)” の例文
そして、終戦後、めっきり増えて来た、ちんぴらの不良少女や、若い露天商の女の粗末そまつな刺青なぞはほとんど眼にもめて来なかった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
背筋の虫に螫されたあと、その痒さをめる役目なので、蚊帳の中に入っても直ぐと後へ廻った為、顔を見られずに済んだのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
温泉をんせんかうとして、菊屋きくや廣袖どてら着換きかへるにけても、途中とちう胴震どうぶるひのまらなかつたまで、かれすくなからずおびやかされたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みつつにつてたおしな卯平うへいしたうて確乎しつかうちめたのはそれからもないことである。へびはなし何時いつにか消滅せうめつした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その時の私は父の前に存外ぞんがいおとなしかった。私はなるべく父の機嫌に逆らわずに、田舎いなかを出ようとした。父はまた私をめた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われ生来多病なりしかどその頃は腹痛む事稀なりしかば八重がしきりにかの草の効験ききめあること語出かたりいでても更に心にむる事もなくて打過うちすぎぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うっかりどこにでも出そうものなら、たちまち敵国の空中スパイに発見されて、こっちの新しい地下都市の所在しょざいめられてしまう。
その次がめの肉といって一番しまいにロース物が出るかあるいはサラダが出る場合ですからロースポーク即ち豚のロースに致しましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「その御難場へ飛び出して、め役を買って出たのは、沢屋の一人娘、日本橋小町と言われた、お琴だとしたらどんなもので」
十一娘は泣いてめて、離屋はなれにおらした。そこで葬式の飾りにした道具を売って、それを生活費にあてたので、どうにか不自由がなかった。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼は某日あるひ袞繍橋こんしゅうきょうに住んでいる朋友ともだちのことを思い出して訪ねて往った。朋友は久しぶりに訪ねて来た喬生をめて酒を出した。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何故なぜと云うに他人の夢中になって汚ない事を話して居るのをく注意してきいて心にめて置くから、何でも分らぬことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ごろごろいったのは馬車で、それが門口にまっている。馬車ははっきり見える。そしてその中から人が出て来る。それはマリイであった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
不断着だけれど、荒い縞の着物に飛白かすりの羽織を着て、華美はでな帯を締めて、障子につかまってはすに立った姿も何となく目にまる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
我は是を観察するを楽しむ、誰れか知らむ、徳川氏時代に流れたる地下の大江は、明治の政治的革新にてしがらみむべきものにあらざるを。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
警部けいぶさんは、こりゃありっぱなうちの子をぬすんでてたものだと言って、その着物の細かいこと、子どもの様子などをいちいち書きめて
今晩一泊なすって緩々ゆる/\お話もしたいとめても聞入れず、振り切って横浜へいらしったが、それっ切りだおたくへ帰らんかえ
その訳と云うのは、飛山君のお父さんは東京のどこかで贋紙幣にせさつを使おうとして捕まったんだそうだ。そして今は警察にめられているんだって。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
私はたびたび聞いて感じまして、今でも心にめておりますが、私がたいへん世話になりましたアーマスト大学の教頭シーリー先生がいった言葉に
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
どんなにか惜く思いまして、あなたのお手にすがっておめ申したいように存じましたが、致し方がございませんでした。
れがためいろならずきみにおくれてかゞみかげあはおもてつれなしとて伽羅きやらあぶらかをりもめずみだ次第しだいはな姿すがたやつれる
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ところがその姉は大變醜かつたので恐れて返し送つて、妹の木の花の咲くや姫だけをめて一夜おやすみになりました。
前の時に私がしたことを思ふとめることは出来ないのでした。かうして二人の会合は二度とも失敗に終つたのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのうち次第に意志が一方に傾いて来て、とう/\出掛けるのをして、悪魔のするが儘になつてまる事にした。
いうかと思うと小学生は柵を乗り越えてお梅さんのそばへ走り寄った。兄がめようとしたけれど間に合わなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
現象げんしようきはめてまれであるので、正體しようたいがよくめられてゐないが、電氣作用でんきさようもとづくものだらうといはれてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
今ある日本語の何という言葉に、対応させてよいかはまだ突きめられぬが、皇室を中心にして考えると、稜威みいつという古語が大分近いように感じられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
目は手釦てボタンの上にとまつた。めの方がとれかかつて釦がぶらりと下つて居た。あわててそれをめ直しながら
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
墺匈国おうきょうこくで領事の置いてある所では、必ず面会しなくてはならない。見聞した事は詳細に書きめて、領事の証明書を添えて、親戚しんせきに報告しなくてはならない。
古本屋の前に来ると、僕は足をめてのぞく。古賀は一しょに覗く。その頃は、日本人の詩集なんぞは一冊五銭位で買われたものだ。柳原の取附とっつきに広場がある。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その年霰が降らなかったかあるいは降りかかってもうまくめたというような時分には充分の収入がございますので、それは毎年きまった税品を取るんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あゝ其事そのこと! 貴方あなたはよくおぼえていらつしやいましたねえ。亞尼アンニー眞個ほんとうめうことをと、その時分じぶんすこしもこゝろめませんでしたが、のちにそれとおもあたりましたよ。
須利耶すりやさまは童子どうじをふりかえりました。そしたら童子はなんだかわらったまま、たおれかかっていられました。須利耶さまはおどろいていそいでめられました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
薄い皮でしかも強靱であるという性質は早くから、曲物まげものめに利用せられた。曲物のある所に桜皮のない場合はない。それはいつも板を縫う糸の役割を務めた。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
富五郎はその晩から恐ろしく吃逆しゃっくりが出て、どうしてもまらない。身体からだも変な工合ぐあいになって行きました。
曾て心にだにめざりし人と、ゆくりなく浮名立てらるゝときは、その人はそもいかなる人にかと疑ふより、これに心付くるやうになり、心付けて見るに隨ひて
それともいまこれを此處におけ貴君あなたの三年の壽命いのちちゞめるがよいか、それでも今ぐにほしう御座るかな。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
放課後のめおきという奴は気にかかるものだ。それもまだ罪がきまっていないだけに不安が増す。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
めるのもきかずにまつろうのようになってってしまったあと画室がしつには、春信はるのぶがただ一人ひとりおこののいてったおびまえにして、茫然ぼうぜん煙管きせるをくわえていたが
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは原氏が旅へ出ると、いつも無益やくざな買物ばかりするので、成るべくそばにゐてだてして欲しいといふ事なのだ。高橋氏は頭のなかに、原夫人の険しい顔を思ひ浮べた。
そしてその場でその少女はお后にまりましたが、又濃紅姫の閑雅しとやかな美しさも藍丸王の御眼にまって、王様のお付のうちで一番位の高い宮女として宮中に置く事にまり
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
惟ふに外國から渡つたサントメ乃ち奧縞に擬して和製のサントメ乃ち京奧縞を作り出した時、サントメのめに對してれなる動詞を用ひ、サンヤレ織と稱へたで無らうか。
女順禮:並にサンヤレの事 (旧字旧仮名) / 南方熊楠(著)
引きめてくれい。何故なぜお前は母上の帰ってくのを見ていながら引留めてはくれなんだか。
もうきしから二けんほどもかゝつた渡船とせんをば、『こらて、て。』と、めながら、けてたのは、昨日きのふ多田院ただのゐん天滿與力てんまよりきの、かたちだけは偉丈夫然ゐじやうふぜんとした何某なにがしであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
港外で一寸ちよつと停船すると蒸汽で遣つて来た英人の水先案内があがつて来て、軽い挨拶を交換するや否や船長に代つて号令し初めた。航海日誌を書く船員が端からその号令を書きめる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それまで私は函館に足をめてゐたのだが、人も知つてゐるその年八月二十五日の晩の大火に会つて、幸ひ類焼は免れたが、出てゐた新聞社が丸焼になつて、急には立ちさうにもない。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
まあまあ、というようなことで、め男に割り込んで来たのが強そうな紳士だから、車掌は急に降参して、その場はそれですんでしまう。メリコフの扱いで、やっと車室の都合つごうがつく。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
押し登って行くと、鼻っ先の風露草とすれすれに、乗鞍岳はもう雲の火焔に包まれている、眼前の岩壁には、白樺の細木が行列して、むくむく進行する草原の青波を、めながら
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
このおうたしづかな時雨しぐれおとを、さうしたあひだみゝめてゐたといふところに、かはつた興味きようみおこされたので、かういふかたうたは、これ以前いぜんにもこれ以後いごにも、まづ類例るいれいのないあたらしい
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ところが意外にも主人は己をめて一晩泊らせようと云つた。己はとう/\主人の意に任せることにして、それから二人で庭を歩いた。主人は己にまだ見なかつた所々を案内して見せた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)