薄田泣菫
1877.05.19 〜 1945.10.09
“薄田泣菫”に特徴的な語句
女房
画
啜
喋舌
寡婦
漸
家鴨
俳優
宛
迚
態々
真紅
市街
極
連中
好
物識
投
恰
加之
演
低声
書物
阿母
幾度
奴
金銭
農夫
提
美味
此方
喚
見惚
乃公
行
卓子
紐育
肖
衝立
霊魂
接吻
途々
許
妙齢
私
書肆
内証
間
頤
香気
著者としての作品一覧
飛鳥寺(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私が飛鳥の里に來たのは、秋も半ばを過ぎて、そこらの雜木林は金のやうに黄いろく光つてゐた。つい門先の地面を仕切つた、猫の額ほどの畑には、蕎麥の花が白くこぼれてゐた。纖細な、薄紅い鷽の …
読書目安時間:約4分
私が飛鳥の里に來たのは、秋も半ばを過ぎて、そこらの雜木林は金のやうに黄いろく光つてゐた。つい門先の地面を仕切つた、猫の額ほどの畑には、蕎麥の花が白くこぼれてゐた。纖細な、薄紅い鷽の …
価(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
大阪に大国柏斎といふ釜師の老人が居る。若い彫塑家大国貞蔵氏の父で、釜師としての伎倆は、まづ当代独歩といつて差支へあるまい。伎倆のすぐれてゐる割合に、その名前があまり世間に聞えてゐな …
読書目安時間:約3分
大阪に大国柏斎といふ釜師の老人が居る。若い彫塑家大国貞蔵氏の父で、釜師としての伎倆は、まづ当代独歩といつて差支へあるまい。伎倆のすぐれてゐる割合に、その名前があまり世間に聞えてゐな …
雨の日に香を燻く(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
梅雨まへには、今年はきつと乾梅雨だらうといふことでしたが、梅雨に入つてからは、今日まで二度の雨で、二度ともよく降りました。 私は雨の日が好きです。それは晴れた日の快活さにも需めるこ …
読書目安時間:約6分
梅雨まへには、今年はきつと乾梅雨だらうといふことでしたが、梅雨に入つてからは、今日まで二度の雨で、二度ともよく降りました。 私は雨の日が好きです。それは晴れた日の快活さにも需めるこ …
石を愛するもの(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
いろんなものを愛撫し尽した果が、石に来るといふことをよく聞いた。屠琴塢は多くの物を玩賞したが、一番好きなのは石だつた。一生かかつて奇石三十六枚を貯へ、それを三十六峰に見立てて、一つ …
読書目安時間:約5分
いろんなものを愛撫し尽した果が、石に来るといふことをよく聞いた。屠琴塢は多くの物を玩賞したが、一番好きなのは石だつた。一生かかつて奇石三十六枚を貯へ、それを三十六峰に見立てて、一つ …
贋物(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
村井吉兵衛が伊達家の入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、 「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物を唯一つ買つたところで、他の持合せと調和が出来な …
読書目安時間:約2分
村井吉兵衛が伊達家の入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、 「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物を唯一つ買つたところで、他の持合せと調和が出来な …
喜光寺(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
佐紀の村外れから、郡山街道について南へ下ると、路の右手に當つて、熟れかかつた麥の穗並の上に、ぬつとした喜光寺の屋根が見える。 立停つて疲れたやうな屋根の勾配を見てゐると、これまでの …
読書目安時間:約4分
佐紀の村外れから、郡山街道について南へ下ると、路の右手に當つて、熟れかかつた麥の穗並の上に、ぬつとした喜光寺の屋根が見える。 立停つて疲れたやうな屋根の勾配を見てゐると、これまでの …
茸の香(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
私は今上醍醐の山坊で、非時の饗応をうけてゐる。 坊は谿間の崖に臨むで建てかけた新建で、崖の中程からによつきりと起きあがつて、欄干の前でぱつと両手を拡げたやうな楓の古木がある。こんも …
読書目安時間:約3分
私は今上醍醐の山坊で、非時の饗応をうけてゐる。 坊は谿間の崖に臨むで建てかけた新建で、崖の中程からによつきりと起きあがつて、欄干の前でぱつと両手を拡げたやうな楓の古木がある。こんも …
泣菫詩抄(旧字旧仮名)
読書目安時間:約1時間10分
書肆岩波氏の需めにより、岩波文庫の一篇として、ここに私の作詩撰集を出すことになつた。 選をするにあたり、私はただ自分の好みにのみしたがつて取捨をきめた。紙數が限られてゐるので、暮笛 …
読書目安時間:約1時間10分
書肆岩波氏の需めにより、岩波文庫の一篇として、ここに私の作詩撰集を出すことになつた。 選をするにあたり、私はただ自分の好みにのみしたがつて取捨をきめた。紙數が限られてゐるので、暮笛 …
器用な言葉の洒落(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
前号に細川護立侯のことを書いたから、今日はその御先祖細川幽斎のことを少しく書いてみよう。護立侯もかなり物識りだが、幽斎はそれにもましていろんなことに通暁してゐた。武術はいふに及ばず …
読書目安時間:約5分
前号に細川護立侯のことを書いたから、今日はその御先祖細川幽斎のことを少しく書いてみよう。護立侯もかなり物識りだが、幽斎はそれにもましていろんなことに通暁してゐた。武術はいふに及ばず …
草の親しみ:刈草の匂ひ 1(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
一雨夕立が来さうな空模様でした。砂ぼこりの起つ野道を急いでゐると、一人の農夫が気忙はしさうに刈草を掻き集めてゐるのに出会ひました。高い草の匂ひがぷんぷん四辺に散らばつてゐました。そ …
読書目安時間:約5分
一雨夕立が来さうな空模様でした。砂ぼこりの起つ野道を急いでゐると、一人の農夫が気忙はしさうに刈草を掻き集めてゐるのに出会ひました。高い草の匂ひがぷんぷん四辺に散らばつてゐました。そ …
久米の仙人(旧字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急 …
読書目安時間:約5分
私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急 …
黒猫(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
「奥さん、謝れなら謝りまんが、それぢやお宅の飼猫だすかいな、これ」 荷車曳きの爺さんは、薄ぎたない手拭で、額の汗を拭き拭き、かう言つて、前に立つた婦人の顔を敵意のある眼で見返しまし …
読書目安時間:約5分
「奥さん、謝れなら謝りまんが、それぢやお宅の飼猫だすかいな、これ」 荷車曳きの爺さんは、薄ぎたない手拭で、額の汗を拭き拭き、かう言つて、前に立つた婦人の顔を敵意のある眼で見返しまし …
恋妻であり敵であった(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
中央公論の二月号と三月号とに、文壇諸家の交友録が載つてゐました。そのなかに正宗白鳥氏は今は亡き人の平尾不孤、岩野泡鳴二氏を回想して、二人とももつと生きてゐたら、もつと仕事をしてゐた …
読書目安時間:約8分
中央公論の二月号と三月号とに、文壇諸家の交友録が載つてゐました。そのなかに正宗白鳥氏は今は亡き人の平尾不孤、岩野泡鳴二氏を回想して、二人とももつと生きてゐたら、もつと仕事をしてゐた …
古松研(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
先日硯と阿波侯についての話しを書いたが、姫路藩にも硯について逸話が一つある。藩の家老職に河合寸翁といふ男があつて、頼山陽と硯とが大好きなので聞えてゐた。 頼山陽を硯に比べたら、あの …
読書目安時間:約2分
先日硯と阿波侯についての話しを書いたが、姫路藩にも硯について逸話が一つある。藩の家老職に河合寸翁といふ男があつて、頼山陽と硯とが大好きなので聞えてゐた。 頼山陽を硯に比べたら、あの …
小壺狩(新字旧仮名)
読書目安時間:約20分
彦山村から槻の木へ抜ける薬師峠の山路に沿うて、古ぼけた一軒茶屋が立つてゐます。その店さきに腰を下ろして休んでゐるのは、松井佐渡守の仲間喜平でした。松井佐渡守といふのは、当国小倉の城 …
読書目安時間:約20分
彦山村から槻の木へ抜ける薬師峠の山路に沿うて、古ぼけた一軒茶屋が立つてゐます。その店さきに腰を下ろして休んでゐるのは、松井佐渡守の仲間喜平でした。松井佐渡守といふのは、当国小倉の城 …
西大寺の伎芸天女(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。 「寶物はもうこれでお終ひどす。」 と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと …
読書目安時間:約4分
私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。 「寶物はもうこれでお終ひどす。」 と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと …
魚の憂鬱(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
池のほとりに来た。蒼黒い水のおもてに、油のやうな春の光がきらきらと浮いてゐる。ふと見ると、水底の藻の塊を押し分けて、大きな鯉がのつそりと出て来た。そして気が進まなささうにそこらを見 …
読書目安時間:約3分
池のほとりに来た。蒼黒い水のおもてに、油のやうな春の光がきらきらと浮いてゐる。ふと見ると、水底の藻の塊を押し分けて、大きな鯉がのつそりと出て来た。そして気が進まなささうにそこらを見 …
桜の花(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
桜こそは、春の花のうちで表現の最もすぐれたものの一つであります。しとしとと降り暮らす春の雨の冷たさに、やや紅みを帯びて悲しさうにうなだれた莟といふ莟が、一夜のうちに咲き揃つて、雨あ …
読書目安時間:約3分
桜こそは、春の花のうちで表現の最もすぐれたものの一つであります。しとしとと降り暮らす春の雨の冷たさに、やや紅みを帯びて悲しさうにうなだれた莟といふ莟が、一夜のうちに咲き揃つて、雨あ …
酒(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
少し前の事だが、Kといふ若い法学士が夜更けて或料理屋の門を出た。酒好きな上に酒よりも好きな妓を相手に夕方から夜半過ぎまで立続けに呷飲りつけたので、大分酔つ払つてゐた。 街灯の灯も点 …
読書目安時間:約2分
少し前の事だが、Kといふ若い法学士が夜更けて或料理屋の門を出た。酒好きな上に酒よりも好きな妓を相手に夕方から夜半過ぎまで立続けに呷飲りつけたので、大分酔つ払つてゐた。 街灯の灯も点 …
飲酒家(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
片山国嘉博士が名代の禁酒論者であるのは知らぬ者はない。博士の説によると、不良少年、白痴、巾着切……などいふ輩は、大抵酒飲みの子に生れるもので、世間に酒が無かつたら、天国はつい手の達 …
読書目安時間:約2分
片山国嘉博士が名代の禁酒論者であるのは知らぬ者はない。博士の説によると、不良少年、白痴、巾着切……などいふ輩は、大抵酒飲みの子に生れるもので、世間に酒が無かつたら、天国はつい手の達 …
詩集の後に(旧字旧仮名)
読書目安時間:約19分
私が第一詩集暮笛集を出版したのは、明治三十二年でしたが、初めて自分の作品を世間に公表しましたのは、確か明治二十九年か三十年の春で、丁酉文社から出してゐた『新著月刊』といふ文藝雜誌に …
読書目安時間:約19分
私が第一詩集暮笛集を出版したのは、明治三十二年でしたが、初めて自分の作品を世間に公表しましたのは、確か明治二十九年か三十年の春で、丁酉文社から出してゐた『新著月刊』といふ文藝雜誌に …
質屋の通帳(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
京都に住んでゐた頃、たしか花時の事だつたと思ひます。私が縁端でぼんやり日向ぼつこをしてゐると、女中が来客の名刺を取次いで来ました。名刺にはK——とありました。K氏は私には初めての客 …
読書目安時間:約4分
京都に住んでゐた頃、たしか花時の事だつたと思ひます。私が縁端でぼんやり日向ぼつこをしてゐると、女中が来客の名刺を取次いで来ました。名刺にはK——とありました。K氏は私には初めての客 …
水仙の幻想(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。 そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物 …
読書目安時間:約3分
すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。 そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物 …
硯と殿様(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
犬養木堂の硯の話は、あの人の外交談や政治談よりはずつと有益だ。その硯については面白い話がある。徳川の末期に鶴笑道人といふ印刻家があつた。硯の善いのを沢山持ち合せてゐたが、その一つに …
読書目安時間:約2分
犬養木堂の硯の話は、あの人の外交談や政治談よりはずつと有益だ。その硯については面白い話がある。徳川の末期に鶴笑道人といふ印刻家があつた。硯の善いのを沢山持ち合せてゐたが、その一つに …
青磁の皿(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
故人小杉榲邨博士の遺族から売りに出した正倉院の御物が世間を騒がせてゐるが、同院が東大寺所管時代の取締がいかにぞんざいであつたかを知るものは、かうした御物が小杉博士の遺族から持ち出さ …
読書目安時間:約2分
故人小杉榲邨博士の遺族から売りに出した正倉院の御物が世間を騒がせてゐるが、同院が東大寺所管時代の取締がいかにぞんざいであつたかを知るものは、かうした御物が小杉博士の遺族から持ち出さ …
石竹(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
この頃咲く花に石竹があります。照り続きで、どんなに乾いた磧にも、山道にも、平気で咲いてゐるのはこの花です。茎が折れると、折れたままにその次の節からまた姿勢を持ちなほして、伸びてゆく …
読書目安時間:約1分
この頃咲く花に石竹があります。照り続きで、どんなに乾いた磧にも、山道にも、平気で咲いてゐるのはこの花です。茎が折れると、折れたままにその次の節からまた姿勢を持ちなほして、伸びてゆく …
旋風(旧字旧仮名)
読書目安時間:約4分
秋篠寺を出て、南へとぼとぼと西大寺村へ下つて來ると、午過ぎの太陽が、容赦もなく照りつけるので、急にくらくらと眩暈がしさうになつて來た。それに朝夙くから午過ぎの今時分まで何一つ口へ入 …
読書目安時間:約4分
秋篠寺を出て、南へとぼとぼと西大寺村へ下つて來ると、午過ぎの太陽が、容赦もなく照りつけるので、急にくらくらと眩暈がしさうになつて來た。それに朝夙くから午過ぎの今時分まで何一つ口へ入 …
艸木虫魚(新字新仮名)
読書目安時間:約3時間49分
柚の木の梢高く柚子の実のかかっているのを見るときほど、秋のわびしさをしみじみと身に感ずるものはない。豊熟した胸のふくらみを林檎に、軽い憂鬱を柿に、清明を梨に、素朴を栗に授けた秋は、 …
読書目安時間:約3時間49分
柚の木の梢高く柚子の実のかかっているのを見るときほど、秋のわびしさをしみじみと身に感ずるものはない。豊熟した胸のふくらみを林檎に、軽い憂鬱を柿に、清明を梨に、素朴を栗に授けた秋は、 …
茶立虫(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
静かな秋の一日、午後三時頃の事でした。家の者はみな遊びに出かけたので、留守居に残された私は部屋に坐つたまま、背を壁にもたせて、何を考へるでもなし、ひとりつくねんとしてゐました。煤け …
読書目安時間:約3分
静かな秋の一日、午後三時頃の事でした。家の者はみな遊びに出かけたので、留守居に残された私は部屋に坐つたまま、背を壁にもたせて、何を考へるでもなし、ひとりつくねんとしてゐました。煤け …
茶話:01 大正四(一九一五)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
2・27 フランク・ハリスと云へば聞えた英国の文芸家だが、(ハリスを英人だと言へば或は憤り出すかも知れない、生れは愛蘭で今は亜米利加にゐるが、自分では巴里人の積りでゐるらしいから) …
読書目安時間:約3分
2・27 フランク・ハリスと云へば聞えた英国の文芸家だが、(ハリスを英人だと言へば或は憤り出すかも知れない、生れは愛蘭で今は亜米利加にゐるが、自分では巴里人の積りでゐるらしいから) …
茶話:02 大正五(一九一六)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約4時間54分
4・12(夕) 蚯蚓が風邪の妙薬だといひ出してから、彼方此方の垣根や塀外を穿くり荒すのを職業にする人達が出来て来た。郊外生活の地続き、猫の額ほどな空地に十歩の春を娯まうとする花いぢ …
読書目安時間:約4時間54分
4・12(夕) 蚯蚓が風邪の妙薬だといひ出してから、彼方此方の垣根や塀外を穿くり荒すのを職業にする人達が出来て来た。郊外生活の地続き、猫の額ほどな空地に十歩の春を娯まうとする花いぢ …
茶話:03 大正六(一九一七)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約5時間28分
1・7(夕) 犬養木堂の刀剣談は本紙に載つてゐる通り、なかなか通なものだが、その犬養氏を頭に戴いてゐる国民党が鈍刀揃ひの、加之に人少なであるのに比べて、犬養氏が秘蔵の刀剣は、いづれ …
読書目安時間:約5時間28分
1・7(夕) 犬養木堂の刀剣談は本紙に載つてゐる通り、なかなか通なものだが、その犬養氏を頭に戴いてゐる国民党が鈍刀揃ひの、加之に人少なであるのに比べて、犬養氏が秘蔵の刀剣は、いづれ …
茶話:04 大正七(一九一八)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約5時間13分
2・16(夕) 栃木山の横綱初土俵入が、常陸山会の主催で、十四日午後二時から出羽海部屋で行はれた事は昨日の新聞に詳しく載つてゐた。 幾年かむかし、栃木山と一緒に附出しとなつて初めて …
読書目安時間:約5時間13分
2・16(夕) 栃木山の横綱初土俵入が、常陸山会の主催で、十四日午後二時から出羽海部屋で行はれた事は昨日の新聞に詳しく載つてゐた。 幾年かむかし、栃木山と一緒に附出しとなつて初めて …
茶話:05 大正八(一九一九)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約2時間57分
1・5(夕) 寺内内閣が壊れて、その跡へ政友会内閣が出来かゝるやうな運びになつて、総裁原敬氏の白髪頭のなかでは、内閣員の顔触が幾度か見え隠れしてゐた頃、今の文相中橋徳五郎氏の許へ、 …
読書目安時間:約2時間57分
1・5(夕) 寺内内閣が壊れて、その跡へ政友会内閣が出来かゝるやうな運びになつて、総裁原敬氏の白髪頭のなかでは、内閣員の顔触が幾度か見え隠れしてゐた頃、今の文相中橋徳五郎氏の許へ、 …
茶話:06 大正十一(一九二二)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約39分
詩人室生犀星氏のお父さんのこと4・23 サンデー毎日 詩人室生犀星氏のお父さんは、医者であつた。医者であることすら大変なのに、おまけに藪医者であつた。藪医者といふと、蝸牛や、蟷螂と …
読書目安時間:約39分
詩人室生犀星氏のお父さんのこと4・23 サンデー毎日 詩人室生犀星氏のお父さんは、医者であつた。医者であることすら大変なのに、おまけに藪医者であつた。藪医者といふと、蝸牛や、蟷螂と …
茶話:07 大正十四(一九二五)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間15分
4・15 東京日日(夕) 大阪のある大きな会社で、重役の一人が労働問題の参考資料にと思つて、その会社の使用人に言ひつけて、めい/\の家の生活向きを正直に書き出させたことがあつた。い …
読書目安時間:約1時間15分
4・15 東京日日(夕) 大阪のある大きな会社で、重役の一人が労働問題の参考資料にと思つて、その会社の使用人に言ひつけて、めい/\の家の生活向きを正直に書き出させたことがあつた。い …
茶話:08 大正十五(一九二六)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約9分
9・1 苦楽 むかし、ある物識りが、明盲の男を戒めて、すべて広い世間の交際は、自分の一量見をがむしやらに立てようとしてはいけない、相身互ひの世の中だから、何事にも、 「堪忍」 の二 …
読書目安時間:約9分
9・1 苦楽 むかし、ある物識りが、明盲の男を戒めて、すべて広い世間の交際は、自分の一量見をがむしやらに立てようとしてはいけない、相身互ひの世の中だから、何事にも、 「堪忍」 の二 …
茶話:09 昭和二(一九二七)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
5・1 中央公論 かういふ話がある。 ある時、山ぞひの二また道を、若い男と若い女とが、どちらも同じ方向をさして歩いてゐたことがあつた。 二また道の間隔は、段々せばめられて、やがて一 …
読書目安時間:約2分
5・1 中央公論 かういふ話がある。 ある時、山ぞひの二また道を、若い男と若い女とが、どちらも同じ方向をさして歩いてゐたことがあつた。 二また道の間隔は、段々せばめられて、やがて一 …
茶話:10 昭和三(一九二八)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約8分
5・1 女性 男といふものは、郵便切手を一枚買ふのにも、同じ事なら美しい女から買ひたがるものなのだ。——故ウヰルソンの女婿 McAdoo 氏はよくこの事実を知つてゐた。 あるとき …
読書目安時間:約8分
5・1 女性 男といふものは、郵便切手を一枚買ふのにも、同じ事なら美しい女から買ひたがるものなのだ。——故ウヰルソンの女婿 McAdoo 氏はよくこの事実を知つてゐた。 あるとき …
茶話:11 昭和五(一九三〇)年(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
1・5 サンデー毎日 若い英文学者のN氏は、神戸のある高等専門学校で語学の教師をつとめてゐた。 その日は学期試験があつたので、朝九時から正午少し前まで、N氏は教室に詰切つてゐなけれ …
読書目安時間:約12分
1・5 サンデー毎日 若い英文学者のN氏は、神戸のある高等専門学校で語学の教師をつとめてゐた。 その日は学期試験があつたので、朝九時から正午少し前まで、N氏は教室に詰切つてゐなけれ …
茶話:12 初出未詳(新字旧仮名)
読書目安時間:約1時間9分
むかしは男は月代といふものを剃つたものだが、それは髭を剃る以上に面倒くさいものであつた。伊勢の桑名に松平定綱といふ殿様があつた。気むづかしやで、思ふ存分我儘を振舞つたものだが、とり …
読書目安時間:約1時間9分
むかしは男は月代といふものを剃つたものだが、それは髭を剃る以上に面倒くさいものであつた。伊勢の桑名に松平定綱といふ殿様があつた。気むづかしやで、思ふ存分我儘を振舞つたものだが、とり …
中宮寺の春(新字旧仮名)
読書目安時間:約6分
ある歳の一月五日午後二時過ぎのことでした。 私は、その頃まだ達者でゐた法隆寺の老男爵北畠治房氏と一緒に連れ立つて、名高い法隆寺の夢殿のなかから外へ出てきました。 山国の一月には珍し …
読書目安時間:約6分
ある歳の一月五日午後二時過ぎのことでした。 私は、その頃まだ達者でゐた法隆寺の老男爵北畠治房氏と一緒に連れ立つて、名高い法隆寺の夢殿のなかから外へ出てきました。 山国の一月には珍し …
手品師と蕃山(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
手品といふものは、余り沢山見ると下らなくなるが、一つ二つ見るのは面白いものだ。むかし、備前少将光政が、旅稼ぎをする手品師の岡山の城下に来たのを召し出して、手品を見た事があつた。 一 …
読書目安時間:約3分
手品といふものは、余り沢山見ると下らなくなるが、一つ二つ見るのは面白いものだ。むかし、備前少将光政が、旅稼ぎをする手品師の岡山の城下に来たのを召し出して、手品を見た事があつた。 一 …
独楽園(新字旧仮名)
読書目安時間:約2時間19分
この書をわが老母と妻に 読書にも倦きたので、庭におりて日向ぼつこをする。 二月の太陽は、健康な若人のやうに晴やかに笑つてゐる。そのきらきらする光を両肩から背一杯にうけてゐると、身体 …
読書目安時間:約2時間19分
この書をわが老母と妻に 読書にも倦きたので、庭におりて日向ぼつこをする。 二月の太陽は、健康な若人のやうに晴やかに笑つてゐる。そのきらきらする光を両肩から背一杯にうけてゐると、身体 …
白羊宮(旧字旧仮名)
読書目安時間:約39分
この書を後藤寅之助氏にささぐ わがゆくかたは、月明りさし入るなべに、 さはら木は腕だるげに伏し沈み、 赤目柏はしのび音に葉ぞ泣きそぼち、 石楠花は息づく深山、——『寂靜』と、 『沈 …
読書目安時間:約39分
この書を後藤寅之助氏にささぐ わがゆくかたは、月明りさし入るなべに、 さはら木は腕だるげに伏し沈み、 赤目柏はしのび音に葉ぞ泣きそぼち、 石楠花は息づく深山、——『寂靜』と、 『沈 …
初蛙(新字新仮名)
読書目安時間:約7分
古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。月がおぽろに、燻し銀のように沈んだ春の真夜なか時、静かな若葉の木かげに立ちながら、あてもなくじっと傾ける耳に伝わる仄かなおとず …
読書目安時間:約7分
古沼の水もぬるみ、蛙もそろそろ鳴き出す頃となりました。月がおぽろに、燻し銀のように沈んだ春の真夜なか時、静かな若葉の木かげに立ちながら、あてもなくじっと傾ける耳に伝わる仄かなおとず …
春菜(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
郷里にゐる弟のところから、粗末な竹籠の小荷物が、押潰されたやうになつたまま送りとどけられて来た。 その途端、鼻を刺すやうな激しい臭みが、籠の目を洩れて、そこらにぷんぷんと散ばつて往 …
読書目安時間:約4分
郷里にゐる弟のところから、粗末な竹籠の小荷物が、押潰されたやうになつたまま送りとどけられて来た。 その途端、鼻を刺すやうな激しい臭みが、籠の目を洩れて、そこらにぷんぷんと散ばつて往 …
春の賦(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
また春が帰つて来た。 病にかかつてこのかた、暑さ寒さが今までになくひどく体にこたへるので、夏が来ると秋を思ひ、冬になると春を恋しがる以外には、何をも知らない私は、ことしの冬が近年に …
読書目安時間:約5分
また春が帰つて来た。 病にかかつてこのかた、暑さ寒さが今までになくひどく体にこたへるので、夏が来ると秋を思ひ、冬になると春を恋しがる以外には、何をも知らない私は、ことしの冬が近年に …
まんりやう(新字旧仮名)
読書目安時間:約1分
夕方ふと見ると、植込の湿つぼい木かげで、真赤なまんりやうの実が、かすかに揺れてゐる。寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでゐるのだ。 小鳥の眼のやうな、つぶらな赤い実が揺れ、厚 …
読書目安時間:約1分
夕方ふと見ると、植込の湿つぼい木かげで、真赤なまんりやうの実が、かすかに揺れてゐる。寒い冬を越し、年を越しても、まだ落ちないでゐるのだ。 小鳥の眼のやうな、つぶらな赤い実が揺れ、厚 …
無学なお月様(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
野尻精一氏は奈良女子高等師範の校長である。東京にゐる頃にはさうも思はなかつたが、住むでみると奈良は景色がよく、景色がよくないところには定つて古蹟があつて、遊ぶには恰好な土地だなと野 …
読書目安時間:約3分
野尻精一氏は奈良女子高等師範の校長である。東京にゐる頃にはさうも思はなかつたが、住むでみると奈良は景色がよく、景色がよくないところには定つて古蹟があつて、遊ぶには恰好な土地だなと野 …
名文句(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
米国のボストンにペン先の製造業者がある。数多い同業者を圧倒して、店のペン先を売り弘めようとするには、何でも広告を利用する外には良い方法が無かつた。で、一千弗の懸賞附で、ペンに関する …
読書目安時間:約2分
米国のボストンにペン先の製造業者がある。数多い同業者を圧倒して、店のペン先を売り弘めようとするには、何でも広告を利用する外には良い方法が無かつた。で、一千弗の懸賞附で、ペンに関する …
木犀の香(新字新仮名)
読書目安時間:約3分
「いい匂だ。木犀だな。」 私は縁端にちよつと爪立ちをして、地境の板塀越しに一わたり見えるかぎりの近処の植込を覗いてみた。だが、木犀らしい硬い常緑の葉の繁みはどこにも見られなかつた。 …
読書目安時間:約3分
「いい匂だ。木犀だな。」 私は縁端にちよつと爪立ちをして、地境の板塀越しに一わたり見えるかぎりの近処の植込を覗いてみた。だが、木犀らしい硬い常緑の葉の繁みはどこにも見られなかつた。 …
森の声(新字旧仮名)
読書目安時間:約3分
自分は今春日の山路に立つてゐる。路の両側には数知れぬ大木が聳え立つて、枝と枝との絡みあつたなかには、闊葉細葉がこんもりと繁つて、たまたまその下蔭を往く山番の男達が、昼過ぎの空合を見 …
読書目安時間:約3分
自分は今春日の山路に立つてゐる。路の両側には数知れぬ大木が聳え立つて、枝と枝との絡みあつたなかには、闊葉細葉がこんもりと繁つて、たまたまその下蔭を往く山番の男達が、昼過ぎの空合を見 …
山雀(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私の近くにアメリカ帰りの老紳士が住んでをります。その人が今年の春六甲山へ登つて、その帰りにあたりの松林で小鳥の巣を見つけました。巣にはやつと羽が生えかけたばかしの雛が四羽をりました …
読書目安時間:約5分
私の近くにアメリカ帰りの老紳士が住んでをります。その人が今年の春六甲山へ登つて、その帰りにあたりの松林で小鳥の巣を見つけました。巣にはやつと羽が生えかけたばかしの雛が四羽をりました …
幽霊の芝居見(新字旧仮名)
読書目安時間:約2分
欧洲大戦の時、西部戦線にゐた英軍の塹壕内では、死んだキツチナア元帥が俘虜になつて独逸にゐるといふ噂が頻りにあつた。前線で俘虜になつた独逸兵のなかには、伯林の俘虜収容所で怖しく背の高 …
読書目安時間:約2分
欧洲大戦の時、西部戦線にゐた英軍の塹壕内では、死んだキツチナア元帥が俘虜になつて独逸にゐるといふ噂が頻りにあつた。前線で俘虜になつた独逸兵のなかには、伯林の俘虜収容所で怖しく背の高 …
利休と遠州(新字旧仮名)
読書目安時間:約12分
むかし、堺衆の一人に某といふ数寄者がありました。その頃の流行にかぶれて、大枚の金子を払つて出入りの道具屋から、雲山といふ肩衝の茶入を手に入れました。太閤様御秘蔵の北野肩衝も、徳川家 …
読書目安時間:約12分
むかし、堺衆の一人に某といふ数寄者がありました。その頃の流行にかぶれて、大枚の金子を払つて出入りの道具屋から、雲山といふ肩衝の茶入を手に入れました。太閤様御秘蔵の北野肩衝も、徳川家 …
若葉の雨(新字旧仮名)
読書目安時間:約4分
野も、山も、青葉若葉となりました。この頃は——とりわけて今年はよく雨が降るやうです。雨といつてもこの頃のは、草木の新芽を濡らす春さきの雨や、もつと遅れて来る梅雨季の雨に比べて、また …
読書目安時間:約4分
野も、山も、青葉若葉となりました。この頃は——とりわけて今年はよく雨が降るやうです。雨といつてもこの頃のは、草木の新芽を濡らす春さきの雨や、もつと遅れて来る梅雨季の雨に比べて、また …
侘助椿(新字旧仮名)
読書目安時間:約5分
私は今夕暮近い一室のなかにひとり坐ってゐる。 灰色の薄くらがりは、黒猫のやうに忍び脚でこつそりと室の片隅から片隅へと這ひ寄つてゐる。その陰影が壁に添うて揺曳くする床の間の柱に、煤ば …
読書目安時間:約5分
私は今夕暮近い一室のなかにひとり坐ってゐる。 灰色の薄くらがりは、黒猫のやうに忍び脚でこつそりと室の片隅から片隅へと這ひ寄つてゐる。その陰影が壁に添うて揺曳くする床の間の柱に、煤ば …
“薄田泣菫”について
薄田 泣菫(すすきだ きゅうきん、1877年(明治10年)5月19日 - 1945年(昭和20年)10月9日)は、日本の詩人・随筆家。本名、淳介(じゅんすけ)。
『暮笛集』『白羊宮』などで島崎藤村、土井晩翠の後を継ぐ浪漫派詩人として登場。また、象徴派詩人として蒲原有明と併称された。大正以後は詩作を離れ、『茶話』『艸木虫魚』などの随筆集を書いた。
(出典:Wikipedia)
『暮笛集』『白羊宮』などで島崎藤村、土井晩翠の後を継ぐ浪漫派詩人として登場。また、象徴派詩人として蒲原有明と併称された。大正以後は詩作を離れ、『茶話』『艸木虫魚』などの随筆集を書いた。
(出典:Wikipedia)
“薄田泣菫”と年代が近い著者
今月で没後X十年
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
ジェーン・テーラー(没後200年)
山村暮鳥(没後100年)
黒田清輝(没後100年)
アナトール・フランス(没後100年)
原勝郎(没後100年)
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット(没後100年)
郡虎彦(没後100年)
フランツ・カフカ(没後100年)