)” の例文
しかし水から出すとすぐに、その光沢はせてきて、その姿が指の間にけ込む。彼はそれを水に投げ込み、また他のをあさり始める。
しかもこの際読者の網目と前句作者の網目と付け句作者の網目とこの三つのものが最もよく必然的に重なり合いけ合う場合において
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕には、僕がだれともけあわない一つの核をもっていること、これを信じる勇気しかない。そこからしか、なにもはじめられないんだ
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
なお詳しく言えば、物について物を見ないで、主観の感情によって認識し、心情ハートの感激や情緒にかして、存在の意味を知ることである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
かれこれとかたっているうちにも、おたがいこころ次第しだい次第しだいって、さながらあの思出おもいでおお三浦みうらやかたで、主人あるじび、つまばれて
しかし細君の動かなくなる時は彼女の沈滞がけ出す時に限っていた。その時健三はようやく怒号をやめた。細君は始めて口を利き出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、日は無心に木犀もくせいにおいをかしている。芭蕉ばしょう梧桐あおぎりも、ひっそりとして葉を動かさない。とびの声さえ以前の通り朗かである。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼らと心理的にけ合ううちに、まさしく世界に遍在する一つの霊魂といったものが、あり得ると信じるようになってきますね。
春の日に霜がむすぶと——冬のあいだの氷がける日でもそうなることがあるが——砂は溶岩のように斜面を流れ落ちはじめる。
読者の知ってるとおり、彼らの間には常に、絶壁と冷ややかさと気兼ねとが、砕きかさなければならない氷が、介在していた。
それに火をつけて吸いはじめたが、それは筆紙ひっしつくされぬほど美味うまかった。凍りついていた元気がにわかにけて全身をまわりだした感じだ。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
荒川あらかわ放水路が北方から東南へ向けまず二筋になり、葛西川かさいがわ橋の下から一本の大幅おおはばの動きとなって、河口を海へかしている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから厚い毛布けっとかフランネルを二枚にたたんでも三枚に畳んでもようございますから今の桶の上へ悉皆すっかりかぶせて氷の速くけないようにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
からだのすくむやうな、ぞくぞくするやうな、ろけ込むやうな、さういふ状態に、何時でもなれるんぢやないんですか。
命を弄ぶ男ふたり(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
翌朝手水鉢ちょうずばちに氷が張っている。この氷が二日より長く続いて張ることは先ず少い。遅くも三日目には風が変る。雪も氷もけてしまうのである。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私が今までお前に尽している真心がお前にわかっているなら、もっと本当のことを打ちけて聴かしてくれてもいいと思う
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
深くはなかったが、その穴のなかでは、二月の雪が底の方からけていた。たった今、雪から水にかえったこまかい粒が、集まってしずくとなった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
零下十度位になると、雪の結晶は全く安全で、どのようにいじっていてもける心配はないので、勝手に切ったり細工したりして調べることが出来る。
田面たづらの氷もようやくけて、彼岸の種きも始まって、背戸せどの桃もそろそろ笑い出した頃になると、次郎左衛門はそわそわして落ち着かなくなった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
感情と知性と誠実がすっきり透きとおるようにけ合えば夫婦親子は勿論、我子の嫁とも一切の他人とも愛し得られるものであろうと私は思っている。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たまたいもそのままかすみのうちにけ去りてすくうも手にはたまらざるべきお豊も恋に自己おのれを自覚しめてより、にわかに苦労というものも解しめぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
霧がけたのでした。太陽たいようみがきたての藍銅鉱らんどうこうのそらに液体えきたいのようにゆらめいてかかりけのこりの霧はまぶしくろうのように谷のあちこちによどみます。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その眼には物を詰問きつもんするような輝きがあったが、壮助の視線に逢うとすぐに深い悲しみのうちにけ込んでいった。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あの乾枯ひからびたシャモのくびのような咽喉のどからドウしてアンナ艶ッぽい声が出るか、声ばかり聞いてると身体からだけるようだが、顔を見るとウンザリする
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その時のヤングの声の静かで悲しかったこと——ほんの一寸ちょっとだったけど、妾の胸にシミジミとけ込んで、妾に何もかも忘れさしてしまったのよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その感動がようやく大きくなって来てその森羅万象とけ合って初めて句になるような径路、その径路を選ぶ事が正しい句作の誘導法だと考えるのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
なんじに筧の水の幽韻ゆういんはない。雪氷をかした山川の清冽せいれつは無い。瀑布ばくふ咆哮ほうこうは無い。大河の溶々ようようは無い。大海の汪洋おうようは無い。儞は謙遜な農家の友である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
南に富士川は茫々ばう/\たる乾面上に、きりにて刻まれたるみぞとなり、一線の針をひらめかして落つるところは駿河の海、しろがね平らかに、浩蕩かうたうとして天といつく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
道は落葉に埋められ、今朝おりた霜の白きもあり、けてれたのもある。とかくすべり勝ちで足の運びは鈍い。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
「あの、お嬢さん、これみんな、けてってしまうんじゃアない? 早く片付けてしまった方がよくはない?」
きっと釜の中を睨んだが、「かしてやろうぞ! 融かしてやろうぞ!」まさに桔梗様を投げ込もうとした。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湯気とあかと、塗りつける化粧料と、体臭とがまざり合い、ひしめき合って窓から夜気やきのなかにけて行く。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
葉子の家の裏あたりから、川幅は次第に広くなって、浪にただよっている海猫うみねこの群れに近づくころには、そこは漂渺ひょうびょうたる青海原あおうなばらが、澄みきった碧空あおぞらけ合っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小春日和こはるびよりの日中のようで、うらうらと照る日影は人の心も筋もけそうになまあたたかに、山にも枯れ草まじりの青葉少なからず日の光に映してそよ吹く風にきらめき
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるひ外壁がいへき上部じようぶしようじたからいづることもあり、また側壁そくへきかしてそこからあふることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
今思いますと、若い時の沢山の苦しみが積み重なり、一丸にけ合って、ことごとく芸術的に浄化されて、今の境地が作り出されたのではないかと思われてなりません。
ただ神がその姿を現わしさえすれば宜いのである。ただ直接に神の声を聴きさえすれば宜いのである。それで疑問は悉くけ去りて歓喜の中に心を浸すに至るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そして蒼ざめた前の金いろの光りはそれとけあはずに、ゆらゆらと、さながら青い海底へ沈むようにたゆたひながら、あたかも大理石の波紋のやうな層を形づくつた。
ほかの柹だと、中味が水のようにけてしまって、美濃柹のごとくねっとりとしたものにならない。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ああ! 俺にはまだ希望があったのだ‼ 希望が!」庸之助はこわばっていた心が、端からトロトロとけて来るのを感じた。名状しがたい涙がこぼれ出したのである。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こうした春の自然とそれにけあう人の心とのふしぎな織物に、古人も魅惑を感じたらしいが、今もってこうした幻影はそのころの人たちを、静観的な自然観照家であり
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
生来おもひやり深い此人の気立からして今此家の内の、むさくるしい、貧しい、どうして食つて行つてるかすら分らない有様を見ると、怒も憎しみもすつかりけてしまつた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
一言にしてみれば、これまでの不自由なこころもちが、その自然を見ることで、意外にも自分自身けほぐれて自由になり、解放されたようなこころもちになることなのである。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
色と色とがけ合つた斑の雲などの濃淡のうたんのある遠景を消してしまつたやうなものだつた。
殊に胴体から胸・顔面にかけて剥脱した白色が、光背こうはい尖端せんたんに残った朱のくすんだ色とけあっている状態は無比であった。全体としてやはり焔とよぶのが一番ふさわしいようだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
遥か野末から弦のれたような物音が何ごとかを暗示し、そのまま何の解決もなしに永遠の流れにけて入る——といったことを、彼は何も戯曲の中だけでやったのではないのである。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
水幅が三町半ほどで、その水の中には朝、氷の張ったのがけて上流から流れて来た小さき氷塊があるからその氷が足や腰の辺に当ると怪我をする。水の冷たいことは申すまでもない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうやって一つの記憶の中に微妙にけ合ってしまっているのかも知れない。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私の居室きょしつには、かつて一枚の英傑の肖像画をも置いたことがないが、フランスの若い友人から送って来た、バッハの小さい肖像画だけは、長く私の書斎に飾って、け込むような親しさと
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
薄日はしたがまだけぬ、道芝に腰を落して、お鶴はくの字形なりに手を小石。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)