)” の例文
ひらっと、人影は、縁をび下りた。するとどこかで彼の思わざる女の悲鳴がした。彼はおびえにふかれ、泳ぐがごとく逃げに逃げた。
まったく放心状態にあるように見えた母親ががばと高くび上がり、両腕を大きく拡げ、手の指をみんな開いて、叫んだのだった。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
あとはやはり同じことである。その晩は、傍へ置いたまま、私は私で読書をはじめた。忘れてしまって身体を動かすとまたび込んだ。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
いくらか大きい子供たちはそのそばをびはねていました。やせこけた一頭の馬が、わずかばかりの家具をのせた車を引いていました。
然しひるまず私は息もつかずにびあがると、昔、シャムガルが牛を殺した直突の腕を、ゼーロンの脇腹目がけて突きとおした。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
彼はいきなり戸のはりに手をかけると、器械体操で習練した身軽さでびあがり、一跨ひとまたぎに跨いで用心ぶかく内側へおりて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こののこぎりなんなくれる家尻やじりを五つましたし、角兵ヱかくべえ角兵ヱかくべえでまた、足駄あしだばきでえられるへいを五つました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
切羽せっぱつまったヤンが拳銃ピストルをだそうとすると、その手にまたパッとびついた。それなり二人は、ひっ組んだまま地上を転がりはじめたのだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けたたましい動物のさけびと共にいからしてんで来た青年と、圜冠句履えんかんこうりゆるけつを帯びてった温顔の孔子との間に、問答が始まる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「この川をこうへえてやろうかな。なあにわけないさ。けれども川のこうがわは、どうも草がわるいからね」とひとりごとをいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼はそのからだつきが、常に運動をしていて、んだり走ったりすることが上手な人のように、如何にも軽く、活発でした。
わたしは片手に短銃、かた手に匕首を持ってび起きた。時計とおなじように、この二つの武器をも奪われてはならないと思ったからである。
彼女の愛くるしい、ぱっちりした眼の中に、あの、子供が何か素晴らしいことを思いついた時にする、はっとび上るような喜色が浮かんだ。
『まだ/\もつとおほくの證據しようこ御座ございます、陛下へいかよ』とつて白兎しろうさぎは、にはかあがり、『文書もんじよ只今たゞいまひろひましたのです』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今朝私の咽喉のどびついた彼奴が、あの黒ずんだ深紅な顏を、私の鳩の寢床ベッドにさしのばした事を考へると、私の血は凍る——
うがはやいかおどがって、おきさきおもわずけた口の中へぽんとんでしまったとおもうとおゆめはさめました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
疲れ果てるまでびまはりましたあとで、フト思ひつき、母にもらふた甲斐絹カヒききれで三ツの袋をこしらへに取り掛りました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ところで、この四にんの、大きい人たち、つよい人たち、元気げんきひとたちは、きゅうちどまります。地面じめんに一ぴきの生きものがんでいるのを見つけたのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
ロボは必死に身をもだえ、私へびかかろうとするが、わなが四つ連結しているので、重さも百二十キロからある。
この虫は、其処へんで来て、その上にたかつて居るところのもう一層小さい外の虫どもを食ふためであつたのだ。
かりにメフィストフェレスが出現して、今一度青春を与えようと約束しても、僕はファウストのように小躍こおどりして、即座にびつくか否かは疑問である。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
息子の幸吉は、三十近い、色のなまちろ優男やさおとこである。父親おやじ命令いいつけを取り次いで、大勢の下女下男に雑用の下知を下しながら仔猫のようにび廻っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
するとたちまち、まるで彼の不信心を嘲笑あざわらうかのように、九四九九という数字が彼の両眼にびついて来た。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……だが、お若い方、なよたけのかぐやは愛するものの夢なのじゃ。……あの竹の林の中をび廻っているあれの美しい姿。……唄をうとうているあれの可愛い声。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
有るものを書くのじゃなくて、無いもの、今ある限界を踏みこし、小説はいつも背のびをし、駈けだし、そしてびあがる。だから墜落もするし、しりもちもつくのだ。
貢さんはうさぎぶ様に駆け出して桑畑に入つて行つた。はたけなかにお濱さんは居ない。ぬまほとりに出た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ガラス玉は、テーブルから落ちてころがり、チロもりてその玉にじゃれ始めました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わかったよ、藤原君! 僕らは、一飛びにぶことよりもジリジリ進む方がいいんだろう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
わたしは、ふたびで崩れ残りから跳びおりると、——その場に立ちすくんでしまった。すばやい、かろやかな、それでいて用心ぶかい足音が、はっきりと庭の中にひびいていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その無花果の木かげに花莚はなむしろだけは前と同じように敷かせて、一人で寝そべりながら、そんな実の出来工合なんぞ見上げていたが、ときどき思い出したようにび起きて、見真似みまね
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『まあおじいさまでございますか!』わたくしおぼえずきて、祖父じじかたすがってしまいました。帰幽後きゆうごわたくしくらくら心胸こころに一てん光明あかりしたのはじつにこのとき最初さいしょでございました。
入口に近づけまいとする博士はくしから、ぱっとびのいて、透明人間はがまえた。
それを聞くと、誰もが、痛いところへさわられたように、び上っておどろいた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらくすると興奮の力の方がうち克って、彼は寝床からび起き、相変らず病院じゅうを駈けずり廻って、今までにないほどの高声と脈絡の無さとで、患者達と話をしたり独り言をいったりした。
叫んで佐平は退いた。そして藤沢の顔を、穴のあくほど視詰めた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「——文学上の仕事には、必ず劣敗者のみっともない泣き言がつきものだからいやになる。スポーツには泣き言がない。相手より五十センチ少なくんだ者も決してあとで文句なんかつけに来ない」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
鹿め、いかに広々と自由自在にびまわったか知るべしである。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
あっちこっちへぴょんぴょんびはねているように見えます。
菅畳すがだたみ今朝けささやさやし風に吹かれび軽ろき青蛙あをがへる一つ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大工の妻がび上る。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いくらでもべるわ
ここでは、必ず、数寄屋の外に立っているはずの藪田助八も、ふと、その様子を見て、愕然がくぜんと、越前守のうしろまでびこんで来た。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそれが水上すいじょうわたってむこうへえたとおもうと、幾匹いくひきかの猟犬りょうけん水草みずくさの中にんでて、くさすすんできました。
馬車のうしろには、乗客が乗りりするとき足を掛ける小さい板がついていた。松次郎はそれにうまくびついて、うしろ向きに腰をかけた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
アデェルは馬車にび込んで來ると、私の執成とりなしに對する感謝の意をこめて私に接吻した。が、直ぐに彼の向う側の隅に押込められてしまつた。
案内役の水夫はたちまちひとびでボートのなかへ飛び下りたが、ボートのなかの水夫たちは立ち上がって、敬礼した。
火夫 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
『さァ、やつだい一のせつへた』と帽子屋ばうしやつて、『其時そのとき女王クイーンあがり、「とき打殺うちころしてるのはれだ!其頭そのあたまねてしまへ!」とさけびました』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
び起きて二人の面皮いでやろ! と、そない思うのんですけど、起き上ろとしても体の自由利けしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おや、このせきの去年のちいさな丸太のはしは、雪代水ゆきしろみずながれたな、からだだけならすぐべるんだが肥桶こえおけをどうしような。阿部君、まず跳びえてください。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だから僕の立場としては、一切の説明を省略して、直ちに思想の中心にび込んで行く外はなかったのだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)