)” の例文
男は黒き夜を見上げながら、いられたる結婚のふちより、是非に女を救い出さんと思い定めた。かく思い定めて男は眼をずる。——
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『たわ言も、よい程にせいっ。その明後日までに金が調う位なら、こうして、髀肉の嘆をらしながら、じ籠って居りはしない』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「疲れはしないけれど、標本になってじこめられていたので、気がまったよ。なんか気持ちがからりとすることはないだろうかね」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大地震だいぢしんのときは大地だいちけてはつぼみ、ひらいてはぢるものだとは、むかしからかたつたへられてもつと恐怖きようふされてゐるひとつの假想現象かそうげんしようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おう、魂の深淵しんえんをうち開く音楽よ! 汝は精神の平素の均衡を滅ぼす。尋常の生活においては、尋常の魂はざされたる室である。
見物人は声を挙げて喝采した。光一は思わず目をじた。それはいやしくも潔白な人間が目に見るべからざる不純な醜悪な光景である。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
船頭せんどうくら小屋こやをがらつとけてまたがらつとぢた。おつぎはしばらつててそれからそく/\とふねつないだあたりへりた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と見てはっとしたお艶、みずからのすがたを恥ずるこころが先立って、気のつくさきにもう障子をざしていたのだったが、遅かった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小網こあみ町二丁目の袋物問屋丸屋六兵衛は、とうとう嫁のお絹を追い出した上、せがれの染五郎を土蔵の二階にめてしまいました。
どうにも仕方しかたがありませんでした。それでみな相談そうだんして、そのくせむまでしばらくのあいだ、王子を広いにわじこめることになりました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうしてそれから数週間というものは、私はお前たちに顔を合わせるのさえ避けるようにして、自分の部屋にこもっていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
といふ話をきいたことがあるが、今の自分はちようど高あつ電流の通ふはこの中にぢこめられた人間の樣なものであるとかんがへた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
両眼をじ、うっすらと、微笑を顔の全体にただよわせた金五郎は、やがて、三味の音に乗って、重厚な調子で語りはじめる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
やっと心配しながら自分の部屋へやに一人じこもることができた。これはわたしが白鳥号に乗り合わせて以来いらいはじめてのふゆかいなばんであった。
そうして私と壁一重ひとえを隔てた向うの部屋にめられたまま、ああして夜となく、昼となく、私を呼びかけているらしい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、彼女の仕事は立派に爲しげられたのであつた。彼女のいた音色は、ざされた記憶のドアを打ち落したのである。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
父親てゝおや先刻さきほどよりうでぐみしてぢてありけるが、あゝ御袋おふくろ無茶むちやことふてはならぬ、しさへはじめていてうしたものかと思案しあんにくれる
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おんなは、ほとけさまに、どうかあのへとどこおりなくいけるようにといのりました。そして、ついにじるときがきました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
我此等をピエルより預かれり、彼我に告げて、民わが足元にひれふさば、むしろ誤りて開くとも誤りてぢおく勿れといへり。 一二七—一二九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
うれしさうにえずたはむれたりえたりして、呼吸苦いきぐるしい所爲せゐか、ゼイ/\ひながら、其口そのくちからはしたれ、またそのおほきななかぢてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そのために幾度いくたびまぶたぢ/\した。なみだおもむろにあふれでゝもう直視ちよくししようとはしない眼瞼まぶたひかり宿やどしてまつてゐた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
十ほどあるその窓のあるものは明るくあるものは暗くざされている。漏斗型じょうごがたに電燈のおおいが部屋のなかの明暗を区切っているような窓もあった。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
きたまくらに、しずかにじている菊之丞きくのじょうの、おんなにもみまほしいまでにうつくしくんだかおは、磁器じきはだのようにつめたかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しゃがんで、両手を組んで目をじた。道ばたでいねむりでもしているようなかっこうだ。モンクスは気味が悪い。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「しかし、その時ジョン・リードが私をなぐり倒したの。そして、伯母さまは、私を赤い部屋へぢこめたのよ。」
枝折戸しをりどぢて、えんきよほどに、十時も過ぎて、往来わうらいまつたく絶へ、月は頭上にきたりぬ。一てい月影つきかげゆめよりもなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
何気なにげなくじたる目を見開けば、こはそも如何いかに警部巡査ら十数名手に手に警察の提燈ちょうちん振り照らしつつ、われらが城壁とたのめる室内に闖入ちんにゅうしたるなりけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
むかし、戦争せんそうのあった時代には、人びとはこういう大きな頑丈がんじょうなおしろに、喜んでじこもっていたものでした。
トラはあわてず、眼をじ、頭をかしげて、悠々ゆうゆうと味わい/\食って居る。小さなひょうか虎かを見て居る様で、すごい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わずかに百日もたぬ間にこれほどに処女しょじょと商売人とは変わるものかと、いた口がしばらくじなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その日も昨日きのふと同じに雪が降りつづき、銀世界と化した街に、この家ばかりはじめ/\と後暗うしろぐらい雰囲気にぢ込められ、底知れぬ恐れと不安に充たされてゐた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
彼は一室にこもり、静思してくらわず、もって骨立こつりつするに至った。数日の後、ようやく思い得たと信じて、再び瑟を執った。そうして、極めておそる恐る弾じた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さては薄荷はっか菊の花まで今真盛まっさかりなるに、みつを吸わんと飛びきたはちの羽音どこやらに聞ゆるごとく、耳さえいらぬ事に迷ってはおろかなりとまぶたかたじ、掻巻かいまきこうべおおうに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たれこゑながさだけ、ぢて呼吸いきめたが、呼吸いきこゑ一度いちどむまではつゞかなかつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かく日頃ひごろただ一人ひとりやまなかじこもり、めったに外界がいかいせっする機会おりのないわたくしにとりて、うした少女しょうじょとの不意ふい会合かいごうにもものめずらしいかぎりでございました。
まちは、なみだうかんでると、そつとひとみぢた。そして、いつまでもじつとしてゐた。はじめは、兄妹きやうだいたちのこゑとなりしつからきこえてた。そして彼女かれかなしかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
容易ようい胸隔きようかくひらかぬ日本人にほんじん容易ようい胸隔きようかくつる日本人にほんじんそろ失望しつぼうさうならざるなしと、かつ内村うちむら先生申されそろしか小生せうせい日本人にほんじんそろこばまざるがゆゑ此言このげんそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
何故、其口唇くちびるは言ひたいことも言はないで、堅くふさがつて、恐怖おそれ苦痛くるしみとで慄へて居るのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『それでは如何どんことせばろしう御座ございましよう。』とひました。老人らうじんぢたまゝ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そのとびら自然しぜんぢ、ていふたゝ海面かいめんうかばんとするや、そのとびら忽然こつぜんとしておのづかひらくやうになつてる。
それを見つめていると、わたしは自分のうちに今までじられていた門がひらくのを感じました。
かすめたり、こそッと人のとここもったりするようなんは、健全な交際とは認められん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時計とけいる。アンドレイ、エヒミチは椅子いす倚掛よりかゝりげて、ぢてかんがへる。さうしていまんだ書物しよもつうち面白おもしろ影響えいきやうで、自分じぶん過去くわこと、現在げんざいとにおもひおよぼすのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
されどもとほ東方ひんがしの、曙姫あけぼのひめ寢所ねどころから、あの活々いき/\した太陽たいやう小昏をぐらとばりけかくれば、おもこゝろせがれめはそのあかるさから迯戻にげもどり、まどぢ、きらうて、れからよるをばつくりをる。
ざされてしまわないようちからかぎあしみずをばちゃばちゃいていなければなりませんでした。
又餅をあぶりてくらふ、もちほとんど尽きて毎人唯二小片あるのみ、到底とうていうゑするにらざるを以て、衆談話の勇気いうきもなく、天をあほいただちにづ、其状恰も愁然しうぜん天にうつとふるにたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
顏へ水を吹きかけたり、氣附藥を口に含ましたりして、やつと囘復はしたが、それからは餘り物も言はぬやうになつて、皆なが出かけて行く時にも、獨りで宿屋にこもつてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この花冠かかんは非常に日光に敏感びんかんであるから、日が当たると開き、日がかげるとじる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
どこのうちでも、主人が家庭にばかりんでゐると、女房かないの多くはすべてそれを物足りなく思つて、どうかして亭主を籾殻もみがらか何ぞのやうに門口かどぐちから外に掃き出す工夫はないものかと
研究室にじこもっている遠藤博士が、ちょっと茶の間へ行って、お茶をのんで、ひと休みしてから、また研究室へもどるために、廊下を歩いていますと、助手の木村青年と行きあいました。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)