“鎔(と)” の例文
それは別の話として、鉄成分の宇宙塵の中で大きいものは、鎔(と)けて鉄の小球となり、燃え切らないで地表まで達する。これが流星球である。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これはその山體(さんたい)を作(つく)つてゐる岩石(がんせき)(玄武岩(げんぶがん))の性質(せいしつ)に因(よ)るものであつて、その鎔(と)けてゐる際(さい)は比較的(ひかくてき)に流動(りゆうどう)し易(やす)いからである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
太陽には未だ何の異状も無い、多分太陽の大熱火の為に、かの暗黒体が、鎔(と)けて蒸発して消えたであろう、と人々は思った。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
それは古来の竹取の翁の物語に結びつき、そうして平安朝の詩人の空想のるつぼに鎔(と)かされたものであったろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かの妓躍気(やっき)で、君は今堅い事のみ言うが、おのれ鎔(と)かさずに置くべきか、していよいよ妾に堕された日は、何をくれるかと問うと、その場合には五馬を上げよう。
藤尾は滑(なめ)らかな頬(ほお)に波を打たして、にやりと笑った。藤尾は詩を解する女である。駄菓子の鉄砲玉は黒砂糖を丸めて造る。砲兵工廠(ほうへいこうしょう)の鉄砲玉は鉛を鎔(と)かして鋳(い)る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不生不滅、実報(じっぽう)寂光(じゃっこう)の生き身をかたどり、天皇自ら磨かれたという金銅十六丈の廬遮那仏(るしゃなぶつ)も首が焼け落ちて大地に転がり、身体は熱に鎔(と)けて醜い青銅の堆積とはなった。
「スメルトクルース、つまり鎔坩(るつぼ)のことだ、鉱物を鎔(と)かす鎔坩のことを書いてある和蘭(オランダ)の原書だ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鞍馬法師は雄黄(ゆおう)を鎔(と)いて小瓶(こびん)に入れ、富子の閨房へ往ってみると、枯木のような角(つの)の生えた雪のように白い蛇が三尺あまりの口を開け、紅(くれない)の舌を吐いて室(へや)の中一ぱいになっていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死ぬることへ、まっすぐに一すじ、明快、完璧の鋳型ができていて、私は、鎔(と)かされた鉛のように、鋳型へさっと流れ込めば、それでよかった。何故に縊死の形式を選出したのか。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高い、真黒な大屋根の上へ、鉛(なまり)を鎔(と)かす炉(ろ)の熱火(ねっか)が、赫々(あかあか)と反射していた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらくして東の空金色(こんじき)に染まり、かの星の光自(おのず)から消えて、地平線の上に現われし連山の影黛(まゆずみ)のごとく峰々に戴く雪の色は夢よりも淡し、詩人が心は恍惚(こうこつ)の境に鎔(と)け、その目には涙あふれぬ。
星 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「忍藻いざ早う来よ。蝋鎔(と)けたぞや。和女(おこと)も塗らずか」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
水月(くらげ)のやうに音もなく鎔(と)け入るであらう。
メランコリア (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
鎔(と)かすの惧(おそ)れがある
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石のうち鎔(と)けぬ性質を帯びたのは、先刻既に焼け砕けて、灰となり、微塵(みじん)と変じた。家々の礎(いしずえ)までも今は残らず粉である。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
それをだんだん釜の中に入れて烈火で鎔(と)かし、鬼は数疋の仲間に、杓をもってそれを曾の口に灌(そそ)がした。頤(おとがい)を流れると皮膚が臭い匂いをして裂け、喉に入れると臓腑が沸きたった。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「別に面白いというべきものではない、ただ鉄を鎔(と)かす方法が書いてあるのだ。イギリスの鎔坩(るつぼ)は鋼鉄を鎔かすことができるとか、イプセルとはどうだとかいうことが書いてあるのだ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ツェツェス説に鵺ベレロフォンに火を吐き掛けんとした時、ベ予(かね)て鋒(ほこさき)に鉛を付け置いた鎗をその口に突っ込み、鉛鎔(と)けて鵺を焼き殺したと。また後世飛馬ペガソスを文芸の女神団ムーサの使物とす。
鉄類はすべて鎔(と)け、石造の物は皆微塵(みじん)に砕けます。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)