山姑の怪やまうばのかい
甚九郎は店に坐っていた。この麹町の裏店に住む独身者は、近郷近在へ出て小間物の行商をやるのが本職で、疲労れた時とか天気の悪い日とかでないと店の戸は開けなかった。 それは春の夕方であった。別に客もないので甚九郎は煙管をくわえたなりで、うとうとと …