)” の例文
通りすがりの坊さんが帽子をり、汚れたシャツを著た子供が四五人、一様に手を差し出して、『旦那、孤児みなしごに何かやっておくんな!』
「新さん、マア大変なことが出来ちゃったんです。」女は菓子折の包みをそこに置くと、ショールをって、コートの前をはずした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし、チェロの小曲に、あまり大きな興味を持たない私までが、マレシャルの日本民謡には、帽子をって三歎せざるを得なかった。
侍は編笠をはらりとった。彼は人品の好い、色の白い、眼の大きい、髭のあとの少し青い、いかにも男らしい立派な侍であった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて、いくつかのうたがすむと、少年しょうねん自分じぶんのかぶっている帽子ぼうしって、それをって、っている人々ひとびとまえをまわりました。
街の幸福 (新字新仮名) / 小川未明(著)
眺め廻すうちに、女は早や帽子をり、上衣うはぎを脱ぎ、白く短き下衣シユミーズ一ツになりて、余がかたへなる椅子に腰掛け、巻煙草を喫し始め候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ああ、どうぞ」甲子雄がって渡すのを、受取った兵馬、眼を据えて柄頭つかがしらからずっと拵えを見ていたが、ぎらり抜放って中身をあらためる。
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もうお互いに、腹の底の腹巻はろうではないか。当家へは、さぐりの者も入れてある。じつは何もかも、つつ抜けにわかっていたのだ。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々彼は何か捜すように、彼女の前髪だの、薄い藤色の手套てぶくろった手だのを眺めて、どうかするとその眼でキッと彼女を見ることもある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うしまして、わたくしこそ……。』と、つた帽子の飾紐リボンに切符を揷みながら、『フム、小川の所謂近世的婦人モダーンウーマンこのひとなのだ!』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……「やあ」と洋杖ステツキをついてまつて、中折帽なかをればうつたひとがある。すぐにわたし口早くちばや震災しんさい見舞みまひ言交いひかはした。花月くわげつ平岡權八郎ひらをかごんぱちらうさんであつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何か言うのかと思うと、手を口のところへ持って行って、口びるをでた。言葉をったような具合だ。黙り込んで曖昧あいまいなお低頭じぎをした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「——……あなたを娼婦として、僕はおつき合いしたいんです。」と、云いながら、僕は外套をると、ソファにうずもれて青い小切手帳を示した。
そのまゝかれは、問わず語りにそういうと、傘と名所焼のつゝみをかの女にわたし、手袋をって濡れた靴の紐を解いた。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
手套をってしまっていたので、飾りをつけない手と同様、一面に薄青い脈管の走っている、この丸々したほの白い腕は、たえず彼の眼に入った。
彼も帽子をって、彼らに向い、ゆるやかに大きく打ち振った。更に強く、更に心をこめて手を振りながら、伸子は感動でぞっとし、涙を浮べた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
賭博に負けると裸体はだかで歩いたもので、只今はおやかましいから裸体どころか股引もる事が出来ませんけれども、其の頃は素裸体すっぱだかで、赤合羽あかがっぱなどを着て
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長靴ながぐつくようにしていそいでって、少しびっこを引きながら、そのまっ暗なちらばった家にはね上って行きました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
男は覆面をった。彼女はびっくりした、その顔には見覚えがある。沼津の松並木で擦れ違った時、運転手と並んで腰かけていた貴公子風の男だった。
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
鷲尾は帽子をりながら、二三度声をかけてみたが、まったく反応がないのをみると、黙ってそのままたっていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
その顔を見ながら鼠の中折帽をった瞬間に私は、探偵小説の深夜の一ページの中に立たされている私自身を発見したような鬼気に襲われたものであった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
祭神は大国魂命おおくにたまのみこと大己貴命おおなむちのみこと少彦名命すくなひこなのみことの三ばしらだ。神殿の前に立つと、私たちは皆濡れしずくの麦稈帽をった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そこで大事なパナマの帽子をって丁寧ていねい挨拶あいさつをしたら、女は籠詰かごづめの一番大きいのをして、これを下さいと云うんで、庄太郎はすぐその籠を取って渡した。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
電車でもみくちゃにされて、れかかった外套のボタンを、久美子が眼ざとく見つけたらしいのでした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
面をって着物を着た「有名な女優たち」が、観覧席で帰り支度をしながら、きゃっきゃっと騒いでいた。そのなかにまず、私は「モナコの岸」のマアセルを発見した。
そのとき彼女の視界に何がうつったのか、いそいで休めた手を前垂れでくるくると拭いてしまうと、ほそいたすきを片はずしに桶の輪のようにって手拭かけにだらりとかけた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
逢うとすぐ帽子をってお辞儀をするような男だった。おまけにおとなしく鼻もかむ。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
子供は恐る恐るマントをり戸口の片隅で木履サボをぬいで、そこにじっと突立っていた。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
鷹その被物かぶりものらるれば、頭を動かし翼をち、願ひといきほひとを示すごとく 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
頭が禿げるまで忘れぬほどに思い込んだことも、一ツ二ツとくさびけたりれたりして車がくなって行くように、だんだん消ゆるに近づくというは、はて恐ろしい月日の力だ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
真面目に面をつけて竹刀しないを振廻している私達の方を、例の細い眼で嘲笑を浮べながら見ているのだったが、ある日の四時間目、剣道の時間が終って、まだ面もらない私のそばへ来て
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この研究が一、二年続く中に、何時いつとなく従来の古い型がれて、仏臭が去ったようなわけであって、その頃では、こういってはおかしいが、私は新しい方の先登せんとうであったのであります。
平常は何處やらに凜とした所のある娘だが、今はその締りもすつかりれて、何とやら身躰がゆつたりとして見ゆる。そして自然口數も多くなつて、立續けにいろ/\の事を私に訊ぬる。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ベシーは眠つてゐる兒を搖籠ゆりかごに寢かして彼を迎へに出て行つた。それから彼女は無理に私の帽子をらせ、お茶をすゝめた。私が蒼ざめて疲れたやうに見えるからと彼女は云ふのである。
間もなく杉本は顔色を変えて物も言わずに操縦室キャッブへ馳け戻ると、圧力計ゲージと睨めッくらをしていた「オサ泉」の前へ腰を降ろし、妙に落着いて帽子と手袋をり痩せたの甲へ息を吹掛けると
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
藤枝は門の懸金かけがねをかけ、飛びだしたままで開け放してあった玄関の障子を締めて、刀をりながら次のへやへ往った。きれいな女が行燈の前で胡坐あぐらをかいて、傍に飯櫃めしびつを引き寄せて飯をっていた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は上衣をると同時に、できるだけなまめかしいポーズをとって踊り出した。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いつとはなしに、山にまつわっていたうん気が、れているのに気づいて、心にうなずく。木の間が、ものさびしく透いて見え、帰って行く浴客の後ろ姿などが、以前より遠くまで眺められる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
沐浴便利の外には衣裳をかず、それでも徳があらわれて人に尊まれた。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
綿帽子っての心細さ、たよりなさを覚えているほどの姑、義理にも嫁をいじめられるものでなけれど、そこは凡夫ぼんぷのあさましく、花嫁の花落ちて、姑と名がつけば、さて手ごろの嫁は来るなり
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
船長が戸口の処まで来て『皆さんお粗末なんで』と一寸帽子をつて挨拶する。脱つた後の頭のてつぺんが禿げて居た。一寝入りして眼を覚すと夜も更けた。岸の灯が近づくと其処は讃州さんしう多度津たどつだ。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
暗い中から、耳輪のれかかった老婆が咳きをしながら歩いて来た。お杉は柱の数をかぞえるように、泣いては停り、泣いては停った。彼女は露路を抜けると裏街を流れている泥溝どろどぶに添ってまた歩いた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
言葉をかへていふと、早稲田の臭味くさみ大分だいぶんれてゐた。
最後の包紙をった時
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「されば、私たちもさっきから、そう睨んでってやろうとしたんですが、歯をいたり、首をじ伏せたり、どうしてもらせません」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信三は医者から職業意識をろうとし、医者はまた苦痛な問答にはいるのを少しでも延ばしたかったのだ。しかし会話は間もなく途切れた。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六郷左京は及び腰に手を伸ばして、花嫁の綿帽子をりました。少し手荒だったのか、鼈甲の髪飾りの花が、二つ三つ、床の上に散りました。
『怎うしまして、私こそ……。』と、つた帽子の飾紐リボンに切符を揷みながら、『フム、小川の所謂近世的婦人モダーンウーマンが此ひとなのだ!』と心におもつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
丁度彼女のようにお産をして反って身体の余計な肉がれてしまったようなある若い婦人もあることを、彼は他から注意されて見た場合なぞもある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長「手襷たすきんなさい、忙がしかろうが、何もお前は台所だいどこを働かんでも、一切道具ばかり取扱ってればいんだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)