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宛然さながら、ヒマラヤ山あたりの深い深い萬仭の谷の底で、いはほと共に年をつた猿共が、千年に一度る芝居でも行つて見て居る樣な心地。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかも彼は姉や兄たちの孝行を一人で引き受けたかのように、肩揚げのおりないうちからよく働いて、年をった母を大切にした。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わらわらっと、近くにいた前原伊助や奥田貞右衛門などが寄って来ると、今、蒲団部屋の物陰から逃げ出して行った年った侍が二人。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そりやお前にだつて、若い時にや、村の青年團の幹事、年をりや篤農家なみの仕事は出來ようさ。——しかしわしを見んかい、わしを!
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
是からき悪い事はなさらないように何卒どうぞ気をお附けなさい、年をると屹度きっとむくって参ります、輪回応報りんねおうほうという事はないではありませんよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ああわかった。わたしとしったから、せめて達者たっしゃのうちに、一、みんなとこうしてあそんでみよと、かみさまがおっしゃるにちがいない。」
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとしばらくたってから、年った女の人が、どこか工合ぐあいが悪いようにそろそろと出て来て何か用かと口の中で云いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どうかして年をらないうちに男子を一人儲けねばならないと考えつつ、「人はいかなる時においても質素を旨として、……」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
今のうちはこれでもいが、年をってから全くの無芸でも変テコなものだよ。私などもいろいろの宴会なぞの席で芸なしで困ることが度々たびたびある
いいえ、齢をりしだいに悪くなりましたので、お医者は老齢としのせいだといいます。白内障そこひとかいう眼だそうでございます。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
……ところが、それからのち、藤六はその丹波小僧と雁八を一本立にして手離しましたアト、だんだん年をって仏心が附いたので御座いましょう。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兄の留守のまに、お柳は時々あばれ出して、年った母親をてこずらせた。近所から寄って来た人々と力をあわせて、母親はやっと娘を柱に縛りつけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あアン! 何が障子じゃ? 年はりとうない。魚があぶくいとるようで、さっぱり聞えぬ。何じゃイ、あアン?」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
年をった女が一人、淋しそうにお仕事をしておりますが、ガラッ八の眼には、咄嗟とっさの間にその素性が判りました。
った方の女が包みから何か出して相手に渡した。若い方はじいとうつむいていた。しばらく何か話していた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
わしかえ、私はの、年をツた人さ。」と、底意地の惡さうな返事をして、自分の頭をなでて呉れる。其の聲はたしか何處どこかで聞いたことのあるやうな聲だ。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こうしたひょんなことになっても、前にもいった通りお神さんは、嬢さまの年をったというだけのおひとだったから何をどう取りなしてくれるでもなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
年をつた婦人といふのは、私がしようとしてゐる仕事にとつて、決して惡いものではないと私は思つた。
もう年をってしまっておりましたから、まるで御隠居様のようになっていたんで御座ございましょうね。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
その誤解の為、どれ丈け多数の方々が苦しみましたか、貴方方ももう御存じでいらつしやいます。此人達には年つた親もあり、幼い子供もあり、若い妻もあります。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
何貫目ぐらいの豚、たいでも何百もんめのたい、というふうに行かねばならぬ。にわとりでも年ったのは不味まずい。卵を生む前のが美味い。かように鶏といっても千差万別である。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
つまらんな、年をってしまったとつくづく慨嘆する。若い青年時代をくだらなく過ごして、今になって後悔したとてなんの役にたつ、ほんとうにつまらんなアと繰り返す。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
小学校のときからけてばかりきてとしり、いま学校を追われる様になってもスポオツで食う見込はたたず、「まア国に帰って、兄貴の店でも手伝うか」と言っていましたが
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かも無学であると云ふ自覚にやはり超越出来ずにゐる不成功者は、自分よりも出来のいゝ子供を仕上げるためにアクセクして、三度の飯も二度にして、その為に早く年もつて
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
年をるとつい目前の事物には反撥感が起って、事々に昔を懐かしむものであろうか。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「あなたのお心まかせです。けれどもこの大黒様は、もう千年も年をつてゐますから、何でも物をよく知つてゐますよ。だからこの国を旅なさるんなら、つれて行つた方が便利です。」
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
父は「今のうちなら自分も無理をしても金が稼げるから、年をってからでは危い。」というので、無理遣むりやりに背広など拵えて始めて着たりしていやで仕方がなかったが、行くことに決めた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
としるべきもの流石さすが古兵ふるつわもの斥候ものみ虚実の見所誤らず畢竟ひっきょう手に仕業しわざなければこそ余計な心が働きてくるしむ者なるべしと考えつき、或日あるひ珠運に向って、此日本一果報男め、聞玉ききたまえ我昨夜の夢に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伯父さんは歳をつてゐるし、もともと貧乏な家ですから、どうすることも出来なくなつて、病みあがりのおきいちやんは、湖の向ふの村の機場はたばへ機織工女に売られることになつたのです。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
実は先生、ゆうべ一晩で、わっしは十年も、年ったような気がしましたよ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なぜかというに、ここにいる僕たちはしだいに年をり、過去の思い出に生きることが好きになっているのだから。何よりも、幼い頃の追憶のさまざまの姿に、一等の楽しみを見いだすのだから。
一人の年った寡婦かふがせっせと針仕事はりしごとをしているだろう、あの人はたよりのない身で毎日ほねをおって賃仕事をしているのだがたのむ人が少いので時々は御飯も食べないでいるのがここから見える。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いや、年はくねえだよ。俺はそれ、和泉屋の——」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
須磨子の年った母親は他人が悔みをいったときに
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「そうだ、年はりたくないね、わかいうちに早く死ぬる方が、人にも惜まれて好いな、今日の追悼会の人達も生きておる時は、つまらん奴が多かったが、死んでしまや、国士だ、落伍者になって、くすぶって死ぬるのはいけないね」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宛然さながら、ヒマラヤさんあたりの深い深い万仭の谷の底で、いはほと共に年をつた猿共が、千年に一度る芝居でも行つて見て居る様な心地。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「会って来たよ。——見違えるばかりにやつれた伜の姿を、あの藪牢やぶろうの中で見たとたんに、わしはいっぺんに、十年も年をった気がした」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年をったお祖父じいさんが先に立って仇討などという事を勧めちゃアいかん、それは時節が違うから、まア私の云う事をいて思いとゞまんなさい
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それで今度も栃の木の良材を探し、純色で銀色の光りのあるを利用して年った白猿をこしらえて見ようと思いました。
「それはそうさ、天子てんしさまも不死ふしくすりむことができなかったから、やはりとしってんでしまいなされたろう。」
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その年った事務員は、一日の単調な仕事に疲れて役所を出ると、不意におっかぶさってしだいに深くなってゆく、あの取止とりとめもない哀愁に囚われた。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
自分の母親達のように、泥まみれになって、割の悪い百姓仕事をし、年をる気にはなれない。それで村の若い男は幾つになっても、仲々嫁は貰えなかった。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
土蔵くらをなくするほどの道楽をした揚句、東京で一旗上げると言って飛び出した切り、行方をくらましているそうで、年った両親は誰も構い手がないままに
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さま、おれも年ったでばな、今朝まず生れで始めで水へ入るのんたよな気するじゃ」
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの年になっても亭主を持たず、だんだん年はる、頼りのない女は可哀そうですからねえ
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年下が四十くらゐなら、年上は六、七十かと円生大いに愕くのであるが、なんの年下ではなく、此は伊香保の方言で「年した」即ち年をした、年をつたの意味だつたのである。
落語家温泉録 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
枕も上らずせつて居ると、父親は又父親で、失敗の自棄やけいやさん為め、長野の遊廓にありもせぬ金を工面して、五日も六日も流連ゐつゞけして帰らぬので、年をつた、人の好い七十近い祖父が
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
俺は年をつた。愚癡になつたんだ。昔の生物学者が云つたやうに、人間の身体から一種の気が立つて行く、其気が適当に発散しないで凝滞ぎようたいすると病気が出る。俺も気の発散がとどこほつたのであらう。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
]、體よりも心にく年をらせて了ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
年をつたやうな氣がした。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)