)” の例文
まだらな雪、枯枝をゆさぶる風、手水鉢ちょうずばちざす氷、いずれも例年の面影おもかげを規則正しく自分の眼に映した後、消えては去り消えては去った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おもむきを如何どういふふういたら、自分じぶんこゝろゆめのやうにざしてなぞくことが出來できるかと、それのみにこゝろられてあるいた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蝙蝠かはほりをなおそれそ。かなたこなたへ飛びめぐれど、入るものにはあらず。神の子と共に熟寐うまいせよ。斯く云ひをはりて、をぢは戸をぢて去りぬ。
浅草の観世音、その境内の早朝あさまだき、茶店の表戸はざされていたが、人の歩く足音はした。朝詣あさまいりをする信者でもあろう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妻の一周忌も近づいていたが、どうかすると、まだ私はあのみ慣れた千葉の借家で、彼女と一緒に雨にじこめられて暮しているような気持がするのである。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
女はブラインドをひいて、窓の景色をざした。ドアの外でまた女達が、楽器の音に賑かに踊り出した。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
執拗しつよう登攀とうはんをつづけ出した頃には、空は一層低くなり、いままではただ一面にざしているように見えた真っ黒な雲が、いつの間にか離れ離れになって動き出し
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
戸はざされたから夫婦の室を通らにゃのがれず、何としたものと痩せた僧にささやくと、それよりこれが近道と、窓を開いて地に飛び下り友をもたずに逃げ去った。
秋の日は赫々かくかくたる眼光を放ちて不義者の心を射透いとおせるなり、彼は今日もじ籠りて炉の傍に坐し、終日飯も食わずただ息つきてのみ生きておれり、命をかけて得たりし五十金
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
やがて気がいて窓をじ、再び寝台ねだいの上に横になると、柱時計があたかも二時を告げた。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
永久えいきうざせるその戸
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かれ依然いぜんとして無能むのう無力むりよくざされたとびらまへのこされた。かれ平生へいぜい自分じぶん分別ふんべつ便たよりきてた。その分別ふんべついまかれたゝつたのを口惜くちをしおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その朝はもやが深かった。甚三の馬へ甚内が乗り、それを甚三が追いながら、追分の宿を旅立った。宿の人々はまだ覚めず家々の雨戸もざされていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の心を夢のようにざしているなぞを解くことが出来るかと、それのみに心をられて歩いた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だが、そこの坂を下って、橋のところまで行くうちに、靄につつまれた街は刻々にうつろって行く。どこの店でも早くから戸をざし、人々は黙々と家路に急いでいた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
加之しか眼眩まばゆきばかりに美しく着飾った貴婦人で、するすると窓のそば立寄たちよって、何か物を投出なげだすような手真似をしたが、窓は先刻せんこく私がたしかじたのだから、とても自然にく筈はない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
輜重しちょうを運べる間流れ丸にたりて即死したる報道を得しより、いと痛う力を落しぬ、これよりは隠気にこもり終日戸の外にも出でず、屋の煙さえいと絶え絶えにて、時々寒食断食することさえあり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
そうかと思うとお互いの口は古い城趾しろあとにたった二つだけ取り残された門のように固くざされておりますのねえ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて若葉にざされたように蓊欝こんもりした小高い一構ひとかまえの下に細いみちひらけた。門の柱に打ち付けた標札に何々園とあるので、その個人の邸宅でない事がすぐ知れた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういう種々の原因がからみ合って、内部と外部との中間には、袖萩そではぎが取りつくろっている小柴垣こしばがきよりも大きい関が据えられて、戸を叩くにも叩かれぬくろがねの門が高くざされていたのであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いそいで門をざさなければならない。いそいで窓を閉めなければならない。そうして一人も戸外そとへ出るな! 見ないがいい! さわらないがいい! 注意しろ! 人種を!
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうしてその達人が雪と氷にざされた北のはてに、まだ中学校長をしているのだなと思う。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
厳重にざされた戸口の扉が、その時忽然こつぜん内側なかから開き、長い廊下が現われた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
犬と小供こどもが去ったあと、広い若葉の園は再びもとの静かさに帰った。そうして我々は沈黙にざされた人のようにしばらく動かずにいた。うるわしい空の色がその時次第に光を失って来た。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして崩れ切った谷底には大河が流れているらしいが水は氷にざされて木の間を洩れて陽光ひかりにわずかにキラキラと輝くばかり、谷を隔てた向こうの峰までは三町余りもあるだろうか
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし裾野は次の瞬間には、もやざされて見えなくなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)