)” の例文
見る時、ほおおおへる髪のさきに、ゆら/\と波立なみだつたが、そよりともせぬ、裸蝋燭はだかろうそくあおい光を放つのを、左手ゆんでに取つてする/\と。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、遙か向う岸に連る二階家のある欄干に、一面の日光を受けて、もえるやうな赤いものが干してある。女の襦袢か。夜具の裏地か。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
某日あるひそれは晴れた秋の午後であった。雑木の紅葉した山裾を廻ってある谷へ往った。薩摩藷などを植えた切畑が谷の入口に見えていた。
忘恩 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旅亭やどや禿頭はげあたまをしへられたやうに、人馬じんば徃來ゆきゝしげ街道かいだう西にしへ/\とおよそ四五ちやうある十字街よつかどひだりまがつて、三軒目げんめ立派りつぱ煉瓦造れんぐわづくりの一構ひとかまへ
云う人は極めて真面目であるが、云われる方は余り馬鹿馬鹿しくて御挨拶ができぬ。お葉はある岩角に腰をおろして、紅い木葉このはいじっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見れば伝馬町てんまちよう三丁目と二丁目との角なり。貫一はここにて満枝をかんと思ひ設けたるなれば、彼の語り続くるをも会釈ずして立住たちどまりつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ちょうくわを盗み、ある森蔭の墓所に忍び寄ると、意外にも一人の女性が新月の光りに照らされた一基の土饅頭の前に、花を手向たむけているのが見える。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
渡邊祖五郎はしきりに様子を探りますが、少しも分りません、夜半よなかに客が寝静ねしずまってから廊下で小用こようしながら見ますと、垣根の向うに小家こやが一軒ありました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
決心動かしがたしと見えたれば妾もいなみ兼ねてついに同氏の手荷物となし、それより港にあがりて、消毒の間ある料理店に登り、三人それぞれに晩餐ばんさんを命じけれども
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ると二大蛇長十余丈で渓中に遇うてあいまとうに白い方が弱い、狩人射て黄な奴を殺した、暮方にきのうの人来って大いにありがたい、御礼に今年中ここで猟しなさい
建具たてぐ取払って食堂がひろくなった上に、風が立ったので、晩餐のたくすずしかった。飯を食いながら、ると、夕日の残る葭簀よしずの二枚屏風に南天の黒い影がおどって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しばらくして宋公は、ある役所へいった。そこは壮麗な宮殿で、上に十人あまりの役人がいたが、何人ということは解らなかった。ただその中の関帝かんてい関羽かんうだけは知ることができた。
考城隍 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
町はづれの隧道とんねるを、常陸ひたちから入つて磐城いはきに出た。大波小波鞺々だう/\と打寄する淋しい濱街道を少し往つて、有る茶店さてんで車を下りた。奈古曾なこその石碑の刷物、松や貝の化石、畫はがきなど賣つて居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
其家は大正道路からある路地に入り、汚れたのぼりの立っている伏見稲荷の前を過ぎ、溝に沿うて、なお奥深く入り込んだ処に在るので
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
早起はやおきの女中ぢよちうがざぶ/\、さら/\と、はや、そのをはく。……けさうな古箒ふるばうきも、ると銀杏いてふかんざしをさした細腰さいえう風情ふぜいがある。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
甲斐かいの国を遍歴している時、某日あるひある岩山の間で日が暮れた。そこで怪量は恰好かっこうな場所を見つけて、おいをおろして横になった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見る間に出行いでゆく貫一、咄嗟あなや紙門ふすまは鉄壁よりも堅くてられたり。宮はその心に張充はりつめし望を失ひてはたと領伏ひれふしぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
市郎はある岩角に腰をかけて、用意の気注薬きつけぐすりふくんだ。足の下には清水が長く流れているが、屏風のような峭立きったての岩であるから、下へは容易に手がとどかぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ると、玉川の上流、青梅あたりの空に洋墨いんき色の雲がむら/\と立って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこである市へいって、乗る馬をやとい、送って来た男はそこから返した。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
言放いひはなつて、英風えいふう颯々さつ/\逆浪げきらういわくだくる海邊かいへんの、ある方角ほうがくながめた。
胴の間に仰向けで、身うちが冷える。、野宿には心得あり。道中笠を取って下腹へあてがって、案山子かかし打倒ぶったおれた形でいたのが。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大正十五年八月の或夜、僕は晩涼を追いながら、震災後日に日にかわって行く銀座通の景況を見歩いた時、始めて尾張町の四辻に近いあるカッフェーに休んだ。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでも彼はなお一方の血路けつろを求めて、ある人家の屋根へ攀登よじのぼった。茅葺かやぶき板葺こけら瓦葺かわらぶきの嫌いなく、隣から隣へと屋根を伝って、彼は駅尽頭しゅくはずれの方へ逃げて行った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は鳶口をりながら追っかけた。そして、数町すうちょう往ったところで、その火の玉はあるろじへ折れて、その突きあたりの家の櫺子れんじ窓からふわふわと入ってしまった。
遁げて往く人魂 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三十間堀さんじつけんぼりに出でて、二町ばかり来たるかどを西に折れて、有る露地口に清らなる門構かどがまへして、光沢消硝子つやけしガラス軒燈籠のきとうろうに鳥としるしたるかたに、人目にはさぞわけあるらしう二人は連立ちて入りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いまある深林しんりんへん差掛さしかゝつたとき日出雄少年ひでをせうねんきふわたくしそでいた。
(いろは)のことなり、れば大廈たいか嵬然くわいぜんとしてそびゆれども奧行おくゆきすこしもなく、座敷ざしきのこらず三角形さんかくけいをなす、けだ幾何學的きかがくてき不思議ふしぎならむ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人は毘沙門びしゃもん様の裏門前から奥深く曲って行く横町のある片側に当って、その入口は左右から建込む待合の竹垣にかくされた極く静な人目にかからぬ露地の突当りに
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から葬式の行列が来た。夕方ならもかく深夜の葬式はあまり例のない事であった。大場は行列の先頭が自分の前へ来ると聞いてみた。
葬式の行列 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
登山してから三日目の夕刻、一同はある大樹たいじゅの下にたむろして夕飯ゆうめしく。で、もうい頃と一人が釜のふたを明けると、濛々もうもうあが湯気ゆげの白きなかから、真蒼まっさおな人間の首がぬツと出た。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ると、うしたことかさ、いまいふそのひのきぢやが、其処そこらになんにもないみち横截よこぎつて見果みはてのつかぬ田圃たんぼ中空なかそらにじのやうに突出つきでる、見事みごとな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
岩山の間の道をじのぼって、やがてある頂上の平べったい処へ出た。そこに草葺の家があって家の中から明るい灯が漏れていた。男は怪量を案内して裏手へ廻って往った。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
偐紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ』の版元はんもと通油町とおりあぶらちょう地本問屋じほんどんや鶴屋つるや主人あるじ喜右衛門きうえもんは先ほどから汐留しおどめ河岸通かしどおり行燈あんどうかけならべたある船宿ふなやどの二階に柳下亭種員りゅうかていたねかずと名乗った種彦たねひこ門下の若い戯作者げさくしゃと二人ぎり
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勿論もちろん素跣足すはだしで、小脇こわきかくしたものをそのまゝつてたが、れば、目笊めざるなか充滿いつぱいながらんだいちごであつた。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夕方になってある森の陰に小さな寺を見つけた。飯田はその寺で一泊するつもりで、夕陽の光を浴びて寺の方へ往った。山門の柱も朽ちて荒れた寺であった。鐘楼には釣鐘も見えなかった。
怪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きつねのわるさなるべしと心付き足のむき次第、有る横道に曲り候処、いよ/\方角を失ひ、かつはまた夜も次第にふけ渡り、月も雲間に隠れ候ゆえいささか途法に暮れ、路端みちばたの草の上に腰をおろし
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
、御手洗は高く、稚児は小さいので、下を伝うてまはりを廻るのが、宛然さながら、石に刻んだ形が、噴溢ふきあふれる水の影に誘はれて、すら/\と動くやうな。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ればお妾は新しい手拭をば撫付なでつけたばかりの髪の上にかけ、下女まかせにはして置けない白魚しらうおか何かの料理をこしらえるため台所の板の間に膝をついてしきり七輪しちりんの下をば渋団扇しぶうちわであおいでいる。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見て、うれしそうに膝に据えて、じっながら、黄金こがねかんむり紫紐むらさきひも、玉のかんざししゅの紐をい参らす時の、あの、若い母のその時の、面影が忘れられない。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
側対かわむかいの淡路屋の軒前のきさきに、客待きゃくまちうけの円髷に突掛つッかかって、六でなしの六蔵が、(おい、泊るぜえ)を遣らかす処。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
、仰いで見るうちに、数十人の番士ばんし足軽あしがるの左右に平伏ひれふす関の中を、二人何の苦もなく、うかうかと通り抜けた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ると、両方りやうはうからはせて、しつくりむだ。やぶがさつて、なはてをぐる/\とまはつてちやうまる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むすび髪の色白な若い娘は、見ると活けるその熊の背に、片膝して腰を掛けた、しき山媛やまひめ風情ふぜいがあった。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敷居からすぐにくぐったが、、見る目も涼しく、桔梗ききょうあいが露に浮く、女郎花おみなえしに影がさす、秋草模様の絽縮緬ろちりめんをふわりと掛けて、白のシイツをやわらかに敷いた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ると、する/\とうごく。障子しやうじはづれにえたとおもふと、きり/\といたつて、つる/\とすべつて、はツとおもたもとしたを、悚然ぞつむねつめたうさして通拔とほりぬけた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゝ、一翳いちえいの雲もないのに、みどりむらさきくれないの旗の影が、ぱつと空をおおふまで、はなやかに目にひるがえつた、見るとさっと近づいて、まゆに近い樹々の枝に色鳥いろどり種々いろいろの影に映つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
、二、三ちょう春の真昼に、人通りが一人もない。何故なぜはばかられて、手を触れても見なかった。緋の毛氈は、何処どこのか座敷から柳のこずえさかさまに映る雛壇の影かも知れない。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ると、とこなんにもない。心持こゝろもち十疊じふでふばかりもあらうとおもはれる一室ひとまにぐるりとになつて、およ二十人餘にじふにんあまりをんなた。わたしまひがしたせゐ一人ひとりかほなかつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぬま呼吸いきくやうに、やなぎからもりすそむらさきはなうへかけて、かすみごと夕靄ゆふもやがまはりへ一面いちめんしろわたつてると、おなくもそらからおろして、みぎはく、こずゑあは
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)