岸田国士
1890.11.02 〜 1954.03.05
“岸田国士”に特徴的な語句
綺麗
鷓鴣
開
尻尾
嘴
啼
真似
鵲
軋
苜蓿
皺
頸
階下
椅子
喉
齧
顫
雄鶏
踵
藁
舐
膨
稀
煙草
潰
樹
昨日
攀
尻
失
土竜
噛
扉
嗅
識
方
応
悪
同胞
唸
来
驢馬
点
脚
母
母
生毛
膝
癪
喚
著者としての作品一覧
愛妻家の一例(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
ルナアルの日記を読んで、いろいろ面白い発見をするのだが、彼は自分の少年時代を、「にんじん」で過したゞけあつて、大人になつてからも、常に周囲を「にんじん」の眼で眺め暮した世にも不幸な …
読書目安時間:約8分
ルナアルの日記を読んで、いろいろ面白い発見をするのだが、彼は自分の少年時代を、「にんじん」で過したゞけあつて、大人になつてからも、常に周囲を「にんじん」の眼で眺め暮した世にも不幸な …
『赤鬼』の作者阪中正夫君(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
新劇を見るほどの人で阪中正夫君の名を知らぬ人はあるまい。また、創作座の支持者で、『馬』の舞台から何か「新鮮なもの」を感じなかつた人もあるまい。 阪中君は、戯曲家として、やはり、リリ …
読書目安時間:約3分
新劇を見るほどの人で阪中正夫君の名を知らぬ人はあるまい。また、創作座の支持者で、『馬』の舞台から何か「新鮮なもの」を感じなかつた人もあるまい。 阪中君は、戯曲家として、やはり、リリ …
アカデミイの書取(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ナポレオン三世の宮中では、皇后ウージェニイを中心に、当時の錚々たる文学者を交へた特色のある集会が行はれたが、その席で、何時からともなく、「秘書役ごつこ」といふ遊戯がはじまつた。 あ …
読書目安時間:約4分
ナポレオン三世の宮中では、皇后ウージェニイを中心に、当時の錚々たる文学者を交へた特色のある集会が行はれたが、その席で、何時からともなく、「秘書役ごつこ」といふ遊戯がはじまつた。 あ …
「明るい文学」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
甲は云ふ——黒ずんだ文学にも少し飽きた。もつと明るい、赤味を帯びてゐても、青味を帯びてゐても、それはいゝ、もつと明るい文学が欲しいね。 乙が答へる——人生は黒ずんだものだ。 甲—— …
読書目安時間:約6分
甲は云ふ——黒ずんだ文学にも少し飽きた。もつと明るい、赤味を帯びてゐても、青味を帯びてゐても、それはいゝ、もつと明るい文学が欲しいね。 乙が答へる——人生は黒ずんだものだ。 甲—— …
空地利用(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
「思想」といふ言葉がたびたび口にされる。それは常に「誰か」の思想であると同時に、右か左かといふやうな政治的意味をもつもののやうに考へられる。「思想」そのものと、思想の表現との間に、 …
読書目安時間:約20分
「思想」といふ言葉がたびたび口にされる。それは常に「誰か」の思想であると同時に、右か左かといふやうな政治的意味をもつもののやうに考へられる。「思想」そのものと、思想の表現との間に、 …
秋の雲(新字旧仮名)
読書目安時間:約40分
熊川忠範の名前は、今や、全村はおろか、県下に知れ渡らうとしてゐる、といつても言ひ過ぎではない。 一介の炭焼が、突如として名声を博し、やがて産を成す希望を与へられたと言へば、おそらく …
読書目安時間:約40分
熊川忠範の名前は、今や、全村はおろか、県下に知れ渡らうとしてゐる、といつても言ひ過ぎではない。 一介の炭焼が、突如として名声を博し、やがて産を成す希望を与へられたと言へば、おそらく …
秋の対話(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
桔梗 芒 女郎花 こうろぎ 風 蛇 少女 老婆 高原——別荘の前庭——秋 遠景は、澄み渡つた空に、濃淡色とりどりの山の姿。 舞台中央に白樺の幹が二本並んでゐる。その根もとに雑草の茂 …
読書目安時間:約11分
桔梗 芒 女郎花 こうろぎ 風 蛇 少女 老婆 高原——別荘の前庭——秋 遠景は、澄み渡つた空に、濃淡色とりどりの山の姿。 舞台中央に白樺の幹が二本並んでゐる。その根もとに雑草の茂 …
悪態の心理(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
葉村ヨシエと佐原あつ子とは、いづれもある官庁の文書課に勤めてゐるタイピストで、二人は採用試験のあつた日にはじめて口をきき、希望がかなつていよいよ役所に顔を出すと、そこでもまたお互に …
読書目安時間:約18分
葉村ヨシエと佐原あつ子とは、いづれもある官庁の文書課に勤めてゐるタイピストで、二人は採用試験のあつた日にはじめて口をきき、希望がかなつていよいよ役所に顔を出すと、そこでもまたお互に …
芥川賞(第十八回)選評(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
「棉花記」、「和紙」、「伝染病院」、「淡墨」、「道」の五篇のうちから、私は「和紙」を推すことにした。 健康な美しさとでも云ふべきものがあり、「和紙」といふ標題の象徴が、作品の感触の …
読書目安時間:約1分
「棉花記」、「和紙」、「伝染病院」、「淡墨」、「道」の五篇のうちから、私は「和紙」を推すことにした。 健康な美しさとでも云ふべきものがあり、「和紙」といふ標題の象徴が、作品の感触の …
芥川賞(第二十回)選評(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私の手許に送られて来た作品は、いづれもなかなか佳いものであつた。そのうちでもいろいろな点からみて、いま特に推奨したいと思つたのは「技術史」であつた。「春」もある意味では面白く、「雁 …
読書目安時間:約2分
私の手許に送られて来た作品は、いづれもなかなか佳いものであつた。そのうちでもいろいろな点からみて、いま特に推奨したいと思つたのは「技術史」であつた。「春」もある意味では面白く、「雁 …
浅間山(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間5分
浅間山の麓 萱の密生した広漠たる原野の中に、白樺、落葉松などの疎林が点在し、土地を区劃するための道路が、焼石の地肌をみせて縦横に延びてゐる。 緩やかな斜面に沿つて、粗末な小舎が一棟 …
読書目安時間:約1時間5分
浅間山の麓 萱の密生した広漠たる原野の中に、白樺、落葉松などの疎林が点在し、土地を区劃するための道路が、焼石の地肌をみせて縦横に延びてゐる。 緩やかな斜面に沿つて、粗末な小舎が一棟 …
「浅間山」の序に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は、嘗て雑誌に発表した作品を、更に単行本に纏める場合、大概、一度は躊躇するのである。これは私に限らず、多くの作家はさうであらうが、時を経て読み返すと、自分の書いたものぐらゐつまら …
読書目安時間:約4分
私は、嘗て雑誌に発表した作品を、更に単行本に纏める場合、大概、一度は躊躇するのである。これは私に限らず、多くの作家はさうであらうが、時を経て読み返すと、自分の書いたものぐらゐつまら …
『跫音』の序にかへて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ラジオ・ドラマといふものはなかなかむつかしいものである。私も二三それを試みて、ついに投げ出してしまつた。人間と機械との微妙な協力あるひは闘争が、聴覚を通して劇的美の構成に役立つこと …
読書目安時間:約2分
ラジオ・ドラマといふものはなかなかむつかしいものである。私も二三それを試みて、ついに投げ出してしまつた。人間と機械との微妙な協力あるひは闘争が、聴覚を通して劇的美の構成に役立つこと …
明日の劇壇へ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
注文により、「劇壇へ!」と呼びかけはしましたが、少くとも今日の私にとつて、その相手は何処にゐるのかさつぱりわからないのであります。 劇壇とは、劇場を中心として、俳優、劇評家、作者、 …
読書目安時間:約2分
注文により、「劇壇へ!」と呼びかけはしましたが、少くとも今日の私にとつて、その相手は何処にゐるのかさつぱりわからないのであります。 劇壇とは、劇場を中心として、俳優、劇評家、作者、 …
明日は天気(二場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
夫 妻 宿の女中甲 宿の女中乙 風呂番 番頭 真夏——雨の日 ある海岸の旅館——海を見晴らせる部屋 夫(腹這ひになり、泳ぎの真似をしてゐる) 妻(絵葉書を出す先を考へてゐる) 女中 …
読書目安時間:約25分
夫 妻 宿の女中甲 宿の女中乙 風呂番 番頭 真夏——雨の日 ある海岸の旅館——海を見晴らせる部屋 夫(腹這ひになり、泳ぎの真似をしてゐる) 妻(絵葉書を出す先を考へてゐる) 女中 …
新しい芝居(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
文学座はいはゆる「新劇」に非る新しい劇の樹立を標榜して立つた。五年間の歩みは、その方向を誤らなかつたかどうか、私は、今それを判定する地位にゐないけれども、恐らく、これだけのことは云 …
読書目安時間:約1分
文学座はいはゆる「新劇」に非る新しい劇の樹立を標榜して立つた。五年間の歩みは、その方向を誤らなかつたかどうか、私は、今それを判定する地位にゐないけれども、恐らく、これだけのことは云 …
新しき天地(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
シナリオといふものが、文学の一つのジヤンルとして発達するかどうか、例へば戯曲のやうなものになる可能性があるかどうか疑問である。しかし、映画の本質と結びついた、或は、映画の本質を本質 …
読書目安時間:約1分
シナリオといふものが、文学の一つのジヤンルとして発達するかどうか、例へば戯曲のやうなものになる可能性があるかどうか疑問である。しかし、映画の本質と結びついた、或は、映画の本質を本質 …
アトリエの印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
私は巴里滞在中、二三の画家諸君と識り合ひになり、ちよいちよいアトリエを訪ねるやうなこともあつたが、いつでもその仕事振り、生活振りに多大の興味を惹かれた。 第一に、いかにも楽しさうに …
読書目安時間:約6分
私は巴里滞在中、二三の画家諸君と識り合ひになり、ちよいちよいアトリエを訪ねるやうなこともあつたが、いつでもその仕事振り、生活振りに多大の興味を惹かれた。 第一に、いかにも楽しさうに …
あの顔あの声(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
門司から基隆まで 勿論船の上である。Tと名乗る男——彰化で料理屋を営んでゐる男——口髭を生やしてゐる男。 「こんなに静かなことは珍らしいです」 それはまた、両蓋の金時計を幾度も出し …
読書目安時間:約3分
門司から基隆まで 勿論船の上である。Tと名乗る男——彰化で料理屋を営んでゐる男——口髭を生やしてゐる男。 「こんなに静かなことは珍らしいです」 それはまた、両蓋の金時計を幾度も出し …
あの日あの人(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
一九二二年の暮れ、スタニスラウスキイの率ゐるモスコオ芸術座の一行が巴里を訪れた。 その開演の前夜シャン・ゼリゼエ劇場主、エベルトオは盛大な歓迎会を同劇場内に催して、一行を巴里の劇壇 …
読書目安時間:約7分
一九二二年の暮れ、スタニスラウスキイの率ゐるモスコオ芸術座の一行が巴里を訪れた。 その開演の前夜シャン・ゼリゼエ劇場主、エベルトオは盛大な歓迎会を同劇場内に催して、一行を巴里の劇壇 …
あの星はいつ現はれるか(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
葉絵子は父の書斎に呼ばれました。 父は生物学者です。今、調べものゝ手を休めて、葉絵子の方に向き直りました。 父まあ、そこへお坐り。 葉絵子また、お煙草の煙でいつぱいですわ。 父窓を …
読書目安時間:約11分
葉絵子は父の書斎に呼ばれました。 父は生物学者です。今、調べものゝ手を休めて、葉絵子の方に向き直りました。 父まあ、そこへお坐り。 葉絵子また、お煙草の煙でいつぱいですわ。 父窓を …
阿部正雄君のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
阿部正雄君の戯曲『骨牌遊びドミノ』を紹介します。 阿部君は、なかなか世間を知つてゐる。そして、少しばかり、世間を甘く見てゐる。一応、客観的態度を取り得る修業もできてゐる。しかし、さ …
読書目安時間:約1分
阿部正雄君の戯曲『骨牌遊びドミノ』を紹介します。 阿部君は、なかなか世間を知つてゐる。そして、少しばかり、世間を甘く見てゐる。一応、客観的態度を取り得る修業もできてゐる。しかし、さ …
甘い話(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は小供の時分、どんな菓子が好物だつたか、今思ひ出さうとしても思ひ出せないが、生れてから十年近くを過した四ツ谷塩町附近に、松風堂といふ菓子屋のあつたことを覚えてゐるのは不思議である …
読書目安時間:約3分
僕は小供の時分、どんな菓子が好物だつたか、今思ひ出さうとしても思ひ出せないが、生れてから十年近くを過した四ツ谷塩町附近に、松風堂といふ菓子屋のあつたことを覚えてゐるのは不思議である …
ある親子の問答(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
山上のホテル——食堂のベランダ、夏のをはり——午後九時頃。 テーブルに、青年とその母が向ひ合つてゐる。 青年もうおやすみになつたら如何です。だいぶん冷えて来ました。 母こんなに晴れ …
読書目安時間:約19分
山上のホテル——食堂のベランダ、夏のをはり——午後九時頃。 テーブルに、青年とその母が向ひ合つてゐる。 青年もうおやすみになつたら如何です。だいぶん冷えて来ました。 母こんなに晴れ …
あるニュウ・フェイスへの手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間38分
昭和二十五年秋、いわゆる「演劇の立体化運動」のために文壇、劇壇の有志数十名により「雲の会」が作られ、その活動の一つとして翌年五月、月刊雑誌「演劇」が創刊された。本稿は、その創刊号か …
読書目安時間:約1時間38分
昭和二十五年秋、いわゆる「演劇の立体化運動」のために文壇、劇壇の有志数十名により「雲の会」が作られ、その活動の一つとして翌年五月、月刊雑誌「演劇」が創刊された。本稿は、その創刊号か …
或る日の動物園(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
鷲がその威風に似ず、低脳らしい金属性の声をたてた。 支那の聖人に似てゐる駱駝が、唇をふるはせながら子供にせんべいを貰つてゐる。彼女は、それを見て、やつぱり日向ぼつこをしてゐるときが …
読書目安時間:約1分
鷲がその威風に似ず、低脳らしい金属性の声をたてた。 支那の聖人に似てゐる駱駝が、唇をふるはせながら子供にせんべいを貰つてゐる。彼女は、それを見て、やつぱり日向ぼつこをしてゐるときが …
或る批評(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「わたしは、ヴイルドラツクが、海水服を着てゐるところを見たことがない」と、サヴイツキイ夫人は云ふ——「わたしは、また、『休んでゐる彼』を見たことがない。……彼は真面目である——しか …
読書目安時間:約2分
「わたしは、ヴイルドラツクが、海水服を着てゐるところを見たことがない」と、サヴイツキイ夫人は云ふ——「わたしは、また、『休んでゐる彼』を見たことがない。……彼は真面目である——しか …
或る風潮について(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
日本人が日本人に向つて日本のことを褒めて話すといふ風潮が近頃目立つやうであるが、これは現在の日本に於いてはたしかにその必要があるからだと思ふけれども、そこにちよつと微妙な呼吸があつ …
読書目安時間:約8分
日本人が日本人に向つて日本のことを褒めて話すといふ風潮が近頃目立つやうであるが、これは現在の日本に於いてはたしかにその必要があるからだと思ふけれども、そこにちよつと微妙な呼吸があつ …
ある夫婦の歴史(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間10分
愛するものよ、おんみもしわれを裏切りてわれこれをゆるさんとおもへど、その力なきとき、おんみその力をわれに与へうるや ——ある時代の悲喜劇から 内海達郎は、近頃あまり経験したことのな …
読書目安時間:約1時間10分
愛するものよ、おんみもしわれを裏切りてわれこれをゆるさんとおもへど、その力なきとき、おんみその力をわれに与へうるや ——ある時代の悲喜劇から 内海達郎は、近頃あまり経験したことのな …
ある村の素人劇団(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
僕はこの夏、ある山間の温泉宿で、たまたまその村の青年諸君によつて組織されてゐる一新劇団の試演を見物する機会を得た。 尤も、この劇団は、芝居の外に、木曾踊りとか伊那踊りとかいふ郷土芸 …
読書目安時間:約5分
僕はこの夏、ある山間の温泉宿で、たまたまその村の青年諸君によつて組織されてゐる一新劇団の試演を見物する機会を得た。 尤も、この劇団は、芝居の外に、木曾踊りとか伊那踊りとかいふ郷土芸 …
アンリエツトの転地療養日記(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
二月三日(水曜)曇 いよいよ巴里を離れることになつた。 朝八時、タクシイで、ケエ・ドルセエの停車場に行く。寒い。 病気で転地療養をするのに、大袈裟な用意なんかする必要はないといふパ …
読書目安時間:約2分
二月三日(水曜)曇 いよいよ巴里を離れることになつた。 朝八時、タクシイで、ケエ・ドルセエの停車場に行く。寒い。 病気で転地療養をするのに、大袈裟な用意なんかする必要はないといふパ …
アンリ・ルネ・ルノルマンについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
仏蘭西の現代劇を通じて、「昨日の演劇」の余影と、「明日の演劇」の曙光とを、はつきり見分けることができるとすれば、前者は、観察と解剖の上に立つ写実的心理劇、並に、論議と思索とを基調と …
読書目安時間:約7分
仏蘭西の現代劇を通じて、「昨日の演劇」の余影と、「明日の演劇」の曙光とを、はつきり見分けることができるとすれば、前者は、観察と解剖の上に立つ写実的心理劇、並に、論議と思索とを基調と …
飯田の町に寄す(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
飯田美しき町 山ちかく水にのぞみ 空あかるく風にほやかなる町 飯田静かなる町 人みな言葉やわらかに 物音ちまたにたゝず 粛然として古城の如く丘にたつ町 飯田ゆたかなる町 財に貧富あ …
読書目安時間:約1分
飯田美しき町 山ちかく水にのぞみ 空あかるく風にほやかなる町 飯田静かなる町 人みな言葉やわらかに 物音ちまたにたゝず 粛然として古城の如く丘にたつ町 飯田ゆたかなる町 財に貧富あ …
伊賀山精三君に(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
十二月号の本誌(「劇作」)に掲載された君の力作『唯ひとりの人』を、たつた今読み了りました。 佳作だと思ひます。これまでの君は、ここで見違へるほど成長してゐました。「大きくなつたね」 …
読書目安時間:約2分
十二月号の本誌(「劇作」)に掲載された君の力作『唯ひとりの人』を、たつた今読み了りました。 佳作だと思ひます。これまでの君は、ここで見違へるほど成長してゐました。「大きくなつたね」 …
伊賀山精三君の『騒音』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
伊賀山君の『騒音』を、最初読んで聞かされた時、僕は、いきなり、たうとう伊賀山君も、作家らしい作家になつたといふ気がし、この戯曲のもつ「真実性」が、単なる見せかけのものでないことを信 …
読書目安時間:約2分
伊賀山君の『騒音』を、最初読んで聞かされた時、僕は、いきなり、たうとう伊賀山君も、作家らしい作家になつたといふ気がし、この戯曲のもつ「真実性」が、単なる見せかけのものでないことを信 …
遺憾の弁:――芥川賞(第二十四回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今期は該当作品なし、といふ決定をみた経過については、私から特に説明する必要はないと思ふ。私もそれに異議はなかつた。 候補作品九篇は、それぞれに候補作品たる理由と資格とをもつてゐたの …
読書目安時間:約2分
今期は該当作品なし、といふ決定をみた経過については、私から特に説明する必要はないと思ふ。私もそれに異議はなかつた。 候補作品九篇は、それぞれに候補作品たる理由と資格とをもつてゐたの …
医術の進歩(新字旧仮名)
読書目安時間:約38分
榊卯一郎新案炊事手袋製造業 同とま子その妻 今田末子親戚の女 津幡直医師 乙竹外雄外交員 きぬ女中 三木小僧 松原延蔵医師 榊卯一郎の住宅兼工場。——相当時代のついた二階建日本家。 …
読書目安時間:約38分
榊卯一郎新案炊事手袋製造業 同とま子その妻 今田末子親戚の女 津幡直医師 乙竹外雄外交員 きぬ女中 三木小僧 松原延蔵医師 榊卯一郎の住宅兼工場。——相当時代のついた二階建日本家。 …
衣食住雑感(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
どんな着物を着たいなどゝ思つたことは勿論ないが、こんなものを何時まで着てゐるのかなあと思つたことは度々ある。 外に出る時は洋服、家の中では和服に限るとは誰も云ふことだが、雨上りのぬ …
読書目安時間:約4分
どんな着物を着たいなどゝ思つたことは勿論ないが、こんなものを何時まで着てゐるのかなあと思つたことは度々ある。 外に出る時は洋服、家の中では和服に限るとは誰も云ふことだが、雨上りのぬ …
泉(新字旧仮名)
読書目安時間:約6時間17分
北支の戦線から一年半ぶりで故郷の村へ帰つて来た黒岩万五は、砲兵上等兵の軍服を思ひきりよく脱いで、素ツ裸に浅黄の腹掛けといふ昔どほりの恰好になつた。今日だけは麦藁帽が見つからず、しか …
読書目安時間:約6時間17分
北支の戦線から一年半ぶりで故郷の村へ帰つて来た黒岩万五は、砲兵上等兵の軍服を思ひきりよく脱いで、素ツ裸に浅黄の腹掛けといふ昔どほりの恰好になつた。今日だけは麦藁帽が見つからず、しか …
異性間の友情と恋愛(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
一体、友情といふものは、それ自身甚だ曖昧なもので、同性間の友情でさへ、様々な動機によつて、様々な形態を取るものである。 例へば密接に利害関係によつて結ばれた友情、精神的に何物かを与 …
読書目安時間:約7分
一体、友情といふものは、それ自身甚だ曖昧なもので、同性間の友情でさへ、様々な動機によつて、様々な形態を取るものである。 例へば密接に利害関係によつて結ばれた友情、精神的に何物かを与 …
偉大なる近代劇場人(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
小山内薫氏の業蹟について、最も理解あり、同時に、最も詳細な批評を下し得る人は、他に多くあるだらうと思ひます。それは、凡そ今日、演劇殊に新劇方面で仕事をしつゝある人々の大部は、何等か …
読書目安時間:約3分
小山内薫氏の業蹟について、最も理解あり、同時に、最も詳細な批評を下し得る人は、他に多くあるだらうと思ひます。それは、凡そ今日、演劇殊に新劇方面で仕事をしつゝある人々の大部は、何等か …
一国民としての希望(新字旧仮名)
読書目安時間:約31分
国民の一人一人が今日ほど政治といふものに関心をもつてゐる時代は未だ嘗てないだらうと思ふ。それはもう、被治者としての消極的な関心ではない。国民のすべては、自分たちのなかゝらこの祖国を …
読書目安時間:約31分
国民の一人一人が今日ほど政治といふものに関心をもつてゐる時代は未だ嘗てないだらうと思ふ。それはもう、被治者としての消極的な関心ではない。国民のすべては、自分たちのなかゝらこの祖国を …
一対の美果(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
近頃読んだいろいろな文章のなかで、私が特にこゝでその読後感を述べたいと思ふのは、それが今の私にとつて可なり重要な問題を含んでをり、それのいづれからも非常に珍しい感動をうけ、しかも、 …
読書目安時間:約13分
近頃読んだいろいろな文章のなかで、私が特にこゝでその読後感を述べたいと思ふのは、それが今の私にとつて可なり重要な問題を含んでをり、それのいづれからも非常に珍しい感動をうけ、しかも、 …
移転記録(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
父の代に大久保百人町に越して来てから、私が、最近、西荻窪に自分の家を建てるまで、凡そ二十七八年間、私自身は殆ど年に一回平均居所を変へてゐる。 九州の連隊にはひつたり、本郷で下宿をし …
読書目安時間:約3分
父の代に大久保百人町に越して来てから、私が、最近、西荻窪に自分の家を建てるまで、凡そ二十七八年間、私自身は殆ど年に一回平均居所を変へてゐる。 九州の連隊にはひつたり、本郷で下宿をし …
犬は鎖に繋ぐべからず(新字旧仮名)
読書目安時間:約44分
人物 今里念吉 同二見 同甲吉 黒林家の女中ため 酒屋の御用聞 大串葉絵 片倉州蔵の妻まつの 女の子 百瀬鬼骨 郵便配達 男の子 歩兵大尉島貫 片倉州蔵 平大野球部選手越水 同クマ …
読書目安時間:約44分
人物 今里念吉 同二見 同甲吉 黒林家の女中ため 酒屋の御用聞 大串葉絵 片倉州蔵の妻まつの 女の子 百瀬鬼骨 郵便配達 男の子 歩兵大尉島貫 片倉州蔵 平大野球部選手越水 同クマ …
命を弄ぶ男ふたり(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約24分
人物 眼鏡をかけた男 繃帯をした男 鉄道線路の土手——その下が、材木の置場らしい僅かの空地、黒く湿つた土の、ところどころに、踏み躙られた雑草。 遠くに、シグナルの赤い灯。 どこかに …
読書目安時間:約24分
人物 眼鏡をかけた男 繃帯をした男 鉄道線路の土手——その下が、材木の置場らしい僅かの空地、黒く湿つた土の、ところどころに、踏み躙られた雑草。 遠くに、シグナルの赤い灯。 どこかに …
岩田豊雄と私(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
一九二三年(大正十二年)九月一日、例の関東震災で東京の劇場はことごとく灰になつた。が、翌年の三月には早くも新劇の胎動が始まつた。最も代表的なものはいうまでもなく築地小劇場の旗挙げで …
読書目安時間:約3分
一九二三年(大正十二年)九月一日、例の関東震災で東京の劇場はことごとく灰になつた。が、翌年の三月には早くも新劇の胎動が始まつた。最も代表的なものはいうまでもなく築地小劇場の旗挙げで …
岩田夫人の死を悼む(新字新仮名)
読書目安時間:約5分
本誌の読者は「夫婦百景」の筆者獅子文六が、同時に岩田豊雄であることぐらいはご承知であろう。その夫人静子さんが、急な病いで亡くなられた。四十四歳といえば、まだ人生を終るには早く、夫君 …
読書目安時間:約5分
本誌の読者は「夫婦百景」の筆者獅子文六が、同時に岩田豊雄であることぐらいはご承知であろう。その夫人静子さんが、急な病いで亡くなられた。四十四歳といえば、まだ人生を終るには早く、夫君 …
言はでものこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
芝居と云ふものを強ひて「大勢」に見せるものと考へる必要はない。 「自分たちの芝居」と云ふものがあつていゝ。「ほかのものには面白くない芝居」があつても仕方がない。 先づ「これは芝居だ …
読書目安時間:約3分
芝居と云ふものを強ひて「大勢」に見せるものと考へる必要はない。 「自分たちの芝居」と云ふものがあつていゝ。「ほかのものには面白くない芝居」があつても仕方がない。 先づ「これは芝居だ …
いわゆる「反省」は我々を救うか(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
十四五歳の頃、私は陸軍幼年学校の生徒であつたが、そういう学校へなぜはいつたか、その理由はここでは述べないことにして、とにかく、将来軍人として身を立てる覚悟で、おおむねドイツ式を採り …
読書目安時間:約15分
十四五歳の頃、私は陸軍幼年学校の生徒であつたが、そういう学校へなぜはいつたか、その理由はここでは述べないことにして、とにかく、将来軍人として身を立てる覚悟で、おおむねドイツ式を採り …
牛山ホテル(五場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間3分
牛山よねホテルの女将 同とみよねの養女 藤木さと真壁の妾 石倉やす仏蘭西人の妾 真壁S商会出張所旧主任 三谷S商会出張所新主任 三谷夫人 鵜瀞S商会社員 島内同 金田金田洋行主 岡 …
読書目安時間:約1時間3分
牛山よねホテルの女将 同とみよねの養女 藤木さと真壁の妾 石倉やす仏蘭西人の妾 真壁S商会出張所旧主任 三谷S商会出張所新主任 三谷夫人 鵜瀞S商会社員 島内同 金田金田洋行主 岡 …
内村直也君の『秋水嶺』(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
内村君の処女作『秋水嶺』は、非常に素直な力作である。戯曲といふものに十分興味をもち、しかも卑俗な方向をねらはずに、舞台の芸術的効果を計算して作り上げられてゐることがわかる。 所謂「 …
読書目安時間:約3分
内村君の処女作『秋水嶺』は、非常に素直な力作である。戯曲といふものに十分興味をもち、しかも卑俗な方向をねらはずに、舞台の芸術的効果を計算して作り上げられてゐることがわかる。 所謂「 …
内村直也の戯曲(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
内村直也の劇作家としての出発は「秋水嶺」だと言つていい。旧朝鮮の日本人コロニイを背景とした「秋水嶺」は、現代日本の「青春」の一風景が素直な眼で捉へられ、健やかな感覚で舞台にくりひろ …
読書目安時間:約2分
内村直也の劇作家としての出発は「秋水嶺」だと言つていい。旧朝鮮の日本人コロニイを背景とした「秋水嶺」は、現代日本の「青春」の一風景が素直な眼で捉へられ、健やかな感覚で舞台にくりひろ …
『美しい話』まへがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
「美しい」ものを「美しい」と感じる心は誰にでもあるはずだが、「ほんたうに美しい」ものと「みかけだけ美しい」ものとの区別がつかなくなつてゐる人はずいぶん多い。それからまた、「美しい」 …
読書目安時間:約5分
「美しい」ものを「美しい」と感じる心は誰にでもあるはずだが、「ほんたうに美しい」ものと「みかけだけ美しい」ものとの区別がつかなくなつてゐる人はずいぶん多い。それからまた、「美しい」 …
美しき日本語と対話:戯曲「二十六番館」と「おふくろ」(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
友田夫妻を中心とする築地座の仕事は、最近目ざましい躍進ぶりを見せてゐる。恐らく現在の新劇団を通じて、最も着実に、最も純粋に、演劇精神を守り育みつゝあるこの一座は、次第に索寞たる研究 …
読書目安時間:約3分
友田夫妻を中心とする築地座の仕事は、最近目ざましい躍進ぶりを見せてゐる。恐らく現在の新劇団を通じて、最も着実に、最も純粋に、演劇精神を守り育みつゝあるこの一座は、次第に索寞たる研究 …
『馬』と『二十六番館』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
阪中正夫君の『馬』が改造に当選したといふ話を聞いて、私は「不思議」なやうな、「当り前」のやうな気がした。 阪中君は、凡そ懸賞当選に不向な、いはば山ツ気のない作家であり、同時に、当選 …
読書目安時間:約2分
阪中正夫君の『馬』が改造に当選したといふ話を聞いて、私は「不思議」なやうな、「当り前」のやうな気がした。 阪中君は、凡そ懸賞当選に不向な、いはば山ツ気のない作家であり、同時に、当選 …
海の誘惑(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
人影のない夕暮の砂浜を、たゞ一人、歩いてゐることが好きでした。 それは私の感傷癖と別に関係はないやうです。水と空とを包む神秘な光に心を躍らせる外、一向追憶めいた追憶にふけるわけでも …
読書目安時間:約7分
人影のない夕暮の砂浜を、たゞ一人、歩いてゐることが好きでした。 それは私の感傷癖と別に関係はないやうです。水と空とを包む神秘な光に心を躍らせる外、一向追憶めいた追憶にふけるわけでも …
運を主義にまかす男(新字旧仮名)
読書目安時間:約28分
底野(又はカマボコ) 飛田(又はトンビ) こよ以前の下宿の娘 口髭を生やした行商人 癈兵と称する押売 鶯を飼ふ老人 宇部家の小間使底野、飛田の両人が共同で借りてゐる郊外の小住宅。座 …
読書目安時間:約28分
底野(又はカマボコ) 飛田(又はトンビ) こよ以前の下宿の娘 口髭を生やした行商人 癈兵と称する押売 鶯を飼ふ老人 宇部家の小間使底野、飛田の両人が共同で借りてゐる郊外の小住宅。座 …
映画アカデミイについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
この問題を私が最初に提唱したのは一九三六年の秋である。その時は主として、国家が映画や演劇の政治的文化的意義に着眼して、先づ民間では至難とされてゐる現代俳優の本格的養成に乗出してほし …
読書目安時間:約3分
この問題を私が最初に提唱したのは一九三六年の秋である。その時は主として、国家が映画や演劇の政治的文化的意義に着眼して、先づ民間では至難とされてゐる現代俳優の本格的養成に乗出してほし …
映画素人談義(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
最近偶然の機会から、ある映画運動に関係しかけたのだが、今の処、自分一個として、別にその方面にこれといふ抱負があるわけではない。 改造社の求めで、発表を躊躇してゐたシナリオ風のものを …
読書目安時間:約2分
最近偶然の機会から、ある映画運動に関係しかけたのだが、今の処、自分一個として、別にその方面にこれといふ抱負があるわけではない。 改造社の求めで、発表を躊躇してゐたシナリオ風のものを …
映画の演劇性(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
演劇をどう定義づけるかにもよるが、私の考へる演劇の本質といふものからみれば、現在の発声映画は、その魅力の一半を演劇的なるものに負つてゐるやうに思ふ。 勿論、本質と本質とを対立させれ …
読書目安時間:約3分
演劇をどう定義づけるかにもよるが、私の考へる演劇の本質といふものからみれば、現在の発声映画は、その魅力の一半を演劇的なるものに負つてゐるやうに思ふ。 勿論、本質と本質とを対立させれ …
映画の観客と俳優(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
映画はその歴史が若いやうに、映画の観客といふものは、概して非常に若い。一体に、芸術的なもの、精神的な娯楽を求める年代は、まだ生活のためには時間を多く取られない青年期であるに相違なく …
読書目安時間:約5分
映画はその歴史が若いやうに、映画の観客といふものは、概して非常に若い。一体に、芸術的なもの、精神的な娯楽を求める年代は、まだ生活のためには時間を多く取られない青年期であるに相違なく …
映画のダイアローグについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
ある映画のダイアローグが、面白いか、面白くないかといふことを特に取りたてて論じてみたところで、それはあまり意味のないことである。なぜなら、面白いダイアローグは、面白いテーマや面白い …
読書目安時間:約6分
ある映画のダイアローグが、面白いか、面白くないかといふことを特に取りたてて論じてみたところで、それはあまり意味のないことである。なぜなら、面白いダイアローグは、面白いテーマや面白い …
『えり子とともに』の序に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
内村直也の名は、いまや天下の知るところで、私の序文はこの書物になにものも附け足すことにはならぬが、需められるまゝに、「えり子とともに」の作者について、私の観るところを少し語ることに …
読書目安時間:約2分
内村直也の名は、いまや天下の知るところで、私の序文はこの書物になにものも附け足すことにはならぬが、需められるまゝに、「えり子とともに」の作者について、私の観るところを少し語ることに …
演芸欄 其他(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
どうも困つた役目を引受けたものです。今週は新聞を二種類余計取つて、演芸欄、文芸欄に目を通し続け、何か変つた問題はないか、何か週評の種はないかと、丸ではたの見る目も気の毒なくらゐ心を …
読書目安時間:約2分
どうも困つた役目を引受けたものです。今週は新聞を二種類余計取つて、演芸欄、文芸欄に目を通し続け、何か変つた問題はないか、何か週評の種はないかと、丸ではたの見る目も気の毒なくらゐ心を …
演劇アカデミイの問題:国立俳優学校の提唱(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
演劇と映画とはどんな関係にあるか?これを理論的にでなく、実際的に、私は考へてみる。西洋では、演劇が先に生れ育ち、映画は、そこから養分と材料を仕入れたのである。日本では、在来の演劇が …
読書目安時間:約4分
演劇と映画とはどんな関係にあるか?これを理論的にでなく、実際的に、私は考へてみる。西洋では、演劇が先に生れ育ち、映画は、そこから養分と材料を仕入れたのである。日本では、在来の演劇が …
『演劇』あとがき(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
本書を編むにあたって、私は、「まえがき」に述べたような精神と内容を盛るために、特にその題目と執筆者の人選に意をくばった。 一、どんな芝居がよい芝居か この問いに答える最も適当な人と …
読書目安時間:約2分
本書を編むにあたって、私は、「まえがき」に述べたような精神と内容を盛るために、特にその題目と執筆者の人選に意をくばった。 一、どんな芝居がよい芝居か この問いに答える最も適当な人と …
演劇一般講話(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間36分
演劇の芸術的純化 演劇は最も低級な芸術であるといふ言葉には、一面の真理があります。この言葉は——といふよりも此の事実は、近代の教養ある人士を劇場から遠ざけた。「芝居には行きますか— …
読書目安時間:約1時間36分
演劇の芸術的純化 演劇は最も低級な芸術であるといふ言葉には、一面の真理があります。この言葉は——といふよりも此の事実は、近代の教養ある人士を劇場から遠ざけた。「芝居には行きますか— …
「演劇」巻頭言(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
今日演劇について語らうと思へば、勢ひ日本文化の現在のすがたについて考へてみないわけにいかない。 かつてわが国の演劇の革新運動が、或は単なる「芸術運動」であつたり、或は矯激な「政治運 …
読書目安時間:約3分
今日演劇について語らうと思へば、勢ひ日本文化の現在のすがたについて考へてみないわけにいかない。 かつてわが国の演劇の革新運動が、或は単なる「芸術運動」であつたり、或は矯激な「政治運 …
演劇雑誌(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
月々僕のところへ来る演劇雑誌が十種あまりある。そのうち純粋に「新劇的」と云へるものは二三に過ぎない。 「テアトロ」はソヴイエート的活気とエスペラント風の超国境性に満ちた研究雑誌であ …
読書目安時間:約1分
月々僕のところへ来る演劇雑誌が十種あまりある。そのうち純粋に「新劇的」と云へるものは二三に過ぎない。 「テアトロ」はソヴイエート的活気とエスペラント風の超国境性に満ちた研究雑誌であ …
「演劇週評」その序言(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
毎週一回、やかましく云へば演劇に関する時評、くだけて云へば芝居四方山話といふやうなものを書くことになつたのですが、日本の劇壇に親しむやうになつてから頗る日が浅く、市村座が二長町とか …
読書目安時間:約3分
毎週一回、やかましく云へば演劇に関する時評、くだけて云へば芝居四方山話といふやうなものを書くことになつたのですが、日本の劇壇に親しむやうになつてから頗る日が浅く、市村座が二長町とか …
演劇新潮と築地小劇場(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
僕は、此の一年間、色々な事情で、あまり芝居を観にも行かず、月々発表される脚本も割合に読んでゐないから、劇壇全般に亘る感想といふやうなものは勿論書けない。 殊に旧劇や新派劇に対しては …
読書目安時間:約1分
僕は、此の一年間、色々な事情で、あまり芝居を観にも行かず、月々発表される脚本も割合に読んでゐないから、劇壇全般に亘る感想といふやうなものは勿論書けない。 殊に旧劇や新派劇に対しては …
「演劇」創刊に当たつて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
現代の演劇が純粋に健全に伸び育つためには、まづ、文学芸術の広い領域とのもつと緊密な接触を計り、それぞれの分野の活溌な協力を求めることが必要があるといふ見地に立つて、われわれは、一応 …
読書目安時間:約1分
現代の演劇が純粋に健全に伸び育つためには、まづ、文学芸術の広い領域とのもつと緊密な接触を計り、それぞれの分野の活溌な協力を求めることが必要があるといふ見地に立つて、われわれは、一応 …
演劇的青春への釈明(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
本誌(「劇作」)四月号、山辺道夫氏の「演劇的青春」といふ評論を読んでみると、僕の名前が引合ひに出されてゐる。少し迷惑に思ふ点があるから、ここで僕の意見をはつきりさせておきたいと思ふ …
読書目安時間:約2分
本誌(「劇作」)四月号、山辺道夫氏の「演劇的青春」といふ評論を読んでみると、僕の名前が引合ひに出されてゐる。少し迷惑に思ふ点があるから、ここで僕の意見をはつきりさせておきたいと思ふ …
演劇統制の重点(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
国家の権威と責任で当れ 世界を通じて、演劇は今や膠着状態にあるやうである。歴史的にみてさういふ時代が過去にもむろんあつたが、この状態は当分続きさうな気がする。 なぜこんな風になつた …
読書目安時間:約10分
国家の権威と責任で当れ 世界を通じて、演劇は今や膠着状態にあるやうである。歴史的にみてさういふ時代が過去にもむろんあつたが、この状態は当分続きさうな気がする。 なぜこんな風になつた …
演劇当面の問題(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
戯曲不振の理由 「戯曲家は生れながら戯曲家である」といふやうなことも云はれるが、しかしまた、戯曲家が戯曲家たる動機は、小説家が小説家たり、詩人が詩人たる動機と決して異つたものである …
読書目安時間:約16分
戯曲不振の理由 「戯曲家は生れながら戯曲家である」といふやうなことも云はれるが、しかしまた、戯曲家が戯曲家たる動機は、小説家が小説家たり、詩人が詩人たる動機と決して異つたものである …
演劇と政治(新字旧仮名)
読書目安時間:約35分
「演劇と政治」といふ題目を与へられたが、私は「演劇」について語り得るほど「政治」について語ることはできない。自然、この一文は、演劇と政治との関係を、「政治」の側からでなく、「演劇」 …
読書目安時間:約35分
「演劇と政治」といふ題目を与へられたが、私は「演劇」について語り得るほど「政治」について語ることはできない。自然、この一文は、演劇と政治との関係を、「政治」の側からでなく、「演劇」 …
戯曲の生命と演劇美(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
日本の新劇が、従来西洋の芝居をお手本として「新しい演劇美」を取り入れようとした事実は、今日誰でも知つてゐることであるが、西洋の芝居のどこが面白いかといふことになると、それは誰もはつ …
読書目安時間:約7分
日本の新劇が、従来西洋の芝居をお手本として「新しい演劇美」を取り入れようとした事実は、今日誰でも知つてゐることであるが、西洋の芝居のどこが面白いかといふことになると、それは誰もはつ …
演劇の大衆性(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
文学に於ける大衆性といふ問題が云々される今日、私は私で、一つの意見をもつてゐないでもないが、直接その問題に対する興味からでなく、いはば現代に於けるわが演劇壇の危機に直面して、その道 …
読書目安時間:約8分
文学に於ける大衆性といふ問題が云々される今日、私は私で、一つの意見をもつてゐないでもないが、直接その問題に対する興味からでなく、いはば現代に於けるわが演劇壇の危機に直面して、その道 …
演劇の様式――総論(新字新仮名)
読書目安時間:約23分
「演劇」の範囲をどこまでひろげるかという問題は、けつきよく、「演劇」の定義次第であるが、また逆に、「演劇」に一つの定義を与えるとすれば、やはり、「演劇」の範囲をまず決めてかからなけ …
読書目安時間:約23分
「演劇」の範囲をどこまでひろげるかという問題は、けつきよく、「演劇」の定義次第であるが、また逆に、「演劇」に一つの定義を与えるとすれば、やはり、「演劇」の範囲をまず決めてかからなけ …
「演劇美の本質」はしがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
演劇に関する評論、感想の類をあつめて書物にするのはこれで三度目である。最初は、「我等の劇場」といふ題で、次ぎは、「現代演劇論」といふ題で出した。今度は、「演劇美の本質」とすることに …
読書目安時間:約2分
演劇に関する評論、感想の類をあつめて書物にするのはこれで三度目である。最初は、「我等の劇場」といふ題で、次ぎは、「現代演劇論」といふ題で出した。今度は、「演劇美の本質」とすることに …
演劇への入口(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
演劇について語るということは、演劇のある部分について語るということではない。 演劇がいろいろの要素から成っていることはたれにでもわかるが、それらの要素がどんな関係において組み合わさ …
読書目安時間:約8分
演劇について語るということは、演劇のある部分について語るということではない。 演劇がいろいろの要素から成っていることはたれにでもわかるが、それらの要素がどんな関係において組み合わさ …
演劇・法律・文化(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
芸術家擁護の現行法 「芸術」と「法律」とはそんなに縁の遠いものではないといふことを、私は近頃いろいろな機会に感じるのであるが、この両者の接近が、どうかすると、一国の精神文化の水準を …
読書目安時間:約13分
芸術家擁護の現行法 「芸術」と「法律」とはそんなに縁の遠いものではないといふことを、私は近頃いろいろな機会に感じるのであるが、この両者の接近が、どうかすると、一国の精神文化の水準を …
演劇本質論の整理(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
一、弁明 本誌(新潮)八月号に発表された岩田豊雄氏の文章「演劇本質論の検討」を読んで、僕はいろいろのことを感じた。僕自身に関することが、寧ろ厚意的に書かれてゐるものを、穏健妥当など …
読書目安時間:約18分
一、弁明 本誌(新潮)八月号に発表された岩田豊雄氏の文章「演劇本質論の検討」を読んで、僕はいろいろのことを感じた。僕自身に関することが、寧ろ厚意的に書かれてゐるものを、穏健妥当など …
演劇漫話(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
一、新劇と旧劇 現今、芝居好きと称する人のうちで、旧劇はつまらないと云つて見に行かない人もあるでせう。しかし、それは極少数の「新しがり」に限られてゐると云つてよろしい。之に反して、 …
読書目安時間:約16分
一、新劇と旧劇 現今、芝居好きと称する人のうちで、旧劇はつまらないと云つて見に行かない人もあるでせう。しかし、それは極少数の「新しがり」に限られてゐると云つてよろしい。之に反して、 …
演劇より文学を排除すべきか(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
かういふ標題で、最近のヌウヴェル・リテレエルは、リュシアン・デカアヴの興味ある調査を掲げてゐる。別に結論らしい結論もないから、面白い「事実」だけを拾つてみる。 モオリス・バレスは一 …
読書目安時間:約5分
かういふ標題で、最近のヌウヴェル・リテレエルは、リュシアン・デカアヴの興味ある調査を掲げてゐる。別に結論らしい結論もないから、面白い「事実」だけを拾つてみる。 モオリス・バレスは一 …
演劇論の一方向(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
凡そ、如何なる芸術と雖も、若干の「法則」に従はないものはない。と同時に、それらの「法則」を無条件に受け容れることは、甚だ「保守的な」態度と考へられてゐる。新しい芸術運動は、常にそれ …
読書目安時間:約19分
凡そ、如何なる芸術と雖も、若干の「法則」に従はないものはない。と同時に、それらの「法則」を無条件に受け容れることは、甚だ「保守的な」態度と考へられてゐる。新しい芸術運動は、常にそれ …
演出者として(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
芸能祭の為の臨時公演として、特に内村直也君の書卸ろした戯曲「歯車」を幹事会の指名によつて私が演出することになつたのだが、私は先づ、この戯曲の主題と形式について研究した。表題の歯車は …
読書目安時間:約2分
芸能祭の為の臨時公演として、特に内村直也君の書卸ろした戯曲「歯車」を幹事会の指名によつて私が演出することになつたのだが、私は先づ、この戯曲の主題と形式について研究した。表題の歯車は …
演出者として(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
近代劇の古典といわれるゴーリキイの「どん底」を文学座がそのレパートリーのなかに入れたことは、そんなに驚くには当らない。 しかし、私が演出を引受けるについては、自分でもその柄でないよ …
読書目安時間:約3分
近代劇の古典といわれるゴーリキイの「どん底」を文学座がそのレパートリーのなかに入れたことは、そんなに驚くには当らない。 しかし、私が演出を引受けるについては、自分でもその柄でないよ …
演出について(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
以前は単に「舞台監督」と呼ばれてゐた者が、今日では「演出者」といふ名称を与へられ、その下に、更に「舞台監督」なるものや、「演出助手」なるものが従属するやうなシステムを、少くとも新劇 …
読書目安時間:約9分
以前は単に「舞台監督」と呼ばれてゐた者が、今日では「演出者」といふ名称を与へられ、その下に、更に「舞台監督」なるものや、「演出助手」なるものが従属するやうなシステムを、少くとも新劇 …
『桜樹』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
日本人のすべてが、いま無意識にもとめてゐるものがある。いろいろな方面にそれがある。例へば小説にしても、今までのどんなものよりも身近な、それでゐて、おほらかなものを、それとははつきり …
読書目安時間:約2分
日本人のすべてが、いま無意識にもとめてゐるものがある。いろいろな方面にそれがある。例へば小説にしても、今までのどんなものよりも身近な、それでゐて、おほらかなものを、それとははつきり …
岡田君のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
巴里で岡田君と別れてから、もう十二三年になる。彼はその後、南フランスのゴオドといふ海岸へ移り住み、まつたく土地の人になつてしまつてゐるらしい。 巴里時代には、お互に貧乏であつたが、 …
読書目安時間:約2分
巴里で岡田君と別れてから、もう十二三年になる。彼はその後、南フランスのゴオドといふ海岸へ移り住み、まつたく土地の人になつてしまつてゐるらしい。 巴里時代には、お互に貧乏であつたが、 …
岡田糓君の個展(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私が巴里で岡田君を識つたのは、欧洲大戦の終つた一九一九年の初めでありました。同君は既に私より早く巴里に来てゐて、いろいろ巴里の生活に関する知識を与へてくれ、その上、窮乏のどん底にあ …
読書目安時間:約3分
私が巴里で岡田君を識つたのは、欧洲大戦の終つた一九一九年の初めでありました。同君は既に私より早く巴里に来てゐて、いろいろ巴里の生活に関する知識を与へてくれ、その上、窮乏のどん底にあ …
屋上庭園(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
人物 並木 その妻 三輪 その妻 所或るデパアトメントストアの屋上庭園 時九月半ばの午後 二組の夫婦が一団になつて、雑談を交してゐる。一方は裕福な紳士令夫人タイプ、一方は貧弱なサラ …
読書目安時間:約18分
人物 並木 その妻 三輪 その妻 所或るデパアトメントストアの屋上庭園 時九月半ばの午後 二組の夫婦が一団になつて、雑談を交してゐる。一方は裕福な紳士令夫人タイプ、一方は貧弱なサラ …
小山内君の戯曲論:――実は芸術論――(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
「……私は、此の牢屋のやうな暗い処で蠢いてゐる人間のために一つの窓を明けて、人間の貴さを見せてやる、それが芸術家の仕事ではないかと思つてゐる。真暗な牢屋の壁に一つの穴をあけて、明る …
読書目安時間:約6分
「……私は、此の牢屋のやうな暗い処で蠢いてゐる人間のために一つの窓を明けて、人間の貴さを見せてやる、それが芸術家の仕事ではないかと思つてゐる。真暗な牢屋の壁に一つの穴をあけて、明る …
遅くはない(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
畑中蓼坡君、遂に「黒幕万歳」を唱ふ。 此の「黒幕」が「裸の舞台」を意味するとすれば、こゝに始めて、築地小劇場に対立する新劇協会存在の意義が生れた。 一つは演劇より戯曲を排除せんとす …
読書目安時間:約1分
畑中蓼坡君、遂に「黒幕万歳」を唱ふ。 此の「黒幕」が「裸の舞台」を意味するとすれば、こゝに始めて、築地小劇場に対立する新劇協会存在の意義が生れた。 一つは演劇より戯曲を排除せんとす …
落葉日記(新字旧仮名)
読書目安時間:約3時間41分
郷田梨枝子は、叔母と並んで東京駅のプラット・フォームに立つてゐる。そして、今着いたその汽車から降りて来る筈の父親の顔をちつとも覚えてゐないのである。 「すぐ教へてね、叔母さま……。 …
読書目安時間:約3時間41分
郷田梨枝子は、叔母と並んで東京駅のプラット・フォームに立つてゐる。そして、今着いたその汽車から降りて来る筈の父親の顔をちつとも覚えてゐないのである。 「すぐ教へてね、叔母さま……。 …
落葉日記(三場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約46分
東京の近郊—— 雑木林を背にしたヴイラのテラス 老婦人 収 アンリエツト 弘 秋の午後—— 長椅子が二つ、その一方に老婦人、もう一方に青年が倚りかかつてゐる。それが毎日の習慣になつ …
読書目安時間:約46分
東京の近郊—— 雑木林を背にしたヴイラのテラス 老婦人 収 アンリエツト 弘 秋の午後—— 長椅子が二つ、その一方に老婦人、もう一方に青年が倚りかかつてゐる。それが毎日の習慣になつ …
お中元(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
中元歳暮の贈答を廃止するとかしないとかいふことが問題になつてゐる。 これについて某名流婦人は、この習慣の弊害を認めながら、なほかつ、これを廃止することが実際上困難なことを嘆じ、かつ …
読書目安時間:約2分
中元歳暮の贈答を廃止するとかしないとかいふことが問題になつてゐる。 これについて某名流婦人は、この習慣の弊害を認めながら、なほかつ、これを廃止することが実際上困難なことを嘆じ、かつ …
音の世界(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
女 男甲 男乙 其の他 舞台は、連絡なき三つの場所を同時に示し得るやう、その空間を利用して、それぞれ独立した装置を施す。 三つの情景は、大体次の如き関係に配置されてゐればよい。 A …
読書目安時間:約17分
女 男甲 男乙 其の他 舞台は、連絡なき三つの場所を同時に示し得るやう、その空間を利用して、それぞれ独立した装置を施す。 三つの情景は、大体次の如き関係に配置されてゐればよい。 A …
『おふくろ』(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
本誌(「劇作」)三月号に発表された田中千禾夫君の処女作『おふくろ』について、僕として云ひたいことは、ただ一言で尽きる。それは、「この確かな劇的才能が、今後如何に伸び、如何に輝いて行 …
読書目安時間:約1分
本誌(「劇作」)三月号に発表された田中千禾夫君の処女作『おふくろ』について、僕として云ひたいことは、ただ一言で尽きる。それは、「この確かな劇的才能が、今後如何に伸び、如何に輝いて行 …
「思はざる収穫」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私の敬愛する先輩、内藤濯氏の近著「思はざる収穫」について何か書けといふ本紙編輯者の命である。 先づ内容は「静観と逍遥」「人と作」「印象と追憶」「読後」「身辺雑事」「十二人一首」の六 …
読書目安時間:約2分
私の敬愛する先輩、内藤濯氏の近著「思はざる収穫」について何か書けといふ本紙編輯者の命である。 先づ内容は「静観と逍遥」「人と作」「印象と追憶」「読後」「身辺雑事」「十二人一首」の六 …
温室の前(新字旧仮名)
読書目安時間:約40分
大里貢 同牧子 高尾より江 西原敏夫 東京近郊である。 一月中旬の午後五時—— 第一場 大里貢の家の応接間——石油ストーブ——くすんだ色の壁紙——線の硬い家具——正面の広い硝子戸を …
読書目安時間:約40分
大里貢 同牧子 高尾より江 西原敏夫 東京近郊である。 一月中旬の午後五時—— 第一場 大里貢の家の応接間——石油ストーブ——くすんだ色の壁紙——線の硬い家具——正面の広い硝子戸を …
「温室の前」の人物について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私はこれまで「ある俳優」にあてはめて脚本を書いたことはない。ところが、此の「温室の前」はどういふつもりでか、新劇協会の人達にあてはめて書いて見ようと思つた。それで先づ、畑中、伊沢両 …
読書目安時間:約2分
私はこれまで「ある俳優」にあてはめて脚本を書いたことはない。ところが、此の「温室の前」はどういふつもりでか、新劇協会の人達にあてはめて書いて見ようと思つた。それで先づ、畑中、伊沢両 …
女九歳(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
Y子はK病院で扁桃腺の手術をすることになつた。 Y子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。 Y子は母親と、K子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。 Y子はその日、平生よりもはしや …
読書目安時間:約1分
Y子はK病院で扁桃腺の手術をすることになつた。 Y子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。 Y子は母親と、K子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。 Y子はその日、平生よりもはしや …
女七歳(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
彼は彼女を愛してゐるやうに見えた。 彼女は彼を愛しかけた。 彼は彼女を得た。 S子が生れた。 彼は彼女から遠ざかつた。 彼女は待つた。 彼は帰らなかつた。 五度目の春が来た。 彼女 …
読書目安時間:約3分
彼は彼女を愛してゐるやうに見えた。 彼女は彼を愛しかけた。 彼は彼女を得た。 S子が生れた。 彼は彼女から遠ざかつた。 彼女は待つた。 彼は帰らなかつた。 五度目の春が来た。 彼女 …
「女らしさ」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私はかういふ問題について特に興味をもつてゐるわけではないが、今時かういふ問題が婦人公論のやうな雑誌でとりあげられるといふ事実に多少時代的な意義を見出すのである。 大体「女」といふ言 …
読書目安時間:約8分
私はかういふ問題について特に興味をもつてゐるわけではないが、今時かういふ問題が婦人公論のやうな雑誌でとりあげられるといふ事実に多少時代的な意義を見出すのである。 大体「女」といふ言 …
懐疑的宣言(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
この二三年来、私の読んだもののうちで、ジユウル・ルナアルの日記ほど、私の心を動かしたものはない。 私は決して、彼を所謂「偉大な作家」だと思つてはゐなかつた。しかし、これほどまでに「 …
読書目安時間:約4分
この二三年来、私の読んだもののうちで、ジユウル・ルナアルの日記ほど、私の心を動かしたものはない。 私は決して、彼を所謂「偉大な作家」だと思つてはゐなかつた。しかし、これほどまでに「 …
外国語教育(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
今日、わが国における外国語の問題を考へるとすれば、およそ次の三点、即ち、この歴史的転換期に直面して外国語教育はいつたいどう取扱はるべきかといふこと、次には国際的な関係が一層複雑微妙 …
読書目安時間:約15分
今日、わが国における外国語の問題を考へるとすれば、およそ次の三点、即ち、この歴史的転換期に直面して外国語教育はいつたいどう取扱はるべきかといふこと、次には国際的な関係が一層複雑微妙 …
『開拓地帯』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
大陸開拓文芸懇話会といふものが去年でき、私もその一員であつて、この集に作品を出してゐないから、埋め合せに序文を書けといふことである。よろしいと引受けた。この作品集は決して仲間褒めや …
読書目安時間:約1分
大陸開拓文芸懇話会といふものが去年でき、私もその一員であつて、この集に作品を出してゐないから、埋め合せに序文を書けといふことである。よろしいと引受けた。この作品集は決して仲間褒めや …
外遊熱(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
外国へ行つて勉強したいといふ青年が、近頃非常に多い。ちよつと流行心理のやうな一面もなくはないが、しかし、それ以上に、なにか止み難い要求が必然的に湧きあがつてゐるやうにみえる。 曾つ …
読書目安時間:約13分
外国へ行つて勉強したいといふ青年が、近頃非常に多い。ちよつと流行心理のやうな一面もなくはないが、しかし、それ以上に、なにか止み難い要求が必然的に湧きあがつてゐるやうにみえる。 曾つ …
かへらじと:日本移動演劇連盟のために(新字旧仮名)
読書目安時間:約36分
時昭和十四年初夏より同年の晩秋にかけて 処関東地方の小さな町 人志岐行一二十五 ふく二十行一の妹 きぬ四十五行一の母 大坪参弐二十四 大五六十参弐の父 飯田虎松四十二町長代理 角崎 …
読書目安時間:約36分
時昭和十四年初夏より同年の晩秋にかけて 処関東地方の小さな町 人志岐行一二十五 ふく二十行一の妹 きぬ四十五行一の母 大坪参弐二十四 大五六十参弐の父 飯田虎松四十二町長代理 角崎 …
顔(新字旧仮名)
読書目安時間:約33分
男 女 菅沼るい 京野精一 土屋園子 ある海浜の寂れたホテル 四月のはじめ。晴れた静かな夕刻。 舞台は、ホールを兼ねただゞつ広い日光室の一隅。——正面、硝子戸を距てて、やゝ遠く別棟 …
読書目安時間:約33分
男 女 菅沼るい 京野精一 土屋園子 ある海浜の寂れたホテル 四月のはじめ。晴れた静かな夕刻。 舞台は、ホールを兼ねただゞつ広い日光室の一隅。——正面、硝子戸を距てて、やゝ遠く別棟 …
風邪一束(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪がある。 風邪は云ふまでもなく一種の病である。多くは咽喉が荒れ …
読書目安時間:約7分
年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪がある。 風邪は云ふまでもなく一種の病である。多くは咽喉が荒れ …
雅俗貧困譜(新字旧仮名)
読書目安時間:約32分
人物 押川進三十一 妻なる子二十四 持山六郎三十二 妻なぞえ二十五 陽々軒女将三十五 摺沢六十 紙屋二十五 印刷屋十八 製本屋四十五 彦十六 場所 東京の裏街の二階家。電話もない小 …
読書目安時間:約32分
人物 押川進三十一 妻なる子二十四 持山六郎三十二 妻なぞえ二十五 陽々軒女将三十五 摺沢六十 紙屋二十五 印刷屋十八 製本屋四十五 彦十六 場所 東京の裏街の二階家。電話もない小 …
「語られる言葉」の美(新字旧仮名)
読書目安時間:約42分
われわれ日本人は、子供の時分から、文字を眼で読むといふ努力をあまりに強ひられた結果、「口から耳へ」伝へられる言葉の効果に対しては、余程鈍感になつてゐるやうである。もちろんその他にも …
読書目安時間:約42分
われわれ日本人は、子供の時分から、文字を眼で読むといふ努力をあまりに強ひられた結果、「口から耳へ」伝へられる言葉の効果に対しては、余程鈍感になつてゐるやうである。もちろんその他にも …
画期的な企て:――『デカルト選集』推薦の辞――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
哲学者としてのデカルトについて私はなんら語る資格はない。しかし、広い意味のフランス古典としてのデカルトの著作は、今まさにわが国に正しく移し植ゑらるべき時機であると思ふ。デカルトがそ …
読書目安時間:約1分
哲学者としてのデカルトについて私はなんら語る資格はない。しかし、広い意味のフランス古典としてのデカルトの著作は、今まさにわが国に正しく移し植ゑらるべき時機であると思ふ。デカルトがそ …
学校劇 其の他(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
文部大臣が学生の芝居を禁じたことは、その動機に於いて僕は大賛成である。と云ふのは、従来行はれてゐるやうな「学校劇」は、大体に於いてその鼓吹者が信じてゐるやうな芸術的乃至学術的欲求か …
読書目安時間:約3分
文部大臣が学生の芝居を禁じたことは、その動機に於いて僕は大賛成である。と云ふのは、従来行はれてゐるやうな「学校劇」は、大体に於いてその鼓吹者が信じてゐるやうな芸術的乃至学術的欲求か …
加藤道夫の死(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
またひとり、作家が自殺した、といふ感じ方でこのニュウスを受けとつた人々がずいぶんたくさんあつたと思ふ。 私は、とくに身近な友人の一人として、彼が死を撰んだ理由を正確につかみたいのだ …
読書目安時間:約3分
またひとり、作家が自殺した、といふ感じ方でこのニュウスを受けとつた人々がずいぶんたくさんあつたと思ふ。 私は、とくに身近な友人の一人として、彼が死を撰んだ理由を正確につかみたいのだ …
過渡時代(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
此の問に答へる為めには、先づ、日本現代劇——さう名づけらるべき個々の作品並にその作家の傾向、作風等に対し、一通りの研究ができてゐなければならない。私は、まだその研究を怠つてゐる。 …
読書目安時間:約3分
此の問に答へる為めには、先づ、日本現代劇——さう名づけらるべき個々の作品並にその作家の傾向、作風等に対し、一通りの研究ができてゐなければならない。私は、まだその研究を怠つてゐる。 …
可児君の面会日(新字旧仮名)
読書目安時間:約31分
可児君 可児夫人 女中 織部 木暮妙 鳥居冬 駒井 毛利 泊 斎田 一月十二日午後—— 極めて平凡な客間兼書斎 可児君今日こそゆつくり寝てゝもよかつたんだ。下らないことに気をつかつ …
読書目安時間:約31分
可児君 可児夫人 女中 織部 木暮妙 鳥居冬 駒井 毛利 泊 斎田 一月十二日午後—— 極めて平凡な客間兼書斎 可児君今日こそゆつくり寝てゝもよかつたんだ。下らないことに気をつかつ …
歌舞伎劇の将来(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
歌舞伎劇が、今日、我が国劇の主流を形造つてゐることは、如何なる点から見ても不合理であり、不自然である。しかし、その特異なスペクタクル的興味と、アカデミックな文学的平俗さと、世襲俳優 …
読書目安時間:約11分
歌舞伎劇が、今日、我が国劇の主流を形造つてゐることは、如何なる点から見ても不合理であり、不自然である。しかし、その特異なスペクタクル的興味と、アカデミックな文学的平俗さと、世襲俳優 …
髪の毛と花びら(新字旧仮名)
読書目安時間:約29分
「もつと早く読んでいゝよ」 机の上におつかぶさるやうな姿勢で、夫は点字機を叩いてゐた。 美津子は、コタツにあたりながら、文庫版のメリメの短篇「マテオ・ファルコオネ」を、区切り区切り …
読書目安時間:約29分
「もつと早く読んでいゝよ」 机の上におつかぶさるやうな姿勢で、夫は点字機を叩いてゐた。 美津子は、コタツにあたりながら、文庫版のメリメの短篇「マテオ・ファルコオネ」を、区切り区切り …
『紙風船』について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
この作は、順序としては私の第四作である。処女作「古い玩具」を大正十四年の春、当時山本有三氏の編輯にかかる「演劇新潮」に発表し、第二作「チロルの秋」を同年秋、同誌のために書き、その翌 …
読書目安時間:約2分
この作は、順序としては私の第四作である。処女作「古い玩具」を大正十四年の春、当時山本有三氏の編輯にかかる「演劇新潮」に発表し、第二作「チロルの秋」を同年秋、同誌のために書き、その翌 …
紙風船(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
人物 夫 妻 時晴れた日曜の午後 所庭に面した座敷 夫(縁側の籐椅子に倚り、新聞を読んでゐる) 「米国フラー建材会社のターナー支配人が一日目白文化村を訪れて、おゝロスアンゼルスの縮 …
読書目安時間:約15分
人物 夫 妻 時晴れた日曜の午後 所庭に面した座敷 夫(縁側の籐椅子に倚り、新聞を読んでゐる) 「米国フラー建材会社のターナー支配人が一日目白文化村を訪れて、おゝロスアンゼルスの縮 …
仮面座の宣言(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
仮面座創設について、同座創立同人諸君がわれわれに提示された宣言の内容は、可なり注目に値すべきものである。 僕は、今、その各項目について、無条件に賛意を表するものではない。まして、あ …
読書目安時間:約2分
仮面座創設について、同座創立同人諸君がわれわれに提示された宣言の内容は、可なり注目に値すべきものである。 僕は、今、その各項目について、無条件に賛意を表するものではない。まして、あ …
カライ博士の臨終:人生の最も厳粛であるべき瞬間に、わたくしがもし笑ひの衝動をおさへることができぬとしたら、いつたいどんな罪に問はれるであらう?(新字旧仮名)
読書目安時間:約39分
人物 加来典重 冬菜 四紋 ネラ子 雅重 冬菜の母 早見博士 煙(主治医) 細木助教授 大里教授 浦(玉石堂主人) 津丸(雑誌記者) 看護婦 ある大学の哲学教授、加来典重は、カント …
読書目安時間:約39分
人物 加来典重 冬菜 四紋 ネラ子 雅重 冬菜の母 早見博士 煙(主治医) 細木助教授 大里教授 浦(玉石堂主人) 津丸(雑誌記者) 看護婦 ある大学の哲学教授、加来典重は、カント …
カルナツクの夏の夕(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
画家のO君から手紙が来て、静かな処だ、やつて来て見ろといふことでした。 細君からも何か書き添へてあつたやうに思ひます。 巴里から十何時間、ブルタアニュの西海岸で、その昔ケリオンとい …
読書目安時間:約7分
画家のO君から手紙が来て、静かな処だ、やつて来て見ろといふことでした。 細君からも何か書き添へてあつたやうに思ひます。 巴里から十何時間、ブルタアニュの西海岸で、その昔ケリオンとい …
川口一郎君の『二十六番館』(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
今月の二十三日から、築地座が飛行会館で上演する戯曲の一つに、『二十六番館』三幕といふのがある。作者は川口一郎君、恐らくこの名前は、まだ多くの人に知られてないだらう。 とかく今日まで …
読書目安時間:約3分
今月の二十三日から、築地座が飛行会館で上演する戯曲の一つに、『二十六番館』三幕といふのがある。作者は川口一郎君、恐らくこの名前は、まだ多くの人に知られてないだらう。 とかく今日まで …
感化院の太鼓(二場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
麦太郎 繭子 海老子夫人 女事務員 葱沢院長 袖原さん 其他無言の人物 公園の一隅——杉の木立を透して黒板塀が続いて見え、梅雨晴れの空に赤瓦が光つてゐる。 小径を前にして朽ちかけた …
読書目安時間:約20分
麦太郎 繭子 海老子夫人 女事務員 葱沢院長 袖原さん 其他無言の人物 公園の一隅——杉の木立を透して黒板塀が続いて見え、梅雨晴れの空に赤瓦が光つてゐる。 小径を前にして朽ちかけた …
観光事業と文化問題:――日本観光連盟第六回総会に於ける講演――(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
私は観光事業に関しては全くの素人で、殊にこの問題は非常に広汎な領域を含んで居りますので、私の申上げることが或は肯綮に当らないかも知れませんが、併し只今この時局下において日本全文化領 …
読書目安時間:約20分
私は観光事業に関しては全くの素人で、殊にこの問題は非常に広汎な領域を含んで居りますので、私の申上げることが或は肯綮に当らないかも知れませんが、併し只今この時局下において日本全文化領 …
かんしやく玉(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
彼女 隣の女 多田 彼 小森 阿部 アパアトとは名ばかりの、粗末な貸室。左の隅にダブルベツド。右に炊事場に通ずるドア。正面に旧式のシンガアミシン。 三月のなかば。午後四時ごろ。 彼 …
読書目安時間:約15分
彼女 隣の女 多田 彼 小森 阿部 アパアトとは名ばかりの、粗末な貸室。左の隅にダブルベツド。右に炊事場に通ずるドア。正面に旧式のシンガアミシン。 三月のなかば。午後四時ごろ。 彼 …
癇癪批評(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
僕のところの子供は、父親たる僕に話しかける時は、はじめから癇癪を起してゐる。常々、一度や二度呼んだぐらゐで、僕の注意を惹くことは困難だといふことを知つてゐるからだ。「ねえ、パパつた …
読書目安時間:約2分
僕のところの子供は、父親たる僕に話しかける時は、はじめから癇癪を起してゐる。常々、一度や二度呼んだぐらゐで、僕の注意を惹くことは困難だといふことを知つてゐるからだ。「ねえ、パパつた …
感想(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな …
読書目安時間:約4分
文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな …
感想(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
最近は芝居も映画もあまり見ない。東京をはなれて暮してゐる期間が長いためでもあるが、たまに東京へ出ても、わざわざ切符を買つて観に行く気がしないのである。自分の仕事に直接関係があるのだ …
読書目安時間:約8分
最近は芝居も映画もあまり見ない。東京をはなれて暮してゐる期間が長いためでもあるが、たまに東京へ出ても、わざわざ切符を買つて観に行く気がしないのである。自分の仕事に直接関係があるのだ …
ガンバハル氏の実験(ラヂオドラマ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
アナウンサーの紹介につづいて、 別のアナウンサーの声で—— ——只今から、ガンバハル氏の「精神と電気」といふ御講演がございます。 ガンバハル氏の声——ええ、わたくしは、只今御紹介に …
読書目安時間:約19分
アナウンサーの紹介につづいて、 別のアナウンサーの声で—— ——只今から、ガンバハル氏の「精神と電気」といふ御講演がございます。 ガンバハル氏の声——ええ、わたくしは、只今御紹介に …
官立演劇映画学校の提唱(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
演劇と映画とは元来なら別々に論ぜられなければならぬ要素をそれぞれにもつてゐるのであるが、現在の日本では、この二つの部門が、その芸術的水準と文化的役割とに於いて、寧ろより多く共通な問 …
読書目安時間:約11分
演劇と映画とは元来なら別々に論ぜられなければならぬ要素をそれぞれにもつてゐるのであるが、現在の日本では、この二つの部門が、その芸術的水準と文化的役割とに於いて、寧ろより多く共通な問 …
既往文化と新文化:――某氏との談話――(新字旧仮名)
読書目安時間:約23分
通念の更新 一体、国防国家といふものゝなかで、文化はどういふ取扱ひを受けるべきかといふ問題ですが……この点に関しては、実にいろいろの意見があるやうです。すなはち、文化問題に就いては …
読書目安時間:約23分
通念の更新 一体、国防国家といふものゝなかで、文化はどういふ取扱ひを受けるべきかといふ問題ですが……この点に関しては、実にいろいろの意見があるやうです。すなはち、文化問題に就いては …
記憶のいたづら(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
妻の順子が急に、 「どうも、怪しいわ。こんなに痛いはずないんですもの」 と、顔をしかめながら言ふのをきいて、鈴村博志は、今更のやうにギクリとした。 「だつて、予定は来月初めぢやない …
読書目安時間:約20分
妻の順子が急に、 「どうも、怪しいわ。こんなに痛いはずないんですもの」 と、顔をしかめながら言ふのをきいて、鈴村博志は、今更のやうにギクリとした。 「だつて、予定は来月初めぢやない …
桔梗の別れ(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
ある高原の避暑地。落葉松の森を背にしたテニスコートの傍ら。日が落ちて、橙色の雲の一塊が、雪をいたゞいた遠い峰を覆つてゐる。今テニスを終つたばかりの四人、そのうちの女二人は境笛子と母 …
読書目安時間:約9分
ある高原の避暑地。落葉松の森を背にしたテニスコートの傍ら。日が落ちて、橙色の雲の一塊が、雪をいたゞいた遠い峰を覆つてゐる。今テニスを終つたばかりの四人、そのうちの女二人は境笛子と母 …
戯曲以前のもの(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
現今戯曲として通用してゐる作品のうちには、若しもその主題を取つて小説としたならば、定めし読むに堪へないであらうやうな安価な作品が多い。その反対に、小説として読めば相当高い芸術的の香 …
読書目安時間:約12分
現今戯曲として通用してゐる作品のうちには、若しもその主題を取つて小説としたならば、定めし読むに堪へないであらうやうな安価な作品が多い。その反対に、小説として読めば相当高い芸術的の香 …
戯曲及び戯曲作家について(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
レオン・ドオデが、ジュウル・ルナアルの芸術を指して、「小ささの偉大さ」と呼んでゐるが、そのジュウル・ルナアルは、芸術家としてのエドモン・ロスタンをまた、「月並で、しかして、偉大」と …
読書目安時間:約14分
レオン・ドオデが、ジュウル・ルナアルの芸術を指して、「小ささの偉大さ」と呼んでゐるが、そのジュウル・ルナアルは、芸術家としてのエドモン・ロスタンをまた、「月並で、しかして、偉大」と …
戯曲講座(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今度明治大学の文科に文芸科といふのができ、一般文芸に関する教育、殊に、創作方面に於ける実際的指導をさへすることになり、私も亦、戯曲講座の一部を受持つことになつた。 自分の専門とはい …
読書目安時間:約2分
今度明治大学の文科に文芸科といふのができ、一般文芸に関する教育、殊に、創作方面に於ける実際的指導をさへすることになり、私も亦、戯曲講座の一部を受持つことになつた。 自分の専門とはい …
戯曲時代(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が可なりの頁数を占めるやうになつた今日の時勢を、誰かゞ、名づけて戯曲時代と呼んでも、それは少しも不思議 …
読書目安時間:約7分
雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が可なりの頁数を占めるやうになつた今日の時勢を、誰かゞ、名づけて戯曲時代と呼んでも、それは少しも不思議 …
戯曲時代去る(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「戯曲時代」といふ言葉の定義は僕が嘗て下したところによると「雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が、可なりの頁数を占めるやうになつた今日の …
読書目安時間:約2分
「戯曲時代」といふ言葉の定義は僕が嘗て下したところによると「雑誌の創作欄が、昨日までは小説のみで埋められてゐたのに反し、読み物としての戯曲が、可なりの頁数を占めるやうになつた今日の …
戯曲集『鴉』の印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
関口次郎君の第二戯曲集が出た。 秋の終り 女優宣伝業 鴉 乞食と夢 勝者被勝者 真夜中 彼等の平和 夜 女と男 此の等級のつけ方に、作者は或は不服かも知れぬが、それはそれでいゝの …
読書目安時間:約10分
関口次郎君の第二戯曲集が出た。 秋の終り 女優宣伝業 鴉 乞食と夢 勝者被勝者 真夜中 彼等の平和 夜 女と男 此の等級のつけ方に、作者は或は不服かも知れぬが、それはそれでいゝの …
戯曲二十五篇を読まされた話(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
四月号の寄贈雑誌大小十六種のうちから、創作戯曲二十五種を選び出し、昨日(四日)まで暇を盗んで読んだ。その結果がこの一文になるわけであるが、僕は決してこの仕事を自分に適した仕事だとは …
読書目安時間:約15分
四月号の寄贈雑誌大小十六種のうちから、創作戯曲二十五種を選び出し、昨日(四日)まで暇を盗んで読んだ。その結果がこの一文になるわけであるが、僕は決してこの仕事を自分に適した仕事だとは …
戯曲の翻訳(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
自分の好きな作品、何遍も読み返した作品を、ゆつくり、丹念に翻訳することができたら、愉快であると同時に、結果もよからうと思ふが、今までは、なかなか、さう誂へ向きな仕事はできなかつた。 …
読書目安時間:約6分
自分の好きな作品、何遍も読み返した作品を、ゆつくり、丹念に翻訳することができたら、愉快であると同時に、結果もよからうと思ふが、今までは、なかなか、さう誂へ向きな仕事はできなかつた。 …
戯曲復興の兆(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
戯曲界不振の声を聞くことすでに久しい。一見、まさにその通りである。本紙記者からその問題について書けと言われた時、私は書けばどうなるのだろうと思った。が、よく考えてみると、なるほど戯 …
読書目安時間:約4分
戯曲界不振の声を聞くことすでに久しい。一見、まさにその通りである。本紙記者からその問題について書けと言われた時、私は書けばどうなるのだろうと思った。が、よく考えてみると、なるほど戯 …
危機を救ふもの(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
無力な新劇団が乱立し、互に仕事の邪魔をし合つてゐるといふ状態も決して悦ぶべき状態ではないが、それが新劇直接の病根だとは、僕は思はぬ。それをさうさせた原因は、もつと遠くにあり、数個の …
読書目安時間:約3分
無力な新劇団が乱立し、互に仕事の邪魔をし合つてゐるといふ状態も決して悦ぶべき状態ではないが、それが新劇直接の病根だとは、僕は思はぬ。それをさうさせた原因は、もつと遠くにあり、数個の …
棄権:――芥川賞(第二十三回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
今度の芥川賞の銓衡には、私は選者としての任務を果すことができなかつた。 私が東京に在住してゐないため、事務的な連絡が思ふやうにとれなかつたからでもあるが、候補作品を受けとつてから委 …
読書目安時間:約1分
今度の芥川賞の銓衡には、私は選者としての任務を果すことができなかつた。 私が東京に在住してゐないため、事務的な連絡が思ふやうにとれなかつたからでもあるが、候補作品を受けとつてから委 …
紀州人(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
子供のころ、故郷といふ課題で作文を作つたことを覚えてゐる。しかし、どんなことをどんな風に書いたかは一字一句も覚えてゐない。恐らく、「故郷とは懐しいものであり、その山も川も、野も林も …
読書目安時間:約8分
子供のころ、故郷といふ課題で作文を作つたことを覚えてゐる。しかし、どんなことをどんな風に書いたかは一字一句も覚えてゐない。恐らく、「故郷とは懐しいものであり、その山も川も、野も林も …
期待する人(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
劇壇をざつと見渡してみて、そこに若い時代の溌剌たる動きがちつとも見えないのは特に演劇といふものゝ性格によるのであらうか?さういふこともたしかにあると思ふが、しかし、それよりもなによ …
読書目安時間:約2分
劇壇をざつと見渡してみて、そこに若い時代の溌剌たる動きがちつとも見えないのは特に演劇といふものゝ性格によるのであらうか?さういふこともたしかにあると思ふが、しかし、それよりもなによ …
北軽井沢にて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
一年の大部分を山で暮してゐる私は、季節の足音に耳をすます習慣がいつの間にかできました。八月にはいるともう秋の気配が感じられますが、家畜の世話や、魚釣りや、たまに机に向つての仕事やを …
読書目安時間:約1分
一年の大部分を山で暮してゐる私は、季節の足音に耳をすます習慣がいつの間にかできました。八月にはいるともう秋の気配が感じられますが、家畜の世話や、魚釣りや、たまに机に向つての仕事やを …
希望(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私は不勉強で行動主義の何であるかといふことを今日まで余り注意しないでボンヤリしてゐた。唯行動主義といふ言葉で自分勝手の概念を作つてゐたやうなわけで、非常に誤つた考へ方をしてゐたかも …
読書目安時間:約2分
私は不勉強で行動主義の何であるかといふことを今日まで余り注意しないでボンヤリしてゐた。唯行動主義といふ言葉で自分勝手の概念を作つてゐたやうなわけで、非常に誤つた考へ方をしてゐたかも …
脚本難(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は嘗て本欄(時事新報)で、『上演目録』と題し、新劇団体存立の主要条件として、上演脚本選定に払ふべき注意の、忽せにすべからざるを説いたが、そして、「芸術的に」といふ信条以外に、「寛 …
読書目安時間:約3分
僕は嘗て本欄(時事新報)で、『上演目録』と題し、新劇団体存立の主要条件として、上演脚本選定に払ふべき注意の、忽せにすべからざるを説いたが、そして、「芸術的に」といふ信条以外に、「寛 …
共同の目標(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
日本新劇倶楽部が生れた。率直に云へば、甚だ漠然と生れた形である。しかし、さういふものが生れる必然性はあつたと云へる。非常に易々と生れたことからもさう考へられるし、生れたものに対する …
読書目安時間:約3分
日本新劇倶楽部が生れた。率直に云へば、甚だ漠然と生れた形である。しかし、さういふものが生れる必然性はあつたと云へる。非常に易々と生れたことからもさう考へられるし、生れたものに対する …
近況(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
文学座三月公演のゴーリキーの「どん底」を演出することになり、信濃町のアトリエ近くに宿をとって、みっちりけいこをするつもりである。だれでも知っている「どん底」が、日本の俳優でどれほど …
読書目安時間:約2分
文学座三月公演のゴーリキーの「どん底」を演出することになり、信濃町のアトリエ近くに宿をとって、みっちりけいこをするつもりである。だれでも知っている「どん底」が、日本の俳優でどれほど …
近代劇論(新字旧仮名)
読書目安時間:約53分
一近代劇とは この名称は元来、あまりはつきりしない名称で、恐らく「近代」といふ言葉は、moderne の訳に相違なく、してみると、普通使はれてゐる「新時代」といふ意味もあると同時に …
読書目安時間:約53分
一近代劇とは この名称は元来、あまりはつきりしない名称で、恐らく「近代」といふ言葉は、moderne の訳に相違なく、してみると、普通使はれてゐる「新時代」といふ意味もあると同時に …
勤労と文化(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
翼賛会としては、生活といふもの全体を一つの文化的見地から検討して、現在の国民生活のなかにある弱点を是正して行くと同時に、生活全体を大体三つの観点から建直して行きたいといふ方針でをり …
読書目安時間:約9分
翼賛会としては、生活といふもの全体を一つの文化的見地から検討して、現在の国民生活のなかにある弱点を是正して行くと同時に、生活全体を大体三つの観点から建直して行きたいといふ方針でをり …
偶感一束(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
賑やかな春の芝居も一向に心を惹かない。旅をしよう。旅をしよう。 旅と云へば、旅にゐて、都を想ふ、これも旅の楽しさ、なつかしさである。 まして、こゝ、灯は暗し、某々劇場の花ランプさへ …
読書目安時間:約2分
賑やかな春の芝居も一向に心を惹かない。旅をしよう。旅をしよう。 旅と云へば、旅にゐて、都を想ふ、これも旅の楽しさ、なつかしさである。 まして、こゝ、灯は暗し、某々劇場の花ランプさへ …
空襲時に於ける興行非常対策について(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
一、警戒警報発令中の興行に関しては、其の期間、劇場、映画館の閉鎖を以て一応の対策と見做し、目下これに従つてゐるのであるが、警報長期に亙る場合、然も早急に解除の見込立たざる情勢下に於 …
読書目安時間:約11分
一、警戒警報発令中の興行に関しては、其の期間、劇場、映画館の閉鎖を以て一応の対策と見做し、目下これに従つてゐるのであるが、警報長期に亙る場合、然も早急に解除の見込立たざる情勢下に於 …
空襲ドラマ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
先般放送局文芸課長久保田万太郎氏から、ラヂオ放送用の「空襲ドラマ」を書いてみないかと勧められ、少々面喰つたが、いろいろ考へた末、ひとつやつてみようといふ気になつた。 ○ これは無論 …
読書目安時間:約3分
先般放送局文芸課長久保田万太郎氏から、ラヂオ放送用の「空襲ドラマ」を書いてみないかと勧められ、少々面喰つたが、いろいろ考へた末、ひとつやつてみようといふ気になつた。 ○ これは無論 …
傀儡の夢(五場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約29分
有田浩三 妻倉子 書生水垣 小間使銀 下働滝 水垣の友竹中 有田浩三の書斎。朝。 浩三(読んでゐる新聞から目を放さずに、はひつて来た妻に向ひ)おはやう。昨夜はよく眠つたかい。何か寝 …
読書目安時間:約29分
有田浩三 妻倉子 書生水垣 小間使銀 下働滝 水垣の友竹中 有田浩三の書斎。朝。 浩三(読んでゐる新聞から目を放さずに、はひつて来た妻に向ひ)おはやう。昨夜はよく眠つたかい。何か寝 …
久保田万太郎氏著「釣堀にて」(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
これは久保田氏の五冊目の戯曲集だといふことである。なるほど数へてみるとさうだ。なぜそれがそんなに不思議な気がするかといふと、戯曲界のこの大先輩が、今日まで劇作の筆を執りつゞけ、しか …
読書目安時間:約3分
これは久保田氏の五冊目の戯曲集だといふことである。なるほど数へてみるとさうだ。なぜそれがそんなに不思議な気がするかといふと、戯曲界のこの大先輩が、今日まで劇作の筆を執りつゞけ、しか …
雲の会(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
新しい演劇の芽は、どういふところに発生し、その芽はどうすれば健全に伸び育つかといふことを、私はこの二十年絶えず考へつゞけて来た。 理窟のうへでは、それはもうわかりきつた話なのだが、 …
読書目安時間:約8分
新しい演劇の芽は、どういふところに発生し、その芽はどうすれば健全に伸び育つかといふことを、私はこの二十年絶えず考へつゞけて来た。 理窟のうへでは、それはもうわかりきつた話なのだが、 …
車引耕介に答ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
十一月三十日の壁評論「新劇さびれ戯曲栄ゆ」を読んで、小生が徒らに空言を弄するやうに思はれては困るから、「世界的水準に迫るのも遠からぬ各戯曲が何故新劇を興隆させることができぬかその謎 …
読書目安時間:約2分
十一月三十日の壁評論「新劇さびれ戯曲栄ゆ」を読んで、小生が徒らに空言を弄するやうに思はれては困るから、「世界的水準に迫るのも遠からぬ各戯曲が何故新劇を興隆させることができぬかその謎 …
苦労人クウルトリイヌについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
「我家の平和」の作者、ジヨルジユ・クウルトリイヌは、私の最も好きな近代劇作家の一人である。 彼の名は巴里に於て、甚だポピユラアであること、我が菊池寛氏の東京に於けるそれの如く、彼の …
読書目安時間:約3分
「我家の平和」の作者、ジヨルジユ・クウルトリイヌは、私の最も好きな近代劇作家の一人である。 彼の名は巴里に於て、甚だポピユラアであること、我が菊池寛氏の東京に於けるそれの如く、彼の …
クロニック・モノロゲ(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
海岸の小さな貸別荘。 舞台は八畳と六畳の二間続きで、八畳には籐椅子、テーブルの他に本箱、寝台、六畳には、同じく寝台を中央に、箪笥、屏風、鏡台、衣桁、長椅子。 奥は一間の張出窓、硝子 …
読書目安時間:約19分
海岸の小さな貸別荘。 舞台は八畳と六畳の二間続きで、八畳には籐椅子、テーブルの他に本箱、寝台、六畳には、同じく寝台を中央に、箪笥、屏風、鏡台、衣桁、長椅子。 奥は一間の張出窓、硝子 …
クロムランクとベルナアルに就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
欧洲大戦後、即ち千九百二十年から二十三年にかけて、仏蘭西の劇壇は空前の開花期を現出し、その間に、有為な新作家が相次いで「問題になる作品」を発表した。 クロムランクの「堂々たるコキュ …
読書目安時間:約6分
欧洲大戦後、即ち千九百二十年から二十三年にかけて、仏蘭西の劇壇は空前の開花期を現出し、その間に、有為な新作家が相次いで「問題になる作品」を発表した。 クロムランクの「堂々たるコキュ …
稽古雑感(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「盗電」の舞台監督を引受けた時、すぐ作者の金子洋文君に会つて、いろいろ相談したいと思つたが、生憎金子君は旅行中だといふことで、止むを得ず、自分だけの解釈に従つて稽古を進めた。 然る …
読書目安時間:約2分
「盗電」の舞台監督を引受けた時、すぐ作者の金子洋文君に会つて、いろいろ相談したいと思つたが、生憎金子君は旅行中だといふことで、止むを得ず、自分だけの解釈に従つて稽古を進めた。 然る …
稽古のしかた(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
僕が先日都新聞に書いた感想のなかで、「新劇を面白くする」方法として、大ざつぱな個条をいくつか挙げた中に、「稽古は少くとも二ヶ月間ぶつ通しでやること」といふ一ヶ条がある。それについて …
読書目安時間:約7分
僕が先日都新聞に書いた感想のなかで、「新劇を面白くする」方法として、大ざつぱな個条をいくつか挙げた中に、「稽古は少くとも二ヶ月間ぶつ通しでやること」といふ一ヶ条がある。それについて …
稽古場にて(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
文学座三月公演はゴーリキイの「どん底」ときまり、私が演出を引受けた。 神西清氏の翻訳ができあがるのを待って、稽古にはいる。毎日小田原から出て来るのは、病後の私には大儀だから、稽古場 …
読書目安時間:約3分
文学座三月公演はゴーリキイの「どん底」ときまり、私が演出を引受けた。 神西清氏の翻訳ができあがるのを待って、稽古にはいる。毎日小田原から出て来るのは、病後の私には大儀だから、稽古場 …
計算は計算(新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
悪夢のやうな戦争がすんで、その悪夢の名残りとも思はれる重苦しい気分が、まだ続いてゐるいく年か後のことである。 もう五十を二つ三つ越して、十年一日のやうな教師といふ職業に、すこし疲れ …
読書目安時間:約25分
悪夢のやうな戦争がすんで、その悪夢の名残りとも思はれる重苦しい気分が、まだ続いてゐるいく年か後のことである。 もう五十を二つ三つ越して、十年一日のやうな教師といふ職業に、すこし疲れ …
芸術家の協力:――楽壇新体制に備へて――(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
翼賛会の文化部と致しましては、実は、現在の楽壇の実状を考へまして、直ちにこれをどうしようといふ風には考へてゐないのであります。申すまでもなく翼賛運動は国民自身の運動となるべき性質の …
読書目安時間:約13分
翼賛会の文化部と致しましては、実は、現在の楽壇の実状を考へまして、直ちにこれをどうしようといふ風には考へてゐないのであります。申すまでもなく翼賛運動は国民自身の運動となるべき性質の …
芸術座の『軍人礼讃』(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
脚本について—— 同じショウのものでも、『ウォレン夫人の職業』と『アンドロクレスと獅子』との間には、殆ど一人の作家だけの距りがある。 然し乍ら、その距りはショウが写実主義を作品の根 …
読書目安時間:約5分
脚本について—— 同じショウのものでも、『ウォレン夫人の職業』と『アンドロクレスと獅子』との間には、殆ど一人の作家だけの距りがある。 然し乍ら、その距りはショウが写実主義を作品の根 …
芸術賞(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
国民文芸会が昨年度の演劇賞金を土方与志君に贈つたことは正に当を得た措置である。 土方君は高の知れた賞金ぐらゐを貰つたところで何にもなるまいが、かういふことは、もつと世間が問題にして …
読書目安時間:約1分
国民文芸会が昨年度の演劇賞金を土方与志君に贈つたことは正に当を得た措置である。 土方君は高の知れた賞金ぐらゐを貰つたところで何にもなるまいが、かういふことは、もつと世間が問題にして …
芸術と金銭(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
芸術によつて「名」のみを得たものが一番多い。 「恋」を得たものも少くない。 「富」を得たものは、数へるほどしかない。 自分の作品を「金」に代へることは、一つの方便である。芸術的制作 …
読書目安時間:約2分
芸術によつて「名」のみを得たものが一番多い。 「恋」を得たものも少くない。 「富」を得たものは、数へるほどしかない。 自分の作品を「金」に代へることは、一つの方便である。芸術的制作 …
劇作と私(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
雑誌「劇作」が生れるについて、私は直接なにも力にはなつてゐないが、同人のなかには親しい仲間も加はつてゐたし、蔭ながら声援をおくるといふ立場で、大いに発展を期待してゐた。 元来、戯曲 …
読書目安時間:約2分
雑誌「劇作」が生れるについて、私は直接なにも力にはなつてゐないが、同人のなかには親しい仲間も加はつてゐたし、蔭ながら声援をおくるといふ立場で、大いに発展を期待してゐた。 元来、戯曲 …
「劇作」に告ぐ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ずいぶん旧いことだが、「劇作」が創刊される頃はたしかに新劇の世界に一つの機運がもり上つてゐた。それは、大正初年の、いはゆる戯曲の開花期に相応するものである。 私はこの二つの時期をそ …
読書目安時間:約4分
ずいぶん旧いことだが、「劇作」が創刊される頃はたしかに新劇の世界に一つの機運がもり上つてゐた。それは、大正初年の、いはゆる戯曲の開花期に相応するものである。 私はこの二つの時期をそ …
劇作を志す若い人々に(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
自ら劇作家と名乗る資格があるかどうかわからないものが、劇作家たるべき道を説くことは甚だ可笑しいと思ひますが、私を一個の劇作家と見立てゝ、かういふ課題を与へた本誌編輯者の、表面的な責 …
読書目安時間:約8分
自ら劇作家と名乗る資格があるかどうかわからないものが、劇作家たるべき道を説くことは甚だ可笑しいと思ひますが、私を一個の劇作家と見立てゝ、かういふ課題を与へた本誌編輯者の、表面的な責 …
劇作家としてのルナアル(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
劇作家ルナアルは、ミュッセと共に、僕に戯曲を書く希望と興味と霊感とを与へてくれた。彼に就いて何かを言はなければならないなら、僕は寧ろ黙つてゐたい。僕はあまり多く彼に傾倒し、あまり多 …
読書目安時間:約17分
劇作家ルナアルは、ミュッセと共に、僕に戯曲を書く希望と興味と霊感とを与へてくれた。彼に就いて何かを言はなければならないなら、僕は寧ろ黙つてゐたい。僕はあまり多く彼に傾倒し、あまり多 …
劇場と観客層(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
本誌(「改造」)に時評を書くのは初めてだから、多少今まで云つたことと重複する点もあるが、私が現在、最も痛切に感じてゐることを、ここでも云はして貰ふことにする。 先づ、私が訊ねたいと …
読書目安時間:約7分
本誌(「改造」)に時評を書くのは初めてだから、多少今まで云つたことと重複する点もあるが、私が現在、最も痛切に感じてゐることを、ここでも云はして貰ふことにする。 先づ、私が訊ねたいと …
劇場と作者(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
一代の人気女優、ド・リュジイ嬢は、給料の問題で、作者にも金を払はなければならないと云ふことを聞いて、「何だつて。一体作者なんて云ふものを、なしにするわけには行かないかね」と、やつつ …
読書目安時間:約11分
一代の人気女優、ド・リュジイ嬢は、給料の問題で、作者にも金を払はなければならないと云ふことを聞いて、「何だつて。一体作者なんて云ふものを、なしにするわけには行かないかね」と、やつつ …
劇壇暗黒の弁(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
演劇の不振といふことを、近頃よく世間では問題にするが、それが悦ぶべきことか悲しむべきことかといふ議論になると、私には、殆んど見当がつかないと云つていい。 一国の一時代に於ける演劇が …
読書目安時間:約17分
演劇の不振といふことを、近頃よく世間では問題にするが、それが悦ぶべきことか悲しむべきことかといふ議論になると、私には、殆んど見当がつかないと云つていい。 一国の一時代に於ける演劇が …
劇壇左右展望(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
近頃、純文学と大衆文学の問題が各所で論議されてゐるやうだが、これは、所謂「文芸上の問題」とはなり得ない一個の文壇四方山話にすぎないので、「純文学では飯が食へん」とか、「大衆文学を書 …
読書目安時間:約17分
近頃、純文学と大衆文学の問題が各所で論議されてゐるやうだが、これは、所謂「文芸上の問題」とはなり得ない一個の文壇四方山話にすぎないので、「純文学では飯が食へん」とか、「大衆文学を書 …
劇壇漫評(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
× 新時代の演劇熱が、いよいよ通過すべき処を通過しつゝあるやうである。といふのは、戯曲創作熱から脚本上演熱に遷らうとしてゐることである。 昨今、少し大袈裟な云ひ方をすれば、新劇団の …
読書目安時間:約4分
× 新時代の演劇熱が、いよいよ通過すべき処を通過しつゝあるやうである。といふのは、戯曲創作熱から脚本上演熱に遷らうとしてゐることである。 昨今、少し大袈裟な云ひ方をすれば、新劇団の …
劇的伝統と劇的因襲(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
批評家がいろいろの立場から作品の価値を論じることは自由であるが、文芸の種目(ジャンル)に関して、聊かも定見のないことを暴露するに至つては、甚だ心細い。 今日文芸批評の筆を取る人々の …
読書目安時間:約9分
批評家がいろいろの立場から作品の価値を論じることは自由であるが、文芸の種目(ジャンル)に関して、聊かも定見のないことを暴露するに至つては、甚だ心細い。 今日文芸批評の筆を取る人々の …
劇道救済の必要(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
現在、わが劇壇を通じて、演劇の独立性を辛ふじて維持してゐるのは、さすがに歌舞伎劇のみである。比類なき伝統の美は、何ものの侵略をもゆるさず、また、何物の力を藉りる必要もないからである …
読書目安時間:約3分
現在、わが劇壇を通じて、演劇の独立性を辛ふじて維持してゐるのは、さすがに歌舞伎劇のみである。比類なき伝統の美は、何ものの侵略をもゆるさず、また、何物の力を藉りる必要もないからである …
劇の好きな子供たちへ(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
子供たちが集まって劇をするということは、楽しい遊びであると同時に、おたがいの勉強であるということを忘れないようにしたい。 楽しい遊びであるからには、思う存分、自分が面白いと思うよう …
読書目安時間:約15分
子供たちが集まって劇をするということは、楽しい遊びであると同時に、おたがいの勉強であるということを忘れないようにしたい。 楽しい遊びであるからには、思う存分、自分が面白いと思うよう …
劇文学は何処へ行くか(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
私が戯曲を書きだしてからもう二十五年になる。四半世紀たつたといふわけである。その間に、いろいろな事情でしばらく戯曲の創作から遠ざかつてゐたこともあるが、やはりそれは自分の文学的故郷 …
読書目安時間:約22分
私が戯曲を書きだしてからもう二十五年になる。四半世紀たつたといふわけである。その間に、いろいろな事情でしばらく戯曲の創作から遠ざかつてゐたこともあるが、やはりそれは自分の文学的故郷 …
『月・水・金』の跋(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
卒業製作の採点を命ぜられて、一番困つたことは、標準を何処におくべきかといふこと、並にその点数に表はれた数字が、結局何を意味するか第三者に解つて貰へるだらうかといふことであつた。 学 …
読書目安時間:約2分
卒業製作の採点を命ぜられて、一番困つたことは、標準を何処におくべきかといふこと、並にその点数に表はれた数字が、結局何を意味するか第三者に解つて貰へるだらうかといふことであつた。 学 …
けむり(ラヂオ物語)(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
さて、みなさん。 と、呼びかけてはみましたが、どなたがどんな顔をして聴いておいでになるか、さつぱり見当がつきません。 相手があつて、なきが如く、話す方はまことに調子が取りにくいので …
読書目安時間:約18分
さて、みなさん。 と、呼びかけてはみましたが、どなたがどんな顔をして聴いておいでになるか、さつぱり見当がつきません。 相手があつて、なきが如く、話す方はまことに調子が取りにくいので …
喧嘩上手:(トオキイ脚本)(新字旧仮名)
読書目安時間:約39分
人物(画面に現はれる順) 春日珠枝更子の弟子 天城更子映画女優 老婢よし 武部日の出新報記者 横川更子のパトロン 嬉野弁護士 三堂微々漫画家 加治わたる同右 中根六遍同右 新聞記者 …
読書目安時間:約39分
人物(画面に現はれる順) 春日珠枝更子の弟子 天城更子映画女優 老婢よし 武部日の出新報記者 横川更子のパトロン 嬉野弁護士 三堂微々漫画家 加治わたる同右 中根六遍同右 新聞記者 …
懸賞小説に寄せて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
従来の新聞小説を見ると、一定の型があると思ふ、この型は数々の経験者が、意識的に、或は無意識的に、創りあげた型である、この型の跡を踏むことは新聞小説を執筆する上で、読者受けもよし、新 …
読書目安時間:約1分
従来の新聞小説を見ると、一定の型があると思ふ、この型は数々の経験者が、意識的に、或は無意識的に、創りあげた型である、この型の跡を踏むことは新聞小説を執筆する上で、読者受けもよし、新 …
「現代演劇論・増補版」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ふたゝび私のために開かれた演劇の門は、やはり私にとつてなつかしいふるさとである。 そこでは、かつて私の友であり、仲間であつた多くの作家、俳優、演出家、舞台監督、舞台美術家などが、そ …
読書目安時間:約1分
ふたゝび私のために開かれた演劇の門は、やはり私にとつてなつかしいふるさとである。 そこでは、かつて私の友であり、仲間であつた多くの作家、俳優、演出家、舞台監督、舞台美術家などが、そ …
「現代演劇論」はしがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
演劇に関する評論、感想、ノオトの類を集めてみたが、それらを系統的に配列する困難は、私が甚だ「学問的に」ものを言つてゐないといふこと、殊に、筆を執つた動機が殆ど常に外部からの註文に依 …
読書目安時間:約4分
演劇に関する評論、感想、ノオトの類を集めてみたが、それらを系統的に配列する困難は、私が甚だ「学問的に」ものを言つてゐないといふこと、殊に、筆を執つた動機が殆ど常に外部からの註文に依 …
「現代戯曲全集第十七巻」の跋に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
芝居といふものを強ひて大勢に見せるものだと考へる必要はない。 或ることを云ふために芝居を書くのではない。芝居を書くために或ることを云ふのだ。 所謂「劇的」でない劇があつてもいゝ。所 …
読書目安時間:約1分
芝居といふものを強ひて大勢に見せるものだと考へる必要はない。 或ることを云ふために芝居を書くのではない。芝居を書くために或ることを云ふのだ。 所謂「劇的」でない劇があつてもいゝ。所 …
現代劇のない日本(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
日本中の劇場で、これまで「現代劇」をやつたことがないと云へば、確かにそこ此処から異論が出るだらうと思ひますが、私は、それでも、「日本は現代劇なし」と明言します。 その理由はかうです …
読書目安時間:約3分
日本中の劇場で、これまで「現代劇」をやつたことがないと云へば、確かにそこ此処から異論が出るだらうと思ひますが、私は、それでも、「日本は現代劇なし」と明言します。 その理由はかうです …
現代大衆劇は斯くして生れる:中村正常君に答ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
新しき「新派」——現代大衆劇——がなぜ起らないかといへば、その第一の理由は、さういふものが現在の日本に欠けてゐることを、劇壇の人々は嘗て問題にせず、大衆も亦さういふ演劇への要求を示 …
読書目安時間:約3分
新しき「新派」——現代大衆劇——がなぜ起らないかといへば、その第一の理由は、さういふものが現在の日本に欠けてゐることを、劇壇の人々は嘗て問題にせず、大衆も亦さういふ演劇への要求を示 …
『現代短歌大系』のために(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
時代や世相がどのやうに変つても、短歌といふ日本独特の詩の形式が、あらゆる分野の人々の生活の中で、つまり生活が生み出す自然な芸術のかたちとして、着実な根を張つてゐることをわれわれは考 …
読書目安時間:約1分
時代や世相がどのやうに変つても、短歌といふ日本独特の詩の形式が、あらゆる分野の人々の生活の中で、つまり生活が生み出す自然な芸術のかたちとして、着実な根を張つてゐることをわれわれは考 …
現代日本の演劇:(コンテンポラリイ・ジャパン所載)(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
封建的、鎖国的な旧日本の文化は、所謂「能」と「歌舞伎」とを今日に残した。この二つの珍奇な演劇種目は、それぞれ長い伝統の上に築かれた特殊の美を誇つてをり、一つは、貴族的、武士的な趣味 …
読書目安時間:約10分
封建的、鎖国的な旧日本の文化は、所謂「能」と「歌舞伎」とを今日に残した。この二つの珍奇な演劇種目は、それぞれ長い伝統の上に築かれた特殊の美を誇つてをり、一つは、貴族的、武士的な趣味 …
“現代風俗”に就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
僕は近頃かういふことを考へる。日本といふ国はいつたい、何時になつたら風俗的に統一されるのであらうか? こゝで風俗といふ意味は、勿論広い意味である。フランス語で mœurs といふあ …
読書目安時間:約8分
僕は近頃かういふことを考へる。日本といふ国はいつたい、何時になつたら風俗的に統一されるのであらうか? こゝで風俗といふ意味は、勿論広い意味である。フランス語で mœurs といふあ …
「現代風俗」はしがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
風俗といふ言葉をごく広い意味にとつて、私はこの書物に「現代風俗」といふ題をつけた。 世の中の現象をすべて「風俗」としてみる興味が私には一番強く、また、さういふ見方をしなければものが …
読書目安時間:約4分
風俗といふ言葉をごく広い意味にとつて、私はこの書物に「現代風俗」といふ題をつけた。 世の中の現象をすべて「風俗」としてみる興味が私には一番強く、また、さういふ見方をしなければものが …
賢婦人の一例(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
橋本夫人 渥美登 静間氏 静間弓子 女中 東京の郊外——初冬——午後二時頃。 橋本家の奥座敷。 紫檀の机を囲んで座蒲団が四つ。 女中が火鉢に炭をついでゐる。 橋本夫人が現れる。 橋 …
読書目安時間:約19分
橋本夫人 渥美登 静間氏 静間弓子 女中 東京の郊外——初冬——午後二時頃。 橋本家の奥座敷。 紫檀の机を囲んで座蒲団が四つ。 女中が火鉢に炭をついでゐる。 橋本夫人が現れる。 橋 …
公開状(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
畑中さん。 日本に於ける新劇開拓者の一人、そのあなたを、先づかう呼ばして下さい。 僕は、新劇協会の為めに、こゝで一つの苦言を呈したいと思ひます。あなたの才能と、あなたの勇気とに信頼 …
読書目安時間:約3分
畑中さん。 日本に於ける新劇開拓者の一人、そのあなたを、先づかう呼ばして下さい。 僕は、新劇協会の為めに、こゝで一つの苦言を呈したいと思ひます。あなたの才能と、あなたの勇気とに信頼 …
荒天吉日(新字旧仮名)
読書目安時間:約5時間47分
「荒天吉日」とは、別にたしかな出典のある言葉ではなく、ふと思ひついて、こんな標題にしたのである。読んで字の如く、天気が悪くてしかも目出たい日といふ意味、いはゆる神風の吹く日などは、 …
読書目安時間:約5時間47分
「荒天吉日」とは、別にたしかな出典のある言葉ではなく、ふと思ひついて、こんな標題にしたのである。読んで字の如く、天気が悪くてしかも目出たい日といふ意味、いはゆる神風の吹く日などは、 …
「国語文化講座」監修者の言葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
国語問題はもはや論議の時代を過ぎて、着着実践の時代にはひつてゐると云つていいが、私はなほこの問題の含む領域が一層広からんことを望んでゐる関係上、あらゆる方面に於ける意見が出つくして …
読書目安時間:約1分
国語問題はもはや論議の時代を過ぎて、着着実践の時代にはひつてゐると云つていいが、私はなほこの問題の含む領域が一層広からんことを望んでゐる関係上、あらゆる方面に於ける意見が出つくして …
コクトオの『声』その他を聴く(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
最近、仏蘭西版の新しい舞台のレコオドを幾枚か聴く機会を与へられた。 コクトオの「声」はベルト・ボヴィイといふ女優、ミルボオの「事業と事業」を例のフェロオヂイ、ラシイヌの「アンドロマ …
読書目安時間:約3分
最近、仏蘭西版の新しい舞台のレコオドを幾枚か聴く機会を与へられた。 コクトオの「声」はベルト・ボヴィイといふ女優、ミルボオの「事業と事業」を例のフェロオヂイ、ラシイヌの「アンドロマ …
国防と文化(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
いよいよ事態が切迫して来たやうであります。それに対して国を挙げての準備は整つてゐるでありませうか。 議会でも、質問を中止して、直ちに予算の審議にはいりました。 国家総力戦の真のすが …
読書目安時間:約11分
いよいよ事態が切迫して来たやうであります。それに対して国を挙げての準備は整つてゐるでありませうか。 議会でも、質問を中止して、直ちに予算の審議にはいりました。 国家総力戦の真のすが …
ここに弟あり(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
洪次郎 紅子 基一郎 東京市内のある裏通りで、玄関の二畳から奥の六畳へ是非とも茶の間を通つて行かねばならぬ不便な間取りの家。 座敷には瀬戸の丸火鉢が一つと、床の間にヴアイオリンのケ …
読書目安時間:約22分
洪次郎 紅子 基一郎 東京市内のある裏通りで、玄関の二畳から奥の六畳へ是非とも茶の間を通つて行かねばならぬ不便な間取りの家。 座敷には瀬戸の丸火鉢が一つと、床の間にヴアイオリンのケ …
心平かなり(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
不平があるなら云へといふことだが、不平を不平の形にして表はすのは如何にも芸のない話だと思ふから、近頃愉快なことだけを挙げて置かう。実を云ふと、さうする方が手取早くていゝ。 第一に、 …
読書目安時間:約1分
不平があるなら云へといふことだが、不平を不平の形にして表はすのは如何にも芸のない話だと思ふから、近頃愉快なことだけを挙げて置かう。実を云ふと、さうする方が手取早くていゝ。 第一に、 …
後日譚(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私が文芸春秋社特派員として北支へ行つたのは去年の十月であつた。往復をいれてわづか三週間といふ短い旅であつたが、当時、京漢線方面では、彰徳の攻撃がはじまる前であり、娘子関がまだ落ちず …
読書目安時間:約2分
私が文芸春秋社特派員として北支へ行つたのは去年の十月であつた。往復をいれてわづか三週間といふ短い旅であつたが、当時、京漢線方面では、彰徳の攻撃がはじまる前であり、娘子関がまだ落ちず …
言葉言葉言葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
——僕はあなた見たいな女が好きですよ。 ——さう?あたしも、あなた見たいな男が好き……。 ——へえ、それぢや、入れ代つたらよかつたなあ。 かういふ間違ひは、そんなに稀ではない。 頭 …
読書目安時間:約3分
——僕はあなた見たいな女が好きですよ。 ——さう?あたしも、あなた見たいな男が好き……。 ——へえ、それぢや、入れ代つたらよかつたなあ。 かういふ間違ひは、そんなに稀ではない。 頭 …
言葉の魅力:――女学校用国語読本のために――(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
言葉といふものは、書かれる場合と話される場合とで、余程性質が違つて来るものである。 書かれた言葉、即ち「文章」については、いろいろの研究や模範が示されてゐるが、「語られる言葉」即ち …
読書目安時間:約5分
言葉といふものは、書かれる場合と話される場合とで、余程性質が違つて来るものである。 書かれた言葉、即ち「文章」については、いろいろの研究や模範が示されてゐるが、「語られる言葉」即ち …
言葉の魅力[第一稿](新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
「言葉」といふものは、単に思想や感情を伝へる記号として、日常生活に欠くべからざるものであるばかりでなく、ある一人の使ふ「言葉」は、万人共通の意味をもつと同時に、その人に「固有にある …
読書目安時間:約11分
「言葉」といふものは、単に思想や感情を伝へる記号として、日常生活に欠くべからざるものであるばかりでなく、ある一人の使ふ「言葉」は、万人共通の意味をもつと同時に、その人に「固有にある …
この握りめし(新字新仮名)
読書目安時間:約28分
増田健次は復員すると間もなく警察官を志願し、今ではもう制服も身についた一人前の駐在さんになつていた。郷里は宮城県の田舎であるが、両親はもうなく、ずつと年の違う兄が後をついで僅かばか …
読書目安時間:約28分
増田健次は復員すると間もなく警察官を志願し、今ではもう制服も身についた一人前の駐在さんになつていた。郷里は宮城県の田舎であるが、両親はもうなく、ずつと年の違う兄が後をついで僅かばか …
コポオの弟子たち(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
今の日本ではさういふことはあるまいけれど、私が三十年前にパリへ出掛けた頃は、仏蘭西に於ける新しい演劇界の消息といふものは、かいもく見当がつかぬ有様であつた。 パリにつくと、めくらめ …
読書目安時間:約7分
今の日本ではさういふことはあるまいけれど、私が三十年前にパリへ出掛けた頃は、仏蘭西に於ける新しい演劇界の消息といふものは、かいもく見当がつかぬ有様であつた。 パリにつくと、めくらめ …
小山祐士君の『瀬戸内海の子供ら』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
小山君の戯曲家としての成長は、その階梯が極めて劃然とし、『翻るリボン』から、『十二月』、それからこの『瀬戸内海の子供ら』に至る最近の三作を通じて、見事な飛躍をなし、遂に、同君の今日 …
読書目安時間:約2分
小山君の戯曲家としての成長は、その階梯が極めて劃然とし、『翻るリボン』から、『十二月』、それからこの『瀬戸内海の子供ら』に至る最近の三作を通じて、見事な飛躍をなし、遂に、同君の今日 …
これからの戯曲(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
文学の一部門たる戯曲が文学の大勢に従はない訳はない。それで「これからの戯曲」といふ問題は「これからの文学」が如何なるものであるかを解決することによつて、自ら明らかになる訳であるが、 …
読書目安時間:約6分
文学の一部門たる戯曲が文学の大勢に従はない訳はない。それで「これからの戯曲」といふ問題は「これからの文学」が如何なるものであるかを解決することによつて、自ら明らかになる訳であるが、 …
是名優哉(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
男甲に扮する俳優 女乙に扮する女優 舞台は神戸のあるホテルの休憩室 男と女とが茶卓を挟んで向ひ合つてゐる。 男(煙草の煙を大きく吐き) たうとう日が暮れました。 あの船では、もう夕 …
読書目安時間:約12分
男甲に扮する俳優 女乙に扮する女優 舞台は神戸のあるホテルの休憩室 男と女とが茶卓を挟んで向ひ合つてゐる。 男(煙草の煙を大きく吐き) たうとう日が暮れました。 あの船では、もう夕 …
今月の感想:――文芸時評(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
雑誌を一度に隅から隅まで読むのは辛いから、私は、さういふ義務を負はない約束で、この文章を書くことにした。 私が今、拾ひあげたい問題といふのは、当節やはり一番人々の注意を集めてゐる日 …
読書目安時間:約9分
雑誌を一度に隅から隅まで読むのは辛いから、私は、さういふ義務を負はない約束で、この文章を書くことにした。 私が今、拾ひあげたい問題といふのは、当節やはり一番人々の注意を集めてゐる日 …
今度の出し物について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
岡田禎子さんの「クラス会」は、一読してこれはなかなか面白いものだと思つた。女ばかりの舞台といふ仕組みはともかく、女でなければ書けない心理と情景のニユアンスが、みごとに私を捉へた。女 …
読書目安時間:約2分
岡田禎子さんの「クラス会」は、一読してこれはなかなか面白いものだと思つた。女ばかりの舞台といふ仕組みはともかく、女でなければ書けない心理と情景のニユアンスが、みごとに私を捉へた。女 …
こんな俳優が欲しい(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
現在はいろいろな方面で人物払底が唱へられてゐる時代であるが、それだけにまた、全体のレヴェルがあがつてゐるのだと云へないこともあるまい。芝居の方面でも、新しい仕事を考へる場合に、多士 …
読書目安時間:約3分
現在はいろいろな方面で人物払底が唱へられてゐる時代であるが、それだけにまた、全体のレヴェルがあがつてゐるのだと云へないこともあるまい。芝居の方面でも、新しい仕事を考へる場合に、多士 …
最近の戯曲について(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
今年のことだけを取りたてゝいふ興味はもはやない。それと同時に、戯曲家総評のやうなものをやつても別に意味があらうとは思へぬ。私はたゞ、この機会に、最近の劇壇と、劇文学界との間に、どう …
読書目安時間:約10分
今年のことだけを取りたてゝいふ興味はもはやない。それと同時に、戯曲家総評のやうなものをやつても別に意味があらうとは思へぬ。私はたゞ、この機会に、最近の劇壇と、劇文学界との間に、どう …
歳月(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間1分
浜野計蔵の家の応接間。 隠退せる高級官吏の格式と、憲法発布前後笈を負つて都に上つた人物の趣味とを語る室内の調度——例へば、維新元勲の書、地球儀、コロオの複写、硝子箱入の京人形、蝶の …
読書目安時間:約1時間1分
浜野計蔵の家の応接間。 隠退せる高級官吏の格式と、憲法発布前後笈を負つて都に上つた人物の趣味とを語る室内の調度——例へば、維新元勲の書、地球儀、コロオの複写、硝子箱入の京人形、蝶の …
「歳月」前記(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
しばらく戯曲の創作から遠ざかつてゐると、近頃はまた戯曲が書いてみたくなつた。どうして戯曲を書かなくなつたのかと人からよく訊かれるが、別に深い理由があるわけではない。たゞ、すこし休ん …
読書目安時間:約3分
しばらく戯曲の創作から遠ざかつてゐると、近頃はまた戯曲が書いてみたくなつた。どうして戯曲を書かなくなつたのかと人からよく訊かれるが、別に深い理由があるわけではない。たゞ、すこし休ん …
作者の言葉(「牛山ホテル」の後に)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
この作品について私はなんべんも解説めいたものを書いたが、自分で自分の作品に註釈をつける必要があるとは思はない。それは常に読者に何かを強ひることになるからだ。 それゆゑ、この文章は、 …
読書目安時間:約2分
この作品について私はなんべんも解説めいたものを書いたが、自分で自分の作品に註釈をつける必要があるとは思はない。それは常に読者に何かを強ひることになるからだ。 それゆゑ、この文章は、 …
『桜の園』の思ひ出と印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
○一九二二年の暮れ、モスコオ芸術座の一行が初めて巴里を訪れ、シャン・ゼリゼエ劇場の大舞台で、その華々しい上演目録の中から、特に純露西亜の作品数篇を選んで、旅興行の蓋をあけた。 ○『 …
読書目安時間:約7分
○一九二二年の暮れ、モスコオ芸術座の一行が初めて巴里を訪れ、シャン・ゼリゼエ劇場の大舞台で、その華々しい上演目録の中から、特に純露西亜の作品数篇を選んで、旅興行の蓋をあけた。 ○『 …
左団次一行(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
歌舞伎劇を欧米の劇壇に紹介することは、たしかに有意義であり、その企てが案外容易に(実際はいろいろ困難もあつたらうが)果されたことは何よりよろこばしいが、露西亜の芸術家が、歌舞伎の実 …
読書目安時間:約3分
歌舞伎劇を欧米の劇壇に紹介することは、たしかに有意義であり、その企てが案外容易に(実際はいろいろ困難もあつたらうが)果されたことは何よりよろこばしいが、露西亜の芸術家が、歌舞伎の実 …
作家山本人間有三(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
「作は人なり」といふ言葉は、言ひ古された言葉だが、これは正面から解釈をすると当らぬ場合がある。作品の一つ一つを取つてみても、ある作家の作品全体についてみても、この人にしてこの作あり …
読書目安時間:約3分
「作は人なり」といふ言葉は、言ひ古された言葉だが、これは正面から解釈をすると当らぬ場合がある。作品の一つ一つを取つてみても、ある作家の作品全体についてみても、この人にしてこの作あり …
五月晴れ(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
大庭悠吉三十一 同空子二十三 女中かな二十 児玉的外五十六 同初男十 新聞配達二十一 五月末の日曜日昼近く 東京郊外のどんづまり 大庭悠吉の住居——新しい文化住宅 舞台正面は座敷の …
読書目安時間:約21分
大庭悠吉三十一 同空子二十三 女中かな二十 児玉的外五十六 同初男十 新聞配達二十一 五月末の日曜日昼近く 東京郊外のどんづまり 大庭悠吉の住居——新しい文化住宅 舞台正面は座敷の …
「昨今横浜異聞」この集を編むについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
今日まで活字として発表した戯曲のうち、凡そ半数は大小の劇場で脚光を浴びた。上演されたもの、必ずしも自信のあるものではなく、上演の成績も常に満足とばかりは云へないが、自分の作品を通じ …
読書目安時間:約1分
今日まで活字として発表した戯曲のうち、凡そ半数は大小の劇場で脚光を浴びた。上演されたもの、必ずしも自信のあるものではなく、上演の成績も常に満足とばかりは云へないが、自分の作品を通じ …
昨今横浜異聞(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
人物 田代三夫 同ぬい子 劉鯤 瑩芳 舞台は、横浜郊外にある田代三夫の家の応接間。 外人の設計になる瀟洒なヴィラを、特別の事情で安く借り受け、愛妻ぬい子と二人きりで、結婚後三年の今 …
読書目安時間:約19分
人物 田代三夫 同ぬい子 劉鯤 瑩芳 舞台は、横浜郊外にある田代三夫の家の応接間。 外人の設計になる瀟洒なヴィラを、特別の事情で安く借り受け、愛妻ぬい子と二人きりで、結婚後三年の今 …
『猿・鹿・熊』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
この本の著者と私は一面識があるといふだけで、それほど深い交渉はないのだけれども、かねがね地方における篤学篤行の士であることは聞き及んでいた。 たまたま今度、本書の出版にあたって、私 …
読書目安時間:約2分
この本の著者と私は一面識があるといふだけで、それほど深い交渉はないのだけれども、かねがね地方における篤学篤行の士であることは聞き及んでいた。 たまたま今度、本書の出版にあたって、私 …
沢氏の二人娘(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間2分
沢一寿 悦子その長女 愛子その次女 奥井らく家政婦 桃枝その子 神谷則武輸入商 田所理吉船員、悦子等の亡兄の友人 東京——昭和年代某カトリツク療養院の事務長、元副領事、沢一寿(五十 …
読書目安時間:約1時間2分
沢一寿 悦子その長女 愛子その次女 奥井らく家政婦 桃枝その子 神谷則武輸入商 田所理吉船員、悦子等の亡兄の友人 東京——昭和年代某カトリツク療養院の事務長、元副領事、沢一寿(五十 …
三八年の女性はかく生きよ!(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
事変が起ると同時に、各婦人団体の活躍が急にめざましくなり、何々婦人会の襷をかけた婦人達が、出征兵士の送迎に慰問に飛び歩いてゐるのは、一応婦人の国家的自覚のあらはれとして結構なことゝ …
読書目安時間:約4分
事変が起ると同時に、各婦人団体の活躍が急にめざましくなり、何々婦人会の襷をかけた婦人達が、出征兵士の送迎に慰問に飛び歩いてゐるのは、一応婦人の国家的自覚のあらはれとして結構なことゝ …
サン・ジョルジュ・ド・ブウエリエについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
「わたくしは、ただ、自分の欲求に従ひ、只管霊感に耳を傾けて、劇作の筆を取り始めました。流行の誤れる趣味、因襲の命ずる手段術策はこれを顧みる気にさへならなかつたのです。わたくしは、た …
読書目安時間:約7分
「わたくしは、ただ、自分の欲求に従ひ、只管霊感に耳を傾けて、劇作の筆を取り始めました。流行の誤れる趣味、因襲の命ずる手段術策はこれを顧みる気にさへならなかつたのです。わたくしは、た …
「サント・ブウヴ選集」推薦の言葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
批評は科学でもあり芸術でもあるといふ意味に於て、サント・ブウヴは正に批評家の典型である。批評の対照は彼によつて概ね例外なく鋭いメスを加へられ、そして、隠れた美質をつまみ出された。フ …
読書目安時間:約1分
批評は科学でもあり芸術でもあるといふ意味に於て、サント・ブウヴは正に批評家の典型である。批評の対照は彼によつて概ね例外なく鋭いメスを加へられ、そして、隠れた美質をつまみ出された。フ …
「詩歌の午後」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私が詩歌の朗読について考へはじめたのは、ずゐぶん久しい前からである。 日本人は詩歌を愛する国民として、他の如何なる国民にも劣らないのに、その詩歌の精神が、近頃どういふものか、われわ …
読書目安時間:約4分
私が詩歌の朗読について考へはじめたのは、ずゐぶん久しい前からである。 日本人は詩歌を愛する国民として、他の如何なる国民にも劣らないのに、その詩歌の精神が、近頃どういふものか、われわ …
ジイクフリードについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ジロオドウウの戯曲は、その取材と云ひ、構想と云ひ、殊にその文体の一種独特な調子と云ひ、まさに現代フランス劇壇に齎らされた文字通りの新風である。 それはなによりも現代を呼吸する生活人 …
読書目安時間:約2分
ジロオドウウの戯曲は、その取材と云ひ、構想と云ひ、殊にその文体の一種独特な調子と云ひ、まさに現代フランス劇壇に齎らされた文字通りの新風である。 それはなによりも現代を呼吸する生活人 …
椎茸と雄弁(新字旧仮名)
読書目安時間:約42分
舞台は全体を通じ黒無地の幕を背景とし、人物の動きを規定する最小限の小道具を暗示的に配置する。 各場面の転換は暗転式とし、装置にはなんらの変更を加へず、時間の無意味な断絶を避ける。 …
読書目安時間:約42分
舞台は全体を通じ黒無地の幕を背景とし、人物の動きを規定する最小限の小道具を暗示的に配置する。 各場面の転換は暗転式とし、装置にはなんらの変更を加へず、時間の無意味な断絶を避ける。 …
ジーブルグ著「神はフランスにゐるか」(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
フランスについて語られた書物のうち、これほど公平にフランスを観、批評したものは、これまでにも少くはないかと思ふ。しかもそれがドイツ人の手になつたものであるところが面白く、嘗てスタア …
読書目安時間:約1分
フランスについて語られた書物のうち、これほど公平にフランスを観、批評したものは、これまでにも少くはないかと思ふ。しかもそれがドイツ人の手になつたものであるところが面白く、嘗てスタア …
支那人研究(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
私は近頃支那人について語られてゐる文章を読む機会が多いのであるが、やはり永く支那にゐて親しく彼地の人々と接した経験が土台になつてゐるやうな意見には、なかなか傾聴すべきものが多い。 …
読書目安時間:約6分
私は近頃支那人について語られてゐる文章を読む機会が多いのであるが、やはり永く支那にゐて親しく彼地の人々と接した経験が土台になつてゐるやうな意見には、なかなか傾聴すべきものが多い。 …
芝居と見物:売笑的舞台への攻撃(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
現代日本の文化は、いろいろの部門に於て、もつと厳密な批判が加へられなければならぬと思ふが、私は、社会的に観て、最も時代の空気を反映すると考へられる演劇の立場から、この現状の憂ふべき …
読書目安時間:約4分
現代日本の文化は、いろいろの部門に於て、もつと厳密な批判が加へられなければならぬと思ふが、私は、社会的に観て、最も時代の空気を反映すると考へられる演劇の立場から、この現状の憂ふべき …
芝居と生活(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
「芝居と生活」といふ題をつけましたが、これは非常に突嗟に付けたのでありまして、かういふ表題なら何ういふことでも喋れるだらうと思つたからです。 元来、言葉といふものは時代が進むに従つ …
読書目安時間:約11分
「芝居と生活」といふ題をつけましたが、これは非常に突嗟に付けたのでありまして、かういふ表題なら何ういふことでも喋れるだらうと思つたからです。 元来、言葉といふものは時代が進むに従つ …
芝居と僕(新字旧仮名)
読書目安時間:約39分
今更回顧談でもないが、今度「現代演劇論」といふ本を出したあとで、僕は、なんだかこれで一と役すましたといふ気がふとしたことは事実である。これからまだあとにどんな役がひかへてゐるにせよ …
読書目安時間:約39分
今更回顧談でもないが、今度「現代演劇論」といふ本を出したあとで、僕は、なんだかこれで一と役すましたといふ気がふとしたことは事実である。これからまだあとにどんな役がひかへてゐるにせよ …
暫く黙せしめよ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
芝居のことについて、今、何も云ふ気にならぬ。根のひからびた樹木がある。枝をためて何にならう。 優れた戯曲がぼつぼつ眼にふれる。楽しいが、淋しい。時代は進みつゝあるに違ひない。来るべ …
読書目安時間:約2分
芝居のことについて、今、何も云ふ気にならぬ。根のひからびた樹木がある。枝をためて何にならう。 優れた戯曲がぼつぼつ眼にふれる。楽しいが、淋しい。時代は進みつゝあるに違ひない。来るべ …
強ひられた感想(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな …
読書目安時間:約4分
文学といふものを専門的なものと考へる理由は十分にあるが、また、これを専門的なものではないと考へる一面がある筈である。 専門家にしか興味のないやうな文学と、専門家には興味がないやうな …
事変記念日(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
事変は遂にまる二年続いた。まだ何時終るかわからぬ。次ぎ次ぎに新しい事態が発生する。予期したところとは云へ、国民はその都度、別に顔色を変へない。なんとかうまく行くものと思つてゐる。何 …
読書目安時間:約2分
事変は遂にまる二年続いた。まだ何時終るかわからぬ。次ぎ次ぎに新しい事態が発生する。予期したところとは云へ、国民はその都度、別に顔色を変へない。なんとかうまく行くものと思つてゐる。何 …
事変第三年を迎へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
感想をもとめられて、今、私は改めて云ふこともないが、国民の一人として、今年こそは東亜の天地に黎明がおとづれることを祈るものである。 もちろん、戦さの長びくのは止むを得ない。しかし、 …
読書目安時間:約3分
感想をもとめられて、今、私は改めて云ふこともないが、国民の一人として、今年こそは東亜の天地に黎明がおとづれることを祈るものである。 もちろん、戦さの長びくのは止むを得ない。しかし、 …
島国的僻見(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
日本がだんだん欧米化しつゝあるといふ見方は、或る意味で肯首できるけれども、それを悦ぶものも、それを嘆くものも、もう一段高い処から見て、総ての民族が世界化しつゝあるのだと思へば、人類 …
読書目安時間:約6分
日本がだんだん欧米化しつゝあるといふ見方は、或る意味で肯首できるけれども、それを悦ぶものも、それを嘆くものも、もう一段高い処から見て、総ての民族が世界化しつゝあるのだと思へば、人類 …
自問自答:――所謂「新感覚派」の為めに――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は未だ嘗て「余は新感覚派なり」と自称した覚えはない。また、人が「彼らは新感覚派をうち立てようと努力してゐる」と云ふのに対して、「然り」と云つた覚えもない。 処で、最近、新聞や何か …
読書目安時間:約3分
僕は未だ嘗て「余は新感覚派なり」と自称した覚えはない。また、人が「彼らは新感覚派をうち立てようと努力してゐる」と云ふのに対して、「然り」と云つた覚えもない。 処で、最近、新聞や何か …
写真(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
人物 三好大尉 三好夫人 女中 隣の細君 忠坊 東京の郊外——初秋の午後。 三好大尉の家——庭に面した八畳の座敷。 縁先に腰をかけ、一心に写真ブツクの写真に見入つてゐるのが隣の細君 …
読書目安時間:約15分
人物 三好大尉 三好夫人 女中 隣の細君 忠坊 東京の郊外——初秋の午後。 三好大尉の家——庭に面した八畳の座敷。 縁先に腰をかけ、一心に写真ブツクの写真に見入つてゐるのが隣の細君 …
ジャック・コポオの印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
人を訪ねるといふことが非常に憶劫なたちなので、コポオに会ひたいと思ひながら、いよいよその方法を講じる決心をつけるまで凡そ半年もかかつてゐる。 はじめ、アール・エ・アクシオンのララ夫 …
読書目安時間:約6分
人を訪ねるといふことが非常に憶劫なたちなので、コポオに会ひたいと思ひながら、いよいよその方法を講じる決心をつけるまで凡そ半年もかかつてゐる。 はじめ、アール・エ・アクシオンのララ夫 …
シャルル・ヴィルドラックについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「演劇の本質は、古来の劇的天才が、その不朽の作品中に遺憾なく之を盛つてゐる。吾々は、その本質を探求吟味して、之を完全に舞台の上に活かし、あらゆる不純な分子を斥けて、真に演劇の光輝と …
読書目安時間:約2分
「演劇の本質は、古来の劇的天才が、その不朽の作品中に遺憾なく之を盛つてゐる。吾々は、その本質を探求吟味して、之を完全に舞台の上に活かし、あらゆる不純な分子を斥けて、真に演劇の光輝と …
ジヤン・コクトオ作「恐るべき子供たち」(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
日本の「若い時代」が、ジヤン・コクトオを愛読しはじめた。現代仏蘭西の生んだ、この驚くべき才能は、世界の隅々に、多くの模倣者を出しつゝあるやうである。模倣者に罪はない。ジヤン・コクト …
読書目安時間:約2分
日本の「若い時代」が、ジヤン・コクトオを愛読しはじめた。現代仏蘭西の生んだ、この驚くべき才能は、世界の隅々に、多くの模倣者を出しつゝあるやうである。模倣者に罪はない。ジヤン・コクト …
上海で戦死した友田恭助君(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
友田君の初舞台は新劇協会だが築地小劇場が出来て其メムバーになつたのが大体新劇俳優としてのハツキリした出発点である。友田君の存在が新劇界で重要なものになつたのは小劇場の分裂に際して左 …
読書目安時間:約2分
友田君の初舞台は新劇協会だが築地小劇場が出来て其メムバーになつたのが大体新劇俳優としてのハツキリした出発点である。友田君の存在が新劇界で重要なものになつたのは小劇場の分裂に際して左 …
シュアレスの「三人」(宮崎嶺雄君訳)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私は嘗て、シュアレスを知るために、そして同時に、フランス人の観たイプセンなるものを注意するために、この『Trois Hommes』を読んだ。 近代劇の始祖といふ名で、また、深刻な思 …
読書目安時間:約2分
私は嘗て、シュアレスを知るために、そして同時に、フランス人の観たイプセンなるものを注意するために、この『Trois Hommes』を読んだ。 近代劇の始祖といふ名で、また、深刻な思 …
周囲に聴く(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
新劇を繞る論議 近頃芝居に関する諸家の意見といふやうなものを瞥見すると、いろいろ興味のある問題が含まれてゐるやうである。が、それらの問題をいちいち取り上げて批判論議を試みるといふこ …
読書目安時間:約9分
新劇を繞る論議 近頃芝居に関する諸家の意見といふやうなものを瞥見すると、いろいろ興味のある問題が含まれてゐるやうである。が、それらの問題をいちいち取り上げて批判論議を試みるといふこ …
驟雨(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約34分
人物 朋子 譲 恒子 家政婦 時六月の午後 所洋風の客間を兼ねた書斎 朋子が割烹着を脱ぎながら、慌ただしくはひつて来る。その後から、家政婦が、何か云ひたさうにしてついて来る。 朋子 …
読書目安時間:約34分
人物 朋子 譲 恒子 家政婦 時六月の午後 所洋風の客間を兼ねた書斎 朋子が割烹着を脱ぎながら、慌ただしくはひつて来る。その後から、家政婦が、何か云ひたさうにしてついて来る。 朋子 …
宗教と科学についての所感(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
宗教について 宗派をどうするとか、宗教団体を再編成するとかいふことについては、実際の事情をまだ知らないから現在なんにも考へてはをりませんが、宗教心——所謂宗教的感情といふものがこの …
読書目安時間:約10分
宗教について 宗派をどうするとか、宗教団体を再編成するとかいふことについては、実際の事情をまだ知らないから現在なんにも考へてはをりませんが、宗教心——所謂宗教的感情といふものがこの …
従軍五十日(新字旧仮名)
読書目安時間:約2時間35分
前記 この記録は昨年九月から十月にかけて、いはゆる「従軍作家」の一人として中支戦線のところどころを視察した結果、生れたものであるが、もともとこの種のノートを発表することによつてわれ …
読書目安時間:約2時間35分
前記 この記録は昨年九月から十月にかけて、いはゆる「従軍作家」の一人として中支戦線のところどころを視察した結果、生れたものであるが、もともとこの種のノートを発表することによつてわれ …
十五年(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
私たちが文学座をはじめてから、なるほどもう十五年たつわけであるが、それだけの成長をしたかどうか、このへんで厳しい自己批判を加えてもよさそうである。 なるほど、個人的には、いくたりか …
読書目安時間:約2分
私たちが文学座をはじめてから、なるほどもう十五年たつわけであるが、それだけの成長をしたかどうか、このへんで厳しい自己批判を加えてもよさそうである。 なるほど、個人的には、いくたりか …
『十二月』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
これは本誌(前同)四月号の頁をあらまし占領した小山祐士君の力作だ。前に、川口、伊賀山両君の大作といひ、当今、百枚に余る作品を自由に発表し得る幸運は、劇作同人諸君に限り与へられてゐる …
読書目安時間:約2分
これは本誌(前同)四月号の頁をあらまし占領した小山祐士君の力作だ。前に、川口、伊賀山両君の大作といひ、当今、百枚に余る作品を自由に発表し得る幸運は、劇作同人諸君に限り与へられてゐる …
十二月的感想(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は平生毛筆を使はない。墨をするのが面倒なのと、硯箱が場所を取るからである。それよりも第一、手が自由に動かない厄介さを知つてゐるからであらう。 私はまた万年筆を好まない。ペン先をイ …
読書目安時間:約4分
私は平生毛筆を使はない。墨をするのが面倒なのと、硯箱が場所を取るからである。それよりも第一、手が自由に動かない厄介さを知つてゐるからであらう。 私はまた万年筆を好まない。ペン先をイ …
十年の足跡(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
文学座の歴史はまだ十年であるが、かういふ性質の劇団で十年の一貫した歴史をもつことはまづ珍しい部類に属すると思ふ。 文学座はその間になにをしたか。どんな仕事を残したか。私は直接責任あ …
読書目安時間:約2分
文学座の歴史はまだ十年であるが、かういふ性質の劇団で十年の一貫した歴史をもつことはまづ珍しい部類に属すると思ふ。 文学座はその間になにをしたか。どんな仕事を残したか。私は直接責任あ …
ジュウル・ルナアル(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
劇作家としてのジュウル・ルナアルを識る前に、詩人としての——芸術家としてのルナアルを識らなければならない。 彼は自ら称する如く、「幻象」の猟人である。自然を愛し、自然を味ひ、自然を …
読書目安時間:約9分
劇作家としてのジュウル・ルナアルを識る前に、詩人としての——芸術家としてのルナアルを識らなければならない。 彼は自ら称する如く、「幻象」の猟人である。自然を愛し、自然を味ひ、自然を …
述懐(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
真夜なかにふと眼が覚めた。パリの下宿の一室である。どうして眼が覚めたのか、と、その瞬間、自分にもわからなかつた。夢を見てゐたやうな気もするが、どんな夢か覚えてゐない。たゞ妙に口の中 …
読書目安時間:約9分
真夜なかにふと眼が覚めた。パリの下宿の一室である。どうして眼が覚めたのか、と、その瞬間、自分にもわからなかつた。夢を見てゐたやうな気もするが、どんな夢か覚えてゐない。たゞ妙に口の中 …
出発点(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
築地小劇場の「夜の宿」を観て「これは佳い」と思つた、「本もの」だと思つた。 第一に脚本が佳い、第二に「演出者」の理解が行届いてゐる、第三に翻訳が立派だ、第四に俳優が真面目だ。 第一 …
読書目安時間:約1分
築地小劇場の「夜の宿」を観て「これは佳い」と思つた、「本もの」だと思つた。 第一に脚本が佳い、第二に「演出者」の理解が行届いてゐる、第三に翻訳が立派だ、第四に俳優が真面目だ。 第一 …
「趣味」の草原へ:――「アナトオル・フランス短篇小説全集」推薦の辞――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
人間が生涯のうちで少くとも一度か二度は精神の遊びを試むべき「趣味」の草原へこの作家ほど自然に人を導き入れる作家がほかにあらうか。 機智や皮肉を軽蔑するのはいゝ。だが、フランスの寛容 …
読書目安時間:約1分
人間が生涯のうちで少くとも一度か二度は精神の遊びを試むべき「趣味」の草原へこの作家ほど自然に人を導き入れる作家がほかにあらうか。 機智や皮肉を軽蔑するのはいゝ。だが、フランスの寛容 …
春日雑記(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
去年の秋からどうもからだの調子がわるく、新聞の仕事があつたので、用心して入院したり転地したりした。 話をするとどうもいけない。それでなるべく人にも会はず、会つても向うにばかり話をさ …
読書目安時間:約4分
去年の秋からどうもからだの調子がわるく、新聞の仕事があつたので、用心して入院したり転地したりした。 話をするとどうもいけない。それでなるべく人にも会はず、会つても向うにばかり話をさ …
春秋座の「父帰る」(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
菊池氏の作品を実際舞台の上で見るのは、「忠直卿行状記」の脚色されたものを除いて、今度、本郷座にかゝつてゐる「浦の苫屋」と、それから、明治座の「父帰る」がはじめてである。 「父帰る」 …
読書目安時間:約4分
菊池氏の作品を実際舞台の上で見るのは、「忠直卿行状記」の脚色されたものを除いて、今度、本郷座にかゝつてゐる「浦の苫屋」と、それから、明治座の「父帰る」がはじめてである。 「父帰る」 …
純粋演劇の問題:――わが新劇壇に寄す――(新字旧仮名)
読書目安時間:約24分
あらゆる芸術の部門を通じて演劇の理論といふものは、特にこれを実際に「試み」る機会が少く、従つて、その理論に確乎たる根柢を築くのに容易でない事情にある。 所謂「近代劇運動」の史的考察 …
読書目安時間:約24分
あらゆる芸術の部門を通じて演劇の理論といふものは、特にこれを実際に「試み」る機会が少く、従つて、その理論に確乎たる根柢を築くのに容易でない事情にある。 所謂「近代劇運動」の史的考察 …
純粋戯曲への道(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
矢代静一君の城館をみて、私は非常に新鮮なものと、極めてゆたかな才能の開花のようなものを認めた。 その新鮮さには戯曲形式への不敵な挑戦が感じられ、テーマの上でも、構成の上でも、また、 …
読書目安時間:約2分
矢代静一君の城館をみて、私は非常に新鮮なものと、極めてゆたかな才能の開花のようなものを認めた。 その新鮮さには戯曲形式への不敵な挑戦が感じられ、テーマの上でも、構成の上でも、また、 …
上演目録(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は嘗て、築地小劇場の上演目録について希望を述べたことがある。今度また、新劇協会が文芸部を設けたについて、その点に触れた一文を草した。 偶々、先日帝大劇講演会に列して、林和氏の講演 …
読書目安時間:約3分
僕は嘗て、築地小劇場の上演目録について希望を述べたことがある。今度また、新劇協会が文芸部を設けたについて、その点に触れた一文を草した。 偶々、先日帝大劇講演会に列して、林和氏の講演 …
上演料の話(仏蘭西)(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
「フィガロの結婚」は連続七十三回の上演で、作者ボオマルシェの収入が八万九千法。 千九百十年の調査によると、仏国劇作家協会は正会員四百、準会員四千、そのうち、重なる劇作家五百人の中、 …
読書目安時間:約3分
「フィガロの結婚」は連続七十三回の上演で、作者ボオマルシェの収入が八万九千法。 千九百十年の調査によると、仏国劇作家協会は正会員四百、準会員四千、そのうち、重なる劇作家五百人の中、 …
小劇場記念公演:「ハムレット」を観る(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
シェイクスピイヤ作、坪内逍遥博士訳「ハムレット」五幕二十場の演出である。 番付を見るとかう書いてある—— 「ハムレット劇の全曲上演といふことは、沙翁時代を去つて以来、世界の舞台で嘗 …
読書目安時間:約3分
シェイクスピイヤ作、坪内逍遥博士訳「ハムレット」五幕二十場の演出である。 番付を見るとかう書いてある—— 「ハムレット劇の全曲上演といふことは、沙翁時代を去つて以来、世界の舞台で嘗 …
「娼婦マヤ」評(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ギャンチヨンの戯曲「マヤ」は、もう、フランス劇壇の独占物ではなく、世界の舞台の演目のなかに数へられる傑作の一つとなつた。 娼婦マヤの肉体と精神は、作者ギャンチヨンの青春の夢を宿して …
読書目安時間:約1分
ギャンチヨンの戯曲「マヤ」は、もう、フランス劇壇の独占物ではなく、世界の舞台の演目のなかに数へられる傑作の一つとなつた。 娼婦マヤの肉体と精神は、作者ギャンチヨンの青春の夢を宿して …
昭和十年度劇界への指針(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
拝復 別に新しい意見でもありませんが、小生の持論を要約します。 一、歌舞伎劇は旧きが故に、純化されたるが故に善いのであつて、これを現代向きに、或は、通俗的にしてしまつては切角の値打 …
読書目安時間:約4分
拝復 別に新しい意見でもありませんが、小生の持論を要約します。 一、歌舞伎劇は旧きが故に、純化されたるが故に善いのであつて、これを現代向きに、或は、通俗的にしてしまつては切角の値打 …
昭和の劇文学の全貌(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
元来、戯曲は舞台で演ぜられるために書かれたものであるが、活字として読まれることも今日では考へなくてはならない。 戯曲作家は、さういふ理由から、いつでも自分の作品を、この二つの発表形 …
読書目安時間:約2分
元来、戯曲は舞台で演ぜられるために書かれたものであるが、活字として読まれることも今日では考へなくてはならない。 戯曲作家は、さういふ理由から、いつでも自分の作品を、この二つの発表形 …
職業(教訓劇)(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
ある新劇団の稽古場。 正面に黒の無地幕。部屋の中央に一脚のベンチ。ほかの家具類は悉く片隅に寄せてある。そこには、椅子卓子などの外に、若干の小道具——乳母車、バケツ、洋刀、パラソル、 …
読書目安時間:約22分
ある新劇団の稽古場。 正面に黒の無地幕。部屋の中央に一脚のベンチ。ほかの家具類は悉く片隅に寄せてある。そこには、椅子卓子などの外に、若干の小道具——乳母車、バケツ、洋刀、パラソル、 …
女性の力(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私は最近、ある本を読んで非常に感動をうけた。それは長島癩療養所勤務の女医小川正子さんの手記「小島の春」といふ本である。 瀬戸内海に近い方の田舎にはまだ医療の手の届かない癩患者が多数 …
読書目安時間:約2分
私は最近、ある本を読んで非常に感動をうけた。それは長島癩療養所勤務の女医小川正子さんの手記「小島の春」といふ本である。 瀬戸内海に近い方の田舎にはまだ医療の手の届かない癩患者が多数 …
女性風俗時評(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
女の間に「キミ」「ボク」といふ言葉が流行してゐる。女同士の会話には非常にはやつてゐるのだが、さすがにまだ男と女との会話には余り出て来ない。もつとも男とそんな風な会話をするやうな女性 …
読書目安時間:約1分
女の間に「キミ」「ボク」といふ言葉が流行してゐる。女同士の会話には非常にはやつてゐるのだが、さすがにまだ男と女との会話には余り出て来ない。もつとも男とそんな風な会話をするやうな女性 …
女性へ 1(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私はこの事変以来、全日本の女性の祈願を日夜、胸の底に聴き、彼女たちが、歴史上いまだかつて見ないこの民族の大試煉に堪へる力のみが、やがて祖国日本を救ふであらうと固く信じてゐるのである …
読書目安時間:約2分
私はこの事変以来、全日本の女性の祈願を日夜、胸の底に聴き、彼女たちが、歴史上いまだかつて見ないこの民族の大試煉に堪へる力のみが、やがて祖国日本を救ふであらうと固く信じてゐるのである …
女性へ 2(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
昔から男勝りといふ言葉がある。今やわが日本の全女性は、一人のこらず男勝りになつてもらはねばならぬ。女性には適しないと思はれてゐる仕事でも、よくその仕事の性質を吟味してみると、それは …
読書目安時間:約3分
昔から男勝りといふ言葉がある。今やわが日本の全女性は、一人のこらず男勝りになつてもらはねばならぬ。女性には適しないと思はれてゐる仕事でも、よくその仕事の性質を吟味してみると、それは …
序文(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
マルセル・プルウスト四十六 アンリ・モルビエ三十四 ジャック・グランジュ五十二 看護婦二十五 下男四十 巴里——プルウストの病室 プルウストは、寝台の上に半身を起し、看護婦に脈を取 …
読書目安時間:約21分
マルセル・プルウスト四十六 アンリ・モルビエ三十四 ジャック・グランジュ五十二 看護婦二十五 下男四十 巴里——プルウストの病室 プルウストは、寝台の上に半身を起し、看護婦に脈を取 …
「序文」まへがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
この四篇を特に撰んでくれたのは、私の若い友人内村直也君であるが、戦後ほかから出版された戯曲集と重複しないやうにといふ配慮のほかに、私の全作品を通じて、それぞれ異つた傾向を示すものを …
読書目安時間:約3分
この四篇を特に撰んでくれたのは、私の若い友人内村直也君であるが、戦後ほかから出版された戯曲集と重複しないやうにといふ配慮のほかに、私の全作品を通じて、それぞれ異つた傾向を示すものを …
女優と劇作家(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
劇作家が自分の恋人を其の作品の女主人公にすることは、極めて有り得べきことである。しかしまた、或る作品の女主人公に扮した女優が、その作品の作者と恋愛関係に陥ることも稀ではない。なほま …
読書目安時間:約11分
劇作家が自分の恋人を其の作品の女主人公にすることは、極めて有り得べきことである。しかしまた、或る作品の女主人公に扮した女優が、その作品の作者と恋愛関係に陥ることも稀ではない。なほま …
女優の親(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
三島由紀夫君の戯曲『夜の向日葵』を読んだときには、これを、文学座の本公演でやるのは、ちよつと無理じやないか、観客がついて来ないのじやないかと心配した。——それは作品の責任ばかりでは …
読書目安時間:約7分
三島由紀夫君の戯曲『夜の向日葵』を読んだときには、これを、文学座の本公演でやるのは、ちよつと無理じやないか、観客がついて来ないのじやないかと心配した。——それは作品の責任ばかりでは …
女優リイヌ・ノロのこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
最近 LAssommoir といふ仏蘭西の発声映画を見る機会を得た。ゾラの小説を可なり忠実に脚色したものであり、画面全体は、例の自然主義的ロスリイに堕してはゐるが、出演俳優が悉く仏 …
読書目安時間:約4分
最近 LAssommoir といふ仏蘭西の発声映画を見る機会を得た。ゾラの小説を可なり忠実に脚色したものであり、画面全体は、例の自然主義的ロスリイに堕してはゐるが、出演俳優が悉く仏 …
ジヨルジュ・クウルトリイヌに就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
劇作家としてのクウルトリイヌは、既にその仕事ををはつてゐるやうに思はれる。しかしながら今日までに彼がなし遂げた業績は、仏蘭西戯曲史上重要な頁を占めるべきものであらう。 一千八百六十 …
読書目安時間:約3分
劇作家としてのクウルトリイヌは、既にその仕事ををはつてゐるやうに思はれる。しかしながら今日までに彼がなし遂げた業績は、仏蘭西戯曲史上重要な頁を占めるべきものであらう。 一千八百六十 …
『シラノ』雑感(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
二月の帝劇で左団次一派が『シラノ・ド・ベルジユラツク』を出すといふ、先年沢田正二郎が翻案白野弁十郎を演つた時、原作の面影がどれほど伝へられたかは知らぬが、今度は時間の関係で多少のカ …
読書目安時間:約5分
二月の帝劇で左団次一派が『シラノ・ド・ベルジユラツク』を出すといふ、先年沢田正二郎が翻案白野弁十郎を演つた時、原作の面影がどれほど伝へられたかは知らぬが、今度は時間の関係で多少のカ …
素面の管(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
文学を愉しむ文学者の少いことは一体わが国の誇りですか。 あれではいけない、これではいけない——まあ、なんといふ気むづかしい連中の寄合だらう。 それもいゝさ。批評家などゝいふものは、 …
読書目安時間:約9分
文学を愉しむ文学者の少いことは一体わが国の誇りですか。 あれではいけない、これではいけない——まあ、なんといふ気むづかしい連中の寄合だらう。 それもいゝさ。批評家などゝいふものは、 …
「白い蛇、赤い蛇」(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
舟橋聖一氏長篇小説「白い蛇、赤い蛇」は新聞の連載小説として書かれたものだが、なるほどこれなら、大概の読者を満足させることに成功したであらう。 作者は必ずしも通俗味をねらつてはゐない …
読書目安時間:約2分
舟橋聖一氏長篇小説「白い蛇、赤い蛇」は新聞の連載小説として書かれたものだが、なるほどこれなら、大概の読者を満足させることに成功したであらう。 作者は必ずしも通俗味をねらつてはゐない …
『素人演劇運動の理念と方策』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
素人演劇には良いものと悪いものとがある。良いわるいは何を標準にしてきめるかと云へば、決して素人芸のいはゆる「上手下手」ではない。「素人ばなれがしてゐる」とか、「玄人はだしだ」とかい …
読書目安時間:約2分
素人演劇には良いものと悪いものとがある。良いわるいは何を標準にしてきめるかと云へば、決して素人芸のいはゆる「上手下手」ではない。「素人ばなれがしてゐる」とか、「玄人はだしだ」とかい …
『素人演劇講座』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
素人演劇が特に近頃盛んになりつゝある理由は、いろいろ考へられるけれども、私は、この傾向の一面として、勤労と娯楽との問題が生産部門に於て真剣に取りあげられつゝあることを見逃し得ないと …
読書目安時間:約2分
素人演劇が特に近頃盛んになりつゝある理由は、いろいろ考へられるけれども、私は、この傾向の一面として、勤労と娯楽との問題が生産部門に於て真剣に取りあげられつゝあることを見逃し得ないと …
新協劇団を観る(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
有楽座の「千万人と雖も我行かん」は上演を期待してゐたもので、今度新劇協同公演といふ興味のある企画の下に、この久板栄次郎君の力作がとりあげられたことは当然であると思ふ。 この作品は以 …
読書目安時間:約3分
有楽座の「千万人と雖も我行かん」は上演を期待してゐたもので、今度新劇協同公演といふ興味のある企画の下に、この久板栄次郎君の力作がとりあげられたことは当然であると思ふ。 この作品は以 …
新劇運動の一考察(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
僕は嘗て、今日われわれが「新劇運動」と称へるべきものは、明かに所謂近代劇運動なるものと区別して考へなければならないことを述べた。 現代の日本に於て、この二つが、殆ど同様の意味に用ひ …
読書目安時間:約13分
僕は嘗て、今日われわれが「新劇運動」と称へるべきものは、明かに所謂近代劇運動なるものと区別して考へなければならないことを述べた。 現代の日本に於て、この二つが、殆ど同様の意味に用ひ …
新劇運動の二つの道(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
「新劇運動」といふ言葉の意味は様々に用ひられてゐる。それは、しかしながら、常に、所謂「新劇」といふ言葉の内容から生じる区別であると同時に、「運動」なるものゝ本来の性質が極めて漠然と …
読書目安時間:約5分
「新劇運動」といふ言葉の意味は様々に用ひられてゐる。それは、しかしながら、常に、所謂「新劇」といふ言葉の内容から生じる区別であると同時に、「運動」なるものゝ本来の性質が極めて漠然と …
新劇界の昨今(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
十年前(つまり震災直後)の新劇界は、戯曲の方面から見ても舞台の実際運動の方面から見ても、確かに華やかな時代であつたといへるが、その時代は新劇といふものは、まだ西洋劇あつての新劇であ …
読書目安時間:約7分
十年前(つまり震災直後)の新劇界は、戯曲の方面から見ても舞台の実際運動の方面から見ても、確かに華やかな時代であつたといへるが、その時代は新劇といふものは、まだ西洋劇あつての新劇であ …
新劇界の分野(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
昨今の戯曲界を見渡すと、月々発表される戯曲の数こそ多いが、そして、その数の多いことが何となく華々しい外観を呈してゐるが、質の上からいへば、注目に値するものが寔に少い。実際舞台にかけ …
読書目安時間:約10分
昨今の戯曲界を見渡すと、月々発表される戯曲の数こそ多いが、そして、その数の多いことが何となく華々しい外観を呈してゐるが、質の上からいへば、注目に値するものが寔に少い。実際舞台にかけ …
新劇協会公演に先だつて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
新劇協会が、今度、文芸春秋社の手で経営されることになり、われわれは、微力ながら、将来、同劇団の上演脚本選定並に舞台指揮に関して、共同の責任を負はなければならないことになつた。それに …
読書目安時間:約2分
新劇協会が、今度、文芸春秋社の手で経営されることになり、われわれは、微力ながら、将来、同劇団の上演脚本選定並に舞台指揮に関して、共同の責任を負はなければならないことになつた。それに …
新劇協会の更生について(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私が今度、菊池寛氏並に畑中蓼坡氏の勧誘によつて、新劇協会の更生運動にたづさはり、他の諸君とともに応分の力を藉さうとした動機について、一言、世間の諒解を得て置きたいと思ふ。 何れ近々 …
読書目安時間:約3分
私が今度、菊池寛氏並に畑中蓼坡氏の勧誘によつて、新劇協会の更生運動にたづさはり、他の諸君とともに応分の力を藉さうとした動機について、一言、世間の諒解を得て置きたいと思ふ。 何れ近々 …
新劇協会の舞台稽古(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
初日の予定を変更して舞台稽古を見せた新劇協会——これはいろいろの意味で問題になる。が、それはそれとして、僕は、新劇協会が、新しい成長の第一歩——、毎月定期公演の第一回上演目録に、正 …
読書目安時間:約3分
初日の予定を変更して舞台稽古を見せた新劇協会——これはいろいろの意味で問題になる。が、それはそれとして、僕は、新劇協会が、新しい成長の第一歩——、毎月定期公演の第一回上演目録に、正 …
新劇倶楽部創立に際して(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
非常に漠然とした提議の内容でありましたが、それにも拘はらず大体の趣旨に御賛成の上でありませう、今日、わざわざここへお集り下さいましたことは、私として感謝にたへません。 実は、今日の …
読書目安時間:約11分
非常に漠然とした提議の内容でありましたが、それにも拘はらず大体の趣旨に御賛成の上でありませう、今日、わざわざここへお集り下さいましたことは、私として感謝にたへません。 実は、今日の …
新劇雑誌(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今度「劇作」といふ雑誌が創刊されるさうである。私の若い友人も二三そのなかに加はると聞いてゐるが、目下新劇不振の折柄でもあるし、この企ては誠に壮とするに足るのである。 恐らく、その名 …
読書目安時間:約2分
今度「劇作」といふ雑誌が創刊されるさうである。私の若い友人も二三そのなかに加はると聞いてゐるが、目下新劇不振の折柄でもあるし、この企ては誠に壮とするに足るのである。 恐らく、その名 …
新劇自活の道(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
日本の現状は、まだ新劇の自活を許さないと云はれてゐるのですが、その理由は、言ふまでもなく新劇なるものを進んで観ようとする見物が少いからです。 勿論、西洋諸国に於ても、先駆的傾向の著 …
読書目安時間:約2分
日本の現状は、まだ新劇の自活を許さないと云はれてゐるのですが、その理由は、言ふまでもなく新劇なるものを進んで観ようとする見物が少いからです。 勿論、西洋諸国に於ても、先駆的傾向の著 …
新劇衰微の兆 天才俳優出でよ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
近頃また新劇団が簇出して、盛に招待券を撒いてゐるといふ噂だが、この事実を以て直に新劇の好況時代と見做すことはできない。 僕は寧ろ、この状態こそ、凡ゆる意味に於て、新劇の衰微を語るも …
読書目安時間:約2分
近頃また新劇団が簇出して、盛に招待券を撒いてゐるといふ噂だが、この事実を以て直に新劇の好況時代と見做すことはできない。 僕は寧ろ、この状態こそ、凡ゆる意味に於て、新劇の衰微を語るも …
新劇と娘今日子(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
劇団文学座に籍はおいてゐるが、新劇女優の卵にすぎない次女今日子のことをなにか書けといふ註文である。 私は元来自分自身について語る趣味をまったくもたないから、たとへどのやうな立場にせ …
読書目安時間:約3分
劇団文学座に籍はおいてゐるが、新劇女優の卵にすぎない次女今日子のことをなにか書けといふ註文である。 私は元来自分自身について語る趣味をまったくもたないから、たとへどのやうな立場にせ …
新劇の行くべき途(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
事変下の所謂「思想統制」が演劇興行の上にまで及んで来たことは、これは止むを得ないものとして、われわれは寧ろ積極的に、その結果を本来の目的に副はしめるやう努力しなければならぬと思ふ。 …
読書目安時間:約11分
事変下の所謂「思想統制」が演劇興行の上にまで及んで来たことは、これは止むを得ないものとして、われわれは寧ろ積極的に、その結果を本来の目的に副はしめるやう努力しなければならぬと思ふ。 …
新劇の殻(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
新劇に「型」などといふものがある筈はないのだが、事実、今日のあらゆる新劇団——素人の試演と称するものをも含めて——は、もう既に、一つの共通な「癖」をもつてゐる。その「癖」とは、「型 …
読書目安時間:約4分
新劇に「型」などといふものがある筈はないのだが、事実、今日のあらゆる新劇団——素人の試演と称するものをも含めて——は、もう既に、一つの共通な「癖」をもつてゐる。その「癖」とは、「型 …
新劇の観客諸君へ(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
私は、たしか去年の正月、某新聞の需めによつて、「劇壇へ」といふ一文を発表しました。今、築地座(多分宣伝部から)の依頼で何か書かなければならないのですが、ふと思ひついたのは、その「劇 …
読書目安時間:約7分
私は、たしか去年の正月、某新聞の需めによつて、「劇壇へ」といふ一文を発表しました。今、築地座(多分宣伝部から)の依頼で何か書かなければならないのですが、ふと思ひついたのは、その「劇 …
新劇の危機(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
震災後擡頭した新劇運動の目覚ましい機運は、私の観るところ、あまり順調な進み方をしてゐないやうに思はれる。それは「続いてはゐるが、進んでゐない」といふことである。 なるほど、僅か二三 …
読書目安時間:約2分
震災後擡頭した新劇運動の目覚ましい機運は、私の観るところ、あまり順調な進み方をしてゐないやうに思はれる。それは「続いてはゐるが、進んでゐない」といふことである。 なるほど、僅か二三 …
新劇の自活(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
新劇といふ言葉も、可なり古くなつた。そして、新劇といへば、もう世間で、あああれかと思ふやうになつた。 ところが、われわれの目指してゐるのは、そんなものではない筈である。少くとも、今 …
読書目安時間:約2分
新劇といふ言葉も、可なり古くなつた。そして、新劇といへば、もう世間で、あああれかと思ふやうになつた。 ところが、われわれの目指してゐるのは、そんなものではない筈である。少くとも、今 …
新劇の始末(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
新劇とは? 「新劇」といふ言葉は最初誰がどういふ意味で使ひ出したか知らぬが、「新しい芝居」といふことを漢語で云つたまでで、専門的な術語と見做すわけに行かぬと思ふ。従つて、ある限られ …
読書目安時間:約14分
新劇とは? 「新劇」といふ言葉は最初誰がどういふ意味で使ひ出したか知らぬが、「新しい芝居」といふことを漢語で云つたまでで、専門的な術語と見做すわけに行かぬと思ふ。従つて、ある限られ …
新劇の大衆化(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
商業劇場の口吻を真似て、所謂新劇団体が、なにかと云ふと脚本難を訴へてゐる。そして、とゞのつまり、西洋劇の翻訳といふことになる。「大物主義」で行くのが興行成績をあげる唯一の道だと思つ …
読書目安時間:約2分
商業劇場の口吻を真似て、所謂新劇団体が、なにかと云ふと脚本難を訴へてゐる。そして、とゞのつまり、西洋劇の翻訳といふことになる。「大物主義」で行くのが興行成績をあげる唯一の道だと思つ …
新劇のために(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
美術館のないことと、いまだに共同風呂が行はれてゐることと、政治が酒色の巷で議せられることと、現代劇を演ずる劇場がないことと、わが国が特殊国たる所以を数へ上げれば、実際、きりがあるま …
読書目安時間:約8分
美術館のないことと、いまだに共同風呂が行はれてゐることと、政治が酒色の巷で議せられることと、現代劇を演ずる劇場がないことと、わが国が特殊国たる所以を数へ上げれば、実際、きりがあるま …
新劇の拓く道(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
去年の半ば頃から生れて来た所謂新劇の大同団結運動といふのは、簡単にいふならば、それぞれに少数にすぎない熟練的技術者を擁して、一つの劇団としては十分に客を惹く力に乏しいところから、寧 …
読書目安時間:約3分
去年の半ば頃から生れて来た所謂新劇の大同団結運動といふのは、簡単にいふならば、それぞれに少数にすぎない熟練的技術者を擁して、一つの劇団としては十分に客を惹く力に乏しいところから、寧 …
新劇の分類(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
近頃一部の演劇評論家の間に、「進歩的演劇」といふ言葉が使はれてゐる。これには勿論特別な意味を含ませてあるのであつて、僕たちの書くものはその部類にははひらないらしい。別に入れてもらは …
読書目安時間:約2分
近頃一部の演劇評論家の間に、「進歩的演劇」といふ言葉が使はれてゐる。これには勿論特別な意味を含ませてあるのであつて、僕たちの書くものはその部類にははひらないらしい。別に入れてもらは …
新劇の黎明(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
劇文学の夜は永く続いた。黙阿弥を最後として、わが国には、ほんたうに劇作家といへる劇作家が現れてゐない。ほんたうの劇作家とは、その名前で民衆を劇場に引き寄せ、独特の思想と技術によつて …
読書目安時間:約14分
劇文学の夜は永く続いた。黙阿弥を最後として、わが国には、ほんたうに劇作家といへる劇作家が現れてゐない。ほんたうの劇作家とは、その名前で民衆を劇場に引き寄せ、独特の思想と技術によつて …
新劇復興の兆(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
文学の上では、絶えず思想的な波の起伏が、直接にその時代の作家を——、殊に若いヂェネレエションを刺激して、あらゆる面での先駆的な運動となつて現れるのであるが、演劇の方面では、今日まで …
読書目安時間:約12分
文学の上では、絶えず思想的な波の起伏が、直接にその時代の作家を——、殊に若いヂェネレエションを刺激して、あらゆる面での先駆的な運動となつて現れるのであるが、演劇の方面では、今日まで …
新国劇の「屋上庭園」を観て(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
年末から旅行をしてゐたので、今日(十四日)見ました。 一体、作者が、ある俳優または劇団に、自分の作品の上演を許可し、時には依頼することもあるが、さういふ場合にその俳優の舞台を云為す …
読書目安時間:約4分
年末から旅行をしてゐたので、今日(十四日)見ました。 一体、作者が、ある俳優または劇団に、自分の作品の上演を許可し、時には依頼することもあるが、さういふ場合にその俳優の舞台を云為す …
新撰劇作叢書刊行について(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
わが国新劇運動の歴史を通じて、この二三年ぐらゐ、演劇の本質問題が真面目に論議せられ、それが着々実践に遷された期間はないやうに思ふ。十分な成果を得るためにはなほ種々な好条件を必要とす …
読書目安時間:約3分
わが国新劇運動の歴史を通じて、この二三年ぐらゐ、演劇の本質問題が真面目に論議せられ、それが着々実践に遷された期間はないやうに思ふ。十分な成果を得るためにはなほ種々な好条件を必要とす …
新鮮な魅力:――「仏蘭西文学賞叢書」推薦の辞――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
フランスには文学賞の数が非常に多く、その意味では受賞作品必ずしも生命の永い傑作とは云ひがたいけれども、その選択の標準にはつきりした意図が示され、且つそれぞれの作家の其後の業績をも考 …
読書目安時間:約1分
フランスには文学賞の数が非常に多く、その意味では受賞作品必ずしも生命の永い傑作とは云ひがたいけれども、その選択の標準にはつきりした意図が示され、且つそれぞれの作家の其後の業績をも考 …
新築地劇団に望む(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
人各々その畑ありで、僕は自分の仕事を自分に適した範囲でやらうと思つてゐるが、また一方「新劇」といふ一般の立場から、それぞれの偏向を超越して、共通の問題を問題とすることも亦、自分に課 …
読書目安時間:約3分
人各々その畑ありで、僕は自分の仕事を自分に適した範囲でやらうと思つてゐるが、また一方「新劇」といふ一般の立場から、それぞれの偏向を超越して、共通の問題を問題とすることも亦、自分に課 …
新築地に与へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
およそひとつの新劇団の歴史といふものは、常に苦闘の連続なのであるが、現在、創立十周年を迎へるといふ新築地劇団の如きは、あらゆる意味に於て満身瘡痍といふ感じを与へ、今日までその生命を …
読書目安時間:約1分
およそひとつの新劇団の歴史といふものは、常に苦闘の連続なのであるが、現在、創立十周年を迎へるといふ新築地劇団の如きは、あらゆる意味に於て満身瘡痍といふ感じを与へ、今日までその生命を …
「新日本文学全集第三集・岸田國士集」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
私は最初戯曲家として出発し、今でもその方が専門のつもりでゐるが、戯曲を書きつづけるためには、なにかしらもつと刺激がいるといふ気がする。芝居そのものに興味がもてるやうな状態でなければ …
読書目安時間:約6分
私は最初戯曲家として出発し、今でもその方が専門のつもりでゐるが、戯曲を書きつづけるためには、なにかしらもつと刺激がいるといふ気がする。芝居そのものに興味がもてるやうな状態でなければ …
新年狂想曲(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
登場人物 緑衣の男 紫衣の女 白衣の少年 黒衣の老人 舞台 闇黒——やがて、遠景に弧形の地平線が現れ、その上部は次第に白光を放ち、幕の閉ぢる前には、舞台全体が暁の色に包まれる。 中 …
読書目安時間:約6分
登場人物 緑衣の男 紫衣の女 白衣の少年 黒衣の老人 舞台 闇黒——やがて、遠景に弧形の地平線が現れ、その上部は次第に白光を放ち、幕の閉ぢる前には、舞台全体が暁の色に包まれる。 中 …
新派劇と新派俳優(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
自分のことを云つた序に、もう一つ云ひます。 市村座で、拙作「長閑なる反目」が、新派の所謂「若手」によつて上演された。 これが動機で、私は、それらの俳優諸君と話を交へ、なほ、有名な「 …
読書目安時間:約2分
自分のことを云つた序に、もう一つ云ひます。 市村座で、拙作「長閑なる反目」が、新派の所謂「若手」によつて上演された。 これが動機で、私は、それらの俳優諸君と話を交へ、なほ、有名な「 …
新文化建設の方向(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私はこの度、大政翼賛会文化部の仕事を引受けることになつたのであるが、引受けてみて、さて驚いたことは、「文化」といふ言葉がそれぞれの方面でいかに違つた意味にとられてゐるかといふことで …
読書目安時間:約8分
私はこの度、大政翼賛会文化部の仕事を引受けることになつたのであるが、引受けてみて、さて驚いたことは、「文化」といふ言葉がそれぞれの方面でいかに違つた意味にとられてゐるかといふことで …
新聞小説(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
新聞小説には殆ど経験がないといつてもいゝし、従つて自分でかうといふ野心を持つてゐるわけでもありませんけれども、自分だけの問題として考へれば、これからも新聞の小説を書いてみようといふ …
読書目安時間:約4分
新聞小説には殆ど経験がないといつてもいゝし、従つて自分でかうといふ野心を持つてゐるわけでもありませんけれども、自分だけの問題として考へれば、これからも新聞の小説を書いてみようといふ …
新聞小説とは(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
「新聞小説」についての感想を書けといふ注文である。本紙連載の「泉」をやつと書きをへたところなので、それがどういふものであるにもせよ、自分のことを問題にするやうで気がひけるけれども、 …
読書目安時間:約6分
「新聞小説」についての感想を書けといふ注文である。本紙連載の「泉」をやつと書きをへたところなので、それがどういふものであるにもせよ、自分のことを問題にするやうで気がひけるけれども、 …
心理の洞察:――政治に求めるもの――(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
国民は当面の事態をもはやはつきり知つてゐる。最も大きな苦難が眼の前に迫つてゐることを自覚し、この苦難を切り抜けることが勝利の第一歩であることを、誰に云はれなくても肝に銘じてゐる。敵 …
読書目安時間:約4分
国民は当面の事態をもはやはつきり知つてゐる。最も大きな苦難が眼の前に迫つてゐることを自覚し、この苦難を切り抜けることが勝利の第一歩であることを、誰に云はれなくても肝に銘じてゐる。敵 …
すべてを得るは難し(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
弘子はいま幸福の絶頂にあつた。 夫の節蔵は奏任待遇になるし、一人息子の忠は麻疹を軽くすますし、恐る/\かけたパーマネントは自分ながらよく似合ふし、月八円ではじめて傭つた女中は田舎出 …
読書目安時間:約19分
弘子はいま幸福の絶頂にあつた。 夫の節蔵は奏任待遇になるし、一人息子の忠は麻疹を軽くすますし、恐る/\かけたパーマネントは自分ながらよく似合ふし、月八円ではじめて傭つた女中は田舎出 …
生活から学ぶ:――目立たない習慣(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
わたくしが子供の頃から身につけた習慣といえば、一般日本人なみの習慣以外になにもこれといつて取り立てて言うほどのことはない。たゞ、今から考えて、これだけはもつと多くの日本人がそうであ …
読書目安時間:約2分
わたくしが子供の頃から身につけた習慣といえば、一般日本人なみの習慣以外になにもこれといつて取り立てて言うほどのことはない。たゞ、今から考えて、これだけはもつと多くの日本人がそうであ …
「生活と文化」序(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
「文化」といふ言葉に、私は少し食傷しはじめた。こんな生な言葉を仕事のやうに使つてゐると、空恐しくなる。日本国民の心あるものは、従来の指導者たちの精神的貧困に対し、暗黙の抗議をし続け …
読書目安時間:約1分
「文化」といふ言葉に、私は少し食傷しはじめた。こんな生な言葉を仕事のやうに使つてゐると、空恐しくなる。日本国民の心あるものは、従来の指導者たちの精神的貧困に対し、暗黙の抗議をし続け …
生活の美しさについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
この雑誌の前の号で、私は坪田譲治さんの文章を読み、いろいろな感慨にふけつた。 坪田さんは、すぐれた作家であるが、それなら、人間生活の美醜について最も敏感なはずであり、また、人間生活 …
読書目安時間:約6分
この雑誌の前の号で、私は坪田譲治さんの文章を読み、いろいろな感慨にふけつた。 坪田さんは、すぐれた作家であるが、それなら、人間生活の美醜について最も敏感なはずであり、また、人間生活 …
生活のうるほひ(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
趣味といふ言葉は非常に広く使はれてゐますが、一般には好きなことゝいふ程度に解釈され、読書、映画、スポーツ、釣、将棋などと雑多なものが一様に趣味といふ範囲に入れられてしまふわけであり …
読書目安時間:約9分
趣味といふ言葉は非常に広く使はれてゐますが、一般には好きなことゝいふ程度に解釈され、読書、映画、スポーツ、釣、将棋などと雑多なものが一様に趣味といふ範囲に入れられてしまふわけであり …
生活の貧しさ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
紀元節の朝、一映画女優の実演とやらを観るために、多数の見物が丸之内の某劇場に押しかけ、蜿蜒長蛇の列をつくるだけならまだしも、その余りが道路を埋め、百名の警官が整理に当つたが、群衆は …
読書目安時間:約2分
紀元節の朝、一映画女優の実演とやらを観るために、多数の見物が丸之内の某劇場に押しかけ、蜿蜒長蛇の列をつくるだけならまだしも、その余りが道路を埋め、百名の警官が整理に当つたが、群衆は …
生活の黎明(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私は国民の一人として考へます。 日支事変がはじまつて既に四年、しかもいはゆる聖戦の目的はまだその半ばをも達成してをりません。しかも、世界動乱の渦は欧洲大陸より太平洋に波及し、わが南 …
読書目安時間:約8分
私は国民の一人として考へます。 日支事変がはじまつて既に四年、しかもいはゆる聖戦の目的はまだその半ばをも達成してをりません。しかも、世界動乱の渦は欧洲大陸より太平洋に波及し、わが南 …
生活文化の建設(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
今度満洲の特に北満に居住するロシア人の日常生活を視る機会を得て感じたのは、民衆の娯楽といふことである。日本内地でも近頃は「健全な娯楽」が当局者の間でもまた民間でも考へられてゐるやう …
読書目安時間:約4分
今度満洲の特に北満に居住するロシア人の日常生活を視る機会を得て感じたのは、民衆の娯楽といふことである。日本内地でも近頃は「健全な娯楽」が当局者の間でもまた民間でも考へられてゐるやう …
生活力の強化:――北陸地方文化協議会講演――(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
大政翼賛運動の発足以来、全国に自発的に起つてきた運動の一つに文化運動がありますが、この運動の中には、翼賛運動の本来の性格に未だ副はぬものも可なりあるやうであります。従つて翼賛会とし …
読書目安時間:約11分
大政翼賛運動の発足以来、全国に自発的に起つてきた運動の一つに文化運動がありますが、この運動の中には、翼賛運動の本来の性格に未だ副はぬものも可なりあるやうであります。従つて翼賛会とし …
清潔な文章を買ふ:――芥川賞(第二十一回)選評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
この雑誌の前の号で、私は坪田譲治さんの文章を読み、いろいろな感慨にふけつた。 坪田さんは、すぐれた作家であるが、それなら、人間生活の美醜について最も敏感なはずであり、また、人間生活 …
読書目安時間:約6分
この雑誌の前の号で、私は坪田譲治さんの文章を読み、いろいろな感慨にふけつた。 坪田さんは、すぐれた作家であるが、それなら、人間生活の美醜について最も敏感なはずであり、また、人間生活 …
青年の矜りと嗜み:――力としての文化 第四話(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間5分
矜りとは自ら恃むところがあることであります。これさへあれば、何ものも怖れずといふ信念です。自負と云ひ、自尊と云ひ、いづれも、己をもつて高しとする精神でありますが、これはむしろ、相手 …
読書目安時間:約1時間5分
矜りとは自ら恃むところがあることであります。これさへあれば、何ものも怖れずといふ信念です。自負と云ひ、自尊と云ひ、いづれも、己をもつて高しとする精神でありますが、これはむしろ、相手 …
青年の夢と憂欝:――力としての文化 第五話(新字旧仮名)
読書目安時間:約38分
青春は夢多き時代です。 青年には夢がなければなりません。 青年の夢は美しく、そして遥かであります。 「夢」とはいつたいなんでせうか。 こゝではもちろん、睡眠中の夢を指すのではありま …
読書目安時間:約38分
青春は夢多き時代です。 青年には夢がなければなりません。 青年の夢は美しく、そして遥かであります。 「夢」とはいつたいなんでせうか。 こゝではもちろん、睡眠中の夢を指すのではありま …
青年へ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
日本は今、興亡の岐路に立つてゐる。この事実をわれわれはまづはつきり頭にいれておかなければならぬ。わが民族の矜りは「どうにかなる」といふやうな哲学の上に築かれてゐるのでは断じてないの …
読書目安時間:約3分
日本は今、興亡の岐路に立つてゐる。この事実をわれわれはまづはつきり頭にいれておかなければならぬ。わが民族の矜りは「どうにかなる」といふやうな哲学の上に築かれてゐるのでは断じてないの …
西洋映画は何故面白いか?(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
かういふ問題はどういふ範囲の人々に興味があるかわからぬが、本誌「トツプ」の読者は、映画の専門家でないにしても、相当高級映画フアンであらうと思ふし、さうなら、日本映画の優秀作が、西洋 …
読書目安時間:約4分
かういふ問題はどういふ範囲の人々に興味があるかわからぬが、本誌「トツプ」の読者は、映画の専門家でないにしても、相当高級映画フアンであらうと思ふし、さうなら、日本映画の優秀作が、西洋 …
世界的文化の母胎(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
この度大政翼賛会文化部長就任の交渉を受諾致しました。この部の仕事についてはまだ具体的に研究はしてゐませんが、何れ各方面の方々とお打合せをした上で職務上の責任の範囲を心得たいと思つて …
読書目安時間:約2分
この度大政翼賛会文化部長就任の交渉を受諾致しました。この部の仕事についてはまだ具体的に研究はしてゐませんが、何れ各方面の方々とお打合せをした上で職務上の責任の範囲を心得たいと思つて …
世界人情覗眼鏡(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
日本語の研究をしてゐるポリテクニツクの学生を紹介された。採鉱や金の専攻らしい。青年の家庭には、父君が外国貿易商であるせゐか、いろ/\珍しい人物が出入してゐた。 お茶の会をするといふ …
読書目安時間:約3分
日本語の研究をしてゐるポリテクニツクの学生を紹介された。採鉱や金の専攻らしい。青年の家庭には、父君が外国貿易商であるせゐか、いろ/\珍しい人物が出入してゐた。 お茶の会をするといふ …
世界覗眼鏡(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
この覗眼鏡はそんなに珍らしいものではない。ただ、当分用がなささうだから、どこか邪魔にならないところへしまつておかうと思ふのである。 こはれたり、狂つたりしてゐるところがあるかもしれ …
読書目安時間:約19分
この覗眼鏡はそんなに珍らしいものではない。ただ、当分用がなささうだから、どこか邪魔にならないところへしまつておかうと思ふのである。 こはれたり、狂つたりしてゐるところがあるかもしれ …
世帯休業(新字旧仮名)
読書目安時間:約27分
人物 夫渋谷八十一 妻 詩人鳥羽 妻の母 君い女かも子 夫の友人茶木 八百や 第一場 舞台は、すべて戸締りをした家の内部。正面やゝ高きところに鉄格子をはめたスリ硝子の小窓。外の光が …
読書目安時間:約27分
人物 夫渋谷八十一 妻 詩人鳥羽 妻の母 君い女かも子 夫の友人茶木 八百や 第一場 舞台は、すべて戸締りをした家の内部。正面やゝ高きところに鉄格子をはめたスリ硝子の小窓。外の光が …
せりふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
——それが、画かきらしくないんですの。 このせりふの言ひ方が二た通りある。 画かきではあるが、画かきらしく見えない、といふ意味を表はす場合と、画かきだといふけれど、実際は画かきでは …
読書目安時間:約1分
——それが、画かきらしくないんですの。 このせりふの言ひ方が二た通りある。 画かきではあるが、画かきらしく見えない、といふ意味を表はす場合と、画かきだといふけれど、実際は画かきでは …
「せりふ」としての方言(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は新年号の中央公論に、「牛山ホテル」と題する戯曲を発表した。 仏領印度支那を舞台にとり、所謂海外出稼の天草女を主要人物として、その生活を描いてみた。 私は、勿論、それらの女たちに …
読書目安時間:約3分
私は新年号の中央公論に、「牛山ホテル」と題する戯曲を発表した。 仏領印度支那を舞台にとり、所謂海外出稼の天草女を主要人物として、その生活を描いてみた。 私は、勿論、それらの女たちに …
「せりふ」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
舞台に於ける俳優の「白」については、今いろいろ考へてゐることもあるが、戯曲としての「対話」といふやうなことは、もう自分で意識することも厭になつてゐるので、わざわざ理窟をつける気がし …
読書目安時間:約3分
舞台に於ける俳優の「白」については、今いろいろ考へてゐることもあるが、戯曲としての「対話」といふやうなことは、もう自分で意識することも厭になつてゐるので、わざわざ理窟をつける気がし …
先駆者小山内薫(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
演劇の分野において、明治時代は真に革新と名づけられるやうな芸術運動も、啓蒙事業も殆ど企てられてゐない。 末松謙澄等によつて主唱された演劇改良会の実体は、周知の如く、在来の歌舞伎劇を …
読書目安時間:約14分
演劇の分野において、明治時代は真に革新と名づけられるやうな芸術運動も、啓蒙事業も殆ど企てられてゐない。 末松謙澄等によつて主唱された演劇改良会の実体は、周知の如く、在来の歌舞伎劇を …
選後に:――芥川賞(第二十九回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
候補作品として私の手許に送り届けられた十篇のうち、特に一篇だけ傑出したといふものはなかつた。安岡章太郎の「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」は、いづれも稀にみるすぐれた才能を示した短篇小 …
読書目安時間:約2分
候補作品として私の手許に送り届けられた十篇のうち、特に一篇だけ傑出したといふものはなかつた。安岡章太郎の「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」は、いづれも稀にみるすぐれた才能を示した短篇小 …
選後に:――芥川賞(第二十五回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
毎回おなじ疑問をくり返すことになるが、この芥川賞の性格を、もつとはつきりさせなければ、選そのものも徒らにむつかしくなるし、賞の意味もそのために、稀薄になりはせぬかと思ふ。これは、選 …
読書目安時間:約2分
毎回おなじ疑問をくり返すことになるが、この芥川賞の性格を、もつとはつきりさせなければ、選そのものも徒らにむつかしくなるし、賞の意味もそのために、稀薄になりはせぬかと思ふ。これは、選 …
選後に:――芥川賞(第二十二回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今度は読みごたへのある作品が多く、だいたい粒がそろつてゐて、たいへん張り合ひがあつた。それだけにまたそのうちに幾篇かは、優劣をきめにくい長所に支へられてゐて、一篇を選びだすのに困難 …
読書目安時間:約2分
今度は読みごたへのある作品が多く、だいたい粒がそろつてゐて、たいへん張り合ひがあつた。それだけにまたそのうちに幾篇かは、優劣をきめにくい長所に支へられてゐて、一篇を選びだすのに困難 …
戦時下に於る文化運動の意義(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
この時局下に於る文化運動の意義は、それが運動として国民的性格をもつ以上、飽くまでも物質、精神両方面に亘る「生活力の強化」を直接目指すにあると思ふ。 それが為めには、政府の施設及び大 …
読書目安時間:約4分
この時局下に於る文化運動の意義は、それが運動として国民的性格をもつ以上、飽くまでも物質、精神両方面に亘る「生活力の強化」を直接目指すにあると思ふ。 それが為めには、政府の施設及び大 …
戦時下の文化運動:――九州地方講演筆記――(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
「決戦下における翼賛文化運動実践の具体的方針」について、私から御相談申上げるのでありますが、先程「論議の時代は過ぎた」とは一応は申しましたけれども、しかし吾々文化運動に携るものの間 …
読書目安時間:約16分
「決戦下における翼賛文化運動実践の具体的方針」について、私から御相談申上げるのでありますが、先程「論議の時代は過ぎた」とは一応は申しましたけれども、しかし吾々文化運動に携るものの間 …
戦死した友田恭助氏(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
友田君戦死の通知を受けて、かねて覚悟はしてゐたことながらまだ半信半疑の気持である。 俳優としての友田君は築地小劇場時代から知つてはゐたが、本統に知り合つて一緒に仕事をしはじめたのは …
読書目安時間:約3分
友田君戦死の通知を受けて、かねて覚悟はしてゐたことながらまだ半信半疑の気持である。 俳優としての友田君は築地小劇場時代から知つてはゐたが、本統に知り合つて一緒に仕事をしはじめたのは …
選者の言葉:――第一回世界文学賞――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
本年度の、すなはち、最初の「世界文学賞」を贈られるのが渡辺一夫氏の訳、ラブレエの「パンタグリュエル」(白水社刊行)ときまつた。ところで、年度内に出た書物は、「パンタグリュエル」であ …
読書目安時間:約1分
本年度の、すなはち、最初の「世界文学賞」を贈られるのが渡辺一夫氏の訳、ラブレエの「パンタグリュエル」(白水社刊行)ときまつた。ところで、年度内に出た書物は、「パンタグリュエル」であ …
戦争指導者(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
流頭。ハロー、聞えるかね、また聞えんふりをしとるんぢやないかね。 茶散。まあいゝからその先を云ひたまへ。日本で戦艦献納運動がはじまつたら、どうしたと云ふんだ。 流頭。どうしたもかう …
読書目安時間:約1分
流頭。ハロー、聞えるかね、また聞えんふりをしとるんぢやないかね。 茶散。まあいゝからその先を云ひたまへ。日本で戦艦献納運動がはじまつたら、どうしたと云ふんだ。 流頭。どうしたもかう …
戦争と文化:――力としての文化 第三話(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間10分
昭和十六年の一月、即ちまる二年前、私はラジオを通じて「国防と文化」といふ題の講演をしました。 その草稿がありますから、それをまづ初めに掲げます。 いよいよ事態が切迫して来たやうであ …
読書目安時間:約1時間10分
昭和十六年の一月、即ちまる二年前、私はラジオを通じて「国防と文化」といふ題の講演をしました。 その草稿がありますから、それをまづ初めに掲げます。 いよいよ事態が切迫して来たやうであ …
煽動性万能(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
演劇は、それ自身、多少の煽動的要素をもつてをり、この煽動性によつて、最も民衆に受け容れられるのであるが、また一方、劇的美の厳密な批判からは、所謂「煽動性」なるものを重要な要素と見な …
読書目安時間:約4分
演劇は、それ自身、多少の煽動的要素をもつてをり、この煽動性によつて、最も民衆に受け容れられるのであるが、また一方、劇的美の厳密な批判からは、所謂「煽動性」なるものを重要な要素と見な …
ゼンマイの戯れ(映画脚本)(新字旧仮名)
読書目安時間:約37分
主なる人物 笠原平造四十六才 妻たけ子四十二才 長男政一二十三才 娘富子二十才 次男圭次八才 北野良作四十五才 安田某二十六才 此の「物語」は、特別の指定以外、どの部分を画面で表し …
読書目安時間:約37分
主なる人物 笠原平造四十六才 妻たけ子四十二才 長男政一二十三才 娘富子二十才 次男圭次八才 北野良作四十五才 安田某二十六才 此の「物語」は、特別の指定以外、どの部分を画面で表し …
「ゼンマイの戯れ」に就て(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
映画脚本は純粋に文学の一様式たり得るかどうか。小説、詩、戯曲——更に、戯曲を舞台脚本と映画脚本とに区分するやうな時代が来るかどうか。かういふ問題を解決する為めに、僕が「ゼンマイの戯 …
読書目安時間:約4分
映画脚本は純粋に文学の一様式たり得るかどうか。小説、詩、戯曲——更に、戯曲を舞台脚本と映画脚本とに区分するやうな時代が来るかどうか。かういふ問題を解決する為めに、僕が「ゼンマイの戯 …
「ゼンマイの戯れ」に就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は元来活動写真といふものを、それほど研究的に観てはゐなかつた。巴里にゐる間近所に常設館があつたので、チヤツプリンの喜劇がかゝると観に行つたぐらゐのものである。たまたま、アントワア …
読書目安時間:約3分
僕は元来活動写真といふものを、それほど研究的に観てはゐなかつた。巴里にゐる間近所に常設館があつたので、チヤツプリンの喜劇がかゝると観に行つたぐらゐのものである。たまたま、アントワア …
双面神(新字旧仮名)
読書目安時間:約5時間38分
無理やりに父の隣に坐らされた千種は、広い食堂の一隅に設けられた婦人連の席へ、僅かに晴れがましい微笑を投げてゐた。 芝公園の深い木立の中の、古風な、しかし落ちついた西洋料理店である。 …
読書目安時間:約5時間38分
無理やりに父の隣に坐らされた千種は、広い食堂の一隅に設けられた婦人連の席へ、僅かに晴れがましい微笑を投げてゐた。 芝公園の深い木立の中の、古風な、しかし落ちついた西洋料理店である。 …
続言葉言葉言葉(その一)(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
私は嘗て、「何かを云ふために戯曲を書くのではない。戯曲を書くために何かしらを云ふのだ」と揚言し、自分の戯曲文学に対する熱情と抱負とを、明かにしたつもりである。 その態度は最近まで変 …
読書目安時間:約10分
私は嘗て、「何かを云ふために戯曲を書くのではない。戯曲を書くために何かしらを云ふのだ」と揚言し、自分の戯曲文学に対する熱情と抱負とを、明かにしたつもりである。 その態度は最近まで変 …
続言葉言葉言葉(その二)(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
近頃ある疑ひが私を囚へて放さない。 時代はある行為とある言葉とを奨励し、制限し、これによつて、民衆の趨向を決定しようとしてゐる。ところが、人間はもともと、行為の奴隷でもなく、言葉の …
読書目安時間:約11分
近頃ある疑ひが私を囚へて放さない。 時代はある行為とある言葉とを奨励し、制限し、これによつて、民衆の趨向を決定しようとしてゐる。ところが、人間はもともと、行為の奴隷でもなく、言葉の …
其日、其日の気持(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
最近二ヶ月ぶりで東京へ出た。用事もあるにはあつたが、その傍ら噂に聞くのみであつた数度に亘る空襲の被害をこの眼でちやんと看ておきたかつたのである。 一方から云ふと聞きしにまさる惨状で …
読書目安時間:約4分
最近二ヶ月ぶりで東京へ出た。用事もあるにはあつたが、その傍ら噂に聞くのみであつた数度に亘る空襲の被害をこの眼でちやんと看ておきたかつたのである。 一方から云ふと聞きしにまさる惨状で …
空の赤きを見て(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
人物 周蔵 周一 兼子 美代 医師 宮下 東京の裏町——周蔵一家の住居 座敷に通ずる茶の間 座敷は周蔵の病室になつてゐる。屏風の陰から時々、力のない咳が聞える。 兼子(茶の間で火を …
読書目安時間:約22分
人物 周蔵 周一 兼子 美代 医師 宮下 東京の裏町——周蔵一家の住居 座敷に通ずる茶の間 座敷は周蔵の病室になつてゐる。屏風の陰から時々、力のない咳が聞える。 兼子(茶の間で火を …
空の悪魔(ラヂオ・ドラマ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
酒井欽蔵(四十八) 妻いく(四十五) 娘加代(二十四) 息子鉄蔵(十八) 娘美代(十六) 店員庄市(三十) 其他 解説東京山の手の裏通りに、さゝやかな店を構へてゐる時計商、酒井欽蔵 …
読書目安時間:約21分
酒井欽蔵(四十八) 妻いく(四十五) 娘加代(二十四) 息子鉄蔵(十八) 娘美代(十六) 店員庄市(三十) 其他 解説東京山の手の裏通りに、さゝやかな店を構へてゐる時計商、酒井欽蔵 …
それができたら(新字旧仮名)
読書目安時間:約29分
吾妻養狐場には、もう狐は牡牝二頭しか残つてゐない。いづれも樺太産の優秀な種狐であるが、場主の星住省吾は、これさへ適当な買ひ手があれば、手放してもよいと考へてゐる。 戦争この方、贅沢 …
読書目安時間:約29分
吾妻養狐場には、もう狐は牡牝二頭しか残つてゐない。いづれも樺太産の優秀な種狐であるが、場主の星住省吾は、これさへ適当な買ひ手があれば、手放してもよいと考へてゐる。 戦争この方、贅沢 …
大正風俗考(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
和洋折衷といふやうなことがどこまでうまく行くか、わたしは知らないが、わが国の新しい生活様式が、どうせさういふ処へ落ちつくのだらうと思つてゐる。 ★ 風俗の国際化は、たしかに二十世紀 …
読書目安時間:約3分
和洋折衷といふやうなことがどこまでうまく行くか、わたしは知らないが、わが国の新しい生活様式が、どうせさういふ処へ落ちつくのだらうと思つてゐる。 ★ 風俗の国際化は、たしかに二十世紀 …
大政翼賛会と文化問題(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
翼賛会の文化部としては、現在まで政府が実行して来た文化政策といふものゝ全体に亘つて、一応どういふことが今日までなされて来てをり、またそれがどういふ結果を生んでゐるか、更にまた政府が …
読書目安時間:約17分
翼賛会の文化部としては、現在まで政府が実行して来た文化政策といふものゝ全体に亘つて、一応どういふことが今日までなされて来てをり、またそれがどういふ結果を生んでゐるか、更にまた政府が …
「炬火おくり」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私がフランスの現代戯曲にはじめて接したのは、この「炬火おくり」である。もう二十何年か前のことである。私はこれを今の京大教授D博士の前で、おそるおそる訳した。むろん教へを受けるためで …
読書目安時間:約2分
私がフランスの現代戯曲にはじめて接したのは、この「炬火おくり」である。もう二十何年か前のことである。私はこれを今の京大教授D博士の前で、おそるおそる訳した。むろん教へを受けるためで …
対話(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間36分
これは雑誌「悲劇喜劇」が、現在の演劇に対する種々の質問を読者から蒐め、 同誌編集部がそれを要約して提出した問題に対して感想を述べたものである。 編集部今度「ピカデリー劇場」がアメリ …
読書目安時間:約1時間36分
これは雑誌「悲劇喜劇」が、現在の演劇に対する種々の質問を読者から蒐め、 同誌編集部がそれを要約して提出した問題に対して感想を述べたものである。 編集部今度「ピカデリー劇場」がアメリ …
対話させる術(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
その国の一時代の文学が、外国文学の影響を受けたことに於て、明治以後の日本文学ぐらゐ著しい例はあるまい。 処で、その影響が、単に思想的内容や、表現の形式に止まらず、文学の本質的審美観 …
読書目安時間:約12分
その国の一時代の文学が、外国文学の影響を受けたことに於て、明治以後の日本文学ぐらゐ著しい例はあるまい。 処で、その影響が、単に思想的内容や、表現の形式に止まらず、文学の本質的審美観 …
田口竹男君のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
第一次「劇作」同人として田口君に最初会つたのは随分以前のことであつたが、「翁家」とか「京都三条通り」とかいふ作品について私は直接君になんにも言つたことはないと思ふ。新進作家として相 …
読書目安時間:約4分
第一次「劇作」同人として田口君に最初会つたのは随分以前のことであつたが、「翁家」とか「京都三条通り」とかいふ作品について私は直接君になんにも言つたことはないと思ふ。新進作家として相 …
脱退問題是非(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
昨年の暮に、市川猿之助を筆頭とする歌舞伎俳優の一群が、松竹王国の手を離れて市村座に拠つたことは、いろいろの意味で世間の注目を惹いたが、これを以て、直に劇壇に一つの革新運動が起つたも …
読書目安時間:約3分
昨年の暮に、市川猿之助を筆頭とする歌舞伎俳優の一群が、松竹王国の手を離れて市村座に拠つたことは、いろいろの意味で世間の注目を惹いたが、これを以て、直に劇壇に一つの革新運動が起つたも …
頼母しき求縁(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
人物 十倉奥造五十 娘汲子二十二 和久井幕太郎二十八 従兄亜介三十一 平木曾根四十 ある結婚媒介所の見合室——二階。 洋風にしつらへた八畳の日本間——事務室とも応接室ともつかぬ家具 …
読書目安時間:約20分
人物 十倉奥造五十 娘汲子二十二 和久井幕太郎二十八 従兄亜介三十一 平木曾根四十 ある結婚媒介所の見合室——二階。 洋風にしつらへた八畳の日本間——事務室とも応接室ともつかぬ家具 …
旅の苦労(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
旅行は好きか、と、よく人に訊かれる。私はいつも、生返事をする。好きでないこともないが、さう楽しい旅をしたといふ経験もないからである。好きでないこともないといふのは、旅の空想を私は屡 …
読書目安時間:約5分
旅行は好きか、と、よく人に訊かれる。私はいつも、生返事をする。好きでないこともないが、さう楽しい旅をしたといふ経験もないからである。好きでないこともないといふのは、旅の空想を私は屡 …
田巻安里のコーヒー(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
田巻安里は、甚だコーヒーをたしなんでゐた。彼は、朝昼晩、家にあつても外にあつても、機会を選ばずコーヒーを飲んだ。友人と喫茶店にはいり、「君はなに?」と問はれゝば、「無論コーヒーさ」 …
読書目安時間:約8分
田巻安里は、甚だコーヒーをたしなんでゐた。彼は、朝昼晩、家にあつても外にあつても、機会を選ばずコーヒーを飲んだ。友人と喫茶店にはいり、「君はなに?」と問はれゝば、「無論コーヒーさ」 …
玉突の賦(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
「いくつお突きなります」 「さあ、しばらく突かないんですが……」 玉突く男は曲者。 三十?四十?五十?………… 「ぢや、百にして見て下さい」 ——こいつ、百なもんか! 「どうぞ」 …
読書目安時間:約6分
「いくつお突きなります」 「さあ、しばらく突かないんですが……」 玉突く男は曲者。 三十?四十?五十?………… 「ぢや、百にして見て下さい」 ——こいつ、百なもんか! 「どうぞ」 …
誰でもない……自分でもない(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間18分
人は自分で自分をどうすることもできないことがあります。それは、ほかからの力でもなく、自分のうちにあるものといふことすら気のつかないことがしばしばあるのです。男でも女でもそのことはお …
読書目安時間:約1時間18分
人は自分で自分をどうすることもできないことがあります。それは、ほかからの力でもなく、自分のうちにあるものといふことすら気のつかないことがしばしばあるのです。男でも女でもそのことはお …
『断層』の作者久板栄二郎君へ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
「文芸」所載の貴作『断層』について、「テアトロ」から何か感想を書けといふ註文ですが、僕はあれを草稿の時分に読んで聞かせていただいたきり、まだ活字になつたのを拝見してゐませんから、そ …
読書目安時間:約4分
「文芸」所載の貴作『断層』について、「テアトロ」から何か感想を書けといふ註文ですが、僕はあれを草稿の時分に読んで聞かせていただいたきり、まだ活字になつたのを拝見してゐませんから、そ …
暖地の冬から山国の春へ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は今湘南小田原の海岸近くに住んでゐるが、予期した通りの暖かさで、先日の大雪の日も、東京で無理をして品川からやつと電車を拾ひ、日が暮れて小田原の駅を降りると、驚いたことに、うつすら …
読書目安時間:約3分
私は今湘南小田原の海岸近くに住んでゐるが、予期した通りの暖かさで、先日の大雪の日も、東京で無理をして品川からやつと電車を拾ひ、日が暮れて小田原の駅を降りると、驚いたことに、うつすら …
ヂアロオグ・プランタニエ(対話)(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
由美子このごろ、町田さん、あなたのお宅へ、たび/\いらつしやるんですつて? 奈緒子えゝ、あなたのおうちへいらつしやるやうにね。 由美子あたしのうち……。でも、あの方、兄さまのお友達 …
読書目安時間:約7分
由美子このごろ、町田さん、あなたのお宅へ、たび/\いらつしやるんですつて? 奈緒子えゝ、あなたのおうちへいらつしやるやうにね。 由美子あたしのうち……。でも、あの方、兄さまのお友達 …
『力としての文化』まえがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
私は最近二年間、大政翼賛会文化部の仕事を引受け、国民組織として整備すべき文化機構に関し、また、国民運動として取りあぐべき各種文化問題について、いろいろ自分でも研究し、各方面の意見も …
読書目安時間:約10分
私は最近二年間、大政翼賛会文化部の仕事を引受け、国民組織として整備すべき文化機構に関し、また、国民運動として取りあぐべき各種文化問題について、いろいろ自分でも研究し、各方面の意見も …
地方文学の曙光(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
日本は何処へ行つても日本だといふことを私は近頃ますます強く感じる。が、それと同時に、同じ日本でありながら、処によつてかうも違ふものかといふ印象を受ける場合がまた極めて多い。 お互日 …
読書目安時間:約16分
日本は何処へ行つても日本だといふことを私は近頃ますます強く感じる。が、それと同時に、同じ日本でありながら、処によつてかうも違ふものかといふ印象を受ける場合がまた極めて多い。 お互日 …
地方文化の新建設(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
今日、国民文化の向上といふ問題を考へる時、真に新しい意味と性格をもつた文化運動といふものが考へられる。それについてわれわれは、一般専門的な分野に於る文化人が、特にこの問題の解決に協 …
読書目安時間:約10分
今日、国民文化の向上といふ問題を考へる時、真に新しい意味と性格をもつた文化運動といふものが考へられる。それについてわれわれは、一般専門的な分野に於る文化人が、特にこの問題の解決に協 …
著作権の精神的擁護(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
誰かの小説にあつたやうに思ふが、ある画家がこれも画家である友人の才能をねたみ、その作品が後世に伝へられることを妨げるため、その友人の作品を全部価格に頓着なく買収して、悉くこれを破棄 …
読書目安時間:約4分
誰かの小説にあつたやうに思ふが、ある画家がこれも画家である友人の才能をねたみ、その作品が後世に伝へられることを妨げるため、その友人の作品を全部価格に頓着なく買収して、悉くこれを破棄 …
著作者側の一私見:――出版権法案について――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
世間は、出版権と著作権とが飽くまで相反する利害の上に相争ふものであると誤認してゐるやうであるが、それは悪出版者と不良著作者との間に限ることで、寧ろ出版権法の精神は、対著作者の関係以 …
読書目安時間:約3分
世間は、出版権と著作権とが飽くまで相反する利害の上に相争ふものであると誤認してゐるやうであるが、それは悪出版者と不良著作者との間に限ることで、寧ろ出版権法の精神は、対著作者の関係以 …
「チロルの秋」以来(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私の戯曲の処女上演は、「チロルの秋」です。 一昨々年の九月、演劇新潮に、私の第二作「チロルの秋」が発表されると、間もなく、新劇協会の畑中君が見えて、あれを出したいと云ふのです。 ス …
読書目安時間:約2分
私の戯曲の処女上演は、「チロルの秋」です。 一昨々年の九月、演劇新潮に、私の第二作「チロルの秋」が発表されると、間もなく、新劇協会の畑中君が見えて、あれを出したいと云ふのです。 ス …
「チロルの秋」上演当時の思ひ出(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
「チロルの秋」は私の第二作であつた。それが、大地震の翌年、たしか大正十三年の十月か十一月かに、新劇協会の人々の手で帝国ホテルの演芸場で上演されたのが、私の処女上演であつた。正宗白鳥 …
読書目安時間:約7分
「チロルの秋」は私の第二作であつた。それが、大地震の翌年、たしか大正十三年の十月か十一月かに、新劇協会の人々の手で帝国ホテルの演芸場で上演されたのが、私の処女上演であつた。正宗白鳥 …
チロルの秋(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
時一九二〇年の晩秋 処墺伊の国境に近きチロル・アルプスの小邑コルチナ。 人 アマノ ステラ エリザ ホテル・パンシヨンの食堂。午後七時。 ストーブの火が燃えてゐる。 ステラ、喪服、 …
読書目安時間:約20分
時一九二〇年の晩秋 処墺伊の国境に近きチロル・アルプスの小邑コルチナ。 人 アマノ ステラ エリザ ホテル・パンシヨンの食堂。午後七時。 ストーブの火が燃えてゐる。 ステラ、喪服、 …
チロルの古城にて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ベルサイユの講和条約に、国境劃定委員会が出来て、その一分科である墺伊両国間の国境劃定に日本からも委員を出すことゝなつて服部兵次郎少将(当時中佐)が任命され、私は通訳として随行した。 …
読書目安時間:約2分
ベルサイユの講和条約に、国境劃定委員会が出来て、その一分科である墺伊両国間の国境劃定に日本からも委員を出すことゝなつて服部兵次郎少将(当時中佐)が任命され、私は通訳として随行した。 …
チロルの旅(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
ヴェロナ なるほどこれがロメオとジュリエットの墓だな。大理石の棺には蓋がない。名刺がいつぱい投げ込んである。 シェイクスピイヤの胸像が黒い蔦の葉の間からのぞいてゐる。 そこで、絵は …
読書目安時間:約5分
ヴェロナ なるほどこれがロメオとジュリエットの墓だな。大理石の棺には蓋がない。名刺がいつぱい投げ込んである。 シェイクスピイヤの胸像が黒い蔦の葉の間からのぞいてゐる。 そこで、絵は …
珍重すべき国際感覚:――芥川賞(第二十六回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
今度の銓衡では、出席者のほとんど全部が、この「広場の孤独」を第一に推し、私もやゝ意を強くすることができた。といふのは、これまで屡々、私が特に推したものが選に漏れてゐるからである。 …
読書目安時間:約2分
今度の銓衡では、出席者のほとんど全部が、この「広場の孤独」を第一に推し、私もやゝ意を強くすることができた。といふのは、これまで屡々、私が特に推したものが選に漏れてゐるからである。 …
「追憶」による追憶(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
八月号で芥川竜之介氏の「追憶」といふ文章を読み、誰でも同じやうな追憶をもつてゐるものだといふことを知り、転た感慨を催した次第であるが、昨日、K社の山本氏に会ひ、たまたま芥川氏の近況 …
読書目安時間:約5分
八月号で芥川竜之介氏の「追憶」といふ文章を読み、誰でも同じやうな追憶をもつてゐるものだといふことを知り、転た感慨を催した次第であるが、昨日、K社の山本氏に会ひ、たまたま芥川氏の近況 …
遂に「知らん」文六(三場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
河津文六 妻おせい 倅廉太 娘おちか 梶本京作 お園 其他亡者、鬼など大勢 時——大正×××年一月三十二日 処——大都会の場末 舞台は麺麭屋の店に続いた茶の間であるが、正面は障子の …
読書目安時間:約21分
河津文六 妻おせい 倅廉太 娘おちか 梶本京作 お園 其他亡者、鬼など大勢 時——大正×××年一月三十二日 処——大都会の場末 舞台は麺麭屋の店に続いた茶の間であるが、正面は障子の …
通俗性・大衆性・普遍性(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
演劇に限らず、芸術作品の通俗性とか大衆性とかが問題になつてゐる。 通俗性と大衆性の区別は、もつとはつきりさせねばならぬが、これは簡単に通俗性とは、芸術的教養なき一般俗衆に、安価な興 …
読書目安時間:約5分
演劇に限らず、芸術作品の通俗性とか大衆性とかが問題になつてゐる。 通俗性と大衆性の区別は、もつとはつきりさせねばならぬが、これは簡単に通俗性とは、芸術的教養なき一般俗衆に、安価な興 …
築地座の『旧友』(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
エドモン・セエの「旧友」は、辰野隆氏によつて巧みな翻案が企てられ、私が予て主張する「西洋劇の消化」が、ここに、一個の前例なき舞台的見本を提供したことは、ひそかに快とするところだ。 …
読書目安時間:約2分
エドモン・セエの「旧友」は、辰野隆氏によつて巧みな翻案が企てられ、私が予て主張する「西洋劇の消化」が、ここに、一個の前例なき舞台的見本を提供したことは、ひそかに快とするところだ。 …
築地座の『ママ先生』(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
友田恭助君夫妻が、私の「ママ先生とその夫」をやりたいと云つて来た。配役は十人のうちから九人を選ぶといふ窮屈千万な方法だが、私は即座にこれを許した。 友田君夫妻は、新劇俳優として既に …
読書目安時間:約3分
友田恭助君夫妻が、私の「ママ先生とその夫」をやりたいと云つて来た。配役は十人のうちから九人を選ぶといふ窮屈千万な方法だが、私は即座にこれを許した。 友田君夫妻は、新劇俳優として既に …
築地小劇場の旗挙(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
日本にはじめて純芸術的劇場が建てられ、その当事者が、何よりもまづ未来に目的を置いて、根本的な演劇革新運動を起したといふことは、実に愉快である。 「最初に現れたものをいきなり見られ、 …
読書目安時間:約11分
日本にはじめて純芸術的劇場が建てられ、その当事者が、何よりもまづ未来に目的を置いて、根本的な演劇革新運動を起したといふことは、実に愉快である。 「最初に現れたものをいきなり見られ、 …
辻久一著「夜の芸術」(新字新仮名)
読書目安時間:約1分
演劇は黄昏に、映画は未明にある、という意味で、この書の題はわが意を得ている。前者においてともしびをかかげ、後者に於て鎧戸を開く役目を、この著者に期待しても間違いはあるまい。 著者は …
読書目安時間:約1分
演劇は黄昏に、映画は未明にある、という意味で、この書の題はわが意を得ている。前者においてともしびをかかげ、後者に於て鎧戸を開く役目を、この著者に期待しても間違いはあるまい。 著者は …
妻の日記(新字旧仮名)
読書目安時間:約26分
かういふ場所で私事を語ることは、由来、私の最も好まぬところである。如何なる理由があらうとも、誰がどう勧めようとも、私は今日までその気持を押し通して来た。従つて、小説の形ですらも、「 …
読書目安時間:約26分
かういふ場所で私事を語ることは、由来、私の最も好まぬところである。如何なる理由があらうとも、誰がどう勧めようとも、私は今日までその気持を押し通して来た。従つて、小説の形ですらも、「 …
テアトル・コメディイ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
先日、仁寿講堂で観たこの新劇団の仕事は、予て聞いてゐた通り、八分賛成でき、二分危険を感じさせるものだ。 賛成ができる点といへば、みな熱心で、素質の優れた人が少くなく、芝居を「面白く …
読書目安時間:約2分
先日、仁寿講堂で観たこの新劇団の仕事は、予て聞いてゐた通り、八分賛成でき、二分危険を感じさせるものだ。 賛成ができる点といへば、みな熱心で、素質の優れた人が少くなく、芝居を「面白く …
テアトル・コメディイの二喜劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
金杉惇郎君は、なかなかの理論家で、演劇の実際家としても、一つの勇敢な主張を振り翳し、着々、劇界の地歩を占めつつあることは、私はじめ期待と興味をもつて眺めつつあるのであるが、同君は、 …
読書目安時間:約5分
金杉惇郎君は、なかなかの理論家で、演劇の実際家としても、一つの勇敢な主張を振り翳し、着々、劇界の地歩を占めつつあることは、私はじめ期待と興味をもつて眺めつつあるのであるが、同君は、 …
動員挿話[第一稿](新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
宇治少佐 鈴子夫人 馬丁友吉 妻お種 従卒太田 女中よし 明治三十七年の夏 東京 宇治少佐の居間。——夕刻 従卒太田が軍用鞄の整理をしてゐる。 宇治少佐が和服姿で現はれる。 少佐。 …
読書目安時間:約25分
宇治少佐 鈴子夫人 馬丁友吉 妻お種 従卒太田 女中よし 明治三十七年の夏 東京 宇治少佐の居間。——夕刻 従卒太田が軍用鞄の整理をしてゐる。 宇治少佐が和服姿で現はれる。 少佐。 …
動員挿話(二幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約31分
人物 宇治少佐 従卒太田 馬丁友吉 少佐夫人鈴子 友吉妻数代 女中よし 時明治三十七年の夏 所東京 宇治少佐の居間——夕刻 従卒太田(騎兵一等卒)が軍用鞄の整理をしてゐる。 鈴子夫 …
読書目安時間:約31分
人物 宇治少佐 従卒太田 馬丁友吉 少佐夫人鈴子 友吉妻数代 女中よし 時明治三十七年の夏 所東京 宇治少佐の居間——夕刻 従卒太田(騎兵一等卒)が軍用鞄の整理をしてゐる。 鈴子夫 …
東京朝日新聞の劇評(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
近頃変つた試みだと思ふのは、東京朝日がこの春あたりから始めた劇評の形式である。これは結局、一二の人を除き、今日、専門の劇評家として、大新聞の劇評を担当させるやうな見識才能ある人物が …
読書目安時間:約5分
近頃変つた試みだと思ふのは、東京朝日がこの春あたりから始めた劇評の形式である。これは結局、一二の人を除き、今日、専門の劇評家として、大新聞の劇評を担当させるやうな見識才能ある人物が …
『同志の人々』(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕は近頃、芝居はどこが面白いかといふ問題について頭を捻つてゐる。 少しそれがわかりかけたやうな気がする。そこへ、畏友山本有三氏から近著戯曲集『同志の人々』の恵贈に預つた。で、早速、 …
読書目安時間:約3分
僕は近頃、芝居はどこが面白いかといふ問題について頭を捻つてゐる。 少しそれがわかりかけたやうな気がする。そこへ、畏友山本有三氏から近著戯曲集『同志の人々』の恵贈に預つた。で、早速、 …
時 処 人:――年頭雑感――(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
芝居の脚本を書くのには、まず、標題のつぎに、その劇が行われる時と場所と登場人物とを、はつきり書きあげるのが定石である。 私はいま、ここで脚本を書くつもりはないが、年々歳々、違つた場 …
読書目安時間:約10分
芝居の脚本を書くのには、まず、標題のつぎに、その劇が行われる時と場所と登場人物とを、はつきり書きあげるのが定石である。 私はいま、ここで脚本を書くつもりはないが、年々歳々、違つた場 …
「時・処・人」まへがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
これは随筆集といふよりも、寧ろ雑文集である。私はこの十年間、ほとんど随筆的心境といへるやうな心境を味つたことはなかつた。もとより文人墨客趣味などはないところへもつて来て、時代が時代 …
読書目安時間:約1分
これは随筆集といふよりも、寧ろ雑文集である。私はこの十年間、ほとんど随筆的心境といへるやうな心境を味つたことはなかつた。もとより文人墨客趣味などはないところへもつて来て、時代が時代 …
独断一束(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
思想 芸術としての思想の魅力は、芸術家が、その思想を、軽く掌の上にのせてゐる時にのみ、われわれの心を動かす。 時代意識 時代意識がない、それで、その作品に、なにか大事なものが欠けて …
読書目安時間:約3分
思想 芸術としての思想の魅力は、芸術家が、その思想を、軽く掌の上にのせてゐる時にのみ、われわれの心を動かす。 時代意識 時代意識がない、それで、その作品に、なにか大事なものが欠けて …
独断三幅対(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
二めい/\の表現 傑れた戯曲が出ない。新しい俳優が出ない。適当な劇場がない。日本現代劇の不振を嘆ずるものゝきまり文句である。 日本人の現代生活には、最も「戯曲的雰囲気」が欠けてゐる …
読書目安時間:約5分
二めい/\の表現 傑れた戯曲が出ない。新しい俳優が出ない。適当な劇場がない。日本現代劇の不振を嘆ずるものゝきまり文句である。 日本人の現代生活には、最も「戯曲的雰囲気」が欠けてゐる …
時計とステッキ(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私は、今、時計といふものを持つて歩かない。時間を超越するほど結構な生活をしてゐる訳ではないが、時計を持つてゐなくつても、どうやら用事は足りるのである。そのかはりどこへ行つても、時間 …
読書目安時間:約8分
私は、今、時計といふものを持つて歩かない。時間を超越するほど結構な生活をしてゐる訳ではないが、時計を持つてゐなくつても、どうやら用事は足りるのである。そのかはりどこへ行つても、時間 …
都市文化の危機(新字旧仮名)
読書目安時間:約28分
都市は元来、その規模の大小にかゝはらず、政治、経済の中央集権的な機構が作りだした、高度技術生活の凝結体である。 従つて、都市を形作る要素は、それ自体技術文化と緊密に結びついてゐるの …
読書目安時間:約28分
都市は元来、その規模の大小にかゝはらず、政治、経済の中央集権的な機構が作りだした、高度技術生活の凝結体である。 従つて、都市を形作る要素は、それ自体技術文化と緊密に結びついてゐるの …
「ドストエーフスキイ全集」推薦の辞(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
ドストイエフスキイの小説は、人類の残した業績の最も偉大なものの一つであることは云ふまでもないが、この天才が露西亜に生れたといふことを、われわれは特に注意すべきであると思ふ。混沌たる …
読書目安時間:約1分
ドストイエフスキイの小説は、人類の残した業績の最も偉大なものの一つであることは云ふまでもないが、この天才が露西亜に生れたといふことを、われわれは特に注意すべきであると思ふ。混沌たる …
隣組長として(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は今度隣組長の役を買つて出た。買つて出たといふ意味は、別に選挙をされたわけでもなく、特にみんなから私にやれと強ひられた覚えもないが、最近の常会で、どうも私自身この役を引受けた方が …
読書目安時間:約3分
私は今度隣組長の役を買つて出た。買つて出たといふ意味は、別に選挙をされたわけでもなく、特にみんなから私にやれと強ひられた覚えもないが、最近の常会で、どうも私自身この役を引受けた方が …
隣組の文化運動(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
大政翼賛会文化部を中心に「隣組文化運動」に関する懇談会が開かれた。問題は主として町内会の運営に文化方面の考慮がもつと払はれなければならぬこと——隣組の性格によつて、いはゆる文化的な …
読書目安時間:約3分
大政翼賛会文化部を中心に「隣組文化運動」に関する懇談会が開かれた。問題は主として町内会の運営に文化方面の考慮がもつと払はれなければならぬこと——隣組の性格によつて、いはゆる文化的な …
隣の花(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
「隣の花」といふ標題は、あんまり説明的で、ことによると、内容は読まなくつてもわかるといふ人があるかも知れません。なるほど、私は、此の脚本を書く時、平素と全く違つた行き方をしました。 …
読書目安時間:約1分
「隣の花」といふ標題は、あんまり説明的で、ことによると、内容は読まなくつてもわかるといふ人があるかも知れません。なるほど、私は、此の脚本を書く時、平素と全く違つた行き方をしました。 …
隣の花(新字旧仮名)
読書目安時間:約23分
郊外にある例の小住宅向き二軒長屋。形ばかりの竹垣で仕切られた各々二十坪ほどの庭——霜枯れ時の寂寥さを想はせる花壇に、春の終りゆえ、色取り/″\の草花が咲き乱れてゐる。 その庭を、朝 …
読書目安時間:約23分
郊外にある例の小住宅向き二軒長屋。形ばかりの竹垣で仕切られた各々二十坪ほどの庭——霜枯れ時の寂寥さを想はせる花壇に、春の終りゆえ、色取り/″\の草花が咲き乱れてゐる。 その庭を、朝 …
トリスタン・ベルナアルに就いて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
彼はポルト・リシュやベルンスタンと同じく猶太の血を享けてゐる。しかも、仏蘭西人らしい特質の最も多くを備へてゐる猶太作家である。 彼は甚だ金持である。スポーツ、わけても競馬と拳闘の熱 …
読書目安時間:約3分
彼はポルト・リシュやベルンスタンと同じく猶太の血を享けてゐる。しかも、仏蘭西人らしい特質の最も多くを備へてゐる猶太作家である。 彼は甚だ金持である。スポーツ、わけても競馬と拳闘の熱 …
取引にあらず(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
人物 遠藤又蔵 妻なほ 娘きぬ 学生 床屋の主人 若い男 老紳士 隣の細君 職人 場所 東京の場末 時 冬のはじめ 煙草店の主人遠藤又蔵は、夕刊を読みながら、傍の娘きぬに話しかけて …
読書目安時間:約21分
人物 遠藤又蔵 妻なほ 娘きぬ 学生 床屋の主人 若い男 老紳士 隣の細君 職人 場所 東京の場末 時 冬のはじめ 煙草店の主人遠藤又蔵は、夕刊を読みながら、傍の娘きぬに話しかけて …
「どん底」の演出(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
文学座の三月公演がゴーリキイの「どん底」にきまり、私にその演出をやれといふ委員会からの命令で、私は「えいッ」と覚悟をきめて、それを引き受けた。健康のことは勿論だが、私のどこにそんな …
読書目安時間:約3分
文学座の三月公演がゴーリキイの「どん底」にきまり、私にその演出をやれといふ委員会からの命令で、私は「えいッ」と覚悟をきめて、それを引き受けた。健康のことは勿論だが、私のどこにそんな …
『どん底』ノート(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
『どん底』の解説(作品) 演出方針 帝政ロシア時代のモスクワの貧民街。 木賃宿。 最下層階級を形づくるある意味で孤立した社会の生態。 希望を失ひ生活にひしがれたといふ共通の性格をも …
読書目安時間:約2分
『どん底』の解説(作品) 演出方針 帝政ロシア時代のモスクワの貧民街。 木賃宿。 最下層階級を形づくるある意味で孤立した社会の生態。 希望を失ひ生活にひしがれたといふ共通の性格をも …
問屋種切れ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
大戦後、欧洲各国の都市に擡頭した新劇運動の余波は、わが国にも及んで、かの表現派、構成派等の新傾向をはじめ、思想的にも技術的にも、様々な流派が一時にわが劇壇の空気を彩つた。 ところが …
読書目安時間:約2分
大戦後、欧洲各国の都市に擡頭した新劇運動の余波は、わが国にも及んで、かの表現派、構成派等の新傾向をはじめ、思想的にも技術的にも、様々な流派が一時にわが劇壇の空気を彩つた。 ところが …
中野重治氏に答ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
一、役者が批評家と公然の舞台で議論するやうになることは、特にいいこととも考へられませんが、自分の主張を、役者なるが故に、堂々と発表できないといふ習慣は、勿論、排撃すべきでありませう …
読書目安時間:約3分
一、役者が批評家と公然の舞台で議論するやうになることは、特にいいこととも考へられませんが、自分の主張を、役者なるが故に、堂々と発表できないといふ習慣は、勿論、排撃すべきでありませう …
中村・阪中二君のこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
中村正常君は戯曲家として世間の一部に名前を知られてゐる人である。僕は同君の作品を殆どみな読んだが、その世界の狭さには一寸驚いた。狭いだけならそんなに驚かないが、その狭い世界をはつき …
読書目安時間:約3分
中村正常君は戯曲家として世間の一部に名前を知られてゐる人である。僕は同君の作品を殆どみな読んだが、その世界の狭さには一寸驚いた。狭いだけならそんなに驚かないが、その狭い世界をはつき …
中村伸郎:――文学座のアルバム――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
近代俳優の特色が、いはゆる限られた役柄をもたぬところにあるとすれば、中村伸郎はまさに、さういふ俳優の一人である。繊細かと思ふと案外図太く、飄々乎としてゐる半面になかなか手堅いところ …
読書目安時間:約1分
近代俳優の特色が、いはゆる限られた役柄をもたぬところにあるとすれば、中村伸郎はまさに、さういふ俳優の一人である。繊細かと思ふと案外図太く、飄々乎としてゐる半面になかなか手堅いところ …
懐かし味気なし:五年振で見る故国の芝居(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
本郷座の夜の部を見て何か言へといふ注文なのですが、私はまだ厳密な意味で、他人の作品を批評し得る自信はありません。 云ふまでもなく、新しい本郷座の舞台で谷崎、菊池両氏の新作が左団次一 …
読書目安時間:約6分
本郷座の夜の部を見て何か言へといふ注文なのですが、私はまだ厳密な意味で、他人の作品を批評し得る自信はありません。 云ふまでもなく、新しい本郷座の舞台で谷崎、菊池両氏の新作が左団次一 …
菜の花は赤い(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
かうと思つたらどうしてもそのことをやり遂げないと承知できない人物がゐる。 やり遂げる意志の力はまことに見あげたものであるが、「かうと思ふ」、その「かう」が問題であつて、結果の是非善 …
読書目安時間:約16分
かうと思つたらどうしてもそのことをやり遂げないと承知できない人物がゐる。 やり遂げる意志の力はまことに見あげたものであるが、「かうと思ふ」、その「かう」が問題であつて、結果の是非善 …
悩みと死の微笑(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
私は芥川氏の作品を、半分ぐらゐしか読んでゐない。また直接言葉を交したのは、前後僅か三四回にすぎぬ。 生前極めて交遊の広かつたらしい同氏から見れば、一度もその私宅を訪れたことさへない …
読書目安時間:約2分
私は芥川氏の作品を、半分ぐらゐしか読んでゐない。また直接言葉を交したのは、前後僅か三四回にすぎぬ。 生前極めて交遊の広かつたらしい同氏から見れば、一度もその私宅を訪れたことさへない …
なんとかせねばならぬ(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
僕はこの十年以来、芝居についての意見又は感想を書きつづけて来た。 十年前と今日とでは、局部的には可なり事情が変つてゐるやうだが、劇壇全般の空気といふものは、依然、僕の「健康」には適 …
読書目安時間:約11分
僕はこの十年以来、芝居についての意見又は感想を書きつづけて来た。 十年前と今日とでは、局部的には可なり事情が変つてゐるやうだが、劇壇全般の空気といふものは、依然、僕の「健康」には適 …
『南方絵筆紀行』の序(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
明石哲三君は鋭い感覚の画家であり、「生きもの」に興味をもつ自然科学者であり、しかも、最も人間の原始的なすがたを愛する詩人である。 彼はその性情と肉体の特殊な偏向によるのであらうか、 …
読書目安時間:約2分
明石哲三君は鋭い感覚の画家であり、「生きもの」に興味をもつ自然科学者であり、しかも、最も人間の原始的なすがたを愛する詩人である。 彼はその性情と肉体の特殊な偏向によるのであらうか、 …
虹色の幻想(シナリオ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間18分
海底の美しい景観のなかに、若い海女が一人、自由奔放な姿で現れる。腰に綱をつけてゐるのがはつきりわかる。海女は、岩の間を潜り、海草の茂みを分け、アハビ貝を探してゐる。アハビを二つ腰に …
読書目安時間:約1時間18分
海底の美しい景観のなかに、若い海女が一人、自由奔放な姿で現れる。腰に綱をつけてゐるのがはつきりわかる。海女は、岩の間を潜り、海草の茂みを分け、アハビ貝を探してゐる。アハビを二つ腰に …
日記について(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
私は日記をつけない。なぜつけないかと訊かれると、返事に困るが、どうもつける気がしない。それでも今までに、つけてゐたらよかつたと思ふことは思ふ。すると、結局、私の中に、日記をつけたく …
読書目安時間:約6分
私は日記をつけない。なぜつけないかと訊かれると、返事に困るが、どうもつける気がしない。それでも今までに、つけてゐたらよかつたと思ふことは思ふ。すると、結局、私の中に、日記をつけたく …
日本映画の水準について(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
映画愛好者の分布がはつきり二つに別れてをり、一つは西洋映画フアン、一つは日本映画フアンであり、その間に、ほとんど共通な分子がなく、強いて求めれば専門の研究家ぐらゐのものだといふ事実 …
読書目安時間:約9分
映画愛好者の分布がはつきり二つに別れてをり、一つは西洋映画フアン、一つは日本映画フアンであり、その間に、ほとんど共通な分子がなく、強いて求めれば専門の研究家ぐらゐのものだといふ事実 …
日本演劇の特質(新字旧仮名)
読書目安時間:約35分
九月三日(土曜日)午前九時三十分開講 今から「日本演劇の特質」といふ題でお話をしようと思ひます。皆さんは特別に日本の演劇を研究しようといふ目的を持つておいでになるお方ではないと思ひ …
読書目安時間:約35分
九月三日(土曜日)午前九時三十分開講 今から「日本演劇の特質」といふ題でお話をしようと思ひます。皆さんは特別に日本の演劇を研究しようといふ目的を持つておいでになるお方ではないと思ひ …
日本人とは?:――宛名のない手紙――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3時間16分
三年間の蟄居生活が私に教へたことは、「なにもしない」といふことの気安さと淋しさである。そして、この気安さと淋しさとは二つのものでなく、ひとつのものであり、それは表と裏、色と艶、光と …
読書目安時間:約3時間16分
三年間の蟄居生活が私に教へたことは、「なにもしない」といふことの気安さと淋しさである。そして、この気安さと淋しさとは二つのものでなく、ひとつのものであり、それは表と裏、色と艶、光と …
『日本人とは?』再刊にあたつて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
この書物は旧版の前がきにあるとほり、終戦直後、あわたゞしい空気のなかで、自分のうちにくすぶつてゐる感情を一応整理するつもりで書いたメモに類するものである。しかし、また同時に、これは …
読書目安時間:約2分
この書物は旧版の前がきにあるとほり、終戦直後、あわたゞしい空気のなかで、自分のうちにくすぶつてゐる感情を一応整理するつもりで書いたメモに類するものである。しかし、また同時に、これは …
『日本人とはなにか』まへがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
雑誌「玄想」の創刊号から十回に亙つて毎号「宛名のない手紙」といふ題で発表した文章をこゝに一冊の本として出すことにした。 書物の題としては「宛名のない手紙」ではちよつと内容が想像しに …
読書目安時間:約7分
雑誌「玄想」の創刊号から十回に亙つて毎号「宛名のない手紙」といふ題で発表した文章をこゝに一冊の本として出すことにした。 書物の題としては「宛名のない手紙」ではちよつと内容が想像しに …
日本人のたしなみ(新字旧仮名)
読書目安時間:約13分
「たしなみ」 「たしなみ」といふといかにもありふれた言葉ですが、これが今の日本人に忘れられてゐるやうです。大きな弱点です。これは文学でも経済でも政治でもさうですし、殊に生活の上では …
読書目安時間:約13分
「たしなみ」 「たしなみ」といふといかにもありふれた言葉ですが、これが今の日本人に忘れられてゐるやうです。大きな弱点です。これは文学でも経済でも政治でもさうですし、殊に生活の上では …
日本に生れた以上は(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
さあ、僕はどういふ風に云はうか? 林君は熱情を見事に整理しつつ雄弁を振つてゐる。森山君は、縹渺たる感懐をリリカルな思考に托してゐる。何れも文学者らしい態度で堂々とこの課題を征服した …
読書目安時間:約12分
さあ、僕はどういふ風に云はうか? 林君は熱情を見事に整理しつつ雄弁を振つてゐる。森山君は、縹渺たる感懐をリリカルな思考に托してゐる。何れも文学者らしい態度で堂々とこの課題を征服した …
日本の新劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
現在いろいろな場合に新劇といふ言葉が使はれてをりますが、先日もある機会に、「新劇」とはなんぞやといふ質問が出ましたのに、この答へを当然用意してゐなければならない人々が、実はお互に顔 …
読書目安時間:約8分
現在いろいろな場合に新劇といふ言葉が使はれてをりますが、先日もある機会に、「新劇」とはなんぞやといふ質問が出ましたのに、この答へを当然用意してゐなければならない人々が、実はお互に顔 …
日本文化の特質:――力としての文化 第二話(新字旧仮名)
読書目安時間:約40分
「文化」は国土と歴史との所産であります。言ひ換へれば、民族の血と運命とが創りあげる生存のすがたであります。民族とはこゝでは狭い意味の人種的差別を云々せず、精神的に結合した政治的統一 …
読書目安時間:約40分
「文化」は国土と歴史との所産であります。言ひ換へれば、民族の血と運命とが創りあげる生存のすがたであります。民族とはこゝでは狭い意味の人種的差別を云々せず、精神的に結合した政治的統一 …
『日本を観る』の序に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
われら日本人は先づわれら日本人のなんたるかを識らねばならぬとは、近頃誰でもが口にするところであるが、その「識り方」にはいろいろの角度があつて、これをおほざつぱに分けてみても、自信を …
読書目安時間:約2分
われら日本人は先づわれら日本人のなんたるかを識らねばならぬとは、近頃誰でもが口にするところであるが、その「識り方」にはいろいろの角度があつて、これをおほざつぱに分けてみても、自信を …
女人渇仰(新字旧仮名)
読書目安時間:約30分
舞台は黒幕の前、左手と右手にそれぞれ室内を暗示する簡単な装置。中央は街路。照明の転換によつて、この三つの部分が順々に利用される。 最初は、中央の街路上に二つの人影。 老人ひとりつき …
読書目安時間:約30分
舞台は黒幕の前、左手と右手にそれぞれ室内を暗示する簡単な装置。中央は街路。照明の転換によつて、この三つの部分が順々に利用される。 最初は、中央の街路上に二つの人影。 老人ひとりつき …
人間カザノヴァの輪郭(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
カザノヴァの回想録を訳しはじめてみると、いろいろな問題が自分にも起こつて来るし、この書物の解説といふやうなものが同時になくてはならぬといふ気がするので、既に世にあらはれている文献を …
読書目安時間:約22分
カザノヴァの回想録を訳しはじめてみると、いろいろな問題が自分にも起こつて来るし、この書物の解説といふやうなものが同時になくてはならぬといふ気がするので、既に世にあらはれている文献を …
「にんじん」とルナアルについて(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
ジュウル・ルナアル(Jules Renard 1864—1910)の作品のうちで最もひろく読まれ、世人に親しまれているのは、この「にんじん」である。原名は Poil de Caro …
読書目安時間:約8分
ジュウル・ルナアル(Jules Renard 1864—1910)の作品のうちで最もひろく読まれ、世人に親しまれているのは、この「にんじん」である。原名は Poil de Caro …
「にんじん」の訳稿を終へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
(此の一文は考ふるところあつて特に挟込となす) この翻訳は全く自分の道楽にやつた仕事だと云つていゝ。初めはのろのろ、しまいには大速力で、足かけ五年かゝつた。創作月刊、文芸春秋、作品 …
読書目安時間:約2分
(此の一文は考ふるところあつて特に挟込となす) この翻訳は全く自分の道楽にやつた仕事だと云つていゝ。初めはのろのろ、しまいには大速力で、足かけ五年かゝつた。創作月刊、文芸春秋、作品 …
“にんじん”を観て(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
映画「にんじん」をみて、第一に感じたことは、監督デユヴイヴイエが、単にルナアルの小説及び戯曲からその主題を藉りたといふばかりでなく、ルナアル流の「文章的表現」を、映画のリズムによつ …
読書目安時間:約2分
映画「にんじん」をみて、第一に感じたことは、監督デユヴイヴイエが、単にルナアルの小説及び戯曲からその主題を藉りたといふばかりでなく、ルナアル流の「文章的表現」を、映画のリズムによつ …
農村の文化について(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
皇国農村の建設といふことが近頃叫ばれてゐる。いろいろな立場で農村問題が論ぜられ、それぞれの専門家が農村の振興について重要な役割を演じてゐたことは事実であるけれども、元来、日本の農村 …
読書目安時間:約10分
皇国農村の建設といふことが近頃叫ばれてゐる。いろいろな立場で農村問題が論ぜられ、それぞれの専門家が農村の振興について重要な役割を演じてゐたことは事実であるけれども、元来、日本の農村 …
野上君の処女戯曲(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「夢を喰ふ女」は野上彰君の最初の戯曲だといふことだが、私は作者自身に朗読してもらひ、第一幕ですでにその凡手でないことを感じ、ところどころ散漫な部分はあるにはあるが、ともかく、最後ま …
読書目安時間:約2分
「夢を喰ふ女」は野上彰君の最初の戯曲だといふことだが、私は作者自身に朗読してもらひ、第一幕ですでにその凡手でないことを感じ、ところどころ散漫な部分はあるにはあるが、ともかく、最後ま …
長閑なる反目(新字旧仮名)
読書目安時間:約32分
人物 保根 もえ子 野見 丸地 くみ 美奈子 保根の家——八畳の座敷——机が二つ部屋の両隅に並んでゐる。 保根は一方の机に向つて、何か調べものをしてゐる。 野見は縁側に座蒲団を持ち …
読書目安時間:約32分
人物 保根 もえ子 野見 丸地 くみ 美奈子 保根の家——八畳の座敷——机が二つ部屋の両隅に並んでゐる。 保根は一方の机に向つて、何か調べものをしてゐる。 野見は縁側に座蒲団を持ち …
梅雨期の饒舌(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
自分一人の力ではどうにもならないやうなことを、やれどうしなければならぬ、かうしなければならぬと、むきになつていふのは、落付いて考へて見ると、甚だ滑稽であり、ある種の人から見れば、さ …
読書目安時間:約7分
自分一人の力ではどうにもならないやうなことを、やれどうしなければならぬ、かうしなければならぬと、むきになつていふのは、落付いて考へて見ると、甚だ滑稽であり、ある種の人から見れば、さ …
『ハイカラ』といふこと(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
近頃の若い人達は、もうこんな言葉は使はないかもしれないが、それでも、言葉そのものは、まだなくなつてはゐない。 「あの男はハイカラだ」といへば、その男がどういふ風な男であるかは問題で …
読書目安時間:約9分
近頃の若い人達は、もうこんな言葉は使はないかもしれないが、それでも、言葉そのものは、まだなくなつてはゐない。 「あの男はハイカラだ」といへば、その男がどういふ風な男であるかは問題で …
『敗戦の倫理』編者のことば(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
こゝに集めたいくつかの文章は、最近の諸雑誌を通じて私の眼にふれたもののなかから、これは是非青年諸君に熟読してもらひたいと思つた評論感想の類を選んで再録したものである。 執筆者はいづ …
読書目安時間:約2分
こゝに集めたいくつかの文章は、最近の諸雑誌を通じて私の眼にふれたもののなかから、これは是非青年諸君に熟読してもらひたいと思つた評論感想の類を選んで再録したものである。 執筆者はいづ …
俳優教育について(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
あらゆる芸術の分野に於て、誰かが、自分こそは独自の道を歩いてゐる——何人からも、教へられるところはない——模倣は生来自分の性に合はない——と広言したならば、その人間はたしかに、自分 …
読書目安時間:約9分
あらゆる芸術の分野に於て、誰かが、自分こそは独自の道を歩いてゐる——何人からも、教へられるところはない——模倣は生来自分の性に合はない——と広言したならば、その人間はたしかに、自分 …
俳優志望者メンタルテスト(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私。俳優志望の理由を簡単に云つて御覧なさい。 志望者。理由と云つて、別にありません。たゞ、自分で芝居がして見たいといふだけです。 私。芝居をするといふのは、舞台に立つといふことです …
読書目安時間:約5分
私。俳優志望の理由を簡単に云つて御覧なさい。 志望者。理由と云つて、別にありません。たゞ、自分で芝居がして見たいといふだけです。 私。芝居をするといふのは、舞台に立つといふことです …
俳優と現代人の生活(対話Ⅴ)(新字新仮名)
読書目安時間:約15分
A(編集者)先月、日本の俳優は、芝居するという目先のことにとらわれすぎて、演技にフクラミがない、というようなお話がありましたが、これはやはり歌舞伎なんかのやり方と関係があるでしよう …
読書目安時間:約15分
A(編集者)先月、日本の俳優は、芝居するという目先のことにとらわれすぎて、演技にフクラミがない、というようなお話がありましたが、これはやはり歌舞伎なんかのやり方と関係があるでしよう …
俳優の素質(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
昔から俳優の素質を論じる場合に、誰でも「感性」を第一に挙げてゐるが、これはつまり、他の芸術家の如く、一方に於て同じ程度の「想像力」を必要としない結果、「感性」の必要が著しく目立つか …
読書目安時間:約9分
昔から俳優の素質を論じる場合に、誰でも「感性」を第一に挙げてゐるが、これはつまり、他の芸術家の如く、一方に於て同じ程度の「想像力」を必要としない結果、「感性」の必要が著しく目立つか …
俳優養成と人材発見(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
わが国に於ける新劇不振の原因が、俳優に未だその人を得ない所にあるといふ私の意見は、たまたま劇壇一部の批難を生んだやうであるが、これはたしかに、解釈の仕方によつては、不都合な言辞とし …
読書目安時間:約4分
わが国に於ける新劇不振の原因が、俳優に未だその人を得ない所にあるといふ私の意見は、たまたま劇壇一部の批難を生んだやうであるが、これはたしかに、解釈の仕方によつては、不都合な言辞とし …
俳優倫理(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間45分
1俳優とは何か 講義の題目は俳優倫理というのですが、俳優倫理という言葉は今日までどこでも使われた例はないと思います。この研究所で初めてそういう講義の題目を作ったのですが、元来、この …
読書目安時間:約1時間45分
1俳優とは何か 講義の題目は俳優倫理というのですが、俳優倫理という言葉は今日までどこでも使われた例はないと思います。この研究所で初めてそういう講義の題目を作ったのですが、元来、この …
博物誌あとがき(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
『博物誌』という題は“Histoires Naturelles”の訳であるが、これはもうこれで世間に通った訳語だと思うから、そのまま使うことにした。 フランスにおける原著の最初の出 …
読書目安時間:約3分
『博物誌』という題は“Histoires Naturelles”の訳であるが、これはもうこれで世間に通った訳語だと思うから、そのまま使うことにした。 フランスにおける原著の最初の出 …
「博物誌」の序に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
「博物誌」といふ題は“Histoires Naturelles”の訳であるが、これはもうこれで世間に通つた訳語だと思ふから、そのまま使ふことにした。 フランスに於ける原書の最初の出 …
読書目安時間:約4分
「博物誌」といふ題は“Histoires Naturelles”の訳であるが、これはもうこれで世間に通つた訳語だと思ふから、そのまま使ふことにした。 フランスに於ける原書の最初の出 …
葉桜(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
人物 母 娘 時四月下旬の真昼 所母の居間——六畳 開け放された正面の丸窓から、葉桜の枝が覗いてゐる。 母は、縫ひものをしてゐる。 娘は、その傍らで、雑誌の頁を繰つてゐる。 ——間 …
読書目安時間:約19分
人物 母 娘 時四月下旬の真昼 所母の居間——六畳 開け放された正面の丸窓から、葉桜の枝が覗いてゐる。 母は、縫ひものをしてゐる。 娘は、その傍らで、雑誌の頁を繰つてゐる。 ——間 …
走るノート(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
四十年ぶりで、郷里を訪れたいといふ母の望を叶へる好機会である。私は、講演旅行の勧めに応じた。それで、いよいよ出発といふ段取りになつて、家に病人ができ、母は病人を置いて家を明けること …
読書目安時間:約4分
四十年ぶりで、郷里を訪れたいといふ母の望を叶へる好機会である。私は、講演旅行の勧めに応じた。それで、いよいよ出発といふ段取りになつて、家に病人ができ、母は病人を置いて家を明けること …
花問答(新字旧仮名)
読書目安時間:約30分
父は旅行、母は買物、兄は散歩といふわけで、珍しく民子一人が、縁側で日向ぼつこをしてゐるところへ、取次も乞はず、義一がのつそり庭伝ひにはひつて来た。 「あら、だあれも出なかつた?」 …
読書目安時間:約30分
父は旅行、母は買物、兄は散歩といふわけで、珍しく民子一人が、縁側で日向ぼつこをしてゐるところへ、取次も乞はず、義一がのつそり庭伝ひにはひつて来た。 「あら、だあれも出なかつた?」 …
「花問答」後記(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
この一巻には、今までのどの作品集にもいれることのできなかつた、私としてはやゝ例外的な形式の短篇のみをあつめてみることにした。 従つて何れも試みの域に止まるものが多く、これを再び世に …
読書目安時間:約1分
この一巻には、今までのどの作品集にもいれることのできなかつた、私としてはやゝ例外的な形式の短篇のみをあつめてみることにした。 従つて何れも試みの域に止まるものが多く、これを再び世に …
母親の心理学(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ある知人の小児科医がかつて私に云つた。「近頃は生意気なお母さんがふえて、診てもらふ子供の病名を先に云ふのがゐる。今これ/\の手当をしてゐるなどゝ得意になつてまくしたてるのがゐるよ。 …
読書目安時間:約2分
ある知人の小児科医がかつて私に云つた。「近頃は生意気なお母さんがふえて、診てもらふ子供の病名を先に云ふのがゐる。今これ/\の手当をしてゐるなどゝ得意になつてまくしたてるのがゐるよ。 …
端役(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
端役をすら、一生懸命に演ずる俳優は頼母しい俳優だ。それは、端役しか勤まらない俳優であつてもいゝ。彼は主役に選ばれる幸運に繞り合はずに、その生涯を終ることがあつても、彼は、その生涯を …
読書目安時間:約2分
端役をすら、一生懸命に演ずる俳優は頼母しい俳優だ。それは、端役しか勤まらない俳優であつてもいゝ。彼は主役に選ばれる幸運に繞り合はずに、その生涯を終ることがあつても、彼は、その生涯を …
速水女塾:四幕と声のみの一場よりなる喜劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間47分
時 昭和二十二年、春から夏にかけて 処 東京の都心に遠い某区ならびに沼津海岸 人 速水桃子六十九速水女塾旧塾長 同秀策七十二その夫、元代議士 同思文二十六その息子 八坂登志子三十五 …
読書目安時間:約1時間47分
時 昭和二十二年、春から夏にかけて 処 東京の都心に遠い某区ならびに沼津海岸 人 速水桃子六十九速水女塾旧塾長 同秀策七十二その夫、元代議士 同思文二十六その息子 八坂登志子三十五 …
「速水女塾」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私はこゝでこの作品の解説をするつもりはない。たゞ、中央公論七月号に発表した「速水女塾」は、原稿を渡したあとで、急に手を入れる気になり、可なり書き足したところもあつて、それを決定稿と …
読書目安時間:約4分
私はこゝでこの作品の解説をするつもりはない。たゞ、中央公論七月号に発表した「速水女塾」は、原稿を渡したあとで、急に手を入れる気になり、可なり書き足したところもあつて、それを決定稿と …
「速水女塾」について:――演出覚え書――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
「速水女塾」は昭和二十三年の作である。私として戦後はじめての戯曲だけれども、それ以前約十年一日、いろいろな事情で、つい戯曲から遠ざかつてゐた。 そのせゐか、中央公論へ原稿を渡してし …
読書目安時間:約3分
「速水女塾」は昭和二十三年の作である。私として戦後はじめての戯曲だけれども、それ以前約十年一日、いろいろな事情で、つい戯曲から遠ざかつてゐた。 そのせゐか、中央公論へ原稿を渡してし …
速水女塾に就ての雑談(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
去年の一月、久しぶりで文学座の公演をみていろいろ感慨にふけつた。自分も創立者の一人であるこの劇団の成長はまづよろこぶべきものとして、さて、十年の月日は私個人をまつたく芝居から引きは …
読書目安時間:約4分
去年の一月、久しぶりで文学座の公演をみていろいろ感慨にふけつた。自分も創立者の一人であるこの劇団の成長はまづよろこぶべきものとして、さて、十年の月日は私個人をまつたく芝居から引きは …
巴里素描(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ヴォルテエル河岸 霧雨。——外套の襟を立てる。 ——いくら……これ? ——ラ・ハルプの文学史……六十法。 ——さよなら。 小蒸気の笛。 ——危ない、滑りますよ、奥さん。 サン・ミシ …
読書目安時間:約4分
ヴォルテエル河岸 霧雨。——外套の襟を立てる。 ——いくら……これ? ——ラ・ハルプの文学史……六十法。 ——さよなら。 小蒸気の笛。 ——危ない、滑りますよ、奥さん。 サン・ミシ …
巴里で観たイプセン劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は夙に近代劇の研究はイプセンから始めなければならぬと教えられてゐた。然るに私は、日本を離れるまで、二篇の邦訳を手にしただけである。巴里に来て、近所の貸本屋から、プロゾオルといふ人 …
読書目安時間:約4分
私は夙に近代劇の研究はイプセンから始めなければならぬと教えられてゐた。然るに私は、日本を離れるまで、二篇の邦訳を手にしただけである。巴里に来て、近所の貸本屋から、プロゾオルといふ人 …
巴里の新年(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
旅の眼に映じた外国の正月をといふお需めで、一昔前の記憶から探してみたが、其処にはほとんど、「お正月」といふものがない。我々の頭に幼少の頃から浸み込んでゐるお正月、新年、といふものと …
読書目安時間:約3分
旅の眼に映じた外国の正月をといふお需めで、一昔前の記憶から探してみたが、其処にはほとんど、「お正月」といふものがない。我々の頭に幼少の頃から浸み込んでゐるお正月、新年、といふものと …
帆船の絵について(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
もう十年も前のこと、私が友人A君に、ふとした話の序に、佐伯祐三の絵が好きだといふと、その友人は、それからしばらくたつて、これはどうだといつて、小さな風景のスケッチをもつて来てくれた …
読書目安時間:約1分
もう十年も前のこと、私が友人A君に、ふとした話の序に、佐伯祐三の絵が好きだといふと、その友人は、それからしばらくたつて、これはどうだといつて、小さな風景のスケッチをもつて来てくれた …
麺麭屋文六の思案(二場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
人物 文六五十五歳 おせい—その妻四十五歳 廉太—その悴二十三歳 おちか—その娘十七歳 常吉—丁稚十六歳 京作—止宿人四十二歳 万籟—新聞記者三十八歳 時大正×十×年の冬 処首都の …
読書目安時間:約22分
人物 文六五十五歳 おせい—その妻四十五歳 廉太—その悴二十三歳 おちか—その娘十七歳 常吉—丁稚十六歳 京作—止宿人四十二歳 万籟—新聞記者三十八歳 時大正×十×年の冬 処首都の …
光は影を(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間39分
長い戦争をはさんで、まる七年目に、京野等志は、変りはてた祖国の土を踏み、漠然と父母兄弟がそのまゝ以前のところに住んでいるなら、という期待だけで、自然に東京へ向つて二昼夜の汽車の旅を …
読書目安時間:約4時間39分
長い戦争をはさんで、まる七年目に、京野等志は、変りはてた祖国の土を踏み、漠然と父母兄弟がそのまゝ以前のところに住んでいるなら、という期待だけで、自然に東京へ向つて二昼夜の汽車の旅を …
「抽斗にない言葉」(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
古典劇の伝統と、新派浪漫劇の様式は、それ自身、ある「せりふ」廻しなるものを形づくつたが、それらの俳優は、また、それぞれ、修業の過程と工夫の範囲に於いて、各自独特の「声色」を生むに至 …
読書目安時間:約4分
古典劇の伝統と、新派浪漫劇の様式は、それ自身、ある「せりふ」廻しなるものを形づくつたが、それらの俳優は、また、それぞれ、修業の過程と工夫の範囲に於いて、各自独特の「声色」を生むに至 …
「悲劇喜劇」広告(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
*悲劇喜劇は、人生の中に舞台を観ようとするものの覘眼鏡である。 *悲劇喜劇は、近代演劇の迷宮を訪ふものの為めに編まれた新版案内書である。 *悲劇喜劇は、今の芝居を観に行かない人々を …
読書目安時間:約1分
*悲劇喜劇は、人生の中に舞台を観ようとするものの覘眼鏡である。 *悲劇喜劇は、近代演劇の迷宮を訪ふものの為めに編まれた新版案内書である。 *悲劇喜劇は、今の芝居を観に行かない人々を …
「悲劇喜劇」の編輯者として(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
今日までかういふ種類の雑誌があつたかどうか、いはゆる「公器」としては、あまりに個人本位であり、いはゆる「同人雑誌」としては、あまりに門戸開放に過ぎると思はれる、一雑誌の存在は、当今 …
読書目安時間:約6分
今日までかういふ種類の雑誌があつたかどうか、いはゆる「公器」としては、あまりに個人本位であり、いはゆる「同人雑誌」としては、あまりに門戸開放に過ぎると思はれる、一雑誌の存在は、当今 …
「悲劇喜劇」発刊について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私が雑誌を出すといふ話をすると、友人のあるものは、「そんな必要があるか」と問ひ返す。「面倒な仕事だからよせ」と云ふものさへある。 私はたゞ笑つて之に応へてゐるのだが、実際私自身の気 …
読書目安時間:約4分
私が雑誌を出すといふ話をすると、友人のあるものは、「そんな必要があるか」と問ひ返す。「面倒な仕事だからよせ」と云ふものさへある。 私はたゞ笑つて之に応へてゐるのだが、実際私自身の気 …
美談附近(新字旧仮名)
読書目安時間:約18分
川村節子さんは、未だ嘗て、人のせぬことをしたことはなかつた。それほど、目立つことが嫌ひであり、異を樹てるといふことに趣味はなかつた。 ところが、たつた一つ、今度といふ今度は、人のせ …
読書目安時間:約18分
川村節子さんは、未だ嘗て、人のせぬことをしたことはなかつた。それほど、目立つことが嫌ひであり、異を樹てるといふことに趣味はなかつた。 ところが、たつた一つ、今度といふ今度は、人のせ …
秘伝の名訳:――ボーマルシエ、辰野隆訳『フィガロの結婚』(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
外国作品の翻訳を思いたつのには、いろいろの名目と動機があり、また、その翻訳の態度にもさまざまな流儀と型がある。一概にどれが正しく、どれが好ましいともいえぬが、すくなくとも、わが辰野 …
読書目安時間:約3分
外国作品の翻訳を思いたつのには、いろいろの名目と動機があり、また、その翻訳の態度にもさまざまな流儀と型がある。一概にどれが正しく、どれが好ましいともいえぬが、すくなくとも、わが辰野 …
一言(『岸田秋子』について)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
亡妻秋子について私がこゝで語ることは差控へたい。娘たち二人も、何か書けといふ委員からのお勧めがあつたけれど、それだけはおゆるし願ひたいと私に申出た。これもまた諒とせざるを得なかつた …
読書目安時間:約2分
亡妻秋子について私がこゝで語ることは差控へたい。娘たち二人も、何か書けといふ委員からのお勧めがあつたけれど、それだけはおゆるし願ひたいと私に申出た。これもまた諒とせざるを得なかつた …
一言二言三言(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
誇大妄想狂 幕末の志士は佳し。爾来ニキビ面の低脳児、袖をまくりて天下国家を論ずるの風、一時、奇観を呈せり。釈迦、基督はよし、ダントン、レエニンは佳し。今日、猫も杓子も、社会、人類を …
読書目安時間:約3分
誇大妄想狂 幕末の志士は佳し。爾来ニキビ面の低脳児、袖をまくりて天下国家を論ずるの風、一時、奇観を呈せり。釈迦、基督はよし、ダントン、レエニンは佳し。今日、猫も杓子も、社会、人類を …
一言(「道遠からん」について)(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
わたくしは劇作といふ仕事を通じて、現代における、「喜劇」の存在理由をますます強く感じるやうになり、その精神の探究と、形式の確立のために、おぼつかない努力をしつづけて来た。その努力は …
読書目安時間:約3分
わたくしは劇作といふ仕事を通じて、現代における、「喜劇」の存在理由をますます強く感じるやうになり、その精神の探究と、形式の確立のために、おぼつかない努力をしつづけて来た。その努力は …
一つの試案:――「列」解消のために(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
先ごろから、魚屋、八百屋、菓子屋などの店先き、多くの主婦たちが一列に並んで順の来るのを待つてゐる買物風景は、どこへ行つても見ないといふわけにはゆかない。 日本は、まだまだ食ふに困ら …
読書目安時間:約6分
先ごろから、魚屋、八百屋、菓子屋などの店先き、多くの主婦たちが一列に並んで順の来るのを待つてゐる買物風景は、どこへ行つても見ないといふわけにはゆかない。 日本は、まだまだ食ふに困ら …
一つの挿話(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
亡くなつた林芙美子さんのことについて何か書けといふ注文である。なんといつても、これは少々筋ちがひのやうに思はれるが、編集者Yさんは非常に物覚えがよく、私がある時、映画の試写会のあと …
読書目安時間:約4分
亡くなつた林芙美子さんのことについて何か書けといふ注文である。なんといつても、これは少々筋ちがひのやうに思はれるが、編集者Yさんは非常に物覚えがよく、私がある時、映画の試写会のあと …
灯ともし頃(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
荒廃した庭園の一隅。 藻屑に覆はれた池のほとり。 雑草の生ひ茂つた中に、枯れ朽ちた梅の老樹。 晩春——薄暮。 少年が一人、ぽつねんと蹲つてゐる。手に持つた竹竿で、時々、狂ほしく草叢 …
読書目安時間:約5分
荒廃した庭園の一隅。 藻屑に覆はれた池のほとり。 雑草の生ひ茂つた中に、枯れ朽ちた梅の老樹。 晩春——薄暮。 少年が一人、ぽつねんと蹲つてゐる。手に持つた竹竿で、時々、狂ほしく草叢 …
火の扉(新字新仮名)
読書目安時間:約4時間20分
もう、その年の秋も暮れようとしていた。 その年とは、長い戦いがすみ、来たるべきものが来たり、きびしい祖国の運命を告げ知らされた年である。 信州のI市に近い山村の国民学校で、きようも …
読書目安時間:約4時間20分
もう、その年の秋も暮れようとしていた。 その年とは、長い戦いがすみ、来たるべきものが来たり、きびしい祖国の運命を告げ知らされた年である。 信州のI市に近い山村の国民学校で、きようも …
批評家・作家・劇場人(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
最後の締めくくりをする順番だが、以上、小林、真船、千田三氏の文章を読み了つて、先づ第一に感じたことは、僕自身のなかにある三つの傾向が、はつきり分裂して、次ぎ次ぎに「走り」出した姿に …
読書目安時間:約10分
最後の締めくくりをする順番だが、以上、小林、真船、千田三氏の文章を読み了つて、先づ第一に感じたことは、僕自身のなかにある三つの傾向が、はつきり分裂して、次ぎ次ぎに「走り」出した姿に …
秘密の代償(新字旧仮名)
読書目安時間:約31分
人物 生田是則四十九 妻数子四十六 息子是守二十五 小間使てる二十一 七月の半ば過ぎである。某省の高級官吏生田是則は、休暇を取つて、家族と共に海岸の別荘へ来てゐる。家族と云つても、 …
読書目安時間:約31分
人物 生田是則四十九 妻数子四十六 息子是守二十五 小間使てる二十一 七月の半ば過ぎである。某省の高級官吏生田是則は、休暇を取つて、家族と共に海岸の別荘へ来てゐる。家族と云つても、 …
百三十二番地の貸家(新字旧仮名)
読書目安時間:約26分
人物 宍戸第三 毛谷啓 同京子 目羅冥 同宮子 甲斐加代子 婦人 東京近郊の住宅地——かの三間か四間ぐらゐの、棟の低い瓦家——「貸家」と肉太に書いた紙札が、形ばかりの門柱を隔てて、 …
読書目安時間:約26分
人物 宍戸第三 毛谷啓 同京子 目羅冥 同宮子 甲斐加代子 婦人 東京近郊の住宅地——かの三間か四間ぐらゐの、棟の低い瓦家——「貸家」と肉太に書いた紙札が、形ばかりの門柱を隔てて、 …
標題のつけ方(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
小説や戯曲の標題について、いろいろ知つてゐることを書けといふ註文で、これは恐らく試験ならば応用問題に属するのであらうが、私は、創作科の一学生として、今から与へられた枚数の答案を作つ …
読書目安時間:約7分
小説や戯曲の標題について、いろいろ知つてゐることを書けといふ註文で、これは恐らく試験ならば応用問題に属するのであらうが、私は、創作科の一学生として、今から与へられた枚数の答案を作つ …
ファルスの近代性(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
井汲清治君の説によると、悲劇は貴族的、喜劇は中産階級的、そしてファルスは民衆的であるとのことである。 この観方も面白いし、ほぼ同感であるが、私が演劇の一様式としてこのファルスに興味 …
読書目安時間:約3分
井汲清治君の説によると、悲劇は貴族的、喜劇は中産階級的、そしてファルスは民衆的であるとのことである。 この観方も面白いし、ほぼ同感であるが、私が演劇の一様式としてこのファルスに興味 …
ファンテジイ(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
写実主義者たるべく余りに詩人であり、浪漫主義者たるべく余りに哲学者である芸術家——その一部は、彼らが若し自己の生活を肯定するならば、恐らくファンテジストたる路を撰ぶであらう。 ファ …
読書目安時間:約2分
写実主義者たるべく余りに詩人であり、浪漫主義者たるべく余りに哲学者である芸術家——その一部は、彼らが若し自己の生活を肯定するならば、恐らくファンテジストたる路を撰ぶであらう。 ファ …
風俗時評(新字旧仮名)
読書目安時間:約46分
医師どうも不思議だねえ。どこも、なんともないが、それでも痛むかね? 患者痛むかはひどいですよ、先生、このしかめつ面がわかりませんか! 医師もともとさういふ顔かと思つとつたよ。どれ、 …
読書目安時間:約46分
医師どうも不思議だねえ。どこも、なんともないが、それでも痛むかね? 患者痛むかはひどいですよ、先生、このしかめつ面がわかりませんか! 医師もともとさういふ顔かと思つとつたよ。どれ、 …
「風俗時評」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
旧作のなかからいくつかの戯曲を選んで一冊に纏めたわけだが、特に発行所の希望をも容れて、比較的長いものの大部分が収まることになつた。長いから力作だとも云へまいが、かうしてみると、なる …
読書目安時間:約5分
旧作のなかからいくつかの戯曲を選んで一冊に纏めたわけだが、特に発行所の希望をも容れて、比較的長いものの大部分が収まることになつた。長いから力作だとも云へまいが、かうしてみると、なる …
風俗の非道徳性(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
時局が特に要求する国民の覚悟といふことについて私は考へた。わが国民全体がかうあらねばならぬといふ状態を想像してみる。人間がおほむねさうあり得る現実の諸条件を計算に入れたうへである。 …
読書目安時間:約17分
時局が特に要求する国民の覚悟といふことについて私は考へた。わが国民全体がかうあらねばならぬといふ状態を想像してみる。人間がおほむねさうあり得る現実の諸条件を計算に入れたうへである。 …
「不可解」の魅力(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
解らない、然し、何だか、かうふわつと来るものがある。少しぢれつたい、が、悪い気持ちぢやない。 芸術の鑑賞が、常にこれでは少々心細いが、僕はたしかに、今日まで、かういふものにぶつかつ …
読書目安時間:約3分
解らない、然し、何だか、かうふわつと来るものがある。少しぢれつたい、が、悪い気持ちぢやない。 芸術の鑑賞が、常にこれでは少々心細いが、僕はたしかに、今日まで、かういふものにぶつかつ …
福田恆存君の「キティ颱風」(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
福田恆存君の戯曲「キティ颱風」を読んで非常に面白かつた。 いろいろな先入観をもつてこの作品を読むひともあるだらうが、私もその一人であつたことを告白する。その第一は、福田君が自他とも …
読書目安時間:約5分
福田恆存君の戯曲「キティ颱風」を読んで非常に面白かつた。 いろいろな先入観をもつてこの作品を読むひともあるだらうが、私もその一人であつたことを告白する。その第一は、福田君が自他とも …
富士はおまけ(ラヂオ・ドラマ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
富士を遠景に、霞のなかに浮ぶ峠の古風な掛茶屋。軒先に山桜の一株が綻び始めてゐます。 茶屋の主、東定臣が、ネルのシヤツにコオルテンの半ズボンを穿き、店の前の道を鍬で平らしてゐます。時 …
読書目安時間:約17分
富士を遠景に、霞のなかに浮ぶ峠の古風な掛茶屋。軒先に山桜の一株が綻び始めてゐます。 茶屋の主、東定臣が、ネルのシヤツにコオルテンの半ズボンを穿き、店の前の道を鍬で平らしてゐます。時 …
S夫人への手紙(新字新仮名)
読書目安時間:約30分
これから毎月一回あなたに手紙を書こうと思いたちました。今度の戦争で愛する夫君を失われ、また小さい二人のお子さんたちの将来について思いなやんでいられるあなたから、いろ/\なご相談を受 …
読書目安時間:約30分
これから毎月一回あなたに手紙を書こうと思いたちました。今度の戦争で愛する夫君を失われ、また小さい二人のお子さんたちの将来について思いなやんでいられるあなたから、いろ/\なご相談を受 …
S夫人への手紙[別稿](新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
書斎を転々と方々にうつしてゐる私を、あなたはおわらひになり、また放浪癖がはじまつたとおつしやるのですが、たしかに、さういふところもないではないでせう。しかし、ただそれだけのことと思 …
読書目安時間:約7分
書斎を転々と方々にうつしてゐる私を、あなたはおわらひになり、また放浪癖がはじまつたとおつしやるのですが、たしかに、さういふところもないではないでせう。しかし、ただそれだけのことと思 …
舞台の笑顔(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
此の標題は少し曖昧だが、俳優の笑顔を指してゐるのではない。舞台そのものの笑顔を云ふのである。舞台が顰め面をしたり、口角泡を飛ばしたり、めそめそ泣いたり、口を空いてポカンとしてゐたり …
読書目安時間:約5分
此の標題は少し曖昧だが、俳優の笑顔を指してゐるのではない。舞台そのものの笑顔を云ふのである。舞台が顰め面をしたり、口角泡を飛ばしたり、めそめそ泣いたり、口を空いてポカンとしてゐたり …
舞台の言葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
舞台の言葉、即ち「劇的文体」は、所謂、白(台詞)を形造るもので、これは、劇作家の才能を運命的に決定するものである。 普通「対話」と呼ばれる形式は、文芸の凡ゆる作品中に含まれ得る文学 …
読書目安時間:約12分
舞台の言葉、即ち「劇的文体」は、所謂、白(台詞)を形造るもので、これは、劇作家の才能を運命的に決定するものである。 普通「対話」と呼ばれる形式は、文芸の凡ゆる作品中に含まれ得る文学 …
再びテアトル・コメディイについて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
この劇団の目標は、いろいろの機会に、当事者の意見として発表されたものでも察せられ、殊に、その演出目録によつて私などには十分わかるつもりであるが、今や、少しづつ、その中心を失ひかけて …
読書目安時間:約3分
この劇団の目標は、いろいろの機会に、当事者の意見として発表されたものでも察せられ、殊に、その演出目録によつて私などには十分わかるつもりであるが、今や、少しづつ、その中心を失ひかけて …
二つの戯曲時代(新字旧仮名)
読書目安時間:約46分
すべての革新運動と同様に、演劇の革新運動も亦、精神と形式とがつねに相伴ふものとは限らない。ことに、芸術の分野に於ては、その精神と称するものが、往々にして、観念の遊びに過ぎなかつたり …
読書目安時間:約46分
すべての革新運動と同様に、演劇の革新運動も亦、精神と形式とがつねに相伴ふものとは限らない。ことに、芸術の分野に於ては、その精神と称するものが、往々にして、観念の遊びに過ぎなかつたり …
二つの答(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
仏蘭西の演劇聯盟乃至劇研究団体について何か書けといふ御註文ですが、御承知の通り、仏蘭西人は、頗る社交的であると同時に、極めて自立的で、社会的交際は盛んであるが、組織的団体を作ること …
読書目安時間:約8分
仏蘭西の演劇聯盟乃至劇研究団体について何か書けといふ御註文ですが、御承知の通り、仏蘭西人は、頗る社交的であると同時に、極めて自立的で、社会的交際は盛んであるが、組織的団体を作ること …
仏国議会に於ける脚本検閲問題:――ゴンクウルの『娼婦エリザ』――(新字旧仮名)
読書目安時間:約24分
一八九〇年十二月二十二日、仏国上院に於ける予算質問中、議員アルガン君は、政府が民間の一小劇場に対して、年額五百法の補助を与へ、同劇場を推奨する意図を表示したことを攻撃した。 その劇 …
読書目安時間:約24分
一八九〇年十二月二十二日、仏国上院に於ける予算質問中、議員アルガン君は、政府が民間の一小劇場に対して、年額五百法の補助を与へ、同劇場を推奨する意図を表示したことを攻撃した。 その劇 …
仏国現代の劇作家(新字旧仮名)
読書目安時間:約35分
聊か抽象的になる恐れはあるが、無趣味な数字的表記を避けて、略年代順に各作家の寸評を試みることにする。 便宜上、時代的特色を基礎として、所謂現代劇作家の擡頭を四つの時期に別ければ、 …
読書目安時間:約35分
聊か抽象的になる恐れはあるが、無趣味な数字的表記を避けて、略年代順に各作家の寸評を試みることにする。 便宜上、時代的特色を基礎として、所謂現代劇作家の擡頭を四つの時期に別ければ、 …
「葡萄畑の葡萄作り」後記(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私はこの書物を大正十四年の一月に訳了し、同年四月に出版した。爾来、二度形を変へて世に送つたが、既刊の分は何れも絶版になつてゐるので、今また白水社の需に応じて、四度目の勤めをさせるこ …
読書目安時間:約5分
私はこの書物を大正十四年の一月に訳了し、同年四月に出版した。爾来、二度形を変へて世に送つたが、既刊の分は何れも絶版になつてゐるので、今また白水社の需に応じて、四度目の勤めをさせるこ …
「ぶどう畑のぶどう作り」後記(新字新仮名)
読書目安時間:約4分
最近、同じ作者の「にんじん」がいろいろな事情に恵まれて短期間に不思議なくらい版を重ねたのであるが、訳者はもちろん、この「ぶどう畑」が「にんじん」のごとく一般の口に合うとは思っておら …
読書目安時間:約4分
最近、同じ作者の「にんじん」がいろいろな事情に恵まれて短期間に不思議なくらい版を重ねたのであるが、訳者はもちろん、この「ぶどう畑」が「にんじん」のごとく一般の口に合うとは思っておら …
ぶらんこ(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
夫 妻 夫の同僚 茶の間朝 妻(チヤブ台の上に食器を並べながら)あなた、さ、もう起きて下さい。 夫(奥より)起きてるよ。一体何時だい。 妻毎朝、わかつてるぢやありませんか。 夫そん …
読書目安時間:約12分
夫 妻 夫の同僚 茶の間朝 妻(チヤブ台の上に食器を並べながら)あなた、さ、もう起きて下さい。 夫(奥より)起きてるよ。一体何時だい。 妻毎朝、わかつてるぢやありませんか。 夫そん …
フランスに於けるシェイクスピア(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
嘗てイタリーへ旅行しました時、ヹロナで、或るシェイクスピアの作中のそれのやうな月のいゝ晩に、市中を歩いてをりますと、「ロミオとジュリエットの墓」といふ標札が目に附きました。多分、後 …
読書目安時間:約17分
嘗てイタリーへ旅行しました時、ヹロナで、或るシェイクスピアの作中のそれのやうな月のいゝ晩に、市中を歩いてをりますと、「ロミオとジュリエットの墓」といふ標札が目に附きました。多分、後 …
ふらんすの女(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
マダム用応接間にて ——あなた、旦那さんのどういふところに、一番感心してゐらつしやる? ——上手に嘘をつくところあの人の嘘は、それや嘘らしくないの。だから、騙されてゐながら腹は立た …
読書目安時間:約5分
マダム用応接間にて ——あなた、旦那さんのどういふところに、一番感心してゐらつしやる? ——上手に嘘をつくところあの人の嘘は、それや嘘らしくないの。だから、騙されてゐながら腹は立た …
ふらんすの芝居(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
一体、芝居の話といふものは、その芝居を観た同志でなければ、したつてつまらないと思ふのですが。……ですから、どの芝居がどうといふお話は、みなさんが仏蘭西へ一度いらしつてからのことにし …
読書目安時間:約4分
一体、芝居の話といふものは、その芝居を観た同志でなければ、したつてつまらないと思ふのですが。……ですから、どの芝居がどうといふお話は、みなさんが仏蘭西へ一度いらしつてからのことにし …
ふらんす役者気質(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
役者の妻 或劇場の初日である。 舞台の上では、今、美しいコロンビイヌがピエロの腕に狂ほしく身を投げかけたところである。 その時、見物席の一隅に、どよめきが起つた。気絶した一婦人が救 …
読書目安時間:約6分
役者の妻 或劇場の初日である。 舞台の上では、今、美しいコロンビイヌがピエロの腕に狂ほしく身を投げかけたところである。 その時、見物席の一隅に、どよめきが起つた。気絶した一婦人が救 …
仏蘭西役者の裏表(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
日本でこそ、その昔は河原乞食とまで蔑まれ、大正の代にあつてすら、未だに芸人扱ひを受けてゐるわが俳優も、仏蘭西などでは、今も昔も、さぞ、威張つたものであらうと、かう思ふ人もあらうが、 …
読書目安時間:約10分
日本でこそ、その昔は河原乞食とまで蔑まれ、大正の代にあつてすら、未だに芸人扱ひを受けてゐるわが俳優も、仏蘭西などでは、今も昔も、さぞ、威張つたものであらうと、かう思ふ人もあらうが、 …
古い玩具(一幕六場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間4分
時千九百××年の夏より秋にかけて 処仏蘭西 人物 白川留雄 ルイーズ・モオプレ 手塚房子 手塚正知 ポオレット マルセル ルイーズの下女 手塚の下女 ホテルの女中 無言役——老婦人 …
読書目安時間:約1時間4分
時千九百××年の夏より秋にかけて 処仏蘭西 人物 白川留雄 ルイーズ・モオプレ 手塚房子 手塚正知 ポオレット マルセル ルイーズの下女 手塚の下女 ホテルの女中 無言役——老婦人 …
「古い玩具」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
『古い玩具』は、一九二三年、パリの旅舎で書いた私の最初の戯曲である。私が戯曲を書くことを思ひ立つたのは、当時、親しくその劇団に出入してゐたピトエフ夫妻のすゝめによつて、自分で同劇団 …
読書目安時間:約2分
『古い玩具』は、一九二三年、パリの旅舎で書いた私の最初の戯曲である。私が戯曲を書くことを思ひ立つたのは、当時、親しくその劇団に出入してゐたピトエフ夫妻のすゝめによつて、自分で同劇団 …
ブルタアニュの伝説より(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
ブルタアニュは、同じ仏蘭西のうちでも、著しい特色をもつた地方である。 大部分半島を形づくつてゐる処から、海そのものと離して考へることは出来ない。その海は、大西洋である。女性的な地中 …
読書目安時間:約6分
ブルタアニュは、同じ仏蘭西のうちでも、著しい特色をもつた地方である。 大部分半島を形づくつてゐる処から、海そのものと離して考へることは出来ない。その海は、大西洋である。女性的な地中 …
プログラム(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
毎月僕のところへも、各種の劇団からプログラムと切符とを送つてくれる。プログラムにはひと通り眼を通すが、切符は利用すること稀である。失礼だが、僕の食慾をそそるに足るものがない。作者も …
読書目安時間:約2分
毎月僕のところへも、各種の劇団からプログラムと切符とを送つてくれる。プログラムにはひと通り眼を通すが、切符は利用すること稀である。失礼だが、僕の食慾をそそるに足るものがない。作者も …
文化運動への反省:――東北文化協議会講演――(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
翼賛運動の発足と同時に文化新体制といふ声が起つてきました。この声に応じて、最も率直に、同時に最も欣然として立上つたものは、全国に於る知識層であつたと私は思ひます。その知識層の中で、 …
読書目安時間:約9分
翼賛運動の発足と同時に文化新体制といふ声が起つてきました。この声に応じて、最も率直に、同時に最も欣然として立上つたものは、全国に於る知識層であつたと私は思ひます。その知識層の中で、 …
文学オリンピツク:――主催国としてどうするか――(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
オリンピツク大会が今度東京で行はれるについて、その一部門たる文学オリンピツクをどうするかといふ問題が当局の間で評議に上つてゐるといふ話を聞いた。 この文学オリンピツクなるものが、従 …
読書目安時間:約3分
オリンピツク大会が今度東京で行はれるについて、その一部門たる文学オリンピツクをどうするかといふ問題が当局の間で評議に上つてゐるといふ話を聞いた。 この文学オリンピツクなるものが、従 …
文学界後記(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
○ 文学界の精神といふやうなものがだん/\はつきりして来たことはうれしい。 ○ 当代の文学者が、それ/″\の立場の上で、互に共通の目標を自覚しはじめたことの証拠である。 ○ 文学が …
読書目安時間:約2分
○ 文学界の精神といふやうなものがだん/\はつきりして来たことはうれしい。 ○ 当代の文学者が、それ/″\の立場の上で、互に共通の目標を自覚しはじめたことの証拠である。 ○ 文学が …
文学か戯曲か(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
人道主義者ロマン・ロオランはまた民衆劇運動の唱道者である。その著書『民衆劇論』はなかなか傾聴すべき議論であつて、当時一部の活動家を刺戟して、危くソフォクレスの時代を夢想せしめたこと …
読書目安時間:約10分
人道主義者ロマン・ロオランはまた民衆劇運動の唱道者である。その著書『民衆劇論』はなかなか傾聴すべき議論であつて、当時一部の活動家を刺戟して、危くソフォクレスの時代を夢想せしめたこと …
文学座第一回試演に際して(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
文学座は去年の六月以来、久保田万太郎、岩田豊雄両氏並に私の三人がよりより相談をして大体のプランを樹て、九月に、主だつた協力者の初顔合せをし、次で、内輪の結成式を挙げました。 この劇 …
読書目安時間:約3分
文学座は去年の六月以来、久保田万太郎、岩田豊雄両氏並に私の三人がよりより相談をして大体のプランを樹て、九月に、主だつた協力者の初顔合せをし、次で、内輪の結成式を挙げました。 この劇 …
文学座第二回試演に際して(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
幹事の一人として一言します。 文学座はおかげで順調に日立ちつゝあることを先づみなさんに報告したいと思ひます。劇団の精神といふやうなものも、次第にはつきりして来ることでせう。これは、 …
読書目安時間:約2分
幹事の一人として一言します。 文学座はおかげで順調に日立ちつゝあることを先づみなさんに報告したいと思ひます。劇団の精神といふやうなものも、次第にはつきりして来ることでせう。これは、 …
文学座の芸能祭参加について(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
文学座はその傾向と能力との許す範囲において、この挙国的行事の一翼に加はることになつた。 まだ「試演」をつゞけてゐる程度の組織と演技力とをもつて、もちろん、祝祭劇の名に価する壮麗典雅 …
読書目安時間:約1分
文学座はその傾向と能力との許す範囲において、この挙国的行事の一翼に加はることになつた。 まだ「試演」をつゞけてゐる程度の組織と演技力とをもつて、もちろん、祝祭劇の名に価する壮麗典雅 …
文学座『夢を喰ふ女』を演出して(新字新仮名)
読書目安時間:約2分
野上彰君の「夢を喰ふ女」の戯曲としての新しさは、現代の生活風景の中から、家族としてもつとも崩壊しやすい条件を持つている人間群をとらえて、それを心理的、もしくは思想的角度からではなく …
読書目安時間:約2分
野上彰君の「夢を喰ふ女」の戯曲としての新しさは、現代の生活風景の中から、家族としてもつとも崩壊しやすい条件を持つている人間群をとらえて、それを心理的、もしくは思想的角度からではなく …
文学者の一人として見た現代日本語(新字旧仮名)
読書目安時間:約25分
私は国語問題について別段専門的な研究をしてゐる者でなく、従つてこの問題について適切な意見を述べる資格はないのであります。一作家として現代の日本語について何か考へて居ることでもあれば …
読書目安時間:約25分
私は国語問題について別段専門的な研究をしてゐる者でなく、従つてこの問題について適切な意見を述べる資格はないのであります。一作家として現代の日本語について何か考へて居ることでもあれば …
「文化勲章」制定に就て(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
文化勲章の制定が公布せられたことは、私個人としていろいろ考へさせられる問題があると同時に、国民として、まことに慶賀すべきことだと思ふ。かねてから、民間、殊に文壇ヂヤアナリズムの上で …
読書目安時間:約2分
文化勲章の制定が公布せられたことは、私個人としていろいろ考へさせられる問題があると同時に、国民として、まことに慶賀すべきことだと思ふ。かねてから、民間、殊に文壇ヂヤアナリズムの上で …
文化勲章に就て(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
標題のやうな意味の感想をもとめられた。私は文学にたづさはるものゝ一人として、むろん、多少の感想はないことはないが、それを今、なんのために、誰に向つて云ふべきであらう。元来、文学芸術 …
読書目安時間:約6分
標題のやうな意味の感想をもとめられた。私は文学にたづさはるものゝ一人として、むろん、多少の感想はないことはないが、それを今、なんのために、誰に向つて云ふべきであらう。元来、文学芸術 …
文化職域について(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
大政翼賛運動の発足に先立つて、国民組織といふ問題が政治的に取りあげられ、更に、近衛内閣の出現と同時に、職域奉公といふ言葉が世上にひろまつた。 そもそも国民組織とは何を指すのか、大政 …
読書目安時間:約12分
大政翼賛運動の発足に先立つて、国民組織といふ問題が政治的に取りあげられ、更に、近衛内閣の出現と同時に、職域奉公といふ言葉が世上にひろまつた。 そもそも国民組織とは何を指すのか、大政 …
文化政策展開の方向(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
文化政策といふ言葉は範囲のたいへん広い言葉である。あらゆる政策は殖民政策でも宗教政策でも、教育政策、科学政策、乃至は経済政策、生産力拡充政策でもそれが国民生活を向上せしめ、民族意慾 …
読書目安時間:約5分
文化政策といふ言葉は範囲のたいへん広い言葉である。あらゆる政策は殖民政策でも宗教政策でも、教育政策、科学政策、乃至は経済政策、生産力拡充政策でもそれが国民生活を向上せしめ、民族意慾 …
文化とは:――力としての文化 第一話(新字旧仮名)
読書目安時間:約45分
「文化」といふ言葉の意味から説明していきませう。 元来この言葉は日本語としてさう古い言葉ではなく、多くの学問上の言葉と同様に、これも西洋の言葉を翻訳して出来たもので、明治の末頃から …
読書目安時間:約45分
「文化」といふ言葉の意味から説明していきませう。 元来この言葉は日本語としてさう古い言葉ではなく、多くの学問上の言葉と同様に、これも西洋の言葉を翻訳して出来たもので、明治の末頃から …
文化とはどういふことか(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
国民が発揮するいろいろな力といふものは悉くその国民の有つ文化が土台になつてゐる 誤つて使はれる「文化」 文化といふ言葉は今日では誰でも使つてをりますし、また到る処にこの言葉が拡つて …
読書目安時間:約7分
国民が発揮するいろいろな力といふものは悉くその国民の有つ文化が土台になつてゐる 誤つて使はれる「文化」 文化といふ言葉は今日では誰でも使つてをりますし、また到る処にこの言葉が拡つて …
文化の新体制(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
「文化」といふ言葉は今までごく手軽に使はれて来ました。しかし、果して文化とはどういふことでせう。今まで多くの人は、たゞ「文化」といふ言葉のもつ、漠然とした感じを胸に受けとつてゐただ …
読書目安時間:約10分
「文化」といふ言葉は今までごく手軽に使はれて来ました。しかし、果して文化とはどういふことでせう。今まで多くの人は、たゞ「文化」といふ言葉のもつ、漠然とした感じを胸に受けとつてゐただ …
文芸雑談:――某氏との談話――(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
実際、毎日会ふ人が沢山あるのですよ。カフエー、バーの代表のかたから、けふはまた将棋の方からの申込みがあるのです。将棋の新体制といふのは知らないですね。だけど娯楽も文化部の仕事だもの …
読書目安時間:約20分
実際、毎日会ふ人が沢山あるのですよ。カフエー、バーの代表のかたから、けふはまた将棋の方からの申込みがあるのです。将棋の新体制といふのは知らないですね。だけど娯楽も文化部の仕事だもの …
文芸銃後運動(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
文芸家協会の主唱にかゝる文芸銃後運動はその第一着手として、去る五月七日より十三日まで、東海道近畿の大都市八ヶ所において講演会を催し、引続き毎月これを全国各地方に及ぼす計画である。 …
読書目安時間:約4分
文芸家協会の主唱にかゝる文芸銃後運動はその第一着手として、去る五月七日より十三日まで、東海道近畿の大都市八ヶ所において講演会を催し、引続き毎月これを全国各地方に及ぼす計画である。 …
文芸と国語(新字旧仮名)
読書目安時間:約19分
文芸と国語といふ標題を掲げたのですが、さういふ問題は考へれば考へるほど範囲が広くてどこかに重点をおかなければ短い時間にはお話が出来ません。どこに重点をおくかといふことになりますと、 …
読書目安時間:約19分
文芸と国語といふ標題を掲げたのですが、さういふ問題は考へれば考へるほど範囲が広くてどこかに重点をおかなければ短い時間にはお話が出来ません。どこに重点をおくかといふことになりますと、 …
文芸の側衛的任務(新字旧仮名)
読書目安時間:約17分
私の考へでは、政治には、広い意味の政治と狭い意味の政治とがあると思ひます。広い意味の政治とは、申すまでもなく、わが国では、これは大政であります。天皇親裁万民扶翼の国家活動であり、そ …
読書目安時間:約17分
私の考へでは、政治には、広い意味の政治と狭い意味の政治とがあると思ひます。広い意味の政治とは、申すまでもなく、わが国では、これは大政であります。天皇親裁万民扶翼の国家活動であり、そ …
文功章(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
こんなことを問題にする必要もないが、二三の新聞雑誌から意見を求められ、一々それに答へる手数を省いたから、ここで一言感想を述べておく。 勲章といふものは、子供か野蛮人でなければよろこ …
読書目安時間:約5分
こんなことを問題にする必要もないが、二三の新聞雑誌から意見を求められ、一々それに答へる手数を省いたから、ここで一言感想を述べておく。 勲章といふものは、子供か野蛮人でなければよろこ …
「文壇波動調」欄記事:01 (その一)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
□鏡に顔を映して見て——へえ、おれはこんな面をしてゐるのか——と、今更らしく、変な気持ちになることがある。 自分の書いた脚本が上演されて、それと同じ驚きを感じるなどは、惨めだ。(國 …
読書目安時間:約1分
□鏡に顔を映して見て——へえ、おれはこんな面をしてゐるのか——と、今更らしく、変な気持ちになることがある。 自分の書いた脚本が上演されて、それと同じ驚きを感じるなどは、惨めだ。(國 …
「文壇波動調」欄記事:02 (その二)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
× 加宮貴一君、「光明の文学の序曲」を拝見しました。君が中村武羅夫氏に対して云つてをられることは、当然、僕としても何とか云はなければならないことらしいが、君と僕とは、所謂「明るい文 …
読書目安時間:約1分
× 加宮貴一君、「光明の文学の序曲」を拝見しました。君が中村武羅夫氏に対して云つてをられることは、当然、僕としても何とか云はなければならないことらしいが、君と僕とは、所謂「明るい文 …
「文壇波動調」欄記事:03 (その三)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
文芸時代から創作をとの命を受けたこと、五六回、其の都度何かしら身辺に事故がおこつたりさもなければ時日が足らなかつたりして、とうとう一度も責を果すことが出来なかつた。かうなると同人中 …
読書目安時間:約2分
文芸時代から創作をとの命を受けたこと、五六回、其の都度何かしら身辺に事故がおこつたりさもなければ時日が足らなかつたりして、とうとう一度も責を果すことが出来なかつた。かうなると同人中 …
「文壇波動調」欄記事:04 (その四)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
四月号の諸雑誌の戯曲を二十五篇読んでその印象を朝日に書いたが、その後寄贈された雑誌の中にも戯曲が一二篇づゝ載つてゐるので、これも読まなければわるいやうな気がする。たゞ、もう戯曲には …
読書目安時間:約2分
四月号の諸雑誌の戯曲を二十五篇読んでその印象を朝日に書いたが、その後寄贈された雑誌の中にも戯曲が一二篇づゝ載つてゐるので、これも読まなければわるいやうな気がする。たゞ、もう戯曲には …
「文壇波動調」欄記事:05 (その五)(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
今月は、同人としての責(?)を果し得た(?)ことになつた。短いものだが、これは標題の示す通り、「次の幕」が何時か開かれるものと思つて欲しい。老婦人が仏文を読むところは、たゞ台詞の音 …
読書目安時間:約1分
今月は、同人としての責(?)を果し得た(?)ことになつた。短いものだが、これは標題の示す通り、「次の幕」が何時か開かれるものと思つて欲しい。老婦人が仏文を読むところは、たゞ台詞の音 …
「文壇波動調」欄記事:06 (その六)(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
新劇協会が、今後経済的支持者を得て、更生の第一歩を踏み出さうとする機会に、その新しい関係者の一人として、私は、世の新劇研究家並に愛好者に訴へる——われわれの仕事を理解し、援助して頂 …
読書目安時間:約2分
新劇協会が、今後経済的支持者を得て、更生の第一歩を踏み出さうとする機会に、その新しい関係者の一人として、私は、世の新劇研究家並に愛好者に訴へる——われわれの仕事を理解し、援助して頂 …
兵営と文学(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
こゝで所謂「戦争文学」の話をしようとするのではない。また、軍事教育と文学との関係を論じようとするのでもない。まして、軍人なるものが、如何に文学と関係の深い職業であるかを説かうとする …
読書目安時間:約5分
こゝで所謂「戦争文学」の話をしようとするのではない。また、軍事教育と文学との関係を論じようとするのでもない。まして、軍人なるものが、如何に文学と関係の深い職業であるかを説かうとする …
返事(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
お手紙の趣旨は第一に、この苦難と不安に満ちた現実生活を、芝居の世界で、つまり、舞台の上で、どんな風に取扱つたらいいかといふこと、ですね。われわれが日常、真剣に取組んでゐる問題を、そ …
読書目安時間:約3分
お手紙の趣旨は第一に、この苦難と不安に満ちた現実生活を、芝居の世界で、つまり、舞台の上で、どんな風に取扱つたらいいかといふこと、ですね。われわれが日常、真剣に取組んでゐる問題を、そ …
編輯当番より(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
少しは面倒な仕事、柄にない仕事でも、みんなが順番にやるといふことになると、私はなんとしても厭やとは云へない。順番に何かの役目が廻つて来るといふことは、誰にでも幾分か楽しいことではな …
読書目安時間:約3分
少しは面倒な仕事、柄にない仕事でも、みんなが順番にやるといふことになると、私はなんとしても厭やとは云へない。順番に何かの役目が廻つて来るといふことは、誰にでも幾分か楽しいことではな …
傍観者の言(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
昔から、文芸上の論戦ほど、読んで面白く、考へると馬鹿々々しいものはない。 面白いのは、尤もらしいからである。しかし、両方とも尤もらしいのだから、喧嘩にもなにもならず、そのくせ大にや …
読書目安時間:約5分
昔から、文芸上の論戦ほど、読んで面白く、考へると馬鹿々々しいものはない。 面白いのは、尤もらしいからである。しかし、両方とも尤もらしいのだから、喧嘩にもなにもならず、そのくせ大にや …
方言について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は方言の専門的研究家ではないが、人一倍その魅力に惹きつけられる。十人十色といふ言葉は、人間の個性は個々に色別し得ることを指すに相違ないが、同一国語を使ふ同一国土の中で、地方々々に …
読書目安時間:約4分
私は方言の専門的研究家ではないが、人一倍その魅力に惹きつけられる。十人十色といふ言葉は、人間の個性は個々に色別し得ることを指すに相違ないが、同一国語を使ふ同一国土の中で、地方々々に …
方言について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は方言の専門的研究家ではないが、人一倍その魅力に惹きつけられる。十人十色といふ言葉は、人間の個性は個々に色別し得ることを指すに相違ないが、同一国語を使ふ同一国土の中で、地方々々に …
読書目安時間:約4分
私は方言の専門的研究家ではないが、人一倍その魅力に惹きつけられる。十人十色といふ言葉は、人間の個性は個々に色別し得ることを指すに相違ないが、同一国語を使ふ同一国土の中で、地方々々に …
放浪者(新字旧仮名)
読書目安時間:約23分
二十年ぶりでヨーロッパから帰つて来た旧友のFは、相も変らず話好きで、訪ねて来るたびに、なにかしら突拍子もない話題をひつさげて来る。 彼は生れながらのヴァガボンドである。母の胎内にゐ …
読書目安時間:約23分
二十年ぶりでヨーロッパから帰つて来た旧友のFは、相も変らず話好きで、訪ねて来るたびに、なにかしら突拍子もない話題をひつさげて来る。 彼は生れながらのヴァガボンドである。母の胎内にゐ …
ポオル・エルヴィユウ(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
千八百九十五年、「鋏」(Les Tenailles)を発表して一躍劇壇の注目を惹いたポオル・エルヴィユウ(Paul Hervieu)は、千八百九十七年「人の掟」(La Loi de …
読書目安時間:約3分
千八百九十五年、「鋏」(Les Tenailles)を発表して一躍劇壇の注目を惹いたポオル・エルヴィユウ(Paul Hervieu)は、千八百九十七年「人の掟」(La Loi de …
北支の旅(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
去年の十月、私は或る雑誌社の委嘱によつて、戦乱の地北支那の一部を訪れた。 塘沽に上陸し、天津から飛行機で保定へ、それから貨物列車で石家荘まで行き、引つ返して北京へ、そこで二三日滞在 …
読書目安時間:約4分
去年の十月、私は或る雑誌社の委嘱によつて、戦乱の地北支那の一部を訪れた。 塘沽に上陸し、天津から飛行機で保定へ、それから貨物列車で石家荘まで行き、引つ返して北京へ、そこで二三日滞在 …
北支物情(新字旧仮名)
読書目安時間:約2時間23分
旅行前記 今度文芸春秋社が私に北支戦線を見学する機会を与へてくれたことを何よりもうれしく思ふ。 特派員といふ名義であるが、私のやうなものがジヤアナリストとしての使命を果し得るかどう …
読書目安時間:約2時間23分
旅行前記 今度文芸春秋社が私に北支戦線を見学する機会を与へてくれたことを何よりもうれしく思ふ。 特派員といふ名義であるが、私のやうなものがジヤアナリストとしての使命を果し得るかどう …
「矜り」と「嗜み」(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
問題はいはゆる国民錬成の効果についてといふのであるが、私はこの錬成といふ意味を、特定の団体なり機関なりが、その企画として一定数の人員を集め、ある方式によつて一定期間錬成を施すといふ …
読書目安時間:約3分
問題はいはゆる国民錬成の効果についてといふのであるが、私はこの錬成といふ意味を、特定の団体なり機関なりが、その企画として一定数の人員を集め、ある方式によつて一定期間錬成を施すといふ …
北海道の性格(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
私が最初に北海道の土を踏んだのは、今から四十いく年か前のことで、たしか十六か十七の時であった。 父が九州小倉の師団から旭川へ転任になり、一家を挙げて新任地へ移って行ったので、当時東 …
読書目安時間:約7分
私が最初に北海道の土を踏んだのは、今から四十いく年か前のことで、たしか十六か十七の時であった。 父が九州小倉の師団から旭川へ転任になり、一家を挙げて新任地へ移って行ったので、当時東 …
ポルト・リシュとクウルトリイヌ(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ジョルジュ・ド・ポルト・リシュは千八百四十九年に生れたのだから、今年七十八歳である。 ジョルジュ・クウルトリイヌは千八百六十年生れで、これは当年六十七歳である。 何れも最近は創作の …
読書目安時間:約4分
ジョルジュ・ド・ポルト・リシュは千八百四十九年に生れたのだから、今年七十八歳である。 ジョルジュ・クウルトリイヌは千八百六十年生れで、これは当年六十七歳である。 何れも最近は創作の …
焼き林檎を投げる(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
見物のやじり方には、古今東西を通じていろいろあるやうだが、昔、仏蘭西では、舞台の俳優めがけて、腐つた卵や、焼き林檎を投げつけるといふ野蛮な風習があつた。 この風習は、後にやや緩和さ …
読書目安時間:約1分
見物のやじり方には、古今東西を通じていろいろあるやうだが、昔、仏蘭西では、舞台の俳優めがけて、腐つた卵や、焼き林檎を投げつけるといふ野蛮な風習があつた。 この風習は、後にやや緩和さ …
翻訳劇と翻案劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
翻訳劇といふ名称を私は好まぬ。翻訳は方便にすぎぬ。外国劇或は西洋劇で沢山だ。翻訳といふ言葉に妙に力を入れるのは、文化の幼稚さを証拠立てるやうなものだ。 翻訳劇といふものが、しかし、 …
読書目安時間:約5分
翻訳劇といふ名称を私は好まぬ。翻訳は方便にすぎぬ。外国劇或は西洋劇で沢山だ。翻訳といふ言葉に妙に力を入れるのは、文化の幼稚さを証拠立てるやうなものだ。 翻訳劇といふものが、しかし、 …
翻訳について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
翻訳といふ仕事は、いろいろ理窟のつけ方もあるだらうが、大体に於て、翻訳者自身のためにする仕事なのである。翻訳を読んで原作を云々するのは非常に危険だといふやうなことも云へるし、また翻 …
読書目安時間:約4分
翻訳といふ仕事は、いろいろ理窟のつけ方もあるだらうが、大体に於て、翻訳者自身のためにする仕事なのである。翻訳を読んで原作を云々するのは非常に危険だといふやうなことも云へるし、また翻 …
迷子になつた上等兵(ラヂオドラマ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約15分
星野少尉 臼田軍曹 小西上等兵 兵卒A 同B 同C 同D 荒物屋の主人 その妻 その娘 大正二三年頃の秋 ある歩兵聯隊の夜間演習が東京近在の農村を中心として行はれる。 小銃の音が二 …
読書目安時間:約15分
星野少尉 臼田軍曹 小西上等兵 兵卒A 同B 同C 同D 荒物屋の主人 その妻 その娘 大正二三年頃の秋 ある歩兵聯隊の夜間演習が東京近在の農村を中心として行はれる。 小銃の音が二 …
幕間(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
妙なことを云ふやうですが、僕は、芝居を観に行くたんびに、「劇場の空気」といひますか、あの幕間の数分間が醸しだす見物席乃至廊下の雰囲気を、そんなに有難いものだとは思はないのです。出来 …
読書目安時間:約7分
妙なことを云ふやうですが、僕は、芝居を観に行くたんびに、「劇場の空気」といひますか、あの幕間の数分間が醸しだす見物席乃至廊下の雰囲気を、そんなに有難いものだとは思はないのです。出来 …
幕が下りて(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
自分が芝居の実際方面に関係してから、まだ半年もたゝないのだが、その間に、色々の経験もなめた。理窟だけを並べてゐた時代には、そんなでもあるまいと思つてゐた劇壇の内情を見聞きするにつけ …
読書目安時間:約9分
自分が芝居の実際方面に関係してから、まだ半年もたゝないのだが、その間に、色々の経験もなめた。理窟だけを並べてゐた時代には、そんなでもあるまいと思つてゐた劇壇の内情を見聞きするにつけ …
幕は開かない(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
僕は嘗て『戯曲時代』といふ一文を『演劇新潮』に書いた。猫も杓子も戯曲に筆を染める時代といふ意味でもあり、舞台にかゝらない戯曲が、活字としてのみの存在を認められる時代といふ意味でもあ …
読書目安時間:約8分
僕は嘗て『戯曲時代』といふ一文を『演劇新潮』に書いた。猫も杓子も戯曲に筆を染める時代といふ意味でもあり、舞台にかゝらない戯曲が、活字としてのみの存在を認められる時代といふ意味でもあ …
先づ脱却すべきは(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
僕の作品に於ける八重子を語れば、非常にいゝ場合と、それ程でない場合があるが、しかし、現在の職業俳優の中では、兎も角も一番「若い女性」になつてゐる。八重子を措いて他に人がないと言ひ得 …
読書目安時間:約3分
僕の作品に於ける八重子を語れば、非常にいゝ場合と、それ程でない場合があるが、しかし、現在の職業俳優の中では、兎も角も一番「若い女性」になつてゐる。八重子を措いて他に人がないと言ひ得 …
ママ先生とその夫(新字旧仮名)
読書目安時間:約44分
奥居町子聖風学園の経営者 同朔郎その夫 花巻篠子変死せる児童の母 有田道代教師 富樫篠子の甥と称する男 尾形嘱託医 角さん小使 たいその妻 かず篠子の女中 運転手 その他男女の生徒 …
読書目安時間:約44分
奥居町子聖風学園の経営者 同朔郎その夫 花巻篠子変死せる児童の母 有田道代教師 富樫篠子の甥と称する男 尾形嘱託医 角さん小使 たいその妻 かず篠子の女中 運転手 その他男女の生徒 …
「満洲国各民族創作選集」選者のことば(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
満洲に文学が生れようとしてゐる。多くは満洲の文学を生まうとする人たちの手によつてである。 私は先年満洲のところどころを歩いて、そこで新しい国が興り、いくつかの民族のまつたく異つた伝 …
読書目安時間:約3分
満洲に文学が生れようとしてゐる。多くは満洲の文学を生まうとする人たちの手によつてである。 私は先年満洲のところどころを歩いて、そこで新しい国が興り、いくつかの民族のまつたく異つた伝 …
未解決の問題:――新劇の決算――(新字旧仮名)
読書目安時間:約11分
編集者は私に「新劇の総決算」といふ課題を与へた。私に特にこれをせよと命ずる正当な理由のあるなしは別として、私は甘んじて、それに応じてみる気になつた。それは、自分自身の総決算を事の序 …
読書目安時間:約11分
編集者は私に「新劇の総決算」といふ課題を与へた。私に特にこれをせよと命ずる正当な理由のあるなしは別として、私は甘んじて、それに応じてみる気になつた。それは、自分自身の総決算を事の序 …
未完成な現代劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私はこれから、日本の所謂「新劇運動」に対する考察、批判、研究の一端を、断片的にではあるが、そこから、努めてある一つの結論をひき出し得るやうに、述べて見るつもりである。 「新劇運動」 …
読書目安時間:約5分
私はこれから、日本の所謂「新劇運動」に対する考察、批判、研究の一端を、断片的にではあるが、そこから、努めてある一つの結論をひき出し得るやうに、述べて見るつもりである。 「新劇運動」 …
「道遠からん」あとがき(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
この集におさめた戯曲三篇は、いづれもわたくしの最近の作品で、「速水女塾」以後のものである。 「女人渇仰」は昨年九月「文学界」に、「椎茸と雄弁」は今年一月「世界」に、「道遠からん」は …
読書目安時間:約4分
この集におさめた戯曲三篇は、いづれもわたくしの最近の作品で、「速水女塾」以後のものである。 「女人渇仰」は昨年九月「文学界」に、「椎茸と雄弁」は今年一月「世界」に、「道遠からん」は …
道遠からん 四幕:――または 海女の女王はかうして選ばれた――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間34分
原始の面影をそのまゝ伝へたやうなところと、近代の文明が到りついたところとを、あらゆる点で混ぜ合せた、ある時代の、ある地方の漁村である。 女性によつて社会及び家庭生活の主導権が握られ …
読書目安時間:約1時間34分
原始の面影をそのまゝ伝へたやうなところと、近代の文明が到りついたところとを、あらゆる点で混ぜ合せた、ある時代の、ある地方の漁村である。 女性によつて社会及び家庭生活の主導権が握られ …
観て忘れる(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
自分で思ひ立つて映画を観に行つたことはまづないと云つていゝ。大ていは女たちの御招伴である。これは映画と女とを一緒に軽蔑してゐるやうに聞えるが、決して女も映画も軽蔑してゐるわけではな …
読書目安時間:約4分
自分で思ひ立つて映画を観に行つたことはまづないと云つていゝ。大ていは女たちの御招伴である。これは映画と女とを一緒に軽蔑してゐるやうに聞えるが、決して女も映画も軽蔑してゐるわけではな …
緑の星(新字旧仮名)
読書目安時間:約28分
ヨーロッパ通ひの船が印度洋をすぎて、例の紅海にさしかかると、そこではもう、太古以来の沙漠の風が吹き、日が沈む頃には、駱駝の背越しに、モーヴ色の空がはてしなくつづくのが見える。 その …
読書目安時間:約28分
ヨーロッパ通ひの船が印度洋をすぎて、例の紅海にさしかかると、そこではもう、太古以来の沙漠の風が吹き、日が沈む頃には、駱駝の背越しに、モーヴ色の空がはてしなくつづくのが見える。 その …
三保寮を訪ふ(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
夏前からの約束で、私はこの三日に、静岡県三保海岸にある国際学友会のサンマーハウスを訪れた。目的は、同会「収容指導」の留学生諸君のために、この夏開かれた日本文化講座の一科目として、日 …
読書目安時間:約8分
夏前からの約束で、私はこの三日に、静岡県三保海岸にある国際学友会のサンマーハウスを訪れた。目的は、同会「収容指導」の留学生諸君のために、この夏開かれた日本文化講座の一科目として、日 …
武者小路氏のルナアル観(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
本誌七月号に「読んだ戯曲六篇について」批評の筆を取られた武者小路氏は、たまたま、拙訳になるルナアルの「日々の麺麭」に言及されてゐる。 先づ、訳者としてあれを読んで下さつたことを感謝 …
読書目安時間:約5分
本誌七月号に「読んだ戯曲六篇について」批評の筆を取られた武者小路氏は、たまたま、拙訳になるルナアルの「日々の麺麭」に言及されてゐる。 先づ、訳者としてあれを読んで下さつたことを感謝 …
村で一番の栗の木(五場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約44分
亮太郎 あや子 その他無言の人物数人 山間の小駅——待合室 真夏の払暁。 発車の直後といふ気配。 二三の旅客に交つて、都会のものらしい夫婦連れが、改札口の方から現れる。一隅を選んで …
読書目安時間:約44分
亮太郎 あや子 その他無言の人物数人 山間の小駅——待合室 真夏の払暁。 発車の直後といふ気配。 二三の旅客に交つて、都会のものらしい夫婦連れが、改札口の方から現れる。一隅を選んで …
明治大学文芸科に演劇映画科を新設する件(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私はかねがね日本の現状からみて、演劇映画の仕事に携はるものが、単に実務による経験のみを頼らず、系統だつた基礎知識と、良い意味でのアカデミツクな修業とを身につけてから、それぞれ職業的 …
読書目安時間:約8分
私はかねがね日本の現状からみて、演劇映画の仕事に携はるものが、単に実務による経験のみを頼らず、系統だつた基礎知識と、良い意味でのアカデミツクな修業とを身につけてから、それぞれ職業的 …
もうひと息:――芥川賞(第三十回)選後評――(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
候補作品九篇のうち、私が最も推賞に値すると思つたのは、庄野潤三の「流木」と小島信夫の「吃音学院」であつた。 委員会の席上、広池秋子の「オンリー達」を支持する声が二三あつたけれども、 …
読書目安時間:約2分
候補作品九篇のうち、私が最も推賞に値すると思つたのは、庄野潤三の「流木」と小島信夫の「吃音学院」であつた。 委員会の席上、広池秋子の「オンリー達」を支持する声が二三あつたけれども、 …
黙然として(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
田中千禾夫君について何か書けといふ座(俳優座)からの註文である。かういふ場所で親しい友人の作品評でもあるまいから、僕の識つてゐる同君の人物紹介をごく寛いだ気持でしてみることにする。 …
読書目安時間:約3分
田中千禾夫君について何か書けといふ座(俳優座)からの註文である。かういふ場所で親しい友人の作品評でもあるまいから、僕の識つてゐる同君の人物紹介をごく寛いだ気持でしてみることにする。 …
最もよく系統づけられた戯曲叢書(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
文芸作品の価値を功利的な立場から論じることは私の趣味に合はない。従つて、例へば、近代劇を読んで如何に利徳があるかは、真に文学を愛するもののみに理解さるべき事がらであると思ふが、今こ …
読書目安時間:約2分
文芸作品の価値を功利的な立場から論じることは私の趣味に合はない。従つて、例へば、近代劇を読んで如何に利徳があるかは、真に文学を愛するもののみに理解さるべき事がらであると思ふが、今こ …
求貸家(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
阿佐ヶ谷附近——高台——座敷又は書斎が往来に面してゐないこと——五間ぐらゐ——台所の踏板が反り返つてゐないこと——自動車の出入自由ならずともよし——なるべく近所に鶏を飼つてゐないこ …
読書目安時間:約1分
阿佐ヶ谷附近——高台——座敷又は書斎が往来に面してゐないこと——五間ぐらゐ——台所の踏板が反り返つてゐないこと——自動車の出入自由ならずともよし——なるべく近所に鶏を飼つてゐないこ …
物言う術(新字旧仮名)
読書目安時間:約7分
「物言ふ術」とは、仏蘭西語の ART DE DIRE を訳したつもりである。 ART DE DIRE は、謂ふところの「話術」又は「雄弁術」ではない。既に「言はるべき言葉」が例へば …
読書目安時間:約7分
「物言ふ術」とは、仏蘭西語の ART DE DIRE を訳したつもりである。 ART DE DIRE は、謂ふところの「話術」又は「雄弁術」ではない。既に「言はるべき言葉」が例へば …
『物言う術』の序に代へて(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
われわれが昔からその実体をもたぬわけではないのに、それがひとつの概念として規定されず、従つて、それを指し示す共通の言葉が生れなかつた、といふ例は、枚挙にいとまがない。 西欧文明の移 …
読書目安時間:約3分
われわれが昔からその実体をもたぬわけではないのに、それがひとつの概念として規定されず、従つて、それを指し示す共通の言葉が生れなかつた、といふ例は、枚挙にいとまがない。 西欧文明の移 …
モノロオグ(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
花茣蓙を敷きつめた八畳の日本間、寝台、鏡戸棚、テーブル、椅子等、すべて安物の西洋家具。寝台には、掛蒲団がなく、マトラスだけになつてゐるところ、テーブルの上に椅子が一脚、逆さまに載せ …
読書目安時間:約21分
花茣蓙を敷きつめた八畳の日本間、寝台、鏡戸棚、テーブル、椅子等、すべて安物の西洋家具。寝台には、掛蒲団がなく、マトラスだけになつてゐるところ、テーブルの上に椅子が一脚、逆さまに載せ …
喪服の人形(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
新劇協会のある稽古の日、伊沢蘭奢は、僕を部屋の一隅に招いて、風呂敷包みをほどきかけた。何を出すのかと思つてゐると、例の少女のやうなはにかみ方で、——「これ、出来損ひですけれど……」 …
読書目安時間:約3分
新劇協会のある稽古の日、伊沢蘭奢は、僕を部屋の一隅に招いて、風呂敷包みをほどきかけた。何を出すのかと思つてゐると、例の少女のやうなはにかみ方で、——「これ、出来損ひですけれど……」 …
森本薫君について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
森本薫君の作品を読むと非常に新しい美しさを感じるけれども、さてその森本君のほんたうの新しさといふものは何であるかよくわからないといふ批評があります。森本君の新しさは、今として、つま …
読書目安時間:約4分
森本薫君の作品を読むと非常に新しい美しさを感じるけれども、さてその森本君のほんたうの新しさといふものは何であるかよくわからないといふ批評があります。森本君の新しさは、今として、つま …
「モンテーニュ随想録」(関根秀雄君訳)(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は本年度文芸懇話会賞候補作品として、関根秀雄訳「モンテーニュ随想録」を推薦したものの一人である。 同じく本書を推薦した他の会員諸氏は、何れもそれぞれの理由をもつてゐる筈だが、私は …
読書目安時間:約3分
私は本年度文芸懇話会賞候補作品として、関根秀雄訳「モンテーニュ随想録」を推薦したものの一人である。 同じく本書を推薦した他の会員諸氏は、何れもそれぞれの理由をもつてゐる筈だが、私は …
訳者より著者へ:――「葡萄畑の葡萄作り」――序(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
何しろ、僕は今まで、劇作家としてのあなたにより多くの親しみをもち、小説家乃至随筆家としてのあなたを殆んど識らなかつた。勿論、あなたの出世作「Poil de Carotte」は、脚本 …
読書目安時間:約5分
何しろ、僕は今まで、劇作家としてのあなたにより多くの親しみをもち、小説家乃至随筆家としてのあなたを殆んど識らなかつた。勿論、あなたの出世作「Poil de Carotte」は、脚本 …
矢代静一君を推す(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
矢代君の戯曲は以前二つほど読んでゐた。それに今度文学座のアトリエ公演でこの、たしか第三作である「城館」を観て、この作者もいよいよこんなものを書きだしたな、と思つた。といふ意味は、前 …
読書目安時間:約2分
矢代君の戯曲は以前二つほど読んでゐた。それに今度文学座のアトリエ公演でこの、たしか第三作である「城館」を観て、この作者もいよいよこんなものを書きだしたな、と思つた。といふ意味は、前 …
山形屋の青春(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
山形屋の若主人宇部東吉は東京へ商品の買ひ出しに出たきり、もう二週間も帰つて来ない。そのうへ、消息がふつつり絶えたきりになつてゐる。こんなことは今までに例のないことだから、留守居の細 …
読書目安時間:約21分
山形屋の若主人宇部東吉は東京へ商品の買ひ出しに出たきり、もう二週間も帰つて来ない。そのうへ、消息がふつつり絶えたきりになつてゐる。こんなことは今までに例のないことだから、留守居の細 …
棣棠の心(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ファルギエール通りの貸本屋で、「マリイへの御告」を借りて来て、それをモンパルナスの墓地で読んだ——クロオデルを初めて知つたのはその時である。 ボオドレエルの死像の前に菫の花束などが …
読書目安時間:約2分
ファルギエール通りの貸本屋で、「マリイへの御告」を借りて来て、それをモンパルナスの墓地で読んだ——クロオデルを初めて知つたのはその時である。 ボオドレエルの死像の前に菫の花束などが …
山本有三氏作「真実一路」について(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
婦人雑誌にかういふ本格的な小説が掲載されたことはまさに類例がないのみならず、さういふ小説が、編輯者の期待以上、読者の反響を呼んだといふこともまた、実に画期的であつたといはれてゐる。 …
読書目安時間:約2分
婦人雑誌にかういふ本格的な小説が掲載されたことはまさに類例がないのみならず、さういふ小説が、編輯者の期待以上、読者の反響を呼んだといふこともまた、実に画期的であつたといはれてゐる。 …
優にやさしき心(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
今こそ日本人といふ日本人は一人残らず、共通の感激、共通の幸福感、そして、共通の矜りをもつてゐるといふことがはつきり云へます。われわれは、われわれの手によつて一日一日新しく、しかも偉 …
読書目安時間:約9分
今こそ日本人といふ日本人は一人残らず、共通の感激、共通の幸福感、そして、共通の矜りをもつてゐるといふことがはつきり云へます。われわれは、われわれの手によつて一日一日新しく、しかも偉 …
雄弁について(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
雄弁が文学の一ジャンルとして今日どういふ取扱ひを受けてゐるかといふことを考へてみると、わが国では、先づ第一に、そんな文学のジャンルはこれまで認められてはゐなかつたやうである。 西洋 …
読書目安時間:約3分
雄弁が文学の一ジャンルとして今日どういふ取扱ひを受けてゐるかといふことを考へてみると、わが国では、先づ第一に、そんな文学のジャンルはこれまで認められてはゐなかつたやうである。 西洋 …
雪だるまの幻想(ラジオ・ドラマ)(新字旧仮名)
読書目安時間:約16分
音楽少女たちの合唱(歌の節にならぬやう、遠くより次第に近く) 雪の降る日わたしたちは眼覚め 雪の消える日わたしたちは眠る 悲しみもなく怒りもなく よろこびもなくただ静かに わたした …
読書目安時間:約16分
音楽少女たちの合唱(歌の節にならぬやう、遠くより次第に近く) 雪の降る日わたしたちは眼覚め 雪の消える日わたしたちは眠る 悲しみもなく怒りもなく よろこびもなくただ静かに わたした …
夢と実現の能力(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は小学校以来自分の卒業した学校の式以外に卒業式といふものには列席した経験がありません。自分の卒業式に感動するのは勿論でありますが、今日の卒業式から受けた感動は終生忘れ得られないも …
読書目安時間:約3分
私は小学校以来自分の卒業した学校の式以外に卒業式といふものには列席した経験がありません。自分の卒業式に感動するのは勿論でありますが、今日の卒業式から受けた感動は終生忘れ得られないも …
「由利旗江」を書いた頃の思出(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
戯曲を書きはじめてやつと二三年、小説といふものはたゞの一度も書いたことのない私に、いきなり新聞の連載小説を書けといふ注文なので、私は面喰つた。 実を云ふと、戯曲を書いて雑誌に発表す …
読書目安時間:約3分
戯曲を書きはじめてやつと二三年、小説といふものはたゞの一度も書いたことのない私に、いきなり新聞の連載小説を書けといふ注文なので、私は面喰つた。 実を云ふと、戯曲を書いて雑誌に発表す …
用捨なき観客(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
今日我が新劇の観客といへばどういふ人達であるか——。いづれも多くは「現在までの新劇」を標準にして「まあこれ位ならば……」といふ見当をつけて見に行く人々である。結局、今迄のものより悪 …
読書目安時間:約3分
今日我が新劇の観客といへばどういふ人達であるか——。いづれも多くは「現在までの新劇」を標準にして「まあこれ位ならば……」といふ見当をつけて見に行く人々である。結局、今迄のものより悪 …
横光君といふ人(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
「文芸時代」が創刊されて間もなく、私がたしか第二作の「チロルの秋」を発表した直後、菅忠雄君から同人にならぬかといふ勧誘をうけ、会場はどこだつたか覚えてゐないが、その同人会といふのに …
読書目安時間:約4分
「文芸時代」が創刊されて間もなく、私がたしか第二作の「チロルの秋」を発表した直後、菅忠雄君から同人にならぬかといふ勧誘をうけ、会場はどこだつたか覚えてゐないが、その同人会といふのに …
横光君の印象(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
さて、横光君の死後、いろいろなひとが、この稀有な才能と人物とについて書いてゐるのを読んだが、それぞれに私にも思ひあたるところがあつて、五十歳を生きた一作家の全貌は、なかなか複雑なも …
読書目安時間:約6分
さて、横光君の死後、いろいろなひとが、この稀有な才能と人物とについて書いてゐるのを読んだが、それぞれに私にも思ひあたるところがあつて、五十歳を生きた一作家の全貌は、なかなか複雑なも …
横光君の文学(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
横光君は疑ひもなく天才的な作家である。しかも自分の非凡さがどこにあるかを知らうとせず、そのために屡々自ら傷き、おそらく傷いたことすら意に介しなかつた異例ともいふべき作家の一人である …
読書目安時間:約1分
横光君は疑ひもなく天才的な作家である。しかも自分の非凡さがどこにあるかを知らうとせず、そのために屡々自ら傷き、おそらく傷いたことすら意に介しなかつた異例ともいふべき作家の一人である …
横槍一本:――外国文学の『味』――(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
この頃、二三の人が新聞や雑誌でかういふ議論をしてゐる。 「外国文学を味はふ場合、その国の人が味はひ得る味を、外国人たるわれ/\が同じやうに味はふことは不可能である」 至極尤もな説で …
読書目安時間:約5分
この頃、二三の人が新聞や雑誌でかういふ議論をしてゐる。 「外国文学を味はふ場合、その国の人が味はひ得る味を、外国人たるわれ/\が同じやうに味はふことは不可能である」 至極尤もな説で …
米川正夫著「酒・音楽・思出」(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
ロシヤ文学の紹介者として米川正夫氏の名を知らぬ読書子は今日の日本には先一人もゐまいが、其米川氏がどういふ人であり、好んで自ら語るところにはなにがあるかといふことを、まだ知らぬものが …
読書目安時間:約2分
ロシヤ文学の紹介者として米川正夫氏の名を知らぬ読書子は今日の日本には先一人もゐまいが、其米川氏がどういふ人であり、好んで自ら語るところにはなにがあるかといふことを、まだ知らぬものが …
『落伍者の群』を聴け(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
新劇団「心」座が来る廿八日、廿九両日、邦楽座に於て、ルノルマンの、「落伍者の群」を上場するさうだ。「落伍者の群」原名は「Les Ratés」——即ち「失意の人々」である。愛と芸術の …
読書目安時間:約3分
新劇団「心」座が来る廿八日、廿九両日、邦楽座に於て、ルノルマンの、「落伍者の群」を上場するさうだ。「落伍者の群」原名は「Les Ratés」——即ち「失意の人々」である。愛と芸術の …
ラジオ・ドラマ私見(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
ラジオ文学という新しい様式について、私は常に興味をもち、なにか、原理的なものを発見しようと心掛けているのだが、放送局との関係も、別にそのために特殊な便宜を与えられているわけではない …
読書目安時間:約7分
ラジオ文学という新しい様式について、私は常に興味をもち、なにか、原理的なものを発見しようと心掛けているのだが、放送局との関係も、別にそのために特殊な便宜を与えられているわけではない …
ラヂオ・ドラマ選者の言葉(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
ラヂオ文学といふ新しい様式について、私は常に興味をもち、なにか原理的なものを発見しようと心掛けてゐるのだが、放送局との関係も、別にそのために特殊な便宜を与へられてゐるわけではないか …
読書目安時間:約4分
ラヂオ文学といふ新しい様式について、私は常に興味をもち、なにか原理的なものを発見しようと心掛けてゐるのだが、放送局との関係も、別にそのために特殊な便宜を与へられてゐるわけではないか …
ラヂオ文学の収穫――「なだれ」(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
真船豊氏のラヂオ・ドラマ集を一読して感じたことは、いはゆる「ラヂオ・ドラマ」の形式としての目立つた新工夫がない代り、飽くまでも戯曲の定石を踏んで、しかもラヂオ的な効果をねらつた独得 …
読書目安時間:約2分
真船豊氏のラヂオ・ドラマ集を一読して感じたことは、いはゆる「ラヂオ・ドラマ」の形式としての目立つた新工夫がない代り、飽くまでも戯曲の定石を踏んで、しかもラヂオ的な効果をねらつた独得 …
陸軍士官から(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
日清日露両戦役をはさんで、軍人の家に生れ育つた私は、「大きくなつたら何になる」といふ問題を、至極簡単に考へてゐた。友達が中学にはひる頃、私は幼年学校にはひり、それから十年間、全く、 …
読書目安時間:約1分
日清日露両戦役をはさんで、軍人の家に生れ育つた私は、「大きくなつたら何になる」といふ問題を、至極簡単に考へてゐた。友達が中学にはひる頃、私は幼年学校にはひり、それから十年間、全く、 …
ルイ・ジュウヴェの魅力(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
およそ俳優の芸術ぐらゐ、その「人間」が直接に、そして、むきだしに示される芸術はないであらう。これはあまりに当然なことだから、かへつて、ひとがそれほど問題にしないのだらうけれども、古 …
読書目安時間:約5分
およそ俳優の芸術ぐらゐ、その「人間」が直接に、そして、むきだしに示される芸術はないであらう。これはあまりに当然なことだから、かへつて、ひとがそれほど問題にしないのだらうけれども、古 …
留守(一幕)(新字旧仮名)
読書目安時間:約21分
中流家庭の茶の間——奥の障子を隔てて台所——衣桁には、奥さんの不断着が、だらしなく掛かり、鏡台の上には、化粧品の瓶が、蓋を開けたまま乱雑に並んでゐる。 女中のお八重さんが、長火鉢に …
読書目安時間:約21分
中流家庭の茶の間——奥の障子を隔てて台所——衣桁には、奥さんの不断着が、だらしなく掛かり、鏡台の上には、化粧品の瓶が、蓋を開けたまま乱雑に並んでゐる。 女中のお八重さんが、長火鉢に …
軌道(黙劇)(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
人物 女。 男。 酔漢。 駅夫。 場所 大都会の郊外に通ずる高速電車の小停留場。 時代 現代。 舞台はプラツトフオームである。 正面に腰掛。 終電車の時刻。 初夏。 自称紳士風の酔 …
読書目安時間:約4分
人物 女。 男。 酔漢。 駅夫。 場所 大都会の郊外に通ずる高速電車の小停留場。 時代 現代。 舞台はプラツトフオームである。 正面に腰掛。 終電車の時刻。 初夏。 自称紳士風の酔 …
レオポール三世の悲劇(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
白耳義軍が国王レオポール三世の命によつて遂に武器を投じたといふことは、今度の欧洲戦乱を通じての、恐らく最も悲痛な事件であらう。そのことの生じた裏面には、いろいろな事情が伏在するもの …
読書目安時間:約3分
白耳義軍が国王レオポール三世の命によつて遂に武器を投じたといふことは、今度の欧洲戦乱を通じての、恐らく最も悲痛な事件であらう。そのことの生じた裏面には、いろいろな事情が伏在するもの …
恋愛恐怖病(二場)(新字旧仮名)
読書目安時間:約22分
静かな海を見下ろす小高い砂丘の上 日没前後 男と女とが、向うむきに、脚を投げ出して坐つてゐる。「なんでもない同志」の間隔が、それとなく保たれてゐなければならない。 やゝ長い間 男あ …
読書目安時間:約22分
静かな海を見下ろす小高い砂丘の上 日没前後 男と女とが、向うむきに、脚を投げ出して坐つてゐる。「なんでもない同志」の間隔が、それとなく保たれてゐなければならない。 やゝ長い間 男あ …
練習曲(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
——おれはかうして雲を見てゐる。君はさうして新聞を読んでゐる。彼女は、こゝへ来て、どつちに先づ話しかけるだらう。 ——二五高女卒頗富愛嬌不幸無支度先方職不望温情有方至急。 ——あの …
読書目安時間:約1分
——おれはかうして雲を見てゐる。君はさうして新聞を読んでゐる。彼女は、こゝへ来て、どつちに先づ話しかけるだらう。 ——二五高女卒頗富愛嬌不幸無支度先方職不望温情有方至急。 ——あの …
老病について(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
内科の医者である私の友人Aは先日面白い話をきかせてくれた。 専門のことは私にはよくわからないが、Aはずつと以前から老齢期特有の病気に興味をもち、小児科に対して、老人科とでも称すべき …
読書目安時間:約4分
内科の医者である私の友人Aは先日面白い話をきかせてくれた。 専門のことは私にはよくわからないが、Aはずつと以前から老齢期特有の病気に興味をもち、小児科に対して、老人科とでも称すべき …
六号記(新字旧仮名)
読書目安時間:約10分
どうにもならぬことを、ひとりぶつぶつ云つてもしようがない、と思ふやうになつてゐることは事実である。誰でも考へてゐるやうなことを、わざわざ口に出して云ふのは、野暮の骨頂だ、といふ風に …
読書目安時間:約10分
どうにもならぬことを、ひとりぶつぶつ云つてもしようがない、と思ふやうになつてゐることは事実である。誰でも考へてゐるやうなことを、わざわざ口に出して云ふのは、野暮の骨頂だ、といふ風に …
ロツパの「楽天公子」(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
私の分担は「ロツパ劇」である。有楽座の初日を観る。幸ひ、獅子文六の「楽天公子」が脚色上演されてゐる。幸ひといふのは、これならどこか観どころがあるだらうと思つたからだ。獅子文六は私の …
読書目安時間:約8分
私の分担は「ロツパ劇」である。有楽座の初日を観る。幸ひ、獅子文六の「楽天公子」が脚色上演されてゐる。幸ひといふのは、これならどこか観どころがあるだらうと思つたからだ。獅子文六は私の …
わが演劇文化の水準(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
アカデミイなき悲哀 現代日本の各種文化部門を通じて、最も混沌たる状態を示してゐるのは、人々によつて多少見るところも違ふであらうが、恐らく、明治維新の一転機にも拘らず、かの封建的伝統 …
読書目安時間:約8分
アカデミイなき悲哀 現代日本の各種文化部門を通じて、最も混沌たる状態を示してゐるのは、人々によつて多少見るところも違ふであらうが、恐らく、明治維新の一転機にも拘らず、かの封建的伝統 …
わが仏文壇に「なくてはならぬ部分」を残す:――「吉江喬松全集」推薦の辞――(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
吉江博士の業績について私は深く識つてゐるとは云へないけれども、博士の同学問に於ける信望は、単に、その人徳の然らしむるのみではなからう。その二三の著作に触れた印象を以てすれば、博士は …
読書目安時間:約1分
吉江博士の業績について私は深く識つてゐるとは云へないけれども、博士の同学問に於ける信望は、単に、その人徳の然らしむるのみではなからう。その二三の著作に触れた印象を以てすれば、博士は …
「我家の平和」を演出して(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
「我家の平和」は、フランスでも一度見たことがありますが、その印象は頗る薄いものでした。ですから、最初は向ふで見たまま紹介しようと思ひましたが、見た時の印象が非常に薄いから、コツピイ …
読書目安時間:約2分
「我家の平和」は、フランスでも一度見たことがありますが、その印象は頗る薄いものでした。ですから、最初は向ふで見たまま紹介しようと思ひましたが、見た時の印象が非常に薄いから、コツピイ …
私の演劇論について(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は所謂演劇学者ではない。しかし、私は私流の演劇論をもつてゐる。旧著「我等の劇場」は、その一端を示すものであるが、あの一巻に収めた極く断片的な文章が、一部の読者に多少の誤解を招いた …
読書目安時間:約3分
私は所謂演劇学者ではない。しかし、私は私流の演劇論をもつてゐる。旧著「我等の劇場」は、その一端を示すものであるが、あの一巻に収めた極く断片的な文章が、一部の読者に多少の誤解を招いた …
私の従軍報告(新字旧仮名)
読書目安時間:約14分
戦線は無限に広いこと 武漢が落ち、広東が陥ち、わが軍の作戦区域が著るしく拡大されたことは云ふまでもないが、私の今度の中支従軍を通じて、現実にこれは大変だと感じたことは、普通第一線と …
読書目安時間:約14分
戦線は無限に広いこと 武漢が落ち、広東が陥ち、わが軍の作戦区域が著るしく拡大されたことは云ふまでもないが、私の今度の中支従軍を通じて、現実にこれは大変だと感じたことは、普通第一線と …
『私の生活技術』の跋(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
現代の日本人は正しい「生活観」をもつてゐないといふことが、いろいろの場合に証明できるのであるが、それと同時に、広い意味における「生活の技術」を何時の間にか失つて、非常にギゴチない、 …
読書目安時間:約3分
現代の日本人は正しい「生活観」をもつてゐないといふことが、いろいろの場合に証明できるのであるが、それと同時に、広い意味における「生活の技術」を何時の間にか失つて、非常にギゴチない、 …
笑について(新字新仮名)
読書目安時間:約14分
笑うことのできるのは人間だけであります。勿論、「花笑い、鳥歌う」という言葉もありますけれども、これは形容であります。ときどき、例えば、馬が笑うというようなことを言うこともありますけ …
読書目安時間:約14分
笑うことのできるのは人間だけであります。勿論、「花笑い、鳥歌う」という言葉もありますけれども、これは形容であります。ときどき、例えば、馬が笑うというようなことを言うこともありますけ …
「我等の劇場」緒言(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
此の一巻は、私が文筆生活を始めてから今日まで略二年間に亘つて、いろいろな機会に発表した断片的評論又は感想のうち、演劇に関する文章を一纏めにして出来たものである。 最初の「演劇一般講 …
読書目安時間:約2分
此の一巻は、私が文筆生活を始めてから今日まで略二年間に亘つて、いろいろな機会に発表した断片的評論又は感想のうち、演劇に関する文章を一纏めにして出来たものである。 最初の「演劇一般講 …
翻訳者としての作品一覧
にんじん(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間20分
ルピック夫人はいう—— 「ははあ……オノリイヌは、きっとまた鶏小舎の戸を閉めるのを忘れたね」 そのとおりだ。窓から見ればちゃんとわかるのである。向こうの、広い中庭のずっと奥のほうに …
読書目安時間:約3時間20分
ルピック夫人はいう—— 「ははあ……オノリイヌは、きっとまた鶏小舎の戸を閉めるのを忘れたね」 そのとおりだ。窓から見ればちゃんとわかるのである。向こうの、広い中庭のずっと奥のほうに …
博物誌(新字新仮名)
読書目安時間:約1時間19分
Le Chasseur dimages 朝早くとび起きて、頭はすがすがしく、気持は澄み、からだも夏の衣裳のように軽やかな時にだけ、彼は出かける。別に食い物などは持って行かない。みち …
読書目安時間:約1時間19分
Le Chasseur dimages 朝早くとび起きて、頭はすがすがしく、気持は澄み、からだも夏の衣裳のように軽やかな時にだけ、彼は出かける。別に食い物などは持って行かない。みち …
母の話(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
前がき アナトール・フランスは本名をアナトール・チボーといい、フランスでも第一流の文学者であります。千八百四十四年、パリの商家に生まれ、少年の頃から書物の中で育ったといわれるくらい …
読書目安時間:約11分
前がき アナトール・フランスは本名をアナトール・チボーといい、フランスでも第一流の文学者であります。千八百四十四年、パリの商家に生まれ、少年の頃から書物の中で育ったといわれるくらい …
ぶどう畑のぶどう作り(新字新仮名)
読書目安時間:約2時間52分
フィリップ一家の住居は、おそらく、村じゅうでいちばん古い住居である。藁ぶきの屋根は、苔が生えて、処まんだらに修繕をしたあとが見え、庇が地べたの上に垂れ、入口は頭がつかえるほどで、小 …
読書目安時間:約2時間52分
フィリップ一家の住居は、おそらく、村じゅうでいちばん古い住居である。藁ぶきの屋根は、苔が生えて、処まんだらに修繕をしたあとが見え、庇が地べたの上に垂れ、入口は頭がつかえるほどで、小 …
“岸田国士”と年代が近い著者
きょうが誕生日(12月16日)
マリー・エスプリ・レオン・ワルラス(1834年)
平山千代子(1925年)
きょうが命日(12月16日)
ヴィルヘルム・カール・グリム(1859年)
三好十郎(1958年)
今月で生誕X十年
ラデャード・キプリング(生誕160年)
ライネル・マリア・リルケ(生誕150年)
野口米次郎(生誕150年)
瀬沼夏葉(生誕150年)
相馬泰三(生誕140年)
山中峯太郎(生誕140年)
観世左近 二十四世(生誕130年)
平山千代子(生誕100年)
今月で没後X十年
アウグスト・プラーテン(没後190年)
フィオナ・マクラウド(没後120年)
徳永保之助(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)
寺田寅彦(没後90年)
生田葵山(没後80年)
百田宗治(没後70年)
安井曽太郎(没後70年)
米川正夫(没後60年)
今年で生誕X百年
平山千代子(生誕100年)
今年で没後X百年
大町桂月(没後100年)
富ノ沢麟太郎(没後100年)
細井和喜蔵(没後100年)
木下利玄(没後100年)
富永太郎(没後100年)
エリザベス、アンナ・ゴルドン(没後100年)
徳永保之助(没後100年)
後藤謙太郎(没後100年)
エドワード・シルヴェスター・モース(没後100年)