蠅供養はえくよう
火鉢に翳している右の手の甲に一疋の蠅が来て止った。未だ二月の余寒の強い比にあっては、蠅は珍らしかった。九兵衛はもう蠅の出る時候になったのかと思ったが、それにしてもあまり早すぎるのであった。 九兵衛は手を動かして蠅を追った。蠅は前の帳場格子の …