)” の例文
私は到底心に安んじて、教鞭きょうべんる事は出来ない。フランス語ならば、私よりもフランス人の方が更にくフランス語を知っている。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今——とうって観音像を彫りにかかっているのを見ても、体がへとへとになりはしないかと思われるような情熱に燃えきっている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼がその刀をり直した時に、屏風のかげから幽霊のような女の顔があらわれた。お染はいつの間にか忍んで来ていたのであった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今は「四十年前少壮の時、功名いささひそかに期する有り。老来らず干戈かんかの事、ただる春風桃李のさかずき」と独語せしむるに到りぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
未練らしく此の間も来てひどい事を言って、私のたぶさって引摺り倒し、散々にちましたから、私も口惜くやしいから了簡しませんでしたが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は敷布シーツのふちをって引きあげると、死人の全身はあらわれた。死体はすべて赤裸で、蝋燭のひかりのもとに粘土色に黄いろく見えた。
例へば牡丹を見る者、牡丹数輪の花をり来ると、ただ一輪の牡丹を把り来るとを比較すれば、一輪牡丹の方花の大きなるやう感ずべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
久しく棄てて顧みなかったこの日記を開いて、筆をってこれに臨んだのは何の為めであるか。或る閲歴を書こうと思ったからではないか。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二葉亭もまた蘇峰が高調した平民主義に共鳴し、ひじって共に語る友と思込んで、辞を低うし礼を尽して蘇峰を往訪した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かちなるも車なるも燭をりたるに、窓のうちに坐したる人さへ火持たぬはあらねば、この美しき夜は地にも星ある如くなり。
男は先づ起ちて、女の手をれば、女はその手にすがりつつ、泣く泣く火鉢のそばに座を移しても、なほ離難はなれがたなに寄添ひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで顧は喬の手をって送って帰そうとした。喬は太い息をして、心にあることをいおうとしていると、顧がいった。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
また自分の自脈をつて、徒に自己を尊重してゐるといふことでもない。それは真面目な心持でいろ/\なものに打つかつて行くといふことである。
社会劇と印象派 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
聖書をつて、屑籠の中より古布と古紙とを分つが如く、或は彼を取り、或は此を取り、而して我が取る所の者は、宇宙の大真理にかなへりと妄信し
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
一等室のをんな給仕が三味線をつて引き、端唄はうた手踊てをどり、茶番、仮色こはいろ、剣舞、手品などの続出した中で、徳永の鼻糞まろめ、長谷川の歌沢うたざわ、三好のハモニカ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
敵手あいてそばにでもいるように、真黒になってまくしかける。高い男は先程より、手紙をッては読かけ読かけてはまた下へきなどして、さも迷惑なてい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大輪のハンドルをって捲きあげる具合になっていて、あたかも自転車の理に似て、機械は与えられたる動力の幾倍かの仕事能率を現すわけだったから
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
欣弥のまなこひそかに始終恩人の姿に注げり。渠ははたして三年みとせの昔天神橋上月明げつめいのもとに、ひじりて壮語し、気を吐くことにじのごとくなりし女丈夫なるか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は近よりて、やにはにわが手をぐとりぬ。われは恐れと羞恥ひとみしりとに、泣かむとせしも、辛うじて涙かくしぬ。
筬の音 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
従うはただ家臣だけである。重昌その日の出立いでたちは、紺縅鎧こんおどしのよろいに、金の采配を腰に帯び、白き絹に半月の指物さし、当麻とうまと名づける家重代の長槍をって居た。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
星は次第に増す。柔らかにゆらぐ海はあわそそがず。男は女の手をる。鳴りやまぬゆづるを握った心地ここちである。……
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生きようとは思わないのだから、こわいものはない。剣をれば死ぬ気だから、じぶんをまもろうとしない。攻め一方の、じつに火焔かえんのごとく激しい剣法であった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と叫ぶ男あって二間丸太に論もなく両臑もろずねもろぎ倒せば、倒れてますます怒る清吉、たちまち勃然むっくと起きんとする襟元えりもとって、やいおれだわ、血迷うなこの馬鹿め
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眠元朗は纜をといてから、舟を渚から少しずつすべり出させた。引き波の隙間をねらって、舟はふうわりと白い鴨のように水の上を辷った。眠元朗は水馴棹みなれざおった。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ふるびついたる戟共ほこどもおなじく年老としおいたる手々てんでり、汝等なんぢらこゝろびつきし意趣いしゅ中裁ちゅうさいちからつひやす。
暫くの内に汝が父の冤家がここへ来る、白衣を跣足はだしで頭に紫巾をいただき、手に一巻の文書をる者がそれだ。その人はれ時にこの庁に入って証問さるるはずだ。
富士司のやまいはと被仰おおせられし時、すでに快癒ののちなりしかば、すきと全治ぜんじ、ただいまでは人をもねませぬと申し上げし所、清八の利口をやにくませ給いけん、それは一段
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
のみる事があるとも、その趣味はいつしか消えて見えなくなり、それに代つて全身の心が現はれ
襄曰く吾上に母あり、志業未だ成らず、たとひ死せざるを得ざるも、猶医療を加ふべしと。彼は母の憂へんことを恐れて往復の書牘しよとく必らず自ら筆をること常の如くしたりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
僕の胸はワクワクして来た、なぜ叔父さんを起こさなかったかと悔やんだがもうおそい。十二の少年こどもつつって小馬ほどの鹿に差し向けたさまはどんなにおかしかっただろうか。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
誰でも筆をってそうして雑誌か何かに批評でもすれば、それが文学者だと思う人がある。それで文学というものはなまけ書生の一つの玩具おもちゃになっている。誰でも文学はできる。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
滑稽こっけいなことはみなが庭園へ出て逍遥しょうようした時佐助は春琴を梅花の間に導いてそろりそろり歩かせながら「ほれ、ここにも梅がござります」と一々老木の前に立ち止まり手をってみき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
手をり合って、泣かれたそうであるが、かほどまでに温情の親友を、生前に有した辻村は、幸福の男でなかったとは言われなかろう、幸福といえば、『スウィス日記』再刊に関して
ああ、加奈子の手をって泣きましょうか。そしたらあんた出ていらっしゃる? あんたどこの方、支那人? ユダヤ人? アングロサクソン? ラテン? 昔は日本人だったでしょう。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
〔譯〕學を爲すの緊要きんえうは心の一字に在り。心をつて以て心を治む、之を聖學と謂ふ。政を爲すの着眼ちやくがんは情の一字に在り。情にしたがうて以て情を治む、之を王道と謂ふ。王道と聖學と二に非ず。
ここに於てか、征馬鉄蹄せいばてつていに世界を蹂躪じうりんし、大名たいめい長く青史せいしを照せる一世の雄傑アレキサンドルも、つひに一語の発すべきなく、静かにひざまづいて彼のあかづける手をり、慇懃いんぎんに其無礼を謝したりと云ふ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
また本邦をりてこれを比するときはそのいづれに擬するを得るや。これ皆我儕のまさに号をふて論述せんと欲する所なり。古徳言ふあり、任重ふして道遠しと。また曰く、たおれて後むと。
儀規ぎきは左手に澡瓶そうへいることや頭上の諸面が菩薩面・瞋面しんめん大笑面たいしょうめん等であることなどを定めているが、しかしそれは幻像の重大な部分ではない。頭上の面はただ宝冠のごとく見えさえすればいい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
空手くうしゅにして鋤頭じょとうれ」とか、「隻手せきしゅの声を聞け」とか、「無絃の琴を弾ぜよ」などという。論理の判断では到底解決がつかぬ。なぜこういう不思議な問いを出すのか、出さねばならないのか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一月ひとつきも冠った冠物かぶりものが暑い夏の日にけ、リボンも砂埃に汚れていた。お島はその冠物の肩までかかった丸い脊をこごめて、夕暗のなかを、小野田についていてもらって、ハンドルをることを学んだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
冷酷な、利害のかなめをしっかりって放さないような声である。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
彼はポケットからピストルをり出した。
手をりて笑ふたのしさ
オリンピック東京大会讃歌 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
小草をぐさりしわが身さへ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
絵筆をれど色が出ぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
太刀をって立出る時は、われもなく敵もなく、天地をも破る見地になり得る我も、画に向ってはまだ、剣道の足もとにも及ばない
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
英山は文化初年鳥居清長歿し続いて喜多川歌麿世を去りしのち初めは豊国と並び後には北斎と頡頏きっこうして一時いちじ浮世絵界の牛耳ぎゅうじれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きっとそうよ。あの人は何かにり着かれているに相違ないわ。(太吉の手をる。)ァちゃん。お前、なにか見なかったかい。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
陪審長は胸のポケットから鉛筆と紙きれをり出して、念入りに次の評決文を書くと、他の人びともみな念を入れて署名した。