熊野奈智山くまのなちさん
眼の覺めたままぼんやりと船室の天井を眺めてゐると、船は大分搖れてゐる。徐ろに傾いては、また徐ろに立ち直る。耳を澄ましても濤も風も聞えない。すぐ隣に寢てゐる母子づれの女客が、疲れはてた聲でまた折々吐いてゐるだけだ。半身を起して見𢌞すと、室内の …