幽霊の自筆ゆうれいのじひつ
一ぱい張った二十三反帆に北東の風を受けて船は西へ西へ走っていた。初夏の曇った晩であった。暗いたらたらとした海の上には風波の波頭が船の左右にあたって、海蛇のように幾条かの銀鼠の光を走らした。 艫の舵柄の傍では、年老った船頭が一杯機嫌で胡座(あ …