長塚節
1879.04.03 〜 1915.02.08
著者としての作品一覧
壱岐国勝本にて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約3分
地圖を見ても直ぐ分る。對州は大きな蜈蜙が穴から出かけたやうでもあるし又やどかりが體を突出したやうでもあつて、山許りだから丁度毛だらけのやうに見える。それが壹州になると靜かな水の上に …
読書目安時間:約3分
地圖を見ても直ぐ分る。對州は大きな蜈蜙が穴から出かけたやうでもあるし又やどかりが體を突出したやうでもあつて、山許りだから丁度毛だらけのやうに見える。それが壹州になると靜かな水の上に …
芋掘り(旧字旧仮名)
読書目安時間:約48分
小春の日光は岡の畑一杯に射しかけて居る。岡は田と櫟林と鬼怒川の土手とで圍まれて他の一方は村から村へ通ふ街道へおりる。田は岡に添うて狹く連つて居る。田甫を越して竹藪交りの村の林が田に …
読書目安時間:約48分
小春の日光は岡の畑一杯に射しかけて居る。岡は田と櫟林と鬼怒川の土手とで圍まれて他の一方は村から村へ通ふ街道へおりる。田は岡に添うて狹く連つて居る。田甫を越して竹藪交りの村の林が田に …
鉛筆日抄(旧字旧仮名)
読書目安時間:約16分
八月二十九日 ▲黄瓜 松島の村から東へ海について行く。此れは東名の濱へ出るには一番近い道なので其代りには非常に難澁だといふことである。磯崎から海と離れて丘へ出た。丘をおりるとすぐに …
読書目安時間:約16分
八月二十九日 ▲黄瓜 松島の村から東へ海について行く。此れは東名の濱へ出るには一番近い道なので其代りには非常に難澁だといふことである。磯崎から海と離れて丘へ出た。丘をおりるとすぐに …
おふさ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約19分
刈草を積んだ樣に丸く繁つて居た野茨の木が一杯に花に成つた。青く長い土手にぽつ/\とそれが際立つて白く見える。花に聚つて居る蟲の小さな羽の響が恐ろしい唸聲をなしつゝある。土手に添うて …
読書目安時間:約19分
刈草を積んだ樣に丸く繁つて居た野茨の木が一杯に花に成つた。青く長い土手にぽつ/\とそれが際立つて白く見える。花に聚つて居る蟲の小さな羽の響が恐ろしい唸聲をなしつゝある。土手に添うて …
開業医(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間12分
或田舍の町である。裏通の或一部を覗くと洗張屋が一軒庭へ布を張つてあつて其庭先からは青菜の畑があるといふので、そこらをうろつく雞の群が青菜の畑へ出るとほう/\と雞を追ふ百姓の叱り聲が …
読書目安時間:約1時間12分
或田舍の町である。裏通の或一部を覗くと洗張屋が一軒庭へ布を張つてあつて其庭先からは青菜の畑があるといふので、そこらをうろつく雞の群が青菜の畑へ出るとほう/\と雞を追ふ百姓の叱り聲が …
簡易銷夏法(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1分
私の樣に田舍にばかり居て何といつて極つた用もないものには銷夏法抔といふ六かしいことを考える必要もなく隨つて名案もありません只今では少し百姓の方に手を出して居るので氣候が暑く成るに連 …
読書目安時間:約1分
私の樣に田舍にばかり居て何といつて極つた用もないものには銷夏法抔といふ六かしいことを考える必要もなく隨つて名案もありません只今では少し百姓の方に手を出して居るので氣候が暑く成るに連 …
記憶のまゝ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約16分
故人には逸話が多かつた。數年間交際を繼續して居た人々は誰でも他の人には知られない、單に自分との間にのみ起つた或事實の二つや三つは持つて居ないことは無いであらう。それが大抵は語れば一 …
読書目安時間:約16分
故人には逸話が多かつた。數年間交際を繼續して居た人々は誰でも他の人には知られない、單に自分との間にのみ起つた或事實の二つや三つは持つて居ないことは無いであらう。それが大抵は語れば一 …
痍のあと(旧字旧仮名)
読書目安時間:約10分
豆粒位な痍のあとがある。これは予が十八の秋はじめて長途の旅行をした時の形見であるが今でも深更まで眠れない時などには考へ出して恐ろしい感じのすることもある。予は其頃まで奧州の白河抔と …
読書目安時間:約10分
豆粒位な痍のあとがある。これは予が十八の秋はじめて長途の旅行をした時の形見であるが今でも深更まで眠れない時などには考へ出して恐ろしい感じのすることもある。予は其頃まで奧州の白河抔と …
教師(旧字旧仮名)
読書目安時間:約54分
此の中學へ轉任してからもう五年になる。子供が三人出來た。三人共男ばかりである。此の外には自分に何の變化も無い。依然として理化學の實驗を反覆して居る。自分は一體褊狹な人間なのであらう …
読書目安時間:約54分
此の中學へ轉任してからもう五年になる。子供が三人出來た。三人共男ばかりである。此の外には自分に何の變化も無い。依然として理化學の實驗を反覆して居る。自分は一體褊狹な人間なのであらう …
草津行(旧字旧仮名)
読書目安時間:約22分
われに一人の祖母あり。年耳順を越えて矍鑠たり。二佛を信ずること篤く、常に名刹に詣せん事を希ふ。然れども昔時行旅の便甚だ難きに馴れて、敢て獨りいづることをなさず。頻に之を共にするもの …
読書目安時間:約22分
われに一人の祖母あり。年耳順を越えて矍鑠たり。二佛を信ずること篤く、常に名刹に詣せん事を希ふ。然れども昔時行旅の便甚だ難きに馴れて、敢て獨りいづることをなさず。頻に之を共にするもの …
栗毛虫(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
風邪でも引いたかといふ鹽梅に頭がはつきりしないので一旦目は醒めたがまた寢込んでしまつた、恐らく眠りも不足であつたのらしい、みんなはもう野らへ出たのであらう家の内はまことにひツそりし …
読書目安時間:約5分
風邪でも引いたかといふ鹽梅に頭がはつきりしないので一旦目は醒めたがまた寢込んでしまつた、恐らく眠りも不足であつたのらしい、みんなはもう野らへ出たのであらう家の内はまことにひツそりし …
撃剣興行(旧字旧仮名)
読書目安時間:約17分
「一刀流神傳無刀流開祖從三位山岡鐵太郎門人」「鹿島神傳直心影流榊原建吉社中東京弘武會員」といふ長々しい肩書のついた田舍廻りの撃劍遣ひの興行があるといふので理髮床や辻々の茶店に至るま …
読書目安時間:約17分
「一刀流神傳無刀流開祖從三位山岡鐵太郎門人」「鹿島神傳直心影流榊原建吉社中東京弘武會員」といふ長々しい肩書のついた田舍廻りの撃劍遣ひの興行があるといふので理髮床や辻々の茶店に至るま …
才丸行き(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、 滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにし …
読書目安時間:約9分
起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、 滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにし …
佐渡が島(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
佐渡は今日で三日共雨である。小木の港への街道は眞野の入江を右に見て磯について南へ走る。疎らな松林を出たりはひつたりして幾つかの漁村を過ぎてしと/\ゝ沾れて行く。眞野の入江は硝子板に …
読書目安時間:約31分
佐渡は今日で三日共雨である。小木の港への街道は眞野の入江を右に見て磯について南へ走る。疎らな松林を出たりはひつたりして幾つかの漁村を過ぎてしと/\ゝ沾れて行く。眞野の入江は硝子板に …
佐渡が島:波の上(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
汽船はざぶ/\と濁水を蹴つて徐ろにくだる。信濃川も川口がすぐ近く見える。渺茫たる海洋がだん/\と眼前に展開する。左岸には一簇の葦の穗の茂りがあつて其先からは防波堤が屈曲して居る。葦 …
読書目安時間:約5分
汽船はざぶ/\と濁水を蹴つて徐ろにくだる。信濃川も川口がすぐ近く見える。渺茫たる海洋がだん/\と眼前に展開する。左岸には一簇の葦の穗の茂りがあつて其先からは防波堤が屈曲して居る。葦 …
写生断片(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
余は天然を酷愛す。故に余が製作は常に天然と相離るゝこと能はず。此に掲ぐるものは長き文章の一部にして我が郷の田野の寫生なり。一は其冐頭にして二は其結末なり。素より斷片なり、一篇の文章 …
読書目安時間:約6分
余は天然を酷愛す。故に余が製作は常に天然と相離るゝこと能はず。此に掲ぐるものは長き文章の一部にして我が郷の田野の寫生なり。一は其冐頭にして二は其結末なり。素より斷片なり、一篇の文章 …
商機(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
汽車から降りると寒さが一段身に染みる。埓の側に植ゑた櫻の枯木が強い西風に鳴つて居る。彼は思はず首を引つこませた。さうして小さな手荷物を砂利の上に卸して毛糸の白い襟卷を擴げて顎から口 …
読書目安時間:約12分
汽車から降りると寒さが一段身に染みる。埓の側に植ゑた櫻の枯木が強い西風に鳴つて居る。彼は思はず首を引つこませた。さうして小さな手荷物を砂利の上に卸して毛糸の白い襟卷を擴げて顎から口 …
しらくちの花(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
明治卅六年の秋のはじめに自分は三島から箱根の山越をしたことがある。箱根村に近づいて来た頃霧が自分の周囲を罩(こ)めた。霧は微細なる水球の状態をなして目前を流れる。冷かさが汗の肌にし …
読書目安時間:約13分
明治卅六年の秋のはじめに自分は三島から箱根の山越をしたことがある。箱根村に近づいて来た頃霧が自分の周囲を罩(こ)めた。霧は微細なる水球の状態をなして目前を流れる。冷かさが汗の肌にし …
白瓜と青瓜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約13分
庄次は小作人の子でありました。彼の家は土着の百姓であります。勿論百姓といふものが一旦落ちついた自分の土地を離れて彷徨ふといふことはよく/\の事情が起らない限りは決してないことであり …
読書目安時間:約13分
庄次は小作人の子でありました。彼の家は土着の百姓であります。勿論百姓といふものが一旦落ちついた自分の土地を離れて彷徨ふといふことはよく/\の事情が起らない限りは決してないことであり …
白甜瓜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
石の卷を出て大きな街道を行くと暫くして松林へかゝる。海邊であるが松は孰れもすく/\と立つて然かも鬱蒼と掩ひかぶさつて居る。街道は恰も此の松林を穿つて通じてあるやうである。暑い日光を …
読書目安時間:約5分
石の卷を出て大きな街道を行くと暫くして松林へかゝる。海邊であるが松は孰れもすく/\と立つて然かも鬱蒼と掩ひかぶさつて居る。街道は恰も此の松林を穿つて通じてあるやうである。暑い日光を …
須磨明石(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
須磨の浦を一の谷へ歩いて行く。乾き切つた街道を埃がぬかる程深い、松の木は枝も葉も埃で煤が溜つたやうに見える、敦盛の墓の木蔭にはおしろいが草村をなしてびつしりと咲いて居る、柔かな葉は …
読書目安時間:約4分
須磨の浦を一の谷へ歩いて行く。乾き切つた街道を埃がぬかる程深い、松の木は枝も葉も埃で煤が溜つたやうに見える、敦盛の墓の木蔭にはおしろいが草村をなしてびつしりと咲いて居る、柔かな葉は …
炭焼のむすめ(旧字旧仮名)
読書目安時間:約16分
低い樅の木に藤の花が垂れてる所から小徑を降りる。炭燒小屋がすぐ眞下に見える。狹い谷底一杯になつて見える。あたりは朗かである。トーントーンといふ音が遙に谷から響き渡つて聞える。谷底へ …
読書目安時間:約16分
低い樅の木に藤の花が垂れてる所から小徑を降りる。炭燒小屋がすぐ眞下に見える。狹い谷底一杯になつて見える。あたりは朗かである。トーントーンといふ音が遙に谷から響き渡つて聞える。谷底へ …
対州厳原港にて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
對州へ渡るには博多から夜出て朝着く。博多へ渡るにもさうである。汽船は荷物を主にして居るのだから客少くして我々はみじめである。何處へ行つても朝鮮といふことをいふ。釜山なども對州の人が …
読書目安時間:約2分
對州へ渡るには博多から夜出て朝着く。博多へ渡るにもさうである。汽船は荷物を主にして居るのだから客少くして我々はみじめである。何處へ行つても朝鮮といふことをいふ。釜山なども對州の人が …
竹の里人〔一〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
○先生と自分との間柄は漸く三十三年からのことで極めてあつけないことであつた。それも自分がいつも京住まひで三日あげずに先生のもとへ往復が出來るならば格別であるが何をいふにも交通の不便 …
読書目安時間:約8分
○先生と自分との間柄は漸く三十三年からのことで極めてあつけないことであつた。それも自分がいつも京住まひで三日あげずに先生のもとへ往復が出來るならば格別であるが何をいふにも交通の不便 …
竹の里人〔三〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
○一日を隔てた三十日に二回目の訪問をした。先生の姿勢はいつもの通りであつた。その時自分は國元から持つて行つた丹波栗の二升ばかりを出すと、それはどうして保存して置くのかといふやうな問 …
読書目安時間:約7分
○一日を隔てた三十日に二回目の訪問をした。先生の姿勢はいつもの通りであつた。その時自分は國元から持つて行つた丹波栗の二升ばかりを出すと、それはどうして保存して置くのかといふやうな問 …
竹の里人〔二〕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7分
○「歌よみに與ふる書」といふのは十回にわたつたのであつたが、自分にはいかにも愉快でたまらないので丁寧に切り拔いておいて頻りに人にも見せびらかした。偶々これに異議を挾むものでもあれば …
読書目安時間:約7分
○「歌よみに與ふる書」といふのは十回にわたつたのであつたが、自分にはいかにも愉快でたまらないので丁寧に切り拔いておいて頻りに人にも見せびらかした。偶々これに異議を挾むものでもあれば …
太十と其犬(新字新仮名)
読書目安時間:約32分
太十は死んだ。 彼は「北のおっつあん」といわれて居た。それは彼の家が村の北端にあるからである。門口が割合に長くて両方から竹藪が掩いかぶって居る。竹藪は乱伐の為めに大分荒廃して居るが …
読書目安時間:約32分
太十は死んだ。 彼は「北のおっつあん」といわれて居た。それは彼の家が村の北端にあるからである。門口が割合に長くて両方から竹藪が掩いかぶって居る。竹藪は乱伐の為めに大分荒廃して居るが …
旅の日記(旧字旧仮名)
読書目安時間:約17分
九月一日 金華山から山雉の渡しを鮎川の港までもどつた。汽船で塩竈へ歸らうとしたのである。大分まだ時刻があつたので或旅人宿の一間で待つことにした。宿には二階がある。然し其案内されたの …
読書目安時間:約17分
九月一日 金華山から山雉の渡しを鮎川の港までもどつた。汽船で塩竈へ歸らうとしたのである。大分まだ時刻があつたので或旅人宿の一間で待つことにした。宿には二階がある。然し其案内されたの …
知己の第一人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私が伊藤君に會つたのは、丁度明治三十三年の四月の一日でした。子規先生の根岸庵短歌會の席上でした。三月の下旬に始めて根岸庵を訪問して四月の一日に伊藤君に會つたのでした。が其の時は別段 …
読書目安時間:約5分
私が伊藤君に會つたのは、丁度明治三十三年の四月の一日でした。子規先生の根岸庵短歌會の席上でした。三月の下旬に始めて根岸庵を訪問して四月の一日に伊藤君に會つたのでした。が其の時は別段 …
月見の夕(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
うちからの出が非常に遲かツたものだから、そこ/\に用は足したが、知合の店先で「イヤ今夜は冴えましようぜこれでは、けさからの鹽梅ではどうも六かしいと思つてましたが、まあこれぢや麥がと …
読書目安時間:約8分
うちからの出が非常に遲かツたものだから、そこ/\に用は足したが、知合の店先で「イヤ今夜は冴えましようぜこれでは、けさからの鹽梅ではどうも六かしいと思つてましたが、まあこれぢや麥がと …
土(旧字旧仮名)
読書目安時間:約7時間37分
漱石 「土」が「東京朝日」に連載されたのは一昨年の事である。さうして其責任者は余であつた。所が不幸にも余は「土」の完結を見ないうちに病氣に罹つて、新聞を手にする自由を失つたぎり、又 …
読書目安時間:約7時間37分
漱石 「土」が「東京朝日」に連載されたのは一昨年の事である。さうして其責任者は余であつた。所が不幸にも余は「土」の完結を見ないうちに病氣に罹つて、新聞を手にする自由を失つたぎり、又 …
土浦の川口(旧字旧仮名)
読書目安時間:約8分
冬とはいふものゝまだ霜の下りるのも稀な十一月の十八日、土浦へついたのはその夕方であつた、狹苦しい間口でワカサギの串を裂いて居る爺はあるが、いつもの如く火を煽つてはワカサギを燒いて居 …
読書目安時間:約8分
冬とはいふものゝまだ霜の下りるのも稀な十一月の十八日、土浦へついたのはその夕方であつた、狹苦しい間口でワカサギの串を裂いて居る爺はあるが、いつもの如く火を煽つてはワカサギを燒いて居 …
十日間(旧字旧仮名)
読書目安時間:約17分
三月二日、月曜、晴、暖、 起床平日よりはやし、冷水浴、 宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、しかし雫する程ではない、書院の庭にしきつめてある松葉は松もんもが交つてるので目障りで …
読書目安時間:約17分
三月二日、月曜、晴、暖、 起床平日よりはやし、冷水浴、 宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、しかし雫する程ではない、書院の庭にしきつめてある松葉は松もんもが交つてるので目障りで …
利根川の一夜(旧字旧仮名)
読書目安時間:約12分
叔父の案内で利根川の鮭捕を見に行くことになつた、晩飯が濟んで勝手元もひつそりとした頃もうよからうといふので四人で出掛けた、 叔父は小さな包を背負つて提灯をさげる、それから河は寒いと …
読書目安時間:約12分
叔父の案内で利根川の鮭捕を見に行くことになつた、晩飯が濟んで勝手元もひつそりとした頃もうよからうといふので四人で出掛けた、 叔父は小さな包を背負つて提灯をさげる、それから河は寒いと …
長塚節歌集:1 上(旧字旧仮名)
読書目安時間:約58分
惜しまるゝ花のこずゑもこの雨の晴れてののちや若葉なるらむ 林子を悼みて ちりしみのうらみや深きみし人のなげきやおほきあたらこの花 昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくな …
読書目安時間:約58分
惜しまるゝ花のこずゑもこの雨の晴れてののちや若葉なるらむ 林子を悼みて ちりしみのうらみや深きみし人のなげきやおほきあたらこの花 昨日こそうしほあみしか大磯のいそふく風に千鳥なくな …
長塚節歌集:2 中(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間5分
郷にかへる歌并短歌 草枕旅のけにして、こがらしのはやも吹ければ、おもゝちを返り見はすと、たましきの京を出でゝ、天さかる夷の長路を、ひた行けど夕かたまけて、うす衾寒くながるゝ、鬼怒川 …
読書目安時間:約1時間5分
郷にかへる歌并短歌 草枕旅のけにして、こがらしのはやも吹ければ、おもゝちを返り見はすと、たましきの京を出でゝ、天さかる夷の長路を、ひた行けど夕かたまけて、うす衾寒くながるゝ、鬼怒川 …
長塚節歌集:3 下(旧字旧仮名)
読書目安時間:約31分
落葉松の溪に鵙鳴く淺山ゆ見し乘鞍は天に遙かなりき 鵙の聲透りて響く秋の空にとがりて白き乘鞍を見し 我が攀ぢし草の低山木を絶えて乘鞍岳をつばらかにせり おほにして過ぎば過ぐべき遠山の …
読書目安時間:約31分
落葉松の溪に鵙鳴く淺山ゆ見し乘鞍は天に遙かなりき 鵙の聲透りて響く秋の空にとがりて白き乘鞍を見し 我が攀ぢし草の低山木を絶えて乘鞍岳をつばらかにせり おほにして過ぎば過ぐべき遠山の …
長塚節句集(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
白菜や間引き/\て暮るゝ秋 七年の約を果すや暮の秋 散りぬべき卿の秋の毛虫かな 花煙草葉を掻く人のあからさま 藁灰に莚掛けたり秋の雨 豆引いて莠はのこる秋の風 わかさぎの霞が浦や秋 …
読書目安時間:約5分
白菜や間引き/\て暮るゝ秋 七年の約を果すや暮の秋 散りぬべき卿の秋の毛虫かな 花煙草葉を掻く人のあからさま 藁灰に莚掛けたり秋の雨 豆引いて莠はのこる秋の風 わかさぎの霞が浦や秋 …
菜の花(旧字旧仮名)
読書目安時間:約20分
奈良や吉野とめぐつてもどつて見ると、僅か五六日の内に京は目切と淋しく成つて居た。奈良は晴天が持續した。それで此の地方に特有な白く乾燥した土と、一帶に平地を飾る菜の花とが、蒼い天を戴 …
読書目安時間:約20分
奈良や吉野とめぐつてもどつて見ると、僅か五六日の内に京は目切と淋しく成つて居た。奈良は晴天が持續した。それで此の地方に特有な白く乾燥した土と、一帶に平地を飾る菜の花とが、蒼い天を戴 …
浜の冬(旧字旧仮名)
読書目安時間:約2分
冬の日のことである。鰯の漁が見たかつたので知人の案内状を持つて九十九里の濱の網主のもとへ行つた。主人はチヨン髷の五十幾つかに見える。丁度まくれた栗の落葉が轉つて行くやうだといへば適 …
読書目安時間:約2分
冬の日のことである。鰯の漁が見たかつたので知人の案内状を持つて九十九里の濱の網主のもとへ行つた。主人はチヨン髷の五十幾つかに見える。丁度まくれた栗の落葉が轉つて行くやうだといへば適 …
菠薐草(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
余が村の一族の間には近代美人が輩出した。それが余の母まで續いて居る。母をうんだおばあさんといふのは七十四になるがまだ至つて達者な人である。おばあさんの眉は美しかつたらうといふと、唯 …
読書目安時間:約4分
余が村の一族の間には近代美人が輩出した。それが余の母まで續いて居る。母をうんだおばあさんといふのは七十四になるがまだ至つて達者な人である。おばあさんの眉は美しかつたらうといふと、唯 …
松虫草(旧字旧仮名)
読書目安時間:約11分
泉州の堺から東へ田圃を越えるとそこに三つの山陵がある。中央の山陵は杉の木が一杯に掩うて蔚然と小山のやうである。此が人工で成つたとは思はれぬ程壯大な形である。土地は百舌鳥の耳原である …
読書目安時間:約11分
泉州の堺から東へ田圃を越えるとそこに三つの山陵がある。中央の山陵は杉の木が一杯に掩うて蔚然と小山のやうである。此が人工で成つたとは思はれぬ程壯大な形である。土地は百舌鳥の耳原である …
弥彦山(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
新潟の停車場を出ると列車の箱からまけ出された樣に人々はぞろ/\と一方へ向いて行く。其あとへ跟いて行くとすぐに長大な木橋がある。橋へかゝつてぶら/\と辿つて來ると古傘を手に提げた若者 …
読書目安時間:約9分
新潟の停車場を出ると列車の箱からまけ出された樣に人々はぞろ/\と一方へ向いて行く。其あとへ跟いて行くとすぐに長大な木橋がある。橋へかゝつてぶら/\と辿つて來ると古傘を手に提げた若者 …
旅行に就いて(旧字旧仮名)
読書目安時間:約9分
余は旅行が好きである、年々一度は長途の旅行をしなければ氣が濟まぬやうになつた。兎に角全國歩いて見たい積りで地圖の上に朱線の殖えるのを樂みの一つにして居る。時には汽車や汽船の便を借り …
読書目安時間:約9分
余は旅行が好きである、年々一度は長途の旅行をしなければ氣が濟まぬやうになつた。兎に角全國歩いて見たい積りで地圖の上に朱線の殖えるのを樂みの一つにして居る。時には汽車や汽船の便を借り …
隣室の客(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間4分
私は品行方正な人間として周囲から待遇されて居る。私が此所にいふやうな秘密を打ち明けても私を知つて居る人の幾分は容易に信じないであらうと思はれる。秘密には罪悪が附随して居る。私がなぜ …
読書目安時間:約1時間4分
私は品行方正な人間として周囲から待遇されて居る。私が此所にいふやうな秘密を打ち明けても私を知つて居る人の幾分は容易に信じないであらうと思はれる。秘密には罪悪が附随して居る。私がなぜ …
我が庭(旧字旧仮名)
読書目安時間:約6分
鬱陶しく曇つた春雨の空がいつもの如く井戸流しで冷水浴をしてしはらくするうちに禿げてしまつた、朝のうちに椚眞木の受取渡しをして來たらよからうと母が言ふことであつたが少し用があるから行 …
読書目安時間:約6分
鬱陶しく曇つた春雨の空がいつもの如く井戸流しで冷水浴をしてしはらくするうちに禿げてしまつた、朝のうちに椚眞木の受取渡しをして來たらよからうと母が言ふことであつたが少し用があるから行 …
“長塚節”について
長塚 節(ながつか たかし、1879年(明治12年)4月3日 - 1915年(大正4年)2月8日)は、日本の歌人、小説家。
茨城県結城郡に生まれた。病弱で中学を中退、療養生活の中で短歌に親しんだ。正岡子規の『歌よみに与ふる書』に深い感銘を受け、1900年に入門。ひたすら子規の写生の風を摂取、子規短歌の最も正当な継承者と言われた。
「馬酔木」「アララギ」の創刊に参画。晩年には、透徹した清澄な調べをめざす「冴え」の説を唱えた。
(出典:Wikipedia)
茨城県結城郡に生まれた。病弱で中学を中退、療養生活の中で短歌に親しんだ。正岡子規の『歌よみに与ふる書』に深い感銘を受け、1900年に入門。ひたすら子規の写生の風を摂取、子規短歌の最も正当な継承者と言われた。
「馬酔木」「アララギ」の創刊に参画。晩年には、透徹した清澄な調べをめざす「冴え」の説を唱えた。
(出典:Wikipedia)
“長塚節”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)