狐の手帳きつねのてちょう
幕末の比であった。本郷の枳殻寺の傍に新三郎と云う男が住んでいたが、その新三郎は旅商人でいつも上州あたりへ織物の買い出しに往って、それを東京近在の小さな呉服屋へ卸していた。それは某年の秋のこと、新三郎の家では例によって新三郎が旅に出かけて往っ …