千世子は大変疲れて居た。 水の様な色に暮れて行く春の黄昏の柔い空気の中にしっとりとひたって薄黄な蛾がハタハタと躰の囲りを円く舞うのや小さい樫の森に住む夫婦の「虫」が空をかすめて飛ぶのを見る事はいかにも快い身内の疲れを忘れさせて呉れる事だった …
| 著者 | 宮本百合子 |
| ジャンル | 文学 > 日本文学 > 小説 物語 |
| 初出 | 「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日 |
| 文字種別 | 新字新仮名 |
| 読書目安時間 | 約55分(500文字/分) |
| 朗読目安時間 | 約1時間31分(300文字/分) |