)” の例文
定雄は次男の足の届かぬように屏風を遠のけると、またかず眺めていた。しかし、火鉢ひばちに火のあるのに、ひどくそこは寒かった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼はいつも、頭というものが、彼自身よりも賢いことを知って、感心するのであった。又、彼は何をやってもすぐいてしまった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私はくことのない彼の熱情とその生涯とに驚畏きょういの念を感じる。ラスキンはモリスにおいて彼のよき継承者と実現者とを得たのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
隱れんぼをする子供が、見つかりさうになりながら急に逃げ出すといふ刹那の心理を以て、彼はかず此青年の擧動を視察した。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
彼らは小さなクリストフを愛し、小さなクリストフも彼らを愛する。彼は彼らの声を聞いて眼に涙をためる。幾度呼び出してもきない。
二人は、黙ってむかい合っていた。——そして馬陸は、靴針のように童子の足跡を辿って、幾重にも縫糸をかがってくことを知らなかった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、しばらくすると中根なかねはなしにもきがた。そして、三十ぷんたないうちにまた兵士達へいしたち歩調ほてうみだれてた。ゐねむりがはじまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
諸君もきてくるであろう。しかしとにかくに、朝といわず、夕といわず、わたしと人力車の幽霊とはいつも一緒にシムラをさまよい歩いた。
京子はもう疲れ切り、眼星の幻像にこだわるのもいて、すっかり無気力に成り果てたようだ。黒眼鏡もいつかはずして居る。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ところが、今やそのやむを得ざることが、得られなくなってしまった——おれはもう、こうして旅から旅の亡者歩きに大抵きてしまったよ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時々は、姉のエルネスチイヌも兄貴のフェリックスも、遊びきると、自分たちの玩具おもちゃを気前よくにんじんに貸してやる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
追って来る連中ももうきたと見えて、途中からだんだんに減ってしまって、池の端まで来る頃には誰も付いて来ない。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お前は、俺達を、一様に搾取するだけでき足りないで、そういう風にして、個々の俺達の仲間までも堕落させるんだ。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「そうさねえ。金を賭けるのも、もうきたねえ」と蟹江は並べ終ってじろりと猿沢の顔を見ました。「今夜はなにか変ったものでも賭けようか」
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
いえわたくしきっぽいのではございませんが、私はどうぞして武家奉公が致したいと思い、其の訳を叔父に頼みましても
お話しでないもんだから此方こっちはそんな事とは夢にも知らず、お弁当のおかずも毎日おんなじもんばッかりでもおきだろう
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その人達は自分のお金で生活をしてましたけど、どうもきっぽい怠け者でしたわ、しかも大変におしゃれでしたの。
早くいえば、不良少年あがりの万吉郎にとっては、ヒルミ夫人一人を守っていることにきしてきたのであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
その時のことを想い出して信神しんじんも信神であるが、これだけのことをきずたわまず、毎日々々やり透すということは普通のものに出来ることではない。
『だがね、お前様だって、ずいぶんお目出たいやな、よくもまあきもしねえで、おんなじことを繰り返し繰り返し、四十遍も言ってなさるだ……』
甲板球戯デツキビリヤアド我我われわれに最も好く時間を費させつ運動にもなるが、昼間ひるまに限られた遊戯であつて其れもき易い日本人には二時間以上続け得ない様である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、しまいにはそれにもいて来た。何にもしたくなかった。で、原稿を枕元から押しやって静かに目をつぶった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
こっそりあの子に会いに来るちいちゃな子もございます。それから、その子よりは大きい子で、あの子の話をきもせず聞いている子も一人ございます。
だから、日本の現在の状態にき足らない者はあくまで反抗して戦えばいいのである。また、戦うのが嫌なら社会から引退すればいいではないかと思う。
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕なんぞはもういい加減耳に胼胝たこが出来てもよさそうな筈だが、一向聞ききもせずに、にこにこしながら会槌あいづちを打っているのだから、これも不思議だ。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
土間つづきのきたない部屋に、もう酒にもいてぼんやり坐っていると、破障子の間からツイ裏木戸の所に積んである薪が見え、それに夕日が当っている。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
私の体験からいえば、うなぎを食うなら、毎日食ってはきるので、三日に一ぺんぐらい食うのがよいだろう。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
所謂いはゆる生活力と云ふものは実は動物力の異名に過ぎない。僕も亦人間獣の一匹である。しかし食色にもいた所を見ると、次第に動物力を失つてゐるであらう。
或旧友へ送る手記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして「殺人」の魅惑は、この刺戟にきた人形国の主に、新らたなる、強烈な刺戟を与えたのに違いない。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
次第にきられて、やがて、その作品の商品としての価値をも低下させることはきまっているからである。
私ね、もうあなたにきたの。昨夜もあなたいってたわね。ぼくたち、結婚しよう、そして、新しく出発しよう、君もやり直すべきだ、なんて。……よしてよ。
はやい秋 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ル氏は毎日馬につて役所に出掛けたものだが、農夫爺ひやくしやうおやぢうちはその途中にあるので、馬にいたル氏は、時々鞍から下りて爺さんの家で休んだりしたものだ。
作者自身すらきたやうなものを何遍も何遍も繰返して書いて見たところで、人を動かすわけがない。
批評的精神を難ず (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
養子に貰ったヒポサツポにもルビナオイは間もなくきがきた。そして、遂いには離縁してしまった。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
何故なら妻の死とはそこにもここにもきはてる程おびただしくある事柄の一つに過ぎないからだ。そんな事を重大視する程世の中の人は閑散でない。それは確かにそうだ。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
新高って言う人は青バスにいるうちに幾人も幾人も女車掌を引っかけて内縁を結んで、その人にきると片端から殺して、何処かへ棄てて来るらしいんですって……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先刻は貴君あなたを試したのよ。わたくしの客間へ、妾と戯恋フラートしに来る多くの男性と貴君が、違っているかうかを試したのですわ。妾は戯恋することにはき/\しましたのよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ポオル叔父さんの姪や甥達は、アムブロアジヌおあさんのお伽話にはきてしまひましたが、ポオル叔父さんの本当の事についての話には倦く事を知りませんでした。
「私はどこへも逃げはせぬ。酒宴の席にもいたので、自分の部屋へ帰るまでじゃ」鳰鳥はさり気なくこう云った。しかし彼女のそういう声は怪しくふるえを帯びていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これに対してヨブはまず十六章の一節—五節において、友の忠言の無価値なることを主張する。「かかる事は我れ多く聞けり」は、なんじらの反覆語にきたとの意である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
凜々りんりんとした声ではないが、低いうちにも一念のくことなき三昧さんまいが感じられる念仏の声であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに白人や印度人の顔はいつまで見ていてもきませんね。そこへ持って行くと、日本人の顔は未製品です。深味がない。日本人の顔よりまだ支那人の顔の方が面白い。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
動揺の乏しい単調な生活であったなら自分らはあるいは早くいてしまっていたかも知れない。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
二人は何の妨げも無しに、粗末な客間で狭い庭前で、むことを知らない会見を続けました。
のまくわずですじかいに障子へ凭れかゝって居るので、婢はしきりに話懸けて自分から笑って見せたが、一向返しの詞がないのにぐね、誰か呼びにお遣り遊ばすのと云うを
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
白じらとした月明りにもって、それはさながら冥府の妓女うたいめの座興のよう——藤吉勘次は思わず顔を見合せた。拳にもきてか、もう縁台の人影もいつとはなしに薄れていた。
造物の傀儡となり、蒭狗となつて、きられた時投げ出されて死するのが凡人なのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あるわたくしがいつになく統一とういつ修行しゅぎょうきて、岩屋いわや入口いりぐちまでなんとはなしにあゆときのことでございました。ひょっくりそこへあらわれたのがれい指導役しどうやくのおじいさんでした。——
そうした村のなかでは、溪間からは高く一日日の当るこの平地の眺めほど心を休めるものはなかった。私にとってはその終日日にいた眺めが悲しいまでノスタルジックだった。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しよ、ことわつてお仕舞しまひなとへば、こまつたねとおきやう立止たちどまつて、それでもきつちやんわたしあらはりきがて、もうおめかけでもなんでもい、うで此樣こんつまらないづくめだから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)