“迅（と）” の例文
ただ当時の余はかくのごとき情調に支配されて生きていたという消息が、一瞥（いちべつ）の迅（と）きうちに、読者の胸に伝われば満足なのである。
思い出す事など (新字新仮名) ／ 夏目漱石(著)
仇敵に仕える汝ら二人、首打ち落とすが本来なれど上使と名乗る名に免じて一命だけは助けてくれよう。やあやあ主馬之介迅（と）く参って此奴（こやつ）らの髻（もとどり）を切り払え！
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) ／ 国枝史郎(著)
「はい迅（と）うに逃げていたのです。居たのなら逃げようがありません。一方口ですから」
暗黒公使 (新字新仮名) ／ 夢野久作(著)
砂礫（すなつぶて）を捲（ま）いて、地を一陣の迅（と）き風がびゅうと、吹添うと、すっと抜けて、軒を斜（ななめ）に、大屋根の上へ、あれあれ、もの干を離れて、白帷子（しろかたびら）の裾（すそ）を空に、幽霊の姿は、煙筒（えんとつ）の煙が懐手をしたように
怨霊借用 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
されども不死の迅（と）き駿馬——諸神の惠みペーリュウス　865
イーリアス：03 イーリアス (旧字旧仮名) ／ ホーマー(著)
江上の燕（つばめ）は緩（ゆる）くボート迅（と）し
六百句 (新字新仮名) ／ 高浜虚子(著)
「へん、なんだ、そんな事か、孔明の智恵も凄（すさま）じいや。そんなことなら迅（と）くより承知よ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) ／ 国枝史郎(著)
木曽一国の政治向きを佞臣輩（ねいしんばら）にお任せなされ、腹背敵を受けるに及んでにわかに我らを用いようとされても魔性の女を退けられぬ限りはこの甚五衛門承知致さぬ旨（むね）は迅（と）くに以前に申した筈。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) ／ 国枝史郎(著)
「右門、許すぞ迅（と）く入れ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) ／ 国枝史郎(著)