)” の例文
顔のあかい男は盛相のふた玄米げんまいいてあるぐたぐたの飯を分け、って熊笹くまざさの葉を二三枚って来てそれにのっけて僧の前にだした。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僧は上りかまちに腰かけて、何の恥らう様子も無く、悪びれた態度もなく、大声をあげて食前の誦文を唱え、それから悠々とはしった。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
第一おれが田中君の紹介の労をっている間に、お君さんはいつか立上って、障子を開けた窓の外の寒い月夜を眺めているのだから。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仮色こわいろを船で流して来た。榊は正太の膝を枕にして、互に手をりながら、訴えるような男や女の作り声を聞いた。三吉も横に成った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
筆をって書いていても、魏叔子ぎしゅくし大鉄椎だいてっついでんにある曠野こうや景色けいしょくが眼の前に浮んでくる。けれども歩いている途中は実に苦しかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一、こうしてくまでも床の間を背に、玄蕃に刀をらせないように用心を払う訳もないし、何より、身体にすきがあるはずである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大人連中は差当り子供の圧迫を遁れて自由行動をるに異存もなく、僕達も久しぶりで若いもの同志の世界に戻るのを嬉しく思った。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうすると全身の細胞に含まれている色んな意識が、お互い同志に連絡をうしなって、めいめい勝手な自由行動をりはじめる事になる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
竹中半兵衛を迎えると共に、彼は、自分も半兵衛に入門の礼をり、講舎を建て、一藩の軍学師範と仰いで、家中の教育を一任した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは第三者の判決をたなければならぬが、歴史家が筆をったならば、露帝が破ったのであると見はしないかと思う(拍手)。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その苛責かしゃくが終わったのちに、道人は三人に筆と紙とをあたえて服罪の口供こうきょうを書かせ、更に大きい筆をってみずからその判決を書いた。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
その火焔に向って交互に話し掛けるような形式をるならば、諸君は、低能のマダムと三時間話し合っても、疲れる事は無いであろう。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
小賊せいぞくかずして、すなはかたなつてゆびつてたまぬすむや、ゆびよりくれなゐいとごとほとばしりぬ。頭領とうりやうおもてそむけていはく、於戲痛哉あゝいたましいかな
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われわれの文学者になれないのは筆がれないからなれないのではない、われわれに漢文が書けないから文学者になれないのでもない。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「これが人道を叫び紳士を標榜ひょうぼうする英国が、印度で常套じょうとう手段です。英国人にとっては印度人の命ほど安いものはありますまい」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
尚侍の公務を自宅で不都合なくることにして、玉鬘はもう宮中へ出ることはないだろうと見られた。それでもよいことであった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
むかしペリクレエスの世には、この石柱の負へる穹窿の下に、笑ひさゞめく希臘の民往來したりき。そは美の祭をり行へるなり。
先ず庖丁ほうちょうって背の方の首の処をちょいとりまして中へ指を入れて鶏の前胃ぜんい抽出ひきだしました。あの通りスルスルと楽に出ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
『古今集』にはまた大歌所おおうたどころものの歌としてあって、山人の手に持つさかきの枝に、何か信仰上の意味がありそうに見えるのであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この法王まではいわゆる宗教ばかりの法王であって少しも政治をらなかった。それは政治を執るにも自分の領分がなかったからです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
筆をるものは眼前の華やかな仕事にのみ心を奪われて、東京その他の大都会以外にも多数の人々が住んでいることを忘れてはならない。
雪の一日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この不安は次第に銃をって立っている兵卒に波及した。姿勢はことごとく崩れ、手を振り動かして何事かささやき合うようになった。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「わア!」僕は飛鳥のごとく、動力機関の前までのがれた。僕は、もはやこれまでとおもって、その場にあったハンマーをると
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
これを見るとお側に居りました川添富彌、山田金吾も驚きましたが、御側小姓の外村惣江が次の間に至り、一刀をって立上り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「さあ、おまんま出來できたぞ」勘次かんじかまから茶碗ちやわんめしうつす。さうして自分じぶん農具のうぐつておつぎへたせてそれからさつさとすのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが鯉坂君の懐疑的態度は、実験の結果そのものに対してられるのでなくて、彼はまったく妙なところに疑いをいだくのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
二室ふたしつを打抜いた広間には、一列にデスクが並んで、十数名の男女が事務をっている。北川は、その一方のすみのタイピスト達の席を眺めた。
部長の下に事務官、書記があって、それぞれの事務をっている。事務局の局員総数は四十ヶ国、四百七十人より成っている。
私は自分のやたらインキをにじませている金釘流が恥ずかしくてならなかった。居士は自分でペンをってさらさら書き流した。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
或る朝は偏頭痛へんとうつうを感じてふでる氣力もなく、苛苛いらいらしい時を過した。それ等は私にとつては恐らく一生忘れがたところの、産みの苦しみだつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
俊雄はらえこれではなお済むまいと恋は追い追い下へ落ちてついにふたりが水と魚とのなかを隔て脈ある間はどちらからも血を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
〔譯〕身に老少らうせう有りて、心に老少無し。氣に老少有りて、理に老少無し。須らく能く老少無きの心をつて、以て老少無きの理をたいすべし。
しかし病弱であればこそ、そうやって筆もられるので、そうでなかったら勅任教授か何かで、大学あたりの教壇で干涸ひからびてしまうに相違ない。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(絵になら、まだしもけようが。)それは、煙をその形のままに手でらえようとするにも似た愚かさであると、一般に信じられておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
当時具志川ぐしかわ王子尚亨しょうきょうという賢相があって政治をっていましたが、よほどの道徳家で時の人はこれを聖人と称えていました。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
隧道トンネルに入って不思議に電灯が点かなかったこと、そこへ今の惨事さんじが発生したこと、これだけあれば車掌たちのるべき手段は至極しごく明瞭めいりょうだった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
唯一人杉山ばかり自分と一緒に其志を固くつて、翌年の四月陸軍幼年学校の試験に応じたが自分は体格で不合格、杉山はまた学科で失敗して
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
或る日滋幹の手をって、父の部屋の前まで引っ張って行き、さあ、と、障子を開けて無理に中へ押し込んだことがあった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
絶対に足洗いを許さぬ方針をり、他地方に於いてもこれに倣って、だんだん階級観念が盛んになるとともに、またエタの人口の増殖とともに
遠州地方の足洗 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
葬儀万端いとも盛大にり行われて、さてこの後誰が一体鈴子未亡人の世話をするだろうということが問題になりました。
然し私が記念の意味で、十何年来手にしたことのない毛筆をり、空白の扉に署名してやると、佐川二等兵の喜びかたはたいしたものであった。
「露西亜との軍費をき上げて、之を菊三郎への軍費に流用する所、好個の外務大臣だ」まことや筆をつてはさぎを烏となし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そうそうわたくし現世げんせ見納みおさめに若月わかつき庭前にわさきかせたとき、その手綱たづなっていたのも、矢張やはりこの老人ろうじんなのでございました。
卒然いきなり手をって引寄せると、お糸さんは引寄ひきよせられる儘に、私の着ている夜着の上にもたれ懸って、「如何どうするのさ?」と
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は一例を高麗焼こうらいやきりましょう。高麗焼は官窯かんようであって、貴族的な品物のうち最も美しいものの一つを代表します。何がそれを美しくさせているか。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
婦燭をりて窟壁いわ其処此処そこここを示し、これは蓮花の岩なり、これは無明の滝、乳房の岩なりなどと所以いわれなき名を告ぐ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
百石ひやくこくでも別當べつたうはこの土地とち領主りやうしゆで、御前ごぜんばれてゐた。した代官だいくわんがあつて、領所りやうしよ三ヶそん政治せいぢつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
僕は名状しがたいうれしさに雀躍こおどりしながら、壁飾りに掛けてあるアメリカ・インデアンの鳥の羽根のついた冠りをり、インデアン・ガウンを羽織って
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
前者にありては、霊媒はペン又は鉛筆をるか、若くは片手をプランセットに載せるかすると、通信が本人の意識的介在なしに書き綴られるのである。
むちうたしむること日ごとに十杖、もって十日に及んだが、なお固くって動かなかったので、さすがの太守も呆れ果てて、終にこれを放免してしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)