)” の例文
旧字:
ときどき手を合せて拝みたい気もちのするのも、しき情慾の奴隷どれいとなって、のたうち廻った思い出のなせる仕業しわざとのみはいえまい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
(予美と申すは地下の根底にありて、根の国、底の国とも申して、はなはだきたなくしき国にて、死せる人のまかり往くところなり)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
磐城平より当然海岸伝ひに北上いたすべき道を左にげ候事、好会また期し難き興もこれあり候次第、しからず御諒察下され度候。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さるを富貴は前生さきのよのおこなひのかりし所、貧賤はしかりしむくいとのみ説きなすは、一〇一尼媽あまかかとらかす一〇二なま仏法ぞかし。
「あなたの名前を拝借して××××氏を攻撃しました。僕等無名作家の名前では効果がないと思ひましたからどうかしからず。」
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これに続く心理状態は他のものに接してその善きところを取り、しきところを捨て、長所を摂して、短所を排するということである。
十七年ぶりで父に会う、というよりもほとんど生れてはじめて父に会おうとしている、かれしかれ一生の一転機となるに違いない。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豪商百万両の金も、飴やおこし四文の銭も、おのがものとしてこれを守るの心は同様なり。世のしき諺に、「泣く子と地頭じとうにはかなわず」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
われらは歌といふ語を拝借してもよろしからんとの考にて、歌と言ひ来りたるも、それがしとならば如何にも名づけ給はるべし。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その遣方やりかたの実際を見ないで、結果ばかりを見ていうのである。その遣方のしなどは見ないで、唯結果ばかり見て批評をする。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
得たことはしであった佐助が彼女の機嫌を取ってくれるのは有難ありがたいけれども何事もご無理ごもっともで通す所から次第に娘を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼らが最もうち解けている最中に、老人はおりしく、ブラームスにたいする賛辞を述べた。クリストフは冷やかな憤りにとらわれた。
「三つの心は百までも」「老馬みちを忘れず」という。青年時代に植えた種子たねは、よかれ、しかれ、いつまでも身辺にまといつく。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おりしく、そのばんに、ひどいあらしがいて、うみなかは、さながら渦巻うずまきかえるようにられたのでした。家族かぞくのものは心配しんぱいしました。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
殊に就中なかんずく蕪村の如く、文化が彼の芸術と逆流しているところの、ひとつの「しき時代」に生れた者は、特に救いがたく不遇である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ただ静かに貴嬢を顧みたまいて貴嬢きみの顔色の変われるに心づき、いかにしたまいし心地ここちしくやおわすると甘ゆるように問いたまいたる
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これで仏の本説は、人のき事は善く、しき事は悪しく、箇々報いが来り、決して差し引き帳消してふ事がないと主張するものと判る。
決して、ただしざまに申したり、ぐちもてあそんだ次第ではありませぬ。どうぞ、烏滸おこがましい女の取越し苦労と、お聞き流し下さいませ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
希臘ギリシャの美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人ちょうにんの手によりて、日当りしき横町よこちょう借家しゃくやに制作せられぬ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
善き僕はしき子に優るが、善き子は善き僕以上であります。僕はいくら善くても他人ですが、子は親の生命、親から出たものであります。
一一 この女というは母一人子一人の家なりしに、よめしゅうととの仲しくなり、嫁はしばしば親里へ行きて帰り来ざることあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まづ/\此の死骸を片付くるこそ肝要ならめ。参詣の人々の眼に止まりなばしかりなむ。こや/\馬十よ/\。お客様に水参ゐらせぬか。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「はい、わたくし一人、お名ざしでござります——が、かまえて、しゅうはふるまわぬつもりでござりますゆえ、御懸念には及びませぬ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分達の汽車は午前六時にチヤアリング・クロスの停車場ステイシヨンへ着いた。折しく日曜の朝なので倫敦ロンドンの街は皆戸を締めて死んだ様に寝て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
句のしも畢竟ひっきょう、作者の心にあるのであります。作者の心が奥床おくゆかしい心であれば自然に奥床しく映じ、奥床しく諷詠するようになります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「ではなるべく急いで下さい。今は、ほう、もう四時ですね。すると十時ごろまでかかりますね。警官と私の助手を呼びますから、しからず」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
われら猿とは古代いにしえより、仲しきもののたとえに呼ばれて、互ひにきばを鳴らし合ふ身なれど、かくわれのみが彼の猿に、執念しゅうねく狙はるる覚えはなし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
もっともよい木はよい実を結びしき木は悪しき実を結ぶということがあるから、全く無い訳ではないけれども、いかにもその範囲が狭いです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「どうでしょうか、此方様こなたにも御存じはなしさ、ただい女だって途中で聞いて来たもんだから、どうぞしからず。」
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
而して彼れは冷眼に之を見たり。是れ彼れが一派の餓鬼大将(ふ語の不敬を許せ、猶君が所謂楠公権助のごときのみ、しき意味あるに非る也)
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
まづおのれからその道にそむきて、君をほろぼし、国を奪へるものにしあれば、みな虚偽いつわりにて、まことはよき人にあらず、いとも/\しき人なりけり。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むかし元禄の頃に大野秀和しうわといふ俳人が居た。同じ俳人仲間の宝井其角きかくが、自分の事をざまに噂をしてゐるといふ事を聞いて、大層腹を立てた。
横川景三おうせんけいさん殿の弟子ぶんの細川殿も早く享徳きょうとくの頃から『君慎』とかいう書を公方にたてまつって、『君行跡しければ民したがはず』
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
しかし、今夜は、折しく、西風が少し立ったので、チャセゴ取りは少なかった。昼座敷ひるざしきから居残っている親戚の者を入れても、五十人とはなかった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
いたずらに物事に驚かず、よきものとしきものの区別を知り、あらゆるものの価値を正当に批判し、しかもなお熱情をもってよきものを喜ぶ大人の眼が
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
すべてのしき雲のはらわれた後にこそ誠に『晴やかな平和、ゆるぎなき心の静けさがある。』のではあるまいか。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「まア、えい。まア、えい。——子供同士の喧嘩けんかです、先生、どうぞしからず。——さア、吉弥、支度したく、支度」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
謙信公のお人となりを見申すに十にして八つは大賢人、その二つは大悪人ならん。怒りに乗じて為したまうこと、多くは僻事ひがごとなり。これそのしき所なり。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
けれども抽象的な概念と言語はすべてのものから個性を奪って一様に黒塊を作り、ピーターとポールとを同じにするしきデモクラシーを行うものである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
「これは旦那からのお礼です。もっとあげたいんだけれど、何分、年上のきよが以前からいるんでその釣合つりあいもあってそうもならないんですからしからず」
そしてしき交りがそれの善き光沢を一日か二日のうちにそこなのである。諸君の証券は台所と流し場とを改造した俄か造りの貴重品室の中へ入ってしまう。
これでは京にあまり近すぎるので、かれしかれ、京都の影響が響きすぎて困るにちがいないのである。そこへいくと弘法の方が一段上の戦略家だと思った。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まゆしわむる折も折、戸外おもてを通る納豆売りのふるえ声に覚えある奴が、ちェッ忌々いまいましい草鞋わらじが切れた、と打ち独語つぶやきて行き過ぐるに女房ますます気色をしくし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
妾の容子ようすの常になくつつましげなるに、顔色さえしかりしを、したしめる女囚にあやしまれて、しばしば問われて、秘めおくによしなく、ついに事云々しかじかと告げけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
小生なども道の事をば修行中なれば、矢張やはりおきみさん同様の迷もをりをり生じ候へども、決して其迷を増長せしめず候。迷といふもしき事といふにはあらず。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それに、一人でほんばかり読んでいるのは、若い者にはしですよ、神経衰弱になったり、華厳けごんに飛び込んだりするのはそのためだと言うじゃありませんか。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しゅうは取計らわぬ、屋敷へ参らぬか、私のためには命の恩人のお前を、父上も憎うは思召おぼしめすまい」
と言い、更にまた、たといしき法律にても、誤れる裁判にても、これを改めざる以上は、これに違反するは、徳義上不正である所以ゆえんの理を説破し、なお進んで
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
とにかく、それの感じられるものが善きことであり、それのともなわないものがしきことだ。極めてはっきりしていて、いまだかつてこれに疑を感じたことがない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
永い間あれほどの苦労の種だった船長は、もうしき者虐遇しひたげめる処(註三三)へ行ってしまった。