岩野泡鳴（いわのほうめい）
1873.01.20 〜 1920.05.09
著者としての作品一覧
黒き素船（新字旧仮名）
読書目安時間：約1分
黒き素船を透かし見れば、 砂にしやがめる影とまがひ、 沖の小島の薄き見れば、 人の思ひに沈むけはひ、 空に住へる月を仰ぎ、 寂びしわが身の魂と見たり。 われはそのまままなこ閉ぢて、 …
札幌の印象（新字旧仮名）
読書目安時間：約4分
古い京都のそれよりは一層正しく、 東西南北に確実な井桁（市の動脈）を打ち重ねた北海の首府—— 石狩原野の大開墾地に囲まれて、 六万の人口を抱擁する札幌の市街—— 住民は凡て必らずし …
塩原日記（旧字旧仮名）
読書目安時間：約12分
十月廿七日、晴。急行で午後四時三十分頃に西那須驛に着した。實は、初めてのことで、而も急行は宇都宮より先きは黒磯でなければとまらぬやうに旅行案内には出てゐたので、正直に黒磯までの切符 …
神秘的半獣主義（旧字旧仮名）
読書目安時間：約1時間47分
はしがき緒言 （二）メーテルリンクの神秘説エメルソンの『自然論』（上） （四）エメルソンの『自然論』（下） （五）エメルソンの特色と神秘的傾向 （六）神秘家スヰデンボルグ三者の愛論 …
戦話（新字新仮名）
読書目安時間：約22分
十年振りの会飲に、友人と僕とは気持ちよく酔った。戦争の時も出征して負傷したとは聴いていたが、会う機会を得なかったので、ようよう僕の方から、今度旅行の途次に、訪ねて行ったのだ。話がは …
耽溺（新字新仮名）
読書目安時間：約1時間52分
僕は一夏を国府津の海岸に送ることになった。友人の紹介で、ある寺の一室を借りるつもりであったのだが、たずねて行って見ると、いろいろ取り込みのことがあって、この夏は客の世話が出来ないと …
地なる響（新字旧仮名）
読書目安時間：約1分
暗き浜辺をたどり来たり、 水際真近く砂を握る。 握る真砂のもろきうちに、 闇の力はその尾振ひ、 手をばつたひて胸に響く。 君よ、御空の星を説きて、 地なるひゞきを忘る勿れ、 遠き深 …
猫八（新字新仮名）
読書目安時間：約40分
「おい、大将」と呼びかけられて、猫八は今まで熱心に読み耽ってた講談倶楽部から目をその方に転じた。その声ですぐその人だとは分ってたので、心易い気になって、 「いよう、先生！」わざと惚 …
日高十勝の記憶（旧字旧仮名）
読書目安時間：約8分
オホナイの瀧 日高の海岸、樣似を進んで冬島を過ぎ、字山中のオホナイといふあたりに來ると、高い露骨な岩山が切迫してゐて、僅かに殘つた海岸よりほかに道がない。おほ岩を穿つたトンネルが多 …
泡鳴五部作：01 発展（旧字旧仮名）
読書目安時間：約3時間50分
麻布の我善坊にある田村と云ふ下宿屋で、二十年來物堅いので近所の信用を得てゐた主人が近頃病死して、その息子義雄の代になつた。 義雄は繼母の爲めに眞の父とも折合が惡いので、元から別に一 …
泡鳴五部作：02 毒薬を飲む女（旧字旧仮名）
読書目安時間：約2時間51分
「おい、あの婆アさんが靈感を得て來たやうだぜ。」 「れいかんツて——？」 「云つて見りやア、まア、神さまのお告げを感づく力、さ。」 「そんな阿呆らしいことツて、ない。」 「けれど、 …
泡鳴五部作：03 放浪（旧字旧仮名）
読書目安時間：約3時間49分
樺太で自分の力に餘る不慣れな事業をして、その着手前に友人どもから危ぶまれた通り、まんまと失敗し、殆ど文なしの身になつて、逃げるが如くこそ／＼と北海道まで歸つて來た田村義雄だ。 小樽 …
泡鳴五部作：04 断橋（旧字旧仮名）
読書目安時間：約2時間54分
今夜も必らず來るからと、今度はよく念を押して置いた。然し、餘り自分ばかりで行くのもかの女並びにその家へきまりが惡い樣だから、義雄は今一文なしで困つてゐる氷峰をつれて行つてやらうとい …
泡鳴五部作：05 憑き物（旧字旧仮名）
読書目安時間：約3時間15分
お鳥は、兄のところを拔けて來る場合が見付かり難かつたとて、四日目にやつて來た。そして直ぐ入院した。持つて來た行李までも運び込まうとしたので、義雄は、 「荷物までも入院させるには及ぶ …
御霊うぶや（新字旧仮名）
読書目安時間：約1分
うごめくはこれ何者ぞ、 牢獄に等しき闇を—— ひとつかとまなこ据うれば、 その数は増して行くなり、 まとへるぞみな墨ごろも—— 黒法師——無為の行列。 暗きより暗きに入りて、 かへ …