)” の例文
「昼が夜になったり、春が夏になったり、若いものが年寄りになったり、するのと同じ事かな。それなら、おれもくに心得ている」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしながらおそらく、アメリカ発見の結果生じた所の、金属の価値に対するあらゆる影響は、うに終ってしまっているであろう。
お父様が古かね屋にでもっておしまいなさるお積で、うから蔵にしまってあったのを、引き出してお置になったのかも知れない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
跡から填合うめあはせをいたせば宜しいのです。わたくしはうからあなたの所へ参詣しようと思つてゐました。それからお手紙も上げました。
既に畑に到れば斥候ら高地に上って四望し、その他はすこぶるく糧を集め、頬嚢きょうのうに溢るるばかり詰め込んだ後多くの穂を脇にはさむ。
……後で、三郎兵衛ひとりが見えぬとさわぎ立てれば、はや、ここのお座所さえ、安全ではございません。く、お立ち退きの御用意を
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより奥向きへは出入りを許されていなかったので、まだ桔梗の方の顔を見たこともなく、美人の噂はくより耳にしているものゝ
お前の妻ノブ子の行為はくに察知していたところであるが、余等よらは逆に彼女の手を利用し、虚偽の暗号電報を彼女に盗読せしめて
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
伝うるところによると、机竜之助なるものは、もはやうの昔に死んでいるそうだ。その生命は亡き者の数に入っているのだそうだ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝日は既に東の山を離れ、胡粉こふんの色に木立を掃いたもやも、次第に淡く、小川の上をかすめたものなどは、もうくに消えかけていた。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と細君は十数年の同棲でもううに対等の権利を獲得しているから、思ったことは何でも口に出す。時には意見めいたことまでも言う。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
文字の発明はくに人間世界から伝わって、彼らの世界にも知られておったが、総じて彼らの間には文字を軽蔑けいべつする習慣があった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かく萬有の次第を立つる神の攝理は、いとくめぐる天をつゝむ一の天をば、常にその光によりてしづかならしむ 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その友の一人なる壮年なりき、突然とし彼はえり、「佐太郎和主も来たり見よげに希代のものを捜し出せり、く疾く疾く来よ」
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
領主 (柩のふたをはずし、死せる公子の姿を現わす、屍は白き花を以て飾られたり)この屍に罪を謝し、く月桂冠を取りはずせ!
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そウら見さっしゃい、印象派の表現派のとゴテ付いてるが、ゴークやセザンヌはっくに俺がやってる哩」とでも脂下やにさがってるだろう。
もううに故人になられましたが、この山林会あるいは農会等に非常に関係の深かった田中芳男先生には私も大変お世話になりました。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
もうっくにその素晴らしい馬車は通り過ぎて影も形も見えなくなってしまったのに、何時までもぼんやりと突っ立っているのである。
僕はうから御両君の家へ上らねばならんのだが、何を隠そう大失敗をやらかして一時はほとんど死ぬかと思った。実はこういうわけさ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
札はどちらもつくに売り切れた。これまで度度難儀に逢つて来た市立劇場の座主は、妬ましげに此人気を見てゐる。いやはや。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
実際妻が身体からだを壊す迄働いて月々わづかる参拾伍六円の収入が無かつたなら眞田の親子六人はくに養育院へでも送られて居たであらう。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
結婚の相手の令嬢も、っくに内定してある。令嬢フィニイはキルヒネツグ領のキルヒネツゲル伯爵夫人になるのが本望である。
自分が今催促されて参入する気忙きぜわしさに、思慮分別のいとまも無く、よしよし、さらば此の石帯を貸さんほどにく疾く主人あるじかたにもて行け
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
櫻の花はうに散つてしまつた。桃の花も散つた。山吹も散つた。藤の花も色が褪せてしまつた。最う牡丹を見に行く人もない。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
夕方学校から帰ると、伯父さんの先生はもううに役所から退けていて、私の帰りを待兼たように、後から後からと用を吩咐いいつける。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
姫はかく我友をいたはりつゝ、血の色全くせたる面を擧げて、我を凝視せり。媼は我臂を搖り動かして、く此場をと呼べり。
お雪は薄暗いともしびの影に、濡れしおれた髪を振って、蒼白あおじろい顔を上げた。理学士の耳にも正に滝太郎の声である、と思うもしや!
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
す事もあらねば、貫一は臥内ふしどに入りけるが、わづかまどろむと為ればぢきに、めて、そのままにねむりうするとともに、様々の事思ひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それからだんだん聞きあわせると、当時の被害者はうに世を去ってしまって、その遺族のゆくえも判らないので、彼はいよいよ失望した。
春の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それにこの森はすっかりおれの森なんだからさっきのように勝手にわらびなんぞ取ることはうに差し止めてあるんだぞ。」
安養寺、言葉なく、「日頃のお馴染にく疾く首をはねられ候え」と云ったが、「汝は仔細ある者なれば先ず若者共のとりたる首を見せよ」
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
世界中どこへ行っても、いかなる形でか亜米利加アメリカがついてまわるのはうに覚悟のまえだが、この美国汽車福特フォウド号にはちとおどろかされる。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
して藻西は今何をして居る番「私しは役目通り今まで彼れをのぞいて居ましたが、彼れくに後悔を初めたと見え泣て居ますよ、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
打明うちあけてもうしますとな、エウゲニイ、フェオドロイチもうわたくしうからこんなことになりはせんかとおもっていましたのさ。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「その死刑囚も、もううの昔、発狂し、自殺を遂げてしまいました」と云って、尾越は少時瞑目した。やがて言葉をつぎ
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
こう考えたからと言って自慢になるものではないが、しかしたなら彼はうにあの郵便局へ闖入ちんにゅうしていたのかも知れない。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
平「ヘエ……おい、お前わしが迷惑するよ、冗談じゃアない、困るよ、うに金は届いてるとこへ又百両持って来るてえのはおかしいじゃアないか」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういう理由は大抵向うが有力だと感じてくれるからね。一体もううから僕は不確ふたしかな診断に悩まされて、我慢がし切れなくなっていたからね。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
しかもその多くのものはくの昔に家号を忘却し、または最初から家号がなくして、十数代も何村何兵衛で通っておった。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どうだ、君には抜けなかろう。その抜ける者はくに刀を売て仕舞しまったのに、抜けない者が飾て置くとは間違いではないか。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
子供を迎いに来たのだと言うと、「馬鹿! 今時分まで何して居るもんか、うに帰って了った。富来にも誰も村の者は居らんさかい帰れ帰れ。」
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
チチアネルロ うに、夜明前に——その時君等はまだていたが——そっと門の外へ出て往った。青いひたいへ愛の接吻、その脣へ悋気りんきの言葉……。
コスモはうに決心して、その決心を実行するはずであったが、彼はただ熱情にとらえられて頭を悩み苦しめていたのである。彼は理論的に考えた。
解剖室に入るべき時間はうに來たのであるが、風早學士は何か調べることがあツて、少時しばらく職員室にまご/\してゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
くに目的を達して今頃は江戸に帰り、喜ぶ恩師の顔を見て、一家相伝の極意秘伝を停滞とどこおりなく受けていなければ成らぬのが、意外な支障さわり引掛ひきかかって
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
おツかアはくに大坂へ行ツちまつたとさ、何でも大坂から養生に来てた、金持の旦那に連れられて、行つたんだと。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そうでないにしても、夫がそんな事をしているのは、うから知っていて、別になんとも思わなかったかも知れない。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
うから己の胸にはそれが分かつてゐた。己はロシアへ帰りたくて、始終樺太からシベリアを眺めてばかりゐるのだ。
……江戸と長崎で二人があやめられた以上、どッち道、利七も助かる筈はないと、ッくに覚悟を決めておりました。……これが利七でございますか。
かず椽先の飛石に投げうつて昔に返る微塵みじん、宿業全く終りて永く三界さんがい輪廻りんねを免れんには。汝もし霊あらば庭下駄の片足を穿うがちてく西に帰れ。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)