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貧家
渠等米錢を
惠まるゝ
時は、「お
月樣幾つ」と
一齊に
叫び
連れ、
後をも
見ずして
走り
去るなり。ただ
貧家を
訪ふことなし。
酌で差出す
盆も
手薄な
貧家の
容體其の内に九助は
草鞋の
紐を
解足を洗ひて上に
上り先お里へも
夫々の
挨拶して
久々の
積る話しをなす中に
頓てお里が
給仕にて
麥飯を
更に自分にも一服との
所望ありしかば、
妾は
覚束なき
平手まえを立ておわりぬ。
貧家にこそ生い立ちたれ、母上の慈悲にて、
聊かながらかかる
業をも習い覚えしなりき。