“あ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
井戸辺いどばたに出ていたのを、女中が屋後うらに干物にったぽっちりのられたのだとサ。矢張やっぱり木戸が少しばかしいていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はて、なんだ、とおもひながら、こゑけようとして、ひとしはぶきをすると、これはじめて心着こゝろづいたらしく、あらをんなかほげた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私はどんな罪を前生で犯してこうした悲しい目にうのだろう。親たちにも逢えずかわいい妻子の顔も見ずに死なねばならぬとは」
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
火事くわじをみて、火事くわじのことを、あゝ火事くわじく、火事くわじく、とさけぶなり。彌次馬やじうまけながら、たがひこゑはせて、ひだりひだりひだりひだり
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見込み「けつぱなしてだれも居ねえのか、この開帳で人の出るのに」とかます烟草入たばこいれ真鍮しんちゅう煙管きせるを出し「何だ火もねえや」といひ
つとに祖父の風ありといわれた騎射きしゃの名手で、数年前から騎都尉きといとして西辺の酒泉しゅせん張掖ちょうえきってしゃを教え兵を練っていたのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ひるがへつて歐米おうべいれば、さすがに母語ぼごくまでもこれを尊重そんてうし、英米えいべいごときはいたるところに母語ぼごりまはしてゐるのである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
わたしはつい四五日まえ西国さいこく海辺うみべに上陸した、希臘ギリシャの船乗りにいました。その男は神ではありません。ただの人間に過ぎないのです。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少女は自働車のまん中にある真鍮しんちゅうの柱につかまったまま、両側の席を見まわした。が、生憎あいにくどちら側にもいている席は一つもない。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「家には何も心配のことはないのや。の子さへどうかなると淡然あつさりとするのやれど、ほんとに困つた。一寸も手を放されんさかい。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
どうでしょう、お手間は取らせない積りですが少し付き合って戴けますまいか。私の方は、る個人の身元に就いて立ち入ったことを
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
青笹村大字糠前ぬかのまえの長者の娘、ふと物に取り隠されて年久しくなりしに、同じ村の何某という猟師りょうしる日山に入りて一人の女にう。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
美しきものは命短しというをモットーとするように豪奢ごうしゃ絢爛けんらんが極まると直ぐ色せてあの世の星の色と清涼に消え流れて行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかこれきたはなしとか、交際かうさいとかとふものとはまたべつで、あま適切てきせつれいではりませんが、たとへば書物しよもつはノタで、談話だんわ唱歌しやうかでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
日本のそういった文学だけをげて、中国や西洋の文芸を挙げないで論ずるのはやはり井の中の蛙のそしりを免れないことになります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(予美と申すは地下の根底にありて、根の国、底の国とも申して、はなはだきたなくしき国にて、死せる人のまかり往くところなり)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
くちへ、——たちまちがつちりとおとのするまで、どんぶりてると、したなめずりをした前歯まへばが、あなけて、上下うへしたおはぐろのはげまだら。……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かたぽうでもいけなけりゃ、せめて半分はんぶんだけでもげてやったら、とおりがかりの人達ひとたちが、どんなによろこぶかれたもんじゃねえんで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
窓外は勿論もちろん何にも見えなかった。鷲尾はやがて手帳を出して、二三枚ちぎりながら別れてきた末弟へてて、手紙を書き始めた——。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
が、かれ年月としつきつとともに、此事業このじげふ單調たんてうなのと、明瞭あきらかえきいのとをみとめるにしたがつて、段々だん/\きてた。かれおもふたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
人々のすがたはみな、紅葉もみじびたように、点々の血汐ちしおめていた。勇壮といわんか凄美せいびといわんか、あらわすべきことばもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はいつも、頭というものが、彼自身よりも賢いことを知って、感心するのであった。又、彼は何をやってもすぐいてしまった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
俺は伍長の不幸な話を聞いたからえて云うんだ。貴様ア避難民の住宅や、工場の為に一家を離散させられたと思ったら間違いだぞ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
それがこのごろになって、このみずうみ時々ときどきらしにまいりまして、そのたんびにわたくしどもの子供こども一人ひとりずつさらって行くのです。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
王子珍考えて、玄石が言うたところの白衣は白鶏の毛、紫巾を戴くとは鶏冠、跣足とは鶏の足、左の眼つぶれたるは我が射てたのだ。
しかも予期したことながらあまりにも醜怪なる現実に直面して「ッ!」と思わず、私は顔をおおわずにはいられなかったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
海が幾日もれて、山中の食料がつきた場合には、対岸の牡鹿おじか半島にむかって合図の鐘をくと、半島の南端、鮎川あゆかわ村の忠実なる漁民は
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に大新嘗には国中の公田くでん悠紀ゆき主基すき卜定ぼくていして、その所産をもって祭儀の中心たるべき御飯おんいいの料にてられることになっていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たび途中とちゅうで、煙草畑たばこばたけに葉をつんでいる少女にった。少女はついこのあいだ、おどしだにからさとへ帰ってきた胡蝶陣こちょうじんのなかのひとり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾きそ檜木ひのき名所めいしよですから、あのうすいたけづりまして、かさんでかぶります。そのかさあたらしいのは、檜木ひのき香氣にほひがします。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ここおいせいぐんものをして、(五三)萬弩ばんどみちはさんでふくせしめ、(五四)していはく、『くれがるをともはつせよ』
彼はあたかも難産したる母の如し。みずから死せりといえども、その赤児は成育せり、長大となれり。彼れに伝うべからざらんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
先刻さつき土手どてときほりとこすべつたんですが、ときかうえによごしたんでせうよ」とおつぎはどろつたこしのあたりへてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
愛宕町あたごちやうは七八丁の距離しかないので銀之助はしづのこと、今のさい元子もとこのことを考へながら、あゆむともなく、徐々のろ/\るいた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
多津吉は、たらいのごとき鉄鉢を片手に、片手を雲に印象いんぞうした、銅像の大きな顔の、でっぷりしたあご真下まっしたに、きっと瞳をげて言った。
東の京に住む君は、西なる京なつかしとおぼさぬにてはあらざりき。父の帝の眠ります西の京、其処そこれまし十六までそだち玉ひし西の京、君に忘られぬ西の京。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新子は、夫人が更に何を云い出すのかと、っ気に取られて、夫人の顔を、ぼんやり見上げていると
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ければ颯々さっさつの秋風ばかりいて、所々の水辺に、寒げに啼く牛の仔と、灰色の空をかすめるこうの影を時たまに仰ぐくらいなものであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
は老い、は嘆けり。は白し、早や輝けり。は消えむ、ああ早や、が妻、が子、いろとぞうの、残れる者、ことごとくめつせん。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かくて曲者は間近の横町にりぬ。からうじておもてげ得たりし貫一は、一時に発せる全身の疼通いたみに、精神やうやく乱れて、しばしば前後を覚えざらんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「叔父さん、風邪かぜを引くといけませんよ——シャツでもげましょう」と言って、正太は豊世の方を見て、「股引ももひきも出して進げな」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はほとんど我家に帰りきたれると見ゆる態度にて、傱々つかつかと寄りて戸をけんとしたれど、啓かざりければ、かのしとやかゆるしと謂ふ声して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
來年らいねんまたかへつてまではないから、隨分ずゐぶんけて」とつた。そのかへつて時節じせつには、宗助そうすけはもうかへれなくなつてゐたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ペツポ怒りて、かたくななる女かな、この木履もてそちが頭に、ピアツツア、デル、ポヽロの通衢おほぢのやうなる穴を穿けんと叫びぬ。
坦々たる古道の尽くるあたり、荊棘けいきよく路をふさぎたる原野にむかひて、これが開拓を勤むる勇猛の徒をけなす者はきようらずむば惰なり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「外国の土に善くふからと云つてその木をすぐ日本へ持つて来て植ゑると云ふ事は間違つてゐる。日本には日本の桜がある。」
だから、坊さんが、お經を讀むのを聞いてゐると、隨所で、「ア‥‥」と引つぱツては又、朗々と、續けてゆく。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
母子の為には幾許いかばかりさいはひなりけん。彼は貫一に就いて半点の疑ひをもれず、唯くまでもいとしき宮に心をのこして行けり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と自分は答えたが、まだ余っている餌を、いつもなら土にえて投げ込むのだけれど、今日はこの児にのこそうかと思って
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
次なる者は、牧者に讓らんとて(その志善かりしかど結べるしかりき)律法おきて及び我とともに己をギリシアのものとなせり 五五—五七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひとことでいえば、わたしはくる朝レスリーに会ったとき、心配でならなかったのだ。彼はすでに細君に話をしてきたのだ。
(新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
失敬な奴だ。うそをつきゃあがった。それから下女がぜんを持って来た。部屋はつかったが、飯は下宿のよりも大分うまかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『僕は貴女に然う言はれると、心苦しいです。誰だつての際の場処に居たら、那麽あれ位の事をするのは普通あたりまへぢやありませんか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
弟子の心得となるべき禅門の教訓をもいろいろとしたためて、仏世のいがたく、正法の聞きがたく、善心の起こしがたく、人身の得がたく
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
秋らしい光線が、枝葉のややえかかった銀杏いちょうの街路樹のうえに降りそそぎ、円タクのげて行く軽いほこりも目につくほどだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しまいにはボンヤリしてしまって、ワケのワカラナイなみだばかりがボロボロ落ちて来るんだ。コンナ事ではいけないと思って、せれば焦せるほど筆がいう事を聞かなくなるんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
聖天様しょうでんさまには油揚あぶらあげのお饅頭まんじゅうをあげ、大黒様だいこくさまには二股大根ふたまただいこん、お稲荷様いなりさまには油揚をげるのは誰も皆知っている処である。
じょう串戯じょうだんをするな、、誰だよ、御串戯もんですぜ。やぶから棒に土足を突込みやがって、人、人の裾を引張るなんて、土、土足でよ、、足ですよ、失礼じゃねえか、、何だな、、誰だな。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いねけばかが今宵こよひもか殿との稚子わくごりてなげかむ 〔巻十四・三四五九〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
土手どてしのたかさにえる蜀黍もろこし南風なんぷうけて、さしげたごとかたちをなしてはさきからさきへとうごいて、さかのぼ白帆しらほしづかに上流じやうりうすゝめてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
算盤そろばんずくで遊山する了見にはなりたくないもの、江戸ッ児の憧憬はここらにこそっておるはずであるのに……。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
家ごとの炊煙すいえんは、けたばかりの町の上へ、いくさのように立ちのぼっていた。大津の宿駅は、湖北から石山までぼかしている朝がすみと、そのさかんな煙の下に見えてきた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常人つねなみのひとならばといひてにぐべきに、さはなくてその方に身をむけてつら/\見るに、かうくらくなりしにかゝるものゝあり/\と見ゆるもたゞ人ならじと猶よく見れば
あら、やに無愛想ぶあいそうだね。またあのんちゃんのことでも考えてるんだろ。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
是れはたしか黒澤翁麿おきなまろあたりの工夫でありませうか、少數のむつかしい假名から教へて行くと云ふと、との容易やさしいのは自然に分ると云ふ方法があります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あさはいよ/\たらしく
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこでわしがいた蓮光寺へ葬りました、他に誰も寺参りをするものがないから、主人が七日までは墓参りに来たが、七日後は打棄うっちゃりぱなしで、花一本げず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其様そんな、君のやうな——』と丑松は省吾の顔を眺めて、『人がげるツて言ふものは、貰ふもんですよ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
奥さん達は観音堂で御祈祷をげた。田鶴子さんが社交振りを発揮して一緒に坐り込んでしまったものだから、僕達は待っていなければならなかった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「私が、側にいるようになったら、そんな毒なものは、もうげない。そして可愛がってばかりあげる」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こめ不作ふさくのときは、こめあたいがるように、くわのあたいがって、ひろいくわばたけ所有しょゆうしている、信吉しんきち叔父おじさんは、おおいによろこんでいました。
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここに少憩して付近のしょうを探ぐり、はるかに左方春日山かすがやま城跡じょうせきおいで、曠世こうせいの英傑上杉輝虎てるとらの雄図をしのび、夕陽せきよう斜めに北海の怒濤どとうてらすの夕闇に、うしおりの物凄き響きをききつつ
何か書いたものを持って来てなんと云っても帰らないから、五十銭もって、あとけて見ると、子供の書いたような反故ほごであることなどが度々たび/\ありますから
たいなくとも玉味噌たまみその豆腐汁、心同志どし安らかに団坐まどいして食ううまさ、あるい山茶やまちゃ一時いっとき出花でばなに、長き夜の徒然つれづれを慰めて囲いぐりの、皮むいてやる一顆いっかのなさけ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
買いたるは手品師にて、観世物みせものはりつけにするなりき。身体からだは利かでもし、やりにて突く時、手と足もがきて、と苦痛の声絞らするまでなれば。これにぞ銀六の泣きしなる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こほし、まかりゆかずば
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
奴のいまだ答えざるに先だちて、御者はきと面をげ、かすかになれる車の影を見送りて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉染はぞめひめひて、れにしいまし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ただようてくるったかい三平汁さんぺいじるにおい
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
云う事うにもことうえて、まあんたらことうくだ!
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
常によく見る夢ながら、やし、なつかし、身にぞ染む。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
凄じい地響をさせて突進して來た列車が停ると、信吾は手づから二等室のドアけて身輕に降り立つた。乘降の客や驛員が、慌しく四邊あたりを驅ける。汽笛が澄んだ空氣を振はして、汽車は直ぐつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
盃洗の水をザンブリとけ、鬼小僧はひどく上機嫌、ニヤリニヤリと笑ったが
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
明日、何時頃に使ひをげうぞ!
文章その他 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
夕立ががったばかりである。崖土がけつちはすべる。女童めわらべの二人は、ようやく河原へ降りて行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であの下宿で持てまされているんだ。いくら下宿の女房だって、下女たあ違うぜ。足を出してかせるなんて、威張いばり過ぎるさ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるひえらんでこれみ、ときにしてしかのちこといだし、くに(五六)こみちらず、(五七)公正こうせいあらざればいきどほりはつせず、しか禍災くわさいものげてかぞからざるなりはなはまどふ。
と、道場で彼と槍を合せた鉄舟は、殆ど、然たるばかりな驚きに打たれた。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この自分を、誰かどうにかしてくれんか——えぐようにそう心の底に叫んで、彼はぎょろぎょろと周囲を見まわした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
緩やかに道糸に送りをくれておいて、水から抜き上げる手際てぎわは、我が子ながらっ晴れと感じたのであった。
小伜の釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
商賣女の白粉臭いのにきると、素人しろうと娘に眼をつけて、今から七八年前から、江戸で名うての處女むすめあさり始めた
切て勘當かんだうせしにかれ方々はう/″\彷徨さまよふうち少く醫師の道を覺え町内へ來て山田元益と表札へうさつ門戸もんこを張れどももとよりつたな庸醫よういなれば病家はいと稀々まれ/\にて生計くらしの立つほど有らざれば内實ないじつ賭博とばく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そういう先のてがどことなく心を急がしているので、せっかくN君の東道に立ってくれた鷹ヶ峰の門前町の跡も、光悦寺から見た光悦蒔絵そのままな野趣も、鷹ヶ峰だけにできて他にはできない
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新「なんだな其様そんな事をして兄い困るよ、藪を突付つっついて蛇を出す様な事をいっちゃア困らアな、今お経をげてるから、エーおい兄い、それはそれにして埋めて仕舞おう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かつて私が亜弗利加のサハラの沙漠を探検した時、次のような不思議な又哀れな事件に遭遇ったことがございます。
「君がおがりなさるなら、下宿を出ると二三軒先にありますよ。行つてさう言つたらいいでせう。」
蒼白き巣窟 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
勝家も、山路正国を説かすに香餌こうじをもってした。——即ち越前坂井郡の丸岡城と、その近地わせて十二万石を与えようという約束なのだ。正国はそれに目がくらんだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市場とばかりぢぢむさい匂ひをげる着物の下に
その代り月給もげてくれないが、いくら月給を昇げてくれてもこういう取扱を変じて万事営業本位だけで作物の性質や分量を指定されてはそれこそ大いに困るのであります。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真中まなか高々としてれし声
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「勝ちさびに天照大御神あまてらすおおみかみ営田みつくだはなみぞめ、また大嘗おおにえきこしめす殿にくそまり散らしき」
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ロミオ むちてい、むちを、もっと/\。さうでいと「った」とぶぞよ。
勇気ばかりでなく、智恵ちゑもすぐれてゐるニナール姫は、そんなぶないことをする代りに、別に安全な方法を考へ出して、アルライや、馬賊たちのすることをこつそりと見てゐました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「お煙草は、がりません?」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「旅のお方。先ほどから、気づいてはおりましたが、女一人、父が戻るまでは、お上げ申すわけには参りませぬが、この雪に、そんな所においでなされては、凍え死にまする。——土間へ這入って、芋粥いもがゆなと召しがりませ」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は苦しげにものをげていた。早く帰れとは云わずに、瞳をうるませた女であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
『漢書』に漢武守宮やもりを盆で匿し、東方朔とうぼうさくてしめると、竜にしては角なく蛇にしては足あり、守宮か蜥蜴だろうとてたので、きぬ十疋を賜うたとある。蜥蜴を竜に似て角なきものと見立てたのだ。
そして四辺あたりにはとてもえだぶりのよい、見上みあげるようなすぎ大木たいぼくがぎッしりとならんでりましたが、そのなかの一ばんおおきい老木ろうぼくには注連縄しめなわってあり、そしてそのかたわら白木造しらきづくりの
前夜訪ねて来て書式を聞いて行つたのだから、けて見なくても解職願な事は解つてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
日浮びてひかりを重ね、雲散りてかすまず。えだを連ね穗をはすしるしふみひとしるすことを絶たず、とぶひを列ね、をさを重ぬるみつきみくらに空しき月無し。名は文命よりも高く、徳は天乙にまされりと謂ひつべし。
ただこの一夜を語りかした時の二葉亭の緊張した相貌や言語だけが今だに耳目の底に残ってる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大庭 そこはつたかいかい?
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
もうく息が白く見えます。品川の海がけ始めて、驛馬の鈴の音。
相逢無語翻多恨 いてことばかえって多恨なごりお
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この批評家の人格の野鄙やひらさ、こせこせした誹謗ひぼうと毒舌、思いあがった冷酷な機智、一口にいえばその発散する「検事みたいな悪臭」に、チェーホフは嘔吐おうとをもよおしたのである。
「もとどりをげてくれい」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひっつめびんの昔も子供臭く、たぼは出し、前髪は幅広にとり、鏡も暇々に眺め、剃刀かみそりも内証でて、長湯をしても叱られず、思うさまみがき、爪のあかも奇麗に取って、すこしは見よげに成ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暗に私にてつけて散三さんざに当り散らした。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ところがその後、予備門(今の高等学校)の生徒控室でゆくりなくもこの五分刈の巨頭君にって、喫驚びっくりしてひそかに傍人にいて、初めてこれが石橋助三郎という人であると教えられた。
失礼でございますけれど差上げとうございます、ねえお父様、進上げたっていいでしょう、と取りなしてくれた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
船へ乗ろうとすると、又重さんが首を縊ろうとしてえたから、また助けて船へ入れると、オヤお嬢さん、オヤ番頭かと云って主従しゅうじゅううというは妙な事ではないか、そこで己の考えには
大長谷の若建わかたけの命長谷はつせ朝倉あさくらの宮にましまして、天の下治らしめしき。天皇、大日下の王が妹、若日下部の王にひましき。
この御子は、高木の神の女萬幡豐秋津師比賣よろづはたとよあきつしひめの命にひて生みませる子、天の火明ほあかりの命、次に日子番ひこほ邇邇藝ににぎの命二柱にます。
ここにすなはちその海邊の波限なぎさに、鵜の羽を葺草かやにして、産殿うぶやを造りき。ここにその産殿うぶや、いまだ葺き合へねば、御腹のきにへざりければ、産殿に入りましき。
然れども後には、その伺見かきまみたまひし御心を恨みつつも、ふる心にえへずして、その御子をひたしまつるよしに因りて、そのいろと玉依毘賣に附けて、歌獻りたまひき。その歌
ここに八上やがみ比賣、八十神に答へて言はく、「吾は汝たちの言を聞かじ、大穴牟遲の神にはむ」といひき。
次にやまと比賣の命は、伊勢の大神の宮をいつき祭りたまひき。次に伊許婆夜和氣いこばやわけの王は、沙本の穴本あなほ部の別が祖なり。次に阿耶美都あざみつ比賣の命は、稻瀬毘古の王にひましき。
三方にあるれた庭には、夏草が繁って、家も勝手の方は古い板戸がこわれていたり、根太板ねだいたへこんでいたりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いよいよ住むとなると、れたようなその家にも不足があった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
内典ほとけのみのり興隆おこさむとおもふ。方将まさ寺刹てらを建てむときに、はじめて舎利を求めき、時に、汝が祖父司馬達等しばたちと便すなわち舎利をたてまつりき。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
乙酉きのととり、天皇皇后及び草壁皇子尊くさかべのみこのみこと大津皇子おほつのみこ高市皇子たけちのみこ河島皇子かはしまのみこ忍壁皇子おさかべのみこ芝基皇子しきのみこみことのりしてのたまはく、れ今日なんぢ等とともおほばちかひて、千歳の後に事無からむとほりす。奈之何いかに
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
土塊どくわいごとうごかぬかれ身體からだからはあはれかすかなけぶりつてうてえた。わら沿びたとき襤褸ぼろかれ衣物きものこがしたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おつぎは當面まともほこりけるのにはとほきつける土砂どしやほゝはしつて不快ふくわいであつた。手拭てぬぐひはしくつて沿びせるほこりためかみれるのをひどきらつた。それでもそのもとは疎略そりやくではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ふととどろいたお政の声に、怖気おじけの附いた文三ゆえ、吃驚びっくりして首をげてみて、安心した※お勢が誤まッて茶をひざこぼしたので有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と云わして置いて、お勢は漸く重そうに首をげて、世にも落着いた声で、さもにべなく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
魚市場に上荷げてあつたふたもない黒砂糖の桶に腰をかけて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
さずをせ。ささ。 (歌謠番號四〇)
巻八(一四六五)に、藤原夫人ふじわらのぶにんの、「霍公鳥ほととぎすいたくな鳴きそ汝が声を五月さつきの玉にくまでに」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まだいくらもられてないは、黄褐色くわうかつしよくあかるいひかり反射はんしやして、處々しよ/\はたけくはも、しもふまではとこずゑちひさなやはらかなの四五まいうるほひをつてるのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その後この付近は復興も遅々として進まず、寺はいよいよ荒れていくばかりですが、今は三ヶ寺とも、相当な住職と寺男とがって、檀家の評判もよいということであります。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
炭を買うからすこしばかり貸せといったら一俵位なら俺家おれんとこの酒屋で取って往けとおおきなこと言うから直ぐ其家そこうちで初公の名前で持て来たのだ。それだけあれば四五日はるだろう
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
孔子、王道を行なわんと欲して東西南北し、七十たびぜいしたれども、う所なかりき。故に衛の夫人と弥子瑕とに因りて、その道を通ぜんと欲せり。(『淮南子えなんじ』、泰族訓)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
不意に呼びかけられて、右手に編笠をげるうちにも、左手は一刀の鯉口を、こう栂指おやゆびで押えていようといったたしなみは、かたき持ちか、要心深さがさせるわざか、とにかく容易ならぬ心掛の若者です。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「だって、かれしかれ事件ことさえ起れば、あなたの懐中ふところへお宝は流れ込むんで」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
脊の高い、血色のよい、綺麗にてられた紳士で、その澄んだ目、輝く頬、——と、ベーカー街の霧の中からは遥に離れた処に生活している人に相違ないと思われた。
照ちやんはげえ/\げ乍ら一日苦しんで居た。
この寄宿舎は食事だけは藩命の者とらざる者とを問わず、藩より支給せられて、多くは賄方が請負で仕出をしていたが、あるいは小使をして拵えさせた時もあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
對手の心事、酒代にありと見て取つた若紳士は、事の組し易きを喜んで、手早く握つた銀貨、二枚、三枚、光る物手をすべつて男の掌に移るよと見る間に「」と叫んで紳士は身を轉換かはした。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
もし君が僕の言うことを聞く気があるなら、一つ働いて通る量見になりたまえ。何か君は出来ることがあるだろう——まあ、歌を唄うとか、御経をげるとか、または尺八を吹くとかサ。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われ口張ってう能わず、また何ぞ老耼を規さんや(『荘子』)。
ああ、世も許し、人も許し、何よりも自分も許して、今時も河岸をぞめいているのであったら、ここでぷッつりと数珠を切る処だ!……思えば、むかし、夥間なかまの飲友達の、遊びほうけて
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、恋なればこそごとなき身を屈して平生ひごろの恩顧を思ふての美くしき姫を麿に周旋とりもちせいと荒尾先生に仰せられた。荒尾先生ほとほと閉口した。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
少女は又うつむきて坐せり。さきにアヌンチヤタの我に語りし希臘の神女も、石彫の像なれば瞻視せんしをばきたるべし。今我が見るところは殆ど全くこれにへりとやいふべき。
かれ後にはな佐久夜さくや毘賣、まゐ出て白さく、「はらみて、今こうむ時になりぬ。こは天つ神の御子、ひそかに産みまつるべきにあらず。かれまをす」
そして、第一にはれるのが、此紐をといた女である。さうして、其人が后になるのである。だが此事は、もう奈良の頃は忘れられて了ひ、此行事以後、御子を育てる所の、乳母の役になつた。
大嘗祭の本義 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
撲られる苦痛で、典膳とお浦とは身悶えし、身悶えするごとに、二人の体は、宙で、じれたりじれたりし、額や頤をぶっつけ合わせた。そういう二人の顔は、窓の高さに存在った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人は、こう言いうと、童子を真中にして庭後へ出た。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
まだくらし、はるけきは鴻荒あらきへり。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだくらし、はるけきは鴻荒あらきへり。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
内儀は白糸の懐に出刃をつつみし片袖をさぐてて、引っつかみたるままのがれんとするを、畳み懸けてそのかしらり着けたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然し、せればせる程、私は最早やどうしても二十歳はたちの時のやう、他愛なく夢見るやうに遊ぶ事は出來ないらしく思はれた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
お今はふと想い出したように頭をげた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼をかつせしいかりに任せて、なかば起したりしたいを投倒せば、腰部ようぶ創所きずしよを強くてて、得堪えたへずうめき苦むを、不意なりければ満枝はことまどひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
げるが、徳富蘇峰氏の「近世日本国民史」元禄時代中篇
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
うち我が国外交の状態につき、近くのうの感ずる処をぐれば、曩日さきに朝鮮変乱よりして、日清の関係となり、その談判は果して、儂ら人民を満足せしむる結果を得しや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しばらくして、浦子はぎょくぼやの洋燈ランプの心をげて、あかるくなったともしに、宝石輝く指のさきを、ちょっとびんに触ったが、あらためてまた掻上かきあげる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お目にかかったついでに、重松様に、一日も早く下手人がげられるように、よくあっしからも頼んでおこう」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すだれげて姐娥そがと共に語らんと欲す
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人を以て蟹にかざるべけんやと、独り合点これを久しゅうせし内、かの親切な蟹の歩み余りに遅く、時々立ち留まりもするをいぶかり熟視すると何の事だ、半死の蟹の傷口に自分の口を
今はへ難くて声も立ちぬべきに、始めて人目あるをさとりてしなしたりと思ひたれど、所為無せんなくハンカチイフをきびしく目にてたり。静緒の驚駭おどろきは謂ふばかり無く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
阿宝は車の中から孫を見つけて、しんなりした手ですだれげて、目もはなさずに見つめた。孫はますます心を動かされて後から従いて往った。阿宝はとうとう侍女に言いつけて孫に尋ねさした。
阿宝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紅蓮ぐれん大紅蓮という雪の地獄に、まないたに縛られて、胸に庖丁をてられながら、すくいを求めてもだえるとも見える。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして二人の周囲に散在る物といえば、五郎蔵の乾児たちの死骸であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『大学様、おしとねを、おて遊ばしませ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈎をおろすにりて、大事とること総て此の如くなれば、一旦懸りたる魚は、必ず挙げざる無く、大利根の王と推称せらるるもことわりなり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
その一方、筆頭与力の蓑賀殿はその役所にって一人の客と対談していた。まぎれもない、かの大阪のさる富商の手代である。
御幣担ごへいかつぎの多い関西かんさいことに美しいローマンチックな迷信に富む京都きょうと地方では、四季に空に日在って雨降る夕立を呼んで、これを狐の嫁入よめいりと言う
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
淮南子えなんじ』またいう、〈鶏はまさにけんとするを知り、鶴は夜半を知る、その鳴高亮こうりょう、八、九里に聞ゆ、雌は声やや下る、今呉人園囿えんゆう中および士大夫家の皆これを養う
「でも、狂人きちがいになるには何か仔細わけがあるでしょう。」と、冬子は目眦まなじりげて追窮ついきゅうした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「大將だらうが兵隊だらうが御酒のよう飮めんやうな男は一人前とはいはれへん。さ、三田公、飮まん人はほつといて、こちらはこちらで飮みまほ。おゝつ。足袋脱がして貰ひまつせ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
夢の市郎兵衛も町の英雄なら、船河原町の兵二郎も町の英雄だったかも知れません。それがえなくも殺されて死んでいたというのです。
やがて地下に潜って検挙げられた人だ。死刑廃止論の古典であるベッカリヤを訳して詳しい研究をつけて出版したことは、記憶されねばならぬ。
社会時評 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
主婦さんは例の冷し藥の土鍋に藥をけるらしく
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
大徳のさすがに、此の毒ある流をば、九八などせては果し給はぬや。いぶかしき事を九九足下そこにはいかにわきまへ給ふ。
つひふれてみなぎりて
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
◯いつも夜中、警報中に「おい、かりついとるぞ!」「灯かり消せ!」とどなり立てている丘の下の町に、きょうはどっと歓声があがるのを聞いた。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
導者は我等一行を引きて此火殼くわかくましめたるに、足跡ぶるが如く、我等の靴の黒き地に赤きあとを印するさま、橋上の霜を踏むに似たり。處々に斷文ありて、底なる火を透し見るべし。
一一一る看る日は入り果てて、一一二宵闇よひやみの夜のいとくらきに、一一三げざればまのあたりさへわかぬに、只たに水の音ぞちかく聞ゆ。あるじの僧も又眠蔵めんざうに入りて音なし。
ものぶるゐろりのほとりうなじ垂れうれひしづめば
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その名を商家の帳簿に題し、家を立つる時祀り、油を像にかけ、餅や大根を供うるなどよく大黒祭に似る。また乳脂でげた餅を奉るは本邦の聖天の油煠げ餅に酷似す。
燃え上った火炎は折からの突風におられ煽おられて、それこそ扇を広げた様な型になって末ひろがりに広がって行った。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
無尽蔵にいる兎や狐を狩り取ることもいと容易すければ、その肉をぶることも焼くことも大して手間は取らなかったが、私の目指す森林の奥まで持ち運ぶ方法に苦しんだ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同胞新聞の楼上なる、編輯室へんしふしつ暖炉ストウブほとりには、四五の記者の立ちて新聞をさるあり、椅子にりて手帳をひるがへすあり、今日の勤務の打ち合はせやすらん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ヂュリ かぎりをあらためてげうために。とはいへ、それも、畢竟ひっきゃうは、こひしいからのこと、げたいとおもこゝろうみこひしいとおもこゝろうみの、そのそこはかられぬ。
そしてギヤルソンは隣の化粧部屋へ通ふ戸、談話室との間に垂れたとばりなどを皆開けた。バルコンもある。棕櫚竹しゆろちくの大きい鉢が二つ置いてあつた。わたしはバルコンへ出た。目の下が水である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
 絵本ども病める枕を囲むとも母を見ぬ日は寂しからまし 人形は目開きてあれど病める子はたゆげに眠る白き病室
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
ねむくはないので、ぱちくり/\いてても、ものまぼろしえるやうになつて、天井てんじやうかべ卓子テエブルあし段々だん/\えて心細こゝろぼそさ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、それは、かせない……
武「名乗って出てお上の御処刑を受けた跡でお題目の一遍もげてお呉れ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山地向陽の草間に生じて一株に一条ないし三条ばかりの茎が出て直立し斜めに縦脈のある狭長葉を互生し茎と共に手ざわりらき毛を生ずる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「剛さん、マ、何を貴郎あなた」と梅子はサツと、かほかめぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ギゾーの古い事は言うまでもないが。ギゾーがかの錯雑さくざつした欧羅巴の歴史の事実をうまく綾にんで概括した、あの力というものは非常なものである。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
開戦にさきだって、火災にったのは、ともすれば他を恃みたくなる雑念を焼き払って、一層、われわれの信念を強固にしてくれたようなものだ。その意味で祝杯を
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて父の通夜過ぎの晩に不忍池しのばずのいけの中之島の蓮中庵で、お雛妓かの子につがえた言葉を思い出し、わたくしの方から逸作を誘い出すようにして、かの女をげてやりに行った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だれでも説明せつめい出來できたものに』とあいちやんがひました、(此所こゝ少時しばらくあひだ大變たいへんおほきくなつたので、はゞかところもなく大膽だいたんくちれて)、わたしは十せんげてよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
海の底かのように、庭は薄蒼く月光に浸っていた。庭は、まことに広く、荒廃れていた。庭の一所に、頼母の眼を疑がわせるような、物象もののかたちが出来ていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鍾繇しょうようは、魏の大老である。野に隠れたる大人物とは、いったい誰をさしていうのか。叡帝えいてい忌憚きたんなくそれをげよといった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問屋の方をすっかり封ぜられた磯野は、前のように外を遊びるいていてばかりもいられなかった。碁敵ごがたきや話し相手にかつえている叔父も、磯野の寄りついて来るのを、結句よろこんでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
れはらねどむねにやきざまれし學士がくしひしことばごん半句はんくわすれず、かへぎは此袖このそでをかくらへてつとしかばいまかへりんとわらひながらにおほせられしのおこゑくことは出來でき
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
濤声松林を洩れて襲ひ、海風清砂を渡つて来る。童子の背は渋を引きたる紙の如く黒く、少娘の嬌は半躰をらわして外出するによりて損せず。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
勇吉ゆうきちは、太陽たいようがきらきらする、もりほう見上げて、わらいました。しろくもが、のように、あおそらはしっていきました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
にんは、おもいがけない反対はんたいあって、たがいにかお見合わせました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
アンドラダは、立場をかしてくれる人を失い、それゆえセシル(バアリイ)もだんだんアンドラダをスペインに買収された男と睨むにいたったのである。
其の流れのきよきをげしなるを思へば、ここの玉川も毒ある流れにはあらで、歌のこころも、一〇八かばかり名にふ河の此の山にあるを、ここにまうづる人は一〇九忘る忘るも
「およしだって、んたは私になんでも御よしと云う事は出来ないと思ってらっしゃい。エエそうだ私は世の中の男をおどしてビックリさせて頓死させるために生れて来たんですもの——」
お女郎蜘蛛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
アカいアべにぶつかったア
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゆるめてつち領伏ひれふし、身動きもせでしばらく横たわりたりしが、ようようまくらを返して、がっくりとかしられ、やがて草の根を力におぼつかなくも立ちがりて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石原の踏み込んだ処を見ると、泥はひざの上までしか無い。さぎのように足をげては踏み込んで、ごぼりごぼりと遣って行く。少し深くなるかと思うと、又浅くなる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
言いてて、部屋のなかに、ごろりと寝転んだ、碌さんの去ったあとに、圭さんは、黙然もくねんと、まゆげて、奈落ならくから半空に向って、真直まっすぐに立つ火の柱を見詰めていた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
義人の妝飾そうしょくは「髪をみ金を掛けまた衣〔を着〕るがごとき外面の妝飾にあらず、ただ心の内のかくれたる人すなわちやぶることなき柔和にゅうわ恬静おだやかなる霊」
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
甚しきは且つ一臂袒ひたんせざれば、すなわち鹿馬の奸にいて、遠く豺狼ひょうろうの地にざんせられ、朝士之がために寒心す。また且つ平民の膏腴こうゆほしいままに貪食するに任す。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして犯行後数時間目にげられたのだが、警官から肩を押えられると同時に、何等悪びれた風もなく、自分が犯人であることをまっすぐに自白してしまって、しかしそれ以来
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「まあ、御めんせや」
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一歩をやまれば涙であるきわまれる明朗、直截は現代人の同感されたる微笑である。
燕王の言に曰く、始め難にう、むを得ずして兵を以てわざわいを救い、誓って奸悪かんあくを除き、宗社を安んじ、周公しゅうこうの勲を庶幾しょきせんとす。おもわざりき少主予が心をまこととせず、みずから天に絶てりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彷徨さまよってそこ迄行ったのであった。詐欺師と邂逅ったロハ台へ、私は一人で腰をかけていた。生暖かい夜風、咽るような花の香、春蘭の咲く季節であった。噴水はすでに眠っていた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
贔屓にして五六度呼びました………すると美代吉はあなた様と深く云い交してある事をの芸者から聞きましたゆえ、何うぞしてわして遣りたいと
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
糸子いとこひのふすまきはにぴつたりとせつあやしのことよとみゝそばだつれば、松野まつのれい高調子たかてうしらばかしまゐらせん御歸邸ごきていのうへ御主君ごしゆくんこと緑君みどりくん御傳おつたねがひたし、糸子いとこ契約けいやく良人をつととは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あらため見れば、鈎※はりすおもり、綸など、みだれに紊れ、処々に泥土さへ着きて、前回の出遊に、雪交りの急雨にひ、手の指かじかみて自由利かず、其のまゝ引きくるめ、這々ほうほうの体にて戻りし時の
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
と、彼の左側に居たレオは、突然ぬつくと立ち上つたが、煙を出すために少しばかりけて置いた戸の隙間からすり抜けて外の方へ出て行つた。それから急にけたたましい短い声で吠え出した。
そして、今夜にも火事が打始ぶつぱじまらねえ者でもえといふので、若い者がひるから学校へ寄りつて、喞筒の稽古をて居るんでごわす。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
アオいオラを見イたら
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
華美の戰を耀ける其双脚に穿ちつゝ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
それとも、まり手輕てがるったとおおもひなさるやうならば、わざこはかほをして、にくさうにいやはう、たとひお言寄いひよりなされても。さもなくば、世界せかいかけていやとははぬ。
また鄒陽すうようの書に、〈蛟竜こうりょう首をげ、翼を奮えばすなわち浮雲出流し、雲霧みな集まる〉とあれば、漢の世まで、常の竜も往々有翼としたので、『山海経』に、〈泰華山蛇あり肥遺と名づく
「二十九日。微雨。午ニ近クせいヲ放ツ。八丁目ニいたル。民舎ノ機杼伊きじょいトシテ相響ク。コノ間古昔信夫しのぶ文字摺もじずりヲ出セシ所。今ニ至ルモ蚕桑ヲ業トシ多ク細絹ヲ産ス。(中略)桑折ノ駅ニ宿ス。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)