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唯
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と
ふりがな文庫
“
唯
(
と
)” の例文
唯
(
と
)
見る時、
頬
(
ほお
)
を
蔽
(
おお
)
へる髪のさきに、ゆら/\と
波立
(
なみだ
)
つたが、そよりともせぬ、
裸蝋燭
(
はだかろうそく
)
の
蒼
(
あお
)
い光を放つのを、
左手
(
ゆんで
)
に取つてする/\と。
処方秘箋
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
と、遙か向う岸に連る二階家の
唯
(
と
)
ある欄干に、一面の日光を受けて、
燃
(
もえ
)
るやうな赤いものが干してある。女の襦袢か。夜具の裏地か。
歓楽
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
、
永井壮吉
(著)
某日
(
あるひ
)
それは晴れた秋の午後であった。雑木の紅葉した山裾を廻って
唯
(
と
)
ある谷へ往った。薩摩藷などを植えた切畑が谷の入口に見えていた。
忘恩
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
旅亭
(
やどや
)
の
禿頭
(
はげあたま
)
に
教
(
をし
)
へられた
樣
(
やう
)
に、
人馬
(
じんば
)
の
徃來
(
ゆきゝ
)
繁
(
しげ
)
き
街道
(
かいだう
)
を
西
(
にし
)
へ/\と
凡
(
およ
)
そ四五
町
(
ちやう
)
、
唯
(
と
)
ある
十字街
(
よつかど
)
を
左
(
ひだり
)
へ
曲
(
まが
)
つて、三
軒目
(
げんめ
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
煉瓦造
(
れんぐわづく
)
りの
一構
(
ひとかまへ
)
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
云う人は極めて真面目であるが、云われる方は余り馬鹿馬鹿しくて御挨拶が
能
(
でき
)
ぬ。お葉は
唯
(
と
)
ある岩角に腰を
卸
(
おろ
)
して、紅い
木葉
(
このは
)
を
弄
(
いじ
)
っていた。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
▼ もっと見る
唯
(
と
)
見れば
伝馬町
(
てんまちよう
)
三丁目と二丁目との角なり。貫一はここにて満枝を
撒
(
ま
)
かんと思ひ設けたるなれば、彼の語り続くるをも会釈
為
(
せ
)
ずして
立住
(
たちどま
)
りつ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
一
挺
(
ちょう
)
の
鍬
(
くわ
)
を盗み、
唯
(
と
)
ある森蔭の墓所に忍び寄ると、意外にも一人の女性が新月の光りに照らされた一基の土饅頭の前に、花を
手向
(
たむ
)
けているのが見える。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
渡邊祖五郎は
頻
(
しき
)
りに様子を探りますが、少しも分りません、
夜半
(
よなか
)
に客が
寝静
(
ねしずま
)
ってから廊下で
小用
(
こよう
)
を
達
(
た
)
しながら
唯
(
と
)
見ますと、垣根の向うに
小家
(
こや
)
が一軒ありました。
菊模様皿山奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
決心動かしがたしと見えたれば妾も
否
(
いな
)
み兼ねて
終
(
つい
)
に同氏の手荷物となし、それより港に
上
(
あが
)
りて、消毒の間
唯
(
と
)
ある料理店に登り、三人それぞれに
晩餐
(
ばんさん
)
を命じけれども
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると二大蛇長十余丈で渓中に遇うて
相
(
あい
)
繞
(
まと
)
うに白い方が弱い、狩人射て黄な奴を殺した、暮方に
昨
(
きのう
)
の人来って大いにありがたい、御礼に今年中ここで猟しなさい
十二支考:03 田原藤太竜宮入りの話
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
建具
(
たてぐ
)
取払って食堂が
濶
(
ひろ
)
くなった上に、風が立ったので、晩餐の
卓
(
たく
)
は
涼
(
すず
)
しかった。飯を食いながら、
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、夕日の残る
葭簀
(
よしず
)
の二枚屏風に南天の黒い影が
躍
(
おど
)
って居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
しばらくして宋公は、
唯
(
と
)
ある役所へいった。そこは壮麗な宮殿で、上に十人あまりの役人がいたが、何人ということは解らなかった。ただその中の
関帝
(
かんてい
)
の
関羽
(
かんう
)
だけは知ることができた。
考城隍
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
町はづれの
隧道
(
とんねる
)
を、
常陸
(
ひたち
)
から入つて
磐城
(
いはき
)
に出た。大波小波
鞺々
(
だう/\
)
と打寄する淋しい濱街道を少し往つて、
唯
(
と
)
有る
茶店
(
さてん
)
で車を下りた。
奈古曾
(
なこそ
)
の石碑の刷物、松や貝の化石、畫はがきなど賣つて居る。
熊の足跡
(旧字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
其家は大正道路から
唯
(
と
)
ある路地に入り、汚れた
幟
(
のぼり
)
の立っている伏見稲荷の前を過ぎ、溝に沿うて、
猶
(
なお
)
奥深く入り込んだ処に在るので
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
早起
(
はやお
)
きの
女中
(
ぢよちう
)
がざぶ/\、さら/\と、
早
(
はや
)
、その
木
(
き
)
の
葉
(
は
)
をはく。……
化
(
ば
)
けさうな
古箒
(
ふるばうき
)
も、
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると
銀杏
(
いてふ
)
の
簪
(
かんざし
)
をさした
細腰
(
さいえう
)
の
風情
(
ふぜい
)
がある。
十六夜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
甲斐
(
かい
)
の国を遍歴している時、
某日
(
あるひ
)
唯
(
と
)
ある岩山の間で日が暮れた。そこで怪量は
恰好
(
かっこう
)
な場所を見つけて、
笈
(
おい
)
をおろして横になった。
轆轤首
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
唯
(
と
)
見る間に
出行
(
いでゆ
)
く貫一、
咄嗟
(
あなや
)
、
紙門
(
ふすま
)
は鉄壁よりも堅く
閉
(
た
)
てられたり。宮はその心に
張充
(
はりつ
)
めし望を失ひてはたと
領伏
(
ひれふ
)
しぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
市郎は
唯
(
と
)
ある岩角に腰をかけて、用意の
気注薬
(
きつけぐすり
)
を
啣
(
ふく
)
んだ。足の下には清水が長く流れているが、屏風のような
峭立
(
きったて
)
の岩であるから、下へは容易に手が
達
(
とど
)
かぬ。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、玉川の上流、青梅あたりの空に
洋墨
(
いんき
)
色の雲がむら/\と立って居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そこで
唯
(
と
)
ある市へいって、乗る馬をやとい、送って来た男はそこから返した。
阿繊
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
と
言放
(
いひはな
)
つて、
英風
(
えいふう
)
颯々
(
さつ/\
)
、
逆浪
(
げきらう
)
岩
(
いわ
)
に
碎
(
くだ
)
くる
海邊
(
かいへん
)
の、
唯
(
と
)
ある
方角
(
ほうがく
)
を
眺
(
なが
)
めた。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
胴の間に仰向けで、身うちが冷える。
唯
(
と
)
、野宿には心得あり。道中笠を取って下腹へ
当
(
あて
)
がって、
案山子
(
かかし
)
が
打倒
(
ぶったお
)
れた形でいたのが。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大正十五年八月の或夜、僕は晩涼を追いながら、震災後日に日にかわって行く銀座通の景況を見歩いた時、始めて尾張町の四辻に近い
唯
(
と
)
あるカッフェーに休んだ。
申訳
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
それでも彼は
猶
(
なお
)
一方の
血路
(
けつろ
)
を求めて、
唯
(
と
)
ある人家の屋根へ
攀登
(
よじのぼ
)
った。
茅葺
(
かやぶき
)
、
板葺
(
こけら
)
、
瓦葺
(
かわらぶき
)
の嫌いなく、隣から隣へと屋根を伝って、彼は
駅尽頭
(
しゅくはずれ
)
の方へ逃げて行った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
二人は鳶口を
揮
(
ふ
)
りながら追っかけた。そして、
数町
(
すうちょう
)
往ったところで、その火の玉は
唯
(
と
)
ある
巷
(
ろじ
)
へ折れて、その突きあたりの家の
櫺子
(
れんじ
)
窓からふわふわと入ってしまった。
遁げて往く人魂
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
三十間堀
(
さんじつけんぼり
)
に出でて、二町ばかり来たる
角
(
かど
)
を西に折れて、
唯
(
と
)
有る露地口に清らなる
門構
(
かどがまへ
)
して、
光沢消硝子
(
つやけしガラス
)
の
軒燈籠
(
のきとうろう
)
に鳥と
標
(
しる
)
したる
方
(
かた
)
に、人目にはさぞ
解
(
わけ
)
あるらしう二人は連立ちて入りぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
今
(
いま
)
や
唯
(
と
)
ある
深林
(
しんりん
)
の
邊
(
へん
)
に
差掛
(
さしかゝ
)
つた
時
(
とき
)
、
日出雄少年
(
ひでをせうねん
)
は
急
(
きふ
)
に
私
(
わたくし
)
の
袖
(
そで
)
を
引
(
ひ
)
いた。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
(いろは)のことなり、
唯
(
と
)
見
(
み
)
れば
大廈
(
たいか
)
嵬然
(
くわいぜん
)
として
聳
(
そび
)
ゆれども
奧行
(
おくゆき
)
は
少
(
すこ
)
しもなく、
座敷
(
ざしき
)
は
殘
(
のこ
)
らず
三角形
(
さんかくけい
)
をなす、
蓋
(
けだ
)
し
幾何學的
(
きかがくてき
)
の
不思議
(
ふしぎ
)
ならむ。
神楽坂七不思議
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
二人は
毘沙門
(
びしゃもん
)
様の裏門前から奥深く曲って行く横町の
唯
(
と
)
ある片側に当って、その入口は左右から建込む待合の竹垣にかくされた極く静な人目にかからぬ露地の突当りに
夏すがた
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から葬式の行列が来た。夕方なら
唯
(
と
)
もかく深夜の葬式はあまり例のない事であった。大場は行列の先頭が自分の前へ来ると聞いてみた。
葬式の行列
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
登山してから三日目の夕刻、一同は
唯
(
と
)
ある
大樹
(
たいじゅ
)
の下に
屯
(
たむろ
)
して
夕飯
(
ゆうめし
)
を
焚
(
た
)
く。で、もう
好
(
よ
)
い頃と一人が釜の
蓋
(
ふた
)
を明けると、
濛々
(
もうもう
)
と
颺
(
あが
)
る
湯気
(
ゆげ
)
の白き
中
(
なか
)
から、
真蒼
(
まっさお
)
な人間の首がぬツと出た。
雨夜の怪談
(新字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、
何
(
ど
)
うしたことかさ、
今
(
いま
)
いふ
其
(
その
)
檜
(
ひのき
)
ぢやが、
其処
(
そこ
)
らに
何
(
なんに
)
もない
路
(
みち
)
を
横截
(
よこぎ
)
つて
見果
(
みはて
)
のつかぬ
田圃
(
たんぼ
)
の
中空
(
なかそら
)
へ
虹
(
にじ
)
のやうに
突出
(
つきで
)
て
居
(
ゐ
)
る、
見事
(
みごと
)
な。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
岩山の間の道を
攀
(
よ
)
じのぼって、やがて
唯
(
と
)
ある頂上の平べったい処へ出た。そこに草葺の家があって家の中から明るい灯が漏れていた。男は怪量を案内して裏手へ廻って往った。
轆轤首
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
『
偐紫田舎源氏
(
にせむらさきいなかげんじ
)
』の
版元
(
はんもと
)
通油町
(
とおりあぶらちょう
)
の
地本問屋
(
じほんどんや
)
鶴屋
(
つるや
)
の
主人
(
あるじ
)
喜右衛門
(
きうえもん
)
は先ほどから
汐留
(
しおどめ
)
の
河岸通
(
かしどおり
)
に
行燈
(
あんどう
)
を
掛
(
かけ
)
ならべた
唯
(
と
)
ある
船宿
(
ふなやど
)
の二階に
柳下亭種員
(
りゅうかていたねかず
)
と名乗った
種彦
(
たねひこ
)
門下の若い
戯作者
(
げさくしゃ
)
と二人ぎり
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
勿論
(
もちろん
)
素跣足
(
すはだし
)
で、
小脇
(
こわき
)
に
隱
(
かく
)
したものを
其
(
その
)
まゝ
持
(
も
)
つて
出
(
で
)
て
來
(
き
)
たが、
唯
(
と
)
見
(
み
)
れば、
目笊
(
めざる
)
の
中
(
なか
)
充滿
(
いつぱい
)
に
葉
(
は
)
ながら
撮
(
つ
)
んだ
苺
(
いちご
)
であつた。
山の手小景
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
夕方になって
唯
(
と
)
ある森の陰に小さな寺を見つけた。飯田はその寺で一泊するつもりで、夕陽の光を浴びて寺の方へ往った。山門の柱も朽ちて荒れた寺であった。鐘楼には釣鐘も見えなかった。
怪僧
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
狐
(
きつね
)
のわるさなるべしと心付き足の
向
(
むき
)
次第、
唯
(
と
)
有る横道に曲り候処、いよ/\方角を失ひ、かつはまた夜も次第にふけ渡り、月も雲間に隠れ候
故
(
ゆえ
)
、
聊
(
いささ
)
か途法に暮れ、
路端
(
みちばた
)
の草の上に腰をおろし
榎物語
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
唯
(
と
)
、御手洗は高く、稚児は小さいので、下を伝うてまはりを廻るのが、
宛然
(
さながら
)
、石に刻んだ形が、
噴溢
(
ふきあふ
)
れる水の影に誘はれて、すら/\と動くやうな。
伯爵の釵
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ればお妾は新しい手拭をば
撫付
(
なでつ
)
けたばかりの髪の上にかけ、下女まかせにはして置けない
白魚
(
しらうお
)
か何かの料理を
拵
(
こしら
)
えるため台所の板の間に膝をついて
頻
(
しきり
)
に
七輪
(
しちりん
)
の下をば
渋団扇
(
しぶうちわ
)
であおいでいる。
妾宅
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
唯
(
と
)
見て、
嬉
(
うれ
)
しそうに膝に据えて、
熟
(
じっ
)
と
視
(
み
)
ながら、
黄金
(
こがね
)
の
冠
(
かんむり
)
は
紫紐
(
むらさきひも
)
、玉の
簪
(
かんざし
)
の
朱
(
しゅ
)
の紐を
結
(
ゆ
)
い参らす時の、あの、若い母のその時の、面影が忘れられない。
雛がたり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
、
側対
(
かわむか
)
いの淡路屋の
軒前
(
のきさき
)
に、
客待
(
きゃくまち
)
うけの円髷に
突掛
(
つッかか
)
って、六でなしの六蔵が、(おい、泊るぜえ)を遣らかす処。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
、仰いで見るうちに、数十人の
番士
(
ばんし
)
、
足軽
(
あしがる
)
の左右に
平伏
(
ひれふ
)
す関の中を、二人何の苦もなく、うかうかと通り抜けた。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、
両方
(
りやうはう
)
から
柄
(
え
)
を
合
(
あ
)
はせて、しつくり
組
(
く
)
むだ。
其
(
そ
)
の
破
(
やぶ
)
れ
傘
(
がさ
)
が
輪
(
わ
)
に
成
(
な
)
つて、
畷
(
なはて
)
をぐる/\と
廻
(
まは
)
つて
丁
(
ちやう
)
と
留
(
と
)
まる。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
むすび髪の色白な若い娘は、
唯
(
と
)
見ると活けるその熊の背に、片膝して腰を掛けた、
奇
(
く
)
しき
山媛
(
やまひめ
)
の
風情
(
ふぜい
)
があった。
栃の実
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
敷居からすぐに
潜
(
くぐ
)
ったが、
唯
(
と
)
、見る目も涼しく、
桔梗
(
ききょう
)
の
藍
(
あい
)
が露に浮く、
女郎花
(
おみなえし
)
に影がさす、秋草模様の
絽縮緬
(
ろちりめん
)
をふわりと掛けて、白のシイツを
柔
(
やわらか
)
に敷いた。
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、する/\と
動
(
うご
)
く。
障子
(
しやうじ
)
はづれに
消
(
き
)
えたと
思
(
おも
)
ふと、きり/\と
板
(
いた
)
に
鳴
(
な
)
つて、つる/\と
辷
(
すべ
)
つて、はツと
思
(
おも
)
ふ
袂
(
たもと
)
の
下
(
した
)
を、
悚然
(
ぞつ
)
と
胸
(
むね
)
を
冷
(
つめた
)
うさして
通拔
(
とほりぬ
)
けた。
魔法罎
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
あゝ、
一翳
(
いちえい
)
の雲もないのに、
緑
(
みどり
)
紫
(
むらさき
)
紅
(
くれない
)
の旗の影が、ぱつと空を
蔽
(
おお
)
ふまで、
花
(
はな
)
やかに目に
飜
(
ひるがえ
)
つた、
唯
(
と
)
見ると
颯
(
さっ
)
と近づいて、
眉
(
まゆ
)
に近い樹々の枝に
色鳥
(
いろどり
)
の
種々
(
いろいろ
)
の影に映つた。
伯爵の釵
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
、二、三
町
(
ちょう
)
春の真昼に、人通りが一人もない。
何故
(
なぜ
)
か
憚
(
はばか
)
られて、手を触れても見なかった。緋の毛氈は、
何処
(
どこ
)
のか座敷から柳の
梢
(
こずえ
)
を
倒
(
さかさま
)
に映る雛壇の影かも知れない。
雛がたり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
見
(
み
)
ると、
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
も
何
(
なん
)
にもない。
心持
(
こゝろもち
)
十疊
(
じふでふ
)
ばかりもあらうと
思
(
おも
)
はれる
一室
(
ひとま
)
にぐるりと
輪
(
わ
)
になつて、
凡
(
およ
)
そ
二十人餘
(
にじふにんあまり
)
女
(
をんな
)
が
居
(
ゐ
)
た。
私
(
わたし
)
は
目
(
め
)
まひがした
故
(
せゐ
)
か
一人
(
ひとり
)
も
顏
(
かほ
)
は
見
(
み
)
なかつた。
怪談女の輪
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
と
)
、
沼
(
ぬま
)
が
呼吸
(
いき
)
を
吐
(
つ
)
くやうに、
柳
(
やなぎ
)
の
根
(
ね
)
から
森
(
もり
)
の
裾
(
すそ
)
、
紫
(
むらさき
)
の
花
(
はな
)
の
上
(
うへ
)
かけて、
霞
(
かすみ
)
の
如
(
ごと
)
き
夕靄
(
ゆふもや
)
がまはりへ
一面
(
いちめん
)
に
白
(
しろ
)
く
渡
(
わた
)
つて
來
(
く
)
ると、
同
(
おな
)
じ
雲
(
くも
)
が
空
(
そら
)
から
捲
(
ま
)
き
下
(
おろ
)
して、
汀
(
みぎは
)
に
濃
(
こ
)
く、
梢
(
こずゑ
)
に
淡
(
あは
)
く
人魚の祠
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
唯
常用漢字
中学
部首:⼝
11画
“唯”を含む語句
唯一
唯々
唯一人
唯今
唯物
唯唯
唯々諾々
唯事
唯我独尊
唯者
唯識
唯中
唯〻
唯一不二
唯物論者
唯一言
真唯中
唯有
唯識論
唯独
...