顔つきも、声も、心もちも違うように——。 けれども、戦争と、それからひきおこ …
読書目安時間:約3分
私たちが不幸から解放され、苦しみから生き抜いていく方法は、実に幾種類もあります。ちょうど私たち一人一人の顔つきも、声も、心もちも違うように——。 けれども、戦争と、それからひきおこ …
脈々として(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」十一巻は、いまこそ、日本の読者のために、その翻訳を完結されなければならない。第七巻まで翻訳出版されたのが一九四〇年八月。兇悪な戦争 …
読書目安時間:約2分
ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」十一巻は、いまこそ、日本の読者のために、その翻訳を完結されなければならない。第七巻まで翻訳出版されたのが一九四〇年八月。兇悪な戦争 …
妙な子(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私は母からも又学課だけを教えて呉れる先生と云う人からも「妙な子」、「そだてにくいお子さん」と云われて居る。自分では何にも変なお子さんでも妙な子でもないつもりでもはたからそうして呉れ …
読書目安時間:約5分
私は母からも又学課だけを教えて呉れる先生と云う人からも「妙な子」、「そだてにくいお子さん」と云われて居る。自分では何にも変なお子さんでも妙な子でもないつもりでもはたからそうして呉れ …
未来を築く力(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
女のひとというものは道理がわからないものだ、そう思われるのが常識であった時代はすぎた。夏目漱石が「吾輩は猫である」のなかで、婦人の精神の低劣さを諷刺した文章は、今日、もう日本の女性 …
読書目安時間:約2分
女のひとというものは道理がわからないものだ、そう思われるのが常識であった時代はすぎた。夏目漱石が「吾輩は猫である」のなかで、婦人の精神の低劣さを諷刺した文章は、今日、もう日本の女性 …
観る人・観せられる人:観客の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
外国の映画がこれまでのように輸入されなくなったということが、日本映画の製作を刺戟して、優秀な作品のいくつかを生み、その水準も高めたというのは実際であるし、そういう外部的な事情をぬき …
読書目安時間:約6分
外国の映画がこれまでのように輸入されなくなったということが、日本映画の製作を刺戟して、優秀な作品のいくつかを生み、その水準も高めたというのは実際であるし、そういう外部的な事情をぬき …
民主戦線と文学者(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
一今日の日本において民主戦線統一は、単なる政治上のやりかたという以上に意味をもつと思います。一つの救国運動と思えます。 二戦争犯罪人を包括する政党に、人民の幸福を売ることを絶対にし …
読書目安時間:約1分
一今日の日本において民主戦線統一は、単なる政治上のやりかたという以上に意味をもつと思います。一つの救国運動と思えます。 二戦争犯罪人を包括する政党に、人民の幸福を売ることを絶対にし …
民法と道義上の責任(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
民法が改正されて、妻の人格がみとめられるようになった。 ふるい民法では、婦人が結婚して妻となると、無能力者になり、経済上の権利、親権その他で無能力とされていた。新しい民法は、婦人の …
読書目安時間:約2分
民法が改正されて、妻の人格がみとめられるようになった。 ふるい民法では、婦人が結婚して妻となると、無能力者になり、経済上の権利、親権その他で無能力とされていた。新しい民法は、婦人の …
昔の思い出(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
玄関の横の少し薄暗い四畳半、それは一寸茶室のような感じの、畳からすぐに窓のとってあるような、陰気な部屋だった。女学校へ通う子供の時分から、いつとはなしに、私はその部屋を自分の勉強部 …
読書目安時間:約5分
玄関の横の少し薄暗い四畳半、それは一寸茶室のような感じの、畳からすぐに窓のとってあるような、陰気な部屋だった。女学校へ通う子供の時分から、いつとはなしに、私はその部屋を自分の勉強部 …
昔の火事(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
こちとらは、タオルがスフになったばっかりでもうだつがあがらないが、この頃儲けている奴は、まったく思いもかけないようなところで儲けてるんだねえ。理髪屋の親方の碌三がそう云い出した。中 …
読書目安時間:約21分
こちとらは、タオルがスフになったばっかりでもうだつがあがらないが、この頃儲けている奴は、まったく思いもかけないようなところで儲けてるんだねえ。理髪屋の親方の碌三がそう云い出した。中 …
昔を今に:なすよしもなき馬鈴薯と綿(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三四日、風邪で臥ていた従妹が、きょうは起きて、赤い格子のエプロンをかけ、うれしそうにパンジーの鉢植をしている。 その縁側の外に立って、私はシャベルで縁の下の土を掬っては素焼の鉢にう …
読書目安時間:約4分
三四日、風邪で臥ていた従妹が、きょうは起きて、赤い格子のエプロンをかけ、うれしそうにパンジーの鉢植をしている。 その縁側の外に立って、私はシャベルで縁の下の土を掬っては素焼の鉢にう …
麦畑(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
○ 十日程前、自分は田舎の祖母の家に居た。畑は今丁度麦の刈込みや田の草取りでなかなか忙しい。碧く、高く、晴れ晴れと、まるで空に浮いて居る雲を追って起伏して居るような山々の下に、重い …
読書目安時間:約3分
○ 十日程前、自分は田舎の祖母の家に居た。畑は今丁度麦の刈込みや田の草取りでなかなか忙しい。碧く、高く、晴れ晴れと、まるで空に浮いて居る雲を追って起伏して居るような山々の下に、重い …
聟(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「——ただいま」 「おや、おかえんなさいまし」 詮吉が書類鞄をかかえたまま真直二階へあがろうとすると、唐紙のむこうから小母さんがそれを引止めるように声をかけた。 「——ハンカチをか …
読書目安時間:約8分
「——ただいま」 「おや、おかえんなさいまし」 詮吉が書類鞄をかかえたまま真直二階へあがろうとすると、唐紙のむこうから小母さんがそれを引止めるように声をかけた。 「——ハンカチをか …
矛盾とその害毒:憲法改正草案について(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
新聞に、憲法改正草案が発表されたとき、一番奇妙に感じたことは、「主権在民」と特別カッコの別見出しがつけられていたのに、天皇という項があって、その唯一人の者が九つの大権を与えられてい …
読書目安時間:約7分
新聞に、憲法改正草案が発表されたとき、一番奇妙に感じたことは、「主権在民」と特別カッコの別見出しがつけられていたのに、天皇という項があって、その唯一人の者が九つの大権を与えられてい …
矛盾の一形態としての諸文化組織(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
佐藤春夫氏の提唱によって、文芸懇話会の解散後「新日本文化の会」が出来た。同時に文部省が五十万円の補助金を出して、文部・外務・民間思想文化連合の統一体として財団法人「中央文化連盟」が …
読書目安時間:約6分
佐藤春夫氏の提唱によって、文芸懇話会の解散後「新日本文化の会」が出来た。同時に文部省が五十万円の補助金を出して、文部・外務・民間思想文化連合の統一体として財団法人「中央文化連盟」が …
無題(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云え …
読書目安時間:約11分
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云え …
無題(一)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
故国に居る父や母が、きっと此那物を送ったら喜ぶだろうと思ってわざわざ送って下さった種々の物、仮令其は如何那小さい物であろうと、私は恐らく両親の期待された以上の喜びを以て其を戴く。 …
読書目安時間:約3分
故国に居る父や母が、きっと此那物を送ったら喜ぶだろうと思ってわざわざ送って下さった種々の物、仮令其は如何那小さい物であろうと、私は恐らく両親の期待された以上の喜びを以て其を戴く。 …
無題(一)(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
旅人はまだ迷って居ます。暗い森から暗い森の中へと、雪は一寸もやまず木々の梢と落葉のつもった地面とをせっせとお化粧をして居ます。まだ十六にみたない若い旅人は母の最後にくれたキッスと村 …
読書目安時間:約42分
旅人はまだ迷って居ます。暗い森から暗い森の中へと、雪は一寸もやまず木々の梢と落葉のつもった地面とをせっせとお化粧をして居ます。まだ十六にみたない若い旅人は母の最後にくれたキッスと村 …
無題(九)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
○温室の石井を呼びつける、 m真中、右石井(若い方うなだれている)、左石井 草の工合をきいているが妙にからんで 「昨日よそへ行きましたら、カーネーションがのでんですっかりよく育って …
読書目安時間:約3分
○温室の石井を呼びつける、 m真中、右石井(若い方うなだれている)、左石井 草の工合をきいているが妙にからんで 「昨日よそへ行きましたら、カーネーションがのでんですっかりよく育って …
無題(五)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
鴎外全集第二巻雲中語を読む。 第一感じること。これは、明治三十年、新小説、文芸倶楽部などに発表された小説を、鴎外、露伴、緑雨、紅葉、思軒などがよって合評したものだ。現代の新潮合評の …
読書目安時間:約2分
鴎外全集第二巻雲中語を読む。 第一感じること。これは、明治三十年、新小説、文芸倶楽部などに発表された小説を、鴎外、露伴、緑雨、紅葉、思軒などがよって合評したものだ。現代の新潮合評の …
無題(三)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
彼と別れて居ると云う事は、日を経るに連れて、一層辛いものに成って来た。 二人が一緒に居た時には、彼女自身に想像も出来なかった、何かひどく狂暴な力が、嵐のように捲起って、時には、一夜 …
読書目安時間:約4分
彼と別れて居ると云う事は、日を経るに連れて、一層辛いものに成って来た。 二人が一緒に居た時には、彼女自身に想像も出来なかった、何かひどく狂暴な力が、嵐のように捲起って、時には、一夜 …
無題(三)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
未練も容謝もない様に、天から真直な大雨が降って居る。 静かな、煙る様な春雨も好いには違いないけれ共、斯うした男性的な雨も又好いものだ。 木端ぶきの書斎の屋根では、頭がへこむほどひど …
読書目安時間:約2分
未練も容謝もない様に、天から真直な大雨が降って居る。 静かな、煙る様な春雨も好いには違いないけれ共、斯うした男性的な雨も又好いものだ。 木端ぶきの書斎の屋根では、頭がへこむほどひど …
無題(十)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
三四日梅雨のように降りつづいた雨がひどい地震のあと晴れあがった。 五時すぎて夕方が迫っているのに雀がチクチチチと楽しそうに囀り、まだ濡れて軟かく重い青葉は眼に沁みる程蒼々として見え …
読書目安時間:約1分
三四日梅雨のように降りつづいた雨がひどい地震のあと晴れあがった。 五時すぎて夕方が迫っているのに雀がチクチチチと楽しそうに囀り、まだ濡れて軟かく重い青葉は眼に沁みる程蒼々として見え …
無題(十一)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
自分で書いたことの意味が、十年もたって一層ほんとにわかって来る面白さ。十年前に自分は、これからが作家としてむずかしくなる、土台よ、しっかりその重みにこたえろ、という意味をかいた。 …
読書目安時間:約1分
自分で書いたことの意味が、十年もたって一層ほんとにわかって来る面白さ。十年前に自分は、これからが作家としてむずかしくなる、土台よ、しっかりその重みにこたえろ、という意味をかいた。 …
無題(十三)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「道標」のため ○猿の毛皮矢はず形についだ茶色の猿の毛皮余りおもくなくて丈夫な ○ガローシをぬぐつぎに外套をぬぎすき間風をふせぐためにくびのまわりにまいているネッカチーフをとる。そ …
読書目安時間:約2分
「道標」のため ○猿の毛皮矢はず形についだ茶色の猿の毛皮余りおもくなくて丈夫な ○ガローシをぬぐつぎに外套をぬぎすき間風をふせぐためにくびのまわりにまいているネッカチーフをとる。そ …
無題(十二)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
○西側の腰高窓の床の間よりに机を出して坐った。そこからは灰色の雨雲が走る空の下に頂を濃い霧につつまれた小高い山とその手前の樹木の茂った丘陵とが見晴せた。狭い田圃をへだてたこちら側は …
読書目安時間:約4分
○西側の腰高窓の床の間よりに机を出して坐った。そこからは灰色の雨雲が走る空の下に頂を濃い霧につつまれた小高い山とその手前の樹木の茂った丘陵とが見晴せた。狭い田圃をへだてたこちら側は …
無題(七)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
時砲の玉みたいな製鉄炭酸瓦斯管が立って居る。水色エナメルの変圧器の上に日光がさした。その日光は窓枠の上に雑然と置かれたシクラメンの葉ばかりの鉢や、酸づけ玉菜の瓶をも照して居る。エミ …
読書目安時間:約4分
時砲の玉みたいな製鉄炭酸瓦斯管が立って居る。水色エナメルの変圧器の上に日光がさした。その日光は窓枠の上に雑然と置かれたシクラメンの葉ばかりの鉢や、酸づけ玉菜の瓶をも照して居る。エミ …
無題(二)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
十一月十九日 North Carolina と South Carolina との間を通る。 砂の多い、白く光る地面には、粗毛のような薄茶色の草が一杯に生えて、晩秋の日を吸いながら …
読書目安時間:約4分
十一月十九日 North Carolina と South Carolina との間を通る。 砂の多い、白く光る地面には、粗毛のような薄茶色の草が一杯に生えて、晩秋の日を吸いながら …
無題(二)(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
世間知らずで母親のわきの下からチラリチラリと限りなく広く又深いものの一部分をのぞいて赤くなって嬉しがったりおびえたりして居る私の様なものが、これから云う様な事を切り出すのはあんまり …
読書目安時間:約5分
世間知らずで母親のわきの下からチラリチラリと限りなく広く又深いものの一部分をのぞいて赤くなって嬉しがったりおびえたりして居る私の様なものが、これから云う様な事を切り出すのはあんまり …
無題(八)(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
松林、鎧戸を閉したヴィラの間を通って Hotel Hajek の庭日覆の下の卓で昼餐。地酒の冷した白葡萄酒、鮎に似た魚、野鴨の雛、美味いライス、プディングをたべた。 小さい門、リラ …
読書目安時間:約1分
松林、鎧戸を閉したヴィラの間を通って Hotel Hajek の庭日覆の下の卓で昼餐。地酒の冷した白葡萄酒、鮎に似た魚、野鴨の雛、美味いライス、プディングをたべた。 小さい門、リラ …
無題(四)(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ヘンリー・ライクロフトの私記の中に、 自分は、斯うやって卓子の上にある蜜も、蜜であるが故に喜んで味わう——ジョンソンが云った通り、文学的素養のある人間と無い人間とは、生者と死者ほど …
読書目安時間:約3分
ヘンリー・ライクロフトの私記の中に、 自分は、斯うやって卓子の上にある蜜も、蜜であるが故に喜んで味わう——ジョンソンが云った通り、文学的素養のある人間と無い人間とは、生者と死者ほど …
無題(四)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私は絶えず本を読まなければならないと云う心持がして居る。 一日の中一度も何の本も読まないで過ぎると、何だか当然取り入れなければならないものがすぐ手近かにあったのに、知らん振りをして …
読書目安時間:約2分
私は絶えず本を読まなければならないと云う心持がして居る。 一日の中一度も何の本も読まないで過ぎると、何だか当然取り入れなければならないものがすぐ手近かにあったのに、知らん振りをして …
無題(六)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私が見境いなくものを読みたがり出した頃は、山田美妙の作品など顧られない時代になって居た。一つも読んだことはないが、感情の表現を大体音声や言葉づかいの上に誇張して示したらしい。雲中語 …
読書目安時間:約2分
私が見境いなくものを読みたがり出した頃は、山田美妙の作品など顧られない時代になって居た。一つも読んだことはないが、感情の表現を大体音声や言葉づかいの上に誇張して示したらしい。雲中語 …
村からの娘(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
新年号の『文学評論』という雑誌に、平林英子さんの「一つの典型」という小説がのっていて時節柄私にいろいろの感想をいだかせた。 民子というプロレタリア文学の仕事をしている主婦のところへ …
読書目安時間:約9分
新年号の『文学評論』という雑誌に、平林英子さんの「一つの典型」という小説がのっていて時節柄私にいろいろの感想をいだかせた。 民子というプロレタリア文学の仕事をしている主婦のところへ …
村の三代(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三春富士と安達太郎山などの見えるところに昔大きい草地があった。そして、その草地で時々鎌戦さが行われた。あっち側からとこっち側からと草刈りに来る村人たちは大方領主がそれぞれちがってい …
読書目安時間:約4分
三春富士と安達太郎山などの見えるところに昔大きい草地があった。そして、その草地で時々鎌戦さが行われた。あっち側からとこっち側からと草刈りに来る村人たちは大方領主がそれぞれちがってい …
明治のランプ(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
母かたの祖母も父かたの祖母も長命な人たちであった。いずれも九十歳近くまで存生であったから、総領の孫娘である私は二人のおばあさんから、よく様々の昔話をきいた。母方の祖父も父方の祖父も …
読書目安時間:約5分
母かたの祖母も父かたの祖母も長命な人たちであった。いずれも九十歳近くまで存生であったから、総領の孫娘である私は二人のおばあさんから、よく様々の昔話をきいた。母方の祖父も父方の祖父も …
明瞭で誠実な情熱(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
来る二十一日から四日間にわたって日本ではじめての全国的な文化会議がもたれることになった。ポツダム宣言を受諾してから二周年、連合国憲章が出来てからも第二回の記念日を迎えた秋、私たちの …
読書目安時間:約4分
来る二十一日から四日間にわたって日本ではじめての全国的な文化会議がもたれることになった。ポツダム宣言を受諾してから二周年、連合国憲章が出来てからも第二回の記念日を迎えた秋、私たちの …
メーデーぎらい(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
憲法が改正された。すべての日本人は、男女、身分の差別なく法律の前には平等であるという立て前による憲法が出来た。民主憲法といわれる根拠は、その前文に、主権は人民に在る、といわれている …
読書目安時間:約3分
憲法が改正された。すべての日本人は、男女、身分の差別なく法律の前には平等であるという立て前による憲法が出来た。民主憲法といわれる根拠は、その前文に、主権は人民に在る、といわれている …
メーデーと婦人の生活(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
こんにちは、五月一日、メーデーです。世界のあらゆる国々の働く男女が、現在の要求と未来の希望とをかかげて、堂々と行進する日です。国によっていくらか時間のちがいはありますけれども、アメ …
読書目安時間:約7分
こんにちは、五月一日、メーデーです。世界のあらゆる国々の働く男女が、現在の要求と未来の希望とをかかげて、堂々と行進する日です。国によっていくらか時間のちがいはありますけれども、アメ …
メーデーに歌う(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
四月の末だのに、初夏のようにむし暑い。すっかり開けはなして夜の庭に向った座敷のラジオがメーデーの歌の指導をしている。 きけ、万国の労働者 とどろきわたるメーデーの ハイ、と一節ずつ …
読書目安時間:約8分
四月の末だのに、初夏のようにむし暑い。すっかり開けはなして夜の庭に向った座敷のラジオがメーデーの歌の指導をしている。 きけ、万国の労働者 とどろきわたるメーデーの ハイ、と一節ずつ …
メーデーに備えろ(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
各地方支部婦人同盟員及び婦人サークル員諸君! いよいよもう数日でメーデーだ。私達はこの日が労働者農民一切の勤労者にとって、どんな意義をもった日であるかはいろいろな機会に学んで来てい …
読書目安時間:約4分
各地方支部婦人同盟員及び婦人サークル員諸君! いよいよもう数日でメーデーだ。私達はこの日が労働者農民一切の勤労者にとって、どんな意義をもった日であるかはいろいろな機会に学んで来てい …
芽生(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間23分
鴨 青々した草原と葦の生えた沼をしたって男鴨は思わず玉子色の足をつまだてて羽ばたきをした。幾度来てもキット猫か犬に殺されるものときまった様な自分の女房は十日ほど前にまっくろな目ばか …
読書目安時間:約1時間23分
鴨 青々した草原と葦の生えた沼をしたって男鴨は思わず玉子色の足をつまだてて羽ばたきをした。幾度来てもキット猫か犬に殺されるものときまった様な自分の女房は十日ほど前にまっくろな目ばか …
目をあいて見る(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理 …
読書目安時間:約2分
帝銀事件として、帝国銀行椎名町支店におこった全行員から小使一家までの毒殺事件は、意味のわからないほど惨酷な毒殺方法で、すべての人の心を寒くした。犯人の目星がついた、つかないと、推理 …
面積の厚み(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
或る年の冬が、もう少しで春と入れ換ろうとしていたある朝のことである。 A小学校の、古びた二階建の一番西端れの教室では、もう一ヵ月ほどのうちに義務教育を終ろうとしてい、引き続き入学す …
読書目安時間:約15分
或る年の冬が、もう少しで春と入れ換ろうとしていたある朝のことである。 A小学校の、古びた二階建の一番西端れの教室では、もう一ヵ月ほどのうちに義務教育を終ろうとしてい、引き続き入学す …
もう少しの親切を(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
近頃、またひとしきり恋愛論が盛になって来ている。どの雑誌にもそういうような論文や座談会の話が出ている。そして、この雑誌も、数頁をそれのために費そうとしているのであるが、私の心には、 …
読書目安時間:約5分
近頃、またひとしきり恋愛論が盛になって来ている。どの雑誌にもそういうような論文や座談会の話が出ている。そして、この雑誌も、数頁をそれのために費そうとしているのであるが、私の心には、 …
文字のある紙片(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
「あの事があってから、もう三ヵ月になる。けれども、私の心持は当時にくらべてちょっとも明るくなっていない。それどころか、却って陰鬱さを増しているとさえ云える有様だ。今日のような天気の …
読書目安時間:約6分
「あの事があってから、もう三ヵ月になる。けれども、私の心持は当時にくらべてちょっとも明るくなっていない。それどころか、却って陰鬱さを増しているとさえ云える有様だ。今日のような天気の …
モスクワ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
三時すぎるともう日が暮れかかって、並木道にアーク燈が燦きはじめ、家路をいそぐ勤め帰りの人々の姿が雪の上に黒く動く。夕方の散歩もアーク燈にてらされた雪の並木路で、くるくるにくるまれた …
読書目安時間:約3分
三時すぎるともう日が暮れかかって、並木道にアーク燈が燦きはじめ、家路をいそぐ勤め帰りの人々の姿が雪の上に黒く動く。夕方の散歩もアーク燈にてらされた雪の並木路で、くるくるにくるまれた …
モスクワ印象記(新字新仮名)
読書目安時間:約42分
トゥウェルスカヤの大通を左へ入る。かどの中央出版所にはトルキスタン文字の出版広告がはりだされ、午後は、飾窓に通行人がたかって人間と猫の内臓模型をあかず眺める。緑色の円い韃靼帽をかぶ …
読書目安時間:約42分
トゥウェルスカヤの大通を左へ入る。かどの中央出版所にはトルキスタン文字の出版広告がはりだされ、午後は、飾窓に通行人がたかって人間と猫の内臓模型をあかず眺める。緑色の円い韃靼帽をかぶ …
モスクワ日記から:新しい社会の母(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
一九三〇年九月×日。 予約出版物の用事で「アガニョーク」社へ出かけた。白樺の粗末な板塀についた切り戸から入るようになっている。(普請中で。) この間は人足が泥をほじっていた横の空地 …
読書目安時間:約11分
一九三〇年九月×日。 予約出版物の用事で「アガニョーク」社へ出かけた。白樺の粗末な板塀についた切り戸から入るようになっている。(普請中で。) この間は人足が泥をほじっていた横の空地 …
モスクワの姿:あちらのクリスマス(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
モスクワに着いてやっと十日めだ。 一九二七年のクリスマスの朝だが、どういうことがあるのか自分たちには見当がつかない。 ソヴェト同盟で、街じゅうが赤旗で飾られるのは春のメー・デー、十 …
読書目安時間:約4分
モスクワに着いてやっと十日めだ。 一九二七年のクリスマスの朝だが、どういうことがあるのか自分たちには見当がつかない。 ソヴェト同盟で、街じゅうが赤旗で飾られるのは春のメー・デー、十 …
モスクワの辻馬車(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
強い勢いで扉が内側からあけられた。ともしびがサッと広く歩道へさした。が、そこから出て来たのは案外小さい一人の女だった。 歩道に沿って二台辻馬車が停っている。後の一台では御者が居眠り …
読書目安時間:約17分
強い勢いで扉が内側からあけられた。ともしびがサッと広く歩道へさした。が、そこから出て来たのは案外小さい一人の女だった。 歩道に沿って二台辻馬車が停っている。後の一台では御者が居眠り …
「モダン猿蟹合戦」(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
二日ばかり前のことです。用事があって下町へ出かけ、日本橋白木屋の前を通りがかった。いつも人出の多いところだが、今日は又一段と雑踏だ。白木屋の飾窓のまわりが大変な混雑なのです。 何か …
読書目安時間:約15分
二日ばかり前のことです。用事があって下町へ出かけ、日本橋白木屋の前を通りがかった。いつも人出の多いところだが、今日は又一段と雑踏だ。白木屋の飾窓のまわりが大変な混雑なのです。 何か …
求め得られる幸福:今こそ婦人の統一を(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
今日は世界の婦人が平和と生活の安定のために手をつなぎあって働いていますが、私たち日本の婦人こそもっとも積極的に平和のため闘う立場にあります。なぜなら、こんどの戦争でもっともいためつ …
読書目安時間:約4分
今日は世界の婦人が平和と生活の安定のために手をつなぎあって働いていますが、私たち日本の婦人こそもっとも積極的に平和のため闘う立場にあります。なぜなら、こんどの戦争でもっともいためつ …
ものわかりよさ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
昔から女にもとめられている日常の美徳の一つに、ものわかりのよさ、ということがある。 とかく女が狭い生活にとじこめられていたために、人生の視野がせばまって、我執だの偏執だのが女につき …
読書目安時間:約12分
昔から女にもとめられている日常の美徳の一つに、ものわかりのよさ、ということがある。 とかく女が狭い生活にとじこめられていたために、人生の視野がせばまって、我執だの偏執だのが女につき …
モラトリアム質疑(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
噂の方が先に来ていたモラトリアムが遂に始った。発表後第一日である昨日の新聞紙にはモラトリアム案内の記事が満載された。月給現金最高五〇〇円、一ヵ月に預金払戻し世帯主三〇〇円と家族一人 …
読書目安時間:約4分
噂の方が先に来ていたモラトリアムが遂に始った。発表後第一日である昨日の新聞紙にはモラトリアム案内の記事が満載された。月給現金最高五〇〇円、一ヵ月に預金払戻し世帯主三〇〇円と家族一人 …
夜叉のなげき(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
『文学界』に告知板というところがある。毎号そこにいろいろな作家が短い自由な感想をのせているのであるが、九月号のその雑誌に「新胎」を書かれた舟橋聖一氏も、本月はこの欄に一文をよせてお …
読書目安時間:約8分
『文学界』に告知板というところがある。毎号そこにいろいろな作家が短い自由な感想をのせているのであるが、九月号のその雑誌に「新胎」を書かれた舟橋聖一氏も、本月はこの欄に一文をよせてお …
山崎富栄の日記をめぐって(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
芥川龍之介が自分の才能とか学識を越えて社会と文学そのものの大きい変化と発展を見通して、そこから来る漠然とした不安を感じて死んだのと、太宰氏の生涯の終り方とは、まったく別種のものです …
読書目安時間:約1分
芥川龍之介が自分の才能とか学識を越えて社会と文学そのものの大きい変化と発展を見通して、そこから来る漠然とした不安を感じて死んだのと、太宰氏の生涯の終り方とは、まったく別種のものです …
山の彼方は:常識とはどういうものだろう(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
よく、あの人は常識があるとか、常識がないとかいう。生活の普通の言葉として、私たちが使っている常識というのは、どういうものなのだろう。 世間普通に、誰でも知っているはずのいろいろなこ …
読書目安時間:約14分
よく、あの人は常識があるとか、常識がないとかいう。生活の普通の言葉として、私たちが使っている常識というのは、どういうものなのだろう。 世間普通に、誰でも知っているはずのいろいろなこ …
山本有三氏の境地(新字新仮名)
読書目安時間:約33分
今日、山本有三氏の読者というものは、随分ひろい社会の各層に存在していることであろうと思う。 大仏次郎氏などの作品も、吉屋信子氏が読まれるとは別のところに多くの読者をもっていることで …
読書目安時間:約33分
今日、山本有三氏の読者というものは、随分ひろい社会の各層に存在していることであろうと思う。 大仏次郎氏などの作品も、吉屋信子氏が読まれるとは別のところに多くの読者をもっていることで …
郵便切手(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
これまで、郵便切手というものは、私たちのつましい生活と深いつながりのある親しみぶかいものであった。三銭の切手一枚で封書が出せた頃、あのうす桃色の小さい四角い切手は、都会に暮している …
読書目安時間:約7分
これまで、郵便切手というものは、私たちのつましい生活と深いつながりのある親しみぶかいものであった。三銭の切手一枚で封書が出せた頃、あのうす桃色の小さい四角い切手は、都会に暮している …
湯ヶ島の数日(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
湯ヶ島へ出立。 すっかり仕度が出来上ったが余り時間がない。俥でことこと行くよりはと、フダーヤ老松町の通へ空車を捕えに出た。早朝なのでなし。かえって、一台だけ来た人力車にのって先へ出 …
読書目安時間:約4分
湯ヶ島へ出立。 すっかり仕度が出来上ったが余り時間がない。俥でことこと行くよりはと、フダーヤ老松町の通へ空車を捕えに出た。早朝なのでなし。かえって、一台だけ来た人力車にのって先へ出 …
ゆがめられた純情(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
上海事変も満洲事変も戦争という点で少しも違いがありません。だから私達はこの二つを区別せずに、同じものとして視ています。勿論私達は帝国主義戦争には絶対反対です。しかしこれは資本主義第 …
読書目安時間:約1分
上海事変も満洲事変も戦争という点で少しも違いがありません。だから私達はこの二つを区別せずに、同じものとして視ています。勿論私達は帝国主義戦争には絶対反対です。しかしこれは資本主義第 …
行方不明の処女作(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
活字となって雑誌に発表された処女作の前に、忘れることの出来ない、もう一つの小説がある。 私は小学校の一二年の頃から、うちにあった小さいオルガンを弾きおぼえ、五年生時分には自分の好き …
読書目安時間:約6分
活字となって雑誌に発表された処女作の前に、忘れることの出来ない、もう一つの小説がある。 私は小学校の一二年の頃から、うちにあった小さいオルガンを弾きおぼえ、五年生時分には自分の好き …
逝けるマクシム・ゴーリキイ(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
一人の人間として最も誠実な心から人類の生活の向上と発展とを信頼し、そのために永い困難な芸術家としての努力を捧げたマクシム・ゴーリキイの六十八年の輝きある生涯は、この六月遂に終った。 …
読書目安時間:約17分
一人の人間として最も誠実な心から人類の生活の向上と発展とを信頼し、そのために永い困難な芸術家としての努力を捧げたマクシム・ゴーリキイの六十八年の輝きある生涯は、この六月遂に終った。 …
譲原昌子さんについて(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
三月十五日に発行された文学新聞に、無名戦士の墓へ合葬された人々の氏名が発表されていた。そのなかに、譲原昌子という名をみたとき、わたしははげしいショックをうけた。今年の一月十二日に亡 …
読書目安時間:約4分
三月十五日に発行された文学新聞に、無名戦士の墓へ合葬された人々の氏名が発表されていた。そのなかに、譲原昌子という名をみたとき、わたしははげしいショックをうけた。今年の一月十二日に亡 …
「夜明け前」についての私信:池田寿夫宛私信の一部(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
(前略) 藤村がフランスにいた間に、十九世紀というものを世界的な感情で感得し、日本の十九世紀というものを描きたく思ったということ。そして、十九世紀を維新後と徳川時代との区切りで見ず …
読書目安時間:約6分
(前略) 藤村がフランスにいた間に、十九世紀というものを世界的な感情で感得し、日本の十九世紀というものを描きたく思ったということ。そして、十九世紀を維新後と徳川時代との区切りで見ず …
宵(一幕)(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
人物 中西良三(小児科医)三十四歳 同やす子(良三の妻)二十三歳 同つや子(彼等の幼児)二つ たみ(子守女)十七歳 書生 所 東京市内静かな山の手 時 現代或る秋の宵 幕開く 中西 …
読書目安時間:約18分
人物 中西良三(小児科医)三十四歳 同やす子(良三の妻)二十三歳 同つや子(彼等の幼児)二つ たみ(子守女)十七歳 書生 所 東京市内静かな山の手 時 現代或る秋の宵 幕開く 中西 …
ようか月の晩(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
夜、銀座などを歩いていると、賑やかに明るい店の直ぐ傍から、いきなり真闇なこわい横丁が見えることがあるでしょう。これから話すお婆さんは、ああいう横町を、どこ迄もどこ迄も真直に行って、 …
読書目安時間:約7分
夜、銀座などを歩いていると、賑やかに明るい店の直ぐ傍から、いきなり真闇なこわい横丁が見えることがあるでしょう。これから話すお婆さんは、ああいう横町を、どこ迄もどこ迄も真直に行って、 …
「揚子江」(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
パール・バック夫人が主として中国人の生活を描いているのに対して、アリス・ホバード夫人は「揚子江」で、中国における白人の生活と闘争とを描いている。そして、この二人の作家は、永年に亙る …
読書目安時間:約4分
パール・バック夫人が主として中国人の生活を描いているのに対して、アリス・ホバード夫人は「揚子江」で、中国における白人の生活と闘争とを描いている。そして、この二人の作家は、永年に亙る …
「洋装か和装か」への回答(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日本服も洋服も、本ものなら負けず劣らず美しいからすきです。 自分がきるのでは、現在の自己の環境のために和装一方です。 〔一九二五年一月〕 …
読書目安時間:約1分
日本服も洋服も、本ものなら負けず劣らず美しいからすきです。 自分がきるのでは、現在の自己の環境のために和装一方です。 〔一九二五年一月〕 …
洋服と和服(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
①洋服暮しをしたことがありますがこの頃はずっと和服ばかりです。 ②外国旅行をしたときに着はじめ、後は只身軽さということだけで着て居りました。 ③其麼工合故、礼装がなくて、儀式のとき …
読書目安時間:約1分
①洋服暮しをしたことがありますがこの頃はずっと和服ばかりです。 ②外国旅行をしたときに着はじめ、後は只身軽さということだけで着て居りました。 ③其麼工合故、礼装がなくて、儀式のとき …
夜寒(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
めっきり夜寒になった。 かなり長い廊下を素足で歩きにくくなった。 昼ま、出して置いた六六鉢の西洋葵を入れずに雨戸をしめた事を思い出した。 たった五六本ほかなく、それも黄ない葉が多く …
読書目安時間:約2分
めっきり夜寒になった。 かなり長い廊下を素足で歩きにくくなった。 昼ま、出して置いた六六鉢の西洋葵を入れずに雨戸をしめた事を思い出した。 たった五六本ほかなく、それも黄ない葉が多く …
葭の影にそえて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昨年の六月母が逝いて後、私たちの念願は生前母が書きのこしていた様々の思い出や日記類を、一年祭までにとりまとめ一冊の本として記念したいと云う事であった。 生前母は文筆を好んだ。若い頃 …
読書目安時間:約3分
昨年の六月母が逝いて後、私たちの念願は生前母が書きのこしていた様々の思い出や日記類を、一年祭までにとりまとめ一冊の本として記念したいと云う事であった。 生前母は文筆を好んだ。若い頃 …
予選通過作品選評(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
「水中の町」モチズキヨシ 全体メロドラマ的にあつかわれすぎている。ヤミ屋の親分、子分、水中の町の顔役、その結たくがたて糸となっていて町のあたりまえの人たちの水中生活の姿が浮び出ない …
読書目安時間:約2分
「水中の町」モチズキヨシ 全体メロドラマ的にあつかわれすぎている。ヤミ屋の親分、子分、水中の町の顔役、その結たくがたて糸となっていて町のあたりまえの人たちの水中生活の姿が浮び出ない …
読み落した古典作品(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
私などは読みおとすというところまで参らず、土台読まないのや知らないのだらけであると思います。文学史的に古典をよむということは私の場合大変おくれて必要から学んだので、さかのぼるのはい …
読書目安時間:約1分
私などは読みおとすというところまで参らず、土台読まないのや知らないのだらけであると思います。文学史的に古典をよむということは私の場合大変おくれて必要から学んだので、さかのぼるのはい …
嫁入前の現代女性に是非読んで貰いたい書籍(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
常識を働かせ、実際的な立場から考えると、性、育児教育等に関するよい書物も必要でしょう。私には一々指名出来ません。心の上から行くと頭に浮ぶだけでも、夏目漱石の「行人」「それから」「門 …
読書目安時間:約1分
常識を働かせ、実際的な立場から考えると、性、育児教育等に関するよい書物も必要でしょう。私には一々指名出来ません。心の上から行くと頭に浮ぶだけでも、夏目漱石の「行人」「それから」「門 …
よもの眺め(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
この数年の間、私たちは全く外国文学から遮断されて暮して来た。 第一次欧州大戦の後、ヨーロッパの文学が、どんなに変化したかということについては、或る程度知ることが出来ていた。けれども …
読書目安時間:約7分
この数年の間、私たちは全く外国文学から遮断されて暮して来た。 第一次欧州大戦の後、ヨーロッパの文学が、どんなに変化したかということについては、或る程度知ることが出来ていた。けれども …
夜(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
青銅の扉に秘密を閉して もだせる夜の厳さよ! 万物はかたずのみて 闇に立ち迷う奇蹟をながめ 故知らぬ暗示に胸をとどろかす 偉なるかな! 奇なるかな! 生あるものは総てかく低唱しつつ …
読書目安時間:約1分
青銅の扉に秘密を閉して もだせる夜の厳さよ! 万物はかたずのみて 闇に立ち迷う奇蹟をながめ 故知らぬ暗示に胸をとどろかす 偉なるかな! 奇なるかな! 生あるものは総てかく低唱しつつ …
夜の若葉(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
桃子の座席から二列ばかり先が、ちょうどその二階座席へ通じる入り口の階段になっていた。もう開演時間の迫っている今は、後から後から込んでいかにも音楽会らしい色彩の溢れたおとなしい活気の …
読書目安時間:約25分
桃子の座席から二列ばかり先が、ちょうどその二階座席へ通じる入り口の階段になっていた。もう開演時間の迫っている今は、後から後から込んでいかにも音楽会らしい色彩の溢れたおとなしい活気の …
余録(一九二四年より)(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
余録 菅公を讒言して太宰の権帥にした、基経の大臣の太郎、左大臣時平は、悪逆無道の大男のように思われて居る。 小学歴史で読んだ時から、清くやせた菅原道真に対して、グロテスクな四十男が …
読書目安時間:約4分
余録 菅公を讒言して太宰の権帥にした、基経の大臣の太郎、左大臣時平は、悪逆無道の大男のように思われて居る。 小学歴史で読んだ時から、清くやせた菅原道真に対して、グロテスクな四十男が …
よろこびの挨拶(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
人間が、人間らしく幸福に住むためには、どの位の空間がいるものでしょう。そして、その空間は、今日の社会の進歩と自然の条件とに対して、健全に人間を休ませ、活動させるためには、どんな備え …
読書目安時間:約4分
人間が、人間らしく幸福に住むためには、どの位の空間がいるものでしょう。そして、その空間は、今日の社会の進歩と自然の条件とに対して、健全に人間を休ませ、活動させるためには、どんな備え …
よろこびはその道から(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
夕暮 仕事につかれ 「赤と黒」とを手にもって 縁側に腰かけている きょうも空しいままに暮れた わがよろこびの小径を眺めながら。 松の木と木の間をぬけて 草道はうねり あっちの林へ消 …
読書目安時間:約1分
夕暮 仕事につかれ 「赤と黒」とを手にもって 縁側に腰かけている きょうも空しいままに暮れた わがよろこびの小径を眺めながら。 松の木と木の間をぬけて 草道はうねり あっちの林へ消 …
四十代の主婦に美しい人は少い(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
この事は、私によくわかりません。普通云うような総括的な標準によれば、最も女性として成熟の頂点に達した二十二、三歳以後、三十四、五歳の間とでも云うのでしょうが、私として、そう定めてか …
読書目安時間:約1分
この事は、私によくわかりません。普通云うような総括的な標準によれば、最も女性として成熟の頂点に達した二十二、三歳以後、三十四、五歳の間とでも云うのでしょうが、私として、そう定めてか …
「ラジオ黄金時代」の底潮(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
現代ヨーロッパ文学には、ラジオや飛行機が様々の形でとりいれられ、スピードや空間の征服やそれによる人間の心理の複雑化などが語られている。 日本でもラジオは文学に反映しているが、最近東 …
読書目安時間:約12分
現代ヨーロッパ文学には、ラジオや飛行機が様々の形でとりいれられ、スピードや空間の征服やそれによる人間の心理の複雑化などが語られている。 日本でもラジオは文学に反映しているが、最近東 …
ラジオ時評(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
ラジオの生活性 ラジオは誰でも毎日耳で聴いているものだ、ということについて、今日ラジオを送り出す方の側の人々は、どんな感覚をもっているのだろうか。 私たちがラジオを自分たちの耳で聴 …
読書目安時間:約4分
ラジオの生活性 ラジオは誰でも毎日耳で聴いているものだ、ということについて、今日ラジオを送り出す方の側の人々は、どんな感覚をもっているのだろうか。 私たちがラジオを自分たちの耳で聴 …
リアルな方法とは(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ついこの頃、科学の仕事をしている友人から大変興味のある話をきいた。それは植物の分類に関することで、従来の分類は、目で見えるだけの葉っぱの形、花の形、実の工合などが目安でされていた。 …
読書目安時間:約3分
ついこの頃、科学の仕事をしている友人から大変興味のある話をきいた。それは植物の分類に関することで、従来の分類は、目で見えるだけの葉っぱの形、花の形、実の工合などが目安でされていた。 …
離婚について(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
結婚と離婚の問題から「家」の権威がとりのぞかれるようになって来ているということは、日本の社会の歴史にとって、実に大きい意味をもっている。「家」というものを、やかましくいう中国でも、 …
読書目安時間:約16分
結婚と離婚の問題から「家」の権威がとりのぞかれるようになって来ているということは、日本の社会の歴史にとって、実に大きい意味をもっている。「家」というものを、やかましくいう中国でも、 …
良書紹介(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
China : The March Toward Unity, by Mao Tse-Tung & others. Red Star over China, by E. Snow. …
読書目安時間:約1分
China : The March Toward Unity, by Mao Tse-Tung & others. Red Star over China, by E. Snow. …
両輪:創造と評論活動の問題(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
十一月一日から三日の間、新日本文学会の第三回大会がもたれた。こんどの大会は、各専門部会の報告、中央委員会報告、各地方支部、文学サークル協議会の報告で、充実したプログラムであった。第 …
読書目安時間:約18分
十一月一日から三日の間、新日本文学会の第三回大会がもたれた。こんどの大会は、各専門部会の報告、中央委員会報告、各地方支部、文学サークル協議会の報告で、充実したプログラムであった。第 …
ルポルタージュの読後感(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
今月、私のところへ送られて来た原稿は全部で十篇でありましたが、その殆どが、働いている女性の生活記録であり、さもなければ外に出て働いていなくても家庭で無くてはならない人として暮してい …
読書目安時間:約6分
今月、私のところへ送られて来た原稿は全部で十篇でありましたが、その殆どが、働いている女性の生活記録であり、さもなければ外に出て働いていなくても家庭で無くてはならない人として暮してい …
歴史と文学(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
文学と歴史とのいきさつは、極めて多面で動的で、相互の連関の間に消長して行っているのが実際だと思う。 この頃は、世界が一つの大きい転換に立っているということから、おのずから歴史への関 …
読書目安時間:約4分
文学と歴史とのいきさつは、極めて多面で動的で、相互の連関の間に消長して行っているのが実際だと思う。 この頃は、世界が一つの大きい転換に立っているということから、おのずから歴史への関 …
歴史の落穂:鴎外・漱石・荷風の婦人観にふれて(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
森鴎外には、何人かの子供さんたちのうちに二人のお嬢さんがあった。茉莉と杏奴というそれぞれ独特の女らしい美しい名を父上から貰っておられる。杏奴さんは小堀杏奴として、いわば自分の咲き出 …
読書目安時間:約18分
森鴎外には、何人かの子供さんたちのうちに二人のお嬢さんがあった。茉莉と杏奴というそれぞれ独特の女らしい美しい名を父上から貰っておられる。杏奴さんは小堀杏奴として、いわば自分の咲き出 …
列のこころ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を …
読書目安時間:約11分
このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を …
蓮花図(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
志賀直哉氏編、座右宝の中に、除熙の作と伝えられている蓮花図がある。蓮池に白鷺が遊んでいるところを描いたものだが、花をつけた蓮に比べて白鷺が大変小さいように描いてある。いかにも大きく …
読書目安時間:約6分
志賀直哉氏編、座右宝の中に、除熙の作と伝えられている蓮花図がある。蓮池に白鷺が遊んでいるところを描いたものだが、花をつけた蓮に比べて白鷺が大変小さいように描いてある。いかにも大きく …
労働者農民の国家とブルジョア地主の国家:ソヴェト同盟の国家体制と日本の国家体制(新字新仮名)
読書目安時間:約54分
はしがき 一、現在のソ同盟の労働者・農民の生活 二、ソヴェト同盟の兄弟たちは、どんな闘争を通じて勝利を得たのか 三、ソヴェト同盟の国家体制と日本の国家体制 はしがき 去る九月十八日 …
読書目安時間:約54分
はしがき 一、現在のソ同盟の労働者・農民の生活 二、ソヴェト同盟の兄弟たちは、どんな闘争を通じて勝利を得たのか 三、ソヴェト同盟の国家体制と日本の国家体制 はしがき 去る九月十八日 …
『労働戦線』小説選後評(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
四十篇の原稿のなかから新日本文学会の書記局で予選された二十篇をよんだ。そのどれもが、それぞれかかれた環境においてのねうちをもっていて、等級をつけるのがむずかしかった。同時にそのこと …
読書目安時間:約2分
四十篇の原稿のなかから新日本文学会の書記局で予選された二十篇をよんだ。そのどれもが、それぞれかかれた環境においてのねうちをもっていて、等級をつけるのがむずかしかった。同時にそのこと …
ロシア革命は婦人を解放した:口火を切った婦人デーの闘い(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
皇帝と地主と資本家によって搾取が行われていた時代、ロシアの勤労階級の男は、教会の坊主から常に「お前らが此世でつかえなければならない主人は三人ある」と説教されていた。その三人の主人と …
読書目安時間:約5分
皇帝と地主と資本家によって搾取が行われていた時代、ロシアの勤労階級の男は、教会の坊主から常に「お前らが此世でつかえなければならない主人は三人ある」と説教されていた。その三人の主人と …
ロシアの過去を物語る革命博物館を観る(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
一月のある寒い日のことだ。 革命博物館見物に出かける。モスクワでは、東京の銀座のような賑やかな通りトゥウェルスカヤ通りをずっと行って、イズヴェスチア新聞社の高い時計台、詩人プーシキ …
読書目安時間:約6分
一月のある寒い日のことだ。 革命博物館見物に出かける。モスクワでは、東京の銀座のような賑やかな通りトゥウェルスカヤ通りをずっと行って、イズヴェスチア新聞社の高い時計台、詩人プーシキ …
露西亜の実生活(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
作家の生活費は収入で決まる ソヴェト露西亜の実生活については種々反動的なデマゴーグが拡まっているが、実際内部へ入って見れば、年々状態は好くなって来るし、一九二八年——まして一九三三 …
読書目安時間:約4分
作家の生活費は収入で決まる ソヴェト露西亜の実生活については種々反動的なデマゴーグが拡まっているが、実際内部へ入って見れば、年々状態は好くなって来るし、一九二八年——まして一九三三 …
ロシアの旅より(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
九月十四日の夜モスクヷァを立ち今日(十六日)はヴォルガ河を下って居ります。モスクヷァを立つときはステーションが間違って本当に自分の汽車の出るステーションへついたらもう出るばかり、ほ …
読書目安時間:約2分
九月十四日の夜モスクヷァを立ち今日(十六日)はヴォルガ河を下って居ります。モスクヷァを立つときはステーションが間違って本当に自分の汽車の出るステーションへついたらもう出るばかり、ほ …
ロシヤに行く心(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
こんど同行する湯浅芳子さんは七月頃既に旅券が下附されていたのだが、私が行くとも行かぬともはっきり態度が決らなかったので湯浅さんも延び延びになっていたのです。然し私もロシヤへは以前か …
読書目安時間:約3分
こんど同行する湯浅芳子さんは七月頃既に旅券が下附されていたのだが、私が行くとも行かぬともはっきり態度が決らなかったので湯浅さんも延び延びになっていたのです。然し私もロシヤへは以前か …
ロンドン一九二九年(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間1分
手提鞄の右肩に赤白の円い飛行会社のレベルがはられた。「航空ユニオン。27」廻転するプロペラーの速力を視覚に印象させるような配列法でこまかく、赤白、赤白。 巴里。ロンドン。リオン。マ …
読書目安時間:約1時間1分
手提鞄の右肩に赤白の円い飛行会社のレベルがはられた。「航空ユニオン。27」廻転するプロペラーの速力を視覚に印象させるような配列法でこまかく、赤白、赤白。 巴里。ロンドン。リオン。マ …
ワーニカとターニャ(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
黄色いモスクワ大学の建物が、雪の中に美しく見える。凍った鉄柵に古本屋が本を並べてる。 狭い歩道をいっぱい通行人だ。電車が通る。自動車が通る。 モスクワ大学のいくつもある門を出たり入 …
読書目安時間:約6分
黄色いモスクワ大学の建物が、雪の中に美しく見える。凍った鉄柵に古本屋が本を並べてる。 狭い歩道をいっぱい通行人だ。電車が通る。自動車が通る。 モスクワ大学のいくつもある門を出たり入 …
若い世代の実際性(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
男にとっても女にとっても結婚がむずかしい時代になって来ている。一般的にいえばこれはきのうきょうの現象ではなくて、この十年ぐらいの間にだんだんたかまって来ていることなのだが、この頃の …
読書目安時間:約4分
男にとっても女にとっても結婚がむずかしい時代になって来ている。一般的にいえばこれはきのうきょうの現象ではなくて、この十年ぐらいの間にだんだんたかまって来ていることなのだが、この頃の …
若い世代のための日本古典研究:『清少納言とその文学』(関みさを著)(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。旧来の国文学は専門家の間にどこまでも鑑賞、故実穿鑿の態度で持ち来されていて、推移する文化の科学的な足ど …
読書目安時間:約2分
国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。旧来の国文学は専門家の間にどこまでも鑑賞、故実穿鑿の態度で持ち来されていて、推移する文化の科学的な足ど …
若い母親(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
今朝、茶の間へおりて行ったら、いつものように餉台の上に新聞だの手紙だのがかさねておいてあって、朝の日かげがすがすがしい。裏から勢のいい洗濯の水音がしている。それをききながら、来てい …
読書目安時間:約7分
今朝、茶の間へおりて行ったら、いつものように餉台の上に新聞だの手紙だのがかさねておいてあって、朝の日かげがすがすがしい。裏から勢のいい洗濯の水音がしている。それをききながら、来てい …
若い人たちの意志(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
ゆたかに、より能力のある人生を、というこころもちから、このごろの十代の人たちはどう生きているか、そして、どう生きようと欲しているか、という問題について注目されはじめている。 これは …
読書目安時間:約10分
ゆたかに、より能力のある人生を、というこころもちから、このごろの十代の人たちはどう生きているか、そして、どう生きようと欲しているか、という問題について注目されはじめている。 これは …
若い婦人のための書棚(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
私たちのまわりには何と沢山の本があることだろう。ほとんどおそろしいほどどっさり本がある。けれども、私たちがそれを読む時間も金も限られており、何かの形でまとまった系統を立てて、ごく毎 …
読書目安時間:約17分
私たちのまわりには何と沢山の本があることだろう。ほとんどおそろしいほどどっさり本がある。けれども、私たちがそれを読む時間も金も限られており、何かの形でまとまった系統を立てて、ごく毎 …
若い婦人の著書二つ(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
いま、私の机の上に二冊の本がのっている。一冊は大迫倫子さんの『娘時代』、もう一冊は野沢富美子さんの『煉瓦女工』。この二冊の本は、それぞれ近頃ひろく読まれている本だと思う。だが、同じ …
読書目安時間:約12分
いま、私の机の上に二冊の本がのっている。一冊は大迫倫子さんの『娘時代』、もう一冊は野沢富美子さんの『煉瓦女工』。この二冊の本は、それぞれ近頃ひろく読まれている本だと思う。だが、同じ …
「若い息子」について(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
若い息子 は、革命は不可避であるという自由主義的インテリゲンツィアの認識を基本としているものである。 「若い息子」について。 ○ボグダーノフのみが彼の主観的観念論によって、過去の遺 …
読書目安時間:約2分
若い息子 は、革命は不可避であるという自由主義的インテリゲンツィアの認識を基本としているものである。 「若い息子」について。 ○ボグダーノフのみが彼の主観的観念論によって、過去の遺 …
若い娘の倫理(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
このごろの若い娘さんたちはどんな心持で、何を求めて暮しているだろう。そう自分の心にきいてみると、この答えはなかなか簡単なようで簡単でない。この頃の娘さんたちというひっくるめての表現 …
読書目安時間:約19分
このごろの若い娘さんたちはどんな心持で、何を求めて暮しているだろう。そう自分の心にきいてみると、この答えはなかなか簡単なようで簡単でない。この頃の娘さんたちというひっくるめての表現 …
若きいのちを(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
この間うちの上野駅の混雑というものは全く殺人的なひどい有様であったようだ。その混雑の原因の一つは、お盆にあたって故郷へかえる男女の産業戦士たちの出入りであると云われ、密集して改札口 …
読書目安時間:約4分
この間うちの上野駅の混雑というものは全く殺人的なひどい有様であったようだ。その混雑の原因の一つは、お盆にあたって故郷へかえる男女の産業戦士たちの出入りであると云われ、密集して改札口 …
若き時代の道(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
人間として何か意味のある生活を生きぬきたいという極めて自然な望みと、現代の社会で私たちが生活して行かなければならないための生活の形というものとの間に、今日は実に深い矛盾がある。明治 …
読書目安時間:約5分
人間として何か意味のある生活を生きぬきたいという極めて自然な望みと、現代の社会で私たちが生活して行かなければならないための生活の形というものとの間に、今日は実に深い矛盾がある。明治 …
若き精神の成長を描く文学(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」(岩波文庫・高橋健二氏訳)は、ヘッセの作品のなかでも多くの人々に愛読されているものだろうと思う。同じ岩波文庫で「青春彷徨」(ペーター・カーメンチント・ …
読書目安時間:約17分
ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」(岩波文庫・高橋健二氏訳)は、ヘッセの作品のなかでも多くの人々に愛読されているものだろうと思う。同じ岩波文庫で「青春彷徨」(ペーター・カーメンチント・ …
若き世代への恋愛論(新字新仮名)
読書目安時間:約29分
昨年の後半期から、非常に恋愛論がとりあげられ、いろいろの雑誌・新聞の紙面がにぎわった。一方に社会の有様を考えて見ると、二・二六事件の後、尨大な増税案がきめられて、実際に市民生活は秋 …
読書目安時間:約29分
昨年の後半期から、非常に恋愛論がとりあげられ、いろいろの雑誌・新聞の紙面がにぎわった。一方に社会の有様を考えて見ると、二・二六事件の後、尨大な増税案がきめられて、実際に市民生活は秋 …
若き僚友に(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
三年前の五月、学生祭の日、この講堂は、甦った青春のエネルギーにみちあふれた数千の男女学生によって埋められました。 三年のちのこんにち、ふたたびここは、数千の男女学生によってみたされ …
読書目安時間:約7分
三年前の五月、学生祭の日、この講堂は、甦った青春のエネルギーにみちあふれた数千の男女学生によって埋められました。 三年のちのこんにち、ふたたびここは、数千の男女学生によってみたされ …
わが五月(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
五月は爽快な男児。ぴちぴち若い体じゅうの皮膚を裸で、旗のような髪の毛を風にふき靡かせつつ、緑の小枝を振り廻し駈けて行く五月。新鮮に充実して浄き官能の輝く五月。 近い五月は横丁の細道 …
読書目安時間:約2分
五月は爽快な男児。ぴちぴち若い体じゅうの皮膚を裸で、旗のような髪の毛を風にふき靡かせつつ、緑の小枝を振り廻し駈けて行く五月。新鮮に充実して浄き官能の輝く五月。 近い五月は横丁の細道 …
わが父(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
二月二日に父の葬儀を終り、なか一日置いた四日の朝、私は再びそれまでいた場所へ戻った。初めてそこへ行った時と同じ手続で或る小部屋へ入り自分の着物は一切脱いで、肌へつける物から洗いさら …
読書目安時間:約19分
二月二日に父の葬儀を終り、なか一日置いた四日の朝、私は再びそれまでいた場所へ戻った。初めてそこへ行った時と同じ手続で或る小部屋へ入り自分の着物は一切脱いで、肌へつける物から洗いさら …
わが母をおもう(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
母中條葭江は、明治八年頃東京築地で生れ、五十九歳で没しました。母の実家というのは西村と申し、千葉の佐倉宗五郎の伝説で知られている堀田藩の士で、祖父の代は次男だったので、武術の代りに …
読書目安時間:約7分
母中條葭江は、明治八年頃東京築地で生れ、五十九歳で没しました。母の実家というのは西村と申し、千葉の佐倉宗五郎の伝説で知られている堀田藩の士で、祖父の代は次男だったので、武術の代りに …
わからないこと(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
時々考えると疑問になることがある。それは、男性の創る芸術的作品——文学でも美術でも——の中には、夥しく女性に対するアドレイションが表現されている。それだのに、女性の作品には、何故同 …
読書目安時間:約5分
時々考えると疑問になることがある。それは、男性の創る芸術的作品——文学でも美術でも——の中には、夥しく女性に対するアドレイションが表現されている。それだのに、女性の作品には、何故同 …
若人の要求(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
此の間から、いろいろの職場で働いている若い人達の気持にふれる機会を持ちました。 一番痛切に感じた事は、今日働く婦人達がどんなに勉強したがっているかということでした。東京では麹町神田 …
読書目安時間:約6分
此の間から、いろいろの職場で働いている若い人達の気持にふれる機会を持ちました。 一番痛切に感じた事は、今日働く婦人達がどんなに勉強したがっているかということでした。東京では麹町神田 …
私たちの建設(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間49分
封建の世界 言葉に云いつくされないほどの犠牲を通して、日本に初めて、人民が自分の幸福の建設のために、自分達で判断し行動することの出来る時代が到達した。そして全人民の半数を占める日本 …
読書目安時間:約1時間49分
封建の世界 言葉に云いつくされないほどの犠牲を通して、日本に初めて、人民が自分の幸福の建設のために、自分達で判断し行動することの出来る時代が到達した。そして全人民の半数を占める日本 …
私の書きたい女性(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
こんにち、わたしたちが生きている社会は複雑で、毎日の生活もはげしく変化しています。 文学の作品、とくに小説には風俗描写のおもしろみというものもあって、戦後にあらわれている多くの小説 …
読書目安時間:約3分
こんにち、わたしたちが生きている社会は複雑で、毎日の生活もはげしく変化しています。 文学の作品、とくに小説には風俗描写のおもしろみというものもあって、戦後にあらわれている多くの小説 …
わたくしの大好きなアメリカの少女(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
私がアメリカに居りました時間は、ほんの短い一ヵ年と少し位の間でしたので、見聞といっても少のうございますの。向うに着いた頃はもう戦争も終りの頃ではありましたけれども、まだどこか日本と …
読書目安時間:約5分
私がアメリカに居りました時間は、ほんの短い一ヵ年と少し位の間でしたので、見聞といっても少のうございますの。向うに着いた頃はもう戦争も終りの頃ではありましたけれども、まだどこか日本と …
わたしたちには選ぶ権利がある(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
よたび八月十五日を迎えるにあたって、わたしたち日本の女性は、ますますつよい実感をもって、戦争挑発をやめよ!と叫ばずにいられません。 去る四月二十日にパリでひらかれた世界平和大会には …
読書目安時間:約4分
よたび八月十五日を迎えるにあたって、わたしたち日本の女性は、ますますつよい実感をもって、戦争挑発をやめよ!と叫ばずにいられません。 去る四月二十日にパリでひらかれた世界平和大会には …
私たちの社会生物学(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
毎朝きまった時間に目を醒す。同じ部屋で、同じ蒲団のなかで。それから手早く身じまいをして、勤めに出てからはずっと緊張した仕事から仕事への一日が過ぎる。夕方になるときまった時間に、下駄 …
読書目安時間:約5分
毎朝きまった時間に目を醒す。同じ部屋で、同じ蒲団のなかで。それから手早く身じまいをして、勤めに出てからはずっと緊張した仕事から仕事への一日が過ぎる。夕方になるときまった時間に、下駄 …
わたしたちは平和を手離さない(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
人間の社会には、その事実なり、その言葉なりをねじまげたり、もてあそんだりすると、結果として不幸がもたらされる以外に、どんないいこともない事柄がある。愛がその一つである。正義もそうい …
読書目安時間:約3分
人間の社会には、その事実なり、その言葉なりをねじまげたり、もてあそんだりすると、結果として不幸がもたらされる以外に、どんないいこともない事柄がある。愛がその一つである。正義もそうい …
私の愛読書(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
愛読という言葉の普通の使いかたとは違うけれども、非常に感銘をもってよみ、人類の歴史の精髄を学んだ二つの本をあげます。 エンゲルス著「家族・私有財産及国家の発生」 同「空想から科学へ …
読書目安時間:約1分
愛読という言葉の普通の使いかたとは違うけれども、非常に感銘をもってよみ、人類の歴史の精髄を学んだ二つの本をあげます。 エンゲルス著「家族・私有財産及国家の発生」 同「空想から科学へ …
私の会ったゴーリキイ(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
私がマクシム・ゴーリキイに会ったのは、ちょうど今から足かけ八年前の一九二八年の初夏のことであった。 知られているとおりにゴーリキイは一九二三年にその頃まだ生きていたレーニンのすすめ …
読書目安時間:約11分
私がマクシム・ゴーリキイに会ったのは、ちょうど今から足かけ八年前の一九二八年の初夏のことであった。 知られているとおりにゴーリキイは一九二三年にその頃まだ生きていたレーニンのすすめ …
私の覚え書(新字新仮名)
読書目安時間:約18分
九月一日、私は福井県の良人の郷里にいた。朝は、よく晴れた、むし暑い天気であった。九時頃から例によって二階と階下とに別れ、一区切り仕事をし、やや疲れを感じたので、ぼんやり窓から外の風 …
読書目安時間:約18分
九月一日、私は福井県の良人の郷里にいた。朝は、よく晴れた、むし暑い天気であった。九時頃から例によって二階と階下とに別れ、一区切り仕事をし、やや疲れを感じたので、ぼんやり窓から外の風 …
私の科学知識(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
私の科学知識というような話題について何か語ろうとすると、真先に、貧弱という字が心に大写しになって浮んで来るのは、私ばかりのことだろうか。 読書力というものについて他の場合にもよく思 …
読書目安時間:約3分
私の科学知識というような話題について何か語ろうとすると、真先に、貧弱という字が心に大写しになって浮んで来るのは、私ばかりのことだろうか。 読書力というものについて他の場合にもよく思 …
私の感想(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
一婦人と科学 「日本の科学」ということがこの頃世人の注目をひいている。あらゆる文化はそれぞれの国の歴史や社会の今日おかれている条件などにつれて特徴をもっていることは当然である。した …
読書目安時間:約10分
一婦人と科学 「日本の科学」ということがこの頃世人の注目をひいている。あらゆる文化はそれぞれの国の歴史や社会の今日おかれている条件などにつれて特徴をもっていることは当然である。した …
私の事(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
生活の外側は、元の通り至って平穏無事である。けれども内部は異って来た。 新らしい世界が開けて、自分に来たものは、所謂落付きでもなければ、理解でもない。一層の知り度さである。時々自分 …
読書目安時間:約1分
生活の外側は、元の通り至って平穏無事である。けれども内部は異って来た。 新らしい世界が開けて、自分に来たものは、所謂落付きでもなければ、理解でもない。一層の知り度さである。時々自分 …
私の信条(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
一九三八年(昭和十三年)三月に、ナチス・ドイツはオーストリアを合併し、三九年(十四年)三月には、チェコとスロヴァキアとを合併した。五月末に独伊軍事同盟が結ばれ、三ヵ月のちの八月には …
読書目安時間:約13分
一九三八年(昭和十三年)三月に、ナチス・ドイツはオーストリアを合併し、三九年(十四年)三月には、チェコとスロヴァキアとを合併した。五月末に独伊軍事同盟が結ばれ、三ヵ月のちの八月には …
私の好きな小説・戯曲中の女(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「戦争と平和」のナタアシャ。 「ジャン・クリストフ」のグラジヤ。 此等の女性の人格、生、そのものが直接心に響きます。 〔一九二一年一月〕 …
読書目安時間:約1分
「戦争と平和」のナタアシャ。 「ジャン・クリストフ」のグラジヤ。 此等の女性の人格、生、そのものが直接心に響きます。 〔一九二一年一月〕 …
私の青春時代(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
わたしの青春について語るとき、そこには所謂階級的なヒロイズムもないし、勤労者的な自誇もない。そこにあるのは一九一四、五年から二三、四年にかけての日本の中流的な家庭のなかで、一人の少 …
読書目安時間:約4分
わたしの青春について語るとき、そこには所謂階級的なヒロイズムもないし、勤労者的な自誇もない。そこにあるのは一九一四、五年から二三、四年にかけての日本の中流的な家庭のなかで、一人の少 …
私の見た米国の少年(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
去年の丁度秋頃の事でした、私は長い旅行に出掛ける準備で、よく紐育市のペンシルバニアと云う停車場へ行き行きしました。其の停車場は、北米合衆国の首府である華盛頓の方へ行く鉄道の起点なの …
読書目安時間:約6分
去年の丁度秋頃の事でした、私は長い旅行に出掛ける準備で、よく紐育市のペンシルバニアと云う停車場へ行き行きしました。其の停車場は、北米合衆国の首府である華盛頓の方へ行く鉄道の起点なの …
私は何を読むか(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
「デカブリストの妻」ネクラーソフ作谷耕平訳新星社 最近深い感銘をもってよみました。特に公爵夫人ヴォルコーンスカヤをよんで、途中で巻をおくことが出来ませんでした。日本の詩人たちは詩の …
読書目安時間:約1分
「デカブリストの妻」ネクラーソフ作谷耕平訳新星社 最近深い感銘をもってよみました。特に公爵夫人ヴォルコーンスカヤをよんで、途中で巻をおくことが出来ませんでした。日本の詩人たちは詩の …
私も一人の女として(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
今私たちの前には、その事件が当事者の愛の純情に発しているという意味で人の心を打った二つの現象が示されている訳ですが、私は松本伝平氏の場合と弓子さんの場合とは、それぞれ別のもので、違 …
読書目安時間:約7分
今私たちの前には、その事件が当事者の愛の純情に発しているという意味で人の心を打った二つの現象が示されている訳ですが、私は松本伝平氏の場合と弓子さんの場合とは、それぞれ別のもので、違 …
ワルシャワのメーデー(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
一九二九年私どもはモスクワからヨーロッパへ旅行に出かけて、ポーランドの首府ワルシャワへちょうど四月三十日の夕方についた。 雨が降っている。小さな荷物を赤帽に持たせて、改札口へ歩いて …
読書目安時間:約10分
一九二九年私どもはモスクワからヨーロッパへ旅行に出かけて、ポーランドの首府ワルシャワへちょうど四月三十日の夕方についた。 雨が降っている。小さな荷物を赤帽に持たせて、改札口へ歩いて …
我に叛く(新字新仮名)
読書目安時間:約60分
電報を受取ると同時に、ゆき子は、不思議に遽(あわただ)しい心持になってきた。 若し彼女が、その朝十時から催される或る職務上責任ある会議に、良人の真木が帰京し得るか否かを、それほど案 …
読書目安時間:約60分
電報を受取ると同時に、ゆき子は、不思議に遽(あわただ)しい心持になってきた。 若し彼女が、その朝十時から催される或る職務上責任ある会議に、良人の真木が帰京し得るか否かを、それほど案 …
われらの家(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
午後六時 窓硝子を透して、戸外の柔かい瑠璃色の夕空が見える。 朝は思いがけなく雪が降って、寒い日であった。 泰子は、チロチロと焔の揺れる、暖かい食堂のストーブの傍のディブァンに坐っ …
読書目安時間:約6分
午後六時 窓硝子を透して、戸外の柔かい瑠璃色の夕空が見える。 朝は思いがけなく雪が降って、寒い日であった。 泰子は、チロチロと焔の揺れる、暖かい食堂のストーブの傍のディブァンに坐っ …
「我らの誌上相談」(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
病母と弟を抱えて お手紙拝見しました。あなたのお心持の入りまじった苦しいところはよくわかります。ましてあなたの場合、まだきまった対手が姿をあらわしていないから、いろいろそれを根拠と …
読書目安時間:約17分
病母と弟を抱えて お手紙拝見しました。あなたのお心持の入りまじった苦しいところはよくわかります。ましてあなたの場合、まだきまった対手が姿をあらわしていないから、いろいろそれを根拠と …
われらの小さな“婦人民主”(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
『婦人民主』が週刊紙として発刊されることになった。日本の明るい民主化のために、人口の半分どころか三百余万も多い婦人大衆が、どんなに重大な役割をもっているか。このことについては、婦人 …
読書目安時間:約2分
『婦人民主』が週刊紙として発刊されることになった。日本の明るい民主化のために、人口の半分どころか三百余万も多い婦人大衆が、どんなに重大な役割をもっているか。このことについては、婦人 …
われを省みる(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
『女性日本人』の編輯に従事して居られるY氏が見え、今度同誌で、各異る年代にある人々の、年齢感ともいうべきものを蒐集されるまま私は非常に興味あり、また有益なことだと思います。 一体私 …
読書目安時間:約12分
『女性日本人』の編輯に従事して居られるY氏が見え、今度同誌で、各異る年代にある人々の、年齢感ともいうべきものを蒐集されるまま私は非常に興味あり、また有益なことだと思います。 一体私 …
ワンダ・ワシレーフスカヤ(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
ソヴェト同盟との間にとりかわされていた不可侵条約をやぶって、ナチス軍がポーランドからウクライナへ、モスクワへ、レニングラードへと侵略しはじめた一年後、一九四二年八月、ソヴェト同盟の …
読書目安時間:約3分
ソヴェト同盟との間にとりかわされていた不可侵条約をやぶって、ナチス軍がポーランドからウクライナへ、モスクワへ、レニングラードへと侵略しはじめた一年後、一九四二年八月、ソヴェト同盟の …
翻訳者としての作品一覧
唖娘スバー(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
此スバーと云う物語は、インドの有名な哲学者で文学者の、タゴールが作ったものです。インド人ですが英国で勉強をし立派な沢山の本を書いています。六七年前、日本にも来た事がありました。此人 …
読書目安時間:約14分
此スバーと云う物語は、インドの有名な哲学者で文学者の、タゴールが作ったものです。インド人ですが英国で勉強をし立派な沢山の本を書いています。六七年前、日本にも来た事がありました。此人 …
元禄時代小説第一巻「本朝二十不孝」ぬきほ(言文一致訳)(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
跡のはげたる娌入長持 聟入、娌取なんかの時に小石をぶつけるのはずいぶんらんぼうな事である。どうしたわけでこんな事をするかと云うと是はりんきの始めである。人がよい事があるとわきから腹 …
読書目安時間:約11分
跡のはげたる娌入長持 聟入、娌取なんかの時に小石をぶつけるのはずいぶんらんぼうな事である。どうしたわけでこんな事をするかと云うと是はりんきの始めである。人がよい事があるとわきから腹 …
二つの短い話(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
昔、ガルウェーのダンモーアと云う処に一人の半馬鹿がいました。彼はひどく音楽が好きでしたが、たった一つの節しか覚えることが出来ませんでした。その一つの節は「黒坊のいたずら小僧」と云う …
読書目安時間:約10分
昔、ガルウェーのダンモーアと云う処に一人の半馬鹿がいました。彼はひどく音楽が好きでしたが、たった一つの節しか覚えることが出来ませんでした。その一つの節は「黒坊のいたずら小僧」と云う …
「平家物語」ぬきほ(言文一致訳)(新字新仮名)
読書目安時間:約50分
葵の前 (高倉) 其の頃何より優美でやさしいことの例に云い出されて居たのは中宮の御所に仕えて居る局の女房達がめしつかわれて居た上童の中に葵の前と云って陛下の御側近う仕る事がある上童 …
読書目安時間:約50分
葵の前 (高倉) 其の頃何より優美でやさしいことの例に云い出されて居たのは中宮の御所に仕えて居る局の女房達がめしつかわれて居た上童の中に葵の前と云って陛下の御側近う仕る事がある上童 …
“宮本百合子”について
宮本 百合子(みやもと ゆりこ、1899年(明治32年)2月13日 - 1951年(昭和26年)1月21日)は、日本の昭和期の小説家・評論家。旧姓は中條(ちゅうじょう)、本名はユリ。日本女子大学英文科中退。
18歳で『貧しき人々の群』を発表し天才少女と注目された。米留学後結婚したが離婚、その経緯をまとめた『伸子』を発表。その後ソ連を訪れ日本共産党に入党。宮本顕治と結婚宮本顕治は百合子の死後に百合子の秘書だった大森寿恵子と結婚している。。再三検挙されながらも執筆活動を続けた。戦後は『歌声よ、おこれ』を書いて民主主義文学運動の出発を宣言、『播州平野』『風知草』『二つの庭』『道標』などを書いた。日本の左翼文学・民主主義文学、さらには日本の近代女流文学を代表する作家の一人である。
(出典:Wikipedia)
18歳で『貧しき人々の群』を発表し天才少女と注目された。米留学後結婚したが離婚、その経緯をまとめた『伸子』を発表。その後ソ連を訪れ日本共産党に入党。宮本顕治と結婚宮本顕治は百合子の死後に百合子の秘書だった大森寿恵子と結婚している。。再三検挙されながらも執筆活動を続けた。戦後は『歌声よ、おこれ』を書いて民主主義文学運動の出発を宣言、『播州平野』『風知草』『二つの庭』『道標』などを書いた。日本の左翼文学・民主主義文学、さらには日本の近代女流文学を代表する作家の一人である。
(出典:Wikipedia)
“宮本百合子”と年代が近い著者
きょうが誕生日(2月16日)
今月で生誕X十年
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
平山千代子(生誕100年)
今年で没後X百年
大町桂月(没後100年)
富ノ沢麟太郎(没後100年)
細井和喜蔵(没後100年)
木下利玄(没後100年)
富永太郎(没後100年)
エリザベス、アンナ・ゴルドン(没後100年)
徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)