)” の例文
「行列が動き出そうとするとき、乗物のの隙間から、花嫁のすそみ出していることに気が付いて、私が直してやりましたが——」
風雨に古びたまま、幾百年も手入れもしていない建物に、月の白い光が、の朽ちた四方の破れから刃のように中へさしこんでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あたしそう思って、できるだけ早く助けてやろうとしましたが、に鍵がかかっていましたので、助けてやりようがありません」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
一方ヒーヴリャは、なほも烈しく、やつきになつてを打ちたたく音に急きたてられて、前後の弁へもなく門の方へ駈け出して行つた。
それを見届けると、大蘆原軍医は始めて莞爾かんじと笑って、かたわらにりよってくる紅子の手をとって、入口のの方にむかって歩きだした。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
暫くすると、激しい靴音がして独逸兵がを跳ね飛ばすやうな勢で入つて来た。農夫ひやくしやうは両手の掌面てのひらめてゐた顔を怠儀さうにあげた。
その駕籠のに引き添って、地に膝を突いて、小次郎が烈しくあえぎながら、それでも刀は手から放さず、握ったままで静まっていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ヂュリ おゝ、はやめて、そしてしめてまうたら、わたしと一しょにいてくだされ。もう絶望だめぢゃ! 絶望だめぢゃ、絶望だめぢゃ!
そのには、女中の言葉の通り昔風の大きな鉄の錠前が、まるで造りつけの装飾物でもある様に、ひっそりと掛っているばかりであった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
、私はの外から聞いたんですもの。それは政治のことでしょう。いやよ。すぐ翌日から政治の話をするなんていけないことよ。
往って見ると此は不覚ふかくがしまって居る。駅夫えきふに聞くと、睡むそうな声して、四時半まではあけぬと云う。まだ二時前である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして隣りの室の前を通りかゝりましたら、が開け放してあって、さっきの給仕がひどく悄気しょげて頭を垂れて立ってゐました。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
玄関のが、内側から無造作に引きあけられて、よく釣り合いのとれた、せいの高い、三十五、六の青年が屈託のないようすで現われて来た。
午後になって、ドーブレクの留守を幸い、彼は二階のへやの戸を調べて見た。一見して解った。の下のはめ板が一枚巧みにはずされている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
与兵衛はかえってお玉の縋るのを突き放すように先へ出て、をハタと締め切って、自分だけさっさと出て行ってしまいます。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
門番の教へてれたまゝ第二階へ昇つてぐ左の突当りののある鈴を押すと、髪を綺麗にすき分けた白い夏服の下部ギヤルソンが出て来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とにかく犯行の動機は明瞭です。問題は、三人の気狂いの共犯か、それとも三人の内の誰かがやって、あとはが開いてるを
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
御廟子みずしの裏へ通う板廊下の正面の、すだれすかしの観音びらきのが半ば開きつつ薄明うすあかるい。……それをななめにさしのぞいた、半身の気高い婦人がある。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軽い小刻こきざみくつの音がすると、喬生は急いでって往ってを開けた。少女の持った真紅の鮮かな牡丹燈がず眼にいた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はね起きて、どこかに出口はないかと、手探りではい廻ると、幸い扉口とぐちのようなものを探し当てた。そこで静かにを明けて、暗い廊下へ出た。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
○二月、歌舞伎座にて「せき」を上演。団十郎の関兵衛、菊五郎の墨染は、双絶と称せらる。菊之助の小町姫も好評。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
詰らなさうに多喜子は言つたが、『私、かう何だか怖くつて泣いたやうなことを覚えてゐるんだけども……。ぱたん、ぱたんとが動いたやうな?』
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
と……玄心斎が、蔵のまえにつづくあんどん部屋の前を通りかかると、室内なかから、男とおんなの低い話し声がする。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
翻りてくれないのリボンかけたる垂髪さげがみの——十五ばかりの少女おとめ入り来たり、中将が大の手にさき読本をささげ読めるさまのおかしきを、ほほと笑いつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かあさん、」とマリちゃんがった。「にいさんはまえすわって、真白まっしろなおかおをして、林檎りんごっているのよ。 ...
しかし、を叩いても返事がなく、やがて階下の炊事場にいるのを発見した。が、お勢は、左枝の視線を見返して
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
冷い壁にかかる銅版画のソクラテスの額の下へも行き、置戸棚おきとだなに張りつけてある大きな姿見の前へも行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「一のに到りし時焔はわななきぬ、二の扉に到りし時焔さゝやきぬ、三の扉に到りし時、灯火ともしびは消えはてぬ」
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
わたくしは大方馴染の客であろうと思い、出ようか出まいかと、様子をうかがっていると、外の男は窓口から手を差入れ、猿をはずしてをあけてなかへ入った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かほにひやひやと物のこぼるるを、雨や漏りぬるかと見れば、屋根は風にまくられてあれば、一一三有明月のしらみて残りたるも見ゆ。家はもあるやなし。
更に双者交随の所見を呈し度くば、芝居の「せき、下」に人を誘おう。大伴黒主と桜の精の立合いは、闘争であって舞踊であり、舞踊であって闘争である。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて手探りでかんぬきをおろすと、少し安心して、衣嚢かくしから小さな懐中電燈を出して四辺あたりを照らしたが、闇を貫くその燈影ほかげは、胸の動悸に震えてちらちらした。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ぴたりと閉めきってあるので、そのまま行き過ぎようとしたが、念のためだと二三歩後戻りをして、前後を見廻しながら、そっとそのに手を懸けようとした。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そのは今少時しばしがほど明けて置かれよ。やよ。少時が程ぢや。(怒りて。)はれ。内に人が入りておぢやるといふにな。(門全く閉さる。内より女の声聞こゆ。)
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
重そうなを持った戸棚にしまって、錠を下ろし、灯を消して、さてやっと、起ち上るのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はのしまつた小屋の前に暫くぼんやりと立つてゐたが、仕方なくまたぶらぶらと歩き始めた。
青い焔 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
浄瑠璃じょうるりせき』はこの人の作だそうである。寛政六年八月に、五十七歳で歿した。五郎作が二十六歳の時で、抽斎の生れる十一年前である。これが初代劇神仙である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
露路口に総後架そうこうかのような粗末な木戸があった。入口に三間間口まぐち位な猿小屋があった。大猿小猿が幾段かにつながれていて、おかみさんがせわしなくたべものの世話をしていた。
申すまでもないことでげすが墨染とはお芝居なんぞの中幕によくるあのせきでげすな、大伴おおとも黒主くろぬしが小町桜の精に苦しめらるゝ花やかな幕で、お芝居には至極結構なもので
やつ少許すこし入口のを開けては、種々いろんな道具の整然きちんと列べられたへやの中を覗いたものだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
が、さいわい、その時開会を知らせるベルが鳴って、会場との境のがようやく両方へ開かれた。そうして待ちくたびれた聴衆が、まるでうしおの引くように、ぞろぞろその扉口とぐちへ流れ始めた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たしかの締まつてゐなかつた一つの部屋にはひると、思ひがけなく、その大きな部屋の中はうす暗く、入り口のすぐ近くのテエブルの片隅で、鷲尾洋三が一人で何か書き物をしてゐた。
私はやっと振り払って、外に出てその物置へ行った時は、もうその姿は見えませんでした。しかしたしかにその者は来た形跡はあって、の上には例の舞踏人姿のがかかれてありました。
友人と一緒にねかえす人込みの銀座へ出て、風月で飯を食ったことや、元日に歌舞伎かぶきで「関の」を見て、二日の朝はやくにけたたましいベルに起こされ、妻がにわかにたおれたことを知り
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると此時たちまへやがスーと明いて、入って来たのは此家の老家扶かふで、恭しく伯爵の前に頭を下げ、「殿様に申上げます唯今ただいま之れなる品物が、倫敦ロンドン玉村たまむら侯爵家より到着致して御座います」
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
さわやかな春の朝日が森をはなれて黄金こがねの光の雨を緑の麦畑に、黄色な菜畑に、げんげさくくれないの田に降らす、あぜの草は夜露からめざめて軽やかに頭を上げる、すみれは薄紫うすむらさきを開き
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
門の外にはいかめしく武装した清盛きよもりの兵士らがわしの車をようして待っていた。彼らのある者はつるぎやりをこわれるほどたたいて早く早くとうながしていた。妻はまっさおな顔をしてふるえていた。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
見窄らしくあたつて、わが家の角を折れていつた。……二あし、三あし
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
窓を破りを押しのけて乱入すという勢いに、ロイド・ジョージはついに一語をも発するを得ず、演壇の後方なる一小室に難を避け警官の制帽制服を借りてにわかに変装し、わずかに会場を抜けいで
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
さはかたくうつろの闇のもとぢし歌の器は——
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)