)” の例文
然れどもつひに交合は必然に産児を伴ふ以上、男子には冒険でもなんでもなけれど、女人には常に生死をする冒険たるをまぬかれざるべし。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
第二十四条 日本国民は男女を問はず、国の独立自尊を維持するが為めには、生命財産をして敵国と戦ふの義務あるを忘る可らず。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
そのご奉公にきずのないようにするためには、いささかでも家政に緩みがあってはなりません、あるじのご奉公が身命をしているように
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
老母の分別としても、今は、いちかばちかをすしかない。目立つ物は何一つ身につけず、息子の背に負われて、裏門から忍びでた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この最後の死闘が分けても冒険的なものであったこと、これこそ彼の生命をした働きであったことは察するに難くないのである。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
万民の志を遂げしむる政治のために身命をして努力するような志士を選挙しようと骨折ったこともない。そうすると父も不忠であった。
蝸牛の角 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だれ戦争せんそうまうけ、だれなんうらみもない俺達おれたちころひをさせるか、だれして俺達おれたちのためにたたかひ、なに俺達おれたち解放かいほうするかを
ただ奴らの間にはいわゆる鉄の規律というやつが徹底していて、生命をして事に当たり、生命を賭して秘密を厳守しているという点です。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
英独仏等交戦諸国の国民は、国運をするの境遇に出会いしがゆえに、たちまち平生の心理を改め、よく献身犠牲の精神を発揮するを得た。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
そこに申訳と希望とを築き上げ、そしてその大それた指導者の命令のまにまに、身命をさえしてその事業の成就を心がける。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
国家に対する忠愛の熱情と国政に対する識見とに於て、生死をして所信を敢行する勇気とに於て、彼等のみが決して独占的の所有者ではない。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
しかし、一身の自由をしてでなければそれができなかった。ドイツから逃亡当時の逮捕令状のもとにまだあるのだった。
して乾雲を求めておることはそちも以前からよく知っているはず。言わば承知のうえで、拙者と……このようなことになったのではないか……
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幇間同士が血のしたたるビフテキを捧げて出た、獅子の口へ、身をにえにして奉った、という生命いのちした、奉仕サアビスである。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あらゆるすべての詩人は、彼の歓楽の酒盃しゅはいの中に、もしくは理想的社会の実現される夢の中に、生活のクライマックスをして死のうとしている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
正木先生が精神科学の大道を開拓すべく、生涯をして研究して行かれた痛快な事蹟が、たやすく、順序正しくおわかりになるで御座いましょう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分の一生をしてかゝった仕事が、空虚な幻影であることが、分った時ほど、人間の心が弛緩しかんし堕落することはない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もちろんあの事業にはわたくしの全財産もしてあります。すると重役会で、ある重役がそれをあのまま醸造じょうぞう所にしようということを発議しました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
長州は国をして反幕の主動者となっているが、そこへ行くと薩摩は、国が遠いだけに、長州よりも隠身いんしんの術がく。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、わが海軍は全滅をして、その任務を行ったのだ。鳥島海戦の勝利は、日本海の大勝にまさるとも劣らない。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「わしらの同志は身命をして彼らを援助した。彼らにとって日本は忘れがたい恩人のはずだ。その彼らが今日、日本に対して排日の抗日のと……」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
カークも、大湿林の咆吼ほうこうをよぶ狂風を感じはするが……、死をして、不侵地悪魔の尿溜をきわめようなどとは、夢にもさらさら思わないことだった。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして自意識がそのように満足した時にのみ人の心に湧然ゆうぜんと起こって来る一種の愛情——すべての悲劇的運命の中に生死をして真剣に生きている人々
少佐は心のうちで、「これは強敵だぞ。だが、身命をしてかかれば何事かならざんやだ」と云ったのでした。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そして、それを求めるために、これほど多くの歴史上の人が努力をしている。死をしてまで苦修している。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貴重な生命をして海峡を泳いで見たり、沙漠さばくを横ぎって見たりする馬鹿は、みんな意志を働かす意識の連続を得んがために他を犠牲に供するのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いくら防長の連中だって、この国の分裂をしてまでイギリスに頼ろうとは言いますまい。高杉晋作たかすぎしんさくなんて評判な人物が舞台に上って来たじゃありませんか。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わが職業については一身をする覚悟である。この紀行の一編、読めば読むほど敬服させられる点が多い。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
指揮者フルトヴェングラーはそれを惜しむのあまり、一時職をして争おうとしたとさえ伝えられている。
まして、宿敵、大村組との、浮沈をした荷役であるから、浜尾組は、日ごろの倍以上の馬力をかけた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
(命をして。)……ところが、十八歳になると、また『芥川』に逆戻りして、辻潤氏に心酔しました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ほとんど一生をして復興をはかったのだ。信仰が彼らを導いたのだ。我々はいま簡便に入手出来て読みやすくなっているので、ついそういう先人の労苦を忘れがちだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
しかし今や職をしてかかつている警部の言としては当然でもあり、また一面甚だ悲痛にもきこえた。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
今は恐ろしき沈黙はすでにとく破れて、雷鳴りでんひらめき黒風こくふう吹き白雨はくうほとばしる真中まなかに立てる浪子は、ただ身をして早く風雨の重囲ちょういを通り過ぎなんと思うのみ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と「右足のない梟」は叫んで、大力を利用してふり放そうとするが、帆村は死をして喰い下った。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宝貝の需要がさまで痛切ならず、人がそのために身命をし、怒濤どとうを乗り切るまでの大きな刺戟しげきがなくなったのは、徐福じょふくのローマンスよりもさらに前のことであろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さてはひと時の美觀のために、人の命をさへするなりしか。われ。これも神徳をかゞやかさんとての業なり。世には卑しき限の事に性命を危くする人さへ少からず。
とお由は地位をしての申入れだった。この女は忠義者で、僕が小学校へ上る頃まで勤め続けた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
成経 しかし、あなたにとっては一家の運命をするほどの大事とは思われない。ただあなたの役目の解釈に少しばかりの自由を保つのにすぎないことではあるまいか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「わたくしは今日こんにちから一命をして職務のために尽します。」貞固の目には涙がたたえられていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船員らが躊躇ちゅうちょし惑っている中に、すべての水夫らが震えしり込みしているうちに、彼はただ一人、生命をして水夫を救いに行くことを許してくれるように士官に願った。
死を覚悟してやる、死をして戦う、これくらい世の中に強いものはありません。死を覚悟していない、つまり魂をうちこんでいない仕事は、結局、真剣ではないわけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それに対して山田博士云、「遣唐使の派遣が大命を奉じて死生をして数年をついやして往復するに、綿のみにても毎年二十万屯づつを輸入せりとすべきか」(講義)と云った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
侍は万事をして、この宝を救い出そうと決心して、燃える御殿に飛び入って、例の掛け物をつかんだ、が、見ればはや、火炎にさえぎられて、のがれる道はなかったのである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
自分の幽霊と命をしても争うという大事なたった一つのことが忘れられているのだ。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すべて赤誠と確信からほとばしずるものであって、その一語が、ただちにその人の名誉地位に連関し、一命をして吐露する、というほどの概があるならば、その言はたしかに「行」である。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
国家の事までしてやって下さいという事はむろん私の身分として出来る事でないから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
人は真実在は不可知的というかも知らない。もし然らば、我々の生命も単に現象的、夢幻的と考えるのほかない。そこからは、死生をする如き真摯しんしなる信念は出て来ないであろう。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
砲煙弾雨の中に身命をして敵の陣営に突撃するのもたしかにたっと日本魂やまとだましいであるが
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
命令はわかったが、この最後の理由がに落ちない。一番の大物に探りを入れて悪いなら、それでは、いったいなんのために生命をして近づくのか、その動機がみ込めなかった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)