)” の例文
「あなたが死病の根を植えつけたのを、私がやっとったじゃありませんか、やかないあの人は、あなたをどうしようというのです」
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平次はそんな事は氣にも留めない樣子で、膝行ゐざり寄ると死體に掛けたさらし木綿をり、丁寧に拜んで、暫らくその顏を見詰めて居ります。
それは貴君あなたが下宿屋でなさる事も出来ます。先ず林檎の皮をいて小さく切ってしんって鍋へ入れますが水は少しもりません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
婦人おんなだちも納得した。たちまち雲霧が晴れたように、心持もさっぱりしたろう、急に眠気ねむけれたような気がした、勇気は一倍。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉛丸なまりだまり方が素人療治であったせいか、左の脚の甲からくるぶしがひどく腫れあがり、今以て十歩とあるくこともできないのだった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわただしさ、草から見れば涙である。然し油断してうっかり種をこぼされたら、事である。一度落した草の種は中々急にり切れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
奥田の裏書と云つても、もし俺が親身になつて、どうか頼むとさへ云へば、反感もれるであらうし、承諾を得ることも必ず出来得るんだ。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
と云ううちに覆面をると、最前の小女の青褪めた顔を現わしながら銀次の胸にバッタリとすがり付いた。シャクリ上げシャクリ上げ云った。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それが、そうは行きません。僕には……」肩のこりのれるような、遠慮のない会話になり、新子は準之助氏に会ってよかったと思った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ほんとに鰯のうろこつてなかつたが、不断女房かないとげのある言葉を食べつけてゐる者にとつては、魚のうろこなどは何でもなかつた。
シェードをった客席では、一人の中年紳士が黒革の鞄を膝の上に乗せて、激しくゆられながらもとろとろとまどろみ続ける。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
女中のふさは手早く燗瓶かんびん銅壺どうこに入れ、食卓の布をつた。そしてさらに卓上の食品くひもの彼所かしこ此処こゝと置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
瞼を押へたガーゼをつて私を見た。まだ幾分かは見えるのであらう。私はそこで初めて彼女のただれた眼を見たのである。
外に出た友 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
「どうも少し込み入つた症候ですから、」と、院長は何かを警戒させるやうにかう言ひつゝ、右の方のガーゼをつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
正札だけは人がみてもをかしいからつてしまひませうと、女が六十銭とかいた四角な正札に指さきをつけるのだ。
笛と太鼓 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
なぜならこれからちょうど小さながでるころなのに西風はまだまだくからみきがてこになってそれを切るのだ。けれども菊池きくち先生はみんならせた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
船が揺れるたびに、ローソクの灯が消えそうに細くなり、又それが明るくなったりした。死体の顔の上にかけてある白木綿がれそうに動いた。ずった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
半日ほど水に浸してから引き上げて、きれいに水の切れたところで、その黒い外皮をるのが「粗皮とり」だった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
それらが縁側から見える中座敷でお蘭は帷子かたびらの仕つけ糸をっていた。表の町通りにわあわあいう声がして、それが店の先でまとまると、四郎が入って来た。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あふるるばかりの同情どうじょうもって、なにくれとはなしかけてくださいますので、いつのにやらわたくしほうでもこころ遠慮えんりょられ、丁度ちょうど現世げんせしたしいかたひざまじえて
「少し、早いようだ。やっぱり熱がれない」と額に少ししわが寄った。先生が熱度を計って、じれったそうに不愉快な顔をするたびに小夜子は悲しくなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで何か大きな手が海を撫でて、船をも人をも、拭いったかのように、ワラタ号は未だに消えたまんまだ、測り知れない海の恐怖と、神秘を残して——。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
所謂コバのれないといふことは、人間として自由に飛び自由にけることの出来ないことを意味してゐる。
墓の上に墓 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
眼にはおおいられたすべての醜い事象がよこたはつてゐます。それを踏み越えなければならないと解つてはゐますけれどもどう行つていいのか解りませんでした。
S先生に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
コンクリートをりたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
滝人の頭は、しだいに焦躁いらだたしさで、こんがらがってきた。もしこの機会を逃したなら、あるいは明日にも、十四郎は片眼の繃帯をらぬとも限らないのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
つツと立寄ツて白い布をる……天井の天窓あかりまどから直射する日光は、あきらかに少女の屍體を照らす……ただ見る眞ツ白な肌だ! ふツくりとした乳、むツつりした肩やもゝ
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
つぶやきながら、宗七が手をかけて笠をると、下には、小石を重しに載せて一枚の紙が置いてある。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「田舎ッぺ、宝ッぺ、明神さまの宝ッぺ。」と、よく近所の子供連にはやされていたお庄の田舎訛いなかなまりが大分れかかるころになっても、父親の職業はまだ決まらなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もはやわたしの草取りをしているのは豆ではなく、豆の草をっているのはわたしではなかった。
僕はそのそばに行って、いろいろいじって見たが、余り元始的で、故郷の土産にするようなものは極めてすくなかった。小さい木製の牛をいじっていると、耳が突然れたりした。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何うしてもってやらねえばなりませんが、此間こねえだもうけもんでござえまして、蝦夷虫えどむし一疋いっぴき取れば銭い六百ずつくれると云うから、大概の前栽物せんざいもの脊負しょい出すより其の方が楽だから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この熱もぢきれまするさうでございますから、又改めておいでを願ひたう存じます。今日こんにちは私御名刺をいただいて置きまして、お軽快こころよくなり次第私からくはしくお話を致しますでございます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
といふても、実際眼前に草の跋扈ばつこを見れば、らずには居られぬ。隣の畑が奇麗なのを見れば、此方の畑を草にして草の種を隣に飛ばしても済まぬ。近所の迷惑も思はねばならぬ。
草とり (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
悩ましい肢体したいを惜しげもなくさらして、海水帽をってキラキラと黄金こがね色の髪を振り乱しながら……その二人に囲まれて、ただ私は黙々として上気し切っていたというよりほか
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
それで此方のオブジェクションが除かれた訳でも何んでもなかつたが、当時の私には美事にり去られたもののやうな気がしたと見えて、それぢやといふので、いよいよ会ひに行く事にする。
吉右衛門の第一印象 (新字旧仮名) / 小宮豊隆(著)
種々な医者に見せ、種々な薬を服ませたが、どうしても熱はれなかった。時とすると、お房の身体は燃えるように熱かった。で、私も決心して、復た皆川医学士の手をわずらわしたいと思った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「注射であれがき取ったように綺麗きれいれる云うことはないやろ思うわ」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まだよく乾いてはいなかったカンヴァスは、その間に、一めんに草の葉をこびつかせてしまっていた。それを再び画架に立て直し、パレット・ナイフでそんな草の葉をりにくそうにしながら
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
またたく間に流行してきた流行感冒に襲われて一時は三十九度から四十度近い発熱で心配するほどであったが、熱は間もなく下り、風邪も一週間くらいでなおるにはなおったが、すっかり熱がれて
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
赤島で三晩ほど休んでゐる間に幾らか身體の疲勞もれて來た。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ルピック氏——明日ればいい。また来よう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
続いて覆面をったのは、この薬園の預り主、峠宗寿軒です。半白はんぱくの中老人で、立居振舞に何となく物々しいところがあります。
許宣はしかたなしにくつを脱ぎくつしたってそれをいっしょに縛って腰にけ、赤脚はだしになって四聖観の簷下を離れて湖縁へと走った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お魚のスープを拵えるに少しでも身を入れると味が悪くなります。骨ばかりにして綺麗きれいに身をらなければ美味しいスープが出来ません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
埒明らちあかんで、久しい風邪でな、稼業は出来ず、段々弱るばっかりじゃ。芭蕉の葉を煎じて飲むと、熱がれると云うので、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度筋肉と骨の間に、煮滾つた熱湯を流し込まれるやうな感じで、ひどい時には痛む腕を根本ねもとからつてしまつたらどんなによからうと思ふ。
烙印をおされて (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
この大雪を幸いに、部下に命じて、林冲の寝込みを計り、小屋の腐れ柱を一気にらせたというんだから堪りませんや。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらが縁側えんがわから見える中座敷ざしきでお蘭は帷子かたびらの仕つけ糸をっていた。表の町通りにわあわあいう声がして、それが店の先でまとまると、四郎が入って来た。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二人とも、やや核心にふれた物云いをしたので、思いがけなく、心のかどれ、新子は急に話しやすくなった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)