田中貢太郎
1880.03.02 〜 1941.02.01
“田中貢太郎”に特徴的な語句
宜
艫
母
下
閃
華表
海嘯
食卓
己
扉
羽織
飯
私
何時
盃
街路
媽
貴方
渡船
啖
櫛
駒下駄
鯉
渓川
通路
沙利
父
磯
微暗
胴
艪
良
萎
帳場
明日
後
主翁
路
女子
夜
巷
姐
蘆
膳
盗人
邸
陸
莞
庖厨
後
著者としての作品一覧
藍瓶(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
玄関の格子戸がずりずりと開いて入って来た者があるので、順作は杯を持ったなりに、その前に坐った女の白粉をつけた眼の下に曇のある顔をちょと見てから、右斜にふりかえって玄関のほうを見た。 …
読書目安時間:約10分
玄関の格子戸がずりずりと開いて入って来た者があるので、順作は杯を持ったなりに、その前に坐った女の白粉をつけた眼の下に曇のある顔をちょと見てから、右斜にふりかえって玄関のほうを見た。 …
愛卿伝(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
胡元の社稷が傾きかけて、これから明が勃興しようとしている頃のことであった。嘉興に羅愛愛という娼婦があったが、容貌も美しければ、歌舞音曲の芸能も優れ、詩詞はもっとも得意とするところで …
読書目安時間:約14分
胡元の社稷が傾きかけて、これから明が勃興しようとしている頃のことであった。嘉興に羅愛愛という娼婦があったが、容貌も美しければ、歌舞音曲の芸能も優れ、詩詞はもっとも得意とするところで …
藍微塵の衣服(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
これは東京の芝区にあった話である。芝区の某町に質屋があって、そこの女房が五歳か六歳になる女の子を残して病死したので、所天は後妻を貰った。 後妻と云うのは、気質の従順な、何時も愉快そ …
読書目安時間:約4分
これは東京の芝区にあった話である。芝区の某町に質屋があって、そこの女房が五歳か六歳になる女の子を残して病死したので、所天は後妻を貰った。 後妻と云うのは、気質の従順な、何時も愉快そ …
青い紐(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
桃山哲郎は銀座尾張町の角になつたカフエーでウイスキーを飲んでゐた。彼は有楽町の汽車の線路に沿うたちよつとしたカフエーでやつた仲間の会合で足りなかつた酔を充たしてゐるところであつた。 …
読書目安時間:約12分
桃山哲郎は銀座尾張町の角になつたカフエーでウイスキーを飲んでゐた。彼は有楽町の汽車の線路に沿うたちよつとしたカフエーでやつた仲間の会合で足りなかつた酔を充たしてゐるところであつた。 …
青い紐(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
桃山哲郎は銀座尾張町の角になったカフェーでウイスキーを飲んでいた。彼は有楽町の汽車の線路に沿うたちょっとしたカフェーでやった仲間の会合でたりなかった酔を充たしているところであった。 …
読書目安時間:約12分
桃山哲郎は銀座尾張町の角になったカフェーでウイスキーを飲んでいた。彼は有楽町の汽車の線路に沿うたちょっとしたカフェーでやった仲間の会合でたりなかった酔を充たしているところであった。 …
赤い牛(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
長野県の上田市にある上田城は、名将真田幸村の居城として知られているが、その上田城の濠の水を明治初年になって、替え乾そうと云う事になった。そして、いよいよその日になると、附近の人びと …
読書目安時間:約2分
長野県の上田市にある上田城は、名将真田幸村の居城として知られているが、その上田城の濠の水を明治初年になって、替え乾そうと云う事になった。そして、いよいよその日になると、附近の人びと …
赤い土の壺(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
永禄四年の夏のことであった。夕陽の落ちたばかりの長良川の磧へ四人伴の鵜飼が出て来たが、そのうちの二人は二羽ずつの鵜を左右の手端にとまらし、後の二人のうちの一人は艪を肩にして、それに …
読書目安時間:約14分
永禄四年の夏のことであった。夕陽の落ちたばかりの長良川の磧へ四人伴の鵜飼が出て来たが、そのうちの二人は二羽ずつの鵜を左右の手端にとまらし、後の二人のうちの一人は艪を肩にして、それに …
赤い花(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
明治十七八年と云えば自由民権運動の盛んな時で、新思潮に刺戟せられた全国の青年は、暴戻な政府の圧迫にも屈せず、民権の伸張に奔走していた。その時分のことであった。 東京小石川の某町に、 …
読書目安時間:約12分
明治十七八年と云えば自由民権運動の盛んな時で、新思潮に刺戟せられた全国の青年は、暴戻な政府の圧迫にも屈せず、民権の伸張に奔走していた。その時分のことであった。 東京小石川の某町に、 …
あかんぼの首(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
赤インキの滲んだやうな暑い陽の光があつた。陽の光は谷の下の人家の塀越しに見える若葉を照らしてゐた。若葉の中には塩竈桜か何かであらう、散り残りの白いあざれたやうな花弁があつて、それが …
読書目安時間:約17分
赤インキの滲んだやうな暑い陽の光があつた。陽の光は谷の下の人家の塀越しに見える若葉を照らしてゐた。若葉の中には塩竈桜か何かであらう、散り残りの白いあざれたやうな花弁があつて、それが …
悪僧(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
何時の比のことであったか朝鮮の王城から南に当る村に鄭と云う老宰相が住んでいた。その宰相の家には宣揚と云う独り児の秀才があったが、それが十八歳になると父の宰相は、同族の両班の家から一 …
読書目安時間:約12分
何時の比のことであったか朝鮮の王城から南に当る村に鄭と云う老宰相が住んでいた。その宰相の家には宣揚と云う独り児の秀才があったが、それが十八歳になると父の宰相は、同族の両班の家から一 …
朝倉一五〇(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
洋画家の橋田庫次君の話であるが、橋田君は少年の頃、吾川郡の弘岡村へ使いに往って、日が暮れてから帰って来たが、途中に荒倉と云う山坂があって、そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うの …
読書目安時間:約2分
洋画家の橋田庫次君の話であるが、橋田君は少年の頃、吾川郡の弘岡村へ使いに往って、日が暮れてから帰って来たが、途中に荒倉と云う山坂があって、そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うの …
阿宝(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
粤西に孫子楚という名士があった。枝指のうえに何所かにぼんやりしたところがあったから、よく人にかつがれた。その孫は他所へ往って歌妓でもいると、遠くから見ただけで逃げて帰った。その事情 …
読書目安時間:約11分
粤西に孫子楚という名士があった。枝指のうえに何所かにぼんやりしたところがあったから、よく人にかつがれた。その孫は他所へ往って歌妓でもいると、遠くから見ただけで逃げて帰った。その事情 …
尼になった老婆(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
なむあみだぶ、なむあみだぶ、こんなことを口にするのは、罪深い業でございますが、門跡様の御下向に就いて思い出しましたから、ちょっと申します。その時は手前もまだ独身で、棒手振を渡世にし …
読書目安時間:約5分
なむあみだぶ、なむあみだぶ、こんなことを口にするのは、罪深い業でございますが、門跡様の御下向に就いて思い出しましたから、ちょっと申します。その時は手前もまだ独身で、棒手振を渡世にし …
雨夜草紙(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
小さくなった雨が庭の無花果の葉にぼそぼそと云う音をさしていた。静かな光のじっと沈んだ絵のような電燈の下で、油井伯爵の遺稿を整理していた山田三造は、机の上に積み重ねた新聞雑誌の切抜や …
読書目安時間:約14分
小さくなった雨が庭の無花果の葉にぼそぼそと云う音をさしていた。静かな光のじっと沈んだ絵のような電燈の下で、油井伯爵の遺稿を整理していた山田三造は、机の上に積み重ねた新聞雑誌の切抜や …
雨夜続志(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
芝の青松寺で自由党志士の追悼会のあった時のことである。その日、山田三造は追悼会に参列したところで、もうとうに歿くなったと云うことを聞いていた旧友にひょっくり逢った。それは栃木県のも …
読書目安時間:約11分
芝の青松寺で自由党志士の追悼会のあった時のことである。その日、山田三造は追悼会に参列したところで、もうとうに歿くなったと云うことを聞いていた旧友にひょっくり逢った。それは栃木県のも …
雨夜詞(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
給仕女のお菊さんは今にもぶらりとやつて来さうに思はれる客の来るのを待つてゐた。電燈の青白く燃えだしたばかりの店には、二人の学生が来てそれが入口の右側になつたテーブルに着いて、並んで …
読書目安時間:約10分
給仕女のお菊さんは今にもぶらりとやつて来さうに思はれる客の来るのを待つてゐた。電燈の青白く燃えだしたばかりの店には、二人の学生が来てそれが入口の右側になつたテーブルに着いて、並んで …
怪しき旅僧(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
——此の話は武蔵の川越領の中の三ノ町と云う処に起った話になっているが、此の粉本は支那の怪談であることはうけあいである。 それは風の寒い夜のことであった。三ノ町の某農家の門口へ、一人 …
読書目安時間:約5分
——此の話は武蔵の川越領の中の三ノ町と云う処に起った話になっているが、此の粉本は支那の怪談であることはうけあいである。 それは風の寒い夜のことであった。三ノ町の某農家の門口へ、一人 …
ある神主の話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
漁師の勘作はその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥を啜って夕飯をすますと、地炉の前にぽつねんと坐って煙草を喫んでいた。 「あんなにおった鯉が何故獲れないかなあ、あの山 …
読書目安時間:約11分
漁師の勘作はその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥を啜って夕飯をすますと、地炉の前にぽつねんと坐って煙草を喫んでいた。 「あんなにおった鯉が何故獲れないかなあ、あの山 …
虎杖採り(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
閨秀画家の伊藤美代乃女史は、秋田の出身であるが、その女史が小さい時、それは晩春の事であった。某日隣の友達と裏の田圃へ出て、虎杖を採って遊んでいると、どこからともなく六十位の優しそう …
読書目安時間:約4分
閨秀画家の伊藤美代乃女史は、秋田の出身であるが、その女史が小さい時、それは晩春の事であった。某日隣の友達と裏の田圃へ出て、虎杖を採って遊んでいると、どこからともなく六十位の優しそう …
一緒に歩く亡霊(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
「老媼茶話」には奇怪な話が数多(たくさん)載っている。この話もその一つであるが、奥州の其処(あるところ)に甚六と云う百姓があった。著者はその人となりを放逸邪見類なき者也と云っている …
読書目安時間:約8分
「老媼茶話」には奇怪な話が数多(たくさん)載っている。この話もその一つであるが、奥州の其処(あるところ)に甚六と云う百姓があった。著者はその人となりを放逸邪見類なき者也と云っている …
位牌田(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
義民木内宗五郎で有名な甚兵衛の渡場のある処は、印西という処であるが、その印西の渡場から西へ十町ばかり往った処に、位牌田と云う田がある。それはその形が位牌に似ているところからその名が …
読書目安時間:約3分
義民木内宗五郎で有名な甚兵衛の渡場のある処は、印西という処であるが、その印西の渡場から西へ十町ばかり往った処に、位牌田と云う田がある。それはその形が位牌に似ているところからその名が …
位牌と鼠(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
大正十二年の震災の時であった。幡ヶ谷に住んでいた三好七郎と云う人の許へ、荻原高三郎と云う知人が避難して来て、一月ばかり厄介になっていて他へ移って往ったが、移って往く時、 「大事の書 …
読書目安時間:約1分
大正十二年の震災の時であった。幡ヶ谷に住んでいた三好七郎と云う人の許へ、荻原高三郎と云う知人が避難して来て、一月ばかり厄介になっていて他へ移って往ったが、移って往く時、 「大事の書 …
岩魚の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
村の男は手ごろの河原石を持って岩の凹みの上で、剥いだ生樹の皮をびしゃびしゃと潰していた。その傍にはまだ五六人の仲間がいて潰した皮粕を円めて笊の中へ入れたり、散らばっている樹の皮を集 …
読書目安時間:約9分
村の男は手ごろの河原石を持って岩の凹みの上で、剥いだ生樹の皮をびしゃびしゃと潰していた。その傍にはまだ五六人の仲間がいて潰した皮粕を円めて笊の中へ入れたり、散らばっている樹の皮を集 …
宇賀長者物語(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
牡丹の花の咲いたような王朝時代が衰えて、武家朝時代が顕れようとしている比のことでありました。土佐の国の浦戸と云う処に宇賀長者と云う長者がありました。浦戸は土佐日記などにも見えている …
読書目安時間:約19分
牡丹の花の咲いたような王朝時代が衰えて、武家朝時代が顕れようとしている比のことでありました。土佐の国の浦戸と云う処に宇賀長者と云う長者がありました。浦戸は土佐日記などにも見えている …
馬の顔(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
暗い中から驟雨のような初夏の雨が吹きあげるように降っていた。道夫は傾斜の急な径を日和下駄を穿いた足端でさぐりさぐりおりて往った。街燈一つないその路は曲りくねっているので、一歩あやま …
読書目安時間:約12分
暗い中から驟雨のような初夏の雨が吹きあげるように降っていた。道夫は傾斜の急な径を日和下駄を穿いた足端でさぐりさぐりおりて往った。街燈一つないその路は曲りくねっているので、一歩あやま …
海坊主(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
これは小説家泉鏡花氏の話である。 房州の海岸に一人の壮い漁師が住んでいた。某日その漁師の女房が嬰児の守をしながら夕飯の準備をしていると、表へどこからともなく薄汚い坊主が来て、家の中 …
読書目安時間:約3分
これは小説家泉鏡花氏の話である。 房州の海岸に一人の壮い漁師が住んでいた。某日その漁師の女房が嬰児の守をしながら夕飯の準備をしていると、表へどこからともなく薄汚い坊主が来て、家の中 …
円朝の牡丹灯籠(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
萩原新三郎は孫店に住む伴蔵を伴れて、柳島の横川へ釣に往っていた。それは五月の初めのことであった。新三郎は釣に往っても釣に興味はないので、吸筒の酒を飲んでいた。 新三郎は其の数ヶ月前 …
読書目安時間:約16分
萩原新三郎は孫店に住む伴蔵を伴れて、柳島の横川へ釣に往っていた。それは五月の初めのことであった。新三郎は釣に往っても釣に興味はないので、吸筒の酒を飲んでいた。 新三郎は其の数ヶ月前 …
おいてけ堀(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
本所のお竹蔵から東四つ目通、今の被服廠跡の納骨堂のあるあたりに大きな池があって、それが本所の七不思議の一つの「おいてけ堀」であった。其の池には鮒や鯰がたくさんいたので、釣りに往く者 …
読書目安時間:約4分
本所のお竹蔵から東四つ目通、今の被服廠跡の納骨堂のあるあたりに大きな池があって、それが本所の七不思議の一つの「おいてけ堀」であった。其の池には鮒や鯰がたくさんいたので、釣りに往く者 …
黄金の枕(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
辛道度は漂泊の旅を続けていた。着物は薄く懐中は無一物で、食物をくれる同情者のない時には水を飲んで餓えを凌ぎ、宿を貸してくれる処がなければ、木の葉を敷いて野宿をした。そうした窮乏の中 …
読書目安時間:約7分
辛道度は漂泊の旅を続けていた。着物は薄く懐中は無一物で、食物をくれる同情者のない時には水を飲んで餓えを凌ぎ、宿を貸してくれる処がなければ、木の葉を敷いて野宿をした。そうした窮乏の中 …
狼の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
日が暮れてきた。深い山の中には谷川が流れ、絶壁が聳え立っていて、昼間でさえ脚下に危険のおおい処であるから、夜になっては降りることができない、豪胆な少年も当惑して、時刻に注意しなかっ …
読書目安時間:約11分
日が暮れてきた。深い山の中には谷川が流れ、絶壁が聳え立っていて、昼間でさえ脚下に危険のおおい処であるから、夜になっては降りることができない、豪胆な少年も当惑して、時刻に注意しなかっ …
唖の妖女(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
明治七年四月のこと、神奈川県多摩郡下仙川村浅尾兼五郎の家へ妖怪が出ると云う噂がたった。 それも一度や二度のことでなく、前年の五月から怪しい事が続くと云うので、県庁でも捨て置けずとあ …
読書目安時間:約3分
明治七年四月のこと、神奈川県多摩郡下仙川村浅尾兼五郎の家へ妖怪が出ると云う噂がたった。 それも一度や二度のことでなく、前年の五月から怪しい事が続くと云うので、県庁でも捨て置けずとあ …
唖娘(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
伊井蓉峰の弟子に石井孝三郎と云う女形があった。絵が好きで清方の弟子になっていた。あまり好い男と云うでもないがどことなく味のある顔をしていた。下廻で田舎を歩いていた時、某町で楽屋遊び …
読書目安時間:約3分
伊井蓉峰の弟子に石井孝三郎と云う女形があった。絵が好きで清方の弟子になっていた。あまり好い男と云うでもないがどことなく味のある顔をしていた。下廻で田舎を歩いていた時、某町で楽屋遊び …
追っかけて来る飛行機(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
昭和六年の夏の夜のことであった。大連で夜間飛行の練習をやっていると、計器盤のある処に点いているライトの光で、その黒塗の計器盤に、己の乗っている飛行機の後から、今一台の飛行機がやはり …
読書目安時間:約2分
昭和六年の夏の夜のことであった。大連で夜間飛行の練習をやっていると、計器盤のある処に点いているライトの光で、その黒塗の計器盤に、己の乗っている飛行機の後から、今一台の飛行機がやはり …
男の顔(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
季節は何時であったか聞きもらしたが、市ヶ谷八幡の境内で、壮い男と女が話していた。話しながら女の方は、見るともなしに顔をあげて、頭の上になった銀杏の枝葉を見た。すると、青葉の間に壮い …
読書目安時間:約1分
季節は何時であったか聞きもらしたが、市ヶ谷八幡の境内で、壮い男と女が話していた。話しながら女の方は、見るともなしに顔をあげて、頭の上になった銀杏の枝葉を見た。すると、青葉の間に壮い …
鬼火を追う武士(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
鶴岡城下の話であるが、某深更に一人の武士が田圃路を通っていると、焔のない火玉がふうわりと眼の前を通った。焔のない火玉は鬼火だと云う事を聞いていた武士は、興味半分に其の後を跟けて往っ …
読書目安時間:約1分
鶴岡城下の話であるが、某深更に一人の武士が田圃路を通っていると、焔のない火玉がふうわりと眼の前を通った。焔のない火玉は鬼火だと云う事を聞いていた武士は、興味半分に其の後を跟けて往っ …
お化の面(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
怪談浪曲師浪華綱右衛門の家に、怪奇なお化の面があった。縦が二尺横が一尺で、左の眼は乳房が垂れさがったように垂れて、右の眼は初月のような半眼、それに蓬蓬の髪の毛、口は五臓六腑が破れ出 …
読書目安時間:約2分
怪談浪曲師浪華綱右衛門の家に、怪奇なお化の面があった。縦が二尺横が一尺で、左の眼は乳房が垂れさがったように垂れて、右の眼は初月のような半眼、それに蓬蓬の髪の毛、口は五臓六腑が破れ出 …
阿芳の怨霊(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
由平は我にかえってからしまったと思った。由平は怯れた自分の心を叱って、再び身を躍らそうとした。と、其の時背後の方から数人の話声が聞こえて来た。由平は無意識に林の中へ身を隠した。間も …
読書目安時間:約5分
由平は我にかえってからしまったと思った。由平は怯れた自分の心を叱って、再び身を躍らそうとした。と、其の時背後の方から数人の話声が聞こえて来た。由平は無意識に林の中へ身を隠した。間も …
女の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
ぼつぼつではあるが街路の左右に点いた街路照明の電燈の燈を見ると菊江はほっとした。菊江はこの数年来の不景気のために建物の塞がらない文化住宅の敷地の中を近路して来たところであった。 微 …
読書目安時間:約15分
ぼつぼつではあるが街路の左右に点いた街路照明の電燈の燈を見ると菊江はほっとした。菊江はこの数年来の不景気のために建物の塞がらない文化住宅の敷地の中を近路して来たところであった。 微 …
女の首(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
新吉は公園の活動写真館の前を歩きながら、今のさき点いたばかりの白昼のような電燈の光に浮き出て見える群集の顔をじろじろ見ていたが、思い出したようにその眼を活動写真館の看板絵にやった。 …
読書目安時間:約11分
新吉は公園の活動写真館の前を歩きながら、今のさき点いたばかりの白昼のような電燈の光に浮き出て見える群集の顔をじろじろ見ていたが、思い出したようにその眼を活動写真館の看板絵にやった。 …
女の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
明治三十年比のことであったらしい。東京の本郷三丁目あたりに長く空いている家があったのを、美術学校の生徒が三人で借りて、二階を画室にし下を寝室にしていた。 夏の夜のことであった。その …
読書目安時間:約3分
明治三十年比のことであったらしい。東京の本郷三丁目あたりに長く空いている家があったのを、美術学校の生徒が三人で借りて、二階を画室にし下を寝室にしていた。 夏の夜のことであった。その …
女の出る蚊帳(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
明治二年七月八日発行の明治新聞と云うのに、浜田藩の淀藤十郎と云うのが、古著屋からであろう、蚊帳を買って来て、それを釣って寝たところで、その夜の半夜頃、枕頭へ女の姿があらわれた。それ …
読書目安時間:約1分
明治二年七月八日発行の明治新聞と云うのに、浜田藩の淀藤十郎と云うのが、古著屋からであろう、蚊帳を買って来て、それを釣って寝たところで、その夜の半夜頃、枕頭へ女の姿があらわれた。それ …
蛾(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
二十歳前後のメリヤスの半シヤツの上に毛糸の胴巻をした若衆がよろよろと立ちあがつて、片手を打ち振るやうにして、 「これから、浪花節をやりまアす、皆さん聞いておくんなさい、」 そして隣 …
読書目安時間:約20分
二十歳前後のメリヤスの半シヤツの上に毛糸の胴巻をした若衆がよろよろと立ちあがつて、片手を打ち振るやうにして、 「これから、浪花節をやりまアす、皆さん聞いておくんなさい、」 そして隣 …
海異志(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
源吉は薄青い月の光を沿びて砂利の交つた砂路を歩いてゐた。左側は穂の出揃うた麦畑になつて右側は別荘の土手になつてゐた。土手には芝草が生えてその上に植ゑた薔薇の花が月の光にほの白く見え …
読書目安時間:約16分
源吉は薄青い月の光を沿びて砂利の交つた砂路を歩いてゐた。左側は穂の出揃うた麦畑になつて右側は別荘の土手になつてゐた。土手には芝草が生えてその上に植ゑた薔薇の花が月の光にほの白く見え …
海神に祈る(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
普請奉行の一木権兵衛は、一人の下僚を伴れて普請場を見まわっていた。それは室津港の開鑿工事場であった。海岸線が欠けた銍の形をした土佐の東南端、俗にお鼻の名で呼ばれている室戸岬から半里 …
読書目安時間:約26分
普請奉行の一木権兵衛は、一人の下僚を伴れて普請場を見まわっていた。それは室津港の開鑿工事場であった。海岸線が欠けた銍の形をした土佐の東南端、俗にお鼻の名で呼ばれている室戸岬から半里 …
怪人の眼(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
小坂丹治は香美郡佐古村の金剛岩の辺で小鳥を撃っていた。丹治は土佐藩の侍であった。それは維新のすこし前のことであった。 秋風が山の木の葉を吹いていた。丹治は岩と雑木に挟まった径を登っ …
読書目安時間:約6分
小坂丹治は香美郡佐古村の金剛岩の辺で小鳥を撃っていた。丹治は土佐藩の侍であった。それは維新のすこし前のことであった。 秋風が山の木の葉を吹いていた。丹治は岩と雑木に挟まった径を登っ …
怪僧(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
官軍の隊士飯田某は、五六人の部下を伴(つ)れ、勝沼在の村から村へかけて、潜伏している幕兵を捜索していた。それは、東山道から攻めのぼった官軍を支えようとした幕兵を一戦に破ったあとのこ …
読書目安時間:約6分
官軍の隊士飯田某は、五六人の部下を伴(つ)れ、勝沼在の村から村へかけて、潜伏している幕兵を捜索していた。それは、東山道から攻めのぼった官軍を支えようとした幕兵を一戦に破ったあとのこ …
怪談覚帳(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
俳優の木下がまだ田舎まわりの馬の脚であった時、夜、利根川の土手を歩いていると、むこうの方の川縁に時とすると黒い大きな物があがって、それが星あかりに怪しく見える。ふるえふるえ往って見 …
読書目安時間:約3分
俳優の木下がまだ田舎まわりの馬の脚であった時、夜、利根川の土手を歩いていると、むこうの方の川縁に時とすると黒い大きな物があがって、それが星あかりに怪しく見える。ふるえふるえ往って見 …
怪談会の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
震災の前であった。白画堂の三階で怪談会をやったことがあった。出席者は泉鏡花、喜多村緑郎、鈴木鼓村、市川猿之助、松崎天民などで、蓮の葉に白い強飯を乗せて出し、灯明は電灯を消して盆燈籠 …
読書目安時間:約1分
震災の前であった。白画堂の三階で怪談会をやったことがあった。出席者は泉鏡花、喜多村緑郎、鈴木鼓村、市川猿之助、松崎天民などで、蓮の葉に白い強飯を乗せて出し、灯明は電灯を消して盆燈籠 …
怪譚小説の話(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
私は物を書く時、面白い構想が浮ばないとか、筋が纏まらないとかいうような場あいには、六朝小説を出して読む。それは晋唐小説六十種で、当時の短篇を六十種集めた叢書であるが、それには歴史的 …
読書目安時間:約4分
私は物を書く時、面白い構想が浮ばないとか、筋が纏まらないとかいうような場あいには、六朝小説を出して読む。それは晋唐小説六十種で、当時の短篇を六十種集めた叢書であるが、それには歴史的 …
荷花公主(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
南昌に彭徳孚という秀才があった。色の白い面長な顔をした男であったが、ある時、銭塘にいる友人を訪ねて行って、昭慶寺という寺へ下宿していた。 その彭は、ある日西湖の縁を歩いていた。それ …
読書目安時間:約13分
南昌に彭徳孚という秀才があった。色の白い面長な顔をした男であったが、ある時、銭塘にいる友人を訪ねて行って、昭慶寺という寺へ下宿していた。 その彭は、ある日西湖の縁を歩いていた。それ …
牡蠣船(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
秀夫は凭れるともなしに新京橋の小さなとろとろする鉄の欄干に凭れて、周囲の電燈の灯の映つた水の上に眼をやつた。重どろんだ水は電燈の灯を大事に抱へて動かなかつた。それは秀夫に取つては淋 …
読書目安時間:約10分
秀夫は凭れるともなしに新京橋の小さなとろとろする鉄の欄干に凭れて、周囲の電燈の灯の映つた水の上に眼をやつた。重どろんだ水は電燈の灯を大事に抱へて動かなかつた。それは秀夫に取つては淋 …
牡蠣船(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
秀夫は凭れるともなしに新京橋の小さなとろとろする鉄の欄干に凭れて、周囲の電燈の燈の映った水の上に眼をやった。重どろんだ水は電燈の燈を大事に抱えて動かなかった。それは秀夫にとっては淋 …
読書目安時間:約10分
秀夫は凭れるともなしに新京橋の小さなとろとろする鉄の欄干に凭れて、周囲の電燈の燈の映った水の上に眼をやった。重どろんだ水は電燈の燈を大事に抱えて動かなかった。それは秀夫にとっては淋 …
賈后と小吏(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
盗尉部の小吏に美貌の青年があった。盗尉部の小吏といえば今なら警視庁の巡査か雇員というところだろう。そして、その青年は厮役の賤を給し升斗の糧を謀ったというから、使丁か雑役夫位の給料を …
読書目安時間:約10分
盗尉部の小吏に美貌の青年があった。盗尉部の小吏といえば今なら警視庁の巡査か雇員というところだろう。そして、その青年は厮役の賤を給し升斗の糧を謀ったというから、使丁か雑役夫位の給料を …
累物語(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
承応二巳年八月十一日の黄昏のことであった。与右衛門夫婦は畑から帰っていた。二人はその日朝から曳いていた豆を数多背負っていた。与右衛門の前を歩いていた女房の累が足を止めて、機嫌悪そう …
読書目安時間:約5分
承応二巳年八月十一日の黄昏のことであった。与右衛門夫婦は畑から帰っていた。二人はその日朝から曳いていた豆を数多背負っていた。与右衛門の前を歩いていた女房の累が足を止めて、機嫌悪そう …
鍛冶の母(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
土佐の国の東端、阿波の国境に近い処に野根山と云う大きな山があって、昔は土佐から阿波に往く街道になっていた。承久の乱後土佐へ遷御せられた後土御門上皇も、この山中で大雪に苦しまれたと云 …
読書目安時間:約10分
土佐の国の東端、阿波の国境に近い処に野根山と云う大きな山があって、昔は土佐から阿波に往く街道になっていた。承久の乱後土佐へ遷御せられた後土御門上皇も、この山中で大雪に苦しまれたと云 …
蟹の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
お種は赤い襷をかけ白地の手拭を姉様冠りにして洗濯をしていた。そこは小さな谷川の流れが岩の窪みに落ち込んで釜の中のようになった処であった。お種は涼しいその水の上に俯向いて一心になって …
読書目安時間:約12分
お種は赤い襷をかけ白地の手拭を姉様冠りにして洗濯をしていた。そこは小さな谷川の流れが岩の窪みに落ち込んで釜の中のようになった処であった。お種は涼しいその水の上に俯向いて一心になって …
竈の中の顔(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
「今日も負かしてやろうか」 相場三左衛門はそう云ってから、碁盤を中にして己と向いあっている温泉宿の主翁の顔を見て笑った。 「昨日は、あまり口惜しゅうございましたから、睡らず工夫しま …
読書目安時間:約16分
「今日も負かしてやろうか」 相場三左衛門はそう云ってから、碁盤を中にして己と向いあっている温泉宿の主翁の顔を見て笑った。 「昨日は、あまり口惜しゅうございましたから、睡らず工夫しま …
蟇の血(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
Ⅰ 三島讓は先輩の家を出た。まだ雨が残っているような雨雲が空いちめんに流れている晩で、暗いうえに雨水を含んだ地べたがじくじくしていて、はねあがるようで早くは歩けなかった。そのうえ山 …
読書目安時間:約34分
Ⅰ 三島讓は先輩の家を出た。まだ雨が残っているような雨雲が空いちめんに流れている晩で、暗いうえに雨水を含んだ地べたがじくじくしていて、はねあがるようで早くは歩けなかった。そのうえ山 …
蟇の血(新字旧仮名)
読書目安時間:約34分
三島譲は先輩の家を出た。まだ雨が残つてゐるやうな雨雲が空いちめんに流れてゐる晩で、暗い上に雨水を含んだ地べたがジクジクしてゐて、はねがあがるやうで早くは歩けなかつた。その上、山の手 …
読書目安時間:約34分
三島譲は先輩の家を出た。まだ雨が残つてゐるやうな雨雲が空いちめんに流れてゐる晩で、暗い上に雨水を含んだ地べたがジクジクしてゐて、はねがあがるやうで早くは歩けなかつた。その上、山の手 …
亀の子を握ったまま(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
岩手県の北上川の流域に亀ヶ淵と云う淵があったが、そこには昔から大きな亀が住んでいて、いろいろの怪異を見せると云うので夜など往くものはなかった。 その亀ヶ淵の近くに小学校の教員が住ん …
読書目安時間:約2分
岩手県の北上川の流域に亀ヶ淵と云う淵があったが、そこには昔から大きな亀が住んでいて、いろいろの怪異を見せると云うので夜など往くものはなかった。 その亀ヶ淵の近くに小学校の教員が住ん …
雁(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
此の話は想山著聞奇集の中にある話である。該書の著者は、「此一条は戯場の作り狂言のようなる事なれども、然にあらず、我が知音中村何某、其の時は実方津の藩中に在る時の事にて、近辺故現に其 …
読書目安時間:約8分
此の話は想山著聞奇集の中にある話である。該書の著者は、「此一条は戯場の作り狂言のようなる事なれども、然にあらず、我が知音中村何某、其の時は実方津の藩中に在る時の事にて、近辺故現に其 …
簪につけた短冊(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
日本橋区本町三丁目一番地嚢物商鈴木米次郎方の婢おきんと云うのが、某夜九時すぎ裏手にある便所へ入ろうとして扉をあけると、急に全身に水を浴びせられたようにぞっとして、忽ち頭の毛がばらば …
読書目安時間:約1分
日本橋区本町三丁目一番地嚢物商鈴木米次郎方の婢おきんと云うのが、某夜九時すぎ裏手にある便所へ入ろうとして扉をあけると、急に全身に水を浴びせられたようにぞっとして、忽ち頭の毛がばらば …
義猴記(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
支那の万暦年中、毘陵に猿曳の乞児があって、日々一疋の猴を伴れて、街坊に往き、それに技をさして銭を貰っていたが、数年の後にその金が集まって五六両になった。その乞児は某日知合の乞児とい …
読書目安時間:約2分
支那の万暦年中、毘陵に猿曳の乞児があって、日々一疋の猴を伴れて、街坊に往き、それに技をさして銭を貰っていたが、数年の後にその金が集まって五六両になった。その乞児は某日知合の乞児とい …
義人の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
延宝二年の話である。土佐藩の徒目付横山源兵衛の許へ某日精悍な顔つきをした壮い男が来た。取次の知らせによって横山が出ると、壮い男はこんなことを云った。 「私は浜田六之丞の弟の吉平と申 …
読書目安時間:約5分
延宝二年の話である。土佐藩の徒目付横山源兵衛の許へ某日精悍な顔つきをした壮い男が来た。取次の知らせによって横山が出ると、壮い男はこんなことを云った。 「私は浜田六之丞の弟の吉平と申 …
狐と狸(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
燕の恵王の墓の上に、一疋の狐と一疋の狸が棲んでいた。二疋とも千余年を経た妖獣であったが、晋の司空張華の博学多才であることを知って、それをへこますつもりで、少年書生に化けて、馬に乗っ …
読書目安時間:約3分
燕の恵王の墓の上に、一疋の狐と一疋の狸が棲んでいた。二疋とも千余年を経た妖獣であったが、晋の司空張華の博学多才であることを知って、それをへこますつもりで、少年書生に化けて、馬に乗っ …
狐の手帳(新字新仮名)
読書目安時間:約27分
幕末の比であった。本郷の枳殻寺の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年 …
読書目安時間:約27分
幕末の比であった。本郷の枳殻寺の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年 …
義猫の塚(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
遠州の御前崎に西林院と云う寺があった。住職はいたって慈悲深い男であったが、ある風波の激しい日、難船でもありはしないかと思って外へ出てみた。すると、すぐ眼の下になった怒濤の中に、船の …
読書目安時間:約2分
遠州の御前崎に西林院と云う寺があった。住職はいたって慈悲深い男であったが、ある風波の激しい日、難船でもありはしないかと思って外へ出てみた。すると、すぐ眼の下になった怒濤の中に、船の …
岐阜提灯(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
真澄はその晩も台所へ往って、酒宴の後しまつをしている婢から、二本の残酒と一皿の肴をもらって来て飲んでいた。事務に不熱心と云うことで一年余り勤めていた会社をしくじり、母の妹の縁づいて …
読書目安時間:約12分
真澄はその晩も台所へ往って、酒宴の後しまつをしている婢から、二本の残酒と一皿の肴をもらって来て飲んでいた。事務に不熱心と云うことで一年余り勤めていた会社をしくじり、母の妹の縁づいて …
嬌娜(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
孔雪笠は、孔子の子孫であった。人となりが風流で詩がうまかった。同じ先生に就いて学んでいた気のあった友達があって天台県の令となっていたが、それが手紙をよこして、来いと言ってきたので、 …
読書目安時間:約16分
孔雪笠は、孔子の子孫であった。人となりが風流で詩がうまかった。同じ先生に就いて学んでいた気のあった友達があって天台県の令となっていたが、それが手紙をよこして、来いと言ってきたので、 …
切支丹転び(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
大久保相模守は板倉伊賀守と床几を並べて、切支丹の宗徒の手入を検視していた。四条派の絵画をそのままに青々とした岸の柳に対して、微藍の色を絡めて流れていた鴨河の水も、その日は毒々しく黒 …
読書目安時間:約14分
大久保相模守は板倉伊賀守と床几を並べて、切支丹の宗徒の手入を検視していた。四条派の絵画をそのままに青々とした岸の柳に対して、微藍の色を絡めて流れていた鴨河の水も、その日は毒々しく黒 …
金鳳釵記(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
崔興哥は春風楼を目的にして来た。そこには彼の往こうとしている呉防禦という富豪の家があった。少年の時、父に伴われて宣徳府へ行ったきりで、十五年間一回もこの揚州へ帰ったことのない興哥は …
読書目安時間:約13分
崔興哥は春風楼を目的にして来た。そこには彼の往こうとしている呉防禦という富豪の家があった。少年の時、父に伴われて宣徳府へ行ったきりで、十五年間一回もこの揚州へ帰ったことのない興哥は …
空中に消えた兵曹(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
大正七八年比のことであった。横須賀航空隊のN大尉とS中尉は、それぞれ陸上偵察機を操縦してA飛行場に向けて長距離飛行を行い、目的地に到著して機翼をやすめるひまもなく、直ちに帰還の途に …
読書目安時間:約3分
大正七八年比のことであった。横須賀航空隊のN大尉とS中尉は、それぞれ陸上偵察機を操縦してA飛行場に向けて長距離飛行を行い、目的地に到著して機翼をやすめるひまもなく、直ちに帰還の途に …
草藪の中(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
夕月が射して虫が鳴いていた。益雄はその虫の声に耳を傾けながら跫音をささないようにと脚下に注意して歩いていた。そこには芒の穂があり櫟の枝があった。 それは静かな晩で潮の音もしなかった …
読書目安時間:約10分
夕月が射して虫が鳴いていた。益雄はその虫の声に耳を傾けながら跫音をささないようにと脚下に注意して歩いていた。そこには芒の穂があり櫟の枝があった。 それは静かな晩で潮の音もしなかった …
薬指の曲り(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
——これは、私が近比知りあった医学士のはなしであります—— 私の父と云うのは、私の家へ養子に来て、医師になったものでありまして、もとは小学校の教師をしておりました。其の当時は、医師 …
読書目安時間:約6分
——これは、私が近比知りあった医学士のはなしであります—— 私の父と云うのは、私の家へ養子に来て、医師になったものでありまして、もとは小学校の教師をしておりました。其の当時は、医師 …
首のない騎馬武者(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
越前の福井は元北の庄と云っていたが、越前宰相結城秀康が封ぜられて福井と改めたもので、其の城址は市の中央になって、其処には松平侯爵邸、県庁、裁判所、県会議事堂などが建っている。そして …
読書目安時間:約2分
越前の福井は元北の庄と云っていたが、越前宰相結城秀康が封ぜられて福井と改めたもので、其の城址は市の中央になって、其処には松平侯爵邸、県庁、裁判所、県会議事堂などが建っている。そして …
車屋の小供(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
明治も初めの方で、背後に武者絵などのついた人力車が東京市中を往来している比のことであった。その車を曳いている車夫の一人で、女房に死なれて、手足纏いになる男の子を隣家へ頼んで置いて、 …
読書目安時間:約2分
明治も初めの方で、背後に武者絵などのついた人力車が東京市中を往来している比のことであった。その車を曳いている車夫の一人で、女房に死なれて、手足纏いになる男の子を隣家へ頼んで置いて、 …
黒い蝶(新字旧仮名)
読書目安時間:約44分
義直は坂路をおりながらまた叔父のことを考へた。それは女と一緒にゐた時にも電車の中でも考へたことであつたが、しかしそれは、叔父が自分の帰りの遅いのを怒つて待つてゐるだらうと云ふことで …
読書目安時間:約44分
義直は坂路をおりながらまた叔父のことを考へた。それは女と一緒にゐた時にも電車の中でも考へたことであつたが、しかしそれは、叔父が自分の帰りの遅いのを怒つて待つてゐるだらうと云ふことで …
『黒影集』の序詞(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
伝奇物語に興味を有する私は、折にふれて支那の随筆小説を読んだ。読むと云っても、もともと消閑の具としてであるから、意の赴くままに眼の行くままに読むと云う有様で、巻を追うて通読したと云 …
読書目安時間:約1分
伝奇物語に興味を有する私は、折にふれて支那の随筆小説を読んだ。読むと云っても、もともと消閑の具としてであるから、意の赴くままに眼の行くままに読むと云う有様で、巻を追うて通読したと云 …
警察署長(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
ニコリフスクに恐ろしい殺戮の起った時分のことであった。そのニコリフスクから五六里離れた村に過激派のクラネクと云う警察署長がいた。 彼はある日事務室にいて己が某命をふくめて外へやった …
読書目安時間:約16分
ニコリフスクに恐ろしい殺戮の起った時分のことであった。そのニコリフスクから五六里離れた村に過激派のクラネクと云う警察署長がいた。 彼はある日事務室にいて己が某命をふくめて外へやった …
月光の下(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
空には清光のある夏の月が出て、その光に染められた海は広びろと蒼白い拡がりを持って静かに湛え、数日前大海嘯を起して、数万の人畜の生命を奪った恐ろしい海とは見えなかった。 そこは陸中の …
読書目安時間:約5分
空には清光のある夏の月が出て、その光に染められた海は広びろと蒼白い拡がりを持って静かに湛え、数日前大海嘯を起して、数万の人畜の生命を奪った恐ろしい海とは見えなかった。 そこは陸中の …
幻術(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
寛文十年と云えば切支丹で世間が騒いでいる時である。その年の夏、某城下へ二人の怪しい男が来て、不思議な術を行って見せたので、藩では早速それを捕え、死刑にすることにして刑場へ引出したが …
読書目安時間:約2分
寛文十年と云えば切支丹で世間が騒いでいる時である。その年の夏、某城下へ二人の怪しい男が来て、不思議な術を行って見せたので、藩では早速それを捕え、死刑にすることにして刑場へ引出したが …
黄英(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
馬子才は順天の人であった。その家は代々菊が好きであったが、馬子才に至ってからもっとも甚しく、佳い種があるということを聞くときっと買った。それには千里を遠しとせずして出かけて往くとい …
読書目安時間:約13分
馬子才は順天の人であった。その家は代々菊が好きであったが、馬子才に至ってからもっとも甚しく、佳い種があるということを聞くときっと買った。それには千里を遠しとせずして出かけて往くとい …
黄灯(新字新仮名)
読書目安時間:約21分
入口の障子をがたがたと開けて、学生マントを着た小兵な学生が、雨水の光る蛇目傘を半畳にして、微暗い土間へ入って来た。もう明日の朝の準備をしてしまって、膳さきの二合を嘗めるようにして飲 …
読書目安時間:約21分
入口の障子をがたがたと開けて、学生マントを着た小兵な学生が、雨水の光る蛇目傘を半畳にして、微暗い土間へ入って来た。もう明日の朝の準備をしてしまって、膳さきの二合を嘗めるようにして飲 …
虎媛(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
明の末の話である。中州に焦鼎という書生があって、友達といっしょに汴の上流へ往ったが、そのうちに清明の季節となった。その日は家々へ墓参をする日であるから、若い男達はその日を待ちかねて …
読書目安時間:約11分
明の末の話である。中州に焦鼎という書生があって、友達といっしょに汴の上流へ往ったが、そのうちに清明の季節となった。その日は家々へ墓参をする日であるから、若い男達はその日を待ちかねて …
狐狗狸の話(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
コクリと云う遊戯は、海外から渡来したものであって、渡来期は正確には判らないが、明治十六年比、米国船が伊豆の下田へ寄港した時、水夫の一人がそれを伝えたと云われている。 コクリの遊戯を …
読書目安時間:約2分
コクリと云う遊戯は、海外から渡来したものであって、渡来期は正確には判らないが、明治十六年比、米国船が伊豆の下田へ寄港した時、水夫の一人がそれを伝えたと云われている。 コクリの遊戯を …
胡氏(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
直隷に富豪があって家庭教師を傭おうとしていると、一人の秀才が来て、自分を傭うてくれと言った。主人は内へ入れて話してみると、言語がさわやかであったから、好い人があったと思って悦んだ。 …
読書目安時間:約7分
直隷に富豪があって家庭教師を傭おうとしていると、一人の秀才が来て、自分を傭うてくれと言った。主人は内へ入れて話してみると、言語がさわやかであったから、好い人があったと思って悦んだ。 …
法衣(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
千住か熊谷かのことであるが、其処に某尼寺があって、その住職の尼僧と親しい壮い男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。 尼僧はそれを心配して、何人かその辺の者が …
読書目安時間:約2分
千住か熊谷かのことであるが、其処に某尼寺があって、その住職の尼僧と親しい壮い男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。 尼僧はそれを心配して、何人かその辺の者が …
崔書生(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
崔は長安の永楽里という処に住んでいた。博陵の生れで渭南に別荘を持っていた。貞元年中のこと、清明の時分、渭南の別荘へ帰って往ったが、ある日、昭応という処まで往くと陽が暮れてしまった。 …
読書目安時間:約6分
崔は長安の永楽里という処に住んでいた。博陵の生れで渭南に別荘を持っていた。貞元年中のこと、清明の時分、渭南の別荘へ帰って往ったが、ある日、昭応という処まで往くと陽が暮れてしまった。 …
再生(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
秦の始皇の時、王道平という男があった。若い時、同村に棲んでいる唐叔偕の女と夫婦になる約束をしていたが、そのうちに道平は、徴発せられて軍人となり、南の国へ征伐に往って、敵の中へ陥って …
読書目安時間:約2分
秦の始皇の時、王道平という男があった。若い時、同村に棲んでいる唐叔偕の女と夫婦になる約束をしていたが、そのうちに道平は、徴発せられて軍人となり、南の国へ征伐に往って、敵の中へ陥って …
鮭の祟(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
常陸と下総との間を流れた大利根の流れは、犬吠崎の傍で海に入っている。それはいつのことであったか判らないが、未だ利根川に数多の鮭が登って鮭漁の盛んな比のことであった。銚子に近い四日市 …
読書目安時間:約9分
常陸と下総との間を流れた大利根の流れは、犬吠崎の傍で海に入っている。それはいつのことであったか判らないが、未だ利根川に数多の鮭が登って鮭漁の盛んな比のことであった。銚子に近い四日市 …
殺神記(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
唐の開元年中、郭元振は晋の国を出て汾の方へ往った。彼は書剣を負うて遊学する曠達な少年であった。 某日、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星が斑に光っていた。路のむこうには真黒な峰が …
読書目安時間:約7分
唐の開元年中、郭元振は晋の国を出て汾の方へ往った。彼は書剣を負うて遊学する曠達な少年であった。 某日、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星が斑に光っていた。路のむこうには真黒な峰が …
皿屋敷(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
番町の青山主膳の家の台所では、婢のお菊が正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具を始末していた。この壮い美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻に逢わないようにとおずおず働いているのであ …
読書目安時間:約4分
番町の青山主膳の家の台所では、婢のお菊が正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具を始末していた。この壮い美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻に逢わないようにとおずおず働いているのであ …
参宮がえり(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
明治五年比の晩春の夕方、伊良湖岬の手前の磯に寄せて来た漁船があった。それは参宮帰りの客を乗せたもので、五十前後に見える父親と、二十歳位になる忰の二人伴であった。 舟は波のうねりのす …
読書目安時間:約15分
明治五年比の晩春の夕方、伊良湖岬の手前の磯に寄せて来た漁船があった。それは参宮帰りの客を乗せたもので、五十前後に見える父親と、二十歳位になる忰の二人伴であった。 舟は波のうねりのす …
地獄の使(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
昼飯がすむと、老婆は裏の藪から野菊や紫苑などを一束折って来た。お爺さんはこの間亡くなったばかりで、寺の墓地になった小松の下の土饅頭には、まだ鍬目が崩れずに立っていた。 老婆はその花 …
読書目安時間:約10分
昼飯がすむと、老婆は裏の藪から野菊や紫苑などを一束折って来た。お爺さんはこの間亡くなったばかりで、寺の墓地になった小松の下の土饅頭には、まだ鍬目が崩れずに立っていた。 老婆はその花 …
死体の匂い(新字新仮名)
読書目安時間:約19分
大正十二年九月一日、天柱拆け地維欠くとも言うべき一大凶変が突如として起り、首都東京を中心に、横浜、横須賀の隣接都市をはじめ、武相豆房総、数箇国の町村に跨がって、十万不冥の死者を出し …
読書目安時間:約19分
大正十二年九月一日、天柱拆け地維欠くとも言うべき一大凶変が突如として起り、首都東京を中心に、横浜、横須賀の隣接都市をはじめ、武相豆房総、数箇国の町村に跨がって、十万不冥の死者を出し …
死体を喫う学生(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
北海道の○○大学は、後に農園があって、側面が運動場になっているが、その運動場の端れから農園にかけて草の堤が続き、そして堤の外は墓場になっていた。 年代は不明であるが、その大学に、某 …
読書目安時間:約4分
北海道の○○大学は、後に農園があって、側面が運動場になっているが、その運動場の端れから農園にかけて草の堤が続き、そして堤の外は墓場になっていた。 年代は不明であるが、その大学に、某 …
死人の手(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
此の話は、私が少年の時、隣家の老人から聞いた話であります。其の老人は、壮い時師匠について棒術を稽古しておりましたので、夏の夜など私に教えてくれると云って、渋染にした麻の帷子の両肌を …
読書目安時間:約8分
此の話は、私が少年の時、隣家の老人から聞いた話であります。其の老人は、壮い時師匠について棒術を稽古しておりましたので、夏の夜など私に教えてくれると云って、渋染にした麻の帷子の両肌を …
蛇怨(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
高知県高岡郡の奥の越知と云う山村に、樽の滝と云う数十丈の大瀑がある。それは村の南に当る山腹にある瀑で、その北になったかなりの渓谷を距てた処には安徳天皇の御陵伝説地として有名な横倉と …
読書目安時間:約5分
高知県高岡郡の奥の越知と云う山村に、樽の滝と云う数十丈の大瀑がある。それは村の南に当る山腹にある瀑で、その北になったかなりの渓谷を距てた処には安徳天皇の御陵伝説地として有名な横倉と …
蛇性の婬 :雷峰怪蹟(新字新仮名)
読書目安時間:約55分
紀の国の三輪が崎に大宅竹助と云うものがあって、海郎どもあまた養い、鰭の広物、狭き物を尽して漁り、家豊に暮していたが、三人の小供があって、上の男の子は、父に代って家を治め、次は女の子 …
読書目安時間:約55分
紀の国の三輪が崎に大宅竹助と云うものがあって、海郎どもあまた養い、鰭の広物、狭き物を尽して漁り、家豊に暮していたが、三人の小供があって、上の男の子は、父に代って家を治め、次は女の子 …
終電車に乗る妖婆(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
怪談も生活様式の変化によって変化する。駕籠ができれば駕籠に怪しい者が乗り、人力車ができれば人力車に、鉄道馬車ができれば鉄道馬車に、汽車ができれば汽車に、電車ができれば電車に、自動車 …
読書目安時間:約1分
怪談も生活様式の変化によって変化する。駕籠ができれば駕籠に怪しい者が乗り、人力車ができれば人力車に、鉄道馬車ができれば鉄道馬車に、汽車ができれば汽車に、電車ができれば電車に、自動車 …
酒友(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
車という男は、貧乏でありながら酒ばかり飲んでいた。そして、夜よる三ばい位の罰杯を飲まさないと寝ることができないというほどであった。だから枕もとには、平生酒を置いてないことがなかった …
読書目安時間:約3分
車という男は、貧乏でありながら酒ばかり飲んでいた。そして、夜よる三ばい位の罰杯を飲まさないと寝ることができないというほどであった。だから枕もとには、平生酒を置いてないことがなかった …
種梨(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。破れた頭巾をかむり、破れた綿入をきた一人の道士が有って、その梨を積んでいる車の前へ来て、 …
読書目安時間:約3分
村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。破れた頭巾をかむり、破れた綿入をきた一人の道士が有って、その梨を積んでいる車の前へ来て、 …
春心(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間58分
広巳は品川の方からふらふらと歩いて来た。東海道になったその街には晩春の微陽が射していた。それは午近い比であった。右側の民家の背景になった丘の上から、左側の品川の海へかけて煙のような …
読書目安時間:約1時間58分
広巳は品川の方からふらふらと歩いて来た。東海道になったその街には晩春の微陽が射していた。それは午近い比であった。右側の民家の背景になった丘の上から、左側の品川の海へかけて煙のような …
焦土に残る怪(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昭和九年三月二十一日の函館の大火は、その日の午後六時から翌朝の七時まで燃えつづけて、焼失家屋二万四千戸、死傷者三千人を出したが、その時火に追われた市民は、猛火の中をくぐって安全な場 …
読書目安時間:約3分
昭和九年三月二十一日の函館の大火は、その日の午後六時から翌朝の七時まで燃えつづけて、焼失家屋二万四千戸、死傷者三千人を出したが、その時火に追われた市民は、猛火の中をくぐって安全な場 …
商売の繁昌する家(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
芝公園大門脇に『わかもと』の本舗がある。その『わかもと』の事務所は、寺院の一部であった。観相家の松井桂陰君が某時その『わかもと』の某君を訪問した時、 「あなたのところは、どうしてこ …
読書目安時間:約1分
芝公園大門脇に『わかもと』の本舗がある。その『わかもと』の事務所は、寺院の一部であった。観相家の松井桂陰君が某時その『わかもと』の某君を訪問した時、 「あなたのところは、どうしてこ …
女賊記(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
館林の城下では女賊の噂で持ち切っていた。それはどこからともなしに城下へ来た妖婦であった。色深い美しい顔をした女で、捕えようとすると傍にある壁のはめ板へぴったり引附いてそのまま姿を消 …
読書目安時間:約9分
館林の城下では女賊の噂で持ち切っていた。それはどこからともなしに城下へ来た妖婦であった。色深い美しい顔をした女で、捕えようとすると傍にある壁のはめ板へぴったり引附いてそのまま姿を消 …
白い小犬を抱いた女(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
某夜、某運転手が護国寺の墓地を通っていると、白い小犬を抱いた女が来て車を停めた。そこで運転手は女の云うままに逢初橋まで往くと、女が、 「ちょっと待っててね」 と云って、犬を抱いたま …
読書目安時間:約1分
某夜、某運転手が護国寺の墓地を通っていると、白い小犬を抱いた女が来て車を停めた。そこで運転手は女の云うままに逢初橋まで往くと、女が、 「ちょっと待っててね」 と云って、犬を抱いたま …
白いシヤツの群(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
清は仲間の安三から金の分け前を要求せられてゐた。彼はそれを傍の者に知られないやうにと、自分の眼の前へひよつとこ顔を突出してゐる相手の言葉を押へつけた。 「まア、飲め、飲め、酒を飲ま …
読書目安時間:約7分
清は仲間の安三から金の分け前を要求せられてゐた。彼はそれを傍の者に知られないやうにと、自分の眼の前へひよつとこ顔を突出してゐる相手の言葉を押へつけた。 「まア、飲め、飲め、酒を飲ま …
白い花赤い茎(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
何時の比のことであったか、高崎の観音山の麓に三人の小供を持った寡婦が住んでいた。それはある歳の暮であった。山の前の親戚の家に餅搗があって、其の手伝いに頼まれたので、小供を留守居にし …
読書目安時間:約12分
何時の比のことであったか、高崎の観音山の麓に三人の小供を持った寡婦が住んでいた。それはある歳の暮であった。山の前の親戚の家に餅搗があって、其の手伝いに頼まれたので、小供を留守居にし …
白っぽい洋服(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
務は電車の踏切を離れて丘の方へ歩いた。彼は一度ならず二度三度疾走して来る電車を覘っていたが、そのつど邪魔が入って目的を達することができなかった。彼は混乱している頭で他に死場所を探さ …
読書目安時間:約9分
務は電車の踏切を離れて丘の方へ歩いた。彼は一度ならず二度三度疾走して来る電車を覘っていたが、そのつど邪魔が入って目的を達することができなかった。彼は混乱している頭で他に死場所を探さ …
神仙河野久(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
神仙の実在を信じて「神仙記伝」と云う書物を編輯していたと云う宮中掌典の宮地嚴夫翁が明治四十三年、華族会館で講演した講演筆記の写しの中から得た材料によって話すことにする。この話の主人 …
読書目安時間:約15分
神仙の実在を信じて「神仙記伝」と云う書物を編輯していたと云う宮中掌典の宮地嚴夫翁が明治四十三年、華族会館で講演した講演筆記の写しの中から得た材料によって話すことにする。この話の主人 …
死んでいた狒狒(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
昔から山には魑魅、水には魍魎がおると云われているが、明治二十年比の事であった。日向の山奥で森林を伐採した事があって、附近の者は元より他国からも木客が集まって来たが、その木客だちは、 …
読書目安時間:約3分
昔から山には魑魅、水には魍魎がおると云われているが、明治二十年比の事であった。日向の山奥で森林を伐採した事があって、附近の者は元より他国からも木客が集まって来たが、その木客だちは、 …
人面瘡物語(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
谷崎潤一郎氏に人面疽のことを書いた物語がある。其の原稿はある機会から私の手に入って今に保存されているが、何んでも活動写真の映画にあらわれた女のことに就いて叙述したもので、文学的には …
読書目安時間:約11分
谷崎潤一郎氏に人面疽のことを書いた物語がある。其の原稿はある機会から私の手に入って今に保存されているが、何んでも活動写真の映画にあらわれた女のことに就いて叙述したもので、文学的には …
申陽洞記(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
元の天暦年間のことであった。隴西に李生という若い男があった。名は徳逢、年は二十五、剛胆な生れで、馬に騎り、弓を射るのが得意であったが生産を事としないので、郷党の排斥を受けて、何人も …
読書目安時間:約11分
元の天暦年間のことであった。隴西に李生という若い男があった。名は徳逢、年は二十五、剛胆な生れで、馬に騎り、弓を射るのが得意であったが生産を事としないので、郷党の排斥を受けて、何人も …
水郷異聞(新字旧仮名)
読書目安時間:約36分
山根省三は洋服を宿の浴衣に着替へて投げ出すやうに疲れた体を横に寝かし、片手で肱枕をしながら煙草を飲みだした。その朝東京の自宅を出てから十二時過ぎに到着してみると、講演の主催者や土地 …
読書目安時間:約36分
山根省三は洋服を宿の浴衣に着替へて投げ出すやうに疲れた体を横に寝かし、片手で肱枕をしながら煙草を飲みだした。その朝東京の自宅を出てから十二時過ぎに到着してみると、講演の主催者や土地 …
水郷異聞(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
山根省三は洋服を宿の浴衣に着更えて投げだすように疲れた体を横に寝かし、隻手で肱枕をしながら煙草を飲みだした。その朝東京の自宅を出てから十二時過ぎに到着してみると、講演の主催者や土地 …
読書目安時間:約36分
山根省三は洋服を宿の浴衣に着更えて投げだすように疲れた体を横に寝かし、隻手で肱枕をしながら煙草を飲みだした。その朝東京の自宅を出てから十二時過ぎに到着してみると、講演の主催者や土地 …
水莽草(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
水莽という草は毒草である。葛のように蔓生しているもので、花は扁豆の花に似て紫である。もし人が誤って食うようなことでもあるとたちどころに死んだ。そして、その水莽草を食って死んだ者の鬼 …
読書目安時間:約8分
水莽という草は毒草である。葛のように蔓生しているもので、花は扁豆の花に似て紫である。もし人が誤って食うようなことでもあるとたちどころに死んだ。そして、その水莽草を食って死んだ者の鬼 …
水魔(新字新仮名)
読書目安時間:約24分
暖かな宵の口であった。微赤い月の光が浅緑をつけたばかりの公孫樹の木立の間から漏れていた。浅草観音堂の裏手の林の中は人通がすくなかったが、池の傍の群集の雑沓は、活動写真の楽器の音をま …
読書目安時間:約24分
暖かな宵の口であった。微赤い月の光が浅緑をつけたばかりの公孫樹の木立の間から漏れていた。浅草観音堂の裏手の林の中は人通がすくなかったが、池の傍の群集の雑沓は、活動写真の楽器の音をま …
水面に浮んだ女(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
外から帰って来た平兵衛は、台所の方で何かやっていた妻を傍へ呼んだ。女は水で濡れた手を前掛で拭き拭きあがって来た。 「すこし、お前に、話したいことがある」 女は何事であろうと思って、 …
読書目安時間:約10分
外から帰って来た平兵衛は、台所の方で何かやっていた妻を傍へ呼んだ。女は水で濡れた手を前掛で拭き拭きあがって来た。 「すこし、お前に、話したいことがある」 女は何事であろうと思って、 …
雀が森の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
明治——年六月末の某夜、彼は夜のふけるのも忘れてノートと首っぴきしていた。彼は岐阜市の隣接になった某町の豪農の伜で、名もわかっているがすこし憚るところがあるので、彼と云う代名詞を用 …
読書目安時間:約14分
明治——年六月末の某夜、彼は夜のふけるのも忘れてノートと首っぴきしていた。彼は岐阜市の隣接になった某町の豪農の伜で、名もわかっているがすこし憚るところがあるので、彼と云う代名詞を用 …
雀の宮物語(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
東北本線の汽車に乗って宇都宮を通過する者は、宇都宮の手前に雀の宮と云う停車場のあるのを見るであろう。私は其の雀の宮へ下車したことがないから実物を見たことはないが、東国旅行談の云うと …
読書目安時間:約4分
東北本線の汽車に乗って宇都宮を通過する者は、宇都宮の手前に雀の宮と云う停車場のあるのを見るであろう。私は其の雀の宮へ下車したことがないから実物を見たことはないが、東国旅行談の云うと …
棄轎(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
上州の田舎の話である。某日の夕方、一人の農夫が畑から帰っていた。それは柄の長い鍬を肩にして、雁首を蛇腹のように叩き潰した煙管をくわえていた。そして、のろのろと牛のように歩いていると …
読書目安時間:約2分
上州の田舎の話である。某日の夕方、一人の農夫が畑から帰っていた。それは柄の長い鍬を肩にして、雁首を蛇腹のように叩き潰した煙管をくわえていた。そして、のろのろと牛のように歩いていると …
炭取り(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
母親を無くした小供が、ある夜、ふと眼を覚ました。その室は二階で、傍には親父をはじめ二三人のものが寝ていた。 と、梯子段をみしみしと云わして、あがって来る者があったが、やがてそれが障 …
読書目安時間:約1分
母親を無くした小供が、ある夜、ふと眼を覚ました。その室は二階で、傍には親父をはじめ二三人のものが寝ていた。 と、梯子段をみしみしと云わして、あがって来る者があったが、やがてそれが障 …
青蛙神(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
揚子江と灌水の間の土地では、蛙の神を祭ってひどく崇めるので、祠の中にはたくさんの蛙がいて、大きいのは籠ほどあるものさえある。もし人が神の怒りにふれるようなことがあると、その家はきっ …
読書目安時間:約10分
揚子江と灌水の間の土地では、蛙の神を祭ってひどく崇めるので、祠の中にはたくさんの蛙がいて、大きいのは籠ほどあるものさえある。もし人が神の怒りにふれるようなことがあると、その家はきっ …
西湖主(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
陳弼教は幼な名を明允といっていた。燕の人であった。家が貧乏であったから、副将軍賈綰の秘書になっていた。ある時賈に従って洞庭に舟がかりをしていると、たまたま大きな猪婆龍が水の上に浮い …
読書目安時間:約15分
陳弼教は幼な名を明允といっていた。燕の人であった。家が貧乏であったから、副将軍賈綰の秘書になっていた。ある時賈に従って洞庭に舟がかりをしていると、たまたま大きな猪婆龍が水の上に浮い …
前妻の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
長崎市の今博多町、中島川に沿うた処に、竹田と云う青年が住んでいた。そこは隣家の高い二階家に遮られて、東に面した窓口から、僅かに朝の半時間ばかり、二尺くらいの陽が射しこむきりで、微暗 …
読書目安時間:約4分
長崎市の今博多町、中島川に沿うた処に、竹田と云う青年が住んでいた。そこは隣家の高い二階家に遮られて、東に面した窓口から、僅かに朝の半時間ばかり、二尺くらいの陽が射しこむきりで、微暗 …
戦死者の凱旋(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
この話は長谷川伸君から聞いた話であるが、長谷川君は日露役の際、即ち明治三十七年の暮に、補充兵として国府台の野砲連隊へ入営した。その時長谷川君のいた第六中隊は、中隊長代理として畑俊六 …
読書目安時間:約2分
この話は長谷川伸君から聞いた話であるが、長谷川君は日露役の際、即ち明治三十七年の暮に、補充兵として国府台の野砲連隊へ入営した。その時長谷川君のいた第六中隊は、中隊長代理として畑俊六 …
仙術修業(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
——支那の四川省の奥で修業をしたと云うんだ。気合をかけると己の脈がとまるよ、仰向いて胸を反らして力を入れると、肋骨がばらばらになるそうだ。人間の頭位は拳で砕くことができると云ってい …
読書目安時間:約5分
——支那の四川省の奥で修業をしたと云うんだ。気合をかけると己の脈がとまるよ、仰向いて胸を反らして力を入れると、肋骨がばらばらになるそうだ。人間の頭位は拳で砕くことができると云ってい …
千匹猿の鍔(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
大正十二年九月一日、高橋秀臣君は埼玉県下へ遊説に往っていたが、突如として起った大震災の騒ぎに、翌二日倉皇として神田錦町の自宅へ帰ったが、四辺は一面の焼野原。やっとのことで家族の行方 …
読書目安時間:約2分
大正十二年九月一日、高橋秀臣君は埼玉県下へ遊説に往っていたが、突如として起った大震災の騒ぎに、翌二日倉皇として神田錦町の自宅へ帰ったが、四辺は一面の焼野原。やっとのことで家族の行方 …
雑木林の中(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
明治十七八年頃のことであつた。改進党の壮士藤原登は、芝の愛宕下の下宿から早稲田の奥に住んでゐる党の領袖の所へ金の無心に行つてゐた。まだその頃の早稲田は、雑木林があり、草原があり、竹 …
読書目安時間:約9分
明治十七八年頃のことであつた。改進党の壮士藤原登は、芝の愛宕下の下宿から早稲田の奥に住んでゐる党の領袖の所へ金の無心に行つてゐた。まだその頃の早稲田は、雑木林があり、草原があり、竹 …
雑木林の中(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
明治十七八年比のことであった。改進党の壮士藤原登は芝の愛宕下の下宿から早稲田の奥に住んでいる党の領袖の処へ金の無心に往っていた。まだその比の早稲田は、雑木林があり、草原があり、竹藪 …
読書目安時間:約9分
明治十七八年比のことであった。改進党の壮士藤原登は芝の愛宕下の下宿から早稲田の奥に住んでいる党の領袖の処へ金の無心に往っていた。まだその比の早稲田は、雑木林があり、草原があり、竹藪 …
葬式の行列(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
鶴岡の城下に大場宇兵衛という武士があった。其の大場は同儕の寄合があったので、それに往っていて夜半比に帰って来た。北国でなくても淋しい屋敷町。其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から …
読書目安時間:約1分
鶴岡の城下に大場宇兵衛という武士があった。其の大場は同儕の寄合があったので、それに往っていて夜半比に帰って来た。北国でなくても淋しい屋敷町。其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から …
続黄梁(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
福建の曾孝廉が、第一等の成績で礼部の試験に及第した時、やはりその試験に及第して新たに官吏になった二三の者と郊外に遊びに往ったが、毘廬禅院に一人の星者が泊っているということを聞いたの …
読書目安時間:約13分
福建の曾孝廉が、第一等の成績で礼部の試験に及第した時、やはりその試験に及第して新たに官吏になった二三の者と郊外に遊びに往ったが、毘廬禅院に一人の星者が泊っているということを聞いたの …
蘇生(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
秦郵という処に王鼎という若い男があったが、至って慷慨家で家を外に四方に客遊していた。その王鼎は十八の年に一度細君を迎えたことがあったが、間もなく病気で亡くなった。弟思いの兄の鼎が心 …
読書目安時間:約11分
秦郵という処に王鼎という若い男があったが、至って慷慨家で家を外に四方に客遊していた。その王鼎は十八の年に一度細君を迎えたことがあったが、間もなく病気で亡くなった。弟思いの兄の鼎が心 …
蕎麦餅(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
唐の元和年中のことであった。許州の趙季和という男が東都に往く要事が出来たので、家を出て卞州の西になった板橋店まで往った。 その板橋店には三娘子という宿屋があった。そこには三娘子とい …
読書目安時間:約9分
唐の元和年中のことであった。許州の趙季和という男が東都に往く要事が出来たので、家を出て卞州の西になった板橋店まで往った。 その板橋店には三娘子という宿屋があった。そこには三娘子とい …
太虚司法伝(新字新仮名)
読書目安時間:約16分
馮大異は上蔡の東門にある自分の僑居から近村へ往っていた。ちょうど元の順帝の至元丁丑の年のことで、恐ろしい兵乱があった後の郊外は、見るから荒涼を極めて、耕耘する者のない田圃はもとの野 …
読書目安時間:約16分
馮大異は上蔡の東門にある自分の僑居から近村へ往っていた。ちょうど元の順帝の至元丁丑の年のことで、恐ろしい兵乱があった後の郊外は、見るから荒涼を極めて、耕耘する者のない田圃はもとの野 …
立山の亡者宿(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
小八はやっと目ざした宿屋へ着いた。主翁と婢が出て来てこの壮い旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いた筧の水を汲んで来てそれを足盥に入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。 …
読書目安時間:約15分
小八はやっと目ざした宿屋へ着いた。主翁と婢が出て来てこの壮い旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いた筧の水を汲んで来てそれを足盥に入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。 …
狸と同棲する人妻(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
山形県最上郡豊田村に沓澤仁蔵と云う行商人があった。仁蔵は壮いに似あわず、家業に熱心で、毎日のように村から村へと行商に出かけて往った。其の仁蔵には直と云う近隣で評番の美しい女房があっ …
読書目安時間:約2分
山形県最上郡豊田村に沓澤仁蔵と云う行商人があった。仁蔵は壮いに似あわず、家業に熱心で、毎日のように村から村へと行商に出かけて往った。其の仁蔵には直と云う近隣で評番の美しい女房があっ …
狸と俳人(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
安永年間のことであった。伊勢大廟の内宮領から外宮領に至る裏道に、柿で名のある蓮台寺と云う村があるが、其の村に澤田庄造という人が住んでいた。 庄造は又の名を永世と云い、号を鹿鳴と云っ …
読書目安時間:約4分
安永年間のことであった。伊勢大廟の内宮領から外宮領に至る裏道に、柿で名のある蓮台寺と云う村があるが、其の村に澤田庄造という人が住んでいた。 庄造は又の名を永世と云い、号を鹿鳴と云っ …
断橋奇聞(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
杭州の西湖へ往って宝叔塔の在る宝石山の麓、日本領事館の下の方から湖の中に通じた一条の長隄を通って孤山に遊んだ者は、その長隄の中にある二つの石橋を渡って往く。石橋の一つは断橋で、一つ …
読書目安時間:約25分
杭州の西湖へ往って宝叔塔の在る宝石山の麓、日本領事館の下の方から湖の中に通じた一条の長隄を通って孤山に遊んだ者は、その長隄の中にある二つの石橋を渡って往く。石橋の一つは断橋で、一つ …
竹青(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
魚容という秀才があった。湖南の人であったが、この話をした者が忘れていたから郡や村の名は解らない。ただ家が極めて貧乏で、文官試験に落第して帰っている途中で旅費が尽きてしまった。それで …
読書目安時間:約9分
魚容という秀才があった。湖南の人であったが、この話をした者が忘れていたから郡や村の名は解らない。ただ家が極めて貧乏で、文官試験に落第して帰っている途中で旅費が尽きてしまった。それで …
長者(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
何時の比であったか、四国の吉野川の辺に四国三郎貞時と云う長者が住んでた。其の長者の家では日々奴隷を海と山に入れて、海の宝、山の宝を集め執らしたので、倉と云う倉には金銀財宝が満ち溢れ …
読書目安時間:約6分
何時の比であったか、四国の吉野川の辺に四国三郎貞時と云う長者が住んでた。其の長者の家では日々奴隷を海と山に入れて、海の宝、山の宝を集め執らしたので、倉と云う倉には金銀財宝が満ち溢れ …
提灯(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
八月の中比で国へ帰る連中はとうに帰ってしまい、懐の暖かな連中は海岸へ往ったり山へ往ったり、東京にいるのは金のない奴か物臭か、其のあたりのバーの女給にお思召をつけている奴か、それでな …
読書目安時間:約7分
八月の中比で国へ帰る連中はとうに帰ってしまい、懐の暖かな連中は海岸へ往ったり山へ往ったり、東京にいるのは金のない奴か物臭か、其のあたりのバーの女給にお思召をつけている奴か、それでな …
提灯(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
八月の中頃で国へ帰る連中はとうに帰つてしまひ、懐の暖かな連中は海岸へ行つたり山へ行つたり、東京にゐるのは金のない奴か物臭か、そのあたりのバーの女給にお思召を付けてゐる奴か、それでな …
読書目安時間:約7分
八月の中頃で国へ帰る連中はとうに帰つてしまひ、懐の暖かな連中は海岸へ行つたり山へ行つたり、東京にゐるのは金のない奴か物臭か、そのあたりのバーの女給にお思召を付けてゐる奴か、それでな …
陳宝祠(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
杜陽と僕の二人は山道にかかっていた。足がかりのない山腹の巌から巌へ木をわたしてしつらえた桟道には、ところどころ深い壑底の覗かれる穴が開いていて魂をひやひやさした。その壑底には巨木が …
読書目安時間:約14分
杜陽と僕の二人は山道にかかっていた。足がかりのない山腹の巌から巌へ木をわたしてしつらえた桟道には、ところどころ深い壑底の覗かれる穴が開いていて魂をひやひやさした。その壑底には巨木が …
築地の川獺(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
小泉八雲の書いた怪談の中には、赤坂に出る目も鼻もないのっぺらぼうの川獺のことがあるが、築地の周囲の運河の水にも数多の川獺がいて、そこにも川獺の怪異が伝わっていた。 元逢引橋などのあ …
読書目安時間:約2分
小泉八雲の書いた怪談の中には、赤坂に出る目も鼻もないのっぺらぼうの川獺のことがあるが、築地の周囲の運河の水にも数多の川獺がいて、そこにも川獺の怪異が伝わっていた。 元逢引橋などのあ …
机の抽斗(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
ハワイのヒロはホノルルに次ぐ都会であるが、そのヒロに某と云う商店があって、賃銀の関係から支那人や日本人を事務員に使っていた。某時その事務員の一人であった支那人がしくじったので、すぐ …
読書目安時間:約1分
ハワイのヒロはホノルルに次ぐ都会であるが、そのヒロに某と云う商店があって、賃銀の関係から支那人や日本人を事務員に使っていた。某時その事務員の一人であった支那人がしくじったので、すぐ …
鼓の音(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
柳橋の船宿の主翁は、二階の梯子段をあがりながら、他家のようであるがどうも我家らしいぞ、と思った。二階の方では、とん、とん、とん、と云う小鼓の音がしていた。 風の無い晴れきった、世の …
読書目安時間:約4分
柳橋の船宿の主翁は、二階の梯子段をあがりながら、他家のようであるがどうも我家らしいぞ、と思った。二階の方では、とん、とん、とん、と云う小鼓の音がしていた。 風の無い晴れきった、世の …
海嘯のあと(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
壮い漁師は隣村へ用たしに往って、夜おそくなって帰っていた。そこは釜石に近い某と云う港町であったが、数日前に襲って来た海嘯のために、この港町も一嘗にせられているので、見るかぎり荒涼と …
読書目安時間:約2分
壮い漁師は隣村へ用たしに往って、夜おそくなって帰っていた。そこは釜石に近い某と云う港町であったが、数日前に襲って来た海嘯のために、この港町も一嘗にせられているので、見るかぎり荒涼と …
天井裏の妖婆(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
鏑木清方画伯の夫人が産褥熱で入院した時の話である。 その夫人が入院した時は夜で、しかもひどく遅かった。夫人はその時吊台で病院に運ばれたが、その途中吊台の被の隙から外の方を見ると、寒 …
読書目安時間:約2分
鏑木清方画伯の夫人が産褥熱で入院した時の話である。 その夫人が入院した時は夜で、しかもひどく遅かった。夫人はその時吊台で病院に運ばれたが、その途中吊台の被の隙から外の方を見ると、寒 …
天井からぶらさがる足(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
小説家の山中峯太郎君が、広島市の幟町にいた比のことであった。それは山中君がまだ九つの時で、某夜近くの女学校が焼けだしたので、家人は裏の畑へ往ってそれを見ていた。その時山中君は、ただ …
読書目安時間:約1分
小説家の山中峯太郎君が、広島市の幟町にいた比のことであった。それは山中君がまだ九つの時で、某夜近くの女学校が焼けだしたので、家人は裏の畑へ往ってそれを見ていた。その時山中君は、ただ …
天長節の式場(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
大正十一年十月三十日、横浜市横浜尋常高等石川小学校では、例年の如く天長節の勅語奉読式を挙行した。 その翌日になって、第四年生一組の受持訓導S君は、同級生徒に向って、 「皆さん、あな …
読書目安時間:約2分
大正十一年十月三十日、横浜市横浜尋常高等石川小学校では、例年の如く天長節の勅語奉読式を挙行した。 その翌日になって、第四年生一組の受持訓導S君は、同級生徒に向って、 「皆さん、あな …
竇氏(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
不意に陽がかげって頭の上へ覆をせられたような気がするので、南三復は騎っている驢から落ちないように注意しながら空を見た。空には灰汁をぶちまけたような雲がひろがって、それを地にして真黒 …
読書目安時間:約23分
不意に陽がかげって頭の上へ覆をせられたような気がするので、南三復は騎っている驢から落ちないように注意しながら空を見た。空には灰汁をぶちまけたような雲がひろがって、それを地にして真黒 …
瞳人語(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
長安に、方棟という男があった。非常な才子だといわれていたが、かるはずみで礼儀などは念頭におかなかった。路で歩いている女でも見かけると、きっと軽薄にその後をつけて往くのであった。 清 …
読書目安時間:約4分
長安に、方棟という男があった。非常な才子だといわれていたが、かるはずみで礼儀などは念頭におかなかった。路で歩いている女でも見かけると、きっと軽薄にその後をつけて往くのであった。 清 …
通魔(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
旧幕の比であった。江戸の山の手に住んでいる侍の一人が、某日の黄昏便所へ往って手を洗っていると手洗鉢の下の葉蘭の間から鬼魅の悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。 その侍は胆力が据っ …
読書目安時間:約1分
旧幕の比であった。江戸の山の手に住んでいる侍の一人が、某日の黄昏便所へ往って手を洗っていると手洗鉢の下の葉蘭の間から鬼魅の悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。 その侍は胆力が据っ …
賭博の負債(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
徳化県の県令をしていた張という男は、任期が満ちたのでたくさんの奴隷を伴れ、悪いことをして蒐めた莫大な金銀財宝を小荷駄にして都の方へ帰っていた。 華陰へきた時、先発の奴僕どもは豚を殺 …
読書目安時間:約5分
徳化県の県令をしていた張という男は、任期が満ちたのでたくさんの奴隷を伴れ、悪いことをして蒐めた莫大な金銀財宝を小荷駄にして都の方へ帰っていた。 華陰へきた時、先発の奴僕どもは豚を殺 …
とんだ屋の客(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
これは喜多村緑郎さんの持ち話で、私も本年六月の某夜浜町の支那料理で親しく喜多村さんの口から聞いて、非常に面白いと思ったから、其のうけうりをやってみることにしたが、此の話の舞台は大阪 …
読書目安時間:約6分
これは喜多村緑郎さんの持ち話で、私も本年六月の某夜浜町の支那料理で親しく喜多村さんの口から聞いて、非常に面白いと思ったから、其のうけうりをやってみることにしたが、此の話の舞台は大阪 …
隧道内の怪火(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石間の隧道の開鑿工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが、 「骨がたりない、トコトコトン」 と聞え …
読書目安時間:約1分
兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石間の隧道の開鑿工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが、 「骨がたりない、トコトコトン」 と聞え …
長崎の電話(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
京都西陣の某と云う商店の主人は、遅い昼飯を喫って店の帳場に坐っていると電話のベルが鳴った。主人は己で起って電話口へ出てみると聞き覚えのある声で、 「あなたは——ですか」 と云ってこ …
読書目安時間:約2分
京都西陣の某と云う商店の主人は、遅い昼飯を喫って店の帳場に坐っていると電話のベルが鳴った。主人は己で起って電話口へ出てみると聞き覚えのある声で、 「あなたは——ですか」 と云ってこ …
南北の東海道四谷怪談(新字新仮名)
読書目安時間:約34分
伊藤喜兵衛は孫娘のお梅を伴れて、浅草観音の額堂の傍を歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のお槇と医師坊主の尾扇が加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。 「どうじゃ、お梅、今日はだいぶ気あ …
読書目安時間:約34分
伊藤喜兵衛は孫娘のお梅を伴れて、浅草観音の額堂の傍を歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のお槇と医師坊主の尾扇が加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。 「どうじゃ、お梅、今日はだいぶ気あ …
遁げて往く人魂(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
二人の仕事師が某夜夜廻りに往っていると、すぐ眼の前でふうわりと青い火が燃えた。二人は驚いて手にしていた鳶口で、それを敲こうとすると、火の玉は吃驚したように向うの方へ往った。 二人は …
読書目安時間:約1分
二人の仕事師が某夜夜廻りに往っていると、すぐ眼の前でふうわりと青い火が燃えた。二人は驚いて手にしていた鳶口で、それを敲こうとすると、火の玉は吃驚したように向うの方へ往った。 二人は …
二通の書翰(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
小説家後藤宙外氏が鎌倉に住んでいた比のことであると云うから、明治三十年前後のことであろう、その時鎌倉の雪の下、つまり八幡宮の前に饅頭屋があって、東京から避暑に往っていた××君がその …
読書目安時間:約3分
小説家後藤宙外氏が鎌倉に住んでいた比のことであると云うから、明治三十年前後のことであろう、その時鎌倉の雪の下、つまり八幡宮の前に饅頭屋があって、東京から避暑に往っていた××君がその …
「日本怪談全集」序(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
私が最初に怪談に筆をつけたのは、大正七年であつた。それは『魚の妖・蟲の怪』と云ふ、中央公論に載せたもので、『岩魚の怪』と『蠅供養』の二つからなつてゐた。 ところで、幸か不幸か、其の …
読書目安時間:約1分
私が最初に怪談に筆をつけたのは、大正七年であつた。それは『魚の妖・蟲の怪』と云ふ、中央公論に載せたもので、『岩魚の怪』と『蠅供養』の二つからなつてゐた。 ところで、幸か不幸か、其の …
日本天変地異記(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
序記国土成生の伝説 大正十二年九月一日の大地震及び地震のために発したる大火災に遭遇して、吾吾日本人は世界の地震帯に縁取られ、その上火山系の上に眠っているわが国土の危険に想到して、今 …
読書目安時間:約26分
序記国土成生の伝説 大正十二年九月一日の大地震及び地震のために発したる大火災に遭遇して、吾吾日本人は世界の地震帯に縁取られ、その上火山系の上に眠っているわが国土の危険に想到して、今 …
女仙(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
市ヶ谷の自証院の惣墓の中に、西応従徳と云う法名を彫った墓がある。それは西応房と云う道心坊主の墓で、墓の主の西応房は、素養などはすこしもなかったが、殊勝な念仏行者で、生涯人の悪を云わ …
読書目安時間:約3分
市ヶ谷の自証院の惣墓の中に、西応従徳と云う法名を彫った墓がある。それは西応房と云う道心坊主の墓で、墓の主の西応房は、素養などはすこしもなかったが、殊勝な念仏行者で、生涯人の悪を云わ …
庭の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
加茂の光長は瓦盃に残りすくなになった酒を嘗めるように飲んでいた。彼はこの二三日、何処となしに体が重くるしいので、所労を云いたてにして、兵衛の府にも出仕せずに家にいた。未だ秋口の日中 …
読書目安時間:約6分
加茂の光長は瓦盃に残りすくなになった酒を嘗めるように飲んでいた。彼はこの二三日、何処となしに体が重くるしいので、所労を云いたてにして、兵衛の府にも出仕せずに家にいた。未だ秋口の日中 …
偶人物語(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
古道具屋の大井金五郎は、古道具の入った大きな風呂敷包を背にして金町の家へ帰って来た。金五郎は三河島蓮田の古道具屋小林文平の立場へ往って、古い偶形を買って来た処であった。 門口の狭い …
読書目安時間:約3分
古道具屋の大井金五郎は、古道具の入った大きな風呂敷包を背にして金町の家へ帰って来た。金五郎は三河島蓮田の古道具屋小林文平の立場へ往って、古い偶形を買って来た処であった。 門口の狭い …
人蔘の精(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
これは人蔘で有名な朝鮮の話であります。其の朝鮮に張と云う人がありました。其の張は山の中や野の中を歩いて人蔘を掘るのが稼業でありました。ぜんたい人蔘というものは、山の中や野の中に自然 …
読書目安時間:約7分
これは人蔘で有名な朝鮮の話であります。其の朝鮮に張と云う人がありました。其の張は山の中や野の中を歩いて人蔘を掘るのが稼業でありました。ぜんたい人蔘というものは、山の中や野の中に自然 …
沼田の蚊帳(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
安政年間の事であった。両国矢の倉に栄蔵と云う旅商人があった。其の男は近江から蚊帳を為入れて、それを上州から野州方面に売っていたが、某時沼田へ往ったところで、領主の土岐家へ出入してる …
読書目安時間:約1分
安政年間の事であった。両国矢の倉に栄蔵と云う旅商人があった。其の男は近江から蚊帳を為入れて、それを上州から野州方面に売っていたが、某時沼田へ往ったところで、領主の土岐家へ出入してる …
猫の踊(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
老女は淋しい廊下を通って便所へ往った。もう夜半(よなか)を過ぎていた。真暗い部屋の前を通って廊下を右へ曲ると、有明の行灯の灯のうっすらと射した室(へや)へ来た。老女はその前へ往くと …
読書目安時間:約7分
老女は淋しい廊下を通って便所へ往った。もう夜半(よなか)を過ぎていた。真暗い部屋の前を通って廊下を右へ曲ると、有明の行灯の灯のうっすらと射した室(へや)へ来た。老女はその前へ往くと …
蠅供養(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
火鉢に翳している右の手の甲に一疋の蠅が来て止った。未だ二月の余寒の強い比にあっては、蠅は珍らしかった。九兵衛はもう蠅の出る時候になったのかと思ったが、それにしてもあまり早すぎるので …
読書目安時間:約9分
火鉢に翳している右の手の甲に一疋の蠅が来て止った。未だ二月の余寒の強い比にあっては、蠅は珍らしかった。九兵衛はもう蠅の出る時候になったのかと思ったが、それにしてもあまり早すぎるので …
八人みさきの話(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
「七人御先(みさき)」 高知市の南に当る海岸に生れた私は、少年の比(ころ)、よくこの御先の話を耳にした。形もない、影もない奇怪な物の怪(け)の話を聞かされて、小供心に疑いもすれば、 …
読書目安時間:約22分
「七人御先(みさき)」 高知市の南に当る海岸に生れた私は、少年の比(ころ)、よくこの御先の話を耳にした。形もない、影もない奇怪な物の怪(け)の話を聞かされて、小供心に疑いもすれば、 …
這って来る紐(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
某禅寺に壮い美男の僧があって附近の女と関係しているうちに、僧は己の非行を悟るとともに大に後悔して、田舎へ往って修行をすることにした。関係していた女はそれを聞いてひどく悲しんだが、い …
読書目安時間:約1分
某禅寺に壮い美男の僧があって附近の女と関係しているうちに、僧は己の非行を悟るとともに大に後悔して、田舎へ往って修行をすることにした。関係していた女はそれを聞いてひどく悲しんだが、い …
花の咲く比(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
暖かな春の夜で、濃い月の光が霞のかかったように四辺の風物を照らしていた。江戸川縁に住む小身者の壮い侍は、本郷の親類の許まで往って、其処で酒を振舞われたので、好い気もちになって帰って …
読書目安時間:約6分
暖かな春の夜で、濃い月の光が霞のかかったように四辺の風物を照らしていた。江戸川縁に住む小身者の壮い侍は、本郷の親類の許まで往って、其処で酒を振舞われたので、好い気もちになって帰って …
母親に憑る霊(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
大正八年二月二十六日、西比利亜出征の田中中佐の一隊は、過激派軍のために包囲せられて、クスラムスコエ附近で全滅したが、悲壮極まるその戦闘で、名誉の戦死を遂げた小島勇次郎と云う軍曹は、 …
読書目安時間:約3分
大正八年二月二十六日、西比利亜出征の田中中佐の一隊は、過激派軍のために包囲せられて、クスラムスコエ附近で全滅したが、悲壮極まるその戦闘で、名誉の戦死を遂げた小島勇次郎と云う軍曹は、 …
母の変死(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
よく肉親の身の上に変事があると、その知らせがあると云いますが、私にもそうした経験があります。 私の母は六十七歳で変死したのですが、今でもその時の事を思いだしますと、悲しくてしかたが …
読書目安時間:約4分
よく肉親の身の上に変事があると、その知らせがあると云いますが、私にもそうした経験があります。 私の母は六十七歳で変死したのですが、今でもその時の事を思いだしますと、悲しくてしかたが …
飛行機に乗る怪しい紳士(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
A操縦士とT機関士はその日も旅客機を操って朝鮮海峡の空を飛んでいた。その日は切れぎれの雲が低く飛んで、二〇メートルと云う烈しい北東の風が、水上機の両翼をもぎとるように吹いていた。下 …
読書目安時間:約3分
A操縦士とT機関士はその日も旅客機を操って朝鮮海峡の空を飛んでいた。その日は切れぎれの雲が低く飛んで、二〇メートルと云う烈しい北東の風が、水上機の両翼をもぎとるように吹いていた。下 …
美女を盗む鬼神(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
梁の武帝の大同の末年、欧陽紇という武人が、南方に出征して長楽という処に至り、その地方の匪乱か何かを平定して、山間嶮岨の地へ入った。その紇は陣中に妻を携えていたが、その女は色が白く顔 …
読書目安時間:約6分
梁の武帝の大同の末年、欧陽紇という武人が、南方に出征して長楽という処に至り、その地方の匪乱か何かを平定して、山間嶮岨の地へ入った。その紇は陣中に妻を携えていたが、その女は色が白く顔 …
一握の髪の毛(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
章一は目黒駅へ往く時間が迫って来たので急いで著更えをしていた。婦人雑誌の訪問記者をしている章一は、丸ビルの四階にある編輯室へ毎日一回は必らず顔を出すことになっていて、それを実行しな …
読書目安時間:約14分
章一は目黒駅へ往く時間が迫って来たので急いで著更えをしていた。婦人雑誌の訪問記者をしている章一は、丸ビルの四階にある編輯室へ毎日一回は必らず顔を出すことになっていて、それを実行しな …
人のいない飛行機(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
航空兵少佐の某君が遭遇した実話である。 某飛行場に近い畑の中に、一台の軍用機がふわりふわりと降りて来た。勿論プロペラーの回転を落した空中滑走である。 空は紺青色に晴れていた。附近で …
読書目安時間:約2分
航空兵少佐の某君が遭遇した実話である。 某飛行場に近い畑の中に、一台の軍用機がふわりふわりと降りて来た。勿論プロペラーの回転を落した空中滑走である。 空は紺青色に晴れていた。附近で …
平山婆(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
福岡県嘉穂郡漆生村に平山と云う処があって、そこに坑夫の一家が住んでいた。家族は坑夫の息子夫婦とその両親の四人であった。 明治末季比、その両親夫婦、即ちお爺さんとお婆さんが、ちょっと …
読書目安時間:約3分
福岡県嘉穂郡漆生村に平山と云う処があって、そこに坑夫の一家が住んでいた。家族は坑夫の息子夫婦とその両親の四人であった。 明治末季比、その両親夫婦、即ちお爺さんとお婆さんが、ちょっと …
貧乏神物語(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
縁起でもない話だが、馬琴の随筆の中にあったのを、数年前から見つけてあったので、ここでそれを云ってみる。考証好きの馬琴は、その短い随筆の中でも、唐山には窮鬼と書くの、蘇東坡に送窮の詩 …
読書目安時間:約7分
縁起でもない話だが、馬琴の随筆の中にあったのを、数年前から見つけてあったので、ここでそれを云ってみる。考証好きの馬琴は、その短い随筆の中でも、唐山には窮鬼と書くの、蘇東坡に送窮の詩 …
富貴発跡司志(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
至正丙戌の年のことである。泰州に何友仁という男があって、学問もあり才気もあり、それに家柄もよかったが、運が悪くて世に出ることができないので、家はいつも貧乏で困っていたが、その年にな …
読書目安時間:約8分
至正丙戌の年のことである。泰州に何友仁という男があって、学問もあり才気もあり、それに家柄もよかったが、運が悪くて世に出ることができないので、家はいつも貧乏で困っていたが、その年にな …
藤の瓔珞(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
憲一は裏庭づたいに林の方へ歩いて往った。そこは栃木県の某温泉場で、下には澄みきったK川の流れがあって、対岸にそそりたった山やまの緑をひたしていた。松杉楢などの疎に生えた林の中には、 …
読書目安時間:約8分
憲一は裏庭づたいに林の方へ歩いて往った。そこは栃木県の某温泉場で、下には澄みきったK川の流れがあって、対岸にそそりたった山やまの緑をひたしていた。松杉楢などの疎に生えた林の中には、 …
豕(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
李汾は山水が好きで四明山にいた。山の下に張という大百姓の家があって、たくさんの豕などを飼ってあった。永和の末であった。ちょうど秋の夜で、中秋の月が綺麗であるから、李汾は庭前を歩いた …
読書目安時間:約2分
李汾は山水が好きで四明山にいた。山の下に張という大百姓の家があって、たくさんの豕などを飼ってあった。永和の末であった。ちょうど秋の夜で、中秋の月が綺麗であるから、李汾は庭前を歩いた …
不動像の行方(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
本話 寒い風に黄ばんだ木の葉がばらばらと散っていた。斗賀野の方から山坂を越えて来た山内監物の一行は、未明からの山稼ぎに疲労し切っていた。一行は六七人であった。その中には二疋の犬が長 …
読書目安時間:約14分
本話 寒い風に黄ばんだ木の葉がばらばらと散っていた。斗賀野の方から山坂を越えて来た山内監物の一行は、未明からの山稼ぎに疲労し切っていた。一行は六七人であった。その中には二疋の犬が長 …
風呂供養の話(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
中国山脈といっても、播磨と但馬の国境になった谷あいの地に、世間から忘れられたような僅か十数戸の部落があったが、生業は云うまでもなく炭焼と猟師であった。 それは明治十五六年比の秋のこ …
読書目安時間:約5分
中国山脈といっても、播磨と但馬の国境になった谷あいの地に、世間から忘れられたような僅か十数戸の部落があったが、生業は云うまでもなく炭焼と猟師であった。 それは明治十五六年比の秋のこ …
文妖伝(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
乳色をしたグローブから漏れる朧夜の月の光を盛ったような電燈の光、その柔かな光に輪廓のはっきりした姝な小さな顔をだした女給のお葉は、客の前の白い銚子を執って、にっと笑いながらぽっちり …
読書目安時間:約11分
乳色をしたグローブから漏れる朧夜の月の光を盛ったような電燈の光、その柔かな光に輪廓のはっきりした姝な小さな顔をだした女給のお葉は、客の前の白い銚子を執って、にっと笑いながらぽっちり …
碧玉の環飾(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
唐の代宗帝の広徳年間の事であった。孫恪という若い貧しい男があって、それが洛陽にある魏土地という処へ遊びに往った。遊びに往ったといっても、それは物見遊山のためでなく、漂白して往ったも …
読書目安時間:約6分
唐の代宗帝の広徳年間の事であった。孫恪という若い貧しい男があって、それが洛陽にある魏土地という処へ遊びに往った。遊びに往ったといっても、それは物見遊山のためでなく、漂白して往ったも …
室の中を歩く石(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
大阪市住吉区阿倍野筋一丁目に、山本照美と云う素封家の未亡人が住んでいた。其家には三人の子供があって、長女を政子、長男を政重、次男を政隆と云っていた。 その夏照美さんは、子供たちのた …
読書目安時間:約2分
大阪市住吉区阿倍野筋一丁目に、山本照美と云う素封家の未亡人が住んでいた。其家には三人の子供があって、長女を政子、長男を政重、次男を政隆と云っていた。 その夏照美さんは、子供たちのた …
変災序記(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
大正十二年九月一日の朝は、数日来の驟雨模様の空が暴風雨の空に変って、魔鳥の翅のような奇怪な容をした雲が飛んでいたが、すぐ雨になって私の住んでいる茗荷谷の谷間を掻き消そうとでもするよ …
読書目安時間:約14分
大正十二年九月一日の朝は、数日来の驟雨模様の空が暴風雨の空に変って、魔鳥の翅のような奇怪な容をした雲が飛んでいたが、すぐ雨になって私の住んでいる茗荷谷の谷間を掻き消そうとでもするよ …
忘恩(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
土佐の侍で大塚と云う者があった。格はお馬廻り位であったらしいがたしかなことは判らない。その大塚は至って殺生好きで、狩猟期になると何時も銃を肩にして出かけて往った。 某日それは晴れた …
読書目安時間:約7分
土佐の侍で大塚と云う者があった。格はお馬廻り位であったらしいがたしかなことは判らない。その大塚は至って殺生好きで、狩猟期になると何時も銃を肩にして出かけて往った。 某日それは晴れた …
帽子のない水兵(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
まだ横須賀行の汽車が電化しない時のことであった。夕方の六時四十分比、その汽車が田浦を発車したところで、帽子を冠らない蒼い顔をした水兵の一人が、影法師のようにふらふら二等車の方へ入っ …
読書目安時間:約1分
まだ横須賀行の汽車が電化しない時のことであった。夕方の六時四十分比、その汽車が田浦を発車したところで、帽子を冠らない蒼い顔をした水兵の一人が、影法師のようにふらふら二等車の方へ入っ …
放生津物語(新字新仮名)
読書目安時間:約25分
越中の放生津の町中に在る松や榎の飛び飛びに生えた草原は、町の小供の遊び場所であった。その草原の中央の枝の禿びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があ …
読書目安時間:約25分
越中の放生津の町中に在る松や榎の飛び飛びに生えた草原は、町の小供の遊び場所であった。その草原の中央の枝の禿びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があ …
宝蔵の短刀(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
御宝蔵方になった小松益之助は、韮生の白石から高知の城下へ出て来て与えられた邸へ移った。その邸は元小谷政右衛門と云う穀物方の住んでいた処であったが、その小谷は同輩の嫉妬を受けて讒言( …
読書目安時間:約10分
御宝蔵方になった小松益之助は、韮生の白石から高知の城下へ出て来て与えられた邸へ移った。その邸は元小谷政右衛門と云う穀物方の住んでいた処であったが、その小谷は同輩の嫉妬を受けて讒言( …
北斗と南斗星(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
趙顔という少年が南陽の平原で麦の実を割っていると、一人の旅人がとおりかかった。旅人は管輅という未来と過去の判る人であった。その旅人は少年の顔を見て、 「お前さんは、なんという名だ、 …
読書目安時間:約5分
趙顔という少年が南陽の平原で麦の実を割っていると、一人の旅人がとおりかかった。旅人は管輅という未来と過去の判る人であった。その旅人は少年の顔を見て、 「お前さんは、なんという名だ、 …
牡丹灯記(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
元の末に方国珍という者が浙東の地に割拠すると、毎年正月十五日の上元の夜から五日間、明州で燈籠を点けさしたので、城内の者はそれを観て一晩中遊び戯れた。 それは至正庚子の歳に当る上元の …
読書目安時間:約15分
元の末に方国珍という者が浙東の地に割拠すると、毎年正月十五日の上元の夜から五日間、明州で燈籠を点けさしたので、城内の者はそれを観て一晩中遊び戯れた。 それは至正庚子の歳に当る上元の …
牡丹灯籠 牡丹灯記(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
日本の幽霊は普通とろとろと燃える焼酎火の上にふうわりと浮いていて、腰から下が無いことになっているが、有名な円朝の牡丹燈籠では、それがからこんからこんと駒下駄の音をさして生垣の外を通 …
読書目安時間:約22分
日本の幽霊は普通とろとろと燃える焼酎火の上にふうわりと浮いていて、腰から下が無いことになっているが、有名な円朝の牡丹燈籠では、それがからこんからこんと駒下駄の音をさして生垣の外を通 …
法華僧の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
奈良県吉野郡掖上村茅原に茅原寺と云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名吉祥草院。其処に役行者自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音と云う老尼がいた。 私が其の名 …
読書目安時間:約7分
奈良県吉野郡掖上村茅原に茅原寺と云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名吉祥草院。其処に役行者自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音と云う老尼がいた。 私が其の名 …
堀切橋の怪異(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
荒川放水路に架けた堀切橋、長い長いその橋は鐘淵紡績の女工が怪死した事から怪異が伝えられるようになった。 それを伝える人の話によれば、その女工の怪死は、四番目におこった怪異であるとの …
読書目安時間:約2分
荒川放水路に架けた堀切橋、長い長いその橋は鐘淵紡績の女工が怪死した事から怪異が伝えられるようになった。 それを伝える人の話によれば、その女工の怪死は、四番目におこった怪異であるとの …
魔王物語(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
日本には怪談はかなりあるけれども、其の多くは仏教から胚胎した因果物語か、でなければ狐狸などの妖怪であって、独立した悪魔のような物語はあまりない。その中にあって備後国の魔王の物語は、 …
読書目安時間:約23分
日本には怪談はかなりあるけれども、其の多くは仏教から胚胎した因果物語か、でなければ狐狸などの妖怪であって、独立した悪魔のような物語はあまりない。その中にあって備後国の魔王の物語は、 …
真紅な帆の帆前船(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
遠江の御前崎へ往ったのは大正十四年の二月二日であった。岬には燈台があって無線電信の設備もあった。その燈台の燈光は六十三万燭で十九浬半の遠距離に及ぶ回転燈であった。私は燈台の中を見せ …
読書目安時間:約2分
遠江の御前崎へ往ったのは大正十四年の二月二日であった。岬には燈台があって無線電信の設備もあった。その燈台の燈光は六十三万燭で十九浬半の遠距離に及ぶ回転燈であった。私は燈台の中を見せ …
魔の電柱(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
昭和十年九月二十八日の夜の八時比、駒込神明町行の市電が、下谷池の端の弁天前を進行中、女の乗客の一人が、何かに驚いたように不意に悲鳴をあげて、逃げ出そうとでもするようにして上半身を窓 …
読書目安時間:約1分
昭和十年九月二十八日の夜の八時比、駒込神明町行の市電が、下谷池の端の弁天前を進行中、女の乗客の一人が、何かに驚いたように不意に悲鳴をあげて、逃げ出そうとでもするようにして上半身を窓 …
港の妖婦(新字新仮名)
読書目安時間:約36分
山根謙作は三の宮の停留場を出て海岸のほうへ歩いていた。謙作がこの土地へ足を入れたのは二度目であったが、すこしもかってが判らなかった。それは十四年前、そこの汽船会社にいる先輩を尋ねて …
読書目安時間:約36分
山根謙作は三の宮の停留場を出て海岸のほうへ歩いていた。謙作がこの土地へ足を入れたのは二度目であったが、すこしもかってが判らなかった。それは十四年前、そこの汽船会社にいる先輩を尋ねて …
狢(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
幕末の話である。 某商人が深更に赤坂の紀の国坂を通りかかった。左は紀州邸の築地塀、右は濠。そして、濠の向うは彦根藩邸の森々たる木立で、深更と言い自分の影法師が怖くなるくらいな物淋し …
読書目安時間:約2分
幕末の話である。 某商人が深更に赤坂の紀の国坂を通りかかった。左は紀州邸の築地塀、右は濠。そして、濠の向うは彦根藩邸の森々たる木立で、深更と言い自分の影法師が怖くなるくらいな物淋し …
娘の生霊(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
某相場師の娘が、父親にねだって買ってもらった衣服を、知りあいの裁縫師の処へ縫わしにやった。なにしろ相場で巨万の富を積んだ家のことであるから、その衣服も金目のかかったりっぱな物であっ …
読書目安時間:約2分
某相場師の娘が、父親にねだって買ってもらった衣服を、知りあいの裁縫師の処へ縫わしにやった。なにしろ相場で巨万の富を積んだ家のことであるから、その衣服も金目のかかったりっぱな物であっ …
村の怪談(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
私の郷里で女や小供を恐れさすものは、狸としばてんと云う怪物であった。 「某(たれ)さんは、昨夜(ゆうべ)、狸に化されて家へよう帰らずに、某(ある)所をぐるぐると歩いていた」 「某さ …
読書目安時間:約13分
私の郷里で女や小供を恐れさすものは、狸としばてんと云う怪物であった。 「某(たれ)さんは、昨夜(ゆうべ)、狸に化されて家へよう帰らずに、某(ある)所をぐるぐると歩いていた」 「某さ …
萌黄色の茎(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
給仕女のお菊さんは今にもぶらりとやって来そうに思われる客の来るのを待っていた。電燈の蒼白く燃えだしたばかりの店には、二人の学生が来てそれが入口の右側になったテーブルに着いて、並んで …
読書目安時間:約10分
給仕女のお菊さんは今にもぶらりとやって来そうに思われる客の来るのを待っていた。電燈の蒼白く燃えだしたばかりの店には、二人の学生が来てそれが入口の右側になったテーブルに着いて、並んで …
餅を喫う(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
町の酒屋では壮い主人が亡くなったので、その日葬式を済まして、親類や手伝いに来て貰った隣の人びとに所謂涙酒を出し、それもやっと終って皆で寝たところで、裏門の戸をとんとんと叩く者があっ …
読書目安時間:約10分
町の酒屋では壮い主人が亡くなったので、その日葬式を済まして、親類や手伝いに来て貰った隣の人びとに所謂涙酒を出し、それもやっと終って皆で寝たところで、裏門の戸をとんとんと叩く者があっ …
疫病神(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
長谷川時雨女史の実験談であるが、女史が佃島にいた比、令妹の春子さんが腸チブスに罹って離屋の二階に寝ていたので、その枕頭につきっきりで看護していた。 それは夜であったが、その時病人が …
読書目安時間:約2分
長谷川時雨女史の実験談であるが、女史が佃島にいた比、令妹の春子さんが腸チブスに罹って離屋の二階に寝ていたので、その枕頭につきっきりで看護していた。 それは夜であったが、その時病人が …
火傷した神様(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
天津神国津神、山之神海之神、木之神草之神、ありとあらゆる神がみが、人間の間に姿を見せていたころのことであった。 その時伊豆国に、土地の人から来宮様と崇められている神様があった。 伝 …
読書目安時間:約7分
天津神国津神、山之神海之神、木之神草之神、ありとあらゆる神がみが、人間の間に姿を見せていたころのことであった。 その時伊豆国に、土地の人から来宮様と崇められている神様があった。 伝 …
屋根の上の黒猫(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
昭和九年の夏、横井春野君が三田稲門戦の試合を見て帰って来たところで、その時千葉の市川にいた令弟の夫人から、 「病気危篤、すぐ来い」 と云う電報が来た。横井君は令弟の容態を心配だから …
読書目安時間:約2分
昭和九年の夏、横井春野君が三田稲門戦の試合を見て帰って来たところで、その時千葉の市川にいた令弟の夫人から、 「病気危篤、すぐ来い」 と云う電報が来た。横井君は令弟の容態を心配だから …
山姑の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
甚九郎は店に坐っていた。この麹町の裏店に住む独身者は、近郷近在へ出て小間物の行商をやるのが本職で、疲労れた時とか天気の悪い日とかでないと店の戸は開けなかった。 それは春の夕方であっ …
読書目安時間:約9分
甚九郎は店に坐っていた。この麹町の裏店に住む独身者は、近郷近在へ出て小間物の行商をやるのが本職で、疲労れた時とか天気の悪い日とかでないと店の戸は開けなかった。 それは春の夕方であっ …
山寺の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
宿の主将を対手にして碁を打っていた武士は、その碁にも飽いて来たので主翁を伴れて後の庭へ出た。そこは湯本温泉の温泉宿であった。摺鉢の底のような窪地になった庭の前には薬研のように刳れた …
読書目安時間:約13分
宿の主将を対手にして碁を打っていた武士は、その碁にも飽いて来たので主翁を伴れて後の庭へ出た。そこは湯本温泉の温泉宿であった。摺鉢の底のような窪地になった庭の前には薬研のように刳れた …
山の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
土佐長岡郡の奥に本山と云う処がある。今は町制を布いて町と云うことになっているが、昔は本山郷と云って一地方をなしていた。四国三郎の吉野川が村の中を流れて、村落のあるのはそれに沿った僅 …
読書目安時間:約6分
土佐長岡郡の奥に本山と云う処がある。今は町制を布いて町と云うことになっているが、昔は本山郷と云って一地方をなしていた。四国三郎の吉野川が村の中を流れて、村落のあるのはそれに沿った僅 …
幽霊の衣裳(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
三代目尾上菊五郎は怪談劇の泰斗として知られていた。其の菊五郎は文化年代に、鶴谷南北の書きおろした『東海道四谷怪談』を木挽町の山村座で初めて上演した。其の時菊五郎はお岩と田宮の若党小 …
読書目安時間:約3分
三代目尾上菊五郎は怪談劇の泰斗として知られていた。其の菊五郎は文化年代に、鶴谷南北の書きおろした『東海道四谷怪談』を木挽町の山村座で初めて上演した。其の時菊五郎はお岩と田宮の若党小 …
幽霊の自筆(新字新仮名)
読書目安時間:約6分
一ぱい張った二十三反帆に北東の風を受けて船は西へ西へ走っていた。初夏の曇った晩であった。暗いたらたらとした海の上には風波の波頭が船の左右にあたって、海蛇のように幾条かの銀鼠の光を走 …
読書目安時間:約6分
一ぱい張った二十三反帆に北東の風を受けて船は西へ西へ走っていた。初夏の曇った晩であった。暗いたらたらとした海の上には風波の波頭が船の左右にあたって、海蛇のように幾条かの銀鼠の光を走 …
雪女(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
多摩川縁になった調布の在に、巳之吉という若い木樵がいた。その巳之吉は、毎日木樵頭の茂作に伴れられて、多摩川の渡船を渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。 ある冬の日のことだっ …
読書目安時間:約5分
多摩川縁になった調布の在に、巳之吉という若い木樵がいた。その巳之吉は、毎日木樵頭の茂作に伴れられて、多摩川の渡船を渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。 ある冬の日のことだっ …
雪の夜の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
昼間のうちは石ばりをしたようであった寒さが、夕方からみょうにゆるんでいる日であった。私はこの比よく出かけて往く坂の上のカフェーで酒を飲みながら、とりとめのないことをうっとりと考えて …
読書目安時間:約8分
昼間のうちは石ばりをしたようであった寒さが、夕方からみょうにゆるんでいる日であった。私はこの比よく出かけて往く坂の上のカフェーで酒を飲みながら、とりとめのないことをうっとりと考えて …
指環(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
ふと眼を覚ましてみると、電燈の光が微紅く室の中を照らしていた。謙蔵はびっくりして眼を睜った。彼は人のいない暗い空家の中へ入って寝ているので、もしや俺は夢でも見ているのではないかと思 …
読書目安時間:約9分
ふと眼を覚ましてみると、電燈の光が微紅く室の中を照らしていた。謙蔵はびっくりして眼を睜った。彼は人のいない暗い空家の中へ入って寝ているので、もしや俺は夢でも見ているのではないかと思 …
妖影(新字新仮名)
読書目安時間:約26分
私はこの四五年、欲しい欲しいと思っていた「子不語」を手に入れた。それは怪奇なことばかり蒐集した随筆であって、序文によるとその著者が、そうした書名をつけたところで、他に同名があったの …
読書目安時間:約26分
私はこの四五年、欲しい欲しいと思っていた「子不語」を手に入れた。それは怪奇なことばかり蒐集した随筆であって、序文によるとその著者が、そうした書名をつけたところで、他に同名があったの …
妖怪記(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
お作の家には不思議なことばかりがあった。何かしら家の中で躍り狂っているようであったり、順序を立てて置いてある道具をひっかきまわしたり、蹴散らしたり投りだしたり、また、お作がやってい …
読書目安時間:約7分
お作の家には不思議なことばかりがあった。何かしら家の中で躍り狂っているようであったり、順序を立てて置いてある道具をひっかきまわしたり、蹴散らしたり投りだしたり、また、お作がやってい …
妖女の舞踏する踏切(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
品川駅の近くに魔の踏切と云われている踏切がある。数年前、列車がその踏切にさしかかったところで、一方の闇から一人の青年がふらふらと線路の中へ入って来た。機関手は驚いて急停車してその青 …
読書目安時間:約1分
品川駅の近くに魔の踏切と云われている踏切がある。数年前、列車がその踏切にさしかかったところで、一方の闇から一人の青年がふらふらと線路の中へ入って来た。機関手は驚いて急停車してその青 …
妖蛸(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
明治二十二三年比のことであった。詩人啄木の碑で知られている函館の立待岬から、某夜二人の男女が投身した。男は山下忠助と云う海産問屋の公子で、女はもと函館の花柳界で知られていた水野米と …
読書目安時間:約3分
明治二十二三年比のことであった。詩人啄木の碑で知られている函館の立待岬から、某夜二人の男女が投身した。男は山下忠助と云う海産問屋の公子で、女はもと函館の花柳界で知られていた水野米と …
寄席の没落(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
少し古い土地の人なら、八丁堀に岡吉と云う色物専門の寄席があったのを記憶しているはずである。その寄席の経営者は米と云う仕事師であった。 その米の叔父に一人の僧侶があったが、それが廻国 …
読書目安時間:約4分
少し古い土地の人なら、八丁堀に岡吉と云う色物専門の寄席があったのを記憶しているはずである。その寄席の経営者は米と云う仕事師であった。 その米の叔父に一人の僧侶があったが、それが廻国 …
四谷怪談(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
元禄年間のことであった。四谷左門殿町に御先手組の同心を勤めている田宮又左衛門と云う者が住んでいた。その又左衛門は平生眼が悪くて勤めに不自由をするところから女のお岩に婿養子をして隠居 …
読書目安時間:約15分
元禄年間のことであった。四谷左門殿町に御先手組の同心を勤めている田宮又左衛門と云う者が住んでいた。その又左衛門は平生眼が悪くて勤めに不自由をするところから女のお岩に婿養子をして隠居 …
頼朝の最後(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
建久九年十二月、右大将家には、相模川の橋供養の結縁に臨んだが、その帰途馬から落ちたので、供養の人びとに助け起されて館へ帰った。その橋供養と云うのは、北条遠江守の女で、右大将家の御台 …
読書目安時間:約11分
建久九年十二月、右大将家には、相模川の橋供養の結縁に臨んだが、その帰途馬から落ちたので、供養の人びとに助け起されて館へ帰った。その橋供養と云うのは、北条遠江守の女で、右大将家の御台 …
雷峯塔物語(新字新仮名)
読書目安時間:約46分
支那に遊んで杭州の西湖へ往った者は、その北岸の山の上と南岸の湖縁とに五層となった高い大きな塔の聳えているのを見るであろう。そして、南岸の湖縁の丘の上に聳えた赭い塔の夕陽に照された雄 …
読書目安時間:約46分
支那に遊んで杭州の西湖へ往った者は、その北岸の山の上と南岸の湖縁とに五層となった高い大きな塔の聳えているのを見るであろう。そして、南岸の湖縁の丘の上に聳えた赭い塔の夕陽に照された雄 …
陸判(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
陵陽の朱爾旦は字を少明といっていた。性質は豪放であったが、もともとぼんやりであったから、篤学の士であったけれども人に名を知られていなかった。 ある日同窓の友達と酒を飲んでいたが、夜 …
読書目安時間:約14分
陵陽の朱爾旦は字を少明といっていた。性質は豪放であったが、もともとぼんやりであったから、篤学の士であったけれども人に名を知られていなかった。 ある日同窓の友達と酒を飲んでいたが、夜 …
掠奪した短刀(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
松山寛一郎は香美郡夜須の生れであった。寛一郎は元治元年七月二十七日、当時土佐の藩獄に繋がれていた武市瑞山を釈放さすために、野根山に屯集した清岡道之助一派の義挙に加わろうとしたが、時 …
読書目安時間:約3分
松山寛一郎は香美郡夜須の生れであった。寛一郎は元治元年七月二十七日、当時土佐の藩獄に繋がれていた武市瑞山を釈放さすために、野根山に屯集した清岡道之助一派の義挙に加わろうとしたが、時 …
涼亭:――序に代へて――(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
蒲留仙五十前後の痩せてむさくるしい容をしている詩人、胡麻塩の長いまばらな顎髯を生やしている。 李希梅留仙の門下、二十五、六の貴公子然たる読書生。 葉生浮浪人、二十六、七の背のひょろ …
読書目安時間:約15分
蒲留仙五十前後の痩せてむさくるしい容をしている詩人、胡麻塩の長いまばらな顎髯を生やしている。 李希梅留仙の門下、二十五、六の貴公子然たる読書生。 葉生浮浪人、二十六、七の背のひょろ …
劉海石(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
劉海石は蒲台の人であった。十四歳の時にその地方に戦乱が起ったので、両親に従いて浜州に逃げて往って、其処に住んでいたが、その浜州に劉滄客という者があって、同じ教師について学問をした関 …
読書目安時間:約5分
劉海石は蒲台の人であった。十四歳の時にその地方に戦乱が起ったので、両親に従いて浜州に逃げて往って、其処に住んでいたが、その浜州に劉滄客という者があって、同じ教師について学問をした関 …
柳毅伝(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
唐の高宗の時に柳毅という書生があった。文官試験を受けたが合格しなかったので、故郷の呉に帰るつもりで涇川の畔まで帰ってきたが、その涇川の北岸に同郷の者が住んでいた。毅はまず知人の許へ …
読書目安時間:約9分
唐の高宗の時に柳毅という書生があった。文官試験を受けたが合格しなかったので、故郷の呉に帰るつもりで涇川の畔まで帰ってきたが、その涇川の北岸に同郷の者が住んでいた。毅はまず知人の許へ …
料理番と婢の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
彼女は裏二階の階子段をおりて便所へ往った。郊外の小さな山の上になったその家へは、梅の咲くころたまに呼ばれることはあるが、夜遅くしかも客と二人で来て泊まって往くようなことはなかったの …
読書目安時間:約3分
彼女は裏二階の階子段をおりて便所へ往った。郊外の小さな山の上になったその家へは、梅の咲くころたまに呼ばれることはあるが、夜遅くしかも客と二人で来て泊まって往くようなことはなかったの …
緑衣人伝(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
趙源は家の前へ出て立った。路の上はうっすらと暮れかけていた。彼はその時刻になってその前を通って往く少女を待っているところであった。緑色の服装をして髪を双鬟にした十五六になる色の白い …
読書目安時間:約11分
趙源は家の前へ出て立った。路の上はうっすらと暮れかけていた。彼はその時刻になってその前を通って往く少女を待っているところであった。緑色の服装をして髪を双鬟にした十五六になる色の白い …
令狐生冥夢録(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
令狐譔という儒者があった。非常な無神論者で、鬼神変化幽冥果報というようなことを口にする者があると、かたっぱしから折破して、決して神霊の存在を許さなかった。それに生れつき剛直で世に恐 …
読書目安時間:約11分
令狐譔という儒者があった。非常な無神論者で、鬼神変化幽冥果報というようなことを口にする者があると、かたっぱしから折破して、決して神霊の存在を許さなかった。それに生れつき剛直で世に恐 …
蓮香(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
桑生は泝州の生れであって、名は暁、字は子明、少い時に両親に死別れて紅花埠という所に下宿していた。この桑は生れつき静かなやわらぎのある生活を喜ぶ男で、東隣の家へ往って食事をする他は、 …
読書目安時間:約22分
桑生は泝州の生れであって、名は暁、字は子明、少い時に両親に死別れて紅花埠という所に下宿していた。この桑は生れつき静かなやわらぎのある生活を喜ぶ男で、東隣の家へ往って食事をする他は、 …
レンズに現われた女の姿(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
保土ヶ谷の某寺の僧侶が写真を撮る必要があって、横浜へ往って写真屋へ入り、レンズの前へ立っていると、写真師は機械に故障が出来たからと云って撮影を中止した。 僧侶はしかたなしに次の写真 …
読書目安時間:約2分
保土ヶ谷の某寺の僧侶が写真を撮る必要があって、横浜へ往って写真屋へ入り、レンズの前へ立っていると、写真師は機械に故障が出来たからと云って撮影を中止した。 僧侶はしかたなしに次の写真 …
老犬の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
漢の時、東華郡の陳司空が死んで葬っておくと、一年ばかりして不意に家へ帰ってきた。そして、家内の者に地獄の話をして聞かしたり、酒を飲んだり、肉を喫ったりして平生とすこしも変らなかった …
読書目安時間:約1分
漢の時、東華郡の陳司空が死んで葬っておくと、一年ばかりして不意に家へ帰ってきた。そして、家内の者に地獄の話をして聞かしたり、酒を飲んだり、肉を喫ったりして平生とすこしも変らなかった …
老狐の怪(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
志玄という僧があったが、戒行の厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著けない。また旅行しても寺などに宿を借らないで、郭外の林の中に寝た。ある時縫州城の東十里の処へ往って墓場へ寝た。とこ …
読書目安時間:約2分
志玄という僧があったが、戒行の厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著けない。また旅行しても寺などに宿を借らないで、郭外の林の中に寝た。ある時縫州城の東十里の処へ往って墓場へ寝た。とこ …
轆轤首(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
肥後の菊池家に磯貝平太左衛門武行と云う武士があった。頗る豪勇無雙の士であったが、主家の滅亡後、何を感じたのか仏門に入って、怪量と名乗って諸国を遍歴した。 甲斐の国を遍歴している時、 …
読書目安時間:約11分
肥後の菊池家に磯貝平太左衛門武行と云う武士があった。頗る豪勇無雙の士であったが、主家の滅亡後、何を感じたのか仏門に入って、怪量と名乗って諸国を遍歴した。 甲斐の国を遍歴している時、 …
鷲(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
土佐の海岸にあった私の村には、もうその比洋行するような人もあって、自由主義の文化はあったが未だ日清戦役前の半農半漁の海村のことであるから、村の人の多くの心を支配したものは原始的な迷 …
読書目安時間:約8分
土佐の海岸にあった私の村には、もうその比洋行するような人もあって、自由主義の文化はあったが未だ日清戦役前の半農半漁の海村のことであるから、村の人の多くの心を支配したものは原始的な迷 …
翻訳者としての作品一覧
阿英(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
甘玉は幼な名を璧人といっていた。廬陵の人であった。両親が早く亡くなったので、五歳になる弟の珏、幼な名を双璧というのを養うことになったが、生れつき友愛の情に厚いので、自分の子供のよう …
読書目安時間:約13分
甘玉は幼な名を璧人といっていた。廬陵の人であった。両親が早く亡くなったので、五歳になる弟の珏、幼な名を双璧というのを養うことになったが、生れつき友愛の情に厚いので、自分の子供のよう …
阿霞(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
文登の景星は少年の時から名があって人に重んぜられていた。陳生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣一つを隔てているにすぎなかった。 ある日の夕暮、陳は荒れはてた …
読書目安時間:約8分
文登の景星は少年の時から名があって人に重んぜられていた。陳生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣一つを隔てているにすぎなかった。 ある日の夕暮、陳は荒れはてた …
阿繊(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
奚山は高密の人であった。旅に出てあきないをするのが家業で、時どき蒙陰県と沂水県の間を旅行した。ある日その途中で雨にさまたげられて、定宿へゆきつかないうちに、夜が更けてしまった。宿を …
読書目安時間:約12分
奚山は高密の人であった。旅に出てあきないをするのが家業で、時どき蒙陰県と沂水県の間を旅行した。ある日その途中で雨にさまたげられて、定宿へゆきつかないうちに、夜が更けてしまった。宿を …
嬰寧(新字新仮名)
読書目安時間:約22分
王子服は莒の羅店の人であった。早くから父親を失っていたが、はなはだ聡明で十四で学校に入った。母親がひどく可愛がって、ふだんには郊外へ遊びにゆくようなこともさせなかった。蕭という姓の …
読書目安時間:約22分
王子服は莒の羅店の人であった。早くから父親を失っていたが、はなはだ聡明で十四で学校に入った。母親がひどく可愛がって、ふだんには郊外へ遊びにゆくようなこともさせなかった。蕭という姓の …
汪士秀(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
汪士秀は盧州の人であった。豪傑で力が強く、石舂を持ちあげることができた。親子で蹴鞠がうまかったが、父親は四十あまりの時銭塘江を渡っていて、舟が沈んで溺れてしまった。 それから八、九 …
読書目安時間:約5分
汪士秀は盧州の人であった。豪傑で力が強く、石舂を持ちあげることができた。親子で蹴鞠がうまかったが、父親は四十あまりの時銭塘江を渡っていて、舟が沈んで溺れてしまった。 それから八、九 …
王成(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
王成は平原の世家の生れであったが、いたって懶け者であったから、日に日に零落して家は僅か数間のあばら屋をあますのみとなり、細君と乱麻を編んで作った牛衣の中に寝るというようなみすぼらし …
読書目安時間:約14分
王成は平原の世家の生れであったが、いたって懶け者であったから、日に日に零落して家は僅か数間のあばら屋をあますのみとなり、細君と乱麻を編んで作った牛衣の中に寝るというようなみすぼらし …
庚娘(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
金大用は中州の旧家の子であった。尤太守の女で幼な名を庚娘というのを夫人に迎えたが、綺麗なうえに賢明であったから、夫婦の間もいたってむつましかった。ところで、流賊の乱が起って金の一家 …
読書目安時間:約11分
金大用は中州の旧家の子であった。尤太守の女で幼な名を庚娘というのを夫人に迎えたが、綺麗なうえに賢明であったから、夫婦の間もいたってむつましかった。ところで、流賊の乱が起って金の一家 …
考城隍(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
予(聊斎志異の著者、蒲松齢)の姉の夫の祖父に宋公、諱を燾といった者があった。それは村の給費生であったが、ある日病気で寝ていると、役人が牒を持ち、額に白毛のある馬を牽いて来て、 「ど …
読書目安時間:約4分
予(聊斎志異の著者、蒲松齢)の姉の夫の祖父に宋公、諱を燾といった者があった。それは村の給費生であったが、ある日病気で寝ていると、役人が牒を持ち、額に白毛のある馬を牽いて来て、 「ど …
五通(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
南方に五通というみだらにして不思議な神のあるのは、なお北方に狐のあるようなものである。そして、北方の狐の祟りは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江地方の五通に …
読書目安時間:約15分
南方に五通というみだらにして不思議な神のあるのは、なお北方に狐のあるようなものである。そして、北方の狐の祟りは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江地方の五通に …
珊瑚(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
安大成は重慶の人であった。父は孝廉の科に及第した人であったが早く没くなり、弟の二成はまだ幼かった。大成は陳姓の家から幼な名を珊瑚という女を娶ったが、大成の母の沈というのは、感情のね …
読書目安時間:約15分
安大成は重慶の人であった。父は孝廉の科に及第した人であったが早く没くなり、弟の二成はまだ幼かった。大成は陳姓の家から幼な名を珊瑚という女を娶ったが、大成の母の沈というのは、感情のね …
小翠(新字新仮名)
読書目安時間:約17分
王太常は越人であった。少年の時、昼、榻の上で寝ていると、空が不意に曇って暗くなり、人きな雷がにわかに鳴りだした。一疋の猫のようで猫よりはすこし大きな獣が入って来て、榻の下に隠れるよ …
読書目安時間:約17分
王太常は越人であった。少年の時、昼、榻の上で寝ていると、空が不意に曇って暗くなり、人きな雷がにわかに鳴りだした。一疋の猫のようで猫よりはすこし大きな獣が入って来て、榻の下に隠れるよ …
織成(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
洞庭湖の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船でもあると纜がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の …
読書目安時間:約8分
洞庭湖の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船でもあると纜がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の …
倩娘(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
王宙は伯父の室を出て庭におり、自個の住居へ帰るつもりで植込の竹群の陰を歩いていた。夕月がさして竹の葉が微な風に動いていた。この数日の苦しみのために、非常に感情的になっている青年は、 …
読書目安時間:約7分
王宙は伯父の室を出て庭におり、自個の住居へ帰るつもりで植込の竹群の陰を歩いていた。夕月がさして竹の葉が微な風に動いていた。この数日の苦しみのために、非常に感情的になっている青年は、 …
成仙(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
文登の周生は成生と少い時から学問を共にしたので、ちょうど後漢の公沙穆と呉祐とが米を搗く所で知己になって、後世から杵臼の交といわれたような親しい仲であったが、成は貧乏であったから、し …
読書目安時間:約14分
文登の周生は成生と少い時から学問を共にしたので、ちょうど後漢の公沙穆と呉祐とが米を搗く所で知己になって、後世から杵臼の交といわれたような親しい仲であったが、成は貧乏であったから、し …
促織(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
明の宣宗の宣徳年間には、宮中で促織あわせの遊戯を盛んにやったので、毎年民間から献上さしたが、この促繊は故は西の方の国にはいないものであった。 華陰の令をしている者があって、それが上 …
読書目安時間:約10分
明の宣宗の宣徳年間には、宮中で促織あわせの遊戯を盛んにやったので、毎年民間から献上さしたが、この促繊は故は西の方の国にはいないものであった。 華陰の令をしている者があって、それが上 …
偸桃(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
少年の時郡へいったが、ちょうど立春の節であった。昔からの習慣によるとその立春の前日には、同種類の商買をしている者が山車をこしらえ、笛をふき鼓をならして、郡の役所へいった。それを演春 …
読書目安時間:約5分
少年の時郡へいったが、ちょうど立春の節であった。昔からの習慣によるとその立春の前日には、同種類の商買をしている者が山車をこしらえ、笛をふき鼓をならして、郡の役所へいった。それを演春 …
田七郎(新字新仮名)
読書目安時間:約13分
武承休は遼陽の人であった。交際が好きでともに交際をしている者は皆知名の士であった。ある夜、夢に人が来ていった。 「おまえは交游天下に遍しというありさまだが、皆濫交だ。ただ一人患難を …
読書目安時間:約13分
武承休は遼陽の人であった。交際が好きでともに交際をしている者は皆知名の士であった。ある夜、夢に人が来ていった。 「おまえは交游天下に遍しというありさまだが、皆濫交だ。ただ一人患難を …
翩翩(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
羅子浮は汾の人であった。両親が早く亡くなったので、八、九歳のころから叔父の大業の許へ身を寄せていた。大業は国子左廂の官にいたが、金があって子がなかったので、羅をほんとうの子供のよう …
読書目安時間:約8分
羅子浮は汾の人であった。両親が早く亡くなったので、八、九歳のころから叔父の大業の許へ身を寄せていた。大業は国子左廂の官にいたが、金があって子がなかったので、羅をほんとうの子供のよう …
封三娘(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
范十一娘は※城の祭酒の女であった。小さな時からきれいで、雅致のある姿をしていた。両親はそれをひどく可愛がって、結婚を申しこんで来る者があると、自分で選択さしたが、いつも可いというも …
読書目安時間:約14分
范十一娘は※城の祭酒の女であった。小さな時からきれいで、雅致のある姿をしていた。両親はそれをひどく可愛がって、結婚を申しこんで来る者があると、自分で選択さしたが、いつも可いというも …
蓮花公主(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
膠州の竇旭は幼な名を暁暉といっていた。ある日昼寝をしていると、一人の褐色の衣を着た男が榻の前に来たが、おずおずしてこっちを見たり後を見たりして、何かいいたいことでもあるようであった …
読書目安時間:約9分
膠州の竇旭は幼な名を暁暉といっていた。ある日昼寝をしていると、一人の褐色の衣を着た男が榻の前に来たが、おずおずしてこっちを見たり後を見たりして、何かいいたいことでもあるようであった …
連城(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
喬は晋寧の人で、少年の時から才子だといわれていた。年が二十あまりのころ、心の底を見せてあっていた友人があった。それは顧という友人であったが、その顧が没くなった時、妻子の面倒を見てや …
読書目安時間:約11分
喬は晋寧の人で、少年の時から才子だといわれていた。年が二十あまりのころ、心の底を見せてあっていた友人があった。それは顧という友人であったが、その顧が没くなった時、妻子の面倒を見てや …
“田中貢太郎”について
田中 貢太郎(たなか こうたろう、1880年(明治13年)3月2日 - 1941年(昭和16年)2月1日)は、日本の作家。号は桃葉、虹蛇楼。著作は伝記物、紀行、随想集、情話物、怪談・奇談など多岐に渡る。
(出典:Wikipedia)
(出典:Wikipedia)
“田中貢太郎”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)